ポケモン小説wiki
夏の夜の幻覚 の変更点


いろいろ妄想込みにつき閲覧注意。何が出てもいいよって人向け。エロなし。歴史捏造アリ。

----
――さて、今日であのロケット団事件からちょうど15年が経とうとしています
指名手配犯はなおも逃走中……あの日、ヤマブキシティは――
「チャンネル変えてくださる?」
「へい」
 外は大雨。中は快適25度クーラー。朝から空気はじめじめ空はどんよりしていた。
 しばらくは降りそうで降らない状態が続いていたのだが、昼を少しまわった今しがたついに力尽き大粒の水玉弾丸を落とすにいたった。しかも雷つきで。
 若い女だった。雨から逃げるように小ぢんまりした行列のないラーメン店に駆け込んだ女は、塩ラーメンと肩の上のヤミカラスの昼飯をカウンターで新聞を読んでいたオヤジに注文して、本棚に無造作に積んであった女性誌を掴んで腰掛けた。
「お嬢さん、ヤマブキシティははじめてかい?」
「ええ。でも、どうして?」
「ヤマブキじゃパートナーはボールの中にしまっておくものさ。変ないちゃもんをつけられたくなかったらね」
 遠まわしに、ポケモン遠慮願います。が言いたかったのだろう。女は素直に従った。
 客は他にテーブル席に一人。カウンター席に二人。カウンターの二人は15年前の話をしていて、テーブルの一人はタバコを吸いながら新聞とにらめっこしていた。ギョーザが数個のこっていたが、どんぶりは空っぽだった。
----
 その日は暑かった。その年一番の暑さだった。昨日まで続いた大雨がやっとやんで、小さな子供は明日から始める夏休みを前に、ポケモンの友達とも人間の友達とも飛んだり跳ねたり。宿題あるはずなんだが。
 それが、惨事の原因になったとも言えるかもしれない。
 ヤマブキシティに異変が起こったのは、子供たちがみんな登校し終えた後、大人たちの通勤ラッシュがピークになる頃だった。
 最初にシルフカンパニーから出てきた怪しいRのマークが胸に付いた真っ黒装束の団体に出会ったのは皮肉にもシルフカンパニーの向かいにあった交番の警官たちだが、このうちの一人がロケット団の工作員で、後に処分されている。
 他にもなんと市庁舎に出入りする役人に協力者がおり、この日、知事や市議を人質に市庁舎でもR軍団の立て篭もりが行われている。
 ともかく、警察が封じられてしまってヤマブキ全体がロケット団の手に落ちたのだ。ジムリーダーナツメ不在のヤマブキシティジムも、ジョウト遠征中のお隣さんの格闘教室も。
 さて、こちらは終業式中の体育館。ロケット団の下っ端が大挙して押し寄せて、あら不思議、最も強力な人質がたーくさん出来上がり。子供に死人が出ては大変なことになるので、警察の機動隊もポケモン協会のよこしたエリートトレーナーたちも東西南北のゲートを越えることが出来ず。昼前にはヤマブキシティ内ではあちこち下っ端とポケモントレーナーの戦いが行われていた。また、昼過ぎには上空で中継を行っていたホウエンテレビのクルーがボーマンダごと撃墜されて亡くなった。このときの映像はお茶の間の皆様を大いに震撼させた。
 一般的には、この後すぐ年端も行かぬ新人トレーナーがたった一人でボス・サカキを倒して本拠地のシルフカンパニーを落とし事件を終わらせたかのように語られているが、当然大きな間違いである。いや、サカキを倒したと言うのは本当らしい(事実、ポケモンリーグで優勝を果たしている)が、おかげで今もなおサカキは逃走中である。なお、その他大勢の容疑者も、このトレーナーのしでかした中途半端な解決でほとんどが捕まっていない。勝手にシルフを落としてしまい、街の外に待機していた機動隊がそれに気づかず……情報伝達の手段が今と比べれば満足でなかった時代の、神童の引き起こした悲劇である。
 警察が捕まえられたのは崩れ落ちるシルフカンパニー本社ビル(中継では謎の爆発、次いでロケット団の敗北と表現された)を見て、各ゲートを通って逃亡を図った小物だけに留まっている。
----
 それでも、オヤジは会計のときポケモンフーズをビニールに包んで渡してくれた。カウンターの二人は相変わらず話し込んでいた。テーブルの一人は新聞を見ながらギョーザを口に放り込んだ。クーラーは律儀に仕事している。
 雨は奇跡的にやんでいた。ヤミカラスが外に出たがっているので出してやった。暑くはないのか。
 女は、また歩き出した。
----
 ロケット団の目的は、世界征服だ。
 武器も作った。カネも集めた。ポケモンも育てた。仲間も増やした。
 では、何のために?
 サカキは頭のいい子供だった。子供時代におよそ彼の思想に大きな影響を与えるような出来事は無かったと事件後まもなく自殺してしまった両親(問題になった)は語るが、彼の視点から見て、彼が何を思い、何を感じたのかは誰にも分からない。
 大事を為すのに、犠牲は付き物という考え方の人がいる。ロケット団も古くはこの手の団体だったのだが、どうも今の新生ロケット団は違うらしい。頭のいい人の思想は、たとえ文章という形に直してあっても、理解するのが難しい。
 それを解する能力のある、さらにまだ自分なりの思想が完成していない若者に、賛同者が多くでた。そして、今も出ている。と専門家は語る。
 逮捕されたある若者はこう語った。「どんなにすばらしい国家元首にも作ることの出来ない理想郷に、限りなく近いものをつくるんだ」と。この若者、服役を終えて娑婆に戻ったところ、とあるポケモン違法売買集団を一斉に警察に突き出したことで話題になった。
----
――指名手配されているのは、ボスと見られるサカキ、シルフカンパニー元商品開発部長のドイ……この人はミュウツー関連でも指名手配されています……シルフカンパニー元専務の……――
「失礼します……ドイ、博士ですね」
 女は、ボロアパートの二階の西端の部屋の前に立っていた。ヤミカラスががあがあ鳴いている。中から漏れているラジオの音は、この部屋の持ち主が流している。
 扉を少し開けたのはヒゲも髪の毛も伸ばし放題、シャツ一枚にトランクス。貧乏生活に苦しんでいますと体中から訴えかけているその男は女を見て崩れ落ちた。
----
 その日、ドイはヤマブキ郊外の研究室で仮眠を取っていた。
 シルフ本社が崩れ落ちても、彼は大事な研究資料を抱えて、眠りこけていた。
 ドイは研究者だった。漫画にも、アニメにも、音楽にも漫才にも芝居にも棋道にも運動にも女にも男にも、その他娯楽にほとんど興味を示さなかった。パソコンや薬品やタンクの中の生物を見て満足する男だった。
 目を覚ましたときには幹部と同伴のロケット団の飛空挺。そのまま結果的に逃走中の指名手配犯になってしまい――ロケット団からの支援もまともに受け取れず、今に至る。
----
――十時のニュースをお伝えします。えー、今入ってきたニュースですが、先ほどロケット団ヤマブキシティ占拠事件で指名手配を受けていたシルフカンパニー元商品開発部長のドイが出頭……――
「さあ、サカキ様の下へ……頼んだよ、ヤミカラス」
 夜、昔ながらのフロッピーディスクと、また新しくなったUSBメモリを包んで、首からかけさせた。日は暮れても、まだむしむししていた。
「さあ、行っておいで」
 ヤミカラスの頭をくしゃくしゃ撫でると、うれしそうに暗闇に溶けて行った。ドイ博士の研究資料を引き継ぐ任務はこれでお仕舞。ドイ博士の出頭は本人の判断。
 この女や、ヤマブキに散った若いインテリたちは、サカキに、いや、ロケット団という組織にどんな幻覚を魅せられてきたのだろうか?
 所詮、夏の夜の夢であるというに。
----
- 恐らく元ネタであろうオウム真理教事件と、第一世代赤緑の発売時期は割と近いので意外と信憑性があるかもしれないですね。
個人的にはボーマンダよりも第一世代のピジョットやプテラなどで統一して欲しかったなーと(
サカキとは時折PWTで戦っていますが、あれから十数年経った今、彼は今は亡き組織に対して何を思ってるのでしょうか。
―― &new{2012-07-14 (土) 14:06:46};

#comment()

IP:125.13.222.135 TIME:"2012-07-17 (火) 18:02:20" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%8F%E3%81%AE%E5%A4%9C%E3%81%AE%E5%B9%BB%E8%A6%9A" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.