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徒然噺 の変更点


#contents

*環 -Arianrhod- [#f576c491]

「ねぇ……父様。その海ではどんな空が見えるの?」

幼い一匹の白いポケモンが、静かに佇む幼い白いポケモンを大きくした、神に問いかけた。
海の中を漂いながら黙している神は、流れに逆らって身体をその場に留める。
幼い一匹はその腹部に優しく受け止められると、優しく見つめる目に気付いて幸せそうに微笑む。

「そうだな。太陽が明るく照らして、とても美しい空が見えるだろう」

優しく幼い一匹を撫でる神 ―― ルギア。

「ねぇ……父様。その海ではどんなポケモンが歌うの?」

生まれてから、ずっと深海しか見た事の無い幼いルギアは、困ったように微笑むルギアを目を輝かせて見つめる。
父であるルギアにこうして長い間、尽きる事の無い興味のままに問い続けていた。
神は神でなければならない ―― 残酷な言葉を守る父に夢物語をねだる幼い仔。

「そうだな。きっとラプラスが穏やかな波のような柔らかな歌声で歌うだろう」
「ねぇ……父様。その海では誰も寂しくないの?」

彼はまだ知らない。父が旅立った後、自らが背負う運命の事を、そして、変わらない世界をたった一匹で生きる事を。
ゆっくりと流れていく時間。&ruby(無情な){鋼鉄の};ディアルガは時を止める事はしない。
時が経つにつれて父は眠る事が多くなった。まだ、背負わせるには幼すぎると、老いた身体に鞭を打ち、静かに流れに逆らい続けた。
二回り以上も大きくなった幼いルギアは、父と見比べても子供だとは思えないほど成長していた。

「ねぇ……父様。その海ではずっと一緒にいられるの?」
「そうだな。ずっと一緒にいられるだろう。ただ……」

父は言葉を休めた。首を傾げる幼いルギアの顔を撫でて、悲しそうに目を細める。

「ただ?」
「ふっ……私も老いたな。そう、身体はずっと一緒にはいられない。そして、お前はこれから独りで背負わなければならない」

父は静かに語った。海の事、ルギアという種の宿命の事、自分のしていた事、仔ルギアの事、そして、自分の命がもう長くないという事を。
仔ルギアは涙を浮かべた。浮かべた涙はすぐに海水に混じり、老いた父の身体を掠めていく。

「息子よ。その涙は悲しみなのか?」

初めて問いかけられて、仔ルギアは顔を上げる。慈愛に満ちた威厳ある父の目は、輝きを失うどころか増していた。
愛されている事、期待されている事を知り、仔ルギアは首を横に振った。

「……うん。でもこれから、僕はやめて私って言おうと思う。父様もそうだったと分かったから」
「ふふ。それでこそ私の息子だ。さぁ……最後に一緒に泳ごうか」

太陽の光さえ届かなず、変わらない静かな深海を二匹のルギアがゆっくりと流れに漂う。
問いかける事をやめた仔ルギアは父との別れを惜しみながら、父の最後の仕事を見守った。

幾許かの年月が流れ、幼かったルギアは深海を漂いながら、物思いに耽っていた。

「ねぇ……父様。その海ではどんな空が見えるの?」

傍を付き従うように泳ぐ小さな白。幼いルギアは期待に満ちた目を輝かせて父親を見つめる。

「そうだな。太陽が ―― 」

尽きる事のない問い。息子を抱き寄せて、父に思いを馳せながら優しく微笑みかけるとルギアは口を開いた。


*唄 -Berceuse- [#l22c4967]

どこからともなく、波間から澄み切った歌声が響く。懐かしさを覚えるその唄は力に溢れ、幾層にも重なった音の調和が虹を思わせる。
碧い海に降り注ぐ太陽光の様に明るい歌声と笑い声。周囲の事など気にも留めずにただ各々の心を唄に乗せる。
ラプラスの群れがキャモメ達と楽しそうにしているが、ふと、一頭が不自然な漂流物に気付いて其れに近付くと、声をかける。

「何故キミは泣いているの? 生きるのは哀しいかい?」

一頭が悲しい顔で波間を漂う小さく青いポケモンに微笑みかける。小さなポケモンは丸い尻尾を浮き輪代わりにして、涙を浮かべて大きな身体のポケモンを見つめた。
ラプラスは澄んだ黒い瞳で見つめた後、優しく銜え上げて背中の甲羅の上に乗せると、楽しそうに唄い始める。
周りのポケモンもまた、釣られて口々に唄い始め、また明るい笑い声と共に海の上に歌声を響かせる。

「どうちて、あたちを助けたの?」
「君があまりにも悲しい顔をしていたからだよ。ほら、笑って」

ラプラスは笑顔を絶やさず、ただ楽しそうに唄い続けた。
不安な気持ちだった小さな青いポケモン —– ルリリは、ラプラスの背中で揺られながら唄と笑い声を子守唄に寝息を立て始める。
ラプラスはルリリが眠った事に気付くと、唐突に唄うのを止めて静かな入り江へと進路を向けた。その穏やかな顔にはずっと笑顔が貼り付いている。
慈愛なのか狂気なのかは、また別の問題だが……。長い時間、波に乗り、入り江に着く頃には太陽は水平線に沈もうとしていた。

「日は昇り、やがて沈むというのなら、なぜ太陽は照らすのだろうか」

沈み往く太陽を見つめながら呟かれた声はとても低く、赤く照らされた顔はとても悲しそうだった。何かを呪うわけでもなく、ただただ、世界が廻り続けることにその心を痛める。
小さなルリリは、きっと親とはぐれてしまったに違いない。そして、流れに逆らわずに広い海原に出てしまったのだろう。
この幼さでは生まれ故郷などわからないだろうと、ラプラスは寂しそうに背中を見つめる。
誰も自然に逆らうことはできない。生み出したる神々ならばまた違うのかもしれない。そう考えることがひどく虚しく感じられるのだ。
誰が悪いわけでもなく、生まれてきた以上は何かの意味があると信じているラプラスは、ルリリの面倒をしばらくの間、見ることを決意する。
昼間は波に乗りながら楽しそうに唄い、騒ぐ。そして、夜は入り江で優しく唄い続けた。晴れの日も、雨の日も、嵐の日も、ルリリを悲しませまいと唄い続けた。

「ピエール。そろそろ私、行くね」
「小さなルリリがこんなに美人になるなんて誰が想像しただろうね?」

マリルはうれしそうに微笑むとすぐに背を向けて波間に姿を消す。
生きるだけの知恵と技術と、そして心を育てたラプラスは寂しそうな微笑みを浮かべたまま、静かに泳ぎ始める。
柔らかな唄声とはほど遠い悲しみに満ちた唄詞の意味を解するものは数少ない。それでも彼は唄い続ける。その唄声は波間に消えて、海は静寂を取り戻す。
果たしてそのことが、命を育む海にとって当たり前の姿かどうかは誰も知らない。

「こんにちは、ピエール。元気にしてた?」
「やあ、久しぶり。ルリリの面倒を見ていたんだ。今日、旅立ったけれどね」

知人のシードラがラプラスに声をかけると、また楽しそうな雑談が始まる。その遥か海の底で、彼等の声を子守唄にしている者がいるなど、知るよしもない。
白い陰は音もなくその場を後にする。ゆっくりと海流に乗って……。

「もうすぐ、嵐だね。早く南の海に旅立たなきゃ」
「ルリリはいいのか?」
「それは、神様が決めることさ」

ラプラスは笑っていた。遠くに見える、薄暗い雲を眺めながら。

//*命 -Chain-
//*未定 -D-
//*未定 -Element-
//*月 -F-

*外 -Garden- [#nf48a4cb]

目に見えるものが全てであり、見えないものを『反転』と呼ぶ世界を一匹の白いポケモンが溜め息混じりに見つめる。
輝く&ruby(ひ){燈};は数知れず、消え往く燈もまた数知れない。
燃え尽きる蝋燭が如く、一瞬だけの煌きを残してまた一つ星が消えてしまう。
何度も、途方も無く長い時間、その光景を見てきたはずなのに自然と溢れてくる憐みは生み出したる者の運命か。
自問自答の日々にただただ嘆くソレを、生きとし生ける者は『神』と称えた。
生み出すことと壊すことは同時に起こる。何かが壊れなければ何も生まれないと決めたのはソレだった。

「主上。如何なさいました?」

燃え尽きる燈で喩えるならば百足。黒い触手のような翼を広げ、身体をくねらせながら近寄るそれもまた『神』と呼ばれる者。
世界の裏側を統べる王と呼ばれる者は悲しげに世界を見つめる白いポケモンを見つめる。
数刻の沈黙。その間にも燈は生まれ、煌き、そして消えていく。途方も無い尺度で測る数刻は定命の者には果てしなく長い。

「我に何ができると言うのか」
「主上。存在することができることで御座います」

時間も空間も、そして、その裏側さえも超越した彼らには寿命という概念が存在しない。

「我々もまた、箱庭の中……か……」

何も無い空間を見上げ、何も存在しないはずの天を仰ぐ。
そこには己が無力を嘲笑う何者かが居ることを期待して――。
いつしか、白いポケモンは地上を彷徨い始めた。少しでも多くの生き物を記憶に留める為に、ひたすら空を駆け回った。
時には笑い合い、そして共に歩み、別れに悲しみながらも『神』として一匹の『ポケモン』として生き続けた。
静かに見守るその慈愛に満ちた視線に誰もが微笑み、そして誰もが己の儚さを受け入れていった。
『神』は何も悪くない。

#hr

―― というアルセウスの話を考えたんだ。キミはどう思う?

尋ねられた少年は苦笑いを浮かべると「わかんない」と短く答えた。
12枚のプレートに刻まれた神話。ポケモンと人間が同じだったという御伽噺。
重病に冒された少女は窓の外を眺めながら、仕切られた『無菌室』という場所に佇む。

―― そっかぁ。面白いと思ったのに。それじゃあ、キミが話してよ。

「えっ」と驚いたように少年が立ち上がると、少し考え込んでしまう。
早く早くと急かす少女の声は明るく、病のことなど感じさせない。それは彼女の精一杯の抵抗だった。
「それじゃあ――」と語り始めた少年と少女はまだ知らない。
今夜が永遠の別れになると知り、哀れみの視線を向ける白いポケモンの姿を……。

―― もっと、沢山話そうよ!

数々の煌きをその目に焼き付けながら白いポケモンは背を向けて今日も空を翔る。

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執筆継続中。

Written by 慧
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