官能表現有。そんな小説粛清してやるって思ってる人はバックバック ---- 薄暗い、牢屋のような場所で、まばゆい閃光が光って、消えて、光って、消えてを繰り返す… ばちり、ばちり、ばちばちばちばちばち……… 「もういいだろう?これ以上はもう無理だろう…」 「嫌です!!所長!!もっと強いリミッターはないんですか!?このままじゃ僕は……!!」 焦げ臭い臭いが感覚器官を錯綜させる。黒い煙をぶすぶすと出して沈黙する機械の前に、一匹のサンダースが目頭に涙を浮かべて所長と呼んだポケモンに懇願するように何かを訴える。 サンダースが呼んだポケモンがふぅ、とため息をついて困ったような顔を浮かべてサンダースの前に歩み寄る。そのポケモンは二尾の尻尾を持ち、黒と黄色のまだら模様に赤い瞳を宿している。電気ポケモンの中でも指折りの強さを持つポケモンその名はエレキブル。…その所長と呼ばれたエレキブルは何ともいえない表情で俯いているサンダースを見つめた。その瞳は困ったような色が見て取れる。 「そうは言われてもね……今の我々の力では君の電気を完全に制御することなど出来ないのだよ。それに、君の力はすばらしいものなのだよ……そう卑屈にならずとも良いだろう?」 「素晴らしい力?………本当にそんな力なら、ポケモンを殺めたりなんてしないでしょう!!自分の力も制御できないのなら、リミッターをつけてでもこの力、封印しておいたほうがまだましですよ!!」 サンダースはそう怒鳴り散らすと、涙を流して俯く。所長は心の底から困った顔をして―― 「う~ん、どうしようか………」 などとのんきに構えていた。きょろきょろと辺りを見回して、ほかのポケモン達がいないことを確認して、サンダースに歩み寄っていった。 「ひっく、ひっく……」 「オレオ君、まだ君の力を解析することは現時点では難しい、だから、今はこのリミッターで我慢してくれないか?時がたてば化学というものは嫌でも発展する。だが、君がそこで泣いていてはまったく意味が無いのだよ。失敗があるから、成功がある。幾多の失敗を重ねれば、いつかは出来るはずだよ。君の電気を完全に押さえ込む制御装置が……だから、もう少しだけ様子を見よう?」 所長はそういってにこりと微笑むと、くしゃくしゃとオレオと呼んだサンダースの頭を撫でる。サンダースは俯いた顔を少しだけ上げて……無言でこくりと頷いた。 「よし、それじゃあ戻ろうか。ここにくるのは新しい発見があったときに…またここに来ればいい」 「はい」 黒焦げの機械のそばからすっとはなれて、オレオは明るい廊下に出た……ほかのポケモン達は、オレオの姿を見た瞬間にひそひそと話し始める……… 「ほら、あれだよ。凄い強い電気の力を持ってるのに、まったくその力が制御できないっていうサンダースは…」 「噂ではサンダーの力に匹敵するらしいぞ」 「本当ですか?恐ろしいですね…」 「嘘だろ。どうせドーピングかなんかじゃないのか?」 「ドーピングだったら薬物反応が出るはずだ。だけどオレオの健康調査の結果は至って健康だったぜ?」 「だとしたら、あのサンダースは希少種か……」 「何で所長はあんなポケモンをこの光学研究所においておくんだ?危険極まりないだろう?」 色々な噂話が飛び交う。根掘り葉掘り、あることないこと好き勝手に…。それを効くたびにオレオはため息を漏らす。そんなオレオを見て、所長は申し訳なさそうな顔をした。 「すまない。オレオ君。君にはつらい思いをさせてばかりで……」 「大丈夫ですよ所長。僕はこんなのもうなれましたし、子供のころからあこがれてた光学研究所で働かせてもらえるだけでも光栄ですし、それに、ここで働いていればいつかはきっと、この力に対する答えが見つかるかもしれないって……そう思えるんです。だから、所長が負い目を感じることなんて何一つないんですよ?」 元気いっぱいの笑顔を見せて、オレオはぐっと握りこぶしを作る。そんなオレオを見て、所長もはははと乾いたような笑い声を漏らす。 「そういってもらえると助かる………君には苦労をかけっぱなしだったからかな。君を見るとどうしても謝罪の言葉しか思い浮かばないのだよ…これはよくない癖だ。直さねばならんな…はっはっは」 そんな毎日の日常的な雑談を繰り返しながら、二人は食堂を目指していた。起きたばかりで朝食もろくにとってないオレオは、真っ先に何を食べようか考えていた… 「おはようござ――あれ?所長?珍しいですね、所長がこんなところまで食べにくるなんて……いつも自前のお弁当をつついているのかと思っていたんですけど」 食堂に入ったときに真っ先に声をかけるポケモンがいた。空中で電池のエネルギーを貪っているコイルが所長とオレオに気がついてふよふよと宙を漂いながらやってきた。 「今日は気分だよ。食事に他意などないからな。お腹が減ったら食事をする。それが常識なのだよ」 そうすかー、などといってコイルは所長の右にいるオレオに目を移した瞬間、明らかに動揺の色をちらつかせた。 「!!お、おお、オレオ……なんでお前がこんなところに――」 「僕がここにいちゃ悪いんですか?」 少し怒気が入った口調でコイルにそう告げる。心なしか体の毛がばぢりばぢりと電気を帯びて、今にも攻撃をしそうな雰囲気だった。コイルはぶるぶると震え上がって、滅相もないといった感じて急に畏まった態度になる。 「い、いやいや、そういうわけじゃないんですよ……ははは……いやね?オレオ君がこんなところに来るなんて珍しいなぁとおもって……所長もそうだけど、オレオ君も自分の弁当をつついているだろ??そ、それにさ、ホラ!君はいつも制御室で――」 「リミッターのことなら、もう壊れたよ……これで四十二個目だ……」 先に答えを言ってやると、コイルがひえっと大げさに飛び上がる。 「そ、そうだったのか。ははっ、さ、災難だなぁ………じゃ、そういうわけでっ!!」 それだけ言うと用件は終わったといわんばかりにすたこらさっさと食堂の一番隅っこまで移動する。他のポケモン達もオレオを恐れたのか、こそこそと離れていく… 「……………どいつもこいつも…………………」 静かな怒りをふつふつと燃え上がらせる。そんなオレオの怒りに同調するように、体毛の電気がばぢりばぢりと爆ぜる。しかしすぐ首を横に振って、平常心を保とうとする。 ――いけない、いけない。僕が怒ったら……食堂が吹き飛んでしまう……こんなことじゃいけないんだ……感情に任せちゃいけないんだ……平常心、平常心……… 「平常心……ふう」 口に出していって、心を落ち着かせる。ぽりぽりと頭をかいてから、食堂のメニューを頼もうと思った刹那――所長が痙攣しているのを見て驚愕した。 「!!!わー!!所長!!どうしたんですか!?」 「うぐっ……ま、まさか……微弱な電気をまとっている君のそばにいるだけで……"まひ"するとは……不覚」 ドサッ、という音がして、所長は倒れこむ。駆けつける医療班。混乱する食堂内。オレオはただ一言―― 「もう、やだぁ……」 と、呟いて、がっくりとうなだれていた。 ---- 「聞いた?所長の症状。まだ"まひ"が直らないんだって」 「うへぇ、もうアレから一時間もたってるんだぜ?尋常じゃないよなぁ…」 「しっ、静かにしろよ。オレオに聞こえたら俺達は"まひ"じゃ済まされないぜ?」 「どうなるんだよ?」 「"かみなり"で体を貫かれるとか"ボルテッカー"で粉々にされるとか…」 「"ボルテッカー"はピカチュウしか使えないんじゃないのか?」 「馬鹿、あいつは希少種だぞ!?全ての電気技を使えてもおかしくないだろ!?」 「おお、恐い恐い。触らぬオレオに祟りなし、だな」 周りから聞こえてくるひそひそ声。オレオは他のサンダースよりも聴力器官が発達しているため丸聞こえであった。ふるふると湧き上がる怒りを抑えて、ラーメンを啜る。味なんてちっとも分からないくらいに、今のオレオは憤慨していた。 「…………どいつも、こいつもっ!!」 おもいきり机を叩く。さすがに怪力など培ってはいなかったが、大きな音がして周りが一瞬で静まり返る。 「…………くそっ」 何も思いたくないように悪態をついて、残りのラーメンを啜る。 ――――と、そこに不思議な声が聞こえた。 「あの~?隣良いですか?」 「………はぁ?」 「あ、嫌だったらいいんです。すみません」 声のするほうに顔を上げると、目の前に一匹のポケモンが困ったような笑顔でこっちを見ていた。人魚だか半漁人だかを思わせるような鰭と、美しい瑠璃色の瞳。シャワーズと呼ばれるポケモンが、オレオを見ていた。 「別に、全然かまわないけど……なんで僕?」 「いえ、他の皆さんは何だか恐い顔をしているので……何だか皆さんの輪に入りづらくて……」 「……へぇ……」 いやみだったら思い切り攻撃したいところだったが、所長の件もあるし、何よりも水タイプのポケモンに電気など流し込もうものなら大変なことになる。それに、こういうタイプのポケモンは何も考えてなさそうでとても分かりやすい性格だろうと思った… 「別に良いよ。好きなだけ僕の隣にいれば良いよ……」 「わぁ、ありがとうございます!!……お名前、教えていただけないでしょうか?」 不思議な感じのするポケモンだった。ずけずけと人にこういうことを聞くあたり結構図太い神経をしているのだろうと思った。 「オレオ…で、君の名前は?」 はいっ、といって元気よく答えてくれた。 「私は水力発電所から要請としてきたミルクといいます。よろしくおねがいしますね。オレオさん♪」 そういってオレオの腕を取り、ミルクはぶんぶんと元気よく上下させた。よろしくの握手のつもりなのだろうが。オレオは何ともいえなかった。ミルクの元気に気おされているのもそうだったが、何で場の空気を察して黙っているとかをしないんだろうかとオレオは思っていた… ――それにしても、水力発電所から要請なんて、珍しいな。 「本当は一直線に所長のところに行くところだったんですけど、ここの所長が体調不良で倒れてしまったと聞いて、お腹も減ったのでこの食堂によったんです」 オレオはやってしまったといった顔をしてうなだれた。ミルクの用件を間接的に引き伸ばしてしまったというのにかなり罪悪感を感じた。何よりも嫌だったのは、この力が、また人の迷惑にしかならないことだった…… 「オレオさん。光学研究をしているんですよね?」 そんなオレオの気持ちには全く気がつかずに、ミルクは興味津々といった感じでオレオに質問した。 「え?……まぁ、そうだね」 すごいです。と尊敬の眼差しをオレオに向けて、子供のようにキラキラとした瞳でミルクはオレオを見つめていた。 「私、光学なんて難しいもの、実用化できるのかってことに疑問を持ってたんです。でも、こんな研究所でその光学についての研究をしているんですよね?」 軽くまくし立てた後に期待を仰ぐ瞳を向ける。オレオは本当のことをいっていいのか迷ったが、現実を教えるのも大切だなと思い、静かな声でこういった。 「まぁ、表向きはここ、光学研究所だけど……たぶん光学の研究している人なんて一握りしかいないんじゃないかな?………一応光学研究所って通ってるけど、殆どは科学研究所と変わらないよ?光学って言うのは案外実用性が低いんだ。光なんてたかがしれてるしね。むしろこの研究所で行われていることは新しい機械の開発とか、新型の制御装置とか、電子機器類が主だと思うよ。光学はそのついで……ん?どうしたの?」 説明している最中にミルクがふるふると震えだした。幻滅して怒ったのか、それともショックで泣き出すのか―― 「す、凄いですね。光学のほかにもいろいろな研究をしているのですか……益々この光学研究所が好きになりました!!オレオさんはもちろん両方の研究をしていらっしゃるんですよね??」 幻滅するどころか、更に瞳を輝かせてミルクは喜んだ。頭のねじが外れているのか、マジでそう思っているのかは謎だったが、意外な反応にオレオはちょっとだけびっくりした。 「もっとお話してくれませんか?オレオさんのお話、凄く楽しいし、聞いていてためになります!!」 「お話って、僕はただ単にここの研究員達のずぼらで浮気性の話をしただけなんだけど……しかもそれってお話っていわないし」 まぁいいや。そう思ってオレオは話を続ける。ミルクはまるで純真な子供のようにオレオの話に耳を傾けている…… ――そういえば、所長以外のポケモンと、こんな風に話したことはなかったなぁ……ただの一度も…… ---- 長い長い廊下を、二匹のポケモンが歩いている。一匹はシャワーズ、一匹はサンダース、タイプの合わないポケモンが歩いているところはあまり見かけないのか、それともサンダースの隣にシャワーズがいることが珍しいのか、二匹とすれ違うたびにポケモン達が驚きの目で二匹を見てはいそいそと足早に立ち去っていく… 「よかったです。ようやく所長さんとお話が出来ます」 「御免。僕のせいだったから……」 「そんなことないですよ。オレオさんとお話できて私はとても楽しかったです、ですから、そんな風に自分を卑下するのはよくないですよ?」 ニコニコと笑ってそのシャワーズ……ミルクはサンダース…オレオの顔を見つめた。オレオは困ったような顔をして苦笑いをしてこういった。 「そう言ってもね、所長が"まひ"した直接的な原因は僕にあるんだし……卑下するなって言われても、正直そんな気分にはなれないよ。だって……そういう失敗を笑ってみないフリをすれば、自分を追い詰めることになるから」 「………オレオさん」 のらりくらりとした口調でオレオは自分のしたことに対する反省と、それを止められない自分に対しての馬鹿らしさを自虐的に笑う。そんな顔を見てミルクは心配そうに瞳を潤ませるだけだった。 数分位あるいたのか、『所長の部屋☆』などとかかれたプレートが中央に貼り付けてあるドアの目の前までやってきた。オレオはそれを見て何とも言えない顔をする。 「いい大人が何やってんだか……」 「そうですか?私はこういう童心に帰る子供心を忘れない所長さんって言うのも好きですよ?」 「童心って言うよりは本人がそういう性格なのかもしれないね……所長?いますか?いたら返事してください」 少々力強くドアを叩いて、オレオは所長という言葉を連呼する。すると、非常に大きな声がドアの向こうから振動のように響いた。 「いるぞ!!入ってきたまえ!!」 耳をふさいでしかめっ面をするオレオを尻目に、ミルクは意気揚々とドアを開けて中に入る。非常に愛らしいプレートとは間逆に、中はとても整理された部屋だった。よく言えば綺麗といえるのかもしれないが、悪く言ってしまえば何もない単純な部屋だ。デスクと椅子しかないのがそれをいっそう思わせていた。 ミルクはきちんと居住まいを正すと、所長と対面して、よく通る声でハッキリと自分の用件を告げた。 「所長さん!水力発電所からの応援で、新しいエネルギー制御装置の開発に携わらせていただくミルクと申します」 ぺこりとお辞儀をして、ミルクはオレオの隣にちょこちょこと戻っていく。一方その言葉を聞いたオレオは頭の中でミルクの言葉をよく吟味していた。 水力発電所からの応援?新しい制御装置に開発に携わる?ミルクは何をしにここに来たんだ? 「驚いているようだね、オレオ君…まぁ、無理もないだろう。しかし、彼女は確かに私が呼びつけた応援だ。今日から彼女は一ヶ月ここで制御装置の開発の補佐をしてもらうことになる。……オレオ君とミルク君はパートナーだ……仲良くやってくれ!!」 はっはっは。などといって快活に笑う所長。うんうんと頷くミルク。若干話が全く見えていないオレオは、何のことやらと思いながら一応所長に聞いておいた。 「えと、何のことやら私にはいまいち理解が出来ないのですが……具体的に彼女は何をしにここに来たんですか?」 何が何やら、とりあえずもう一度話を聞かないと分からなかったので、オレオはもう一度所長に説明を求めた。しかし口を開いたのは所長ではなくミルクだった… 「えっとですね、私は水力発電所で働いていたときに、ここの所長さんから力を貸して欲しいといわれたんです。具体的に何をすればいいのかを聞いたら、新しい制御装置開発のために私の知識と工作技術を化して欲しいといわれたので、ここに来た所存なんです」 「……へぇ?ミルクは水力発電所で働いているのに工作技術も身につけてるんだ…」 「ちょっと齧った程度ですよ。ほんの少ししかお役に立てないと思われます……だって私は、水力発電所ではお荷物扱いですから……」 若干寂しそうな瞳を泳がせて、ミルクは俯いてしまう。ミルクがどんなポケモンなのかいまいち分からないが、元気の割りに苦労人だということが分かった。へぇーなどと他人事のように言って相槌を打っていたら、所長の声が会話に割って入った。 「まぁ、信用できなさそうな気持ちも分からんでもない。しかしオレオ君、彼女は科学工作の分野で博士号を取っている天才少女だ。心配は要らんぞ?」 「………博士号を?それは凄いですね……なんでそんなに凄いのに光学研究所に就職しなかったんですか?」 「うむ、それはだな…」 「一般常識テストで落ちたんですよ…私、一般的な勉学の教養はからっきしだったんです……それで、仕方なく一般常識のない水力発電所に……」 ミルクはお恥ずかしい、といって顔を赤らめる。オレオはそんなミルクの姿をじっと見ていた。つやつやした水色の肌、ぷるっとした唇、美しい瑠璃色の瞳、恥ずかしそうに頬を赤らめてえへへと笑う仕草も、彼女の魅力をよりいっそう引き立てていた――が、 「――天才と馬鹿は紙一重…か」 オレオは結構失礼な発言をして、目の前のシャワーズを見つめていた。 ---- 「では、新しい制御装置の問題点と改良点を教えていただけませんか??」 所長の部屋で三匹の声がいったりきたり、狭い部屋にミルクの透き通る声が反響して、オレオと所長の耳にすこんと入ってくる。 「うむ。オレオ君が装着してから三秒で壊れたのだが、耐久性に問題があるということと、制御する際の持続面に問題があると私はおもうのだが…ミルク君はどう思うかね?」 「そうですね、その資料を見ない限りには何とも思えません。……資料を見せてもらっても良いですか?…ああ、ありがとうございます。少々拝借……そうですね、この構造でいくと内面に少々エネルギーを貯めるところの材質がそのエネルギーに耐えられないものではないのでしょうか?電気だけでなく炎も水も、人工的に生み出せる化学エネルギー全てに対応できるようなものを制御装置といいますし…そういった類のエネルギーを押さえ込める素材を全て掛け合わせて、実験テストをした後に制御装置に取り込むというのも一つの案かもしれませんけど…さすがにそれは危険性をはらんでいますからね。プラス要因の中に0.01%でもマイナス要因がはいっていれば脱離反応を起こしてまた故障するということも考えられますからね…そういう要因を考えてしまえばこの案はすぐに却下です」 「うむ、それもそうだがこれ以上出力を抑えるような素材はこの研究所には無いからな。そういう点ではミルク君の案を全面的に押し出して協力をしたいところなのだが…」 「ですが、それを考えるのなら特別仕様になりますし、研究費も莫大にかかりますよ?私はとてもじゃありませんけどそんな研究所に迷惑をかけるような、しかも作動するかどうかも分からない機械のために費用を割くのは得策じゃないと思います…」 「うぅむ、どうしたものか…」 なにやら宇宙語を喋っているような感じで頭がくらくらしてきた。専門用語の羅列というわけでもないが、オレオにとっては意味不明な単語がいろいろ飛び交い、自分側って入ることなど不可能な世界が所長とミルクの間には出来ていた…… 「盛んだなぁ……何喋ってるのかわかんないや…」 それ以前の問題もあった。所長もそうだがミルクも、どうして他人のためにここまで頑張れるのだろうか。自分のことでもないのに頑張っても無意味だと思ってしまう。この研究所には自分が納得いかないことや理解できないことをとことん追及するポケモン達がわんさかと集まっている。そういうポケモン達が集まるからこそ、子供のころから友達もおらず、一人で孤独を味わったオレオにはこの光学研究所は好都合の場所だった。 迷惑をかけるくらいなら、自分の殻に閉じこもってしまおう。生まれたときからくっついているこの呪わしい力も、一切を忘れて研究に没頭していこう。そうすれば全てを忘れて安穏に暮らせると思っていた…が、所長はそのことを知って僕のことを思い切り殴った。何でそんなことを考えるのかとか、自分の殻に閉じこもるなとかいろいろいわれたような気がするけど、何を言っていたのかはすっかりわすれてしまった。それからだった、所長が僕のために制御装置の開発を繰り返し開発を始めたのは… 建前は興奮して集中できないポケモンにということだったが本音は絶対に違う。完全に僕のことを意識して作っていた。そうじゃなければ、所長が制御装置なんて怪しげな機械を開発するつもりが無いから…… はじめは非常に億劫で憂鬱だった。何でそっとしておいてくれなかったんだろう。周りの視線がいたくて、毎回毎回僕で起動実験をして、そして煙を吹いて沈黙する……それの繰り返しが嫌で、一度この研究所を退職しようかと考えたときもあった。 ……だけど、直向に僕のことを考えてくれた所長の姿を見ていると、そういうことを考えている自分がひどく惨めで、恥ずかしくなってきてしまった。自分のためにここまでしてくれた所長を裏切るようなことをしてまで、一人を好むのだろうか?そう考えるようになってからは、自分も変わって以降と考えられるようになった。少なくとも、所長が納得いくまで付き合おうという気持ちはできた。 だからこそ、所長は研究所で最も信頼できるポケモンになった。そのおかげでほかのポケモンに自分の力の正体がばれて煙たがられるようになったけれども、そういう視線もあまり気にしなくなった。でも―― 「どうしたんですかオレオさん?ぼぅっとしてますけど大丈夫なんですか??」 いろいろと考えている最中にミルクがひょこっと顔を覗き込んできた。ちょっとだけびっくりしてミルクと目線を合わせる、くりくりした瑠璃色の瞳に自分の顔が映る。――とても疲れたような顔をしていて、見ていて気分が悪くなりそうだった。 「ご気分が優れないのですか?」 大丈夫といって苦笑いをしてから、オレオはふぅ、と、ため息をつく。ミルクのように元気に喋ることも話すことも出来ないオレオはミルクの元気が鬱陶しくもあり、羨ましくもあった。心配そうなミルクの顔を見てオレオは冗談めかしてこういった。 「ホラホラ、ミルクがそんなに心配そうな顔しちゃ駄目だよ。ミルクは元気が一番かわいいから…そんなに暗い顔は駄目だよ、君の元気がなくなったら僕はとっても悲しいな…」 ふふっと笑って作ったような笑顔を向けたら、ミルクは予想外の一言をオレオに叩き付けた。 「私が聞いているのはオレオさんの体調です。私の体調は対象外です。変な言葉でごまかさないでください」 きつい一言で心を貫かれて、オレオは押し黙ってしまった。ミルクの性格や言動からは想像もできないくらいの冷たい瞳に、暗い影が落ちてオレオを見つめていた。 「ご、御免。ちょっと冗談が過ぎたみたい…」 「そうですか、まだ何か隠しているようにも見えますけど…ひょっとして鬱陶しいと思っているのではないでしょうか?所長さんと話している私という存在が…」 確信に近い言葉、それを聞いたときオレオの体温が急激に下がって、胸をえぐられるような感覚が襲った。見た目だけで人は判断できない。そういう言葉がとても似合うほどに、今のミルクはオレオが見ていたミルクの姿とは対照的な姿をしていた。 オレオは考えていた。所長はともかく、どうしてミルクが制御装置の開発に携わるのだろうか。水力発電所から来た応援というのはわかっていたつもりだが、一度しかあっていない。別段仲が良いわけでもなく、信頼関係も薄い。ミルクの明るい性格がオレオの心を少しだけ開いたのは事実だったが、それ以上のことはしていない。直接的表現をするのならば、自分には何の利益ももたらさないというのに、他人のために行動するというのがオレオにはいまいち理解できなかった。そういう類の行動をするのは、非常に中の良い友達か、信頼し合える人と一緒にいるかのどれかだろう。オレオと所長は少なくともそういう関係であるわけであって、今日はじめてであったミルクがそういう関係を築けるかどうかというのは正直に言ってしまえば無理だろう。 「僕には理解できないだけだよ。君がどうして僕のために制御装置の開発の応援に来てくれるのかがね…」 正直な思いを短く言葉に乗せてミルクにぶつけると、ミルクは少しだけ驚いたような顔をした。どうしてそんなことを言うのだろうかとか、そういうものだ。 「……ここに来た第一理由は制御装置の製作の補佐という名目ですけれども、オレオさんは鋭いところをついてくるんですね……他人のために無利益の行動をする……確かに意味の無い行動ですが、逆に聞いていいですか?オレオさんは、信頼したポケモンなら無利益な行動にも意味があると思うのですか?」 「………?…それってどういう意味?」 そのままの意味ですよ。と、ミルクは短く言ってから首を横に三回ほど振ってから、静かにオレオを見据えた。急に見つめられてオレオは驚くやら照れくさくなるやらといった気持ちがぐるぐると心の中で渦巻いていた。 「オレオさんの言葉通りなら、ボランティア活動なんて意味の無いものになりますけど…?」 「あっ!!」 言われてから気がついた。ミルクの言うとおりだ。信頼をしていない他人のために無利益な事をすることを無意味だというのならば。この世界に存在するボランティアなどの団体の生き方を全否定することになる。ボランティアたちの行動もまた"意味の無い行動"となるだろう。 「そ、そういうことまでは、頭が巡らなかった……だけど、僕は本当に……」 「成程、信頼できるポケモン同士でないとオレオさんは制御装置の補佐を任せたくないというのですね?……理由はもっともです。確かにひょこっと出てきた私に制御装置を弄繰り回されては堪ったものではありませんからね。………わかりました。では、私はオレオさんに信頼してもらうまでオレオさんの傍にいることにします!!信頼してくれないのにここにいても仕方がありませんからね。所長さん、いいですか??」 急に元気な声でとんでもないことを宣言してから、ミルクは子供のように無邪気に笑った。先程のミルクの表情に戻ったのは嬉しい限りだったが、オレオはぎょっとしてミルクを見つめていた。 「別にいいだろう。一ヶ月も滞在するのだからな。お互いのことを知らないまま一ヶ月を過ぎるのはさぞつまらないだろう!二人でいる時間を思い切り楽しんでくるといい!!」 「しょ、所長!?」 何を言ってるんだこの人はと思っていたら、ミルクがぺこりと頭を下げて所長にお礼の言葉を述べていた。ちょっと待て、これじゃあ完全にミルクが僕と一緒にいるのが強制みたいじゃないか… 「これから一ヶ月の間、よろしくお願いしますね♪オレオさん♪……私、この一ヶ月の間で、オレオさんのことをもっともっと知りたいと思います!!信頼を得るには、まず友達にならないといけませんから……」 見合い結婚のときのようなはにかんだ笑顔で、ミルクは屈託無く笑う。邪念も何も無い素晴らしい笑顔だったが、オレオは怪訝そうな顔をして…… 「……居候になるつもりなのか?」 などと思って家庭経済面の方向に頭を働かせていた。 ---- 青空が見える公園で、オレオとミルクはベンチに座ってなにやら気まずい空気の中で黙りこくっていた。しかしミルクが口を開いて何かを言い出す。 「オレオさん、オレオさんの力がどういうものなのか、一度見せてくれませんか?」 「そんな風に妄りに見たいって言うものじゃないと思うけど…」 所長の考えでミルクと一緒によろしくすることになったオレオはミルクにまずそういわれた。もちろん断ったが、ミルクはどういうものなのか見ないと分からないといいなかなか首を縦に振ってくれない。それは正論だったが、オレオは自分の電気が本当に嫌いだった。少し感情が高ぶるだけでばちりばちりと放電を始めて、軽く電気を流しただけなのに空に電流がほとばしりダイナマイトのような音が響き渡る。五月蝿い上に、危険極まりない力だったためにオレオは恐れられていたし、オレオ自身もその力を恐れていた。 「お願いします。オレオさんのことをもっともっと知るためには、オレオさんがどのような環境で、どのように育って、どのような人生を歩んできたのか見て、聞いておく必要があるんです……」 「聞くだけでいいと思うんだけどなぁ……じゃあ、ちょっとだけ離れてて」 オレオはため息をついて、自動販売機に硬貨を入れて、一本のペットボトルを買った。そのままそれを公園の中央に置くと、50mくらい離れると――― 「…"でんじは"」 すぅっと右の前肢を前に突き出して、微弱な電気を流した――つもりだったのだろうが、バリバリと凄まじい轟音を立てて、"10まんボルト"ぐらいの稲妻がペットボトルに直撃して、ペットボトルは中の水分ごと蒸発して消え去った…オレオはそれを見て何ともいえないような表情をしてから、ミルクにもういいよといって手招きをして呼び寄せた。 「どう?これでも知りたいって言うの?………言っておくけどね、これ"10まんボルト"じゃなくて"でんじは"だからね……ここで"10まんボルト"なんて使ったら……公園が吹き飛ぶからね…僕自身にも分からない。僕自身の電気の力は未知数だ…だからリミッターを作ってもすぐに壊れちゃうんだ。僕の蓄電能力と放電能力が強すぎるとか何とか言ってた様な…とにかく、これが僕の電気」 オレオはばつの悪そうな顔をして、ミルクに今自分が放った電気の力と、これ以上の電撃を叩き込むと危険ということを伝えた。オレオとしてもこれ以上自分の電気を出したくは無かった… 「凄い電撃です…これは予想以上でした…でも、この力を……役立てることはできなかったんですか?」 「非常に博士らしい意見だね。確かにこの力、何かの役に立てようと思ったときはあった。それを実践したこともあった……でも、無理だったんだ…一度だけ僕の電気をフルパワーで流して、光学研究所の電気をまかなえないかって思ったポケモンがいたんだ…そのポケモンの名前は、ゼロ。凄く元気で明るいプラスルで、光学研究所の中でも最も熱心に研究に打ち込んでね…僕に初めて話しかけてくれたポケモンでもあった…」 オレオは昔を思い出し、懐かしむように遠い目をしてそういう話をした。ミルクは凄いですね。とだけ言って感心していたが、ふと思い出したように残りの自分の疑問をオレオに聞いた。 「あれ?でも、その実験は失敗したんですか?」 あたり、と、オレオはそういってから、何か嫌なことを思い出すように口を重くして話し出した… 「実験は失敗した。フルパワーで電気を流した瞬間に、機械が一瞬でオーバーヒートして壊れた。あまった電気は四方八方に飛び散って…研究所の主電源を破壊して―――ゼロの体を…ずたずたにしたんだ…」 静かに首を横に振って、オレオは重い息を吐き出した。まるで自分が世界の不幸を背負っているかのような、重く、暗い息だった。…話を聞いたミルクは…しばらく黙っていたが、やがて恐る恐る口を開いた… 「あの、まさか……そのゼロさんって言う人は…」 「死んだよ。体がばらばらになった後も電気を浴び続けて…灰すら残らなかった………残ったのは彼女の影だけだった…そのとき僕は深く後悔したよ。やっぱり自分の電気は災厄をもたらす危険な力だったんだって…こんな力を利用できないかなんて考えるんじゃなかったって…」 悲しそうな顔をして、暗い影を落とす。外はいい天気で、青空も見えるような今日の日に、オレオとミルクの間には拭えないような暗雲が立ち込めていた…… 「本当はさ、最初に僕は言ったんだ……危ないからはなれて窓ガラスから見ていたほうがいいって…この実験が失敗したらゼロもただじゃすまないからって……でも、彼女はそうしなかった…」 ふと、オレオはそんなことを言い出した。まるで語りだすように、まるで独り言のように。ミルクはそれを聞いて、曇りのない瞳をオレオに向けた。 「ど、どうしてなんですか?」 どうしてだと思う?などと冗談めかして言ってみたが、そういうことがあまり通用するポケモンではないということを思い出して、ごめん、と謝った。 「彼女は死ぬほんの数分前にこういったんだ…「近くにいたほうがより正確なデータが取れます。それに、危険だから、危ないから、そんな理由で友達と離れるのは嫌ですから…」………そのときゼロが言ってくれた言葉、僕は今でも覚えてるんだ…友達だって言ってくれた。こんな僕を…ね」 こんな僕を、そういってオレオは静かに上を向いて澄んだ青空を見上げた。真っ白な雲がぽつり、ぽつりと見える。ゆらり、ゆらりとながれて、世界はまわっているとわかる。 「でもね、ふと思うことがある、あの時、強引に彼女を放していれば、あの時、彼女の言葉に抗う力があれば…でも、僕はそれを出来なかった………彼女の気持ちに押し負けたんだ…でも、結果はこうさ。彼女はこの世からいなくなり、僕の胸にはぽっかりと穴があいて……それで…それ……で…」 喋ろうと思っても喋ることが出来なかった。小さくえずく声が聞こえる。オレオは上を向いて泣いていた。自分のしたことへの後悔。あの時ああしていれば、あの時どうしてこうしなかったんだろう…そんな気持ちが今のオレオの中にはあった… 「オレオさん……そんなに深いことがあったなんて……ごめんなさい。貴方のことを知りたいなんて、私、無神経でした…」 ミルクが申し訳なさそうな顔をする。何も知らずに聞いてしまった後悔と、聞かなければよかったという後悔。その二つがミルクの頭に消えようのない事実を突きつける。 「いいんだ。僕が勝手に思い出しただけだから……そうだね、ミルクは……ゼロに似てるんだ。誰とでも分け隔てなく接して、どんな時でも自分の気持ちをきちんと伝えて…自分の与えられたことに熱心に取り組む。そんな風だから、君とゼロの姿が重なっちゃったのかもしれないね…。君は少しでも僕と打ち解けたくてこういう話をしたんだよね……そんな気持ちを汲み取りもしないで…最低だな、僕」 「そんなこと!!」 ないですと言って、ミルクはオレオを見つめた。若干瞳が赤くなっていて、ミルクも泣いていたのだろうということが伺えた。他人のために泣いてくれることが、オレオには何だか新鮮に感じることが出来た。 「ううん。ちゃんと君の気持ちを知ることができなかったんだ…こんなんじゃ、友達になるにはまだまだだよ…」 オレオの口から自然に出てきた友達という言葉。その一言に過敏に反応したミルクはそのまま硬直する。 「ミルクのことも話してよ……友達だから……ね?」 オレオが精一杯の笑顔でミルクに微笑みかける。しばらく呆然としていたミルクは、潤んだ瞳を笑顔に変えて―― 「喜んで!!」 うれしそうに自分のことを話し出した… ---- ミルクは別にいじめられていたとか、体に何か不自由があるとか、そういうわけでもなかった。 特に変わったこともなく、両親に愛されて育ってきた普通のシャワーズだったという。 「子供のころからいろいろな科学書を読み解くのが好きで、外で友達と遊ぶことよりも家の中で本を読んで過ごしていたことが多かったです」 お恥ずかしいといってぺろっと舌を出すミルクの仕草はとてもかわいらしいものだった。 オレオはくっくっとくぐもった笑い声をもらした。 「面白いね。外で遊ぶことよりも読書が好きなポケモンなんて早々いないからね。そういう感性大事だと思うよ」 「他のポケモン達は変わり者って呼んでたんですけどね。私そういうことは気にしないんです」 けらけらと笑ってミルクは静かに空を仰ぐ。 何かを懐かしんでいるような顔をしているようにも見えるし、ほかのことを考えているような気もする。 そんな不思議な顔をしたミルクを見て、オレオはいろいろあったのだろうなと思った。 普通に生きていても、びっくりすることや、楽しいこと、いろいろな驚きに出会うこともあるだろう。 「その所為でしょうか、本の虫になってからはいろいろな科学知識を身につけて、それで一般常識よりも科学知識の方が博識になっちゃいまして。…それから周りの皆から変わり者から変人って呼び名が変わったんです。私はもちろん気にしませんでした。だって、そういわれても…」 「別に自分が変わるわけじゃないから?」 そうですね。と微笑を浮かべて、ミルクはオレオのほうを向く。 「何かが変わるわけではありませんから、私は私の感性を大切にしたんです。でも、ただ単に変人と呼ばれるのは何だか癪でしたから、どうせなら興味を役に立つことにしてみようと考えたんです…それが、今の博士号ですね」 成程、と、言ってオレオは頷いた。自分の好きなことを誰かの役に立つことに変えられるのならたいしたものだ。 自分にはそんなことすら出来ないのに、などと思ってオレオはしょんぼりと下を向く。 それを見たミルクは慌てて話の軸線をずらした。 「ほ、ほらでも博士号でもそういう類の職業につくことは出来なかったんです!!えっと、一般常識が全く出来ていなかったというのも事実ですし、それに」 「気を使わなくてもいいよ。いまさら僕のことを考えても始まらないしね……興味がある話はいつまでもご飯の種に、面白くない話はいつか記憶の片隅から抹消される…ミルクの話は興味がある話だから…続けてくれないかな?」 そういわれてほっとしたのか、それとも安心したのか、はたまたそういうことをひそかに望んでいたのか…ミルクは一瞬だけ気遣うような顔をして、嬉しそうに話を続けた。 「は、はい!!えっとですね。それで私は結局あまり頭を使わない単純作業の水力発電所に就職したんです。一応機械とかは頭脳労働かもしれませんけど、その、何と言いましょうか…私は機械に触らせてもらえなかったんです…」 思わず何で?と聞き返したくなるくらいの言葉だった。 先程のミルクの会話を聞く限り、ミルクの頭脳は本物だ、分からないものでも一度見れば大体の操作方法や見当はつく。 しかしミルクはそういう過程を全てすっ飛ばしても操作することが出来るかもしれない、要するに機械を動かすのは慣れの問題だ。 博士号をとるほどのミルクの頭脳なら記憶力もいいはずだろう…ゆえに、疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡った。 「私は機械を触らせてもらえない理由があったんです…私、水が出せないんですよ……ほとんど…」 意外な事実を聞いたとき、オレオはしばらく硬直して、徐々に暗くなっていくミルクの顔をまるで遠くにいる人のように見つめていた… ---- 水が出せない。正直に言ってしまえばかなり深刻な問題になるだろう…泡吐きポケモンといわれるように、シャワーズというのは水を吐くポケモンだ。 使いようによっては毒や氷といった型破りな技も使えるのだが…やはり主力の攻撃は水だった。 しかし目の前のシャワーズ、ミルクはこういった。 自分は水を出すことが出来ない… 「雀の涙程度なんです…ほんの少しだけ。申し訳ない程度にしか水が出なかったんです…」 ミルクの顔はとても静かで、見ているだけで引き込まれそうだった。 「……ミルクは、身体障害者ではないっていってたよね」 こくりと頷いたミルクは、静かに息を吐いて、昔話を語るような感じでゆっくりと言葉を紡ぎだした。 「はい。特にオレオさんのように身体に異常な力が宿るとか、そういったことはないんです。ただ単に親の遺伝でそうなってしまったんです…私の親は、余り体を動かそうともせずに、部屋の中で内職をして過ごすほうでしたから、次第に強いわざを使おうという神経が弱まったのかもしれません。もちろん、親はそれに後悔しませんでしたから…でも、私は後悔しました…」 ミルクは一呼吸おいて首を左右に振る、体をゆったりと動かしてリラックスしてから、途中で中断していた話の続きを話し出す。 「水力発電所は体も使いますから。特に、水を使う仕事が多いんです。仕事はまちまち、研究もありました。でもその研究も、水を使って機械を動かせるかとか、そういう類のものでしたから…」 「水を出せない君は論外だったってこと?」 そうですね、とだけ言って苦笑したミルクの顔はどことなく寂しそうで、ほって置いたらそのまま消えてしまいそうだった… 「水を出せないから第一研究に参加できないのはとっても寂しいし、悔しいんですけど…でも、私は絶対に諦めませんよ!」 ぎゅうっと握りこぶしを作り、ミルクは快活に笑う。 自分のマイナス要素を後ろ向きに考えるのではなく、前向きにどうにかしようという前向きな発想だった。 こんな発想、僕には思い浮かばないな… 「技やエネルギーの研究や実践、いろいろな試行錯誤して、絶対に水をもっといっぱい出せるようにします!!そうすればきっといろいろなことができるようになります!」 熱っぽく語るミルクの顔はキラキラと輝いていて、本当に水が出せないポケモンなのかということを錯覚させるような、それはそれは生きた顔をしていた。 そんなことを考えながらベンチの近くにあった噴水に移った自分の顔を覗き込む。 疲れているのか、それとも絶望しているのか、瞳に光が入っていない。まるで死人のような顔をしていて、思わず吐き気を催してしまった。 「……大丈夫ですか!?オレオさん、何だか疲れてるみたいですけど??」 心配そうなミルクの顔が自分の瞳に入ってくる。 今の自分にはまぶしすぎる存在だった… 「羨ましいよ……君の性格が…」 「…今の自分がお嫌いですか?」 問いかけられて、押し黙る。 今の自分が嫌いといわれれば、確かに嫌いだ。 今の自分は何が出来るというのだろう?何も出来ない、何もすることがない。 自分の電気を役に立てないかと考えていたときも、心の底で多分無理だろうという諦めの気持ちがあったから、あんな事故が起きたのかもしれない。 そう思えば思うほど、自分という存在が嫌になってくる。 「今の自分がお嫌いなら、どうすれば自分を好きになるか――」 「…それは無理だと思うよ…現に僕がこんな根暗な性格なんだから…」 「ではなく、どうすれば周りに見てもらえるようになるのかを考えてみてはいかがですか?」 先に答えを言ったつもりなのに、まったく違う答えが返ってきて驚愕する。自分を好きになるわけでもなく、誰かに認めてもらえるようにするわけでもなく…どうすれば自分の存在を見てもらえるようにするのかという言葉を、ミルクは言っていた。 「え?でも、僕は一応皆に存在は知られているよ?悪い意味でだけど…」 頭にはてなを浮かべてそういうと、ミルクは何だか頭の悪い子供でも見たように深いため息をついた。 どうやら不正解のようで、心なしか尻尾もぴしぴしと撓っている。 「え?違うの??」 思わず聞き返すと、今度は吹きだして笑い始めた。 なにやら尋常ではない表情の変わりようを目の当たりにして、何だか隣で笑いを堪えているシャワーズが本当に心配になってきた。 「くすくす…ち、違いますよ…オレオさん、貴方は一度でも貴方をちゃんと見てくれているポケモンに会えましたか?…貴方の親友のポケモンと、あの所長さんと、私を除いたポケモン達の中で、貴方に進んで話しかけてくれるポケモンを見ましたか?」 笑いながら言われても、それをいわれて考えた。 誰もいない、話しかけてくれたポケモンなんて、無に等しかった。 話しかけられたことがなかったわけではないが、あくまで仕事の打ち合わせや、実験の準備の手伝いの話などで、話しかけてきてくれたポケモン達はすぐに用件だけ伝えて逃げるように自分のもとを去っていった… それを考えると、確かにまともに見てくれたポケモンはいないし、私情で話しかけてくれたポケモンもいなかった。 「思い浮かばないのは、オレオさんが極端に他人との接触を避けているからですよ…私は別にそれを悪くは言いません。ですが、そんな風に言われっぱなしなのがとても苦痛になったり、陰口を叩かれていらいらしているというのなら、自分のことを相手に認識させればいいんですよ。ちょっとした実験で成果を上げたり、誰かの役に立つことをしたり、昔のオレオさんがやっていたことと同じことですよ。一度の失敗で諦めないのは研究者の心だと思いますし…それに、オレオさんはとっても優しい方ですから、きっと皆分かってくれますよ♪……私、何か間違ったこと言いましたか?」 疑問形で尋ねられて硬直する、正論だ、間違ったところのない、まっすぐな正論。 そういわれて、今までの自分を見つめなおす。 他人を拒絶して、自分をわかろうとするものしか会話をしなかった… 「そのためにも、まずはオレオさんの電気問題を何とかしないといけませんから…頑張りましょう!!」 そういって手を差し出すミルクの顔は、希望に満ち溢れていた。 ぎゅっと手を握って、ちょっとだけにこりとして、自分の意思表示をする。 「よろしく、ミルク。たよりにしてるね」 「ええ、頼りにしていてくださいね♪」 ちょっぴり自信過剰なのも、彼女なりに元気付けてくれたのだろう、自分もそれに答えるために、全力を出さなければいけない… この問題を解決できるのは、自分だけだから… ---- 「おはようございます。所長、僕とミルクで実験をしたいので実験室をお借りしてもよろしいでしょうか?」 自分の声は物凄い濁声だなぁと思い、自分の声が益々嫌いになった。 昨日ミルクと一緒に頑張るという約束事をして、握手を交わしたことが頭のふちに残っているのか、今朝からそんなことばかりが頭に浮かぶ。 「おお、今日はやるきだなぁ、私は一向に構わんよ。好きなだけ実験室を使うといいだろう」 「ありがとうございます!……オレオさん、頑張りましょう!!…この問題を解決できるかどうかは…」 「自分と、それに自分がこの病気みたいなものを治したいっていう気持ち…でしょ?」 よく出来ました、といわんばかりの笑顔でミルクが首を縦に振る。 笑顔がまぶしすぎて見れないという気持ちもあるが、それ以前に自分にここまで協力してくれている外部のポケモンがこんなにやる気を出してくれているのだから、その気持ちにこたえなければいけないというプレッシャーも体に纏わりついて、まともにミルクを見ることができない気持ちが何だか嫌になる。 頑張るしかないのに、やるしかないのに、どうしてもゼロの影とミルクの影がぶれて移ってしまう。 「いきましょう、まずは実験して、そこからオレオさんの電気がどんな程度のものなのかもう一度再確認してみたいんです」 にこやかに微笑むミルクを尻目に、オレオは目を見開いてミルクを凝視していた。 ――えっと、がんばろう!!オレオの電気の程度が分かれば、きっと抜け道が見えるはずだから!!―― 「ゼロ…」 「えっ?」 はっとしてミルクを見た、不思議そうな顔をして自分を見つめている。 ミルクが言っていた言葉と、ゼロの言っていた言葉。 どちらも同じような言葉を、同じような口調で、同じような顔をして言っていた… どうしても意識してしまう、考えないようにしても二人の姿が重なって―― ――あのときの悲劇がよみがえってしまう… 「大丈夫ですか?顔色が悪いですけど?」 頬にぱしゃっと水が当たる感触がする、気がつくとミルクの手がぺたりと自分の頬に当たっていた。 「あ、ああ…大丈夫だよ…」 苦笑いをして頭の中を空っぽにする。 いつまでも昔の失敗を気にしていてはいけないんだ…前に、前に向かって進まなくては… 「じゃあ、いきましょう…」 「うん、分かった」 いろいろな音が聞こえる廊下を二人で歩く、電気がバチバチと光る、いろいろな光が明滅する… そんな摩訶不思議な廊下を歩いて、最近自分がいた薄暗い牢屋のような実験室に辿り着く。 「着いたよ。ここが実験室…何をするつもりなの?」 「えっとですね…これを使って、オレオさんの電機の強さを測ろうと思います。ほら、公園で見せていただいたペットボトルでは測りようがありませんから…」 ミルクはそういっていろいろなものを取り出した、アルミ、スチール、鋼鉄、鉛、ほとんど金属物質で、中にはオレオの見たこともないような金属がごろりごろりとミルクの鞄から出てくる出てくる… 「ミルク、これは何なの?」 「合成金属です、いろいろなものを機械を使って混ぜ合わせた金属で、装飾なんかにも使われるらしいですよ?」 「詳細は分かってないの?」 「はい、これは協力を要請されたときに発電所の同僚から役に立ててといわれて渡されたものなんです…」 「そっか、わかった。…で、何をすればいいの?」 一頻の金属を眺めて、ミルクに問いかける。 ミルクはあごに手を当てて、少しだけ考えるような顔をする。 言葉を選んでいただけなのか、やり方を考えていただけなのか、すぐに自分のほうを向き直ると、実験の内容を説明しだした… 「今から耐久制度の弱い順から順繰りに金属物質を置いていきます…オレオさんはそれを全力の電撃で破壊してください。一撃で壊れれば失敗、僅かでも物質が残れば成功です。…いきますよ?」 「分かった…いいよ、ミルク…金属物質を置いて」 静まり返った実験室で、息を吐く音だけが響く。 「では、最初はアルミから…」 ミルクがアルミを床に置く、すっと静かに自分の後ろに隠れる。 すぅっ、と、息を吐く音が聞こえたような気がした、深呼吸、静寂が訪れようとする部屋で―― 「"かみなり"っ!!!!!」 ――凶悪な電撃が部屋全体を照らし出した… ---- 「白金……完全消滅!!」 「次!!」 「チタン…完全消滅!!」 「次!!」 「合成金属………完全消滅!!」 次々と置かれる金属を片っ端から消滅させるのは何ともいえない気分になってくる。 もったいないという気持ちもあるが、この実験室が耐え切れるのかどうかという不安も沸いてくる。 こげたにおいと金属を溶かしたときに出る異臭が鼻の感覚を麻痺させる、ミルクも鼻を押さえながらどんどん金属を置いているが、その顔はとても辛そうで、見ていて気持ちのいいものではなかった… 「最後です…ダイヤモンド!!」 「"かみなり"っ!!!」 最高で最強の高度といわれる純度の高いダイヤモンドを置いて最後といったミルクはそそくさと自分の後ろに退散する。 どうしてミルクの友達がこれだけ純度の高いダイヤモンドを持っているのかよくわからなかったし、もったいない気持ちもした、あれを売っぱらえば半年は遊べるのになぁ… なんてことを考えているうちに、凄まじい電撃が拳大のダイヤモンドに直撃する。 一秒、二秒、三秒…どんどん時間がたっていく。 「五秒もった…もしかしたら…」 いけるかもしれないといおうとしたミルクの口が止まる。 六秒を過ぎたときから形が変形し始める、どろどろに溶けて、気泡が出る、最後はどんどん小さくなっていき…消滅した。 「ダイヤモンド……完全消滅……」 ミルクががくりと肩をおとして深いため息をついた。 結局、どの金属も自分の電撃に耐え切る素材はなかった。 これでは威力の図りようがないし、成程制御装置が悉く壊れるのも納得がいった、自分の電撃は計測不能のメーターを振り切ってもはや制御不能の領域に入っているというのを再認識した。 これが自分の感情が高ぶると勝手に放出されるのだから余計にたちが悪い、どうしたものかと考えていると、ミルクが低い声で小さく喋りだした。 「ごめんなさい…大口を叩いておいて何も分からないなんて……私、私…」 えずく声も聞こえ始める、やめてくれ、泣かないでくれ、まるで僕が悪いみたいじゃないか… あ、僕のせいでこんなことしてるんだから僕のせいか… 「いや、別にミルクは悪くないよ!!ホラ、僕のせいでこんなことしてるんだし、ミルクには感謝こそすれ悪くいう資格なんて僕にはないよ!!」 そういって宥めてみるけど逆効果みたいで、今にも泣き出しそうな顔をする、どうしようかと試行錯誤していたら―― ――何か、金属の異臭とは別の、焦げ臭い臭いが充満していることに気がついた。 この臭いは、何かが燃えている臭い… 「ミルク!!後ろ後ろ!」 ようやく気付いた、実験室の機械の一つが、燃えていた…生きとし生けるもの全てを焼き尽くす紅蓮の炎が、今まさに火の粉を振りまいている… 「ま、まずい!…ミルク!!炎を消して!」 「………」 燃える炎を前にして、気が動転していたのかもしれない、炎には水、そんな当たり前のことを口から出して、後悔するという気持ちが全くわかないのは無意識の罪だと思った瞬間だった… 「何突っ立ってんの!?ミルク!!"ハイドロポンプ"でも"みずでっぽう"でもいいから早く水を出して!!」 「…………み、"みずでっぽう"!!」 ぐっとお腹に力を入れて、思い切り水を吐き出そうとしたミルクの口から出たものは―― ――小さな泡、小さな泡が複数出て、一瞬で弾けて消えただけだった… 「……えっ!?」 「げほっ!!げほっ!!……う、うぅ…」 目を見開いて驚愕した。 水が出せないという話をようやく思い出して、はっとする。 目の前のシャワーズは、目に涙をいっぱいためて、ただ俯くことしかできなかった。 「ごめんなさい、ごめ…さい……ごめん…なさ………」 炎を消してといった自分の口を思いきり斬りとって捨ててしまいたい衝動が一気に襲い掛かってくる、ミルクのえずく声と、めらめらと燃える炎の音だけが実験室に反響する。 「あ、その、違…」 なんていえばいいのか分からない…何を言いたいのかも分からないままぼうっと突っ立っていることしか出来なかった。 炎が大きくなり、天井まで届きそうになったとき…結局最後に二人を救ったのは―― ――熱反応を検知して作動したスプリンクラーだった… 多量の水が降り注いで、燃える炎が小さくなっていく… 「何だ!?何が起こったんだ!??急に部屋の電気が消えたんだ――…お、オレオ…」 「また…またお前なのか?…またお前がやったのか!?」 「くそっ!!新しい機械の作成してたのに、また延長かよ!!」 集まってきた野次から罵詈雑言が飛んでくる。 無駄なことをするな、どうせやったって無駄なんだから、俺達の時間を返せ、疫病神め、出て行け、何もするな… 「………」 何もいえない、全部正解だ。 そうだ、結局自分が何をしようとも、こうやって周りの野次が飛んでくる、何をしようとしても、周りが嫌な顔をする… それでもまだよかった、ゼロが死んでからは皆が自分を避けていた、自分に近づいたら見境なく殺すなんてご立派な理由までつけて… 「ち、違うんです…私がやろうと言い出して…オレオさんは悪く――」 「いいんだ…ミルク、僕のせいだから」 「で、でも――」 「いいんだ!!……少しでも、ほんの少しでも、誰かの役に立てるって言う夢が見られただけで十分だよ…」 知らないうちに頬に生暖かい水の感触がした。 涙を流しても、スプリンクラーが全てを流してしまう… オレオはできるだけ顔をあげないまま…実験室から逃げるように消えていった。 ---- 「オレオさん、待ってください!!」 誰かの声が聞こえる。 多分知っているポケモンの声だろう。 だってさっきまで一緒にいたのだから… 振り向いて前を見ると、ミルクが心配そうな顔をして走ってくる、さっきあれだけひどいことを言ってしまったのにもかかわらず、自分のことを案じてくれているのだろう。 「オレオさん…オレオさんは、悪くないですよ!!」 「どうして君は……そんなことを言うの?」 何を言いたいのか分からないまま口にした言葉をミルクにぶつけると、ミルクは何を言っているんだというような顔をした。 「どうしてって、それは私のせいですから、私が無理に実験を進めたから、その、皆さんやオレオさんに迷惑をかけてしまって…」 君のせいじゃない…僕がここにいることが間違いなんだ…早春時に思ってしまった自分の頭の中は正しいのか、間違っているのか…その真偽すらも見分けられない。 「いや、ミルクのせいじゃないよ。僕が、僕がこんなことするからいけないんだよ…それに、実験をしても何も分からないままだったしね…」 それだけいってすぅっと消えるように数歩後ずさる、足を引きずる音が聞こえる。 「ごめんね、迷惑をかけちゃった。…一ヶ月もいる必要がなくなっちゃったね…バイバイ、ごめんね、本当にごめんね…」 まるで二度と会えないような別れの挨拶を告げて、自虐的な微笑を見せる。 実際、もう本当に会いたくない気持ちがわいてきた、嫌いになったわけじゃなく、思い出してしまうからだ。 自分が手にかけてしまった大切な友達のことを… 「違いますよ!!」 ミルクが声を張り上げる。 何が分かったのかと思ってぴたりと足を止める。 「違うって、何が?」 「ちゃんと分かったこともありますよ!!さっきはびっくりして考えれなかったんですけど、ダイヤモンドに電撃を当てたとき、ダイヤモンドが溶けたじゃないですか!」 「??」 本当に何がいいたいのか分からずに、ミルクのほうを向いて話を聞く。 「ダイヤモンドは炭素ですから、燃えるんです!!解けるのは物理的にありえない現象なんです!!だから、オレオさんの電気は普通の電気とは違う構成で作られている可能性があるんです!!」 「違う…構成?」 そうです、といってミルクは近づきながら話を進める。 「電撃を作り出す器官に何らかの異常現象があるというのなら、ダイヤモンドが溶けた理由も、感情が高ぶると電撃が出てしまう理由も答えが出てきます…だから、もう少しだけ実験を続ければ、きっと…きっと電気の正体が分かります!!」 「……それ、信じていいの?」 すがるような声を出したのは、まだ助かるのだろうか?自分は、もう誰かを傷つけることがなくなるのだろうか? ……そういう気持ちが、まだ残っていたからだ。 「私を信じてください!!誰かが体質のせいで差別視されることなんて…あってはならないことなんです!!」 ミルクが力強く声を出す、その瞳には諦めない心が灯っているようだった。 「…任せるよ…君が僕を信じてくれるなら、僕も、君を信じたい…」 目をそらしてしまったのは、やはり無理なんではないのかという気持ちが若干心の中に浮き出てしまったという気持ち。 でも、すぐにそんなことを振り払う。 「任せてください!…でも、この研究所では出来ないということがよくわかりました」 「え?」 「ここは差別と軽蔑の固まりです…私はこんなところに居たくありません…」 差別、軽蔑、そんな言葉を聞いて思い出してしまった、さっきの自分の言葉はあきらかな侮蔑の言葉に認識される言葉だった… 頭で考えるより先に言葉が出る、一言―― 「さっきはごめん!!」 「先程?」 「君に、ひどいことを言ってしまった…」 水を出せないと初めて聞いたときは、ほぼ嘘だろうと思ってしまった。 しかし、実際に水を出せないところを見て、自分がどれだけ無茶なことを言ってミルクを困らせたのかがよくわかった。 「いいんですよ。実際に見てもらわないと、自分の言葉は信じられませんから…オレオさんの電気と同じです」 そういって笑った顔には、恨み言の一つもない屈託のない笑顔がそこにあった。 「……ありがとう…」 「私は気にしてませんから…所長に遠くに行くことを申請しに行きましょう!!」 「遠くって…どこに」 ここから離れて研究を続けるとしたら、それなりの設備があるところに行かなければ行けない、どこに行くのかも分からなかったために、思わず聞いてしまった。 それを聞いた彼女は、明るく、屈託なく、ハッキリと―― 「病院です」 そういった… ---- 病院というのは、結構な場所にあった、電車を乗り継ぎ、バスを使って、更にそこから徒歩で歩き続けるというなんか修行僧が行きそうな場所にあったけど、周りはビルや家だらけだし、少なくともこの表現は間違っているな。 所長に許可をもらって、皆に迷惑がかからないような場所で自分の状態を治すという理由で、ミルクに導かれるようにこの場所にやってきた…が、 「熱い、めちゃくちゃ熱いよこの場所…太陽が、熱い…」 「大丈夫ですか?このまま進めばもう少しでつきますよ…あ、ホラ、見えてきました」 そういわれて上を見上げると、それはまた立派な病院が建っていた。 「ほんとに病院だったんだ…」 「ほんとにって、何だと思ったんですか??」 ミルクが苦笑して病院の入り口のドアに手をかける、この場所を知っているということはここにきたことがあるということだろう。 「こんにちは、フェリアさん、レイス先生はお元気ですか?」 ミルクが親しげに話しかけた相手を見ると、受付でにこやかに微笑んでいるラッキーがミルクの姿を肉眼で確認すると、落ち着いた声で答えた。 「あら、ミルクさん。久しぶりですね、一年ぶりでしょうか?…私は元気ですし、先生もかなり元気ですよ。何でも気に入った患者さんが二匹ほど現れたとか何とか…」 「へえ、私以外にもお気に入りが増えたんですね、それはそれでちょっとごめん蒙りたいんですけどね…ははは…」 ミルクが乾いた笑いを出して、フェリアと呼ばれたラッキーもにこやかな笑みを浮かべた、数回雑談を交わして、本来の用件を伝える。 「えっとですね、今日は後ろにいるサンダースさんの体を見てもらおうと思いましてですね…体の内部構造が分かる先生って私ここ位しか知らなくて…」 そういって恥ずかしそうに俯くと、フェリアさんは笑って電話を取ってくれた。 「ふふ、いいですよ。少々お待ちください、呼んでみます……………あ、もしもし、先生?はい、はい、ああ、そうですか、え?あ~、はい、分かりました…」 何を聞いていたのか非常に気になるところだが、電話の声はよほど相手が大きな声で喋らない限り聞こえない。受話器を置いてフェリアさんは穏やかな笑みを崩さずに、ぺこりと頭を下げた。 「ごめんなさい、先生は今ちょっとアレな状態ですので、そちらから向かってもらえませんか?」 「あ、成程、納得」 何がなるほど納得なのか自分にはさっぱり分からない、いったいその先生というのがどのような人物でどのような感じのポケモンなのかちょっとだけ見てみたいような衝動に無性に駆られたのは黙っておいた。 「ねえ、ミルク、その、アレな状態って何なの…?」 オレオは何だか言いようのない不安がまとわりついたような感じがして嫌な顔をする。 それでもミルクは大丈夫だといった顔で任せろといわんばかりに瞳を爛々と光らせて、オレオの肩をばしばしと叩いた。 「大丈夫です!!安心してください。先生は性格は変なんですけど、医療の腕は本物ですから!!大船に乗ったつもり――は無理ですか?」 先程の会話内容と、ミルクの言った言葉をよくよく吟味しても、泥舟に乗った気分にしかならない。 「でも、一応いっておくけど僕は病気なんかじゃあないからさ…その辺分かってるよね??」 「もちろんです。オレオさんの体を調べるだけですから、すぐ終わりますよ」 そういってえへんと胸をそらすミルクの顔を見て、オレオは何か釈然としないものを感じた。 この病院の設備はいいほうだろう。 綺麗に清掃された内部に、患者さんたちの顔を見れば分かるほど、笑顔が満ち溢れている。 患者に笑顔が溢れる病院というのはなかなかないものだ――が、 「なんだ?…この、全身に走る悪寒は…?」 非常にぶるっとするような感覚が、病院の奥、診察室とかかれたプレートがぶら下がっているドアの向こうから流れているような感覚がして、オレオは身震いをする。 「大丈夫かなぁ…」 「とにかく行ってみれば分かりますよ…さぁ、いきましょう」 ミルクに導かれるように、オレオは診察室に向かっていく。 何が待っているのか、というか何をされるのか… 不安を抱いたままオレオは診察室の扉をノックした… ---- 扉の向こうは…異世界でした… 「何だ?これ??」 診察室の中はとても綺麗に清掃されていていた、特に変なものもないし、何より花が飾ってあったりとお洒落心もはいっている。 周りには試験管やビーカーなどが置いてある、診察室というよりは理科実験室というのが一番しっくりきそうな部屋なのかもしれない… その部屋の、真ん中で、一匹のゲンガーが座っていた。 白衣を着ているということはこのゲンガーが先程二人が会話をしていた先生とやらなのか。 「あの~…」 「………」 「先生、寝てるんですか??」 ずかずかと入り込んだミルクがおもむろにぺしぺしとゲンガーを叩いた、それはもう遠慮という言葉を知らないかのように豪快に、遠慮なく。 「………頭を叩かないでいただきたいですね、ミルク君…新薬品の調合が延長してしまいますよ…」 そういってゲンガーは静かに微笑んで、また何かをする作業に戻った、ミルクはこれは失礼といった顔をして、静々と自分の隣まで下がっていった。 臭いたつ何かが凄く嫌な感じの空気を作り出す、あのゲンガーは一体何を作っているのだろうか… 「あの、何作ってるんですか?」 新しい薬を作っているということはさっき説明をしていたのだが、どうしても聞いてしまう、臭いにおいなどではなく、なんと表現しようにも表現の仕様がない臭い、しかし長時間かいでいると何だかぼうっとしてしまう。 少なくともよいにおいではないだろう… 「ヒヒヒ、これで完成です…新しい風邪薬の…」 風邪薬かよ、などと突っ込んでみたかったが仮にもここは病院、命の生死をかけた患者さんも数多くいるなかで、自分がこんなに馬鹿げたことを言っていては他の人たちに迷惑がかかるだろう…突っ込みたい気持ちをぐっと堪えて、静かにこちらを振り向いたゲンガーに対して会釈をした。 「こ、こんにちは、突然の訪問をお許しください…………………」 「どうも、レイス先生。お久しぶりです。その節では大変お世話になりました」 ミルクはやはりこの先生を知っているかのような若干砕けた口調でぺこりと頭を下げた、レイス、と呼ばれたゲンガーは自分とミルクを交互に見て、下を出してケケケッと笑った。 ハッキリいっておこう、めちゃくちゃ怪しいぞこの先生… 「ヒヒヒ、お久しぶりですねぇミルクさん…貴方とはまた会えるような気がしましたからね…ヒヒヒ、今日はどういうご用件でしょうか?私に出来ることなら何でもいいですよ、まぁ、あくまでも"出来る範囲"のことですからね…」 何か怪しい黒魔術の儀式のようなポーズをとって体をくねくねさせてこっちを見ている、医療の先生にしては何だか不思議な感じがするポケモンではあったが、どことなく憎めなさそうな先生だった、あくまでも自分の考えだから、他の患者さんがどうなのかは全く知らない。 「大丈夫ですよ、レイス先生の分かる範囲のことですから、実は…」 何の変化もなくミルクはちらりと自分を一瞥する、どうやら本題に話を持って言ってくれたようだ。 「私の隣にいるサンダース…名前はオレオさんといいます。そのオレオさんが、自分の電撃がコントロールできないというそうなので、もしかしたら体内に異常があるのではなくて、電気を放出するからだの器官に異常があるのかもしれないと私はにらんだんです。そこで、内臓器官の詳しい先生ということで、レイス先生を訪ねた所存なんですけど…」 レイス先生は一通り話を聞いた後に、ふむふむと頷いて、どこからか取り出したぐるぐるめがねをかちゃりとかけた、これが意外に似合っている、というかかわいいかもしれない… 「なるほど、私もわかるとはいってもエスパータイプのポケモンではありませんからね…完璧に内部器官を探るためにはエスパータイプのポケモンを呼んで来る必要がありますねぇ…サフラン君~サフランく~ん…かっこ可愛いレイス先生が呼んでますよ~」 病院放送の真似事をして大きな声を張り上げるレイス先生の姿を見て、自分は本当にこの先生に任せて大丈夫なのだろうかという妙な不安に駆られた。 「…うるっさいです!!!耳障りな音を心の中に響かせないでください!!患者さんに心配されちゃったじゃないですか!!」 そういって大きな声を張り上げて、診察室のドアを開けて、二匹のポケモンが入ってきた。 二匹ともナース服を着ている、病院で働いているという証拠だろう、そして、二匹とも自分達により近い存在だった。 ブラッキーと、エーフィ。 黒と薄紫の固まりが診察室の扉を開けて入ってきたのだ。 「レイス先生、何か僕も強制的に連れてこられたんですけど…僕の病気が治っても、僕、夜型じゃなくて朝型なんでちょ~~~~~眠いんです…ぐぅ」 ナース服を着たブラッキーはそういってうつらうつらと頭を左右に揺らしながら。眠そうな赤い瞳をこしこしと擦って、ふぁ、と欠伸をして両目をとろんとさせた。 雌なのか雄なのかはっきりわからない…どっちなんだろう? 「ラプサン、君は身代わり、僕だけ呼ばれるなんて不公平だろ、だから君も一緒に来るのが筋なんだ――って、患者さん??」 「ええ~?そ~んな理由で僕の睡眠時間を削り取ったの~?やだよぅ、眠いよぅ…ぐぅ」 「働け給料泥棒!!」 すでに眠りそうだったブラッキーをべしべしと叩いて起こすエーフィを見ていて、こんなに乱暴なナースがいていいんだろうかという軽い疑問が浮かんだ。 痛い痛いといいながらちょっとだけ瞳に涙を浮かべているブラッキーを見て、奇妙な違和感を感じた。 このブラッキー…何だか嫌な感じがする… 本の些細なこと、棘やささくれが刺さるような感覚だったけど、何かが嫌だった。 なんてことを考えていたら、レイス先生がぬらり、と立ち上がり、音も立てずにすこぶる不機嫌そうなエーフィの耳元に歩み寄った。 「サフラン君、落ち着いてくださいね…ヒヒヒ、気分のよくなる呪文を唱えてあげましょう…ウンドランゴラスプスペチャロクライア――ぶべらっ!!」 「耳元でぼしょぼしょぼしょぼしょ変な宇宙語を喋らないでください!!気持ち悪いです、臭いです、ウザいです!!!!」 いきなり耳元に詰め寄られて耳元でなにやらわけの分からない言葉を囁かれたエーフィは、全身の毛をじょわりと逆立てて思い切りレイス先生の顔面に裏拳を叩き込んだ。 「ふぐ、不覚、ヒヒヒ。なかなかパンチの速度が上がってきていますね…サフラン君…ヒヒヒ」 「私にかまう暇があったら、患者さんを診てください…いつまでも待たされるのは、嫌なことです…」 そういって少しだけ顔を下げて、悲しそうな顔をしたエーフィは、ふいとそっぽを向いてしまった、レイス先生はのろのろとした動作で立ち上がると、やはりのろのろとした動作で椅子に座って不敵な笑みを浮かべた。 「ええ、そうするつもりでしたけど、サフラン君の機嫌が悪いのでは診察が出来ませんねぇ…私は内部器官を詳しく見れるわけではありませんから、まぁ、切開すれば分かりますけどね…」 「せ、切開!!?」 思わずお腹を押さえてぶるるっと身震いをする、なぜ診察のためにそこまでしなくてはならないのか…そんな恐ろしいことをするくらいなら自分は一生この体の状態のままでいいと一瞬だけ思ってしまった。 「患者さんの不安を煽るのはやめてください…僕を呼んだ理由はなんとなく分かりましたから…思念波で体の中を見ればいいんですね…ちょっと待ってくださいね…」 「ねぇ、僕必要なくない??」 ぼそりと呟くブラッキーの声を聞いているものはほとんどいない、診察室にりぃん、という音が響いてサフランと呼ばれたエーフィの額の宝石が妖しく輝き始める… 「痛くないですからね、力を抜いてください…」 そういわれて、こくりと頷いてから、ゆっくりと体の力を抜く。 とうとう自分に何が起こっているのか、知るときが来た… ---- 「ゆっくり息を吸って、はいてください…はい、そのまま動かないでくださいね…」 まだ幼さが残るようなソプラノの声を出して、サフランはオレオの体をすっと触っていく…決してやましい視線を送るのではなく、何か場違いなものに難色を示すような瞳で首を捻りながらオレオの体を弄る。 「んっ、くぅっ…」 「大丈夫ですか?もしかしてどこかが痛むとかですか?」 「い、いえ、くすぐったいだけです…」 「そうですか、診察を続けますね」 オレオの大丈夫という言葉にこくりと頷くと、サフランは再び神経を集中させてオレオの体を調べ始める、それはまるで壊れやすい宝石を扱うように…ゆっくりと、丁寧に… その何ともいえない妖艶な仕草に、オレオは生唾を飲んだ、同種族の女の子というのが自分の周りにはいないことと、サフランが無意識のうちにはなっている女性の色香を受けていることが、殆ど女性との繋がりが無かったオレオの心を刺激した。 別に女性関係が無かったというわけでもない、ゼロは女性だったし、ミルクも女性だ。 しかし、そういう雰囲気になったことなどはなかったし、何よりも自分の体のことを案じて心配してくれていたポケモン達ばかりだったので、恋愛などのそういう感情には発展していなかったのだ。 「……?どうしたんですか??私をじっと見ていますけど…顔に何かついていますか??」 サフランにそういわれて、慌てて首を横に振る、いえるわけが無いだろう、貴方に魅了されていました…などと。 「オレオさん、何だかでれっとしていませんか?」 ミルクはそういって、きつい視線で僕をねめつけてきた、見ただけで身震いがしてしまった、女の子は怒らせないようにしようと思っていたのにこんなことになっていた、これは無い、もう何かあんまりって感じだった。 「でれってなんか、し、してないよ」 「嘘ですね」 凄い剣幕でびしりと突き刺さるような一言を叩き込まれた、そういえばゼロにも嘘や隠し事は通用しなかったなとしみじみと思っていると、ミルクがぎろりとにらまれて心が縮小した。 「オレオさん、サフランさんに見とれていたんでしょう!?…そ、そりゃあ、私はサフランさんみたいに美人じゃありませんし、スタイルもよくありません…その、お、おっぱいとか……で、でも、仮にも体を見てもらおうという心がありながら、そんな卑猥な気持ちで頭の中をいっぱいにするなんて――」 「診察中です、静かにしないのなら、お連れの方の舌を切りますよ?」 喋っている最中に急にひんやりとした声が聞こえるかと思ったら、僕の体を診察してくれていたサフランさんが物凄い剣幕でミルクを見ていた、それはそれは、ボスゴドラも裸足で逃げ出すような顔だった。 「ご、ごめんなさい…」 急に萎縮してぺこりと頭を下げると、ミルクはそれきりで黙り込んでしまった。 診察室には、時計の針がカチコチと進む音、その部屋にいる全員が息を吸う音、サフランの指先がオレオの体の毛にふさり、とかぶさる音だけが聞こえた。 どれだけ時間がたったのか、それとも一瞬が永遠に感じられたのか、何事もなかったかのように診察を終えたサフランは、しばらく訝しげな顔をしていたが、やがて決意をしたかのように静かに瞳を細めて、 「オレオさん、貴方の体の中に――」 「……」 黙って聞いていた、何が飛び出しても驚かない勇気を持っていたつもりだった、しかし、次にサフランさんの口から出た言葉は、自分の予想の斜め上を行くものだった… 「体の臓器の一つに……見たこともないウィルスが付着していました…大きさからして、一週間やそこらからついたものではないでしょう……恐らく、もっと前、そうですね…少なくとも二十年…もしかしたらそれ以上前から付着していたのかもしれません…」 いきなりそんなことを言われて思わず瞳を丸くした、それはそうだろう、二十年前は自分など存在していないのだから… 「ちょ、ちょっとまってくださいよ!!僕は今年で十六ですよ!?二十年前って、そんな馬鹿なこと……」 「ない、と言い切れますか?そうですね、遺伝という形ならそのウィルスは生き延びることが出来ますよ?たとえば、例を挙げるとするならば、貴方の母親が感染していて、そのまま貴方に全移転した、とかね…」 まるで魔法の言葉を聞いているようだった、そんなことあるわけ無いのに、サフランさんの放つ言葉にはそれらを納得させるような何かがあった… 「で、でも…そんな、母は何もなかったんですよ?どうして僕だけ…」 「どうして?そんなの決まっていますよ。オレオさん、私の話をよく聞いていたなら分かるはずですが、私はこういいました、見たこともないウィルスが貴方の中に入っていると…見たこともないウィルスということは、後退も対策も何もないということです、それが命に危険をもたらすのかどうかも分からないような…それなのに貴方は何の変哲も無く今の今まで生きていました…それはなぜだかお分かりですか?」 「いえ…………その、わかりません」 恥ずかしいことだが全く分からない…何が言いたいのか、それは何を意味するのか、自分の頭では理解が出来なかった… そんなことを考えていると、サフランさんがにこりと微笑むと、はっきりと透き通るような声でこういった。 「簡単ですよ…貴方の体と、ウィルスが、体内で共生のような現象を起こしたのです…おそらくオレオさんの電気が強くなったこと、その電気が異常なエネルギーを含んでいることなどは、ウィルスの影響によるものでしょう…」 そういっているサフランさんの言葉を、余り聞くことは出来なかった。 自分が、何かの病気に感染している…それも、見たこともないウィルスが体の中に潜んでいる… 自分の体は、一体どうなってしまうのだろう…… ---- 「このまま、病気をほうって置いたらオレオさんの体にどんな害が起こるかわかりませんので…しばらくはこの病院で様子を見たほうがいいでしょう…それでいいですよね?レイス先生…」 サフランはそれだけ言うと静かに立ち上がり、レイスに自分が今の今まで座っていた椅子を譲る。 診察は終わった、オレオの体の中に妙なウィルスがいるということが分かり、それが何なのか原因を突き止めること、それと同時に、その原因を完全に駆逐すること。 「そうすれば、僕の体は元に戻ることが出来るんですね!?」 期待を込めた意味で言ったつもりだったのに、帰ってきたのは何とも曖昧な返事だった。 「さあ?」 「ちょっ!!さあって何ですかサフランさん!?」 思わずいきり立ってがたりと立ち上がった、そんな自分の動揺などは何もかけずにサフランさんは次々と事の事態を進めるように喋っていく… 「治るか、治らないのか、それは本当に分かりませんが、こちらとしても最善は尽くさせてもらいますから、安心しろとまではいいませんが、せめて信じてはもらえないでしょうか??…患者さんと最も心を触れ合わせることができるのは、互いに信じあうことだけですから…そうでしたよね?レイス先生??」 サフランはよく通る声で一頻り喋った後に、ぎゅうっとオレオの手を握り締め、瞳を若干ウルウルさせて話しかけた後、硬直してあたふたとするオレオをそっちのけにして手を握ったままレイスのほうへと顔を向けた。 「ええ、その通りですよ。患者さんに信用してもらうには、まずお互いのことを知ることがありますから…リブ君も、ジェラード君も、サフラン君も、ラプサン君も、皆そうでしたからね…」 レイスは昔を懐かしむかのように遠い瞳をして窓の外を眺めた、そこには二匹のポケモンが病院の周りを散歩していた。 シルエットで分かる、グレイシアと、ブースターだ…。 二人はとても幸せそうな顔をして、ゆっくりゆっくりと散歩をしていく…病気が治ったらみんなあんな顔になるんだろうかという気持ちが若干だが心の中に少しだけ浮かび上がった。 「あの二人も奇病を患っていましてね、それはそれは治療が困難だったのですが、最後にはちゃんと病気が治って元気になりましたよ…」 「先生が見ると、皆治るんですか?」 思わずそういってしまった、レイスの姿を見る限り怪しさ大爆発だが、ミルクが信頼できるといった医者であることと、先程の二匹のポケモンの光景を見る限り、相当腕の立つ医者であるということはいくら頭が回らないオレオでも大体理解できた。 しかし、それを聞いたサフランとラプサン、そしてレイスはくすくすと失笑を漏らした。 「まさか、このヘンテコリンな先生がまじめに患者さんを治すと思っているのですか??」 と、サフラン。 「レイス先生はね~、男の子の患者さんはいきなりえっちな薬を塗って犯してくるんだよ~、最初は嫌かもしれないけど、えっちな事されてるうちに何だかどうでもよくなっちゃうんだよ~…そんな先生がまともなことすると思う~?」 と、ラプサン。 「ヒヒヒ…二人ともひどいですね…まあ、七割がた当たってはいますが…オレオ君、私は患者さんを治すつもりは毛頭ありません。私ができるのは患者さんの後押しをするだけ、病気を治すのは、オレオ君、君自身なのですから、私はただ、そのお手伝いをするだけです…」 ケタケタ笑いながらレイスがそういうと、ずれた眼鏡をくいっと押し上げる仕草をして、にたりと笑う、背筋がぞくりとして、ぞわぞわした感じが一気に背中を駆け抜ける、嫌な感覚というのはこういうのを言うのだろうか? 「え?ええっ??そんな…それじゃあお医者さんじゃなくないですか??」 思わず力なのない声を出して瞳を丸くする、ミルクはにこりと笑ってオレオの隣によると、耳元でこういった。 「いいえ、医療の腕は確かですよ、おそらく医学の世界ではレイス先生の右に並ぶポケモンはいないでしょうね……あ、オレオさんうそだぁって顔してますね。確かにあの出で立ちではそういう気持ちも分かりますが、しかしほんとのことなんですよ。…でも、どちらかというとレイス先生は心の治療が得意なんですよね。あ、オレオさんまた嘘っぽいって思ってますね、ですが、本当のことなんですよ、実際、レイス先生に救われたポケモンは多いですよ、…イーブイ系統のポケモンが多いんですけどね…」 益々混乱するようなことを言ったので頭が回らなくなってきた、医学脳ではとんでもなく凄いというのに、心の治療のほうが得意という、にわかに信じられない、そんな顔で目の前のゲンガーを見ていると、それはもう心の底から笑いましたといわんばかりの笑顔をこちらに向けて、レイスが咳払いを一つした。 「信じられないといった顔をしていますね、ヒヒヒ、ま、当然でしょうけど。ではよろしい、私の腕、得とご覧に入れましょう」 そういってとオレオの手をぎゅっと握って立ち上がると、レイスはずんずんと歩き出す、ゴーストタイプとは思えないほどの大きな足音、向かう先に集中治療室と書かれたプレートが無造作に横のほうにかけてあり、扉には"レイスの秘密部屋"と書かれたプレートがかけてある。 秘密部屋、いかにも怪しそうな雰囲気をかもし出す部屋の中に引きずられるようにして入っていったオレオは、入るや否や両手足を拘束された… ---- 「…あの、何で拘束するんですか?この行動に何の意味が…」 いきなり拘束されてオレオは不機嫌な顔をする、さすがに暴れることはしなかった、暴れようものならこの病院が半壊してしまうだろう。 いくら嫌だとしても、自分のせいで誰かが迷惑を蒙るというのなら、それは自分が成長していないという証拠になる。 「ヒヒヒ、それはもう、貴方が逃げないようにするためですよ、まぁ、貴方のことですから拘束を解いて逃げることも可能でしょうが、そんなことをしたら病院が半壊してしまい、迷惑がかかると思っているのでしょう…」 分かってるなら拘束を解いてくださいよといわんばかりに、オレオはレイスの顔をじいっと見つめる、レイスはそれに気がついたのか、にこりと笑うとこういった。 「拘束を解いて欲しいといった顔をしていますね…絶対に逃げませんか?」 「直してもらう側なのになんで逃げる必要があるんですか?そんなことをするポケモンは早死にしたいポケモンかマゾだけだと思います…違いますか?」 その通りですねと笑って、レイスが拘束を解き、自由になったオレオはちょこんとベッドに座った。 「逃げちゃダメですよ~」 「だから逃げませんって…それで、どんな治療をするんですか?」 「簡単ですよ、この薬を――」 「塗るんですか?」 先程のラプサンの言葉を考えて引っ掛けてみたが、レイスはその言葉に対して首を横に振った。 「全然違います…この薬を……飲んでもらいます」 塗る、では無くて、飲む…なにやら不思議な雰囲気の中で、レイスは一つの試験管を手渡した。 中にはなにやら透明な液体が入っている、透明といっても、淡いピンク色をしており、若干濁ってはいるが、綺麗な色をしていた。 「……あの、何で試験管に入れてるんですか?これちょっと汚いんじゃ…」 「汚くないですよ、失礼ですね。さ、とにかく飲んで飲んで」 嫌にニコニコしながら、というよりも、物凄くニヤニヤしながらレイスが飲めと催促する、何を考えているのかオレオにはまる分かりだったが、それに乗ってやろうという気持ちと、どんなことをするのか見てみたいという好奇心から、黙ってこくりと頷くと、ごくごくとその薬を一気に飲み干した。 「…?何も変化起きませんけど??」 「……そのうち分かりますよ…クックック…」 笑いを堪えてレイスがオレオをニヤニヤ見つめている、そんな風に患者さんを診て笑ってたら失礼じゃないのかなと思ったが、この先生に診てもらう患者さんはみんな幸せそうな顔をしていたため、この程度のことは許容しているんだろうかと思っていたら…急劇な頭のぼやけに思わずよろける…何が入っていたのかは今では分からないが、身体の動きを封じる薬の類であるということはオレオにも容易に想像ができた。 「っ…これ…は…?」 「若干からだの動きを封じる薬ですよ…私は……&ruby(・・・・・・・・・・){塗り薬は男の子にしか};使いませんからね…」 レイスが放った奇妙な一言に、オレオがびくりと反応する、まるで全てを見透かされているようなレイスの瞳を見て、小さく一言だけこういった。 「……気付いて…いたんですか?…」 オレオは力の抜けた腕を胸の辺りに当てて、呼吸を抑えてころんとベッドに横になる。 「僕が……いや、私が………女の子だってことに……」 見抜かれたのは久しぶりだな…そんなことを思いながら朦朧としたオレオの意識はぷっつりと途切れた。 ---- 別に男らしく振舞っていたわけではない、自然と男の子みたいになっていただけなのだ。 しかし、性別の壁は乗り越えることが出来ない、それだけはどうしようもないことだったが、オレオはそんなことをいちいち気にしてなどいなかった、男のほうがよかったなどと思ったことは一度も無い。 しかし、体が成長するにつれて、そうも言って入られなくなっていた。 自分は女の子ということを決定付けるように、胸にふくらみがついて、体格も男性のそれよりもほっそりとしたものに変わっていった。 そんなことは別段どうでもよかったのだが、それよりも厄介なことがオレオを締め付けていた、それは体の異常な電気……男ならまだしも、女がこんな異常にかかっていると、どんなポケモンも寄り付かなくなってしまうと考えていた。 オレオは考えた末に、自分が女ということを隠して社会に溶け込もうとした。 「オレオ君、君は今、なんと言ったかね?」 「すみません、所長。私が…いいえ、僕が、女であるということだけは黙っていてはくれませんか?」 「……理由を聞こうか…」 「迷惑をかけたくないだけです…それが理由では不服でしょうか?」 「……分かった…認めよう」 所長が多くを聞かなかったことはオレオにとってとてもありがたかった、自分の理由だけで自分が女であることを黙っていてくれたからだ。 しかし、もちろんの事だが感づくものもいた、ゼロが最初に自分を女であるということを見抜いたのだ。 「オレオ君は女の子ですね?…かくしてもわかりますから。オレオ君から漂う女の子独特の感じが、分かりますから……男の子のフリをしているのには何か理由が?」 「…………お願いだ、ゼロ、このことは誰にも言わないでくれないかな…こんな変な体質を持った女の子なんて……誰も好きになってくれるはずが無いから…」 俯いてそういうと、ゼロは何も聞かずに分かりましたというと、踵を返して自分の持ち場に戻ろうとして、ふと思い出したようにこう言った。 「私は余りお勧めはしませんけどね…いつかはばれます…それに、そんな風に隠していることが、オレオ君の体に負担をかけているように思います…」 ゼロの言葉を、今でも覚えている。 負担になるとはどういうことだろうか、それは自分に何かしらの負担になるということなのだろうか…いくら考えても答えは出なかった、ゆえに、そのことを考えることはやめた。 それから時間がたって、自分が女だということを誰にも気付かれないままだった。 「……うぅん…?」 目を覚ますと、先程自分が横になったベッドに寝転がっていて、掛け布団が一枚かけてあった、左のほうを見ると、レイスが静かな瞳で見つめていた。 「あ、先生…私は……どうなったんですか?」 「寝てましたよ。寝てる間にいろいろ調べさせてもらいましたが…」 そういわれた途端に思わず胸を押さえる、ふさふさの毛に隠れたむにゅっとした大きなマシュマロを自分で掴んで何だか空しくなった、スタイルはいいのだ、ただ単に体毛が多いため隠れているだけなのだった。 「別にやらしいことはしてませんよ。ただ単に唾液を採取させてもらっただけです…サフラン君が言うまで分かりませんでしたが、確かにオレオ君の体が異常だということがよくわかります。唾液にも微弱な電撃が流れています。この症状はかなりまずいと思われますね…」 唾液を採られたというのはびっくりしたが、まぁそこまで嫌なことでもないのでほっとしたが、レイスの言葉を聞いて訝しげな顔をした、唾液にも微弱な電気が流れている、それはまずいのではないのだろうか? 「何か心当たりはないのですか?本当にこんなことになるまで気付かなかったわけではないはずですよ、病気を患っている患者さんの異変にいち早く気付けるのは、その病気を患っている患者さんだけですからね……」 「それはそうなんですけど…子供のころは本当に異常が無かったんです、別に何不自由なく育ったんですけど、ちょっと前から自分の体が変だなって思い始める前までは、私は本当にこんな体なんて気付かなかったんです。」 成程、分かりましたといって、レイスはオレオの唾液が入った試験管を持ってサフランたちのところに戻ろうとした、それに気付いたオレオがレイスを呼び止めた。 「あ、ちょっと待ってください先生」 「はい?何ですか?」 くるりと振り返ってレイスが質問しろといわんばかりの顔をする、一呼吸おいて落ち着いてからオレオはこういった。 「あの、私が女の子ってことは、黙っててくれませんか?…たぶん、サフランさんは気付いていると思います…だって、体を透視されましたから…でも、ミルクは気付いていないので、その、…お願いします!」 頭を下げて言うと、レイスは少しだけ悲しそうな顔をしてから小さく頷いた。 「いいでしょう…」 「ありがとうござ――」 「しかし、それが貴方の体を苦しめているということが分かりませんか?」 ゼロと同じことを言われて硬直した、ごくりと生唾を飲んで、いつの間にか頬を伝う汗を拭って、レイスを見つめた。 なぜそんなことを言うのか?私が女であることを隠すだけで私の体を苦しめる? 「それはどういう意味ですか?」 「…そのままの意味ですよ。貴方は自分の体が女であることを快く思っていない、それだけでも体には負担がかかるというものですよ。無理に男のように振舞うことは、自分が女であるということを否定するようなものです…それは心にも影響します…私の推測ですが、貴方の病気は――」 「関係ないでしょう!!」 思わず大きな声を出してはっとする、レイスは目を丸くしてオレオを見つめていたが、まるで何事も無かったかのように元に戻ると、そうですかといって出て行こうとして、最後に一言、 「男のフリをするのはやめたほうがいいですよ…それは確実に貴方の体を蝕みます」 「関係ないです…そんなこととウィルスが関係するはずが無い…」 レイスが出て行った後も、オレオはそれだけを呟いた。 「レイス先生…彼女、じゃ無くて、彼の容態はどうでした?」 部屋から出てきたレイスを待っていたかのように現れたサフランがオレオの容態を問いかけた。 「よくないですね、彼女の、いえ、彼の容態はとても深刻です…言っちゃえば末期症状ですね」 めがねのずれを直してそう返す、何も知らないラプサンとミルクは二人を見つめてきょとんとするしかなかった。 ---- 病気を治すというのは、ただ医者に任せれば全てが解決というわけではない、治りたいという患者の気持ちと、直すという意志の強い力があって、初めて完治する病気もあるという。 オレオの病気もそのような類に入っていたのかもしれない… 「とにかく、病気を治すといった手前、治せないなんていったら張り倒しますからね、先生」 「まぁそうかっかしなさんな、サフラン君とラプサン君の病気は治したじゃないですか……」 「それとこれとは病気の類が違うじゃないですか…一刻も早く病気の治療をしなければいけないというのに、何で何もしないんですか?」 「…私にも考えがありまして――」 「先生の言うことは微塵も信じる気になれません」 サフランはついっとそっぽを向いて、少しだけ悲しそうな顔をする、そんな二匹を見ていたラプサンは、何事かと思いサフランにたずねた。 「何かあったみたいだね…何があったの?」 「先生の問題よ…あのオレオって子のこと、先生はほっといても大丈夫っていって何にもしようとしないの…本当にそれで治るなら、こんな病院たってないのに…」 「………」 ラプサンは何も言わなかった、レイスにもレイスの考え方があるのだろうということはよくわかっている。 以前、自分達が病気になったときも、レイスはしっかりと自分たちのことを見てくれていた、そのおかげで、病気が治った今は、自分達はどんな時でも自由に外に出ることが出来るようになった、それだけではない、サフランという、大切な友達にも出会うことが出来た。 そんなレイスの本当の姿を知っているからこそ、サフランは憤慨して、ラプサンは何も言わずにただことの顛末を見守るのであろう… 「安心してよ、レイス先生は患者さんを裏切るようなまねはしないから…それは一緒に働いてきた僕達が一番よくわかっているでしょ?…サフランの思うことはよくわかるよ、レイス先生の優しいところや、誰よりも命の大切さを知っているという姿を見たからこそ、今のあの先生が信じられないんでしょ?」 大体気持ちを代弁してくれたために、サフランは落ち着いたのかこくりと頷いた、ラプサンはにっこりと微笑むと、サフランの頭を優しく撫でる。 「大丈夫だよ、レイス先生はきっと考えがあってああいうことをしているんだよ…でなきゃ、患者さんをほうっておくことなんてしないからね…」 信じていますよ…レイス先生…きっと何かしてくれますね… 胸中でそんなことを呟いて、ラプサンはてくてくと受付のほうへと消えていった。 「本当に大丈夫なのかな?」 ひとり残されたサフランは、レイスの隣で書類の整理をする作業へと戻っていった… 「さて、と…やぁ、オレオ君…気分はどうだい?痛いところとか、気持ち悪いとかない?」 「大丈夫です…」 ラプサンは途中で外を見ていたオレオに話しかけた、オレオは生返事をして、虚ろな瞳で外を見続けた。 「重症みたいだね…何かあった、というよりも、こっちのほうのトラブルみたいだけどね…」 ラプサンは大体知っているといわんばかりにそういうと、すれ違った患者にぺこりと会釈をしてから、改めてオレオの方向に向き直った。 「この病院で一週間がたちました…」 「そうだね」 「この病院の人たちは皆良い人たちばかりです…」 「それはよかった…」 「それに設備もしっかり整っています」 「まぁ、病院が繁盛しているって証拠だね…おっと、この言葉は患者さんにとっては不謹慎な言葉の一つに入るかもね…これは失礼、失言だったかもね…」 かまいませんよといって、オレオは静かにため息をつく、その諦めたような憂鬱な瞳を見て、ラプサンは空笑いをぴたりとやめた。 「良い病院であるということは間違いないです…でも、その良い病院というところで、僕は一週間まともな検査も受けてもらえないのですけど、これは何かの冗談でしょうか?」 オレオの視線が冷たく刺さる、ラプサンは静かに、湖面のように静かにオレオを見つめていた。 さすがにオレオも今の状況にうんざりしているのだろう、ラプサンはそれが手に取るように分かっていた、成程、彼のいいたいことはよく分かる、要するにこの束縛のような状況から何か変わるようなことをして欲しいのだろう。 それはもっともだ、自分でもこんな状況はうんざりしてしまうだろう、ラプサンは心の中でそう思う、確かにオレオに何もしていないのは事実だし、ミルクもそれを見ておろおろするくらいしかできない、おかげで余計にストレスが溜まって、不機嫌な顔になるのだろう。 よくよく周りを見てみると――本人は気付かないかもしれないが、床が所々こげている、これはオレオの体から無意識に流れ出した電流が所々に当たってこげているのだろう。 傍目から見ればピカチュウの習性とよく似ている…なんていったら怒られるかもなどと考えながら、ラプサンはオレオを見続けた。 「これは一体いかなる拷問でしょうか?」 「拷問とは人聞きの悪いことを言うね、そんなつもりは毛頭無いと思うよ、先生にも、サフランにも、僕にもね…」 「それはつまり思っているだけではないでしょうか?」 「君はいろいろ考えているようだけど、僕は君を助けたほうがいいのかな、別に座視してもいいんだけど、いずれにしても結果はさほど変わらないからね、僕としては君に関する一つの命題を見極めたほうがいいのかもしれないね」 おどけたような、それでいて深いようなよくわからない曖昧とも取れる返答を返すと、難しいことが余り分からないオレオはたちまち首をかしげてこう言った 「命題?」 「運命とか業に関するパラドックスだよ、とりようによってはジレンマといってもいいかもね」 「イライラする喋り方ですね、はっきりものを言えないんですか?」 「はっきり者を言い過ぎるのも問題だと思うけどね、まぁそこがオレオ君の魅力かも…ね」 ラプサンはそういってまた通りかかった患者さんにお辞儀をする。 「要するに、何が言いたいんですか?」 「――君こそ、そんなちみちみいってないで本当のことを言ったらどうだい?」 ラプサンはにこりと笑いかけて、少し強めの口調でそういった、その瞳には何もかもお見通しだといわんばかりの強い光が爛々と宿っていた。 「…じゃあ言いますよ…あなた達は僕を本当に治す気はあるんですか?」 「あるよ」 「嘘ですね、本当に直す気があるのなら――」 「薬の一本くらい用意したり、体の体調を見てみたりするはずなのに、どうして何もしてくれないのか…これじゃあ治る兆しなんて一行に無いじゃないか…そう思ってるんじゃない?」 「!!」 ふふっと笑って、ラプサンはじゃり、と一歩近づく。 「君の心の中は何でも分かるよ…君がどんなことを考えているのか、君がどれだけ今の環境に不満があるのか、そして、君が隠していることがあるとか…そう、何でもね…」 ぞわり、と背中に悪寒が走る。 このポケモンは何か嫌な感じがする、目が笑っていない…何より、自分が女ということに気付いているのかもしれない。 「そんなに恐い顔しないでよ…悪いようにはしないからさ…」 「僕のことを、いや、私のことを、気付いていたんですか?」 「それはもう、はじめから気付いたよ…そう、この病院に入ったときからね…君が女の子って言うことにはびっくりはしないから、サンダースの女の子なんてそう珍しいものじゃない…世の中にはいっぱいいるもんね」 「………ラプサンさんは…一体何者なんですか?」 「病院のお手伝いさん…と、言うべきところだね………まぁそんなに病院に貢献してはいないけど…おっと、これは秘密だよ」 何を考えているのか分からない分、かなり不気味だ…オレオは油断せずに一歩下がる。 「私の心の内側が分かるなら、どうしてこんな状況になるんですか?」 「………分からない?それはずばり、自分のせいだとは気付かない?」 「私のせい?」 「レイス先生は言っていたよ…患者さんと心を触れ合うことが、病気を治す第一歩…君は本当の自分を殻に閉じ込めている、そんな状態で君に的確な治療を施すことなんかできやしないよ…もう一度良く考えてみて…君のやっていることは…本当にあっているの?」 それだけ言うと、ラプサンはいつもの調子に戻ったのか、のんきに鼻歌を歌いながら受付のほうへと消えていった。 「僕が…やっていることが本当に正しいのか??」 何か釈然としないもやもやを抱えながら…オレオはラプサンの言ったことを頭に残していた… ---- ミルクはせせこましく動きながら、すれ違うポケモンたちに満面の笑みを浮かべて挨拶をしている、軽い会話もするのだが、基本は知らないポケモンとポケモンの会話、他愛ない世間話を細かく噛み砕いてはそれについてくすくすと笑う。 そんな日々が一週間も続いて、ミルクは病院に来る患者と友達になっていた。 「ミルクさん、ありがとうございます」 「そんなおおげさな…大丈夫ですよ。困ったことがあったら言ってくださいね」 ミルクは軽く頭を下げて患者の一匹であるフーディンに別れを告げる。 「うぅ…ああはいったものの、重いものはもつものじゃありませんね…あ~、肩凝った」 ミルクは中年のおじさんのようにとんとんと肩を叩いてはぁっと大きなため息をつく。 溜息の理由はいろいろあるが、もっとも大きな原因はオレオであった――。 ここ最近、といっても病院にはいってからだが、オレオが元に戻ったような気がしてならないのだった、何処かボーっとしているし、何かイライラすることが多くなったことも分かった。 そして何よりもミルクが胸を苦しくしているのは、オレオの瞳が曇ってしまったことだった… 「どうしてでしょう…」 初めてオレオに出会ったとき、彼は一人で麺類を啜ってため息をついていたことを、ミルクはまだ覚えていた、そのときの顔は人生に疲れているのか、精神的苦痛でもあるのかといった感じで、疲労しているのが見て取れた。 他のポケモン達はそれを嫌がるのか気味悪がるのかどうかは知らないが、オレオに近づくことを頑なに拒絶していた。 それでもミルクは近づいて、話しかけた、顔色や言動ではポケモンは分からない、ミルクはオレオの目をずっと見ていた。 疲労して、仲間はずれにされて、いろいろな噂を囁かれて、それだけでも相当まいってしまうのに、オレオの瞳には綺麗な色がピカピカと輝いていた。 ミルクは綺麗なものを余り見ていないのでそういう真偽はわからなかった、しかしオレオの瞳を見たときに、ミルクは心の底から綺麗と感じていた…どれだけ人生に疲れていたとしても、その日その日を精一杯に生きようとする懸命なオレオの気持ちと行動が、そのまま瞳に現れていたのだ。 一目見たときからだろうか、とにかく惹かれた、オレオを見て胸が高鳴るのを感じた…見ていると吸い込まれそうな瞳を見てミルクは顔を赤らめていたのだ、それも無意識に。 俗に言う一目ぼれというやつだろう、その日からミルクはオレオのことが気になり始めてしまったのだ…何とかオレオに近づくことは出来ないのか、それが出来なくても、オレオの助けになることはできないのか… そんなことを考えながら、光学研究所の所長に呼ばれたということに頭を戻して、用件を所長に聞いたところ、オレオの力になって欲しいという以来の話だった。 棚から牡丹餅、一石二鳥というやつだった、こちらから願ってもいないチャンスが訪れたことをミルクは神に感謝し、手伝うことを承諾し、あわよくばオレオと親密な関係になりたいという気持ちを心に留めた。 いろいろ話を聞いていると、オレオは不思議な体質のポケモンだということが分かった、しかし、恋の前にはそんなもの全く無意味だ、そんなことで高鳴る胸の思いは留められるものではない、そもそも、そういうポケモンを嫌うポケモンのほうが頭がおかしいのだ、本人が迷惑をかけていないのならば、それでいいのではないのだろうか? そういう話をオレオにしようとも考えていたが、オレオの話を聞いているうちに考えを若干変えた、どうやらオレオは自分の体を疎んでいて、それで嫌われるのも仕方が無いという考え方をして、だったら極力他人から関係を断ち切って生きていこうという考え方をしていたのだ。 それは大いに困る、こちらとの関係を断ち切られた火照るこの想いはどうやって燃焼すればいいのだろう?ミルクは自分から殻を破ってはどうだろうかということをオレオに話した。 オレオはまるで目からうろこが落ちたような顔をして、少しだけだったが、笑ってくれたのだ。 嬉しかった、自分の言ったことを聞いてくれたことももちろんだったが、何よりも笑顔が見れたことが一番嬉しかった、オレオの笑顔を見たとたんにミルクの心臓はバクバクと高鳴ってまともに直視が出来なくなるほどだ、それでも、やはりオレオを見てみたいという気持ちのほうが強かったため、じっと見ていた。 できることなら永遠に見続けていたいであろう…なぜここまで心が、体が昂ぶるのかはミルクには分からない、いや、分かる必要などないだろう、分からないから一目惚れをしたのだ。 オレオのためならば自分が何をされても、どんなことがあったとしても、きっとくじけることはないだろう… しかし、今のオレオには生気や覇気というものが微塵に感じられなかった、それだけならまだよかった。 ミルクは信じられなかった、オレオの瞳が濁っていたのだ……初めてあったときのようなキラキラと輝く星のような瞳ではなく、黒いもやもやが瞳に入って、まるで石炭のようなくすんだ色になってしまった… ミルクはそれが悲しかった、この病院でオレオに何が起きたのかはわからなかった、でも、何とかオレオの気持ちを奮い立たせて上げたい、力になりたいという気持ちが強まったのだ。 「……オレオさん……」 ただ遠くで見ているだけでは駄目なのだ、自分の気持ちを伝えたい、自分のことも知ってもらいたい… 隣にいて、一生を添い遂げたい… 「……よし!!」 意を決したようにミルクはオレオがぼうっとしている病院の外へと早足でかけていった。 ---- 「オレオさん」 近づいて声をかけると、オレオは生気の無い瞳をミルクに向けて、大きなため息を一つついた。 まるで、何かを諦めたような、そんな絶望と諦めの表情が、曇り、濁った瞳にはっきりと映っていた… ミルクがぞくりとして身を震わせると、オレオは静かにこういった。 「何かよう?」 何かに憑かれたようにぬらりとした動きでミルクのほうを向いて、ただ一言そういった。 「いえ、こんなところで何をしているのかなって思いまして…」 「日向ぼっこかな…だけど、ちっとも心の闇は晴れないや…何をしても僕に原因があるって言う…僕は何もしてないのにね…」 「先生にそういわれたんですか?」 「お天道様とお月様にもそういわれたよ…」 意味がよくわからなかったが、あの二人のことを皮肉った言い方だとわかって、少しだけ心が曇った。 「オレオさんに原因があるんですか?」 「僕は何もない、皆が勝手に言ってるだけだよ」 「……そうですか?」 「…違うの?ミルクもそういうの?」 「いえ、そういうわけでは…でも、あのレイス先生が考えもなしに患者さんが原因と一方的に決め付けるなんて信じられないと思って…」 「信じられない、そう、信じられないよ…ミルクには悪いけどね、僕にはあの先生は信じることはできない……患者がいるのに何もしないなんて、医者としての信頼関係が成り立っていない、患者を差別する先生が、ミルクにとってい信じられる先生なんだね」 「そんな…先生がそんなこと…」 「……まぁ、もうどうでもいいけどね…僕は明日になったらこの病院を出て行く…」 「!!!!」 驚愕した、病気の原因も分かったし、ここで治療を受ければきっと治るかもしれないのに…!! 「そんな!!勝手なことをして!!」 「ここに連れてきたのはミルクだろ!!」 「!!!」 「君は大丈夫だといったから僕はそれを信用したんだ!!!だけど結果はこれさ、何もしてくれない……結局僕はどこに言ってもお荷物でやっかみで……いていい存在じゃないんだ…」 現実逃避、自己嫌悪、自虐…その全てがオレオを支配していた、結局のところオレオは何も変わっていなかったのかもしれない…自分の力を自分で疎んで、他人を遠ざけ、自分の殻に引きこもる…強い電撃が自分を縛り付けて苦しめていると思い込んで、それが何の役にも立たないと勝手に決め付けて…可能性も全て否定して…… 弱い水の力しか授からなかったミルクとは逆だが、ミルクは絶望したことなど無かった、自分の気持ちに正直になり、限界まで希望を信じて、やれることをすべてやった。 そこに後悔や諦めの感情など微塵もなかった、やれることをやって、そしてそれ相応の結果を得ることが出来た。 オレオはやろうともしない、初めから駄目だと決め付けて一人でいる…結局ミルクは、信じてもらえることは出来なかったのだと今頃気がついた… いや、最後にもう一度だけ… 最後にもう一度だけ、オレオの心を取り戻すために、誰かを信じられるようにするために…… ミルクは自分がやれることをやるだけだった…… 「……最後の最後にもう一度聞きます…」 「何をさ」 「オレオさん、本当に自分が存在しないほうがいいと思っているんですか?」 「そうだよ」 「ホントにホントですか?」 「しつこい」 「ホントにホントにホントですか?」 「うるさい、僕にかまわないでくれ…」 「………………………分かりました」 ミルクはぺこりと一礼すると、その場を後にした。 「何なんだ…」 オレオはその場でぼけっとしていたが、そろそろ戻るかと思い、ゆっくりと立ち上がり、自分の病室に戻っていった。 長い廊下を渡り、自分の病室に行くとドアを開けて、シミ一つない整えられたベッドに倒れこんだ。 そのまま深い眠りにつく…夢を見れば、きっと爽やかな気分で…ここから出て行くことが出来るだろう… ---- ふと、奇妙な音がして、オレオはレム睡眠から現実世界に引き戻された。 「なんだ?」 眠りから覚めて不機嫌なオレオだったが、眠っていたら機嫌がいいというわけでもなかった… 夢を見ていた、ミルクを自分の電気で貫いて殺してしまう夢…そんな夢を見て気分がいいわけがない。 「何でこんな夢を見たんだ…」 悪夢を見るのはストレス発散のため…ならストレスが溜まっていたのだろうか?などとオレオは考える…しかし悪夢にしろ自重というものを考えて欲しかった… 「何が好きで世話になったポケモンの悪夢なんか見なきゃいけないんだ…」 そんなことを呟くと、がたがたという音が窓から聞こえて一瞬びくりとした、何かがいるのか、泥棒だったら焼き殺してやろうと物騒なことを考えていると、それはいきなり襲い掛かってきた。 「っ!!!」 凄まじいエネルギー波がオレオに襲い掛かる、とっさに前転してかわすが、ベッドが音を立てて砕け散った、ここにいては格好の的だ、オレオはそのまま窓ガラスを叩き割って外に逃走した、暗がりで相手の顔は分からないが、広い場所なら自分の攻撃が使える。 「(後悔させてやる…僕を狙ってきたことを)」 そう思って逃げる逃げる逃げる…それを追う謎の敵… 「くそ、早い…」 素早さには自信があるオレオだったが、突然の闖入者の速さはオレオのそれを軽く凌駕していた、軽く走っていては追いつかれる、そう判断したオレオは足の坪に自分の電気を叩き込んで筋力を上げて、自分に鞭を打って全力疾走した。 「……」 敵は何も喋らない、狙ってきたのならそれが当然だろう… だが、オレオとて簡単にやられるつもりは無い、目の覚めるような攻撃を叩き込んで逆に返り討ちにしてやると心の中で算段を立てた。 そのまま逃げ続けていると、足の感触が変わる――どうやら昼間にいた場所にいつの間にか来ていたらしい…そよそよと風の音が聞こえて、その後ろから冷気の波動が襲い掛かる。 「うわっと!!」 強力な"れいとうビーム"だ、凄まじいパワーのエネルギー波は地面をカチンコチンにして草花を一瞬で死滅させた… 「……なんてことを」 ぞっとするような攻撃を兵器で繰り出す目の前の敵をきっとにらみつけて、オレオは戦闘体勢に入った、攻撃方法から想像して、敵は氷タイプか何かだろう…勝算がありそうだった。 「さっきのお返しだ!!」 オレオは息を大きく吸い込んで、体に電気をためて一気に放射した、電撃が尾を引いて謎の敵に襲い掛かるが、それを分かっていたかのようにするりと抜けるように交わすと、そのまま敵は地面を蹴ってオレオに突撃する。 「っ!?」 かわされたことを驚いている暇が無かった、死に物狂いで横っ飛びに飛んで突進をかわした。 「………」 何も言わない無言の敵はひたすらにこちらに向かってエネルギーを飛ばしてくるだけだった、その正確さ、的確さに背筋が凍りつく。 「恨みを買われるいわれは全然無いんだけどね…」 小さくそう呟くと、ぐっと大地を踏みしめて大きく跳躍した、そのまま体に電撃をまといぶつかった。 「これなら…何っ!?」 抉れた地面には何もいなかった、敵は攻撃を見切ってかわしていたのだろう、その瞬間横から殺気を感じて横を見た瞬間、 「うわぁっ!!!」 凄まじいエネルギーの波動を食らって思い切りオレオは地面に叩きつけられる、ごろごろと地面をのたうって、空気が肺から押し出された。 「っ…かはっ…」 ただ強いだけではない何かが謎の敵にはあった。 今のような一平短で単純な攻撃はすぐに見切られるということが今の一撃で骨身に沁みた。 「はははは、本気でやらないとこっちが殺されるか……僕を本気にさせたことを……後悔させてやるよ…!!!」 そういってオレオは静かに息を吐き出した、その瞬間りぃんと空気が静まり返る…まるでオレオの闘気に呼応して全ての命がオレオの呼吸に合わせたような感覚が周りに響いた。 「行くぞ…!!」 跳躍、突進、凄まじいエネルギーをまといオレオは突進する、先程の適当な動きなどではなく、完全に敵を破壊するために動き出す。 その力を感じ取ったのか、謎の敵も一瞬躊躇った後に後ろに後ずさる、先程いた場所にオレオが突撃して、地面が轟音とともに崩れ去る、衝撃波が病院を震撼させ、壁がかけ、窓ガラスがいくつかバリンバリンと音を立てて割れる。 「……くそ、力を抑えないと、何の罪も無い病院の人たちが、…くっ…」 舌打ちをして思い切り地面を蹴る、そのまま"でんじは"を使って相手の動きを止めようとするが、それを呼んでいるのかひらりひらりとステップを踏んでかわしたかと思ったら、敵はそのまま振り向きざまにオレオに氷塊をぶつけてきた。 「ぐあっ!!」 思い切り顔面を氷塊が直撃し、額が割れた、どろどろと赤い血が流れ、見にくい夜の世界を更に滲ませ歪ませる。 「……」 敵の攻撃は止まない、オレオは力を出し切れないが、敵にとってはそんなものお構いなしに攻撃してくるだろう。 「こっちの都合も考えろって!!」 次々に飛んでくる氷塊をばしんばしんと電撃で叩き落して、オレオはそのまま右に走る、敵もそのまま右に走ったが、目の前にある大きな樹にぶつかった。 「ひっかかったな!!」 心の中で小さくガッツポーズをとって、そのままピクリとも動かなくなった敵に近づく、その瞬間後ろから声が聞こえた。 「残像ですよ…」 はじめてしゃべった、しかし、そんなことを気にする暇も無くオレオは思い切り吹き飛ばされた、よく見るとぶつかった木はゆれていない。 「か、"かげぶんしん"だって…うっ!!」 ずきりとわき腹に強烈な痛みを感じた、よく見ると氷塊の破片が腹に思い切り突き刺さっていた。 「…く、そぅ……」 ここまで圧倒的にコテンパンにされたのは初めてだった、いつもならこういう類の敵、いや、敵というよりはチンピラに近いものだが、そういうもの達は威嚇をすればびっくりして自分から離れていったがこの敵は全てが違った。 威嚇にも一歩も引かない度胸と根性、こちらの状態を知り尽くす観察眼、一撃で殺そうとする強い力… 度胸と根性、力は認めるが、観察眼はどう考えても不自然だった。 こちらの動きを先読みすることなど、一緒にいなければこちらの動きなど分かりはしないからだ… 「……一緒にいなければ…?……??…」 まさか、とはおもった、しかし、暗闇の中で聞いたあの透き通った声、体に触れたときのぷるんとした感触…どう考えても… 「!!はっ!!」 そんなことを考えているうちに、相手が動いた、もしかすると、まさか、しかし、それ以外に考えることなど出来ない。 「……」 オレオはゆっくりと瞳を閉じて、暗闇の中に自ら飛び込んだ、静かに息を吐いて、目を捨て、音で気配を聞き分けた…… 静かに耳を済ませる…四時方向から聞こえるじゃりじゃりとした砂を蹴る音、静かにしているつもりでも、吐く息がしっかりと聞き取れる、どうやら相手は何か躊躇しているらしい… 「………………………そこだぁ!!!!」 オレオは四時方向――南東のほうへ思い切り電撃を叩き込んだ。 「きゃああああああああああっ!!!!!」 電撃が当たったと思われるような悲鳴と、電撃の中に浮かぶ一つの黒い影。 その悲鳴は、何処かで聞いたような声だった… 「!!!しまった!!!強くやりすぎたか!!」 オレオはすぐさま自分を襲った影のほうへと駆け寄り、心配そうな瞳で地を掃いて横たわっているポケモンを見つめた。 我ながらばかげていると思っていても、どうしても確認したかった、当たっていて欲しくないと思いながら、オレオはそのポケモンの名前を呼んだ… 「……君はどうしてこんなことをするの……」 そのポケモンは何も答えない、いや、答えることが出来ない……はぁはぁと荒い言いを吐き出して、時折ごほりと血を吐き出す… 「ねぇ、教えて…」 真っ暗な世界に、光が入る、雲に隠れていた月が、二人を照らす… 「ミルク…」 月明かりに照らされ…ミルクは静かにオレオを見つめていた… ---- 血は赤い、それは知っている。 しかし、目の前のポケモンの流れる血には、黒い何かが混じっているような気がしてならなかった… 「ねぇ、ミルク、教えて、どうしてこんなことをしたの?」 心配そうな声を出しているが、警戒は解かずにオレオが静かに問いかける。 「君は、面白半分でこんなことをする子じゃないでしょ?」 「……オレオさんは、今自分の力が役に立たないと考えているんですか?…疎ましいと思っているのですか?」 「??」 苦しげな声を出してミルクが口を開いた、擦れた様な声と、空気が漏れて、その後に血を吐き出す。 「ミルク!!」 慌ててミルクを抱き寄せる、ミルクはぼうっとした瞳で虚空を見つめていたが、やがてにっこりと笑ってこういった。 「そうじゃないですよ、この世界に要らないものなんて何一つありません、すべて一つ一つが意味のあるものなんだと私は思うんです…オレオさんが嫌いだった自分の力も、私から身を守り、私を退けることに役に立ちました…」 「!!!」 ミルクにそういわれて、オレオは驚きに目を見開いた。 まさか、とは思ったが、恐る恐るミルクに聞いてみた。 「まさか、ミルク、僕を襲ったのは…」 「オレオさんは、私を退けて、強い力を示しました…自分を守る自己防衛の力…その力は、オレオさんにとって疎ましいものですか?」 全て合点がいった、襲い掛かったのも、執拗に自分の力が必要かどうか問いただしたのも、全て自分の力に対しての考え方を変えるためのミルクの不器用なメッセージだということに… 「…なんで、何でこんなむちゃくちゃなことをしたの!?もし力を本気で出していたら君は死んでいたのかもしれないのに!!」 知らず知らずのうちに涙が流れ出す、オレオ自身も不思議な感覚だった。 どうして泣いているのだろう、なぜ涙が流れるのだろうか…この胸を締め付ける苦しさは何なのか… 「これだけ無茶をすれば、オレオさんは嫌でも気がついてくれますから、…それに、私は…オレオさんが嫌な思いをするのは嫌ですから、私の責任でもあります…」 「そんな!!ミルクは…何も悪くないよ、僕のせいだ、僕が勝手に自暴自棄になって、君を傷つけてしまった…君にこんなことをさせてしまった…ごめんよミルク…ごめんよ…」 涙が止まらない…想いが堰を切ったように溢れ出す、本当に嫌いになっていたんじゃないというのが、今ようやく分かった、本当の気持ちに気がつくことが出来なかった、それを気づかせてくれたのは…目の前で笑顔を作っている――大切なポケモン… 「私が勝手にやったことです、オレオさんは気にしなくてもいいですよ…私のために泣いていただけるなんて、やっぱりオレオさんは優しいです…私…も…安心…です…」 ミルクは静かに微笑んで、そのままゆっくりと瞳を閉じた、オレオは一気に血の気が引いていき、ミルクを揺さぶった。 「ミルク!!おきて、起きてよ!!」 ミルクは答えない、オレオは周りを見渡してはっとした。 そうだ、ここは病院だった… 「急いで先生に見せないと!!」 オレオはミルクを背中に乗せて、レイスのいるところまで風のようにかけていく…入り口に入ると、先程の騒音で起きているポケモンが何匹描いたが、それには目もくれずオレオはレイスのいるところへと走る。 「はぁはぁ、レイス先生!!いませんか??」 ドアの前でレイスを呼ぶ、部屋の中はほのかに灯りがついていたので、多分レイスは起きているのだろう。 「どうぞ」 返事が聞こえるや否や、オレオはドアを蹴破らんばかりの勢いで部屋の中に転がり込む、迷惑など考える余地も無かった。 「うおう、オレオ君じゃないですか…どうしました?額が割れてますよ??」 「レイス先生…僕のことはいいから…ミルクを…みる……ク…を」 担いでいたミルクを優しくおろすと、出血多量だったのか、オレオはぐらりとよろめくと、そのまま前のめりに倒れた。 「…おやおや、患者さんが一人から二人に増えて―――…いえ、一人ですね」 レイスはミルクを見てにやりと笑うと、医療セットとオレオを担いで、隣の部屋へと消えていった。 レイスが隣の部屋に入ると同時に、ラプサンがひょこひょこと部屋の中に入ってきた。 「レイス先生~、あれ?…いない…それにミルクちゃん?……んん??これは…"ねむる"?」 ミルクは穏やかな寝息をたてながら幸せそうな顔をしている、体が淡く光り、傷がどんどん消えていく… 「ヘェ…ミルクちゃん回復わざも使えたんだ…でもなんでこんなところで寝てるんだろ??」 「オレオ君が意識不明と勘違いして運んできたんですよ…どっちかというと重症はオレオ君のほうですね」 「わ、レイス先生…」 不意に現れたレイスの気配を察知して、ラプサンは間抜けな顔をした、そして再度ミルクを見つめて首をかしげた。 「…何のお話ですか?」 「ちょっと手伝ってください、私はオレオ君を見ていますので、ラプサン君はミルクちゃんをベッドに運んどいてください」 さっさとそれだけ告げて、レイスはまた戻っていく、事情がよくわからなかったが、とりあえずラプサンはレイスの言うとおり、ぐぅぐぅと眠りこけているミルクを抱きかかえてベッドのある部屋まで歩いていった。 「むっ…ミルクちゃん結構重いなぁ…」 本人が聞いたら怒り狂いそうなことを、ラプサンはポロリと口にした。 ---- まどろみの白い空間の中で、オレオはふっと目を覚ました。 ここがどこなのか、それが分からない場合はたいてい夢である。 それはオレオが長年眠ってきて自然にそう思えるようになったのである。 「……ああ、なんとなく分かるなぁ、これは夢だって、そうだなぁ…夢なら誰か出てきてもいいかな~なぁんて思っちゃったりして…」 そんなことを考えながらケタケタと笑っていたら、オレオはふと後ろに誰かの気配を感じた。 「…夢なら…」 振り向いたオレオは目を見開く、そこにいたのは、自分のせいで死んでしまったポケモン、悔やんでも悔やみきれない自分の過去の汚点…オレオの最初の友達… 「良かったなって、全部夢ならいいなって、夢なら今この時間をとめて欲しいなって思うよ…ゼロ」 うっすらと微笑を浮かべるプラスル…ゼロは何も喋らずに笑っているだけ…何を言いたいのかは分からないが、なんとなく何を思っているのかは判っている気がした。 「久しぶり、かな?それともごめんね??……君はもしかしたら怒っているのかも――」 「オレオさん…私は怒っていませんよ…」 喋った、そこに驚いたが…ゼロは笑うだけだった。 「何で怒ってないの…僕は君を殺した…」 「そんな、死人にくちなし…私にオレオさんなしです♪」 そういってゼロはくすくすと笑ってオレオの鼻先をちょんと押した。 「そういえば君はそういう性格だったね…」 オレオは苦笑いをした…ゼロはもともとおどけたりくすくす笑って誰かを困らせたりするのがゼロというポケモンだった。 最も死んでしまっていたからゼロの性格やしぐさなどは、所長とオレオ、そしてごく一部の研究所のポケモンしか分からなかった。 「私は私の意志で動き、私の信念を貫いて行動しました。その思いに一片の迷いも後悔もありません。オレオさんは何もそんなに自分を責めなくてもいいですよ…私、オレオさんのそんな姿、見たくありませんから…」 そういったゼロの顔にはうっすらと影が被さり、少しだけ寂しそうな顔になった、オレオはその悲しげな顔に映る自分の顔をまじまじと見続けた。 真実を知られることに怯える顔、誰かに見放されることを恐れる顔、煙たがられて一人になることを拒絶する顔… いろいろな顔、顔、顔、全て自分の顔である。 それを見ただけで、自分はなんてひどい顔をしているのだろう、なんて醜く無様な生き物なのだろうと思い、自然に笑いがこみ上げてきた。 「くく、くくくっ、うふふっ、アハハハハっ…」 「笑いたいほど自分が惨めですか?誰かに支えられないと生きていくことが出来ないという自分が情けないですか?オレオさん…」 笑い声が自然に止まる、ゼロは何もかもお見通しということだ。明るくて気さくで、仕事も出来て人望も厚い…そんなゼロだからこそ、いっぱい他人とかかわって、いろいろな人の本質を見抜いてきたのだろう。 オレオとかかわったときも、いろいろと話を聞いて、どんな人物なのか、その人はどんな境遇に生まれて、どんな人生を歩んできたのか…それを師って、さらに自分のことを知ってもらう、他人のことだけ知り尽くしても、それは弱みを握っただけに過ぎない。 真に友達になりたいと願うのなら、他人を知り、己を知ってもらう、互いのことを知った上で、初めて友達になれるのだろう… 「君には何一つ敵わないな…本当に人の本質を正しく理解することが出来ている…君みたいになることが出来たら、僕も、きっと、いろいろな人と関わることが出来たのかもね…」 オレオのそんな言葉に、ゼロは首を横に振って否定をした、そしてしばらく考えて、ゆっくりと小さな口から答えの言葉を紡ぎだす… 「違います、私はオレオさんにはなれませんから、オレオさんの気持ちなんて分かるはずがありません。逆もまたしかりです。オレオさんは私ではありません、ですから、私になれるはずがありません…ちょっと複雑で分かりにくい言葉になるかもしれませんが…言葉はかりそめのものに過ぎません、私がこんなことを言っても、本当にその通りなのかどうかは私には分かりません、私はオレオさんと一緒に過ごした時間から推測して、この言葉をひねり出したに過ぎませんから…果たしてその言葉が真実か偽りか、わかるのはその言葉を聞いた本人だけです…」 息をゆっくりと吐いて、一呼吸おく、そのままゆっくりと息を吸って、ゼロは話を続けた… 「聞いた本人がその通りだと思うのなら、その言葉は真実、しかし、こいつは何を言っているんだというのなら、その言葉は真っ赤な偽りです…どうしてそうなるのか、それは本人にしか分からない物事の本質が、他人には理解が出来ないからですよ…水が欲しいと思ったときに、お湯を持ってきたら怒ります。それもまた他人の本質を理解できていないということでしょう…だからオレオさんは、私になるということは無理なんです、私という固体そっくりになることなんて、クローンでも作らない限り難しい話ですからね…」 そういってゼロはふっと息を吐く、別にそういう事ではなかったと言おうとしたが、ゼロの話はまだまだ続いていた。 「もちろん、今の話はオレオさんの言った言葉とは全く違います、別段クローンになりたいとか、その人の全人格をコピーして自分の脳に移植したいとか、そういった類の話ではないはずです…オレオさんの思う言葉は、私のような人格を目指したいという気持ちでしょう?」 ゼロはそういってオレオのほうに向き合った、綺麗な蒼色の瞳がオレオの顔を捉える。 じいっと見つめられて、オレオは何だか恥ずかしくなってそっぽを向いた。 「そ、そうだね…。君の話している通りだよ…僕は君みたいな人格を目指したいと常々思っていた…だってそうだろ?君を知っている人なら君になりたいと思っている人は何人いることか、仕事が出来るというのは、誰でも努力すれば出来るようになる…だけど、物事の本質を見極めて、他人の気持ちを汲み取って、誰かのためにそんな風に尽くすことが出来るなんて…他人から見ればなんて完璧なポケモンだろうと思うだろうよ」 「そう思う人がいるのは事実ですね…でもオレオさん…私は思うんです…みんなが私になりたいと憧れて、私のような性格の人が何人も何人も現れると…はっきりといいますけど私はそんなの嫌ですよ。他人は他人、私とは違います、違うからいいのです。一人ひとり違うからこの世界は成り立っているんです。確かに、同じ性格の人は探せば何人か見つかりますが、その人の境遇や本質は全く異なるものです。だからこの世界は面白い、だからこの世界は回っています。」 「…………………」 「オレオさん、恐れないでください。自分が変われば世界は変わります。私はお説教や強弁を垂れるためにオレオさんの夢に現れたわけではありません。私はきっかけを伝えたいと思っただけです」 段々と意識がはっきりとしてきた…もうそろそろ現実の世界に戻るのだろう…名残惜しいと心のそこから思った。 「きっかけ?」 「貴方が変わる…きっかけです」 それがゼロの最後の一言になった。 「ゼロ!!」 ブラックアウトしたパソコンのような感覚が襲いかかり、オレオの精神は夢から現実へと一気に引き戻された。 ---- 目を開けて周りを見渡す。 白い壁と、柔らかい布団の感触…周りを見渡して、自分がベッドで寝ているということを認識した。 「…やっぱり、夢か…いつつっ」 体を起こそうとした瞬間背骨に激痛が走った、額を切っただけだと思っていたら、ミルクに吹き飛ばされたときに思い切り体を殴打していたらしい。 「やれやれ、情けないことこの上ない――って!!そうだ!!ミルクは!?」 痛む体に鞭を打ち、何とか体を起こしてベッドからはいずるように降りる、まだ体は本調子ではないようだが、そんなことを気にしていられる状況ではなかった。 「ミルク…一体どこに…どこに行ったの?」 熱病に浮かされたようにぶつぶつと呟きながら夢遊病者のようにふらふらと歩く、傍から見ればかなり危ない状態だがそんなことを気にしている場合ではない。 「………まさか、もう、ミルクは…」 「生きてるよ…彼女は頑丈だからね…」 不意に後ろから声がする、振り向くとそこには見知った顔のブラッキーが立っていた。 「あなたは…ラプサンさん…」 「呼び捨てでいいよ…さん付けされると駄洒落みたいに聞こえるから」 気恥ずかしそうにそういってにこりと微笑む、その笑顔が少しだけゼロに似ていた。 「…生きているとはどういうことですか?」 「どういうこともそういうことも、その通りの意味だけど…詳しく説明をするとだね…彼女は自分自身に"ねむる"をかけて自分の体を自分で治療する行動に出たんだよ…先生が二人を見つけたときには君が出血多量から来る貧血で倒れたんだよ…ミルクさんより危ないのは君のほうだったって事だね… 「……面目ない…」 素直に謝ったことに少しだけ驚いたような表情を見せたが、すぐにもとののほほんとした顔に戻ると、ラプサンはニコニコしながらこういった… 「うーん、オレオ君が謝るのは僕にじゃなくて、ミルクちゃんに謝ったほうがいいんじゃない?」 え?と、言おうとしたが、そんなことを言わせる暇もなくラプサンは若干矢継ぎ早に言葉を並べていく… 「…君のために彼女は戦った…さっきの騒音で僕がサフランと一緒に目が覚めてね、サフランは良く見えなかったから何が起こったのか若干わかってなかったみたいだけど、僕はこの通り、嫁が聞く体をしているからね、君たちの事はよく見えていたよ…飛んだりはねたりして、何で二人が戦っているのかわかんなかったけどね、ミルクさんの顔を見たらなんとなく分かったんだ…。彼女は君のためにたたかったってことがさ、だってそうじゃない?君はここにいても自分がどうなるのかわからないから本当はここに居たくなかったんじゃないかって、……ミルクさんは僕達と深く関わっているから僕達のことを良く知っている、それだから信頼していたけど君は違う…顔を見ただけの人を信用することなんて出来なかったんだよね…それはそうだ…僕も信頼しないからね、だからここを出て行こうと思ったけど、ミルクさんは君のその思いを根本から変えようと思った、だからあんなむちゃくちゃな行動をしたんだと思うけど…これは僕の勝手な思い込みかもしれないから適当に聞き流してかまわないけど、もしかしたらミルクさんは君の力のあり方を変えようとしたんじゃないかな?たとえ誰かをきづつけてしまう恐ろしい力でも、誰かを思いやれる君の優しい心と、自分の身を守るという生き物の生存本能のあり方…思いと本能、この二つを掛け合わせて、君の力に意味があることを証明したかったんじゃないかな?」 オレオは驚きの表情のまま硬直していた。 それはそうだろう、エーフィでもないのに心を読まれたような気がしたからだ… 「僕の言ったことが間違っているのならそれでいいけど、もし正しいと少しでも感じたのなら、ミルクさんに会って自分の気持ちを伝えたほうがいいんじゃない?それともオレオ君…ううん、オレオさんは…貴方のために自分の身を削った彼女の気持ちに何もこたえずに去っていくの?」 オレオはその言葉を聞いて、俯いていた顔を若干上に上げる、ラプサンがジェスチャーをする、ここから右に行って奥から三番目の病室…そういっているような気がした。 「ありがとうございます」 ひどく小さな声でそういうと、ラプサンの行った方向へと早足でかけていく… 「…柄にも無いこといったかな??…………オレオさんは…昔の僕にそっくりだね…」 ラプサンはオレオ後姿を見つめて微笑んだ。 ---- 静かに寝室に入り、寝ている人を起こさないようにする、泥棒のようにこそこそとした行動だが、そうしないとばれそうでやたらと恐かった、寝ているポケモンでも特性で起きるポケモンもいる…シャワーズの特性は貯水だったと記憶しているが… 「ミルク…寝ているんだよね…」 すぅすぅと穏やかな寝息をたててねむるその寝顔はまるで眠り姫のようにかわいくて、同姓なのにやたらとドキドキするのは心臓のつくりがきっと他の女の子に比べて若干狂っているのだろうと自分に必死に言い聞かせた…… 落ち着いて深呼吸、吸ってはいて吸ってはいてはいてはいてはいて… 「ラマーズ法じゃん!!」 何を自分で自分に突っ込んでいるのだろうか…あほなことを考えていないで心を落ち着かせようと思って胸に手を当てて、この間より若干胸の感触が違うことに気がついた… 「あ?………あれぇ??…もしかして、おっぱいがちょっと大きくなってる?」 本来ならここでずこーとずっこけたいところだが、生憎ここは病院、しかもベッドには病人が死人のように眠っている…病人と死人、おお、これ新しいギャグ完成か!?なんて思っているとベッドが技師利と軋んだ。 「…うぅ…」 唸り声が聞こえた、やばい、気付かれた。 「……うにゅぅ~~~」 猫がマタタビを嗅いで悦に入って更にお気に入りの爪とぎアイテムで爪をといでいるときのような何とも幸せで緊張感のない声を出してミルクはコロンと寝返りを打つ。 「…ふぅ…ばれてない」 「…オレオさん、五月蝿いです…」 ぎょっとしてベッドのほうを向くと、そこには眠そうな瞳を擦って欠伸をしているミルクの姿があった。 さっきの死闘のことなど忘却の彼方のような何とも緩みきった顔だ… それだからいいのだろう、そこが彼女の魅力なのかもしれない… 「いや、起こしてごめんね…あの、さっきは君を傷つけてしまって、本当にごめんね…」 「何でオレオさんが謝るんですか?」 その顔は、疑問、まさしくそんな感じの顔だった…そりゃそうだろ、だって攻撃されてきたとはいえ、全然正体に気がつかなかったし、攻撃して殺しかけたのはこっちだし… 「私が勝手に貴方の攻撃に当たっただけですよ…オレオさんは何も悪くないんです…だから、あの、その、…さっきのことは、私の行ったことも、忘れてください…馬鹿な女の子の勝手な思いですから、その、オレオさんの…」 「そんなこと無いよ…」 そんなこと無い、君は本当に僕によくしてくれた、僕に大切なことを思い出させてくれた…気がつけば僕はミルクを抱きしめていた、強く、強く、ひたすら強く抱きしめて…ミルクはびっくりしてから、数秒後に顔を真っ赤に紅潮させて戸惑った。 「ぃお…オオオレオさん!?……な、何を」 「ありがとう、ミルク…僕は君に教えられたよ、君のおかげで自分のことを嫌いにならずにすんだ…僕は…僕の力が大嫌いだった……誰かを傷つける力なんて、迷惑なだけだったから…だけど君だけ入ってくれたじゃないか…僕の力は僕の身を守る力、それだけじゃない、自分の力の使い方は自分で探すこと、それを教えてくれた…」 言葉を紡ぐたびにぎゅっと抱きしめる力が強くなる、自分でも何で何だかよく分からなかったけど、きっとそれだけ強い思いが自分の中にあるということだろう。 それだけの気持ちを僕はミルクから受け取ることが出来たのだろう… 「オレオさん…」 「ありがとう、ミルク、僕はもう少しで完全に見失うところだったよ…自分の存在も、君の気持ちも、伝えたい思いも…」 抱きしめる力をいっそう強くする、ミルクは少し苦しそうな顔をしていたが真剣なまなざしで僕を見つめていた… ならばそれに答えるのが僕の使命だろう… 「…オレオさんの、伝えたい気持ち?」 「僕は…君の気持ちに気付くことができなかった…君の思いを受け止めることが出来なかった…君の真っ直ぐな気持ちは、歪んだ僕には眩しすぎて…」 「そんな!!」 「でも、今は違うよ…今なら言うことができる…僕は…君が好きだ…」 「………す………き………?」 ミルクは目を見開いて聞こえた言葉を吟味している…本当にそれが真の言葉なのか考えているようだった… 「もう一度言うよ…僕は、君のことが好きだ…自分の気持ちに嘘をついても自分が苦しいだけだったんだ…変わるきっかけが欲しかった…そのきっかけを与えてくれたのは…ミルク、君だった…ただの友達じゃ嫌なんだ…君の全てが欲しいから…僕は、君と一緒に歩いていきたい…」 恥ずかしい台詞を連発して体があったまっていくのが分かった、どれだけ恥ずかしくても、これが自分の正直な気持ちなのだ…この言葉だけは嘘ではない… 「ど…どうして私なんかを?…私はその、水も出せないし、あまり役に立てないし…私に魅力なんか――」 「君は僕の持っていないものをたくさんもってる…僕は君の持ってないものをいっぱい持っている…謙遜しないでミルク…水なんか出せなくても、どれだけ役に立てなくても…君は君だ…僕は特技や個性だけで君に魅かれたんじゃない…君の真っ直ぐな気持ちが好きだから…その思いに惹かれたんだよ…」 「オレオさん…」 「僕もね、君と同じような感じ…君が強いことを隠してたみたいに…僕もいろいろと隠し事をしていた…」 「えっ??」 ミルクはいろいろなことを一気に言われて若干混乱しているようだ…無理も無いだろう…若干こちらも興奮気味だった… それにもともとミルクは隠し事などしていなかっただろう…水が出せなくても弱いというわけではないのだから…強いということを別にひけらかす必要も無く、聞かれなかったから言わなかっただけ…でも、僕のこの秘密は言わないと分からないから… 自分自身の気持ちに整理をつけて、ミルクに真実を教えて、それでも、僕は…いや、私はミルクが好きだということを伝えよう、本当の自分で、もう一回… 「秘密ですか?…一体どんなことを隠していたんですか?」 すぅっとミルクに近寄る、どきりとした顔でミルクが僕の顔をまじまじと見つめた……こちらも若干頬が紅潮する。 「僕の胸に手を当てて…」 「えっ?あっ…はい…」 ミルクは恐る恐る胸に手を当てる。 むにゅり そんな感触だろうなぁと思いながら、ちょっとくすぐったくて、弄られてぴくんと体が反応する。 「んっ…」 「マシュマロみたいな柔らかいものが…結構触りが良いで―――うわぁぁぁっ!!」 かなりびっくりしたみたいだ…若干傷ついた。 「わっ…わわっ…オレオさん…貴方はまさか…」 「びっくりした?気がつかなかった?…それで良いと思うよ。…気がついていてもどうしようもないしね、でも、僕は…ううん、私は…性別なんて関係ない…たとえ周りがどんなことを言っても、君のことが好きだ。私のこの気持ちは、絶対に揺るがないから…君が嫌だというのなら、私はここから出て行くよ…」 にっこりと笑って、待つ…十秒、二十秒、三十秒、一分、二分、三分… やっぱり駄目か、それはそうだろう… 同姓を好きになる女の子なんていないんだから… 「ごめん、ミルクの気持ちを裏切るような真似しちゃって……さよなら」 そういって出て行こうとした僕を、後ろから抱きとめた…二つの影は一つになって、黒い大きなものが月明かりの下に映し出される。 「…私はいやなんていってません……私は、オレオさんが好きです…雄とか、雌とか、そんなんじゃないんです……オレオさんが好きなんです…」 「……いいの?本当に……」 もう一度確認する。 大事な決断だ…同姓を好きになるということは、他の人からいろいろな目で見られたり、後ろ指を差されることだろう……清純な愛の形なんかじゃない…歪で、歪んだ不順な愛… 「私の気持ちは変わりません…オレオさんが好き…この世界の誰よりも……オレオさんが大好きです…」 「………ありがとう、ミルク」 振り向いて、そっとミルクの唇に触れる… 不順でもいい、何を言われてもかまわない…私の存在の意味を教えてくれた彼女の気持ちにこたえたい… 重なった二つの影が、より一層濃くなった気がした…… ---- 「女の子同士なのに……何だかどきどきしますね」 私とミルク…ベッドの上でなにやら真剣な顔で向かい合っている。 今から、命の神秘的で儀式的な、その、なんと言うのか……………………アレをしようと思います… 「うぅ…そういうこと言わないでよぉ……心臓の動悸が…や、やばい……破裂しそう…私もう駄目だ……」 胸に手を当ててはぁはぁと喘ぐ、かなりやばい人だ……緊張と興奮と動揺で頭の中が弾けそうだった… ふと、ミルクが訝しげな顔でこちらをじっと見つめている… 「あ、あのぉ…オレオさん?」 「あぅ…なぁに?」 「その、"私"って言うんじゃなくていつもみたいに…"僕"って言ってくれませんか?」 「えっ?」 「いえ、その、私はその方が好きだなって思って…」 「……君がそういうなら、僕は僕って言うよ…じゃあ、その、ミルク」 「あっ…はいっ」 …………いただきます…じゃなくってごめんなさい………じゃなくて… 大好きです…… 「んっ…」 もう一度ミルクの唇に自分の唇を重ねる…さっきの優しいのじゃなくて、もっと激しい、大人の口付け…お互いの口内で舌と舌を絡ませる、唾液が混ざり合い、ミルクの舌が積極的に僕の舌を絡めとってくる… 「んんっ…ふぅん…」 ぴちゃ、ぴちゃ、と、粘着質な水の音が耳の奥まで響き渡る…とっても淫靡な音かもしれないけど、僕にとっては脳内が蕩けそうだった。 「んっ…んむぅ……ぷあっ…んぷぅ…」 一頻りミルクの口の中を楽しんだ後、ゆっくりと唇を放す……銀色の糸が、名残惜しそうに下に垂れて、ベッドに落ちる。 「水は出せないのに…唾液は出るんだね…」 「嫌味と受け取っておきますね」 嫌そうな顔をするミルクだが、すぐに笑顔に変わる…冗談に乗ってくれたのだろう、そんな彼女が愛おしくて、思わず抱きしめてしまう。 「ひゃっ…お、オレオさん………」 ミルクはびっくりしたが、すぐに瞳を閉じて抱擁を受け入れる。 「…ミルクも結構おっぱい大きいよね…」 「ひえっ!?…せ、セクハラですよ?……ひゃあああっ!!」 ミルクが顔を赤らめて背中を大きく仰け反らせる、大きいといったとおり、ミルクのおっぱいはそれはそれは大きかった…鷲掴んで乳首を捏ね繰っていると、ミルクが甘い声を出して嫌々と首を横に振る…どうやら胸を触られると弱いらしい。 「僕がりんごなら…ミルクのはメロンだね…」 「あっ…あぁうっ…そ、そんなの…知りませんよぉ…ふあっ…」 「これだけおっきいと…もしかしたらほんとにミルクが出るんじゃない?」 「!!!!!」 試してみようかなと思いながら、捏ね繰り回して程よく硬くなった乳首を軽くつまんでみる。 「やあっ!!!だめぇっ!!!やぁぁん!!!」 ぷしゃっと言う音と一緒に、乳首から何だか白い液体が噴出した… 「………嘘……………」 冗談だったのに…本当に母乳が出た…ミルクは顔を真っ赤にして両手で顔を抑えていた。 「や、やだっ…見ないでください…オレオさん…」 蚊のような声でそういって、ミルクは恥ずかしさに真っ赤な顔を更に赤くする…そんな彼女を見て、ほんとに可愛いと思う。 「名は体を表すというやつですね…」 そんなことを言うと、ミルクはちっちゃな声で反論した。 「ぁっ…ち、違います…これはその、昔から皆より成長がちょっとだけ早くて、その、いや、でも、あの、これは、えっと、ち、違うんです…」 「落ち着いてミルク…何が言いたいのかさっぱり分からないよ…」 混乱しているミルクを子供をあやすように宥める…何だか子供の面倒を見ているみたいでちょっとだけ面白かった… 「ごめん、本当に出るとは思わなくて…若干やりすぎたと思ってます…すみません」 頭を下げて素直に謝る…こんなことくらいで嫌われることは無いと思ったけど、悪いことをしたのは自分なんだし、謝らなくっちゃ… 「お…オレオさんだから、許してあげます…」 顔を林檎のように真っ赤にして、ミルクはぷいっとそっぽを向いた、反応が可愛くて心の中で身もだえする… 「……あ、あのさ、ミルク?…吸っていい?」 「!?ええっ?…………そ…それは…わ、私の、おっぱいをですか?」 「……………………駄目かな?」 ちょっと瞳を潤ませて、おねだりをしてみる……ミルクは少しだけ考えていたが、やがて顔を俯かせて、もじもじしながら… 「ぁの…ちょ、ちょっとだけですよ?」 そういって、母乳の滴る乳房をぷるん、と前に出す。 「……はむっ…んっ…ちゅっ…んちゅっ…」 痛くしないように、舐めるように口をつけて、ミルクの母乳を赤子のように吸い始める。 「ふっ…あぅ…ぁあんっ…」 母乳を吸うたびにミルクが甘い声を出して体をよじらせる…母乳は甘くて、飲みやすくて…ちょっとだけという言いつけも忘れて僕はミルクの乳房にしゃぶりつく。 「んんっ…ちゅっちゅっ…ぷはっ………はむっ……ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…」 「!?あっあっあっぁぁぁあぁぁあぁぁ…おれおさっ…そんなに、すったら、わた、私ぃ…い、イっちゃいますっ!!やぁあぁぁっぁぁぁっ!!」 ろれつが回らない舌でミルクが甘い悲鳴を上げる、そんな声も聞こえないほどに、今の自分は昂ぶっている、母の乳房を吸う子供のころに戻ったような感覚でひたすら吸い続ける。 「うぁっ、ぁっ、あっ、あっ…お、おれおさんぅ……」 「…えい」 自分で言うのもなんだけど、僕はちょっとサドの気でもあるのかもしれない…母乳を堪能しながら、片方の手でもう一つの乳首をつまんで弄くり、もう一つの腕を下部まで伸ばすと、秘部に指を二本ばかし突っ込んで、膣内をかき回した。 「!?っあ…あぁぁぁっ…やあっ…うあああっ!!ひゃあんっ!!」 ぐちゅぐちゅと粘り気のある独特の水音が響き渡る、この音を聞けば聞くほどミルクに意地悪をしたくなってくる。 「上の口からは水は出ないけど、下の口は出るんだねぇ…」 そういうと、予想したとおり、ミルクはあえぎながら力なく僕の胸を叩いてきた。 「あっあっあっ…おぉ…オレオしゃんのいじわるぅ…わ、わたしぃ、意地悪する人は…き、嫌いですぅ…あぁん!!」 意地悪、確かにこれ以上いじめるのは可哀想かもしれない、そう思って、秘部から指を抜いて、乳首から口を離す、正直に言ってしまうと、僕の秘所ももうかなり濡れている… 「ごめんね、ミルク、一緒に感じたい…」 「ふぇ?…あ、あの、何を?」 ミルクはさっき攻めすぎたのか、ただ単に敏感すぎただけだったのか、いまいち状況が理解できていないようだった、そんなことはかまわずに、僕はぐっしょりと濡れたミルクの秘所に、自分の秘所を密着させた、くぷ、ぴちゃりという水音が脳内まで響き渡る。 「!!!ふええっ…あうぅぅぅ…」 状況が理解できたのか、ミルクがまた顔を赤くする。 「大丈夫だよ…僕も、結構感じてるから…んっ…いい?動くよ?」 そのままゆっくりと腰を上下に動かし始める秘部と秘部がこすれあい、くちゅくちゅという水音を響かせる。 「うあっ、あっ、ああっ、あんっ……ひあぁっ…ふええっ…お、オレオさんの…おまんこと、わ、私のが、擦れあってぇ…」 「擦れあって、ふぁっ…なぁに?」 意地悪くそういってみると、ミルクは思った通りの反応をしてくれた。 「気、気持ちいいですっ…ひゃあんっ!!…あぅ、ああっ…おっ…オレオさんっ…私、もう……」 「うんっ…ひぃんっ…ぼくもっ…ふああっ…い、イキそうだよっ…」 湿った秘部が更にぐっしょりと濡れて、お互いに快感を感じる…他と繋がることができなくても、お互いを確かめ合うことが出来るという気持ちが、快楽を更に高めていく… 「うあっ…ああああっ!!!」 「ひゃあっ……ひゃああああああああああ!!!」 体中に快感がスパークしたように走り抜け、オレオとミルクは同時に愛液を噴出して、そのままこてりと横になった。 「う…うぁう…」 「はぁう…ふぇぇ…」 行為を終えて疲労が溜まったのか、二人はふわふわとした意識の中で強烈な睡魔に襲われて、二人で抱き合いながら幸せそうな眠りについた… ---- 鳥ポケモンの囀りが耳に心地がいい。 目を覚ますと、もうすでに日が昇っていた。 「うぅん…」 「ふぁぁ…」 二日酔いの後みたいなうめき声を上げて起き上がる、昨日の行動を反芻して、かなり顔が赤くなった。 「…何やってんだろ、僕…」 「むにゅう…」 ミルクがさっきから眠そうな声を出してこしこしと目を擦っている。 よほど昨日の行動が体にこたえたのだろう…あくびを噛み殺していた。 「あ、おはよーございます、オレオさん」 「うん、おはよう、ミルク…昨日は激しかったね…」 「そーですね…」 朝が弱いのか、それとも昨日の行為がそれほどまでに体に響いたのか… 「淡白だね」 「ごめんなさい…本当に眠くて…」 ミルクはそういって、再度あくびをする、そんな仕草を見て、思わず微笑んでしまう… 「…?ど、どうかしましたか?オレオさん??」 「ん?いや、こんな可愛い彼女がいて、僕は幸せだなって…」 「ふふっ…オレオさんも十分可愛いですよ…」 ミルクも僕の笑顔につられて笑う。 二つの声が重なって、空高くに響き渡る… 一頻り笑った後に、ゆっくりと立ち上がる。 「オレオさん?」 「レイス先生に謝らなくちゃ…お騒がせしてすみませんって…こんなことになったのは…僕のせいだからさ…」 ミルクは眠ってていいよ、なんて言おうとしたら、ミルクものそのそと起き上がると、にこりと微笑んだ。 「じゃあ私も一緒に謝ります。私にも悪い部分はありますから…二人で謝りましょう」 純粋な優しさの言葉、こんな言葉、ゼロ以外のポケモンから聞ける日が来るなんて―― ――いや、もう思い出にすがるのはやめよう…夢の中の彼女が言っていた言葉…僕が変わる…変わろうとするきっかけ・・・ 「多分、ミルクなんだね…」 「??」 なんでもないよ、こっちの話、それだけ言って、くるっと前に向き直る… 「ありがとう、そして、バイバイ、ゼロ」 小さく、本当に小さくはなった言葉は風が吹いて千切れて、聞こえなかった。 謝りに行くと言うのに、どうしてこんなに軽い気持ちでいられるのだろう…考えてみて、すぐ隣に答えがあることに気がついた。 ようやく見つけた、自分の存在する意味… 誰かに認めてもらいたい、誰かの役に立ちたい…自分の身を守りたい… いろいろな思いが交錯していた、病気とも呼べる脅威の電撃… それはきっと、そんなことのためにあるんじゃない… きっと、僕の力は… 大切な誰かを守るため…… きっと、そのためにこの力があるんだと信じたい。 過去に守れなくて、なくしてしまった大切なもの… 今度は絶対に逃がさない…絶対に放さない…もう後悔したくないのだから… そんなことを考えながら、レイス先生のいる診察室の扉を軽く二、三回ノックする。 「どうぞ」 変わりに帰ってきた無愛想な返事、声で分かる、サフランさんだ… 「失礼します」 「失礼します」 扉を開けて、軽く一礼、部屋を見回すと、エーフィとブラッキー…それに白衣を着たゲンガーがそれぞれの椅子に座ってそれぞれの作業をしていた。 「あの、レイス先生、昨日は申し訳ありませんでした…結果的にお騒がせをすることに…」 「…………」 謝ったのだが、レイス先生は一向にこっちを向かない…やはり怒っているのだろうか… 「むきょーーーーっ!!」 「ひぃっ!?」 とか思っていたらいきなり奇声を上げて飛び上がった、やはりこの先生は分からん。 「あ、あの…」 「オレオ君…君の病気を治す方法、分かりましたよ…」 「!?」 開口二番…出てきたのはその言葉…本当に、本当に自分の病気が治るのだろうか? 「私は治せない病気というのは嫌いでしてね…必ず直す方法があるはずだと思いサフラン君とラプサン君と一緒になって先程まで探していたのですよ…」 「……先生……」 いきなり壊れたかと思っていたけど、ちゃんと僕のことを見てくれていたんだ…そう思っているだけかもしれなくても、自然に涙がこみ上げてくる。 「おや?珍しいですね、オレオ君が泣くなんて…」 「ぐすっ…すみません…お話、続けて良いですよ……」 見られないようにごしごしと瞼を擦って涙をふき取る、レイス先生はわかりましたと頷いて、話を元に戻した。 「ではささっと本題に移りましょうか…オレオ君の病気はきわめて特殊なもの、それゆえに薬などでじっけ…いやいや、薬などを投与するわけにも行きませんからね…」 「何をいまさら、新薬つくって飲ませようとかほざいたエセ医者はどこのどいつだか…」 かろうじて聞き取れるような声でぼそりと、サフランさんがそういって、横からじっとりとレイス先生をねめつけた。 「……なんですか?」 「なんでもありませんよ、せ、ん、せ、い」 わざとらしく大きな声でサフランさんがそういって、わざとらしく大きなため息をつく、この人は本当にレイス先生が嫌いなのだろうか… 「……んんっ!!と、言うわけでして…いろいろと調べているうちに、オレオさんの中で生きているウィルスが、どんなものかが分かったのです」 「……ウィルスの…?特性??」 そうです、とレイス先生は言うと、一呼吸おいて、言葉を紡ぎだす。 「オレオ君の体内にあるウィルスは、オレオ君の体の中にある電気を生成する器官のひとつに漂っていてそこで電気を出すたびにウィルスが活性化して突然変異を起こした電気が生まれるわけです…。だがしかし、その電気を放出するたびにそのウィルスが微量ですが死滅していることが分かりました」 「死滅?」 そんなことをいつ調べたんだろう、あ~、アレか、あの拘束したときか… 「そうです。それゆえに、全滅させることが可能なのです…ウィルスも連続で電撃を使い続ければ、最後の一匹まで完全にオレオ君の体内からしっかりすっきりさっぱりぱりぱりいなくなるわけですね」 成程… 「そのためにはどうすればいいのでしょうか?」 首をかしげながら、その方法をレイス先生に聞いてみる、一体どんな治療方法なんだろう。 そんなことを考えていたら、レイス先生はいたってシンプルな答えを返してくれた。 「簡単ですよ…オレオさんが思い切り戦うことです。全力で、100%の力を出し切って戦い続ければ、そのたびにエネルギーを使ってウィルスが死滅するでしょう…」 簡単だ、それなら小難しいことなど一切考える必要が無い、考えることといったら、戦いの相手を誰に頼むか暗いだろう。 「簡単ですけど…僕の電気を食らって生きているポケモンなんて―――」 いる、一匹だけ…僕の隣に。 「――います、一匹だけ…僕の隣に…」 そういって、僕は隣で毛繕いをしているミルクを見つめた…ミルクはきょとんとした顔をしたが、すぐに事情を理解したのか、にっこりと微笑んでこういった。 「オレオさんがやられちゃうかもしれませんよ?」 「心配しなくて良いよ…僕は頑丈だからね」 お互いにそういって笑い合う、そんなところをレイス先生たちが見ていて、こういった。 「迷いは吹っ切れましたか?」 「…はい」 何を、なんてあえて聞かない。 僕は一緒に進んでいく大切な人を見つけた、守りたい人を見つけた、愛する人を見つけた。 大好きな人がいるから、僕はどんな霧の中も進んでいくことが出来るだろう…迷いの霧は、もう晴れている。 「ミルク、お願いして良いかな?」 「もちろんですよ。オレオさん」 お互いの腕を交差させて、大丈夫だという意思を伝える。 ミルクは水が出せない、しかし、そんなものが無くても強いだろう。 僕は強い、自分で言うのもなんだけど、そうとしか言いようが無い。 意味の無い強さだと思っていたけど、これから先は意味のあることになるだろう… 体の異常が収まれば、僕は普通のサンダースに戻る… 「そのときは、ミルクのお尻にしかれないようにしないとね」 「しっかりと組み敷いて、絶対に逃がさないようにしますね」 お手柔らかに、そういって苦笑い。 僕の強い電気が、弱い水とぶつかる。 僕の強さは今日が最後、でも、名残惜しくなんて無い。 強さよりも、弱さよりも、もっともっと大切なものが分かったから… 今日のこの戦いを忘れないようにしよう… 大好きな人と、最高の戦いを… 強電弱水奇闘劇を…… ---- これにて終了です。[[びけいむ]]様。お楽しみいただけたでしょうか? 私は強い、弱いなど関係なく、強い人は弱い人を守って、弱い人は強い人の心を支えてあげる… そんな夢みたいな考え方を皆が持てばいいんじゃね?と、思います。 最後まで駄文に付き合っていただいた皆様、リクエストをしていただいた[[びけいむ]]様。 本当にありがとうございましたorz ---- - 粗探しじゃ無いけどミス発見&br;化学→燃料や潤滑油など、あるいは試薬や非天然素材の薬品などをあれこれする科学&br;光学→光の屈折反射などあれこれ 類字:工学&br;カメラメーカー「Nikon(ニコン)」旧日本光学機器&br;うざくてゴメンね -- [[漫画家]] &new{2009-03-22 (日) 10:34:40}; - リク主です。2作同時執筆頑張ってくださいね(ー) -- [[びけいむ]] &new{2009-03-22 (日) 16:56:38}; - 最後の(ー)はミスです。正しくは(ーAー)です。失礼しましたー -- [[びけいむ]] &new{2009-03-22 (日) 16:58:05}; - 36…………可哀想に………… -- [[Fロッド]] &new{2009-03-22 (日) 21:46:12}; - 一部、三ダースになっているとこが-A-; -- [[名前無い]] &new{2009-03-23 (月) 00:55:15}; - 続かして て言うのかな?まだまだ読みたい。 -- &new{2009-03-23 (月) 01:39:31}; - 機械が機会になってますよ~。 -- &new{2009-03-23 (月) 06:53:23}; - オレオとミルクが近づきはじめましたね!名前通り相性が良さそうですwついでの誤字報告です。自分の力の招待がばれて煙たがられ……の部分で招待→正体続きが楽しみです! -- [[ななしぃ]] &new{2009-04-05 (日) 02:16:21}; - 本の無視→本の虫 -- &new{2009-04-25 (土) 16:49:06}; - ダイヤって炭素だから燃えやすいんじゃ・・・ -- &new{2009-05-09 (土) 08:34:21}; - 電気抵抗は高かったはず(絶縁体)だから、確か電気は通しにくいかと。&br;まあ、高熱が発生して一瞬で燃焼して二酸化炭素になるだろうから少なくとも溶けるって言う表現はおかしいかもね。 -- &new{2009-05-09 (土) 23:44:09}; - オレオ!!貴様酷いぞ!! -- &new{2009-05-10 (日) 00:38:04}; - 電気抵抗も耐熱性も高かったような気がするんですが……まあ燃えますけど -- [[Taku]] &new{2009-05-16 (土) 23:12:12}; - 調べてみたところ、ダイヤモンドが気化する温度は690〜875℃のようです。ありゃ^^; -- [[Taku]] &new{2009-05-16 (土) 23:16:18}; - ダイアモンドがこんな風に物語につながるとは…九十九さんすごいです。&br;病院ってまさか… -- [[ROOM]] &new{2009-05-16 (土) 23:21:14}; - 私は暇人ですね…はい -- [[ROOM]] &new{2009-05-16 (土) 23:25:59}; - まさか、あの医者が再び登場するんですか? -- [[R]] &new{2009-05-24 (日) 13:56:30}; - まさか、レイ……(ry -- [[ホワシル]] &new{2009-05-24 (日) 15:22:55}; - だめだ、ドアをノックしたら…ドアをノックしては行けない… -- [[フロム]] &new{2009-05-24 (日) 16:32:32}; - よく、こういうの、知ってましたね。 -- [[ハカセ]] &new{2009-05-24 (日) 21:22:31}; - よく、こういうの、知ってましたね。 -- [[ハカセ]] &new{2009-05-24 (日) 21:22:33}; - そんな……そんなばかなっ!&br;&br;しかし題名見て彼の存在に全く気が付かなかった、いやぁ驚き驚きw&br;とにかく彼が雄の特別患者は塗薬からの搾取ですk……おやこんなところに白衣を着たg(ry -- &new{2009-05-24 (日) 23:10:37}; - 見た瞬間に冷熱の続編と思えた俺はある意味末期(断じて勝ち組などではなぃ) レイス先生の変態ぶりに期待してます -- &new{2009-05-25 (月) 22:33:34}; - 何故かミルクは既にペットにされている不思議(そんなに手こずる病気ですか教祖さm(殴&br;&br;さぁて、今回はどんな宇宙語が飛び出るのでしょうかなw -- &new{2009-05-31 (日) 02:46:32}; - こんな先生なのによく噂になりませんね。 -- [[R]] &new{2009-06-10 (水) 23:02:50}; - ミス発見です。サフラン君の期限→機嫌 じゃないですか? -- &new{2009-06-11 (木) 18:19:48}; - 久々の更新ありがとうございます 次回も楽しみに待っています -- &new{2009-07-05 (日) 00:32:54}; - 拘束! ktkr レイス先生の治療だけは受けたくないですねw &br;いや、やっぱりなんだかんだで受けてみt(ry -- [[座布団]] &new{2009-07-24 (金) 00:27:27}; - あ、やっぱリブの二の舞ですか -- &new{2009-07-24 (金) 13:15:38}; - えっ?入るや否や拘束?レイス先生は、手が早いですね。 -- [[ホワシル]] &new{2009-07-24 (金) 17:37:14}; - 私見ですが、「行分ごとが長すぎて見づらい気がする」。&br;ウチが小説を見慣れてないだけかな…?(´・ω・`)ショボーン -- [[メタル狩り]] &new{2009-07-24 (金) 20:24:25}; - >メタル狩り様&br();始めまして、読みにくい小説ですみませんorz&br();私の小説は私自身も読みにくいので、これはもうなれてもらうしかありませんorz -- [[九十九]] &new{2009-07-24 (金) 23:29:00}; - 読みやすいので更新がんばってください。 -- &new{2009-07-25 (土) 00:21:27}; - これはもう「採られる」しかないですね、オレオ君ご愁傷さま。 -- [[フロム]] &new{2009-07-25 (土) 01:30:41}; - ギャース!としかいいようがない…、マジで予想外です…。&br;しかしレイス先生は何者なんだ…w -- &new{2009-07-27 (月) 02:10:47}; - お、女の子だって!? -- &new{2009-07-27 (月) 08:06:46}; - な、この展開は……九十九様、まさかの百合挑戦!? -- &new{2009-07-27 (月) 08:29:40}; - はっ!…720度くらい回転して戻ってきました。これはいい意味で期待を裏切られましたな -- [[フロム]] &new{2009-07-27 (月) 11:06:07}; - 女の子ですか; -- [[リュウト]] &new{2009-07-27 (月) 17:35:38}; - 癖でエンター押してしまった; -- [[リュウト]] &new{2009-07-27 (月) 17:36:06}; - ↑間違えた;何度もすいません;サンダースで僕だと雄イメージ強いので錯覚してました;撲っ子だったなんて予想外でしたw -- [[リュウト]] &new{2009-07-27 (月) 17:37:45}; - 反転と書いてあるから、ミルクは実は雄…? -- [[ギアス]] &new{2009-07-27 (月) 17:53:01}; - いやガールズラブって書いてありますよ -- &new{2009-07-27 (月) 18:37:22}; - 申し訳ない、それ入れ忘れて慌てて追加しましたorz&br();紛らわしいことしてすみませんでした。ギアス様orz -- [[九十九]] &new{2009-07-27 (月) 19:10:08}; - オレオちゃん、いえオレオ君が末期状態ですか……&br;やばいのか?続きが予測できない……!! -- &new{2009-07-27 (月) 22:48:17}; - よくレイス先生は、オレオが牝だということに気づきましたね。&br;そういえば、オレオは、サフランの診察で少しドキドキしてたことから、オレオには、ちょっとそういう気があったんですね(笑) -- [[ホワシル]] &new{2009-07-28 (火) 00:05:49}; - 思い⇒重いでは; -- [[リュウト]] &new{2009-08-22 (土) 03:20:01}; - 完結まで頑張ってください! -- [[ウクレレカレー]] &new{2009-08-22 (土) 13:51:52}; - ミス発見 思い物× 重い物○ -- &new{2009-08-23 (日) 00:19:45}; - おお、遂にクライマックス。 次回更新期待! ――[[ホワシル]] &new{2009-08-29 (土) 20:41:02}; - ミルクが襲ったのですか; これってさっきしつこく聞いていたのと何か関係があるのでしょうかね 残りあと少しだと思いますが執筆頑張ってください! ――[[リュウト]] &new{2009-09-24 (木) 16:53:56}; - ミルクーーー!! これはオレオの夢が正夢に!?一体どうなるの? ―― &new{2009-09-24 (木) 17:39:02}; - あわわ・・・ ミルクーーーーー!! ――[[ブラック★]] &new{2009-09-25 (金) 17:10:05}; - 「兵器→平気」かと。 感想書かずにスマソ。 ―― &new{2009-09-25 (金) 18:48:37}; - 先入観と長所、短所はまったくの別物ですか。あなたの文章にうまくやられました。 ―― &new{2009-09-25 (金) 18:54:12}; - 予測・・・出来ない!?&br;ミルク戦闘出来たんですね&br;襲われて、「心を読まれて~~」のくだりでブラキだと思いましたが・・・ ―― &new{2009-09-26 (土) 00:37:12}; - 予測・・・出来ない!?&br;ミルク戦闘出来たんですね&br;襲われて、「心を読まれて~~」のくだりでブラキだと思いましたが・・・ ―― &new{2009-09-26 (土) 00:37:58}; - 水以外はだせるのか・・・! ミルクは不思議ですね 予測のできない展開がとても好きです がんばってください ―― &new{2009-09-26 (土) 01:15:34}; - この小説GL? ――[[サンダー]] &new{2009-09-26 (土) 12:32:58}; - いいえこの小説は百r(ry ――[[オレコ]] &new{2009-09-26 (土) 18:37:35}; - 「ねむる」ってどんな重傷でもなおるんだ・・・ ――[[ウクレレカレー]] &new{2009-10-03 (土) 11:18:25}; - 死ななくてよかった;w; そしてこれから何か起きるのかな? まだ少し気になる部分も多い希ガス( ――[[リュウト]] &new{2009-10-03 (土) 14:08:47}; - オレオかわいい。襲いたいくらいに。 ――[[贋羽玲★♪●]] &new{2009-10-03 (土) 16:54:43}; - いよいよクライマックスですかね! 続きが楽しみです! &br;誤字 嫁が聞く→夜目が利く? ――[[雪猫]] &new{2009-10-22 (木) 11:23:19}; - ゼロの発言「私のような固体」 個体じゃないすかー? わざとだったらすみません。 ――[[チャボ]] &new{2009-10-22 (木) 18:38:34}; - 俗に言う明晰夢…? ――[[ブラック★]] &new{2009-10-25 (日) 18:24:48}; - ベットが技師利と なんか違うかと・・・ ――[[チャボ]] &new{2009-11-01 (日) 02:16:24}; - おお…! オレオの言葉に感動…!! ――[[ブラック★]] &new{2009-11-01 (日) 18:58:31}; - セクロスシーンキター オレオおそいたいくらいにかわいいです。 ――[[read]] &new{2009-11-11 (水) 01:48:50}; - 母乳シーンは、このwikiの中で久しぶりに見た。 ミルクのミルク飲みt(殴 ――[[ナルト]] &new{2009-11-11 (水) 02:43:51}; - まさかオレオが女とは...! 続き楽しみにしてます。 ―― &new{2009-11-11 (水) 21:59:20}; - 突入ー!! ――[[ブラック★]] &new{2009-11-16 (月) 20:38:10}; - やっと完結ですね!お疲れさまでした! といいたいところですが、最後のオレオ君のセリフ、 「そのときは、ミルクのお知りに しかれないようにしないとね」 お尻だとおもわれます。 それでは、読者側から、これからも応援しています! これからもがんばってくださーい! ――[[チャボ]] &new{2009-11-25 (水) 23:18:31}; - ついでにもう一つ補正希望点ですが、 序盤、所長とオレオ君とコイルのシーン 電池エネルギーを、といった説明がありますが、 ポケモン図鑑によると、電気エネルギー だそうです。補正お願い致します。 ――[[チャボ]] &new{2009-11-25 (水) 23:38:30}; - 終わり方が凄く感動しました!! ――[[ブラック★]] &new{2009-11-26 (木) 00:28:51}; - ↑↑一々誤字を指摘するなよ鬱陶しい。 ―― &new{2009-11-26 (木) 07:44:18}; - ずっと読んでいて 気づいたんですけど... なんか、キャラ二名の 名前の由来が分かってしまった気が... ――[[ルーカス]] &new{2010-04-13 (火) 01:16:58}; #comment