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女化噺 の変更点


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&color(red){※注意この作品には人間♂×ポケモン♀、複乳の表現がございます。};
*女化噺 [#c5dZXXN]

作者:[[COM]]

 ある所に&ruby(ちゅうごろう){忠五郎};という男が居た。
 忠五郎はのらりくらりとした性格で元は都に居を構えていたのだが、町で起きる様々なしがらみが面倒になり、人気のない森に居を構えて日がな筵を作っては売りに行き、生計を立てていた。
 時折人肌恋しくなる時もあるが、悠々自適に暮らせるが故、別段今の生活に不満はなかった。
 今日も今日とて山に入って藁を刈り、畑の面倒を見て今日も休憩がてら持ってきた握り飯を頬張りつつ、遠く山々を眺めていた。
 するとそこへ一匹の悪狐がよろりよろりと忠五郎の元へと歩いてくるではないか。

「お前、また来たんか。明日には獲って食われっちまうぞ?」

 不憫に思った忠五郎が握り飯の一つを手に取って悪狐に手渡すと、その手の下をすり抜けて、脇の切り株に置いていた残りの握り飯の一つを咥えて脱兎の如く去っていった。

「やれやれ……わしは獲って食やぁせんっちゅうのに……」

 弱ったフリをして握り飯を掻っ攫い、甲高い鳴き声を一つ上げて勝ちを誇る悪狐だったが、まだまだ未熟。
 人の前にそう易々と姿を現した時点で相手が猟師なら撃ち殺されるか猟犬に噛み殺されるが落ちだろう。
 それを分かっているからこそ、忠五郎はその悪狐の可愛らしい悪戯に付き合ってやっている。
 さもなければ忠五郎以外の猟師に狩られ、あっという間に狐鍋と冬着に役立てられてしまっていることだ。
 そんな小さな悪戯狐との戯れが始まったのは彼が其処に移り住んで居を構えてからまもなくしての事だった。
 気が付けばそんな日々も続いて早半年。
 その頃からだっただろうか、珍妙な作戦を繰り出してくるようになった。
 草原によくいる歩き草のつもりだろうか、たわわに葉を伸ばした蕪が畑の横を歩いて休憩中の忠五郎の元へと歩いてくる。

「お前さん……そりゃあナゾノクサのつもりかい? だったらそんな美味そうな見た目で人間に近寄ったら刻んで鍋で煮込まれっちまうぞ?」

 歩く珍妙な蕪に忠五郎がそう声を掛けるとたわわな葉っぱを震え上がらせ、一目散に逃げ帰ってしまった。
 その日からは化かしが出来るようになったことを誇示するように、一日一度の不思議な百鬼夜行基、百日夜行が始まった。
 最初の頃こそ山から下りてくるのは全部が珍妙なポケモンばかりだったが、その内山でよく見かけるような生き物達に変わり始めた。
 が、残念ながら山からなかなか降りてこないような小鼠やら青虫やらばかりに化けてちょこちょことやってくるためすぐに悪狐が化けているのだろうと目星が付く。
 その度々に知恵を巡らせて木の実をくれてやったり、菜っ葉をくれてやったりと握り飯は盗られぬようにしてやると、その度に少しずつ化ける相手を選ぶようになってきた。
 人間やらのやれ誰々に協力しろだの、税を納めろだのの柵と違い、その児戯に付き合うのは悪狐の成長が見れて楽しく、それからも暫くは付き合ってやっていた。
 季節が二回り巡る頃には化けも仕草も達者なものになり、忠五郎も知恵を巡らせるのが中々に難しく、同時に楽しくなってきていた頃、遂に忠五郎が危惧していた事態が起きてしまった。

「こいつめ! 人間に化けて俺の飯を盗ろうたぁ随分とふざけた野郎だな!」

 偶々村に筵を売りに来た帰り道、山を登る途中でそんな声を聞き、慌ててその場へと急いで忠五郎が走ってゆくと、今にも成敗されそうになっている悪狐の姿があった。
 忠五郎を化かすならまだしも、よりにもよって山の麓に住んでいる猟師の元へ人に化けて出たようだ。
 人が人の飯を盗めばそれはただの盗人。
 ちょっと考えれば分かることだが、悪狐にはそんな常識知る由もない。

「すまんすまん! そいつはわしが飼っちょるんだ。最近化かしが上達したもんでちょいと他人で試そうとしたんじゃろ。迷惑掛けてすまなんだ」

 猟銃を構えた猟師と悪狐の間に入り、忠五郎はそう言って静止すると猟師は随分と驚いた表情を浮かべた。
 当然といえば当然だが、何の役にも立たないポケモンをわざわざ育ててやる奴はなかなか居ないだろう。

「全く……飼うならガーディやらにしとくれ。迷惑甚だしい! その上人様の物を盗ろうたぁどんな躾をしとるんか!」
「全くもって当然だ。わしからキツく言い聞かせておく。今日の所はこれで勘弁してくれ」

 そう言って忠五郎は何度も頭を下げ、その日の売り上げを全部猟師に渡して事なきを得た。
 忠五郎が振り返ってその場を見ると恐怖のあまり動けなくなっていたのか、怯えた表情の悪狐がその場に縮こまって震えていた。

「な? 分かっただろう。騙すならわしにしとけ。そうせんと次は本当に食われっちまうぞ? ほら山へ帰りな」

 怯えた様子の悪狐をひょいと抱き上げ、頭を何度か撫でながらそう言い聞かせ、震えが治まった頃にそっと地面に下ろしてやったが、どうにも怪我をしたらしくよたよたと歩いては止まりを繰り返していた。
 このまま山に帰しても怪我で弱った所を他の獣に襲われるのが目に見えている。

「……仕方がない。怪我が治るまでわしが本当に飼ってやろう」

 そう言って今一度ひょいと持ち上げ、そのまま帰路に着いた。
 悪狐は暴れるかと思っていたが、どうにも暴れる気配はなく腕の中で大人しくしていたため、殆ど当初の予定通り日が暮れる前に家へと辿り着けた。
 怪我をしたのはどうやら後ろ脚だったらしく、確かにこれなら上手く歩くのは難しい事だろう。
 薬を塗って包帯を巻いてやり、いつもは盗っている忠五郎の飯を今度こそ直接渡されて食べる事となった。
 嫌がるのかと思っていたが特に抵抗するような様子もなく、素直にその飯を美味そうに平らげた。

「そんなに美味かったか? んならもう化かしで人様をおちょくるのは止めな。わしん所に来たなら飯ぐらい食わしちゃるけんな?」

 そう言って頭を撫でてやると、悪狐は遂に懲りたのか涙を流しながら忠五郎の胸の中で丸くなり、そのまま眠りに就いた。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



 それから暫くの事、忠五郎の下には平穏な日々が訪れた。
 毎日のように来ていた悪狐は怪我が治って山に帰って以降、まるっきり顔を見せなくなってしまったのだ。
 数日は寝食を共にしたこともあり、忠五郎も悪狐の安否が気にはなっていたが、人間が山を歩き回るのはあまりにも危険過ぎるうえ、流石にそこまでやってやる義理もないといえばない。
 悪狐との日々は楽しかったからこそこの空白の期間は忠五郎にとっても少々気を揉んだが、出来ることはただ無事でいてくれることを願うのみ。
 もしも別の猟師にでも狩られてしまっているのならば、忠五郎が下手に優しくしてしまったせいでもあるだろう。

『もう後一週間も待っても顔を見せないようなら……諦めるしかないか』

 そんなことを考えながら過ごし、遂に一週間が経ち、幾度も季節が巡っていった。
 畑の脇に小さな墓を建ててやり、それも遠い昔になっていたある晩、戸を叩く音が部屋に響いた。

「夜分遅くにすみません。道に迷ってしまって……人家も見当たらずに途方に暮れていたのですが、明かりが見えたのでもしご迷惑でなければ今夜一晩泊めていただけないでしょうか?」

 そう言って訪ねて来た女性は思わず目を見張るほどの美人だった。
 行灯片手に歩いてきたらしく、見るからに疲れた様子だったこともあり、忠五郎も快く迎え入れた。
 丁度忠五郎は飯の支度をしていたこともあり、そのまま夕餉を彼女にも振舞うと深々と頭を下げ、久方振りに誰かとの食事を楽しんだ。

「泊めて頂けるどころかお食事まで戴いてしまい、申し訳ありません」
「いやいや。こちらこそ大したもんもご用意できずに申し訳ない。見ての通り、一人で暮らしているもんで寝床もすぐにこさえるので」

 その女性は&ruby(やえ){八重};と名乗り、度々深々と頭を下げたが、同じくあまりの美人に恐縮し、人を招く準備もしていなかった忠五郎もまた何度も頭を下げていた。
 暫くそうして互いにぺこぺこと頭を下げ合い過ごしていたが、とうとう寝床はどうにもならない事を謝り、とりあえずその話は済んだ。

「時に差し支えなければ……何故にこんな辺鄙な場所を女子一人で越えようとしたのかだけ訊ねても?」

 そう言うと八重は表情を曇らせ、遂には涙を流してしまった。
 聞くに都への道すがら、下男に裏切られ路銀を全て盗られて逃げられてしまったのだと答えた。
 本来ならもう都にも付いていた頃、盗人を探して歩き回る内にこんな時間になってしまったのだそうだ。

「こんな別嬪さんに酷い事をする男も居たもんだ。布団はわしの分しかなかったんで八重さんはそっちで寝てくれ。わしは筵で十分だ」
「そういうわけにもいきません。恩人を筵に寝かせるなど……」
「気にせんでくれ。わしの作る筵は一等質がいい。寝るのにも十分さね」
「もし忠五郎様が宜しければ……同じ布団で寝るのは如何かと」

 気さくに笑っていた忠五郎も思わずその言葉には生唾を飲み込んだ。
 麗しいご婦人が二人きりの部屋で同じ布団で寝ようなどと進言してきたのだ。
 悶々とした考えが思い浮かんでしまうが、流石にそれはならんと心の中で一喝を入れ、忠五郎は首を横に振った。

「それはいかん。下男を付けるような方が都に行くならそれこそ大事があったからだろう。わしはもう面倒事には巻き込まれたくないんでな。礼なら十分受け取った」

 そう言って忠五郎は八重の返事も聞かずに筵の上にごろんと横になり、八重に背を向けて寝た。
 これ以上八重からそんな危ういお誘いが続けば邪な考えを遮り続けられるとは決まっていないため、忠五郎にはそもそもそういう考えがないと行動で示すのが精一杯だったのだ。
 しかし八重はまるで初めからそれが狙いだったとでも言うように、背を向けて寝る忠五郎の肩にそっと手を置いた。

「忠五郎様、私の事ならば気にしなくてよろしいのです。夜は冷えますので」
「ええい! 面倒事に巻き込まんでくれ! わしは大丈夫だ!」

 そう言って八重の手を払いながら彼女の方を見ると、先程までいた美しい女性の姿が煙のように消えてゆき、代わりに随分と大きくなった悪狐の姿が其処にあった。
 八重の手を払った忠五郎の手がその悪狐の頬を掠めていたのか、顔を手で押さえ何時ぞやのように泣きそうな表情で忠五郎を見つめていた。

「お、お前……もしかしてあん時のゾロアか?」
「ご、ごめんなさい! 悪さをするつもりではなかったんです!」

 どうにも忠五郎に事故とはいえ叩かれたのが心底ショックだったらしく、その悪狐はすぐさま額を床に付けて謝った。
 どうにも忠五郎に事故とはいえ叩かれたのが心底動揺したらしく、その悪狐はすぐさま額を床に付けて謝った。
 怯え方から察するに、忠五郎にどやされると思っていたのだろう。
 しかし忠五郎はそんな悪狐の肩を起こし、なんとも懐かしそうな表情で笑ってみせた。

「そうかあ……随分と大きくなったなぁ。しっかり飯も食っとるようで安心した」

 想像していたのとは違う反応が返ってきたせいか、悪狐は忠五郎のその表情を見て随分と困惑していたようだ。

「お……怒らないん……ですか?」

 恐る恐るそう聞く悪狐に忠五郎はゆっくりと首を横に振り、嬉しそうに大きくなった悪狐の頭を撫でてやった。

「怒るどころか嬉しいばかりだ。いやはや……わしも見破れんほどに上手く化けるようになったじゃあないか。暫く見なくなったもんだから死んだとばかり思っていた」

 忠五郎は子供はおろか嫁すら娶ったことがなかったが、大きくなった悪狐の姿を見てまるで我が子が大きくなったかのような感慨に浸っていた。
 死んだと思っていたこともあり、どう見ても無事に成長していた姿を見れたのはこれ以上ない恩返しだったことだろう。
 それを優しく抱き寄せて何度も頭を撫でる事で伝えると、今一度悪狐は静かに涙を流しながら忠五郎の体をしっかりと抱きしめ返した。
 後は悪狐が泣き止むまで頭を撫でてやり、忠五郎と離れてからの事を色々と聞いてみた。
 なんでもあの日忠五郎に助けられた時、初めて人間というものが恐ろしい存在なのだと理解したようだ。
 それもあって忠五郎に近寄るのすら恐ろしくなり、山で化けの腕を磨きながら暮らして暫く、腕も随分と上がったことで恐る恐る人里に降り、人に化ける術も磨こうとしたそうだ。
 時が経てば立つほど忠五郎の言葉の意味がよくよく分かり、今まで忠五郎にどれだけ非道い仕打ちをしても叱るどころか怒りもしなかった事に漸く気付き、何か恩を返せないかと考えるようになり、ならば人の事をもっと知らねばならぬと考え至ったのだと語った。
 村の子供に紛れ、子供達から様々な事を教えてもらい、旅行く坊主に童子に化けて話を聞き、法師に遠く異国の噺を聞き、そこで自らの羽で機を織って着物を作り、恩を返した水鳥の噺を聞いたという。
 水鳥ですら受けた恩を返すために人に化けらるるとあれば、それが得意技の悪狐には何ができるか。
 考え考え考え抜く内、不意に思い出すのはいつも優しく笑いかけてきていた忠五郎の優しい顔だったこと。
 その顔を思い出す度に胸の内が熱くなり、顔が火照るのを自覚し、それを思わず旅の人に訊ねたそうだ。

「そりゃあ、お前さんがその男を好いちょるっちゅうことじゃろう。こんな別嬪に好かれるとはその男も果報者じゃなぁ」

 そこで自らの恋心を知り、同時に忠五郎に嫁入りすることがそのまま恩返しになると考えたようだ。
 この頃には悪狐も小狐から成長し、町娘より一回り小さい程の大きさになっていたため、色恋の果てに何が待っているのかも薄々本能で理解していた。
 ならばそういった逢瀬を楽しんでもらうためにも欠かせない事が一つある。
 彼女の化けは見事なものだが、ちょっとした動揺ですぐに解けてしまう。
 子供達と化けて遊んでいた時もちょっと吃驚すると元の姿に戻ってしまっていた程だ。
 相手が子供だった故に大事にはならなかったが、そんなことでは人に化けて忠五郎に嫁入りするなど夢のまた夢。
 気は乗らないが、どんなことにも決して動じぬ胆力が必要だろうと大人を相手に化けてその技を磨いていった。
 初めは道行く飛脚や旅人を化かし、精神的な動揺では解けぬように肝を鍛え、次第に色で男を惑わし林へと誘い出すようにした。
 当然忠五郎以外の男に身体を許すなどしたくはなかったが、それも全ては完璧な化けを以て忠五郎の嫁となるためだ。
 美しい嫁が化け狐とあっては世間に見せる顔などない。
 その為に時折襲われ、化かしが解けて殺されそうになる事も屡々だったが、全ては想い人の為。
 遂には飯盛女として奉公しても化けも解けなければ最後まで気取られぬ程に腕が上がっていた。
 しかし今日という日に備えそれほどの甲斐甲斐しい努力を重ねたにも関わらず、こうもあっさり変化が解けてしまい、嫌われた。もう恩も返せないと絶望の淵まで追いやられていたようだ。

「そう気に病むな。別に近くに人は住んではおらん。……嫁が狐でも訝しむ者も嫌がる者も何処にもおりゃあせんて」

 そう言って忠五郎は悪狐の背を優しく撫でながら耳元へ優しく言い聞かせた。
 その言葉の意味が悪狐には一瞬分からなかった。
 御伽噺で聞いた水鳥はその姿が暴かれた時、もう此処には居られぬと飛び去ってしまったと聞いていたため、人ではないことが気付かれてはならないと思い込んでいたのだ。
 抱きついていたままの状態からそっと顔を離し、忠五郎の顔を見た悪狐は、不意に視線が合って気恥ずかしそうに視線を逸らし、顔を赤く染めた意味が分かり思わずわたわたと意味の分からぬ動きをしながら後ずさってしまった。

「え……え!? でも私は見ての通りただのゾロアークです。八重のように美しい女性ではありませんよ!?」
「美しい花によい実はならぬと言うてな。元は都に住んでいたのだが、誰も彼もがやれ贔屓しろと女を宛てがおうとしてきてなぁ……。人付き合いが嫌になって山に移り住んだんだ。その点お前さんはわしの事を好いてわざわざ色々と努力してくれたのじゃろう? 好きで動いてくれた相手が人でなかろうと構わん。その心が嬉しいのさ」

 元々人と人との面倒な関わりが嫌で離れていた忠五郎からすれば、見目の問題などさして大きな問題ではなく、寧ろその後ろにちらつく影の方が恐ろしかったからこそ、悪狐の純真は嬉しかった。
 とはいえ確かに多少の戸惑いはあったわけだが、今の今までの経緯の話を聞く中で、わざわざ忠五郎の嫁になるために夜の手腕も磨いていたという言葉が思わず彼を唆らせた。
 化けてでも忠五郎の欲を満たしたいと身を捧げるなど健気などと言う言葉では済まない。

「それに……正直な? お前さんが暫く見ない内に随分と大きくなって狐のままでも随分と容姿が良くなったので……思わずこれもありだと思ってしまったわ!」

 そう言って恥ずかしさをけらけらと笑って誤魔化していたが、悪狐が思わず忠五郎の股座を見ると既に彼の魔羅がぐぐいと布を押し上げ小山を作っていた。
 今まで十分に見慣れたはずのその光景に悪狐はやはり心臓が止まってしまいそうなほど驚き、視線を顔の方へ戻す事すら忘れて注視してしまう。

「いいんですか? 狐で……」
「寧ろ主がそれでいいのか? 狐に欲情するような偏屈の獣だ」

 一人と一匹の問いが交わされると暫くは静寂だけが場を支配した。
 答えは一つと分かっていても、いざとなるとこれ以上ない程に初々しくなってしまう。
 事も始めていないのに生娘の如くしおらしい表情を見せる悪狐に思わず忠五郎も期待してしまう。
 双方合意と言うのにわざとらしく互いに視線を泳がせ、とどめの言葉を発さない。

「そ、その……お手柔らかに……」

 遂に観念したのかそれとも我慢ができなくなったのか、顔を真っ赤に染めた悪狐が布団に横たわり、掛け布団をずらして誘うようにその端を握ってそう言った。
 流石に飯盛女の真似事までしただけあり、男の劣情を誘うのは得意技。
 これには遂に忠五郎も股引を下ろしながら悪狐の元へと誘われる。
 布を下ろすとぶるんと魔羅が勃ち上がり、雄々しいその姿を顕にした。

「いいんだな?」
「嫌というものでしょうか」

 黒い毛並みの股座をまさぐると、明らかに一箇所だけ濡れた場所がある。
 指で&ruby(ほと){御陰};をなぞり、人差し指と薬指で濡れた分け目を割り拡げ、中指をついと滑り込ませると熱く絡む淫熱と柔らかな肉の感触、それに呼応するように悪狐の口から艶を含んだ吐息が漏れる。

「挿れる前からこれとは……そんなにわしのを待っていたのか?」
「堪忍してください……! ここ数日はもう貴方様の事しか頭に浮かばなかったのです……」
「助平狐め。それに興奮しとるわしも十分に助平じゃがな」

 抜いた指には然程動かしてすらいないのにてらてらと火に照らされる透明な糸が指と指とを架けている。
 前戯も要らぬと悪狐は忠五郎の肩を手繰り寄せ、己の上に多い被らせた。
 いきり勃った魔羅が服の下から顔を出し、早くその悪戯狐の御陰を沈めてやりたいと力強く跳ねていた。
 高鳴る心音を抑えるように何度か深呼吸をしてから右手を魔羅に添え、湿った悪狐の御陰に押し当てる。
 するとどうだ。恥肉は忠五郎の魔羅を全く遮らず、寧ろ迎え入れるように包み込んでゆく。
 人の物より熱い膣内がより柔らかで包み込む恥肉が、忠五郎の魔羅を挿れる端から余すことなく包み込んで甘い刺激を与えてゆく。
 それは正に極楽。
 数多の男を惑わしただけはある名器は三擦り半も持たせずにあっという間に忠五郎を責め立てる。
 見ればまだ寸刻しか経っていない。
 魔羅も半分も沈み込んでいないが、既に忠五郎の方は限界だ。

「どうしたんですか?」
「ちょ、ちょっとだけ待ってくれ!」
「そんな事言わずにもっとぐいと奥まで挿れてくださいまし」
「ちょ!? あっ!!?」

 限界に耐えている所を悪狐は焦らされていると勘違いしたのか、両脚を忠五郎の腰に回してぐいと引き寄せた。
 だが限界ギリギリの所でそんなことをされればひとたまりもあるはずもなく、無惨にも忠五郎は挿れただけで果ててしまった。
 一人がくがくと身体を震わせながら、極楽を味わっていたのだが、その様子を見て忠五郎が果てたのだと悪狐も察し、なんとも気不味い空気となってしまった。

「す、すまん……。こういうのは不慣れで……」
「いえ、私こそ申し訳ありません。こんなに急く事は今までなかったというのに……」

 随分と早い初夜になってしまい、一人と一匹は随分と肩を落としていたが、その様子を見て忠五郎は今一度悪狐の頭を撫でてやった。

「それほどお主がわしの事を好いていたということじゃろ。わしの方こそそんな女子一人満足させられんですまなんだ」

 そう言うと悪狐は嬉しそうに忠五郎の頬を舐め、そのまま唇、口内へと舌が滑ってゆき、軽く舌を絡めてから顔を離す。
 最早二人の姿は愛し合う夫婦そのものだが、お互いそのまま終わるのは不服だ。
 悪狐も悪狐で折角忠五郎のために鍛えたものを最後まで堪能してもらいたいという思いが強く、同じように忠五郎もこのまま萎えたとあっては男が廃ると息巻いていた。
 暫くは接吻を交わし、毛の中に埋もれた乳首を探り当てては上から順に一つずつ捏ねてゆき、悪狐の反応を楽しみながら魔羅が力を取り戻すのを待つ。

「そういえば今更だが、お前さんの名前は何と呼べばいい?」

 黒い毛の下にある乳首を舌で転がしていた忠五郎が不意に口を離し、そう悪狐に問うた。
 "八重"とはあくまで化かした際の名前であり、本来の名ではないだろうと思ったからだ。

「八重で構いませんよ。それが人に化けた時の名でしたので」
「本来の名は?」
「ありません。生まれてすぐに一人生きる私達には名を呼ぶ相手などおりません故」

 人と獣とでの感覚の違いを味わいながら忠五郎は悪狐の言葉を興があると噛み締めたが、人にとって名が無いのは不便でならない。
 そのためすぐさま忠五郎はその違いを含めて楽しむように悪狐を八重の名で呼び、微笑んでみせる。

「私からも一つ訊ねさせてください」
「なんだ?」
「もし私が人の姿のままでも……好いてくれたでしょうか?」

 八重の問いに忠五郎は表情を崩した。
 というのもこれは中々に難しい問いだ。
 確かに最初は八重の化けた人の姿に見惚れたが、かと言っていきなり好意を寄せられても裏があるのではと勘繰ってしまう。
 ある意味変化が解けた事で、あの日あの時から八重という人間が急に好意を寄せたのではなく、悪狐の八重が積もり積もった恋心を果たしに参ったのだという事が分かったからこそ忠五郎の心は動かされた節が強い。
 だから答えるならば否となるが、ならば八重が嫌いなのかと問われればそれもまた違う。
 傷付けたくないからこそ、言葉選びに慎重になっていた。

「う~むどう答えたものか……」
「ふふ……冗談ですよ。答えられない事など分かっておりました」

 そう言って困った顔の忠五郎に意地悪な笑顔を見せる八重は、昔毎日のように見せていたあの小狐の表情だった。
 それで察したらしく忠五郎もにかりと笑いながら八重の頬を輪を描くように捏ねてみせる。
 本当に随分と化かしの術もその手口も上手くなったようだ。

「あれからその技で人を困らせたりしたのか?」
「変化が解けた結果そうなったことはありますが、初めから悪さをしようと企んだことは誓ってありません」

 念のため八重の倫理観を確認したが、聞くまでもなく八重はいい子に育っていたようだ。
 しかし少々しんみりとした話や昔の思い出に花を咲かせてしまったがために、魔羅の方は役目は終えたとでも言うように眠ってしまう。
 奮い立たせようにも如何せん逢瀬を愉しみたいという気持ちよりも、単純に八重との時間を楽しみたいと思うようになってしまっており、どうにも感情がちぐはぐな状態となってしまった。

「しまったなぁ。まだお前さんを喜ばせてやっていないというのに」
「別に今日で仕舞いというわけではありませんので」
「そうは言っても雰囲気は大事だ。それに男としての思いもある。好いた女ぐらい満足させてやりたいし、できるなら子だって授かりたい」

 忠五郎のその言葉を聞くと八重は目を見開いた。
 先程までの御淑やかな雰囲気とは違い、どこか野生を感じさせる肉食獣の血を宿したその眼で忠五郎の瞳をじっと見る。

「できますよ。人とポケモンでも子を授かれます」
「なに? そんな話は聞いたことが無いぞ?」
「本当はポケモンは皆、人とまぐわって子を成す事が可能です。ただ、ちょっとばかり人への負担が大きいのと、条件が少しばかり厳しいのであまりそういう事態に至らないというだけです」

 八重が真剣な表情でそう語ると、忠五郎の魔羅の方もやる気が出たのか、今一度目覚めた。
 忠五郎の様子を見て八重の方も彼の本気を感じ取ったのか、ちょっとそのための準備をすると精神統一を始めた。
 暫く座禅を組んでじっとしていたかと思うと不意に半勃ちだった忠五郎の魔羅に舌を這わせて先から溢れていた先走りを舐め取り、今度は四肢を収めてうつ伏せになる。
 そのまま暫く深呼吸をしたかと思うと、急にその呼吸を荒げ始めた。
 急なことで忠五郎は八重の見に何かよからぬ事が起きたのではと心配になり、肩に手を伸ばしたが、その腕をぐいと引っ張られて舌を口の中へと入れ込んできた。
 先程までより更に熱を持った八重の舌は、舌を絡めるためというよりは次々と自らの唾液を忠五郎に飲ませるために送り出すような動きをし、何度かその唾液を飲み込むとするりと口から離れてゆく。

「これで準備が出来ました」

 そう言う八重の瞳は瞳孔が開いており、忠五郎を見る目はまるで獲物を見るようにも思える程になっている。
 呼吸も荒く、どうみても大丈夫そうには思えないが、それは忠五郎の方も同じ事。
 魔羅がそそり勃ったまま固定され、不思議なほどに鼓動が早くなっていた。

「な、何をしたんだ?」
「人と子を成すためには身体をそれができる状態に、つまりは盛りに入らないといけないのです。盛りのついたポケモンの唾液は媚薬のそれと同じかそれ以上。必ず私を孕ませてください。忠五郎様」

 そう言って八重は布団の上に仰向けになり、股を開いてみせる。
 そんなことはないはずなのだが甘い香りが広がり、脳を蕩けさせるような感覚に陥る。
 本気の獣の底力に少々戦慄しつつも、もうその極上の花の匂いに魅せられた雄蜂の如く、ただ覆い被さる事しか考えられなくなっていた。
 ぬるりとした感触を再度味わいつつ、再び御陰へと魔羅を突き挿れる。
 先程とは到底比べようもないほどの刺激が体を突き抜け、またしても挿れただけで果ててしまったのだがどういうわけか魔羅は萎える気配を一切見せない。

「こ、これは一体どうなっているんだ?」
「盛ったポケモンの唾液の効果です。これで私を孕ませるまで萎えることはありません。例えまた力を失おうといくらでも私の唾液を分けましょう」

 人の妖艶さとは違う鬼気迫るような獣の表情。
 普段ならば襲われる獲物が見るその表情に恐れ慄くのだろうが、惚けた頭では魅力的にしか見えない。
 人の身体に負担を掛けるとはこういうことだ。
 そのまま緩やかに腰を動かし始めたが、刺激が足りぬとあっという間に八重が腰に脚を掛け、前後から巧みに忠五郎を揺さぶり搾り取るような腰のくねりを生み出す。

「はっ……!? ……っあ!! ま、待ってく、くれ! さっきからずっと……! はぅ! 逝ったままだ!」
「知っています。でも私も逝かなければ孕めません。子を成すための本気の交尾とは、人とポケモンとのまぐわいとはこういうものなのです」

 八重の体に倒れ込む忠五郎の体をしっかりと抱き止め、そのまま脇の下から腕を回して完全に捕縛する。
 男が女を押さえ込むならまだしも、雌の方が決して雄が逃げられぬように体を固定し、腰と膣の中だけをぐねぐねと蠢かし続けるのだ。
 遂に忠五郎の四肢に力が入らなくなると、未だ余力のある八重はあっという間に忠五郎の体ごと反転し、上下を入れ替えた。

「忠五郎様……! 今の私は、とても嬉しゅうございます! 貴方の嫁にして頂けただけでも十分でしたのに、子についての考えまで一緒だったとは思いもよりませんでした! 必ず……必ず生んでみせます故、もう少し辛抱ください!」

 野生と本能を剥き出しにした八重のまぐわいは、最早獣同士の交尾そのもの。
 忠五郎の上で淫靡な水音を響かせながら、熱い吐息を夜闇に響かせ休む間もなく腰を妖艶にくねらせる。
 草蛇の胴ほど自由に上下左右に乱舞し、声にならぬ悲鳴を上げる忠五郎から問答無用で貪り尽くす。
 それが忠五郎にどれほど負担を掛けているのかを分かりつつも、もうその本能は止めようがない。

「も、もう無理だぁ!! 玉袋も空だ! 次でいい! だから今日はもう勘弁してくれぇ!」
「勘弁なんてできませぬ。最初に申し上げた通り、今の私は盛りのついた獣です。貴方様に孕ませていただくまで決してこの盛りは終わりませぬ。私ももう限界は近いのですから、もう少し頑張ってください」

 言うが早いか、八重はすぐさま忠五郎に唾液を飲ませ、いきり勃ったままの魔羅に暇を渡さない。
 二人の腰にはもう混ざりに混ざった愛液と精液が溢れ返り、動くだけでぐちょりぐちょりと音を立てるほど。
 だが八重が口にした通り、もう彼女にも限界は近かったらしく、魔羅を根元まで咥え込んだまま自らの小袋と擦り合わせる。

「あ、あぁ……! 逝きます! 私も極楽に……!」

 一際大きな声で息を荒げながら八重はそう言い、忠五郎の魔羅と玉袋に残る精液を全て搾り取るかの如く、膣内全体を震わせ、締め上げて絶頂を迎えた。
 もう何度目かになるかも分からない程絞り尽くされている忠五郎は結局その野性的な搾精すらもきちんと受け入れ、文字通り残りの全てを空になるまで彼女の中へと解き放っていった。
 すると先程までの鬼気迫るような気配はたちどころに消え、そのままぐったりと忠五郎の横に倒れこみ、二人でただただ荒い息を響かせ続けるだけとなった。
 条件の厳しさもさる事ながら、何より獣の体力に人間が合わせなければならないのが最大の難点だろう。
 薄れゆく意識の中、忠五郎はぼんやりとそんなことを考えながら意識を失った。



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



 目を覚ませば全てが夢だった。
 そうなってもおかしくはないような衝撃的な一日だっただろう。
 全身の倦怠感に襲われながら、陽も中程をとうに通り過ぎた頃に漸く忠五郎は目を覚まし、その惨状を目の当たりにして再度軽々に八重の言葉を受け入れたことを呪った。
 その八重は既に目覚めていたのか姿はなく、暫く体を起こしてぼうっとしていたが、戸を開けて人に化けた八重が入ってくると、目を覚ました忠五郎の姿を見て慌てて変化を解き、またも深々と頭を下げてきた。

「昨晩は本当に申し訳ございません! いきなり押しかけたうえ、事情も説明しないままに無理に行為に及んでしまい……!」
「いやいや構わんよ……。わしも体力には自信があったがまさかこれほどとは思わなんだ。顔を上げてくれ」

 獣の如き体力と全身全霊の愛を一身に受けたことで色々と教訓になったわけだが、当然そんな程度のことで忠五郎も彼女を嫌いになどなりはしない。
 少々愛が先行し過ぎただけであり、そこにある思いはとても純真無垢そのものだからだ。

「八重、こういうのは男から言い出すのが決まりだ。これからもわしの傍に居てくれ。きっと幸せにしてみせる」
「不束者ですが、今後共宜しくお願い致します」

 顔を上げた八重に忠五郎は真剣な表情でそう言ってから、軽く動かすだけでぎりぎりとでも音を立てそうな身体で軽く頭を下げた。
 それに対して八重も嬉しそうに笑い、ゆっくりとそして深々と頭を下げ、正式に二人は夫婦の関係となった。
 その後、八重は見事子供を授かり、末永く幸せに暮らしたとさ。

 めでたしめでたし。

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