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エロが入ってるので、いやな人は戻る連打
書いた人[[九十九]]
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暗闇に一つ、揺ら揺らと揺れる蝋燭。
それは、時として生き物の恐怖を煽り、無数の妖魔が跋扈する原因を作るであろう、蝋燭の明かりは、生き物の知らない恐怖心を心の底から煽る役目を果たす。
「そして、後ろを振り向いた瞬間に……無数の白い手がぁ!!!」
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
非常にオーバーなアクションをとって、片手に持った蝋燭を顔に近づけて、わぁっと脅かすような仕草をとる。凄まじい悲鳴が部屋中に響いて、ほかにいたポケモン達は思わず耳を押さえる。
皆じっと耐えていたが、一匹のポケモンが耐えられなくなったのか、悲鳴に負けないくらい大きな声で怒鳴り散らす。
「ファントム!!うるせぇよ!!!」
そう叫んだポケモンが、部屋の壁を弄り、電機のスイッチを入れる。
一瞬で部屋がぱっと明るくなり、周りのポケモン達の姿があらわになる。
サーナイト、ムウマ、ユキメノコ、ジュペッタ……
丑三つ時に会いたくないようなポケモン達が勢ぞろいしている。
電気をつけたポケモンは――――ヤミラミだ。
とにもかくにも、一つの部屋に、大勢でぞろぞろと、跳梁跋扈の類がわさわさと犇いている。
ともに悪戯をしたり、脅かしたり、そんなことで喜んでいるような類は、跳梁跋扈なのだ。
しかしその中でも、場違いなほどにがたがたと震えているポケモンがいた―――
――暗闇のような黒にひとつ浮かぶ紅い瞳に、足など存在しないといわんばかりの浮遊感、正直に所見でこんなものに出会ったら、真っ先に逃げ出すであろうその生き物は―――ヨノワール。
冥界よりいでし使者、霊界の神隠し……そんな風に呼ばれて恐れられているポケモンは、部屋の隅っこでガタガタ震えていた。
「ファントム、大丈夫ですか?」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」
サーナイトがファントムと呼んだヨノワールに優しく声をかけたが、恐怖心が極限まで高まった生き物に後ろから手を置くという行為は、その恐怖感を更に煽るだけであり、事実、ファントムもガタガタと震えて益々縮こまってしまった……
「あらら」
サーナイトは苦笑い。横でユキメノコが困った顔をした。
「困りましたね、まさか全然克服できていないとは……」
更に横にいたムウマとジュペッタも、同様に困った顔をしていた。
「お化け屋敷が開園するまで、あと一週間しかないよー」
「どうしようもないぜよ」
彼女達は、お化け屋敷で生計を立てていた。
人を驚かすという行為は、確かに肝が冷えて、やられるほうはたまったものではないが、そういった行為を、勇気をつけるということや、カップルの雰囲気作りとして捉えるポケモン達も多い。
サーナイト達は、そんなポケモン達のために、面白おかしくて、とっても恐い、そんなおちゃらけたフレーズで、お化け屋敷をやろうということになった。
サーナイトたちのお化け屋敷は、瞬く間に街の有名スポットとなり、行列が並ぶほど人気のアトラクションとなった。お化け屋敷単体で成功したのも、サーナイトたちが工夫と努力によって、どんな風にすれば恐がってくれるかを日々考えているからこそである。
そして、お化け屋敷の面積を広くして、もう少し長く楽しめるようにと新装改築を頼んで、その作業も終わり、一週間後にニューお化け屋敷を開園するというところまでこぎつけた。
ちなみに、ファントムは受付と会計を担当していた。
なぜなら、ファントムはお化けが恐いのである。
「漫画じゃねーんだからさぁ、お前大丈夫か?お化けがお化け恐いって、ビョーキだぜ、ビョーキ」
電気をつけたヤミラミが、落ち着いてきたファントムにそういって、本気で心配そうな顔をした。
「で、でも、この心のうちからあふれ出る恐怖感は、どうしようもないし……」
ファントムはそういって、他のポケモン達を交互に見る。
そんなファントムを見て、ヤミラミは再度深いため息をついて、一字一句強調するようにはっきりと大きな声でファントムの耳に言葉をたたき込んだ。
「はぁ、いいか!?ファントム、俺達をよーーーーーーーーく見て見ろ!!!オリーブはサーナイト!!ペコーはムウマ!!バロットはジュペッタ!!メティはユキメノコ!!そんで持って俺!!スモアはヤミラミ!!わかる!?いってることわかる!?俺達みんなエスパーとゴーストの集まりなの!!分かる?ゴーストの意味分かる!?お化け、ユーレー、ボーレー!!オッケイ!?」
身振り手振りのオーバーアクションでぎゃいぎゃいと叫んで、スモアと名乗ったヤミラミは、ファントムに理解しているのかどうかを問いただした。
「た、たぶんおっけい」
「じゃあ何で俺達を見て驚かないの!?恐がらないの!?お前頭大丈夫!?俺の言ってることわかる!?今自分が生きてないって分かる!?」
「興奮するんじゃないぜよ、馬鹿かお前は」
バロットと呼ばれたジュペッタは、巨大で太くて長い裁縫針をスモアの頭にぶすっとさした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ちょっと黙っててくださいな、スモアが喋るとファントムが怯えてしまいますから……」
メティと呼ばれたユキメノコが呆れて息を吐く。その横で、ペコーと呼ばれたムウマは、床で悶絶しているスモアを介抱していた。
「スモア、大丈夫?バロットの裁縫針って、幽霊体にも効くからねぇ……」
「退魔針。お札の霊撃みたいなもんぜよ。これを心臓部分に刺し込むと、幽霊体は成仏するぜよ」
「バロットは、マジックアイテムいっぱい持ってますからね」
その横で、オリーブと呼ばれたサーナイトはのほほんと微笑んで、物理テレポートさせたコーヒーカップを、人数分もって皆に配った。
「まぁまぁ、そんなにかっかしなくても、一週間もあれば、ファントムもきっと克服してくれますって……」
コーヒーカップを受け取ったバロットは、砂糖を入れながら、不安そうな声を出した。
「そんな楽観的で良いのかぜよ……不安になってくるぜよ」
ゴーストタイプといっても、食べたり寝たりしないわけではない。やっぱりポケモンなのだ、美味しいものを食べたいという気持ちもあれば、ぐっすり眠りたいという気持ちもあるし、綺麗なねーちゃんに囲まれたいという願望もあるのかもしれない。
受け取ったコーヒーをそのまま口に運んで、熱い吐息ともにため息を吐き出して、メティは訝しげな瞳で申し訳なさそうにカップに口をつけるファントムを見ていた。
「本当にそんな楽観的に事が進めばいいんですけどねぇ……」
すっかりコーヒーを飲み干して、御代わりを注いでもらっているペコーはどっちつかずな視線を宙に泳がせて、何ともいえない顔をした。
「何とかなれば良いけどねぇ、ファントムは、なんて言うのか、良くも悪くもピュアだからなぁ……」
「お化けの役なんてさせれば、客を見て失神しそうですわね」
メティはそんなことを言っているが、バロットもそれに便乗していた。
「ファントムは今までどおり、受付と会計をやらせたほうが得策だと思うぜよ」
「馬鹿やろう!!」
それまで退魔針を頭に直撃して倒れていたスモアががばっとおきあがる。そして、コーヒーがこぼれて床に黒いシミを作った。それを見て、メティが悲鳴をあげた。
「キャー!!人の部屋で飲み物こぼすなんて、常識がなっていませんわ!!」
「こまけぇこたぁいいんだよ!!」
「よくありません!!」
きいきいと抗議の声を上げるメティを完全無視して、スモアはぎゅっと握り拳を作った。
「お前ら思い出せ、この面子で一番恐怖面で、一番お化け屋敷の仕掛け人として有力な特殊能力持ってるやつは誰だ!?どう考えてもファントムだろ!?お客さんたちは皆恐くても面白いって言ってくれて、更に新しいエンターテイメントを求めてるんだよ!!それに答えるためには!!なんとしてでもファントムにお化け役をやらせなくちゃ駄目なんだよーーーー!!!」
そうだ、もっと、もっと熱くなれよと一人で盛り上がっているスモアとは対照的に、周りの視線は完全に冷め切っていた。
全員が思うことはただ一つ。
お化け屋敷で何を熱くなれというのだろうか?
それだけである。
「等々頭まで退魔針の力が回ってきてしまったぜよ……完全にスモアがキチ●イになってしまったぜよ……」
バロットは頭をかかえてジーザスといっていたが、そんなものスモアは聞いてない。
「とにかく!!」
一方的に話を打ち切って、スモアは徐にファントムの肩をがしりとつかんだ。
「明日は遠出するぞ!!一日かけてお化け屋敷を巡るんだ!!!そしてファントム!!お化けの意味を完全に忘れて脳内春ボケしたお前に再びお化けの恐怖というのを頭の中に叩き込んでやるぜぇ……ひぇーーーーへっへっへっへっへ……」
「うひぃ!?ひいいいいいいいいいいっ!!」
顔をめちゃくちゃ近づけて、べろべろと舌なめずりをして、頭の悪い子の笑い声のような声を出すスモアを見て、ファントムは涙を流して再びガタガタと震えだした。
そんな二人を遠巻きに見つめて、
「あいつがやれば良いじゃん、お化け役」
「あれは恐いというよりも、キモイという類のものですわ」
メティとペコーは顔を引きつらせてそんな二人を見続けるしかできなかった……
「うーらーめーし――」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁっぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「ミミガー!!ミミガーーー!!!」
暗闇を六匹のポケモン達が密着して歩いている、先頭はファントム、しんがりがスモアというアンバランスな列を組んで、暗闇を進む、そして、延びる間の手、ファントムの悲鳴が暗闇に広がり、スモア達は耳を押さえて口から魂の抜けたような声を出す。
そして最後に言う言葉は――
「ファントム!!うるせぇぇぇぇぇっ!!」
で、ある。
「ありがとうございましたー」
出口から出ると、気絶したファントムを、オリーブとメティが二人係で担いで、その後ろでスモア、バロット、ペコーが苦笑いをしてそんなファントムの憔悴しきった後姿を遠巻きに眺めていた。
「駄目じゃん」
と、ペコー。
「凄い恐がりようぜよ」
と、バロット。
「ガッツが足りん、ガッツがよ!!」
と、スモア。
そもそも恐がりのポケモンをお化け屋敷の先頭に放り込むという発想からしてマジキチである。
「全く、飢えたキバニアの群の中にテッポウオを放り込むような真似をして……」
ファントムを担ぎながら、メティはそんな言葉をそ知らぬ顔をして明後日の方向を向いているスモアに叩きつける。
「スモア、ちょっとは自重と言う言葉を覚えたらいかがかしら?」
「スモアさん、ちょーっとやりすぎじゃあないですかぁ?」
メティに便乗したのか、同じくファントムを担いでいるオリーブは、そう言った。しかし、そんな二人の言葉など露知らず、スモアは首を横に振る。
「死して屍拾うものなし」
「まず私達は生気がないでしょう」
他愛ない日常会話にしては若干物騒な内容だったが、そんな無いようで会話が成立するのだから、ゴーストタイプというのは何とも奇妙な感じがした。
「こんなに恐がっていただいたお客様は久しぶりですよ」
出口のあたりで笑いながら受付のゴーストはファントムを見ていた。
「うぅ、はっ!?こ、ここは!?」
うっすらと瞳を開けて辺りをきょろきょろと見回し始めたファントムを見て、メティとオリーブは互いに頷きあって、担いでいた手を離した。
「大丈夫ですか?ファントム?」
「失笑されてますわよ」
メティは呆れたような口調で、オリーブはのんびりとした口調で。
そんな二人のやり取りを聞いて、ファントムはがっくりと項垂れてしまった。
「や、やっぱり、僕、気絶してたんだね……」
気絶、それが一番の問題だったのかもしれない、ファントムはとにかく、自分のショック体勢よりも上の恐怖が目の前に迫ると、気絶して無意識の世界に逃避する。
気絶したくて気絶しているわけでもないのだが、やはりそこが一番の問題なのか、お化け屋敷を出てから少し離れた公園で、アイスを買ってベンチに座り六匹は思案に暮れていた……
「しっかし、あっついなぁ」
スモアはがりがりとアイスを齧って空を見上げる。
ギンギンと照りつける太陽は、買って来たアイスを五分と待たずしてどろどろに溶かしてしまう。
今日に限って、遊園地の近くの公園は賑わって、異常に密度が高く、余計に蒸し暑くなっていた。そんな中、周りとは隔離されたように異常に冷え切った六匹は、それでも暑い暑いと唸っていた。
「こ、こんなにポケモンがいるなんて、聞いてませんでしたわ」
片手で顔を扇いで、練乳ミルクバーを舐めながら、メティははぁはぁと荒い息をついた。
「暑いぜよ、ゴーストタイプでも火傷するのは、こういう変な体質構造をしているからに違いないぜよ……」
オレンジバーの棒を指先で弄りながら、バロットはため息を漏らす。
「私は涼しいですよ?エスパータイプですから」
「羨ましいなぁ、オリーブが」
カキ氷を口の中に放り込んで、涼やかな顔でオリーブは空を見て微笑む。ペコーはそんなオリーブを見て恨めしそうな視線を向けた。
「あ、アイス買ってくるね」
ファントムはそんなことを言って、アイスをもう一度買いに立ち上がった。
「オー、マジかせんきゅ――ちげぇよ!!」
スモアはいきなり立ち上がり、ファントムの尻尾のようなものむんずと掴み、一気に引き寄せた。急に引力が働いて、ファントムは無残に地面と顔が接触した。
「ぷぎぃ!!」
「アホか!!アイス食いに外出したわけじゃねぇだろ!!ほら、次行こうぜ、皆!!」
スモアは勢いよく立ち上がり、スタンダップ、シットアップ、ヒップアップ、ポップアップブロックなどといって皆を無理やり立ち上がらせる。
「最後のは完全に意味が違うような気もするけど……」
ぼそりとそんなことを呟いたペコーを爽やかに吹きすさぶ風のように華麗に無視して、スモアは意気揚々とファントムの肩を掴んで引きずり回した。
「さあいくぜ!!ファントム、暗闇が俺達を待っている!!」
「ええ!?もう少し休憩を――」
「甘ったれんな!!暗闇を作ることができるのは……俺達だけなんだよぉ!!暗闇を恐れるな!!ファントム!!暗闇と一体化してこそ、立派にゴーストタイプを語ることができるんだ!!」
今のお前はまだまだよちよち歩きの赤ん坊だ!!ガッツを見せろ!!!ヒートハートを燃やし尽くせ、そして燃え尽きろ!!イェエェエェァア!!
なんていう声が若干距離を置いて浮遊しているペコーとバロットに聞こえてきた。
「熱い奴ぜよ」
「あんまり熱いと鬱陶しいけどね、スモアなりに真剣になってくれてるんだから、まああれはあれでよしとしようよ」
ところで、と不意にペコーは神妙な顔つきになって、バロットに耳打ちをした。
「ファントムはどうしてお化けが恐いの?」
「うん?」
いつもとは違うペコーの雰囲気に、バロットは首を傾げる。
「いやほらさ、ファントムって、ヨノワールじゃない?ゴーストの中では上位に入る実力を持ってるポケモンなのにさぁ、何か凄い臆病じゃない。確かにもとの性格があれかもしれないけど、さすがにあれだけ力があれば恐いものとか無いと思うんだけどねぇ……」
私とメティは最近入ったばかりだから、その辺に疎くって、という言葉を聞いたバロットは、あっけらかんとこういった。
「別に、ファントムはお化けなんか恐くないぜよ」
「は?」
「ファントムが怖がっているのは、暗闇ぜよ」
「くら……やみ?」
変な声を出して、ペコーはまじまじとバロットを見つめた。
暗闇が恐いとはどういうことだ?そんな疑問が顔にかかれたように浮かび上がってくる。
「顔に書いてあるぜよ……ファントムは昔は別にそんなに暗闇もお化けも恐がってなかったぜよ……怖がるようになったのは、スモアが原因ぜよ」
「はあ!?」
「いや、ファントムがヨマワルの頃に、肝試し大会をやったんだぜよ……スモアは凄まじいテクニックで俺とファントムを恐がらせたぜよ。俺は何とも無かったが、ファントムが心の芯まで恐怖感を埋め込まれてしまったんだぜよ」
「ええ、何それ、スモア最悪じゃん……」
何で平然としていられるのかワケワカメなどといって、ペコーは鬱屈とした表情でスモアと、引っ張られているファントムを見据えた。
「スモアはあれでも、結構負い目を感じているぜよ。そういう風に見えないのは、そんな風に見られたくないからぜよ……メティやペコーには分からないかもしれないけど、スモアはスモアなりに頑張ってきたんだぜよ……」
「ヘェ、あのスモアがねぇ……」
「ファントムは暗闇の中からいきなり何かが出てくるというのが一番苦手なんだぜよ。恐らく、今回のお化け屋敷めぐりは、そういう仕掛けが多いところを選んだと思うぜよ……」
「ふぅん、なるほどねぇ……克服できるかどうかはわかんないけど、ある程度の耐性が無いとそういう類のホラーアクションは駄目なひとにとってはほんとに駄目だからねぇ……」
「そう、そこが問題なんだぜよ。何とかして、暗闇だけでも克服できなければ、ファントムはお化けとして何の意味も持たなくなるぜよ」
二人して頭を抱えてうんうん唸る。
「暗闇ねぇ……」
遠くでその話を少し聞いていたオリーブは、静かにそういって。歩き始める。
遅れてはいけない。見失ってしまう。
ずんずん進むスモア達を見失わないように、後ろの三匹も静かに歩き始めた……
「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぃいいいいいいいい!!!」
「ミミガー!!」
「ぎゃああああああああああああ!!!」
「ミミガー!!!」
「うわぁぁぁぁあああああああっぁあぁぁあっぁあぁぁぁぁ!!!!●□∵@!?δγ☢!!!!!」
「ウボァー」
…………………………………
………………………………
……………………………
「発声練習とかに使えるかもね、ファントムの驚いた声とか……」
ペコーは呆れたように気絶したファントムをつんつんとつついていた。
今現在、お化け屋敷巡りは終わり、やっぱり草木も眠る丑三つ時の夜、メティの部屋でファントムを除くポケモン達は起きていた。
「うぅむ、ファントムは何かが出てくると恐がって、その何かを見ようとはしないぜよ……」
バロットは何かという曖昧な定義の概念から恐怖を抜き取ろうとファントムに説明したことがあった、それに対するファントムの反応が、恐いから見る前に意識が何処かへ飛んで行くだったらしく、バロットはその言葉を聞いたとき呆れてものも言えなかった。
「あそこまで怖がっているのは、まぁスモアの所為ですからね」
オリーブは暢気にそんなことを言った。彼女のマイペースな思考は、深刻な状況とは打って変わって、この空気に馴染むことがなかった。
「そうだ!!俺の所為だから、俺の手で昔のファントムに戻す!!」
「無理、ですわね」
メティはばっさりと一言で切り捨てて、お茶を啜った。季節は十月、しかしお化け屋敷に季節はあまり関係がないのである。問題は、時間。
「あと六日かぁ……」
スモアはしんみりと夜空の月を見上げた。一週間後にお化け屋敷が新しくなる。内装も仕掛けも、全部自分達で頼んで、その通りにしてもらえる。それも人気の賜物だ。
「なぁなぁ、皆」
全員を注目させるスモアの声、なんだなんだと集まる皆の前で、スモアは大量の紙を床に置いた。
小さな子供の文字や、大きな大人の文字まで、大小さまざまな言葉が書かれた紙。通称、アンケート用紙だ。
「このアンケート用紙が、どうかしたぜよ?」
「何か面白いことでも書いてありますか?」
「よく見てみれば分かるって」
スモアに言われて、全員が紙をそれぞれ取ってみてみる。
客の言葉は大切だが、それを鵜呑みにするのは愚か者のすることだ。お化け屋敷をやっていた六匹は、成功ばかりでなく、しっかりと失敗もしている。その大半が、アンケートに答えたことだったので、いい意味でも悪い意味でも、アンケートに左右されないということが、六匹の間で暗黙の了解となっていた。
「もっと広くして、時間を長くして欲しい……まぁ、その願いは今叶ったりですね」
「受付のポケモンをお化けにしたら恐いと思う……」
「受付のヨノワールをお化け約にして欲しいです」
「入り口で凄い恐怖を感じました」
それぞれがとった紙をよみあげる。殆どアンケートというよりも感想じみたことも書かれていたが、その言葉のほとんどが、入口で恐怖を感じたという類のものだったのだ……
「アンケートを鵜呑みにすることは悪いことだが、これは鵜呑みにするべきだと思うだろ!?」
スモアの言葉に、メティはまぁ、そうですわね、と頷いた。
「確かに、ファントムがお化けをやってくれれば……って言うかお化けですけど、でも、恐怖心、突然の驚愕、それらを克服しない限り、ファントムはずっとこのままですわ」
「残酷なことを言うかもしれないぜよ、でも、ファントムがずっとこのままなら、お化け屋敷をやめてもらうってこともありえるかもしれないぜよ……」
バロットはそういってお茶を口の奥に流し込む。それを聞いたファントムは、ええっ、と悲しそうな一つ目を揺ら揺らと揺らして、がっくりと項垂れた。
「そ、そうだよね、こんな役に立たない僕なんて……やめたほうがいいよね……」
「ああ、また始まった……」
項垂れてぽろぽろと涙を流すファントムを見つめて、ペコーはもはやお約束かといわんばかりのため息をついた。
ヘタレ
ファントムが恐がりの一番の原因だと思われる、ファントムの性格そのものである。ファントムはゴーストタイプに似合わず、人見知りが激しく、そして、ヘタレであった。
「全くヘタレですねぇ、ファントムは……」
「うぐぅ……」
暢気な声の辛辣な毒舌を叩き込んで笑っているオリーブを、メティは慌てて口を封じた。
「何言ってるんですか!?これ以上ファントムを駄目にしないでくださいませ!!」
「そうは言われても、どうやって克服するかも分からない上に、ほんとに克服する気があるのかどうか怪しいので、どう考えてもヘタレとしか言いようがないじゃないですか……」
「まぁまぁ、そういわずとも、おのずと答えは出てくるものぜよ……多分……」
二人を宥めながら、バロットはちら、とファントムを見つめた、がっくりと肩を落として、しくしくと泣いている姿を見れば、成程ヘタレといわれても仕方が無いだろう。
だが、バロットやスモア、オリーブ達は昔のファントムがどんな人物かよく知っていたため、ヘタレと思うもの一人もいないだろう、だが、オリーブはなんとなしに便乗して楽しむタイプの性格をしているために、あんな言葉をポロリと口にしてしまう。
「とにかく、ショック療法でも何でも良いから、恐がりを克服させる方法ないのか!?」
スモアがひときわ大きな声で、皆に聞いた。それぞれが頭を抱えて考えていたが、バロットが何かを閃いたのか、ポン、と両手を合わせて、スモアに自分の考えを述べた。
「そうだ、あいつのところに行けば、治るんじゃないかと思うぜよ!!」
「あいつ?」
「そうだぜよ……俺たちの昔の知り合いだったぜよ、思い出せない?今は有名な医者だぜよ……」
「……ああっ!!」
「……ああー」
「ああ!?」
スモア、オリーブ、ファントムがそれぞれ違うような声を出す。
夜が更けて、あたりが暗闇一色になるとき、三人の心には、とてもインパクトの強い、旧友の顔が浮かんでいた……
「しつれいしますわ」
「ん?」
ガチャリ、とドアを開ける音がして、オリーブはひょい、と首を音の方向へ向ける。深夜帯を越えた時間であり、スモアやバロット達は眠っている、オリーブは入ってきた人物を見て、くすりと微笑んだ。
「眠れませんか?」
「いえ、先程のことについて話したいことがあるだけですわ、それが終わりましたらすぐに出て行きますので」
「そうですか、では、どうぞ」
「貴方は、ファントムのことが嫌いなのですか?」
「いいえ、別にそんなことはありませんよ、むしろ好きですから」
「じゃあ、何であんなふうにつっけんどんな態度をとるのですか?」
「そんな態度をとった覚えはありませんけど……他人がそう思えるのならそうなのかもしれませんね……別にそんな態度はとっておりませんよ」
「そうですか、あまり仲がよさそうには思えなかったので」
「フフ、どうしてそんなことを気にするのですか?」
「そ、それは、私も、ファントムが好きですから……」
「そうですか、それは、友達として、それとも、異性として?」
「………後者ですわ」
「そうですか、私も後者の好き、という気持ちですからね、負けませんよ……」
「どうして、貴方は彼のどこに惹かれたのですか?」
「その言葉、そっくりお返ししてよろしいでしょうか?どうしてあの人のことが好きになれたのですか?」
「それは、優しくて、気を使ってくれるいい人だからですわ……」
「そういうタイプのポケモンが好みなんですね」
「……ええ」
「でも残念、私が好きになった理由は、違うんですよ……彼は私に、いつも勇気をくれましたから」
「勇気?」
「小さい頃のお話ですよ。小さい頃に、彼は私をいつも元気付けてくれましたから、だからといっても、昔の彼が好きになったというわけではないですからご安心を」
「……」
「私は、今の彼のままでもよいと思っていますから。別にいまさら何かを変えようとしても、変わらないのもまた事実、まぁ、変われば変わったで良いんですけれどね……」
「貴方は、彼にとってどんな存在ですか?」
「友達です、それ以上でも、それ以下でもありません」
「……私は、負けませんわ」
「ええ、お互いに、どちらに傾いても、恨みっこなしで行きましょう」
「ええ、必ず」
「お話はそれだけですか?」
「ええ、それだけですわ」
「それではお休みなさい、いい夢を」
「ええ、いい夢を」
ばたん、とドアが閉まる音がして。くすりとオリーブは微笑んだ。
負けるつもりも、勝つつもりもない。本当に気持ちが向くのは、彼自身の心で決まるのだから……
「さて、私も眠りますかね……」
ふぁあ、と大きな欠伸をして、オリーブは自分の布団にもぞもぞともぐりこむ。
睡眠時間は約二時間。それだけ眠れば、普通に頭は冴える。
布団の中に入って、すぅっと瞳を閉じたら、それだけで眠くなる……
「ぐぅ……」
オリーブの意識は、そのまま夢の中へと入っていった……
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馬鹿と煙は高いところが大好きだという格言がある。幻想的な山に登ったり、数奇な運命を得てもぐりこんだ森の中にいたり、未開の生き物が多種多様に住んでいる謎の海のもぐったりしたら。なんとなく視野が広がるような気がしないでもない。そんな感じかもしれない。
話を元に戻してしまえば、馬鹿が高いところが好きなのではなく、高いところが好きな馬鹿がいるということだろう。果たしてそれは、馬鹿といえるのか、それとも馬鹿を装った天才なのか、そんなどうでもいいところに済んでいるただのポケモンか……
電車を乗り継いで、バスに乗って、更にそこから徒歩で歩き続ける、六匹のポケモン達には、高いところに住むポケモンというのは、もはや馬鹿を通り越しておろかとも呼べる領域に達しているのかもしれないという極めて変化球な思考を持って、何も喋ることなく、ただただひたすらに歩を進める。
ぎらぎらと照り返す太陽は、暑い、暑い、と坂を下りてくるポケモン達を照らして、汗を大量に流させている。
他人から見れば、成程ゴーストタイプというのは涼しそうなイメージがあるのかもしれない、六匹の中にはこおりタイプのポケモンも一匹入っているため、確かに涼しいというイメージにはぴったりだ。だがしかし、彼らは決して涼しいなどという他人の物差しで決めたような単調で楽観的な思考イメージなどは完全に無視して、ただひたすらに、熱いという言葉を繰り返し呟いている。
ゴーストタイプのポケモンが涼しそうというイメージは、どのような思考から来るのだろうか?結論付けていってしまえば、ゴーストタイプが涼しそうというイメージがわくのは、なんとなしに見たら肝が冷えるからであろう。夏の怪談にゴーストタイプはもってこい、夜中の猥談は誰でもいいのだが、会談はゴーストタイプがいると余計に涼しくなれる。
暗闇でゴーストタイプのポケモンを二匹くらい侍らせておけば、成程涼しくなれるだろう、極端に恐がりなポケモンならば肝は冷えそうだが、ゴーストタイプというのは、古来から幽霊としてのイメージが強いのだ、それもそのはず、ゴーストタイプのポケモンは、基本的に幽霊体が多い。昔の怨霊とか、捨てられたぬいぐるみとか、雪女とか、自爆霊とか、そういう類のものが非常に多いのもゴーストタイプがゴーストタイプ所以であろう。
だがしかし、他人がいくら涼しくなろうとも、ゴーストタイプであるポケモン達が涼しいとは思わない、他人を涼しくすることが出来ても、自分たちが涼しくなることがないからだ。他人はのほほんと、ゴーストタイプは涼しそうで言いですねぇなどというものだ、ゴーストタイプは憤慨するだろう、そんなに涼しくなりたければ氷柱でも抱えて寝ればいいと以前怒り狂ったこともあったようななかったような。
そんな話しはどうでもいいのだ、今現在、ゴーストタイプが五匹、エスパータイプが一匹、密着して無言で坂道を歩いている。中心部分にいるのは、氷、ゴーストタイプのポケモンだ、氷柱を抱いているような感覚で、密着しているポケモン達は暑そうだったが、それほど参っているという様子も無かった。氷タイプのゴーストポケモンは今現在確認できるもので一匹くらいしかいないため、珍しいとされて重宝されるのだが、夏場に至っては氷柱の代わりになるだろう。
その氷タイプのポケモンはため息をついて、自分の額に流れる汗をよっこらせと片手で拭った。密着しているために拭うのも一苦労だ。終わったらまた手を密着地帯に突っ込んでため息をついた。ああ、暑い暑いなんてことを言えば、みんなが遠慮して離れていってしまうために、そんなことは口が裂けてもいえなかった。彼女は友達を大切にするのだ。それが嘘か本当かはわからないが……
現在は坂道の中腹あたりまで来ているが、この辺りにくると木が多くなり、結構日陰ができてくるために、自然と密着していたポケモン達はゆるゆると離れてゆく。やれやれと思い汗を拭った氷ポケモンは、念のために持ってきておいたペットボトルに入った水を口の中に流し込んで、ふうと生き返ったかのような息を吐き出した。そんな彼女の息を聞くと、そのほかのポケモン達も持参してきた飲料を口の中に放り込む。暑いところで冷えたものを出すと、時間の関係もあって温くなってしまうために、木陰などで出すのが効果的だと思っている節があるのだ。それが本当かどうかはさておき、死者から生者へ戻るかのように、若干顔色がよくなったポケモン達は、あと少し頑張ろうという気持ちを胸の中にしまいこんで、ゆっくりと坂道を進んでいった。
相変わらず熱い太陽が照り付けているような感じがするが、木々が寄り添い日陰をつくり、上るものや降りるものへの希望となってくれている、まるで寄り添うように引っ付く小枝のほうの木陰をよるように歩く不思議な歩き方をするポケモン達も、何だか面白い情景に見えるかもしれない。
六匹の歩く速度は、たとえるのならば亀よりも遅いといった感じだろうか、動物にたとえるような比喩表現などは、語彙が豊富な人ほど的を得ているというが、彼らを見たのならば、その語彙の豊富さをどのように使って彼らのことを表現するのだろうか?しかし、彼ら以外に上ってきたりするポケモンは存在せず、降りてくるポケモン達に死ぬ間際の老人のような挨拶をするだけだった…………
そんな彼らの遅々とした動きも、どんどん時間が立てば前に進めるようになる……ようやくといった顔をして、六匹のポケモン達はやれやれと口々にいい、病院の扉の前に立った、ここまで恐ろしい坂が歩く内なので、ここにバス停を作ればいいじゃないかと思う声もちらほらと漏れていたが、事情があるのだろうか、ここにバス停という大変便利なものはたっていない。そんなことを考えていても何も変わらないし、誰も得しない。そういって切り上げ、六匹は病院の自動ドアをくぐった。
中はやたらクーラーが聞いていて、とても涼しく、生き返るような心地だった。かなり広いスペースの受付に、一匹のラッキーが柔和な笑みを浮かべて立っている。誰かが行って来い、ほかのみんなはここで待っているから、そんな六匹のうちの一匹が、冷たいことを行って、まつポケモン用のソファに座ってため息をついた。それを見ていた残りのポケモン達は、やれやれといった表情でそのポケモンを見つめて、結局そのポケモン以外が受付に行って用事を口にするのだった…………
すみません、俺たちの友人――
――レイスは、どこにいますか??
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続きます
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- おお!リクエストに応えてくれてありがとうございます。ヾ(=^▽^=)ノ続き楽しみにしてますね(´ψψ`)
――[[サーナイト好き]] &new{2010-06-26 (土) 18:22:07};
- おもしろそうなお話ですね。
続きゆっくり頑張ってください。
――[[ウクレレカレー]] &new{2010-06-26 (土) 20:56:11};
- レイス先生フラグktkr
九十九さんお気に入りのキャラなんですね分かりますw
―― &new{2010-07-15 (木) 20:15:45};
- ウボァー
ゆめにっき?
―― &new{2010-07-15 (木) 21:27:42};
- ブイズ以外の患者で先生登場か・・・
――[[ウクレレカレー]] &new{2010-07-16 (金) 20:47:10};
- 本当に出ましたね……
もうこれからはレギュラーとして全作品に出してくだ)殴
失礼しました…続きを楽しみにしてます、執筆頑張って下さい。
――[[バジル]] &new{2010-07-18 (日) 16:39:36};
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