ポケモン小説wiki
夏の嵐がやってくる! 前編 の変更点


writer is [[双牙連刃]]

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「これは確か、タウリンにキトサン、後はインドメタシン……だっけ?」
「ま、その3つは当たりだ。どれがどの能力を高めるのかは理解してるのか?」
「確かタウリンが攻撃、インドメタシンが素早さだろ? キトサンが……特功だ!」
「確かタウリンが攻撃、インドメタシンが素早さだろ? キトサンが……特攻だ!」
「はい外れ、キトサンが上げるのは特防な」

 ったく、なんで暇だからってハヤトの奴の宿題を俺が見てやらにゃならんのだ。メンドくせぇったらありゃしねぇっての。
大体こいつも、ポケモンである俺にトレーナーの知識を聞くってどういう事だっての。そりゃあ知ってるけど、ちったぁ恥を考えてもらいたいもんだがな。
ま、暇だし別にいいんだけどな。今日はフロストもリィも装備してないし、皆揃って庭で模擬戦してるからな。監督はレオに丸投げした。

「むぬぅ、アイテム知識は結構自信あるんだけどなー」
「間違えたのは精進が足らん証拠だ。と言っても、効能はアイテムのパッケージに書かれてるだろうし、使用用途さえ押さえておけばそう心配する事は無いがな」
「なるほど……っと? なんだ、今のが最後だ」
「そうなのか? ……へぇ、本当に問題集が終わってる。やるじゃねぇか」
「ただダラダラやってるんじゃなくて、ライトの手厳しい質問を受けながらかな? 退屈せずにやってたな」
「こういうのは退屈になるのが一番のネックだし、あながち間違ってねぇかもしれねぇな。終わったんなら、これ以上手伝う必要も無いな?」
「えー? そうだけどさぁ、こう、相互理解を深めるタイムとかに入らない?」
「野郎とそんな事して何が楽しいんだよ。暇なら庭の連中と相互理解を深めやがれ」

 とまぁこんな感じに、夏休み中にこいつと話す時間は目に見えて増えた。話す程度なら、俺も付き合ってやってもいいかなーと思ってな。無論依然としてこいつのポケモンになってやる気は無いが。

「ご主人、集中力を促進するハーブティー淹れてみましたよー……って、宿題終わったんですか?」
「お、リーフサンキュー。いやさ、なんかライトとやってると捗っちゃって」
「ほぇー、ご主人にもライトさんマジック発動ですか。いつもの夏休みなんて、殆ど手付かずでラスト一週間を迎える事になってましたよね」
「ちょちょ、リーフ言う事ないじゃん! そ、そりゃあヤバくなって皆に手伝ってもらってたのは悪かったけど」
「お前ねぇ……本当、この家の面々が手持ちに居るから成り立つ生活してたんだな」
「おぅー、呆れないでくれよぅ。最近は皆に感謝してるんだからぁ」
「急にオネェみたいな喋り方になんな。キモイ」

 とかなんとか言いつつ、リーフが淹れてくれたお茶で寛ぐ時間に突入した。こういうハーブティー淹れるのは、リーフが頭一つ抜きん出て上手いな。良い香りだ。
これを自家栽培してる辺り、リーフの植物系の知識は相当だよなぁ。その点は俺も素直にスゲェと思ってる。ハーブの事は詳しくまでは俺も知らん、木の実とかの事なら聞かれりゃすぐに答えられるが。
この家に来てから、今まで触れる機会の無かった知識に触れる事も増えて、俺もまだまだだなと改めて思ったぜ。料理やハーブ然り、まだまだ世界は広いもんだねぇ。
うん、すっきりとした良い味だ。集中力が増すってコンセプトなら、これも当たりの味なんだろうな。
……ん? なんだ、電話が鳴り始めたぞ? この家の電話が鳴るのは、実際そう多くないんだよ。ハヤトの奴が携帯電話を持ってるのもあって、家の電話が鳴るのは奴がこの家に電話を掛けた時くらいなもんなんだよ。

「あっれ、家電? 俺がここに居るのに?」
「確かにですね。誰でしょう?」
「出てみりゃ分かるだろ」
「仰る通りだな。誰だか知らんが今出ますよーっと」

 空になったカップを置いて、ハヤトが受話器を取りに行った。それを眺めつつ、俺はリーフにお茶をもう一杯注いで貰ってる。

「はーい、もしも……うぇへぇぇぇい!?」
「ほぁ!? な、なんだぁ?」
「ご主人が電話であんな反応をする……? あ、まさか!?」
「リーフ、心当たりでもあるのか?」
「まだ候補が二つあるんで正確には言い切れませんけど、どっちだとしても……ライトさんとリィちゃんには少しの間、この家から撤退していてもらった方がいいかもしれません」

 え、何それどういう事? いや、俺は別にいいけど、なんでリィまで?

「待て待て待て、もうすぐアキヨってどういう事だよ!? 帰ってくるなら連絡してくるのが……驚かせようと思って!? もう十分驚いたわ! ま、待て! ……うぁぁぁぁ……切られた……」
「ご主人……どっち、ですか?」
「……リーフ、緊急事態警報発令。この家にこれから、この夏最大級の嵐が来る」
「あぁ、カランさんですか……了解、庭の皆にも伝えてきます」
「カラン? 誰だそりゃ?」

 うぉぉ、俺が声を出したら、ハヤトの奴が驚愕した顔をしてこっちを見てきた。どうやら、リーフが言った事は何かしら意味があるみたいだな。

「ま、不味いですの事よ……ふぁぁ!? しまった、リィもだ!」
「なんかリーフも言ってたが、とりあえず説明しやがれ」
「うん、なんと言うかね? 事実だけをまず言うと、これから遠くの学校へ留学してた俺の妹が帰ってくるんだよ」

 へぇ、こいつに妹なんて居たのか。それが帰ってくるって言うのは今ので分かったが、それがなんで大騒ぎになるんだ?

「で、うちの妹……ちょっとって言うか、大分ポケモンが好きでね? ポケモン大好きクラブの会員にはもちろんなってるし、将来ある物になりたいからって、わざわざ遠くの学校に行ってるんだよ」
「なんだよ、ポケモン好きなのになりたいもんはトレーナーじゃないのか?」
「うん……本人曰く『あたしはポケモンを守るんだー!』との事で、ポケモンレンジャーっていうのになる為に、レンジャースクールって言うのに通っててね」

 ……ポケモンレンジャーね……。そいつは、ちょっとばかし意外なところで名を聞く事になったな。
とは言え、どうやらまだスクール生のようだし、俺の存在は知らないだろう。知ってたとしたら……潮時が来た、って事なんだろうな。

「って……どったのライト、急に怖い顔して?」
「ん? あぁいや、ちょっとポケモンレンジャーってのに良い思い出が無くてな。でも大した事じゃねぇんだ、続けてくれ」
「そ、そう? まぁでもそれで俺の妹、カランはレンジャーを目指してるんだけどさ」
「おう」
「……大のブイズ好きでね、この家に帰ってくる度にフロストをあたしに頂戴ってねだってくるぐらいなんだよ」

 ふーん……ん? いやちょっと待て、それって不味くないか? だって、今こいつの手持ちにはフロストだけじゃない、エーフィ兼イーブイのリィも居るんだぞ?
フロストまで自分のポケモンにしようとするような奴がそんな事実を知ったら……いやしかも、更に俺の存在を知ったらどうなるかなんて、火を見るより明らかじゃねぇか!

「もしカランにリィやライトの存在が知れたら……」
「お前を倒してでも自分のポケモンにしようとする、とか?」
「まず、そうなるだろうなぁ……正直、カランはことポケモンに関する事はどんな事でも優秀なんだよ。学校ではエリートコースとかいうのに通ってるみたいだし、カランの手持ちのポケモンめっちゃ強いんだよ……」
「おいおい……」
「勝負になったら、俺も絶対に勝てるとは言い切れない。今まではフロストしか居なかったし、カランも一匹ブイズを連れてるからダメだって言ったら引き下がってたけど、こっちにブイズが三匹も居るとなると……最悪は全部寄越せ、最低でも所持数が揃う一匹は譲らせるまで引っ込まないだろうな」

 うっわぁめんどくせぇ。なるほど、それでこの家から撤退しなきゃならないってリーフが言ったのか。ようやく繋がったぜ。
それが分かれば十分だ。ようは俺とリィがこの家に居なきゃいいんだろ? だったら話は簡単だ。

「やれやれ……それは、俺とリィがこの家に居た場合だろ? だったらその状況を作らなきゃいいだけだろ」
「と、言いますと?」
「幸い、この町の近くに野良の俺の知り合いが居る。そいつ等の事をリィも知ってるし、そのカランとかいう奴がこの家に居る間、そっちに身を寄せてればいいだろ」
「おぉぉぉ、流石ライト、そういうポケ脈も広い! ならそうしてくれ、カランに連れて行かれるよりずっと良い」
「オーライ。で? そいつが来るまでの時間と、どの位の期間ここに居るかは予測出来るか?」
「電話ではもうアキヨに着くって言ってたから、あって後数十分ってとこだと思う。この家に居るのはカランの夏休みの期間次第だけど、十数日ってとこかな」

 ふむ、その辺が妥当な予想だろうな。俺とジルでバックアップすれば、リィもそれくらいの期間をあの林で過ごしても問題無いだろう。

「分かった、それくらい身を隠したらこっちに様子見に来るって感じのプランで良さそうだな。時間も無いし、俺とリィは早速出るわ」
「そうしてく……」
『わぁぁぁぁぁ! エーフィだー!』

 ……歓喜を含んだ叫び声が聞こえた後、言いかけて固まったハヤトの阿呆が脂汗を掻き始めた。どうやら、二重に騙されてたようだな。
どうなってるかを予想しつつ庭の方へ出てみると、大体予想通りの状況になってて俺は溜め息を禁じ得なかった。やれやれだぜ……。

「えっと……不審者って事で、この人は外に捨てていいのかな?」
「そうしたいお前の気持ちは分からないでもないが、待ってくれリィ。その方は、主殿の妹君に当たる方なんだ……」
「かーわいいー! しかも一瞬であたしを動けなくしちゃうなんて強いー! いいなぁいいなぁ」
「……おいアホ。あれか?」
「うん、あれです……本当にゴメンなさいライトさん、あの馬鹿がうちの妹です……」

 恐らくリィに飛びかかろうとして、そのままリィに捕縛されたであろう女が、無駄な抵抗なのにリィに向かってまだ手を伸ばしてた。はぁ……。
これで、さっき立てたプランは使えなくなったな。リィの存在を知られちまったし、これからジル達の所に身を寄せると確実にあいつ等にまで面倒を掛けちまう事になる。この執心ぶりからして、逃げても追ってくるだろうな。

「ん? あー! サンダースも居るー! くぉぉぉ、動け、動くんだあたしの体!」
「リィ、済まないけどもうしばらくそのまま動けなくしておいてくれ」
「それはまぁ、問題無いけど」
「あ、兄さん! なんでエーフィとサンダース捕まえたって教えてくれないの!? もー、知ってたらもっと早く帰って来てたのにぃ!」
「そうなるだろうって分かってるから、教える訳無いだろ! って言うかお前、なんでもうここに居る! さっきアキヨに着くって電話切ったばっかりだろ!」
「だってそうでもしなきゃ兄さん変に警戒するでしょー? 多分、このエーフィとサンダースの事も隠しちゃってただろうしー」

 こっちが相手の事を理解してれば、向こうもこっちの事を理解してるって事ね。完全に後手に回って出し抜かれた形だな。
やれやれ……面倒事がいきなり降って沸いて、面倒な事になりそうだぜ……。

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 ようやくリィに抱きつこうとするのを止めさせて、現在はリビングのソファーで大人しく話が出来る状態になった。とは言え、まだ俺とリィ、どっちもロックオンしたままなのは視線から分かるがな。
とにかく出会っちまった以上、紹介から逃げる事も出来ない為にこうしてリビングで対面してる。薄らとリィの額の石が光ってるって事は、また何かあれば即時に力を使える状態にはしてるみたいだ。ま、当然と言えば当然か。

「えーっと、まずはこの二匹の紹介は一応するな。エーフィのリィと、サンダースのライトだ」
「リィ君とライト君ね。あたしはカラン、お兄ちゃんの妹でーす! よろしく!」
「よろしく、はいいけど……出来ればあまり僕に近付かないで」

 リィがガチ警戒モードに入ってるな。まぁ、いきなり襲い掛かられればこうなるわな。

「あ、あれ? えっと……人見知りする子?」
「じゃなくてもいきなり見知らぬ奴から襲われそうになったら誰でもこうなるだろ。お前が悪い」
「うっ……だ、大丈夫よリィ君~、あたしは怖くないから~」
「……二度言うつもりは無いよ」

 おぉ、リィも鋭い視線が出来るようになったもんだ。あんな冷ややかな睨みを効かされたら、そりゃあ誰でも怯むわな。

「に、兄さん~」
「俺の事まで騙して余計な事したお前の自爆だろ? 俺はリィに止めろって言うつもりは無いからな」
「じ、じゃあライト君、よろしく!」
「生憎俺も知らん奴と馴れ合うのは嫌いなんでね。スキンシップはご遠慮願うよ」
「あぅぅ……なんて言うか、兄さんの連れてる皆とは随分違う感じの子達だね……」
「寧ろお前がポケモンに対して馴れ馴れし過ぎるんだよ。俺だってこの二匹の事撫でた事も無いんだからな? ちょっとやそっとで触れると思わない事だな」

 えー? って言ってるし、強請るような視線をまだしてるって事は、こりゃ全然諦めてないな。しつこい奴は嫌いだぜ。

「と、とにかくお久しぶりですカランさん、どうやら元気そうですね。……相変わらず」
「あ、うん! あたしは元気元気! レオ君も皆もお久しぶり!」

 そう言った途端レオがカランって奴の腕の中に捕らえられた。挨拶=ハグなのかよこいつの中では……。
で、それをそれぞれのメンツにしていくと。そのままの勢いでまたリィを捉えようとするが、まぁ無理だな。懲りろよ。

「むぅぅ、あたしに対してこんなにガードが硬いポケモン、今まで居た事無いよ……ちょっと傷つくなぁ」
「そう。それは、世の中を知らないって事なんじゃない? どうかなライト?」
「リィの言い分が最もだな」

 泣き落としを仕掛けようとしてあっさりリィに返されて口をパクパクさせてらぁ。うん、リィが全部捌いてくれるから俺は楽だ。

「カラン止めとけって、今どう頑張ったって、この二匹をお前が懐柔させられる見込みはゼロだ」
「くっ、ファーストコンタクトであたしが完璧に失敗するなんて今まで無かったのにぃ」
「強引に抱きついてどんなポケモンでも落とせりゃ、世のトレーナーは簡単で仕方無いだろうな」

 俺の一言に悔しそうにしてるが、そんなのに一々構うつもりはねぇよ。
俺とリィ以外の面々はこのやり取りを見て絶賛苦笑い中だ。でも仕方無いっしょ? 嫌なもんは嫌なんだから。

「あの、カランさん、ここまで来て疲れてるだろうし、カランさんが連れてる皆の事も出してあげて、少し休んだらどうかな?」
「むぅー……まぁ、レンちゃんの言うとおりかな、そうしよっと。皆ー、出てきてー」

 ふぅ、上手い事レンが話を逸らしてくれて助かったぜ。何を言われても返せる自信はあるが、これ以上空気を悪くするのもアレだしな。
カランの奴が腰に付けたボールを投げる。数は六つ、手持ちはフルで居るみたいだな。
出てきたのは、ブースターにピジョット、それにカイリキー。……後の三匹はなんだ? 知らんポケモンだな。俺のデータに無いポケモンか、まぁ実力は中の上ってとこだろうけど。

「あれ、コロナとスカイとナックル……だっけ? その三匹は変わらないけど、後の三匹はなんだ?」
「ふっふーん、兄さんはイッシュやカロスのポケモンなんて知らないでしょー。研修で行った時に仲良くなったんだー」

 ふぅん、イッシュ地方とカロス地方か……行った事の無い地方のポケモンじゃあ姿を知らんくても納得だ。
俺が居た研究所で研究されてたのは、あくまでシンオウのポケモン+αに限られたものとポケモン関係の技術だったからな。他地方の知識は、俺が歩いて見聞きした情報しか持ち合わせてねぇんだよなぁ。

「レパルダスのシェイドとクルマユのミーノちゃん! そっしてー、ゲッコウガのシノビ君って言うの!」
「おぉー……ら、ライト先生? カランの手持ちの皆さんはその、先生から見てどうなん?」
「……イレギュラーが居るとすれば、あのシノビって奴だろうな。あれ以外は、なんのこたぁねぇ……この家のメンツの方が実力としては上だ。お前がそれを扱いきれればな」
「お、おぅ。んじゃああのシノビって言うのは?」

 ふぅむ……気配からの推測だが、恐らくレオクラスだな。向こうがこっちに気付いてるかは分からんが、あれにはちと油断出来んな。

「戦るなら気をつけろ。相手をさせるなら……レンかプラスにしとけ」
「何故そこをチョイス?」
「勘からのタイプ予想、かね?」

 あのレパルダスってのはノーマルか悪、クルマユってのは微妙だが……虫か草だろ。あのゲッコウガ、シノビとか言うのは見た目からしてカエル、恐らく水タイプだ。が、複合属性ってのも考えられるから、身軽なレンで様子見ってのもアリかなーって感じかねぇ?
って言うか、相手の戦力分析を俺にやらせんなっての。自分でやれ自分で。
因みに俺達のこの内密な話は、向こうが俺達に気付かずに家の面々と話をしてるから成立してる。じゃなかったらこんな事俺は言わん。

「なるほど……流石ライト先生」
「アホ。これくらい自分でやりやがれ」
「……おっと、まだ見知らぬ顔が居たんだった。そっちのサンダース君、俺がコロナだ。よろしく」
「ん? あぁ、ライトだ。一応よろしく」

 ふぅん、こいつが話に出てたカランの奴が連れてるブイズね。ブースター……実力はソウクラスかね? まぁ、フロストやリィにはちと見劣りするが、悪くはねぇんじゃねぇか?

「それにしても……君はなんだか他の皆より覇気が無いね? 体調でも悪いの?」
「俺に無いのは覇気じゃなくてやる気だよ。お宅の主人、どうも俺が苦手な人種のようでね」
「ふぅん? カランの事が苦手なんて言うポケモン、初めて見たよ。どんなポケモンでも、最初は驚かれても最終的には心を許しちゃうのがカランなんだけど」
「悪いが、そういうフレンドリーさを俺には求めんでくれよ。節度のある馴れ合いは嫌いじゃないが、ベタつくのはノーセンキューだ」

 そんなキョトンとした顔されても、それが俺って奴なんでね。どんな奴の前でも、それは変える気はねぇよ。

「流石ライト、迸るダンディズムだ」
「なんだそりゃ?」
「……ハヤトさん、なんだか変わったポケモンと知り合ったんだね? 気難しいというかなんというか」
「んー、気難しいって言うのともライトはちょっと違うかなぁ? 言うなれば……人生の先輩って感じ?」
「そうなら、随分出来の悪い後輩に出会っちまったもんだな」
「くぅぅ、手厳しい! でもそれが止められない!」

 なんで軽くMに目覚めた? ドン引きだよ。
ふむ、俺の方に来たのはこのコロナってブースターだけみたいだな。他の奴等は、それぞれに家の奴等と話をしてるみたいだ。カランはまたリィにちょっかい出して拘束されてるが。
ま、この分だとすぐにどうとかいう事は無さそうかね。何かあろうとも、俺でなんとか出来ない奴は居なさそうだがね。

 そのまましばし時間は過ぎて、カランが来てから2時間くらい経ったかね? 最初のざわついてた空気も徐々に落ち着いて来たかな。

「ま、まさかリィ君……じゃなくてリィちゃんが牝だなんて……」
「お、驚いた……姉さんとは雰囲気が違い過ぎて全然分からなかった」
「僕は別にどちらだと思われても気にしないけど」
「だからコロナ、あたしはあなたの姉じゃないって毎回言ってるでしょ? いい加減姉さんって呼ぶの卒業しなさいよ」
「えぇ? だって俺にとってはこの家での姉さんみたいなものだし、イーブイの頃からずっとそう呼んでるんだし……」

 とまぁ、リィも相槌を打つ程度にはカランへの警戒度を下げたみたいだ。別に、悪い奴って感じではないからな。抱きつかれるのは勘弁だが。
俺? 今はリィ達の様子を少し離れて見てるところさ。何処に行くにも面倒そうだから、誰にもちょっかい出されないような所に居るだけだ。

「ラ~イト。急に家の中が賑やかになって、落ち着かない?」
「ん? レンか。まぁ……あまり好む空気じゃねぇのは確かかな」
「やっぱり。私も少し落ち着かなくて……隣座ってていい?」
「あぁ、俺なんかの隣で良ければ」

 なんて言ってるが、レンは俺の事を気遣って隣に来たんだろうな。時間的に、昼飯の用意の前の一休みってところか。
ソファー回りのリィ達と俺達を除いた奴等は、 太陽光が燦々と降り注ぐ庭で遊んでおりますよ。ぶっちゃけ、プラスとソウが全員を連れて行ったってのが正解なんだがね。
だが、総数7匹のポケモンとハヤトの阿呆が全員庭に出ると流石に無理があるから、眺めてるだけの連中も居るがな。どっちにしろ元気な事だぜ。

「それにしても……大丈夫かな、リィちゃん。まだ相当カランさんの事警戒してるみたいだけど」
「隣にフロストも居るから、今は問題ねぇと思うぜ。あれがリィだけならちと不味いかもしれんが」
「本当にそうならないように、ライトはここに居るんだよね」
「まぁ、それが俺がここに居る理由の一つだからな」

 リィの傍に居てやる、か……今となっちゃあこじつけたような理由かもしれんがね。もう、あいつは色々な者に怯えてた頃みたいに一匹じゃない。周りに支えてくれる奴が居る。俺がわざわざ傍に居てやる事は、もう無いだろうさ。
それでもリィの事を俺が気にしちまってるのは、もう妙な癖みたいになっちまったんだろうな。師匠の面倒見の良さがちっと移っちまったかねぇ?

「でもそれも、もう必要無いかもしれんけどな。リィの心の強さ、あれは本物になりつつある。磨いていったら、どれだけになるか楽しみなところだ」
「た、ただ、今度はストッパーをライトに頼まないとならないかもしれないけど」
「……いい加減、ほんの少しでも隙を感じたら抱きつこうとするの、止めてくれません?」
「ぐっ、ぐぅ……こんな一瞬でサイコキネシス使えるエスパーのポケモン、今まで会った事無いわ……」
「カラン、流石に今回は強引過ぎない? 幾ら相手がエーフィでも」
「だってぇー」

 ……ある意味、ハヤトの阿呆よりアホだなこの妹。溜め息を禁じえないんだが。
しょうがねぇ、ここは一つ、軽めにジャブを効かせてやるとするか。あまり余計な手出しはしたくないんだけどな、レンジャーって人種には。

「カランさんよぉ、あんたがどれだけポケモンの事を好きか知らんが、今までのあんたの様子を見て、あんたの事を知らんポケモンがあんたの事を好きになると思うかい?」
「え、そ、それは……」
「断言して言うが、あんたのやり方は確実に躓く時が来るぜ。その時にもあんたは、そうやって嫌がるポケモンに強引に自分の我が儘を押し付けるのかい?」
「うっ……」

 俺の一言で固まったな。リィに目で合図して、拘束を解かせた。ん、そのまま大人しく座ったか。そこまでの馬鹿じゃあなかったみたいだな。

「流石、ライトの一言……」
「あんた、本当にずしっとくる事言うわねぇ」
「事実だろ? 腕の良いレンジャーってのは、まず第一に相対するポケモンの事を理解しようとする。自分の気持ちを伝えるだけでキャプチャしてるようじゃ、まだ三流だな」
「……驚いたな、レンジャーのポケモンじゃないのに、スタイラーの事知ってるんだ」
「ん!? あ、ま、まぁ、ちょっとレンジャーと一緒に行動した事も以前あってな!」

 嘘ばっかり。本当は、レンジャーと一悶着あった事があるんよ。……俺が起こした、研究所消去以外のある事件の後に、な。
レンジャーの商売道具であるスタイラーってのについては、また研究所データだがね。ポケモンへのプラスの意思を増幅して相手に伝えるサークル状のフィールドを張れる装置って感じで記録されてるが、まぁ大体そんな感じだったな。俺の守りの雷はそれも無効に出来たぜ。
っと、ポケモン側で話してるが、どうやらカランは俺に言われた事が予想以上に重かったようだ。反省してくれんなら構わんがね。

「ふぅん……やっぱり君、他のポケモンの皆に比べて、かなり違うタイプみたいだね。シノビなんかと気が合いそう」
「これと気が合う? それ、大丈夫なの? 皆に馴染めてる?」
「フロスト、お前ねぇ……俺をなんだと思ってやがんだ」
「ん? あんたはあんたでしょ?」

 普通なら喜ぶ一言なんだろうが、俺って言う異常体を指してるってのが分かるから微妙な反応になっちまうぜ。それを臆面も無しに言ってくるのは、逆に悪くないがな。

「……決めた!」
「うぉっ!? な、なんだ?」
「こうなったら、この家に居る間にライト君とリィちゃんに絶対に懐いてもらうもん! 私もレンジャーだし、警戒されてるポケモンにそのままって訳にはいかないわ!」

 うわ、変な焚き付けられ方しやがったよ。だからやなんだよ、こういうポジティブな馬鹿って。諦めるって事を知らん。
押してダメなら更に押せ、それでもダメなら押し倒せってか? 冗談じゃない。んな事に俺は付き合ってやらんからな。

「ら、ライトー……」
「はぁ……やれやれだぜ」
「あぁ、こうなったカランは大変だよ。諦めるか、徹底的に抗うかは……諦めた方が楽だよ?」
「「断る」よ」
「……姉さん、レンさん、この二匹って兄妹か何かなの?」
「じゃないんだけど……ねぇ?」
「なんていうか、心の真ん中が近いって言うのかな? どっちも自分の意見を曲げるタイプじゃないのは、確かかなぁ」

 妥協ってのは嫌いなんでね。どうであれ、俺はどの道人の言う事を素直に聞いてやる訳にはいかない事だし。
何をどう頑張るか知らないが、せいぜい余計な事をしないで、俺を困らせないで頂きたいもんだ。面倒だしな。

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 で? なんで俺とリィを懐かせるにはまず自分のポケモンにしよう! ってなるかね? どっか頭おかしいんじゃねぇか?

「だから兄さん! リィちゃんとライト君、私に育てさせて!」
「断る! リィもライトも大事なこの家のメンバーだ、それをほいほい妹とはいえ、違う奴に渡すか!」
「上手い返しだな、俺は奴のポケモンじゃないし」
「それがカランさんにバレたら、ライトさん相当不味いですよ? 絶対に捕まえるまでボール攻めですよあの様子だと」
「それなら楽なもんだ。相手の懐が素寒貧になるまで耐えるだけだからな」

 それよりも厄介なのが、俺の事をレンジャーベースに知らされる事だ。うぅ、考えたくねぇなぁ。
俺が何をやったかは……その、若気の至りというかなんというかな? と、とにかく、俺の存在が正規のレンジャーに知られると、まずエース級と一級の連中がわんさかやってくるだろうな。俺って言う……指名手配ランク最上級、SSSランクの極悪ポケモンを捕まえにな。
うぅ、思い出したくねぇなぁ。ガチでレンジャーの連中から追い掛け回されたヤバめの一ヶ月、あれはなんの拷問かと思ったぜ。逃げ切ってやったがな。

「じゃあどうすればいいの!? あ、ならこうしよ。次帰ってくるまで交換!」
「ダメだ! んな事言って、交換に応じたらお前絶対に帰ってこなくなるだろ!」
「そ、そんな事無いもーん」

 分り易過ぎるだろ、誰にでも見抜ける嘘だぞあれ。あぁ、ハヤトの奴もアレだと思ってたが、妹の方は輪をかけてアレだったか。
さて、こっからどう話が発展するかはなんとなく分かるが、どう対策するかね? あれに以降してくれるなら、まず間違い無く滑り止めは出来るんだが。

「な、なら、バトルしよう兄さん! もちろん、リィちゃんとライト君の育成権を賭けて!」
「なんでそうなる! そんな物賭ける気は無い!」
「トレーナーが、視線を合わせて申し込まれたバトルを断るんだー。なら、バトルは私の不戦勝ね」
「ぐ、ぬぅ……」
「はぁ、なんで相手のペースに飲まれるかねぇ? だらしないったらありゃしない。仕方ねぇなぁ……」
「……いいよ、バトルしようか。にんげ……じゃなくて、ハヤトさん。そのバトル、受けようよ」

 ふぉ? ま、まさかリィがそんな事を言うとは。っていうか、リィさん結構イラッと来てるね。若干寒気がするような表情してるし。

「ふぇ? いや、えぇ? いいのぉ? 本当に?」
「うん。そこまでに……んんっ、ハヤトさんに僕やライトの事で迷惑は掛けられないもん、受けていいよ。ただし……」
「ただし?」
「……あなたはこの勝負に、何を賭ける? 何を、負けた時の代償にする?」
「え……だ、代償って、やだなぁリィちゃん、そんな大げさな」
「僕とライトは、一時期とはいえ自分の生きる時間を賭けるんだよ。それに見合った物……代償を支払えないって言うなら、この勝負……僕はあなたの手持ちを叩き潰すつもりで戦うよ」

 や、やばい、リィがガチでキレてる。あのカランからの集中的な粘着+今のやり取りでぷっつんいってる。お、おい変な応対するなよ妹、マジでガチのリィと戦う事になるぞ。
どうやら向こうも今がどういう状況か理解出来たようだ。明らかに冷や汗掻き始めた。リィの様子に怯えてないのは、あのシノビって奴だけだな。

「あっ、そ、その……」
「さぁ、何を賭けるの? 勝負はもう、受けるって言ったんだよ?」
「ぇぅ……諦め、ます」
「何を?」
「リィちゃんとライト君を、その……私が育てるっていうの……」
「……そう、分かった。それじゃあハヤトさん、何時どんなルールで勝負するかっていうのは、任せるね」
「ひゃい! じゃなくて、ま、任せてくれ!」
「うん、よろしく」

 ……ふぅ、レンが言ってた事、あながち間違いじゃ無くなったみたいだな。リィを守るんじゃなく、俺の役目は……リィを止める事、か。
リィによって静まった部屋の中、その中を歩いて俺の傍まで来たリィを、廊下の方へ行くように促した。静かに頷いて、俺の後に続いたな。
レンやフロストが不安そうにこっちを見てるが、まぁ心配しなさんなって。俺がなんとかしとくからさ。
そっとリビングから出て、扉を閉める。リィは……俯いちまってるな。俺に怒られるとでも思ったんかな? ははっ、怒ったりしねぇったらさ。
リィの体を少し起こして、抱き寄せる。この体じゃ、ちと難しいが。

「え、あの……」
「少しこのまま、じっとしてな」

 ちょっと戸惑ったようだけど、少ししてリィの首が俺にもたれ掛かってくるように動いた。うん、それでいい。こういう時必要なのは、叱る事じゃない。冷静さを取り戻してやる事だ。
うん、少し早くなってたリィの鼓動も落ち着いてきたかな。体を触れさせてれば、それくらいは分かるさ。

「……落ち着いて来たか?」
「うん……」
「そうか」

 目の前に持ってきたリィの目には、涙が溜まり始めてた。……そうだよな、こんなに感情が昂ぶったのはこれが初めてだろうし、どうすればいいか分からなくなって混乱してるよな。
俺は、『俺』って奴が始まった時に全てを諦めた。けど、リィは『リィ』が始まった時から大切な物が沢山出来ていったんだ。それを奪われる事は怖いし、奪おうとする奴を許せないと思うのもよく分かる。諦めてる俺とは、あのカランの提案で感じる怒りの質が違うんだ。
俺がカランに感じたのは呆れ。リィが感じたのは……大切な物を奪う者に対しての、明確な敵意。それを感じてやれる奴がリィの気持ちを聞いてやらないと、リィの心に大きな溝が生まれちまう。誰かを深く憎むっていう、消せない溝が。

「……どうして、あの人は僕に無理矢理触れようとするの? 自分の物にしようとするの? 僕はそんな事を望んでないのに。この家の皆と一緒に居たいのに。分からない、分からないよ」
「好きなものと一緒に居たい、もっと仲良くなりたいって気持ちは、本当はリィもあのカランって奴のも同じもんなんだ。けど、それの表し方や一緒に居たいってのの距離は、それぞれで違う。カランの好きってのは、ちょっとばかし相手の考えを無視しちまう質のもんだった、ただそれだけさ」
「でも、だって……」
「認めたくないってのは分かる。けどな? 世の中には色んな奴が居るんだ。自分が苦手だ、嫌いだって思う奴も居る。けど、それを否定するだけじゃダメだ。それは我が儘、我が儘だけを通すんじゃ、いつかは大切な物が見えなくなっちまう」

 そう……自分の大切な物が、分からなくなる。本当に大切な物が、な……。

「じゃあ、諦めるの? 諦めるのが正しかったの? そんなの……やだよぉ……」

 泣き出しちまったリィが、俺の胸元に顔を埋める。……ふふっ、この辺はまだ変わらないか。そうだよな、どれだけ強くなっても、まだリィは世の中って奴を歩き始めたばかりなんだ。こうなっちまう事だってあるさぁな。
泣いてるリィの頭を、ゆっくりと撫でてやる。違う、諦めて言いなりなるのが正しいんじゃない。諦めるのは、それは……本当に弱い奴がやる事だ。俺みたいな、な……。

「諦める事なんてないさ。ただ、理解してやるんだ。そいつが、カランがそういう奴なんだって」
「ぐすっ、理解、する……?」
「あぁ。まずは、相手の事を分かってやる。そして、それでも譲れない自分の思いがあるなら、戦うんだ」

 それは、相手を憎んで振るう力じゃない。自分の思いを貫く、信念の力。歪んでも捻じ曲がってもいない、真っ直ぐな意思の力だ。
譲れないものを守る為の戦いなら、俺は止めるつもりは無い。リィなら、そういう戦いが出来る筈だ。
怒りや憎しみからじゃない、信念からの戦い。守る為の戦いを。

「カランはポケモンが好きなんだよ。ただ、それが強過ぎる。そして、自分が好きなら相手も自分を好きになってくれると思っている節もあるみたいだな」
「それを、分かってあげるの?」
「そう。その上で、それだけ自分の事を好きになってくれてるって分かった上で、それでも自分にとって大事な物がここにあるって事をぶつけるんだ。そうすればきっと、どんな結果になってもカランは分かってくれるさ」

 目を潤ませながらこっちを見上げて来たリィに、にっと笑い掛けてやる。大丈夫、真剣な思いは……信念を貫く決意は、必ず相手に届くから。

「心配すんなって。どう転んだって、リィがこの家を離れなきゃならないような事にはならねぇさ」
「……本当?」
「あぁ。その為に、俺はここに居るんだからさ」

 俺の一言を聞いて、リィの顔にもやっと笑顔が戻った。一安心、かね。
さて……リィに約束した以上、今回やる場合は様子見も手加減も無しだ。カランには悪いが、確実かつ絶対の勝利って奴を実現させてもらうぜ。
それに、さっきとは違う意味でのガチのリィとも戦う事になるだろう。こりゃ、相手がちっと可哀想な事になるかもしれんなぁ。

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~後書き!~
 リィが『リィ』になってから初めて訪れる、自分の大切なものを奪おうとする者との邂逅。感情の昂ぶりはライトがきっちり収めてくれましたが、もしライトが居なかったらカランの手持ちが大惨事になってたでしょうね……。
まぁ、どの道 手抜き無しライト+本気リィ=相手にとっての絶望 って図式は変わらないんですが。カラン&手持ちーズ、南無南無。
さて、今回のカランの登場で旧光に進行が追いついた形になりました。これからは未知の領域……これからも、新光メンバーの活躍を見てやって頂ければ幸いです! 作者も頑張らねば……。

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IP:180.56.54.139 TIME:"2015-07-22 (水) 21:47:38" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%8F%E3%81%AE%E5%B5%90%E3%81%8C%E3%82%84%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8B%EF%BC%81%E3%80%80%E5%89%8D%E7%B7%A8" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"

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