ポケモン小説wiki
夏、マツリ真っ盛り の変更点


第六回短編小説大会の作品です。


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「あー……あちィ」
 口に出しても仕方のないことだが、勝手にこぼれてしまうくらい暑い……いや、熱い。家の中だというのにこの熱さは異常だ。障子は全開だったが入ってくる風は余計に熱気を運んでくる。
 寝そべった下の&ruby(きどこ){木床};もすっかり熱くなっていた。ヘルガーはごろっと寝返りを打って場所を変える。気休めにしかならないことは分かっているが、少しでも熱さから逃れたい。このジメジメとまとわりつくような熱さは、ヘルガーだろうと耐え難いものだった。

 頭上で風鈴が鳴る。こんなものの何が良いのかポケモンであるヘルガーには皆目見当がつかなかった。こんな物より熱さを和らげる物を用意してほしいと切に思う。
 体にたまった熱を吐き出して、ヘルガーはもう一度寝返りを打った。青々とした空が天井に隠れ、部屋の中の景色に切り替わる。ぼーっと眺めていると、ホコリを被ったチェストが目についた。正確にはその上に置かれた写真に。昔の彼と主人の真平、その幼なじみの女子とパートナーのクチートが映った写真。
 真平、通称シンの幼なじみは昔引っ越してきた隣人だった。シンは周りに同年代がいなかったこともあってすぐ仲よくなり、毎日のように遊んでいた。しかし家の都合で幼なじみはまた引っ越すことになり、それ以来関係は途絶えている。
 幼なじみたちは今どうしているんだろうか。海外に行ったと聞かされたものの、言葉としては分かっても自分の知識以上の意味までは理解しきれない。とにかく遠い所で、会うのも難しいらしい。

 頭にクチート──チェルムの顔が浮かぶ。彼女のことを思い出すと、ヘルガーは胸の辺りにより一層の熱さを感じた。

「何思い耽ってんだ、俺」
 昔を懐かしむなんて年寄り臭い、そう思ったリベッドは首を振って雑念を振り払う。熱さで意識がふわふわしていたせいだろうか。

 三度目の寝返りを打つ。視界に映る青空にはいつの間にか雲の白が混じっていた。

 ……突然、ドタドタという足音が天井から聞こえてきた。それはだんだん下に降りてきて、途中何かにぶつかるような音がしたかと思えば、一層大きな音が振動と一緒に伝わってきた。
 ヘルガーには見なくてもなんとなく状況が予想できた。呆れてため息が漏れる。
 少しして近付いてくる足音。ヘルガーは首を捻り、開けられるだろうふすまに目を向けた。案の定ふすまは乱暴に開かれ、入ってきた彼はヘルガーを見つけるなり叫んだ。

「リベッド! 祭りいくぞっ!」

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 &size(18){&color(red){''夏、''};&color(tomato){''マツリ真っ盛り''};};





 景色がひらけた土手道を歩くヘルガー──リベッドの体に、熱い昼過ぎの日差しが照りつける。ほとんど黒い体にはその日差しはかなり強烈だった。
 熱い熱いと言っていた彼がなぜ外にいるのか、彼自身も分かっていなかった。祭りに行くと言った人間、真平は頭にたんこぶができているのも構わず、彼の承諾を得ることもせず、ムリヤリ外に連れ出したのだ。祭りなんて幼なじみが引っ越して以来行っていないのに、どういうつもりなのか。そもそもどうして自分まで行かなければならないのか。リベッドの頭はそんな疑問で一杯だった。長い付き合いとはいえやはり人間の考えることはよく分からなかった。

「急に悪いなぁ。ホントは行く気なかったんだけどな、男として行かなきゃならない用事ができたんだ」
 並んで歩くシンはそう言ってリベッドの目の前に携帯画面を晒した。何やら文字が書かれているが……リベッドは人間と暮らしているとはいえあまり文字は読めない。訴えるような強い視線をシンに向けると、彼は気持ちの悪い笑顔でリベッドを見下ろしていた。普段見ない主人の様子に、純粋に嫌悪感を覚えるリベッド。

「なんだよー分からないのか? 女子に誘われたんだよ、祭りに! 俺のブログを見て気に入ってくれたらしくてさぁ、神社で祭りがあるってことなんとなく載せたら“良かったら一緒に行きませんか”ってよ! こんな田舎でもあるんだなーこういうことって。いやー、ねだりにねだって携帯買ってもらった甲斐があったぜ」
 嬉々として語ったシンだが、リベッドはほとんど意味を理解できていない。分かったのは顔も知らない女子に祭りに誘われたこと。とりあえずそこはかとなく怪しい臭いがするのはポケモンの彼にもなんとなく分かるらしい。((犬だし鼻も利くのだろう))怪訝な顔で主人を見るが、シンは誘われた事実にしか意識がいっていないようだ。

(そもそも好きだった幼なじみのことはもう吹っ切ったのか?)
 リベッドにはそれが気がかりだった。そう、シンは幼なじみのことが好きだったのである。毎日一緒に遊んでいたこともあって好きになったのだ。しかし気持ちを伝えることも出来ないまま、相手は遠い所へ行ってしまった。主人のことだから、いまだに引きずっていると思っていたのに。少しでも心配した自分ががバカみたいだと、リベッドは憤慨する。それ以前に、結局告げられた内容が、自分が連れ出されたのと関係ないことに憤慨していた。
 流石にイラッときたリベッドは足を止め、吠えることで抗議の気持ちを主張する。言葉は通じないが彼らは気持ちくらいはそれなりに通じ合う仲だった。同じく足を止めたシンは不満そうに彼を見下ろす。

「行きたくないってのか。でもお前にも来てもらわなきゃ困るんだよー」
(だからその理由はなんだって聞いてんだよ)
 吠えながら地面に尻尾を叩きつける。実のところリベッドも本気で嫌がっている訳ではない。熱い中出歩くのはツラいが腐っても自分の主人、出来る範囲のことなら付き合ってもいいと思っていた。そんな思いは次のシンの発言によって踏みにじられてしまうのだが。

「その彼女な、お前の写真見て気に入ったらしくて、お前にも会いたいんだそうだ。だから、な? お前だって久しぶりに祭り行きたいだろ?」
 シンは顔も分からない相手のためにリベッドを連れて行く気なのだ。ようは自分をダシに使おうとしている。そもそも勝手に自分の写真を貼られていたことに驚愕した。人間の言葉を話せていたとしたら、真っ先に「ふざけるな」と叫んでいただろうとリベッドは強く思った。だが彼はポケモン。だからこそヘルガーらしく、差し出された手に思いっきり噛みついた。「ふざけるな」という気持ちを存分に込めて。

 シンの叫び声が、土手道を中心に辺り一面に響きわたった。

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「あー、まだ痛てぇ……あんな怒らなくてもいいだろー」
 噛まれた手をさすりながら文句を言うシン。しかしどう考えても悪いのはシンの方だ。事前に相談されればリベッドもそのくらいどうということはなかった。だからこそこうして帰らずつき合っているといえる。感謝こそされど文句を言われる筋合いはない、そんな思いを乗せ角を主人の腿に軽くぶつける。またしても痛手をもらい、シンは階段の上でふらふらと危なっかしくよろめいた。
 無茶振りされたならともかく付き添いだけなら何の問題もない。何よりこういう時の呆れるほど一本槍な主人の姿を見るのは嫌いではなかった。今回は主人を動かした原因が原因で多少白けている程度である。

 日は少し傾いていた。この時間帯の熱さは恐ろしさすら覚えるものだ。幸い、神社は周囲をぐるりと木に囲まれているからそれほど苦ではない。
 神社に続く階段の両脇に並ぶ木々は、光を浴びて葉が橙色に輝いている。なんとなく後ろを振り返ってみると、さっき歩いてきた土手道とそれを挟む沢山の田んぼが見えた。一面の緑に橙が反射し、ゆれている光景はとても綺麗だ。田んぼの水も同じようにキラキラ輝いている。所々から聞こえてくるテッカニンの鳴き声は、夏であることを主張しているかのようだった。

 あれこれ気にしている内に階段は終わった。目の前には赤い鳥居、その先には大きな神社。更にその奥の境内にはやぐらが見え、周りにはいい匂いが漂ってくる屋台が並んでいる。そして、それらを飾りつけているのではないかと思うほど沢山の人間がそこにはいた。人の声に混じって軽快な祭り囃子が聴こえてきて、ノリ気ではなかったリベッドもだんだんと気分が良くなっていた。

「おー、懐かしいな。前はミサキたちもいたんだよな」
 ミサキというのは例の幼なじみの名前だ。彼女たちがいた時は祭りが開かれる度に来て一緒に屋台をめぐったり、開催されていたバトル大会に出場したりしていた。あの頃は本当に楽しかった、数年ぶりの祭りの雰囲気に2人は改めて実感させられた。
 だからこそ、気持ちを伝えられなかった後悔の念も重く感じた筈。そう思いさりげなく主人の様子を窺うリベッドだったが、それに気付いたシンは笑顔を見せた。

「落ち込んでるとでも思ったか? 俺がいるのは今なんだ、今を見なきゃ損だろ」
 そう、後悔したところで状況は変わらない。シンはそれが分かっていた。分かっていたから、幼なじみのことを気にせず今日ここに来れたのである。思っていたより元気そうな主人の姿にリベッドも少し安心した。ただ、だからといって別の女子と会うのは何か違う気はしたのだが。
 シンは早速携帯を取り出してメールを確認する。

「えーおち合う場所は……やぐら近くのサイカチって木の前だ! もう着いてるってよ、早くいくぞ!」
 そう言うなりシンは人ごみをかき分けてさっさと奥に行ってしまう。リベッドもしぶしぶ後を追った。彼もリベッドも木について詳しくはなかったが、ここで木といえば“アレ”しかない。
 人間より背が低い分押し流されそうになりながらもなんとか木の前にたどり着く。やぐらから少し離れたところに一本、空に向かって聳える太い木があった。表面にトゲが沢山突きだしている変わった木だ。この神社では神聖な木として扱われているらしい。祭りの最中では興味を示す人間もいないようで、人間はシン以外近くにいない。待ち合わせした筈のそれらしい女子も見当たらなかった。

「おかしいな、いるってメールがきたんだがなぁ……もしかして脅かそうとしてるとか?」
 シンはのん気なことを言って木の周りを歩くが、一向に例の女子が現れる様子はない。
 いくら興味が沸いたからといって、相手からしても初対面である男子といきなり祭りをまわろうなんてそもそも不自然な話だ。もしくは待ち合わせのためにシンが顔写真を送ってそれで幻滅、ということもある。追加の連絡をしてきたから祭りには来ているのだろうが、幻滅したはらいせに、あるいはただ単にイタズラをしようと思ったんだろう。今頃どっかでほくそ笑んでいるかもしれない。今まで色々な人間を見てきたリベッドはそう思った。
 哀れみの目で見上げると、それに気付いたシンは慌てて言い訳をする。

「な、なんだよその目は! 騙されたとでも言いたいのか!? まだ分からないだろ、もしかしたらおち合う場所間違えてるとか!」
「いや、待ち合わせ場所は間違ってないわよ」
 見苦しく騒ぐシンの正面、つまりはリベッドの後ろから突然誰かが話しかけてきた。思わず耳が震える。聞き覚えのある声だった。少し低くなってはいたが、特有の響きは変わることはない。

 え、と言いながらシンが顔をあげ、リベッドが振り返ると、そこには少女が1人。

「や、久しぶり」

 シンの幼なじみ──ミサキが立っていた。

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「み、ミサキ……? な、なんでお前が」
 明るめの茶髪をポニーテールにし左側の前髪を飾り付きのピンで留めている。半そでのTシャツに膝上のスカート、足にはサンダルと、かなりラフな格好とグレーの目が&ruby(ちょうちん){提灯};の明かりに照らされてよく見えた。右手首のミサンガだけが唯一のオシャレで逆に違和感がある。
 背は伸び声変わりもしていたがそのラフさは昔とまったく変わっていない。そんな彼女が突然現れて、シンはもちろんリベッドも驚いていた。そのミサキと呼ばれた少女は戸惑うシンの顔を見て笑う。その笑顔も昔と変わりない。

「ちょっ、何よその顔! 予想以上の反応ね!」
「う、うるさいな! ってか、俺はここで待ち合わせをしてるんだよ、中々こないんだよ!」
 シンはケラケラ笑っている幼なじみ、もとい初恋相手の姿に色々な意味で衝撃を受けている様子が窺えた。緊張か、妙な返答をしてしまっている。さっきまでのん気にしていたのが嘘のようだ。
 それもその筈。シンは同年代の女子との接し方を知らない。田舎ゆえ学校に人が少なく、その上女子がクラスにいなかったのだ。実質シンが初めて接した同年代女子がミサキだったのである。そのこともあって好きになったともいえるし、だからこそどう気持ちを伝えればいいか分からずにいるともいえる。
 それはともかくミサキの言葉にはどこか引っ掛かりがあった。“予想以上”とはどういうことなのか? 首を傾げるリベッドはミサキの次の言葉を聞いてその意味を理解した。

「だから、もう合流したじゃない。“サイカチの木の前で会いましょう”ってメール、送ったでしょ?」
「へ? ……ぇええええええ!?」
 数秒の間の後、シンも気付いたようだ。メールの送り主は他でもない、ミサキだったのである。それならミサキがここに現れたことにも説明がつく。同時にミサキなら納得がいった。ミサキは昔からちょっとしたイタズラをするのが大好きだった。寧ろこれは彼女なりの挨拶なんだろう。

「流石に怪しまれるかなーって思ってたけどやっぱりシンちゃんだね。すぐにOK出して本当に来るんだもん。簡単に釣れすぎて逆に心配になっちゃったわ」
 してやったりな表情のミサキ。見た目は変わっても中身はやはりミサキのままで、何故だかリベッドは安心感を覚え、そして同情した。今回は相手がミサキだったからよかったが不審者に呼び出されでもしたら何をされるか分からない。いくらリベッドが一緒だといえ、そののん気さには心配にもなる。そういう意味ではシンも昔から本当に変わっていなかった。

「い……いや、そんな筈ない! 第一俺が携帯買ったのはミサキが引っ越した後だぞ、メアド知ってるワケないだろ! というか海外に住むことになったんじゃなかったのか?」
 当人はというと、メールの送り主がミサキであると認めたくないらしい。初めてミサキ以外の若い女子と会えると思っていた幻想から抜け出せていないのか、もしくは誘ってきたのが初恋相手だったから逆に舞いあがってるのか……。ミサキからすればただのイタズラだが、彼からしたら予想外すぎるアプローチなのだから。
 喚く彼を呆れ顔で見ながら、ミサキは腰に手を当てて軽くため息をつく。

「引っ越したからってこっちに来れない訳じゃないし。懐かしくなったから来たの。それに、最初に送ったメールに“ブログにあったアド使わせてもらいました”って打ったじゃない。なんならメールの本文当ててあげようか? “ずっと会ってみたいなぁって思ってたんですけど、ブログに載ってたお祭り、私も行こうと思ってたんです”って、顔文字つきで」
 瞳の色からも分かるがミサキは父親が外国人のハーフで、ここを離れることになったのは父親の仕事が影響していた。親の仕事関係による引越しだったため戻ってくることはないと思っていたシンには、ミサキがひょっこり現れたことが信じられなかったのである。ミサキの言葉を聞いて押し黙っているところを見ると、流石にメールの内容をはっきり言い当てられては何も言い返せないようだが。

(でも何で俺まで呼んだんだ?)
 純粋に会いたいと思っただけなのかもしれないが、リベッドにはどうも別の理由があるように思えた。女子と会うなんて事態なのだから、シンならわざわざ仕向けなくても不安からリベッドを強制連行しただろう。リベッドと同じくシンの性格をよく知るミサキならそのくらい分かる筈。ミサキは特に用心深い訳ではないし、寧ろ大雑把な方だ。意味もなしにこんな回りくどいことをするとは思えなかった。
 思いを巡らせつつミサキの方へ向き直る。その時、リベッドは彼女の後ろから歩いてくる影を見つけた。その影を見た瞬間、彼の鼓動は大きく高鳴った。ミサキはおろか自分よりずっと小さい影。その影には見覚えがあった。
 袴のような足に頭から生えた大顎と、人間とは明らかに違う自分と同じポケモン特有の姿。もう実物では拝めないと思っていた相手は、あっけなく目の前に現れた。

「あ、チェルム、出してきてくれたー?」
 ミサキの呼びかけにそのクチート──チェルムは頷く。その言動からミサキが何かを頼んでいたことが分かる。チェルムも昔より少々大きくなっていて、ミサキと同じ飾り付きのピンを前髪のような部分にしていた。そんな彼女の主人はしゃがんで彼女と高さを合わせながらハイタッチを交わす。

「完璧だったよ! “&ruby(まつ){真釣};り”作戦大成功ね!」
「ま、マツリ作戦……?」
「シンちゃんを釣り上げる作戦だから“真釣り”。祭りとかかってて素敵でしょ」
「なんだよそれ……」
 見知らぬ相手からのメールでうきうきしていたシンも酷いものだが、どこかしょうもないこだわりを持つミサキも負けてはいない。事の発端は彼女にある訳で、彼女も結構な変わり者だ。だからこそ巡りあったのかも知れないが。

 ミサキとシンが言葉を交わす中、リベッドはチェルムに釘付けになっていた。その表情はミサキが現れた時のシンそっくりだ。開いた口が塞がらない状態の彼を見て、チェルムはまさしく先ほどのミサキのようにケラケラ笑う。騙されても仕方がないような可愛らしい笑顔を、リベッドは直視できない。顔が熱くなって、何とはなしに下を向いてしまう。

「ちょっと、そんなに怒らなくてもいいじゃん」
 すぐ傍で懐かしい声が聞こえたかと思うと、小さな手で顔を持ち上げられる。目の前のチェルムはこれまた小さな頬を膨らませて不機嫌そうな表情。主人を騙したことについてリベッドが怒っていると思っているのだろう。彼が抱いている感情は怒りとはまったく違うものなのだが。

「ち…違う、怒ってるワケじゃ……」
「いや分かってるけど」
「え? じゃあ何でそんな」
「面白いかなーと思って」
「……」
 慌てて否定したのもつかの間、それがチェルムのからかいだったことが分かり言葉を失う。嬉しそうにしているチェルムに、リベッドは腹が立つどころか胸がいっぱいになってしまった。

「進化して見た目随分変わったけど、やっぱり中身は変わってないね、リベ君」
「それはチェルムも同じだろ…」
 必死で隠そうとしているようだが、素っ気なく返事を返す彼の顔は真っ赤になって湯気まで立っていた。

 言わずもがな、彼はチェルムに恋をしている。シンに対しては情けないだ何だと考えているリベッドだが、彼も人のことは言えない。シンに捕まえられる前は野生だったものの、実は母親以外の異性のポケモンとまともに関わったのはチェルムが初めてだった。似ているというより、経験自体はシンと全く同じだった。
 そんな男子らの恋心を知ってか知らずかぐいぐい攻める女子たち。誰もが久々の再会を喜んでいたが、純粋に喜んでいる女子と恋心の方が勝っている男子ではお互いに対する絡み方がまるで違った。

「つーか、何を出しに行ってたんだ?」
「バトル大会のエントリー書! 2人の名前も一緒に書いといた!」
「はぁ!?」
 気分を変えようと思い話題をずらすためにした質問と返答、驚愕の声がそれぞれの主人とパートナー同士で重なる。唐突な展開についていけないシンとリベッド。「負けないんだから」と意気込むミサキに、流石にシンも抗議した。

「ちょっと待てって。いきなりなんでそうなるんだよ」
「なんでって、前の大会のリベンジよ。というか毎回負け続きだったからそのリベンジ。いっぱい修行して私たちも強くなったんだから!」
「ええー……。もしかしてそのために俺たちを呼んだのか?」
 強く頷くミサキを見て肩を落とすシン。内心、わざわざ呼び出すほど何か大事な用があるのかと期待していたというのに、個人的なリベンジと知って少しがっかりしていた。リベッドもようやく自分が呼ばれた意味を理解して、同様に気落ちする。久々の再会からのバトルの展開は分からなくもなかったが、相手が相手なだけにいきなりそれはないだろうと思った。ちらりと見たチェルムもやる気満々のようだ。

「んー、でもまだ少し時間あるわね……じゃあ、一緒に祭りをまわるっていうのは本当にしてあげる」
「……え?」
 またしても急な展開。完全落ち込みムードの2人を気にかけることなく神社の時計を確認したミサキはそんなことを言った。いや、言うが早いか、どういう意味か分かっていないシンの手をつかんで屋台の方へ走り出す。リベッドは幼なじみに引きずられていく主人を、呆然と見つめることしか出来なかった。
 その光景を遮るように現れた大顎。そうして彼の視線を自分に向けさせたチェルムは「行くよ」と一言残し、2人の後を追いかけていく。

 ──僅かな沈黙。

 1人とり残されたリベッドは、一層大きな太鼓の音で我に返る。そして、まるで太鼓の山彦をするように大きな溜め息をついた。
 のん気な主人に祭りに付き合わされたかと思えば釣りで、しかも犯人はその幼なじみ。それから自分の初恋相手と数年ぶりの再会を果たしたと思えば、挙げ句の果てには彼女と戦わなくてはいけないとは。幸運なのか不運なのか。全てがそうではないにしても、リベッドからすれば後者の出来事の方が多かった。
 しかもたった今“再会”と“戦闘”の間に無理やり“戯れ”の時間がねじ込まれたのだ。楽しい一時を一緒に過ごすのが嫌といえば嘘になるが、その後のことを考えれば溜め息も漏れる。楽しい祭り気分もすっかり萎えてしまった。

 しかし、あれこれ気にしたところで状況が変わる訳ではない。リベッドもそれが分からないほど、もう子供ではなかった。昔と違い、今は妥協することができる。昔からシンに振り回されてばかりで悲しいかな妥協するのは得意だともいえた。
 だからこそ、リベッドはネガティブにならないようにしようと改めて自分に言い聞かせた。たまには主人を見習って、まっすぐぶつかってみるのもいいかもしれない。折角再会できたのだから悩んでいるのはもったいないし、相手も楽しくないだろう。昔と同じ後悔をしないように努力が出来るのは、今しかない。どこまでいけるか分からないが、とにかく全力を出してみようと強く思った。

 彼を文字通り鼓舞するように、祭囃子の調が変わる。

 ──そうだ、折角の祭りを楽しまなくてどうするのか。夏は熱くて当たり前。寧ろもっと熱くなってしまえ。そうすればきっと、本当の気持ちも伝えられる筈だ。

 リベッドはそうして気持ちを切り替えると、3人を追って人ごみの中に飛び込んでいった。



 はたして、ウブな男子たちの恋の行方やいかに──




 









つづかない((続くと思った?残念!おわりでした!※打ち切りではありません))

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まずは読んで下さった皆様、有難うございました。
結果は29票中4票、他2作品と同票で準優勝となりました。このようなめちゃくちゃな作品に投票してくださりまことに恐縮ですorz
そんな作品についてですが、まぁしょうもないですwテーマが「まつり」ということでまず“祭り”とかけてみたいなと。そうして無理やり考えた結果このようになりましたw
ちなみにまるで触れていないので気付いた方はいないと思いますが、主人公のリベッドの名前を逆にすると「devil」、つまりもう1つ“魔”釣りというこじつけをしておりました( 彼は強制連行されただけなので釣られたのとは少し違いますけども(苦笑)

補足することは特にありません。真平の名前を省略したのも、単に見栄えの問題を考慮してのものだったり。
裏話ですが、作中に登場した“サイカチの木”というのは福岡のとある神社のものを参考にしています。この神社では名前にちなんで“再会の木”と言われていて、境内にあるサイカチの木に向かって好きな人との再会を願うと叶うそうです。神功皇后が朝鮮出兵のとき宝満山にサイカチの木を植え、凱旋の後の再会を誓ったという言い伝えからきているとのこと。
土手道の描写も大雑把に描きましたが、神奈川の秦野四十八瀬川あたりをイメージしたのでそのように想像して頂ければ(ムチャブル ……というか無駄に風景描写多いですね。これだから文字数が足りなくなる……orz 風景描写でももっと内面的な意味だけ表せるようになりたいものです。

先ほども文字数と書きましたが実はこの作品、当初はこの後の展開も書く予定だったのです。が、思った以上にgdgdしてしまい上限オーバーorz 改めて私はまとめるのが下手だと実感いたしました。
しかし「まつり」なのだからここまででもテーマ自体には沿っている(と思いたい)し、あえて書かないのも面白いかなということで、ここで%%打ち%%切ることに。彼らの恋が成就するかどうか、今後はご想像にお任せします(丸投げ

切りすぎた感は否めないので、拍子抜けしてしまった方々には申し訳ないですorz バトルするよーって仄めかしておいてブチ切りは自分でも流石にアカンと思いま(殴
でももし落胆して頂けたのだとしたら、作品そのもので読者様を釣れたという考え方をすればある意味おいし(蹴

騙されたところまでしか書いていないこともあって、ポケモンらしさもあまり出せず……。リベッドなんてほとんど犬でしたね。自分でも腑に落ちない点はありますし一応続きの構成も練ってあるので、気が向いたら完成品を別所にでも載せるかもしれないです。
しかし、日によって見方やら何やら変わりまくる性質のため修正の連続で、自分が納得できるものに仕上がるのかどうか……(汗)こんなヤツだから小説書くのは向いていないと思います、はい。

反省点は、やはり不完全燃焼だった部分と終盤のリベッドの心境の変化です。文字の都合とはいえ唐突に気合を入れすぎている描写になってしまいました。全体を通しても無理矢理まとめているにすぎないので、もう少し要約してコンパクトにすべきだったと思います。


以下、大会コメントへの返信です。

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見事に釣られましたねw この先に幸があることを願っています。 

(2014/08/03(日) 04:58)

<祭りというか“釣り”がテーマのようになってしまったような気がして終始微妙な心境でしたが、楽しんで頂けたようで何よりです。男2人には頑張ってほしいですねw

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 誰かやると思ってましたよ『〝マ〟釣り』ネタwww
 テーマのユニークな使い方と、幼なじみのほのぼのとした恋が非常にマッチしていました。 

(2014/08/03(日) 19:48)

<なん…だと……。予想されていたとはw 実際かなーりしょぼいネタですけどね、無理矢理こじつけました( いやぁ、マッチしているだなんて、嬉しさと恥ずかしさでいっぱいです(/ω\)

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"まつり"作戦wwwww 盛大に吹きましたw
エントリー方法も斬新で、転(起承転結の中の)の部分も予想の斜め上でした。 続きがあるのなら非常に楽しみです。 とにかくインパクトが凄かったので一票です。 

(2014/08/03(日) 21:27)

<ネタがネタなのでもうとことんネタに走りました。エントリーで「うわなんだこいつ」感を出せていたら幸いですw 上記の通り続きは執筆予定ですが、読者様のご想像の中で完結して頂いてももちろん構いません。

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  (2014/08/03(日) 23:55)

<投票有難うございました!

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以上四名の方、改めまして投票有難う御座いました! 幽霊化している駄目作家ですが、今後も細々と頑張っていこうと思います。これからもよろしくお願いいたします。


よければコメントをどうぞ

#pcomment(コメント/夏、マツリ真っ盛り,3,above);

IP:125.192.34.95 TIME:"2014-10-29 (水) 03:31:27" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%A4%8F%E3%80%81%E3%83%9E%E3%83%84%E3%83%AA%E7%9C%9F%E3%81%A3%E7%9B%9B%E3%82%8A" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Linux; U; Android 4.2.2; ja-jp; F-04E Build/V10R41A) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like Gecko) Version/4.0 Mobile Safari/534.30"

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