作者名:[[風見鶏]] 作品名:失われた感情11 前作:[[失われた感情1]] [[失われた感情2]] [[失われた感情3]] [[失われた感情4]] [[失われた感情5]] [[失われた感情6]] [[失われた感情7]] [[失われた感情8]] [[失われた感情9]] [[失われた感情10]] ・注意すべき点はありません。 最後の話となります、ここまで読んでくださった方々。 ありがとうございます。 ---- 生きる意味ってなんだろう? どうして、僕たちは生きているのだろう? それは、きっと、なにか、支えとなるものがあるから、生きているのだと思う。 人やポケモンだけじゃない。 どんな生き物も、支えて、支えられて生きている。 そう、そのはずだ。 けど、 それを、見失ってしまったら、どうすれば、いいのだろう? 僕は、どこへ行くあてもなく、ふらふらとさまよっていた。 道ゆく人々、 その誰もが、誰も気づかない。 闇に溶けた一匹のポケモンに、だれも、気づきはしない。 あれから、どれだけの時間がたったのだろう? 気づけば、すれ違う人も、いつの間にかまばらになり始めていた。 「……」 あたりを見渡す。 冷めた思考回路の中に、今の情報をかき込む。 「……!」 そこには、見覚えのあるものが写っていた。 ポケモンにも、帰巣本能というものが、あるのだろうか。 もし、それがないとすれば、 偶然というものは、因果なものだ。 「……」 脳裏に写る、幸せな光景。 一年も経ってはいないのに、遠い昔のように感じる。 外を散歩するのを、楽しみにしていたこと。 ボールの外で、出歩くだけなのに、それを楽しく感じていたこと。 外を駆け回りながら、振り返って。 ゆっくり歩いてくる主を、言葉もなしにせかしたこと。 幸せ? もちろん、幸せだったよ。 思い出を、まとめてフラッシュバックさせる。 ここは、僕の、主だった人の、家。 「……あれ? こんな時間に、お客さんかな?」 突然、庭越しに聞きなれない声がかかった。 庭の柵から覗き込む。 黄色と白の体色。 額にはワンポイントのような赤色の玉。 「ブラッキー……見ない顔だね。誰かのポケモンかな?」 毛並みのいいその姿は大切にされていることを全身で表している。 人懐こく、全く警戒心もない。 「ちょっとやっぱり見づらいかな。そっちに行くよ」 そういって、そのポケモンは姿を消した。 やがて、玄関から姿を現す。 二本足で歩いてくる、あのポケモンは……デンリュウだ。 「はじめまして、僕はリュートって言うんだ。よろしくね」 にこりと笑って自己紹介をしてくる。 その何もわかっていない表情が、いけ好かない。 「……」 「……あ、あれ?」 何も答えないフィフスに、リュートがすこしあせったように表情をゆがめる。 落ち着け、 悪いのは、ポケモンじゃ、ないんだ。 それに、僕は、何をしに来たんだ? 何を……。 なに……を? 「あれ……?」 何を、しにきたんだろう? 「……?」 怪訝そうにこちらをみつめるリュート、 「僕……は?」 人間の元に、戻るために、ここまできたはずだ。 それなら、 なんで、こんなところに、きてしまったんだろう? 「……きみ、大丈夫?」 あまりにも支離滅裂な言葉に、リュートも心配しはじめる。 「……ごめん」 そう答えるだけで精一杯だった。 「上がっていくかい? 君、どうも気分悪そうだしさ」 リュートが声をかける。 「……いや、やめとくよ」 それをフィフスは言葉短く断った。 「そっか、別に、お客さんってわけでもなかったんだね」 なぜか少しだけ含みのある言い方をする。 「……?」 フィフスもそれに気づき、リュートをみつめた。 「……あはは、変な風に思っちゃったかな? 別に、深い意味はないんだよ」 苦笑するように、リュートは笑う。 だが、それはどの笑みよりも不自然だった。 「僕たち、最近ここに引っ越してきたばかりだからさ、 たまに、前の家の知り合いのポケモンや、人が、たずねて来るんだよ」 「……なんだと?」 聞き捨てならない言葉が聞こえた。 「な……なんだい?」 何か怒らせてしまったのかと勘違いしたようだ。 リュートは顔をこわばらせておびえた表情でこちらを見る。 「あ……、ごめん」 その表情で冷静を取り戻す。 おもえば、確かにおかしいことなのかもしれない。 彼、リュートはデンリュウにしては、さほど覇気を感じない。 身のこなしもいくら日常に溶け込んでるとはいえ、 デンリュウとしては不相応のように思えた。 「いや……こっちこそごめんね。 僕、戦いはほとんどしたことなかったからさ……、 君みたいな強そうなポケモンははじめてなんだ……」 申し訳なさそうに頭を下げる。 「……いいんだよ。ところで、その引っ越したって言うのは?」 変に話を長引かせるのも、もやもやする。 フィフスは言葉を切り返す。 「あ、えと……、ご主人様の話だとね」 リュートが躊躇する表情を見せる。 それを見て、いやなざわつきを感じてしまう。 「……いってくれ」 やめろ、聞きたくない。 でも、逃げ出してはいけない。 「その人、病気で、死んだ、らしいよ……」 ……。 「そうか」 目を伏せる。 「……それって、どれくらい前だとか、わかるかい?」 自分でも驚くほど冷静に思えた。 「えっ? えっと……半年ぐらい、前かな」 できるだけ顔に出さないようにするためか、僕は顔を下に向け、目を伏せた。 でも、涙なんて出なかった。 何をしたかったのだろうか? それさえも、わからない。 「……ひょっとして、前の主人のポケモンなの?」 ようやくといったところか。 「ちがうよ、僕は、そのトレーナーに捨てられたポケモン、 いまは、別のトレーナーに育ててもらってるんだ」 「あ……そう、なんだ、……ごめんね」 申し訳なさそうに言うリュート、 「いいんだよ」 そっけなくフィフスは返した。 「……どうして、具体的な時期がわかったんだい?」 少し間を空けて、フィフスが再び口を開いた。 何を聞いているんだ。僕は。 意識していないのに、それを聞いてしまっていた。 「えっ?」 予想しない言葉だったのだろう。 僕としても、驚きだ。 「……葬式があったんだよ。出席したからわかる。 ご主人様、知り合いだったみたいで、そのときに教えてもらったんだ」 「……そ」 これ以上の言葉が出なかった。 それに比例するように、僕の中の何かが、こみ上げてくる。 何もかもが、それに押しつぶされていく感覚。 「……泣いてるの?」 おかしいな。 「――」 言葉が出ないよ。 何で僕は、泣いてるの? 「……すこし、休みなよ。たいしたことは出来ないけど、悪くはしないよ」 滲んだ視界に、差し出される手。 その手が、五本の指を持っているように見えて。 ……違う。 「ほら、おいで……」 口調さえも、昔の面影を感じてしまって。 「……やめろ」 「え……?」 そんなはずない。 そんなはずは! 「っ!? うわっ!」 リュートの差し出した手を、乱暴に払う。 「なにを……」 怒るというよりは、ほとんど絶句しているような状態だ。 それほどフィフスが恐ろしかったのか、 「……違う、違うんだ。……そんなはずは、僕は……」 ほとんどうわごとのようにつぶやくフィフス、 その赤い瞳は、虚空をみつめ、光をもう宿してはいなかった。 「……」 もはやかける言葉が出てこないのか、 リュートは差し出した手をいつの間にか引っ込め、小さく震えていた。 「そうだ、無関係なんだ、そうさ、だから……」 見苦しい言い訳だった。 もしかしたら、返した質問は、逃げ道を捜していたのかもしれない。 主が死んだという現実から。 きっと、心のどこかでは、まだ、すがっていたのかもしれない。 かつての面影を、追い求めてしまったのかもしれない。 「そんなの……!」 わからない。 わからないよ。 どうして? 僕は、 僕、は? あぁ、そっか……。 僕は、混乱してるだけなんだ。 そうだ、 そうだよ。 だって、捨てた人間の元に戻ってくるなんて、 正気じゃ、ないよね? フィフスはリュートに背を向ける。 「ぁ……!」 小さくリュートが声をあげたのがわかったが、振り向かない。 ここは、僕のいるべき場所じゃない。 ここでの出来事は、全部、過去の幻影なのだ。 そう思いながら、歩を進める。 しかし、足は思うようには動いてくれなかった。 何度も、何度も振り返りたい衝動が襲う。 そのたびに、僕は歯を食いしばる。 結局、忘れようとしても、忘れることなんて、出来なかった。 「……次のニュースです。 昨夜、午前2時ごろ、○○市の廃油保管場にて、大規模な火災が発生しました」 どこかの家で、窓が開け放されているのだろうか、 朝のニュースが耳に入ってくる。 「現場では、依然消火活動が行われており、殺伐とした状況が続いております」 そうか、まだ、消えてないんだな。 脳裏によみがえるのは、火の粉が立ち上る夜空。 ルゥの魂が天に昇っていく、あの光景はまだ、強烈に焼きついている。 ルゥだけじゃない、リオも、あそこで犠牲になった。 だからこそ、進まないといけない。 「現在まで確認されている限り、10数人が火災に巻き込まれ、死亡が確認されています。 付近に数十匹のポケモンの死骸も確認されていることから、 警察では野生のポケモンを退治している最中に、 このような事故がおこったのではないかと推測されています」 だんだん声も遠ざかる。 正直、これ以上聞きたくないというのが本音だった。 朝の住宅地は、森で過ごした静かな朝と比べ、また違った静かさがある。 覚えている日常とは全く別物に思えた。 きっと、今日は日曜という日なのだろう。 黒と赤の箱らしきものを抱えた子供たちの姿もなく、 黄色い旗を持ち、子供たちを見送る大人もいない。 そんな人々を、散歩がてらに眺めていたのも、遠い日常。 今の僕は、行くあてもなく、過去の面影を求めてしまったはぐれもの。 これから、どうしようかな。 とぼとぼあるく僕をみつめる空が、朝の日差しを隠していく。 いつの間にか、空は灰色がかった雲が覆い始めていた。 「……これじゃ、今日は期待できないかもなぁ」 まるで他人事のように。 何回こういう言い方をしただろう? 「……お腹、減ったな」 独り言をつぶやく。 それさえも、空しくて、 「みんな、どこに行ったのかなぁ」 いつかの、思い出ばかりがよみがえってきて。 「あいたいなぁ……」 寒空が、太陽を隠した雲が、冷たすぎて。 「一人って、寂しいなぁ……」 何もなくなって、 「……うぅ……ぅ」 そして、初めて、思い知った。 独りというものを、 「……、……!」 人目もはばからず、大声をあげたいのを抑える。 だが、それをする意味すらあるのかどうかわからなかった。 今更、忍ぶ意味があるのだろうか? 帰る場所も、友も、そして、愛するものも、捨ててしまった僕が、 失うものを、まだ持っているのだろうか? カツンと、足音がした。 「っ?」 それに驚き僕はくしゃくしゃになった顔のまま、音の方向を見る。 次の瞬間、足音は、僕の真横を通り過ぎていった。 「お母さん、今日、何するの?」 それは、他愛ない親子の会話。 「そうね……今日、雪が降るから、もし積もったら、 お母さんと一緒に雪だるま作ろうか?」 「ほんと!? わーい! 早く降らないかなぁ……!」 その親子は、こちらに気づくこともなく、通り過ぎていった。 あぁ、やっぱり、そうなんだね。 それは、悲しみでも、怒りでもなかった。 はじめから、わかっていたのだと思う。 だから、何も感じなかった。 ごめんね。 僕、やっぱり、もどれないや。 せっかくがんばってきたけど、 この世界は、僕には、冷たくて、暖かすぎるよ。 僕は、人気のない、ある意味最後に行き着く場所に来ていた。 一生を終えた、人間が、たどり着く場所。 「……やっぱりここか」 そこには、確かに人間の文字で、ご主人様の名前が書いてあった。 「……」 思った以上に、言葉も、なにも、出ないものなんだな。 「……バカ」 捨てた挙句、一人で手の届かないところまで行ってしまうなんて! バカだ! 最低だ! ……それでも、 ここまで来たってことは、 僕は、ご主人様を……愛してたんだな。 フィフスは、墓石に身を寄せる。 「……冷たいね」 当たり前だ。 それでも、すがりついたのは、 もう感じることのない、かつての主のぬくもりを、 求めたからなのかもしれない。 「……ぁ」 殺風景な景色の中に、ちらりと何かが舞い降りる。 それは雪だった。 「……久しぶりだなぁ」 思い出すのは、やはり主と一緒にいたときだった。 白く染まっていく街中を、二匹だけで歩いたこと、 またあるときは、手持ちのポケモン全部と、雪遊びをしたこと。 ……最後に覚えている記憶は、主と、マフラーを買いに行ったこと。 「……」 思い出せば、出すほど、どうしようもなく、辛くなる。 そして、惨めになる。 なぜだろう? 簡単だ。 ……わかってしまったからだ。 どこかでは、きっとわかってたんだと思う。 主が、僕を嫌いになって捨てたんじゃないってこと。 そして、理由も、全部わかった。 自分が死ぬから、僕を逃がした。 僕を悲しませないために、 ……いや、僕を、死なせないために。 船の中で聞いた話が本当なら、遅かれ早かれ、僕は処分されただろう。 いつまでも主を失ったポケモンを野放しになどしないはずだし、 きっと、誰かに引き取られたところで、僕は言うことを聞かず、逃げ出しただろう。 そうなれば、後にまっているのは、死だ。 ……それも、もう、意味がないのかもな。 深々と、雪は積もっていく。 色彩が、白に染まっていく。 いまごろ、きっと、子供は、大はしゃぎしてるころなんだろうね。 子供だけじゃない、ポケモンたちも、はしゃいでるだろうな。 ……それが、当たり前。 みんなの、日常なんだ。 そして、それが、僕の、日常だったんだ。 ……。 ……もういちど、 戻りたいなぁ。 もし、ご主人様が生きてたら、 なに、してただろうなぁ。 もし、フィアたちと、ここまで来れたら、 なに、してただろうなぁ……。 ……あぁ、寒いなぁ。 僕の子供、誰か、拾って、くれたかな……。 いい人に、拾われてると、いいなぁ……。 フィアも、うまく、逃げ切れたかな……? せめて……、 レイ達のぶんだけでいいから、生きて、欲しいなぁ……。 ごめんね……、 もう……眠いや。 お腹も、減っちゃった……。 今日の、ご飯、なんなんだろうな……。 ご主人様……。 僕の好きな、甘いポフィン、作ってくれるかな……。 フィア……。 ちょっとだけ、眠るね……。 ちゃんと、ご主人様に、紹介……、 する……からさ……。 最後の瞬間、ほんのわずかだけだけど、 やわらかな温もりが包み込んだ気がした。 ---- ・これで、この作品は終わりです。 長い物語でしたが、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。 あとがき まずは皆様、 このような物語をずっと読んでくださり、感謝の限りです。 当初は強姦だけで終わるつもりの物語が、いつの間にか鬱々としたものになってしまい、 作者としても、実は驚きの限りです。 当初は名前ありのキャラがフィフスとシアのみで、 実はレイ、ルゥ、リオの三人娘は名前のないモブキャラのつもりでした。 それがいつの間にか名前がつき、そしてついには運命を共にするサブヒロインに、 キャラもはっきりとして、今では私としてもなかなか思い入れのあるキャラとなってしまいました。 そしてフィア、この子がフィフスの愛す、メインヒロインと位置づけていたのですが、 ……正直目立つ場面が少なすぎるように思えてしまいました。 フィフスとしても、性格、位置づけ上全面に押し出せてなく、ちょっと心残りに思えます。 あの森での唯一のはっきりとした生き残り、ということで勘弁してください。 さて、主人公のフィフスですが、皆さんにはどう移ったでしょうか? 正直、優柔不断で、物事の目的がわからない、という人が多いかと思います。 私自身も、正直フィフスについては考えがぶれているなぁ、と感じています。 ですが、そこが、フィフスだとも思っています。 さまざまなキャラの思い、信念を聞き、自分自身との葛藤を繰り広げ、悩み苦しむ、 そして、また違う結論を自分で導き出す。 ある意味では、物語の中で、一番人間らしいのかもしれません。 では、結末について、皆さんはどう思っているでしょうか? 正直、鬱エンドだと、本人も思っています。 本当は、フィフスの最期の台詞まで残そうかと思いましたが、 それはやめておくことにしました。 最後のぬくもりが、死んだ主人のものなのか、 それとも、フィアのものなのか、 想像にお任せすることにします。 そして、最後の選択について、 フィフスは主人の墓の前で、朽ちていくことを選びました。 わだかまりを抱えたまま、別の人間の元で、暮らしていくこと、 また、野生に戻り、幅をきかせることもなく、ひっそりと暮らしていくこと、 それらを捨てて。 果たして、死ぬことが、フィフスにとって、本当に幸せだったでしょうか? 無理してでも、生きることが、フィフスにとって、幸せだったのでしょうか? 答えは、明確にしていません。 正直、私自身もこれといった答えは出せていないというのが本音です。 生きることは、すばらしいと同時に、辛いものでもあります。 人間の元に戻れば、フィフスは主人の面影、 そして、人間の本性とのギャップにいつまでも悩まされるでしょう。 野生に帰れば、人間におびえながら、孤独な日々を送らざるを得ません。 だからといって、そう簡単に生を捨ててもいいのか。 そういうわけでも、ないということは、 読んでくださった方には、わかりますよね。 長々と書きましたが、最後に、 この物語に出てきた全てのキャラクター、 そして、この物語を少しでも閲覧してくださった方々。 そして、何よりもここまで、読んでくださった読者の皆様。 本当に、ありがとうございました。 ここまでがんばれたのも、全て、皆様方のおかげです。 これで、私のあとがきとさせていただきます。 ---- 何かコメントをいただけるのならうれしく思います。 #pcomment(,,) IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:06:09" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%B1%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E6%84%9F%E6%83%8511" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"