作者名:[[風見鶏]] 作品名:失われた感情9 前作:[[失われた感情1]] [[失われた感情2]] [[失われた感情3]] [[失われた感情4]] [[失われた感情5]] [[失われた感情6]] [[失われた感情7]] [[失われた感情8]] ・注意 強めの残酷表現があります。 苦手な人はバックをお願いします。 官能表現が入りました。 苦手な方は同じくバックお願いします。 ---- 「はぁ……、はぁ……」 やがて、リオの動きが止まる。 そして、力尽きたようにその場にへたり込んだ。 「……これで、よかったんだよね」 きっと、返ってこないことは知っていっても、答えが欲しかったのだろう。 ほとんど放心したようにレイをみつめる。 もう、何をしても助からない。 全く、身動きひとつ、しなかった。 「あはは……、なんていえばいいか、わからないや」 それほどまでに、リオの中には伝えたいことがたくさんあったのだろう。 時間がないことが、わかっている今、もうリオには適切な判断はできない。 「……それでいい」 「っ! レ、レイ?」 口元だけが言葉をつむぐ。 少し離れているフィフスの元にはリオの声しか聞こえなかった。 「……フィフス、行って」 そのときのフィアの心情はわからない。 後ろから押され、無理やり僕はリオの近くまで寄らされた。 少しして、ルゥも引きずられるようにしてレイの近くまで来る。 「……みんなして私の哀れな最期を見たいわけね」 か細い声で皮肉を言う。 実際に目の前にすると、レイの惨状は酷いものだった。 体はともかく、片目はつぶれ、のど元も深く切られ、呼吸音に異様な音が混じっている。 「ふふ……最期におしゃべりってのも悪くないかぁ」 死を間近にしているというのに、レイの表情はかつてないほど穏やかだった。 「どうして、一緒に行けなかったのかな」 頬についたレイの血は、まるでリオが血の涙を流しているように見せた。 力ない声音が、リオの喪失感を彷彿とさせる。 「……死に行くものにその質問は無粋なんじゃないかなぁ」 苦笑したかったのだろう、引きつった声をあげながら言う。 「もう語ることもないよ」 そのフレーズだけが、きっぱりといわれる。 「……! どうして――!」 「でも、これだけは覚えておいて欲しいな」 言葉をさえぎり、リオが黙るのを確認する。 「あなたが、どんなことをしても生きる覚悟を決めたから、私は殺されたんだよ」 間違ってもこの言葉はリオを責めていない。 「生きなさい、選んだ道ならば。どんな現実が待ち受けていようとも、死ぬ道を選ばないで」 残された片目がリオを見据えていた。 「……返事は?」 「……わかった。曲げない。私、絶対に生きる……!」 その返事を聞いた後、ほんのわずかだが、レイが微笑んだように見えた。 そして同時に、なぜかフィアが二匹から顔をそらすのをみてしまった。 「……受け入れられないわ」 和解した二匹をよそに、ルゥがぽつりとつぶやいた。 そのまなざしは、非難と、憤りが混じる軽蔑のまなざしだった。 「どういう、こと?」 ルゥをみつめるレイの表情は、先ほどの微笑が消え、なにもなかった。 「わざと、負けたわね」 その言葉は、確信している響きだ。 「おかしいと思っていた。いくら弱っていたところで不意打ちのサイコショックでやられるわけがない」 レイは語らない。 「今の言葉でわかったわ、死ぬことを選んで欲しくないから、こういうことをしたのね……」 フィフスにはまだ理解できていなかった。 「どういうこと? レイが……わざと……?」 リオの体が震えだす。 それが驚愕によるものなのか、それとも怒りなのか、悲しみなのかわからない。 「あなたが何を見てるかは私にはわからない。でも……でもなぜ? なぜあなたが死を選ぶ必要があったの!?」 必死に訴えるルゥの目から一筋の涙が溢れ出す。 「……死ぬ前になって言われてもなぁ」 無気力なレイの声が、ルゥの思いを無碍にする。 「ルゥ、あなたのその言葉が、未来を狂わせるかもしれないんだよ? せっかく作った私の思いを」 その言葉が引き金となった。 ルゥが立ち上がり、片前足でレイの頭を思い切り踏みつける。 「が……ぅ……!」 「そんな気持ちを受け取ったって……! 誰も喜ばないわ!」 ほとんど気力でやった行為なのだろう。それほどまでに、ルゥは許せなかったのだ。 レイの選択が。 「リオだって言ったじゃない……這い蹲ってでも生きるって! 正直すごいと思った。私よりも全然生きていないのに、どうしてそんな強い気持ちがもてるのか、まだ私にはわからない。 でも、だからこそ、私はついていくことにしたのよ? 一匹ではだめなものも、支えあえば乗り越えられると思ったから」 震える四肢で立ち上がる。その横ではリオが倒れないよう、体で支えていた。 「……ふ、ふふ……」 残された片目が細まる。 「レイ……!」 「わたしも、そうしたかったなぁ」 もう、周囲を見る目は遠かった。 「できなかったのは、やっぱり、信じられなかったせいなんだろうな」 その言葉は、フィフスに突き刺さった。 「……! わたしは――!」 「あなたが信じていても、わたしが信じていなかったんだよ。悲しいでしょうけど」 すべて言わせないでくれ、そういう思いが感じ取れた。 それを察してか、リオもルゥも、そのまま黙り込んでしまう。 「正直、しびれ薬を飲ませたときまでは、殺すつもりだった」 傍らで、小さくリオが身震いしたのを確認した。 「思えばその前で、リオが子供の話をしたときの段階で、もうわたしの思いは揺らいでいたんだろうな」 瞳がフィフスを向く。 「……あなたとであったせいだね」 その言葉は、レイの心情を表すにはあまりにも抽象的過ぎる言葉。 でも、それはすべてを表すのに十分な言葉。 「いま、フィフスは、何を思ってるのかな? ……かわいそうな殺人者としか思っていないのかな」 僕は答えない。 しばらくレイは黙っていてくれた。 しかし答える気がないことを悟ると、あきらめたように目を伏せた。 「そっか、……まぁ、べつにもう、なんと思われてもいいけどね」 少しだけ残念そうに、それでいて、何かをごまかすように。 隠していないつぶれた瞳から、涙がこぼれ出た。 「……変だな、涙なんて、もう見せないつもりだったのに」 少し照れたように、作り笑いを見せるが、吊り上げたほほは震えている。 ぽたりと落ちるレイの涙は、血でぬれた地面ではもう確認できない。 フィフスに見えたのは、レイの頬から落ちてくる、結晶のような雫だけだ。 「……だめだ、もう、私」 ささやかなつよがりも、長くは持たなかった。 表情が崩れる、今まで、みたことのない、レイの弱い部分だった。 「最後まで、貫けると思ったのに、なぁ……」 なき方は、まるで子供だった。 おそらく目を隠そうとしたのだろうか。 レイの右肩あたりがわずかに動いた。 だが、筋を切られた前足が、レイの泣き顔を覆うことはない。 「なさけないな、なさけないよ、ほんとに、私……」 押し殺した嗚咽は、折れてしまった心を必死に隠そうとするわずかなプライドの表れで。 隠せなかった泣き顔は、紛れもなく、レイの本心で。 「ごめん、みんな、今だけは、見ないで、ごめん……」 きっと、人知れず、泣いていたのだろう。 ほかの二匹にはわからないところで、すべてを背負って。 きっと、どこかでは、一番二匹のことを思っていたのだろう。 それを、最後まで、見せないで、 あくまで悪者であり続けようとして。 最後の最後で、メッキがはがれちゃったね。レイ。 内面で作った僕の心がつぶやく。 その言葉は、皮肉でもなんでもない。 だからこそ、嫌いだった。 でも、それに代わる言葉をかけてあげたかった。 おそらく、これが、彼女が彼女であるための、最後のチャンス。 本当の別れをするための、鍵。 「……我慢しないで、もう、苦しむことは、ないんだ」 ようやく口に出せたその言葉は、吐き気がするような言葉だった。 「もう、ないてもいいんだ、弱音も吐いて、いいんだ」 また、だ。 「……フィフス」 なきぬれた瞳は、もう力強さのかけらもない。 自分が嫌悪感を覚えるその言葉も、今のレイにとっては紛れもなく、救いの言葉にしかならない。 それがどれほど無責任な言葉かも、わからずに、そのやさしさにすがってしまう。 僕は、ずるいポケモンだ。 「う……ううぅ……!」 レイを引きとめていた鎖が、解けた。 今まで作ってきた、もう一匹のレイは、もういない。 「……ごめんね、レイ」 堰の切れた彼女に、その言葉は届かない。 いや、むしろ届いてほしくはなかった。 言葉に発することで、少しでも嫌悪感と、罪悪感から逃れたかったのかもしれない。 それも、気休めで、事実は変わらない。 そして僕は、ごまかすように、レイに近づいた。 「……結局、一番甘いのは、わたしだったね」 血で汚れた顔は、涙の流れたところだけ、元の色を宿している。 ほんのわずかだけ、レイの体が後ろに下がった気がした。 それも、彼女が残した、「非情な姿」の最後の片鱗だったのかもしれない。 「私も、馬鹿だなぁ、死ぬ間際になってこんなこと思うなんて」 わざと明るくしゃべってみせる。 照れ隠しなのか、自分に嘘をつきたいだけなのか、それもわからない。 「リオ、ルゥ。……ごめんね、ついていけなくて」 ぶっきらぼうな台詞だった。 呼ばれた二匹ははじめのうちは反応できていなかった。 だが、レイが二匹の方向を向いた瞬間、理解したようだった。 「……ほんとうに、ごめんね」 この言葉しか、思いつかない様子だった。 同じ時を過ごしてきた彼女たちにとって、この時間は、もう短すぎるのだろう。 お互いに、言葉を探し、黙り込んでしまう。 「いままで、ありがとう」 「え……?」 沈黙のなか、聞こえたその言葉は、きっと知らないところで求めていた言葉。 「そして、さようなら」 なぜだろう。 また、僕は、感化されているのだろうな。 「レイ……!」 何度目だろうか、リオが押さえきれずに泣き出す。 リオだけじゃない、その場の全員が、感情を抑えられずにいた。 「泣かないで、……とはいえないな」 涙声のせいか言葉はかすれる。 「どうしてかな、こんな別れ方なのに、私、寂しいよ」 薄明かりの森の中、小さな風が、通り抜けていく。 「……もっと、一緒にいたかったな」 今ではどうしようもない。その言葉。 風は、五匹の間をゆっくりと縫っていった。 「……寒いや。もう、私も時間がないね」 通り抜けた風は、レイに、時を示す。 誰も、誰も言葉を返さない。 「……行きなさい。もう、あなたたちも時間がないわ」 それを言うと、レイはゆっくりと目を閉じようとする。 「レイ! いや! 行かないで!」 リオの悲痛な叫びが、虚空を貫く。 「リオ……行きましょう」 叫ぶリオを、ルゥは静止した。 その表情も、やはり頬に涙の筋がついていた。 「レイ、さようなら。あなたと出会えたこと、少なくとも、後悔はしていない」 耳がわずかに動いたことから、まだ、レイは力尽きていないようだ。 「てきれば……あなたの、力になりたかった。それだけが心残りだわ」 わざと後ろを向いてルゥは呟いた。 寂しさと、悲しさ、そして悔しさを滲ませたその目は、最後まで涙を止めなかった。 「……あなたと、もっと生きたかったな」 それが、ルゥがレイに残す、最後の言葉だった。 その言葉を最後に、ルゥは言葉をとめた。 もう振り返る気もないようだ。 「……」 レイはそれに対し、何も言葉を返さない。 ただ、口元だけが、満足そうに、ほころんでいるだけだった。 「ほんとうに、さよならなんだね……」 二匹の様子を見て、半ばひとりごとのようにリオが呟いた。 「レイの命の分まで、私、生きるよ」 血で汚れた自分の体を見つめながら、リオは言う。 「だから、私を恨んで。ずっと、みていてね……」 短い別れの言葉は、誰よりも一番重みがあった。 「フィフス、フィア、……先、行くね。待ってるから」 もう、話す必要がないのか、それとも耐え切れなくなったのかはわからない。 ゆっくりとリオは踵をかえす。 そしてルゥと目配せをすると、何も言わずに海の方角へと歩き出した。 二匹の背中が遠くなる。 途中、一度だけ、リオが名残惜しそうに振り返るのをみた。 それも、一時もたたないうちに前を向くと、再び歩き出してしまった。 「フィフス、私たちも、いきましょう」 フィアが僕に話しかけてくる。 その目にはもう潤みはなく、普通の表情だった。 「……待ちなさい」 フィアとともに去ろうとした瞬間、誰かが呼び止めた。 一緒に振り返る。 次の瞬間、フィアの四肢が蔓に巻きつけられた。 「……え?」 「……フィア、残念だけど、あなたを行かせるわけにはいかない」 筋の切られていないもう片方の前足から、蔓が伸びていた。 「な、なんで? どうして……?」 当然わけのわからないフィアは混乱していた。 「とぼけても無駄よ。少なくともリオたちを逃がす時間は稼がせてもらうわ」 レイの表情は、仇を見るような目つきだ。 「どういうことなんだ……?」 知らぬ間に言葉を呟いていた。 「彼女は、いわば真犯人よ」 さらりと言われたフレーズに、僕は反応できなかった。 「ち、違う!」 そしてフィアの叫びによって現実に戻された。 「いいえ違わないわ……! あなた……いえ、あなたたち姉妹は人間から送り込まれた刺客だわ。裏も取れてる」 抵抗する動きが止まった。 そしてそれは、いやがおうなしに、肯定を示してしまう。 「フィ……ア……?」 唐突に真実を突きつけられて、ついていけていない自分がいた。 「フィフス、今なら間に合う、走れるあなたなら、船に追いつけるはずよ」 レイの息は上がっており、すでに限界が表われていた。 おそらく、数刻もしないうちに力尽きてしまうだろう。 フィアは、黙ったまま動かない。 「……行きなさい、あなたにも、生きて欲しいから」 それが、ただのやさしさではないことは、もうわかっていた。 ……そして、それに甘えてしまう自分が、酷く情けなく見えた。 足を、海へ向ける。 別れの言葉をいえぬまま、僕は走り出してしまった。 さよなら、レイ。 僕には、その言葉を言う資格はない。 「……さよなら、私の、二番目に愛した人」 背後から消えていく気配のなかで、その言葉が聞こえたような気がした。 でも、それも気のせいだ。 愛されるほど、僕はきれいではないのだから。 「いっちゃったか。……別れの言葉ぐらい、欲しかったな」 森の奥に消えた背中を、まだみつめる。 「……」 その視界をさえぎるように、無言でフィアが目の前に現れた。 いつの間に蔓を切ったのだろうか、足首には切った蔓が残っている。 「……おわなくていいの?」 フィアをみつめるその瞳は、もう疲れていた。 「……うん、レイだって、わかっているんでしょ?」 半分非難するような声だ。 それでも冷静さは欠いていない。 それは、いずれは真実を打ち明けるという意思の表れだったのだろう。 「……わかっているわ」 しばらく間をおいて、答える。 「なら――」 「決めたのよ」 フィアの反論をさえぎるように、レイは言葉をかぶせた。 「私自身、後悔しないように、残りの時間を生きたかったから」 のこされた前足から伸びた、切れた蔓が枯れていく。 「……あの子たちには、少しでも生きて欲しいな」 レイの焦点が、ぼやけていく。 「もう、見えないんだね、私の姿が……」 静かにフィアは呟いた。 「……うん、寂しい人生だった。捨てられて、こんな最期を迎えて……」 自虐的な言葉とは裏腹に、レイの表情は穏やかだった。 「もっと、愛したかったなぁ、そして、愛されたかった」 もう届かない思い。 そして、遅すぎる願い。 「……でも、これが私の人生だった。もう、心残りもないよ」 静かに目を閉じる。 「ナイト、今、行くからね」 かすれた声も、もう聞き取りにくい。 閉じられた瞳は、誰を写しているのか、枯れた涙がこぼれだしていた。 「――さようなら、みんな」 最期に言った言葉は、誰の耳にも届かなかった。 そして、頬からこぼれる涙も、その言葉を最後に、流れることはなかった。 「……レイ、生まれ変わったら、今度こそ幸せに暮らせるといいね」 それがフィアがレイに送ることのできる手向けの言葉だった。 祈るように目を閉じる。 「無常なものだよね。こうなると、もう、何もかも終わりだなんて」 亡骸に言葉を投げる。 その表情は、フィフスには見せなかった暗いものだった。 年齢に似合わない、硬い表情、そして、冷たい緊張感。 「でも、レイ、あなたは、愛されていたよ」 見開いた瞳には、もう一度レイが写し出される。 「すくなくとも、リオやルゥは、あなたを、ずっと、ずっと、最後まで、愛してた」 届かないその言葉を、フィアはなぞる。 まだ巻きついていた枯れた蔓が、無造作に崩れた。 「……いかなきゃ」 それに気づいたフィアは、もう一度だけ目を閉じると、踵を返した。 もう、彼女の瞳にレイは写らない。 崩れた蔓の破片が、風に乗り、レイに降り積る。 瞳を閉じた、彼女の表情は、孤独感には包まれてなく、安らかな表情だった。 「はぁ……! はぁ……!」 何かをごまかすように、フィフスは走っていた。 疲れきったからだは、走ることをやめろと警告を出しているように鼓動を早まらせる。 足を前に突き出すたびに、肺が痛み、地をけるたびに、吸い込む息がのどを焼け付かせる。 嘘だ。 それでも、思いは消えない。 フィアが、犯人だなんて。 とっくに失った心の中に、その事実が鉄球球のように居座る。 それが、足取りを重くさせてるかのように、一歩一歩前に進む足を鈍らせてるように思える。 ……景色が変わらなく見えてくる。 リオ、ルゥ、どこなんだ? 敵であった彼女たちを、求めている自分がいた。 信念を持つ彼女たちが、欲しかった。 なぜだろう? その問いかけは、今の自分には欲しくない質問だった。 だから、走る。 彼女たちがいるところまで、あわよくば、彼女たちが来るであろう、あのボートへ。 すこしでも、この思いを誤魔化したかった。 じゃないと、押しつぶされそうで。 なくなった心が、その鉄球球の重みで、つぶれてしまいそうで。 「はぁ……! ぁぐ……! は……ぁ!」 このまま走り続けたら、死んでしまいそうだった。 痰が少し絡むだけで、体は悲鳴をあげる。 激しくむせてしまえば、風切る体はバランスを崩し、地面へダイブするだろう。 そうなれば、二度と立ち上がれない。 はやく……! 途切れてしまいそうな意思の中で、まだ走る。 そして、ようやく森が開けた。 「っ! フィフス!」 誰かの声が聞こえた。 あぁ……、間に合ったんだ。 揺らぐ視界の中で、あのときのボートが見える。 看板にはルゥの姿があった。 波打ち際には、海水で血を洗い流しているリオの姿。 気が抜けてしまっているのか、僕の前足が重力に流され胸につく。 「ぁ……」 小さな声をあげたが、それは何の手助けにもならなかった。 次の瞬間には顔から地面にたたきつけられ、不自然な転がり方で勢いをとめる。 声もあげられず、僕はそのまま意識を失った。 「フィフス! フィフス! 起きて!」 次の意識は誰かに激しく揺さぶられて覚醒した。 目を開けるとそこにはリオの姿があった。 「よかった……、何とか大丈夫みたいね」 安堵の表情を見せるリオ、 「……ありがとう」 素直に謝辞を述べる。 だが、頭の中はまだぼんやりしていた。 目だけを動かし、船内を確認する。 「安心して、船はもう出港したよ。……全員無事に、脱出できた」 リオの言葉に、ほっとする。 横目で見るとルゥが隅のほうで眠っているエネコとロコンの背中をなでていた。 あれが、レイと、ルゥの子供。 規則正しく上下する背中は、命の息吹を感じさせる。 「フィフス、あなたも、こっちに来る?」 視線に気づいたルゥが、声をかけてくれた。 「……うん」 横になった体を起こす。 「大丈夫?」 心配してくれたのか、リオが起き上がるまでの間、支えてくれていた。 よほど派手にこけたせいか、前足が鈍く痛む。 だが経験上、骨まで響いてはいない。 若干引きずるように体を動かし、子供たちの元にたどり着く。 「……どう?」 ルゥが眠っている二匹をみつめる。 わが子を見つめるその姿は、幸せに満ちていた。 「……」 こんなとき、なんといえばいいのだろうか? 言葉が浮かばない、そして、どうしていいかわからない。 「背中、なでてみる?」 そうやって前足を引っ掛けられ、子供のほうへ持っていかれる。 半ば戸惑いながら、引っ掛けられた前足は子供の背中の真上にくる。 「……」 恐る恐る、やわらかい毛並みに触れる。 まだ幼さを全面に出している背中は、羽毛を思わせる質感だ。 そして地肌に触れると命がつたわってくる。 普通よりも少し早い鼓動、そして、少し高い、体温。 なぜだかわからない、けど、自然と顔がほころぶ。 「あなたもわかる? 生きて、いるんだよ」 もちろんただ生きているだけだ。 それでも、何者にも変えられない価値がある。 「思い出したよ、私」 その思いに共鳴するかのように、ルゥが発した。 「お腹にあなたの子を宿したときのこと」 これが、こころからの笑みというのだろう。 みてるこっちまで、幸せが伝わってくる。 「あの時は、痛みやつわりで辛かった」 少し遠い目で寝顔を見つめる。 「だけどね、そのぶんこの子がいることを感じられたんだ。 日にちがたつごとにね、お腹が重くなっていって、この子が動くの。 三匹で、レイとルゥの子供の音を聞きあいっこしてたな」 ルゥの瞳の中に、まるでその情景が写っているように見えた。 「どっかで捨ててたんだろうなぁ……、きっと」 わが子を愛撫しながら。今を噛み締める。 だが、瞳の中には先ほどの情景の面影が感じ取れた。 きっと、レイのことを思っているのだろう。 「ルゥ」 感傷をさえぎるように、リオが声をかけた。 「リオ……ありがとう」 言いたいことがわかったのだろう。 思いを振り払うかのように、顔を振ると、再び子供たちを向く。 もう、迷いは感じられなかった。 「前を向かないと、ダメだよね。レイも、それを望んでる」 レイの子である、エネコを見つめて言葉を言う。 おそらくレイと照らし合わせてるのかもしれない。 「この子も、幸せにしてあげないと。レイの分まで……」 若干寂しさを帯びた表情も、一時の間だけだった。 「さ、ゆっくりしましょう」 空気を誤魔化すかのように、ルゥが口を開いた。 わざとトーンを上げて、明るく振舞う。 「……強いんだね。みんな」 自然にその言葉をついてしまう。 「守るべきものがあると、そんなに強くなれるんだね」 決して皮肉なんかじゃない。 フィフス自身が、求めていたものであり、手に入れられなかったもの。 「フィフス……?」 リオの表情がなくなる。 「僕には、何も残っていない。全部、消えちゃった」 自身の信念も、唯一残ったフィアに対する心さえも。 次の瞬間、僕の体が宙に浮いた。 「ぐっ……!?」 それがルゥに体当たりされたと理解するまで数秒かかった。 背中から床に落ち転がり、最後に壁に頭を打ち付けた。 「か……は……」 頭の痛みよりも受身が取れなかったのが痛かった。 「な、なにを……?」 それがかろうじで言い返せた言葉だった。 「もしそれが答えなら、私はあなたを許すことはできない……!」 まともに受身を取れなかったせいで呼吸が苦しくなる。 ルゥの表情は、これまで見たことのない、感情的な怒りを帯びていた。 「……」 黙って立ち上がる。 ルゥは子供たちをかばうようにして前に立っていた。 「あなたにとって、この子供たちはなんだったの? あの表情は、嘘だったっていうの?」 ヒステリックに声を張り上げる。 「なんでもない、レイと、ルゥのこどもだよ」 率直に言葉を返した。 「違う! このわからずや!」 今にも襲ってきそうな剣幕で怒鳴られた。 「何が違うのさ?」 フィフスのほうも、だんだんと怒りを覚えてきていた。 わけもわからず攻撃され、責められているのだ。 気分を悪くしないほうがおかしい。 「私たちだけの、子供じゃないわ! あなたの子供でもあるのよ!」 「……」 その言葉に、フィフスの表情は凍りついた。 ただ、それは間違っても、ルゥの言葉に感銘を受けたからではない。 ……なに? まさか、それだけのために? 真逆だった。 そして、どうしようもない失望感が湧き上がる。 なんだよ、それ? くだらない。 「私たちだけじゃない、少なくとも半分はあなたの血が受け継がれているの」 大事な証のように、言葉を連ねていくルゥ。 たしかに、それは大事な事実だ。 でも、それは僕には必要ないもので、 逆に、忌々しい真実とも言える。 「……強姦で生まれた子供だよ? 忘れてないよね」 冷静さを欠いたものの言い方だったのだろう。 しかし、真実だ。 この子達は、僕が望んだわけじゃない。 彼女たちの快楽によって生まれただけなのだ。 ただ犯された標的が僕であっただけ。 「僕が望んだわけじゃないんだ、 ……この子達は、血を受け継いでいても僕の子供じゃない」 今度はルゥの表情が凍りついた。 「忘れなんかしないよ、たとえ僕が情に流されるとしても、 事実は変わらないんだ。……君たちは僕を慰み者にした、敵だ」 声が震える。 うまくにらむことができない。 それに耐えかねたのか、それとも表情を見られたくなかったのか、ルゥが視線を下にそらした。 「僕は、君たちが思っているほど、純粋でもないし、お人よしでもない、自分本位のポケモンだ」 「フィフス――」 「黙れ! そうやって僕をつなぎとめて、どうするつもりだ? 血のつながりだけで、この子たちが幸せになれると思ってるのか? 本当の父親がそばにいることこそに、価値があると思っているのか?」 呆然と立ち尽くすルゥの後ろで、 子供を心配したリオが寝返りを打つ子供たちを抱きかかえた。 「……そんなの違う、少なくとも、僕はいるべきじゃない」 敵である、彼女が憎いわけではない。 ましてや、子供たちが憎いわけでもない。 けど、 けど……。 「僕は、愛せない……」 ルゥは、どう捉えるんだろうな。 この言葉を、 もう、僕自身にも、真意がわからなくなってしまった。 何が愛なのか、何が、本当に必要なのか。 「……そう、よね。そうだよね……」 まるで自分自身を納得させるかのように小さく、ルゥは言う。 無論、僕の考えが当然とは思っていない。 むしろ、間違いでかまわない。 ……心のどこかで、僕は引き止めて欲しかったのかな? それも、いまさら遅い。 「……ごめんね、自分勝手だった。そうだよね……。 私が、フィフスを犯して、勝手に産んだんだよね……」 僕の言葉は、確信をついていて、それゆえに、残酷すぎる言葉だった。 リオが非難するような目でこちらを見ている。 でも、言葉で返すことはできない。 「そうだよ、ルゥ、だから、この子供は、僕の子供じゃない」 息が詰まる。 なんでだろう、胸が痛い。 「僕がいても、この子達を、不幸にするだけだよ」 最後に出た言葉は、僕の心を容赦なく切り裂いた。 認めたくなくて、しまっておいた気持ち。 でも、認めざるをえない真実。 「そんなの違うよ……」 リオが小さく言ったのが聞こえたが、それ以上の言葉は続いてくれなかった。 「……父親ではない、他人として、僕は、この子達に幸せになって欲しいな」 人にどう聞こえるかはわからない。 でも、僕にはこの言葉も、惨めな言い訳にしか聞こえなかった。 「ルゥ、リオ、頼むね。僕には、できない、からさ……」 どうしてこうなるのだろうな。 すべては、僕が弱いせい。 わかりきっているのに、疑問がわいてきて。 強くなろうと望んでいるのに、いつも折れてしまう。 「違う……!」 沈黙しているルゥを代弁するかのように、リオが必死に否定する。 「どこがどう違うのさ? この子たちが幸せになるのに、僕は――」 「違う!」 リオが言葉をさえぎる。 「必要ないよ」 だが、叫んだ後、フィフスは言葉をかぶせた。 「なんで……?」 さっきの叫び声で目を覚ましてしまったのか、抱きかかえた子供たちが泣き出した。 「あやしてあげなよ」 戻れないところまできてしまったと思う。 彼女たちと生を過ごす人生も、それはそれでありなのだろう。 暗闇から開放された慣れない目で、まばゆい光の世界をささやかに生きる。 辛いながらもそれは紛れもなく幸福なことだ。 だが、そのなかに僕はいてはいけない。 身勝手といわれるかもしれない。 彼女たちの願いを無碍にするのも、すべては自分本位のせいだともわかっている。 だけど、僕はいてはいけない。 人を愛することも出来なければ、愛されてもいけないのだ。 僕は、もう、一匹でなければいけない。 くだらないだろう。 変な理屈と思うだろう。 それでもいい。 それで、少しでも彼女たちが幸せになれるなら。 子供たちに僕の悪いところが伝わらないのならば。 それだけで本望だ。 父親ではなく、他人として、遠い空の下で幸せを願うだけで、僕はいい。 「……いやだよ、やっぱり」 その思いを、リオの声が否定する。 思いにふけっている間に、ルゥが子供たちをあやしたようだ。 ゆっくり背中をなでている姿は、先ほどよりかは明らかに沈んで見えた。 「私は、少なくとも私はフィフスと一緒に生きたいよ! たしかに、あなたを犯したことは……、消えない罪だと思う。 それでも、あなたが私たちを恨んでいたとしても! 私はあなたといたい!」 ……どうして、そんなこというかな。 もう、今すぐ抱きつきたいよ。 それほどまでに、うれしい言葉。 「……僕は、いたく……ないよ」 説得力がない。 なんだよ、畜生。 「僕はいたくない。君たちのことが、憎いから」 言い直す。 視線なんて、合わせられるわけがなかった。 「フィフス!」 「しつこいんだよ! もうほっといてくれ!」 ついに耐え切れなくなり、僕は看板のほうへ出て行こうと、リオの真横を通り抜けようとした。 「……っ!?」 だが不意に足元をすくわれる感覚が走る。 「行かせないよ」 「リオ……!」 腰にリオの蔓が巻きつけられていた。 同じくらいの体重があるのにもかかわらず、いともかんたんに僕の体は浮き上がっていた。 「もう、レイのような被害者は出さないって決めたの」 特殊技を持たないフィフスでは、リオの拘束から逃れることは出来ない。 せめてもの抵抗に四肢を動かしては見たが、どうしようもなかった。 「真実を知ってから、悲しむことは、もうしたくない」 そこには、リオの心の傷が表れていた。 言葉には出さずとも、一番傷ついているのは、手を下したリオ自身。 「……気持ちはわかる。でも、僕の言葉は真実だよ」 レイもこういう気持ちだったのだろうか? 心にもないことを、ずらずらと並べて、わざと傷つけるようなことを言って。 自分自身も、その言葉に傷ついて。 「……レイも、そうだった」 全く動じない。 「フィフス、あなたは覚えてるかな。自分自身がしていた仕事を」 不意に全く関係ない話題が切り出された。 「……あぁ」 忘れもしない。 いや、忘れられないというのが正解だ。 「あの仕事はね、後半の依頼は全て、レイが作ったものなんだよ」 「……!」 言葉が出なかった。 確かに、それは驚愕の真実だ。 「……驚いているけど、内心では、おかしいと思っていたんじゃないかな」 あくまでリオは、淡々としていた。 「新規の依頼の数も、急に減ったはずだし、内容も、ところどころ不自然だったと思うよ」 全身に鳥肌が立ってくるのがわかる。 確かに、リオの言うとおりだった。 思えば、ナイトに任せっぱなしだったのも、気づかなかった要因なのかもしれない。 依頼を、気持ちをごまかすための行為としか思っていないせいだ。 「……フィフス、だとしたら、明らかに不自然だと思う部分が、ない?」 半ば混乱しかけていた頭に、質問が投げかけられる。 だが、答えは簡単だった。 「荷物の……中身?」 よみがえったのは、ピチューに渡したクッキーの小包。 あの中身は、小包に似合わないカステラだった。 「そう、たぶん、三回に一回は、そういうにあわないものばかりだったんじゃないかな」 なんともいえない脱力感が、フィフスを襲った。 もう、わけがわからない。 自分が踊らされていたということは、もうわかっている。 でも、そうした意図が読めなかった。 「まだ、気づかない?」 そうしたさなか、リオから言葉が投げかけられた。 決してばかにしてはない、ただ、酷く悲しげだった。 「……あなたに、気づいて欲しかったんだと思う」 え……? 「私たちは、気づけなかった。あの時は、もう、生きることなんて考えてなかったから」 その声は、後悔ばかりを印象付けるもの。 「中身をわざと間違えたのは、後悔の表れだったのかもしれない」 今となっては、語られることのない真実。 それの真意はわからない。 だが、つじつまがあうような気がした。 「……ばかだよね、そこまで知っているのに、どうしてとめられなかったんだろうね」 「……」 思わず言葉を返しそうになった口を硬く閉じる。 リオを責めても、筋違いだ。 それに、出来なかったことが、悪いことではない。 気づけなかった僕自身が、何よりも一番、罪作りだ。 「だから、今度こそ、私は止めたい。……たとえ、あなたが嫌だといっても」 巻きつけた蔓を操り、フィフスを自分自身の顔の前に持ってくる。 潤んだ瞳、そして、心なしかつかれきった表情。 「……ずるいよ、リオ……」 無償のやさしさは、時に残酷としても捉えられる。 今がまさしく、そういう時だろう。 「どう思われてもいい、私は、もう、どんな形であれ、一緒に生きれれば、それでいい」 そういうと、リオはまきつけた蔓を解く。 「残された、六匹で、残りの人生を、過ごしたい」 きれいごとなのは間違いない。 だが、その笑みはきれいごとさえも、気にならなくなるような無垢さだった。 「……六匹で、か」 ……? 何か引っかかる。 確か、レイはいないはずだから、自分を入れても五匹のはずだ。 後一匹は……。 「っ! まさか……!?」 答えはひとつしかない。 フィアだ。 「ど、どうしたの? いきなり……」 突然の反応に、戸惑いながらたずねるリオ。 彼女が敵という事実は、僕だけにしか伝えられていない。 リオたちは知らないのだ。 「リオ、今ここにいる六匹で、残りの一匹は誰だ?」 念のために確認をする。 「……フィアよ、それがどうかしたの?」 フィフスの雰囲気から、ただ事ではないことを察しているのか、リオの表情が厳しくなる。 「彼女は……レイの話だと、黒幕になる」 瞬間、部屋の空気が重くなったような気がした。 「……どういうこと?」 当然の反応だろう。 リオは厳しい目つきで話を伺う。 「僕にも、詳しい事情は知らない。だけど、リオたちが別れた後、レイはまだ生きていたんだ。 そして、フィアを拘束して、彼女が敵であるという事実を僕に告げ、逃げろといった」 これが、ありのままの事実だ。 「……どうするつもりなの?」 しかし、その事実にリオは驚くようなそぶりは見せなかった。 一瞬、その反応に疑問を抱く。 だが、それに救われもしたのだろう。 「……彼女と、話さないといけない」 リオも、内心ではかなり動揺しているのだと思う。 それを表に出さなかったのは、真実を知るフィフスに、理性的な判断をしてほしかったからだ。 「……そうね、レイが嘘をつくとは思えないけど。フィアが私たちをだましていたとも、思いたくない」 また、ここに、ひとつの真実が突きつけられる。 「看板にいるはずよ、いきましょう」 リオは、ルゥに目配せをする。 ルゥのほうもちょうどまた子供を寝かしつけたようだ。 話を全て聞いたせいなのか、酷く顔色が悪く思える。 「……」 僕は黙ったまま、リオのあとをついていった。 ドアを出て、船首のほうへ歩いていくとその姿があった。 少し小柄の白いからだ。 アブソル族の特徴である、黒い大鎌。 間違いなくフィアだ。 「……フィア」 海を眺めていたフィアに声をかける。 何を考えていたのだろうか、声をかけられるまでこちらの存在には気づいていなかったようだ。 「あっ……フィ、フィフス……どうしたの?」 少しだけ驚いた表情で反応を見せる。 その反応は、どうあっても、残酷さは持ち合わせていない。 「……すべて、話してくれ。包み隠さず」 それでも、切り出した。 一瞬だけだが、フィアの表情が固まる。 フィフスにとっては、それだけで証拠は十分なように思えてしまった。 「……何を話すの? いきなりなに?」 当然の反応なのだろう。 「……君の正体がいったいなんなのか、そして、何が目的なのか、お願いだ――」 「フィア、率直に聞く。レイがいったことは、本当なの?」 ルゥが僕の言葉をさえぎり、フィアに問い詰める。 「全部聞いてたの、ちゃんと筋を通さないと、納得できない」 無感情で、言葉を突きつける。 冷徹に見えるが、ルゥの中では、はっきりさせたい一身なのだろう。 仮にも、同じときをすごしてきた、仲間なのだから。 「……納得するも何も、証拠は、ないよね?」 その言葉はフィアが発したとは思えないほど、冷たく感じられた。 思わずルゥの表情が硬くなる。 ルゥだけではない、その場の全員が戸惑いを覚えていた。 「……証拠は、ないわ」 そう、ルゥの言葉通り証拠はないのだ。 あくまでレイの言葉のみ。 「なら、信じる必要もないよね? ……私は、今までどおりの私だよ」 言葉とともに見せる笑みも、どことなく作ったように見える。 「だからこそ、聞きたいんだ」 信じたい。 「……フィフス」 僕を呼ぶ声だけは、感情があるように思えた。 ……僕は、まだ、好きなんだな。 こんな状況下でも、まだ、信じたいと思っている。 可能性にかけている。 「いまさら、信じろって方が、無理なのかもね……」 その場の雰囲気に負けたのか、無常な言葉が吐き出された。 「……肯定ってことでいいのね」 小さな声で、ルゥが言葉をつないだ。 「……」 無言でうなずくフィア。 情けないことに、僕はもう、顔を見合わせることが出来ない。 横目に写る、リオの表情も苦かった。 「……だけど、それを知ってどうするつもり?」 別に非難するでも、馬鹿にするでもない。 おそらく覚悟していたのだろう。 いずれは、正体がわかることも。 「殺すのかな。やっぱり」 自然に出したその言葉は、語るにはあまりにも冷たすぎる響き。 何を思っているのだろう? そう思っても、気持ちを汲み取れない。 「……だとすれば?」 「……抵抗しないよ。それだけの覚悟はしているから」 酷く投げやりで、空虚な会話。 それが成立してしまっていることが、なんともいえなく寂しくて。 言葉を出しているのが、フィアだという事実も寂しかった。 「……ということは、今殺されても、私たちを処分する方法があるってことね?」 ルゥはあくまでも淡々としていた。 心の中では、どう思っているのだろうか? リオと同様、悲しみを押し殺しているのだろうか? それでも、前を見る姿は、疑いようもなく、彼女らしさ、であり、意志の象徴なのだろう。 「……うん。私はこの森に放たれた一匹の捨て駒に過ぎないから」 感情のこめられていない、空っぽな響き。 その言葉は、まるで生気を感じさせなかった。 「……そう」 ルゥは言葉を詰まらせてしまう。 事実が、つらかったのか、それともフィアの言葉に衝撃を受けたのか。 「リオ、この船、誰の船だかわかる?」 生気を持たない言葉のままフィアは話を切り出した。 「えっ? ……フィフスのだから……これは密輸船、になるのかな」 虚をつかれながらもリオは答える。 少し不安だったのか、答えた後、僕のほうへ視線を向けてきた。 正解だ。 そういう意味をこめ、目配せをする。 確かにこの船は、サイドンが乗ってきた密輸船となる。 ……あのサイドンも、殺されたのだろう。 悲しみを覚えるよりも、空しさを覚えた。 「……リオ、じゃあこの船の行き先はわかる?」 次の質問を投げる。 無感情なのが、不気味に思えてしまう。 「いや、知らない。というよりも、この船がもともと自動操縦みたいだから、それにあわせてある」 それを聞くと、フィアは小さく息継ぎをした。 「……教えるよ。いま、この森から出ている船は、一隻だけ。だから、場所を変えない限り、あなたたちは殺される」 瞬間、フィア以外の全員が息をのんだ。 「そんな……! 何とかしないと……!」 ルゥが操縦席へ向かいかける。 「無駄よ。人間たちが作った機械だから、ポケモンには理解できないよ。 ……それに、知識のないポケモンにも扱えるよう、セキュリティーもかけてあるんだ」 残酷な言葉が投げかけられる。 「だからこそ、操作を知らないリオにも、この船が出せたんだよ」 最後の言葉は、容赦なくリオのこころを切り裂いた。 「そんな……! そんな……!」 力なくその場にへたり込む。 もはや、心が折れるのも時間の問題なのだろう……。 「……ごめんね、みんな……」 かすかにフィアがそうつぶやいた。 「……あきらめないわ」 諦めが走る中、その言葉が流れを止める。 「あきらめない。やらなきゃ、そんなのわからない」 自らに言い聞かせるよう。ルゥが何度も言葉を繰り返す。 「時間なら、まだある。私はあきらめないわ!」 強がりなのは目に見えてわかった。 実際表情には不安ばかりがあふれ出ている。 「リオが、私に生きるチャンスをくれた……。 だから、私は最後まで抗って見せる! リオがしたように、はいつくばってみせる……!」 そういってルゥは操縦席のほうへ走り出した。 必死さと、悔しさがにじみ出ている。 子供を守る、母親としての面。 そして、残された親友を守りたいという念。 そして何よりも、未来を生きたいという思いが、ルゥをまだ支えている。 諦めが悪いというのだろうか。 それでも、立派なようにおもえた。 「……」 走り去るルゥを見た視界の中で、フィアがかすかに口元を吊り上げるのを見た。 「……私も、あきらめられない……!」 僕が眺めている視界の外で、リオがつぶやく。 「フィア……! あなたが見ている結末になんてさせやしない! 私も、あきらめないから!」 そういうと返事も聞かずに走り出す。 支えあう姿は、運命を共にすると誓った表れ。 フィフスにはその二匹の姿が妙に遠く思えて仕方なかった。 「……フィフスは、いかないの?」 リオが走り去った後、フィアが語りかける。 「……うん、僕には、出来ない気がするから」 そうれを聞いてもフィアは別に表情を変えなかった。 「……なら、私と、話す?」 別段深い意味もないのだろう。 だが、最後になるかもしれないと思うと。妙に寂しい。 「……うん」 真意を確かめるため……というのは言い訳に過ぎない。 フィアと話したいゆえに。 僕は腰を下ろした。 「……やっぱり、この森に来たときから、目的はこれだったのかな?」 「……うん、もともとは、私はこの森のポケモンじゃないからね」 認めたくないものだ。 はじめから、これが目的だったなんて。 全ての関係は、作ったものだったなんて。 「そっか、……変わっちゃったね。フィア……」 元から知ってなんていなかったのかもしれない。 これが、フィアの本当の姿。 考えたくないけど、これが……。 「変わらないものなんてないよ。みんな、変わっていく、ただそれに、気づくか気づかないかだけの違いだよ」 その言葉は、先ほどとの言葉よりもより、残酷に聞こえてしまった。 「ルゥも、リオも、レイも、みんな、それぞれの思いを持って、生きていた。 そして、幾多の交錯を繰り返して、今の信念がある」 説得力があるのが悔しい。 それに反論する言葉がない。 「フィフス、あなたの信念は、なんだったのかな?」 問いかけるその姿は、特別なものに思えた。 「……なんだろうね」 決してはぐらかすわけではない。 けど、その言葉しか浮かばなかった。 「……フィフス」 悲しそうに、僕を見る。 何を期待していたのだろうか。 「……信念なんて大それたものは、僕には存在しないよ」 そうだ、 曲げられない思いは、僕には存在していなかった。 強くありたい。 幸せがほしい。 そして、他人に認められたい。 そのどれも、貫くことなんてできなかった。 「勘違いしてるね。フィフス」 「……!」 その言葉と思いを、フィアは否定した。 「大それた願いだけが、信念じゃないんだよ」 物静かにいう。 「人には言えない、暗い思いも、信念になる」 潮風が二匹の間を縫っていく。 風にさらされて、フィアの長い毛が波打った。 「……ただ生きたいと思うだけでも、十分な動機になるんだよ」 感情のこもっていない言葉だった。 「私だってそうだよ。……好き好んで、こんなことしているわけじゃない。 ただ、死にたくないから、こういうことをしている」 だが、抑えられない感情は、声を震わせてしまう。 「フィフスにも、わかるんじゃないかな」 こちらを向く、その姿は、僕の愛したフィアだった、のかもしれない。 一歩、足を踏み出し、僕に横顔を押し付ける。 「……きっと、誰もがわかっていることだよね」 フィフスにしか聞こえない声でつぶやく。 「フィフス、まだ、生きたいんだよね……?」 見えない表情。 いま、どんな表情をしているんだろう。 そして、どんな気持ちなんだろう。 敵である彼女が、このようなことをいう。 その事実と、投げかけられた言葉が、混じりあう。 「……生きたいに決まっているじゃないか」 半ば混乱する思考の中、口を開けた。 「だけど、そう思わせたところで、どういうつもりなんだ?」 あまりにも不可解だ。 「フィアの立場からなら、僕たちが何も知らないほうが、好都合なんじゃないのか?」 その言葉に、フィアの体が一瞬震える。 「……それに、フィアの言葉が真実なら、船に乗る必要も、ないよね」 意図はわからない。 でも、彼女が、僕たちを消すという定義のもとなら、何もしなくてもいいのだ。 「……」 フィアは言葉を言わない。 まさか、この言葉も、嘘ってことなのか? 体が緊張してくる。 船着場にもう待ち伏せしているというのは嘘で、目的は、僕たちをばらばらにすること……。 もちろん三匹を相手にするより、一匹を相手にするほうがやりやすい。 「……!」 体を低くしフィアを突き上げようとわき腹にもぐりこむ。 だが遅かった。 フィアは後ろ足でフィフスの首を絡めとる。 「う……!」 うめき声も最後まで出すことなく、次の瞬間回転する感覚が走る。 完全に敗北だ。 フィフスはフィアに抱きかかえられるような格好で空を見上げるような形になっていた。 「……殺せ」 このまま首に回した後ろ足を思い切り締め上げればそこでおしまいだ。 首を折る力がなくても窒息死する。 「……嫌」 その言葉とともに、体の拘束が外れた。 変わりにフィアはフィフスを押し倒すようにのしかかる。 「んっ!? んぅぅ!」 無理やり唇を奪われる。 力はそれほど強くないのにもかかわらず全くといっていいほど身動きが取れない。 舌がいやらしく絡まりあう。 今接吻をしているのはフィアなのに、微塵も感情は高ぶらない。 「ん……ん……」 フィアは接吻をやめない、 それどころか、前足で頭を押さえつけ、フィフスが抵抗できないようにしている。 「……! ……!」 舌がしびれる感覚に襲われる。 やがて、抵抗する気もなくなったころ、ようやくフィアは接吻をやめた。 顔は紅潮し、心なしか息遣いが荒い。 「……殺すなんて、もう、したくない……」 そういうと、フィフスの懐に顔をうずめてくる。 フィアの震えが、鮮明に伝わってきた。 「私、もう、どうしていいかわからないよ……」 頬を染めた顔が、泣き顔にゆがむ。 「贅沢なのかな? 私はただ、みんなと生きたいだけなのに……。 そんなことも、許されないのかな?」 誰が決めたわけでもない。 そんなのはわかっているのだろう。 でも、フィアの中では、少なくとも、そう決められている。 「……」 フィフスは答えられない。 フィアを慰める言葉は、かけてあげることは出来るだろう。 でも、それは気休めであり、言ったところで、後に傷つくのは、間違いなく彼女。 「フィフス……、私は、いつ、心を開けばいいのかな……?」 残酷すぎる質問。 「いつ、信頼できるポケモンが、現れるのかな……?」 いま、この瞬間、僕が、フィアの支えになってあげたい。 「……フィア」 抱きしめるには少し不自由な前足で、不器用にフィアの頭を抱き寄せる。 ……感じたことなかったな。 フィアの毛並みは、すごくやわらかい。 ご主人様と暮らしていたときに、触った絨毯みたいだ。 でも、それ以上に、フィアは暖かくて、……優しい。 「……フィフス」 弱々しい震え声が、フィフスの思考をさえぎる。 「なんでだろう……、どうして私は、フィフスを愛しちゃったんだろうね?」 密着するからだから、フィアの早い鼓動が伝わる。 「フィア……」 言葉がつながらない。 だけど、名前を呼ぶだけで、思いが伝わっているような気がして。 僕も、フィアの鼓動にシンクロするように、早まっていく。 「あと、一時間も、ない、ね……」 朝日が高く上る海原に、無機質な港町が見え始めた。 その言葉にフィアはいっそう辛辣な顔をする。 「フィフス……! フィフス……!」 まるで、言葉を知らない子供のように、フィアは僕の名前を呼ぶ。 なんで、だろうな。 どうして、ここまで来る前に、気づけなかったんだろう。 大切な、もの。 ……だめだ、ここまできても、言葉に、表せないや。 ……それでもいいかもしれない。 気づけただけでも、意味あるものだと思う。 欲望だけではない。 快楽によるものじゃない。 本能により近く、それでも、本能じゃない、大切なこころ。 「フィア……、フィア……!」 言葉強く、彼女の名前を呼ぶ。 まるで、そこにいる証のように。 「フィフス……」 瞳が、僕を映し出す、赤く光る目の中に、僕の黒い姿が、映し出されていた。 そこにいるだけだけなのに、それだけで、満たされる。 「……!」 言葉もなく、お互い抱き合った。 それだけでも、十分すぎるほどに感じてしまって。 意味のない行為なのに、何よりも、価値あるように感じて。 「……」 ずっと、ずっと、こうして、すごしていたいね。 「……フィフス……私に、刻んで……」 その言葉の意味は、わかった。 うれしい、こと、なのかな。 いとしいフィアと、結ばれることは。 ……でも、それは、悲しすぎるような気もした。 このまま、ずっとずっと、刻まなければ、 ずっと、一緒にいれるような気がした。 ……そんなわけ、ないのにね。 「……うん」 悲しみを見せないように、軽く、僕は、キスをした。 欲情のないまま、二匹は体を求め合う。 「……フィフス……!」 フィアが、自ら仰向けになり、秘所をさらけ出す。 恥じらいは、表に見えなかった。 写し出される瞳は、フィフスの姿だけ。 「フィア……!」 求められるまま、僕はフィアにのしかかった。 「フィ……フス」 少しだけ苦しそうな声をあげるフィア。 「フィア……ちょっとだけ、我慢してね……」 フィアの純潔を、僕はもらう。 出来れば、違う形で、結ばれたかったな。 一片の思いが脳裏を走る。 「……っ!」 処女膜を貫くと同時に、フィアが強く抱きしめてくる。 一気に奥まで差し込み、そのまま動きを止める。 皮肉にも、数多くの性行為の経験が、ここで、生きていた。 思えば、リオもそうだが、シアも、処女だった。 ……シアも、こんな思いを、持っていたのかな? こんな姿の妹を見て、どう思うのだろうか。 ……少なくとも、フィアを愛す僕としては……。 「い……いいよ、フィフ……ス……きて……!」 ……やっぱり、いやだよ……! それでも、フィアの中に、証を残すため、僕は、腰を動かす。 結合部から、処女特有の血が流れる。 「……! フィ……フ……ス……!」 まだ少し痛みが残っているのだろうか、 荒い息をしながら、受け入れる。 目を硬く閉じ、前足はフィフスの肩を強くつかんでいる。 「フィア……、フィア……!」 その声にこたえるように、僕は彼女の名前を呼ぶ。 ここにいるよ……! たとえ、この先、どんな残酷な未来があるとしても、 僕は……、フィアと……! 「ん……! フィ……フ……」 だんだん行為が進むにつれて、フィアの言葉がつながらなくなる。 「フィア……! フィア……!」 それをカバーするように、フィフスは言葉を連ねる。 ……フィア。 ずっといれるとは思っていない。 だけど、今この時間、僕はいるからね。 いま、フィアと、いるからね……! 「フィア……!」 たとえ、これで、結ばれることが、なかったとしても……。 僕は、フィアと……いた、からね……。 「フィ……ア……!」 「フィフ……ス……!」 だから、フィア、悲しまないでね。 僕、という、ポケモンが、いる証。 ちゃんと、残すから。 忘れないでね……。 君が、僕を愛したこと。 そして、僕が、君を愛したこと……。 「うっ……あ……!」 「んぅ……ううぅ!」 お互いに、絶頂を迎える。 そして、それは、二匹のもっとも近い距離を、終わらせるものだった。 「……」 初めての行為に疲れ果てたフィアに、口付けを交わす。 軽い、フレンチキスだ。 ……これで、終わりだね。 とろけるような快感。それは本当に、夢の終わりだった。 「フィ……フス……」 フィアが名前を呼ぶ。 泣いていた。 ずっとずっと、終わって欲しくなかった。 それは、僕だって……思っていたさ。 「……」 もう一度、キスをした。 長く長く、キスをした。 それで、代わりになるなんて、思っていない。 けど、夢を、もう少しだけ、見ている気でいたかったから。キスをした。 「……」 言葉が出ない。 言いたいことは、たくさん、あるんだよ。 フィアは、これから、どうするのかな? この仕事が終わったら、なにをするのかな? もしも、子供が出来たら、なんて、名前をつけるのかな? ……こども、出来るといいね。 出せるわけないよ。こんな言葉……。 考えを振り払うかのように、フィアから顔をそらした。 ……島が近い。 もう、三十分もないだろう。 リオ、……時間だね。 僕は、体を操舵室のほうへと向ける。 「……私も、いくよ」 背後からフィアの声がかかる。 「もう、大丈夫なの?」 あえて振り返らず声を返した。 「うん」 短い返事が返ってくる。 「そっか、わかったよ」 別れ、リオたちにも言わないと、ダメだもんね。 多くかたらなくても、心情はわかった。 「……」 無言のまま、歩き出す。 かける言葉が見つからない。 正直複雑な気分だった。 フィアは、敵対の存在で、身を寄せる存在ではない。 むしろ、憎むべき立場だ。 ……でも、それで安心している自分がいた。 だって、それなら、フィアだけは、安全なんだもの。 僕たちが、フィアを殺したところで何も変わらないし、 今の僕たちに必要なのは、敵を撃退するのではなく、 いかに安全に居場所を見つけるかだ。 きっと、酷い考えだと思われるんだろうな。 でも、それでいいさ。 これが僕の考えで、やり方だ。 ……だから、その分、リオに尽くすよ、今だけは。 罪滅ぼしではなく、ひとつの僕の思いとして。 ふと振り返ると、フィアも同じように決意を固めた表情をしていた。 それぞれの思いが、もうすぐ、ひとつにつながる。 それが、どのような結末になるか、わからない。 ……願わくば、一匹でも多く、生きてかえれることを祈るよ。 僕は、操舵室のドアを開けた。 ---- ・ここでいったん一区切りさせていただきます。 次回は10にして更新しようと思います。 短くなるか、長くなるかわかりません。 ですが、最後の章にしようと思います。 長い間、ここまでみてくれている人、ありがとうございます。 何かコメントをいただけるのならうれしく思います。 #pcomment(,,) IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:05:27" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%B1%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E6%84%9F%E6%83%859" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"