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幸せ配達人 ~幸せ、足りてますか?(前編) の変更点


このお話は、昨年のクリスマス用に書き下ろした短編、幸せ配達人~Happy Delivery Service~の続編に当たります。 
バックグラウンドを知るためには前作を読む事をおススメしますが、未読でも理解できる内容だと思います。 


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幸せ、足りてますか?(前編)


僕はデリバード。雪山で小さな配達事務所を経営している。 
サンタクロースの資格を得て早5年。ようやく僕もトナカイと契約できる事になった。 
ここで、「トナカイ」について少し説明しなくちゃならない。 
「トナカイ」とは、童話などではサンタクロースのソリを引く生き物だと伝えられてきたが、実際はサンタクロースを補佐する者の事で、業界では彼らのことを「トナカイ」と呼んでいる。 
「トナカイ」になるにも資格が必要で、見習い期間である5年を経過したサンタとのみ契約をする事ができる仕組みだ。 




「絶対トナカイとは組んでおいた方が得だって!」 
3日前の事だ。 
僕と同期のサンタクロースで、友人でもあるピッピは、テーブルに並べられた新人「トナカイ」の写真をまるで見合い相手を探すかのように熱心に眺めながら言った。 
「別に仕事には困ってないよ。収入だってそんなに無いのに、トナカイと分け合ったりしたら火の車だよ」 
と、これは僕の言い分だ。 
「今時ピンでやってるサンタなんか会長くらいだぜ?・・・お、この子カワイイじゃん」 
会長とは、言うまでも無くサンタクロース協会の会長、フシギバナ老のことだ。今年で70歳を超える現役最高齢のサンタクロースだ。 
ピッピは無数に散らばった写真の中からお気に入りのライチュウの女の子を見つけ、ニヤリとした。 
「それによ、知ってるか?トナカイの中には、サンタと関係を持ちたくてトナカイになった奴だっているらしいぜ・・・」 
その言葉に僕は不覚にもピクリ、とした。ピッピもその反応を見て満足したようだ。 
「そ、そんな卑猥な・・・。僕らは由緒正しきサンタクロースなんだよ?そんな不真面目な事でいいのか?」 
僕は彼の目をなるべく見ないようにして答えた。第一、僕には付き合っている大事な彼女がいる・・・。 
「とぉにかく!いっぺん協会に行って、トナカイさんと会ってみるだけ会ってみろよ。もしかしたら、お前の事を気に入ってくれる男もいるかもしれねぇぜ」 
一瞬で鳥肌が立った・・・まぁ、もともと僕は鳥ポケモンなんだけど。 
「お、男なんて・・・やめてよ!もう・・・」 



(・・・まぁ、行ってみるだけならいいか・・・) 
というわけで、僕は5年ぶりにサンタクロース協会・本部に出向いているという訳だ。 



協会は人里離れた山奥にある。 
毎年約100匹のポケモンがサンタクロースを夢見て試験を受けに来る会場でもある。 
モミの柄を模した大きな正門の前で、門番のカイリューに止められた。 
「登録ナンバー20653、デリバードです」 
僕は免許証を門番に掲示した。 
門番は免許証と僕とを交互に見比べた後、小さくうなづいた。 
「結構。案内しよう」 
カイリューは大きな門を軽々と押し上げると、僕を中へと促した。 



「デリバード・・・ふぅん、今年で6年目に入るのか。ってことは、今日はトナカイと契約をしに来たのかい?」 
カイリューは僕の免許証をしげしげと眺めながら聞いた。 
「ええ、まぁそんな所です」 
「今年のトナカイは結構骨のいいのが揃ってるぜ」 
そうして僕が案内されたのは、小さな部屋だった。その部屋には特に何も無く、場違いな程大きな窓があるだけだった。 
「見てみ。トナカイたちは今、昨年のクリスマスの仕事整理をしてるところだ。さ、好きな奴を選びな」 
大きな窓から見えたのは、広いフロアでせわしなく動き回るポケモン達だった。見ただけでもざっと100匹はいる。 
「ひゃぁ~、とてもこの中からなんて選べないよ!」 
「かもしれねぇな・・・。なんだったら俺がお前さんに合いそうな奴を見繕ってもいいぜ?・・・そうだな、あのグランブルなんかどうだ?研修をダントツトップの成績でパスした優秀なトナカイだ」 
彼が指を指した先には、まるで男なんじゃないか?と思う程体格のいいメスのグランブルが、今まさにダンボールの箱を抱えようとしていた。 
「それで、あっちのコイルは随分細かい作業が得意だし、あ、あのキュウコンもいいな。なんたってスタイルがいい・・・」 
カイリューは積極的にメスのポケモンばかりを薦めてきた。やはり、僕もそういう目的で来ていると思っているらしい。 
僕は何だか恥ずかしいような、情けないような気分になった。 



「あの・・・やっぱり僕は・・・」 
断って帰ろうと思ったそのとき、ふと1匹のグラエナが目に入った。 
その子は他のポケモンと明らかに様子が違っていた。まるで仕事が手につかない様に、フロアをウロウロしていた。 
カイリューは僕の目線の先にその子がいる事に気づくと、へぇ、とつぶやいた。 
「悪いが兄さん、あのポケモンだけはやめといた方がいいぜ?あいつ、毎年受験して毎年落とされてんだ。やっとこさ今年は受かったみたいだが、それでもビリの成績だったらしい。ま、典型的なノロマさ」 
彼はそういったが、僕はなぜかその女の子の事が気になった。 
「すみません、あの子とお話だけでもさせていただけませんか?」 
「そりゃあ構わんが・・・俺の話を聞いてたのか?」 
門番はその後もなにかブツブツと呟いていたが、下にいる仲間に彼女を連れてこさせるように指示した。 



数分後、彼女は部屋に入ってきた。 
目線はキョロキョロと定まらず、下ばかり見ている。 
見たところ、僕より2、3年下のようで、まだ幼さが残る顔立ちをしている。 
「あのぅ・・・私、やっぱりクビですか・・・?」 
「おい、このサンタさんがあんたと話がしたいとよ」 
「え・・・?」 
その時、彼女は初めて僕を見た。泣いているわけでは無いのだが、その瞳はやけに潤んでいた。 
「はじめまして。今年で任期を5年終えたデリバードです」 
僕は右手を差し出した。だが、彼女はただキョトンとしているだけだった。 
僕はそのまま右手を自分の頭に持っていった。困ったな・・・話をしたいとは言ったが、何を話そう・・・。 
意外にも、話しかけてきたのは彼女の方からだった。 
「さ・・・サンタさん。わた、私、一生懸命働きます。だから・・・」 
(まいったな・・・あんな瞳で見つめられたら・・・) 
「お掃除だってします。り、料理も作ります・・・田舎料理、ですけど」 
「兄さん、どうすんだい?このトナカイと契約するのか?」 
カイリューは信じられないというような顔で僕らを見ていた。 
「じゃあ、一つだけ聞いていい?君は何度もトナカイ試験を受験したみたいだけど、どうしてそこまでしてトナカイになりたかったの?」 
彼女は僕の言葉の一言ずつに小さく反応した。 
そして何度も頭をぺこぺこと下げながら答えた。 
「私、ホントはサンタさんに憧れてました。・・・で、でも、私、頭が悪いから、サンタさんにはなれないとおもって、それでトナカイになってサンタさんのそばに居たいって、思いました・・・」 
彼女は一生懸命に気持ちを伝えようとしていた。僕はその姿に、か弱い小動物を連想した。 
同時に、僕はなぜこの子に惹かれたのかを悟った。 
そして、その後僕が取るべき行動は心の中では決まっていた。 
「君、僕と契約しないかい?」 



契約は思いのほかスムーズに行われた。 
会長の部屋で書類にサインをし、グラエナの為のトナカイ免許証を製作して終わりだ。 
「ふむ・・・では、たった今からお主ら2匹はパートナーじゃ。しっかりやれい」 
会長が相変わらずおっとりした口調で言った。 
2匹が会長に頭を下げ、部屋を出ようとした時、デリバードは会長に呼び止められた。 
「デリバードや。まだお主の考えは変わってはおらんのかの?」 
「会長・・・まだ諦めてなかったんですか?」 
会長の目は何時に無く寂しげだった。 
「わしは・・・お主がわしの元に来るまでこの椅子に座り続けておるよ」 
「・・・失礼します」 
デリバードはもう一度頭を下げ、重い扉を閉めた。 



 ――――後編 


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メッセージ等ありましたら、お願いします。
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