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堅物将軍恋をする の変更点


#include(第二回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle)

この小説には&color(white){♂から♀への性転換};と&color(white){ポケモンなのに裸は恥ずかしい};の表現が含まれています。
なお、軍の関連用語がありますが軍隊と騎士団を足して二で割ったようなものなのであまり気にしなくていいです。
苦手な方はすぐにブラウザバックを

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*堅物将軍女になる [#n48b609a]
*堅物将軍女になる [#n48b609a]  
                    作:[[COM]]

私の名はニド、ニドキングだ。
今は戦時の真っ只中、最前線で大将軍を務めている。
長きに渡り続いたこの戦争も我々の軍の勝利という形でもう終戦へと向かっている。
しかし、私は今迷っていた。
長いこと続いたこの戦争も前線に立っている為に次第に激化してきたのが身に染みて分かる。
そうなれば今までよりも多くの兵士が必要になり、同時に多くの兵士が傷つき、倒れ、死んでいく…。
祖国のために戦死していくことは何よりも名誉なことだと頭では理解している。
だが…ならば彼らの家族はどうなる?
家族だけではない、恋人、親、親友、様々いるだろう。
彼らを思う、待つ者達は何と思うだろうか?
一人でも多くの兵士を無事帰してやりたい。
生きて今一度自分の大切な人達に会わせてやりたい。
そう思えば思うほど私の肩には人の命が重くのしかかり、いつも冷静にそして正確に立ててきたはずの私の作戦に自信を持てなくなっていた。
作戦は完璧なはずだった。
その作戦の通りに兵士を動かせば確実に今回の戦闘は勝利を収めるだろう。
しかし、その通りに兵士を動かせば、恐らく多大な兵士が死傷し、帰らぬ英雄となるだろう。
そんな相反する思いが私の頭の中で、心の奥底でぶつかり合い、&ruby(せめ){鬩};ぎ合い、&ruby(よど){澱};み、答えを出せなくなっていた。
「多くの国民を守るためならば…我らが命を賭して戦うしかあるまい…。」
ニドはそう自分自身に言い聞かせるように呟き、納得のいかない、解決することのない問題を無理やり納得させた。
こうするしかない…これが最善の選択…。
ニドは心の中にある反する思いを振り払い、おぼつかぬ足取りでベッドへと泥のように滑り込んだ。
『いつからなのだろう…これほどまでに人の命を重たく感じ、自分の作戦に疑いを持つようになったのは…。』
未だ晴れぬ体の疲れにも似た鉛のように重たい心の疲れものしかかり、両の瞼が閉じるまでにさほど時間はかからなかった。


彼、ニドは実力で大将軍まで登り詰めた実力者だった。
新兵だった彼は小隊での作戦を遂行している際に、その隊の小隊長と衝突し、勝手な行動をとり一人その小隊と別の行動をとった。
本来ならば上官の命令は絶対((命令違反は厳罰に処される。旧日本軍では死罪に値する))。
背こうものなら軍法会議にかけられてもおかしくはない。
しかし、その時の彼の判断は正しかった。
彼のいた小隊は全滅、小隊長は冷静な判断を行うことができなくなっており、激戦区にそのまま飛び込み蜂の巣にされたそうだ。
彼の小隊だけでなく、他の部隊も壊滅的な打撃を受けた中、冷静な判断を欠かなかった彼はお咎めがなかったどころか二階級特進という異例の事態が起きた。
その後も彼の実績は目覚しく、小隊長、中隊長と彼が部隊長を務めた部隊は負け知らず。
そして、大将の老衰により後任を直々にその時の大将がニドに襲名した。
異例に続く異例、彼の実績はそれほどのものだったということだ。
そして彼が大将についてからは敗戦の色が強かった戦況が一変、緩やかながらも戦勝の色が濃くなり、兵士の士気も次第に上がっていった。
そんな彼の戦績を評価してか、何時からか彼は『冷将』の異名で呼ばれるようになっていた。
それは決して軽蔑の意味ではなく、何時いかなる時も冷静に戦況を読み、最小限の被害で戦局を乗り切り続けたため、尊敬の意を込めて『冷静なる将軍』という意味で呼ばれていた。
しかし、彼の冷静さは人の命を守りたいという強い思いから生まれるものだった。
上に登り詰めれば詰めるほど守らなければならない命は増え、そのたびに彼に降りかかる命の重圧は増えていった。
冷静さは、感情とどんどんかけ離れていき、いつしか彼は自分が冷静ではなく冷徹になってきているように感じていた。
一人に兵士を守るよりも一つの部隊を、一つの部隊を守るよりも軍全体を、軍全体よりも国の安泰を…。


ふと気が付くと満点の星空、無数に瞬く星々が長い弧の軌跡を描いて、夜の闇の中へと吸い込まれるように消えていく。
そしてその真ん中には麗しく輝く真円を描いた月があり、その袂に月明かりを浴びてぼんやりと光る、夜露に濡れ青々とした小さな丘が一つあった。
ニドはその幻想的な景色に心奪われ、ただただその美しい草原を歩いていた。
少し歩いているうちにその緩やかな丘の丁度真ん中に、小さな青いものが月明かりを眺めているのが見えた。
ニドはそれが気になり、そちらの方へ歩いていくことにした。
だんだん近づくにつれ、それが何であるかが少しずつ分かっていった。
小さな丘が大きく見えるほどその青いのは小さく、一人楽しそうに首を揺らし、足をパタパタとさせながら月を眺めていた。
こちらの存在に気付いたのか、ある程度近づくとその子は振り返りこちらに向かって満面の笑みを見せてくれた。
どうやらその青いのの正体はマナフィのようだ。
長い二本の触角と、蒼海の青さにも似た美しい青色をしており、その中に赤やら黄色やらの宝石をちりばめたような模様がその幻想的な草原に美しく似合っていた。
「こんばんわ、将軍さん。ちょっとお話しませんか?」
どうやらそのマナフィはニドのことを知っているらしく、親しげに話しかけてきた。
ニドは初対面のはずなのだがそんな気がせず、快く頷きそのマナフィの横に腰を掛けた。
「最近色々悩んでるんじゃないの?聞かせて欲しいな。」
小さなマナフィは大きなニドを見上げるように話しかけた。
なぜだかいつもはどんな悩みも打ち明けず、人知れず解決していたニドだがその時は素直に話したほうがいいような気がして、今胸の内にある悩みを深いため息と共に話し始めた。
「私は今、自分の立てた作戦が信頼できなくなってしまっている。そんなことは今の今まで一度もなかった。」
自分自身への不信感、上に立つ者の重圧、たんだんと自分自身の心が冷めてきてしまっているような、そんな感覚も全てそのマナフィに打ち明けた。
見るからに自分よりも幼いそのマナフィは真摯に話しに耳を傾けてくれ、話し終わるまで一度たりとも何も言わなかった。
全て話し終わるとそのマナフィはピョンと飛び上がるように立ち、ニドの前まで移動し笑顔で話し出した。
「そっか。つまり心が冷めちゃったんだね。大丈夫!将軍さんは誰よりも心が温かいんだもん。僕が暖め直してあげるよ!だって僕は恋の神様だからね!」
彼がそう言い終わったかと思うと全ての景色が絵筆を滑らせたかのようにサッと黒一色に染まっていった。
突然の出来事に戸惑いを隠せないでいるニドにその恋の神様と名乗ったマナフィは
「月が満ちる晩に会いに行くよ。それまで少しの間、待っててね。」
そう言い残し、自分の意識もその黒に溶け込むように薄れていった。


「失礼します!ニド将軍!敵国の分隊が徐々にこちらの前線基地に距離を詰めてきているとの偵察兵からの報告がありました!ご報告は以上です!」
うっすらとした意識の中にそんな五月蝿くもきびきびとした声が響き渡り、ニドはベッドからまだ疲れの癒えきれぬ体を起こした。
『あれは…夢だったのか…?う~む…思い出せん…。』
報告をし、敬礼したまま直立する部下の兵に下がっていいと手でジェスチャーをすると彼は深く頭を下げテントを出て行った。
さっきまで眠っていたのは分かるが、確かその時見ていたと思う夢の内容がどうしても思い出せなかった。
思い出せないものをいつまでも粘っても思い出すはずもない、そう割り切りいつも身に纏っている甲冑に身を包み彼もテントを出ていった。
「リドラ!各部隊の隊長を召集しろ!全体通達をする。アレス!諜報部隊の報告内容を詳しく聞かせろ!」
まだうっすらと朝靄のかかるような時間に先程まで疲れで動けなかったような姿を微塵も見せず、傷や凹みで鈍くくすんだ鋼色の甲冑に身を包んだ彼の青空のように澄んだ青い体表がよく映えていた。
ニドはニドキングでありながらその特有の藤色の体色ではなく、彼らの中にごく稀に存在する色違い((ニドキングの色違いは青色))というものだ。
テントを出ると同時にすぐ付近で作業をしていたリザードンのリドラとヤドキングのアレスに指示を出した。
「イエッサー!!」
リドラはそう言うと、敬礼をしてすぐにどこかへと歩いていき、アレスはかなり早く歩くニドに遅れをとらないよう必死に横につき調査内容を報告していた。
「報告によると敵分隊の遠方で確認したとのことであります。しかし、分隊というにはその数はあまりに多く諜報班の予想ではざっと見積もっても5万、もしくはそれ以上だと…。」
彼が報告を言い終えるよりも先に会議本部と書かれたテントに駆け込むように入り、そのテントの真ん中にある大きな地図を覗き込みながら彼の話に耳を傾けていた。
ニドとアレスが幾つか質疑応答を繰り返している間に何名かの兵士が敬礼をしながら次々とテントの中に入ってきた。
報告を全て聞き終えるとニドは集まったポケモン達を確認し、少し目を瞑ったまま考え事をし、残りの隊員が来るのを待っていた。
正確には考え事ではなく、結局腑に落ちない夢の内容をなんとか思い出そうとしているだけだった。
しかしここは軍隊。
長々と思い出せる時間があるほど軍隊というものがだらけているはずもなく、そう時間も経たずに全員が集合した。
「今から全体通達をする。一字一句漏らさず自身の部隊に伝えろ。」
「イエッサー!」
全員が集合したのを確認するとニドはすぐに説明を始めた。
彼の第一声で若干のざわめきのあった彼らも一斉に喋るのをやめ、まっすぐに立っていた。
「恐らく、近々大きな戦闘が起きるだろう。この局面を乗り切るための作戦を今日中に立てる。それまで決して注意を怠るな。」
彼の言葉に兵士たちが響めき、一気に緊張した空気が張り詰めた。
「閣下!しかしつい数日前に我々が勝利を収めています。そんなに早く動き出せるとは思えないのですが。」
彼らが戦慄した理由の一つがこれにある。
今日から数日前、この前線基地の間近で起きた戦闘に勝利していたのだった。
敵は惨敗。それほどの大打撃を受けた数日にすぐに再攻撃を仕掛け直すとは到底思えなかった。
「確かに。普通ならそうなるが現に約5万程の戦力が近づきつつあると報告があった。」
ニドの言葉に再度彼らに動揺が走る。
「私の見立てでは先の戦いは牽制、我々を勝利させ手薄にしたところで再度攻撃を行うための陽動に思える。」
「そのために敵国は2万もの兵士をつぎ込んだというのですか!」
あまりに突拍子も無いニドの言葉に異を唱える者が現れるのも無理はない。
普通では考えられない所謂不測の事態をニドはさも平然に語っているのだから。
「普通ならありえん。だがこの前線基地は我らの国の要だ。落とすためにはどんな手でも使うと考えたほうがいい。例えそれが血を伴う奇策だとしてもな。」
「しかし…!」
「上官命令だ。異論は認めん。尚、これは敵に知れればまずい。以後は『スケープゴート作戦』と呼ぶよう。以上だ。」
異論の絶えない兵士たちの心境も十二分に理解できたが、彼は普段使わない上官命令((上官命令は絶対))という言葉で無理やり納得させた。
先程まであったざわめきとは対照的に、今度は恐ろしい程に静まり返っていた。
「お前たちの言い分も分かる。だが私はいつも言っていた筈だ。『勝って兜の緒を締めよ』((勝っている時ほどいつもより慎重になるべきという意味。))と。返事は!」
「サー!イエッサー!!」
彼らはそう言うと、素早くテントを出ていった。
一人残ったニドは深くため息をつき、椅子に腰掛け頭を抱えた。
『説明している暇がないとは言え…まさか私があんな言い方をするとはな…まさに冷将だな。』
頭ごなしに命令した自分に嫌気を感じながらも、それでしか伝えることができなかったと自分を正当化しようとする自分とで彼自身心底疲れきっていた。
度重なる戦闘、もうすぐ何年と続いた戦争が終わりそうな兆しで彼自身も焦っていた。
しかし、自分を責める時間もなければその思いを懺悔する時間も今の彼にはない。
ニドもすぐに立ち上がり自分のテントへと戻っていった。
今日中に作戦を立てると言った以上、できる限り待たせるわけにはいかない。
私情や他の感情も振り払い、今はとにかく作戦を立てることだけを考えることにした。


計画を立てては練り直し、立てては練り直しを続けているうちに夜になる。
最近の彼の生活は戦闘がない限りこんなものだった。
「やはりわざと作戦に気付いていないように思わせ、軍を横に長く配置すれば簡単に勝利を収めることはできるが確実に犠牲が出る…。」
結局今回も作戦を成功させなければならない思いと道徳心とがぶつかり合い作戦を今一歩決めきれないでいた。
そんな心の迷いが少し心に余裕を持たせたのか、外から聞こえる騒ぎに気付くことができた。
軍ではいざこざなどままある事だが、どうしても気になりニドはそれを見に行くことにした。
テントを出てその騒ぎの方へ歩いて行ってみるとどうやら軍の出入口付近で喧嘩が起きているようだった。
「何事だ?」
野次馬の一人にニドが尋ねると彼が来たことに驚きながらもすぐに敬礼し
「はっ!彼らが近くの街に行き、女と寝て英気を養うなどと騒いでいるのであります。」
野次馬がそう答えた。
今はニドが出した厳戒態勢で敷地からを出ることを禁止しているにも関わらず、彼らが出ようとしたことによって起きた騒ぎだった。
普通ならその時点でニドも軍法会議にかけられるのだが、野次馬の間を抜け、制止する見張りの兵士と騒いでいる4,5名の兵士の間に割って入った。
「今は厳戒態勢で外出禁止のはずだ。分かっているのか?」
ニドの存在に気付き見張りと4,5名の兵士は敬礼をしたが
「近々大きな作戦があると聞いたので英気を養おうと…。」
彼らのうちの一人がそんな幼稚な言い訳をしてきたのに対し
「軍規に背いてでもか?そんなことで英気が養えるのなら何処の戦場にも女だらけになる。見なかったことにしてやるから寝て英気を養え。」
ニドがそう答えると彼はいかにも不満げな顔で
「将軍も男ですよね?女と寝たいことを『そんなこと』なんてよく言えますね。女と寝たことがないんでしょうか?」
わざとそう言い挑発してきた。
流石に将軍への口答えで他の仲間が彼を止めようとしたがニドは深くため息をつき
「ああ、ただの一度もない。戦火の真っ只中こんな俺を愛すると言った女性と契を交わし、いつか戦争が終わった時に愛を語ろう。そう約束してもう何年も経つ。」
そう重い口を開いて自分の秘密をたかが一人の兵士にばらした。
あまりに唐突な言葉に彼も言葉を失い、なんと言っていいか分からないほどに焦っていたが
「だがお前たちの思いが分からないわけではない。女を知らずに死んでいきたくはないはずだ。だがあと少し、もう少しでこの戦乱が終わる…。頼む!それまでの間だけでいい。お前たちの命を私に預けてくれ。必ず生きて祖国に返すと約束しよう。」
彼の両肩に手を乗せ、懇願するように語ったニドの思いはまっすぐに彼に伝わり、彼は涙を流しながらただひたすら嗚咽混じりで敬礼していた。
ニドの登場でそれ以上騒ぎが大きくなることもなく野次馬共々散っていったが、啜り泣く声は静かな夜の駐屯地に響き渡っていた。
彼自身も大きくため息を吐きながら自分のテントへと戻っていった。
今一度、自分が預かっている、背負っている命の重さを感じ、寧ろ判断が鈍る原因になったにも関わらず、心の何処かでは心底ホッとしていた。
『美しい満月だ…。次の満月を私もこの軍にいる兵士たちにも見せてやらなければならないな…。』
少し軽くなった足取りはまっすぐテントに向かうニドに空を眺める余裕を持たせていてくれた。
今夜は満月が薄雲に隠れ幻想的な輝きを放っていた。
何処かその暗闇の中の星々や月が自分と自分を取り巻く兵士たちに思え、自分がしっかりしなければならない。
自然と彼にそう思わせたような気がし、気を引き締め直してテントの中へと戻っていった。


「お帰りー。待ってたよー。」
テントに戻り、最初に聞いたのはそんな言葉。
このテントは大将のために準備されたテント、彼以外がいるはずもない。
ならば一体誰の声なのだろうか、さらに付け加えるならば将軍である彼にここまで馴れ馴れしく話しかけられるのは一体誰なのか。
そんなことを考えつつも、敵襲の可能性を考え、一歩テントから退き、戦闘態勢のままもう一度テントの中に入っていった。
「どこの所属だ!名を名乗れ!!」
「何言ってるの~。僕だよ。エレオスだよー。」
警戒したままテントをくぐるとそこには笑顔でニドに向かって手を振るマナフィの姿があった。
最悪の事態であることが避けられたのと、正体がそんな可愛らしい子供であったことで一気に体の力が抜けた。
「そうか…エレオス君か。さぁ、ここは遊び場じゃないんだ。早くおうちに帰りなさい。」
そう言い彼を抱き上げると
「あれれ?忘れちゃったの?月が満ちる晩に会いに行くよって言ったのに。」
その子がそう言ったことでようやく夢の内容を思い出した。
「ははは…。そんなことを言っていた少年と語り合った夢を思い出したよ。ま、冗談はさておきすぐに街に送るように兵士に伝えよう。」
勿論、ニドも夢の内容を本気にしている訳もなく、ひとまずはその不思議な少年を無事に送り返そうという結論にたどり着いたが
「大丈夫だよ。将軍さんの心は冷め切ってなんかいないよ。でも、自分が信じれなくなって少しずつ冷めては来てるみたいだけどね。」
そんなことを言われ、少し動揺してしまう。
事実、ニドはここ最近、自分の作戦や言動に自分で異論を唱えてはいたが、正直なところ誰かに真っ向から否定されたわけではなかった。
全て自分への不信感からそう思っていただけのような気がし、さらに夢の中で現れた少年と差のない子が現れたのだ。
「も…もう一度、私の心は…自分に素直になれるのだろうか…。」
恥ずかしい思いを振り払いながら、縋るような思いでその少年にそう打ち明けてみた。
「大丈夫だよ!冷めた心を温めるのに一番大事なのは愛だからね!ちょっと目を瞑ってて!」
その子…愛の神と名乗ったそのエレオスの言葉に従い、ニドは静かに目を瞑って待っていた。
「はい!もういいよ!」
少しの間静かな時が流れ、ただひたすら目を瞑って待っていたニドにエレオスのそんな元気な声が聞こえた。
ゆっくり目を開けるとその子が笑っていること以外特に差はなく、何かが起きた様子はなかったが
「はい鏡!とっても可愛くなってるよ!」
そう言われ、渡された鏡を見て彼は青ざめた。
「な、な…なんじゃこりゃーーーーー!!」((松田優作風に))
彼の叫び声を聞きつけて何名かの見回りの兵士がテントに飛び込み
「どうかなされましたか!」
「いや…なんでもない…。なんでもないんだ…。大丈夫だ…。」
そう心配そうにニドに話しかけたが、特に別段変わったところがなかったので彼らも落ち着いた。
「お前らも疲れただろ?今日はもう見回りはいいから明日に備えて寝るんだ。いいな?上官命令だ。」
そう言い、早急にテントから追い出した。
彼らがテントからかなり離れたのを確認するとニドは必死に考えた。
『いやいや…そんなことは有り得るはずがない。というか何故あいつらは私の変化に気付かない!?少しはおかしいと思わんのか!!』
「可愛らしくなったね♪」
必死に思考を巡らせている最中にそんな言葉をかけられて彼…いや彼女は吹っ切れた。
「誰が私を女にしろと頼んだぁ!!私がいつも戦場は女子供の来る場所ではないと言っているのだぞ!!威厳とか…作戦とか…あぁもう!!」
少し涙目になりながら彼女は力なくへたり込んだ。
彼女とはいっても元は男性、その逞しい体つきのまま容姿がニドクインへと変わっているだけなのだから普通の兵士が見て気付くはずがない。
さらに言うと彼が元々色違いで青色だったことがさらに分り難くした原因だろう。
しかしそこでニドは閃く。
『そうか…!これは不幸中の幸い。体色が元々青だったのだから普通の者なら気付かない。多少声は高くなったがそれはどうにか誤魔化せばいい。いける!このままでも大丈夫だ。…もし戻れなかったとしても…。』
彼女の持ち前の冷静さと頭の回転の速さが常軌を逸したこの難局をも切り抜けたが。
「折角可愛いのにそんな喋り方しちゃダメでしょ!」
エレオスが許すはずもなかった。
「は?何を言っているんだ?言っておくが私は今でも十分に憤りを感じているのだが?今すぐ元に戻さんのならたとえ子供だろうが恋の神だろうが容赦はせんぞ?」
流石にこれ以上何かされたのではたまったものではない。
必死になんとかしようとするが、相手は神。
「折角なんだからもっと可愛くしてあげるよ!」
「おい馬鹿!何をする!おい…待て…やめろーーーーーーーーーーー!!!」
そんな悲痛な叫びが響き渡った。
「今、将軍の叫び声が聞こえた気がするんだが?」
「あの人が何もないって言った以上、大丈夫だよ。あの人に限ってもしもなんてないからな。」
「そうだな!久しぶりにゆっくり寝るとするか。」
一部の見回りの兵士が気が付いてはくれたものの、そんな叫びは虚しくも夜の闇の中へと溶けていった。


「ほら!とっても可愛くなった!」
なんということでしょう。((劇的ビフォーアフター))
あんなに逞しく美しく整った逆三角のボディラインが妖艶な魅力を放つ強さと美しさを兼ね備えた魅力的なボディラインになったではありませんか。
筋肉で直線的だった胸も今では匠の技で男を魅了して離さない丸みを帯びたラインに早変わり。
「なんてことをしてくれたのよ!!こんなんじゃ明日からどうすればいいのよ!」
あれほどに威厳の溢れ男らしかった言葉遣いも、可愛らしく透き通った美しい声と女性らしい言葉遣いになりました。
甲冑も胸を締め付けるような男性用の物から、戦う女性をより華やかに、しかし機能的に身を守る美しく彩られた花のような鎧に大変身!胸の谷間も強調してくれます。
「こんな鎧で戦場で生き残れるはずがないでしょ!それに女性の力は男性よりも劣るのよ!絶対に近いうちに死んでしまうわ…。」
涙目になりながらその場にうずくまるニドにエレオスが優しく喋りかけた。
「大丈夫だよ!筋力は若干は落ちたかもしれないけど、元々かなり鍛えてあったからそこらの男性よりも強いよ!それにその鎧は戦いの神が作った由緒正しき鎧なんだから!」
その言葉でニドは少し元気を取り戻すが
「だったらなんで戦いの神を連れてきてくれないのよ。それになんでこんなに派手なのよ…。」
色々とあり過ぎて、どんなことにも冷静に対処してきた彼女だったが、流石に度を過ぎていて彼女でも対処しきれない問題に深く落ち込んでいた。
「戦いの神は常に平等な立場じゃないといけないんだって。それと言っておくけど、その鎧はそこらの鎧よりも頑丈だよ?試しに叩いてみればわかると思うけど。」
そう言われ、そのドレスのような鎧を軽く殴ってみるとビクともせず、試しに本気で殴るが傷一つつかなかった。
「すごい…けど…なんでこんなに派手なの?」
「戦う女性は美しいからもっと際立たせてあげたい。とかなんとか言ってたよ。」
そんな言葉に小さくため息をつきながらも、なってしまったものは仕方がないと持ち前の冷静さで仕方なく納得した。
「それじゃ戦いが終わる頃にもう一度会いに来るよ。その時に元に戻してあげるから、将軍さんの心も元に戻ると思うよ。」
次第に光に包まれてゆくエレオスに一つだけ気になって質問をした。
「戦争が終わる頃ってことは私たちは勝てるの!?」
「戦争が終わる頃に君が生きてたらってこと。保証はしかねるよ~。」
そんな不吉な言葉を残してエレオスは光と共に消えてしまった。
「そこは嘘でもいいから大丈夫って言ってくれればいいのに…。」
そんなことを呟きながら机の上に置きっぱなしにされた計画書にもう一度、向き合うことにした。
今度こそ自分に正直になりながら…。

*堅物将軍恋をする [#bb250e23]

今日も忙しい声に急かされる様にニドは起きた。
昨日までと比べて軽い体をゆっくりと起こして自分の体を確認し、一つ深いため息を吐き、
「仕方がない。今日も…う~ん…今日からも頑張りましょう!」
そう自分のために呟き、いつものように鎧に身を包みテントを出て行った。
「リドラ!今すぐ各部隊を招集して!全体通達を行うわ。アレス!諜報部隊の報告をすぐに!」
テントを出ると昨日同様すぐに近くにいた兵士たちに指示を出していった。
だが彼女を見た全員が唖然としていた。
「し、失礼ですがお嬢さんはどちら様で?」
リドラが少し顔を赤らめ、目線を明後日の方に逸らしながらそう質問してきた。
ニドは少しだけ困った顔をし、小さくため息をつき
「ま、分かるわけないわよね。『勝って兜の緒を締めよ』。これなら分かるかしら?」
そう彼女がいつも口癖のように言っていた諺を言うと、幽霊でも見たかのような表情をし、
「ま、まさか…ニド将軍ですか!?いや…まさかそんなはずが…。」
恐る恐るそう聞いた。
リドラの漏らした言葉に周囲にいた兵士全てが戦慄した。
「そうよ。分かったのなら早く全員を召集して。」
そう言い、そのまま何事も無かったかのようにアレスを引き連れ会議室へと向かっていった。
テントの中でいつものように報告を聞いていたニドだったが、
「申し訳ありません閣下。本当にニド将軍なのでしょうか?もし本当にそうならば一体全体どういう成り行きなのですか?」
流石に気迫に押され何事もない様に報告をしていたアレスもようやく落ち着き、ニドにそう質問した。
「勿論私はニドよ。昨晩色々とね…。説明したいのは山々だけれども、そういった事は後で説明するわ。まずは作戦が優先よ。」
声色、性別、体格…どれをとってもニドのそれとは一致しないが、その落ち着いた振る舞いと作戦に対する熱意だけは確かにニドそのものだった。
アレスも仕方なくその女性がニドであることを納得し、報告を再開した。
今回はアレスが報告をし終えるよりも早く各隊長が会議室に集まった。
それもそのはず、ニドが女になっているなどと聞けば天地がひっくり返るような事態だ。
通常は行動の遅い者もその真意を確かめるために駆け足でテントまでやってきたのだ。
そして、当たり前だが全員テントに入るなり言葉を失い、その直後、近くの者と&ruby(けんけんがくがく){喧々諤々};((さまざまな意見が飛び交う様))と談話を始めていた。
「皆静かにして。今から作戦を説明するわ。」
全ての報告を把握し、自分の頭の中で計画の再確認を行った後、ニドは何度か小さく頷き決意を決めたように全員に作戦内容を伝えた。
「今回、私が予感していた最悪の事態が的中した。恐らく、今日の昼頃には敵軍が攻め込んでくるわ。」
静まり返ったそのテントにもう一度どよめきが響き渡った。
次第にどよめきが大きくなり、皆の不安の色が目に見えた時、ニドは全員を一度落ち着かせ続けて喋り出した。
「あなた達の動揺も分かる。けれども既に諜報班からの報告によると、見張りの&ruby(やぐら){櫓};からも確認が可能な距離…つまり数キロ圏内に迫ってきているわ。」
「しかし!それは何かの見間違いではないのですか!?流石にそんな数日のうちに二度も同じ場所へと攻め込むなど到底…。」
急にそんな報告をされれば皆、現実をすぐに受け入れられるものではない。
しかし、ここで頭ごなしに命令すれば兵士の不安を煽ることだけは明確にニド自身にも分かった。
「手短に説明するわよ?私達のいるこの前線基地は自国にとっても敵国にとっても大きな意味を成すの。我々からすればここは防御の要。ここを落とされない限り、祖国に敗北は訪れない。そう言っても過言ではないわ。つまり敵にとってもここを落とすことは勝利を意味するの。そのために多大な血が流れたとしてもそれに見合う同等の成果を得られるわ。確実にね…。」
ニドの説明にその場の兵士全てが硬直した。
「ここを落とすためだけに…。数日前の2万もの敵兵は犠牲になったと…。そういうことなのですか!?それじゃああまりにも…。」
「非人道的よ。たとえ戦争であったとしても…。でも、逆に戦争であるからこそ人((ポケモン達のことを指しています))はそこまで残酷になれるの。だからといって敵に情けをかけるわけにはいかない。私達にも守らなければならないものがあるから…。」
ニドを含め全ての兵士が改めて戦争というものを思い知ったような気分になった。
元々ニドは人の命を優先していたため、兵士達にも浸透していたその思いから、尚更その事実は重苦しいものになっていた。
しかし、現実をあえて話したのは兵士達一人一人にこれがさけられぬ戦いであり、敗北が何を意味するかを自覚させるためのニドの思惑だった。
今までは全てを自分が背負い話さなかったが、女性になったためか自分の心に従って動いている部分もあった。
話さなければ知らなくて済む。
そう思っていたが、やはり知らなければならないこともある。
それも男性だった頃から胸の内に秘めていた思いでもあった。
「さあ!『スケープゴート作戦』の全容について話すわよ!いつまでも落ち込んでられないわよ!」
「イエッサー!」
ニドの一言で、全員が気を引き締め直し集中してニドの話す作戦に耳を傾けていた。
「今回の作戦では本部を中央に置き、そこから両翼を伸ばすように横一列に軍を配置するわ。」
その一言でようやくまとまっていた兵士たちにもう一度どよめきが訪れてしまった。
が、今回は作戦に対する不服ではなく
「何を言っているんですか!?例え上官命令であったとしてもそれだけはなりません!」
「将軍がもしも戦死してしまえば我々は一貫の終わりです!」
今回ばかりはニドの安否を気遣ってのものだった。
常に冷静に事を動かしてきたニドが指示したこの突拍子も無い作戦だったからこそ生まれた反論なのかもしれない。
「分かってる。ここに本部を置けば確実に危険にさらされるわ。でもこれだけは譲れない。今回の作戦、確実に衝突する中央の部隊が多くの死傷者を出す結果になるわ。そして私はそれを免れる作戦を立てることができなかった。だから私も同じ戦場で戦うわ。」
「しかし…!」
「大丈夫、きちんと理由もあるわ。ただしこれに関する理由は話せないけどね。」
絶対の自信を持って話すニドの気迫に押されてか、元々の信頼から生まれたものなのか彼らも自然と納得していた。
「続けるわ。今回軍を横に伸ばしたのは敵にこちらが奇襲を受けたと勘違いさせるため。気付いていないふりをして両翼の部隊を敵本陣に単独特攻してもらうわ。ここには必ず隠密と切り込みに長けている部隊を配置して。」
その説明をし、ニドがぐるりと作戦を立てた地図を覗き込んでいる兵士たち一人一人に確認させた。
「そして中央、本陣付近には防戦に長けた部隊を配置するわ。これは単騎特攻の時間稼ぎよ。両翼の中程もただの飾りじゃないわ。ここに遠距離支援に長けた部隊と機動力のある部隊を配置して。」
地図の中央を指差し、そこから軍を分かりやすくするために書き込んだマーカーのラインの上をなぞりながら配置部隊の場所を説明していった。
いつもながらきちんと練りこまれた作戦と陣形、そして絶対の確信を持って話すニドの言葉から兵士たちは一様に頷きながら話を聞くばかりだった。
「そして最後に今回の作戦内容は決して口外しないこと。今回は私が全体説明をするからそれまで各自警戒を怠らずに待機すること。それと…。」
最後に続けてニドは全員に作戦全てを説明し、一時解散させた。
全員、警戒を怠らず待機していたものの、ニドは気が気でならなかった。
自分の予想していた通りに敵は2万もの兵を投入した陽動作戦を展開してきていた。
それほどまでにしゃがむになってこの前線基地を落とそうとしている相手だ、下手をすれば自分が予想をしているさらに斜め上の行動を取られれば全てが水の泡になる。
そのため、軍全体が待機中でもあるに関わらず、戦闘中のような張り詰めた空気になっていた。
テントの中でうろうろと歩き回ったり、外に出て兵士たちをちょこちょこ確認したりとあからさまにいつものニドと違い落ち着きがなかった。
「失礼します。ニド将軍。」
テントの中を忙しなく歩き回っていたニドの元に誰かが入ってきた。
「リドラ大佐。何の用かしら?」
明らかに不安が少しづつ苛立ちに変わりつつあるニドの元にやってきたのはリドラだった。
「いつものあなたらしくないので様子を見に来ただけです。今まであなたがそんな様子を見せたことがなかったので。」
そうリドラが話すとようやくうろうろしていたニドも落ち着き
「そう…よね…。あなたとは長い付き合いだから尚更気になるんでしょ?」
そうニドが彼に聞き直すと、少しだけ笑いながら頷いた。
その様子を見てニドは少し短いため息を吐き
「もう何年になるかしらね…。私達が同じ戦場で生死を共にするのは…。」
少し遠くを見つめるような切なげな表情をしてそう語り始めた。


「私ももう覚えていないですね。確か新兵だった頃からニド隊長の部隊に入っていました。」
「隊長か…。それも懐かしいわね。あの時はあなた達を生きて帰らせることだけ考えていればよかった。」
昔、まだニドが小隊長を務めていた時、その時編成された部隊にリドラはいた。
その頃から上官と部下という関係ではあったが、ニドは隊員全員を信頼し、逆に隊員たちもニドのことを、そして自分以外の隊員のことも信頼していた。
それもまだ戦争が始まって数年しか経っていない頃の出来事だ。
今ほど一度の戦闘は激しくはないものの、各地で頻繁に戦闘が起こっていたため彼らの部隊も戦地を転々としていた。
そんな中、少し戦闘の回数が減ってきた頃、彼らの部隊はその戦績を評価され一時的に帰国することを許可されていた。
そして帰国した際に出会った女性こそがニドが言っていた現、彼の妻、ガルーラのララだった。
初めに惹かれたのはララだったが、ニドは最初は拒んでいた。
決して彼女がガルーラであるからや、彼女のことを嫌っていたからではない。
もうすぐ戦場に戻らなかればならなかったため、ここで彼女と契を交わしたとしても確実に彼女を苦しめるだけだとニドは分かっていたからだ。
「分かってくれララ。私は軍人だ。次生きて帰れる保証など何処にも無い。私の帰りを待てばそれだけ君は苦しむだけだ。」
戦線復帰数日前の日、ニドは彼女にそう告げた。
「分かっています。その苦しみは私の苦しみ、そしてあなたの苦しみであると。それでも私はあなたに恋したのです。私にはその苦しみを耐える覚悟があります。」
しかしララから帰ってきた返事はそうだった。
彼女の覚悟を感じ取り、ニドも覚悟した。
そして戦線復帰の前日に夫婦の契りを結び
「次に私が戻ってくるのはこの戦争が終わった時になるだろう。だからララ。苦しみに耐え切れなくなった時は私のことを忘れろ。だが約束する。君が望む限り私は必ず生きて君の元に帰ってくると…。」
「待ちます。この命果てるまで…。」
戦線復帰の日、ニドとララは最後にそう約束し彼は再び戦火の中へと身を投じた。


「…そう約束したのがもうかれこれ数年前…。私は酷い人よね。」
ニドの言葉には少しばかり諦めのような感情が含まれているようなそんな気がし
「もしあなたなら待つと思いますか?特に今なら将軍は女性です。思いを重ねやすいでしょう。」
リドラはあえてそう聞いた。
「ええ。きっと待っているわ。だって…初めて添い遂げたいと思えた女性だったから…。」
そうニドは少しだけ嬉しそうな表情をして答え、それを見たリドラは
「なら尚更ここで慌ててはいけません。あなたの帰りを待っている人がいるのなら、全力でお守りするのが我々の役目ですので。」
そう明るく答えた。
「変わらないわね。あなたは。&ruby(あのとき){隊長だった時};に私が約束したことだわ。」
そんな何年も経った昔の約束を覚えていてくれたリドラにニドは心の中で感謝をし
「ありがとう。おかげで落ち着いたわ。」
そうリドラに対して言うと、リドラは何も言わずただ微笑んでそのまま一つ敬礼し、テントを出ていった。
それからほどなくして張り詰めた基地内は騒がしくなりだした。
「ニド将軍!前方300メートルの距離にて敵軍の姿を確認しました!」
慌てた様子のアレスが急いでニドに報告しに見張り台付近から戻ってきていた。
「全軍に指示を出すわ!今すぐ緊急召集をかけて!それと敵軍に関する正確な情報を教えて。」
すぐさま全体召集のために上級兵が走り回り、厳戒態勢をとっていたために集合も早かった。
何も知らない兵士たちは困惑し、不安に駆られる兵士たちが口々にこの状況について話し合っていた。
全員が集合したのを各部隊長からの報告で確認し、すぐさまニドは全体を見回して作戦を通達し始めた。
「今回我々は敵からの奇襲を受け、易々と接近を許してしまった。その為、今回は隊列を本部をここに置き、前方50メートル付近で横一列に展開し、様々な状況に対応できるようにします。以上、私からの通達を終わる。」
ニドがそう言い終わると、各隊員が一斉に部隊長の指示に従い動き出した。
「急げ急げ!敵はすぐそこだ!もたもたしている時間はないぞ!!」
次々と部隊が移動していく中、幾つかの隊がもたついていた。
「どうした!早く移動するぞ!」
「しかし隊長!我々は切り込み隊((先陣を切って戦う部隊。名称等は騎士団に依存))です!端の方に行って何の意味が…!」
そう…先程ニドが各部隊長にだけ伝達した作戦内容とニド自身が通達した作戦内容が違っているのだ。
「大丈夫だ。私の指示が本当のニド将軍からの作戦。『&ruby(スケープゴート){囮通達};作戦』だ。作戦の全容は持ち場についてから全て各部隊長から各部隊に伝えられる。急ぐぞ!」
それを聞き、兵士たちが我に返ったように急いで新たに指示された持ち場へと走っていった。


時を遡り数時間前…。
「それと今回、もしも私が全体通達で違う作戦指示を行った場合、皆は迷わずに今私が言った作戦を実行してくれ。」
ニドのその指示に対し理解できずに首を傾げる者が現れ始めた。
「どういうことでしょうか?何故我々がわざわざ軍規に背くような指示を?」
「理由はただ一つ。恐らく今回敵はスパイ等を使ってでも作戦がバレていないか、そして我々がどんな陣形を使ってくるかの探りを入れてくるだろう。」
質問に対しニドは素早く説明していき
「その場合、先に相手に作戦が漏れれば全てが水の泡だ。その為、私自身を囮に使う。この作戦の名、スケープゴートの理由だ。」
つまり、何故ニドが作戦をそのまま言わなかったのかというと、まず全体を見渡した時に物陰に隠れた不審な存在にいち早く気付いたからだった。
それを見越した上でわざとこちらに有益になる偽の情報を流し、その情報を相手に伝えさせたのだった。
その後、それ以上居れば敵も見つかってしまう危険性があるためその場を離れる。
各部隊の部隊長から本当の作戦内容が伝えられ…。


「我々が守りの要だ!その命果てるまで共にこの中央を守り抜くぞ!!」
ニドの通る声が中央で陣を構える守衛部隊に響き渡り、全力で守り抜くために一人一人が気合を入れ直していた。
「決して何があっても走るな!僅かずつ距離を詰めながら中央へ突っ込んでくる敵軍にお前らのとびきりの技をぶちかませ!!」
中衛陣は互いに自身の使える最大の射的距離を誇る技を確認し合い、敵の動きをじっと見守っていた。
「いいか?絶対にバレるな。俺達が今回の作戦の要。単騎特攻による本陣強襲だ。援護はない。バレれば一巻の終わりだ。行くぞ!」
最末端にいる切り込み部隊は静かに部隊を離れ、鬱蒼とした密林の中へと消えていった。
「いけぇー!!怯まず耐え抜くのよ!」
ニドが突っ込んでくる敵を敵の攻撃を見切りながら逆に彼女の鋭利な爪で甲冑と甲冑の隙間を切り裂き、敵を地に突っ伏させていた。
彼女に続くように全員が襲い掛かる敵にカウンターの要領で薙ぎ倒していった。
彼女の部隊、つまり本陣を守る精鋭部隊が前線に出ているのだ。
並大抵のことでは怯むようなことのない&ruby(つわもの){兵};揃いだ。
しかし、それでも敵も死に物狂い、一切怯まずに攻め込んできた。
『このままではまずいわ…。確実にこちらが不利になりつつある…。』
ニドの考えでは精鋭を置いたことにより敵が怯むことを期待していた。
だがニドの考えは甘く、彼らの鬼気迫る姿勢に寧ろこちらの兵士が気負けし始めていた。
「守りを固めて!防御から一気に敵の戦線を押し返すわよ!!」
ニドの声で一斉に守りを固め、ひとまず敵が攻め込んでくるのを凌いでいた。
しかし結局はその場凌ぎ、押し込まれるのは時間の問題だろう。
『これだけ攻め込んでくるのであれば…もしかするとあれが使えるかも…。』
次第に悪くなっていく戦況を見て、ニドは何かを閃き
「鉄塊の布陣の用意!!構え!!」
そう全体に言い放った。
その途端に体の大きな兵士たちが横一列に並び、身を守るようにしてその場にしゃがみこんだ。
「守れー!!」
突撃してきた敵兵たちとその兵士たちがぶつかり合ったが、彼らはびくともせずに突撃をその場で押し留めた。
「攻めろー!!」
ニドのその一言で先程まで縮こまり微動だにしなかった兵士たちが、一斉に覆いかぶさるように立っていた兵士たちを吹き飛ばしながら立ち上がり、同時に素早く敵を切り裂いていた。
「守れー!!」
掛け声と同時に再度一歩だけ前進し、もう一度しゃがみこんでいた。
それを何度も繰り返し、その形勢を一気に逆転していた。
そのさまはまさに動く鉄塊、陣形を組んだ途端に動きが個々から一つの生物のような統率された動きになっていた。
『いける…!敵が無暗に突っ込んできてくれるおかげで普段使いにくいこの陣形が真価を発揮できている!』
先程ニドが号令を出した『鉄塊の布陣』は本来完全なる待ちの布陣の為、そうそう使える代物ではない。
敵が冷静な判断ができる状態であればわざわざ突っ込まなければいいだけの陣形である。
しかし、もし使う事ができれば被害を最小限に抑え、敵に甚大な被害を与えることのできる鉄壁さも備えている。
使い難いためなかなか実戦に使用されることの少なかったニドの考えた陣形の内の一つだった。
しかし、今はまさに好機。
敵が冷静な判断を行うことができず無謀な突撃を繰り返していたため、見事ニドの閃いた策にはまったのだった。
『よし…!これなら行けるわ!!どうやら気付いていないようだしあとは耐えるだけ…!』
そして今回ニドが語らなかった無謀な作戦も上手くいっていた。
本陣を前線に置く。
普通なら自殺行為だがニドは冷将の名で自国、敵国問わずその名が知れている。
それはつまり彼が有名であり、ほとんどの者がその容姿を知っているということでもある。
その為、ニドはそれを逆手に取った作戦に出た。
つまりニドは今現在エレオスのせいで女性になっている。
それを知る者は現在、この前線駐屯基地にいる者のみなのだ。
その為、危険性は孕むもののニドは精鋭部隊である本陣の兵士を前線に置くことによって敵の切り込み隊の猛攻を耐える作戦に出たのだ。
普通に考えると中央突破しか考えていないのであれば最高戦力を投下しそうに思うが、敵本陣で火力が足りずに全滅しては意味がない((作者の勝手な解釈なので本気にしないこと))。
そのために切り込み隊でうまく切り崩し、本陣を持てる全力で叩くという戦い方になる。
その為敵は切り込み隊対切り込み隊だと思い込んでいるが実際のところは精鋭部隊対切り込み隊である。
戦力差がある上にニドが戦場で指揮を取っている時点で状況の判断能力が格段に違う。
ニドの策が上手い具合に敵の足止めをしていると斜め後ろの方から&ruby(かえんほうしゃ){火炎弾};や&ruby(れいとうビーム){雹弾};が敵の少し奥の方に降り注ぎ始めた。
先程までそんな援護攻撃などなかったため敵軍はさらに混乱していた。
これもニドが立てていたスケープゴート作戦のうちの一つだった。


「次に中列の部隊は戦闘が始まった際、切り込み隊が隊列から離れたら同時に少しずつ円を描くように前進して。」
「少しずつですか?どうせなら一気に挟み込んで叩いた方が敵にダメージを与えられるのでは?」
ニドの作戦に疑問を持ち、中衛の部隊長がそう聞いた。
確かに彼の言う通り一気に距離を詰め叩いた方がこちらの被害も少なくて済むが
「いえ、今回は敵の殲滅が目的ではなく、あくまで私達が基地を守り抜き、切り込み隊の作戦成功を待つのが目的なの。」
そのためにわざと緩やかに動き、敵に接近を気付かせずに攻撃を加え、さらに長期戦に備えたのだった。
これは逆にもしも切り込み隊の作戦が失敗した最悪の場合、そのまま長期戦に持ち込む時にこちらができる限り有利になるように考えた作戦でもあった。
そしてこの作戦はスケープゴートというよりもベアトラップと呼ぶほうが相応しいような作戦だった。
ベアトラップとは言うところのトラバサミ。
中央の本陣を餌に、緩やかに閉まる両翼が本来のベアトラップと違う所だろう。


「中衛の守りが届き始めたわ!みんなさらに守りを固めるわよ!」
漸く敵軍もこちらの作戦に気付き、本陣に向かって落としていた支援攻撃を中衛の方へ向けていた。
激化する戦い、空を飛び交う様々な技、次々とポケモン達が互いの攻撃で倒れていく中、ニドは必死にはやる気持ちを抑えていた。
皆必死に耐えているが限界が近い。
それが戦線に立てば痛いほど分かったからでもあった。
が、もう一つ彼女には心乱れる要因があった。
いくら作戦のためとはいえ、単騎特攻を仕掛けた切り込み隊からの作戦完了の知らせが未だこないことがさらに不安にさせていた。
敵が無暗に突っ込んでこなくなり、遂に鉄塊の陣が意味を成さなくなってしまった。
「陣を解いて!空撃に備えて守りを固めて!負傷者の搬送を早く!」
さらにニドの指示が飛び、戦場はさらに激しくなっていた。
互いに激しさを増し、地に突っ伏し動かぬ兵士の数が増えていた。
どんなに平静を保っていても既にニドの心身はほぼ限界に達していた。


パンッ…と乾いた音が空に響いた。
ニドは心待ちにしていたそれを誰よりも早く確認した。
空には二度、三度と続けて音を響かせながら白い煙が一直線に空へ向かって伸びていた。
「白の発煙弾((基本的に白が成功、赤が失敗を意味する))…!!やったのね!」
空に伸びる数個の白い煙の柱は彼らが作戦を成功させた知らせだった。
ニドがそう言うと、彼女の周りにいた兵士たちが一斉に歓喜した。
状況が掴めず、敵軍の兵士はただその煙を意味も分からず眺めていた。
激しくぶつかり合った戦場はようやく静かになり
「敵の本陣は落ちたわ!勝鬨を上げて!!」
ニドがそう言い放つと軍全体が喜びに満ちていた。
そして同様に敵軍全体に困惑の声が広がっていた。
その沸き立つ歓喜の声の中からニドは凍りついた敵軍に向かって
「我々は今から敵残党兵の殲滅に移る!撤退しないのであればね!」
そう言い放つと、一人二人…それに連れられるように皆、一目散に逃げ出した。
完全に敵の姿が見えなくなると皆周りの兵士たちと喜び合っていた。
そんな中、ニドはゆるゆると力なく地面にへたり込んだ。
「しょ、将軍!大丈夫ですか!?」
「う、うん。大丈夫。久しぶりの前線で腰が抜けちゃっただけ。」
そう心配そうに声をかけてくれた兵士にニドが言うと、伝染するように皆笑い出した。
「なによ!笑うことないでしょ!」
「いやぁ将軍もそういう一面があったんですね!」
そんな賑やかな声が戦場に漸く終わりが来たことを告げていた。


今回の立役者である切り込み隊も若干の負傷者はあるものの無事帰還し、お互いに生きて再開できたことを喜び合っていた。
「よかった!無事だったんだな!」
「当たり前だ!死んだら酒が飲めないからな!」
「おいっ!将軍がいる時にそんな話するなよ!」
戻ってきた兵士たちが集まり、そんな話をしている近くにニドがいることに一人が気が付き、注意を促していた。
以前からニドは戦いが終わった後の飲酒を禁じていた((普通の軍隊なら発狂もの))。
疲弊した体には酒は普通よりも悪影響を及ぼすというのがニドの理由だった。
が、勿論聞こえないはずがない。
するとニドは彼らの方に歩いていき
「『勝って兜の緒を締めよ』。私がいつも言っているわよね?」
「申し訳ありません!」
ニドのその警告に対し、びっしりと姿勢を正し、敬礼をしてそう謝罪していた。
「でも、たまには息抜きをしないと体に毒よね?みんなに中央で宴会をすると伝えてきてもらえるかしら?」
が、ニドはニッコリと笑い、その兵士にそうお願いした。
「か、かしこまりました!」
彼は満面の笑みを浮かべ、一つ深くお辞儀をして兵士たちのテントの方へと走っていった。
「珍しいですね。あなたがそんな事を許可するなんて。」
その様子を見ていたリドラがニドの元へと歩み寄りながらそう言った。
「なんでかしらね?普通なら説教の一つでもしてるんでしょうけど…今日ぐらいはいいかな?って思っちゃたの。」
「変わられましたね。いえ、昔の将軍に戻ってきたという方が正しいのでしょうかね?」
そうニドがため息混じりに話すとリドラはそう言った。
「もう…そんなにおだてて…。いいわ、今日は久しぶりに私も飲みましょう!」
そう言いながら歩き出した。
「お供させてもらいます。」
そう言い、少し先を歩くニドを追うようにリドラも歩き出した。
中央にニド達が着く頃には急ピッチで宴会の準備を進めていた。
久しぶりのことなので皆一様に浮かれていた。
寝ていた者を叩き起す兵士や、兵糧庫から勝手に酒類を次々と持ち出す者とほとんど皆が走り回っていた。
「ついさっきまで戦ってたというのに元気な事…。ある意味感心するわ…。」
やれやれという感じで呆れた表情を浮かべるニドもいつもの調子ですぐに忙しく動き回る兵士たちに指示を出していた。
「なんだかんだ言って将軍もノリノリじゃないですか。さて、私はみんなを起こしに行くとしますかね。」
そんな独り言を呟き、リドラも自分の隊があるテントの方へと消えていった。
ニドの指示があってか、皆が全面協力したためかあっという間に大量の酒が用意され、みんな中央にある大きめの広場に腰を下ろしていた。
「今日はみんなの協力があったおかげで圧倒的な勝利を収めることができたわ!その勝利を祝って…乾杯!!」
「カンパーーイ!!」
ニドの幹事の声で一斉に皆が飲み始めた。
勿論、ニドもその輪の中に入り一緒に笑いながら飲んでいた。
ニドの部隊では珍しく賑やかな夜となっていた。
みんな笑いながら今日の戦果を語り合ったり、この戦争の終わった後の世界に夢を馳せたりしていた。
「そういえば将軍はこの戦争が終わったらどうするんですか?」
「そうね…。まずはあなたたちとこの戦争を生き残れたことを喜び合いたいわね。」
ニドが酒で少し赤らんだ顔で笑いながらそう言った。
「なんですかそれ!どうせならもう本音を教えてくれてもいいんじゃないですか?」
あまりに素っ気の無い回答に兵士たちは笑いながらそう質問し直し
「もう…!そうね…。やっぱり私の帰りを待ってくれてる妻にもう一度告白したいわね。」
そんな事をニドが言うと周りに居た兵士たちが次々と黄色い声援を送っていた。
恥ずかしそうな顔をしながらもニドも嬉しそうに一緒に笑っていた。
そんな楽しい時間を過ごしていたが、それから数時間が経った頃、ニドはその席を立とうとしていた。
「どうしたんですか?ニド将軍。」
「ごめんなさいね。これからの作戦を立てておかないといけないから私はこれで失礼するわ。みんなはまだ楽しんでてね。」
そう言いその酒の席を離れていった。
兵士たちもちょっと申し訳ない気持ちにはなっていたが、折角大っぴらに酒が飲めるのだ、そこはすぐに宴会を楽しみだした。
テントに戻っていく途中、ニドは自分の部下たちと談笑しているリドラのところに寄り
「リドラ、あなたに作戦に関する頼み事があるから後で私のテントに来て頂戴。」
「了解です。もう暫くみんなと飲んだら向かいます。」
そんな会話をしてその後は寄り道もすることなく自分のテントへと戻っていった。


いつものように作戦を考える机に腰を下ろし、地図とにらめっこをしながら計画を立て始めた。
数分、数十分と経ち、いつの間にか小一時間が経過していた。
いつもならもう粗方の作戦を立て終わり最後の練りこみに移っている時間だが、今日に限って練りこみはおろか作戦すらほとんど定まっていない状態だった。
酒のせいも多少はあるだろうが、正確な判断ができなくなるほど飲んだ覚えも無く、ただただ計画を立てながらため息をついていた。
『なんでかしらね…。別に話なんて無かったのにリドラを呼び止めてしまったわ…。』
そんなことをボーっと考えながら計画を立てていたが、当たり前のようにペンは止まったままだった。
正直な所、ニド自身にも何故わざわざそんな事をしたのか分からなかった。
だが、何故か今日落ち着きの無いニドを助けてくれたあの時から妙にリドラの姿が瞼に焼き付いており、姿を見る度にホッとした気分になっていた。
彼に声を掛けてからずっと、彼がテントに和ませてくれるような柔らかな笑顔で入って来てくれることを今か今かと心待ちにして、作戦どころではなかった。
思えば思うほど、時が経つほど心が熱くなり妙に空しくなっていった。
こんなことを考え出してからは数分しか経っていないのだろう。
だがニドにとっては悠久の時にも感じるほどに永く重たい時間だった。
自然と胸が痛くなり、目からは熱いものが零れ落ち机に広がる地図を濡らしていた。
「失礼します。リドラ大佐、ただいま参りました。」
リドラがそう言いテントをくぐり敬礼をして立っていた。
それに気が付いたニドは椅子から飛び上がるように立ち、彼に迷わず抱きついていた。
「ど、どうされたのですか?」
涙で顔を濡らしながら抱きついてきたニドに困惑するリドラ。
「ごめんなさい……変な事だと分かってるんだけどね…。でもこうしていたいの…。」
彼に抱きついたまま小さく体を震わせながらニドはそう言った。
「将軍…。いえ、隊長。変なことなんかありませんよ。」
リドラはそう言いながらニドを優しく抱いてあげた。
「私は昔から隊長の事が好きでした。勿論、人としてです。いつも冷静に物事を判断して何度も窮地をあなたと共に脱してきました。」
柔らかく包み込んであげたままリドラは緩やかに話し始めた。
「いつも気高く、優しく、威厳に溢れ、それでも決して驕らず、自分の傍にいる人間を死んでしまう最後の瞬間まで救おうとする姿はまさに私の目標でした。」
そこまで言うとリドラはただ抱きついてリドラの話を聞いていてくれたニドをグイと自分の前に立たせ
「ところがどうです。そんな憧れだった人が女性になればこれほど魅力的な女性がいるでしょうか。」
そうニドの瞳をいたって真面目な、しかし優しい瞳で真っ直ぐに見つめてそう言った。
ニドは急に前に立たされただけで、心臓が跳ね上がるほど驚いていたのに、続けてそんなことを言われ自分自身にも聞こえるほどに鼓動が早く、大きな音で体の中で鳴り響いていた。
ニドの心の中ではいけないことだと分かりつつも、それを心の底から望んでいた自分があり、背徳感と高揚感に包まれていた。
気が付けば彼に見つめられているだけで顔が、体が火照っているような気がして今にもどうにかなってしまいそうなほどだった。
ゆっくりと顔を近づけてくる彼にさらに鼓動を早まらせ、だんだんと熱くなる両の頬にニドはようやく気付かされた。
『ああ…私は彼の事が好きなんだ…今なら分かるかもしれない…ララがそれでも私に…恋をした理由…。』
二人の柔らかな、しかしはっきりとした口がお互いに触れ、溶け合うように、絡み付くように触れた口から互いを求めて舌を絡ませ合っていた。
彼が炎タイプの為か自分の願望からか彼の口内は舌は火傷しそうに熱く感じられ、もっと彼を深く感じたい、そんな思いから折り重なるようにもっと舌を彼を求めて奥へ奥へと伸ばした。
リドラもそれに答えるように深く緩やかに、しかししっかりと舌を絡めてくれる。
息をするのも忘れてしまうほど、外の賑やかな喧騒も静寂に思えてしまうほど全てを忘れ、ただ二人は永遠にも似た一瞬を送っていた。
互いの唾液が混ざり合い、ようやく口を離せば二人の真剣さを表わしたかのような美しく透き通る橋が二人の間に架かり、そして溶けるように消えていった。
「お願い…。今夜一日だけでいいの…。私と…私と一緒にいて欲しいの。」
決意したニドは彼にそうお願いしたが
「ええ、私の心は変わりません。」
それは聞くまでもなかったようだ。
早く荒い二人の呼吸も次第に落ち着き、もう一度お互いをしっかりと確かめ合った。
恍惚とした表情のニドは彼の顔をも朱の体表でも分かるほどに赤く熱く染め上げ、もう一度だけ普通のキスをした。
そのままニドを優しくエスコートするように彼女のテントの中にあるいつも彼女が使っているベッドへと連れてきた。
『ごめんなさいララ。でも今だけはいいわよね?私も女性だから他の好きな人に恋しても…。』
二人とも自分の身につけている鎧を脱ぎ、互いに生まれたままの姿を相手に見せ合っていた。
ニドのドレスのような鎧は燃える夕日のような朱の色だった。
彼女の体色と違うその色はとても彼女を際立たせる素晴らしい色だった。
しかし、先の戦いで返り血を浴び、朱の百合のようなそのドレスには紅い斑紋が散っていた。
それは決して美しいものではないが、戦場を生きる気高きその姿は鬼百合を連想させるような色で彼女の生き様そのものを写したような色になっていた。
「こうして見ると…傷だらけですね。お互い。」
彼の甲冑には無数の傷と黒ずんだ赤のシミが少し残っていた。
しかしその甲冑の傷と同じかそれ以上の無数の傷が彼の体に残っていた。
それは美しく整った流線型のフォルムのニドにも彼以上にあった。
「嫌なものね…。男だったら気にしなかったのに女だったらこんなもの残って欲しくないと思ってしまうわ…。」
「私はいいと思います。将軍の無数の傷は全て誰かを守ったり、庇ったり、そうやって付いた傷なんですからその傷の数だけ誰かがほんの少しでも生きることができたんですから。」
そう言いながらリドラは左脇腹の辺りにある一際大きな傷を優しくなぞった。
その傷はまだ彼らが若かった頃に新兵だったリドラを庇ってニドが受けた傷だった。
ニドがいなければ今の彼はないだろう。
しかし、その傷でニドは一度戦線を離れ、一週間もの間生死を彷徨うほどの傷だったのにも関わらず、戦線に復帰したニドはそれでも今度は他の隊員のために誰よりも死地を歩み続けていた。
多くの者は死の間際、安らかに死にゆく時を与えてもらっただけだがそれでもニドは決して隊員を見捨てなかった。
そして生き残った者はニドの意思を継ぎ、誰かのために身を挺することが出来るように成長していった。
「本当は足が竦みそうになるの。でも気がついたら誰かのために体を張って、誰かのために敵と何度も生きた心地のしない死闘をし続けたわ。捨てられないって心が叫んでいるような気がして…。」
次の瞬間、彼はニドにしっかりと抱きついていた。
肌と肌が触れ合い、互いの鼓動が聞こえ、互いの体の火照りが感じられ…。
「だから約束します。絶対にあなたを生きて&ruby(ここ){戦場};から帰すと。誰よりも人のために命を張れるあなただからこそ…。」
ようやく落ち着いていた体が、心が跳ね上がり、しかし下心のない真剣なその姿に初めてニドは涙を流して思った。

『生きたい』

と…。


「なんだか…嬉しいはずなのにちょっと怖いわ。」
ベッドに仰向けになったニドは少しモジモジしながらそう言った。
「大丈夫ですよ。優しくしますから安心してください。」
リドラはゆっくりと覆い被さり、じっと彼女を見てそう言った。
彼女よりも大きな体のリドラは彼女に少しでも威圧感や圧迫感を与えないために少し下がり、お互いにまっすぐ見れるようにしていたが
「分かってるわ。そう、今だけは私の事を名前で呼んで欲しいわ。折角の雰囲気が壊れちゃうからね。」
「分かりました。ニドさん。まずはご奉仕させていただきます。」
リドラはニドの言葉に対し少しだけ皮肉を絡めて笑いながらそう言い、少しずつ体を下へとずらしていった。
薄く黄色みがかった腹部をなぞるように下がりながら視線をずらしていき、美しい秘部へと顔を近づけていった。
何をするのか分からずニドはドキドキしながら天井を見上げているとおもむろに腹部へと熱いものが侵入してきたのが分かった。
「ッ!?ちょ、ちょっと待って!」
思わず体がビクンと跳ね、足を閉じてしまった。
「ど、どうしたんですか急に?」
まさかそんな反応を見せると思っていなかったためリドラも驚いたが
「だ、だって今の…舌でしょ?駄目よ!汚いわ!」
顔を真っ赤にして恥じらうニドを優しく撫で
「汚いはずがないでしょう?こんなに美しい色をしているのに。」
そう言いながらリドラは爪でその繊細な花弁を傷つけないように細心の注意を払いながら少しだけ指を入れた。
「!!!!」
慣れていないのがひと目で分かるほど大きく体を反らせて反応した。
「落ち着いてください!そんなに暴れられた方が危ないですよ!」
「で、でも…。こんな感覚初めてで…。気持ち良すぎて…。」
元々男性だったためか普通の女性よりも顕著な反応を示し、より一層快感も感じてはいたようだった。
ひとまずニドの心を落ち着け、何故かニドに決して暴れないように決心させてから
「いいわ。大丈夫よ。耐えてみせるわ。」
「耐えてどうするんですか…。感じても反応し過ぎないようにお願いしますよ?」
そんな不思議な会話をしてからもう一度最初からやり直すことになった。
もう一度ゆっくりとニドの秘部を撫でてあげ、最初は入り口の付近を舌で愛撫した。
それだけでもニドは反応を見せ、僅かに体を反らせて硬直していた。
しかし言った通りニドはなんとか耐え、小刻みに体を震わせて快楽の波を全力で感じ取っていた。
少しずつ体の硬直が緩んできたのを確認するとリドラは少しずつ中へと舌を侵入させていった。
リドラが違うことをするたびに分かりやすく反応する様は逆に愛おしく思えてきていた。
最初はそんな反応をするたびに申し訳ない気分になったが、よく考えてみれば彼女が望んだ事、それでこれほどまでに感じてくれているのだから。
だんだんと荒い息遣いが聞こえるようになってきたが、必死なのか声は全力で殺していた。
少しずつ奥へと進み、リドラの舌がうねる様に中で動くたびに必死に耐えながら感じていた。
だんだんと動きを早くし、さらに奥へと伸ばしていくと耐えられなくなり腰を大きく反らしたが、それでも必死に耐え快感を味わっていた。
ニドはそんなことを続けているうちにだんだんと高揚感に包まれ、押し寄せる快感に身悶えしながら必死に感じていた。
「ダメ…ダメ!イクゥ!!」
ついに耐え切れなくなり声に出してイってしまった。
溢れる愛液を一通り舐めて綺麗にしてあげた後、リドラは
「気持ちよかったですか?…って聞くまでもないようですね。」
そう質問したが恍惚とした表情のまま放心しているニドを見て苦笑いしながらそう言った。
息を荒げながら未だ消え残る快感の余波を全身で感じ取り、痙攣にも近いような震えをしていた。
「そんなに可愛い顔をされたら私も興奮してきましたよ。次は一緒にイキましょうか。」
そう言いニドがある程度息を整えるのを待ってから覆い被さった。
ゆっくりと腰を落とし、彼のモノと彼女の秘部が僅かに触れ合った。
それだけでもニドは反応し、とても熱い彼のモノが当たっていると考えるだけでもそれが快感になるほどだった。
彼の先端が少し中に入っただけで先程までとは全く違う感覚に驚いて
「ちょっと待って!やっぱりもう少しだけ…。」
そう言ってしまった。
勿論リドラがそこで強引に挿れたりするような酷い奴ではないため、すぐに腰を引き
「分かりました。待ちますのでよくなったら言ってください。」
そう言って律儀に座って待っていた。
『どうしよう…そういうつもりじゃなかったのに…。』
ようやく快感が収まり、待ってくれているリドラを見て少し申し訳なくなった。
彼だって彼女の事が好きなのだ。
早くひとつになりたいと思っているだろう、なのにも関わらず、耐え切れなくなりそうな快感からニドの口から出た言葉はそんな自分よがりな言葉だった。
それでも嫌な顔一つせず柔らかな笑顔のまま座っているリドラの姿を見るとさらに心が切なくなった。
そしてそんな時にニドは一つ閃いた。
ゆっくりと体を起こし、座ったままのリドラと向かい合わせになるように自分も座った。
「どうしたんですか?」
「いやね、さっきのお礼をしてあげないと…ね?」
そう言いながらおもむろにまだ元気な彼のモノを口に含んだ。
突然の出来事にリドラは驚き、身震いしたが
「い、いけません!将…ニドさん!汚いですから!!」
必死にニドの行為を止めさせようとしていた。
「でも私のは大丈夫なんでしょ?だったらあなたのも同じ。まず気持ちよくしてあげるわ。」
行為を中断しそう上目遣いで言うニドはとても妖艶でリドラも断るに断れなかった。
寧ろ嬉しかったというのもあったせいかもしれないがほんのちょっとのフェラとニドの上目遣いでリドラのモノは先程よりもより一層元気になっていた。
固唾を飲み込み、ゆっくりとうなずいたリドラを確認するとニドは中断していた行為を再開した。
硬く鋭くなった彼のモノをなぞるように舌を這わせ、そのまま今度はゆっくりと口に入れていった。
それだけでもリドラは背筋を電流が通り抜けたような快感に襲われたが、彼女が耐えていたように彼自身も必死に耐えた。
なぞるように動いていた舌はそのうちモノに絡みつくようにうねり、先端から根元まで余すことなく舐めていた。
ジュルジュルと舐ぶる音がリドラにより一層の快感を与え、爆発しそうな快感を顔を歪めてでも耐えていた。
ニドは全力で吸い上げたり舐っていたのを少しやめ、先端だけを舐めてみたり全体を緩やかに舐めたり緩急を付け始めた。
「ぐっ…!!も、もう限界です…!!」
遂に耐え続けていた快感ははち切れるようにニドの口腔内へとぶちまけられた。
急に熱いものが口の中へと広がり、びっくりしてそれを飲み込んでしまった。
口の中にそれでも溢れ続けるそれをニドはただただ飲み干していった。
ようやく張り切ったモノが僅かに萎み、彼の精液が流れ出すのが終わったのを確認すると
「ケホッ…!思ってたよりも酷いわね。こんなに苦くて生臭いとは思わなかったわ…。」
そんな事を口を離して息を荒げながらそう言った。
リドラも同様に息を荒げながら少し遠くの方を虚ろに見つめていた。
「どう?気持ちよかったかしら?」
ニドがそう聞くと次の瞬間、リドラはニドを押し倒すように覆い被さり
「すみません…。ニドさん…限界です。」
彼女の秘部にモノをあてがってそう言った。
まっすぐな瞳は力強く、息を荒くしてニドに覆い被さっている様子はだんだんとニドの心拍数を上げていき
『ああ…やっぱり彼も…男なんだな…。』
そう心の中で嬉しそうに呟き、潤んだ瞳で彼を見つめたまま小さく頷いた。
それを確認するやいなや心待ちにしていたと言わんばかりにゆっくりと、しかし力強く中へと挿れていった。
快感にニドは甘い息を漏らすがなおもリドラのそれは快感を与えながら深く入りこんできた。
快感が全身を電流のように駆け抜け、身悶えしてしまいそうになるが
「ッ!?痛い!痛いっ!!抜いて抜いて!!」
脳天まで突き抜けるような激痛により全ての快感が何処かへ吹き飛んでしまった。
「えっ!?も、もしかして初めてだったんですか?す、すみません!」
ボロボロと大粒の涙を流して暴れるニドを見て慌てて腰を引いた。
初めての証である赤い物がポタッと落ち、ニドは泣きながら秘部を抑えて縮こまっていた。
流石にこんな事態になればリドラもそんな気分ではなくなりただオロオロとしていた。
ニドがだんだん落ち着くに連れてリドラも落ち着きを取り戻し
「そういえばニドさんがそんなに痛いのに弱いとは思いませんでした。いつも誰かを庇って怪我をしていたので…。」
そうニドを慰めるように話しかけると
「そういう痛さとは全然違うのよ。でも私だって痛いのは苦手よ。ただ頭よりも先に体が動いてるだけで。」
そう涙で濡れた頬を拭いながら答えた。
「ごめんなさい。雰囲気を壊しちゃって…。」
そう申し訳なさそうにニドが言ったが
「いいえ。あなたに泣き顔は似合わないですから。ニドさんが構わないのなら続けましょう。」
そうまだ残っていた涙を拭い、頬にキスをしてあげた。
そのまま濃厚なキスをしながら二人でベッドへ倒れ込んだ。
互いの吐息がお互いを興奮させ、ニドは痛みを忘れ、リドラはもう一度元気を取り戻した。
少しの静寂が二人を包み、緩やかにニドの中へと入っていった。
甘い吐息とクチュっという絡み合うような水音がさらに快感を増し、スルリと奥まで入っていった。
「アァ…お、奥まで…届いてる…当たってる…!」
「分かります…!俺も…感じます!」
ただ奥まで入っただけでも溶けてしまいそうなほどになる二人は少しの間相手に抱きついたまま動けなくなっていた。
「動きますよ…。いいですか?」
荒い息のままリドラがそう聞くとニドは小さく頷いて答えた。
奥まで入り止まっていたリドラのモノがゆっくりと引いていき、同じようにゆっくりと中へ進んでいった。
初めてのニドだったがそれだけでも感じてしまい、声を漏らしてしまう。
そのままゆっくりとピストン運動を続けていた。
舌で感じていた感覚とは違う大きく、熱く、存在感のあるリドラの感覚により快感を感じ息は荒く、声はだんだんと大きくなっていった。
外に声が聞こえてはいけないとニドはそれでも必死に声を殺そうとするが、体が感じる感覚に抗えないでいた。
ニドが心配しなくても元々久しぶりの宴会でみな騒いでおり、二人の秘め事など気付くはずもなかった。
それに元々こういう事をしないのがニドだったためリドラを自分のテントに呼んでも怪しむ者など一人もいなかった。
「ハァン…!!もうダメ!!」
打ち寄せる波のごとく定期的に来る快感の波にニドはついに耐え切れなくなりリドラよりも先にイってしまった。
しかし、リドラも実の所初めて。
急に優しく締め付けられるような膣圧へと変わり、リドラも耐え切れなくなっていた。
「あぁ…!!む、無理です!出ちゃいます!」
必死に腰を引こうとしたリドラだったが引き抜き切るよりも先に快感が頂点に達してしまい、中にドクンッと脈を打ちながら彼の精液が流れ出してしまった。
あまりの気持ちよさに体に力が入らなくなりそのまま中に出し続けそうになったが、リドラは必死に自分の中の理性を引っ張り出しなんとか腰を引いた。
それでも未だ脈を打ちながら出続ける精液はニドの下腹部や二人の交わる辺りのシーツへと流れ落ちていた。
「す…すみません。タマゴができないようにだけはしようと思っていたのに…。こんなことになって…。」
息を荒くしながら必死に謝る彼の目には涙が溢れていた。
彼の中での約束を破ってしまった罪悪感から溢れ出た感情なのだろうが
「大丈夫…よ…。私は今はニドクインなの…。ニドクインはタマゴが出来ない体質((ニドクインのタマゴタイプは未発見))だから…。」
そう恍惚とした顔のまま彼を見て僅かに広角が上がっただけの笑顔でそう言った。
決して嫌だったというわけではなく。予想以上に疲弊したのと快感の余波でそれほどの動きしかできなかっただけだった。
それを聞き、リドラはとても驚いた顔をしていた。
「え?それじゃあ…。な、なな中で出してもいいって…こここ事ですか!?」
驚きに満ちた顔はだんだんと真っ赤になり、慌てた調子のままそうニドに聞いた。
「えぇ。」
ニドがそう言うが早いか、先程まで息を荒くして放心していたリドラはいつの間にかもう一度ニドに覆い被さっていた。
「俺はまだまだいけます!ニドさんさえよければ!」
既に先程までの疲れは吹き飛んでおり、モノももう一度元気になっているようだった。
「もうっ!そんな笑顔で言われて断れるわけないでしょ!」
ニドはそう皮肉をこめた物の言い方をしたが顔はとても笑っていた。
もちろん嫌なはずがない。
「今度はちょっと激しくいきますよ?」
そう言い、ニドの返事を返事を聞くよりも早く挿れ、クチュッという音と共に一番奥まで一気に進んでいった。
何かを言おうとしていたが先程の精液とニドの愛液が潤滑油の役割を果たし、先に一気に快感を与えたため言葉は引っ込んでしまった。
そのまま今度は休む間もなくすぐに引き、また素早く突き入れていた。
先程までの優しい動きとはまた違う急激な快感と少しの休憩がまたニドを違う快感に襲わせ、さらに膣内は滑りが良くなっていた。
そのうちジュッジュッという素早い音が聞こえ出し、それをかき消すように二人の荒く甘い声が漏れ出した。
今度は我慢する必要がないのでリドラは目一杯腰を動かし続け、ペースも考えずにただひたすらに快感の頂点を目指していた。
もちろんそんな事を続けていれば絶頂はすぐに訪れる。
急激な快感から次第に高揚感が生まれ、体が中にでも浮いているかのような感覚に陥っていた。
「い…イキますよ…!!」
リドラは最後の力を振り絞りなんとかそう言うとさらに速度を上げて残りの快感を満たした。
雄叫びにも似た二人の声と共にニドの中にも彼の全てが注ぎ込まれた。
「出てます…!ニドさんの中に…全部…!」
「アァッ!!分かるわ!熱いのが…!どんどん溢れて…くる!!」
最後にそう言葉を交わすと沈むように二人は重なったまま動けなくなり、最後の一滴までニドの中へと愛を注ぎ込んでいた。


幾らか時間が経った頃、二人は天井を見上げたまま横並びで寝ていた。
「そういえばニドさん。こうやって二人で寝てると思い出しますね…。」
静かに横になっていたリドラが急にニドに話しかけた。
「思い出すって…いつの事?」
思い当たる節が多すぎてニドが聞き直すと
「もう大分昔ですけど、森の中で本隊とはぐれてしまった時の夜ですよ。」
そう懐かしむような顔で答えた。
「そういえばあったわね。必死に敵の攻撃から逃れたのはいいけど、交信も行えなくなっちゃったんだったわね。」
「その時、隊長が機転を利かせて少し窪んだ所で夜通し交代で見張りながら夜を明かしましたね。」
まだニドが小隊長になったばかりの時、今よりも激しい戦闘が頻繁に各地で繰り広げられていたため情報伝達が間に合わない状態が続いていた。
ニドの部隊はその遭難した森を抜けたところにある戦区へ向かっている途中、情報に入りきらなかった敵の奇襲を受けその時援護に向かっていた数十もの部隊が散り散りになってしまった。
なんとかニドの部隊は他の部隊一つと合流することができたが、そこで意見が分かれてしまった。
「ニド少尉!分かっているのか!?こんな森の中で一夜を過ごすだと?自殺行為にも程がある!」
「だが今動いた所でどうなる!!ただでさえ見通しの悪い森の中をこんな暗闇の中、敵に出会わずにまっすぐ歩けると思っているのか!!」
ようやく出会えた小隊同士、最初は無事を喜び合っていたのにも関わらず、意見の相違から危険な状態での怒鳴り合いになっていた。
「落ち着いてください隊長!敵に勘付かれてしまいます!」
「分かっている!こいつとはいくら話しても無駄なようだな!冷静な判断の出来る切れる奴だと聞いていたんだが、どうやらキレる奴だったようだな!」
お互いの隊員が双方を止めに入ろうとするが、完全に頭に血の上ったその部隊長は吐き捨てるようにそう言い、夜闇の中へと消えていった。
「どうするんですか隊長!?折角出会えたのに!」
なんとかリドラが彼らを引き止めるようにニドにお願いするが
「分かっている…だがああなった以上俺の言葉は奴には届かん。今は俺達が生き抜くことだけを考えろ。あいつらも俺達も運が良ければ明日には笑って話せるさ。さあ移動しないとまずい。」
そう言いすぐにその場を離れ、かなり移動した先で見つけた窪地で一夜を明かすことにした。
「そこで隊長がみんなと夢を語り合ったりしてくれたおかげでみんなも笑顔が戻っていましたからね…。やっぱり隊長はすごいですよ。」
さっきの件ですっかり意気消沈した隊員たちを元気づけるために戦争が終わった後の夢を聞いたりした。
周りに聞こえないように注意を払いながらではあったが、その危機的な状況から生まれるパニックだけは避けることができた。
「いいえ。あの時、そんな質問をできたのはあなたのおかげなのよ?」
ニドがそう言うとリドラは驚いた表情をしていた。
「私が何かしましたっけ?」
「あなたが『早く帰って美味い飯を食いたい。』って言ってくれたのがヒントになったのよ。」
そんな事をクスクスと笑いながら話したが
「でも結局私と出会って夢を語った人達は一体何人が夢を叶えられたのかしら…。」
急に悲しげな表情をしてそう言った。
「たくさんの兵士が誰かを救いたいと言って戦場にもう一度身を投げ、たくさんの兵士が夢も叶えられず戦場で散っていって…。僅かな兵士だけが祖国へと帰っていった。」
「私はそれでいいと思います。」
そのまま泣きそうな口調で喋り続けるニドにリドラはそう返した。
「確かにたくさんの兵士が亡くなっていったのを私も覚えています。私と一緒に兵士になった親友も戦場で死んでいきました。でも、隊長と出会った兵士たちはみな誰かのために動いて、誰かのために戦ったんです。」
「でも…それじゃあまるで私が彼らを殺してしまったみたいで…。」
いつものニドからは絶対に出ないとても弱い言葉が吐き出されたが
「違います。彼らが誰かのために戦った分、もっと多くの兵士が生き残って、さらに多くの兵士が人のため自分のために戦場で強く生き続けたんです。そうやって誰かと誰かが繋がって、間違いなく多くの名前も知らない兵士たちが生きて祖国へと帰っていってるんです。」
ニドのそんな弱い考えを打ち砕くかのようにリドラが全てを否定した。
そのままニドは黙り込み、何も言えなくなっていたが、リドラがニドの手を取り
「だからこそ今、あなたは全ての人を救える程の高みにいるんです。一人が十人救えば十人が百人を救える…。その思いを伝達できる一番上に…。」
そう優しく力強く言った。
するとようやく溜め込んでいた重荷が外れたかのように深い溜め息をつき
「ありがとうリドラ。でも私の名前は隊長じゃないわよ?」
そう言い笑顔を取り戻した。
「ハハッ。すみません。やっぱり昔からの癖ですね。初めて会った時からずっとあなたのことを尊敬していたので。」
「もう…。折角いい雰囲気だったのに…。責任は取ってくれるわよね?」
ニドが少し不貞腐れたような笑顔でそう言うと
「分かりました。今夜はとことんまでお付き合いしますよ。ニド隊長。」
リドラもわざとそう言い、軽いキスをした。

*堅物将軍愛を知る [#k9eda024]

軍隊というものは朝も昼も夜も関係なく、基本的に騒がしいものだ。
戦闘中であれば指示や攻撃の爆音で、暇な時であれば宴で騒ぐ。
しかし、ニドの軍隊は暇な時は基本的に静かだ。
ニドが常に『勝って兜の緒を締めよ』、その&ruby(ことわざ){諺};を戒めに用い、気の弛みを許さなかったからだ。
しかしそれで兵士の士気が下がっているかというとそういう訳でもなく、不意に見せるニドの優しさが寧ろよい方向に働くようだった。
とはいえ、酒を飲んでの宴ではなく、生死を気にせず戦える親善試合のようなものを軍内で開くのだ。
優勝者には勿論、さらに優勝者を当てた参加していないものにも賞金をボーナスとして出していたため、兵士の士気も下がらず、自ずと体を鍛えようとする者が現れるまさに一石二鳥の催しだった。
要するに酒でなくともいつもと違う事ができればそれでいいわけだ。
しかし今、ニドの軍はかなり士気が下がっていた。
大きな勝利を挙げ、全体の士気が上がっていたものの、その後各地で紛争が相次ぎ、死に物狂いになっていた敵にちょこちょこと敗北していた。
手痛い打撃は受けてはいないものの、分隊を各地に送り出したり、勝てたとしても負傷者が多いなどで兵士たちにも完全に疲弊の色が見えていた。
『このままじゃまずいわね…。士気を回復するには一時帰国が一番効き目があるけど…。』
ニドはこのような結果になることは予想しておらず、だんだんと増えていく死傷者の数に心を痛めていた。
なんとか帰国させたいものの、今そんなことを出来る程の人員がある訳もなく、これ以上の兵士も失えないそんな切羽詰った状況だった。
一応他の大きな軍隊にも連絡はとっているが、勿論こちらに大きな人員を割くわけにはいかず、よこしてくれることになった兵士が応戦し、ニドの軍隊の回復を待つための時間稼ぎでしかなかった。
『こんな状態で参加する人も少ないと思うけれど…開催してみるしかないわね。武術大会。』
そんなことをため息混じりで考えながら今日も重い足取りでテントを出ていった。
テントを出るといつものように近くで作業をしていたアレスに声をかけた。
「アレス、今日のことなんだけど武術大会を開こうかと思うの。」
「大会ですか…。いいかもしれないですね。ここ最近兵士たちの士気がかなり落ちてるのでいい気分転換になるかもしれませんね。」
どうやらアレスも同じようなことを考えていたようで
「ではすぐに情報を伝えてきます。」
そう言い、すぐにその場を離れようとしたが
「ちょっと待って。今回は確実に参加者が減ると思うの。だから参加する人は中央広場に集まるように言っておいて。」
と一応の注意だけ促した。
ニドがそう言った理由は言うまでもないが、ただでさえ怪我人が多いのだ。
参加者は確実に今までで一番少なくなることが目に見えていた。
数十分後、広場に集まっていた人数はニドが予想していたよりも若干多く、4,50名はいただろう。
しかし基本的に三桁代は集まっていたのでかなり少ないほうだ。
「やっぱり参加者の方は少ないわね。折角だから今回は優勝賞品でも変えてみる?」
ニドが集まったそのメンバーに聞くと各々雑談を始めた。
「賞金も嬉しいけどなー…。やっぱ女が欲しいよな。」
「つったって今基地の周りは危なすぎて外にゃ出れんぞ?」
「やっぱ酒だろ!」
「お酒は駄目よ。こんな状況だとあなた達浴びるように飲むのが目に見えてるから。」
酒の話題が出た時点でニドが先に釘を打つと黙り込んでしまった。
話はだんだんと女かお金かの二つになってきたが
「女はいないもんな。諦めるしかないか。」
「結局いつも通り賞金か…。死ぬ前に一度くらい女を知っておきたかった…。」
「そういうこと考えてると本当に死んじまうぞ?」
彼らの話は完全に女を諦める方向になっていた。
が、少しばかりニドは怒っていた。
一応、今ニドは女性だが誰一人として彼女の方を見ずに話していたので彼女の中のプライドかカチンとくるものがあったようだ。
「一応私は女なんだけど?分かっててあなた達私の事無視してない?」
この一言が全てを変えるきっかけになってしまった…。
その途端に全員がニドの方を振り返った。
彼らの目は獲物を狙うようなギラギラとした目に変わっており
「え?もしかして…それって…。」
「いいんですか!?よーっし!!絶対勝つ!優勝する!!」
「ふざけんな!俺が勝つ!!」
一瞬で場の空気が変わったことにニドも流石に危険を感じた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!私はただ女性ならここにもいると…。」
ニドの言葉など既に聞く気がなく、全員が盛大に盛り上がっていた。
「ちょっと待ったぁ!!将軍と一晩共にできるだと!?俺も参加させろ!」
何処から湧いて出たのか先程までいなかったバンギラスのギリスがそう名乗りを上げていた。
「ちょっと!!なんてこと言うのよ!というよりも准尉以上の階級((大将、中将、少将、准将、大佐、中佐、少佐、准佐、大尉、中尉、少尉、准尉、曹長、軍曹、伍長、兵長、上等兵、一等兵、二等兵と左から順に階級が高くなる))を持ってる人はダメだって言ったでしょ!」
顔を真っ赤にしてニドが言うと
「お願いします!今回だけ!今回だけは!!それに元々参加者が少ないんでしょ?お願いします!!」
ギリスは地に膝をついてまで懇願した。
ニドが高い階級を持ってる兵士を参加させなかった理由は単に強いというのもあったが、もし怪我をした場合郡の統率が取れなくなってしまうから禁止していたのだった。
「もう!分かったから!今回だけは許可するわよ!それで文句無いでしょ!」
それをニドが言った途端、どこから湧いたのか次々と兵士が顔を出してきた。
「聞いたか?俺達も参加していいみたいだぞ!」
いつの間にか言葉が人を呼び、だんだんとギラギラとした目の兵士が広場へと集まってきていた。


それから更に数十分後…。
「すごいですよニド将軍!恐らく過去最高の参加人数ですよ!」
一人溜め息をつきながらテントでこれからの計画を立てていたニドの元にアレスが慌てた様子でそんな報告しに来た。
なんでも今回の参加者は怪我人を除いてほぼ全てだそうだ。
『なんでだろう…。すごく喜ばしい事のはずなのに…。何かが悲しい…。』
心の中でそんなことをぼそっと呟き、アレスの後をついてテントを出た。
広場ではそこらじゅうで気合の入った声が湧き上がっており、各々戦場に&ruby(おもむ){赴};くときよりも入念なウォーミングアップをしていた。
「結局大佐クラスまで参加したのね…。明日以降に響かなければいいけど…。」
「私としてはご自身の身の危険を感じないのが不思議です。」
なんだかんだ言いながらもアレスは意外とニドの身を気遣ってくれてはいるようだった。
「そういえば、あなた達は参加しないの?」
近くで作業をしていたアレスとリドラは今回参加しなかった側のポケモンだった。
そこで(ある意味嬉しいが)参加しなかった理由を聞いてみると
「私はどう足掻いても勝てませんので。それに私には帰りを待ってる妻がいますのでバレたら殺されてしまいますし、全員参加してしまうと大会の進行役がいなくなりますからね。」
とアレスは少しだけ口惜しそうに言い
「私も今回は審判と進行役ですね。それに一日だけの約束でしたから。」
とリドラはニドの耳元で彼女にしか聞こえないように小さな声で言った。
そんなことを言われ、ちょっと顔を赤くしながら軽く突き飛ばした。
『でも…そんな律儀なところに惹かれちゃったのかもね…。』
苦笑いをしながら小さく溜め息をし、そんなことを一人考えてまた顔を少し赤らめていた。
日も高く上がり綺麗な快晴の空の中、広場にはみっちりと人の海ができていた。
いつもはニドが作戦を全体に言い渡す高台から
「えー…コホン。今日は沢山の参加者が出て嬉しい限りだわ。では長い前置きはなし!今から前線駐屯基地第8回武術大会を開催します!」
ニドがそんな本心にも無いことを言うと全員が一斉に盛り上がった。
万では済まないような人数が集まっている姿は壮観ではあるが、内心ニドは後悔していた。
『変な意地であんなことを言わなければいつも通りの大会だっただろうに…。』
と。


ニドの開く大会では人が多く集まった時はいつも複数人が同時に戦う予選を行なっていたが、今回ばかりはそれでも捌ききれないほどの人が集まっていたため
「はい!順番にくじを引いてください!ハズレだった方は予選落ちです!押さないで!」
アレスが似合わない大声を出しながらくじを引く大行列を仕切っていた。
元々物静かで怒鳴るようなこともないため案外みんなアレスの指示に従ってきちんとくじを引いていた。
「嘘だろ!?ハズレかよ~。今回自信あったのに…。」
くじを開いた者達が受験番号で一喜一憂する学生のようにはしゃいでいた。
「そういえば将軍。何故くじ引きが予選なんですか?普通に考えれば実力を測ってしまう方がいいと思うのですが…。」
行列を眺めていたニドにアレスがそう質問すると
「運も実力のうちってね。どんなに腕っ節の利く兵士でも戦場では思わぬところで足元をすくわれて死んでいった兵士をごまんと見てきたからね。」((勝負は時の運))
実に的を得てはいるが、実はニドのもう一つの思惑も絡んでくじ引きになっていた。
今回、特例で准尉以上の階級を持った兵士も参加している。
ということはどう考えても強い人達が生き残るのが目に見えているので、実力がある人もこれなら脱落する可能性があったためそうした。
案の定、伍長クラスや大佐クラスの兵士でも生き残る者と落ちる者がおり、実力にもかなりバラつきがある残り方をした。
くじ引きだけでもかなりの時間がかかったものの、参加者の数は4分の1まで減らすことができた。
『思った以上に強い人が残ってるわね…。やっぱりそういう意味でも強いのかしら?』
ニドが残った兵士をざっと見てみると案外死線をくぐり抜けてきた兵士が残っていたためそう思ったようだ。
実際のところは残ったメンツを見て怖気づいた兵士が強い兵士に売っていただけなのだが…。
それもある意味では運なのだろう。
「では今から第二回予選を行います。こちらで選手を区切るので区切られたメンバーが予選の対戦相手です。」
そう言い、一列に並ばせた兵士たちを十数人ごとに区切り、広場に書かれた円の中へと誘導していた。
「将軍。俺にも手伝えることありますか?」
「あら!ダイオンは予選で落ちちゃったのね。丁度いいわ。リドラを手伝ってあげて。」
そんなことを言いながら予選落ちした上級兵士達がニドの元に訪れていたのであまりもたつくこともなかった。
審判もかなり買って出てくれた人が多かったのでスムーズに予選も進めることができた。
『今回も予選から結構激戦になってるみたいね。』
そんなことを予選を勝ち抜いた選手を見ながら思っていたが何故か同時に悪寒が走った。
『なぜだろう…。何故かみんなの私を見る目が異常に怖い気がする…。』
恐らく女性としての本能だろう。
そのまましばらく経つと全ての予選が終わったようで大勢が広場から周りに特設的に設けた観覧席へと移動していた。
「それでは今から第8回武術大会本選を開始します。全員騎士道に則りフェアプレーで行うこと。以上!」
ニドがそう宣言すると予選を勝ち残った数十名の選手が一斉に盛り上がっていた。
高台から降り、本部に移動したが何故か緊張が抜けていなかった。
『何故かしら…。みんなの気合の入り方がおかしい気が…。』
それが不安で仕方なく、ずっと鼓動が全身に響き渡るように鳴っている気がした。


観覧席のすぐ近くに賑わっている一角があった。
「はーい!第一戦はブロンズ伍長対ヤサリグ一等兵の対決だよ~貼った貼った~。」
気が付けばいつの間にかアレスはいつものように賭けの支配人になっていた。
「いっつも思うんだけどアレスってお金の計算とかものすごく強いわよね。なんで戦場に出てきたのかしら?」
「あー…確かアレスは元々商人なんですけど、徴兵がかかって兵士になった後、今は志願して将軍のところにいるみたいですよ。」
ニドの質問にリドラが素早く答えた。
リドラが彼の事情に詳しい理由は親友だからだそうだが
「信頼してもらってるのね…。生きて故郷に返してあげないとね。」
ニドがそうしんみりしながら話すと、リドラが笑いながら
「違いますよ。アレスは奥さんの尻に敷かれてるんですよ。だからできるだけ離れていたいだけなんじゃないんですかね?ま、信頼してるのは確かですけどね。」
そんなことを言い、そのまましれっとニドの下から離れていた。
『恐妻家!?全然そういう風に見えなかった…。』
驚愕の事実に驚いていたが、どうやら試合が始まるようなのでニドも会場内に戻ることにした。
流石に本選に残った兵士なだけあって熱い勝負を見せてくれるが、やはり上級兵士が入ったことにより呆気なく終わる試合も多かった。
参加人数が多かったものの試合は普段の人数の時よりもスムーズに進んでおり、いつもなら日が落ちた頃に決着がつくのだが今日は日が傾くまでには終わりそうな勢いだった。
「それにしても激しい戦いですね。いつもより観客も盛り上がってるのも頷ける戦いぶりですよ。」
ニドの横にいつの間にか戻ってきていたリドラが激戦をくり広げる両者を見ながらそう呟いた。
「はぁ…もうすぐ決勝でしょ?憂鬱だなぁ…。」
ニドは激しい戦いをくり広げる両者を見て思ったことがそのまま口を突いて出てしまった。
「それなら断ればよかったじゃないですか。」
今更な本音を聞き、リドラがニドにそう言うと
「だって…言ったことはしょうがないじゃない。男ならどんな言葉にも責任を持たないと…。」
「でも今は将軍は女性ですよ?」
リドラの鋭いツッコミにニドは何も言えなくなるが、すでに今から決勝が始まろうとしていたのだ。
「では今回の大会も大詰め!決勝は切り込み隊所属、副隊長のカイン伍長!」
観衆の大歓声の中から現れたのはジュカインのカイン。
伍長という階級でありながらも恐らく誰よりも死線をくぐり抜け続けた彼がこの場に残る事は珍しくもない、まさにお墨付きの兵士だ。
しかしながら階級が上がらないのは彼が単独行動を好むため、信頼はあるもののコミュニケーションを取れないからである。
「対するは砲撃隊所属、隊長のギリス少佐!」
こちらも大観衆に迎えられその巨体を揺らしながら入場してきた。
彼もニドの元部下、中距離から遠距離への破壊光線を得意とし、その正確性も優れたまさに中距離のエキスパートだ。
だが、彼がこの舞台に残っている理由は元々ニドの部隊では体格に似合わない突撃兵だったため、近接戦闘も中距離ほどではないにしろ得意な方ではあった。
『ギリスが残ってきたのね…。彼は強い。でも同じくカインも強いわ。隠密行動の正確さや素早さは決して誰にも負けないはず。』
ニドは開き直ったのか冷静に二人の相性などを見ていた。
というよりもニドはこの軍にいる腕利きの名前はほとんど覚えているため、ただ普通に客観的に観戦しているだけなのかもしれないが…。
「フッ…誰かと思えば将軍の腰巾着さんですかい。どうせその少佐の階級もコネだろ?」
「ほざきな。俺はお前なんかよりも死線を越え続けてきた。この地位も俺の実力だよこのコミュショーが!」
「二人ともそこまで!騎士道に則ってフェアプレーで!」
二人がヒートアップしそうなのを見越し、審判が先に仲裁に入った。
階級も所属も関係なく戦える場であるため、本来なら互いに健闘をたたえ合うようなものなのだが。
『なんでだろう…。すごく二人が黒い気がする…。』
何故だかニドには始めから暴言の勝負をしだした二人を見て涙が出そうになっていた。
自身の身を思ってというよりも、欲望に燃える二人が酷く虚しく見えた。
そしてようやくニドは気が付いた。
戦っている選手全員だったのだが気合が入っているように見えた理由はただ単に鼻息が荒くなっていたからだ。
「ねぇ…リドラ…。」
「なんでしょうか?」
「やっぱり優勝賞品変えちゃダメ?」
「どう考えても今更引っ込みがつかないでしょう?諦めてください。それか自分の言葉に責任を持つかですね。」
ようやく身の危険を感じ、リドラにそう振ったが当たり前の返事をもらい少しばかりションボリとしていた。
するとそんな様子のニドを見てりドラは何か閃いたのかニドの方を向き直し
「大丈夫ですよ。最低限酷い扱いを受けることはないですよ。みんなニド将軍のことは尊敬しているんで。」
あまりフォローにならない言葉をニドにダメ押しした。
「それでは…始めぇ!!」
そんな最後の悪あがきをしている間に決勝戦の火蓋は切って落とされてしまった。
カインはまず持ち前の足の速さでギリスを翻弄し、周囲を走りながら撫で斬るようにギリスの付近を走り抜けたりしていた。
が、勿論ギリスとてまともに喰らうはずがない。
急所である腹部や顔を避けながら篭手でうまく攻撃を受け流し、攻撃のタイミングを見計らっていた。
カインの腕にある鋭利な鎌状の葉と篭手がぶつかり合い、金属音と火花を散らしていた。
一瞬も気が抜けないカインの猛攻をギリスはただじっと耐え続けていた。
「おい!いつまで攻撃しないつもりだよ!戦え!」
ただただ攻撃を耐え続けるギリスに観客は野次を飛ばしたが、それでもギリスは耐え続け、次の瞬間カインがすれ違うタイミングを見計らいギリスが攻撃を仕掛けた。
だがカインも同じタイミングを狙っていた。
二人がすれ違った後、ギリスの頬からは一筋の赤い線が伸びていた。
カインの強烈な辻斬りが僅かなギリスの隙を捉え、かすっただけではあるが今回ようやく攻撃が届いた。
「うおぉぉぉ!!あのギリスに先制取ったぞ!」
途端に流れはカインムードになり、観衆のほとんどがカインを応援していた。
「次で終わりだ。降参するなら今のうちだぜ?」
「お前もな。早めに降参しないときつい目に遭うぜ?」
挑発するカインとそれでもなお姿勢を崩さないギリス。
少しの無言の時間が過ぎた後、カインが走り出したことによって静寂が乱された。
もう一度カインの猛攻。
先程までは盛り上がりの薄かった会場も流れがカインに向いたことによって歓声が一撃ごとに湧き上がっていた。
ただ耐え続けるだけのギリスは圧倒的に不利なのにも関わらず、決して動かずにじっと耐えていた。
が、次の瞬間斬りかかった後素早くギリスの後頭部をその長い尾で殴った。
「ぐっ!?」
先程までと違う攻撃にもろに喰らったが、それでも致命傷ではなかったためすぐに来た次の攻撃を防いでいた。
その度に観客が響めき、次の攻撃で歓声が湧くという不思議な光景になっていた。
流石に体力のあるギリスもそう連続で攻撃されては体力が持たない。
次第に遅れを取り出したその隙を見逃さずカインはギリスに止めを当てに行こうとしたが、足元がふらつき地面に突っ伏してしまった。
「どうしたんだ!?カインが急に倒れたぞ!?」
観客は突然の出来事に一様に驚いていたが
「ようやく毒が回ったか。もう少し遅かったら俺がやばかったかもな。」
そう言いギリスはいつの間にかカインの目の前に立っていた。
「どういうことだ?俺は今まで一度も攻撃されていないぞ…?」
カインの言う通り、ギリスはただの一度も攻撃を行っていなかった。
ただし、すれ違った失敗したように見えた攻撃を除いて…。
「お前はかなり動き回っていたからな。毒の回りが早くなったのさ。」
すれ違った際、カインの辻斬りが見事命中して、ギリスの攻撃が外れたように見えたが、実はあの時にギリスの出していたどくどくも同様に当たっていた。
「そんなはずは…。それならすぐに痛みで分かるはずだ!」
「普通ならな。だがそれだけ走れば感覚が鈍る。よく自分の腕を見てみるんだな。」
ギリスに言われカインが自分の腕を見ると小さな切り傷が腕に入っていた。
「兵法の基本。自身の身体的障害にはすぐに気付くべきだった。だがお前は基本的に単独行動をする。強さからくる自信過剰で小さな危険に気付くことができなくなることは誰にでもある。だが俺はその小さな傷で命を落とした奴を見たことがあるんでな。」
段々と視界が歪み、目が虚ろになりながらもカインは
「まさか…これだけで負けるとはな…流石に少佐…。踏んだ場数が違うということ…か。」
そう言うと
「いや、お前の場合はもっとチームワークを大事にすることだ。そうすれば個人で戦う時もこんな無茶な戦いはしなくなる。それがお前の敗因だ。死ぬ前に気付けてよかったな。」
そうギリスがカインの言葉に返すと、カインは少しだけ微笑みそのまま倒れた。
「勝負あり!!勝者はギリス少佐!!」
まさかのどんでん返しに会場はより一層盛り上がっていた。
優勢と思われていたカインの動きを逆に利用していたギリスに今一度その強さを思い知り、興奮冷めあがらぬままその大会はギリスの優勝で幕を閉じた。


「お疲れ様ギリス。流石は私の元部下ね。」
ニドが戦いが終わり戻ってきたギリスに労いの言葉を送ると
「本当にこの時が来るのを夢見てましたよ!さあさあ将軍のテントに行きましょう!」
鼻息荒くニドの手を取り、勝利の報告もなしにただ欲望の化身と化したギリスがそこにいた。
「え!?ちょっと待…キャア!!」
困惑するニドをよそに先程まで戦っていたにも関わらずギリスは軽々とニドを持ち上げ、お姫様抱っこをしてニドのテントの方へと歩いて行った。
実の所、ギリスはあまり激しい動きをしなかったのはこの試合だけでなく、ほとんどの試合がそうだった。
理由は言うまでもないだろう。
まだ賭け金を受け取りに行っている者が多く、ガランとした道をずんずんと進んでいくギリス。
そしてニドは別に暴れるわけでもなく、びっくりするような男らしさを見せているギリスにちょっとドキドキしていた。
まあニドが暴れなければすぐにテントにもたどり着けるわけで…。
テントに入るとギリスはニドを優しく腕から下ろし、いそいそと自分の甲冑を脱ぎ始めていた。
『はぁ…なんでこうなっちゃったんだろう…。これじゃ私、まるで尻軽女ね…。自分で女性に手を出すなとか言っといて…。』
などと心の中でぼやき、深い溜息をついた。
そんなニドの肩にギリスの温かい手が置かれ、ニドは思わず体が硬直してしまう。
「将軍…。いえニド隊長。もしかして本当は嫌なんじゃないですか?」
心の中を見透かされたようでニドはドキリと心臓が跳ね上がる感じがした。
「な、何言ってるのよ!私が言い出したのよ?嫌な…はず…。」
正直なところ嫌だった。
成り行きに身を任せてしまったようで、自分を安く売っているような気がして。
変な意地を張って結局今になって嫌になったなんて言えないと心の中で自分をなんとか納得させようとしていた。
いつかの自分のように…。
別にギリスの事が嫌いなわけではなかった。
ぶっきらぼうではあるが、周囲に気を配れる優しさも持つ彼は女心として好きだった。
何処かで彼が勝ち上がってきてくれるだろうという確信に近い願望があったものの、それじゃ結局自分の気持ちは何処にもないような気がして。
「ならあの時にすぐ言えばよかったじゃないですか。」
「だって…そういう空気じゃなかったんだもの…。」
またニドの悪い癖で不安になると弱気な発言が出てくる。
「将軍。俺は将軍のことは昔から好きでした。誰よりも強くて誰よりも優しい。だから俺は兵役が終わっても将軍のことが守りたくてこの軍に残ったんですから。」
ギリスは優しく後ろからニドに抱きつきそのまましゃべり続けた。
「例え男だろうと女だろうと俺は気にしてません。ただ、女性の将軍は魅力的ですけどね。」
素直な一言にニドはただ顔を赤くして話しを聞き続けるしかできなかった。
「でも俺は将軍が一様にみんなを愛を持って、慈しみを持って接するのなら、俺はただその心に答えたかっただけです。」
ギリスにそう言われようやく自分の心に気付かされたような気がする。
小隊だった時も軍になった時も周りにいる人達全てが肉親のように思え、誰かが戦士するたびに心が引き裂かれるような痛みに襲われていた。
今までそれは自責の念から来るものだと思い込んでいたがどうやらそうではないようだ。
愛しさにも似た感情を持って接していたからこそ来る感情なのだと。
その時ようやく理解した。
信頼よりも遥かに高みにある感情を抱いていてくれたのだと。
自分はここにいる人達を愛し、愛されていたのだと…。
肩にあるギリスの手を優しくどかし、彼女の自身の纏っている鎧を脱いだ。
「しょ、将軍!?いいですよ!無理はしなくて!」
「いいえ。これが私の答え。迷いはないわ。」
元々かなり興奮していたギリスにはニドのその一糸まとわぬ裸体は彼のモノを元気にするのには十分なものだった。
そのままベッドに押し倒し彼女の秘部にモノをあてがった。
「え!?ちょっとそれは待って…!」
「無理です!そんな姿の将軍を見たら…。俺はもう限界です!」
ニドの制止を振り切ってそのままギリスのモノがニドの中へと侵入していった。
「痛っ!ちょ、ちょっと待ってって!まだ準備ができて…。」
流石にそんなすぐに濡れるほどニドは酷い女ではない。
そんなところに突っ込まっれれば確実に痛い。
だがそんな言葉は彼の耳には届かず、ただ一心不乱に腰を動かしていた。
まだ受け入れる準備ができていないのと彼の大きなモノが彼女に快感よりも痛みを多く与えていた。
「ヤバイ!出るぅ!」
「え!ちょっともう!?」
一人興奮していたギリスはニドを置いて一人でイってしまった。
ニドの中に熱いものが満たされていくが、満たすだけでは収まらず入口からビュッと音を立てて漏れ出していた。
そのままギリスは急いでモノを抜いたがすでに全部出し終えて僅かな残りを痙攣させながらこぼしているだけだった。
「す、すみません!責任はとりますんで!」
ギリスはすっかり青褪めた顔で謝っていた。
彼もリドラ同様にニドがタマゴができないことを知らないようだった。
「みんな知らないのね。私は卵は産めないわよ?」
そう言うと、不穏な言葉が最初に入っていたが気付かずただ喜んでいた。
勿論、彼にも妻はいる。
バレればただでは済まされないだろう。
途端に元気になり
「もう一回お願いしますよ!まだまだいけるんで!」
『調子いいわね…。』
心の中でぼそっと呟き
「分かったわよ。でも今日一日だけだからね!」
「分かってます!俺もこれ以上の関係になったら帰って殺されちゃうんで!」
そんな会話をしてギリスはすぐにもう一度ニドに覆い被さった。
先程とは違い、膣内に満たされた彼の精液のおかげでニドにも痛みはなくなっていた。
ようやく快感を感じれるようになったニドは次第に彼の太く大きなモノにも慣れ、より大きな快感になっていた。
「ダ、ダメ!そんなに奥を…突いちゃ!」
「ここがダメなんですか?」
そんなことを言いながら一番奥、子宮口に彼のモノの先端がコツコツと当たるたびにニドは快感に顔を歪めていた。
「そんなに早く…動かしたら…!」
「イっちゃうってか!?もっと気持ちよくなりな!」
段々とギリスの口調にトゲが出てきたが、何故かニドにはそれが心地よく、的確にニドが嫌がっている快楽のツボを押さえていた。
「アァァ!!ダメ…!」
ニドはあまりの気持ちよさに顔が快感に溶けたような表情をしていた。
それがさらにギリスを興奮させ、イったニドにさらに快感を与え続けた。
さらに早く、奥の方まで彼の大きなモノが根元まで沈み込むほどに勢いよく突き続けた。
継続して押し寄せる快感にニドは声にならない悲鳴をあげて感じていた。
「そろそろ…俺も出る…!!」
すでに呼吸もままならないほどに快感を感じていたニドの中に彼の熱い精液がぶちまけられ、快感からニドの頭は何も考えられないほどに真っ白になっていた。
ニドの膣内はすでに満たされており、行き場を失った精液たちがビュルッという音と共に狭い入口を溢れ出し続けていた。
ヒューヒューと風が抜けるような絶え絶えの息を吐きながらニドは快感の坩堝を彷徨っていた。
「可愛い顔してくれるじゃねぇか…もっと可愛がってやるよ!」
「ま……まって…。今は…。」
いやに悪そうな顔をしてギリスがそう言うと、なんとかニドが声を出すが言葉にはなりきっていなかった。
しかし体格差のかなりある彼が覆い被さればニドはほとんど動くことができない。
さらに彼の顔を見ようとすれば潤んだ瞳で彼を見上げるような視線になる。
尚更彼を興奮させるだけの行為にニドは気付いておらず
「大丈夫だ…何も考えられなくなるまで気持ちよくしてやるからよ!」
「ダメ……。今来たら…おかしくなっちゃう…。」
もがこうにも四肢には全く力が入らず、まるでねだるように体をくねらせているように見えるだけだった。
「そんなにおねだりされちゃ気持ちよくしてやるしかないな?」
そう言うとニドが何かを言おうとするよりも先にニドの中に入りっぱなしだったモノが勢いよく引き、一番奥まで突き進んだ。
「アァ!!」
言いたかった言葉は快感の悲鳴にかき消され、そのまま継続して押し寄せる快感に何も考えることができなくなった。
乱暴にも思える腰使いだが、意外に緩急があり、そのほんのちょっと見せられる優しさにニドは段々と惹かれてしまい、ただひたすらに彼に全てを任せていた。
一度イってからほとんど休憩はなく、その快感の頂点のまま次の快感を味わう至福の地獄がニドを延々と責め立て続けていた。
すでに意識を保つので精一杯のニドにさらに大きな快感の波が押し寄せ、秘部から聞こえる水音がさらにその効果を高めていた。
ニドはすでに意識さえ風前の灯。
そこへギリスの最後の猛攻が襲いかかってきた。
一気に今までよりも早く深く突き上げるその腰使いに意識も吹き飛びただ快感の波に沈んでいた。
全てがもう一度ニドの中に吐き出され、ようやく正気を取り戻したギリスは慌ててニドの上からどいた。
「うぇあ!?す、すみません!将軍!大丈夫ですか!?」
恍惚とした表情が涎と汗で蕩けてしまい、舌をだらしなく横へ伸ばしていた。
シーツには大量の精液と愛液が混ざり合ったものが水溜りのようにできており、ギリスはようやく自分がやった事を後悔していた。
久しぶりだったというのもあったが彼はサディスティックな一面がある。
性交を始めるとその性格が顕になり、いつも終わった後に後悔していたのだが、今回は自分の妻とは訳が違う。
必死にニドの頬を軽くペチペチと叩くと、声にならない声で意識があることだけはニドがサインを出した。


「本っっっ当に申し訳ありません!!俺の悪い癖が出てしまって!」
「だから大丈夫だって言ってるでしょ!もう謝らなくていいって!」
数十分後、必死に謝るギリスとそれに苦笑いしながら答えるニドの姿がそこにはあった。
「それに結構気持ちよかったから…結構じゃないわね。死ぬほど気持ちよかったから。」
そんなことを言いながらニドは何故かゆっくりとテントの入口の方へ歩いて行った。
「将軍?どうしたんですか?」
状況が把握できずニドに質問するが、ニドはジェスチャーで喋らないように指示し、そのままテントの入口に到着した。
「それとあなた達はそんなところで盗み聞きしていいと思ってるの!!」
そう言いながらテントの入口のカーテン部分をまくり上げるとそこにはわらわらと兵士達が並んでいた。
「す、すみません!どうしても気になって…というよりも将軍!!前を隠してください!!」
顔を真っ赤にした兵士達が口々にニドの方を指差して顔をそらしていた。
そう言われようやく気付く。
汗に濡れた裸体を全員の前に晒したうえに大事な所からはまだポタリポタリと白濁色の液が垂れていたのだった。
顔を真っ赤にしてテントの入口を閉じると
「タオル!今すぐ持ってきなさい!!」
そう大声で叫んだ。
ギリスとニドは綺麗に体を洗い流したが、勿論ニドはまだ恥ずかしさで顔を真っ赤にして少し涙ぐんでいた。
「すみません!そんなつもりがあって来たわけじゃ…。」
必死に言い訳とニドへのフォローをする兵士たちだったが、勿論そんなものは焼け石に水だ。
「お酒…今すぐ持ってきて。」
「へ?」
ニドがいつも絶対に言わない言葉を言ったせいで素っ頓狂な声を上げてしまった。
「お酒よ!飲んでなきゃやってられないわ!」
そんなことを涙ぐんだ顔のまま命令した。
「す、すぐにお持ちします!」
「待って!私だけが飲んだら私の理念に反するわ。宴会の準備もして。」
そんなこんなで今日は一日、ニドの軍では珍しく、朝から夜まで騒がしい一日となった。


それから程なくし、既に統率を失っていた敵軍は最後の攻撃を仕掛けてきた。
同様にニド率いる前線の軍はその一日があったおかげか兵士の士気はかなり高くなり、少ない死傷者でこれを見事撃破。
その数日後に敵国は敗戦を宣言した。
ようやく長きに渡った戦争に終止符が打たれた。
「将軍!今までお世話になりました!将軍がいたからこそ自分は生き残れたと思います!」
戦争が終われば徴兵された兵士はみな故郷へ帰っていく。
そのためみな最後の挨拶をしに来ていた。
「ニド将軍。お疲れ様でした。ようやくこの戦争が終わりましたね。」
「そうね…。色々あったけどあなた達のおかげで私も今日まで生き残ることができたわ。あなたも故郷に帰るんでしょ?リドラ。」
帰り支度や最後の報告書を書き上げるニドの元にリドラが訪れて、最後の挨拶をしていた。
リドラは無言で頷き
「将軍ともこれでお別れですね。もう戦争には出ないんですよね?」
そうニドに聞き直した。
「ええ、私も女性になったおかげで待つ人の苦しみとそれでも待っているララの気持ちが分かったからね。もう離れないわ。」
そう嬉しそうにニドも答えた。
「そういえばどうするんですか?将軍が女性になっただなんて奥さんは信じられないでしょう?」
「それに関しては大丈夫よ。多分今晩あたりには元に戻るから。」
ニドの事情に不安を持って質問するとリドラにはよく分からない返答が返ってきた。
「ま、まあそれなら良かったです。では私もこれ以上遅くならないうちに立ちます。お達者で。」
そう言い、最後に敬礼してテントを出ていった。
『そういえば…あの日から丁度3ヶ月くらいで戦争が終わったのね…。これも偶然なのかしら?』
あの日、ニドがエレオスと出会い、女性になった日から丁度3ヶ月目の晩。
今夜も空には美しく満月が輝いていた。
「月が満月なのは偶然だよー。」
そんな声に気が付き、振り返るとそこにはいつの間にか彼がいた。
「お疲れ様ー。女性になってみてどうだった?」
「どうだった?じゃないわよ。散々な目にあったのに…。早く元に戻してもらえないかしら?」
エレオスの質問に少し顔を赤らめながらそう答えるとエレオスは笑顔で答え、ぴょんとニドの前に飛んでいった。
ニドが彼を優しく抱きとめ、静かに目を閉じると
「はい!これで元通り!」
そんな声がすぐに聞こえた。
また彼から渡された鏡を覗き込むとそこには逞しい姿の彼が写っていた。
「おお!おおぉ!!戻った!間違いなく私は男だ!」
美しい鎧も無骨な甲冑に戻っており、あの日のニドの姿に綺麗さっぱり戻っていた。
「よし!これでようやく私も妻の元へ帰れる!」
「また心が冷めたらよんでねー。」
ニドが喜んでいるとそんな言葉を投げかけてきた。
「ふざけるな!誰がまた女になるものか!」
少し強い口調でそう言うとエレオスは不思議そうな顔をし
「あれ?嫌だった?」
そんな質問を返した。
「い、いや…。嫌ではなかったが…。寧ろ有り難かったが…。ええい!どちらにしろもういい!礼だけは言っておく!」
しどろもどろになりながらニドはそう言葉を返し、少し顔を赤くしていた。
するとエレオスはにっこりと笑い
「うん!僕がもう心配しなくても大丈夫みたいだね。将軍さんの心はもう十分に温かくなってたよ。」
そう言葉を残し、光の中に消えていった。


コンコンとドアをノックする音が静かな部屋に響いた。
「はいはい今出ます。」
そんなことを扉の向こうにいる人に言いながらララは扉へかけていった。
いつものように郵便が来たのだろうと開けたその扉の向こうには待ち望んだ人が立っていた。
「ララ。遅くなってすまない。」
申し訳なさそうにそう喋る姿はみるみるうちに歪んでいき、彼女の瞳からは大粒の涙が次から次へと溢れ出ていた。
「お帰りなさい……。ニド!!」
ニドもララもただ涙を流しながらしっかりと力強く抱きしめ合っていた。
二人が誓い合った日から長い月日が流れ、ようやく今日この時に約束を果たすことができた。
それだけでも二人は幸せで、十分過ぎる時間だった。
「やはり待っていてくれたのだな…。もう何年も経つというのに…。」
「この8年、ひと時もあなたのことを忘れたことはありません。」
ただひたすらに互いの愛をひしひしと感じ、そんな8年もの時間を長い一瞬が空白を全て埋めていった。
「ララ、中に入れてはくれないか?流石にずっと外にいたのでは凍えてしまう。」
「ごめんなさい。あまりに嬉しかったものだから…。」
そう言い、玄関で抱き合っていた二人はようやくひとつ屋根の下で生活を共にできる時間がやってきた。
「ちょっと待ってて下さいね。すぐに夕飯の支度をしますから。」
そう言う彼女のお腹にある袋を見てニドは
「なあララ。子供が欲しくはないか?」
唐突にそんな言葉を投げかけた。
未だにお腹の袋に子供を入れられないのはガルーラ((子供を産んだ経験がないので子供を持っていない))としては酷だろう。
そう思って出た言葉だったが
「あら?あの時と比べるとなんだか積極的になりましたね。」
少し顔を赤くしながらララが答えた。
「子供がいないのはお前にとって辛いだろうし…。それに…。」
『今なら私でもあなたを気持ちよくしてあげられると思うから…。』
「…?どうかしました?」
「いや!なんでもない!今夜あたりどうだ?」
「まあ!喜んでお供します。」
そんな声にならない声がニドの中でふわっと出て、消えていった。
街の中の小さな家にようやく笑顔が戻っていた。
賑やかなその家はこれからもっと賑やかになっていくだろう。
ちょっと乙女な漢になった将軍と共に…。

*あとがき [#f1702589]
初めましての人は初めまして。お久し振りの人はお久し振りです。COMです。
今回の大会、準優勝という身に余る成績に驚いています。
一票ぐらい貰えたらそれで満足だな~とか思っていざ結果を見たら…
( ゚д゚)  (つд⊂)ゴシゴシ  (;゚д゚)!! 
8票…本当にびっくりしました。
これから先、さらに忙しくなりそうですが未完結の作品だけは完結させるつもりです。
最後に余談ですが、書き終わった後に気付いたんですが普通高い階級の軍人って戦地に殆ど赴かないんですよね。
ニドさん少尉なのにバリバリ戦場で戦ってて軍事モノが好きな人はツッコミたかったでしょうねw
今回は色々と初挑戦が多かったですが、後々余裕が出来てきたらリクエストなんかもしようかと思います。
個人的な書き込みはここまでで、後は感想に返信していきたいと思います。

よかったです! (2012/09/17(月) 23:35)

>>
楽しんでもらえたのなら幸いです。



エロさもさることながら、キャラ達の心情描写が書き込まれていて入り込めたです。基本裸なポケモンの脱衣などもありましたが、やはりそれらを考えても読みやすいものでした。 (2012/09/18(火) 01:23)

>>
実を言うと今回一番手こずったのが心理描写でした。
なんとか読みやすいようにと頑張った甲斐がありました。



読んでいて一番楽しめました
(2012/09/18(火) 01:25)

>>
ありがとうございます。
自分も結構楽しんで書けました。



2票3票と投票したくなる作品でした
とてもエロくて良かったです (2012/09/19(水) 06:55)

>>
一票いただけただけでもありがたいのに…嬉しい限りです。
これからもエロく頑張ります。



性転換からのエロ…楽しませてもらいましたよ…フフフ (2012/09/20(木) 16:11)

>>
性転換という変態的なシチュ、実はこれを主軸に物語を考えていったはずなのにすごく苦労しました。
でも自分はノーマルな人間(?)なのでBLは思いつきませんでした。
ニド将軍可愛いですね…フフフ



すごく面白かったです。 (2012/09/20(木) 20:02)

>>
それは良かったです。
これからも期待に応えられるように頑張ります。



将軍サイコ~♪ (2012/09/20(木) 21:07)

>>
自分自身も一番のお気に入りのキャラです。
カッコイイですし可愛いですし。
こんな上官なら命を預けられますね。



第二回帰ってきた変態選手権にふさわしい作品でした
濃厚なエロシーンばかりでとても良かったです (2012/09/22(土) 20:46)

>>
輪姦というシチュも考えましたが長くなりそうだったので今回は%%なくなく%%省きました。
またこういった作品を書くチャンスがあればそういうシチュも盛り込みたいですね。


以上で作品への返信を終わります。
投票してくれた皆さん、チラリとでも読んでくれた皆さん。
本当にありがとうございました。

*コメント [#ec28a4c4]
以下コメントがありましたらどうぞ。
#pcomment(堅物将軍恋をする/コメント,10,below)
IP:125.13.180.190 TIME:"2012-09-24 (月) 18:19:28" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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