ある街の、ある日の、そしてある朝のこと。 それはこの街に住む一人の少年にとっても、この街に住む人々にとっても特別な日だった。この辺境の地にある小さな街にとって、その少年が新たなポケモントレーナーとして旅立つのは大きな出来事だった。だがそのことを少年が知る由もない。知れば余計なプレッシャーを与えることになるかもしれないと、街の人はひっそりと旅立ちを祝福していたからだ。 少年はいつもの道を歩く。旅立つための荷物を背負っているからか。それともまだ見ぬ夢への希望か。その道をいつもとは違う表情で彼は歩いていた。目指す先はポケモン研究所。誰しもが、ここで最初のポケモンを貰う。少年も例外ではなかった。 少年は歩きながらも考えた。 最初の三匹の中のうち、一匹を選ぶ。初めの決断にして、とても大きな決断だった。実のところ、少年はその最初のポケモンを決めかねていた。何回か研究所には通っていて、そこでもらうべき最初の三匹のポケモンにはもう会っている。だから少年は三匹のポケモンの容姿は知っていたし、それぞれの性格も何となくではあるものの分かっていた。 活発で勢いのある炎タイプのフォッコ。やんちゃな性格ゆえに外だけじゃなく室内でも火を吐いてスプリンクラーを作動させてしまうほど。その度に水が掛かるのが嫌なのか最近は室内ではしなくなった。 澄まし屋で落ち着いてはいるものの、そのせいかちょっとそっけなく感じる水タイプのケロマツ。でも多少は興味を示してくれているみたいで、研究所へ会いに行くと三匹と一緒に出迎えてくれている。 マイペースで、何かに集中しているとなかなか返事をしてくれない草タイプのハリマロン。互いの性格の違いでよく喧嘩をするフォッコとケロマツの仲裁もよくしている。 三匹とも個性的で誰と旅をしても楽しそうだった。少年は道中ずっと考えていたが、とうとう最後まで決まることなく研究所の前についてしまった。 ポケモン研究所の入り口の前に立つ。昨日までは何も考えることなく研究所で出入りをして、三匹のポケモンたちと接してきた彼ではあるが、今日だけはこの薄いガラスのスライドドアがとてつもなく大きな壁に見えた。トレーナーとして旅立とうと決めたのも自分自身、ポケモンリーグを夢見ているのも自分自身。初めの一歩から固まってどうするんだと、少年は自分を奮い立たせてドアへと近づいていった。 ドアが開く音と同時に、机に向かっていた博士が少年の存在に気付いて椅子から立ち上がる。白衣のポケットに左手を入れた状態で少年の元へと来た博士は、いつもそうしているように彼の近くへ三匹のポケモンをモンスターボールから出した。フォッコ、ケロマツ、ハリマロンの順に出された最初の三匹たちは、皆一様に辺りを見回す。やがて目の前に少年がいることに気付いたのか、皆最終的には彼の方を見ていた。 事前に博士から説明を受けていたのだろうか、ポケモンたちはこれから誰が連れて行かれるか、そして誰が少年に選ばれるのかをじっと待っている。誰が選ばれても恨みっこなし。そうは博士から言われていても、やはり自分が選ばれなかったらと思うと不安になってくる三匹。他にもこの近辺の街からポケモンを貰いにくる新人トレーナーはいるものの、この三匹が今まで多く接してきたのは紛れもないこの少年。それだけに皆、固唾を呑んで彼の決定を待っていた。 「僕は……」 開かれた少年の口から出てきた言葉の続きを、その場にいる全員が見守った。彼の中ではもう決まったであろう言葉を、ただひたすらに待った。少年はポケモンたちの目線になるべく近くなるように片膝をついてしゃがみこむ。そして、彼が何度も何度も頭の中で思案を続けた末に選んだポケモンに、ゆっくりと手を差し伸べた。 「君に最初のパートナーになって欲しいんだ。これからよろしくね」 少年は自分が選んだ最初のポケモンに手を差し伸べた。選ばれたポケモンは笑顔を見せてひと鳴きすると、彼の手を取って握手を交わした。選ばれなかったポケモンは顔を少しだけうつむかせたが、すぐに選ばれたポケモンの方へ向き直ると、応援のひと鳴きを送る。 選ばれなかったのは悔しいことでもあるし、残念なことでもある。それでもこれまで一緒に過ごしてきた少年を困らせてしまうのはやはり出来ないのだろう。エールを受けたポケモンは残された二匹の意思を継ぐかのように深く頷くと、少年の隣へとしっかりとついた。 「それじゃあ、気を付けて」 「はい。行ってきます!」 少年は手を振って研究所を、そして始まりの街を後にする。最初のポケモンと共に目指すのは、最初のバッヂ。 ――かくして、新たなポケモントレーナーが誕生した。 この少年がカロス地方のポケモンリーグで、選んだ以外の二匹と熱いバトルを繰り広げるのは、これからずっと後のことである。 ---- あとがき ---- はい。第四回短編大会0票でした。ありがとうございます( 誰が読むかは分かりませんが、軽くあとがきを。 まず短編どころかショートショート的な長さになっているのは、個人的な目標で「上限2000文字」としていたからでした。自己満どころか短編大会は上限1万文字なので手抜き作品と見られても仕方ないです。 今年発売される新作であるXYの最初の場面がちょうど「挨拶」にあたるかなと思い執筆した次第です。しかしまだ色々と発表がされていない部分もあり、余計に書きにくい事態に。今回出てくるポケモン研究所の博士の性別も分からないうえに、選んだポケモンに関しては読者の人それぞれなのであえて隠さなければならなかったりと相当抽象度の高い状態だったと思います。 無理なことはしない方がいいと今回思わされました。 読んで下さった方はありがとうございました。 written by [[こいつ>ウルラ]] ---- 感想、意見などがあればこちらにどうぞ ▼ ---- #pcomment(,10,below) #pcomment(below)