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少年の英雄譚 プロローグ の変更点


[[ダフネン]]


「急がなくちゃ……早くしないと、間に合わなくなっちゃう!」  
 すっかり夜も更け、真っ暗な森の中を僕はただ駆け続けていた。
不吉に赤く染まった満月が照らす木々達は強い風に揺らされ、葉達が擦れ合う音はここから立ち去れと言う呻きのようで、揺れる枝達は今にも僕を捕らえようと蠢いているようで。とにかく怖くて足が竦みそうだったが、とにかく走り続けた。そもそも足はもう走れる限界などとっくに過ぎていて、無意識が止まってしまえと囁き続けている。それでも僕は足を止めなかった。いや、止めてはいけなかった。ふっと後ろを振り返る。誰に追われてるわけでもない。それでも何かに追われているような気がしてならない。
「あっ……!」
 よそ見をしている間に、木の根っこが足払いをかけてきた。僕の前足は見事に引っ掛かり、身体が宙に浮いた。一回転してから激しく身体を叩きつけられ、何度かバウンドしながら慣性に引きずられ、しばらく――5秒くらい転がり続けてやっと速度が落ち、静止した。
正直、もう限界だった。擦り傷でボロボロになった体は、もう殆ど動いてくれない。もう、間に合わないのかな……?無力感に襲われ、天を仰ぐ。真紅に染め上がった月が無様な僕を嘲笑う。悔しくなるのと同時に、自分のやらねばならぬこと、やはり走り続けなければならないことを知った。せめてここが、『あの場所』の前だったら……。叶わぬことを夢想しながらも、何とか身体をうつ伏せに倒し、痛みに軋む五体に鞭を打ち立ち上がろうと――
「……え?」
前を向けば、目の前には広大な湖が広がっていた。――そうだったらいいな、とは思っていたけど、まさか本当に&ruby(叡智の湖){『あの場所』};に着いているとは……。
思わず笑みが漏れそうになったのを抑え、よろめきながらも何とか二本足で立ちあがり、湖のほとりまで何とか歩いた。そして前足で首に掛けていたペンダントを取って空に掲げた。――開いて、&ruby(フルムーンゲート){月の扉};。
そう念じると同時に、湖の、ちょうど月の映る辺りに波紋が生じ始める。
段々と広く大きくなっていくそれを中心に湖はいつしか夜空とは違う景色を映し出し始める。そこに見えたのは、サーナイトやゴーリキーみたいな身体をして、カラフルで色んな柄の付いた布を着けた……確か、人間という種族だったっけ。幼い頃少しだけ聞かせてもらった童話でしか知らなかった存在にこれから会いに行くと思うと少しわくわくしてくる。……と、そんなこと考えている場合じゃなかった。月の扉は意外とせっかちで、開いてから2~3分ぐらいしか持ってくれない。しかも一度閉じたら次の満月まで待たなきゃいけない。
僕は意を決し、湖に浮かぶ&ruby(ビジョン){映像};に向けて飛び込んだ。
一瞬だけ僕ら特有の黄色い身体が水面に映ったのが見えたかと思うとすぐに視界が白く染まった。どうやら上手いこと扉に入れたらしい。水の中に飛び込んだはずなのに、そんな感覚は全く無くて、身体はなんだかふわふわしてて不思議な感覚。これが&ruby(ゲート){扉};を通るということなのかな。

これから僕は探さなくてはならない。右も左も分からないであろう世界の中でたった一人で、探し出さなくてはならない。僕達が生きる世界を救ってくれる存在、そう、『勇者』を。
でも、僕達の世界だって広いんだから、あっちの世界だってものすごーく広いんだろう。やっぱり大変なんだろうなぁ……。せめて、転移された先が勇者様に少しでも近いところだだったらいいなぁ。
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いつもの朝だった。目覚めると見慣れた天井があって、カーテンを開ければ、まだ朝日は昇りきらず僅かに白んでいて、それでもまぁ明るいと言える空が住宅街の景色とともに俺の目に映った。
何の変哲もない、いつも通りの風景。それでもなぜか安心感を覚えてしまうのは、昨夜の夢のせいなのだろうか。
赤い色をした変な満月に、よくあるファンタジーでも出てこないような巨木が立ち並ぶ森。そして、夢の中での主人公、といえるあの生物。走り方からして四足歩行。最初は犬か何かかと思ったが、夢が覚めるちょっと前に一瞬だけ見えたあの身体。見事なまでにまっ黄っ黄だった。キリンだってあんなに黄色くない。
……ともかく、あんな生き物は俺が覚えてる限り見たことない。それに、もう一つ、気にかかる事。――なぜ、ここまで鮮明に夢の事を覚えているのか。夢なんてものは起きる前とか起きた時に大体忘れてしまうもの。……多分。それなのに、意識がはっきりしてしばらくたった今も全く色あせる事も無く全てを記憶している。無意識に内容を捏造していたのだろうか、とか思ってみたけれど、それならあんなにすらすら出てくるとは思えない。無意識だろうと何だろうと捏造するんだったら少しぐらいネタを練る時間ぐらい必要だろうし。
――なんて考えていたら、眩しい日差しが目に突然飛び込んできやがった。反射的に目を閉じたけど、少し焼きついたかもしれない。目を開けても何か周りの景色が変な色に見える。
ん……?
……あ。
今日は金曜日。考え事しててすっかり忘れてたけど、学校行かなきゃいけないんだった。まだ週末には一日早い。っと、今の時間は……?
「っ!!」
7時半……だと?明らかに遅刻じゃないか!
やばいやばいぞやばい!急いで支度しなくては!

こうして、あわただしく俺の一日が始まった。もっともこれから起こる事に比べたら何てことのない平和な日常で。大変な事は、悲劇も、喜劇も。これから。全てが始まるんだ――

prologue end


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