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君の形を取り戻す為に僕は の変更点


#include(第十三回仮面小説大会情報窓・非官能部門,notitle)



「聞いていると思いますが、念の為。写真、動画、筆記、その他一切の記録と記録媒体の持ち込みは禁止。その後、あなたの行動には一定の制限が課され、当局のエージェントが秘密裏に監視します」

「今ならまだ、『怖気づいた』が許されますよ? もっとも、それが言えるなら最初から来ていないと思いますけど」

「パスコードは先ほど教えた通りです。有効時間は15分なので、そうですね……あと5分後には覚悟を決めてください。それを入力すると、金属製の保護カバーが自動で開きます。その中の、保護ガラスには訳文が載せられていますので心配は無用です……ええ、当局の研究員によるものです。それから、部屋の中にはもちろん監視カメラがあります。不審な動きがあったら、『係の者』がすぐに駆けつけますのでご安心ください」






『入室許可証をスキャナーに読み込ませてください』

『入室許可証を確認しました。セキュリティ解除のパスコードを入力してください』

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『パスコードに誤りがあります。もう一度入力してください』

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

『パスコードを確認しました。「石碑」の保護カバーが開きます。ご注意ください』













CENTER:



歌があった。

優しい歌だった。

いつまでも聴いていたかった歌。

それが子守唄だったと知ったのは、ついこの前の事だった。

いや、どうだろう。

もっと昔の事かもしれないし、もっと後の事かもしれない。

これまでにあった獰猛な牙と爪の時代かもしれない。

これから訪れる全てが鋼でできた時代かもしれない。

ただ一つ確かな事があって、僕が君に出会ったのはずっと昔の事だった。

君は今とは違うこれまでの姿をしていたかもしれない。

今の君とは違うこれからの姿をしていたかもしれない。

それは今となってはどうでもいい。

ただ、もう二つだけ、確かな事がある。

僕は君を信じている。

君を知った僕には、もう歌は届かない。

僕の為だけじゃない歌はもういらなかった。

代わりに君が歌ってくれてもいい。

そう思った。

君には魅力があった。

僕好みの魅力が。

でも、それは子守唄には不都合だった。

子守唄は、僕から君を引き離した。

これを君が読む事はないのかもしれない。

だけど、今の僕が僕である証として残しておく。

僕は君と出会って変わったのかもしれない。

それも今となってはどうでもいい。

昔の僕にとって重要だったのは、君を取り戻す事だった。

子守唄は、君から形を奪った。

子守唄には、それができた。

もっと簡単な表現をするなら、君は一度死んでいるんだ。

僕の目の前で、子守唄は君を殺した。

僕は、君の欠片を集めて逃げる事しかできなかった。

子守唄に邪魔されて、僕は君の全部を集める事はできなかった。

僕はそれを、これまでもこれからも悔やみ続けると思う。

もし、君がこれを読んでいるなら、君は君の大部分を取り戻した後だと思う。

いや、あるいは君はこれから本当の君になるのかもしれない。

僕がそれを知る術はないと思う。

君がそうであったように、僕は子守唄に負けるだろう。

いや、もう負けた後かもしれない。

最初に言ったように、僕は君を信用している。

君には、僕にないものがある。

僕は君のそれを信用している。

だから僕は、旅をする事にした。

あるいは、同じ場所でただ待っていたのかもしれない。

いずれにせよ、君の形を取り戻すにはもっと沢山の欠片が必要だった。

僕には、そして君にはそれが必要だった。

僕と君の関係は、なんと表現するのが合っているか分からない。

これを読んでいる君は、僕の事を覚えていないかもしれない。

それでもいい。

むしろ、そっちの方が都合がいいのかもしれない。

僕と君の関係を絆というものだと仮に決めつけるなら、今の僕には違う絆がある。

君の事は信用している。

だけど、君は子守唄に一度負けている。

僕だってそう。

一度、二度、あるいはもっとかもしれない。

僕が君の歌に心を動かされたように、僕にはもっと歌が必要だ。

一つ、二つ、あるいはもっとかもしれない。

過去は変わらない。

未来は変えられない。

変えられるものがあるとしたら、それは君か僕。

だから僕は君を信用している。

君はもっと変われる。

それこそが本当の君の姿かもしれない。

いずれにせよ、僕は君の為に犠牲になろうと思う。

僕が君を利用しているように、君も僕を存分に利用すればいい。

それが僕の為になるから。

だから僕は、君とは違う歌を用意した。

一つ、二つ、あるいはもっとかもしれない。

君をたった一つの存在であり続けさせる為に、僕には僕の知らない僕がいる。

いや、もう僕は君の知らない君が生まれた事を止められなかったのかもしれない。

だけど、僕の本心は変わらない。

僕がしくじるなら、僕がまたしくじったなら、その時は君が子守唄を止めてほしい。

僕の代わりに、君が子守唄を殺してくれ。

その後は、君の好きなようにしても構わない。

ただ、それだけの為に、僕は君の欠片を集めてきた。

きっと君が再会する僕は、僕の知らない僕だから。

だから、僕と君は二度と会う事はないと思う。

これが過去から続く今なのか。

今が未来に続くからこれなのか。

きっと僕は、これからも僕の知らない僕を見て見ぬ振りをすると思う。

子守唄には手が多いんだ。

できるだけの事はしたい。

その一つが君だ。

君が目覚めるまで、もう一つや二つは人間だ。

君と違って人間は強欲だ。

だから御しやすい。

君とは違って。

だから僕は君を信用している。

君には君が思っている以上に過去と未来があるかもしれない。

いや、きっとある。

僕はそれを期待している。

過去と未来は、言い換えれば時間と空間の便宜的な連続性だ。

それでは、いつまで経っても子守唄を超えられない。

本当は、君は子守唄が作った「星」の一つなのかもしれない。

だけど、君の力は子守唄を超えている。

神殺しの力は。

子守唄から生まれた僕では、子守唄を超えられない。

だから、子守唄自身が創造物に与えた力で抗ってみようと思う。

それが人間だ。

あるひとりの特に強欲な人間が、子守唄に、父親に会いたがっている。

君にとって今は過去かもしれないし、未来かもしれない。

いずれにせよ、僕はその人間を利用して父親に挑んでみようと思う。

結果は、もう君が知っているはず。

僕に遠慮する事はない。

君にはもう、これを読み解くだけの知能はないかもしれない。

いずれにせよ、君が父親を殺して次の摂理となれば僕の勝ちだ。

僕の願いは成就された事になる。

そこにはもう、時間も空間も及ばない世界があるはず。

結局、僕も君も遊び足りないんだと思う。

もっといっぱい殺そう。

死を超えた僕と、毒で生きる君で。

僕は全てに叛逆し、君は無限に支配して。





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本当にありがとうございます。

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