ポケモン小説wiki
変わる思い、変わらない思い の変更点


注意
&color(red){※官能描写があります。苦手な方はご注意下さい。};

writte [[クロフクロウ]]

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 山と山に囲まれた、朝は太陽の日差しが東の山から降り注ぎ、夕方は西の山から一日の終わりを茜色で染める。
 風は強い日はあるものの、ここに住むポケモンたちは大いなる自然に囲まれて平和に暮らしていた。
 恵まれた気候。様々な種族のポケモンが共存し、食べ物にも困らない。
 だが何より、町を守ろうと立ち上がった勇士による自警団が大きな存在となっているだろう。腕っぷしが強いポケモンたちが町の悪を成敗している。
 そんな自警団務める一匹のポケモン、まだ年端も行かない若いポケモンは町の真ん中で任務に励んでいた。
「よう、レヴィン!今日も張り切っているな!」
「よう、レヴィン! 今日も張り切っているな!」
 町のポケモンから声を掛けられ、右腕に青い腕章を付けたエレザードは手を振る。こうして仕事中に頑張って時に激励の言葉をかけられるのは、非常に気持ちの良いことだ。やる気が自然と湧いてくる。
「レヴィン先輩、保護していたコフキムシの親と連絡がとれました!」
「本当か、じゃあ任せていいか?オレはもう上がりの時間だからさ」
「了解です、今日もお疲れ様でした!ゆっくり休んでくださいね」
「本当か、じゃあ任せていいか? オレはもう上がりの時間だからさ」
「了解です、今日もお疲れ様でした! ゆっくり休んでくださいね」
 後輩のデデンネに相槌を打ち、エレザードのレヴィンは一つ腕を伸ばした。
 この町は自警団には大きな信頼と期待を抱いている。数々の町の悪党を退治して、弱いポケモンから守る。そんなヒーローのような存在に、自警団に目を向ける視線は輝いている。小さいポケモンからは身近で憧れの的。今も子どもたちの話題は尽きないほどだ。
 レヴィンと呼ばれたエレザードは、一回り町の様子を伺い町の中心にある自警団の事務局へ戻った。
「戻ったか、レヴィン」
「はい、今日も町に異常はありませんでした。今朝申し上げていました話の者も、特に見かけませんでしたので、引き続き警戒を」
「そうか。ご苦労。今日は午前中で切り上げる予定だったな。じゃ、また明日も頼む。ここのところ忙しくなってきたからな」
 事務のゴーゴートはそそくさにそう告げると、早々と部屋を出て行った。多数のポケモンの要望の処理に手を込んでいるのだろう。明らかに余裕のない仕草だった。
 そんな忙しい中で、午後からは何もしないというのは少し気が引ける。だが休むのもこの町の平和を守る自警団の仕事。今日は休んで、また次の仕事から万全の状態でこなせるようにしないといけない。
 軽く体を伸ばし、レヴィンは緊張の糸を解した。オンからオフへと気持ちの切り替えの時だ。
 自警団になってもう三年になろうとしているも、ここの仕事はなかなかに体力を消耗する。町の平和を守るため結成された団は、この町のポケモンたちが笑顔で自由に暮らすために毎日の仕事はかかせない。町の見回りはもちろん、他のポケモンの手助けや外の町から来たポケモンたちの案内、周辺の森や山への安全確認など、町のためならどんな危険を背負ってでも成し遂げなければならない。
 生まれ育った町への恩返しとして、レヴィンはやれることは何事も積極的に挑戦しているハートの熱い‘はつでんポケモン’だ。
「いよう、レヴィン!今日は早番か?」
「いよう、レヴィン! 今日は早番か?」
「なんだキミかフロウ、そうだよ悪いが先に上がらせてもらうから」
 突如陽気な声でかけられたのは幼馴染のトリミアン。同じ時を歩み、共に自警団に入った無二無類の親友だ。
 無精に整った白い体毛ながらも、長い毛の下に隠れた表情は自然と相手の緊張をほぐしてしまう。甘いマスクというやつか、異性に非常に人気があるのもこのトリミアンだ。
「いいなぁ。ボクなんて、これから町の外のパトロールだよ。最近町に物騒な噂が飛び掛かっているにしたって、毎日のように森まで行かなくてもいいのにね」
「フロウ、それがオレたちの仕事だろ。いつまでもそうやってグチグチ言ってると、またしょうもないことで団長から小言を浴びせられるよ?」
「おーっと、レヴィンからそんなキツイお言葉を貰っちゃあな。昔はボクにバトルで負かされて拗ねていたのに、‘たいようのいし’を手に入れてからすごく調子が良くなったもんな」
 こうして面と向かって、相手の苦い記憶を楽しそうに掘り返すのはフロウの陽気な性格あってのもの。レヴィンはハンッ、と鼻で軽く笑いフロウの天然を聞き流した。
「昔のことはいいだろう? ほらほら、こんなところでお喋りしていたら、集合時間に遅刻して、また長官から怒鳴られるぞ?」
「おっといけねぇ。 いやあレヴィンと話していると楽しくてつい時間を忘れるよ。そんじゃ、また会おう!」
「おっといけねぇ。いやあレヴィンと話していると楽しくてつい時間を忘れるよ。そんじゃ、また会おう!」
 そう言い残すと、フロウは‘こうそくいどう’にも負けないような速足でその場を去っていった。トリミアンの中でも最も素早さに優れたのが親友のアピールポイントだ。その足で、何度もポケモンを救っている。機敏な動きと抜群の集中力、そして強い精神力はレヴィンにはない長所だ。
 とか走り去るフロウを見送ったかと思ったら、全速力でフロウは戻って来た。
「おーっとそうだそうだ、ボクは言伝を頼まれていたのにすっかり忘れていた!」
 調子に流され大事なことをいつも忘れるのはもう何百回目だろう。一向に直らないそのお調子者、なのに何年も共にいるのに飽きない。
「どうやら今日騎士の方々がこの町に来るらしいから、それ相応に失礼のないようにって団長から」
「騎士がこの町に? えらく珍しいこともあるもんだな」
「詳しいことは分からないけど、これは何かありそうな感じだね。ま、ボクたちが接するのは場違いってやつだけどさ」
 そう告げて首にぶら下げていた銀時計を確認したフロウの顔が真っ青になったのは容易に想像できた。案の定、集合時間が目前に迫っていたらしい。疾風の如くその場を走り去って行った。
 ただでさえぼさぼさの体毛が焦りで一段と乱れていたのをフロウが気付いていただろうか。恐らく気付いていない、気付くはずがない。
「まったく、その元気があればどこへ行っても無敵だな」
 いつもの日常、そしていつもの友。
 いつまでもこの当たり前が続くと、レヴィンはフロウが走り掛けて行った後を見ながら思っていた。


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 今日も町は平和で何より。レヴィンの心はいつにも増して穏やかだった。
 レヴィンはカウンターで木の実を砕きジュースを作っている、ガメノデスに話しかけた。
「マスター、いつものを」
「おや、レヴィン。今日は早番かい?」
 まぁね、とレヴィンは一言返す。何年も通い続けている、行きつけのカフェだ。ここのマスターであるガメノデスは、レヴィンが自警団に入団したころからの知り合い。フロウもここの店に来ている。
 ただゆっくりとくつろぐ場所だけでなく、様々な情報や他愛ない会話をする場としても利用している客は多い。レヴィンもこのカフェで何匹かの知り合いを作って、町や町の外の噂などもよく仕入れている。
 カウンターでレヴィンがいつも頼んでいる飲み物、クラボジュースをマスターから受け取る。真っ赤に濁りを穿ち、水面は宝石のように輝くレヴィンの好物だ。ピリッとした辛みと、後味の良いのど越しがレヴィンのお気に入りだ。
 いつもならフロウと一緒に馬鹿な話をしながら時を過ごすのだが、時間がずれているのだから仕方ない。
 だと言って一匹でゆっくりするのも何か寂しい。周りは友や恋人を連れた者たちで賑わっているというのに。
 誰か隣にいてくれたらなー、とレヴィンは心もとないことを自分に言い聞かせていた。
「隣、いいかしら?」
 後ろからの突然の魅惑の声。透き通るような甲高い声にエレザードは振り返った。
「シャルロット……!」
 よくせいポケモン、メスのすがたのニャオニクスだ。白と紺色の体毛は見るものを振り返させ、宝石のように鋭く輝く眼は、一度見たら忘れない。シャルロットと呼ばれた名前以上に、気品が溢れ出ていた。
「レヴィンさん、いつの間に彼女さんなんかいたのですか?」
「な、なに馬鹿なこと言ってるんだよ。ただの幼馴染だから」
 このシャルロットもレヴィンの幼馴染。トリミアンと同じく、共に育った幼少期からの付き合いだ。
 まさかこんな行きつけの店で出会うとは思ってなかった。突然の来訪に、レヴィンは戸惑いを隠せなかった。
「それにしては物凄い美貌な……この私ですら思わずときめいてしまいそうですよ」
「うふふ、そうやって口で良いものを注文させようと思ってもそうはいかないわよ?」
 魅惑の笑顔をマスターに向ける。ガメノデスはカメテテが七匹に分裂して合体したポケモン。頭と四本の腕、二本の脚に頭はある。カウンターからは足以外の五つの顔が見えるが、その五つとも赤くほほを染まらせていた。
「マスター、客に惑わされてどうするんだよ」
「あ、いや……すみません……」
 ずっとニャスパーの頃から共に時間を共有したレヴィンにとって、シャルロットの行動はよく知っている。自分の美貌を最大限に生かし相手を誘惑する仕草は見ているこっちが小恥ずかしい。
「ここじゃマスターが仕事を出来ない。テーブルの方へ移動するよ」
「そうしてもらったら助かります……」
 マスターに一言告げると、レヴィンはシャルロットを強引に連れ、壁際のテーブルに腰かけた。


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「まったく、相変わらず目のやり場に困るくらい元気そうで何よりだよ」
「その言葉、ありがたく受け止めることにするわ。久しぶりね、レヴィン。その姿では初めまして、進化しても何も変わってないわね」
 先ほどの媚びる仕草はなく、シャルロット本来の自然な口調。長い時を共にした幼馴染には飾る必要などない。楽な仕草でレヴィンと接する。
 シャルロットは別の町で騎士として活躍している、この町の希望の星のような存在だ。
 各地の優秀なポケモンを集め、一つの大きな組織として成り立っている。各々の町に配属されている自警団では抱えきれない問題を、騎士と協力して解決するケースも珍しくない。
 シャルロットは、ニャオニクスの持つサイコパワーが非常に優れているのをスカウトされ、この町を離れた。夢にまでみていた騎士の位を、先に幼馴染に越されたのは悔しかったが、それ以上に身近な相手が大きな組織の一員として、活動していくのを見るのが嬉しくてたまらなかった。
 そんなレヴィンにとっての一つの希望の存在とこうして町で再開して、まさかこうして面と向かって話すことになるとは思いもしなかった。
「それでもよくオレだって分かったね。最後に会ったときはまだ進化してなかったんだよ。‘たいようのいし’を手に入れたのも一年くらい前のことだし、たまに送る手紙では書いていたけど実際に会ったことはなかったわけだから……」
「見た目が変わっただけで、中身がすぐに変わるわけじゃないもの。ひとりで寂しそうに、飲み物を飲んでいる後ろ姿を見れば一発で分かったわ」
 早速シャルロットの十八番、柔い口調ながらも棘のある言葉が突き刺さった。
「げっ、流石エスパータイプ。全部お見通しってわけか」
 悔しそうに顔を歪ませる。シャルロットは左手を手に添えながら、軽く微笑んだ。
「それだけじゃないわよ。ずっとあなたたちを見ていたもの。ものの数年で何も分からなくなるほど、ワタシは鈍感じゃないから」
「それはありがたいこったね。フロウもキミが町に帰って来たって知ったら、すぐにぶっ飛んで来るよ、きっと」
「アハハ、懐かしいなー、その名前を聞くのも。相変わらず何も変わってないでしょ?」
「ご名答。何も変わってないどころか、何も変わる気はないよ、フロウは」
 もちろんフロウも、シャルロットとは古い付き合い。特にトリミアンらしからぬ、お調子者のフロウは、よくシャルロットにちょっかいを出して返り討ちになっている光景が一番に思い出す。エスパー技で吹き飛ばされたり、叩きつけられたり、時には池に落とされたりと色々仕返しされていた。それにも懲りず、鬱陶しいくらいの粘り強さは、時にレヴィンを巻き込んでの成敗もあった。自分は何もしてないのに、とばっちりを受け‘ねんりき’の餌食となった。馬鹿馬鹿しい記憶だが、今となっては大切な思い出のピースだ。
 レヴィンの言葉を聞いて、シャルロットは声を上げて笑い出した。もちろん、上品なメスらしく口に手を添えて声を出すも、所々無邪気な仕草が垣間見るなど幼馴染との会話は、終始自然な様子だった。
「自警団になってもう三年だからな。昔と全く、何も変わってないのもすごいだろう?」
「それもそうかもね。にしても三年かぁ。もうそんなに時間が経ったんだね」
「時間なんてあっという間だよ。意識してなかったらすぐに過ぎ去って行く。暑いと思っていたらもう寒くなっていたり、賑わっていると思ったらもう何週間も前の話だと感慨に耽ったり……」
「レヴィン、あなたジジ臭いわよ。ワタシと同じ年なのにあなたの方がおっさんみたい」
「なっ、おっさんはないだろう。キミは本当、見た目によらず変なことをいつも言うんだから」
 このやり取りも懐かしい。いつもいただけに、こうして長いこと離れていると当たり前だと感じていたことが本当に大切だったのだな、と気づかされる。
「別に変なことじゃないんだけどなぁ。けど、あなたに会ってやっとこの町に戻って来たんだな、とようやく感じたわ」
「そうだもんね、キミにとっては本当三年ぶりだろう?」
「そうよ。忙しくて一回も戻れなかったからね。けど町の雰囲気が全然変わってないから、安心しちゃった」
 それはよかった、とレヴィンは変わらない幼馴染とこうして面向かうことで、自然と心の疲労が養われていた。やっぱり堅苦しくなく、自然体で会話出来る友はそう多くない。特に自分の何もかもを理解している良き幼馴染とは、隠すことも何もない。これほど気軽にリラックスするのは久しぶりだ。
「そういえば騎士がこの町に来るって話……キミの隊だったのか」
「あら、もう情報は広まっているのね。流石……というべきかしら」
 基本的に大きな情報は自警団の団長が仕入れてくる。それを元に誰が、どう行動するかを的確に指示するのは本当にリーダーとしての才能が溢れている。
「けど何をしに来たのか、というのは分かってないんだ。気になるけど、何でキミが戻ってきたのかも知りたいね。キミは騎士になって、この町に滅多に戻って来れないはずだろう?」
 シャルロットはレヴィンやフロウとは違い、この町に滞在していない。故郷を離れ、遠い地の先で騎士として活動している。
 各地の優秀なポケモンを集め、一つの大きな組織として成り立っている騎士の団。各々の町に配属されている自警団では抱えきれない問題を、騎士と協力して解決するケースも珍しくない。
 シャルロットは、ニャオニクスの持つサイコパワーが非常に優れているのをスカウトされ騎士になった。最初は彼女も戸惑ったが、必要としてくれる自分のため、そしてこの町の期待に添えるため、レヴィンとフロウの後押しもあって旅立った。夢にまでみていた騎士の位を、先に幼馴染に越されたのは悔しかったが、それ以上に身近な相手が大きな組織の一員として、活動していくのを見るのが嬉しくてたまらなかった。
 そんなレヴィンにとっての一つの希望の存在とこうして町で再開して、まさかこうして面と向かって話すことになるとは思いもしなかった。本当に三年ぶりなのだ。
「そうよ。里帰りに来たのは、もちろんその仕事のため。用が済めばすぐに元の町に戻るわ」
 すると、険しい表情へと移り変わる。ニャオニクス独特のエスパータイプの眼光は、他のポケモンとは違う。場の空気を支配して、どんなにやんちゃなポケモンもたちまち大人しくさせる。言葉を奪われるというか、エレザードも自然と口から発せなくなっていた。
「この町にね、あるお尋ね者のポケモンが入りこんでいるのよ。今あなたの団でも、話題になってない?」
 聞き覚えはある。だがはっきりとした情報は手に入れてないので、詳しい内容は分からない。
「私はね、そのお尋ね者を追ってこの町に戻ってきたの。お尋ね者のポケモンは、私が所属する町で最初に賞金首としてあげられたからね」
 ふぅ、と溜め息を吐くと、シャルロットはオボンジュースを一口含んだ。そしてようやく硬直していた口が解かれた。
 この緊張感は一瞬でも自然と心が引き締まってしまう。そこの切り替えや雰囲気作りなどが上手いから、この町でなく別の大きな町にスカウトされたのだろうか。
「何なんだ……そのお尋ね者って……?」
「えーっとね、それは――」
 と、シャルロットが口を開いたその時だった。
 突然店の扉が勢いよく開かれ、客を知らせるベルが激しく鐘を鳴らした。
「隊長!礼のお尋ね者の潜伏先が分かりました!すぐに招集を!」
「隊長! 礼のお尋ね者の潜伏先が分かりました!すぐに招集を!」
 いかにも真面目そうなヒノヤコマが、翼で敬礼をしながらシャルロットの元に駆け付けた。見た目はレヴィンとシャルロットより少し若い……後輩だろうか。
「それは本当ね?じゃあすぐにキャンプに戻るわ」
「それは本当ね? じゃあすぐにキャンプに戻るわ」
 そう一言告げると、ヒノヤコマは慌ただしく店を出て行った。あの表情と言葉から、周りが見えていないようだ。周囲の視線をものともせずただ一直線に行ったり来たり。
 店からしたらいい迷惑だろう。ガメノデスのマスターもいったい何が起きたのかポカンと棒立ちになっていた。
 その中で最も唖然としたのはレヴィンだった。その言葉、行動、そしてシャルロットの厳しい表情にレヴィンは一瞬で置き去りにされた。
「シャ、シャルロット、キミ隊長って……」
「そうよ。とは言っても、最近任されたばかりなんだけどね。もう忙しくて、こうして休憩していてもすぐに呼び出しを受けちゃう」
 愛想含みの笑みを浮かべる。だが嫌な表情は一切してない。今の立場に自分では受け入れている覚悟の表れなのだろう。
 思わず息を飲んだ。同時に手足が震えた。何て存在にまで駆け上がっているんだと。
 騎士の隊長などレヴィンからしてみれば夢を見るかのような存在。いつかはそのような立場になれたらな、と子どもの時に何度想像したことだろうか。
「ごめんなさいね、もっとゆっくり話せるかと思ったのに。また暇が出来たら、今度はフロウと一緒にあの森で!」
 シャルロットは笑みを浮かべながら去っていった。自分の飲んだオボンジュース代だけでなく、レヴィンの飲んだクラボジュースの代金分のお金をテーブルに置いて行って。
 シャルロットなりの気遣いだ。即ち、『次はあなたが奢ってね』というサインなのだろう。シャルロットに借りを返す、という理由を付けやすくするためだ。
 そんな後先のことまで頭の回るニャオニクス。圧倒的な存在感を放ちながら、店の中は異様な雰囲気で包み込まれていた。これほど視線を惹かれるメスというのは、いかがなものだろうか。
 それにしてもあのシャルロットが騎士の隊長。
 いつも一緒だったニャスパーが騎士団で信頼されるポケモンとなり、お尋ね者を探してこの町まで来ている。ああして誰かのために必死になっている姿は、いつ見ても眩しい。
 言葉の重みもそうだが、オーラがまるっきり違う。数年前に隣にいた幼馴染はいつしか遠い存在へと歩み出していた。
「ハハッ、何てスピード出世なんだよまったく……ね」
 それに比べ何も変わっていない。まるで違う世界にでも行ってしまったようなシャルロットの後姿に、レヴィンは強い劣等感を抱いていた。


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「レヴィン、暇なら今夜久しぶりに飯でも食わないか?」
「ああ、ごめん。ちょっと今夜は予定があるんだよね」
 午後は非番とはいえ、特に何をしようかと決め兼ねていた。休みの日はどこか町の外へ行ってリフレッシュでもしているのだが、妙に落ち着かない焦りが心の中で疼いていた。
 シャルロットと再会してから感じているこの焦燥。何か嫌な予感がしてならない。杞憂なのかもしれないが、とにかく落ち着いていられなかった。
 別の町から派遣されるほどのお尋ね者とは、かなり危険なポケモンなのかもしれない。大抵はその町の自警団などに任せる。他の自警団が別の町にやってくるのは非常に稀。しかも隊長が直々に。
 この町が好きなレヴィンにとって、町の平和が脅かされるのは心が痛い。シャルロットもきっと同じ気持ちだろう。生まれ育った町を守りたいという意志は。
 だとすれば休んでいられない。レヴィンは前を見た。一度本部に戻り、何か情報が入ってないか確認しようと。
「失礼します」
 本部の一室。町の情報などを一斉に集めている管理室にレヴィンは立ち入った。
「よう、お前かレヴィン。今日はもう上がりじゃなかったのか?」
「ええ。けど、どうしても調べたいことがありまして。」
 管理室には大きな棘の鎧を覆ったポケモン、ブリガロンがいた。レヴィンの上司にあたるブリガロンは、レヴィンも強く信頼しているポケモンだ。
「お前がこんな時まで調べ物とは、何か重大なことじゃないのか?」
「察しの通りで……実は――」
 レヴィンはシャルロットから聞いたことをそのまま話す。この町にお尋ね者が入り込んだ事、最近になって何か異変があったことなど、危機感を交えながらブリガロンに伝える。
「ふむ……なるほどな。別の町から自警団が来るのは知っていたが、そういうこととはな」
「あなたも初耳でしたか。この町の自警団に関する情報なら必ずここに来るのに……」
 些細な情報でも必ずここは通る。いつどんな小さな事が大きなピースの欠片になるのか分からないからだ。
「何か嫌な予感がするな。町の自警団に知られていない闇……こいつは詳しく調査した方がいいかもしれないな」
 ブリガロンはそう言うと、部屋の隅にある紙とペンを取り出した。ドンカラスの羽根ペンから出る字はとても滑らかな動きで品のある字を生み出していく。
「最近入った情報で、下町に夜になると開く薬屋というのが開いたらしいんだ。そこは普段下町に行かないポケモンもしょっちゅう出入りしているという話でな。どうも怪しいニオイを漂わせている。そこがお前の言ったお尋ね者と関係があるのかは分からないが、不確定の情報は調べてみないと真実は明らかにはならないからな」
 下町の薬屋。そして普段見慣れないポケモン。レヴィンはその言葉が頭から離れなかった。体がうずうずしてならない。
「さて、こいつを団長に渡して潜入の許可を貰わないと」
 椅子から立ち上がり、ブリガロンは書き上げた書類をロール状にまとめ、紐で縛る。
「……あの」
 レヴィンはその行動を見届けた後、口を開いた。
「その書類、自分が団長に届けますよ」
「え?けどお前はもう非番だろ?これは仕事だ。勤務外のお前に渡すわけにはいかないな」
 融通の利かない言葉にレヴィンの言葉は付き返される。
「ただ届けるだけでしょう?個人的に団長に確認したいこともあるので、そのついでにってだけですよ。それに、いちいちそのような事で固い事言ってたら石頭になっちゃいますよ?」
 少し挑発を交えた言葉でレヴィンはせがむ。うーんと頭を捻りブリガロンは溜め息を吐いた。
「何でそんなことにこだわるのか知らないが、そこまで言うならな」
 書類を投げ渡し、レヴィンは受け取った。
「くれぐれも中身は見るんじゃないぞ。団長に極秘で報告する内容が記されているんだからな」
「分かっていますよ。もう何年ここの自警団に努めていると思っているのですか?」
「それもそうか。じゃ、よろしくな」
 はい、と一言告げると、レヴィンは部屋から退出した。


 ブリガロンから書類を受け取ったレヴィンは誰かに見つからないように、居室の扉を開いた。この時間なら誰もないと踏み、明かりの点いていない部屋へと侵入する。
 自ら電気を起こし、辺りが薄く照らすように調節して視界が保たれるように部屋を照らす。
 そしてブリガロンの使ったドンカラスの羽根ペンを探す。黒い漆黒の羽根は薄暗い部屋では見つけにくい。だがあれでなければ、ブリガロンの字を完全にはコピー出来ない。
 ひとまずレヴィンは書類を開いた。丁寧な字で書かれた中には、下町の薬屋についての詳細が書かれていた。店が開く時間、誰がいつ入店するかのタイミング、そして客が何を持って出てくるかの現時点で分かっている内容が簡潔にまとめられている。
 そしてその薬屋に誰を潜入させるかと、任務の内容も。レヴィンはそこに目を付けた。
 潜入させるポケモン。それは隊長が決めてくださいと自らは指名してない。だがレヴィンはその文字一つ一つ焼き付くように読み返した。
 シャルロットは、今もお尋ね者を探し、町を捜索しているだろう。なのにどうだ、自分は休みをとり何もしない。呑気に次の仕事まで休むという理由なのだが、休息などないシャルロットのと比べるとそんな白状な現状に苛立ちを覚えていた。
 少しでも何かしたかった。だったらこの手がかりになるかもしれないという薬屋。ここは自分が、とレヴィン企んだ。
 書類の改ざんはご法度ものだ。だがどうしても行きたいという感情が抑えきれない。少しでもこの町のために動きたい。シャルロットのためになりたい。
 拒む気持ちを抑え込み、レヴィンは羽根ペンに手をとり、書類に自分の名前を書き加えた。
 この町の未来を託すだろうと言われた‘はつでんポケモン’、エレザードのレヴィン。彼は決してやってはいけない、禁断の行動に手を染めて行った。


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「ここか?」
 薄暗い闇の中で、レヴィンは一つの建物を見上げた。いたって普通の白い壁でコーティングされた小さな民家だ。周りに溶け込むように馴染み、見た目はとても目立つには見えない。
 極秘のため、自ら志願すればいつでも出動できる。むしろ今回のような非番の時に出動すれば、怪しまれずに極秘の任務を行えるという魂胆。大抵のポケモンは嫌うが、レヴィンは喜んで、むしろ頼んででも志願していた。
 シャルロットだけ苦労する必要はない。この町で煙が発っているなら火を消すのはその町のポケモンだ。
 レヴィンは一つ呼吸を整え、扉を開けた。
 建物の中に入るも、誰も歓迎してくれない。レヴィンは静かに扉を閉めると、建物の奥へ足を伸ばす。
「おや?どちら様かな?」
「おや? どちら様かな?」
 突如後方から冷たい声をかけられ、レヴィンは背筋を張る。
 振り向くとそこにはゴーストポケモンのボクレーがいた。宙にふわふわと浮かび、目は不気味に黒く渦巻いている。
「ど、どうもです。えと、予め頼んでいた強力な薬草を受け取りに来たのですが……」
「ああ、その件についての依頼かぁ。随分と早かったんだね、まだ少しかかりそうなんだイッヒッヒッヒ……」
 随分と怪奇的な喋り方にレヴィンは顔が引きつった。ただ一言会話を挟んだだけなのに、このボクレーが濃くレヴィンの頭にめぐる。
「まぁまぁまぁまぁ、もうすぐ完成するからさぁ、そこで待っていなさいよ」
 ‘サイコキネシス’でレヴィンの体が宙に浮き、手前の椅子に強制的に座らされる。痛みなど何もないが、不思議な感覚に体の神経が変な違和感を覚えている。
 ボクレーは奥の引き出しから、二種類の袋を取り出すと机の上に広げた。中からは小さく切り刻んだ木の実や薬草が数種類入り混じって出てきた。
「しかしなかなかいい顔してるさかいね。さぞ異性にモテるのだろう?」
 突然の話題に、レヴィンは言葉を詰まらせた。
「いや、オレはそんなに誰かをなんてありませんし……。メスの子にそんな話しかけられた経験もないです」
「あらら、せっかくいい顔なのにもったいない。まだ見た目も若いのだから、もっとハツラツと異性と絡めばよいのに」
「そうは言いましてもね……今の仕事で忙しくてなかなかそういう機会がないというか……今目の前のことで精一杯ですから。そういったものを中途半端にしたくないのですよ」
 一つ確認しておくが自分は潜入捜査に来ているのだ。迂闊に自分が自警団など言っては意味がない。
 しかし自然と話を上手く持っていく術も思いつかなかったのも事実。何かの話をダシに出来るほどスキルは兼ねそろえていない。
 自分は上司に望まれて来たというわけでないのだ。下手な真似をしたらただじゃおかない。だが一度踏み切ってしまったことに後ろを向いている場合でもない。
 ボクレーは客人用のだろうか、コップに一杯の水のようなものを入れた容器をレヴィンに出した。透き通った水面が水の純粋さを表している。
「ヒッヒッヒ、それはそれは殊勝なこと。そうやって張りつめているようじゃあ、いつか自分を見失うヨ。まぁ、それが本当に自分のしたいことなら、いらぬ口出しだけどサ」
 何か意味ありげな言葉を口にしたが、レヴィンは首を傾げるだけだった。同時に、乾いた喉を潤そうとボクレーが置いた水を口に含んだ。
 少し甘ったるい臭いがする。だが一口含むと、意外にも喉通りが良いことに驚いた。
 そしてレヴィンは一気にコップに含んだ水を飲み干した。
(すっげえ美味い……変にヤミツキになりそうだ……)
 予想外に口に合ったのか全部飲み干した。このままおかわりを頂きたいくらいに、レヴィンはこの味と舌触りが気に入ったらしい。
「ここじゃ少し暑いかな?向こうに客室があるからそこで待ってなさいヨ」
「ここじゃ少し暑いかな? 向こうに客室があるからそこで待ってなさいヨ」
 まるで煙のようにボクレーは姿をその場で消す。その怪奇な場面に思わず目を見開いていた。
 にしても案外気さくに話しかけてくるボクレーに少し気を抜きすぎてしまったか。何やら取り返しのつかないことをしてしまった気がする。
 そしてボクレーの言われた通り、赤い扉を開けた。
「あらあら。今日の客さんは初めて見る顔だわね」
 なんとまあむっちりと豊満なメスのポケモンがいた。体中のぬめぬめとした粘液がより異性を惹きつける役割を担っている。
 ……思わず息を飲んだ。一目見た瞬間に心臓の鼓動が止まらない。見たことのない魅力的な異性に、レヴィンの目は開きっぱなしだった。
 思わず息を飲んだ。一目見た瞬間に心臓の鼓動が止まらない。見たことのない魅力的な異性に、レヴィンの目は開きっぱなしだった。
「キ、キミは……?」
「どうも初めまして。グナーデよ」
 口角を釣り上げ、ヌメルゴンは笑みを浮かべた。やたら大人びた雰囲気を漂わし、こちらま惑わすかのような甘い匂い。メスのニオイに、レヴィンは頬を赤らめせざるを得なかった。
「グ、グナーデも薬を貰いに……?」
 経験したことのない感覚に、レヴィンは冷静を保てていない。目の前にこれほど心が眩むメスがいることに慣れていないのだろうだからか。
「そんな緊張しなくてもいいのに。可愛いんだから」
「――!」
 言葉が返せない。何故だ、何故こんなに頭の中が真っ白になる。
 いつも町のポケモンたちには気さくに話せるのに、このヌメルゴンとはろくに会話が出来なさそうな気がする。初めて目を合わしたのに、何故こんなにも意識してしまうのだろうか。
「ンフフ、にしてもよくこの場所に来ようと思ったわね~。見た目の割に大胆な性格なのね」
「えっ……?」
 グナーデの言葉が理解できない。その妖しい目を見てここは普通の雰囲気ではないということは体が知らせてくれたが。
「ありゃ、その様子だと何も知らない感じかな? ンフフ、けどその反応初々しくてすっごい良いなぁ……」
――体が……?!
 グナーデがレヴィンに触れると同時に、体の温度が一気に上がるような感覚。頭の中が真っ白になりそうな急激な体の変化に目の前のヌメルゴンの焦点がぼやけてくる。
「ヒヒヒ……どうやら効果はてきめんのようで」
「な、何をした!?」
 背後から冷たい空気にレヴィンは振り向く。手を口に装い、不気味な笑みを浮かべるボクレーの姿があった。
「なーにちょっとあの水に特殊な薬を混ぜてみたのですがね……これは予想以上に早い効き目で」
「何っ……!いったいどういうことだ!」
「それはこちらの台詞ですヨ、自警団のエレザードさん」
 ボクレーの言葉にレヴィンは目を見開く。
「まさかバレていないと思っていたのですが、そんな甘くはありませんヨ。ここに自警団の方が来るというのはすでに連絡が来てましてネ……まぁあなたのそのぎこちない態度見ていたらすぐに分かりましたヨ。部屋の温度を上げて水を飲ませようとしたら呆気なく飲んでくれて……。ここまで完璧にシナリオの通りに進むなんて、あまりの拍子抜けに褒めてやりたいところですヨ」
 何もかもお見通しということだったのか――
 何もかもお見通しということだったのか。
 まんまと敵の策に気持ち良く沈んだ哀れなエレザードをあざ笑うボクレーを、レヴィンは目を細めて睨んだ。
「ちなみに、あなたの飲んだのは最近巷で入手した特殊な木の実の汁を加工したのでネ……どんな効果が出るのか楽しみだったのですが」
 レヴィンの発情した様子からすぐに分かった。
 レヴィンの発情した様子からすぐに分かったようだった。満足そうな表情がよりレヴィンの怒りを買う。
「なるほど、興奮作用と同時に神経を麻痺させる効果が……ヒヒヒ、これは裏で出回せば莫大な資金が手に入りますヨ……」
 ここまでまんまと相手の都合に合わされているのに、レヴィンは悔しくて仕方なかった。だがすっかり目の焦点が合わなくなり頭の中で考えていることもすぐに真っ白になってしまう。心も着々と黒い闇へと染まっていく。
「けどせっかく来たのです。偵察だけでなく、お楽しみなさってくださいよ」
「ふ、ふざけた真似を……っ!」
 しかし口はグナーデに押し倒され、すでに身動きがとれなくなってしまった。ヌメルゴン特融の粘液が体に流れ落ち、離されても楽に体を動かせる状態ではなくなった。
「では、お楽しみ邪魔しては悪いので、私はこれで……イッヒッヒ……ヒャヒャヒャヒャ」
 邪悪な笑みを浮かべたあと、ボクレーは壁をすり抜け姿を消した。
 冗談じゃない、このままあのボクレーを逃がすわけにはいかない。それに一刻もここから抜け出さねば何をされるかたまったものじゃない。だが扉を開けようとした直前に、後方からグナーデに抱き付かれ身動きがとれなくなってしまう。
「こらこら~、あんたはこれからお薬の効果を試すんだから、ここにいなきゃ」
 体格に二倍の差があるエレザードとヌメルゴンでは、力の差も二倍ある。ギュッと強く抱きしめられ、ぬめぬめの粘液があるにも関わらず簡単には身動きがとれなくなってしまう。
「ふ、ふざけないでよ!離せ!」
「ふ、ふざけるな! 離せ!」
 暴れれば暴れるほど体力を消耗し、精神的に追い詰める。そんな姿を、グナーデはあたかも楽しみかのように微笑んだ。
 しかも次第と体の体温は上昇し、心臓が激しく鼓動をたてる。呼吸も一回ごとの間合いも大きくなっている。
「い・や・よ。ワタシもボクレーのお薬を飲んだのだから、お股がすっごくビクビクするのよぉ」
 グナーデの口からも、先ほどレヴィンが飲んだ媚薬のニオイがした。甘いニオイが鼻につくということは、このヌメルゴンもレヴィンと同じものを飲んだということ。互いに興奮する材料はすでに整っているということだ。
「何なんだキミは!会って早々こんなことを……!それにあのボクレーとはどういう関係だ!?」
「何なんだキミは! 会って早々こんなことを……! それにあのボクレーとはどういう関係だ!?」
「ただの付き添いよ。ワタシは色々とお手伝いをしているだけ……」
「なっ!ということは……お前もお尋ね者の――!ッ!」
「なっ! ということは……お前もお尋ね者の――!ッ!」
 しくじった、と後悔しようも後の祭り。目の前に悪人がいながら何も出来ないなんて。
 憎らしい笑みを浮かべ、グナーデはレヴィンを見下した。そして一瞬の隙をつかれ、レヴィンを軽々と持ち上げられる。オスとメスが逆の、お姫さま抱っことも言うべき、体を両手で抱えられる。
 降ろされた先は、ビニールで敷かれたベッド。ふかふかの羽毛などないが、体を吸収するほどの柔らかなクッションがある。激しく動いても体の節々が守れそうな。
「うふふ……あんたなかなか出そうな顔しているじゃない。これは期待できるなぁ~」
「な、何がだ……?」
「決まっているじゃない。白くて、熱くて、そんでもってドロドロとして……いちいち口に出させないでよ、んもう」
 魔性のニオイに、レヴィンの心中は半ば恐怖に満ちていた。妖艶というよりまさに淫乱。オスを求めるメスの眼に、惨憺たる感情すら抱く。
 一般的な行動ならまず抵抗するが、レヴィンの体はあの媚薬のおかげで自然とメスを欲しがっていた。感情と体が釣り合わず、より苦しい立場となっていた。
 全くの異性とこのような経験のないレヴィンは、もうどうすればよいのか全く分からなかった。この密室で全身ぬめぬめのドラゴンと、これからどんなことをするのかは頭で想像出来るも、未知数な出来事に全ての光景が異様に見えてくる。
 兎にも角にも言わず、グナーデはレヴィンの口にキスをした。すかさず舌を入れる辺り、よほど興奮して異性を欲しがっているのだろう。
 ドラゴンタイプながら弾力性のある体は耐性を保つだけでなく、交尾のときには大きな武器となる。
 舌から、首、胸、腹とお互いの体は密着に重なり合う。グナーデの粘液は、やがてレヴィンに万遍なく絡みつく。
 口を離された際も、互いの荒い息遣いにさらなる興奮材料に昇華する。一つ一つの行動が、より性欲を爆発的に増幅させていく。
「んっ……はぁっ……すっごくいい……キスだけでこんなにほとばしるなんて……」
 すでにグナーデの目は陥っていた。一度のディープキスで、すでに快楽の虜となっている。
 それほど強力なあの媚薬はもはや凶器だ。もしかして制作したあのボクレーはとんでもなく恐ろしい奴なのではないだろうか。
 もっと慎重にこの建物の奴らを警戒しておくべきだった。何もかもが後悔先に立たずだが、自分の視野の狭さに恨めしく思う。
「もっと欲しいなぁ。あんたも欲しいでしょ?ワタシの体……今だけ全部あげてもいいよ?」
「もっと欲しいなぁ。あんたも欲しいでしょ? ワタシの体……今だけ全部あげてもいいよ?」
 だが、おいしそうなものが目の前にあることに逆らえない自分も憎い。まるで自分がおかしくなりそうだ。いや、すでにおかしくなっていた。
 レヴィンは拒む気持ちすら制御できなくなり、グナーデの体をまじまじと見つめる。何度見ても、異性を惹きつけるセクシーな張り。むっちりと母性溢れる魅惑の肉体。
 トロトロと全身からベッドへ垂れ落ちる粘液は独特のニオイ、そして体中がヌルヌルになるのも、より興奮材料として高まっていくだけ。
 何より媚薬の効果だ。これほど頭の中が熱く、白くなったことは今までない。未体験の感覚に体も心も付いて行けていない。
 すでにレヴィンの肉棒はメスの匂いと空気で逞しく膨張していた。
「ウフフ……もうすっかり大きくなっちゃって、そのウブな顔もすっごく良いなぁ……」
 恍惚な表情を浮かべながらグナーデはレヴィンの肉棒を見つめた。すでに最大サイズへと発起した肉棒は今にも溢れだしそうに天へとそびえ立っている。自分の肉棒など誰にも見せたことのないレヴィンにとって、あまりにも刺激が強く恥ずかしいことだった。
 だがボクレーの薬のおかげか、羞恥心はかなり薄れている。寧ろもっと見てほしいと、破廉恥で肉体的な欲が支配していた。
「さあ……どんな味がするのかな……」
 妙な期待と不安が混じる。味わったことのない雰囲気に、全ての感情がコントロールできなくなっている。何故なら若い感情が普段の思考を掻き消していくからだ。
 そして粘液と唾液の混じる大きな口で、グナーデはレヴィンの若い肉棒を含む。
「うっ……!」
 初めての刺激にレヴィンは体が痺れる感覚を覚える。湿っぽくて、よりヌルヌルと粘液が沁みついていて、一瞬にして全部の神経が股間に集中する。
 倍の身長もあるヌメルゴン、いとも簡単にエレザードの肉棒など包み込める。
 すっぽりと肉棒は奥まで覆い被され、万遍なく極上の刺激が支配する。これでも密かに大きさには自信があったのだが、体格差とはいえここまであっさり包まれるのにも釈然としなかった。悔しい思いが炸裂する。
「すごいね、ビクビクしてもの欲しそうに熱くなって……初めてでしょ、こんなことされるのって……」
 一瞬で見抜かれてレヴィンの口は大きく歪む。
「図星だねぇ、そういう顔もすっごく良い……」
 同時に期待が大きく膨らんだのが分かる。何も知らないと知って圧倒的な優位な立場に優越感を抱いたのだろう
「ぐっ……やばい……これ……」
 交尾の経験のないレヴィンはもうすでに絶頂間近だった。だが相手は余裕をこしらえているだけあってオスが最も気持ち良くなるコツを突いてくる。口の中に含む刺激すらも一向に押し寄せる快楽の波にすっかり飲み込まれている。
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 絶頂を迎えようとしても、言葉すらまともに発せないレヴィン。ただグナーデの一方的な行為に成すすべはない。
「うっ……ぐぐっ……!もう……ダメだ……っ!」
「うっ……ぐぐっ……! もう……ダメだ……っ!」
 そして耐えられず口内で盛大に射精をしてしまう。しばらく自慰すらまともにしていないからか、並大抵の量ではない。いきなり射精させられグナーデは咄嗟に口を離した。
 勢いよく射精した精液は相手の顔を真っ白に染め、口からも第一陣が垂れ流れていた。
 一度の射精量でこれほど放出したのは初めてだ。これほど異性に行為をしてもらうのが気持ち良いなど知らなかった。
「はぁ……はぁ……」
 久しぶりの射精のため、疲労感が仕事以上に負担をかける。
 グナーデは顔から垂れ落ちる精液を舌で美味しそうに舐め回していた。
「すっごい濃厚……やっぱりキミみたいな年端の子は凄まじいわねぇ。それとボクレーの薬のお蔭でもあるかな? ンフフ、試作って言ってたけど、これならもう完成間近ってところかな」
 たった一回の射精なのに意識がもうろうとしていた。とんでもない快楽と刺激を受けたレヴィンの体は、慣れない体験に限界を迎えていた。
 これ以上弄ばれたら意識が飛んで行ってしまう。命の危険すら感じる。
「さーて、今度はワタシが気持ち良くなる番だねぇ」
 そんな警告も、このヌメルゴンの前では何も意味は成さない。すでに次の行為へと移ろうとしているグナーデに、レヴィンは力ある限りの抵抗をする。
 しかし赤子の手を捻るの如く、両手を押さえ付けられ成すすべも無く自由を奪われる。目に涙を浮かべ、レヴィンは最大限の意志を伝えようとも何も反応を示さない。
 妖艶な笑みを浮かべ、グナーデは残っている口周りに付いた精液を舐めとる。すでに粘液と混ざり、色が薄くなっているも濃厚な白濁液はかなりの粘りを帯びていた。
「色々考えたけど、全然我慢出来ない……食べちゃお……」
「色々考えたけど、全然我慢出来ない……食べちゃお」
 重量感のある体を起こし、寝そべっているレヴィンを跨ぐ。まだ射精したばかりで体力を取り戻していないレヴィンは体を動かす力も無い。
 だがそれに反し、肉棒はまだまだ足りないと言わんばかりに天高くそびえ立っていた。心臓がバクバクと鼓動を激しく
 だがそれに反し、肉棒はまだまだ足りないと言わんばかりに天高くそびえ立っていた。
 そして欲望の足りない肉棒を掴み、グナーデは自らの割れ目に当てた。
「ま、待って……!」
 心の準備の出来ていないレヴィンは枯れる声を上げて抵抗する。だがすでに自分の世界へと入ったグナーデは、レヴィンの聞く耳もたてない。
「うふふ……いくよぉ」
 万事休す。
 何もかも準備の出来ていないレヴィンの表情は絶望に満ちていた。未だにメスの膣を経験していない自分の肉棒。それを奪われる相手にも、自分にも。
 確実に奪われると思っていた。その時、
「……何?」
 大きな爆発音が隣の部屋から轟く。ドドド、と何かを破壊するような激しい音。一つ音を立てる度に爆音が大きくなってくる。
「ふん、どうやらここまでのようだね……」
 疲労で困憊しているレヴィンを退け、グナーデは口周りにこびり付いている精液を拭い取る。あれだけ肉欲に陥っていたグナーデの表情が、まるで違うものへと変貌していた。
 轟音は更に少しずつ激しさを増していき、こちらに近づいてくる。そして外側から鍵がかけられていた扉が真っ二つに破壊された。
 土煙と同時に飛び込んできたのは大きな両翼と耳。黒い翼から真空の衝撃派がグナーデを襲った。
 飛び込んできたのは見慣れない面子だった。自分と同じ、自警団員のスカーフをしたオンバーン。先ほどの‘エアスラッシュ’で扉を破壊した技のキレから、そうとうな手練れだとレヴィンは感じた。
「お尋ね者の一匹――!お前がそのヌメルゴンか!」
「お尋ね者の一匹――! お前がそのヌメルゴンか!」
「それが……どうかしたの?」
 グナーデは不敵に笑う。まるで状況を理解していないかのような不気味な笑みだ。追い詰められているという自覚がないのか、逃げる素振りも見せない。
 隙を見せる間もなく、オンバーンは‘りゅうのはどう’を繰り出した。青白い圧迫感のある波動が龍の形を帯び、グナーデに襲い掛かる。
 だがグナーデは避けようとも身を固めようともしない。ただ口角を釣り上げ‘りゅうのはどう’を真正面から受け止めた。
「強引というか短気というか……ねぇ」
 まともに攻撃を受けたというのに、相変わらず表情を一切変えない。衝撃の威力からかなりのダメージのはずなのに。
 同じドラゴンタイプなのだから‘りゅうのはどう’をまともに受けて辛いはず。なのに何故全く苦しい表情を浮かべないのだろう。
 意識がもうろうとしてくる。あれだけ激しい性行為に育まれて体力的にも精神的にも大きなダメージを受けている。
 目の前で自警隊との激しい攻防が繰り広げられているのに情けない。
 レヴィンは口を噛みしめながら、力及ばずまぶたを閉じた。


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「……突き止めるのが遅かったからこんなことになるのよ」
「申し訳ありません……何せ相手の行動に勘付かれるとこちらも次の対処が取りにくくなると思いましたので……」
「しっかりと情報を共有しないから組織的なミスが生まれるのよ。どんな小さな犯罪者だからといって、舐めているから油断が生まれるの。違う?そうじゃない?」
「うっ……それは……」
「あんまり時間を費やさせないでちょうだい。こっちにはもう手段が限られているというのに、つまらないミスで余計な仕事を増やすんじゃないわよ」
「……はい」
「とにかく、悔やむ時間があったら、あのボクレーの詳細をすぐに察知すること。いいわね」
 ガタン、と大きな音と共に静かになった。
(何だったんだ今の会話……)
 指示をしていた声質、そして話し手の言葉から察するにニャオニクスのシャルロットに違いないだろう。
 だがシャルロットおのあんな威圧的な喋り方は初めて聞いたので心底驚いた。隊長という立場上、部下に対して厳しくということなのだろうが、お澄ましだが心の底から優しさを持つシャルロットからあんな言葉が出てくるということに、幼馴染として動揺しているのかもしれない。
 すると、救護室の扉が開きシャルロットが入ってきた。レヴィンは体制を変えず背中を向けたまま息を殺した。
「起きているなら、寝たふりをする必要はないんじゃないの?」
 流石エスパータイプ。いや、タイプなど関係ない、長年共にいたから分かって当然なのだろう。
「まさか、あなたがあんなとこにいるなんてね。私が駆け付けた時にはびっくりしたものだよ」
「ハッ、それはこっちの台詞だよ。一番乗りでヌメルゴンと対峙したオンバーンも、キミの部下だろ?あんなすごい部下がいるなんて、本当キミが隊長の立場にいるなんて信じられないよ」
 レヴィンの声は震えていた。あまりの気まずさに意地の皮肉を言い聞かせるも、自信が全く込められていない。
 シャルロットは表情一切変えず、レヴィンの目を見る。シャルロットがレヴィンの考えを読めていてもレヴィンはシャルロットの考えが読めない。こんな胸が締め付けられながら相対するのは初めてだ。
「そうね、よくやってくれたとは思うわ。苦戦はしたけど、これでやっと状況が進展しそう」
「その言葉から捕らえたんだね。流石隊長」
 少し茶化す言葉を交えたのがしゃくに障ったのか、シャルロットは目を尖らせる。ただでさえニャオニクスの目は鋭いのにより威圧感が増す。
「けど残念なことに、ボクレーの方は逃がしちゃったけど。チャンスは少ないのに、こういうとこでビシッと決められないんじゃ……私もまだまだね」
「そんなことないよ。キミはよく頑張っていると思う。想像も付かない努力をしなければ今のキミはそこにいないと思うし」
「レヴィンにしては珍しく褒め言葉を使うね。その魂胆は……あの薬屋にいたことと関係あるのかしら?」
 グッと口を噛みしめる。やはり分かっていたことだったか。
「話はだいたいあの下品なヌメルゴンから聞いたわよ。どうやら、お楽しみの最中にお邪魔しちゃったようだね」
 一番言って欲しくない台詞を言われた。あの気が遠くなるような体験が脳裏に過る。
 悔しさと情けなさ、そして言葉に言い表せない背徳感。
 右手でわらの布団をギュッと握りしめ、感情を必死に押し殺した。
「私も馬鹿じゃないから、変な勘違いはしてないことは言っておくわ。目が笑ってなかったからねぇ、あのヌメルゴン。 あなたが&ruby(・・・・・){そんなこと};を自ら行うなんて、私は思っていないから」
 目の前の幼馴染から情けない事実を語られる様に、レヴィンの拳が強く震える。あまりに悔しくて体中の電気がパチパチと静電気を起こしていた。
「気の毒としか言いようがないけどね。ヌメルゴンとあなたが飲んだ飲み物から、とんでもない量の興奮剤と、未知の木の実の汁が検出されたって。監査したうちの隊員もおかしくなってしまってたから、相当ヤバいもの飲まされたんでしょうね」
 確かにボクレーのあの秘薬、というものを飲んでから記憶がうつらうつらとしている。大まかな記憶はしっかりと頭の中に刻まれているが。
「けど、おかげで色んなことが分かったわ。本当、残念なのはボクレーを逃がしてしまったことだけど。 こんなこと言いたくないんだけど、あなたが悪いのよ。得体の知れない所を知っていたのに、しっかり情報を入れずに単身で踏み込むなんて頭の可笑しい馬鹿たれしか犯さないことだわ」
「けど、おかげで色んなことが分かったわ。本当、残念なのはボクレーを逃がしてしまったことだけど。こんなこと言いたくないんだけど、あなたが悪いのよ。得体の知れない所を知っていたのに、しっかり情報を入れずに単身で踏み込むなんて頭の可笑しい馬鹿たれしか犯さないことだわ」
「……ごめん」
 謝って済む問題じゃないのは分かっている。だが言い返す言葉が見つからない。自分の無力さが全身を駆け巡り背徳感を与える。何も出来ない自分に、ただ腹を立てるだけだった。
「ま、あなたに喋りすぎたということもあるし、私も無関係というわけじゃないわ。 ……次こそは失敗出来ないからね……どんな手を使ってでも……必ず」
「ま、あなたに喋りすぎたということもあるし、私も無関係というわけじゃないわ。……次こそは失敗出来ないからね……どんな手を使ってでも……必ず」
 シャルロットが部屋の扉に触れた時だった。レヴィンの中で言葉に出来ない、自分で抑えられない衝動が襲う。目の前の幼馴染を、何故か放っておくことが出来ない。
「シャルロット……キミは……っ!」
「あら、もうこんな時間。あまりお喋りしている時間は無かったわ」
「待てよ!」
 退室しようとしたシャルロットを引き留めようと、レヴィンはすごい剣幕で叫んだ。
「さっきから引っかかっているんだよ。何故キミの隊が総力を挙げてボクレーを追っているのに、何故この町の自警団に協力を仰がない!?この町、森、川をよく知っているのはオレたちの自警隊だ!共に手を合わせれば姿を眩ました奴を見つける時間を短縮できる!そうだろう!?」
「さっきから引っかかっているんだよ。何故キミの隊が総力を挙げてボクレーを追っているのに、何故この町の自警団に協力を仰がない!? この町、森、川をよく知っているのはオレたちの自警隊だ! 共に手を合わせれば姿を眩ました奴を見つける時間を短縮できる! そうだろう!?」
 皆の情報を合わせればこの町ならず、周辺の状態もほぼ完全に把握出来る能力を自警団は持っている。誰もがこの町を思い、行動しているのは言うまでもない。ただ皆の笑顔を守りたい一心で活動している。
「あなたの言葉こそ甘ちゃんよ。自分の立場をもっと考えてよ。 町の一手を握る自警団と、大陸を任された騎士じゃ何もかも違うの。スケールも状況も、自警団じゃ補うことなんて出来ない。分かる?」
「あなたの言葉こそ甘ちゃんよ。自分の立場をもっと考えてよ。町の一手を握る自警団と、大陸を任された騎士じゃ何もかも違うの。スケールも状況も、自警団じゃ補うことなんて出来ない。分かる?」
「――なっ!」
 ふてぶてしい一言に、レヴィンの苛立ちが一気に高まる。頭に来る口調に我慢できなくなっていた。
「それが……それがキミの言葉か!キミの行動か!見損なったぞ!」
「それが……それがキミの言葉か! キミの行動か! 見損なったぞ!」
 まだ体力も回復しきっていない体を起こし、シャルロットに向かって威嚇する。何もかも安定していない自分の心が制御できない状態だ。
 激しい怒声が空気を震わせ、緊迫感をより強める。依然としてシャルロットの態度が変わらないのも不機嫌の原因だ。
「あなたがそこまで乱れるなんてね……分かった、じゃあ一つ試させて」
 すう、と息を整えると、シャルロットは耳をパタパタさせ始める。懐かしく危ない雰囲気。いつにも増して大きな危機感。
「そんなに協力したかったら、耐えてみてよ。私の技にさ!」
 右手を高々と上げ、両耳が大きく開く。耳の内側の目玉模様が露出し、同時に空気が波打つかのように歪みが生じ始める。
 するとレヴィンの体が締め付けられるように縮こまる。操られるようにして体が言うことを聞かない。
 昔からシャルロットと喧嘩したらエスパー技で反撃を喰らっていた。シャルロットの‘ねんりき’は痛い目を見た者ならどれほど強力か理解している。
「な、何だこれ……!や……めろ……っ!」
「な、何だこれ……! や……めろ……っ!」
 体が宙に浮いた時にはもう反撃のチャンスは失っていた。地に足が付いていない状態では何も行動が出来ない。
「いったいいつまで正気でいられるかしらね。私の‘じんつうりき’はよく吐かせるために使うんだけど、大抵は気絶しちゃって面白くないからさ……」
 体の芯から外へ破裂しそうになる。中の風船が内側から破裂するかのように圧迫感が息を詰まらせる。
 シャルロットのエスパー技がここまで強力になっているとは甘く見ていた。気のせいかシャルロットの口角が薄らと吊り上っているにも見えた。しかし視界はぼやけ始め、レヴィンの意識が遠退いていく。
「ぐっ……!がああっ!」
「ぐっ……! がああっ!」
 必死にもがき、自らの体内電気を一気に放出した。命の危険すら感じた故の自然の防衛本能だ。
 様々な方向へ電気を放出する‘10まんボルト’が部屋全体に轟き辺りを焦がす。サイコパワーを操っていたシャルロットの目が大きく見開き、‘10まんボルト’の電気はシャルロットに向かって放たれた。
「まさか……うわぁっ!」
 正面からレヴィンの技を受けたシャルロットの集中力は途切れ、開いていた耳の蓋が閉じられる。同時にレヴィンは‘じんつうりき’から解放され、宙に浮いていた体はわらの布団へ背中から落ちていった。
 すでに体の内側はボロボロだった。サイコパワーで大幅に体力を削られたレヴィンの息が全く整っていない。さっきまで散々な目にあったというのに、また違う疲労感がレヴィンを襲った。
「まともに受けたら危なかった……まさか私の技を脱出するなんて信じられない……いつの間にそんな力を……!?」
「……なんだって?」
 シャルロットの声は、自我を取り戻すので精一杯のレヴィンには聞こえていない。視界さえ虚ろだった。
「ふん、とにかくこんなくだらない要件で、あなたたちの隊に迷惑をかけるわけにはいかないのよ。私たちには干渉しないで欲しい」
 扉を開け、シャルロットはレヴィンから視線を外そうと必死だった。
「こんな口、レヴィンに言うのもどうかと思うけどね……もしあなたの団長に顔を合わすことがあったら、伝えてて頂戴。私たちの隊がいる間……あまり変な行動はしないでねって」
「こんな口、レヴィンに言うのもどうかと思うけどね……もしあなたの団長――あのゲッコウガに顔を合わすことがあったら、伝えてて頂戴。私たちの隊がいる間……あまり変な行動はしないでねって」
 扉を勢いよく閉めシャルロットは姿を消した。辺りには自ら放った‘10まんボルト’の爪痕。命辛々逃げ出したとはいえ、シャルロットのサイコパワーは恐るべき脅威に変貌していた。
 これが騎士の隊長を任されるほどの実力の持ち主なのだろうか。自分たちとは比べものにならない巨大な力と組織をバックに暗躍するシャルロットの陰はあまりにもインパクトが大きすぎる。
 それほどの力を持った隊が、苦戦するほどの相手。あのボクレーはいったい何者なのだろうか。それほどの力を持ってしても捕まえられないポケモン。そりゃ町の自警団ごときでは駄目だ。
 これでは本当にシャルロットの言う通りになってしまう。まさに乗っ取られている状態だ。かつての幼馴染がそんな行動に移すなんて信じられない。
「くそ……いったい何なんだよ……」
 何故こうもじっとしていられないのだろう。事実を訊き出せなかった自分の口に苛立ちがあるのだろうか。
 それよりも、シャルロットの言葉に籠った聞き捨てならない言葉。
――私たちには干渉しないでほしい。変な行動はしないで――
 何か違う感じがした。いつものシャルロットの雰囲気ではない。
 感じたことのない悪意に、レヴィンは脳裏からシャルロットの出で立ちが消えなかった。いったいシャルロットの身に何が起きているのだ。
 こんな目で幼馴染を見る日が来るなど想像もしなかった。だが胸騒ぎが収まらない、このまま放っておけば必ず良くないことが起きる。
「もう一度……会ってみようか」
 全てを知るには当事者に聞くしかない。脳裏に思い出したくもない記憶が鮮明に蘇るが、レヴィンの目に迷いはなかった。


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 時はすでにあの事件から三日が経っていた。
 依然としてシャルロットの隊は町に潜伏していた。すっかり町中に噂は広まり、今や物珍しさに町のポケモンたちは、騎士を見ようと駐屯地は日に日に賑やかさを増していった。
 不祥事を起こしたレヴィンについては、団長から厳しく叱りを受けたものの、シャルロットの隊が事前に庇ってくれていたらしく、大きな罰を受けることなくいつもの仕事に復帰した。
 尻拭いまでシャルロットに任せてもらっては、レヴィンの腹の虫はただ怒りを抱くだけだったが、それも日に日に感情は鎮火していた。
 フロウからも時々言われるが、『レヴィンは根に持つことが本当少ないな.』と。
 元からそういう性格だからかもしれない。一時の感情に激しく流されるものの、手のひらを返すように無かったかのように収まる。
 もちろんあまり褒められたことではない。けど昔から根付いた自分の性を今更変えろなど出来ない。これは自分の個性なのだと、どう生かして活用していくかが大事だ。
 だが収まらない胸の衝動は日を跨ごうとも消えはしなかった。
 自分を犯したあのヌメルゴン。シャルロットの隊が町の留置所に捕らえられていると耳にした。ボクレーが見つかるまでは、干渉しないよう隔離するためなのだろう。
 よく考えればあのヌメルゴンも不憫なものだ。
 記憶が曖昧となっているが、ボクレーのお手伝いと言っていた。それなのに、主犯のボクレーは早々と逃走、ヌメルゴンを置いて逃げ出した。
 そしてシャルロットの隊に捕まったとなったら、ヌメルゴンはこれから色々と訊き出される。多少乱暴に扱われようが情報を訊き出すまで良くない扱いだろう。
 ヌメルゴンがどこまであのボクレーの事を知っているか分からないが、シャルロットの件もあるので知っている限りはさっさと吐いて楽にさせたいと思っていた。
「お疲れ様です。交代の時間ですよ」
 軽い口調で、レヴィンは留置所の中にいたゴロンダに声をかける。このゴロンダもレヴィンと同じ町の自警団の一員だ。
「ああ、この時間からはレヴィンか。大変だな、お前も」
「騎士が来てから、すっかり自分たちは雑用がメインですからね。それより、ヌメルゴンは……どんな感じですか?」
「あれから一向に何も話そうとしない。騎士団の奴らも、まだ何も手を出していないから、進展は無いな。暴れたりは全くしてないから大丈夫だと思うが、くれぐれも気を付けておけよ」
 介錯を打つと、レヴィンはゴロンダに変わり留置所の鍵を受け取った。これでこの施設はレヴィンが陣取ったと言ってもいい。
 レヴィンはヌメルゴンの捕らえられている牢屋へと着いた。それぞれが個室に分けられ、それぞれに声や音が漏れないよう、固く分厚い壁に隔離され、扉には隙間もない。
 外から鍵をかけられた中はまさに牢獄だ。孤独な空間の中、罪を犯した者は裁きの時まで自由を奪われる。レヴィンはこの空間が嫌いだ。訪れる度に溜め息が出る。
 警備の者が中に入り、投獄者の様子を伺うのがこの担当の仕事。中には凶暴で歯止めの効かない者、共にいるだけで自分がおかしくなりそうなやつなど多種多様。そんな相手にするのだから誰だって進んで推薦したくない仕事だ。
 扉には頑丈に鍵がかかっており、外部の者が簡単には侵入しないようになっている。
 レヴィンが牢屋に入る否や、ヌメルゴンの戸惑いの表情が目に映る。
 自分を無理やり襲い、淫らに肉棒に喰らいついたあの光景。トラウマにはなってないが、思い出すと悔しさと情けなさが滲み出てくる。
 足を鎖でつながれており、自由に身動きがとれない状態となっている。最低限の活動しか許されていない。
 体力はあるようだが、背中に覇気がない。恐らく、技で暴れないように全部の&ruby(パワーポイント){PP};を吸収されたのだろう。
 ヌメルゴンは一度レヴィンに目を合わせた後、それきり目を合わせなくなった。
 何も言葉が発せないのだろう。こういう時どうすればいいのか、分かっていないのだろう。
「……グナーデだったね」
 ヌメルゴンの名前を再確認する。とても不思議な響きのする名前は一度聞いたら忘れない。グナーデは視線を反らしながら、小さく首を縦に振った。
「よかったよ健康そうで。どうやらまだ何もされてないみたいだね」
 扉を閉めると同時に鍵を締める。密室の空間に二匹の雌雄のポケモン。場の空気がガラリと変わった。
「オレがキミに何かすると思っているんだろ」
 レヴィンは重いトーンで声を発した。狭い、薄暗い牢屋の中で響く声は発したよりも声の質が重くなり、より迫力が増す。
 グナーデは何も答えない。ただ覇気のない瞳を反らしながら、まるで聞き入れようとしない。
 ふてぶてしい。一言で言えばそうだ。
 だが別に腹立たしいとは思わない。牢屋に繋がれた奴らはほとんど同じ反応をする。監視が来たところで、何も話さない、早く出て行けと無言の圧力をかける。だが不思議と気持ちに焦りはない。
「キミから受けた仕打ち、オレは許す気はない」
 心の底から恐怖を感じた。それは簡単に晴れるものじゃない。
「けど元はといえば、オレが先走った行動を起こしたことで仕出かしたことだ。この失態はオレに責任がある」
「……」
 瞳が僅かに動く。聞こえてはいるらしい。
「だから、オレはキミのことを何とかしようなど思っていない。だからオレからの貸し借りは全部無かったことにしてくれよ。全て何もなかった。記憶から消してほしい」
 彼女との関係をこれ以上こじらせても意味は無いというレヴィンの考えだ。事情はどうあれ、今は町の自警団と騎士団の追っている手配者という立場で釣り合うものじゃない。
 納得はしてくれなくて構わなかった。どう受け止めてくれるのか確かめたかっただけ。もうこのヌメルゴンと関わることは無いのだから。
「……フフ」
 だが、レヴィンの言葉を聞き終えると、グナーデの口から声が漏れた。官能的で色気のある声色。少しの声でも思わず振り向いてしまいそうなほど魅惑的だ。
 しかしそれにしては思っていたのと反応が違う。あっけなく受け入れるのか、そうじゃないのか、それとも表情を変えず無言を貫くのかと予想していたのだが、それらに反して笑っているのだ。
「自分の仕出かしたこと?何も出来なかったくせに、自分で自分の首を絞めるような言葉を連ねて……」
 グナーデはレヴィンに対して挑発的な態度で言い返した。
「やろうとしたことは全部自分の自己満足でしょ。その証拠に、あーんなに気持ち良さそうな顔しちゃっててさぁ……フフッ、すっごく可愛かったの思い出しちゃうよ……」
 所詮安い挑発だ。頭の中では理解している。
「何が言いたいの?オレは物事をはっきりしないと気が済まない性格だから、言ってよ」
 ならこちらは強気に攻める。相手に流されては思うツボだ。レヴィンは目をキュッと引き締め屈しない態度を見せる。
「色々聞いたよぉ。あんた自分があの薬屋に行くために無断で書類を書き換えたそうじゃない。馬鹿だよねぇ~そんな無謀なことして何にも成果を得られないようじゃ」
 何故その情報が囚人に行っているのだ。準備してなかったことに対して急激に心に焦りと怒りが入り混じってくる。
「そんなこと……キミには関係ないだろ……!」
「何ていうかねー。子どもっていうか、ガキね。今も自分が優位にたっただけで全てを勝ち誇った気持ちになっているでしょ。後先も考えず、ただ自己満足に行動を進めようとしているだけ……そんな奴がね――」
 伸び縮みする頭のツノでレヴィンを引き寄せる。鎖に繋がれていて油断していた。ヌメルゴンはヌルヌルの粘液が零れ落ちる腕よりも、頭のツノの方が脅威だということを。
「何が責任よ。その言葉を発する重さすら知らない、あんたはただのお子様よ。何も出来ないくせに……でしゃばっちゃって」
 引き寄せられた体は、グナーデの体に抱き付くように受け止められる。やはり一回りも大きい相手だと力ではなかなか敵わない。
 体に付いたヌメルゴン独特の粘液、ぬめぬめがレヴィンの体に粘り付き、こびり付く。
 急激に思い出させてくれる。あの行為を、頭の中が真っ白に、体が沸騰しそうに興奮するあの感覚を。
 冗談じゃない。あのような屈辱をまた味わうなど二度と御免だ。
 それなのに何故だ。頭の中では冷静なのに、体が反発するかのように力が抜ける。本能が黙ってくれない。
「あんたのような何もできない癖にプライドだけ高い奴を見ると潰したくなるのよ……ンフフ、なんてね」
 冗談の中で一瞬だが黒い笑みが見えた。少しずつだがこのヌメルゴン、グナーデの本性が露わになっている。
 まるで闇の中で光を待つ暗黒の存在。窓から降り注ぐ月の光が、より影を濃くする。
「キミは……」
 魅惑的なのにどこか悲しい存在。慈悲もなくただ黒に染まる魂。
「キミは悪魔か……」
 今の心境をうつつに表しただけだ。自分はただ、自警団という仕事にまっとうしたいだけなのに、レヴィンは悔しさを滲ませグナーデを睨んだ。
 口元が吊り上る。不気味に、不可解に、そして悦ばしげに。グナーデの心がよく解る。
 瞳の中で渦巻く黒い感情が露わになっている。涎を垂らすほど美味しそうな獲物を目の前に冷静を保てなくなっている。
 迂闊だった。この牢屋に入った時からすでにグナーデの領域に入っていた。
 食らい付き、決して逃がさない眼差し。まるで尻尾を掴まれた獣のように、体の自由を奪われる。
 性に飢えたメスは種子を絞るためオスを呼び込む。その未知の空間はどんなオスもメスの言いなりになる。
 薬屋では全く感じ取られなかった。このヌメルゴン、とてつもなく恐ろしい奴だと。自分はこの世で最も手を出してはいけない相手に遭遇したのだと。
「あんた確か……レヴィンだったよね……」
 悪寒が走った。名前を呼んでだけなのに魂を覗かれるかのような冷たい美声。
「実はずーっとこの中で退屈なんだよねぇ~。太陽があまり当たらないのは構わないんだけど、何分体を動かさないから痛くて痛くて……」
 鎖で繋がれているのだから広い範囲で動かせないだろう。何日もこのような状態にいては、体は鈍っていくに違いない。
「だからぁ、このまんま一緒にエッチしようよ……あんたとは中途半端に終わったんだから、もっと味わいたいのよ」
「ふ、ふざけるな!誰がキミなんかと――っ!?」
 運動不足解消というだけではないだろう。もっと手前勝手に、欲を喰らい尽きたいのだろう。
 全力で拒否するレヴィンだが、全てを言い終わる前にグナーデに口をふさがれてしまう。手やツノでなく、グナーデのぷるん、と柔らかい花弁で。
 あの時と同じような口づけだ。だが今回は気持ちの入り方が全く違う。相手を屈服させようと自分のペースに取り入れようとしている。
 だが程よい舌触りが全ての考えを白にする。柔らく弾力のある舌と、互いの唾液が入り混じり心を熱くさせる。
「うっ……あっ……あっ……」
 濃厚に口内で舌を絡ませ、互いの味を芯まで堪能する。音はたててないものの、全ての神経が舌を伝い緊張を解してくれる。
 他者との口づけの経験すらレヴィンは疎いのだ。これほど濃厚で熱い世界に呑み込まれては簡単には帰ってくれない。
 メスに対する免疫も少しくらいあればまた違うだろう。今になってもう少し異性と意識して考えを改めていれば、と後悔した。
「はぁ……すんごい、舌触りがワタシの好み。ンフフ……気に入ったよぉ、あんたのこと」
 口を離すや否や、透明で月明かりで妖しく輝く橋がふたりの間に垂れ下がる。
 どんなに理屈を並べようが、自分は一匹のオスだ。ただの甘ちゃんだと痛感させられる。
 軽く脳内に蘇っただけで、股間に熱が帯びる。貫いていた自警団の心が砕ける。
 このヌメルゴンに触れただけなのに、どうして呆気なく心が支配されるのだろう。ハリボテの強い自分が弱い自分によって壊される。
「可愛い可愛いオスの子……すっごく若いニオイがするぅ……」
 グナーデの目の色はもはや狂人的なものだ。獲物を目の前にして興奮している野獣の目。
 ギュッとレヴィンを抱きしめ、自らの弾力のある体へと手繰り寄せる。骨が折れる、ほどでもないが簡単には抜けられないようしっかりとホールドされ、身動きがとれない状態だ。
「うっ……あぁっ……」
 柔らかな弾力に、独特の粘液、そして魅力が興奮と成り得る爆発的なフェロモンがレヴィンの心をくすぐる。
 あの時は媚薬の効果であまり相手のことは覚えていない。それは記憶だけでなく、匂いや感触、五感の全てだ。
 体はもう求めている。自らの肉棒はグナーデと自分の腹の間でふたりの間を掻き分けるように侵入していた。熱と固さを帯び、透明な先走りを出しながら膨張していく。
 今こうして体を密着させ、傍から見ればラブラブなカップルが抱き合っているのだろうが、そんなとろとろと甘い状況など一切ない。どろどろと堕ちていくビターなブラックテイスト。苦さと甘さの紙一重に、レヴィンの心は少しずつ黒に染まっていく。
「いいなぁ……やっぱ他の子の温もりは良いやぁ……すっごく興奮する」
 体を体が密着し、粘液が卑猥な音をたてながら二匹の間に溢れかえる。
 膨張した肉棒はグナーデの柔らかな腹にぬめぬめと共に擦り合っている。枯渇油となった粘液が効率良く肉棒を刺激し、熱を帯びていく。
 苦しいが気持ち良い。離れたいのに離れたくない。
 矛盾が矛盾を呼び、心が疲労を溜めていく。だがそんな葛藤もすぐに杞憂だったと打ち崩されるのであった。
「……えっ!?」
 腹が熱い。それも徐々に、ではなく急激に熱湯のような熱さを感じた。グナーデも違和感に勘付いたのか、拘束を解き、腹を確認する。
 白く、粘液よりも数倍ネバネバとしたモノが、腹と腹に橋を掛けていた。
 意識していない。なのに何故自分の肉棒から白濁の液が出ているのだ。少量だが、一番ということもあってかなり濃い色をしている。
「あらあら、擦っただけ射精しちゃったの?アッハハハ、ほんっと可愛いね~」
 初めて見る痛烈で下品な笑い声だ。まるで悪魔が獲物を追い詰めたような絶望を与える冷酷な声。
 顔を真っ赤してレヴィンは歯を食いしばった。どこまで醜態を見せれば気が済むのだろうか。
 それにしても、まさかたったこれだけで快楽に達してしまうとは、情けなすぎて笑えてくる。
「ん~、やっぱりすんごい濃い。あんたとんでもない逸材だよ」
 どんな言葉をかけられても今のレヴィンに受け入れる余裕はない。ましてや自分の性欲の度合いなど知る由もない。
 自分を見失う。今まで出会ったことのない自分が自分を支配しようとしている。
 少しだがグナーデの表情が緩んだ気がした。だが相変わらず冷たい瞳は熱を帯びていない。
「ンッフフフフフ……やっぱりその様子だと、ろくに異性と関係すら築いてないでしょやっぱり。いいねいいねぇ……もっと恥ずかしい姿見せてよワタシにぃ……」
 交尾すら経験のない自分と、オスのオまで知り尽くしたようなグナーデではこの場の立場というのは明らか。
 的確な皮肉にレヴィンは返す言葉も無かった。
「あらあら、本当のこと言っただけなのに、傷付いちゃった?じゃあ……」
 厭らしく、そして悪意に満ちた笑みがグナーデの口に表れる。何もかも確信を突かれ、心を弄ばれていた。
 一方、レヴィンの口からは何も言い返せない。反撃する言葉が見つからない。
 ここで反抗しなければただのヘタレだ。だが頭の中をフル回転させても自分の口は開かなかった。
 完全に縮こまってしまった。このヌメルゴンに屈してしまった。もう隙いるチャンスは無い。
「お詫びにワタシがいっぱいいっぱい、エッチなこと教えてあげるねぇ」
 ペロリと舌なめずりをした様は本当に見るものを絶句させそうだ。どんな理由を付けても性行為がしたいらしい。
「とは言っても一回味わっちゃったんだよねぇ。ンフフ、おかわりしてもいいかな?」
 いったい何をする気だ――とレヴィンは不安を抱いていた。だが、グナーデ自分の想像より遥か先の考え、信じられない行為へと誘った。
 いきり立ったオスの肉棒を、自らの粘液を垂れ流し、ぬめりを浴びさせる。粘着性の高い緑色の液体は、太く長く熱を帯びている肉棒を包み込んだ。
「こうすると気持ち良いんだよぉ……たっくさん出してくれて構わないからねぇ……」
 粘液でドロドロになった肉棒を、グナーデは自らの尻尾を巻き付ける。太ましく、弾力のある尻尾も粘液を帯びており、少し力を入れただけでヌルっと滑り離れてしまいそうに。
 だが器用にグナーデは肉棒を上下に運動させ、根本から先端まで程よく刺激を与える。
「な、何だこれ……気持ち良すぎる……」
 往復するたびに、息が荒く激しくなる。自慰を行う際も、このように刺激を与えるが並の感覚ではない。粘液とヌメルゴンの尻尾のコンビで、容赦なく迷いのない運動で抜き続ける。
 先ほどの意図的ではない射精から、レヴィンの肉棒は更なる絶頂を求めている。どれだけ心が拒否しようが、メスを求める身体が勝手にグナーデを欲する。肉欲には逆らえない、もう飲み込まれるしかない。
「くおっ……こ、腰が砕ける……ッ!」
 頭が真っ白になる。柔らかい尻尾の感触と粘液の組み合わせがどんな手段よりも肉棒を震え上がらせる。
「ぐっ……もうダメだ……やめ……て……ッ!!」
 苦痛だから拒否したのではない。ただ自分の精液がグナーデに降りかかるのが嫌だった。
 しかし抵抗すればするほど、グナーデの表情は黒く、厭らしくなっていく。絶頂へと近づくその顔を見るのが、面白くて楽しくて仕方ないのだろう。
「だ……で……でる……っ!うあぁっ!」
 全てを楽にするため、レヴィンは勢いに任せ肉棒から大量の精液を放出させた。生きの良い、真っ白で粘りと臭いのする白濁液は弧を描きながら、グナーデの尻尾を伝い、体へと飛び散る。
 一番遠くまで射精したものでグナーデのツノまでかかったものもある。あまりの快楽に勢いは想像以上のものだった。
 これまで薬屋での行為以降、急務や疲労で自慰すらしなかった。いや、する気力が無かった。
 短い間だったが、溜まっていた分、グナーデの性的な魅力、何より経験したことのない刺激。様々な条件が重なったこの卑劣な行動にレヴィンが耐えられるはずがない。
 体は自分でないように操れず、むしろこの先の事に期待しているかのよう。思い出せあの薬屋での出来事を。成すがままに性的に弄ばれ、悔根を感じたあの屈辱を。
「んはぁっ、すごいなぁ……こないだより多いんじゃない?」
 大量の射精で尻尾はドロドロと精液が床に垂れ落ちる。グナーデは、絶頂に達し真っ白になったレヴィンと膨大な射精の量に大きな満足感を表情に浮かべる。
「ンフフフフ、まるで龍が火山から飛び出したように……物凄いところ見られて最高ぉ……」
 こちらとしては最低な気分だ。敵意を向けたメス相手に、これほど不様な恰好を見せては意地もプライドもボロボロだ。
 もう自分の意志すら感じなくなっている。たった二度の絶頂で疲労感は半端ない。
 こういった行為に慣れていないからかもしれないが、レヴィンは初めて尽くしの経験で立つことすらままならなかった。
「これほど出すモンならすっごい期待できそう……早く入れたいなぁ」
 射精してまだ敏感な肉棒を弄るように手で触る。ビクリと肉棒は生き返るように膨張した。こんな官能的な気分に陥ったことは今までない。レヴィンも不本意ながら気が大きくなっていた。
 一度スイッチを入れてしまい、歯止めが効かない。勢いよく空振りした強気の攻めはもう跡形もなく沈み込んでしまっていた。
 自らの秘所を手で触り、湿り気を確認する。水気の良いぬちょぬちょと滑りを帯びた音がする。
 表情こそ変わらないが、体は欲しているのだろう。グナーデの体に触れている時も、鼓動ははっきりと聞こえていた。
「でも前座はしっかりしなきゃ……ほぅら、舐めてごらん?」
 内股を広げ、グナーデは自らの秘所をレヴィンに直視させた。
 言葉に出来ない、オスにとっては未知の領域であるソレが目の前に広がる。ましてや一度も目に映ったことのないレヴィンは目を丸くさせ視線を外せなかった。
 水漏れ、と言ったほうがいいのか。半透明で少し濁りのある液体がトロトロと蜜から流れ出ている。グナーデもかなり性的に興奮している、そう本能が勝手に理解する。
「遠慮しなくていいよぉ、好きにしてくれていいからねぇ」
 それでも表情は変わることはない。頬が赤く染まっても目や口が、殆ど変化が無いのだ。
 何も動じない鉄の心、そう表すのがレヴィンにとって最も分かりやすい。自らの大事な部分を異性に見せても何も変化がないのはかえってつまらないと思ってしまう。
 だが何もかも初めてのレヴィンにとってそんなことはもうどうでもよかった。理性などとうに失い欠けているのだ。
――ヤバい、ここで止まなければ戻れなくなる――
 そういった部分も弱さから来ているのだろう。止まらない自分が我を忘れさせる。
 高まる感情はもう自分で止められない。ただひたすら、目の前のメスにしゃぶりつきたい。
 意地やプライドなどもう捨ててしまった。あるのは淫乱で強欲なありのままの自分だ。
「もう……どうなっても知らないよ」
 右手で触った感触は、ぬるぬるして熱かった。同時にグナーデから甲高い声が僅かながら漏れる。
「ンフフ、そうそう……もっと豪快にいっていいからねぇ」
 レヴィンの耳元で魅惑的な声を浴びせる。それがレヴィンの理性を壊す引き金となった。
 一度頭の中を真っ白にして、何も考えないようにした。全てを欲っする我が侭の自分に任せる。
 舌の使い方など丸きり知らない。だが頭で考えるより先に体がどうすればいいか反応する。
「そう、いいよぉその感じ……なかなかいいセンスしてるじゃない」
 初めてにしては、というレヴィンの巧妙な舌使いに恍惚な笑みを浮かべる。すっかりグナーデの虜となったレヴィンに、遠慮など存在しない。
 分泌液は舐めれば舐めるほど止まることをしらない。摩訶不思議なメスの性器に、あらゆる感性がレヴィンを内側から変えていく。
「あんっ……ふぅっ……いいねぇ……」
 エレザードという種族の独特の舌使い。アーボやハブネークといった蛇のポケモンに似た舌は細やかに肉壁を刺激する。
 小刻みに体を震え上がらせ、生暖かい吐息が漏れる。
 やはり一度勢いに乗ったオスはメスに求める勢いが断じて違う。初々しさの残るレヴィンにグナーデの意気組みは更に高潮していく。
「だめ……もう我慢できないや……欲しい……欲しいなぁあんたの……こんなこと今まで無かったのにねぇ……とんでもない罪作りだよ……レ・ヴィ・ン」
 舌で口周りを舐め回しより準備は万端、と言いたげだった。
 官能的なメスの声と共に、レヴィンはすでに何を言っていいのか言葉すら思い浮かばない。すでに目の前のメスに喰われる寸前というのは理解している。だがあくまで頭の中でだ。
「オレも……もっと……欲しい」
 それでも制御できなかった。自分の肉体は完全に異性を欲していた。どんな形であろうと、目の前にメスのフェロモンを存分に発しているドラゴンに心は完全に掻き乱れていた。
 膨張した肉棒の欲しさは、レヴィンの理性全てを持っていく。もう何がどうあれ何でもいい――諦めすら伺う。
 主導権を握ったグナーデがレヴィンを押し倒す形へとなった。本気で求めているのだろう。躊躇なくグナーデは雄々しく天を向く肉棒を掴んだ。
 自分の蜜が垂れ流しになっている膣口へと番う。互いに最も暑い部分へと結合し始めた。
「はぁっ!んんんっ!」
 流石にグナーデでもオスの肉棒を無造作に受け入れるということはなく、ゆっくりと甲高い声を上げながら腰を落としていった。
 肉棒を徐々に挿入していく瞬間を、レヴィンは瞬きを一切せずに凝視していた。自分の大事な部分がこうしてメスに喰われていくところを見るなど、昨日までの自分には考えられないことだ。
 グナーデの膣口はやはり熱く、ヌルヌルと蜜が纏わりつく。これで興奮しないオスはいないだろうな、とグナーデの名器を心の内で誉め立て得る。
 声を震えさせながら、小さく喘ぐレヴィンは根本までグナーデに受け入れるのを見届けると、そのまま視線をグナーデの目に移した。
「んあぁっ……やっぱりこの瞬間たまんないねぇ、最高だよぉ……」
 しかしメスの中というのは湿っぽいのに、こんなにも気持ち良いものなのか。こんな中で動かれては、またすぐに達してしまう。
 涎をたらし、下品に息を荒くする様すらも性的に見えるのは自身も高ぶっているからなのか。
 ともあれグナーデが自分の肉棒で程よく感じているのは都合がいい。表情が分からない分、言葉で読み取らないと地獄が続くだけだ。
「もっとほら、動いちゃうよ」
 四の五の言わず、グナーデは腰を上下に運動させる。
「あっ……あっ……!」
 自分の肉棒を凝視し、結合部にすっぽりとはまったグナーデの秘所から音をたてながら見え隠れする様に目を疑う。
 心臓はバクバクと鼓動が早まり、全ての神経が股に集中する。動く度に刺激が集う。
 正直舐めていた。交尾がこんなにも気持ちいいなど予想を遥かに上回っていた。
「ンフフ、中ですっごくビクビクしてる……感じてるんだ、嬉しいなぁ……」
 中を攻められグナーデも息を上げていた。重い体を上下に動かし、膣の締め付けをより強度なものになる。
「す、すごい……これが……」
 無限に広がる快楽にレヴィンはオスながら高い声を発する。普段出さない声に自分自身がどうやって発しているのかと思う。
「最高でしょ?ワタシの中、気持ちいい?」
「そ……そりゃ……」
 一つ息を吐くと、レヴィンはグナーデを力強く抱きしめ性器が繋がったまま体を横に回転させる。体制は真逆になり、今度はレヴィンがグナーデの上に乗る形となった。
「凄すぎるよこんなこと……!」
 興奮のあまり、レヴィンの瞳はギラギラと欲に塗れていた。性欲に支配されたオスの姿はただただ醜い。特にレヴィンのような経験の無いオスは簡単に陥ってしまう。
「驚いた……あんたがそんな行動するなんてね」
「今更だよ、ここまでやらせといてそれはないだろ」
 少し口を歪ませ、グナーデは笑った。目の色が変わり、グナーデ自身もレヴィンを見る目が変わっていた。
 本能が成すがまま、レヴィンはグナーデの腰をしっかりと掴み、腰を上下に振る。やり方など全く知らない、だが生き物としてのノウハウがこういった場面で発揮される。
「はぁっ、んあっ、いきなり、そんな強くっ、大胆なのね!」
「んぁ……そりゃもう……オレ我慢できないし……」
 完全に自尊心を失ったレヴィンは、思いのままに腰を振り続ける。肉棒がグナーデの秘所の中で暴れる度に、快楽は新しく刺激する。こんな気持ち良いことやめられない。
 一度疲労感を、全面に感じるほど射精したおかげなのか、思う以上に耐えてくれている。おかげで初めてのメスの秘所にレヴィンは堪能していた。
「うはぁ、すごい……あんたの太くて熱いのがぁ……!」
 徐々にグナーデも肉棒の快楽に刺激され、魅惑的な嬌声を上げる。これまでの冷たく嗜虐的な声でなく、メスとしてオスをより求めようとする淫乱な喘ぎ声。
 自らの声がより興奮を発揚させ、上下に運動する肉棒を思う存分堪能する。
 求めていたのはこれだ。そう思わせる膣口から溢れ出る蜜が物語っている。
「もっと、もっともっと頂戴……いくらでもエッチな気分、高めてあげるからさぁ」
 腰を振っているレヴィンを包むように抱きかかえ、グナーデは全身を包み込んだ。体中からグナーデの粘液がバケツをひっくり返したように流れ落ち、レヴィンの全身は粘液で目も当てられない状態となった。
 グナーデ自身も粘液を浴びて、全身至るところが摩擦のない状態へとなった。
 文字通りお互い全身、ぬめぬめの状態だ。心だけでなく体の芯まで溶けてしまいそうに。もう何もいらない、この一瞬で最高の時間を何度も何度も体感したい。
 全身滑りのある付け薬を塗ったかのような艶めかしさは普段とは段違いの魅惑さを表していた。
 首から腹に続くライン、太く弾力性のある脚。互いに粘液を浴び、潤滑となって柔らかい部分を擦り合うとまた新しい刺激となって興奮が増す。
 性器が繋がったままレヴィンはグナーデの腹部へ身を寄せた。ヌチャリ、と卑猥な音をたてながら腰にしがみ付き、リズミカルに腰を上げ、肉棒を子宮へ突き刺す。
「ヤバッ……これヤバい!ブッ壊れそうだ……!」
 これまでになく病みつきになりそうで恐ろしくなってくる。普段なら嫌がって気持ちが下がる粘液だが、場と状況によっては気持ちを高まらせる。全身ヌルヌルで人前には到底出られない恰好だ。だがそんなことはどうでもいい。こんな刺激的で痺れる行為、もう自分の中に潜む悪魔に全てを売ってでも行くところまで堪能したい。
「ンフフ……中で大きくなってるのが分かるよぉ、すっごく興奮してるんだね」
 僅かだが肉棒が内側から痛くなる。これ以上なく膨張して膣口に締め付けられていてはそう長くは持ちこたえられないだろう。
「ほらぁ、もっと突いて、思いきり激しくしなきゃ満足できないよっ!」
 どんなに腐ってもドラゴンタイプ。喘ぐ咆哮が室内で轟き空気が大きく震える。本当に心から快楽に満ちているのだろう。同じタマゴグループだからその意図が感じられる。
 特融のグナーデの咆哮が頭に響く。より心臓が激しく鼓動を高め、肉棒の熱が上昇する。闘争心に似たアドレナリンが全身を駆け巡り運動を更に加速させる。
「ふああっ、すごい、すごい、こんなに力強いなんてぇ……!」
 まさに一心不乱にレヴィンはグナーデの体を求め続ける。同じく雄槍に犯され続けすっかり欲に溺れたグナーデも、肉棒を絞り上げようとする。
 これまでになかった反応として、小刻みにグナーデの体は痙攣し、肉棒の刺激を真っ向から受け止めている。
 自分の肉棒でメスをこれほど感じさせることに、レヴィンは大きな優越感と自信が湧いていた。あれほど見下していたヌメルゴンが、こうして自分に犯され喘いでいる。オスとしてこれほど満足な瞬間はない。
「あっ、やばっ、すごく、熱い!すげぇいっぱい出そう……!」
「アハハ!いいよぉ出して、中で溢れるほど……いっぱいエッチで熱いのきてよ!」
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 もっとこの行為を味わいたいのに、限界を迎える自分に対して辛辣な思いが湧く。
 外で出すという考えがレヴィンには全くなかった。こんな気持ち良いことを半端な結果で終わらせたくないという自らの我が侭だ。
 先の事は考えず、ただただ味わいたい。煩悩に犯された末路だ。
「はぁっ……だめ……で、でるよっ……!」
 絶頂を迎えると同時に勢いよく中に突っ込ませ、最奥に行き届こうように濃厚な白濁液を注ぎ込もうとする。頭の中が真っ白になり、最後に奥まで突き刺したのを最後に絶頂に達した。
「グ……ナーデ……ッ!ごめん――っ!!」
「あっ!ふああっ……レ、レヴィンッ!!ふああっ!!」
 狭い牢屋の中で二匹の獣は欲がままに声を上げた。グナーデも盛大に膣口から分泌液を放水してギュッと肉棒を締め付ける。
 一回目よりも刺激をもらった肉棒から出される白濁液は熱も量も段違い。放った精液はグナーデの蜜ツボにたっぷりと注がれ、満たしていく。刺激と高ぶる興奮によって放つ精液の量は並大抵のものでなく、あっという間に膣内は一杯になり、行き場を失った子種は溢れんばかりに肉棒と膣の間から流れ出る。流れ落ちる白い精液は、グナーデの太ましい足へと伝い床へと到達した。
 波打つ度に射精を繰り返し、自らの欲を存分に発散する。もう出ないはずなのに、肉棒からは絶えることなく熱い欲望を注いでいた。
「ア……アハハ……お腹が熱いや。とんでもない量を注いでくれちゃったね……」
 秘所から引き抜くや、滝のように白濁液が股座を伝い、足下には小さな白い水たまりが量の多さを具現している。一番驚いているのはレヴィン自身だ。
 これほど壮絶なことになるとは思いもしなかった。すでに三回目となる射精、レヴィンの体力は限界を迎えていた。
「ほら……最後に……」
 ドクドクと種子が垂れ流しになる股座を装い、グナーデは肉棒にしゃぶり尽くす。
 射精して間もないのに、休憩無しの猛攻は神経を大きく虐める。すぐにやめないと死んでしまいそうだ。
 しかし抵抗はしなかった。すでにレヴィンの目は魂が抜かれたように光が無く、もうどうにでもなれ、と言わんばかりにグナーデの勝手に任せていた。
「――ウッ!」
 短時間の刺激でも最後っ屁は残っていた。量は少ないもののグナーデの口の中で熱くドロリとしたものが流し込まれた。
 もちろんグナーデは口外に吐き出したりせず飲み込み、肉棒周りに付いた白濁液を舐めとる。慣れた舌使いは果てた後にも関わらず敏感に刺激する。
 すっかり搾り取られたレヴィンは、抜け殻のようにその場に倒れ込む。計四回ものの絶頂に、レヴィンの体力も精力もすでに0になっていた。
 これほど交尾が激しく理性を狂わせるものだとは。いや、グナーデだからかもしれない。
 これ以上刺激的な交尾に出会うのはこの先もうないと、レヴィンは薄れていく意識の中思い立った。全てを曝け出し肉欲に酔う様など一生誰にも見せられない。
「ンフフフフ、ご馳走様……」
 最後の最後までその笑みは消えなかった。本当に心から楽しそうで気持ち良さそうにしていたグナーデ。まさに驚嘆に値する。
 甘く、官能的で夢中になる。だがどこか切なく、背徳感がじわじわと心に溢れる。だがレヴィンの初めてはあまりに刺激が大きすぎて達成感というものを全く感じられなかった。
「ハハ……そりゃ……どうも……」
 弱々しい声を発すると共に、レヴィンはどこか優越な気分になっている自分がより憎らしいと思っていた。


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 月明かりにより目の前のヌメルゴンの輪郭がぼんやりと輝いて見える。もうかなり月も落ちてきている時間なのか。
 互いに少し休憩をとった後、立てるまでに体力の回復したレヴィンの心境は、それは最悪だった。
 初めての行為を目の前のヌメルゴンに捧げ、こうして面と向かっていることに現実味を帯びていない。視線も合わせず、ドギマギした様子でレヴィンは項垂れていた。
「ンフフ、ほらほら恥ずかしがらなくていいのに。ワタシは別に気にしてないからさぁ」
「そういう問題じゃない!第一キミから仕掛けてきたことじゃないか!」
 呆気なく、情けなくグナーデにまんまと喰われてしまった。その事実にレヴィンはまだ平常心で受け入れていない。
 だが自らの初体験を、この淫乱ドラゴンに奪われたことに不思議と後悔はないのだ。あまり細かいことを気にしない性なのだが、それにしてはあっさりしすぎているに感じる。
「オレはキミが気にしているんじゃないかってのを、さっき思い出したよ。とんだ勘違いでこっちはとんでもない目にあったのに」
「ごめんねー、ワタシこういう性格で」
「その性格はすぐに直したほうがいいよ」
 本当に正気の沙汰じゃない。ところ構わず性的に喰らいつくグナーデの性癖は、ここまで来ると清々しいものがある。
「直せるかなー。性格なんてそんな簡単に曲げることなんて出来ないよぉ。すぐに手ェ出しちゃうし。その証拠に……あーんなにワタシの中で出しちゃったのに……もう後戻りできないくらいに」
 おっ広げに自らの性器を広げ、レヴィンに凝視させる。広げると同時に、大量の白い液体がドロドロと流れ出てくる。まさに白、というべき濃厚で粘りのなる白濁液があまりにも生々しく、それが自らの仕業だと信じられなかった。
「やめろそうやって見せるな!デリカシーというか……キミの神経構造がいったいどうなっているのか、全く理解出来ない!」
 艶やかな性器から溢れる精液はからっぽになった性欲をまた復活させそうになるほどまだこの刺激には慣れていない。これ以上何も出ないのに、頭の隅でまた欲しいと煩悩に踊らされる自分がいて悲しくなってくる。
「ンフフ、やっぱりあんたいいなぁ、その反応最高……。もう一回くらい激しくリトライ出来ちゃうかも」
「いやそれはもう冗談抜きでやめてくれぇ!」
 すっかりレヴィンの中でトラウマとして脳裏に記憶されてしまった、グナーデとの行為。あれほど激しく濃厚な交尾というのは、この先二度と体験出来ないものだろう。もちろん、二度と体験などしたくないが。
「アッハハ、本気になっちゃうあたり、やっぱりまだ意識してんだ。若いっていいね~、その調子でどんどん他の子とエッチしちゃいなよ」
「何が言いたいのかさっぱり分からない……これじゃあ婿に行けないよ全くよ……」
 セクハラにしか聞こえないグナーデの言葉に、レヴィンはツッコミが追い付かない。変態的な言葉をいくら連ねても、このドラゴンは全く動じない。ここまで清々しくはっきりしていると、受け入れるのも楽だ。
「……けど、何でこんなにあっさりしてるんだろ。気持ち良かったのは認めるけどさ」
「えらく素直な言葉ね。あれだけワタシに楯突いてたのに」
「別に何もないよ。ただ何か毒気が抜けたというか、監視の目から解放されたというか……自分でも何か変な感じ」
 例えるなら頭から冷たい水を被り、頭の中がリセットされたような感じ。上手い言葉は見つからないが、兎に角グナーデに対して敵意が向けられなくなった。
「フフ、まぁワタシもあんたと似たような気分かも。一発交わって、色々すっきりしたのかな。ここんところ、フラストレーション溜まっていたからね」
 とても落ち着いた口調で、最後に鼻で笑う。狂気は全く感じない。その場にいて体は自然と落ち着きを取り戻していた。
 鉄格子の窓から夜空を眺めていた。月が丁度鉄棒と鉄棒の間にぴったりとはまり込み、見事な金色の光を放っている。月の光はグナーデに降り注ぎ、少し幻想的なヌメルゴンにレヴィンは瞬きすら惜しいと思えてしまう。
 そうだ、とレヴィンは思い出す。自分はグナーデに聴衆しに来たのだと。今なら何か聞きだせるのではないか、とレヴィンは口を開いた。
「こんなタイミングで聞くのも何だけど。 何でキミはあのボクレーと一緒にいたんだ?あの時の言葉、キミは本心じゃない気はしてならないんだ。キミは、本当は悪い奴じゃない。そう思えるんだ」
 あくまで自分の直感だが、的は射ていると思う。何も確証はないが、レヴィンは自らの勘をただぶつけた。
「ボクレーねぇ……まぁ色々ワタシにもあるからねぇ。別に大したことじゃないけど、ただ放浪していたワタシを誘ってくれた。どうせ何もやることは無かったし、暇だったから」
 えらく適当な返答にレヴィンの肩の力がガクッと抜ける。そんな適当な理由で騎士に追い駆けられるなど溜まったものじゃない。
「どっちにしろ一緒に色々悪さをしていたのは事実なんだし、ワタシは騎士の連中に引き取られて当然の身なの。 いいのよこれで。一緒にいたとはいえ、そろそろウザったいな、と思っていたところだし。最終的に逆らえない所までワタシも堕ちちゃったから」
「何かすごいいったい何をされていたんだ?」
「しつこく訊くね~あんた。そんなにワタシに興味があるの?」
 ニヤリと口元を緩ませながら、レヴィンを見つめる。一度意識してしまったものにチャームをやられると一瞬でも気が泳いでしまう。
「い、いやいやそんなつもりは……!」
「ンフフ、からかいがいあるよあんたは」
 どこまで意地悪なのだろうか。ニヤニヤと笑みを浮かべるグナーデは、他のメスとは違う魅力だ。ただ淫乱な性格させ表立っていなければ、相当異性からアプローチを掛けられるのでないか。
「あのボクレーはね、この世には存在してない薬を開発するといつも言っていた。こないだ飲まされたエッチな気分になる薬もそう、自分にしか作れない物を作って、それをこの世に認めさせようとしている。 それがどんな非道な手段になろうと、犠牲を生もうと――ワタシを捨てようと、自分の目的のためなら何だってやるヤツだよ」
 様々な言葉が一度に飛び交い、レヴィンは目を大きく見開いた。
「だから騎士は追い掛けているんだろうね。裏では行く所まで行き込んでいるし。遂に、というか遅すぎた気もするけどね」
 やはり自分の目が届かない所では、何が起こっているのか全く分からない。自分の視野では、到底知り得る事実など一握りも無いのだと痛感させられる。
「聞いているようじゃ、キミは利用されて捨てられただけじゃないか。悔しくないのか?憎くないのか?」
「何も感じない。そう、別に特別な感情を抱いていたわけでもないし、抜け出したいとも思わなかった。ただ流されるままにいただけ。だから何も気にはしていない」
 レヴィンの心が大きく震えた。グナーデの感情が容易に読めなかった理由が分かった。
 感じないのではなく、感じていないんだ。普段当たり前のように自分たちが表している感覚が欠落しているのだ。
 そんなこと有り得ない。だが現に目の前にそれがいる。
「そんなのって無いよ。何でオレが悔しい気分になるんだ……。本当に何もないのかい?手助け出来る範囲なら――っ!」
 これじゃあ最初にグナーデに言ったことと同じだ。中途半端な優しさで相手を慰めようなど、個人のエゴでしかない。通常なら手出ししてはいけない相手だ。
「レヴィン……あんたやっぱ優しいね。 けど自分の立場、理解しなきゃまた同じ悲劇の繰り返しでしょ」
「……そうだよ。オレはこの町の自警団だし、キミを庇うことは出来ない……。けど、こんな情が生まれるなんて思ってもみなかったんだ。ただそれだけだよ……」
 これほど今の自分が恨めしく思うとは考えもしなかった。これほど相手に対して感情的になる日が来るとは思わなかった。
 純粋に、グナーデが放っておけない。下品で毒舌で最悪の初対面だったにも関わらず、こうして目を反らせないのは可笑しいのだろうか。
 どうしたらいいのか自分の中で混乱する。手出し出来ないのに放置出来ない。葛藤と矛盾が交差する。
「……レヴィン、ちょっと」
 グナーデからの手招き。フッとその顔を見たと同時に、何気なくレヴィンはグナーデの手元に身を寄せた。
「――えっ!?」
 口を覆い、ぬちゃっ、と卑猥は音が脳内に轟く。同時に粘り気のあるお馴染みの弾力ある舌が口内を襲った。
 舌の根まで攻めきられているディープキスなはずなのに、この体が弾むように夢心地を見ているような感覚は何なのだろう。最初は驚きで受け入れが遅れてしまったものの、次第に舌の感触が慣れてきてこちらからもリズムが合わせられる。
 弾力ある舌と、若干ぬるぬると粘着性が高いものの逆にそれが舌を馴染ませやすくなっている。一度体を重ねてしまった者同士、ある程度楽に受け入れることが出来るのだろうか。
 口を離すと同時に、若干の虚しさが残る。不本意ながら、気持ち良くグナーデを受け入れたサイン。
「これでもうチャラにしてくれる?」
――なんてずるいんだ。こんな言葉を言われてはもう何も言い返せなくなる。
 意識し始めた瞬間に、価値観が大きく変わる。こんなことってありなのだろうか。すでに自分では制御しきれない何かが心の中で渦巻いている。
「本当、何であんたとこうして話せるんだろ。騎士には全く言う気は無かったのに。ま、こうやって話せるのも久しぶりだからね。何年……いや何十……もっと……」
 どこか寂しげなグナーデの表情は、絵に描いたようにレヴィンの目に美しく映っていた。
「いや、そんな事考えても仕方ないよね。レヴィン……不思議なエレザードだね、傍にいるだけで心が軽くなるよ……」
 穏やかな口調だった。同時にどこか悲しく、そして喜びの交えたグナーデの言葉だ。
 レヴィン自身も共にいて不思議な感覚を抱いていた。理屈じゃなく、本能だ。誰にも理解されなくていい。
「マズイ、長く居すぎた」
 時計の針は&ruby(ケンタロス){丑};の刻を示していた。夜の交代の時間、すでにその時が迫っていた。よくこのタイミングで気付いたな、と自分を褒めた。
「ボクレーを探しているんでしょ? あいつなら、多分見つからない。けどこの町からは逃げてはいないはず。この町であることを成し遂げないと出て行かないはずだからねぇ」
 まるでレヴィンの心を掻い潜るかのように、グナーデは口を開いた。
「ゴーストタイプだから精神を簡単に乗っ取ることが出来るやつだからね。今頃誰かの中で……」
 スッと頭の中で何かが合致した。グナーデの言葉が何を意味しているのか瞬時に理解した。奴は&ruby(・・){そこ};にいる。だがら今すぐ行け、ということに。
「それをオレに教えて大丈夫なの?」
「もういいの。ここいらが潮時なのよ。あんたと話して何もかもふっきれた」
 その言葉がどういう意味を表しているかは知らない。だが、レヴィンはグナーデの言葉で一つ疑念を抱いていることが確信へと変わった。
「もうあんたが成すべき事は分かったんでしょ。なら、そこへ行きなさいな」
 別れを惜しむつもりはないのだろう。迷いのない言葉、表情は変わらず何を思っているのかよく分からない。それでも感じ取れるのはグナーデの本意。
 まるで自分の何から何まで手のひらで操られたかのように、自分のするべき事を言われる。分かりやすい、というのもあるだろうが、グナーデ自身が相手をよく見ているからだろう。見た目によらず観察力が鋭い。
 全身ぬめぬめのお尋ね者のドラゴンポケモンは、レヴィンに強烈な記憶を埋める大事な一ピースとなった。
「いつかまた会おう、グナーデ。次はもっとキミのこと知りたいから」
 扉に触れた途端に、心に小さな穴が空いた気がした。けどレヴィンは振り向かなかった。またもう一度、その出で立ちを見られると信じて、そして後悔したくなかったから。
 最後にどんな表情をしていたのかは分からない。常にポーカーフェイスを保っていたグナーデだ。いつもと変わらないふてぶてしい笑みを浮かべて見送ったのだろうか。
 衝撃が頭の中からしばらく消えそうにない。だが消そうとも思わない。
 こういった適当な心意気が、自分を苦しめたり楽にさせたりするのだろう。レヴィンはつくづく自分の性格を悔い改めようと、グナーデの言葉を何度も頭の中でリピートさせた。



「ンフフ、その甘さが自分を苦しめるんだよ。辛辣なこと言ったのは謝るから、もっと自分に厳しくなりな、レ・ヴィ・ン」
 ニヤリと口角を上げ、グナーデは月の明かりを背に妖しく、そして不気味に微笑む。
 彼女のエメラルドの輝き以上に輝く瞳は、一匹のエレザードを色濃く映していた。グナーデ自身も彼に影響されたらしい。
「……けど、それとこれは関係ないけどね」
 繋がれていた鎖を片手で引き千切った。頑丈な鉄の素材にも関わらず、当たり前のようにバラバラにした。
「ワタシも動かなきゃ。あ~んな逞しい子がまだまだこの世界にいるんじゃ、こんなところでボサッとしている暇はないね。 そうだ、あのアブソル……あー名前何て言ったっけな……今どこにいるか探ってみないと」
 まだまだ波乱の予感は収まらない。だから世界は醜く、面白いのだ。


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後書き
閲覧ありがとうございます。クロフクロウでした。
最初エレザードとヌメルゴンのやつを書こうと思ったのが今年の3月か4月くらいだったのですが、安定の遅筆で結果自分の首を絞めることとなりました(
そして何より、挿絵を描いてくださった[[朱烏]]さん本当ありがとうございます!
サイズがデカくて縮小しようと思いましたが、折角素敵なイラストを描いてくださったのを小さくするのも申し訳なく、
かなりの大きさで読み込みが遅くなったり容量が大きくなってしまった方々には申し訳ないです……。
改めて、朱烏さんにはお礼と感謝を申し上げたいです!お忙しい中、とびっきりの挿絵お疲れ様でした!


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