#include(第三回仮面小説大会情報窓・非エロ部門,notitle) レッツ仮面パージ! 書いたのは[[こいつ>双牙連刃]]です。 ---- ……ここは、何処なんだ? 私は……なんなんだ? ……? なんだ? 形が、出来ていく? 私に、形が……。 「データ形成完了っと。やっぱりデザインはこうですよね♪」 「ふーむ、まさしく『ポリゴン』じゃな。わし等のオリジナルになるんじゃし、もう少し手を加えても良いんじゃよ?」 「メインプログラムが大き過ぎてこれ以上は手が出せませんよぉ。CPUもメモリもいっぱいいっぱいです」 「仕方ないの……リアライザーはどうじゃ?」 「システム、オールグリーン。大丈夫そうです」 なんだ? 流される? 光のほうへ……。 「データ転送開始。上手くいってよ!」 「リアライザーも無事動いとるようじゃな。さぁ、新たなポケモンの誕生じゃ!」 ……周りの様子が、変わった。なんだこれは? 私は、どうなったんだ? 「リアライズ完了! やりましたよ!」 「聞こえておるかの? まずは、目を起動してみなさい。む、開くと言った方がいいかの? とにかく、プログラムの中に起動システムがある筈じゃ、目を開けてみなさい」 目を、開ける……! 光が、ハッキリと見える! 「ここ……は……?」 「わっ! 喋った!?」 「おぉ!? ほっほー! わしが入れておいた言語プログラムと発声プログラムも無事に動いているようじゃな!」 なんだこいつ等は? ……いや、知ってる。こいつ等は、人間だ。 私は……なんだ? 分からない……。 「ようこそ、わし等の世界へ。歓迎するぞ、『ポリゴン』や」 「ポリ……ゴン? それが私?」 「そうよー。正式にはCGポケモン、ポリゴン。あなたはその中でも、バイクツ博士製のプロトタイプ!」 「プロト……タイプ?」 「始めの一体という事じゃよ。そうじゃ! ついでだし、お前さんの事はポリゴンではなくプロトと呼ぶ事にしようかの!」 「プロト?」 「いいですねそれ! いーい? これからあなたの名前はプロト! 決まりね!」 名前……個体を識別する為に付けられる固有名称……。私は、プロト。ポリゴンの、プロト……。 ---- 始まりの、プロト ---- 私がデータの集合体でなく、明確な体を手に入れて早三日。とりあえず、一通り必要そうなデータの入力は完了した。会話も、それなりにマシになったと言われる。 さて、そろそろ時間だな……。 「おーいプロト~。解析の時間だよ~」 「了解。博士は?」 「サーバールームに居るよ。さっ、行こ」 「行こうって言って私に乗るんだから流石だね、クルム」 彼女の名はクルム。博士と共に私達、ポリゴンの研究をしている研究者……見習い。 因みに、彼女のお陰で私には、彼女の乗り物という役割が一つ付加される事になった。 「だってプロト乗り易いんだもん」 「否定はしないけどね……」 体はほぼ平面で出来てて乗り易いだろうし、スピードのステータスは高めらしいから、人間の足で歩くよりは早いと自負してる。 実際、初日にこの研究所の説明をクルムに受けながら後をついて行ってた時よりも何処へ行くにしても早い。もうサーバールームに着いた。 「博士~。プロトつれて来ましたよ~」 「おぉご苦労さん。……つれて来たって言うより、つれて来られたに見えるがの」 「同感です」 今喋った男性がバイクツ博士。私のクリエイターだ。 喋り方で高齢だと誤解されやすいらしいが、どうやら30代後半……だと本人は言っていた。人間の画像を何枚か検索したが、白髪の男性は50代前半辺りの画像が多いのだが……。 それは置いておくとして……ポリゴンの研究だけでなく、私を創造した事でも分かるとおりに作成までもが可能な優秀な人物だ。 「さてプロト。お前さんのデータをまた見せてもらうとするかの」 「了解。ですが、一日でそんなに変わるものなのでしょうか?」 「あのねー、プロトは自分がどれだけ凄いのかまだ知らないんだよ。データが変化する事も、そうやって疑問を持つ事も、本当はすんごく凄い事なんだよ」 これが、凄い事? ……どうやら私にはデータ不足で、クルムの言った事の意味は分かりそうに無い。そしてクルム、論点がずれているぞ。 まずは解析をしてもらってしまおうか。爛々と目を輝かせてるクルムは置いといて……リアライザーに乗ってと。 このリアライザーと呼ばれてる機器が、私をこの現実世界と電脳空間とを橋渡ししてくれている。どこぞの、初めてポリゴンを作成した学者がシステムを確立したんだと昨日説明された。 「準備完了。何時でもどうぞ」 「うむ。そうだな……今日はこれが終わった後、クルムの言った事がどう言う事かを教えてやろうかの」 「ありがとうございます」 「行ってらっしゃい、プロト」 ……基本的に、サイバースペースであるここで生まれた私にその言葉は正しいのかと思ったが、それは言わない事にした。 無機質なグリッド線で出来た空間……ここで生まれたと言うのに、私はこの空間をあまり好きではないようだ。 そこに私をスキャンする光のラインが現れる。今日で見るのは三回目だけど、この光も、私はどうやら好んでいないらしい。 「……どうですか博士」 「かなり構築データが増えておるし、キャパシティも増えておるな。驚くべき結果じゃ」 「それって、プロトが自力で能力を高めてるって事ですもんね。凄いなぁ~」 元々ポケモンは経験によって己の能力を高める事が出来る。確か、人間はレベルと言うんだったな。 だから、ポケモンとしてクリエイトされてるポリゴンも例には漏れないように作られているから、取り分け凄い事では無い筈なんだが? まだまだデータ不足だな。クルム達が話している事を説明無しで理解出来るようになりたいものだ。 「よし、これくらいでいいじゃろ。何か要望はあるかの、プロト」 「早くここから出たいです」 「……一応、そっちが故郷なんじゃがのぉ? 分かった、すぐに戻すわい」 一瞬目の前が暗転して、次はサーバールームが広がった。うん、やはりこちらの方が落ち着く。 「お帰り、プロト」 「ただいま、クルム」 「どうじゃ? やはりこちらの方が落ち着くかの?」 「はい。どうやらそのようです」 二人に笑われてしまった……可笑しな事を言ってしまったんだろうか? 事実を言っただけなんだが。 「ふーむ、やはりお前さんにはわしの作ったプログラム以上の何かがあるようじゃな」 「まさか。私を構築しているメインのプログラムは、全て博士が把握してらっしゃるじゃないですか」 「いや、わしにも……未だ誰にも作られておらんものがお前さんの中にはあるんじゃよ」 誰にも作られた事の無いプログラム? しかもそれが、私の中に? そんな馬鹿な。作られた事が無いのなら、そのプログラムは何処から来たって言うんだ。 「博士、そのプログラムの名称は? 自己を構築している物に知らない物があるのは落ち着きません」 「プログラム、か……そうじゃなぁ……まずはさっき言った通り、考える事や自らを成長させる事がどうして凄いのかを説明するかの。それと一緒に教えてやろう」 と言ったのに、博士はまた後ろのパソコンを操作しだした。何をしてるんだ? 開いてるウインドウは……二つ。一つは私のデータだ。 もう一つは……新規データ? という事は、新しいポリゴンを創ろうとしてるのか。 「……ん、こんなもんじゃろ」 「いきなりどうしたんですか博士? 新しいポリゴンのプログラムなんか立ち上げて」 「あ、やっぱりそうなんだ」 「まぁまぁ質問は後じゃ。では、リアライズじゃ」 リアライザーが起動して、中央部に新しいポリゴンが構築されていく。 私もこうして創られたと思うと、なかなか考えさせられるな。そういえば、私はポケモンの区分で言うと鉱石族だとクルムが言っていたが……実際はデータ集合体なのだよな。 我ながら謎が残る。大地や空気中の原子を集めて構成されるらしいが……あまり深く考えないでおこう。 どうやらリアライズが完了したようだ。私と同じ姿をしたものがそこにはいる。 「上手くいったみたいですね」 「どうじゃろうのぉ……目を開けてみなさい。わし等が見えるかの?」 「システムキドウチュウ。システムキドウチュウ……」 「ん!?」 なんだ? 私と何か違うような……。 「え? えぇ? 博士、このポリゴンってプロトのデータを元に構築したんですよね? でもこれ、普通のポリゴン……ですよね?」 「やはりのぉ……動けるかの? その場で動いてみなさい」 「ユーザートウロクヲシテクダサイ。ユーザートウロクヲシテクダサイ」 同じだ……このポリゴンからは、電脳空間に居る時に感じるものと同じものを感じる。 『何も無い』んだ。あのポリゴンの中には、何も……。 「ユーザー、つまりはトレーナーが居なければ行動することはない、命令によってのみ動くポケモン……それが、プログラムによって形成されているポリゴンの特徴じゃ」 「それはつまり、自ら考える事も学ぶ事もしないって事……。ただ自己の中のプログラムを、言われたとおりに起動するのならそんな事をする必要が無い……」 博士は頷いた……。出来れば頷いてほしくなかった。 今私が言った事は、私の存在を否定しているのだから。 私は今、こうして自己の意見を考えている。だけど他のポリゴンはそれをしない。それは……私が世のポリゴンの常識としてはイレギュラーな存在だと言う事の証明になる。 でも、何故私はそれが出来るんだ? 同じ手順で創られたこのポリゴンは出来ないのに、何故出来る? 何故博士は、今作ったポリゴンを私と同じように創らなかったんだ? 何故……? 「ちょっとプロト大丈夫? 変な唸り上げてるよ?」 「うっ、え?」 ……自分でも気付かなかった。多分、一気に考え事が増えたから過負荷になったんだな。私は過負荷で唸りを上げるのか……覚えておこう。 「うむ……プロト。お前さんは今、恐らく自分と一般のポリゴンとの違いを疑問に思ったのじゃろ? 自分のみが違う事について」 「……はい、そうです。教えて下さい博士、何故私にこの違いが生まれたのかを」 博士が複雑そうな顔をしてる……。やっぱり、私はバグでこうなったの? それとも、博士がそうプログラムしたの? 答えを……私は知りたい。 「……プロトを創るのに私達はね、特殊な事はしてないの」 「特殊な事はしてない……」 「お前さんは、わし等が創ったポリゴンで初の形を成した個体、ゆえにプロトタイプという意味でプロトと名付けたんじゃ。最初に説明したのぉ」 「はい」 「うむ、確かにわしのオリジナルのプログラムが数個多くインプットされてはおるが、原型は公にされておるポリゴンのプログラムをベースにしておるんじゃ。こいつのように、の」 動くことも無く、ただその場にあるポリゴンを見つめながら博士は言う……。 ならばそうなるのが普通……そう、私のようになる事は無い筈だ。 「ここ三日の解析結果でも、わしが組み込んだプログラムが誤作動しておったり、基本プログラムに変化があった痕跡は無かった。……バグは、発生しておらんのじゃ」 「でも私はこうしてここに居ます! これは……」 「……今のところ、原因不明じゃ。バグやイレギュラーなプログラムによって、お前さんの自我が生まれたのかも定かではない」 ……バグじゃ、ない? なら、今の私は……なんなんだ? 全てがプログラムによって出来ている筈の私にプログラムではない、『私』を構築してる何かがあるとでもいうの? 私は……一体、なんなの? 「自分の事が分からないのはやはり不安じゃろうな。じゃがプロト、わしはお前さんが生まれてくれた事を、正直言うと喜んでおる。わしの夢が形になってくれたようでの」 「博士の夢? 私が?」 「博士はね、心を持ったポリゴンを創るのが夢なの。アップグレードとか、怪しいパッチって呼ばれてる道具を使わないで自分の心を育てていく……そんなポリゴンをね」 心……私には、心が? 私の中にある『私』の正体は……心なの? 「む……少し一気に詰め込み過ぎたかのぉ。今日はこれくらいにしておこうかの」 「と言うより、私達に分かってることってもう無いですよね?」 「そうじゃな、お前さんには分からない事がいっぱいじゃ。でも、それをお前さんだけで考える事は無い。わし等にも、お前さんの不思議を一緒に考えさせておくれ、プロト」 「……お願いします」 「うん! 一緒に見つけよ、プロトの心の不思議の答え」 今日聞いた事が頭の中でグルグル回る。心……もし私の中にそれがあるのなら、何故私が心を持てたのか……その答えを、私は知りたい。 入力された情報を遥かに超えた不確定要素……それを持った私は、もしかしたらポリゴンとは呼ばれないものなのかもしれない。 ……私自身、あれと同じと言われても、納得が出来ない。 何も無い空っぽの『ポリゴン』……違う、私は、空っぽであるのは嫌だ。何も無い命令を聞くだけの存在だなんて……認めたくない。 ---- ……結局、その後は何も無しで解散になった。といっても、しばらくはクルムと話をしていたんだけど。 こうして、誰かと会話する事もポリゴンには出来ない事……会話は、相づちが打てなければ成立することは無い。一方的に話すのはただの独り言でしかない。 たとえ命令を出したところで、ポリゴンには相槌を打つ事は出来ないだろう。何も考える事が出来ないのだから。 これが良い事かは……正直分からない。でも、クルムは笑ってくれていたし、一先ずは良い事と認識しておこうと思う。 現在はもう日も沈み、博士もクルムももう眠ってしまっているだろう。 基本的に私は睡眠を必要としなくていいらしい。まぁ、肉体がある訳では無いから肉体疲労は無いし、エネルギーもよっぽど消費しなければ自動で回復してくれるそうだ。 私は……博士が生み出したもう一体のポリゴンの前に居る。 現在はスリープモードに入っているようだ。入っていなかったとしても、命令が無ければ動く事は無いのだろうけど。 私はこうして動ける。でも、それはいつまで? 本来、私を構成しているものとは違うものが今の私の思考の源だとしたら、それは不確定なもの。……私がポリゴンである以上、何時この思考が出来なくなってもおかしくはないでしょう。 私は……それが怖い。 「心……か。プログラムの集合体である私にどうして?」 「……少しだけ、教えてあげようか?」 「!? 誰だ!」 後方から声!? 今まで何の反応も無かった……いや、今も無いだって!? 振り向いたら……なんだ? ポケモン? 灰色の体色にピンク色の頭……該当するデータは無いな。 「やぁ、こんばんは」 「な……何者だ」 「驚かせちゃったようだね。……なるほど、どうやら感じた通りに、不思議な力があるようだね」 センサーに反応は無いのに、私の目は確かにポケモンを捉えている。どういう事だ? 「まずは自己紹介しようか。僕は、エムリット。感情を司る者と呼ばれているよ」 「エムリット……感情を司る者だって?」 「そうそう。といっても、今君が見ているのは僕が飛ばした思念体だけどね」 そうか、だから動体センサーに反応しないのか。でも、思念体? そんなものを飛ばせるなんて……。 それにそんなポケモンが何故ここに? 「ふふっ、色々不思議かもしれないけど、少しづつ答えさせてもらうね。まずは、僕がここを見に来た理由からかな」 そう言って、私を観察するように周囲をふわふわと回りだした。な、なんなんだいったい? 「作り物の体に宿った心かぁ。妙に輝きのある心だと思ったよ」 「? ど、どういう事だ?」 「本来は起こりえない未知なる現象……今の君は、その先にある存在なんだよ? 僕は、『君』を見に来たんだ」 「……出来れば、分かりやすく言ってくれないだろうか」 心底不思議そうにする私を見て、くすくすと笑う浮遊体……博士やクルムが見たらどう思うだろうか? 「基本的に、君達の種族が心を持たない種族だって事は理解してるよね?」 「そうらしい……私も本来は、これだった」 後ろにあるポリゴン……それと同じように、物である筈の存在。……考えると嫌になる。 「そう。でも、君には生み出される時にあるものが混ざった。何か分かるよね?」 「心……?」 「正解。その時に、僕のほうでも妙な力を感じたんだよね。無から有なるものが生まれる……説明しにくいけど、そんなところかな?」 「何も無い場所から何かが生まれる? それはありえない。物理法則が捻じ曲がっているぞ」 「確かにね。でも、それは物質の話。今話している心は、もちろん物質じゃあない」 寧ろ物質化してる心なんて物があるなら見てみたい。私も何か見本があれば、心というものをイメージしやすくなるし。 「だから余計に話がごちゃごちゃになるんだけどね」 「どういう事だ?」 「……心というのは、それ単体では存在出来ないものなのさ。記憶……意志……感情……何かしらの心の礎となるファクターがあって、初めて心はその輪郭を現す」 「ん? んん?」 「難しいかい? ようは、表現されないと心っていうものは分からないって事。何も喋らないし何もしない人の心って、分かると思うかい?」 「あ……」 少しだけ、分かるかもしれない。幾ら自分が相手の心を知ろうとしても、相手が何かしらのサインを送らなければ何も分かるわけがない。 それこそエスパー等の、相手の心を読めたり見えたりという能力が無ければ到底無理だ。 「おっと、少し話がずれちゃったか。今は君の心に感じた力についてだったか」 「そうだった。それはいったい?」 「ふむ……君は、君と言う存在が出来る前に心が出来たんだ。今僕と話している、話そうとしている意志や感情は、その心が与えているものなんだよ」 「うむ……ん?」 「気付いた? 僕にもよくは分からない。けど、プログラムでしかない時の君は、君が構成されていくのを感じたんじゃないかい?」 ……薄ぼやけたような極僅かな記憶。確かに私は、形の無い時を知っている。 つまり私は……心から生まれた存在? データも確かに物質ではないかもしれない。けど、そんな事が? 「未知なる現象の種明かし。こんなところかな?」 「待ってくれ、それでは何かがおかしい。なら私のこの心は、何処から来たんだ」 「……無から有が生まれた……君の心は、心自らが生み出したんだ」 わけが分からない。自らを生み出す? そんな事が起こりうるのか? 「正直、心って言う物は常識が通じないものでね。勝手に増えたり減ったり、未知なる動きをちょくちょくするんだ」 「そういう……ものなのか?」 「少なくとも、僕が見てきたものはね。でもその中でも君の心は群を抜いて未知性を含んでいる」 「未知……」 「荒唐無稽な話過ぎたかな? まぁ今は、自分が特殊な心を持っているって認識してくれればそれでいいよ」 「特殊な、心」 「……その心は君に何を選ばせ、どんな成長を遂げるんだろうね……」 「結局私は……なんなんだ?」 「それを決めるのも君次第。何も無い白い心に、君がどんな色を描いていくかによって、答えは変わってくるだろうね」 結局、答えは自分で探せと言う事か……。長々と散々迷わせておいてあまり変わらないじゃないか。 ……そもそも普通に話していたが、何のためにエムリットは私に接触してきたんだ? 気になるだけならば、何処か気付かれない場所から見ていればいいだけな筈なのに。 「おっと、話が長くなっちゃったようだね。そろそろ戻らないと」 「え? ちょっと待ってくれ! まだ何も説明されて……」 「この続きはまた今度。じゃ、また会いに来るよ」 ……そのまま薄れるようにして消えていった。何がしたかったのかも詳しくは言わずに……。 心から生まれた存在……私が何者なのかというヒントくらいにはなるか? だけど、あのエムリットというポケモン……何故そんな事を知っているんだ? 感情を司る者とは言っていたが、それが関係しているのだろうか? ---- 夜中の珍客が現れて以来、私の思案は煮詰まってしまっている。 結局、心から生まれたなどと言われても実感は全く無い。 大体、不法侵入者の話をどこまで信じるべきかという問題もある。気になる話ではあったが、あのエムリットがでまかせを言っている可能性も大いにあると思われる。 そのまま一週間、エムリットが現れる事も無く特に進展も無かった。私の中のもやもやは加速度的に増幅してはいるが。 「プロトー、準備出来た?」 「それはこっちの台詞。準備が必要なのはクルムでしょ? 出来たの?」 「んもー厳しいなぁ。でも、初めての外出だもんね。楽しみでしょ」 「そりゃあ……もちろん」 自分でも意識していた訳ではなかったんだけど、どうやら最近の私は窓を眺めながら黄昏れてる事が多かったらしい。 それを見て、心配してくれた博士が今日の外出を提案してくれた。外の色々な物に触れればまた違った考えが生まれるのではないかって事で。 正直に言えば外には行ってみたかったからありがたい提案だったよ。いつも窓から見ることしか出来なかったからね。 因みに行くのはこの研究所から近くの町まで。食料品なんかの買出しの脚に使われるみたい。 「よし、行こう!」 「分かったよ、ちゃんと掴まっててよ?」 「だいじょぶだいじょぶ」 ……ま、移動にはいつも使われてるし大丈夫でしょう。 研究所の自動ドアが開いて……外と研究所との隔たりが無くなった。 わぁ……太陽がいつもより眩しい。それに木の葉なんかがきらきら光ってる。綺麗だ……。 「どう? 初めての外は」 「うん、窓から見てるよりもずっと……」 「ずっと?」 「綺麗だよ……眩しくて、研究所の中とは全然違う」 「えー、綺麗だけ? 温かいとか、風が気持ち良いとかさぁ」 「……そういうの感じられるプログラム、今度搭載してよ」 「あ……そっか、ごめん」 私も、幾ら気持ちが動く事はあっても、暑さや風速は数値でしか分からないんだよね。それが少し……かなり、残念。 無い物ねだりしてても仕方ないし、進みだそうか。 私の移動方法は、自分のエネルギーを地面に向かって僅かに放出して行うホバー。これによってどんな悪路でも進めるし、揺れも無いから乗せてる相手が酔う事も無い。……基本的にクルムしか乗せる事は無いけど。 因みに博士も乗せる事が出来た。博士とクルムなら二人乗っても問題無いかも。 「ん~、気持ち良いなぁ~。歩かなくていいのも楽だし」 「あまり自分で動かないと運動不足になっちゃうよ? 最近は私に乗るのも多くなってるし」 「うっ、痛いところ突いてくるねプロト……私だって年頃の女の子なんだけど」 「だったらなおの事自己管理しないと。クルムのプロポーションは私にはどうしようも出来ないよ」 「う~……あ、明日から頑張る!」 ……駄目なような気がする。 そんな事を思ってたら町が見えてきた。……ここまで私のスピードで10分くらい掛かったぞ? 人の足なら倍くらい掛かるだろうし……クルムも博士も大変だったろうなぁ。 うん……人が多そうだなぁ。クルムと博士以外の人間って見た事無いからちょっと心配なんだよね。 何がって? 私ってモンスターボールに登録されてないんだ。って言えば分かるよね? 「ん? どうしたのプロト、急に止まって」 「いや、このまま行って大丈夫なのかなって」 「何が? 心配する事なんか無いよー」 暢気な……何かあったら自己判断で処理させてもらおう。自分の身は自分で守っていいよね。 上でゴー、ゴー! って騒いでらっしゃる人が居るんで進むよ。クルムは毎回来てるんだから騒ぐ必要無いでしょうに……。 あまりキョロキョロは出来ないけど、周りの人がめっちゃ見てくるんだけど。そりゃポリゴンに人が乗ってるのなんてあまり見る事は無いだろうけどさ。 「プロト、右に曲がってー」 「了解」 返答はなるべく短く小さく。じゃないと余計に目立っちゃうよ……。 横に曲がった先に大きめの建物がある。ふむ……家族連れから個人まで様々な人が入っていくな。スーパーマーケットみたいだ。 「あそこで止まってー」 「分かった」 目的地はここね。って、自動車用の駐車スペースを指差してる……こんなところに停まってる訳には行かないでしょ。 「あの、クルム? 私は車じゃないんだからさ、あそこには停まれないでしょ」 「大丈夫じゃない? ほら、プロトそんなにスペースとらないし」 じゃあ余計別なところでいいでしょうがー! 頼むよ科学者見習いさん! もっと別なところに……お、自転車用の駐車スペースがある。ここならそんなに邪魔にならないかな……もし邪魔になってもすぐに動けるし、ここで待ってよう。 「はい、私はここで待ってるから早く買い物行ってきなよ」 「えー? 車のところでもいいと思うんだけどなぁ」 「駄目だってば。ここだってあまり長く居たら動かなくちゃならないんだし、早く行ってきてよ」 「はーい」 ……なんで私が注意してるの? もー、もうちょっとしっかりしてよ。 さて……私のみになったのはいいのだけど、やっぱり目立つのかな……皆さんこっちを見てらっしゃる。 観察されるっていうのはやっぱりあまり喜ばしいものじゃない。正直、気にしないでもらいたいのだけれど……さっきまで騒いでいたのだから無理な話か。 でも、至近距離まで寄られてまじまじと見られるのは論外! なんなのこの人!? Yシャツにジーンズ……格好はただの一般人だけど、腰に巻いてるベルトにモンスターボールが見える。トレーナーね。 なるべく目を動かさないようにして気にしてない……というより、眼中に無いふりしてるんだけどそれでもしつこく見てくる。うぅ、お、追い払いたい。 声を出すのは不味い。本来喋れないポケモンが喋る事自体も不味いし、ポリゴンが命令も無しに動く事がなお不味い。思考が出来るのってこういう時にはかなり不利だ。 「このポリゴン……いいなぁ」 うわぁ……なんか目を輝かせてる。お願いだから何処かへ行って……。 「でも誰かのポケモンだよな? ポリゴンは野生に居ないし」 そう、そうだよ。諦めて何処かへ行って! 「うーん……だ、誰かが捨てたポケモンかもな。そうだよ、ポリゴンは命令が無いと動かないって聞いた事あるし」 ちょっと待って、自分の都合の良い様に解釈しようとしてる。嘘でしょ? お願いだから止めてよ……。 「よーし、大丈夫だぞ。俺が今日からお前のトレーナーだ!」 エマージェンシィィィィ! ボールを取り出した! 私を捕獲しようとしてるって訳よね!? 私の事を知らないこの人は、私を他のポリゴンと同じように扱うと推測して間違いは無いでしょう。そんなのは嫌。絶対に。 クルムを待ってる暇は無いし……自己判断で動かせてもらう! セレクト、冷凍ビーム……目標はモンスターボール。相手を傷つけるわけにはいかない。 「行け、モンスターボール!」 「……ショット!」 目標にヒット! 機能停止……確認。 「なんだ!?」 「……動かないようにして我慢していたけど、それ以上私を捕獲しようとするなら排除させてもらう」 あぁ、言っちゃった……自己防衛の為とはいえ不味いよね……。 驚いちゃってるよね。命令に反応して動いたと思い込んでくれたならいいけど、発声にはどう反応するかな? 「い、いや、待て待て。主人となるトレーナーが居ないとお前はここから動けない、違うか?」 「……否定する」 喋る事についてはスルー? 気が動転でもしてるのかな? なんにしても、早く何処か行くかクルム帰ってきて! 嫌な予感がする。 「それは、主人が居なくても動けるって事か? そりゃすごい!」 「……それもひて」 「なんだか知らないけど凄いポリゴンだって事だよな。それなら尚更欲しい!」 話を聞いて。そして更に目を輝かせないで。どうして主人が居るとは思ってくれないの? ……相手が腰のボールに手を掛けた。こんな風に生まれて始めての……本格的なバトルプログラムの起動をしないといけなくなるなんて。 「やっぱり弱らせて捕まえるしかないみたいだな!」 「敵対の意志と受け取らせてもらう。こちらも反撃させてもらうからな」 「ふっ……俺が鍛えたパートナー達に勝てるかな!?」 うぅ、ギャラリーが増えていく……お願いだから店内でお買い物を楽しんでて下さい。消えたい……今すぐ消えたい。 格好つけながらボールを投げた。……なるほど、ボールの原理はこんな感じなのか。 「よし、行けピジョット!」 「……ノンオペレートバトルセット、バトルプログラムスタート」 普段はロックしてある兵装……普通のポケモンで言う『技』を全てアンロックにした。これがバトルプログラムの展開。 本来のトレーナーから指示を受けて戦うのがオペレートバトル。これは私の自己判断のみで戦うからノンオペレート。 ドキドキする……駄目、集中して。心臓があるのなら煩いくらいに鼓動が聞こえてくるんだろうな。 「ピジョット、翼で打て!」 「よし、行くぞ!」 ……あれ? 今のは……。 あの人が喋った後に聞こえたのは……あのポケモン、ピジョットのもの? そんな筈は無い。だって、私にはポケモンの鳴き声を翻訳するプログラムは無い筈。博士は入れていないと言っていたのに……。 考えるのは後にするしかない。相手は飛行タイプ……それもこっちに向かってきている。 狙え……そして、貫け! 「十万ボルト……ショット!」 「うえ!? ま、待っ……ぎゃぁぁぁぁ!」 「ピジョット!? 技が当たる前に撃ち落とされた!?」 ターゲットに命中! 行動不能に……なったみたい。よかったぁ~。 ……やっぱり私は、ポケモンが言っている事も分かっている。そもそもエムリットと話している時点で理解して質問しててもおかしくなかったかな……。 これも心がやっているの? プログラムに翻訳機能が無い以上、考えられる原因はそれだけ。 でも、そんなことも出来るようになるものなの? 私の心は……。 「ピジョットが一撃でやられるなんて、そんな……」 「あ……ま、まだやるか!?」 「ぐ、ぐぞぉ~」 呆けてる暇は無い。まだ戦闘が続くなら、集中は切らしてはいけない。 「つ、次は!」 「無い。君だね、他人のポケモンを捕獲しようとしているトレーナーというのは」 「へ!?」 「え?」 け、警察官!? 驚いた……次のボールが投げられる前に止めてくれて助かったけど。 でも誰が警察を? 「プロトー」 「! クルム!」 「よかった。お店から出てきたらあのトレーナーさんと向き合ってバトルしようとしてるんだもん、ビックリしたよ」 「じゃあ、見てたの?」 「うん。バトルが始まる直前だったから通報しか出来なかったの。ごめんね?」 ……見てたんならオペレートくらいしてくれればよかったじゃないかー! 出来なくても隣に居てくれるだけでも負担がグッと減ったのに! 「どうして見てるだけだったのさ! すっごく心細かったんだからね!」 「だって、私トレーナーじゃないしちゃんと指示出来ないし怖かったし……」 「う~……」 「さっ、話を聞こうか?」 「ま、待って! 知らなかったんだ! 無罪だー!」 結局大騒ぎになって、通報者のクルムも事情を聞きたいからって事で交番まで行くことになった。 ……クルムの顔を見た時、体の底からホッとしたよ。その後はあんな事言っちゃったけど……。 まだ私は、博士やクルムが居ないと駄目なんだと改めて痛感した。私だけではとてもじゃないけど、不安過ぎる。 安心……不安……恐怖……。外に出るだけでこんなにも多くを感じるとは思ってなかった。 ……私は外に出る事を選択し、それによって新たな感情を知った。……これもエムリットが言っていた心の成長、なんだろうか? 心から生まれた存在……私自身の選択によって変わっていく私という存在……。 エムリットが教えてくれた事……信じてみようか。 私という存在の答え、見つけるのではなく創る事が出来るのなら……。 考えるのは私がなんなのかではなく、何になりたいのか。 もちろんポリゴンという枠は変えられない。でも私は、ポリゴンではない『私』を見つける事が出来るかもしれない。 ……迷うだけじゃない、歩みだそう。今日研究所を出て外の世界を知ったように。 私はそれを、『選ぶ』事が出来るんだから……。 ---- 「……やぁ」 「!? ま、まさか……」 「やっと、ここまで来れたよ。これでも君の事を探してたんだよ?」 「探していた? わしを?」 「そう、約束を忘れずに頑張ってるのかなーってね」 「『絶対に心を持ったポリゴンを創ってみせる』か……忘れた事なんぞ、一度だってありゃせんよ」 「ふふ……てっきり、僕に会えた興奮からでっち上げた嘘かと思ったけど……スタートラインには立てたみたいだね」 「それは、プロトの事かの?」 「当たり。少し話してみたけど驚いたよ。『物』でしかないポリゴンが見事に心を持ってた。……少し、出来方は違ったけどね」 「……スタートラインと、呼んでよいのかの? わしには何故プロトが生まれたのか、それすら分かっとらんのに」 「答えは全て、プロトの中に」 「プロトの中……じゃと?」 「プロトが答えを出して、自分を確立出来れば……」 「何かが、分かると?」 「それは僕にも分からないよ。選んでいく道筋によっては、とんでもない者になるかもしれないしね」 「なんじゃと?」 「あくまで仮定の話。でもあの心は、まだまだ力を秘めている。それは心の形によって幾重にも変わっていくと思うよ」 「……エムリット、それは人が触れてよいものなのかの?」 「それも分からないね。プロトは、全ての意味で始まりなんだ」 「全ての、始まり……」 「心が生み出した存在……ま、上手く付き合ってみて」 「……もう、行ってしまうのか?」 「そんな顔しないでよ。プロトとも約束してるし、また来るよ」 「そうか……」 「しばらくは様子を見ないとね。じゃ、また」 「うむ、また、会おう」 「……バイクツ」 「ん?」 「今度は僕も手伝うからさ。……頑張ろうね」 「……あぁ!」 ~始まりの、プロト~ END ---- 投票にてコメントして頂いた皆様、ありがとうございます! なんとも中途半端な終わり方になってしまった今作……実は構想上ではまだまだ続く作品でした。 それを短くして変えて書いて……を実行した結果がこれです。……うーん、もう少し考えればよかったかな? なんにせよ、時間は掛かるかも知れませんが続編も書ければと思っております。 その時はまた、プロトの成長を見てやって下さいませ。では、その時まで……。 そしてコメント欄を設置! #pcomment