作者:[[kzt]] 後編では、列車に乗って天国に行く話を載せてあります。前編に比べると短いですが、話の切所がこの辺しか思い当たらない為、その辺は割愛で。 前編は[[こちら>天国行き特急 前編]] ---- 僕とヒトカゲは学校の屋上に来ている。すっかり空は真っ暗になって、時間は多分十二時半くらいだろう。ヒトカゲがリザードン先生に何とか説得して、態々夜中の学校に来たのだ。 しかも屋上まで直行で。 「ぜぇぜぇ…これで…良いんだな?」 息切れした先生はヒトカゲに向かって言った。 「親父、ありがと」 「それにしても天国に行くような列車がホントに来るのかよ…」 先生は半信半疑でヒトカゲをずっと見ている。 夜空には一等星が薄らと輝いていた。真夜中だというのに町の家の一部はまだ明かりが灯っている。冷たい風が吹き荒れるが、炎ポケモンが側に二匹も居るお陰で寒く無い。 「親父も乗るのか?」 ヒトカゲは身を竦める。彼の瞳に先生の尻尾の灯火が映っていた。 「まさか…。俺はただお前達をここまで運んで来ただけだ。それに俺は忙しい、一足先に家へ戻るからな…!じゃあミジュマル、俺の息子をよろしく頼むぞ」 「はい先生」 ヒトカゲを任された僕は返事をして、翼を広げてその場を後にした先生を見送った。 「早く来ねえかなぁ~…」 退屈そうに呟く。何せ、まだ二十分時間が余っているのだ。でも乗り遅れるよりマシだと僕は思う。 適当な雑談をヒトカゲと繰り返している内に、一時になろうとしていた。予定だともうそろそろ来ても奇怪しく無い。……ってヒトカゲが言っていた。 「ん…!?来たぞ!!」 「え…、ウソ!?」 右から列車が空を飛んでこっちに走って来た。ライトが眩しい。そんなバナナ、…いや、洒落を言ってボケてる場合じゃない。何と在り得ない現象なのだろう……。 列車は車輪から白い煙を出し僕等の前で停車する。ボディには薄く金色の塗装が施されていて、何とも怪しく、それでいて神秘的だ…。 今まで気が付いていなかったが、列車がやって来た事に気が付いた幽霊達が、もうすぐそこまで忍び寄っていた。幽霊を初めて間近で見た。足が半透明に薄く、宙をゆったりと浮いている。何とも気持ち悪い。……これ、皆死んでるんだぜ? 「すっげえな…」 ヒトカゲが小声で呟いた。確かに言われた通り……。 列車の扉が開くと同時に、幽霊たちは次々に列車に吸い込まれるような感じで乗り込んでゆく。まるで都会の通勤ラッシュを見ているようだ…。僕達も後れを取らないように乗車した。 列車の中は、普段僕等が利用している列車と殆ど変わりが無い。奇怪しい所は僕とヒトカゲ以外の乗客が全て幽霊だという所だ。でも、一言で「幽霊」と言っていても、皆それぞれだ。身体の透明具合があまり薄くない者や、逆に酷く薄れていてもう消えてしまいそうなのもいる。 あんまり騒がしくしない方が良いと感じた僕は、ヒトカゲに言い、天国に着く(?)まで静かに過ごす事にした。まさか乗客の中に生身のポケモンが乗っている事を気付かれたくないとも感じた。 窓の外ではどんどん地上から離れているのがよく分かる。このまま僕とヒトカゲは死んでしまうのだろうか?まさかそんな訳…。 流石にジッとしていると退屈だ…。こんな状況だと下手に身動きが取れないし、何をして良いのやらサッパリでいけない。 「なあミジュマル、俺達ホントに死んじゃったらどうする…?」 ヒトカゲがいきなり変な事を聞いてくる。「誘ったのはあんただろ」とか言い出してしまいそうだが辛うじてそれを飲み込む。後悔するのだったらどうして乗ろうと思ったのだろうか、この友達は…。 「死んじゃったらそれはそれで運命だよ」 捨て台詞を吐きだして、彼から目を背けた。溜め息が声と成って僕の耳に入る。 この妙に静けて凍結状態と化した列車の中で、ただずっと時間が過ぎるのを待っていた…。 あれから三十分経ったぐらいか、窓の外を見ると明るくなりだしていた。 『御乗車して頂いた皆様、天国、天国に到着いたしました。もう一度繰り返します。天国、天国に到着いたしました』 列車内で車掌のアナウンスが響く。天国に遂に来てしまったか…。僕は自分の身体が薄くなっていないか、身を捩って確認する。どうやらまだ霊化してはいないようだ。 列車が止まりだす。慣性の影響で身体のバランスが少し左に寄り掛かった。扉が開くと、さっきまで静かに座っていた幽霊達が下車してゆく。まるで都会の通勤ラッシュ……というのは乗車する時にも言った気がするから今回はもう言わない事にしよう。 「ヒトカゲ、降りるよ」 隣で退屈で眠っていたヒトカゲに声を掛けてあげた。 「え…、もう着いたの…?」 彼は目を擦っていた。 列車を降りた僕達は、まず景色を眺めた。太陽が眩しくて、日の出を眺めている様な雰囲気だ。雲が足よりも低い場所に在る。こんなの初めて。 暫くヒトカゲと一緒に景色を眺めていたら、誰かが僕達に近づいて来ている。体毛が黄色で針の様に鋭く尖っている。首周りは白く、活動帽を被っていた。 「おいお前達、見たところ生身のポケモンだな?ここはお前達の様な生きているポケモンの来る所じゃない。今すぐ此処から帰る事だな!」 警告を受けてしまった。コレだから僕はあんまり乗り気がしなかったのだ。 「そんな事言わずにもう暫く居させて下さいよぅ」 ヒトカゲが横から割り込んで来てヘンテコな敬語使いで言った。 「いや、今すぐ立ち去れ。これは忠告だ、命令に背けば痛い目に遭うぞ?」 「ヒトカゲ、帰ろう」 「ええ~、折角ココまで来たんだぜ?ここで帰ったら勿体無いだろぉ…」 勿体無いとか有るとかの問題じゃないと思う。 「聞こえなかったのか?子供は早く帰る事だ」 あ~あ…、子供扱いされるのって僕苦手なんだよな~…。ハァ…。 「お兄さ~ん」 「ん?」 黄色いポケモンの背中側から、女性っぽい高い声が聞こえて来た。「お兄さん」と呼んでいる所からすると、たぶん妹さんだろう。 「シャワーズ…」 「もう、お兄さんったら仕事放りっぱなしじゃない」 「あぁ…悪い、こいつ等の相手をしてたもんでな…」 「相手?」 シャワーズと呼ばれたポケモンが僕を見てきた。恐らく死んでいるとは思うけど、彼女の肌は瑞々しく、とても生き生きしている。もしかしたらツタージャのお腹より軟らかいかも…。いや、そんな厭らしい(?)事を考えている場合じゃないよ。少なくとも洒落に成らない。 「…君、何処から来たの?」 「ズイオウから…」 「あら、奇遇!私もその町の出身なのよ」 シャワーズの顔が晴れて、笑顔になる。まさか一緒とは思っていなかった。 「そう…なんですか?」 「うん。懐かしいわね~…」 「おぃ…シャワーズ、そろそろ俺達仕事に戻らなきゃいけないんだけど…」 少し呆れた様な顔をしている黄色いポケモンが言った。 「それじゃぁ…、私がこの子達の相手をしてるから、お兄さんは先に戻ってて」 「分かった、早く戻ってこいよ」 その言葉を残し、あのトゲトゲの黄色いポケモンはくるりと背を向けて去って行った。 「ゴメンね、お兄さんはちょっと頑固なトコがあるから…」 「だ…大丈夫ですよ」 僕は額に汗を流しながら言う。 「それにしても…、君を見ていると何だか懐かしい感じがするわ…。まるで…彼の面影を感じるような…」 「彼…?」 「ミジュマルが?」 今はこのお姉さんと話してるんだ、首を突っ込まないで欲しい…。…とヒトカゲを横目で見て思った。 「ねえ、君のお父さんってどんなポケモン?」 唐突にお父さんについての話になって少し戸惑う。 「ん~っとね…、強くて…カッコ良くて…、それで優しいお父さんなんだ」 ちょっとオーバーな感じがするけど、ホントに思っている事だから、胸を張って自慢できる。 「そう、…お父さんを…大事にしなさいね…」 シャワーズのお姉さんは少し寂しそうな表情に変わる…。 『間もなく、特急列車が出発致します。御乗り遅れの無い様、御注意下さい』 突然、列車がアナウンスを流した。その声に吃驚した僕とヒトカゲは後ろを振り向く。 「大変!君達、早くあの列車に乗って!乗り遅れたら君達は死んじゃうかもしれない!」 「ええ!?」 流石にこんな所で死にたくない。多分だけどヒトカゲもそう思っているだろう。 「君たちと話ができて少し楽しかったわよ…」 「うん…、お姉さんも元気でね。……って言うのも何だか変だけど」 その言葉にシャワーズは「クスッ」と笑った。 「ヒトカゲ、急ごう!」 「おう!!」 僕とヒトカゲは駆け足で列車に乗り込む。扉が閉まるギリギリだった。 窓の向こうでは、手を振っているあのお姉さんがいた。僕はお姉さんに手を振り返すと、列車が発進し、天国を離れた。 「あれが天国か…。また行こうぜ!」 縁起でも無い事を言わないでくれ…。 また再び溜め息が出た僕は、「冗談じゃ無いよ…」と言った。 「でも……、何時かはまた此処に来るんだろうなあ…」 僕はシャワーズのお姉さんの顔を思い出し、静かに車内で揺れていた。 後編・完 ---- あとがき この話のタイトルについてですが、自分で考えたものでは無いです。ただ、実際に良く聞くような単語でも無いです。何から取ったとはあえて言いませんが、その点は貴方自身で考えてみてください。 天国に行くというのは中々斬新な発想であったと自分でも感じておりますが、今回の話を書くのは少し難しかったです。時間も結構掛けましたし……。 あと、最後の方が少し急ぎ気味で書いたので、ミスがもしかすると有るかもしれません。見かけた方はコメント欄でご指摘をお願いします。 コメントはこちらで #pcomment 削除 IP:111.89.30.102 TIME:"2015-05-24 (日) 14:13:38" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%A9%E5%9B%BD%E8%A1%8C%E3%81%8D%E7%89%B9%E6%80%A5%E3%80%80%E3%80%80%E5%BE%8C%E7%B7%A8" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"