――by [[カケル]] ---- ――prologue of legend with you どんなに辛いような時がおとずれようと。 「…あのバンギラス…強かったんじゃないかな」 「んぅ~…あたしは分からないよ」 広く果てなき青空を見上げ、何もかもを忘れるようなこの思いは、空の青さ故に気持ちが良いから。 敗北した悔しさに浸っていた時間は、靴を履く時間よりも短かった。 何時までも引きずっていては、戦いに参加する資格は無い。 二人で決めたルールは、暫く前に決めた以来破ることは無かった。 ――泣いて笑ってただ淡々と過ぎゆく日々は。 刹那の中へと消えてゆく。 「ねっ、あのパチリス可愛いっ」 「……ふぅん」 硝子越しに、店の中で様々なアクセサリーを付けられていくパチリスを、パートナーは見ていた。 しかし、主人は興味が無いらしく、向かい側の店に並ぶ商品に目を向けていた。 「…ねぇってば!」 「んぅ?」 「あのパチリス可愛いよねっ?」 「んぅ…」 はぁ、と呆れた溜め息を一つ、パートナーは主人の足元へと歩み寄る。 純白の毛並が、この街道を吹き抜ける柔らかい風で緩やかに、静かに靡いている。 「…なんで興味無いの?」 「……作られて出来た美しさは、決められた時間の中だけ」 「……?」 主人が何を言いたいのか分からない。 手にとっていた商品を棚に戻し、パートナーと同じ背丈くらいに腰を落とす。 「つまり、作って出来た美しさより、人それぞれが持っている純粋な美しさが好きってことさ」 そのパートナーの頭を撫でる。 「だから、あのパチリスよりお前の方が可愛いよっ」 「なっ…」 パートナーの顔が段々と紅潮していき、恥ずかしいのか顔を反らす。 しかし、その主人は気にせず頭を撫で続ける。 「…誉めても何も出ないよ」 「誉めないよ?俺は本当の事を言ってるだけだぜ?」 「んもぅっ、そ、それが誉めてるっていうのよっ!」 ――この声よさぁ響け。 枯れ果てることを恐れず、君を願って。 「またあの技だっ!!!かわして、きりさくだ!」 迫り来るドンファンをギリギリまで引き付ける。 当たるか当たらないかの刹那、瞬時にとっしんを避け、地を力強く踏み締める。 「てぃやっ!!!」 直ぐには振り向けないドンファンの背中を、斜めにきりさいた。 ドンファンはきりさくの衝撃で前方へと、吹っ飛んでいく。 「…負けたぁぁ」 ごろりと気絶したドンファンと共に、相手が降参した。 壮大な歓声と共に、主人とパートナーの勝利が確定した。 「あはっ、やったぁ!!勝ったよ!」 「よくやったぜ!」 そのままパートナーを抱き上げ、頭を撫でてあげる。 勝利に嬉しさがあるが、やはり抱きつかれるとは思っておらず顔が紅潮する。 「ね、ねぇ!いくらなんでも…だ、抱きつくのは…」 「良いだろ別に、変な関係じゃないんだからさっ」 そうだとしても、人間だとしても、やはり異性に抱きつかれると恥ずかしい。 能天気な主人に、溜め息が出てしまうパートナーのポケモン。しかし、本当はとても嬉しい、とは言えなかった。 ――涙はきっと明日の糧に。 今は流したっていいじゃないか。 「…ひっく……うく…」 街の河川敷でパートナーのポケモンが涙を流していた。 主人は慰めの言葉こそ言わなかったが、頭を撫でていた。 「…うっ、ひっく……」 「…落ち着いたか?」 少しの沈黙、そしてゆっくりと頷いた。 流れる川は夕陽により茜色に染まりつつあった。デコレーションされた川の輝きは、流した涙と似ていた。 「…全く……こういう系には弱いんだから…」 「だって…凄く感動したんだもん… あれは超大作だよぉ」 「はっ?あれは絶対笑えたよ!」 「ふぇぇっ!?…あれは笑えないよ」 見る観点が互いに違ったらしい。パートナーのポケモンの涙の訳…それは、二人で見た映画だった。 この後、二人が感動したか笑えたのかの口論が始まったのは…。 言うまでもない。 川のせせらぎが…二人を見て笑っているかのように、音を立てて流れていた。 ――春夏過ぎて秋冬が来て、四季が変わる刹那の中、様々な地を歩んできた。 もしも世界が、嘘だらけだとしても…その地を踏んだことには変わり無い。 「………」 「………」 見たことも無い地。 ただ、白一色が広がっているだけ。気がつけば自分達も白くなっており、まるで色を吸いとられたかのようだった。 歪みゆくこの空間に、様々な景色が映し出されていく。 「…おいっ、無駄だぞ」 主人の声に反応して景色に殴り書きに赤が描かれる。 何を描いているのかは分からない。しかしただ一つ言えることは… ―まるで噴き出す鮮血。乾かないインクのように壁を滴り落ちる。 しかしそれにも動じない主人とパートナー。 例え、その赤が返り血のように自分達に降りかかってこようとも。 「分かってるんだよ……悪戯はよしなよ…ムウマ」 ピシッとヒビが入る。白い破片が主人の肩に当たる。 それだけでは終わらない。 「…俺達には……そんな生易しい精神攻撃は…効かないんだよ…?」 まるで硝子が割られていくように、所々に穴が開いていく。 穴が開いた空間の向こうは、光。照らされた箇所に元の色が戻っていく。 主人の口がにやける。 着ている茶色いコートを脱ぐ、黒く透き通る瞳はただ、正面だけを見ている。 金髪が靡くとともに主人が地を蹴り上げ、真っ直ぐ前へと走り出した。拳に力を入れて。 「残念だったなぁ!!」 勢いを付けた拳を白い壁へと、突くように殴り付けた。 衝撃が、突風となって二人を襲う。 しかし二人は飛ばされること無く白い空間だけが、音を立てて崩れだした――… ――明日、旅立つ君へ気持ちを込めた手紙を託すよ。 朝日が差すころ、気をつけてと笑えるように。 またね、と言えるように。 「―ふぁぁ~…」 一人の少年が、欠伸をしながら上半身を起こす。 くしゃくしゃと金髪の頭を掻いて、黒く透き通る瞳は寝起きだったため、虚ろな目付きだった。 横に目をむければ、まだ寝息を立てて眠るポケモンがいた。 ただのポケモンじゃない。 大切な…パートナーのアブソル。 「……くぅ」 「…ふふっ」 アブソルの頭に手を置き、優しく撫でてあげる。 寝ているはずなのに、微かにアブソルの表情に笑みが零れていた。 「……ツバキぃ」 ――opening legend with you ---- #comment() IP:125.13.222.135 TIME:"2012-07-19 (木) 17:19:53" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%90%9B%E3%81%A8%E3%81%AELEGEND%E3%80%80story.0%E2%80%95prologue%E2%80%95" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"