―――by [[カケル]] 最初なので・・・ちょいと長いです。 ---- story.1―始まりは突然に― 空は晴天だった。 少量の細く棚引く雲を突き抜けて差し込む日光は、下界を明るく照らし生けるものに輝きをもたらす。 透き通る青空は視界に映る限り延々と続いていた。 この空に終わりはあるのだろうか。 と、そんな淡い疑問は時が過ぎればいつの間にかに消え去ってしまう。 視線を水平に戻すと、鮮やかな緑に色付けされた草原と色彩豊かな花畑。 小高い丘の頂きには年老いた大木、ずっしりとして他の木よりも存在感がある。長老、といった存在だろう。 「ほわぁぁ~、眺めが良いじゃぁん♪」 その丘から元気な声がこの草原に広がる。まるでそれに答えるようにザワザワと草花が反応する。 それともそよ風が草花を通じて答えたのかもしれない。 嬉しそうに紺色の尻尾を振るそれは、純白の体毛が体を覆っていた。風がサラサラと体毛を撫でると、ふわふわと柔らかそうな感触が触らなくても十分に伝わってくる。 右頬部分からは鎌状の突起が生え、鋭そうなそれとは対に丸々と幼さが残る黒い瞳は、丘の頂きから広がる景色を贅沢に視界いっぱいに広げていた。 「な~に見てんだよ、ラン」 ポンと擬音と共にランと呼ばれた「アブソル」の頭に置かれた手。それは正しく人間の手だった。 ランは両前足でその手を抑えゆっくりと頭上を見上げると、そこには一人の少年の姿があった。 茶色を帯びた腰までのコートに、アザーブルーのズボン。コートと同色のブーツには、様々な地域を歩いた形跡が残っているかのように、少し汚れていた。 更に高く見上げると、風に任せて乱雑に靡く金髪。 ランのトレーナーらしいその少年は、腰を降ろす。 「別にぃ、ツバキには内緒っ」 同じ背になったことで近付きやすくなり、身を委ねるようにツバキと呼ばれたその少年へ寄り添う。 「ちょ、それは無いだろ」 微笑しながらわしゃわしゃと頭を撫でてやると、紺色のその頬に少し赤みが帯びる。が、気持ち良さそうな表情を浮かべていた。 撫でられるのを好むランだが、撫でるところは決まっている。理由は一つ、ランは雌だ。 幾らポケモンだからといって男であるこの少年が、胸部分等を撫でるのは流石に変態だ。 と、自分勝手に思っているのだが、実際はどうおもっているのかは分からない。かといってわざわざ聞くのも変であろう。 「…ツバキってえっちだよねぇ」 「えっ…」 いきなりのことで驚いてしまう。 変なところを撫でた覚えは無いが…まさか無意識のうちに彼女のプライベートゾーンへと手が伸びていたのかもしれない。 ツバキと呼ばれたその少年は、撫でていた手をサッと退ける。 と、同時に顔が熱くなるのを感じて、赤くなっているだろう自分の顔を扇いだ。 「ご、ごめん・・・」 「あははっ、嘘だよ。他の人に撫でられるのは嫌だけど、ツバキなら…良いんだぁ」 「そ、そうなんだ」 「だぁかぁら~続きやってよぉ」 「…分かったよ」 彼女の嘘に本気で信じてしまった自分に思わずため息がこぼれてしまう。 再び彼女の頭に手を置く。柔らかな毛が優しく彼の手を受け止め、何とも心地よい。そのまま手をスライドさせ、撫で始める。 「こ・・・の・・・ね、眺め・・・す・・・く良・・・だよ!」 いきなり彼女が言うもんであまり聞き取れなかった。 それでもランの言葉の中には「眺め」という単語が入っているのに気付き、彼女の言いたかったことを理解する。 先に彼女が丘の頂に登った際にはしゃいでいたのも、ここからの眺めが良かったからに違いない。 どれどれ、と言わんばかりにツバキは視線を上げるまでは目を瞑っていた。 そして・・・目線の高さが水平になったのを確認し・・・ゆっくりと瞼を上にあげた。 「・・・ほぉぉ~」 彼女が騒ぐのが分かった気がする。 日の光によって草や花の艶がキラキラと煌めき、それは一つの海を見ているかのようだった。 視界に入る限り、新緑の草原と虹を連想させるようないろどりみどりの花畑がいっぱいに広がる。まるで宝石のように一つ一つが輝きを放っている。 そこへ風が吹けば、ゆらゆらと揺れるそれらはこちらへと笑顔で手を振ってきているように見えた。 こんなに綺麗な景色を見たのは、いつ以来だったろうか。 「ね、ね!すごいでしょ!?」 「あ、あぁ・・・よく見つけたな、すごいぞ!ラン!」 開いた口が塞がらない。たまにはランも良いものを見つけるのだな、と感心する。 ランの方へと目を向ければ、彼女も負けないほどの笑顔をこちらに向けていた。ツバキに褒められて思わず嬉しさが顔に出てしまったのであろう。そんな彼女の頭を撫で、再び視線を上にあげる。 「・・・あれは・・・何だ?」 「どうしたの?」 ツバキの声にランも彼の視線の先を見つめると、ある一つの森が目に入る。 森の辺りには薄い霧が発生しており、いかにも怪しげな雰囲気を漂わせている。森の奥は深い霧によって見えなくなっていた。 それが二人の興味をそそらせたのだろうか、二人ともその森だけを視界に捉えていた。 「・・・わかっているな?」 「・・・おっけー」 二人とも考えが一緒だったようで互いに見合わせ、同時に丘の上から飛び降りた・・・。 「―流石森だねぇ~。空気が澄んでるよ」 「全くだな。」 少し息が荒い二人だが、例の森に入っていた。一見してはただの森とあまり変わりがない。 鬱蒼と生い茂る木々に挟まれているこの道は、木々の間から差し込む日の光で、奥へと誘うかのように照らされていた。 ランが言っていたことと同様に、空気がとても澄んでおり光合成が盛んに行われていることがうかがえた。 「何て森なの?」 「ん…ちょっと待ってろよ」 懐から地図を取り出し、開いてこの辺りを調べる。さっきまでいた草原は「ハルベット草原」。その周辺を調べてみる。 が… 「…無い」 指を添えて目と同じく動かす。しかし森の名前は無く、渓谷や近くにある草原の名前しか無かった。この地図は最近寄った街で貰った物なので、狂いは無いはずだ。 頭をポリポリと掻いてみる。別に思い浮ぶことは無く、ただその地図を眺めていた。 「…ここの森のこと…載って無いんでしょ?」 「はは…よく分かったな。…お前の言う通りだよ」 ふぅ~ん、と頷くと少し歩き出す。よく耳を澄すとポッポやムックルの鳴き声が木霊して響き渡る。 空気だけで無く、音も透き通って聞こえるのはこの森だけでは無いだろうか。 ランは目を瞑る。と、茂みを通じて温かい風が吹き抜けた。草原で耳にしたザワザワの音より二、三倍ほど音量が多かった。が、そんなに耳障りでは無く、寧ろ耳に気持ち良かった。 「さっ、名も無きこの森を探索だぁ!」 子供っぽい声を出しながら、ツバキを先導する。冒険心が強いランに微笑し、地図を懐にしまい、歩き出す。 地面を踏みしめる感触が何故か楽しい。益々不思議に思えるこの森…。 森の一部が、妙に歪んだ。 それを・・・二人は気付かないで前へと進んでいた。 ―暫く歩いただろうか。先程から歩いているが、同じ景色ばかりが続いている。 景色は綺麗だと思う。しかし、同じ景色ばかり続くのは流石に飽きる。 ランも同感なのだろうか、先程までの期待感は無く呆れたような溜息まで吐いていた。 「うぅ・・・疲れたぁ・・・そろそろ戻ろう?」 ツバキも流石に疲れたのであろうかただ無言で縦に頷いていた。 一度上に伸びをして、最初で最後であろう木々の隙間から見える青空を眺めて踵を返した。 ふと、ピクリとランの体が反応して足を止める。 「どうした?ラ――」 「・・・来るよ・・・何かが」 瞬時にランへと振り返り、ツバキは目を瞑って耳を澄ませる。意識を集中し神経を耳に向ける。 遠くから聞こえる荒々しい足音、それは凄まじい速さで近づいてくる。それも数は一つじゃない・・・複数だ。 辺りがざわめく、あらゆる木々から鳥ポケモン達が一斉に飛び交う。 「貴様らっ!!すぐにここから出ていきやがれ!!」 目の前の茂みから次々と姿を現す黒い影。漆黒を体に纏いそれを留めようとするように四本の骨が背中に生えている。 頭の角と鋭く煌めく牙、それはあのヘルガーであった。 紅蓮に染まる瞳は鋭く、ツバキ達を睨んでいる。 思っていたよりも数が違い過ぎる。戦いに慣れたランでさえ、あの数と戦えば重症は免れない。 先頭に立つヘルガーは他のよりもプレッシャーを放っており、威圧感が痛いほどに感じる。 「聞こえなかったか?出て行けと言っているんだ!俺様の気が変わらないうちに早くしろ!!」 なぜかそのヘルガーはとても必死であった。 しかしそれはこちらにとっては関係のないこと、何故他人に指図を受けてこの森を出ていかなくてはいけないのだ。 「もう少しな・・・違う言い方がないのか?おい」 生意気なヘルガーの態度にツバキも痺れを切らし、ついに怒り出す。 「ちっ、わからねぇ野郎だなぁ・・・ぶっ潰してやる」 「スラック様!おやめください!!」 「るせぇ!黙って見てろ!」 部下であろうかデルビルに言われても、彼は戦闘態勢に入り本気でツバキ達を潰そうとしている。 そのスラックと呼ばれたヘルガーは、大勢を低くし跳躍をつけて高く飛び上がった。 流石ヘルガーといったところだろうか、足の力は大いに発達している。それに部下を率いる身分であるからして、実力は生半可のものではないであろう。 それでもツバキは苦の表情をせず、ランに戦いの指示を瞬時に伝えヘルガーに立ち向かう。 戦闘経験豊富な彼女はヘルガーとひけをとらないだろう。戦いの勝利を小さく確信した その刹那であった。 まるで防衛反応が起こったように一瞬にしてその場の次元が歪み、背景が抽象的に、不規則に変形する。 脳が揺れる、体が引き裂かれそうになる、意識が飛びそうになる。 ツバキ、ラン、スラックは同じ感覚だった。吐き気が伴って立ってはいられなかった。 そんな苦しみが迫っているころ、ガコンと金属音のような音が木霊し一瞬にして巨大な穴が生じる。 底は見えなく、永遠の闇が穴の中には広がっている。 危険を感じた他のヘルガーは自分の親分だけでも、とスラックへと前足を懸命に伸ばす。 しかしそんな頑張りも儚く、スラックには届かなかった。 そして体は下へ下へと、吸い込まれるように。それでいて導かれているかのように。 何も抵抗が出来ないまま。 穴の底へと、落ちて行った・・・。 「・・・生きているのか?」 目が覚めた時は辺りは閑静としていた。音どころか、声も聞こえない。暗闇が延々と続いていた。 辺りを見回してもすべてが無に返ったような、地球の始まりのような空間だった。無論、先ほどまで自分を照らしていた光は既に無い。 なのに、そのような環境下においても自分の姿は明確に映っていた。 ここは、どこなのだろうか。 「そうだ・・・ラン!!」 ツバキの叫びは虚空に儚く響き、消える。暗黙が彼を飲み込む。 いつも一緒に時を過ごしたパートナーがいない、そう感じるだけで虚しく、そして悲しい。 暗黙を破るように彼は道無き道を唯、走り出す。 目的は無い、全てが暗闇なのだから。 「…くそっ、疲れねぇよ…」 全力で走っているのに息が全く上がらない、しまいには走っているかの感覚も。 何もない地面に、彼は躓き地に倒れる。痛みが感じなく、次第に足、腕の感覚も無い。 自分は消えてしまうのか?死んでしまうのか? 黄金色の瞳には唯暗黒が広がっている、狭いのか広いのかも分からない。 ふと、ツバキが吹き出す。そして笑いはだんだんと盛大になり、ツバキは、爆笑していた。 面白い要素など微塵も無い、彼自身も何故笑っているのか分からなかった。 「おれ・・・死んだのかな」 そうとってもおかしくない環境である。すでに彼は諦めているのか虚ろな表情を浮かべていた。 助かる、そんな希望も儚く散って、寂しさがその希望の分を埋めるように溢れてくる。 下半身からじょじょに神経の機能が停止していくのを感じる。そして、闇にかきけされていくのも。 人生の終わりを迎えんとする今、彼は瞬きを繰り返していた。 そんな時であった。 そう距離は無い位置に、薄くぼやけて幻影が映し出された。それが何なのか、彼は目を凝らして幻影を見つめる。 それは黄色くて、白くて、四足で。 ツバキはハッとした、消えゆく瞬間にその正体をつかんだ。それだけで、彼は嬉しかった。 孤独のなかこちらをみているかも分からない幻影に、ツバキは明るく微笑んだ。 顔の機能はまだ停止はしてなかったみたいだ、とりあえず間に合ったことに彼はホッと安心する。 次第に視界もぼやけてきた。そろそろ、本当に、最後の瞬間を迎える時が来たようだ・・・。 間もなくして、黒く染まる霧がツバキの体を闇に取り込んでいった。この空間から、ツバキ、という名の人間の存在が消えた。 幻影も霞んでいく。所々亀裂が走って、闇に溶ける。 そろそろ自分も消える。それを知ったのか幻影は微笑を浮かべると、踵を返して虚空の空を見上げた。 「・・・これからよろしく、とでも言っておこうか・・・」 自分という存在が消えゆく刹那、そんなことを呟いて・・・幻影は闇の中へと消えていった。 to be continued... ---- #comment() IP:125.13.222.135 TIME:"2012-07-19 (木) 17:19:36" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%90%9B%E3%81%A8%E3%81%AELEGEND%E3%80%80story.1%E2%80%95%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%82%8A%E3%81%AF%E7%AA%81%E7%84%B6%E3%81%AB%E2%80%95" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"