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地下からのトラベラーズ の変更点


[[コミカル]]

注:ネタバレがあります。まだの方は先に前2作を読むことを推奨しています。
  [[天空へのトラベラー]]
  [[大地へのトラベラー]]


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1/13

 岩石で形成された粗末で暗い部屋は、異様な雰囲気を放っていた。
草花や木々は一切見受けられず、太陽の光も差し込まない。それなのに、熱気がこもっていて温度が高い。
そこは、地面の上の世界でも、はたまた空の上の世界でもなかった。逆、地面のさらに下の世界――


 中には鉄格子が見える。そこからは苦痛にうめく声さえ聞こえないものの、不安や恐怖、動揺といった負の感情が漏れ出していた。
生物を収容すれば、それはたちまち牢という意味を持つようになる。
他に目立つものがないため、その牢は圧倒的な存在感を示していた。
外には、気楽な様子のポケモンが2人。暗くて暑い場所だが、そこにもとっくに慣れているのか、気にも留めていない。
牢の中の数匹のポケモンたちにも、大きな興味は示していないようだった。

 突如、腹の奥底まで響いてくるような雄叫びが聞こえてくる。
牢の中の者は予期せぬ出来事にますます不安を募らせるが、外の2人は顔を見合わせ、小さく笑った。
続いて、部屋全体が揺れ始める。
大きく揺らぎ、壁を構成する岩の一部がパラパラと崩れて降ってくるが、丈夫に作られているのか、それ以上の被害や損傷はなかった。
やがてそれも収まり、辺りは再び静寂、不安に駆られた牢内の者の溜息のみとなった。

 外の2人は立ち上がり、話し出した。
「パルキア様の亜空切断、だな」
「これでまた、地上や天空に大穴ができたってぇことか。時間が歪み、空間が歪み、世界は混乱に陥るだろうな」
「しかし、そうなればここに落ちて収容されるポケモンが増えるのか……。面倒ではあるな」
「どうしてパルキア様やディアルガ様は、こいつらに何の危害も加えないんだろうな」
「恨みがないからな。もしくは、手を下すまでもないと思っておられるんだろう」

「それにしても、結局あのウォルトとかいうブースターはどうした。アイツも大穴に落ちたんだからここに来るはず。でもいねーんだぞ」
「それは分からん。しかし、アイツも馬鹿な奴だ……。‘お前に恨みがない’なら、あの女しかいないのに」
「言うな、コラ。あのアマ、腹が立つ奴だ。年下、しかも女のくせに」
「とてもそう思えない戦闘力と洞察力。それを見込まれて一気に昇格だからな」
「ちっ、同じ悪タイプだから今は許してやってるが……」
「結局、穴に落ちたにも拘らずここに来ない者のことは分からないらしいからな。肝心なところで役に立たん奴だ」
「くそ、今に見ていろ……!」

「まぁ、それは仕方ない。俺たちのいる地下世界の計画が進めば、確実に全世界を支配できるんだからな。それまでは我慢だ」
「ディアルガ様が時間を、パルキア様が空間を捻じ曲げる。混乱に陥った世界を、征服する。何も知らない愚かな地上なんて目じゃねぇし、揺さぶりと奇襲をかければ天空もいずれは……」

 長い会話があり、そこで2人の番人は笑う。牢内のポケモン達は、くぐもっていて内容の聞き取れないその会話に得体の知れない恐怖を覚えるのだった。

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1/13

 辺りはもう闇を迎え入れており、空気は冷え切っている。
静かに押し黙っている辺りの空気を挑発するかのように、唯一の明かりである焚き火が爆ぜた。
そこには、夜の訪れを素直に享受して眠りに落ちている2つの影と、まだ夢の世界には旅立とうとしていない2つの影が。
眠る状態に近い、羽を閉じた姿をしているのだが、その眼は全く眠る気配を見せていないグライオン。
そして、澄んだ瞳で砂浜の1点を見つめたままのブラッキー。彼女は、少しだけ目が腫れていた。
それは涙を流したからなのであろうが――今の彼女は、そのようなものとは無縁であるような、冷ややかな表情をしていた。

 しばらく、焚き火の音がワンマンショーを演じていた。しかし、ブラッキーによって主役の座を引き摺り下ろされることになる。
彼女の発した声はまだ幼さを残しているものの、透き通った声。しかしそれは、普段よりも冷めたものであった。
「……アンタと一緒にいると、怖くて仕方がないわ。全く、私がどれだけヒヤヒヤしたと思っているの」
そこには、普段のフリーダらしくなく――年嵩(としかさ)の者に対する敬意といったものが感じられない。
その言葉に対し、ガリアルは困ったような表情で頭を下げる。
「いやはや、申し訳ない。『地下が恋しい』とは、口が滑りました。テイル様がまだ地下の存在について知らなかったからいいものを……。うまくごまかせたようで、よかったです」
「……アンタねぇ。もしかして、自分が口を滑らせたの、それだけだと思ってるの?」
ガリアルは自らの非を認め謝罪するが、それに対してさらなる追い打ちをかけるようにフリーダが言った。
呆れたように溜息をつくフリーダに対し、ガリアルは何のことか分からず困惑の表情を浮かべる。
「アンタ、私の名前を言ったでしょう? まだ自己紹介もしてないのにね」


'''「テイル様、隠しきれませんよ。&color(Red){フリーダさん};には、本当のことを話すほかないでしょう」'''

               
 ガリアルは自分の失言を思い出し、血の気が引く思いがした。
「あれでもし怪しまれていたらどうしてたの? 他にもアンタ、怪しい態度とりすぎなの。天空にいる間にいろいろ抜けすぎよ。そんなんでよく天空の間者を命じられたわね」
フリーダは自分と同じ立場のガリアルを見て、その目立つ手抜かりに呆れを感じずにはいられない。
容赦なく罵倒の言葉を浴びせていた。

 フリーダとガリアルは、世界征服を目論む地下世界から送られた回し者――スパイの一員だった。
地上や天空の様子を観察し、逐一報告する。それを命じられた、実力のある者。
天空と地上が交叉するという予期せぬ出来事が起こり、2人は地下以外の場所で顔を合わせることになったのだ。

「……それから、‘失踪者’達の共通点がギルだなんて、納得させるためとはいえよく言ったわね。それじゃあ、ギルなんてしらない他数多くの‘失踪者’の説明がつかないのに……」
フリーダはガリアルの粗を見つけては、それを突く。
フリーダとしては、同じ目的をもって行動する以上は気を付けてほしい、という思いやりなのだろうが、口調と相まってそれは貶しているようにしか聞こえなくなる。
また新たな汚点を指摘され、ガリアルは狼狽する。ずっとこのように嫌味を言われ続けるのもいい気分ではないが、確かに彼女の言う通りなのだ。

 ガリアルはフリーダの言葉を受け止め反省するも、自分の意見は曲げなかった。
「た、たしかに彼らにとってそれはおかしいですね。迂闊でした。
しかし、地上の民と天空の民が入れ替わるなどというのは未曽有の出来事です。それまでは、穴に落ちた者はみな地下に来ましたからね。
やはり、それに際してはギルが関係していたのではないかと……。
地下から来たあの2匹、グラエナとヘルガーも、そのおかしな出来事をあなたに尋ねに来たのでしょう?」

 地下に迷い込んでしまった別世界からの‘犠牲者’は、牢の中に捕えられる。地下世界は、牢内のポケモンに何も危害を加えなかった。
それは生き物としての最低限の優しさか、それとも余計な手間を掛けたくないからなのかガリアルは知らなかった。
しかし、牢の番人を任されているグラエナとヘルガーの2人がフリーダに接触してきたという話は聞いていた。
そこから得られるもの、それはつまり、予定外の出来事に地下が焦りを見せているということ。
それが地下の民であるガリアルにとってプラスなのかマイナスなのかは彼にしか分からないが、彼は少しだけ笑みを浮かべていた。

 フリーダはその予定外の出来事の原因が分からず、結局はガリアルの持論、ギルの持つ力のせいだという説に落ち着くことにした。
天空、地上はいずれ敵となる。それが、地下の目的を果たすための必要過程。
だからといって、地上の民を――ウォルトを敵とみなす必要はない。
彼女にとって、ウォルトが地下送りにならなかったことがただ喜ばしいことだった。

「地上で言うところの「失踪者」は、誤って地下に落ちた者。あの2人が番をする牢に入れられているはずです。そして「来訪者」は、地下からのスパイ、つまり私たち等です。
地上ではこのように騒ぎ立てるだけで何もしない。
天空でも、「来訪者」についてはあまり大きな事件にはなっていませんでした。というのは、私のような一部の飛行タイプしか送れないからでしょうが。
……ただ、「失踪者」に関しては大事になっています……。何せ、第1号が王子様ですから。天空は地下世界の事を知っていますし、まず間違いなく疑われているでしょう」
ガリアルは今の状況を冷静に分析し、それを話した。
それはフリーダの言葉を遮る目的でもあったのかもしれないが、地下の仲間として伝えておくべきことだった。
フリーダも話の内容を素直に聞き入れ、理解する。そこが、彼女が15という若さで相当の実力を得た理由なのだろう。

 密偵達は一通り情報を整理し終えた。
「それにしても、あの2人も危ないことをしてくれたわ……。
ウォルトが冷静な状態だったら、気付かれていたかもしれない。『お前に恨みはない』なら、私しかいない。
下手をすれば、私とあの2人との関係がバレていた」
フリーダは溜息をつく。それに対して、ガリアルが諭すような口調で言った。
「そうです、あの2人にも間違いがある。私にもたくさんの間違いがあった。
……私は思うのです、'''私たちのしていること全てが間違いなのではないかと'''」

 フリーダは疑問の表情でガリアルを見つめた。フリーダにはその言葉が何のことか分からなかった。
彼の表情には憂いが、そして、別の種の決意が宿っているように見えた。
しばらくガリアルは羽を閉じたまま、焚き火を見つめていたが、フリーダの視線に気づき、彼女に向き直る。
「……その前に、あなたにも。あなたにも、2つ間違いがあるのですよ」
「……私に?」
「そうです。ウォルトさんを見ればわかるように、地上の民は皆スカーフを巻いています。
あなたがこれを事前に知っていれば、地上の民と同じように生活できた。地上の民に一片の不信感も与えることなく潜入できていた。
若さ故に、それを知ることができなかった」
フリーダは彼の静かな物言いに気押されていた。
自分のミスに言い訳を連ねることなど無意味だと彼女は知っていたので、ただ黙ってそれを聞く。
しかし、彼の言葉には、何か別の深い意味があるような気がしていた。

「もう1つの間違い、これも若さ故なのでしょうが――」
ガリアルはそこで一旦、気持ちよさそうに寝息を立てているウォルトに視線を移した。
つられて、フリーダもウォルトを眺める。
そのタイミングを見計らったかのように、ガリアルが言った。
「――彼に、惹かれてしまったことです。
滅ぼすために敵国に忍び込んだスパイが、その敵国の者に恋心を抱いてしまっては……作戦に支障をきたす可能性が高いのは分かりますね。
最悪、そのスパイは作戦を放り投げるかもしれない」

「そんな、私は……恋心なんて」
フリーダはウォルトを見つめたままだった。口では否定している、頭でも否定している、それが私の、地下の民としての運命なのだから。
しかし、どうして。自分の中の、どこかがその運命に抗っている――!
フリーダはそれが何なのか分からず、助けを求めるような思いでガリアルを見た。      
「それは建前です。あなたの、''心''に聞いてみればいい。
あなたが、心からの涙を流して再会を喜び合う姿など、地下でのあなたを見てきた私には想像もできませんでした。
……あなたは、相当な実力を持っている。だからあなたはその若さにして、地上への潜入という役目を背負う者の1人となった。
あなたは強い……。しかし、若さが仇となったのです。
地下で生まれたために冷酷な心を持つように刷り込まれたのでしょうが、あなたは本来とても心優しい。
ですから、非情に徹する心を持つのが難しいのです。
もう少し年月があればそうできたのでしょうが、まだ心が未熟なあなたは、彼に、切り崩されてしまった」
その言葉は、フリーダの心を激しく揺さぶった。
隠していた、隠さなければならなかった感情が、露わになってゆく。
ウォルトが、好き――。でも、それは押し殺さねばならない。
今まで、ずっと戦ってきたのに。やめて、ガリアル、どうして味方であるあなたが、私を動揺させるの――。

 その時、ウォルトが寝息に乗せて言葉を発した。
それは微かで、それでもはっきりと、耳の中へ、心の中に届いた。
「……好きだよ、フリーダ……」
押し殺していたものが、フリーダの中から溢れ出る。
こんな言葉、いつも聞いているのに。いつも応えてあげたくて、それでもできなくて。それが悔しくて――。
ガリアルが彼女の心に向けて、優しく語りかけた。
「そう、あなたも彼の事が好きなのです。だからこそ、彼はあんなにもあなたを慕い、心を許すのです。
彼とともにいる時間は、あなたは地下の事など……忘れていたのではないですか?」
「じゃあ……どうすればいいって言うのよ!」
フリーダは嗚咽を漏らしながら、ガリアルに対してそうぶつけた。

「受け入れればいいのです」
「え?」
ガリアルの口から出た言葉は、苦しみ、混乱している彼女にはうまく意味が理解できない。
彼の表情から滲み出ているのは少しの悲しみと、決意――。
「受け入れればいいのです。自分の本当の心を、そして彼を」
それは、フリーダにとって大きすぎる意味を持つ言葉だった。
そうできればどんなにいいか。幾度となく夢見ては、諦めていたか。
それは地下の民である以上、許してはいけないことなのだ。自分は強いと言われてきた。
この程度の事に屈していては、自分を育ててくれた故郷に尽くせない。
「それは……無理よ。地下を、裏切ることになる」

「私もですから」
意味が、分からない。
こんな言葉が、同じ地下の民であるガリアルから発せられることが、分からない。
フリーダは、はっきりと言い切ったガリアルの表情を見る。
その瞳、まっすぐに自分の思いを宿しているその瞳に、フリーダは自分の中から別の何かを呼び起こされるような錯覚に囚われた。

「こんなにも清らかな心を持つあなたが、故郷のために本当の心を隠し、痛めてしまうのは良くない。
いえ、私自身も、こんなことはやめたい、戦いたくない。
テイル様をはじめ、天空での心の透き通った人たちを見ていて、どうして世界を征服したいなどというのか疑問に思ったのです。
私はあなたに指摘されたように、たくさんの間違いを犯していた。でも、私は気付きました。
このまま、当初の目的――地下の目論みのために動き続けることが真の間違いなのだと!
だから……私は、戦います。分かりやすく言いましょう。故郷を、裏切るつもりです。
あなたも、彼を受け入れるのです……。そうすることで、地下を裏切るのです。
それが、正しいことなのだと気付いてほしい――!」
ガリアルが思いの丈を全て打ち明けた。そこに込められているのは、強い祈りだった。
フリーダに何が正しいのかを気付かせるために、強く、強く。それは、フリーダの心を徐々に揺り動かす――

 ガリアルのいう事はおかしい。そんなことを、同じ地下の民が言っていることを許してはいけない。それなのに――。
その強い言葉、熱い思いが宿る言葉に、フリーダは手足が縛られたような気がした。
何が正しいことなのか、分からない。
何もかもが、分からないのだ。
今まで信じていたことさえも、間違っていたというのだろうか。
地下にも、間違いがあるものなのか。ディアルガとパルキア。時空間を操るほどの力を持つ神でさえも、誤ることがあるものなのか。
――ウォルトを受け入れてもいいのだろうか。
故郷に尽くそうとする自分が、ウォルトと共に過ごしたいという自分が、1つのカラダを求めて争っている……。
フリーダは悩み、苦しみ、傷つき、身動きが取れずにいた。

 その時、ガリアルが羽を開いた。
今までずっと羽を閉じていた、その妙な格好が解かれてゆく。
羽の内側、彼の体には、無数のタネのようなものが、取り付けられていた。
それが何なのかフリーダには分からなかったが、彼の言葉の重みにつり合う物のように見えて、正体不明の焦りを感じるのだった。
「テイル様に太ったかと問われた時は冷や汗をかきました……。植物性の、爆弾です。これで、私は」
ガリアルは淡々と言葉を連ねる。最後の言葉の時、彼は一瞬だけ表情をしかめた。
自分の言っている言葉の意味。それに対する戸惑い、恐怖――。そこからくるものだった。
それでも、彼から決意の表情、眼差しが消えない。彼は、迷いを既に振り切っている――!
「そんな……そんなことって……」
「地下の者は欲に飢えています。征服欲です。そんな相手に言葉など通じない。
だから、奇襲です。それも、永遠に誰にも知られないように、一撃で、です。
再起不能なまでのダメージを与えます。それができるのは、今、私だけです」
「ダメよ、命を捨ててまでそんなことをするつもり?」

「これが私の頭がはじき出した結論なのです。私の事は気にしないで下さい。
地下世界は混乱する。地上にいる地下からのスパイも、混乱して地下に戻っていくでしょうが、あなたは戻る必要はありません。
あなたは普通の女の子として、彼とともに過ごせるのです。それが、私の願い。
天空、地上、地下、そんなものは関係ない、皆が普通に過ごせる世界がいいのです。
地下は、私の生まれた地下は、その心がなかった。
地下では、身を尽くせと教えられました。だから、私は身をもって、世界のために尽くします。
私はそれで満足です」
ガリアルは淀みなく言い切った。彼の決意の固さが、その弁舌に現れていた。

 ガリアルの言葉を聞きながら、フリーダは砂浜に身を預けて眠る2つの姿に目をやる。
彼らは事情を知らない、そして、罪もない。
このままではいずれ、ウォルトやテイルだけではない、地上や天空の罪のない人々が襲撃される。
地下の、自分たちの故郷の身勝手によって……。
フリーダは、いつの間にか迷いが少しずつ薄れてきていることに気付いた。
しかしそう思うと、今度は目の前のグライオンの存在が、浮き彫りになる。
信念のために命を犠牲にしようとする彼。その、目の前の散ろうとしている命を守りたいという気持ちが湧き上がってくる。
しかし、ガリアルの瞳はその意思を持つなと強く訴えかけてきていた。彼にはもう躊躇いなどない。
正しい道を踏むのに迷いなど必要ないと考えている。
できれば彼だけが間違っているのではないか、そうであってほしい――そう思う自分が、また迷いを持ってくるのだった。

 しかし、世界の大勢の命を危機にさらしていたのに気付かなかった自分が、目の前のたった1人の命に必死になっている。
そう、命は守るもの……。
――私の命か、他大勢の命か。私がとるべき道が、分かりますよね――
ガリアルはそう訴えかけているのだ。
やはり、ガリアルは正しい。他の命を奪う事だけは避けねばならない。守らなければならない。
それが、彼の思いなのだ。
そんな簡単なことに、私は気付かなかった。そして、地下に加担していたのだ。
彼はそれを教えてくれた。そして、実証する。その命をささげて――!
――私を止めることは、他の命を蔑にするのと同じ。だから、止めるな。
フリーダは、自分がもっと早く気が付いていれば彼の命が守れたかもしれないと悔む。
しかし、過去を悔むのも意味がないことだと彼女は知っていた。
だから、フリーダはただ彼を見つめて、彼のその思いを受け止めた。
それができるのは、自分しかいないのだから。

「テイル様が目を覚ましたら、それとなく、もう一度あの穴に飛び込めば戻れるはずだと知らせてあげてください。
私は、ディアルガ様を攻撃します。そうすれば、時間の歪みはなくなる。これで、テイル様は無事に元の世界に帰れます。
もしかすると、爆風でパルキア様もダメージを負うかもしれない。それであれば、その穴は徐々に塞がっていってしまう。
だからできるだけ急ぐように言ってください。私の事は、適当にごまかしてくれればそれでいい」
「本当に……やるのね」
「はい。あなたには、故郷を失うのは辛いことかもしれない。
ですが、もし地下の目論みが順調に進んでしまえば――どういうことになるかは分かりますね。
……それに、ここにはウォルトさんがいます」
世界が、かかっているのだ。自分1人が心を迷わせる問題ではないのだ。
フリーダはそう納得したはずなのだが、どうしても心の迷いを捨てきれなかった。
「ごめん、なさい……」
「謝らないでください。……あなたは、最後までお優しいのですね。非情になれなかった。
地下の民としては失格かもしれません……。それで、良かったのです。
……それでは。涙は必要ありません。それは、世界の壁が取り払われてから、彼のために使うのです。
あなたはこれから地上の民として過ごすのです」
自分の命を捨てるというのに、ガリアルは最後に、笑顔を見せた。
その笑顔は、ウォルトとはまた違う、輝きを放っていた。
しかしそれはすぐに見えなくなる、彼は背を向けた。


 私の笑顔は、やっぱり、くすんで見えていたのかな――。
森の方へと飛んでいくガリアルを見送りながら、フリーダはふとそう考えていた。
同じ地下の民でも、正しい道を踏み続けることができた彼。
最後に私を正しい道に導いてくれた彼。
ガリアルのことは、私の心の中でずっと生き続ける。そして、平和の世界で暮らすポケモン達の心にも――。
言葉を掛けられない自分が情けなかった。声を出せば、何かが止め処なく溢れだしてきて押しつぶされてしまいそうで。
フリーダはただ、ガリアルの後ろ姿を見つめることしかできなかった。


 どれくらいの時間を過ごしていたのか分からない。ただ彷徨っているだけのように、無意味に時間が過ぎていった。
その虚無の中から、フリーダは突然引き上げられる。
フリーダは地面の揺れを感じ取った。
意味を考える必要なんてない、分かり切っている。
――馬鹿、泣くななんて……できるわけないじゃない。
フリーダは心の中でそう呟いた。
流れ落ちる滴を拭うこともせず、ただ空を見つめていた……。

俺はまだやるぞ、と言いたげだった焚き火が、波にさらわれて悲しく消え去った。






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#contents

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*その後、天空では [#nc150a1b]

1/14

「んじゃあ、短い間だったけどありがとな」
テイルは、あまり顔色がよくないようだった。目立つ溜息、半開きの目、そして頭を何度も掻き毟っている。
「眠れなかったの?」
「いいや、寝たよ。でも、俺のいたところと比べて環境が違いすぎるからかねぇ、気分がよくないんだ。気圧差かな……」
そこで首を傾げた彼の様子は、昨日とは違う感じがした。
気分が優れずストレスが溜まったのか、彼の陽気な物言いの中にギスギスしたものが混じっているように感じた。

 思ったよりも早くに目を覚まして起き上がったテイルに、ガリアルはもう少し早くに天空へと飛んで、王子の無事を知らせに行ったと伝えると、
彼は「へぇ、そうか。あいつも、単独行動が増えたな……。やっぱり、俺の態度の悪さに愛想を尽かしたのかねぇ」などと言って力なく笑むのだった。もうすこし追及があるものだと身構えていたのだが、割とあっさりと理解してくれたことにフリーダは少なからず驚いた。
そして、元の世界に戻るには、また大穴に飛び込むべきなのではないかという旨を伝えた時も、「おぅ、俺も同じこと考えてたんだ」とだけ。どうしても様子の違いに疑問が浮かんでくる。

……もしかして、とも思った。
が、それを聞いて、本当に具合が悪いだけだったのだとしたら……という事を考えてしまい、フリーダには口に出すことが憚られたのだった。

「それじゃ、ウォルト君と幸せにな」
それだけ言って、テイルは森の中へと入っていこうとする。
その言葉にフリーダは顔を赤くするが、否定できずにいた。
彼のほうをちらと見ると、まだ夢を見ているようだった。辛そうな表情はしていない。
あの夢の中に、私はいるのかな。フリーダはそんなことを考えた。
「気を付けてね……」
遠ざかっていくテイルの後ろ姿に、それだけしかいう事が出来なかった。
砂を踏む音がなくなり、今度は草を踏む音へと切り替わる。
そして、茂る木々の中へと入り、……見えなくなった。
――彼も、ガリアルの行為がなければ、命が危なかったのだ。
ほんの少しの間だけれど交わった3つの世界。フリーダは複雑な心境になりながらも、表情は穏やかだった。

フリーダは再びウォルトに目をやる。
フリーダは幸せそうな寝顔を見ながら、彼の目覚めを待つのだった。

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「ん……あぁ」
テイルは、体を横たえたまま意識を取り戻した。
体の感覚だけでわかる、ここは、元いた天空の世界――テイルが天空と別れを告げることとなった、あの森の中だった。
不調を訴えるテイルの身体は、そのまま眠りの世界へ沈んでいこうとする。
それを受け入れたいところだが、ここで寝るわけにもいかない、一刻も早く文句を言いに行かねばならない。
そうしないと、気が済まないのだ。
「ちっくしょ……あのクソ親父め……」
悪態をつき、睡魔に八つ当たりするように勢いよく飛び起きた。体を回し、伸びをする。
辺りを見回すと、確かにあの時大穴に飲み込まれた場所。あの憎い穴は、以前よりも小さくなっている。
テイルの予想は当たっていた。
「本当に、時間軸が元通りなんだろうな……」
目を擦り、重い瞼を開いて保つ。盛大な欠伸を放ち、耳の裏を掻いた。
森の出口の方向を記憶から呼び覚ます。
辺りの木がごっそりとなくなっているため、歩きやすい反面記憶が混乱する。
しかし何とか道を見極め、行動を拒否する足を無理やり引きずって歩き始めた。

 無事に森を抜けると、大きな城はすぐに目に入る。それを見ると不快感が募り、舌打ちが漏れた。
心なしか、歩くスピードが速くなった気がする。

「……王子様! よくぞご無事で! おいフォード、王子様がお戻りになられたぞ!」
いきなりの大声に不意を突かれ、テイルは驚く。頭が活動を避けている状況のため、気が付かなかった。
前には、あの時のキュウコン、彼の名前は……テイルの脳みそにとって重要な情報ではなかったようだ。
よく通る声なものだから、テイルの耳を強く刺激する。それは不快感を募らせるばかりだった。
そしてキュウコンに呼ばれ、フォードというフーディンまでもがこちらに寄って来る。ええい、仲間を呼ぶなと。
テイルは溜息を漏らさずにはいられなかった。
「王子、ご無事で何よりです。国王様が心配しておられます、早くお顔を見せてあげなければ」
テイルはその声をサクサク無視して歩みを続ける。それを気にせずに、後ろからついてくるその2人は容赦なく質問を浴びせかけてくる。煩わしいことこの上なかった。
全ての質問が、右耳から入って脳みそを避けて迂回してから左耳、そして外へ。その速さ、体感速度マッハ8。

 テイルは死人のような目をしながら、重い足を動かす。城が徐々に大きくなっている。
「……王子様、あのガリアルの奴は一緒ではないのですか? 
あいつが、王子様をお守りせねばならなかったのに……。次に顔を見せたら、きつく叱っておかないと……」
その質問だけが、脳みそを通過した。今の言葉に出てきた名前の持ち主が、脳裏に過る。
そう、いつも隣にいて喚いていた、おせっかいな執事――彼はいない。
テイルは死んだような表情のまま、振り向いて彼らに言った。
「''あいつはもう、ここには戻ってこねぇよ''」

 顔を見合わせるキュウコンとフーディンを視界から消し、再び前を向く。もう城の門は目の前だった。
後ろの2人が前に出て門を開けようとするが、それよりも早く手を掛け、勢いよく押し開けた。
精一杯のイライラをぶつけてやったつもりだが、調子の戻らないテイルの力では、いい感じに門が口を開けるだけだった。
テイルはまた溜息をこぼす。そう、彼には不調の原因が分かっていた。
――昨夜、一睡もしていないのだ。フリーダに言ったのはまるっきりの嘘だった。
欠伸をかましながら、テイルは城内に足を踏み入れた。
美しく輝く城の内装も、テイルには目障りなだけ。地上で初めて見た海の方が、何倍も美しい。
テイルはちらりと壁を見、お目当ての者を探し出す。‘それ’には、1/14と書かれていた。
頭を悩ませていた謎が解け、テイルは小さく笑んだ。

 うるさく喚く輩が、後ろの2人から始まり倍々ゲーム。それに伴い、テイルの耳を抜ける言葉も倍々のスピードになるのだった。
無視、もしくは曖昧な返事を返し、テイルは人波を突っ切って王室へと向かった。
流石に王室に近付くと大声を出すわけにもいかない、耳の痛みがなくなる。
そこに関しては、父親の権力に感謝しておく。

 王室の豪華な扉も遠慮なく豪快に開け、テイルは国王――自分の父親の元へ。
不快感を隠すことなく、近づいて行った。そのついでに、テイルは心の中で思う。
――お袋、メシとかいらねーから、寝室の準備しといてくれ――
すると、王の隣にいたエーフィが溜息をつく音が聞こえた。
テイルに咎めるような視線を向けながらも、彼女は王室から出ていく。
声を出すのも面倒な時に、非常に便利だ。何も言わないでくれた母親に、心の中で適当に感謝の言葉を連ねておく。

 国王が、テイルに向かって声を出す。普段の威厳ある声とは少し違う、我が子を諭す包容力のある声だった。
「……テイルよ、無事に戻ってきたことに、ひとまず安心した。
だがしかし、お前はもう成人として認められる歳……。だというのに、お前は自覚がなさすぎる。
一体、3日間も何をしていたんだ。成人の式もできずじまいだ」
「……何で黙ってたんだよ」
テイルは自分の父親を睨み付け、言葉を無視し、噛みつくような態度をとる。彼の口から一気に言葉が迸った。

「聞かなくても分かってんだろ、急に消えて、有り得ない時間を経て。
全部、地下のせいなんだろ。それも、今すぐにでも戦争になりそうなくらいの状態だってな。
そもそも、俺は地下に世界があるなんて一切知らなかったぜ。
人の事さんざん成人成人って喚いておきながら、随分秘密主義じゃねぇか。
そんなに俺が頼りないか? 世界状勢のことなんて教えても無駄だってか? 
望むところだ、すぐにでも王子なんて立場捨てて、出てってやるよ。今ならまだ空間の歪みだって消えてねぇ、地上に戻って暮らしてやる。
だって、もう俺なんか必要ないだろ? ガリアルは死んだ。地下を裏切ってな! 
これで地下は世界征服どころじゃない、戦争は回避され、世界に平和が訪れた。これで十分だろ? 
そうだろうが!」

 テイルの啖呵にも表情を変えることなく、堂々と受け止めるその貫禄は、今まで王という立場に立ってきた証だった。
しかし口調こそ荒げないものの、その声には先ほどより怒気がこもっていた。
「……それも含めて、1/11、成人の式の後に全て説明するつもりでいたのだ。
どうやってそれを知ったのかしらんが、勝手に飛び出してほっつき歩いていたお前が、何を言うか」
1/11……。テイルの中で、その日の記憶がよみがえる。
自由を求めて朝から城を出て、変な大穴に落ちて帰ってこれなくなって……。
そして、自分に教えられるはずの真実を聞き逃し、それを口汚く罵るテイルがここにいる。
テイルにも分かった。それは自業自得、そして、早とちりと言うことを――。
テイルは自分の顔が赤くなっていく感覚を覚えた。言うべき言葉も見つからず、ただ父親の顔だけを見つめていた。
これは、折檻が待っているかもしれない。父親の静かな気迫に、テイルは冷や汗を流す。

 しかしテイルの予想と異なり、王は顔を綻ばせたのだった。言葉には、父としての優しさが込められていた。
「しかし、こんなことを平和が訪れた日に言うべきではないな……。それに、確かにお前を閉じ込めすぎたのかもしれん」
「は?」
「……眠気があるのなら、今日は寝ろ。遅れてしまったが、明日、成人の式を執り行う。
……お前は、私、ジールの1人息子だ。お前が、この天空を治める者、すなわち時期国王となるのだ。何より、無事で良かった。
……しかし、まだまだ教育が足らんな。お前にはもっと、しっかりしてもらわねば」
そう言って国王は、1人の父としての笑みを零すのだった。
テイルはその場にふさわしい言葉が見つかるが、テイルのプライドがそれを言わせずにいた。
咳払いだけして、顔の赤らみを悟られないように、そして遅いくる眠気と羞恥心を抑えるため下を向いたまま足早に王室を後にしようとする。

 しかし、それを咎める自分がいるような気がした。テイルは、王室を出るとき――その言葉を言う決心がついた。
「悪かったな、親父……」
言った途端、今まで以上の羞恥心が湧き上がる。その場の空気に耐えきれなくなり、走って王室を出た。
それは、口調が間違えていたのかもしれない。言葉が足りなかったのかもしれない。
それでも、王室を出るときに少しだけ見えた、父親の満足げな笑顔に、少し心が軽くなった気がした。
――後でお袋にも謝るか。
テイルは自分が自分でないような感じがした。
成人に、いや大人になるって、こういう事なのだろうか、と疑問が浮かんでくる。
「親父に『今すぐ地上に戻ってやる』とか言いながら、お袋に寝室の準備させるとか、バカだな俺……。
やっぱり、俺はここがいいや」
そしてテイルは軽快な足取りになりながらも眠気に負け、寝室へと向かうのだった。


*その後、地上では [#x85b2a7d]

 いかにも家庭空間といったシックな部屋の中で、1人のサンダースが座っている。
日はもう高く昇っている。することもなくなり、退屈なのが辛く感じるのだろう。
「……全く、何処をほっつき歩いてるんだか……」
1日中姿を見せなかったウォルトとフリーダの事を考え、彼女はぶつぶつと独り言を呟いていた。

 「……まさか、2人でお熱い夜を過ごしてた……なんてこと、あったりして」
そこで彼女は、自分の過ぎた想像に自分で笑う。まだ15の2人にそれはないだろう、いやしかし……などと、怪しい妄想に思いを馳せるのだった。
「若いのは、いいね……って、まだ決まってないけど」
彼女は少しでも退屈を紛らわせるために、小型の黒いラジオの電源を入れる。
相も変わらず、感情のこもっていない機械的な声がそこから発せられる。

「……昨夜の地震で、各地に現れていた大穴は徐々に姿を消しているという情報が入っています……」
「へぇ、昨日地震なんてあったんだ」
1度眠ればなかなか目覚めないのは、親子共々らしい。
「……また、同時期以降、‘失踪者’と呼ばれていた者が元の場所に戻ってき始めているという情報も寄せられています。
彼らはそろって、『暗い、よくわからない場所に閉じ込められていた。目が覚めると、いきなり元の場所に戻っていた』など、錯乱状態が見られます……」
「まさか、フリーダちゃんが行方不明になってて、それをウォルトが探してるとか……。
あいつなら、フリーダちゃんのためなら1日だって1年だって探し回りかねないわ」
サンダースはそこで首を捻るが、内心ではさほど困っているわけではないようだった。
実際にそんなことが起こるほど危険な場所はこの辺りにはないのをよく知っているからだ。

「……しかし、‘来訪者’と呼ばれていた者は逆に姿が見えなくなるという事件も起こっています。
不可解な事件は、不可解なまま幕を閉じていきそうです……」
「それで、最後にはフリーダちゃんは見つかって、2人で再会を喜び合って、お熱いことになっちゃってたり……」
彼女の頭は、1度そっちの方向に走ったら軌道修正が難しいらしい。
「……まぁ1日くらいいっか。あいつがよく笑顔を見せるようになったのも、フリーダちゃんがここに来てからだもの。
今日無事に帰ってきたら、何も言わないでおこう」
そして、彼女はキッチンへと入っていった。
愛する我が子と、その妻(脳内設定)のために。

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「良かった」
目を覚ますなり、ウォルトは笑顔でそう言った。
「どうしたの?」
「目が覚めたら、またフリーダがいないんじゃないかと思って……」
「ふふ、大丈夫よ。私は……ここにいるから」
もう離れないで済む。
ずっとここにいられる――そう考えると、ガリアルの姿が、今はいないはずの、共に地下で過ごした彼の姿が目に浮かぶ。
再び募る悲しみ、しかしそれは見せてはならない。

「ところでさ、昨日の夜、もう2人いたよね? 昨日は時間がなくてほとんど話さなかったけど……あの人たちは誰? 何処に行ったの?」
「あの2人は旅をしててね、ここで夜を迎えたから、野宿していたの。ウォルトが起きるのが遅いから、もう行
ってしまったわ」
「そうか、それは残念だな……僕って寝坊してばっかりな気がするよ。
でも、じゃあ……フリーダは昨日、ずっとここにいたの?」
「えぇ、ウォルトが大穴に落ちてしまってからずっと……。
そうしたら、もしかしたら帰ってきてくれるんじゃないかって思って。本当に、良かった」
「ありがとう、僕のために……。
もう2度と、フリーダをおいて何処にもいかないよ。僕たちはいつも一緒さ……フリーダ、大好きだよ」

 その言葉に、フリーダはハッと胸を突かれた。
もう聞くことができないと思っていた言葉、聞きたかった言葉。昨日の夜も、無意識に彼が言っていた言葉。
そして、それに答えたかった言葉が――
「……、ありがとう、ウォルト。でも、急がないとお母様が心配しておられるわ。早く戻らないと」
出なかった。言えなかった。言いたくて、言いたくて、仕方がないのに。
「……うん、そうだね……。1日帰らなかったんだし、こってり絞られるかもね……」
ウォルトの顔に浮かぶ落胆。それを見たくなくて、フリーダは振り切るように走り出した。無論、ウォルトもついてくる。

 フリーダの心の中には、悲しみと自責が渦巻いていた。

 あの言葉を、もう口に出しても良かった。私は、地上の民なのだから。ウォルトと過ごすことができるのだから。
私の事について、全てを包み隠さず話さないと、私はウォルトと満足に生活できない。
引っ掛かりを残したままでは生活したくない。
命を捨ててまで世界を救ったガリアルを、私の心の中だけで置いておくなんてできない。
しかし、すべてを話す心の準備ができない。
弱い自分――今まで自分は強く生きていると思っていた。地下では気付くことのできなかった弱い自分にはたった1つの言葉さえ言えないのだ。
――私も、好きだよ、ウォルト――
喉まで出かかった言葉。ずっと言いたかった言葉。それを飲み込んで、ウォルトを傷つけてしまった。
ごめんね、ごめんね、ウォルト。

 考え事をしていれば、すぐに時間は過ぎる。気付けば、ウォルトの家の前まで来ていることにフリーダは驚いた。
熱いものが込み上げてきてしまっているが、それを何とか抑える。ウォルトが前に出て、ドアノブに手を掛けた。
そしてゆっくりと、ドアが開いていく。
フリーダはただ黙ってそれを見ていた。

 フリーダはそっと自分の胸に手を当てた。
地下世界のこと、ガリアルの事、テイルの事。どっと押し寄せてくる記憶は、意外にもたった数日の出来事でしかなかった。
フリーダはそこでウォルトの後ろ姿に目をやる。締め付けられるような痛みを胸に感じた。
まだ、真実は言えない――


--fin--
~~fin~~
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ただ解決ではなく、一応ハッピーエンド(?)に持ち込みました。
自分の文章に満足できずに、書いてなおしてかなりイライラしてましたw
特に最後のほう、ぐだぐだかもしれないです……。

後になって、「大地へのトラベラー」っていう名前はミスだと思ったのは内緒。
作品に合わせるなら、地上のほうがよかったという。

それから、個人的には名前のとこ(フリーダ)を事前に指摘されなくてよかったですw

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疑問、不満などあればコメントよろしくお願いします。

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