#include(第十回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle) &size(30){幻術使いと猟奇を嗜む乙女}; &color(red){この物語はかなりの残虐行為と変態的なプレイが含まれますのでご注意ください。}; #contents **1.鮮烈な痛み [#fLEN8M1] 静謐に響く重い羽音。鋭い針が毒液を滴らせて迫る。 期待に高鳴る心臓。 敵意に満ちた刺突が肌を突き凹ませる。激痛が刺さる。皮膚の内側の肉が抉られる。 喉を裂いてあふれる悲鳴。肺から気道に鉄の棒を引き抜くように苦痛と直結した声が噴き出し続ける。 貫通が近い奥部で針が凶暴に突き上げられた。内側から表皮が裂かれる。血がぬるぬると体に纏わりつく。 薄紙を剥がすように意識が白濁してゆく。灼熱の心臓は胸を裂いて抉り出したいくらい暴れ続けている。 「……っはあッ」 こんな風に壊されたかった。ずっと待ち望んでいた。 寸断される意識に忸怩たる苛立ちが湧く。疼き続ける激痛を味わわせて。途切れさせないで。どうかこのまま……。 黒髪が石床に血のように広がって痙攣する肉体を縁取っている。 その身を執拗に刺し貫く&ruby(スピアー){毒蜂};の姿を幻視して幻の羽音を聴き、幻の痛みに悶える人間に、長い&ruby(たてがみ){鬣};の&ruby(ゾロアーク){化け狐};が歩み寄る。 姿は見えていない筈。石床を打つ爪の音も聞こえていない筈。触れて抱え上げても気付かない筈。幻術に浸しているのだから。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は侵入者を館の外に運び出す。 人の指が&ruby(ゾロアーク){化け狐};の長毛に縋るように埋もれる。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の背筋の毛がぶわっと膨らむ。鋭く見下ろした人間の目は焦点が合わないまま、喉から虚脱したあえぎを微かに洩らしている。 安堵した&ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳にその喉から発せられた言葉が流れ込む。か細く、はっきりと。 「ありがとう……ございます……こんなによくしてくださって……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳がぴくっと跳ねる。恍惚の響きで紡がれた言葉はひどく場違いだ。寝言の類、だと思いたいがまだ幻覚の中に囚えている筈。錯乱しているのか、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};は考える。耳が忙しなく動く。 人の指が微かに&ruby(ゾロアーク){化け狐};の腕を撫でる。 「またお礼に伺います、素敵な……痛みでした」 思わず、抱えた人間を取り落としそうになる。反射的に放り出して逃げようとした手足を寸前で止めたのは、人間の体が力なく弛緩し切っていたから。それと、恥ずかしそうな掠れた声音だったから。 言葉面は復讐の宣言だとしか思えない、だが他意なく聞こえる。どういうことだ? &ruby(ゾロアーク){化け狐};は微かに混乱する。 「また……恐ろしい幻覚で嬲ってください……お礼は、私にできることならなんでも……お願いします……」 か細く切実な響きで呼吸と共に絞り出される囁き声。 ようやくこの反応を当て嵌められそうな事柄に思い至った。&ruby(ゾロアーク){化け狐};は耳をぺたんと寝かせて心中で呟く。 変態だ、こいつは。 草の上に人間を寝かせた&ruby(ゾロアーク){化け狐};は、独り言のように問いを溢す。 「なぜ幻覚だとわかった」 ふっ、と人間の唇から微かに息が洩れる。 「スピアーが攻撃する時の音と匂い……仲間に標的を知らせるクリック音とフェロモンがなかったから……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の首筋の毛がぼふっと膨らむ。この人間、俺より詳しい。 「だが刺された痛みは本物同然だった筈だ」 怯えに似た気後れで早口になる。 「あぁ……最高だった……です……本当に……ありがとう、ございます……」 うっとりと人間の表情が蕩ける。よだれを垂らしそうなくらいに。 「あの鮮烈な痛み、忘れません……」 大切な思い出のように愛しげに、人間は恍惚と言葉を紡ぐ。 漂う、熟れた果実と似た匂い。 若年の雌だ。 こんな異常な性質を持っているのに……&ruby(ゾロアーク){化け狐};は違和感の正体を確認する。 この人間には傷が無い。痛みが好きなら自分で傷をつければいいのに。他の奴を挑発して襲わせればいいのに。 気にはなった、が、問い質すほど関わり合いたくもなかった。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は人間に背を向ける。尻尾と見紛う長い&ruby(たてがみ){鬣};が翻る。潰れた草の匂いが夜風に拐われて鼻先を掠める。 「どうか……次にお会いするまで……健やかに……」 微かな声は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳に届いていた。 また来るつもりなのか、厄介な……&ruby(ゾロアーク){化け狐};はぺたんと耳を寝かせて半眼になり、意を決して耳をぴんと立てる。 それなら、手加減なしで相手してやる。 **2.アナタに逢いたかった [#jBrgLFH] 階段の踊り場から炎を宿した眼が見下ろす。大きな白角が窓から差し込む月光に艶めく。骸骨を纏った&ruby(ヘルガー){火獣};は硫黄の匂いの火の粉混じりの吐息を散らして唸る。地響きに似た重い気迫。 睨まれた階下の人間は俯き加減に&ruby(ヘルガー){火獣};を見上げる。自身の二の腕を掴む指は強張って食い込んでいる。足が微かに震えている。 「奴の牙は簡単にお前の皮膚を裂く」 幻術で姿を隠したまま、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(ヘルガー){火獣};に射竦められた人間に告げる。 ぞく、と人間は潤んだ眼で身震いする。吐息が熱く夜気を乱す。 「奴の炎は簡単にお前を焼き焦がす」 冷徹な&ruby(ゾロアーク){化け狐};の囁きが人間の耳朶に触れ、ひくっ、と人間は息を呑んで小刻みに身を震わせる。漂う熟れた果実の匂い――この人間は、発情している。 「俺が命じれば奴はお前に襲いかかる」 怯えと、それ以上の期待を湛えた目で人間は真っ直ぐに&ruby(ヘルガー){火獣};を見上げる。 「お前は逃げられない。奴の方が速い」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は人間のすぐ耳元で囁く。 「言い残すことはあるか?」 カッと人間の体が熱くなったのがわかった。 「ください……」 乱れた熱い呼吸の合間に、人間は囁くように言う。 「私を……引き裂いて……」 本気か? 驚きが声に出ないように深呼吸して。&ruby(ゾロアーク){化け狐};は言う。 「わかった。……食われろ」 &ruby(ヘルガー){火獣};が蹴った踊り場の床板が削れ、木屑が瞬時に燃え尽きて灰が月光に煌めく。 逞しい獣影が光を遮って硫黄臭の唾液がぺちゃりと人間の頬に落ちた。 牙が迫る。 人間の胸底で熱くなった吐息が裂かれる。 首筋から胸元までが赤く裂け、鮮血の噎せ返る臭いが充満した。 ひゅうっひゅうっ、と裂けた気管が鳴る。あはっ、あはっ、と蕩けた笑いを垂れ流す人間を、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は複雑な面持ちで眺める。 幻の&ruby(ヘルガー){火獣};の吐息は炎を含んで裂かれた人間の皮膚を灼き、醜く爛れさせていく。 肉が焼ける匂い。幻の外にいても、その匂いを鮮明に想起している&ruby(ゾロアーク){化け狐};は。 旨そうだ、と幻に焼かれる人間の匂いに思う。 ごり、と&ruby(ヘルガー){火獣};の顎が人間の鎖骨を噛み砕いた。 半ば肉塊と化した人間は、それでも笑っていた。&ruby(ヘルガー){火獣};の顎に砕かれる度に苦しげに途切れさせながら緩んだ笑いを漏らし続けていた。 ぱき、くしゃ。肋骨がへし折られて&ruby(ヘルガー){火獣};は人間の心臓にかぶりつく。ひくひくと脈打つ柔らかな内臓。 ぐぅう、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};の腹が鳴った。 「おなか、空きました?」 浅い吐息で掠れた声で穏やかに人間は問う。肺は潰され気管は裂かれ舌は焼かれ、声を出す器官などもう残っていないのに。 本当に幻術は効いているのか? &ruby(ゾロアーク){化け狐};は眉根を寄せる。 「なぜ話せる」 「本来の体の感覚は……上塗りされて薄れてはいるけれど、無くなったわけではありませんから……幻覚とわかっていれば、動かせます……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は口の端で牙を剥き出して、短く息を吐いた。 &ruby(ヘルガー){火獣};の姿が歪んでフッと掻き消える。 床に横たわった無傷の人間は上気した吐息を夜の館に響かせていた。 「俺が自惚れていたんだな……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は自嘲して人間を睨みつける。 「恐怖を抱かない奴にはこのザマだ」 「……恐ろしかったですよ?」 人間が小首を傾げる。黒髪がさらりと流れる。 「お前は楽しんでいただろうが」 苛立ち陰鬱に呟く&ruby(ゾロアーク){化け狐};に、 「愉しませて……いただきました」 神妙に答えて、人間はふらつきながら半身を起こす。 「お礼にご飯を持ってきました。もしよろしければ、今から」 黙りこくった&ruby(ゾロアーク){化け狐};のお腹が、ぐぅうう、と鳴った。 人間はゆっくりと瞬きして、律儀に言い直す。 「今すぐに。用意します」 ボッと火が点った。 静止したように燃える青白い火。 人間は二枚繋がった波打つ鉄板の片面に香ばしい食べ物を積み重ねていく。パンとハムとチーズを入れ子に。 それを鉄板で挟んでぎゅっと圧し潰しながら、火で炙る。 たまらない匂いが漂ってくる。&ruby(ゾロアーク){化け狐};はよだれを抑えられなくなってぎゅっと口を閉じて顎を上げる。とめどなくあふれる唾液。早くしてくれ、と声に出すことができずに、尻尾に似た髪の先が忙しなくぱさぱさと床を掃く。 「お待たせしました」 人間が鉄板を開くと白い蒸気と共に溶けた脂と炙られた穀物の匂いが&ruby(ゾロアーク){化け狐};の胃を痛打した。 「熱いのでお気をつけて」 差し出されたそれを&ruby(ゾロアーク){化け狐};は流れるように手に取り、熱さに肩口の毛を逆立てながら耐え切れずにすぐさまかぶりついた。 「……ッ!?」 熱い、と思った次の瞬間。焼けたパンの割れ目から、何十倍もの香気が噴き出す。暴力的な旨味が舌を蹂躙する。 はふっ、はふっ、と舌を避難させながら&ruby(ゾロアーク){化け狐};は我を忘れてホットサンドを口の中に押し込んでいた。 最後の一口、と微かに切なくなるけれど、止められずに咀嚼して呑み込んでしまう。&ruby(ゾロアーク){化け狐};は消えたご馳走の温かみを残す肉球を丁寧に舐めて、ふと人間に視線を落とす。 にこにこと見上げていた人間は幸せそうに小声で呟く。 「お気に召しましたか、嬉しい……です」 なぜそんなことをしたのかは、&ruby(ゾロアーク){化け狐};にもわからない。 つい。人間の頬に口元をつけて、ちろっと舐めた。 焼けた肉塊の味を期待したわけでもなく。さっきの美味しい食べ物の味を期待したわけでもなく。ただ、なんだか温かくなって。 くすっ、と動じる様子もなく人間は笑って、&ruby(ゾロアーク){化け狐};の胸元の黒毛に舐められた頬を埋めた。 肩を寄せて体を預けてくる。不思議と離れたいとも思わず、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は受け止めて……自嘲する。 ちょろいな、俺は。本当に餌付けに弱い。 「貴方の幻覚は、かなりのものですよ」 人間は安らいだ声で言う。 「想像が及ぶ限りのことを見せるから、知識経験の差が出るのです。 私の見たいものを見せれば、その限界はなくなりますし、そちらの方が楽でしょうに」 ぬぅう、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};は眉間に皺を寄せて唸る。 「痛いところを突く」 「と、いいますと?」 「俺の実力で、お前を圧倒したかった。自惚れだ」 「かなりのものですよ」 「それは勝っている者の物言いだ」 「実力は貴方の方が上です。私には幻覚を見せることなんか到底できません」 「だろうな」 はふぅ、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};はため息をつく。 「相手の心が見せる幻覚は、ただの幻惑だ。 誰も制御していない災害のようなものだ。 見たいものが見られるわけではない、疑心暗鬼が形をなす」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は赤い爪の先をトントンと人間の肩の上で弾ませる。 人間の目の前に、昼の光が差す。窓からは綺麗に剪定された木々が木漏れ日を光らせて風に揺れているのが見える。 ガタンと古い木枠と硝子が跳ねる音がして窓が開く。五月の薫風がぶわっと吹き込む。白いレースのカーテンがふわりと広がる。窓の外には綺麗に整えられた芝生と低木。 わんわんっ、と嗄れた声が外から響く。大きな&ruby(ムーランド){毛長犬};が芝生を駆けていく。その先でハンチングを被った老紳士が杖をついて待っている。 おや、と人間が瞬きして呟く。 「先代のご当主ですか。ご存命中のお姿は初めて――」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は人間の額に口許を寄せて、微かに頷く。 駆け寄った&ruby(ムーランド){毛長犬};を大きな手で優しく撫でて、老紳士と&ruby(ムーランド){毛長犬};は連れ立って森へと小路を歩いていく。 「鼻が利く奴だった。隠れていても俺の方を見ていやがる。だが無駄に吠えない。 怪しい奴を知らせるだけの能無しじゃない、危険は自分が排除するって構えだ」 森の蔦に遮られた草むらの中で、こちらを見つめる&ruby(ムーランド){毛長犬};を一瞥して&ruby(ゾロアーク){化け狐};はどこか誇らしげに語る。 窓からの光が温かく翳る。&ruby(マグノリア){泰山木};の香りが吹き込む七月の夕暮れ。庭の芝生には&ruby(クロス){卓布};が掛かったテーブルが並び、花が飾られている。糊の効いた白黒服の給仕が滑る影のように行き来して料理が並んでいく。盛装の人間たちとお供のポケモンたちが三々五々やってきて集い分かれて楽しげに談笑している。そして入れ替わり立ち替わり、あの老紳士に挨拶していく。&ruby(ムーランド){毛長犬};は老紳士の横にぴったりとついて、穏やかに佇みながら会場の隅々までに目を光らせている。そしてふんふんと鼻を動かして、&ruby(ゾロアーク){化け狐};に視線を向ける。 銀皿に並んだ&ruby(フィッシュフライ){揚げ魚};に爪を伸ばしていた&ruby(ゾロアーク){化け狐};はぎくりと立ち止まる。 「この時はただ姿を消していた。見つからずにご馳走にありつきたいだけだった」 &ruby(ムーランド){毛長犬};は興味を失ったかのように視線を他に向ける。でも耳は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の方に向いて気配を探り続けている。 そっと&ruby(フィッシュフライ){揚げ魚};を摘み上げて、様子を見る。&ruby(ムーランド){毛長犬};は恐らくわざと、&ruby(テーブルクロス){卓布};で隠れんぼしているマネネとニャルマーに視線を向けている。 ひょいぱくっ。口に放り込んで旨い塊を一気に呑みくだす。と、&ruby(ムーランド){毛長犬};がフッと小さく笑った。&ruby(ゾロアーク){化け狐};を一瞥して背を向けると、老紳士に挨拶する客人に愛想よく尻尾を振った。 「騒ぎを起こさないなら見逃す、ということだったのだろう」 黄色く色づいた葉が舞う。差し込む日が後戻りして高くなる。澄んだ秋の空。十月の昼下がり。 並んだ&ruby(ビュッフェスタンド){飾り台};に色とりどりのタルトやキッシュが賑わっている。&ruby(カジュアル){御洒落};な秋の装いの人間たちがくつろいで話し込み、ポケモンたちは芝生を走り回っている。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は姿を消したまま&ruby(ビュッフェスタンド){飾り台};に幻覚を重ねては周囲の目を盗んで摘み食いをして、静かに舌鼓を打っていた。 給仕が声を潜めて囁き合う。 「来てますね」 「これは来ているね」 とっておきの秘密を分かち合うように微かに笑い合って、給仕たちは何食わぬ顔で空の銀盆とご馳走を満載した銀盆を入れ替える。 「見られてもいないし音も匂いも消したのに、バレていた」 「減り方でしょうね」 「へり……かた?」 「熟練の給仕さんたちですから、出した食べ物が減る流れがしみついていると思うんです。だから、不自然な減り方をしたらその瞬間を見ていなくてもなんとなくわかるのかと」 ふはっ、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};はため息のように小さく笑う。 「敵わないな」 人間たちの輪の中心で、ハンチングを被った老紳士が折り畳みの椅子に座って穏やかなよく響く声で語っている。 「ハロウィンのパーティーは特殊メイクの匠を呼びますよ、森の化け狐さんが紛れ込んでもわからないくらいに盛大にやりましょう」 傍らに控えた&ruby(ムーランド){毛長犬};が姿を消した&ruby(ゾロアーク){化け狐};を真っ直ぐに見詰めてふすっと鼻を鳴らす。 「来いよ、って言ったんですね」 「わかるのか」 「なんとなく」 「罠かもしれないとは思った、が」 「単純に、貴方に逢いたかったみたいですね」 「ああ」 周囲に暖かな明かりが灯る。窓の外は夜。人間と&ruby(ゾロアーク){化け狐};が寄り添う&ruby(エントランス){玄関の広間};は派手に仮装した人間やポケモンでごった返していた。泡立つお酒と甘いお菓子の匂いがフロアに満ちている。 &ruby(パンプジン){唐茄子灯人};率いる&ruby(バケッチャ){化南瓜};の一団が中央に設えられた舞台で登壇したポケモンにハロウィンの魔法をかけて、体が透けるさまを楽しませている。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は老紳士の前に立った。姿は消していない、かわりに幻覚を纏っている。 傍らの&ruby(ムーランド){毛長犬};はいたずらっぽい顔でふたりを見守っている。 蔦を象った椅子に座った黒狐メイクの老紳士は、目を丸くして&ruby(ゾロアーク){化け狐};を――普段の自分と瓜二つの顔を、見上げた。そして、黒毛に覆われた顔に闊達な笑みがこぼれる。 「ようこそいらっしゃいました。お待ちしていましたよ」 きつねさん、と老紳士は息だけで囁き、 「あたしはね、アナタにずっとお会いしたかったんです」 くしゃっと人懐っこく笑った。 明かりが消え、大勢の人やポケモンの姿も消えた。窓から月明かりが差し込む。廃墟の&ruby(エントランス){玄関の広間};に。 かち、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};が赤い爪を噛む。その鼻筋に何かに耐えるように皺が寄っている。 「先代のご当主も、幻覚を見せてくれと?」 「いや」 再び明かりが灯り、大勢の賑わいが現れる。ハロウィンパーティーの終わりに。 「また来てください」 小気味よく、老紳士は言って&ruby(ゾロアーク){化け狐};を見送った。 「パーティーの日でなくてもいいですよ。美味しい&ruby(フィッシュフライ){揚げ魚};を用意しましょう」 「好物を把握されているじゃないですか」 「ああ」 くすっ、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};は苦笑した。 そして笑うように牙を覗かせる。ひく、と喉が動く。 「……次に、俺がここに来たときは」 重く、闇が広がるように。 白い昼の光が差し込む。 愛想のない石の床。 物憂げな白衣の看護員たち。 奥の部屋の扉が開く。 大きな白いベッド。 そこに入っているのは、別人のように痩せ細った老紳士。 ベッドの脇には&ruby(ムーランド){毛長犬};が伏せている。急激に老け込んだかのように覇気が失せて、毛並みも乱れている。 「ずっと横たわったままだった」 ぴくり、と&ruby(ムーランド){毛長犬};の片耳が起きる。眉に埋もれた目が&ruby(ゾロアーク){化け狐};を映す。 「来てくれましたか」 同じ微笑みが干乾びたように張り付いて。枯れ葉が落ちるように、表情が抜けていく。 「あたしはもう、なんにもできなくなっちまいました。ごめんなさいね。ご馳走するって約束だけはせめてね」 と、枕元の呼び鈴に伸ばされたぞっとするほど細い手を、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は握って止めた。 「俺にできたのは幻術、だから」 「初めて他人のために使った?」 「……ああ、そうも言えるか」 湿った声で、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は口の端に牙を覗かせて目を逸らすように天井を見上げる。 「俺は恐ろしかった、のだ。塗り潰したかった。現実を」 「先代のご当主と同じく……?」 「ああ。だが、俺はあまりにも物を知らなかった。お前が言う通りに」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};はふさっと額を人間に押し付けて、呻く。 「見てくれ」 「はい」 幻が流れ込む。&ruby(ゾロアーク){化け狐};の痛みを伴う記憶が人間の微睡みに映し出される。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};もいた賑やかなパーティーの幻影。けれど&ruby(ゾロアーク){化け狐};は老紳士が来客となにを話していたのかは知らない。 老紳士は記憶の中で、恰幅のいい壮年の人間と和やかに談笑している。よく見ると老紳士の面影のある顔立ち。 「おや、現当主殿じゃないですか」 話し終えて会釈した現当主の顔から紙のように表情が消え、赤く裂けた口が吐き捨てる。 「早く死ねばいいのに」 老紳士の顔が強ばる。みるみる老け込み、怯えた目がぎょろりと紙の顔を見上げる。 「これは?」 「妄想だ、恐らく」 パーティー会場の片隅で。 燕尾服の紳士が辺りを見回し、館の燭台を素早く鞄に仕舞い込む。 緑のドレスを着た婦人がきらきらしたバッグを開けてテーブルの銀食器をがさがさと落として入れた。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};が眉間に皺を寄せると客の姿がぐにゃりと歪んで別人に変わり、盗られた品は元通りに輝いている。 「物盗られ妄想、ですか」 「よくあることなのか」 「用語ができる程度には」 執事が素知らぬ顔で椅子に座って談笑する老紳士の金時計を毟り取ると、自分のポケットに収めた。 「この人間は最後まで献身的に尽くしていた。そもそもこんなことはあいつが見逃さない」 よぼよぼの&ruby(ムーランド){毛長犬};は床に蹲り、力なく眠っている。 「どんなに気をつけても僅かな隙に近くにいる人間が泥棒に変わった」 骸骨のように痩せこけた老人が大きなベッドの中で怯えた目を光らせている。あの老紳士とは別人のように。 幻覚でありし日の姿に戻った老人は、木造りの屋台でじゅうじゅう焼かれるハンバーグを待っている。もう食べられないもの。鮮やかな手さばきで重ねられたハンバーガーに山盛りのチップスと青いソーダが銀盆に乗せられる。掴むと肉汁とバーベキューソースと溶けたチーズが垂れてくる。かぶりついた瞬間、呻き声を上げる。口からおびただしい血が流れ出る。吐き出されたその断面にきらきらとガラス片が光っている。 「なぜそんなものが入り込むのか、わからなかった」 景色が暗闇に沈む。赤い照明のバーのテーブル席を前に、老紳士の面影のある若い男が息を荒げている。割れたグラスが散乱して強い酒の匂いが鼻をつく。 「知りたくなかった」 男は店員に乱暴に札束を握らせる。更に札を一枚重ねてチーズステーキを持ってこさせる。カウンターの内側からトングを勝手に取って散らばるガラス片をチーズステーキの奥に押し込んでいく。 店を出た男は夜の公園でひとりパントマイムをしている&ruby(バリヤード){真似仙人};の前のベンチに座る。男は&ruby(バリヤード){真似仙人};の仕草ひとつひとつに感嘆の声を上げ、拍手を送る。&ruby(バリヤード){真似仙人};は喜んで演技に熱を入れる。男は感激の面持ちで&ruby(バリヤード){真似仙人};にチーズステーキの包みを渡す。 まだ温かい包み紙を開けて、&ruby(バリヤード){真似仙人};はガラス片入りのチーズステーキにかじりつく。 悲鳴。噴き出す血。公園の出口から見ていた男はほくそ笑み、ひゃっひゃっと笑いながら帰っていく。 「因果応報ですね」 「知りたくなかった、こんなことは」 「本当の記憶ですか? これは」 「質感は生々しく根ざしていた。騙されて喜ぶ相手を腹の底で嘲笑し……貶め……胸がすくような愉悦を感じていた。ちょっとしたいたずら、だと言い訳していた」 「どれほどの残虐行為だったかはわかっていたようですね」 「幻覚に現れたのだから、そうなのだろうな……」 「無意識というものがありますから、意識で誤魔化しても逃れられやしません」 「その無意識というものが見せるのか、こんなものを」 「いわば、世界のすべてです。知りうる限りのなにもかもが含まれています」 痩せこけた老人が大きなベッドの中で怯えている。介護員が笑いながら毛布の下の老人の足に火かき棒を何度も何度も振り下ろす。 「この人間も、最後まで少しでも快適に過ごせるよう細やかに気遣っていた。睨まれても明るく振る舞っていた」 景色が昼に変わる。噎せ返るような夏の沼辺。ギャンッ、ギャンッ、と&ruby(クスネ){巧狐};の悲鳴が沼に響く。目をぎらつかせた少年が&ruby(クスネ){巧狐};の後足に、尻尾に、火かき棒を振り下ろす。 「悪い生き物を退治しているのだと、誇らしさで満たされていた。俺は――吐きそうになった。奥底を覗くたびに毛が塊で抜けた」 「よくつきあわれましたね……」 「これが嘘だという証拠を見つけたかった、のだろう。俺は」 ふぅう、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};は重く長い息を吐く。 「楽しい夢を見せたかった、それだけだったのに……果たせなかった。 虐げた記憶が滲み込んで、復讐が行われる……替えても、消しても、防ぐことができなかった……」 「まるで地獄ですね、まだ生きているのに」 あぁ、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};は嗚咽に似た声で答える。 目に光を失くした老人が、感情のない声で不明瞭に嗄れた声を張り上げる。 アンタぁあたしを裁きに来た悪魔だね。またあたしを地獄に連れて行こうってぇんだね! 臥せていた痩せた&ruby(ムーランド){毛長犬};が頭を上げる。ほつれた長毛の隙間から敵意の眼が覗き、黒い輪郭の口が歪んで黄ばんだ鋭い牙を剥き出す。 微かに瞼を強張らせた&ruby(ゾロアーク){化け狐};が感じていた心臓が刺されるような痛みが漏出し、&ruby(ゾロアーク){化け狐};の腕の中で人間が声もなく呻く。 庭から入って来た清掃員と入れ替わりで、姿を消した&ruby(ゾロアーク){化け狐};の赤い毛束が扉を掃いて外に出る。閉じた扉の重い残響が、草を踏む音に被って&ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳の奥を侵す。 幻覚が消えた。 窓からの月光が廃墟の&ruby(エントランス){玄関の広間};を青く照らす。 湿った息を吐いて、人間は&ruby(ゾロアーク){化け狐};を上目遣いに窺う。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は牙を剥き出して、眉間に深く皺を刻み、耳をぴんと広げていた。毛は逆立ち、瞳孔が縮んで……震える口許で、言う。 「俺は……見捨てた。なにもできなかった、いやそれより悪い……奥底に眠っていた醜悪なものを掘り出して苦しませた……苛んだだけだ、変わらない……」 「貴方が何もしなくても苛まれていましたよ。それは」 「そうかもしれない、が……余計に苦しめていた。俺の見せた幻覚で」 「勘なのですが」 人間は&ruby(ゾロアーク){化け狐};を見上げて神妙な面持ちで言う。 「苦しみたかったのかもしれませんよ、それは」 「ばかな、苦しみたいやつがいるものか」 「はい、ここに……」 む、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};は露骨に眉を顰めて半眼になって呟く。 「そうだったな」 人間は瞬きして少し困ったように首を傾げる。黒髪がさらさらと流れる。 「さっき地獄と言いましたが、煉獄かもしれません。煉獄は炎に灼かれて罪を清める場所です。清められれば、苦しみのない最高の幸福である天国に行けます」 「あんなものが……救いだと?」 「奥底の記憶まで到った悪夢は、その後も現れましたか?」 「……いや。違うものが現れた」 「では、それで精算されたのでしょう。その人の中では」 皮肉に口の端を歪めた後、真顔に戻って人間は言う。 「理解しづらいことかもしれませんが。貴方はいいことをしましたよ。他の誰にもできないことを。魂を救うという難しいことを成功させていたんですよ」 暫し、沈黙して。&ruby(ゾロアーク){化け狐};は呟く。 「わからない、それは」 背を上下させて深呼吸して。付け足す。 「……そうだったなら。俺は、救われる、な」 「厳格なお方ですね、貴方は」 人間はくすっと笑って言う。 「好きですよ。貴方のそういうところ」 **3.なにひとつ傷ついていない [#BMc3oql] 高い空。白雲。大きな鳥の影が蒼穹に弧を描いてゆっくりと舞い降りてくる。体を骨で飾った肉食の巨鳥、&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};。 草がざわめく。青白い釣り鐘の形の花が風に揺れる。冷たい風が体温を奪っていく。血臭が鼻をつく。腹の上に被せられたぬるい臓物。 雲が過ぎて眩い太陽が目を刺す。目を細めて、庇おうとした手は地面に打ち付けられた鎖に阻まれる。 手足を縛る鎖を留める鉄杭は岩に食い込んで微動だにしない。 影がさす。&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の大きな翼が風を打つ音。猛禽の匂い。小石を掻く着地音。夕日のようなオレンジの瞳。鉤のような嘴がぬらぬらと艶めく臓物に食らいつく。 はあっ、はあっ、と人間は深い息を吐いて、&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の嘴を見詰めている。 漂う熟れた果実の匂い。この人間が発情している時に強くなる。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は微かに耳をぴくりと動かして、人間の黒髪を梳く。赤い爪が漆黒の髪と交差する。 「大丈夫ですよ……」 人間が熱を帯びた声で囁く。 わかっている。この人間は&ruby(スピアー){毒蜂};に貫かれ、&ruby(ヘルガー){火獣};に喰い散らかされて悦んでいた。 ただ少し、切なくなっただけだ。人間の見ているその景色の中に、自分がいないことが。 臓物を呑み込んだ&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の鉤の嘴が、血に塗れた人間の腹に振り下ろされる。 「あ……ッ!」 食い込む。皮膚を破る。浅い呼吸で上下する肉が銜えられて、引き裂かれる。 「…………っあ……あ……ッ!」 透明な涙が人間の目からこぼれる。 &ruby(バルジーナ){骨纏鷲};は人間の肉片を呑み込むと、腹に開いた穴に頭を潜り込ませて腸を啄む。 「ひ……いッ……ぎ…………」 苦悶に歪み、歯を食いしばった口。はっ、はっ、と荒くなっていく息。 &ruby(バルジーナ){骨纏鷲};がずるずると腹から引き出し、嘴から吊り下げられたピンクの腸。 「あ……あはっ……はっ……あはっ」 人間は涙をこぼして心地よさそうに笑う。 &ruby(バルジーナ){骨纏鷲};が腸を咀嚼するごとに人間の頬に深く笑みが刻まれていく。 頬を伝う涙を、&ruby(ゾロアーク){化け狐};はそっと舐め取る。切なくしょっぱい味が口の中に広がる。 ふっと人間の目元が緩む。ちら、と目線を&ruby(ゾロアーク){化け狐};に留める。 目が合う。&ruby(ゾロアーク){化け狐};は姿を隠さない。茶色の瞳に映る自分の姿。胸中に温かさがじわじわと満ちてくる。 &ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の嘴が、&ruby(ゾロアーク){化け狐};を映す人間の綺麗な茶色の瞳の目を刳った。 人間の甲高い悲鳴が孕む、狂気じみた歓喜の音色。 気色ばんだ&ruby(ゾロアーク){化け狐};の鋭い呼気で&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の姿が微かに揺らぐ。黒い長毛で覆われた&ruby(ゾロアーク){化け狐};の手を、人間の手が握る。 人間の瞼は無残に裂かれ、長い睫毛がめくれ上がった肉片を縁取る。白い視神経が引き出され、深みのある茶色の瞳の綺麗な眼球が&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の嘴に銜えられている。次の瞬間、噛み潰される。 「っ……!」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};が背中の毛を逆立てる。 「こんな風に、望みを絶たれたかった」 虚ろな目で空を仰いで、人間は安らいだ声で言う。 「お前は……これでなにを精算しようとしている」 硬い声で、&ruby(ゾロアーク){化け狐};が問う。 「恐ろしいものを、人はどうやって克服するかご存知ですか?」 &ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の鉤の嘴で啄まれながら、人間は夢見心地の声で囁く。 「私は死にたいわけでも怪我をしたいわけでもなく。無限に再生する不死の体を永遠に壊され続けたいのです」 くす、と笑って。 「恐ろしいものを、遊びにするのです。自分を害さない、扱えるものにしてしまうのですよ」 &ruby(バルジーナ){骨纏鷲};が心臓を引きずり出す。青白い顔の人間は徐々に生気を失っていく。力の抜けた唇を嘴が啄む。露出した歯茎は既に骸骨を思わせる。歯がこじ開けられて、舌が刳り出される。 「遊びだと……?」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は呻く。 「遊びです。私は刳られて、喰われて……なにひとつ傷ついていない」 人間が喉奥で囁く。 幻の中の人間は&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};の嘴に解体されて、白骨が覗いている。青白い釣り鐘の形の花を伝った鮮血が、ぽとりと岩に落ちてひび割れた暗闇に滲み込んでいく。 &ruby(エントランス){玄関の広間};に月光が差す。 人間の茶色の瞳に、黒毛の&ruby(ゾロアーク){化け狐};の姿が映っている。 微かに開いた柔らかな唇。&ruby(ゾロアーク){化け狐};が口の先で触れると、熱い吐息が流れ込んでくる。 そっと舌を滑り込ませると、なめらかな舌が寄り添い、絡められる。 止まらない&ruby(ゾロアーク){化け狐};の唾液を、人間の細い喉が飲み下す。 頭の中がカッと熱くなって、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は心中で独り言ちる。なにをしているのだろう、俺は。 重なった熱が、じんじんと蝕んでくる。 はあっと息を吐いて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は口を離す。人間の唇と&ruby(ゾロアーク){化け狐};の牙を繋いで糸を引く透明な唾液が、ぷつんと切れた。 人間は微かに俯いて、指の側面で唇を拭うと、照れたように笑って&ruby(ゾロアーク){化け狐};を見上げて言う。 「さっきの、生きたまま野生の生き物に食べさせる処刑法」 む、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};の眉間に皺が寄る。 人間はお構いなしに続ける。 「処罰された罪状は」 人間の茶色の瞳の目が潤んで、&ruby(ゾロアーク){化け狐};の翠の瞳を映す。肌が赤らんで上気する。 ぞくぞくと耳をくすぐる掠れた声で、人間は明瞭に言葉を紡ぐ。 「獣との姦淫です」 **4.お前はいま何に発情している? [#f5wilf7] 雑草に埋もれた石畳を人間が歩いてくる。赤いフードから二本伸びた耳に似た突起と長い&ruby(フェイクファー){化繊毛};のマフラーが夜風に靡く。黒いコートの前をきっちりと締めて、膝で漕ぐ草がしゃらしゃら鳴る。 館を仰ぎ見て、鉄の門扉に手を伸ばした時。 「……皮を替えたのか」 背が温かな毛で覆われて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};がすぐ耳元で囁く。熱い吐息が耳朶に触れる。 ふふ、と笑って人間は答える。 「これ、ゾロアークデザインのコートなんです。何年か前、デパートのセールでかっこいいなぁと思って手に入れて……寒くなってきたから、先日出したばかりで……防虫剤の匂いがまだ残っちゃって……虫除けスプレーみたいな匂いがするでしょう?」 「……覚えがあるな。あの人間が森に入る時に吹き付けていた」 「苦手ですか?」 「お前だとわかっていれば平気だ」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の口許が人間の頬に触れて、滑るように人間の唇が重ねられる。 「……ん……ぁふっ……」 人間の吐息が切実に乱れて、縋るように舌が滑り込んでくる。 ふわりと漂う熟れた果実の匂い。 「もう発情しているのか?」 「……んぅう……」 恥ずかしそうに喉を鳴らして人間は唇を重ねたまま囁く。 「まだなにもしていないのに、ドキドキして苦しいくらいなんです」 「変態め」 「んあっ……は……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};が返した言葉だけで、人間はびくんと体を震わせる。 夜風で木々がざわめき、乾いた葉擦れの音が遠くの雨音のように響く。 夜に咲く花の匂いが森の奥から風に乗って&ruby(ゾロアーク){化け狐};の鼻をくすぐる。 「心地好い夜だ、ここで入れてやろう」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};が囁く。 人間の頬が熱く上気する。そして間髪を入れずにこくんと頷き、&ruby(ゾロアーク){化け狐};の胸の柔毛に顔を埋める。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は人間の頭をぎゅっと抱いて、その意識に幻術を滲み込ませる。 赤熱した鉄の棘が乳房に突き立てられた。 塞がれた口からくぐもった悲鳴が漏れる。 痙攣する体。頭上と足下で鉄枷を吊るす鎖が鳴る。 拷問官は火鋏で挟んだ鉄の棘を&ruby(マグマッグ){火精};の背で炙り、事務的に人間の太腿に突き刺す。 ぎゃっ、と喉から苦悶の悲鳴を上げて、人間が呟く。 「正直なところ……拷問は苦手なのです」 苦しげに息を吐いて、 「悪意にはまだ耐性がなくて」 はは、と自嘲する。 「なぜそんなものを出す」 理解できない、といった声音の&ruby(ゾロアーク){化け狐};に、 「史実ですので……」 一息で呟いた後、言い足す。 「なぞっておきたいのです」 気温が下がる。冷たい湿気が傷口を苛む。遥か上に光さす小さな窓。石造りの地下牢。 重い鉄枷で手足を繋がれ、横たわる人間の頬を涙が伝う。 「“私が泣いているのは悲しいからでも悔しいからでもありません”」 複数の声と共に人間が唱える。 「“この苦痛はあの方を愛した証。死がこの愛を揺るぎなく刻む”」 後世に創られた戯曲の台詞です、と人間は言う。 「“これは完結した物語を言祝ぐ涙――”」 成程、芝居がかっている。と&ruby(ゾロアーク){化け狐};は思う。 「“私は真実に背くよりも、罪人でありたい”」 鉄扉が軋む音が重く響き、竪坑の石段に甲高くこだまする。 鎖が引き摺られ石段を打つ音が薄闇に響く。 眩く開いた扉へと無慈悲に引き立てられていく。 一歩、一歩、足を踏み出すたびに焼き刳られた箇所を激痛が貫く。 潮の匂い。焼けた鉄の臭い。 海を仰ぐ広場に引き出された薄金の髪の“名を消された女”は刑場を青眼に映して顔を上げる。 ――人生最期の大舞台だ――。 “&ruby(アルカ){archa}; &ruby(エクス){ex}; &ruby(ミレ){mile};” 審問官が訴状に書かれた名を塗り潰す。 「これは私の名前です、彼女の名前は残っていません」 「アルカ……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};の名を喉で転がして舌に残る響きを味わう。 &ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};をちらと見上げて&ruby(はにか){含羞};むと、真顔に戻って“名を消された女”の身上を述べる。 「彼女は商家の主でした。人と偽った獣を夫とし姦通して子を生したとされています」 「ほう?」 “名を消された女”は広場に響く澄んだ声で宣言する。 「私は騙されていたのではありません。最初から*****の彼を愛していました」 市民の罵声が広場を揺るがす。“名を消された女”は艶然と広場を見下ろす。 「悪魔、魔獣、等と語られていますが、そうは言わなかったでしょうね」 赤熱した鉄の棒が&ruby(アルカ){“名を消された女”};の背に押し付けられる。 苦悶の呻き。白煙が上がり、火傷の印が刻まれる。 「家畜の印か、猟果の肉や毛皮に押されていた印か、判然としませんが――奴隷や罪人ではなく、取引される獣に押される焼印だったと伝わっています……」 歯を食いしばり、荒く息を吐いて、&ruby(アルカ){人間};は語り続ける。 「獣の姿はただ恐ろしい黒毛としか記録されていません。ですが、何年も人の姿を取ってバレずにいられるのは……」 ちら、と&ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};を見る。 微かに誇らしげに目を細めた&ruby(ゾロアーク){化け狐};は、広場に吊るされた自分そっくりの黒毛の遺体にぎょっとする。 投石で無残に崩れた遺体の口から覗く牙。赤い爪。赤い雫が落ちて石畳にどす黒い血溜まりを広げている。 打ち壊された家具が積み上がった火刑台。“名を消された女”の家から持ち出されたものだ。 「この時代、&ruby(おかねもち){素封家};を冤罪で処刑して財産を没収するという資金繰りが各所で横行していました。家具もかなりの財産ですからこれは後世の創作だという説もあるのですが……獣が半ば悪魔と同一視されて恐れられていた時代、名前まで消されたくらいですから……こうであっても、おかしくはありません」 掲げられた松明が取り囲む。 火刑台に鎖で幾重にも縛り付けられた“&ruby(アルカ){名を消された女};”は吊り上げられた黒毛の遺体に頬を寄せる。腐臭が息を詰まらせる。蝿が飛び交い蛆が&ruby(うごめ){蠢};く遺体の口許に、そっとくちづける。無遠慮に這い続ける蛆の舌触りに微かに苛立つ。腐臭の奥の獣の匂いが“&ruby(アルカ){名を消された女};”を満たした。 火が放たれる。煤煙が呼吸を塞ぐ。炎が足を舐め、灼熱が瞬く間に全身に絡みつく。薄金の髪が燃える。皮膚が焼き焦がされて肉汁を垂らし、灼けた鎖が肉を破って骨に食い込み焦がしていく。体の輪郭が崩れていく。どくどくと脈打つ心臓が力を失っていく。 ふっ、と喉奥に呼気が流れ込む。濃厚な&ruby(ゾロアーク){化け狐};の匂い。唾液が流れ込み、舌が絡みつく。 炎は失せて温かな熱が残る。身を苛む鎖が消えて強く抱きしめる&ruby(ゾロアーク){化け狐};の腕が表れる。夜の風が吹く。甘やかな花の薫りが頬を撫でる。 「ん……ふ……」 互いの熱に浸ること数刻、あふれた唾液が&ruby(アルカ){人間};の喉を濡らしていく。 ぬちゃ、と音を立てて離れた&ruby(ゾロアーク){化け狐};と&ruby(アルカ){人間};の熱い吐息が交差する。 潤んだ茶色の瞳で哀しげに見上げて、&ruby(アルカ){人間};は小首を傾げる。黒髪がさらりと流れる。 「人間が、お嫌いになりました、か……?」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は翠瞳を燃やして牙を剥き出す。 「馬鹿にするな」 &ruby(アルカ){人間};の顎を押し上げて、喉を濡らす唾液を舐める。 「……あっ……」 ひくつく喉から耳元までを舐め上げて、囁く。 「お前はいま、何に発情している?」 「……っ!」 びくんと震えた&ruby(アルカ){人間};の体が急激に熱を帯びる。 綺麗な茶色の瞳を覗き込んで、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は迫る。 「答えろ」 くっ、と&ruby(アルカ){人間};の口許が深く追い詰められた笑みを刻む。幻の&ruby(バルジーナ){骨纏鷲};に内臓を喰われていた時と同じ表情。 「……あなた、です」 どぷ、と濃くなった熟れた果実の匂いが&ruby(ゾロアーク){化け狐};の鼻をついて頭を痺れさせる。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};を掻き抱いて浅く息を吐き、掠れた声で囁く。 「俺も発情している。……どうしたい?」 &ruby(アルカ){人間};は幸せそうに熱く震えた息を吐いて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};の下腹の和毛にわしゃわしゃと指を絡ませ……硬くそそり勃った性器をつぅとなぞった。 「……っ」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の背中の毛がぞわぞわと逆立つ。 と、&ruby(アルカ){人間};は戸惑ったような半笑いで呟く。 「……どうしましょうか、ね?」 ちょこん、と首を傾げる。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は牙を剥き出して鋭く息を吐き、&ruby(アルカ){人間};の意識に幻覚を流し込む。 暗闇の中で。 ぐちゃっ、ぬちっ、……淫猥な音が響く。 「んはぅっ……ぁあっ……!」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の突き上げに&ruby(アルカ){人間};はあられもなく蕩けた声を上げた。 抵抗も戸惑いもなく、待ち望んでいたものが与えられた、という風に。 「お前……」 言いかけて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};の白い肌に戸惑う。体毛の無い、剥き出しの素肌。 &ruby(アルカ){人間};は恥ずかしそうに顔を俯けて、小声で問う。 「……醜いと、思いますか……?」 「いや……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};の鳩尾に唾液を落として胸の谷間から喉までをゆっくりと舐め上げる。 はっ、はっ、と&ruby(アルカ){人間};は小刻みに息を吸ってあえぐ。乳房が上下して太腿が&ruby(ゾロアーク){化け狐};の腰をきゅっと挟む。 「……気に入った」 低く告げる&ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳を、 「よかった……です」 &ruby(アルカ){人間};の心底安堵した声が擽る。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は幻術を解く。 草原を月明かりが照らす。 潤んだ茶色の瞳。大きく見開いた目で、&ruby(フェイクファー){化繊毛};の被覆に身を包んだ&ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};を見上げている。発情して色づいた頬で。甘みを含んだ吐息で。 &ruby(アルカ){人間};を翠瞳に映して、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は掠れた声で問う。 「いいな?」 &ruby(アルカ){人間};は顔を火照らせてあえぐように、はっきりと答えた。 「はい……っ」 **5.綺麗に咲いていくんだよ [#xOreXAA] 森の獣道を手を繋いだ&ruby(ゾロアーク){化け狐};と&ruby(アルカ){人間};が抜けていく。 木々を抜ける風に白い花びらが交じってくる。 花の香りが濃くなっていく。 岩を登って倒木を潜り抜け、幾重もの蔦を掻き分け、景色が開けた。 星空を背負った斜面に、真っ白な花畑が広がっていた。 花の匂いを胸いっぱいに吸い込む&ruby(アルカ){人間};の手を引いて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は花畑の中へ歩を進める。翠の瞳が白い花々を映して艶を強める。握った肉球からとくとくと&ruby(ゾロアーク){化け狐};の速い心拍を感じて、&ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の表情を窺う。赤い豊かな&ruby(たてがみ){鬣};が薫風に遊ばれて波のようにうねる。切なげに真っ直ぐに前を見つめる、その視線の先で。 こぼれるほどに咲き誇った大きな白い花が、茎を捩って&ruby(ゾロアーク){化け狐};に向いた。 萼のような長い睫毛の、&ruby(フラージェス){花精の女王};。眩い美しさに、&ruby(アルカ){人間};は息を呑む。 「帰ってきたんだ」 温かいハスキーボイスを奏でる&ruby(フラージェス){花精の女王};に、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は抑えた遠吠えで答える。 「ああ」 「そいつは?」 と、&ruby(フラージェス){花精の女王};は&ruby(アルカ){人間};に艶やかな視線を向ける。 気恥ずかしく俯いた&ruby(アルカ){人間};の頬に口許を寄せて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は熱い舌で舐めた。 はうっ、と息を乱して&ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の腕にぎゅっとしがみつく。 「すみません……」 真っ赤な顔で控えめに会釈をする人間を見て、&ruby(フラージェス){花精の女王};はにたりと笑う。 「つがいか。人間は厄介だぞ?」 「ああ、知っている」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は昂然と顎を上げて目を細める。 「あの館の&ruby(ヌシ){主};は邪悪だっただろ?」 「ああ……ひどい奴だった。俺には優しかったが……」 耳をぴくぴくと回して言葉を探す&ruby(ゾロアーク){化け狐};に、&ruby(アルカ){人間};がぽつりと言い添える。 「……哀れな人、でしたね」 頷き、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は言う。 「ああ。哀れな……救われない奴だった」 一呼吸置いて、音のない幻の声を響かせる。 俺はあいつを救ってなんかいない。 過去の夢に似た涼やかな寂寥。 ふふん、と安堵したような笑みを浮かべて&ruby(フラージェス){花精の女王};は言う。 「寂しかったぞ、君があの館で亡霊に囚われてしまって」 「俺は、独り占めできるナワバリが欲しかっただけだ」 むっとしたように&ruby(ゾロアーク){化け狐};は言い返す。 「もういいのかい? ……それとも、僕に挨拶しに来ただけ?」 「風に当たりたくなった……それだけだ」 「それは、いつまで?」 「……さあな」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};を抱き寄せて&ruby(フラージェス){花精の女王};に言う。 「お前の庭を借りるぞ」 「ま、恥知らずな子だことっ」 「お前がつがいができたら使えと言ったんだろうがっ?」 「あーあ、すっかり盛りがついちゃって」 &ruby(フラージェス){花精の女王};はくすくすといたずらっぽく笑う。 「いいよ、君たちは随分と熟しているみたいだからね」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};に手を引かれ、気遣わしげな視線を送る&ruby(アルカ){人間};に、&ruby(フラージェス){花精の女王};は艶やかに微笑んで言った。 「甘い露をたくさん&ruby(こぼ){溢};して、綺麗に咲いていくんだよ」 夜に咲く花の切ない匂いに囲まれて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};と&ruby(アルカ){人間};は熱い口許を触れ合わせて舌を絡め合った。境界なく蕩け落ちていく感触。熱い肌を阻む服がもどかしくて、&ruby(アルカ){人間};は手探りで次々と留め具を外していく。 柔らかい草の上で、&ruby(アルカ){人間};は&ruby(フェイクファー){化繊毛};の被覆から羽化した。 幻の中で見た白い無毛の肌。湿った鼻を押し付けて胸いっぱいに吸い込むと、&ruby(アルカ){人間};の匂いが体中に満ちた。&ruby(ゾロアーク){化け狐};は舌を擦る肌の味に夢中になる。 「んふ……心地好い、です……」 &ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳を甘噛みして囁く。 「好き……貴方が大好きなんですよ……本当に……ひぁ……あっ……」 &ruby(アルカ){人間};の大きく膨れた胸の頂で硬くなった乳首を舌に埋めて舐め上げると切迫した息遣いで喉を鳴らしてあえぐ。 「ぞくぞくします……とけ、ちゃいますっ、それはっ……ああっ……」 ねだるように胸を反らせて、&ruby(アルカ){人間};は舌を覗かせて澄んだ響きの声を上げる。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳の裏の赤い&ruby(たてがみ){鬣};に指を埋めてさわさわとくすぐって、か細く囁く。 「貴方にとって、私が美味しければいいのですが……」 「アルカ」 嗜めるように&ruby(ゾロアーク){化け狐};に名を呼ばれて、びくんっ、と&ruby(アルカ){人間};は熱く身を震わせる。 「舌に心地好い味だ」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は翠の瞳を光らせて喉奥で唸る。 「食い破りたくなる……」 鋭い牙が&ruby(アルカ){人間};の柔らかな肌を押す。 「食い込ませて、ください……」 吐息と共に&ruby(アルカ){人間};が言う。 む、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};が眉間に皺を寄せる。 「怪我をしたいわけではないと言っていただろうが」 「ええ、でも……貴方のくれる痛みなら欲しい……貴方が私を欲してくださった傷なら、つけて貰いたい……この体に刻んで欲しいんです……」 切なげに潤んだ茶色の瞳の目。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は翠眼を合わせたまま、乳房に触れた牙を少しずつ食い込ませる。 「っ……痛……」 苦しげに歪んだ&ruby(アルカ){人間};の顔。力を緩めた&ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳の後ろを&ruby(アルカ){人間};は指先で優しく掻いて言う。 「やめないで……痛いのが気持ちいいんです……」 涙が伝う頬を深い笑みが刻む。 滲んだ血の匂いが&ruby(ゾロアーク){化け狐};の鼻腔を満たして甘く舌に触れた。 頭の中が痺れて、顎に力が入る。牙が柔肌を破って食い込んでいく感触。 「くっ……この痺れるような痛みが……疼き続ける限り、私は貴方を感じられる……」 大粒の涙が&ruby(ゾロアーク){化け狐};の瞼を打った。 幻の中で見た、&ruby(アルカ){“名を消された女”};の胸に脚に突き刺される灼けた鉄の棘……恐ろしくて目を逸らしたあの光景にあったのは、人間の肌だ。 こんなにいい匂いの、柔らかくて心地好い……。 顎を緩めて溢れる血を舐め取る。 あの凄惨な情景は恐ろしいものを克服する手段としての遊びだと&ruby(アルカ){人間};は言っていた。吊られて腐った自分そっくりの遺体……&ruby(ゾロアーク){化け狐};は顔を顰める。&ruby(アルカ){この人間};は俺を失うことを恐れて、覚悟している。それもなんだか癪に障る。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};の頬を伝う涙を舌で拭って囁く。 「俺はいなくならない。やられもしない。人間の街にだって入れる」 「……お人好し、なんですから……私につきあうことなんかないのに……」 涙声で&ruby(アルカ){人間};は寂しげに微笑む。 「侮るな、人間。お前が俺の何を知っている?」 かぷ、と&ruby(アルカ){人間};の首筋を甘噛みして&ruby(ゾロアーク){化け狐};は唸る。 「逃がしはしない……俺だって離れているのは辛い」 はぅっ、と息を乱して愛しげに頬を寄せる&ruby(アルカ){人間};と目を合わせて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は語調を強めて念押す。 「お前は俺から逃げられない。二度と」 通じているのだろうか。不安がじわじわと膨らんでくる。 「俺は鼻が利く。何処へ行こうと探し出す」 威嚇めいて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は鋭く息を吐く。 &ruby(アルカ){人間};の茶色の瞳が潤んで、瞬きする。 「……ありがとう、ございます……」 朝露のように透明な涙を&ruby(こぼ){零};して&ruby(アルカ){人間};は掠れた声で言った。 「そう想って頂けるのが嬉しくてっ……嬉しい……大好きです」 ぎゅ、と&ruby(ゾロアーク){化け狐};を強く抱き締める。 「好きです、……貴方が好きです……」 嗚咽のように繰り返す&ruby(アルカ){人間};の黒髪を、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は赤い爪でゆっくりと梳いた。 熱い体。速い心拍。 はち切れそうな性器に&ruby(アルカ){人間};の蜜がぬるりと絡んだ。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};の腰を掴んで太腿の間に性器を潜り込ませると、熱の源にあてがう。 微かに怯えた目で&ruby(アルカ){人間};が&ruby(ゾロアーク){化け狐};を見下ろす。 「……怖いのか?」 「体の中なので……どんな痛みなのか……」 んくっと唾を呑み込んで、&ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の肉球に指を絡めてゆっくりと腰を下ろす。先端から、どぷり、と柔らかい熱の泥淵に呑み込まれていく感触。しっとりと肉の襞が絡みつく。少し狭くなったところを突くと、 「い"っ……あ"……っ!!!」 &ruby(アルカ){人間};が歯を食いしばってぼとぼとと涙を落とす。力を込めて耐える腹部が凹んでその奥ではぬめった柔らかな襞が絞るように性器を掴んでくる。ぞわぞわと毛が逆立ち、溶け落ちそうな腰が震える。おかしくなりそうになって、&ruby(アルカ){人間};の奥へと&ruby(ゾロアーク){化け狐};は懸命に性器を突き上げる。熟れた果実の匂いの奥で微かに鼻腔を擽っていた血臭が鮮明になる。 「あっ……がっ……すごい、……っ」 &ruby(アルカ){人間};は大粒の涙を落としながら深い笑みを刻む。 「串刺されてる……痛っ……あっ……生きたまま、裂かれ、てる……っ」 &ruby(アルカ){人間};が&ruby(ゾロアーク){化け狐};の肉球をぎゅっと握る。 中の熱さが増して、奥からどぶりと熱の塊があふれて&ruby(ゾロアーク){化け狐};の性器を包んだ。 「痛ぁあ……なか、えぐられてる……んふっ、もっと……つらぬいて……ころし、て……っ」 可憐な忘我の声。涎を溢れさせた唇。跳ねた黒髪が&ruby(ゾロアーク){化け狐};の赤い爪をくすぐる。 死なないでくれ、という言葉を呑み込んで。&ruby(アルカ){人間};の美しい苦悶に掴まれたように性器が反応していることに慄然としながら。 &ruby(アルカ){人間};を抱き寄せて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は囁く。 &ruby(アルカ){人間};を昂ぶらせる言葉を。 「生きたまま苦しめ」 「っあぁ……!」 蕩けた悲鳴。きゅううっと&ruby(アルカ){人間};の中が強く締め付けられる。思わず腰を浮かせて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は呻く。 「……耐えろ、アルカ」 「っ……うんっ……! がっ……は……っ!」 衝き動かされるままに刳り込み、&ruby(アルカ){人間};の腰を押し付ける。耳元で&ruby(アルカ){人間};のくぐもった悲鳴、腕の中で突き上げられる度に強張る熱い体。爪が食い込んで新たな血臭が立ち上ってくる。&ruby(たてがみ){鬣};に埋もれて首筋に縋り付く&ruby(アルカ){人間};の指。ひゅ、ひゅ、と喉を擦る悲鳴の間の苦悶の呼吸。 「っ……!」 どぷ、と性器を貫く熱い塊。 んふ、と&ruby(アルカ){人間};の吐息が耳の毛を揺らす。 「中に叩きつけられています……ふふっ、注ぎ込まれてる……」 うっとりと&ruby(アルカ){人間};が囁く。 止まらない射精感。粘液で内側を擦られ続けるぞわぞわした不快な快感。眉間に皺を寄せて耳をぴくぴく動かしながら、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は囁く。 「痛みは」 「怪我をしたくらい、です。お腹の中、ずきずき疼き続けて……しあわせ、です……」 深い、安らいだ呼吸。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};の黒髪を撫でる。交差する二つの呼吸と二つの鼓動。ふたりは繋がったまま、溶けるように眠りに落ちていく。 白い花の匂いが血臭と体臭を薄れさせて、夜が終わってゆく。 柔らかく伸びた草の中で&ruby(アルカ){人間};は目覚めた。 服ははだけたまま。仰向いてすうすうと寝息をたてる&ruby(ゾロアーク){化け狐};と繋がったまま。少し肌寒い。 意識がなくなるまでずきずきと疼き続けていた痛みはすっかり治まっていた。 半身を起こすと、下腹が妙に張っている。 なんだろう。一晩で妊娠するわけがないし……? &ruby(アルカ){人間};は険しい顔でそっとお腹を撫でる。 「あぁ、起きた?」 温かなハスキーボイス。すぐ傍に&ruby(フラージェス){花精の女王};が立っていた。 「グラスフィールド……治してくださっていたのですね」 &ruby(アルカ){人間};たちの周りだけ、淡い燐光を纏って草が長く伸びている。 ポケモンが一時的に発生させる、活性化した草叢。そこにいる生き物すべてを治癒する効果がある。 「まあね」 ふふん、と得意げに長い睫毛を聳やかし、咲き誇る花の襟巻きをしゃらっと揺らして、&ruby(フラージェス){花精の女王};は&ruby(アルカ){人間};に向き直る。 「立てる?」 「……やってみます」 差し出された細い小さな手を取って、脚に力を込めるとぶちゅっと音がして接合部からどろりと濃い粘液が溢れてくる。 「うわ」 ずるりと縮んだ&ruby(ゾロアーク){化け狐};の性器が抜けて、膝立ちになった脚の隙間に血混じりの白濁液がとめどなく伝い落ちてくる。 「ぇ……こんなに……?」 濃縮された獣臭が漂う。 &ruby(フラージェス){花精の女王};は&ruby(アルカ){人間};の太腿を伝う&ruby(ゾロアーク){化け狐};の精液を手の平で拭い取って、あむ、としゃぶりつく。 「え、ちょ……?」 「ふぅん、こんな味なんだ?」 艶やかに笑って、&ruby(フラージェス){花精の女王};は白い手を&ruby(アルカ){人間};の太腿の奥へと伝い上らせる。 「ま、待って……どうして」 「いいでしょ? これくらい」 「えっ、ちょ、……んひっ」 つぷ、と冷えた手を挿れられて&ruby(アルカ){人間};が小さく呻く。 「静かに、黒狐くんが起きるよ」 「……私は、起きてこられても構わないです」 「……恥知らずだな、君は」 呆れたように半眼になる&ruby(フラージェス){花精の女王};に、 「じゃあ、これは……どうなんですかぁ……」 困ったように&ruby(アルカ){人間};が抗議する。 「君たちは別に食べないでしょ、これ」 くちゅ、と中で手を動かされて 「んっ……」 &ruby(アルカ){人間};が眉根を寄せて呻く。 「……食べるんですか」 「好物なんだ♪」 「ぇえ……?」 「もらうよ♪」 「あ、はい……っ!」 羞恥で身体が強張ると同時にどぷりと奥から&ruby(ゾロアーク){化け狐};の精液が溢れてくる。 「お腹に力入れないで、もったいない!」 ぺち、と太腿を叩かれる。 「う……すみません……」 蜂蜜を食べるヒメグマのようなものか、と&ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の精液を掬っては上品に啜る&ruby(フラージェス){花精の女王};を眺める。 中を散々まさぐられて身体が熱くなってきた頃に、&ruby(フラージェス){花精の女王};がちらと&ruby(アルカ){人間};を見上げて言う。 「素直でいい子だね、君は。僕専用の精液袋にならない?」 「なりません」 「いろんなポケモンと交尾できるよ?」 「この方以外はイヤです」 「あっそぉ。一途なんだね」 「大好きなひと以外はイヤってひと、多いと思いますよ?」 「じゃあ僕はどうなの? こんなことされて」 「……お食事じゃないんですか?」 「あ、食事ならいいんだ?」 にやりと笑って、&ruby(フラージェス){花精の女王};は&ruby(アルカ){人間};の奥で小さな指を&ruby(うごめ){蠢};かせる。 「っ……」 「あったかくなっちゃって。これはお礼だよ、気持ちよくしてあげる」 「……私のこと、お嫌いですか……?」 「えー、どうしてそう思うかなー?」 「なんとなく……」 「これは好意だよ? ほら」 淡い燐光を纏った草から蔓が伸びて&ruby(アルカ){人間};と&ruby(ゾロアーク){化け狐};の体に巻き付くと、じわじわと絞めつける。 「んっ……」 「こういうの好きでしょ」 「はう……好きですが……好きですがどうしてこの方まで縛っているんですかっ」 「もうすぐお目覚めだから」 「っ……!?」 「僕にイかされちゃうところ、見てもらおうね♪」 「やっ……あ……そんな……のっ……」 「中が熱くなったね♪」 「……っ、それはっ、見て欲しいですけれどっ」 「へぇ、認めるんだ。変態」 「っ……どうしろっていうんですかっ!」 &ruby(アルカ){人間};が顔を真っ赤にして言い返した時。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};がぴくぴくと耳を動かして、翠の眼を開ける。なり、叫ぶ。 「なにやってんだヴァレンティナ!? アルカ!? わ、動けないぞなんだこれ!?」 「……ヴァレンティナ?」 「僕の名前」 &ruby(フラージェス){花精の女王};がこれ見よがしに&ruby(アルカ){人間};の奥を攻める粘ついた水音がもがく&ruby(ゾロアーク){化け狐};の耳に響く。ぐちゃっ、ぬちゃっ、ずちゅっ、ずぽっ。 「わーなにやってんだホントなにやってんだ、お前ら雌同士でなんの遊びだそれ卑猥だぞ!」 「アルカぁ」 くすくす笑って&ruby(フラージェス){花精の女王};が囁く。 「どうして欲しいんだっけ?」 「うっ……くうっ……」 羞恥に身を震わせて、&ruby(アルカ){人間};は黒髪の隙間から茶色の眼をおずおずと覗かせて、掠れた声で&ruby(ゾロアーク){化け狐};に言う。 「あの……見て、ください……私が、この方に……あっ……なか、触られて……んぅうっ、イかされちゃうところ、見ていて、ください……」 無言で全身の毛を逆立てた&ruby(ゾロアーク){化け狐};は、ふっと毛並みを平たくして半眼で言う。 「……この変態どもが」 「っはぁあ……っ……」 &ruby(アルカ){人間};は&ruby(ゾロアーク){化け狐};の言葉で体中をガクガクと震わせて絶頂する。 楽しげに眺めていた&ruby(フラージェス){花精の女王};は、 「あ、もうイっちゃった。まあ黒狐くんもこんな風にね、ちゃんと気持ちよくしてあげなよ……ってアルカ!?」 腕を強く締め付けられて狼狽える。 「食べないで!? 放しなさいっ」 「っあ……な、なかでうごさないでっ……んっ……ひ……っ」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は耳をぺたんと平たくして呟く。 「……本当に、なにやってんだお前ら」 山頂は晴天。遥か下に、森と、白い花畑と、草原と、古びた館と、その先に街と湖が見える。 「俺……あいつのああいうところ、あんまり好きじゃない」 白い花畑を見下ろして&ruby(ゾロアーク){化け狐};が言う。 「そもそもなんで、あ、あんなことに、な、なっていたんだ?」 動揺をぶり返して毛を逆立てながら問う&ruby(ゾロアーク){化け狐};に、微かに顔を赤らめた&ruby(アルカ){人間};は俯いて答える。 「……精液が大好物、らしいんです。それで私の中に詰まった貴方の精液を……」 「うわぁああああああ」 「でもあの方、貴方のことが好きなんじゃないでしょうかね。お邪魔虫の私に……」 「いやっ、違う!」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は髪束でぱしんっと岩を叩いて断言する。 「噂には聞いていたんだ、あいつが……そういうの……食べるって……でもな、でもな、そんな、そうだとは思わないだろ!?」 青空に向かって吼えて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は疲れた顔で俯く。 「……知りたくなかった……」 慰めるように&ruby(ゾロアーク){化け狐};の肩を叩いて、&ruby(アルカ){人間};が言う。 「貴方の前では、みんな善いひとになるみたいですね」 皮肉に牙を剥き出して、&ruby(ゾロアーク){化け狐};が返す。 「お前は口が巧い」 ふと真顔に鳴って&ruby(アルカ){人間};が呟く。 「……ヴァレンティナさんの前では全く駄目でした」 「この森と同じくらい生きているらしいからな……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};が呻く。 「私、そんな方に……光栄かも……」 「あ"?」 「んっ……」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};の舌で口を塞がれて、&ruby(アルカ){人間};の目が瞬く間に蕩ける。 舌を絡め、たっぷりと唾液を飲まされて。 「このド変態が」 吐き捨てられる。 「っあぁ……すみません……」 「後で咬んでやる」 「咬んでくださいっ」 芳醇な薫り。また発情している。 &ruby(ゾロアーク){化け狐};は&ruby(アルカ){人間};の黒髪を掻き分けて額にくちづける。 「貴方は……なんという名前なんですか?」 &ruby(アルカ){人間};が神妙に問う。 「……相手によって違う」 答えて、&ruby(ゾロアーク){化け狐};は翠の瞳で&ruby(アルカ){人間};の茶色の瞳を射抜いて問う。 「お前は、俺をなんと呼ぶ?」 &ruby(アルカ){人間};は姿勢を正して答える。 「……名付けることは、あり方を定めること。名前を使う限りはその音と意味に縛られることになります。もし私が、貴方を好きに呼んでいいのなら」 唇を引き結んで、唾を呑み込んで。&ruby(アルカ){人間};は言葉を紡ぐ。 「&ruby(スイム){翠夢};」 &ruby(みどり){翠};色の瞳が綺麗な、夢を操るお方。と、&ruby(アルカ){人間};は解説する。 「貴方らしい呼び名だと思います、どうでしょうか?」 &ruby(ゾロアーク){化け狐};はにやりと笑って答える。 「いい名だ、気に入った」 RIGHT:(2021.11.30) [[天波 八次浪]] ---- LEFT: [[第十回帰ってきた変態選手権 結果発表>https://vote.pokestory.pgw.jp/old/hentai_10.html#15]] ↑こちらで頂いたコメントへのお返事↓ &color(black,wheat){視界しか幻惑できないはずのゾロアークが、被術者の体験を重ね合わせるとはいえこうも痛みを覚えさせるのはすごい。過去の幻影を再現しながら、それを猟奇な彼女と思い返し、人間の心の絶妙な感覚を追体験していく。豪華なパーティが館主人の悪意に染まっていくシーン、時の無常さとか惨さみたいなのが精緻に描かれていてすごい……映像で見たかったくらい。それからバルジーナに食いちぎられるのは自分の理想の死に方なのでこれは羨ましい……! 腸を引きずり出され、血液を唇から滴らせながら、あの真っ黒な瞳で見下ろされる。さいこお……。}; &color(black,wheat){ちょっとまだ文意を掴みきれていなくて、なんで濡れ場になったのかもピンと来てないんですけど、なんだかとってもよかったです! (2021/12/18(土) 14:07)}; 視界しか幻惑できないんですかっそれは知らなかったです! ふふ、お好みに合ってなによりです! たいへん嬉しゅうございます! えーとですね直接言葉では言うてないんですがアルカさん遠回しにヤりたいって告白しまくっています。 濡れ場がもし館の外の場面のことならあれは意思確認の幻覚です。アルカさんがすごく積極的なのになんか躊躇っているからヤってる幻術を見せて反応をみたのです。 楽しんでくださってホントありがとうございます! &color(black,wheat){取り返しの付かない程の体験が快楽になってしまう癖は幻影ととても相性が良さそうですね。ごちそうさまでした (2021/12/18(土) 21:35)}; まさに理想の組み合わせですよねー。 味わっていただけてなによりです。ありがとうございます♪ &color(black,wheat){性癖が深くてよかったです (2021/12/18(土) 22:26)}; ふふふふふふありがとうございます! #pcomment()