ポケモン小説wiki
大天空空域突破 の変更点


妙に変な表現がありますが、こまけぇこたぁ(ry
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-1


「風が強い、もうちょっと風を弱められないかな?」
贅沢を言う目の前の電気ネズミをうらめしげにねめつけながら、オレンジは念力の力を少しだけ強める。薄紫の不思議な膜が、風邪を摩訶不思議な方向へと避けさせる。
「レモン、これ以上文句を言ったら、私が落としちゃうよ」
「こわいこわい」レモンは笑いながら、それでいて少し苛立ったような声を出した。本々レモンは些細な事で苛立つ性分だが、ここ最近がそれがひどかった。周囲のすべてがレモンを常に苛立たせているようなところがあった。
「なんでそんなにイライラしてるの?」オレンジはことさらのように笑い、こまごまとした言い訳のような言葉を羅列させながらレモンのほうへ振り向く。「あの島に行きたいっていう気持ちはわかるけどさ、そこまで切迫したような気持ちでいくようなところじゃないと思うけどね。私は」
「そうだね、その通りだね」
レモンの顔が怒気を含んで歪んだ。その兆候を感じ取り、慌ててレモンから目線をそらす。
(まったく、自分の気に入らないことがあったらすぐに怒るんだから)
我儘で融通がきかないとすぐに堪忍袋の緒が切れるというのは、子供特有の我儘という印象を受けながら、オレンジは念力の力をぐぐっと強めて、空へと向かう。レモンはどこか焦燥感を募らせているようで、何をそこまで焦っているのか、オレンジには分からなかった。朝焼けの靄が離れるのを空中で感じながら、レモンは口を開く。
「ごめん」その言葉が、聞こえたのか聞こえないのか、オレンジは聞こえないことにしておいた。自分の融通がきかなくて、誰かに当たってしまう自分を恥じながら、レモンは渋い顔を作った。
「すごい雲の量だ、ここから先は、雨粒との戦いだね」
「そうだね」
レモンはかろうじて聞き取れるような声しか出さない。無意識にオレンジの手をつかんでいたことに気付くまで、少しかかった。その手は、風にうたれて冷えていた。
「温かい」オレンジは心地の良さそうな顔をした。「レモンの手は、太陽の手だね」何の比喩表現が変わらずに、レモンは首を傾げた。「太陽に一番近い場所に、今近付いているんじゃないかな」
「わからないなら、いいよ」
「そう」
会話の接ぎ穂をなくして、風に打たれる。朝が近づいて、だんだんと雲の量も少なくなる。
「あの浮島、何なんだろうね」
「それを、今から確かめるのさ」レモンは強い太陽の光を少し手で覆いながら、強い意志を宿した瞳を浮島に向ける。何があるのか全く分からないが、危険がある分、もちろん報酬や見返りというものがあると彼は思った。いや、思いこまなければならなかった。
浮島に行く必要が全くないオレンジをひっかきまわしたのは自分の責任だという自責の念に駆られているのと同時に、報酬や見返りなんてない、これは自分自身のただの憂さの晴らしだと理解している自分がいた。どちらも正しく、どちらも間違っていない。この状況で、生まれてくるものは、悲しみ。
(こんな気分になるなら)
来ない方が、幸せなのかもしれないと思い立ち、知らないうちにため息が漏れる。行くときは妙に意気揚々としていたレモンだったが、近づくにつれて、だんだんと消沈していく。そんな様子に気がついたのか、オレンジが心配そうに声をかけた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃなかったら、逃げりゃいいのさ」
「逃げりゃいいって」気分がそぐわない割には妙に堂々としているレモンを見て、オレンジは不安そうに顔を陰らせる。「確かに、そうだけどさぁ」と言いながら、不安そうに肉眼で捉えられるところの先にある浮島を見つめて、神妙な顔つきになる。
「堂々としてりゃいいんだよ。別に墓荒らしに行くわけじゃないんだから。まぁあの浮島が無人だったら似たようなもんだけど、別にかまやしないさ、無人だったら入ってください調べてくださいって言ってるようなものだろ?それで後になってなんか言われたら、無人だったって言っちゃえばいいんだからさ」
「でもそれは、悪いことじゃないのかな?」
「悪いことって考える方が悪いことさ」レモンはあっけらかんと答えて。もう一度浮島を見つめた。「なんだってそうさ、物を借りたいと思ったら、貸してくれって言えば、向こうの方から勝手に善意を解釈するでしょ、それと同じように考えればいいのさ。自分がそう思ったときに、悪いからなんて遠慮するやつは、よっぽどのかまってちゃんだよ」
言い方はひどいが、微妙に的を得ている発言を聞いて、オレンジは息を吐いた。確かにその通りだが――
(なんだか、悪いみたいだ)
オレンジの考えは、レモンとは湾曲している。オレンジは他人の方を気遣うが、レモンは基本的に自分のことを最優先させる。その考え方が、彼女とレモンの間に、溝を作っていく、オレンジはそれを快く思えなかったが。そんなことを口に出すと、またレモンがきっと何かを言ってくるという気持ちがゆっくりと湧きあがり、むっつりと口を噤んでしまう。
空にはポケモンの気配なんてない。ゆっくりと風が体中を撫で上げて、いい天気になりそうな夏の日。とてもではないが、オレンジにはこんな日に今の自分たちがやっていることが妙にそぐわないと思った。
(墓荒らし……)
妙に恐ろしい言葉だった。心の中で言葉を反芻しても、やはり恐ろしいという印象が頭の中をよぎる。
死者を発く墓荒らし。無人の島を荒らす自分達。これはどう違うのだろうか、そう思って、オレンジは背筋にうすら寒いものを感じた。何の根拠もなく、駆り出されるままに連れ出された不思議な浮島。そこに何もなければ、本当に墓荒らしと何も変わらない。かといって、帰ることもできないまま、流れるように進んでいく自分をなんとも言えない気分のままなだめるように進む。
「人がいたら、お邪魔しますでいいんだよ」レモンの声は、まるで自分が悪いと思っている風ではなかった。「もし僕たちの考えが違っていたらごめんなさいでいいし、当たってたら暴れてでもやめさせるさ。そうしないと、飢えて死ぬ」
もっともらしい理屈を並べて、自分を正当化させていると笑いながらも、レモンはそれでいいと思っていた。御託を並べてごちゃごちゃというよりは、直接言って確かめた方が何倍もましだと思っているから。そう思いながら、レモンは近づく浮島を眺める。
「だんだん近づいてきた。このまま乗り込もう」
オレンジの言葉に、レモンは頷く。亜麻色の瞳が、ゆらゆらと蜃気楼のような陰る浮島をとらえる。空に浮き上がる大地に近付くにつれて、土の匂いが鼻孔を擽る。
「着陸」オレンジはそう言って、ゆっくりと緑の茂る浮島に体をおろし、念力をとく。柔らかい土と、生茂る緑、間違いなく、ここは浮世離れした場所だとレモンは思った。
「さて、どうしようかな」
「進んでから考えてみようよ」
オレンジの言葉に頷くと、レモンは周りを警戒しながら浮島を踏破し始めるのだった。


-2


強い風を受けながら、後ろから追いかけるようなエネルギーの軌跡を見て、ライチはうつろな瞳を向けて、口の端から血を流す。グレープは頬についた火傷のあとを舐めながら、軽く舌打ちをした。
「こっちの道が一番危険な道だったみたいですね」
「立て札か……看板くらい……あっても……いいと……思うんだけどね」
「それを空の上で求めるのは酷なのではないですか?」
自分の姿を超能力を使えるエーフィの姿に変えて、体中に火傷のあとを作ったライチを背負いながら、逃げるように上昇する。ライチの衰弱はひどく、グレープは肌が触れ合い、火傷のあとがこすれる音を聞いて、えも言わない切迫した気持ちに駆られた。自分のせいで巻き込んでしまったという責任感と、これ以上こんな所で長居をできないという焦りから、体の負担を気にせずにエネルギーを燃やし続ける。
後ろから、光の弾道が伸びてくる。頭上をかすめて、グレープはとにかくライチに当たらないようにと体中を使って攻撃をよけ続ける。
(ライチ――)
攻撃に被弾して、少ない口数がさらに少なくなった物言わぬ友人の姿をとらえて、グレープは唇をかんだ。まだ死んではいないのに、何を考えているのだろうと思って、自分で自分を叱責した。
後ろから三つの影がグレープたちを追いかける。鏡のような姿に、濁った黄色の瞳が怪しく光っている。ドーミラー達の執拗な追撃をかわしながら、もう一度ライチの姿を見やる。
(このまま置いていった方が、ライチにとってはいいのかな?)
考え方が邪悪で醜悪という意識が一瞬だけ飛んで行ってしまった。そのせいなのか、冷静に考えて、グレープは自分の背中にうすら寒いものが走るのを感じた。何を考えているんだろう、どうしてそんなことを考えたんだろう。まだ生きている怪我人をそんな風に扱っていいのだろうか。
(私は、ライチに生きていてほしいのか、死んでいてほしいのか――)
心の中で膨らんだ悪い気持ちを、唾と一緒に飲み下して、押しこんだ。今はそれより、一刻も早くあの大地に立つことが優先事項だった。悪いことやもどかしいことは、急いで助けたいという気持ちが塗り潰した。
「見えた」口に出すと、何やら感慨深いものがあった。大地に足を乗せて、そこから大きく走りだす、戦うことよりも、逃げることの方が大事な時もある、それが今だった。
それを逃がさないように追いかけるドーミラーの攻撃に、グレープは右足を撃ち抜かれた。燃えるような痛みと一緒に、小さな嗚咽が漏れる。そのままバランスを崩して、ライチとともに思い切り大地の上に投げ出される。
「ぐえっ……」
潰れたような声が喉から出て、意識が痛みと混ざり合い、何をしているのか分からなくなる。これ以上何をしろというのだろうか、友達を助けることも、冒険を楽しむこともできずに、何もわからないまま死んでいく自分を想像して、体から力が抜けていく。こんなことなら、空に飛びださなければよかったと、今更後悔をしても意味がなかった。
ドーミラーが近づくのを視界で確認しながら、口が小さく、無意識に動いた。
――助けて。
瞬きをする刹那の時間、ドーミラーが一匹、雷に打たれて焼け焦げた。金属が溶ける異臭と。耳をつんざく音がして、首を動かす。誰が何をしたのか分からないまま、二匹目のドーミラーが真っ二つに切断される。不思議な桃色のポケモンが、巨大なテーブルナイフを振り回してドーミラーに肉迫したと思ったとき、三匹目も同じように切り刻まれた後に、電撃を受けて原形をとどめないほどになってしまった。
「大丈夫だった?オレンジ」声が聞こえて、オレンジは首を縦に振る。「それよりも、このポケモン達怪我してるよ、早く応急処置しないと」
「そんなこと言っても、医療器具とか持ってないし――」
レモンは首を揺らしながら、内心でため息をついた。(やれやれ、大変だから助けようなんて、なんというか、緊張感というか、危機感というか)そういうものが欠落していると思いながらも、レモンは火傷だらけのグレープとライチを見つめて、少しだけ目を細めた。
「……ライチさん?死んでる??」
「死んで、ない」呻き声を漏らしながら、ライチは朦朧とした意識をゆっくりと動かした。
「君はなんでここにいるんだ、冒険ならやめた方がいい、やけどするからね」
「火傷してるのはライチさんでしょ」レモンは鼻から息を漏らして、オレンジが持っているバッグを指差した。「食べ物あるけど食べる?食べる元気があるなら」
「もらうよ、結構……死にかけてるから、なんか食べて、回復したい」
オレンジは二匹の会話を聞きながら、何度も手の中で持っているバッグを握りなおした。レモンが笑いながらそんなことを話すところなど、見たこともないからこそ、オレンジにはライチというポケモンがうらやましく感じてしまうのかもしれない。
「いやいや、この島に生ってた変な木の実なんだけどさ、たぶんおいしいんじゃないかな?」
一口かじった瞬間にレモンがそんなことを言ったので、ライチは思わず口の中に広がった甘酸っぱい果汁ごと、レモンに吹きかけるところだった。見たことのないものを持っていると思ったとたんに、レモンを睨みつける。
「そんなに怖い顔しないで」レモンはことさらのように笑う。「そんな顔にさせたのはどこの誰だか……」レモンは他人事のように笑う。実際他人事だったからこそ、ライチを実験台のように扱ったかのような気分もして、ライチはやりきれないものを感じた。
レモンは「特別」という言葉をあまり使わない。誰でも「特別」というわけではないと考えているのかそれとも――なんにせよ、誰に対してもつっけんどんな態度で、上澄みでも滓でもない思考の中にレモンはいる、絶対的な中立、圧倒的な孤高。
言葉にしてみるといかにも陳腐で安っぽい言葉だが、レモンはそれを身の中に押し込めている。両親が早いうちに他界して、身寄りがないまま自分自身を叱咤激励して、ドブネズミの様に生き延びてきた彼はまさに、餓狼の心を持っている。利用できるものは利用する、損得勘定はだれよりも鋭い、そして、他人とは常に一定の間をもって接している。
だが、ライチにはそれがレモンの「特別」に見える気がしてならなかった。絵にかいたような自立した少年、決して斜に構えているわけでも、背伸びをしているわけでもなく、ただ日々を生きていただけのただのピカチュウ。本人はそれが普通だと思っているからこそ、周りはレモンに対して不思議な感情を気抱くのだろう。グレープの様に他人と強調しようというタイプではないが、人望はあるように見えた。やりたいようにふるまってはいるが、別段嫌われているわけでもない、それは周りから愛されているという確たる証拠だった。それでいて、レモン自身は自分を特別だと思っていない。一度だけ、ライチはレモンにたいして「特別」の意味が何なのかを問いただしてみたいと思ったときがあった。レモンを見ていると、いわれのない軽蔑のようなものをさされているような気分になった。それは被害妄想かもしれないが、ライチにはレモンが「特別」な気がして、少しだけ羨ましいと同時に、妬ましいという感情も芽生えているのだろうと自覚していた。
(彼を見ていると、本当に「特別」じゃないんじゃないかって思えるな)
口に入れてしまった不思議な木の実をかみ砕きながら、傷がふさがるのを感じる。どうやらあたりのようで、やれやれと胸をなでおろした。
「知り合い……なんですか」
自分の体を“じこさいせい”で治療しながら、グレープは首を傾げる。
「まぁね、特に接点ないけど、一応お知り合いってやつさ」
ライチはレモンの様になりたくても、たぶんなれないんだろうと思いながら、口の中に齧りかけた木の実を放り込んだ。


-3


 空が光った。雷が横をすぎていった。間抜けな表現だった。そう自虐しながら、夜明けの光る空に目を瞑り、念力で浮かび上がる体を抑えながら、アップルはメロンの体にしがみ付く。
「怖い?」
「結構……高いところも怖いけど、あんな雷が横切るなんて……どうなってるんだろう」
 メロンは不自然な雷の軌跡を目で追いながら、身を震わせるアップルの方へと視線を移し、笑う。
「寒いね」
「空だからね」
 寒さを凌ぎたいから、もしかしたら火を放つかもしれないと思いながらも、アップルはぶるるともう一度身震いする。寒さではなく、そんなことを考えてしまった自分の心が、どこか間違っている言葉を発してしまったような、そんな気分だった。口に出してはいないはずなのに、メロンは唐突に語り出す。
「最初にものに火を付けた人は誰だとおもう?」
「さあ?」
「始祖だよ」メロンは何か含みのあるものいいで、美しくまかれた前の毛を燻らした。幼さを残す顔立ちの中に、なぜかそれは妖艶さを秘めていた。「なーんにも関係ない。ポケモンとは違う存在。楽園に住んでいた最初の人。その人がおもむろに火を作って、放ったんだってさ」
「そういうのは、火を付けたんじゃなくて、放火って言うんじゃない?」
「始祖は私達に対して、何を望んでこんな風に生命組織を組み替えたのかな」彼女の心持はわからなかったが。好んで話題をそらす彼女の癖は、よくわかっていた。「原人……言い換えれば始祖の次の存在かな?わかんないけど、ポケモンと始祖の中間くらい。でも中間でも、何百年も前の存在なんだ……そんな存在は私達とは遠く離れた存在。つまり私達は始祖や原人から見れば、まだまだ「新世代」っていう見解が強いかもしれないよ」
「三億年以上生き続けた害虫は。「ベテラン」って言う見解かもね」
「そうだね、畑を食い荒らす害虫を見かけたら、それはベテランと呼ぶにふさわしいかもしれないね」
 しばらく上昇しながらそんな雑談を交わしていたが、びゅるりと吹きつける冷風が二人の顔を殴りつけるのをきっかけに「本当に島には着くのだろうか」とアップルは囁く。
「着くよ。念力の力は私が一番よく知ってるもの」
 彼女の声は、どこか得意げだった。
「このまま浮上していけば必ず付く、空についたら進路方向を変えれば大丈夫。ものを浮かす力、曲げる力、相手に危害を加える念導力。波導とは似て非なる存在かもしれないね」
「さっきの話の続き?」
「そういうわけじゃないけど」アップルの言葉に、メロンは苦笑する。「確かに不思議だね、生体組織は始祖が組み替えていろいろな生命体にしたんだもの。それがこんな風に変わるなんて面白い。私は念力が使える。アップルは何かに化けることができる。私は狐で、貴方も狐。種族柄は同じだと思うけど、どうしてここまで力が違うのかな」
「異種族と一括りで括ってしまえば、特に問題がないように思えるのは僕だけかな?」
「確かにそうかもしれないけれど、種族柄違ったとしても、もとを辿れば生体組織のルーツは、原人から個体生命って言う存在に括られるんじゃないかな」
 それはごもっともと返しながら、アップルは頭に刺さる棘のような痛みを感じていた。強い強い何かに、こちらから向かっている。そう思わせることが、彼の頭痛をまた促進させた。
「近づいてる。あの浮島に近づいてる」
「君の記憶の手掛かり、何かがあるんだろうね」
 体に巻きつけたポシェットに持ってきた水や食料は多少しかないが、それなりの重量があり、持っているアップルを苛めていた。「重いけど、これなくなったらどうしよう」
「すぐ無くなりそうだけど、ないよりましじゃない」
「焼け石に水だね」
「気休めだよ」
「気休めねェ」食料が詰まったポシェットを持って掲げてみた。無力の象徴に思え、やるせない息を吐く。
 昔のことを思い出した。それはメロンが初めて気休めという言葉を使ったことだった。
 彼女が「気休め」という言葉を使ったときに、なんだそれはという感覚が大きく。その後に行った行動が、何となく理解に至るまでわかりやすく、絵にかいたような例えだった。ちょうど行動や生活習慣にも慣れたときに、料理を初めて作ろうと試行錯誤を重ねていたら。アップルは謝って火の粉を家の床に飛ばして、火事になったことがあった。初めて見る惨状に、呆然と立ち尽くしていたところ、メロンが川の水を汲んできて思い切りかけた。しかし結局火の勢いが強く、あまりにも意味のない行動に見えたが、そのおかげで逃げ道だけは確保することができた。その時家は全部焼けてしまったが、燃え広がることもなく家だけが燃えた。それはもともと彼女が家事を警戒して周りの草を刈っていたからだろう。しかし結果的に言えば。その警戒がこのような事態を回避することができたのだと。アップルはおぼろげながらもそう思っていた。
 メロンは水を持ってくる際に、気休めだけど逃げ道は作れる。そういった。メロンからしてみれば、一度燃えてしまったらもうその時点で、燃え広がることは確定していたのかもしれない。ただの火の粉が飛んだ時にそこまで燃えるとは思っていないこと。初めてで動揺していたアップルの事を考えてこその「気休め」だったのかもしれない。
――気休めでもないよりまし。気休めを馬鹿にする人ほど、眉間に皺が寄るものなんだよ。
 そう言っていたような記憶もあった。それが彼女の信条だったのか、何をするにしても、必ず何かしらの「気休め」を用意していた。それがほとんど徒労に終わることもあれば、有効な道を切り開くときもあった。思えばその時から、彼女は何かに対して何かの対策を用意している。周りに気を使う性格だということが分かっていたのかも知れないなと、アップルは少しだけ口の端を吊り上げて笑う。
「気休めが外れることを願いながら、このポシェットの中身を食べちゃうって言うのは?」
「食べたら、気休めの意味がないじゃない」
「おなかへったんだ。寒いし」
 そう言ってポシェットの中身を弄り、林檎を取り出し齧ろうとすると、この時だけメロンは真剣な口調になった。「お願い、やめて」と手を伸ばし、制止する。窘めるというよりも叱責し、その行為自体をやめるような懇願だった。
「お願いだから、やめてください」
 刺すように言われて、アップルは林檎をしぶしぶとしまう。軽くなったポシェットの重さが戻り、再び腰回りを苛める。
「林檎を齧ろうとしただけなのに、君は大げさだよ。メロン」
「止めなかったら、君は死んでいたかもしれないから」
「林檎を齧ったら死ぬんだ」
「昔からアップルはよく果物を食べて当たってたから、死にそうな目にあってるし」
「おなかを壊しただけなのに、なんて大袈裟な、周りを見すぎて思考が馬鹿になっちゃってるんじゃないの?」
「それはないから大丈夫だよ」
 メロンは笑いながら進路を動かす、浮上する体に吹きつける冷風がとうとう氷を纏い始めた。その時に雲の切れ目から、それは悠然と顔を出した。その存在が、永遠の夜明けを頑なに守り続ける守護像の様な物に映り、遮られた太陽が山の端から顔を覗かせることをよしとしないような存在に思えた。
「雲を抜けると、きっと空の大地だ」
「何があるのかわからないから、気を引き締めよう」
 あまり雲の間に突っ込まないように、体を操作しながらメロンは少し乱れた息を整える。念力の力が弱まりつつあるということを自覚しながらも、せめて安全着陸だけはしたいものだと思いながら、雲の切れ目を縫うように進み、抜けた先にある深々とした濃い緑を視界に移した。
「何あれ」
 先に声を上げたのはアップルだった。
「こっちに気づいたっぽいね」メロンは何か嫌な予感がして、少し警戒するように動きをゆったりとさせた。遠くから四つの塊が見える、黄色、赤に近しい橙、茶色に桃色。四つの色を象徴とさせた塊は、アップル達を見て何かを指さし、頷き合うと――黄色が電撃を飛ばす。
 すんでのところでそれを右に避けると、次々といろいろな光線が飛んでくる。光線を必死になって避けながら、メロンは荒く呼吸をする。
「な――なんで、こっちに攻撃っ!!」
「そんなの知るもんか」アップルは敵意を向ける攻撃が威嚇でも何でもなくこちらを上陸させないための妨害だと瞬時に理解し、唇を噛んだ「メロンの力を借りよう、多少強引にでも上陸しないと、君が死んでしまう」
 アップルはメロンの背中を思い切り踏みつけて跳躍すると、空中で数回回転する、姿をカモフラージュしたその姿に遠目からの動揺を視認すると、口から思い切り炎を噴き出す。見かけ騙しの炎に四匹は驚愕したように散り散りになり、そのまま勢いを殺すことなく土と緑の臭いがする空の大地に身を叩きつける。強く胸部を圧迫されたがそんな事を気にすることもなく周りに炎を吹きつける。近づこうにも近付けない状況で、四匹のポケモンは動揺したまま声を上げる。
「レモン!!駄目だ、この炎じゃ近付けない」
「こっちの人数を分かってるから、すごい量だ」
「はいったら一瞬で黒こげです。このままじゃじり貧ですよ」
「そんなこと言われても、このまま炎に押されて空中に放り出されるってことだけは嫌だけど」
(せいぜい見かけ騙しの炎に考えを張り巡らせるんだね)
 四者の声を聞きながら、アップルは視線を上空に移す。メロンはゆっくりとアップルの隣に身を置くと、疲弊した顔をアップルに向け、微笑んだ。
「ごめんね、やっぱり私は足手まといだったかも」
「大丈夫。君がいなかったら僕はここにこれなかった。後は僕に任せろ、メロン」
 島の偵察か兵士の様なものか、それともただの強盗か、どちらにしろ、攻撃を受けた以上こちらも応戦しないわけにはいかないと、ぐったりと横たわるメロンを見て、アップルは強く眉間に皺を寄せる。
(何もわからないまま、やられてたまるもんか)
 強い頭痛はいまだに脳に鳴り響く、やはりここには何かがあると確信しながら、アップルは強く強く幻の炎を吹き上げるのだった。
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[[寄生植物メガトロン]]につづく
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- 火傷だらけのオレンジとライチ→グレープとライチでは?途中からオレンジとグレープがごっちゃですよ。間違いだったらすみません。
レモン→ピカチュウ
オレンジ→ミュウ
ライチ→ヒトカゲ
グレープ→イーブイ(エーフィ?)
アップル→ゾロア
メロン→ロコン
ですよね?みんな可愛い!!続きも楽しみにしてます!
―― &new{2011-05-11 (水) 01:45:34};
- >――さん
いきなりお見苦しい誤字を見せて申し訳ありませんでした。名前がややこしいのでやっぱりちょっと混濁しちゃいますね、これは私の失態です、申し訳ありませんでした、猛省いたしますorzだから許してくれとは言いませんけど誤字脱字の報告やら間違い夜らはまた見ていただければ嬉しいなーって思います;;すみません、自分でも見てはいるんですけどどうしてもそういう微妙なミスに目がいかないというかなんというか(ry
とにかく申し訳ありませんでした;;精進いたします。
ええと、その通りです、名前はそれで合っております。名前の由来はまぁご察しの通り、私はそういう名前を付ける癖とか傾向とか、そういう名前しか思い浮かばないというか、要するに[[ネーミング>リング]][[センスが>ウルラ]][[光っている>SKYLINE]][[方々>カゲフミ]][[とは>&fervor]][[レベルが>空蝉]][[違いますので>アカガラス]]それならいっそのこと、みんなが親しみやすい名前を付けようぜ、見たいな感じで楽しくわかりやすく可愛らしい名前ということで妥協いたしました。もちろんセンスの光る皆さんというのは私の個人的にほんとに光っている方々です、いやなんかもうほんとに光ってますいろんな意味で、参考にしたいけどうますぎて参考にならないというやつです。できるなら偉大な人たちのようにすばらしいネーミングセンスで、楽しい小説を書きたいですが、個々で楽しさというのは違いますので私は私なりに頑張っていければいいなーと思いながらやっていきたいです。
>みんな可愛い
激 し く 同 意
私はちびっこが好きです。可愛いだけじゃなくて、年不相応に背伸びをしてみたり、いやな現実を見ていたり、だけど子供らしいところは子供らしく、おいしいものを食べて笑ったり、みんなと集まって騒いだり、そういう所を書けたらいいなーとか思ってます。でもなんででしょうね、一匹がすごく現実主義者だったり、あまり他人のことを考えないポケモンがいたり、豪放磊落で人をひっかきまわしたり、私の子供ってそんなのばっかりですね。子供っていうか自分勝手な人っていうイメージが定着しちゃいそうですねwまぁそれも愛嬌ということで流せばいいかなー(ry
続きでいろんなことがわかるかもしれませんわからないかもしれません、うーん、わからん、書いてる本人も指の動きがどうなってるのか分かりません、これはいったいどういうことなんだってばよ。とりあえず今回はレモンェ……なお話でしたが、結果オーライ、当たって砕けてみたり、いろんなことを試してみたりするのも子供らしさということで(汗)
楽しんでいただけたら幸いです、そして見苦しい誤字申し訳ありませんでしたorz
コメントありがとうございましたorz
――[[ウロ]] &new{2011-05-11 (水) 13:22:27};

#comment

IP:180.11.127.121 TIME:"2012-11-23 (金) 16:50:32" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%A7%E5%A4%A9%E7%A9%BA%E7%A9%BA%E5%9F%9F%E7%AA%81%E7%A0%B4" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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