作者:[[ウルラ]] ---- Doble Parkに投稿したショートショートです。 ---- 冷たく吹き荒ぶ風が容赦なくむき出しの頬に当たる。 雪山は突然牙を剥く……そう伝えられていたはずなのに。 重く分厚い防寒着を着ていても、それを通して伝わってくる雪の冷酷さ。 息が上がりながらも何とか下山しようとしても、目の前が全く見えない。 手持ちのポケモンは野生のポケモンに倒されて、到底ボールからは出せないし。 その上悪天候の中、空を飛ぶことも敵わない。 どこに進んでいるのか全く分からない中。 ただ絶望に打ちひしがれることしか出来ない自分の無力さを感じて、私は力なくその場にへたり込んだ。 ああ……。だんだんと目の前が霞んでいく。 ここで横になんてなったら凍死もいいところ、雪に埋もれて発見すらされないかもしれない。 それでも、夢の中へと誘(いざな)う子守唄は、私を無慈悲にも眠りへと堕としていく。 瞼を閉じるとき、空から水色の使いがゆっくりと降りてくるのが見えた。 「……ん……」 ぴちゃん……と、水が落ちる音が聞こえる。 そして何より温かい。目を開けるとそこは天国……ではなくて暗い洞窟の中。 水の音は鍾乳洞からすすり落ちた水が溜まり場に落ちる音だった。 じゃあ、温かさの正体は……? 私はまだ重い瞼をしっかりとあけて、周りを見た。 「うそ……」 巨大な水色の翼が、私を包み込んでいた。 背中からは微かに伝わってくる、その怪鳥の寝息。 ゆっくりと上下するふさふさしてそうなお腹を見て、そのまま視線を上に向けていく。 私の微かな声に反応して、覚ました瞼から覗いたのは、水色の体には不釣合いなほどの真っ赤な瞳だった。 「……」 そのままお互いにじっとしたままになってしまう。 それよりも何なんだろう、このポケモン……。 鳥ポケモンでこれくらいに大きいポケモンはピジョットの他に見たことない。 いや、ピジョットより一回り大きいかも。 図鑑を取り出したいのは山々なのだけれど、翼に包まれている上に荷物がどこにあるのか分からないから確認のしようがない。 それにさっきからこのポケモン、ずっと私を見据えているだけで、他は特に何もしてこない。 一体どうして私を温めてくれているのだろう。 ふと視線をはずして洞窟の外を見てみると、さっきよりかは吹雪も治まっていて、もうそろそろすればどうにかこの山を下れそうだった。 でも、このポケモンは私を放してくれるのかな。とりあえず害がないことは分かってたけど……。 「フルルルル……」 私が周りを見回したのを見て、どうかしたのかといわんばかりにそうもらした鳴き声は穏やかだった。 今更ながらに思い出したけれど、意識が遠のきそうになったときに降りてきたのは、もしかしてこのポケモンの姿だったのかもしれない。 というか、そうだ。この水色の翼には覚えがある。 見知らぬポケモンに助けられるなんてこと初めてだったから、何でこんなことをしてるのか全く分からなかったけど。 そう思うと、さっきまでこのポケモンを恐がっていた私自身が、更に小さいものに感じた。 「助けて……くれたんだよね? あ、ありがとう……」 恐れを持たなくてもいいポケモンだと心のどこかでは分かっていながらも、やっぱり精一杯出した声は震えてしまって。 お礼を言うにはあまりにも失礼な声だったにも関わらず、このポケモンはそっと自身の頭をこちらに優しく擦り付けてくる。 「あ、くすぐったい……ちょっと、あははっ」 羽毛が頬を撫でて、くすぐったさを感じて思わず笑い出してしまう。 もしかして、私をリラックスをさせるために……? これはあくまで私の勝手な考えかもしれないけれど、このポケモンを恐がる必要性はもうないように思う。 「あのさ。ちょっといいかな」 私はゆっくりと翼を退けると、すぐ傍らに落ちていたバッグを拾い上げる。 その中には色々と旅をするための道具があるのだけれど、その他にも手持ちのポケモンに勝利の祝いとしてあげるようなものも入っていた。 「あ、あったあった……」 誰に言うでもなく私はそう独り言を呟くと、バッグの中から見つけたポロックを取り出していた。 私が作った最高傑作ともいえる、どんなポケモンでも好む味に仕上げたこれ。 お礼って言うわけだけど、果たして見かけないこのポケモンにも通用するかどうか……。 容器の蓋をスライドさせて開いて、振って一個のポロックを出す。 出てきたのはこのポケモンと同じ淡く綺麗な水色だった。こんな偶然ってあるんだと思いながらも、手のひらにそれを乗っけたままでポケモンに近づいていく。 「これ、助けてくれたお礼。口に合うかどうかは分からないけど……」 私が手を差し出してそういい終わるか終わらないかのうちに、嘴でポロックをさらっていった。 本当にあっという間だった。 というか味わって食べてくれたのかすら怪しいほど素早いごっくんだった。 それよりも私が差し出したものを野生のポケモンが疑いもなくすぐに口に入れたのも、ちょっと驚きだった。 「どう……?」 聞いてみると、しばらく喉を器用に動かして飲み込んでいるようで。 首をんくんくと上下に小刻みに震わせる仕草を見て、何だか可愛いと思ってしまう。 「あ……」 ふと洞窟の外を見ると、今まで白んで全く見えない視界が開けて、洞窟の中にもやがて光が差し込んできた。 私には私のやりたいこと、成し遂げたいことがある。 吹雪が晴れたのなら、ここにいつまでもいるわけにもいかない。 名残惜しいところもあるけれど、このポケモンは仲間に出来ない。 というか、していけない気がするんだ。 分からないけれど、女の感ってやつかもしれない。 ……当たったことはないけれどね。 「じゃあ、私は行くね」 「フルルルル……」 そう軽く鳴いたそのポケモンは私がここを去ることを分かってか、寂しそうにこちらをじっと見つめていた。 でも、私には行かなければならない場所がある。各所のジムを制覇して、バッジを集めるという目的もある。 だからこそ、早く降りてモンスターボールのポケモンたちをセンターで休ませないと。 私は水色のふさふさの首元に軽く抱きついて、しっかりとその感触を堪能した後。 そっと離れて、バッグを背負った。 「ありがとう。……またいつかここにくるから」 そう言って、私はその洞窟を後にした。 またいつか。 私がここに来れるほどに相応しくなったら、またここに来ようと思う。 まずは、バッヂを16個集めること。 そしたら、それを見せにまたここに。 ……でもまずは、この山をさっさと降りないとね。 ...Fin ---- あとがき これは元々Doble Parkの小説板にて開催された『1レス小説大会』というものに投稿しようとしたものです。 とはいえテーマを全く気にしていなくて、テーマ外ということでチラ裏に移動した作品でもあるのですけれどね。テーマをしっかりと確認しておけばよかったかもしれないです(苦笑) 短い作品ではありますが、タイトルのとおり、吹雪の吹き荒れる山(ここでは便宜上シロガネ山の設定)にてフリーザーに邂逅したというお話です。 リーフグリーンの図鑑の説明に『ゆきやまで さむくて しにそうなとき めのまえに あらわれるといわれる でんせつの れいとうポケモン』というのがあってパッと思いつきで書いたものです。 実際氷タイプなのでふさふさした羽毛を持っているのは雪山で遭難した人間を温めるためだとかどうとか頭の中で勝手な妄想を……( フリーザーの羽毛に包まれたらそれはそれでとてつもなく幸せで温かいのかもしれないと思い"込み"ながら書いていました。 なにはともあれ、散文を読んで下さってありがとうございました! ---- #pcomment(,10,below) #pcomment(below)