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失われた感情6 の変更点


作者名:[[風見鶏]]
作品名:失われた感情6

前作:[[失われた感情1]]
   [[失われた感情2]]
   [[失われた感情3]]
   [[失われた感情4]]
   [[失われた感情5]]
・官能表現、流血表現はありません。
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 何のために仕事をするかって?

  金のためだ。そう、すべて金のため。

 ……でも、本当はそうじゃない。

 ただ、悲しみを紛らわせたいだけで、孤独を忘れたいだけで。
 本当は金なんて必要ないんだ。

 ……否。そんなことはない。

 何を考えているんだ。俺は俺自身のために動いている。
 それ以外の何がある? ないだろう? ……ないはずだ。

 あるよ。本当は――。

 黙れっ! だまれっ! ダマレッ!
 俺は俺自身のために動いている! それでいいんだ! それ以外の何者でもない!
 ほかに何があるっているんだ? 地位か? 名誉か? それとも悦楽か?
 そんなものは全部金で何とかなるんだ! 必要なものはもう逃がしたりなんかしない!
 逃がさない! 逃がすものか! 逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない逃がさない!
 俺は幸せになる。見つけられなかった幸せを! 必ず手に入れる!
 だから――。

 だから頼む――もう出てこないでくれ……。

 ああ、本当に狂ってしまえば、もっと楽なんだろうか?

 すべて欲望で埋め尽くしてしまえば、何も悲しむことなどないのだろうか?

 それならば……。




「ははは……」
 薄闇の中、フィフスの力ない笑い声が響いた。
 そんなことができるなら、もうとっくに狂ってるよ……。
 できない自分がいるから、俺はこんなに辛い思いをしているのだ。
 そう、俺はまだ弱い。

 弱くなんかないよ――。

 ほら、また声が聞こえる。
 だから俺は弱いんだ。
 こんな幻想を抱いているから、心を動かされるから、弱いんだ。

 もっと、もっと俺は俺でなければいけない。
 僕という存在を認識している限り、俺は俺にはなれない。

 俺はゆっくりと体をおこし、洞窟の外へと出て行った。
 朝食をとる気には、なれなかった。




「やあ、来たね」
 いつもの小屋で、いつもの手続きをし、いつもの依頼をこなす。
 いつもの行動で、いつもの日常。
 だけど、なぜだか雑念が取り払えなかった。
 浮かぶのは、なぜかフィアの姿。
 どこか悲しげな顔で、だけど笑顔でこちらを見つめてくる。
 僕と同じ瞳で、あれだけひどいことをしたのに、笑っている。
 それがどうしようもなく辛くて、かなしくて、そして……、
 
 愛おしくて。

 そんな考えはいけない。わかっている。
 でもそれを否定できない自分がいて……。

「どうした? なんか様子が変だよ?」
 ナイトが訝しげにこちらを見つめてきた。
 普段なら見放したように何も言わないのに、こういうときだけは必ず反応する。
 要するに、厄介なのだ。
「なんでもないさ、さっさと依頼状をよこしてくれ」
 流すようにしてフィフスは話をふる。
「そうかい、でも気をつけなよ? ボーっとしてると、殺されるかもだぜ?」
「おいおい……どういう意味だよ……」
 さすがに冗談にしては苦しい、フィフスは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「知らないのか?」
 こっちが知らないことについてナイトのほうが驚いていた。
 なんだ? 自分が知らないところで何かが動いているのか?
 フィフスはうなずく。
「なんだ、通じないわけだ。いいだろう、
 ……最近この森のポケモンが次々と殺されているんだ」
「……なんだと?」
 それは本当に初耳だ。
 一気に部屋の中に凍りついた空気が立ちこめる。
「それも、一日に一匹とかのペースじゃないんだ。
 見積もっても一時間に一匹、それほどの勢いで殺されている」
 背筋が寒い、そんな猟奇的な行動をするポケモンがこの森にいる。
 それだけで一種の恐怖が根付いた。
「いったいそいつの目的は何なんだ……?」
「わからない。ただ一つ分かることは、犯人の姿を誰も見たことがないってことだ」
 犯人の姿を見たことがない……。
「もちろん最善の手は尽くしている。既に暗殺依頼をレイたちにお願いしたよ。
 少し渋っていたけどね。彼女たちもプロだ。やってくれるだろう」
 レイ……。
 俺を執拗に追いかけてくる暗殺者の一匹。
 敵ではあるが、その腕は一流だ。おそらくその犯人というやつも逃げられないだろう。
「……」
 しかし、ナイトは難しい顔をしている。
「どうした?」
 たまらず声をかける。だがその表情も一瞬だけだった。
「いや、考えすぎみたいだ。何でもないさ」
 次の瞬間には元の表情だった。
「……そうかい」
 深くは問い詰めない。こういう場合は触れないに限るのだ。
「……依頼だったね。今日の依頼は……これかな」
 ナイトは思い出したようにそういうと、棚のファイルを取り出す。
 そうやって俺の一日は過ぎて行くのだ。

 正直、依頼の内容はどうでもいい。
 自身の目的が達成されれば、その経路は関係ないのだ。
 今回の依頼は、南東の広場にいるピチューたちに、クッキーの小包を渡す仕事。
 おそらくこのクッキーは、毒が盛られている。
 ……それでも関係ない。
 それが幼子たちの運命だとすれば、それまでだ。
 俺は感情を押し殺して目的地へと歩いて行く。
 一歩外に出れば、そこは命の危険が付きまとう静寂に包まれた森だ。
 考える必要などない。
 この依頼をこなすことだけが、俺が今ここにいる理由だ。

「……!」
 殺気。
 目の前にポケモン。
 こちらを見据えている。
 ということは……敵だ。
「あんただね……! ピチュー達をたぶらかそうとしている奴は!」
 母親だろうか? 体から電気をパチパチと放電させながら、そのピカチュウはこちらへと身構える。
 どうやら問答無用のようだ。
「だからどうした。俺は俺自身のために動いているだけだ」
 こちらも身構え、迎撃の体制をとる。
「それが困るんだよ!」
 体に電撃を纏っての突進、ボルテッカー。
 ……早い。
 よけきれないと判断したフィフスは四肢に力を入れ、防御の姿勢をとる。
「うぐ……っ!」
 体に感電のショックとともに鈍い痛みが駆け抜けた。
 いくら打たれづよいブラッキーといえど、この威力は辛いものがある。
「よけないなんてなめてくれるじゃないかっ! これならどうだ!」
 声は上方から聞こえる。その瞬間に悟った。
 ……これは厄介な相手かもしれない。
 刹那、鈍い打撃音が響いた。
「……!」
 声のない悲鳴をフィフスは上げる。
 背中にはアイアンテールが決まり、フィフスの背中に深く食い込んでいた。
 一瞬だけ足元がふらつく。でも、まだやられない。
「タフだね。けど攻撃してこないなら、まだまだ行くよ!」
 両頬の電気袋から、火花が上がる。
 さすがにこれ以上受けたくはないな。
 片足の土を掘りさげる。
 ……間に合え。
「食らえっ!」
 やはりボルテッカーだ。
 フィフスは片足を抜き、土をピカチュウに浴びせかけるとともに高くジャンプする。
「ぶわっ!?」
 不意を突かれたピカチュウは一瞬だけだが無防備になった。

「……いない、どこへ行った!?」
 ピカチュウの目の前からフィフスの姿が消える。
 あわてて周りを見渡すが、霧のようにフィフスの姿は消えてしまっていた。

「隙だらけだ」
 だましうち、
 フィフスは無防備なピカチュウの後頭部を思い切り蹴飛ばす。
「か……はっ……!」
 スローモーションを見るかの如く、ピカチュウはゆっくりと倒れた。
 まだ意識があるようだ、しかし脳が揺れているのかピカチュウは立ち上がれない。
「く……そんな……!」
 必死に立ち上がろうとするその様子がなんとも痛々しい。
「諦めろ、十分は立ち上がれんさ」
 フィフスは無表情にそういうとその場を後にしようとする。
「ま、待って……!」
「……なんだ?」
 ピカチュウは懇願するような顔でこちらへ視線を向ける。
「どうか子供たちの命だけは……助けてください! ……お願いします!」
「……無理だね、俺には俺の立場っていうものがある。聞くわけにはいかないんだ」
 無慈悲だが仕方のないことだ。
 ……そうだ、慈悲は必要……ない。
「……くっ!」
 ズキリと頭が痛む。
 ……また、俺は、悩んでいるのか?
 いけない、いけない、いけない。
 ……悩む必要などない。
「それなら……!」
「……っ!」
 し、しまった……!
 相手が動けないからと油断しすぎたか……!
 ピカチュウはこちらが背後を向けている隙に、じゅうでんをしていた。
 これは……よけようがない……!

「これ……ぐ……!?」
「……!?」
 覚悟を決めて身構えていた刹那の出来事だった。
 目の前の出来事に一瞬目を疑いたくなった。
「が……あ……!」
 じたばたともがくピカチュウの首元には、何者かの蔓が深く食い込んでいた。
 目を大きく見開いた姿は……思わず戦慄してしまいそうだ。
 だが、それ以上に戦慄したのは、ピカチュウを襲っているものだった。
「ダメだよ? 油断なんかしちゃあさぁ?」
 ……リオだ。
 何の屈託もない笑みをこちらに向ける様は、
 相手をあやめるのに対し何のためらいもなことがうかがえる。

「あ……あ……」
 やがてピカチュウの全身から力が抜け、……動かなくなった。
「ふふっ、おしまい」
 無造作に藪の中に亡骸を放り投げる。リオは相も変わらずこちらへ笑いかけている。
「くっ……!」
 思わず後ずさりをしてしまう。
 こうも簡単に命を奪うこのポケモンを、恐ろしく感じる。
 そして、もっと恐ろしいのは、標的である自分に対して、殺意が全く感じられないことだった。
「ちょっとぉ、せっかく助けてあげたのにそれはなんじゃない?」
 あからさまに悲しそうな表情を見せるリオ。
 まるで友達のようなその態度にフィフスは困惑の念と、畏怖を覚える。
「……なーんてね。やっぱり怖いかな?」
「……」
 からだがこわばる。精神が圧迫される。
 殺気もないのに、威圧感が立ちこめている。
「ふふふっ、どうしようかな~? この前みたいに……犯させてもらおうかなぁ……?」
「……っ!」
「うそうそ、今日は襲わないよ。こっちにも事情があるからね」
 まるでこっちの反応を楽しむかのようにリオは無邪気に笑う。
 思わず歯ぎしりをする。
 さすがになめられたままでは面白くない……。
 でも、それがいいのかもしれない、その油断が、後々幸につながるのなら、今は我慢しよう。
「じゃね。また……会おうね」
 去り際のリオの言葉は、いやに耳に残った。
 まるでどこまでも逃がさないような。
 まるで……。
「ずっと、あなたのこと、見ているよ」
「うわあああああああああああああああああぁっ!」
 見つめてくるその瞳が、輝きのない欲望に満ちた瞳が、とらえて離さない……。

「あははははっ! またあおうね! 私の大切な、フィフス……!」
 森の奥から、狂気に満ちたその声が聞こえた気がした。

「……」
 フィフスはこと切れたピカチュウの亡骸を茂みの中から引っ張り出す。
 こうして見るととても死んでるとは思えない、まるで眠っているようだった。
 ついさっきまで敵として現れたものが、動かないものへと化してしまった。
 殺す必要などなかったはずなのに、死んでいる。
「いや、どの道をたどってもこうなっていたのかもしれないな」
 過ぎてしまったことだ、何も気にすることなんて、ないのだ。
 それに……俺だって、暗殺者なのだ。
 手を下してないにしろ、リオたちと同じ立場なのだ。
 何を後ろめたく思う……。
 足取り重く、フィフスはその場を後にする。
 後には、冷たくなったピカチュウだけが残された。
 それ以外には、何も残らなかった。

「あれ? こんにちは! どうされたんですか?」
 見えてきた。あれが依頼にもかいてあったピチューだろう。
 疑うことを知らない無垢な瞳。
 ……いけない。余計なことを考えてはいけない。
 俺が持って来たものは、死だ。
 いけない、いけない、いけない。
 違う、いけなくない。
 よく考えろ、ピチューだって、このまま一匹で取り残されるよりかは、
 死んだほうがいいに決まってる。
 だからいいんだ。
 俺はいいことをしている。
「荷物を持ってきました。証明書をお願いします」
 いけない、いけない、いけない。
 違う、いけなくない。
「あっ……」
 小包が地面へと落ちた。
 カツンと無機質な音をたてる。
「ご、ごめんなさい」
 ピチューは少しあわててその小包みをひろい上げた。
 ……しっかりした子だな。
 でも、この子の命ももう終わり。
 せめて、この子の最後だけでも、見て行ってあげよう。

「わぁ……おいしそうなカステラですね! いただいてよろしいですか?」
 中身はクッキーではなくカステラだった。
 フィフスは黙ってうなずく。

 そして……そのカステラは、口へと運ばれた。

「……めんね」
「……え?」
 ピチューはこちらへ顔を向ける。
「もうすぐ君もピカチュウのところに行けるからね……」
 その声は、自分でも驚くほどやさしい声音だった。
 ああ、まだ、こんなやさしい言葉を、かけることができたんだね。
 でも――。

 できれば、こんなときに使いたくはなかったな。

「――うっ!? げほっ……げほっ……!」
 突如、ピチューが苦悶の表情で苦しみ始める。
 この反応は、即効性の薬物のようだ。
 地面に小包が再び落ち、無機質な音を上げた。
「ごめんね……、ごめんね……」
 目の前で死んでいくさまが、こんなにも生々しいとは。
 自ら手を下した様子が、こんなにも罪悪感のあるものとは。
「うぐ……マ、ママ……苦しいよおぉ……ママ……ママ……」
「大丈夫だよ……、君のママは、先に天国で待ってるから」
 思わず目を伏せたくなる。
 でも、伏せたらだめなんだ。
「ママが……、なんで……? ……かはっ!」
 吐血。
 もう長くないな。
「天国で、ママに謝っておいてくれ……。……大丈夫、君なら天国に行けるよ……」
 あぁ……目の前がぼやけるよ。
 覚悟はできていたのに、涙が出てくるよ。
「ママ……助けて……マ……マ……」
 断末魔。
 悲しい悲しい、断末魔。
「……戻ろう、もう、ここになんかようはない」
 そこにいたのは、俺ではなく、僕だった。




 なんだか、わかった気がするよ。

 なんで弱いのか……。

 僕は、やさしすぎるんだ。

 ずっとずっと目を伏せてきたけど、やっぱり無理だね……。

 僕は、俺にはなれない。

「ううっ……ううぅ……!」

 無理だよ……。こんな現実を受け入れることなんて……無理だよ……!

 覚悟できていたのに。とっくの昔に消え去ったと思ったのに……。

 怖いよ……。

 僕という存在が消えてしまうことが。

 いやだ……いやだいやだいやだ!

 僕は消えたくない!



 結局、僕は僕であって、俺ではなかった。
「ん、戻ってきたね。結果を聞こうか」
 結果、成功という名の失敗。
 いつものこと、手っ取り早くすませて、手っ取り早く住処へと戻る。
 つまらない。そして、罪深い。



「はぁ……」
 夕食もとらず寝床に倒れこむ。
 今日は、なぜだかいつも以上に疲弊してしまっていた。
 これもやはり、今日という出来事のせいだろうか。

「……フィフスさん」
「……! 誰だっ!」
 はじかれたようにしてフィフスはたちあがった。
 そこにあるのは白く闇夜に浮かび上がるアブソルの姿。
「なぜおまえがここにいる……!」
 普通のポケモンなら逃げだしてしまいそうな声音と形相でフィフスはフィアにつきつけた。
 だが、なぜかうまく行った気はしなかった。
 なぜなら、その姿を見ただけでなきそうで。耐えられないほど悲しくて。
 そして、それ以上に、愛おしい……。
 まるで今まで抑えていたものがあふれ出るような気持ち。
 晒したくない顔になるのが自分でもわかる。
 視界がかすみ、自分の足元に水滴がこぼれおちる。
 あ……、泣いちゃっているんだな。
 不思議と羞恥感はなかった。
「ごめんなさい……どうしても、心配で……、頭から離れなくて……」
「……!」
 無意識に奥歯をかみしめる。
 自然と反発の言葉がのどから出てこようとする。

 でも……素直な気持ち、うれしかった。

 そして、そう思うと、気分がとても楽だった。

 そう、素直に何もかも受け止めることができるのならば、どれほど楽なのだろう?

 何もかもが信じることのできないこの世界。

 信じることができるものがあるのなら。どれほど楽だろう?

 これまでずっとずっと何も信じてこなかった。

 唯一頼りにしてたのは、無機質な金という権力のみ。

 もう、やめにしたいよ。

 目の前にいるこのポケモンを、信じていいならば、僕は――。

「泣かないで……、ください」
 つややかな毛並みが、僕に触れた。
 普段なら全身を逆立てて離れているのに、その拒否反応は現れない。
 ただ単に疲れているからだろうか、それとも、僕がフィアを受け入れたからだろうか。

 僕としては……、僕の意志では、後者であってほしいという考えだった。

 信じられないことかもしれない、でも。

 僕はフィアというポケモンを、

 敵だったこのポケモンを愛おしく思っている。

 性的な感情とは別の感情がそこにはあった。

 いわゆる同族意識なのだろうか?

 欲するというものではなく、必要とする。

 似て、非なるもの。

 ああ、こんなにもほかのポケモンを必要とするだなんて……。

 こんなにも僕は脆いだなんて……。

 目の前が見えなくなる。涙で見えなくなる。

 涙など、枯れてしまえばいいと思っていた。
 流しても流しても枯れなくて、とても苛立たしいものだった。

 今でも涙は苛立たしいものだ。

 でも、素晴らしいよ。

「ううぅ……ひくっ……うううぅ……」
 こんなにも感情が表に出せるだなんて、素晴らしいことなんだよ。

 まるで僕は子供のように泣きじゃくっている。
 フィアは、黙って受け入れてくれている。
 今、フィアは何を思って僕を受け入れてくれているのだろうか?
 心配してくれているといって、実は迷惑しているのじゃないのだろうか?

 その時、フィフスの頭に何か温かいしずくみたいなものが落ちてきた。

「……あ」

 なんだ……。

 フィアも、泣いていたんだ……。

「ご、ごめんなさい……私も、なんだか涙が止まらなくって……! ごめんなさい……」

 もう何もかもが今は関係なかった。

 今だけは……こうやって泣いていたい。

 いくら後悔したところで、罪が消えることもないし、この先もきっと、
 僕は罪を犯し続けるだろう。
 こうやって生きている限り、生きる方法は、罪を犯すしかないのだから。



「ごめん、情けないところを見せてしまったね……」
 どれほどの時がたったのかは分からない。
 少しの間だったのかもしれないし、長い間だったのかもしれない。
「いえ、いいんです。それに、私も同じことをしてしまいましたし……」
 お互いの間をしばしの沈黙が流れる。

「ところで、どうして危険を冒してこんなところに来たんだい?」
「そ、それは……」
 さっきの理由が不純だと思っているのか、口ごもってしまう。
 正直、フィフスにとって理由などどうでもよくなっていた。

 もっとも、もっと慎重になったほうがいいのかもしれない。
 それでも、このポケモンが困っているのならば。
 助けを必要としているのならば。

 僕は、喜んで迎え入れてあげたいよ――。

「もし、さ、行く場所ないのなら、僕のところにしばらく住みついても……いいよ」
「え……いいんですか?」
 信じられないというような表情でフィアはこちらを見つめた。
 今までにしてきたことを振り返ればその反応は当然で、仕方のないことであった。
 それでも、しばらく多々後、フィアは答えを返してくれた。

「……こんな私でよかったら。お邪魔させていただきます……」
「……うん」
 まだ少々ぎこちない。
 おもえば、僕自身はかなり身勝手なポケモンだ。

 勝手に傷つけて、かと思えば勝手に甘えて……。

 周囲を振り回しているといったら弁護のしようがない。

 今目の前にいるフィア。

 フィア自身が何かしたという意識はないかもしれない。

 それでも僕はフィアに助けられた。

 だから……今度は僕自身がフィアを助けてあげたい。

 僕が、僕であれるのは、フィアが思い出させてくれたから。

 だから……ずっとずっと、ここにいていいよ……。

 口にはまだ出せないけど、いつか伝えたいな。
 
「こんな世界だけど、少しだけいいことがあったよ……」
 思いの代わりに、そんな言葉を聞こえないようにつぶやいた。
 その言葉すら、フィアには聞こえなかったようだ。
 フィアはただ困ったように、沈黙の中でうつむいていた。

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 今回はここで一区切りをさせていただきます。
 ひどく中二病っぽい表現ですみません……。
 ここまで読んでくださり嬉しく思います。
 何かコメントをいただければありがたく思います。

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IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:04:33" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%B1%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E6%84%9F%E6%83%85%EF%BC%96" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"

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