[[同的4]]の続きです [[青浪]] #hr 僕たちは部室で明日に迫った記録会の準備をしてる。 「シャオ、いよいよ記録会明日だよ。」 フィーアは緊張してるのか声が少し震えてる。 「フィーア、緊張することないって。記録会だよ?」 「うーん・・・俺は一応復帰戦ってことだからなぁ・・・」 復帰してから1か月・・・フィーアはメキメキと力をつけてきた。 練習で30m射てるようになったし、なんだかんだで大舞台に強いっていうフィーアには記録会っていうのは絶好のチャンスだよね。 僕はあれから風邪ひく前のスコアには2回に1回は届くようになった。記録会は僕にとってコンディションに恵まれないから、僕の期待は小さい。 そもそも僕のこの前の記録会は腹痛と雨っていうコンボで380っていう驚異的に低いスコアだった。 「さて、弓片づけるか。」 僕はてきぱきと弓から弦を外し、ハンドルからリムを外し、ケースに収まるようにバラバラにしていく。 弓を小さくできるのがアーチェリーの特徴ともいえる。 「シャオのお父さんから頂いたハンドル、かなり気に入ってるんだよねぇ〜。」 「へ?」 フィーアが僕に聞こえるように喋った。 「いやね、このハンドル使いやすいんだよ。いろいろ俺のことを気にかけてくれたんだな〜って。」 「今までの右のハンドルは?」 「監督が左のハンドルの代金の調達のためにって言って買ってくれた。」 「へ〜。」 「だから俺は20%くらいの値段で今のハンドルを買えた。監督も相当赤字だと思うけど・・・」 フィーアもさっさと片づけを済ませている。 「シャオさぁ、明日の記録会の目標とかってある?」 「一応490かな。」 「そっか。実はね、ヌルと賭けしてるんだよ。」 僕は恐ろしい一言をフィーアの口から聞いた。フィーアの賭け・・・っていうのは相手にとっては死を宣告されたに等しい恐ろしいものだ。 なんでヌルは自分から破滅を招くような真似を・・・ 「賭け?」 「うん、500以上でかつシャオに勝てばって。」 あれ?そこまでひどくないな。フィーアもやんちゃはしないっていうことかな。 「そんなの余裕でしょ。ヌルにしてみたら。」 「でしょ?だから怖いんだよね・・・逆にやらかしそうで・・・」 「やらかす?」 「そう。プレッシャーに弱いんじゃないかって。」 ヌルは一応女子の統率をとる役職にある。でも成績はケイが目立つせいかあまり芳しくない。フィーアは気にかけてるみたいだった。 「こんちは!」 元気のいい声が部室に響く。フィーアはびっくりして部室の入り口を見る。 「ゼロか・・・」 ゼロは♂のサンダースでミスターアベレージの異名を持つ。どれだけ調子が悪くてもチーム平均に近い数値で収まるから付いたあだ名だ。 「明日記録会でしょ?シャオも俺みたいにミスターアベレージになっちゃえよ。」 ゼロは僕を励ましてくれた。ゼロはいつも試合のメンバーでは安定感を誇ってるけど、監督は安定感だけだって言ってた。なかなか毒舌だよね。 「ゼロ、ありがと。」 僕は弓具を全てケースに詰めて、よっと声を出して4足で走るときに邪魔にならないように背中に乗っける。 「じゃあ、帰るかな。ゼロ、フィーア、お疲れ。」 「おう!シャオまた明日な。」 「あっ、ちょっシャオ!俺を置いてくな!」 フィーアはあわてて片づけをしてる。僕はしばらく待つことにした。 ガシャーン・・・フィーアはあわててケースを蹴ってしまう。 「フィーア、あわてなくていいって。僕は待つから・・・」 「ごめん・・・」 フィーアは申し訳なさそうに僕に謝ったけど、僕は気にはしてない。だいたい急いでないし。ゼロは横で少し笑ってる。 明日かぁ・・・記録会かぁ・・・どうしよう・・・ とんとん・・・誰かに背中を叩かれた。 「!」 「やぁっ。」 上機嫌なケイだった。 「緊張してるの?」 「少しはね。」 「みんなと話したんだけど、記録会終わって練習始まってから2日連続で練習ない日あるでしょ?その時にみんなで遊ぼうって言ってまわってるんだけど・・・予定ある?」 「わかんない。」 「あ、そ。じゃ、また聞くからちゃんと調べといてね〜。」 ケイはあっという間に去って行った。 「ふぁぁ〜。あっ、そうだった。」 ゼロがあくびをして喋り始める。 「監督が、明日終わったら晩飯おごるって言ってたよ。予定あったらあけといてって。」 「ほんと!?」 フィーアが想像以上に食いつく。 「ほんと、ほんと。」 「よーしがんばっちゃお。」 フィーアはなんて単純なんだろう。ご飯でそこまで喜ぶなんて。 「シャオ!終わったよ。」 ケースを背中に乗っけたフィーアが僕に声をかけた。僕もフィーアのほうを向く。 「じゃあ帰るね。お疲れ。また明日。」 「おうっお疲れ。」 僕たちは学校からの帰り道をのんびり家に向かっていた。夕暮れが綺麗だなぁ・・・ 「シャオ・・・明日さ、」 「行かないよ。」 僕はフィーアの話を唐突に切る。なぜなら話の内容はすでにわかってるからだよ。一緒に記録会会場に行こう!って。でも僕は行かない。一種のジンクスがあるから。 僕だけで行ったほうが点が出るって。なぜかはわからないけど、僕は早く行く癖がある。だから自分の想定した時間に行かないと焦るんだよね。 「へ?なんでわかったの?」 「いや・・・なんとなく。」 「やっぱりなぁ。監督がびっくりしてたよ。なんであんなに早いのかって。疲れるよって。」 「ジンクスみたいなもんだから。」 「そっか。じゃあ邪魔できないな。ヌルでも誘う。」 僕たちはそれぞれの家に帰って行った。 「ただいま。」 「おうお帰り。その荷物、明日試合だな。」 「そだよ。」 父さんはキッチンから僕に声をかける。なにか作ってるみたい。僕は荷物を置くとリビングでうつ伏せになって寝ころぶ。疲れていたのかすぐにウトウトしてしまう。 「おい!ご飯だぞ!」 「あ、あうん、ああ。ごめん。」 寝ていた僕はあわてて席に着くと父さんはご飯を並べてた。 「いただきます。」 お腹がすいていた僕はご飯をがっつく。・・・ごほっごほっ・・・ 「ほら、落ち着いて食べないと。」 「う、うん・・・」 父さんは僕を諭すとゆっくりとスープを飲んでる。いいことがあったみたいですごく上機嫌だ。 「なんかいいことあったの?」 「いや〜特にない。でも明日になったらわかるかな?」 何それ?でも僕は噴き出た疑問を抑える。明日になったら忘れてるしね。 「ご飯食べたら早く風呂入るんだぞ。」 「うん。」 ご飯を食べ終わった僕は父さんの言葉通りにさっさと寝ることにした。 「おやすみ。」 「おう、明日も早いぞ。」 「うん。」 よほど疲れてたのか僕はベッドですぐに眠りに落ちた。 「いってらっしゃい。」 父さんに送り出された僕。朝も早いのか、ほとんど物陰もない。 「ふぁぁぁ〜。」 僕は間違いなく、集合場所の駅にいる。しかも集合時間の1時間前に。 がばっ 「にゃぁっ!」 誰もいないはずなのに誰かに上から抱きつかれた。僕は頭が背中の弓ケースの重さと抱きついてきたものの重みでパニックになり、ずでっと地面に突っ伏す感じで転倒した。 「わわわわ・・・」 「おい〜俺のこと忘れたの?」 「へ?」 顔を上げて、抱きついてきたやつの顔を見る。 「デル?」 黒い体にいたずら好きそうな顔・・・間違いないデルだ。デルっていうのは♂のデルビルで、記録会でよく一緒になる。実は僕ともフィーアとも小学校が一緒なんだよね。 っていうより最初の記録会で久しぶりに会って、同じリーグの同じ一番下の部に所属する学校だって知ってからまた交流ができた。 「やあ!今日も早いね。一匹だけ?・・・だよね。フィーアはいないよね・・・」 「うん。今はね。」 デルはフィーアがかなり苦手だ。デルたちの関係はまあよく言ういじめみたいな感じだったから。普通に考えたら逆なのにね。 あだ名も10個くらい付けられてる。やれHPだのエイサーだの。 「ウチは集合早いからね〜。ところで今日さ、立ち順表みた?」 立ち順表っていうのは誰が何的を射つかっていうのが載ってる表で、記録会の1週間くらい前から1日前に公表されるものだよ。 デルは学校の集合が早いっていうけど、別にそんなことはないです。デルも早く来すぎるくせがあるから。 「まだみてない。」 「シャオと同じだよ。ってかフィーアはなんで30mだけなの?」 僕はデルに経緯を説明した。デルは少し悲しそうな顔をしてる。 「そうなんだ・・・弓でならあいつを打ち負かせると思ったのに。」 「そのうち対戦機会があるよ。」 「だよね。」 デルは僕の上から退きそうな気配はない。それどころか前肢で首周りの毛をいじってくる。 「ど・・・どいてって・・・重い・・・」 「いいじゃん〜。ふさふさしてるし〜。」 駅前でケース担いだ僕がデルビルに上に乗っかられてるっていう図は何か変だな・・・ 「この前みたいに俺をがっかりさせないでよ〜。」 「わかったからどいてって。」 僕の言葉は聞こえてないのか?デルは僕の毛をまだいじくってる。 「こらっ!」 ん?フィーア? 「やばい・・・フィーアだ・・・」 デルは一目散に逃げようとするけどすぐにつかまった。僕は少し疲れてまだ地面にへばってる。 「デ〜ル〜。おはよう〜朝から元気だね〜。」 フィーアの声が怖い・・・デル・・・ごめんよ・・・っていってもデルが抱きついてきたから・・・まあ自業自得だよね・・・デル、ごめんなさい。 「ふぃ・・フィーア・・・これは合意の上でだから・・・」 わ〜デル、そんな誤解されるようなこと言うなって!デルの黒い四肢がは完全に震えあがってる。よっぽどフィーアがトラウマなんだな。 「合意?シャオはそんなことには合意しないよね〜。」 フィーアはデルの頭を前肢で抑えつけた。・・・早く止めないと。 「フィーア、そこまでだって!」 「シャオ・・・黙ってて。これは俺の満足の問題だから。」 「ダメだって!フィーア!」 僕はすくっと起き上がってフィーアのデルを抑えつける前肢を払いのける。 「わ〜ん!シャオありがお・・・じゃ・・・」 デルは半泣きで自分たちの学校の集合場所に走って行った。フィーアはすごく不満そう。とっさに僕は話題を変えようとする。 「ヌルは?ヌルと一緒じゃないの?」 「そうだよ。トイレ行ってる。ところで・・・」 「ん?」 フィーアは僕に凄む。こ、こわい・・・ 「朝食べた?」 「はい?」 「食べたかって。」 「うん。」 「そっか。俺は食べてないから誘おうかなと。だから早く出たんだけど。」 「ジュースおごってくれるなら付き合うよ。」 「ホント?」 フィーアはうれしそうに僕を見る。さっきのデルに対する態度とはすごく違う。ヌルも合流して、僕たちは近くのファストフード店で朝ご飯を食べる。 「ん〜ジュースごちそうさま。」 「ふぁぁっ・・・俺、お腹一杯だ。」 「私も・・・」 僕たちにはご機嫌な朝になった。 集合場所に戻るとみんなが集まりかけてた。 「押さえ付けられたシャオか・・・やらしかったな・・・」 ふと、フィーアが呟いた。 「なぁっ、何言ってんだょぉ!」 びっくりした僕の脳裏にあの日、あったことがよぎった。 「あ、ごめん。聞こえてた?」 フィーアはばれたか、って具合に僕に謝った。記録会よりも不安なことが、僕の心を襲う。不安な僕はちらっと周りを見る。・・・よかった、ヌルもいないし誰にもきかれてないっぽい。 「よし、みんないるし出発。」 ノインの声だ。いつの間にかみんな集まってる。チームで戦わない個別の記録会とはいえ時間にはみんな厳しい。僕はさっきの騒動で少し疲れた身体を引きずって会場に向かう。 会場に着くといろんな学校がすでに準備をしていた。デルの姿もそこに見える。 早速学校の場所をとったノインは弓具の準備をするように僕たちに言う。 「準備したら各自でストレッチやってください。もうすぐ、スコアカード配るんで。」 うん、部長っぽい。今は。フィーアも何やら自分の射つ的を気にしてるみたいで、僕たちから離れて、フィールドに立ってる。 僕はケースを開けてさっさと弓を組んだ。我ながら速いぞ! 「シャオぉ~、ストレッチしよぉ~。」 ドライだ・・・今まで声かけられたことなんてないのに。 「あれ?珍しいねドライが声かけてくるなんて。ケイとすると思ってたのに。」 「そうかなぁ~あはは・・・さっ、しよう!」 ぐきぐきぐき・・・・いででででで・・・ドライは思った以上に身体が柔らかい・・・そっか、ケイは逃げたんだな。 試合とか合宿でないと複数でストレッチしあうことなんてないからね。そうか、ケイは合宿で体調崩してたのはこれのせいか。 「ふぅ!終わり!シャオありがとぉ~。」 「ど、ども・・・あいたたた・・・」 ドライは満足そうに弓の置いてあるほうに走って行った。 とんとん、背中を叩かれた。 「はい?」 「やぁっ。」 「ケイじゃん・・・どうしたの?」 「ストレッチの犠牲になってくれてありがとう・・・もう私は身体が硬いから付いていけなくて・・・」 やっぱりケイは僕にドライのストレッチを押し付けたんだな。 「そうなんだ?じゃあ僕とやる?」 僕は恨めしそうに喋る。 「え?気付いた?押し付けたって。ごめんね。シャオとやってもいいけど・・・」 ケイは少し口ごもる。なんでだろ?まだストレッチしてないのかな? 「ストレッチやってないの?」 「うん・・・みんな思い思いのパートナーとやってるから・・・やってくれる?」 「いいよ。さっさとやってしまおう。」 ケイは僕を見て笑顔になった。シャオはすごく硬そうに動いてる。 ケイは僕を見て笑顔になった。僕に支えられてもケイはすごく硬そうに動いてる。 「いだいいだい・・・痛いってシャオ・・・」 すぐ根をあげた。 「身体硬すぎだって。どこか損傷してるのかって思うくらい硬いよ。」 「そ、そう?なんか身体がこわばっちゃって・・・試合だから緊張してるのかな・・・」 「まぁ、弓組んだから時間はあるし。ケイの思うままにやっていいよ。」 「うん!」 ケイはすごく明るい顔になったように見えた。ケイのマイペースな動きはなんだかみてて癒されるなぁ・・・ 「はい~、前肢のストレッチやるよ~。」 僕もケイのペースにつられていく。動きも言葉のペースも。 「うん~。すごい落ち着く~。これで私がいい点出したら褒めたげる~。」 ケイの背中側の前肢の付け根の筋肉をゆっくりとほぐしていく。ケイは今にも寝そうな顔してる。 「終わったよ。」 「ありがとぉ~。はぁ。よし!やるよ私!シャオのストレッチにかけて!」 なにそれ?ストレッチにかけてって・・・ 「ケイ、シャオ。はい、立ち順とスコアカード。」 ノインは僕たちにカードを渡していく。 「ノインはドライが好きなんだよね~。」 ケイがそう言うとノインは顔を真っ赤にした。 「ばっばっばかなことを・・・恥ずかしいだろぉ~!」 言葉がしどろもどろなノインは走り去って行った。 「アーチェリーだけじゃなくてこっちもすごいね、ケイは。」 「うーん・・・だといいんだけどね。なんか私は当たらないなぁ。」 ケイの意外な言葉に僕は驚いた。 「そうなの?」 「うん。気付いてもらえないっていうか・・・まぁ、当の本人は自覚ないしね。」 ケイはブースターだから顔はもとから赤いけど、さらに赤みを増した。 「ふ~ん、残念というか・・・」 なんだかおしいなぁ・・・ケイは結構美形なのにな・・・裏山・・・もというらやましい。 「まぁ、射って忘れるよ!」 ケイはそう言うと同的のパートナーとスコアカードの交換に行った。僕も時間があんまりないのにあわてて自分の的の所に行く。 「やっほ!シャオ!朝以来だね。」 「デル!いやぁ・・・フィーアから殺気漂ってたけどね。」 「ひぃ!」 デルは恐ろしそうな声を出した。 「そうそう、スコアカードの交換だね。はい。」 「おう。」 デルは僕のスコアカードを受け取った。スコアカードを交換してお互いの点を記録して最後に渡すのがアーチェリーの試合の鉄則みたいなものだ。 「もう試合始まるぞ。俺は最初射つから。」 この記録会は人数が少ないのかA立ち、B立ちの二つに分かれてる。で、それぞれA→B→矢取り、B→A→矢取りの順に繰り返して点を採っていく。 だからB立ちのほうは連続して射てるから、有利といえば有利だ。 ぴっぴ~ 「A立ち、フリープラクティス。」 そう声がかかるとデルは急いでシューティングライン上に立つ。デルは緊張からか、なかなかうまく当たらない。3本しか射てなかったみたい。時間が切れた。 ぴっぴ~ 「B立ち、フリープラクティス。」 僕は弓を持って同じようにライン上に立つ。弓を構えて・・・バシュッ!カッ!矢は的の白い部分に当たった。 「あり~くっそ~まあ一射目だし。」 気を取り直してもう一度・・・バシュッ!・・・矢は的の点数の円から外れた。 「うわ~。ん?右下か・・・左上狙えば・・・」 バシュッ!・・・矢は的の中心から外れたけど、僕の狙い通りにはなった。 ぴぴぴ~・・・矢取りの合図だ。デルは急いで的前に向かう。僕も弓を置いて急ぐ。 「あちゃ~、調子悪っ・・・シャオ・・・お前もか・・・」 「う~ん・・・」 プラクティス、つまり練習での僕の点数は6射で18。平均で3点だ。気を落とさずに僕は記録会中に射ち癖を修正することにした。 ぴっぴ~「A立ち。50m一回目。」ぴ~ デルは射ち始めた。プラクティスの調子がいまいちで、まだそれを引きずってるように見える。 デルの実力を僕はあんまり良く知らない。練習試合も出てないし。記録会ではいちいち理由をつけて低い点を誤魔化そうとするし。 ぴ~・・・時間切れだ。 デルは首をかしげながら弓を置いた。僕は急いでラインに立つ。 ぴっぴ~ 「B立ち。50m一回目。」ぴ~ 僕はまず一射目を射る。バシュッ・・・おや?結構いいとこ行ったなぁ・・・っていっても4、5か・・・ 一回は記録会では3射。時間は2分、十分だ。続いて僕は射った。もう的のどの辺に行ったかだけを意識して点は気にしないことにした。 ぴ~・・・矢取りだ。 ・・・とまぁこんな具合に50mは終わった。僕の50mの点数・・・あり? 「あり?206?ここ数日で一番いいなぁ・・・」 「うわぁん!俺178だしぃ~。」 デルはすごく悔しそう・・・でも僕も意外だ・・・ここ数日は200のらないってのが普通だったからね。 打つ距離が50mから30mに変わる。僕はサイトを調整して、30mに臨む。 ぴっぴ~ 「A立ち、30m一回目。」ぴ~ ふぁぁ・・・試合中は集中を保つのも結構重要な要素だ。 ・・・ ぴっぴ~「B立ち、30m12回目。」ぴ~ 僕は最後の3本に全てを託す。さっきまでの30射の合計は241だ。さっきは・・・22だった。 今まで以上の集中ぅ~。バシュッ!・・・うーん真ん中か?ちょっと外れたぞ? もう一回!バシュッ!・・・おっ!きたこれ! さいごじゃぁ!バシュッ!・・・あり?わかんね。まぁいいや。 ぴ~ デルが射ったらこれで記録会はおしまい。 ぴっぴ~・・・ ぴ~ 終わった。みんな矢取りに向かう。 「うわぁ~ん!シャオに出し抜かれた~・・・」 デルは的前で嘆いてる。うるさいって。 「ふぅ・・・うーんと最後は9、9、8?」 おっいいぞぉ・・・っていってもこの立ち26かぁ・・・ 「けっ!シャオ!この立ち9,9,8、トータル26、6射計48・・・30mトータル289・・・くそっ・・・グランドトータル495?」 「あはは・・・デル・・・今回の得点6、6、4ぷぷ・・・6射計40・・・30mトータル277、グランドトータル455?おつ!」 「ぬぁぁぁぁん!」 デルは相当悔しそう・・・ばしっ! 「いてっ!」 デルは僕をスコアボードで叩いたけど矢を抜いてくれた。 「よっ!」 ケイはすごく上機嫌だ。いいことあったのかな? 「どうだったの?」 「聞いて驚くなよぉ・・・シャオ・・・572だっ!」 「ええええええええええぇぇぇぇっ!すごい・・・レベルが違う・・・」 ケイはご満悦だ・・・ 「うふふぅ、これもストレッチ効果だね~。」 え?ああ、すっかり忘れてた。そんなこと言ってたな。我ながら忘れてた。 ぎゅぅ・・・ 「ありがと。」 ケイはやっぱり抱きついてきた。 「ふぇっ・・・いやども・・・うれしぃ・・・」 僕は照れながら言う。もう色々ありすぎて頭がどうにかなりそう・・・ 「うふふふぅ~。」 ケイは本当にうれしそう。ちょっとハメを外してるように感じる。 「ふえっ・・・ふえっ・・・」 泣き声がする。 「よっと・・・誰だろう?聞き覚えのある声だけど・・・いこっ!」 「・・・うん・・・」 ケイは僕から離れると僕を引っ張って泣き声のほうに引っ張って行った。 「ヌル・・・どうしたの?」 「ふえぇえぇぇぇぇぇぇぇぇん・・・・」 ヌルは泣いてる。なんでだろ・・・ 「やぁ・・・お二方・・・」 フィーアが悪意に満ちた声で僕たちに話しかけてくる。僕は少し身震いがする。 「フィーア、なんかしたでしょ!」 ケイは声を出す。 「いや、点が悪かったんだって。」 「へ?そうなのヌル?」 「ひぐっ・・・うん・・・・ふぇぇぇ・・・」 僕は昨日のことを思い出していた。フィーアとの賭け?まさか・・・ 「フィーア、もしかして。」 「うん・・・そうなんだ・・・本当にプレッシャーに弱いっていうか・・・」 「何点だったの?」 「489だって・・・」 いたたまれなくなって僕たちはその場から離れた。 「そういえば、シャオは何点だったの?」 僕はスコアカードをめくる。 「えーっと495か。」 「忘れてたの?」 「まぁ終わってからいろいろあったからね。」 「だよね。私も少し飛んでた。」 僕たちはそのあと弓を片付けた。ケイはその間ずっと僕の相手をしてくれた。 「聞いた?♀の最高点633だって・・・怖いねー」 「ねー。そういえば・・・」 ドライとケイは僕のそばで何やら喋ってる。記録表彰ももう終ったし・・・無縁だけどね。まぁ僕としてはそこそこ満足だけど・・・ 「シャオ帰ろうよ!荷物置いて監督がご飯に連れていってくれるってさ。」 「じゃあ帰るか。」 そうして僕たちは会場を後にした。 僕とケイは弓を置くために学校へと戻った。 「ふぁぁぁ~眠い・・・」 「我慢してって。監督がおごってくれるんでしょ?」 あ、そうだ。だからケイと一緒に学校に戻ってきたんだ。怖くてフィーアに近づけないから。 フィーアはあれ以来ずっと不機嫌で、僕でも近づけない。他の部員ならなおさらだ。 にしても今日のケイは点が良かったからかすっごい僕に優しい。いつもこうだったらさすがに怖いけどね。 みんなが和やかに会話をしてる。そのムードの中監督が入ってくる。 「よっし!いくぞう!」 「やったぁ!」 みんな大喜びで、テンションは高い。監督はケチじゃないからね・・・監督は食べ放題に部員全員を連れて行ってくれた。 「もふはへはへはいひょ・・・」 「なにぃ?私の飯が食べられないのかぁ!」 ケイは完全に悪乗りして僕にやたらにご飯を進めてくる。 「まぁまぁ、シャオ。こっちもどうぞ。」 ドライまで・・・ 「食べろぉ!」 「ひゃい・・・」 僕は口をもごもご動かすけど、このお二方は僕が食べる様子を楽しそうに見てる。 「はぁ・・・やっと食べれた・・・」 うう・・・食べ過ぎて気分悪い・・・ 「シャオ・・・ごめんね。」 ケイが謝ってきた。謝る前にやらないでよね・・・ 「今日はすっごい機嫌いいね?」 「そりゃそうだよ。だってシャオがストレッチしてくれたから~。点じゃなくてね~。」 むぎゅぅ~・・・またくっついてきた。なぜか今日はうれしい。ケイの得点に貢献できたからかな。 「そういえば・・・この後、交流試合まで練習と合宿だね?」 交流試合っていうのはちょっと遠い学校と練習試合をするっていう行事だ。今年はやるのか微妙だったけど・・・ 「うん。あー合宿かぁ・・・去年はさんざんだったなぁ・・・」 「だよね・・・先輩がぐだぐだで・・・私たちももっとぐだぐだだったからね・・・私はドライとのストレッチで壊れてて、監督は完全に切れてたけどね。」 僕はちらっとカレンダーを見る。 「たしか・・・」 「明日明後日休みだよね・・・でも明日来ないといけないけど。」 「そうだったね。部室清掃だっけ・・・後輩いないと大変だよね。僕は・・・ぐふぅ・・・」 はぁ食べすぎだ・・・食べさされすぎなのか・・・ 「うふふぅ~、シャオ可愛い~。普段そんな顔しないもんね。」 「えっ?」 ケイにこんなこと言われたら恥ずかしくて顔に火がつきそうだ・・・ 「さっきからね・・・胸当たってるよ?」 へっ?ケイの抱きついてきた右側の前肢に確かになんか柔らかいものが・・・ 「えぇぇぇーーーー!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」 「いいよ~。」 「なんか酔ってるみたいだね・・・」 「酔ってないよ。いたって普通。ただ、すっごく嬉しいんだよね~。誰かに何かしてもらってそれでいい結果が出せたから・・・」 気付いたらケイも顔が真っ赤だ。穴があったら入りたい・・・ 「お~い。そろそろ帰るぞ!」 監督だ・・・助かった・・・ 「な~んだ。せっかくシャオと親密になれたのにね~。」 「ね~。」 ドライが言う・・・なんでだ??? 晩御飯が終わって家が近かった僕は怒ってるっぽいフィーアと一緒に帰ることになった。 「ねえ、フィーア怒ってる?」 「ん~、別に・・・怒ってるわけじゃないけどふがいないなぁって。」 「フィーア自身の点はどうだったの?」 「268と277だった。」 「えっ!すごいよそれ!」 「そう?」 フィーアは僕にすごくうれしそうな顔をした。 「うん、だって僕が始めて30m射った試合は242だったよ。それを考えたらすごいって。」 「シャオありがと~。」 「うぎゃあ・・・痛い。」 フィーアは僕の背中を折るかの勢いで締めてきた。 「やっぱ怒ってる?」 「ん・・・ごめんシャオ・・・きつく締めるつもりはなかったんだけど・・・ヌルがね・・・」 「はぁ・・・大変だよね・・・」 「うん・・・」 僕たちはしばしの沈黙のあと、別れた。 「ただいまぁ・・・」 「おう、すごくしんどそうだな。お疲れ。ご飯食べてきたんだろ・・・もう寝るか?」 「うん・・・」 僕はカバンを投げ出すと着替えもせずにリビングに寝転がる。 食べ過ぎの気持ち悪さと疲労とがあいまって、僕はすぐに寝てしまった。