#include(第十回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle) ---- 元々うちの主人は小さなころか気が小さいせいか、悪夢によく苛まれていた。”らしい。” 悪夢も何もあるか、というほど幼い時にそれでもはっきり責められてるからと言って医者に勧められた対症療法こそ、”夢を喰う”というポケモン的解決法だった。 「おはようございます。いい夢見られましたか?」ではなく、「こんばんは。今晩も悪夢がおひどいようで」が、主人との初めての会話だった当たりが、私と主人の関係性を端的に示していた。 そんな主人のところに宛がわれてから幾ばくかの時がたった。しばらくと言ってももう10年以上になる。スリープはスリーパーに、ガキは大人へと成長した。私は進化して主人は肉体的にも精神的にも成長した。一応。 (これで大丈夫かこいつ?) というのが一人と一匹で社会に放り出された最初の夜の感想だった。当然、その夜は「こんばんは。今日も悪夢がおひどいようで」と細くなった胴と足に似合わぬ長い鼻を鳴らしながら改めて自己紹介する羽目になった。 夢の例にもれず、主人は翌朝何一つ思い出すことなく歯を磨いて髭を剃り、ガムを噛んで出て行った。 ---- さて。 そんな生活が続いてしばらく。 そりゃあ、見守る方は飽きてくるし、見守られてる方はため込んだ悪夢の要素が増えてきて不安定になる。社会人ってのはこれだからいけない。 そんなときは出会った時を思い出して、夢の面倒を見る。 心配症で眠れないとか、眠りが浅くて疲れが取れないとかの次元ではない。 もっと現実的で効果的なポケモンの異能ならではの解決手段として、悪夢をなんとかしてほしいという期待感で、悪い夢を食べると噂のスリープを宛がわれたのだ。 配属された以上は悪夢を喰う。 ひたすら喰う。 そうするべきだと教育されてきたし認識している。 人間の見る夢は多彩だ。本人が経験しているありとあらゆることを組み合わせて責めてくる。技巧派の悪夢は敢えて本人が経験していないことをネタに揺さぶってくる。 しかし、いや、だからこそ。 夢を食べたら、胃がもたれるようになった。 「……駄目でしょ、コレ」 夢には物理的なカロリーはない。いくら食べても栄養になるわけがないし体重も増えない。 ただ精神的なカロリーはとても高い。 元々夢を喰うポケモンはそっち方面でアドバンテージを得るために分化してきたのだ。衣食が足らずとも礼節を知っているからそのうち衣食にありつけるという方面に勢力を伸ばしてきた。らしい。 「いや、重いわ」 ところが最近の人間の悪夢は想像以上に重い。子供の頃は幼稚な悩みと不安でかわいらしいとバクバク喰えた夢が今では大人になりより重く、湿っぽいものに変貌した。 スリーパーなのに腹がスリープのように出てきてしまう。 栄養は足りてないのに腹が重い。満腹感が勝って食べなくてはいけないものも食べられなくなる。 ゆめくいダイエットと宣伝すれば一部の雌にはバズるかもしれない。 とまあ言ってばかりはいられない。何か策を考えなくては。 それはすぐに思い浮かんだ。今日の自分は冴えていた。 一呼吸 一拍 コペルニクス的発想 鬼才のそれ つまり 悪い夢なんかエッチな淫夢にかえちゃえ!!!!!! と、まあ、そんな思考回路になるほどボケていたとも言える。 ---- 思い立ってからの行動は早かった。 唸る主人が夢を見ているということは浅い眠りの中にいるということだが、悪夢は醒めないようになっている。いざという時には催眠術でまた眠らせればいい。 寝間着ってのは楽でいい。よく伸びて脱がしやすい素材でできてる。 腰を持ち上げなくてもスリーパーの手で引っ張ればずるりと下がる。エスパーで脱がせばいいじゃないって、それはなんかちょっと違う。 人間の雄の下着事情はよく知らないが、このスリットの下に性器があるはず。多分。ポケモンならそうなる。 ビンゴ。広げて中を探れば密集して生えた毛に埋もれた芋虫のようなそれがでろんと転がっていた。 むにむにふにゃふにゃと、明らかに悪夢で委縮しているそれを、まずは臨戦態勢にしなくてはならない。 手で弄ればいいんだろうか。握ってみたり、しごいてみたり。あと皮被ってるから剝いてみたり戻してみたり。 主人の性器の反応は鈍かったが、主人本体の方の反応はやや変わってきた。 苦しみが和らいできて、見ている夢の内容の変わりように困惑している感じだ。ただし内容は淫夢ではなく本当に何が起きてるのかわからない夢である。 これを充実した夢に持っていくのがスリーパーの役目。 と、いうわけで、ぎこちない手つきながらも一応興奮はしているらしい。夢の場面が息苦しいだけの職場から、主人の良い思いをしてきた空間に移った。夢に見られるのは多少なりとも情報があるか、情報から組み立てられる空間までと言うことなので、まあそういうことなのだろう。 夢は本人に自覚のあるなしに関わらず、実際に出会ったことから導かれる異常事態しか起こりえない。 会ったことのない人の声は誰か聞いたことのある別の声に置き換わるし、扉を開けて辿り着く雪国の寒さはいつかきっと体験したものだ。 つまり、夢の主は手で性器を弄ばれた経験があるということ。下腹部が熱くなりその時の経験が夢に生きているのだろう。どんな淫らな夢になっているのやら。 ぶびゅっ 人間の出るタイミングは分からない。分からないから、膨らんできたと思ったら思い切り飛ばされた。 それはもう顔中精子まみれになるように。まんべんなく。高い鼻の先端から覆うように。 顔を洗って戻ってくると、主人は深い眠りへと落ちていた。やはり射精は安眠に効果があったようだ。 ---- 今日は久しぶりに悪夢が重い。 人間はこれまで経験してきたすべてのうち、無意識に覚えている一番苦しかった時間を編集して再生するように夢を見るという。 とっくに就職したはずの主人が大学時代に一番苦しんだ単位の教室で受験勉強をさせられている。隣の席には小中学校の時の嫌な奴が座っていてちょっかいをかけ、前の席は昔付き合っていたけど向こうから降られて関係の悪い元カノが不機嫌そうに座っている。 やらされてるのはたまたまその年から担当が変わり超難関講義となった第二外国語の期中考査だ。細部まではっきりと再現されているだけあって相当なトラウマになっていると見える。 これは一刻も早く抜け出させてあげなくてはならない。 手では間に合いそうもない。 ……口でしてみようか。 今度も自分は冴えていた。ポケモンは体温は低いが口の中は温かい。 自分の鼻が下腹部に刺さらない程度には、主人のモノは立派だった。 先っぽの割れ目を掘るように舐め、覆い暖め、もてる技術で奉仕する。これでも人間以外のものなら何本、何種類か頬張ったことはある。経験値は高い。 息使いが変わり、また別の種類の唸り声に変わった。つまり見ている夢も変わったということだ。ちょっと主人の夢を覗いてみたら、場所はガラッと変わっておもちゃを使っていた。 主人は口でされる経験は少ないらしい。とはいえ主人の経験まで口を出すべきではない。 ただし、経験に口を出さない代わりに、目の前にあるそれに口は出させてもらおう。 勃ってる肉棒くんを口に含んでジュッポジュッポするという、いつか寝たユンゲラーが白目剥いた隠れた特技だ。 「んぶッ」 ポケモンでも白目剥くのだ。人間なら楽勝。 初めて味わう、精液、別種の精液、本気汁。吐き出すより先に、おいしい、と感じてしまった。もう戻れない。 ---- 所変わって。 最近は”悪夢には”悩むことがめっきりなくなった主人が久々に友人に会ってお茶をしている。 元々は手持ちポケモンが夢を扱うつながりで仲良くなった旧友だ。信頼関係深く付き合いも長い。当然、私と相手のムシャーナもだ。もっとも初対面の時は互いにスリープとムンナだった。 ランチと間食の時間のどっちともつかぬ時間だからと、バターの効いたデニッシュ生地にアイスクリームを乗せた甘いものとトマトと魚介の具材の取り合わせが美味いイタリアンの食事を両方頼んだ主人を、目を点にしてご友人が見つめていた。 「……なんか、体調めっちゃよくなった?」 聞きたがってはいたようだが、実際に物が来るまで飲み物とサービスの豆菓子で他愛もない話をつないでいた彼は、ついに目の前にスイーツとパスタの暴力的な糖分の塊が鎮座するに至ってついに我慢が出来なくなった。 「分かる? 最近寝覚めが良すぎてさ」 「いや、食欲の割にやつれているような……」 心配しているのと引いているのが同居するご友人。いい人だ、と、私も思う。 ご主人もこの人を夢に見れば私抜きでも安らかに眠れただろうに。 「あんた、やるね」 「なんのことざんしょ」 ムシャーナはまあさすがと言ったところ。クリームソーダを吸引しながら私を人間には分からない言葉でイジるのだろう。 うらやましいなら自分もやってみろってんだ、ばーか。