ポケモン小説wiki
彼女は本を読みながら の変更点


#include(第八回仮面小説大会情報窓・官能部門,notitle)
作者――[[リング]]


 住宅地がほど近い場所にある、なだらかな森林地帯。ここには、自分をはじめとする様々なポケモンが住んでいる。
 特に変わったところのないこの場所だけれど、一つだけ名物をあげるとするのならば、この森の英雄の気分がいい時に歌を歌ってくれることだろうか。その歌というのも、ある者は怪我の痛みが和らぎ、病気の苦しみが治まり、よく眠れるようになるという。
 残念ながら元気になると食欲なども旺盛になってしまうため、食われる立場の子には辛いことこの上ないのだが、幸い俺は食物連鎖の頂点であり、食欲が増すことに支障はない。まぁ、食欲が増している最中にメシが手に入らないとそれはそれでへこむのだけれど。
 でも、腹が減っていても元気になる彼女の声、それが俺の人生の潤いであった。

 英雄と呼ばれる彼女は、かつては人間の下で歌を歌い、多くの人間を感動の渦に巻き込んでいたという。大きな会場で、ぎっしりと寄り添った人間を相手に自身の歌を聞かせていたそうだ。お金を稼ぎ放題だった彼女は、美味しい食べ物も、快適な個室もあり、生活には何不自由なかったのだという。
 それがどうしてこんな森でひっそり生きているかと言えば、彼女の主人が死んだ際に、自分を誰が引き取るかで揉めたらしい。人間の世界ではポケモンは物扱いで、自分の意思などお構いなしに『私が引き取る』、『いやいや私が』と醜い争いを始めたそうで。お金だとか、美味しい食事だとかはともかくとして、自分は主人のピアノとヴァイオリンの演奏に合わせて歌うのが好きだったから、そういうことが出来る人間ならば私もついていくと、必死で意思表示をしたし、それは人間にも伝わったはず。
 人間の『言葉』を真似することは出来なくとも、ピアノを弾いたり、ヴァイオリンを弾いたりというジェスチャーを親族の前でして、自分の要求は伝わったはずだと。そうしたら、遺族はやれヴァイオリンならば高級品を取り揃えているし、奏者ならば一流の者を呼び寄せるだとか、彼女を欲しがる者の言葉は的外れな言葉ばかり。
 彼女は、主人に演奏してもらわなければならないのだと。主人が雇った誰かではダメなのだと。文字に書いて起こして説明までした。しかし、主人になりたいと申し出る者は、多少の演奏は出来たとしても、死んだ主人には遠く及ばなかった。

 『だから、私はこうして人間との生活を捨てて、ポケモンらしく隠居生活をしているのよ』と彼女は語る。
 どうしてこの森の英雄と呼ばれているかについても、彼女は楽し気に語ってくれた。なんでもこの森は、俺が生まれる前にかつてゴルフ場なる人間が楽しむための施設を作る計画が合ったようで。そんな物を作られれば、この森に棲むポケモン達は住処を追われ、食料や縄張りを巡って争いが起きるだろうと。地元住民からの反対もかなりあったそうだ。
 それでも強行に建設会社がこの森に踏み込んだ時、彼女は作業員を、透き通るような歌声で感動させて帰って行った。二回目は、作業員が耳栓やヘッドフォンをしていたが、そんな物はサイコキネシスで取り払って、世にも恐ろしい歌声で恐怖させて帰ってもらった。三回目は、相手もプロのポケモンハンターを連れてきて、最優先で彼女を始末しようとやって来たが、彼女は森から逃げて地元住民たちに歌声を聞かせ、住民の怒りを増幅させて、ポケモンハンターを半殺しにしてもらって、帰ってもらったそうな。
 彼女は、一対一での戦いでは決して強くはないが(弱くもないが)、歌一つで人やポケモンをコントロールすることが、彼女の強みというべきだろうか。幻のポケモンと称される種族、メロエッタ。それが彼女の種族であった。


 彼女は元主人から、ヴァイオリンやピアノの他にも、本を読んでもらっていろんな物語を教えてもらったのだという。どうやら文字も読めるように教育されたらしく、そんな彼女の最近の生活は食うか寝るか、歌うか本を読むかである。住宅地がほど近い森なので、人間界の見回りも兼ねてゴミ捨て場を回り、本を持ち帰ってはそれを読みふける。
 どんなに退屈でも、この本を読んでいればそれがまぎれる。長生きしているから、毎日同じことの連続ばかりだけれど、本は毎日新しい衝撃を与えてくれるから大好きなのと、彼女は緑色の髪を揺らしながら微笑んで言う。そして彼女は透き通った声でそれを朗読してくれる。俺たち森の住民は人間の言葉では分からないために、きちんと俺たちの言葉に訳してくれるのだから、幻のポケモンというのはすごいものだ。

 今日も、彼女は暇を持て余して本を開き、その内容を知りたいと集まった森の住民に読み聞かせる。今日の物語は、悪さをしているゾロアによって被った被害を、お人好しなピカチュウが必死に補てんをする物語。
 ゾロアはそのピカチュウの行動を見て、彼女自身を騙せばもっと大きなものを手に入れることが出来ると、彼女に近づいたけれど、常識はずれのお人好しさに圧倒されながら、ゾロアは徐々に自分の考えを改めて、盗むことしか教えられていなかった過去から決別しようと、ピカチュウに自分の正体、ゾロアの姿を打ち明けるという物語。
 ピカチュウはゾロアの苦しみを認め、だからと言ってそれが許されるわけじゃないから、許されるまで謝り続け、今まで迷惑をかけた分、人に親切にするなら手伝ってあげると、彼に言う。

 そんな物語の終盤には、ピカチュウの眩しいほどの笑顔と一緒にこんな文が添えられている。
『「誰かに優しくしたところで、報われるとも限らない。それでも、こうして誰かが私を助けてくれるならば。そして、私に助けられた誰かが他の誰かを助けてくれるなら。それでいいんじゃないかって思うよ」
 彼女はそう言ってほほ笑むのだ。
 「何かを変えるというのは一筋縄ではいかない。けれど、千里の道も一歩から。私だけでその道を行くのは大変だけれど、皆が協力してくれるならすぐだよ。だから、私の姿を見て心を動かしてもらえたならば……少しでいいから協力してくれると嬉しいな」
 ピカチュウは笑みを浮かべます。
 あぁ、僕は恥ずかしい。何度も何度も嘘をついて、人を困らせながら自分のために生きていたことが。ゾロアは、ピカチュウの笑みを見て自分の行動を反省して、皆に謝ります。みんな、ゾロアのやったことに憤りは隠せませんでしたが、それでもピカチュウに免じて、これ以上悪さをしないと誓うのであればという条件付きで彼女を許すと言いました。ゾロアは、こうして村の一員となったのです』
 最後の文を読み上げて、村の住民と微笑むゾロアとピカチュウの絵で物語は終了し、彼女は本を閉じる。うん、読んでいてとても素晴らしい物語だと思うし、こうやって協力できるっていい事だよなぁ……実際には食う、食われるの関係で、そんなことできやしないのだけれど。

 しかしながらこうして本の朗読を終えると、聞こえてくるのは本の内容を語る声ではなく、彼女の美しさをたたえる声。陽光を浴びながら本を朗読するその姿は、種族を超えて美しいと評判なのだが、中には物語の内容を覚えていない者すらいるから本末転倒だ。彼女の朗読はきちんと耳を傾ければ見たことのない光景がはっきりと脳裏に浮かぶくらいには素晴らしいものであり、もちろんそこいらのポケモンには絶対に出来ない芸当だ。普通のポケモンと話していても、どれほど情景が浮かぶかと言えば、彼女の半分も浮かんでこない。彼女の朗読は他の者には持ちえない能力なのだから、それを最大限堪能しないのは持ったいないのに、彼女の容姿ばかりを褒める者は、そんな事に気付きはしないのだ。

 俺は、彼女の事を好きだと思うし、外見も綺麗だとは思っているけれど、やっぱりそれだけじゃなく、本の内容にも真剣に耳を傾けているつもりである。だから、内容を語ることも出来るし、本を読んでいてわからないところや聞き逃してしまったところがあれば、読み終わった後にも尋ねたりする。
 その熱心さが彼女には受けているらしく、私は近頃は彼女と積極的に本の内容について論じていた。
 論じていた、とはいっても。人間の文化に深く入り込んだような本は分からないことが多すぎて。特に、推理小説などというものは呼んでいてまったく面白くない。俺が面白がっているのは、彼女曰く人間の子供が読むような本なのだとか。子ども扱いされているような気もするが彼女は『そんなあなたが素敵よ』と微笑むばかり。
 彼女を狙う雄は多いが、こんなことを言われたのは自分のみ……ではなく、結構同じことを言われているらしく、それに嫉妬してしまうのは男の本能なのだろうか。虫タイプのポケモンは、『嫉妬するとかおかしい』と言っているからきっと本能的なことなのだろう。ディヴァに『同じことを誰かに言ったことはあるか?』と聞いて、『うん』と帰ってきたときは、わけもなく意気消沈したものである。素敵な彼女は、包容力の大きさが俺とは違うところが、少しだけ珠に瑕だ。

 ある夏の日。彼女は木に寝っ転がりながら、行列を描く蟻を唾で濡らした指で掬い取っては口に突っ込んでいる。恐らくゆっくりとした食事タイムのつもりなのだろう。はしたない姿をさらすのはいつもの事である。
「ディヴァ、食料とってきたよ」
 でも、その蟻は本当に小さくて、食べても食べてもお腹が減ってしまいそうなほどだ。どうせまともなものを食べ手はいないだろうと思っていた俺は、あらかじめ食料を持ってきている。俺の他にもたくさんの雄が彼女を狙っているため、こうして餌付けする雄は俺一人ではない。だが、絵付けされたものをすべて食べておいてなお、彼女は全く体型を変えずに生きている。一応、暗黙の了解として一度に与えすぎない、同じ奴が何日も連続して与えすぎないなど、雄達の掟はあるものの、それにしたって太らないのが不自然なほどだ。
 彼女は時折オレンジの髪のステップフォルムという形態に変化しているが、そちらの激しい運動量の賜物か。ともあれ、こうして食事を持ってきても、基本的に断らないでくれるのは太らないことが要因の一つだし、不思議なことではあるがその体に感謝しよう。
 彼女は俺に気付くと、蟻を食べるのを止めてこちらに微笑む。
「あら、シャラ。いつもすまないね」
 俺はクルミルを手に持ち、彼女の待つ大きな木の幹へ。慣れた手つきでふわりと登れば、彼女の顔はすぐ近く。雪のように白く、そして触れたくなるほどみずみずしい。俺は仕留めたクルミルを齧りつつ、食料を頬張る彼女の方を気にしていた。
「うーん、ちょっと葉っぱが焦げてるね」
 彼女はそう言って、焦げた部分を噛みちぎって捨てる。
「ごめんねー、火加減間違ったもんで」
 むしろ、焦がさずに炎で何とかなる奴がいるなら教えて欲しいくらいだけれど、そういうことを面と向かって言う必要もなかろう。
「いいよ、持ってきてくれるだけでもうれしいし」
 彼女は食べているときは寡黙である。いつものような声を出さず、大口を開けることもなく。小さく口を開けてしずしずと食事をする。俺もそんなに喋る方ではないけれど彼女に付き合っているとじれったいくらいで。待っているのも何なので長く咀嚼するのだけれど、それでも彼女のスローペースには呆れるほどだ。
 ディヴァはどうしてそんなに食べるのが遅いのさ? と、一度聞いてみた時は、人間と暮らしている際はこうしてゆっくり食べるのがマナーだったし、退屈だから時間つぶしのつもりなのと、彼女は静かに語るのだ。木の幹を這いまわる蟻を延々と舐め続けるのも、彼女なりの暇つぶしなのだという。
 おいしいものは長く味わうべきだし、と微笑む彼女に倣い、ゆっくりと食べてみてもやはりじれったくなって飲み込んでしまう。ああもゆっくり味わえるのは種族差ゆえの感覚の違いなのか、それとも彼女のおっとりとした性格ゆえなのか。じれったくもあるけれど、彼女に惚れた弱みもあってどうにも嫌いにはなれなかった。

「ねぇ、昨日さ。人間達のゴミ捨て場に行ったら、結構な数の本が捨てられていたんだ」
 食べ終わると、彼女はごろりと横になりながらそう語る。
「ふぅん。面白いものはあった?」
「分かんない。まだ読んでいないし。それに、今回は文字ばっかりで挿絵のあるものもないからなぁ……」
 なんだかんだ言って、彼女は本を読み始めるまでそう時間はかからない。彼女は二人きりの時は、本を読みながら
 少しずつ森のポケモン達も集まり続け、彼女のファンである雄からは、本を読んでいる途中だというのに『今日はディヴァと二人きりの時にどんな話をしたんだ?』と執拗に尋ねられる。それは後にして、今は物語を楽しみたいからと伝えると、なぜか俺がつまらない奴扱いされるのだからたまらない。
 彼女の朗読で本の内容を楽しまないほうがつまらない奴だと俺は思うのだけれど。


 ディヴァと二人きりで話してから数日が経った。他の雄がアタックを仕掛けていて俺は話をする機会がなかったのだが、なんだか最近の雄達は気分が沈み気味である。その原因は、皆が本の内容をあまり覚えていないことに嫌気が差したせいだろう。俺は彼女の読む本の内容をきちんと理解してその内容を語り合ったりもしたけれど、他の雄達(一部雌も)は彼女の事しか見ていなかったのだ。
 適当な相槌を打つくらいしか出来なかった者は、大部分が『これからは皆いるときに聞きに来るだけの関係でお願いします』とフラれてしまったらしい。そりゃ、まじめに話を聞いてくれず、見た目だけを好きになってくれるだけの奴なんて好きになるわけないか。
 結局、純粋に物語に興味を持って居た者は、男女関係なく一緒に居てくれるそうだが、数人以外とは二人きりの関係を断ってしまったのだ。この森に、私が生まれる前から何年も生きて来た彼女がどうしてそんなことをしたのかはわからないが、きっとただ見た目だけで好いてくれる者に煩わしくなったのだろう。

 そうしてしばらく経ったころ。しばらくディヴァと話せない日々が続く。なんでも、彼女は一日中一人のポケモンと二人きりでいる時間を作りたいとのことで、雌雄関係なしに二人きりでどこかへ行っているようだ。それに合わせて、時々近づくのもはばかられるような恐ろしい歌声が響いて、周囲のポケモン達は訳も分からずその場所から逃げざるを得ないようなことが起きている。俺も恐ろしさのあまり逃げるしかなかったその歌はもちろん彼女の仕業である。
 きっと、英雄も二人きりでいるための人払いのつもりなのだろうからと、森の住人は素直に人払いに応じてはいるのだが……なぜ最近そんなことをするのかという疑問については、彼女は答えはない。
 最近彼女に会ったという者に何があったのか聞いてみたが、その子達は『ディヴァに秘密にしろって言われてるから』と口止めされていた。ただ、『お前もいずれはあっちから誘ってくるだろう』と言われたので、俺はその時をじっくりと待つことにした。秘密と口にした者達に、誰一人として悪い顔をした者はいなかったので、きっといい事があるのだ、問題ないだろう。

 そしてついにその日が来た。
「シャラ」
「ぬわっ!?」
 その日、俺はスカートの中の蒸れをどうにかするため、スカートをパタパタとめくり上げながら休んでいたので、はしたないところを木の上から見られた時は思わず焦って隠してしまう。
「今日は暇かしら?」
 彼女は全く足音を立てずに忍び寄る上に、その気になれば姿さえも消せるのだから性質が悪く、いつも驚かされる。一通り俺の反応を楽しんだ彼女は、俺の目の前まで降りると、美しい髪を揺らしながら俺に顔を寄せる。
「暇じゃなくても、君が求めるなら無理やりにでも暇にするよ」
 俺は苦笑しながら彼女に告げた。
「そっか、じゃあ大丈夫だね」
 そう言って、彼女は俺に手を差し出して俺に立ち上がれと促した。彼女の体は小さいため、差し出された手は立っているのに俺の肩より低い位置にある。これじゃ立ち上がる役には立たないけれど、まぁいいかと僕は彼女の手を掴もうとすると、サイコパワーでふわりと持ちあげられて立たされた。まだスカートの中が蒸れていて、少し不快感を感じながら立ち上がり、小さな彼女の後ろを黙ってついていった。
「ねぇ、シャラはさ。私の事を好きだよね?」
「そりゃね、好きじゃなきゃ毎回会いに行かないでしょ? それに、君がお話を聞かせてくれるのも好きだし、歌声も大好き。俺からはほとんど何もしてあげられなくって、ちょっと狩りをして食事を分け合うくらいしか出来ないけれど、逆にディヴァは俺の事は好きなのかい?」
「もちろん、好きよ。いつも暇だからね、お話をしてくれる人は大好きだよ。いやぁさ、私の事を好きだ好きだって言ってくれても、ただ私を物のように好いている奴が多いこと。英雄が彼女だなんて鼻高々だとか、あの女を自分の物にしたいとか、そんな風に私が好きな子は問題外だけれど、私と話すのが好きだって思ってくれる子なら、私は問題なく好きになれるよ。
 でもさぁ、私はみんなの事を好きだけれど、男の人って独占欲が強い子がいるでしょう? ちょっとだけ訪ねたいんだけれど、シャラは私が他の子と仲良くしていても傷ついたりしない?」
「うーん……あまりに俺の事がないがしろにされていたら嫌だし、ちょっと嫉妬もするけれど。でも君が笑顔でいる事が一番だから、ディヴァがそれで幸せなら……うん、俺はそれでいいと思うよ」
「そっかぁ……じゃあさ。私が最近、どういう事を知っているか知っているよね?」
「変な歌を歌って、人払いをしているっていうのは聞いたよ。具体的に何をしているかは知らないけれど。もしかして、もしかしなくても、今日も人払いする?」
 俺が問いかけると、ディヴァはうんと頷き嬉しそう。
「そう、それなの」
 水滴のような黒い手を合わせて、彼女は眩しいくらいの笑顔で言う。
「私ね、この前素敵な本を見つけたの。たくさんの絵がついた本なんだけれど……すごく、内容がすごいの!」
「えーと、内容がすごいのは分かるけれどどういうこと?」
「とても口にすることは出来ないのよ。そのためにも人払いが必要なんだけれど、シャラ君」
「う、うん」
「痛いことはしないけれど、君は私には何をされても大丈夫?」
「痛くない事ならほとんどは大丈夫だと思うけれど」
「じゃあ、きっと今までにない経験をするかもしれないね」
 ディヴァは詳しくは語らないまま、ひたすら森の奥地まで歩いていく。

 今までにない体験とは一体何なのだろうか? 彼女と触れ合わなければ知り合うこともないような体験ならば何度もした覚えはある。俺が子供だった頃、彼女が色んな歌を歌ってくれた居たが、歌を一つ歌うだけで心地良い気分になったり、楽しい気分にさせられた、あの時の感覚は忘れない。
 それだけじゃない。彼女が本の朗読の際に料理の事を語るだけで、何も口に入れていないというのに唾液が溢れてしまうこともある。他の誰が彼女の真似をしても無理なので、今までにない体験なんてのも、本を読んだり歌を歌うことでさせてもらうのかもしれない。
 疑問に思いながら歩いていると、俺達は森を縦断する川のほとりにある小さな空間にたどり着く。
「ここ、私の秘密基地なの、座って」
 なるほど、ここが彼女の秘密基地か。人間のゴミ捨て場から取ってきたと思われる本棚に、ぼろ布をかぶせている。今まで拾ってきた本を保管しているのだろう。雨に濡れないように丈夫な茶色い紙で出来た囲いや、真っ青なシートで周囲を覆っている。木々に囲まれているから多少の嵐でも問題なく雨風を凌げるだろう。ここに暮らしているのが人間では無くポケモンだとはあまり思えない場所だ。
 彼女は俺の耳を塞いで歌を歌い始めた。朱い耳毛の豊かな耳を押さえつけ、幽かに聞える彼女の歌は聞いているだけで、子供の頃に親が狩りに行って一人きりで巣にいるような。むしろそれ以上に不安な気分になってくる。これをまともに聞かされたら、そりゃ彼女から逃げたくもなる。実際、俺も初めてこの歌を聞いたときは、思わず逃げ出して耳を塞いで震えてしまったほどだ。
 歌が終わったところで、彼女は未だ恐怖の冷めやらない俺のために、耳元で心地のよい歌声を聞かせてくれる。ふっと意識が遠のいて、真っ暗で暖かな空間に取り残されるような感覚。これは噂で聞いた卵の中にいるような感覚を呼び起こすという奴だ、彼女の吐息交じりの歌が耳毛を揺らし、全身の力が抜けていく。さっきまで怯えて震えそうだった体は、一気に落ち着きを取り戻した。
「落ち着いたかな、シャラ?」
「うん……それで、ここで何をするの?」
「そうだねぇ。何をするかって言うとねぇ、ちょっと危なっかしい本を読むの」
「本を読むだけで危なっかしいって何?」
「物好きな人間がいたもので、その絵本にはね、私達ポケモンが子作りをしているところを描いた場面がかかれていたの」
「そ、それは……」
 そんな物を、他の誰かならともかく、彼女に読まれたらたまらない。絶対に、何かいけない気持ちになる。
「そんな物を読んでしまったら、きっとよからぬことが起こるけれど……でもまぁ、この人とならいいかもって人をこうして誘っているわけ」
 彼女は俺の考えを見透かしているかのように言う。
「体格差があるから、どの本も内容通りに出来るというわけではないけれど……」
「どの本もって、そんなにたくさんあったの?」
「……なぜか、百冊以上。中々物好きで、しかも熱心な人だったみたいね。それだけにどうして捨てたのか気になっちゃうけれど……人間なりの事情があったんだろうねぇ」
「その人間、何があってそんなに捨てたんだろうね……」
「さぁねぇ。飽きたか、何か捨てざるを得ない理由があったのか。分からないけれど、そんなことは問題じゃないよ。こういう本があるということは、誰かと読んで感想を語り合いたいの! ここの本を一緒に読んで、いつものように物語の登場人物に思いを馳せて欲しいの」
「いいけれど……本当にどうなっても大丈夫?」
「うーん、一応大丈夫な内容を選んでいるから……君がいつも通り私の朗読で物語に浸り切っても、結局問題ないと思うよ」
 不安な俺に、彼女は微笑み言う。どうせ、俺が興奮したところで彼女を制することなんて出来やしないので、それで問題ないのだろう。
「でも、内容が内容だから、ここの本は君が私を好きじゃなきゃ、読ませてあげられないね。そこら辺は大丈夫?」
「もちろん」
 俺は即答する。いつも彼女に楽しませてもらっているのだから、たまには彼女の望む通りに楽しませてあげられるなら是非ともそうしたい。
「そうだね、これにしよう」
 ふふ、と笑って彼女が本を差し出す。表紙には、でかでかと描かれたサーナイトは顔を赤らめながら、クチートを組み伏せている。彼の下で組み敷かれているクチートは恥ずかしそうにサーナイトを見上げている、そんな絵だ。
「それは……」
「見ての通りかなぁ? ぱらっと前半だけ読んだ限りでは、鋼タイプが苦手なサーナイトの男の子のために、クチートが一肌脱ぐという風な物語で……」
 どちらもこの森には存在しない種族のため、俺はそれらのポケモンはポケモン図鑑や写真集でしか見たことはなく、よくわからないのだが……なるほど、サーナイトの体格や下半身の特徴はそんなに俺と変わらないようだ。彼女とクチートも、身長差としては大体絵の中の二人と変わらないようだ。
『サーナイトは、その癒しの波導の力を以ってして、お医者さんになろうとしていたのですが、彼には一つだけ問題がありました。彼は冷たい鋼タイプがとても苦手で、触ったり手を繋いだりするのもことも難しいのだとか。そんな彼でも、フェアリータイプを併せ持つクチートだけは、何とか接することも出来るけれど、それでも手を繋ごうものなら体が変に強張ってしまう有様でした。
 これはいけないと思った友人のクチートは、サーナイトのために鋼タイプに慣れてもらおうと協力します。はてさて、上手くいくのでしょうか?』
 彼女は本をサイコパワーで浮かせて朗読を始める。
 物語の導入はいつも通りの無難なもので。あぁ、きっと色々な苦労がありつつも、慣れることができるのだなと、そういう流れが想像できた。物語を読み進めていくと、クチートは一緒に水浴びをしたり、並んで眠ったり。水浴びの最中は体がひきつっちゃうし、一緒に眠る時は、安心して眠ることが出来ず、サーナイトが寝不足になってしまう。
 このままじゃダメだと思ったクチートは、楽しくて仕方のない事ならば、鋼タイプが一緒でも気にならないのではないかと考える。けれど、楽しい事と言っても、それは直接触れ合うような行為でなければ意味がないわけで……水浴びのように触れ合い、なおかつ楽しい行為、というと、思い浮かぶのは一つしかなかった。要するに交尾をすることらしい。それは悪いアイデアというか最悪なアイデアだとは彼女も思っているが、一度思い付いてしまうと妄想が止らず、クチートは衝動に任せて他のポケモンからメロメロを習って、サーナイトの住処で彼と二人きりになったところでそれを発動させたという内容だ。

『クチートから漏れ出る魅惑の香りに、サーナイトは思わず鼻をひくつかせる。クチートの中にあるのは純粋な善意なのか、それとも下心なのか。サーナイトである彼にはそれが手に取るように分かる。クチートの中にあるのはいいわけ程度の善意と、あからさまな下心と、そして少なからずの罪悪感。
 クチートも、こんな誘い方はさすがに悪いアイデアだとは思っている。でも、小さい頃に傷を治してもらってから慕っていたサーナイトの事を好きだという気持ちは抑えきれず、鋼タイプに慣れさせたいという気持ちを大義名分に、無理やりメロメロで発情させてしまったのだ。それに対する罪悪感はもちろんあるのだけれど、申し訳ないと思っているクチートをよそに、サーナイトはこういう展開になることはある程度だが予想していた。今朝、緊張した面持ちでクチートが「いいアイデアがあるんだ」と申し出た時、下心やすまないと思う気持ちがにじみ出ていたのを感じていたのだから。それを感じていてなお、二人きりになろうとするのはつまり、そう言う事である』
 彼女の声はいつもと同じで美しく。けれど、いつもとは全く違う展開になってしまったそのものが足りに感情移入しすぎて僕はスカートの中でイチモツが立ち上がるのを感じてしまう。まだ目立ちはしないものの、いずれは気付かれてしまうだろう。

 しかし、この物語の主人公であるクチートには共感できる。俺自身、異種(というよりは異なるタマゴグループというべきか)に恋をしているから、異種に恋をするという感覚は良くわかる。
 この森にも異種からの恋を良く思わない者は男女どちらにもいるから、クチートがサーナイトに嫌われてしまうことを恐れていたのも良くわかる。
『「ねぇ、クチート。君はそんなに僕の事が好きなの?」
 クチートに押し倒されながら、サーナイトは彼女の目をじっと見る。クチートは彼の瞳に嘘はつけず、うんと小さく頷いた。
「まぁ、知ってたけれどね……でも、鋼タイプが嫌だからって理由で、避けていたし……君もそれを感じてか遠慮してたのも知ってる。けれど、まさかこんな方法でプロポーズだなんて……大胆というかなんというか」
 まさかプロポーズが押し倒すことだなんて、サーナイトは夢にも思っていなかった。
「だって、男ならみんな交尾は好きだって、憧れてるって、友達は言っていたから……」
「確かに交尾は憧れてはいたけれど、こんな形でっていうのは予想外だったかな……」
 サーナイトは苦笑する。
「あぁ、でも、嬉しいよ。嬉しいことは嬉しいんだけれど……君に、恐れずに触れられるかな? 変に緊張して、君を傷つけたりしないか心配で、怖いよ」
 サーナイトは、いまだに鋼タイプのクチートに対して、生理的に嫌悪感を感じている。彼に触るだけで背筋に寒気が走る、体が強張る。まるで、虫の大群に体中を這われるような気持ち悪さがあるのだ。メロメロの匂いでそれを克服できるのか、そんな簡単なことで出来るのか、心配でたまらない。
「大丈夫、サナが心だけでも受け入れてくれただけで、私はもう満足だから。だから、どうなってももう、後悔はしないよ」
 怖いとは思いつつも、ここまで来た以上クチートは前に進むしかない。そうだ、教わった通りにやればいいんだ。メロメロで骨抜きにしたら、次は彼を押し倒すんだ。
 クチートはここまで来たら、羞恥心などすべて捨てるしかないと吹っ切れる。座ったままの彼を押し倒し、腐葉土の香る地面に横たわらせて、木漏れ日を顔に当てる。』

 彼女は本を読みながら、俺のことをチラチラとみる。その視線の行く先が下半身に向けられているあたり、もしかしなくても俺の様子には気づいているのだろう。ちょっと恥ずかしいじゃないか。
『サーナイトは抵抗せずにクチートのおぼつかない手つきにその身をゆだねる。めくり上げたスカートの中に、大きな角を突っ込み、本来は挟み込んで相手の骨を砕くことも出来るそれで、優しく愛撫する。如何に優しく愛撫されたとて、堅い角ではあまり心地よくはなく。あぁ、けれど彼女の存在が感じられるというのはいいものだ。
 敏感なところを鋼タイプに触られるという事に、怖気も感じた、ましてやクチートの角は凶器となる場所なのだからなおさらだけれど、殺意は感じないから大丈夫。サーナイトはメロメロの影響なのだろうか、嫌悪感がかなり薄れているのを感じている。馬鹿な方法だとは内心思っていても、しかし存外に鋼タイプへの苦手意識を克服するには有効なのかもしれない』

 彼女が朗読していると、物語の外にいる存在の自分までメロメロを喰らったかのように骨抜きにされる感覚がある。でも、どれだけ彼女の朗読は想像力が掻きたてられても、誰かに体に触れてもらわなければこの疼きは取れそうにない。
『彼女の小さい手がつたない手つきでサーナイトのイチモツに触れる。幼馴染であるクチートの異性と意識してから、そうして欲しい気持ちと、鋼タイプだから嫌だという矛盾した気持ちが同居していた。けれど、始めて見たらどうだ。サーナイトは鋼タイプに対する嫌悪感なんて忘れて彼女の愛撫に夢中になる。じわじわと上り詰めていくような快感は、早く射精をしたいと急くイチモツを無理やり押さえつけるかのようにじれったい。
 彼女がいくら頑張っていても、慣れていないのだから仕方ない。手つきには少し疲れも見えてきて、じれったさを通り越して萎えてしまいそうになり、サーナイト身を起こして彼女を止める。サーナイトは「ありがとう」と口ずさみ、クチートを抱き寄せ口付けをしてあげた。
 クチートがその口付けに驚きつつも、幸せそうな彼女の気持ちを、表情と胸の角でサーナイトは感じていた。そしてついで湧き上がってくるクチートの性衝動も感じて、サーナイトにとってはそっちの方がよっぽど気持ちいい。そう、クチートは今性欲に満ちていて、角で感情を感じるサーナイトにとってはそれはフェロモンのようなものだ。興奮を掻きたてる力に満ちている。萎えたイチモツも再びピンと張り詰めて、今すぐにでも滅茶苦茶に犯してやりたい衝動が止らない。もう、その思いにタイプもタマゴグループも関係なかった。
 彼女の膣口にかぶりつくようにしてサーナイトが口を寄せる。彼の顔を半分覆う緑色の頭髪が下腹部をくすぐり、舌が彼女の大切なところを這う。クチートは鋼タイプゆえ、サーナイトの口の中には苦手な味がにじみ出る。彼にもそれを嫌がる気持ちはあったが、好きな女性に好き放題出来る今、夢中になってしまえばそんな感覚は捨ててしまえる。
 「ねぇ、そんなところ舐めたら汚いよ……」
 と、クチートはいうものの、サーナイトはそんなことないさと上気した顔で囁く。恥じらうクチートが顔を隠そうとしてしまうのが面白く、サーナイトはより調子に乗ってしまう』

 彼女に本を読まれるだけで光景が目の裏に浮かび、俺はもはや自分のせい欲を抑えきることも難しい。手を伸ばして、自身で下半身のものをしごいてしまいたくなるが、彼女はそれを見越してサイコキネシスで俺の手を止め、悪戯っぽく微笑むのだ。
「感想を語り合うのは読み終えてから、だからね? まだダメだよ、シャラ」
 彼女は舌なめずりをしながら俺に微笑みかけた。生殺しは、少なくとも朗読が終わるまで続くようだ。

『そうして、サーナイトが気分よく攻め続けたことで、競り上がる快感に耐えかねてクチートは頭が真っ白になってしまう。
「あぁ、ダメ……イっちゃうよぉ」
 そう言い残して、クチートは静かにクチートは静かに達した後、胸を上下させて荒い息をつく。
「もう、気持ち良すぎだよぉ」
 甘ったるい声と潤んだ瞳でそう言われては、男としてたまらない。今すぐにでも昂ぶったイチモツをねじ込んであげたい衝動が湧き上がるけれど、クチートのこんな小さな体にそれはあまりに負担がかかりそうだ。舌による責めと、彼女自身の体液で下半身がぬめりを帯びていても、三倍近い体格差では難しい。彼女の体を気遣い、サーナイトは彼女の小さな割れ目に充血したイチモツを添えて、「股を閉じて」と囁いた。
 クチートは笑顔でくしゃくしゃになりながらこくんと頷き、サーナイトのイチモツを股でそっと挟み込む。粘液がこびりついた股に挟み込まれて、その暖かな感触が心地いい。』
『クチートもまた、彼のモノが膣口に触れて、送られる快感に身もだえする。もっと強く擦りつけて欲しいと股に込める力を強くすると、比例するようにサーナイトのものを締め付ける力も強くなる。まだ一度も達しておらず、性欲も抑えきれなかった。
「あぁ、イクよ! クチート……」
 絞り出すようにサーナイトが声を出す。それから数秒と経たないうちにサーナイトは腰の動きを止めて、じっくりと彼女の体に射精する体は本能的に膣の最奥に放つための体勢を取り、荒い息をつきながらその余韻を楽しんだ。クチートもまた、彼の攻めで火照った体を、一息ごとに冷ましていく。互いに、満ち足りた心で荒い息をつき、お互いに口付けを交わして、お互い肩を並べて青空を見上げる。
 本来の目的は忘れていない。鋼タイプに慣れようという目的はとりあえずクチートが相手でならば不可能ではないことを証明出来たが、それが他の種、種が同じでも他の個体にまで同じように接することが出来る保証はない。ただ、一歩進めたことだけは確かなので、サーナイトはクチートの耳元に唇を寄せて、ありがとうと囁いた。
 最低な方法で交尾に持ちこみ、罪悪感のあったクチートも、この言葉を聞いて勇気を出してよかったと確信して、心も体もようやく楽になった。

 数か月後、村の中心に小さな診療所が開かれた。そこで働くのはもちろん、サーナイトである。鋼タイプへの苦手意識を克服した彼は、クチートと一緒に末永く村の住民に慕われるのであった。』

 そこで本は終わりだったのだろうか、彼女は本を閉じて俺を見る。
「どう、シャラ君?」
 いつもだったら、ここでゆっくりと感想を言えるのだけれど、今日はそんな気持ちになれそうにない。
「どうって……どうもこうもないよ! あんなもの聞かせられて、よからぬ想像ばっかり働いちゃって、体は興奮しているのにディヴァは何もしてくれないんだもの! 俺はもう君を襲ってしまいたいくらいなのに!」
「ふーん……そうなってくれるようにと思って読んだんだけれど……効果は覿面かぁ」
「そうだよ、抜群だよ。ここまでした責任はとってくれるんだよね、ディヴァ?」
「責任をとるために、こうして本を読んだんだけれど?」 
 言い終えるが早いか、彼女は俺の体を押し倒す。
「私はね、ここ数年何だかもやもやした気分の日が続いちゃってね……その原因がなんだったのか掴めないまま日々を生きてきたけれど、この本を見た時に原因が分かっちゃったんだ。私の人生には、交尾がなかったって」
「そ、そう……それは確かに寂しいね」
「でも、適当な相手と交尾をするのもなんだし、それなら本を読むことを一緒に楽しめるような誰かと、こうやって楽しく出来たらいいなぁって……そんな事を考えていたら……こういうふうに事前に本を読んでそういう気分にさせる方法に落ち付いちゃって。
 興奮してくれたとか、もう抑えきれないっていうのは、私の朗読を楽しんでくれた証拠だよね? なら、いつでも準備は大丈夫だよね?」
「そりゃ、もちろん」
 徐々に彼女は俺の体をよじ登ってくる。立ち上がったイチモツを乗り越え、胸を押されて上体を起こす体勢が維持できずに俺は仰向けになる。彼女の真っ白な顔が、お互いの生きに振れる距離に来れば、果実のような香りの彼女の吐息。
「じゃあ質問。朗読している本の内容で気になったところはある?」
「えっと……それは」
 俺はさっきの本の内容を思い起こしてみる。
「あぁ、そう言えば。角の口? で……咥えて男を気持ち良くさせるような内容があったけれど、クチートってポケモンがそういう事をするの?」
「いやぁ、多分クチートはそういうことはしないと思うけれど……そういうのは人間がするんじゃないの? 他の本を見ても、みんな雌が口で雄のモノを咥えてやっている感じだったから……きっと人間は雌が雄に対してそういうことをするような種族なんだろうねぇ。それをポケモンに当てはめたりとかしちゃうのは、人間の悲しいサガなのかねぇ」
 ディヴァはそう言ってくすくすと笑みを浮かべて、俺に出来るだけ顔を近づける。
「せっかくだから、やってみる?」
 こういう展開、望んでいた通りだ。
「お願い」
 ふやけた笑顔を浮かべてしまいそうになり、せめて変な顔はしないようにと思ったが、それでも顔は戻らずひきつった笑顔を浮かべてしまう。情けないそんな表情を見ても、ディヴァは特に気にすることもなく、俺の大きな耳を人舐めした後、後ずさって下半身へと向かう。
 そうして、脚を覆う膜をめくっては、蒸れた股間へと顔を近寄らせ、小さな舌で震えるイチモツの先端に触れた。
 と、言っても膜の中に隠れて彼女が何をやっているのかは見えないのだけれど。でも、手で触れるのとは全く違う、滑る唾液と、しなやかな舌の動きのせいだろう。今まで感じたことのない気持ち良さを俺に与えてくれる。ビンビンに張り詰めて刺激を待ちわびていたそれが、決壊するのに時間はかからなかった。
 俺は声を出すことも忘れて彼女の口の中に精液をぶちまける。そう言えば、口の中とは言え女性の身体で射精したのは初めてだ。全く動いていないというのに、激しい運動をした後のような倦怠感に包まれながら、俺は彼女を見る。下半身以外は膜に隠れて見えなかった彼女だけれど、彼女はのそりと膜の中からはい出て、口の中を見せびらかすように舌を出した。
 見事に俺が出した精液を湛えていて、それがなんともいやらしい。
「こんなに出しちゃって……よっぽど欲求不満だったんですね」
 口の中に入り込んでいたそれを全部のみ込み、彼女は俺の胸を押さえつけながら、じっと俺のことを見る。
「いやだから、それディヴァのせいだって。ようやく、興奮も収まったような気はする……けれど。でも、この感じじゃまたよからぬことを考えちゃうよ」
「ふぅん? じゃあもっと、続きをやっちゃう?」
 綺麗な瞳が潤んでいる。そんな目で見つめられると、その魅力に逆らうことなんて出来るわけもない。
「う、うん」
 俺が力尽きるまで、昂ぶらされた欲望に身をゆだねる以外の選択肢なんてなかった。

 二回戦目も本の通りに行われる。彼女の小さな体に俺の者は入りそうにはないので、股で擦り上げてもらうのだ。素股、という行為らしい。クチートの肌はすべすべで、粘液さえまぶせばそれはもういい具合になるだろうと彼女は言う。本当なのかどうかは確かめようもないけれど。彼女の体液で塗れた白い肌は、確かに挟まれるだけで夢見心地になりそうな。
 チョンと、上品に閉じられた太ももと、そこからわずかに見え隠れする彼女の割れ目。小さすぎていれることは叶わないが、それでも擦りつけるだけでも生唾が漏れそうなくらいに緊張する。
 ともかく、膜をめくって時自分の目にも屹立した性器が見えるように。痛いくらいに立ちあがったそれを、上気した顔で見つめる彼女の太ももにそっと挟み込ませる。先ほどは先端だけしか咥えてもらえず、それでも快感ではじけそうだった俺のものが、太ももによって半分以上を挟み込まれる。適度な圧迫感を与えられて、俺の下半身が喜んでいる。
 彼女が股を強く締めれば、思わず声が出てしまうくらいに気持ちいい。
「動いていい?」
「もちろん」
 これならばよっぽど無理をしない限りは相手の体を痛めることもないので、遠慮なしにやれる。彼女もそれを理解しているようで、俺の動きを笑顔で受け入れてくれる。
 彼女が僕のモノを挟む力は、緩急をつけていて飽きさせない。小さな体を精いっぱい上下させて、常にいろんな刺激を与えてくれるから、見た目にも可愛らしくって、いつ果てるやも知れないくらいだ。
 夢中になって腰を振っていると気づけば限界にまで達していた俺は、大きな唸り声を挙げながら射精に至る。人生で一番気持ち良かったであろうその瞬間に、俺は彼女の体にのしかかるようにして腰を打ちつけた。
 自分勝手に、ほとんど彼女の事なんて考えていなかった気がするけれど、それでも彼女は笑っている。
「まーったく、これだから男って。本みたいに上手く私を気持ち良くなんてさせてくれないんだから」
 呆れたような口調の割に、なんだかうれしそうな彼女の言葉。
「それ、何かの前振り?」
「うーん……まだまだいろんな本があるから、次は女の子を気持ち良くする内容の本を読もうかな、と」
「やっぱり前振りじゃないか!?」
「だってぇ、君は本の内容に共感してくれるから、読ませ甲斐があるんだもの」
 あはは、と軽快な笑い声を上げながら、彼女は腹に粘つく僕の精液を掬い取って舐める。
「これからは、誘い方に困らないかも。これでいつでも……」
 どうやら、俺はこれからこういう本を読むたびに、誘われる羽目になるらしい。その時、本に書いている内容によってはとんでもないことを要求されそうで怖い。


 そうして、数ヶ月。彼女は今でも本を読みながら俺を交尾に誘ってくる。子供が出来るようなことはないので、それ以外に特に生活で変わったこともないのだが……最近なんだか気になることがある。
「ほら、もっと強く……歯を立てないように咥えてよ」
 茂みにまぎれながらエテボースの男性が、ミルホッグの女性にイチモツを咥えさせている。彼女との行為の内容がどこかの誰かから漏れたのだろう、森で時折見かける交尾の最中、まるで本で見たような口で奉仕する光景がちらほらと見えるようになる。どうやらこの森では徐々に流行り出しているようで、この森は一体どうなってしまうのやら、ひきつった笑いが漏れてしまった。


** [#ipCWSG4]
感想に対する返信
 文系のメロエッタに新しい発見がありました(意味深
 描写もとても丁寧で素敵でした! (2016/06/19(日) 23:49)

投票ありがとうございます。メロエッタは声がいいので、朗読もまた非常に素晴らしい物になると思うのです。

 設定が非常にユニークで、新鮮な気持ちで楽しむことができました。 (2016/06/19(日) 23:56)

人間だとラブホテルなんかではアダルトビデオが流れていたりするので、気分を盛り上げるために官能小説を読むというのもありだと思うのですよ
**コメント [#dn6poKX]

#pcomment(,5,below);


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