#include(第十回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle) #contents &size(20){&color(red){※この作品には};&color(red,red){多少の流血と死亡表現、産卵表現};&color(red){が含まれます。苦手な方はお控え下さい};}; ---- *前因巡り巡って 1 [#aMg897b] 作者:[[COM]] 世界は広い。 空に、海に、山に、草原に……どこまでも広く続く世界には、それでも足らぬと言うように所狭しとポケモン達が住んでいる。 そんな世界の片隅、ある岳嶺の岩肌に自慢の鋭い爪を突き立てて掘りぬいてゆくガブリアスの姿が一つ。 そのガブリアスは進化して間もないが、それでも最終進化した身体の頑強さは目に見えて実感できるほどだった。 「ようし……こんなものかな?」 くり貫いて出た岩を片付け、堂々とした風貌の洞穴を前にガブリアスは腕で額を拭うような動きをしながら一息ついた。 鼻歌混じりに新居を堪能しつつ、近くの木々から集めた木の実を洞穴の中へ運んでゆき、一つ大きな伸びをしてからごろりと横になる。 その見た目は正に休日のお父さん状態だが、自然界のガブリアスでそんな人間臭い動きをする個体がいるはずがない。 ……そう、そのガブリアスはただのガブリアスではない。 ならば人間に育てられ、自然に帰されたのかというとそうでもない。 人間からポケモンに生まれ変わった、非常に珍しい存在だった。 初めこそは彼自身も非常に驚いた。 寝て目が覚めたと思ったら、思うように身動きができず、やっとの思いで拘束から逃れたと思ったらそこはタマゴの中だったのだから。 状況がいまいち把握できずに混乱していたのも生まれ変わってから数週間の話。 生前、彼はいちポケモントレーナーとして世界を旅していた。 決して有名なトレーナーなどではなく、寧ろイシツブテを投げれば当たるようなどこにでもいる普通のトレーナーの内の一人だっただろう。 そんな彼に何故このような機会が訪れたのかは不明だが、その切欠はある夜、道を暴走するサイホーンの前にイワンコが居るのに気が付き、身を挺して庇ったのが原因だろうという事を思い出したからだ。 それ以降の記憶は無く、夢でも見ていたかのように目を覚ますとフカマルとしてタマゴから孵ったのだから混乱するのも頷ける。 落ち着いた頃に人間だった頃の記憶を色々と思い出そうとしたが、案外記憶というものは曖昧で、トレーナーとして色々とやっていたことは覚えているが、生まれ変わった理由についてはとんと分からないままだった。 『悩んでいても仕方がない。折角なんだから今度はポケモンとして全力で生きてみよう!』 元来あまり深く悩まない性格であったことが功を奏してか、その日からは人間に戻る方法やポケモンになってしまった原因を考えるのではなく、フカマルとしての人生、基ポケ生を歩む方へと舵を切った。 それからは特に苦労もなかった。 屈強なドラゴンタイプのコロニーの中で育ったため、狩りの練習でもある兄弟との戦いの練習のおかげで危険もなく強くなってゆき、人間だった頃の知識も併せて兄弟たちの中でも飛び抜けて強くなっていった。 ガバイトに進化するのもあっという間だったこともあり、その集団生活とも別れを告げ、自分だけのコロニーを作るために方々旅してまわり、今日ようやく気に入った住処を手に入れた。 元が人間だったという事もあってか、狩りで他のポケモンを襲って積極的に食料にするのには抵抗感が強かったため、基本的には木の実を主食とする随分と変わったガブリアスとなったわけだが、他のポケモン達からすれば絶対の捕食者が移動しているようにしか見えないため、強敵以外が不用意に寄り付くこともなかったのはある意味で幸いだったことだろう。 とはいえ時には肉も恋しくなるわけだが、近くのよく人間が通る場所を探せば案外人間用の加工した食品が転がっているため、肉にも欠かないのはある意味現代的というべきか。 そうこうして新居で過ごすこと数ヶ月、庭にする位置の木を切り倒して木の実を埋め終わった頃、とある問題に直面していた。 『どうしよう……めっちゃムラムラする……』 一人で生活するようになって初めて性欲の波が訪れていた。 温暖な気候となったことでそこらじゅうで野生のポケモン達が繁殖シーズンを迎えていた頃、当然ながら彼にも同じ波が襲い掛かっていた。 だがまだ番にも巡り合っていないどころか探しすらしていなかった彼はここで集団生活の有難さを身に染みて感じていた。 昔のコロニーでの生活の時は、性活の方は経験豊富なメスポケモン達が処理をしてくれていたため、こんな悶々とした思いとは縁遠い生活を送れていたのだ。 だがまだ若く、ましてや狩りをしないようなガブリアスがメスを獲得できるような状況はまず有り得ず、平穏無事に過ごしたいという人間の頃の記憶が邪魔をして、のんびり過ごしていた弊害がここに来て降りかかった。 なら自慰の一つでもすればいいわけだが、生憎この便利な爪は狩りや滑空、地面を掘り進むのには非常に適しているが、自らのモノを優しく刺激するのには全くと言っていいほど適していない。 肌も空気抵抗を減らすためにおろし金に使われるほどであるため、強くこすりつければ急所に効果抜群では済まないほどの致命的なダメージが入ることになる。 ならば最後の手段として口があるわけだが、自分で自分のモノを口に咥えるのにはかなり無理な体勢を取らなければならないため、あまり気持ちよくない。 暫くは自らの口淫で雑に肉欲を解放して凌いでいたが、過去にもっと気持ちの良いことをしていたことが災いして少しずつ不満が溜まってゆく。 十分に育った今の彼には種を残すための強い本能が働きかけており、繁殖期というものがなかった人間からするとその衝動は半端なものではない。 毎日抜いても治まる気配はなく、寧ろ日に日に増してゆく性欲に少しずつ苛立ちを覚えるほどになっていた。 そんなある日、彼の住む辺りにも恵みの雨が降り注いだ。 多くのポケモン達にとってそれは非常にありがたいものだが、じめんタイプの彼にとっては苛々を更に加速させるものとなる。 体も土も湿るため移動がしづらく、体温を奪われれば行動にも不利益が生じるため本能的に水に触れるのがストレスになる。 かといって洞穴の中でじっとしていると性欲がやたらと主張してくるという負の板挟み状態だった。 悶々とした思いを抱えつつ不貞腐れるように無理矢理体を眠りに預けようとするが、普段よりも明らかに眠りが浅かった。 そんな状態の彼の住み処に、何者かの侵入を感じ取り、すぐさま起き上がった。 暗がりから侵入者の様子を探っていると、外の暗い明かりで見えたその姿は想像していた侵入者よりも遥かに小さかった。 「そこで止まれ。それ以上進んだら多々では済まさないぞ」 地を這うような低く、恐ろしい声を出して侵入者を威嚇する。 こういう日の侵入者は大抵の場合、住み処を奪いに来た不遜な輩だが、その小さな侵入者は見るからに精も根も尽き果てたといった様子だった。 「ご……ごめんなさい……今日一日だけ……いえ……雨が上がるまででいいんです……少しの間、雨宿りさせてください……」 小さな侵入者は、そんな今にも消えてしまいそうなか弱い声で懇願してきた。 普通ならガブリアスの住み処に踏み入れた憐れな食料だったことだろう。 見るからにみすぼらしいその小さな侵入者に対し、特に何かをする気の起きなかった彼は一つ深い溜め息を吐き、ひょいと拾い上げて自分の胸元へとしまいこんだ。 「雨が上がるまでだ。それまでに寝て体力を回復させておけ」 雨で湿り、全身が濡れたタオルのようになってしまっているその侵入者をしっかりと抱き込みながら、今一度ガブリアスは眠りに就いた。 小さな侵入者はしきりに何かを伝えようとしていたようだが、弱りすぎていたのか、そのまま身を震わせながら眠りに就いた。 結局雨が上がったのは日が変わってからだった。 朝日に照らされて目を覚まし、改めて胸の中で眠っていた侵入者を確認すると、どうやら随分と薄汚れていて分かりにくかったが、それはロコンだったようだ。 昨晩は体が冷えすぎていたせいでほのおタイプだと気付けないほどには弱りきっていたということだろう。 「おはようございます……」 目を覚ましたロコンは、回復したとは思えないほどか細い声でそう彼に言葉を投げた。 「目を覚ましたか。なら約束通り出ていきな」 そう言って彼は抱き抱えていたロコンを地面に降ろしてやったが、その足取りは覚束ない。 自慢の六つの尻尾は泥と汚れで絡み付いて纏まり細くなっており、後ろから見ても痩せこけた腹部が窺えるほど長く食事にありつけていないようだ。 ガブリアスの姿を視認しても逃げも怯えもしないのは単に無知なのか、それともそれだけの体力も気力も持ち合わせていないのか、ただ一つペコリと頭を下げて去って行こうとしていた。 その姿を見てガブリアスは一つ長く息を吐き、ロコンの体をヒョイと持ち上げた。 「もう関わっちまったからな。折角ならちゃんと飯を食って元気になってから出て行ってもらわないと寝覚めが悪い」 綿のように軽いロコンの返事を聞くよりも早く、ガブリアスは住処を出てからすぐ傍に作ったきのみの林へと連れてゆく。 そこでロコンの体を一度地面に下ろし、モモンのみのような柔らかく食べやすい物を選んで幾つか摘み取ってロコンへと渡した。 「ほらよ。食べな」 「い……いいんですか?」 「要らないなら別に食べなくてもいいぞ」 窪み、目だけが大きくみえるロコンは今にも泣き出しそうなほどに瞳を潤わせ、暫くの間無我夢中できのみを頬張り続けていた。 様子から察しは付いていたが、半年近くまともな食事にありつけていなかったらしい。 結局細かった体がお腹だけ膨らむほどたらふく食べ終わると、もう一度電池が切れたように眠ってしまった。 ガブリアスとしては秘蔵のきのみだっただけあり、それほど数があるわけではないため自分が食べる分のきのみを減らしたが、それ以上に何故関わってしまったのかと今一度深い溜息を吐きながら己の甘さを悔いていた。 しかし寝床に連れ帰ったその満足そうな顔で眠るロコンの顔を見ていると、思わずトレーナーだった頃の記憶が蘇ってきた。 ロコンを連れていた経験はなかったが、その寝顔は警戒心皆無で腹を見せて寝るチョロネコと瓜二つで思わず愛おしく思ってしまうほどだ。 あの時とは違う鋭く不器用な爪で傷付けぬように優しく頭や腹を撫で、冷えてしまわぬように自分の体で覆って今一度ガブリアスも眠りに就いた。 野生での生活は眠れる時に眠るのが定石だが、わざわざ敵の少ない場所まで移り住んだガブリアスにとって眠るタイミングはいつでも構わない。 ロコンがこれまでの疲労を全て溶かし尽くすほど眠り続け、次に目を覚ましたのはゴーストタイプの遊びだす真夜中だった。 夜はそれまでロコンにとっては恐ろしい時間でしかなかったが、今だけは時間も忘れて眠っていたロコンを覆う腕に安心することができた。 翌朝、そしてその更に翌朝……すぐに出て行けと言っていたはずなのにガブリアスは気が付けばそのロコンと共に生活をするようになっていた。 やせ細っていた体に十分体力が戻った頃に近場の川で酷い状態になっていた毛並みを洗ってやり、少々やせ細ってこそいるが普通のロコンと同じ見た目に戻り、何度も何度もガブリアスに涙を浮かべながら感謝を綴る。 その度に気にするなとガブリアスは言い聞かせたが、普通なら確かにありえないことだろう。 色々と落ち着いた頃、更に詳しくそのロコンの経緯を聞かせてもらうと、どうも生まれてからすぐに野に放たれたロコンで、元々トレーナーの手元にいたらしいのだが、当然ながらそのトレーナーの名前すら知らないほどだ。 人間はポケモンバトルで勝つことにその生涯を懸けている者もいる。 彼等からすれば少々劣る程度のポケモンでも不必要なポケモンであり、ある意味自然界よりも残酷な自然淘汰の内の一匹だったのだろう。 だが昔の自分を少々思い出したことで尚更そのロコンに愛着の湧いていたガブリアスは、本当に何の気なしにそのロコンを匿っただけだった。 「しかしまあ……言っちゃあ悪いが、どうやって今の今まで生き残ってきたんだ? 正直お前さん、かなり世間知らずで鈍臭い方だと思うが……」 「そうですね。暫くは街で彷徨っていたんですが、トレーナーも迎えに来てくれる気配がなかったので……。それからは似たポケモンに声を掛けて一緒に生活させてほしいとお願いしたんですが……何もできない弱いポケモンは必要ないと尽く断られて、大きなポケモンに見つかったりもしましたが、既にやせ細っていたこともあってなのか、腹に溜まらないと見逃されて……そして今に至ります」 そう語ったロコンは言葉を紡ぐ度に啜り泣いていた。 聞けば聞くほど同情するが、逆に言えば運は持ち合わせているようだ。 そしてまた、このガブリアスと出会ったのも運の巡り合せだろう。 「弱いポケモンなんてのは人間の勝手でさ、本当はいないんだよ。ちゃんと育てればどんなポケモンだってちゃんと生きていけるし活躍だってできる」 「でも私は……」 「見る目が無いな! その人間は。だったら俺が育ててやるよ。独り立ちできるようになったら出ていきゃいい」 からからと笑いながらガブリアスがそう言うと、ロコンは暫く呆然としたまま固まり、音もなく涙を流した。 面倒な事を引き込んだとガブリアスは少々後悔もしたが、それ以上にポケモンになった今でも自分の考え方がどれほど通用するのか確かめてみたかったという思いもあったためか、別段苦には感じていなかった。 それからは暫くあまり激しい特訓はせず、まずはロコンの体力がしっかりと付くまで一緒に森に落ちているきのみを集めて回ったり、座学を中心に知識を深めていった。 まだまだ育ち盛りのロコンには沢山の食料が必要なため大半はロコンの食料に、残りの幾つかを植えるために残し、そこで残った分を自分の食料にする日々が続いていた。 そんなある日、折角ロコンの育成で上手い具合に忘れていた性欲が落ち着いた頃合いを見計って戻ってきてしまう。 今はまだまだロコンの育成に集中したいところだが、生殖本能の衝動は恐ろしい程に強い。 それこそロコンにガブリアスが少々苛立っているのが分かる程度には抑え込めていなかったのだろう。 「ご、ごめんなさい……」 「ん? 何を謝ってるんだ?」 「いえ。私が至らないから、怒っているんですよね?」 「あー……いや、全く怒ってない。寧ろ覚えがいいから感心してるぐらいだ」 「本当にそうなんですか? でしたらなんでそんなに気が立っているのか……」 「これはアレだ。季節のもんだ。抜けば治まるのにここ暫くは特訓に集中してたからな。気を遣わせたなら悪い」 しっかりと制御できていると思い込んでいた本能が溢れ出ていたことを知り、ガブリアスは少々気恥ずかしそうにしていたが、かといって理由を説明したところで解決する話でもない。 確かに自慰をすれば多少は精神も落ち着くがそれは開くまでその場凌ぎ。 コロニーで生活していた頃よりも肉体的に成熟している今、ヤることをヤらねば無限の性欲が押し寄せてくるだけだ。 「でしたら私にできることはないですか? ずっとお世話になりっぱなしなので、なんでもやりますのでお役に立たせてください」 「いやいや、今は何もないよ。役に立ちたいと思うんならそれこそ今は強くなることに集中しときな」 「でも……辛そうですし……」 「だとしても無いものは無い。一つずつできることを増やしていけ」 ロコンの提案に思わず恐ろしい考えが一瞬脳裏を過ったが、そこは人間だった頃の方の理性が働きかけてくれた。 ガブリアスも自分の発情具合が明らかに悪化している原因には心当たりがあった。 そう、目の前のロコンだ。 まだまだ幼い存在ではあるが、ロコン同士でならば十分に仔を成せる程度には成熟しているらしく、繁殖期で敏感になった嗅覚にメスの匂いが辿り着いている。 とはいえ手を出そうものならまず間違いなく死に至る体格差であるため、必死に抑えている。 夜中のロコンが寝静まっている内に何度か自慰で抑えようともしたが、寝床から動こうとするとロコンも目を覚ましてしまうため悶々とした感情が溜まってゆくだけだった。 番を今の今まで探さなかったことをこれほど後悔したこともなかっただろうが、ほんの一瞬でも先端ぐらいなら入るのだろうか? と考えてしまった事を悔いていた。 そうして特訓に身が入りきらない日々が続いていたせいもあり、ロコンは何度も気に掛けて自分に出来ることはないかと問いかけてきていた。 その度に同じ問答を繰り返していたのだが、一〇も越えた頃に苛々が溜まりすぎていたせいか、遂に思わず口にしてしまった。 「だからないっつってんだろ!! それともあれか? 一発ヤらせてくれるとでも言うのか!?」 普段怒りを顕にしないガブリアスが思わず鼻息を荒くするほど感情を高ぶらせてそう言い放った。 しまったと冷静になった時には既に遅く、ロコンは怯えきった表情でガブリアスを見上げていた。 「わ、悪い……ただ、本当にお前にできることはないんだ。交尾がしたくて気が立ってるだけだ。番のいない俺にはただ抑えるしかできない。怒鳴ってすまなかった」 冷静になったガブリアスはそう言ってすぐさま頭を下げた。 「……ですか?」 「どうした? よく聞こえなかった」 「私と……交尾したい……ってことですか……?」 ロコンの言葉を聞いてガブリアスは申し訳なさで胸が詰まりそうになっていた。 小脇に抱えられるほど巨大な相手から性愛を向けられている。 これほどの恐怖はないだろう。 「嬉しいです」 そう考えていたガブリアスの脳内とは真逆の言葉が静寂を破り、ロコンの言葉で続けられた。 あまりにもその言葉の意味が分からず、ガブリアスの顔からは表情が消滅していたが、ロコンはでまかせでそんな事を言ったわけではないとでも見せつけるように、本当に嬉しそうに微笑みながらガブリアスの足元へと寄ってきた。 「え!? いや……その……」 予想だにしない自体にガブリアスは思わず後退り、その拍子に体勢を崩すと、ロコンはぴょこんとガブリアスの腹の上に飛び乗ってみせた。 自らの腹の上に乗るロコンがガブリアスに見せるその表情はあどけなさを残しながらも、確かにメスとして、目の前のガブリアスを誘惑するような妖艶さを帯びている。 全てが予想外の自体に陥り、ガブリアスの思考は完全に止まったまま、ただそのロコンの姿に釘付けになる他無くなっていた。 そんなガブリアスとは対照的に、お腹の上でくるりと体を反転させ、慣れた様子で股座へと顔を近付けていく。 ちろりと冷たいものが自らの大事なものが収まっている場所に触れ、びくりと一瞬体を震わせたが、またしても身動きができなくなる。 境目を何度も舌が滑り、誘われるようにして境目から赤い槍が先端を覗かせた。 ロコンは一切躊躇することなく二股の槍の先端の内、片方を果実でも口に含むようにして頬張り、ガブリアスに甘い刺激を伝えた。 既に一度に色々と起きすぎて感情が追いついていなかったが、肉体だけはしっかりと刺激に反応する。 舌が這う感触に合わせてスリットから立派なドラゴンクローが伸びてゆき、あっという間にロコンの身の丈を越えた。 「気持ちよかったですか?」 ロコンはあどけない表情でガブリアスに訊ねてくるが、ガブリアスとしてはそれどころではない。 今までなんとか抑えていた劣情が完全に姿を顕にした今、一度発散するまで治まることはないだろう。 だがそんな僅かな刺激でさえあっという間に逆鱗した立派な二本のペニスはその一本一本がロコンよりも長い。 不自由な腕のためにペニスは柔軟に動くが、その二本はメスの膣内を求めて少々ぐねぐねと意思に反して動いている。 こんな状況で理性を失わなかったのはロコンのためなのか、それとも自らのメンツのためなのかは分からないが、最低限その二股槍で貫く大惨事は避けられたようだ。 「お前なぁ……」 言い返したい言葉は幾つかあったが、今はそれどころではない。 このまま正気を保っていられるとも限らないため、さっさとロコンを残してその場から動く。 いつも特訓をしている住処前の開けた場所からそのまま川へと移動し、岩に背を預けて自らのペニスに舌を這わせた。 自慰をする時はいつもこの場所にしており、体が汚れてもすぐに洗い流せるようにしていた。 うねるモノの先端を両方とも口に咥え、中程まで一気に飲み込む。 牙が当たらないように気を付けながら舌で扱きあげる。 「なんで自分でするんですか!」 「!? ゴッフ!? なんで着いてきてるんだよ!!」 居ると思っていなかったロコンに急に声を掛けられ、喉の奥まで一度自分のモノが届き、思わず吹き出したが、ロコンに言葉を返すと臆することなく近寄り、そのままそのペニスの上に乗った。 炎タイプ独特の暖かな体温と、自らは持たない柔らかな体毛の刺激で小さく呻き声が出るほどには気持ちよかったが、このままロコンが自らのヴァギナを擦りつけられれば止めることができない。 そう焦っていたが、ロコンもそこまで正気を失ってはいなかったようだ。 二股のペニスに身体を引っ掛けて乗り、キラキラと我慢汁が溢れ出る鈴口に舌を伸ばしていた。 自分でするのと他人からされるのとではその刺激の差は雲泥であり、同時にいきり勃ったペニスに乗っかってしまうほどの小さなポケモンが必死に自分のペニスを求めている現状に凄まじい背徳感を覚え、それだけで思わず興奮が加速する。 気が付けば自らの竿に抱きつくロコンにいいようにされ、ただ与えられる刺激を享受して荒い息を漏らしながら岩に体を預ける他ないガブリアスというなんともあべこべな光景が広がっていたことだろう。 小さな口で溢れる液を舐め上げながら、滑らかになった体毛で竿の先からガブリアスの体の方へ滑り落ちる度に先端の方へ動くことでモノ全体に味わったことのない快感を与えられ、時折口に咥え込まれる度に体が跳ね上がりそうになる。 はっきり言ってその口淫そのものは拙いが、自らのモノの全長よりも小さな者が全身を使って奉仕してくれているという現状が、その拙さを補って余る快感を全身に伝えた。 息を殺しながら明後日の方向に荒い息を吹き出していたが、自慰すら長くしていなかったこともあって限界が近かった。 「で……射精る……っ!!」 ロコンを乗せた竿はびくりと跳ね、白い雨を降り注がせた。 全身の力が入り、意識が股間にだけ集中し、次々に精液を吹き出してゆき、宙を舞った白濁液はそのままビチャビチャと地面を染めていった。 絶頂を迎え定期的に上下し続ける竿の先端をロコンは舐めようとしていたが、触れただけで一瞬で精液が飛び散り、二匹の体も白く濡らしてゆく。 「フフ……気持ちよかったですか?」 恍惚とした表情で白濁液に塗れた自らの毛を舐め上げながら、ロコンはひとしきり出し切って脱力したガブリアスに問いかけた。 気持ちよかった。などという言葉では表しきれないほどの快感だったことだろう。 力を失いぐったりとしたまま息を荒げる表情を見てロコンは悟ったのか、嬉しそうに微笑みながらガブリアスの腹も舐め上げる。 「いつか進化したら……子供も作りましょうね」 ---- その後、一度抜いたことで正気を取り戻したガブリアスはロコンを軽く説教していた。 ガブリアスとロコンとではそもそも子供ができないこと、一歩間違えばロコンが死んでいたかもしれないこと、発情期のオスを冗談で誘うべきではないこと……。 懇懇と叱られ続けてロコンは随分としょんぼりとしていたからか、一応メスとして応えてくれようとしていたことには素直に感謝した。 「だって……私は何の役にも立っていないですから……せめて番としての役目ぐらいは果たしたかったんです……」 そう言ってロコンはまた泣き顔になっていたが、ガブリアスはそんな様子の彼女をヒョイと腕の中に抱き上げ、優しく頭を撫でた。 「馬鹿だなぁ。十分役に立ってるぞ?」 「で、でも私は何も……」 「お前のおかげで昔の事も思い出せたし、こうやって誰かを育てる事ってとても楽しいことだったって初心を思い出させてくれた。きのみだってお前がいなけりゃあんなに集めて回らなかっただろうしな」 「……それって本当に役に立ってるんですか?」 「立ってるさ。お前はまだ子供なんだ。子供の仕事は沢山迷惑を掛けて、沢山叱られて、そこから沢山学んで親を越えていってくれることだ。おかげで一足早く親心を学ばせてもらってるよ」 そう言って子供をあやすように優しく撫でるとロコンは頬を膨らませた。 「子供じゃなくて番です!」 「なら相応しいメスになるためにしっかりと強く大きくなってもらわないとな!」 そう言って笑ってみせた。 ロコンはガブリアスの言葉に随分と不満げだったが、ガブリアスの口から出た言葉は全て本当に思っていることだった。 それからも特に二匹の日々は変わらず、きのみを集めて育て、合間に様々な知識を学び、戦い方も学んでゆく。 そうして季節が一巡した頃、また二匹は発情時期を迎えたが、今度は初めからガブリアスはロコンのことを番として頼り、全身を使った行為で抜いてもらっていた。 だが一年時を共にしたせいでもう一つ弊害が生まれる。 自然とそういうことをする仲になったせいもあり、一度抜いただけでは治まりがつかなくなってきたのだ。 それはロコンの方も同じらしく、少々特訓にも身が入っていないように見えた。 『う~んこれはまずい。間違いが起きてからじゃ遅いし……仕方がない』 互いの状況を鑑みて、ガブリアスはロコンを連れて少し住処を離れ、森の奥深く山脈の続く方へと少し遠出をすることにした。 「遠出なんて珍しいですね。何をしに行くんですか?」 「嫁探し」 頭の上に乗せたロコンの言葉にガブリアスがそう答えると、ロコンはあからさまに怒りを込めてガブリアスの頭を叩いてきた。 「私じゃダメなんですか!?」 「だからそもそも子供が作れないって言ってるだろ!! お前の婿探し&俺の嫁探しだ。お互いちゃんとした番を作らないとこのままじゃ間違いなく事故が起きるからな」 「私は嫌ですからね!! 絶対に番になります!!」 「そいつは勝手だが、なるにしても将来の番だろうに…… まあどちらにしろ俺にはちゃんと行為ができる番が必要なんだよ。それで別にお前の事を嫌いになったとかそういうわけじゃないから安心しろよ?」 頭の上で暴れるロコンに宥めるようにそう言うと、別に自分への興味がなくなったわけではないことを理解したのか、少々不満は残っているのか口を尖らせてはいたが叩くのは止めたようだ。 山脈の影になっている静かな谷間へと訪れたガブリアスはそのまま嫁になってくれるポケモンを探し始めた。 とは言っても騒がしくするのではなく、誰かしらの住んでいそうな穴を覗き込み、誰かしらいそうなら声を掛ける、という事を繰り返していた。 しかしなかなかお目当てのポケモンが居らず、居てもオスは探していないと条件が合わなかったりで少々難航していた。 数日程探し回っていると、漸くお目当てのポケモンの姿が見えた。 「あら? こんな所にガブリアスがいるなんて珍しいわね」 「おっ、漸くちゃんと会話まで漕ぎつけた……。ガブリアスを見ても逃げ出さないでくれるのは正直嬉しいよ」 ここまで巣穴を覗き込んで会話をしようとしていたガブリアスだったが、どうにもそれが良くなかったらしく、あまり会話すらできていなかった。 巣穴に住むポケモン達からすれば捕食者が獲物がいないか巣を覗き込んでいるようなものなので当然といえば当然だが、会話に応じてくれたポケモン達も基本的には応戦する覚悟で出てきている事がほとんどだったようだ。 ガブリアスを見て話しかけて来たのはヌメルゴンだった。 自分の方から話しかけてきてくれたこともあるが、彼の探していたお目当てのポケモンとはヌメルゴンのことだったため、これは正に千載一遇のチャンスだったため、内心非常に嬉しかった。 そしてガブリアスは自分の住処の事と、今現在番になってくれるメスを探している事を伝えると、ヌメルゴンは面白そうに笑ってみせる。 「あなた本当にガブリアスなの? 私の知ってるガブリアスは気に入ったメスを攫っていくようなのしか知らないわ」 「あー……やっぱりガブリアスの中だと俺って変な奴なのか」 「そうね。間違いなく変なガブリアスよ。まあだから逆に私としては好感が持てるけれどね」 ヌメルゴンはそう言って物珍しそうに、しかし奇異の目ではない表情で笑ってみせた。 そのままガブリアスの住む場所の話をしていると、静かで育てているきのみがあるおかげで食料も豊富だということが決め手となったのか、是非番になりたいと答えてくれた。 決まるとなるとあっさりと決まってしまったことはガブリアスとしては拍子抜けだったが、子育てにも十分な環境で、ガブリアスの性格も嫌いではないため、同じようにそろそろ番が欲しいと思っていたヌメルゴンとしてもいい話だったらしい。 とんとん拍子に話が進んでいって、ヌメルゴンと共に帰路に着いた一行だが、ここで少々不満そうにしていたのは言うまでもなくロコンだった。 というのもガブリアスはおろか、ヌメルゴンにまで子供扱いされたのだから本人としては不服そのものだろう。 だが実際のところはまだまだ子供。 子供扱いされるのは当然であり、ヌメルゴンもロコンの反論を適当にあしらいつつも、邪険にしていたわけではなかったためガブリアスとしてもホッとしていた。 ガブリアスがヌメルゴンの番を探しに行った理由は、その生態に由来する自分よりも弱い者を守ろうとする性質が強いところにあった。 ヌメルゴンの幼体であるヌメラは環境的にも外敵に対する対応力にも乏しいため、きちんと子育てをする傾向にある。 自分の生まれ育ったガブリアスのコロニーでは半放任状態で、群れのリーダーのオスは餌を獲ってきては自分で適当に食べ、残りを好きに分けさせるような悪い意味での自由さがあったため、群れからちょっと遠くまで離れた兄弟が他の強いポケモンに襲われる事も少なくはなかった。 折角ガブリアスというとても恵まれたポケモンに生まれ変わったのにも拘らず、群れを大きくして侍らせるような事をしなかったのはこの前の群れでの経験も大きく、生来の優しさも相まって生まれる子供も自らの伴侶も大切にしたいという思いが強かったのだ。 そういった色々な目論見もあってだが、運良くそのヌメルゴンと出会えたのはガブリアスとしては最良の結果だったことだろう。 元の住処へと帰り着くと、まずはヌメルゴンのために自分の住処の近く、少々陰った日中でも日が差しにくく、苔等が生えた岩場を選んで自らの巣穴と同様にくり抜き、普段はそちらに住んでもらうことにした。 番として迎えはしたが、粘液を分泌して常に湿気を保ち続けるヌメルゴンとあまり湿り気を好まないガブリアスとが同じ巣穴で生活するには色々と面倒があるためそうしたが、それに関しても事前に説明していたため特に問題にはならなかった。 川も近く、少々放置はしていたもののきちんときのみの個数も確保できているため、ヌメルゴンとしても申し分ない住処だったのか、非常に嬉しそうにしていた。 住処もでき、そこでの生活に慣れ始めた頃、漸く当初の目的であった通り、ヌメルゴンが自ら巣穴へガブリアスを誘い、少々周囲の様子を伺った後、そっと両腕を地面に着いた。 ぬらりと薄暗い洞窟の中でも分かるほどの粘液を纏った脚と太い尾が入口からの光に照らされて艶を放つ。 細身で早さと強さを追求したようなガブリアスとは相対的な柔らかく豊満な肉体を持つヌメルゴンの肢体はそれだけで十分な魅力を持っている。 「それじゃあ……お手柔らかにね……」 交尾の邪魔にならないように高く上げられた尻尾の付け根にある、普段はあまり目に付かない横一文字のスリットがオスが欲しいとでも言うように僅かに開いてメスの匂いを漂わせる。 それは正にこの上ない程の絶景だろう。 思わずガブリアスは生唾を飲み込み、粘液で滑らかな太い尾の柔らかな感触を両腕で楽しみ、尾の中腹程から舌でその粘液に自らの唾液を混ぜ合わせる。 何とも言えない味が口に広がり、花に誘われるアブリボンのように尾の根元へと少しずつ頭を下ろしてゆく。 辿り着いた谷間に鼻を近づけると鼻腔全体にオスを誘う匂いが突き抜けてゆき、あっという間に自らのスリットからも自慢の二本槍が姿を現す。 スリットに舌を伸ばすと、そこからは粘液の味とは違う粘性を持つ液体が溢れているのが分かる。 「加減はするつもりだけど……ちょっと手加減できる自信がないかな……?」 そう言いながら股間の二本槍をあっという間に怒張させ、今すぐにでも挿入したいとでも言うように先端から透明な液体を垂れ流し、同じように濃厚なオスの匂いを放つ。 ガブリアスのオスの匂いなど、強いオスを求めるメスポケモンからすればそれだけで垂涎ものだが、今は目の前のヌメルゴンと交わるために溢れ出している。 がしりと自らの胴と同じ程の太さのある尾に抱きつき、刺が刺さってしまわないように注意しながら自らのオスをヌメルゴンの割れ目へとうねらせて探る。 そして先端が触れるとあっという間にずぷりと音を立ててガブリアスのペニスが中へと滑り込んでいった。 「あっ……んっ……!」 「ご、ごめん。痛かった?」 「いえ、ちょっと驚いただけ。寧ろ気持ちいいわ。続けて……」 暫く振りの挿入の快感は凄まじいもので、既に竿全体から伝わる滑らかな圧迫感が今正に交尾をしているのだという満足感を与えてくれる。 しっぽに抱きついたまま腰も使ってヌメルゴンの膣内を味わい尽くす。 グチュグチュと卑猥な音が洞穴内に響き渡って二匹の興奮を高め、自然と二匹は互いの腰を相手に押し付けるように動いていた。 感じているのか、ガブリアスのしなやかなペニスの動きを封じる程に締めつけ、それに負けじとガブリアスも己の竿でかき回すように動かしてヌメルゴンに快感を与えようとする。 そのまま我慢することもなく、訪れた射精感に任せて尻尾をしっかりと抱き寄せ、膣内に溜まりに溜まった大量の精液を放出してゆく。 びくんびくんと大きく脈動するペニスを咥え込むようにヌメルゴンの中も収縮し、一滴たりとも逃さぬように飲み干してゆくが、発情期のガブリアスの精液の量は凄まじく、あっという間に許容量を越えて、ぶぴゅりと絞り出すような水音と共に地面を白濁で汚した。 「すっ……凄い……量……!」 「ご、ごめん……まだ治まりそうにない……」 ゴポッという音と共に結合部からペニスが引き抜かれたが、久し振りの交尾で興奮が治まらないのか、まだまだ元気だと鎌首をもたげる。 そのまま続けたいとガブリアスはヌメルゴンの尻尾に顔を擦りつけると、ヌメルゴンもまだまだ足りないとでも言うようにくるりと尾の先端の巻いた部分を解いてガブリアスに絡めた。 するとガブリアスはガバリとヌメルゴンの背に覆い被さり、もう一度白濁液と混ざり合って更に滑りけを増した割れ目へとペニスを滑り込ませた。 後ろ脚の付け根に腕を回し、鼻息を荒くしながらその内部と肉体の柔らかさを堪能する。 ガッシリとしたガブリアスにはない何処を掴んでもぬるりと滑り、グッと掴めば沈み込む弾力を全身で味わいながら、全力で腰を振っていた。 バチュバチュと小気味いい打撃音が響きながら、二匹の嬌声が同じように洞窟内に木霊する。 逃さないとでも言うように横に逃がしていたヌメルゴンの尻尾がガブリアスの胴に巻き付き、ぐいと体を引き寄せてより深くへと誘う。 興奮に任せ、そのまま腰を振りしだきながら二度目の精を彼女の中へと解き放っていった。 二度目でも衰えることのない精力があっという間に彼女の中を満たし、勢いよく吹き出しながら地面を染めてゆく。 肩で呼吸をするガブリアスは全身を震わせながら、残りの精も全てヌメルゴンの中に解き放つと、漸く力を失った二本槍が自らのスリットの中へと戻っていった。 ヌメルゴンとガブリアスは少しの間息を整え、最後にそっと口付けをすると洞窟から出て、一つ大きく伸びをした。 「赤ちゃんの名前、何にしようかしら」 「あー……やっぱり名前を付けるのが普通なんだな」 お腹を愛おしそうに撫でながらそう呟いたヌメルゴンにガブリアスが少々驚いた様子でそう言葉を返した。 というのもガブリアスの育っていたコロニーでは誰も名前を付けられていなかったからだ。 これは単に生存競争の激しい環境だったため、あまり大きくなれずに死ぬ子供も多いことと、それに伴って沢山の子供を産むために一匹一匹に名前を付けていては番号にでもしないと管理しきれなくなるからという事も大きかっただろう。 そのためガブリアスになってからの彼に特に個人を特定する名前はなかった。 「そりゃそうよ。みんな大切な子供なんだもの。私だって親から貰ったアクアって名前があるもの。あなたやロコンちゃんは名前は貰ってないの?」 「あいつは聞いてみないと分からないな。俺は……まあ一応昔はゼンって呼ばれてたよ」 ゼンという名前は語った通り、ガブリアスになってから貰った名前ではない。 前世にあたる人間の時の名前だ。 もう名乗ることもないと思っていたが、忘れずにいてよかったと思わず胸をなで下ろした。 そのまま二匹はロコンの元へ向かったが、当然というかなんというか、二匹の雰囲気を察してまた不機嫌になっていた。 「名前ですか? 私はトレーナーさんから名前なんて貰わなかったです。お母さんもお父さんも知らないので……」 「そうか……なら俺が名前を付けてやろうか?」 ゼンがそう言うと、ロコンの暗い表情は一瞬で明るくなっていく。 ポケモンにとっても名を与えてもらうということはとても特別なことであり、とても大切なことだ。 ほとんどのポケモンが子に名前を与えない中、与えられる名は母から子へ贈るのであればそれは祝福であり、伴侶から送られるのであればそれは契りを意味する。 が、当然ながらガブリアスはそんな事など知らない。 人間にとっての名前は子が親に与える当たり前のものであり、親が子にどう生きて欲しいかを込める最初の贈り物。 「そうだな……アカネなんてどうだ?」 「アカネ……嬉しいです!!」 そうしてゼンの知らない内に、本当に口約束で受けた番は契を以て正式に交わされることとなった。 事情を知るアクアの方もそれを拍手で祝福し、静かな森の中に少しだけ賑やかな情景が生まれることとなった。 *前因巡り巡って 2 [#SDeJoje] ゼンとアカネ、そしてアクアの三匹となった小さな縄張りの中、大きな事故も大きな事件も起きない平和な日々が続くある日、一つ小さな幸せが訪れていた。 ゼンとアクアの間に漸く待望の第一子が誕生することとなったのだ。 と言ってもまだ今から産卵するところではあるが。 産卵に伴い、アクアは少々警戒心が強くなり、自分の巣穴にゼンもアカネも近付かせないようになっていた。 アクアとしても初の産卵であるため色々と不安が多かったこともあったが、産卵という最も体力も神経も消費する行為の最中は、例え心を許した相手であっても気が散る対象になって仕方がなかったのだろう。 全身の神経を下半身に集中させる。 腹部にある明らかな塊に大きな呼吸と共に緩やかに、しかししっかりと力を込めて下へ下へと送り出す。 卵が産道へと下ってきた時には母体には既に恐ろしい痛みが襲いかかってきていた。 身体を内側から引き裂きながら下りてくるような感触に蝕まれつつも、痛みをひたすらに我慢しつつ卵を確かに下へ下へと送り続ける。 そうして卵が遂に産道から抜け出し、スリットを大きく拡げて姿を現した。 あと少し。そう分かっていても初の産卵に伴う体に掛かる負担は想像を絶するものだった。 残り僅かな区間すら少しずつ身を裂くような痛みに耐えながら精一杯肺の中に空気を取り込み、少しずつ吐き出し、全身の筋肉を動かすために消費してゆく。 そうして卵の半分が体内から出ると後はするりと飛び出し、予め準備しておいた柔らかな枯れ草の上にストンと落ちた。 漸く初の産卵を終えたアクアは卵の無事を確認すると力なくその場に倒れ、何度も新鮮な空気を取り込んで息を整え、疲労困憊の様子で外で待つゼンとアカネの元へと向かった。 「大丈夫か!?」 「私も卵も大丈夫よ。いやあ初めての産卵は大変だって聞いてたけど……本当にこんなに大変だとは思わなかったわ……」 ゼンの体にもたれ掛かるように倒れ、一先ずその場に座らせた。 アカネの方は当然ながら出来ることなどなく、ただ不安そうに二匹の様子を見ておたおたとするしかなかったが、その様子に気が付いたアクアがそっと頭を撫でて落ち着かせた。 「ごめんなさい……また私、何もできなくて……」 「大丈夫よ。心配してくれるだけで十分」 そうして一息入れ、アクアが動けるようになった後もアカネの方はまだ落ち着きがない様子だった。 「何もできなくて。って……そりゃあ誰にもどうにもできないよ。俺だって心配しながら待つしかできなかったんだ」 「でも……」 「お前の言いたいことは分かる。『誰かの役に立たないといけないから』だろ?」 ゼンがアカネの様子を見て、前々から思っていたことを口にした。 図星とでも言うべきか、アカネは少しの間口をぽかりと開いたままどうしていいか分からないといった様子でゼンの顔を見上げていたが、それを見てゼンの方も確信を得ていた。 「いいか? アカネ。お前のトレーナーだった人間がお前を捨てたのは、そのトレーナーの自分勝手なポケモンに求めた定義のためだ。そうやって捨てられるポケモンがごまんといることは俺だってよく知っているし、寧ろその中だとお前はよく生き延びたほうだと思うよ」 「……でも、その後出会ったポケモン達も、『弱いポケモンに用はない』って……」 そう言ってアカネはまた耳まで垂らして落ち込んでいた。 多くのポケモンが捨てられる場所の近くにあるコロニーならばその思考は弱肉強食になるのは当然であり、そこでの思考に今も囚われているのだろう。 事実その後は大きなポケモンを避けながら転々としていたため、他の似たようなポケモンとの接触も少ないまま痩せてゆき、ゼンと出会ったようだ。 そのため随分とゼンとの特訓で強くなった今でもアカネはまだ自分が弱いと思い込んでおり、同時に捨てられた過去から役に立たなければならないという脅迫的な考えが未だに変わっていないようだ。 まずはアカネに自信を持ってもらう必要性が高いため、アクアとも相談してタマゴの管理をアカネにお願いすることにした。 アカネとしては自分の子供ではないタマゴを預けられることに対して多少の不満があったが、役に立てるという喜びもあったためか、一応は引き受けてくれた。 こうして一先ずアカネにはタマゴを温める役を与えられ、同時に一時的に特訓を止めて巣の中で暫くの間じっとすることとなる。 幸いロコンであるため炎タイプの体はタマゴを温めるのには適しており、この辺りはわざわざガブリアスの縄張りに飛び込んでくるような命知らずもいないため、単純にアカネの自尊心を上げるのによい環境となるだろうという考えでゼンとアクアの考えは一致した。 ロコンにタマゴを任せている間、今後増えるであろう家族の事も考えて植えているきのみの数を増やすことにした。 とはいえ、この森に住むのはゼン達だけではない。 元々この森に住んでいたポケモン達もおり、彼等も同じようにきのみを食べている以上、取りすぎるわけにはいかない。 そのために拾ってきたきのみを植え、植えたきのみを基本的に消費するようにしていたのだが、育ち盛りの子供を育てるためには少しばかり不安が残る。 現時点で痩せ細ったアカネを元通り元気な状態にするには植えていたきのみだけでは足りず、追加で拾いに行ったほどだった。 それを踏まえて今回は早い段階から少しだけきのみを拾い集めておくことで対策することにした。 本当はもう一つ目的があり、森に住むポケモン達とアクアが交流することによって、ゼンも含め危険性はないことを伝えたいという思いがあった。 ゼンとしては面倒な縄張り争いが巻き起こらないようにするためにこの森に移住してきただけであって、決してこの森全体を自分のものにしたいわけではない。 そのためなんとかコミニュケーションを図りたいが、姿を見た時点で逃げ出されるためそれどころの話ではなかった。 その点ヌメルゴンは比較的種族柄大人しいため、これが切欠でゼンの評判が広まればこっそりと考えている次の計画に進めるだろうと思っていたのだ。 手分けして幾つかきのみを集めて回り、アクアの方が森に住むポケモン達とばったり合わないかと淡い期待を寄せていたが、残念ながらそう上手く話は進まない。 ヌメルゴンですら大きなポケモンであったため、森のポケモン達は警戒して近付かないぐらいにはポケモン達が大人しい。 そんなこともあって子育てそのものには大きな問題は起きず、アカネの献身的な温めの甲斐もあり、タマゴはそれほどかからずに孵化の時を迎える。 「ゼンさん! アクアさん! タマゴが動きましたよ!!」 慌てた様子のアカネの声でゼン達も慌てて洞窟に入ると、正にタマゴが孵る瞬間だった。 パキパキと音を立ててタマゴが砕けてゆき、中からヌメラが大きく体を伸ばして飛び出した。 「わっ! わっ! 生まれましたよ!」 「良かった……アカネちゃんのおかげで無事に生まれたわね。これでアカネちゃんもお姉さんよ」 アクアがそう言いアカネの頭を撫でたが、当のアカネはものすごく嬉しそうな表情をした後、同時に驚愕を顔面に貼り付けたような顔をしていた。 「お姉さん!? だから私もゼンさんの番なんです!!」 「言うのは構わんが、前から言っているように俺とお前とじゃタマゴは作れないし、そもそもこの体格差だから無理だぞ」 ぷりぷりと怒りを顕にしてアカネはアクアに反論したが、それを見て言葉を重ねたのはゼンの方だった。 実際、自分の体より大きいモノを挿入することなど天地がひっくり返っても起きるはずがない。 「わ、私だって……お二人みたいに進化すれば……」 そう言いながらもアカネは明らかに元気を失っていくが、その様子を見てゼンはアカネの頭を優しく撫でた。 「進化してもタマゴができない事実は変わらない。お前が俺を好いてくれるのは嬉しいことだが、俺はお前が幸せになって欲しい。そのために今心も体も鍛えてるんだ。焦らずゆっくり大きくなればいい」 そう諭すゼンだったが、アカネとしてはその言葉は嬉しくなかった。 まだ今のアカネに"幸せ"というものがよく分からない。 必要とされることが、役に立つということがアカネの世界の全てでしかない今ではまだ、ゼンの言う思いは分からないままだろう。 そんなアカネの気持ちとは裏腹に、生まれたヌメラはアカネの横まで来てくっついて頬を擦り合わせていた。 その様子は種族こそ違えど、確かに一つの家族だっただろう。 ---- 時は流れて八年、その後もゼンとアクアの間には子に恵まれ、少しずつ賑やかになっていた。 アカネは既に下にヌメラやヌメイルの兄弟を持つ姉として立派に成長しており、心身共に十分な成長を見せていた。 この頃には漸く、役に立たねばならないという考えが抜けきっていた……というよりも、活発なヌメラ達を纏めるために自分がしっかりせねばならないと自覚するようになったことで、随分と精神的に大人になっていた。 身体だけは大人になっていた時と違い、精神的な余裕の生まれたアカネは既にキュウコンに進化しても問題ないと思える程になっていたが、肝心の進化がまだ訪れないことにやきもきとしていたようだ。 ロコンの進化には炎の石が必要な事をゼンは当然知っていたが、折角心身共に安定している今のアカネに余計な事をしてまた不安定になられても困るため、その事実を伝えずにいた。 既にヌメラ達の姉としても手馴れていたアカネは、ゼンの当初の目的である森のポケモン達との交流のために子供達を引き連れて遊びに出かけることが多くなっていたが、同時に食糧問題は少々深刻になりつつあった。 然程強くないポケモンしかいないということはそれだけ食料も豊富ではないということ。 少しずつきのみを集めては植え、人間の果樹園に負けず劣らずのきのみの果樹園になっていたが、そろそろ収穫量が追いつかなくなり始めていた。 かと言ってこれ以上森のきのみを集めるわけにはいかない。 「てことだ、ちょっと遠出してきのみを集めてくる」 そうアクアとアカネに告げ、暫く縄張りを離れることを伝えた。 アカネはついていきたいと当然言ってきたが、きのみが豊富な場所ということはそれだけ多くの縄張りがあり、互いにきのみを奪い合って衝突している可能性が非常に高い。 そしてきのみを求めて多くのポケモンが集まるということは、そこに集まるポケモンを狙って集まる捕食者も多いということになる。 今のアカネの強さならばそこらのポケモンに狙われたところでどうとでもできるだけの力になっているだろう。 だがそれはあくまで特訓での話であり、ゼン以外のポケモンと実戦を行ったわけではない。 敵意を剥き出しにして襲いかかるポケモン相手に竦まない保証はない。 折角今は出会った時に比べて精神的にも安定してきた以上、余計な危険に晒す必要はないだろう。 その判断の下ゼンはアクアとアカネに縄張りと子供達を任せ、一匹離れた場所にある大きな草原地帯へと来た。 この場所には転々とではあるが大きなきのみの群生地もあり、初めはゼンが移り住もうかと考えていた土地でもある。 しかしそれを止めた理由も当然存在しているわけであり、その理由は分かりやすかった。 広く見晴らしのいい草原だが、囲むように山岳や荒野も存在しており、食料に困るとその辺りに住む大型のポケモンが食料を求めてその草原までやってくることが度々あった。 その過程でゼンの縄張りも幾度となく踏み荒らされ、自分用に確保したきのみすら根こそぎ食い荒らされ、さんざん衝突することとなった。 そういった過去もあってその土地は歩き慣れてこそいるが、面倒事に巻き込まれる前にさっさと切り上げたいとも考えていた。 暫く歩いてゆき、大きなきのみの群生地に踏み込むと、周囲にいた小さなポケモン達はガブリアスの到来をいち早く察知してイトマルの子のように散り散りに去っていった。 『まあ……普通そうだよなぁ……』 アカネや子供達が最近森のポケモン達と遊ぶようになったと聞き、いつかは自分も挨拶ぐらいはできるかと考えていたが、現状を見る限りそれも叶わないだろう。 たとえ中身が平和主義であったとしても、それは普段からこの辺りを拠点にしているポケモン達からすれば知ったことではない。 ガブリアスはどこまでいってもただの捕食者だ。 一つ諦めの溜息を吐きながら、幾つかきのみを摘んでゆく。 だがただ摘んでゆくだけではこの群生地を荒らしに来た他のガブリアスと大差ないとゼンは考えており、せめて騒がせた侘びとしてきのみを植えてその数を増やしてから去るのが礼儀だと考えていた。 そうしていた時、一匹のポケモンが隠れていたのか、丁度ゼンがきのみを摘み取ろうと枝に手を伸ばした時に枝の上からきのみを落としてしまった。 齧られたモモンの実を見て上を見上げると、そこには今にも泣き出しそうな表情でゼンを見つめるパチリスの姿が目に写りこんでしまった。 「ごめんよ。幾つかきのみを貰っていくから。これはここに置いておくね」 落としたきのみを手に取り、枝の間に乗せてゼンなりに笑顔を作ってみせ、そこの枝のきのみはさっと切り上げて別の木からきのみを摘み取る。 そして持ち帰る分のきのみを予め沢山持って帰る予定だったため作っておいた、大きな葉っぱにツルを絡めて作った不格好なカゴに乗せてゆく。 一つの木から取りすぎないようにし、幾つか摘むと別の群生地へカゴを引きずって移動していた。 すると三つ目の群生地に移動した時、カゴにきのみを入れようと戻ったところに先程のパチリスがいた。 「き、きのみでよければ……」 そう言ってヒメリの実を一つカゴに入れ、さっと木に上ってしまう。 だがそれはゼンにとってみればとても嬉しいことだった。 「いいのかい? ありがとう」 そう言って笑うとパチリスは怪訝な表情を浮かべていたが、そのおかげで少々その草原に住むポケモン達からの印象が変わったようだ。 どちらかというとさっさと安心したいがためにそうしていたのかもしれないが、何匹かはゼンのきのみ収集を手伝い、予定していたよりも早く集め終わった。 「手伝ってくれてありがとう。それと騒がせてごめんね」 そう言って手を振った先には最初とは違い、何匹かのポケモンが案外満更でもなさそうな表情でゼンの感謝を受け取っていた。 群生地から少し離れたところで休憩がてら幾つか痛みのあるきのみを手に取って食事を摂っていると、先程の群生地で手伝ってくれたポケモン達がそこにおり、切羽詰まった表情でゼンに話しかけてきた。 「あ、あなたは僕達を襲わないんですよね?」 「そうだけど……まあ多分、俺が特殊な方だと思うから、見かけたら逃げるって考えで間違ってないと思うよ」 そう言うとそのポケモン達はホッとした様子で一つ深く息を吐くと、改めてゼンの顔を見上げた。 「お願いです! 一度だけでいいんです! 追い払って欲しい奴がいるんです! どうか力を貸して頂けませんか!?」 その言葉を聞いて、何故彼等が恐る恐るゼンに協力してきたのかが理解できた。 彼等としてはその厄介なポケモンを追い払ってくれる強いポケモンが欲しかったのだろう。 そのため比較的まともに会話ができそうなゼンに取り入ろうとしたのだろう。 僅かながら手伝っているため、ゼンの性格上断りにくいことまで把握した随分と豪胆な考え方だが、実際のところ効果は覿面だった。 「はぁ……分かったよ。その代わり、俺は別にこの辺りに住んでるわけじゃないから本当に一回限りだぞ?」 それを聞いて草原のポケモン達は嬉しそうに喜んでいた。 聞いたところによると、近くに住むバンギラスが定期的にこの草原に来てはきのみを乱雑に奪い取っていくのだという。 弱いポケモンに対しては特に興味がないらしく、ただただきのみの群生地を荒らすだけ荒らして去ってゆくため、ゼンが訪れた頃と同じぐらいの群生地に戻すのには大体次に荒らしに来る頃になるそうだ。 そのせいで子育てに影響しており、なんとかしたいがそれだけの力も無いため、諦めるしかなかったようだ。 別に自然界では往々にしてあることだ。 ゼンとしてもそれは弱いポケモンが強いポケモンに捕食されるのは当然のことであり、同じように自らの住む範囲にある環境を荒らされることも当然のことである認識だったが、引き受けざるを得ない状況である以上、文句の一つでも言ってやらねばならないだろう。 面倒事を避けるために草原を離れたのに、草原に戻ってきた途端に面倒事に巻き込まれてしまったと心底呆れていたが、巻き込まれた以上は仕方がない。 アカネを連れてこなかったことが不幸中の幸いだったが、極力戦いを避けてきた今、自分自身ちゃんと戦えるか一抹の不安が残るところだが、件のバンギラスが襲来するまでは用心棒をすることとなった。 あまり時間を掛けすぎれば帰りを待つアカネ達を心配させるだけなので来るなら早く来て欲しいところだが、いつ来るかなどバンギラスの気分次第だろう。 その間はこの辺りに住むポケモン達の話を聞きつつ待つこととなったが、一つだけ予想外の収穫はあった。 ゼンも打ち解けることさえできれば案外、そういったポケモン達と交流することが叶うということだろう。 噂が噂を呼び、初めのポケモン達どころか同じ群生地に住むポケモン達すらも集まってくる事態となった。 子供達は無邪気に大きなポケモンと遊べるとはしゃいでおり、大人のポケモンも勝手に安心できる場所だと決めつけて木の上から集まってくる。 不本意ではあるがポケモン達が安心して集まれる場所に慣れることを実証できたため、自分の住む森でも早くこういう光景が広がればいいと考えていた。 「き、来たぞー!!」 その声を皮切りに、ゼンの肩の上や背中に乗って遊んでいた子供達までもが全て一瞬にして消え、最初にゼンがこの群生地に踏み込んだ時と同じ嫌な静寂だけが場を支配した。 ゼンも立ち上がり、背を向けていた方へ顔を向けるとズンズンと地を鳴らしながらこちらへ向かうバンギラスの姿が見えた。 「あん? 先客かい? 悪いけどこの辺りのきのみは全部アタシの物だよ」 ゼンの姿を見るなり余裕のある笑みを見せながらそのバンギラスは凄みを利かせてきた。 普通ならば大抵のポケモンは怯むのだろうが、ゼンにもゼンの事情があるため引くわけにはいかない。 「なんでバンギラスがきのみを独り占めするのかと思ったら……子育てかよ」 バンギラスの後ろから何匹ものヨーギラスが顔を覗かせていたことで、バンギラスの不明瞭だった理由が判明した。 要はそのバンギラスの子供達を育てるために定期的に安定した食料となるきのみを食べに来ただけのようだ。 ただの嫌がらせならもう少し本腰を入れるつもりだったが、そうなると尚更やる気がなくなる。 「悪いが今回はそのまま回れ右してくれないもんか? この群生地に来るあんたらを追い払ってくれって安請け合いしたもんでね」 「ハッ! まーた人間に捨てられたポケモンが正義だかなんだかの為にアタシと戦うってのかい?」 「別にそんなんじゃねぇよ。俺だって子育てしたくてきのみを取りに来ただけだ。……性格が災いしてこんなことになってはいるが、別に穏便にきのみだけもらっていきゃあいいだろ? な?」 そう言ってなんとか戦闘を避けようと会話を続けていたが、どうにもバンギラスの方は既に戦う気満々らしく鼻を鳴らしている。 「アンタに指図受ける気はないよ。アタシがこの辺りで一番強いんだ。弱者は強者に何もかも奪われるだけだよ!」 言うが早いかバンギラスは足を地面にめり込むほど踏み込み、地面を大きく揺らしてきたが、ゼンには然程効かない。 とはいえ乗り気でなかったところに不意打ち気味に多少よろけはしたが、この程度で怯むような鍛え方をしていてはアカネに笑われてしまう。 「そいつはごもっともだ。ただどうせバンギラスがこの雑木林に足を踏み込めばこの辺りのポケモンじゃあ太刀打ちできないんだ。きのみを食わせるだけ食わせたらそのまま住処に帰ればいいだろ? それともきのみもちぎれないぐらい不器用だったか?」 ゼンの言葉に対し、言葉を返す代わりに口内にエネルギーを溜めてゆき、強力な破壊光線をゼンめがけて放ってきた。 流石にこれを真正面からまともに喰らえばゼンでもきついため、十分に引きつけつつ光線を放つ瞬間に大きく横に飛んで躱す。 「ハッ! そんなもん教育に決まってんだろ? 事あるごとにこうやって誰かをけしかけてアタシに反抗する。だから見せしめに木をへし折ってやってるのさ。アタシに歯向かえばその度に壊されるってのに、学習しないバカ共のためにね!」 「成程納得。要は嫌がらせか。そんなら話は別だ」 回避に徹していたゼンだったが、バンギラスが群生地を破壊する理由が単に嫌がらせであると分かり、多少はやる気が戻ってきた。 そんな理由でせっかく育った群生地を破壊されていたのではいつまで経っても安定してきのみを供給してくれる憩いの場とはなり得ない。 今後暫くはお世話になる可能性がある以上、ゼンとしてもそんな理由で破壊されるのは気に食わないため、お返しとでも言うようにゼンも口内にエネルギーを溜め、竜の息吹としてバンギラス目掛けて吹き出した。 破壊光線の反動と先程までのらりくらりと躱していたゼンが急に反撃を行ってきたことに面食らい、バンギラスはその息吹をモロに食らう。 「あっつ!! へえ……やる気になったってわけかい!?」 「負かした程度でこっちの言うことを聞くとも思えないけどな!」 バンギラスの方もダメージこそは負ったが、まだまだ戦意を失ってはいない。 にやりと口角を上げて笑いながら、もう一度地面を踏み砕き、今度はその裂け目から飛び出すように岩がいくつも隆起した。 既にバンギラスに向かって飛び込んでいたゼンはその飛び出す岩に対して爪を光らせて切り裂き、後続する岩錐群を躱し、斬り払いながら高速で近寄り一閃を浴びせる。 爪撃をまともに食らっても尚怯むことはなく、瞳を怪しく光らせて悪意の波動を解き放って反撃してきた。 その距離ではゼンも躱すことは叶わず、その波動をもろに浴びて吹き飛ばされるが、くるりと宙で身を翻して着地する。 現状実力は拮抗しており、双方睨み合う状況となった。 否、寧ろバンギラスの方が押されていたからこそ睨み合いによる硬直を願ったのだろう。 常に先に仕掛けていたバンギラスが先に攻撃するのを止めたのは、単にゼンの方が格上だと感じ取ったからというのもあるだろうが、理由はもう一つあった。 ゼンの視線が先程から何度か明らかに低い位置へと向けられる事があるのを察したからだ。 バンギラスの方もその視線の先にはヨーギラス達が居ることを分かっていたからこそ、先程までと打って変わって攻めあぐねていたということだ。 だが当然ながらゼンにその気はない。 その気は無くとも、視線を向けられればバンギラスも意識せざるを得ない。 心理戦を持ち込まれた経験などバンギラスにはあるはずもなく、見事にゼンの術中に嵌ったわけだが、いつまでもその拮抗が保たれることはなく、痺れを切らした形でバンギラスが今一度大地を砕き、今度は砕いた大地を剥がして砕き、岩の雨にして降り注がせる。 しかしゼンもバンギラスが攻撃する瞬間を待っていた以上、岩が降り注ぐまで悠長に待つこともなく、事前に角へと集中させていたエネルギーを爆発させ、ジェット機の如き速さでバンギラスの無防備になった胴体目掛けて頭から突っ込んだ。 流石の巨体を誇るバンギラスでもその衝撃を受け止めきることはできず、三度地面を跳ね、転がりながら後ろへ吹き飛び、なんとか両腕と両足の爪を地面に喰い込ませてそれ以上吹き飛ばされるのを止めたが、立ち上がろうとしてもダメージが大きすぎたのか、肩で大きく息をしながら腰を落としたまま睨み返すのが精一杯となっていた。 ゼンの周りに居たヨーギラス達は慌てて逃げ出し、バンギラスの元へと行ったが、当然それを止める気はない。 「情けのつもりかい? 随分とお優しいね」 「別にそう受け取って貰っても構わんが、次同じ事をしに来た時は……お前じゃ護りきれないという警告として受け止めた方が賢いと思うぞ」 痛めつけるのが目的であるため、二度同じことができぬように釘を刺すと、先程までの余裕のあったニヤケ顔を歪め、明らかに苛立ちを含んだ顔でゼンを睨みつけた。 とはいえ既に戦い続けても結果は見えていたためバンギラスもそれ以上無謀を犯すこともなく、ヨーギラス達を連れてすごすごとその場を去ってくれた。 姿が見えなくなるとゼンも漸く張り詰めた表情を解き、一つ大きく息を吐いて気を緩めた。 それと同時に後ろからワッと歓声が巻き起こったのは言うまでもないだろう。 結果的に手間は増えたものの、その群生地に住むポケモン達に自らの名前を教え、改めてきのみを定期的に取りに来るかもしれないことを伝えると、快く受け入れてもらえた。 おかげでカゴ一杯の新鮮なきのみを手土産に住処に帰ることができたが、帰り着くと同時にアクアとアカネにこっ酷く叱られたのは言うまでもない。 ---- 収集したきのみの内半分を植えてから半年程、きのみの成長は早いものであっという間に一つ目の実を付けるようになっていた。 その収穫を一家皆で味わっていたが、そこで思わぬ来客があった。 というのも、アカネと子供達が森で仲良くなったというポケモン達と一緒にきのみを食べたいと言いだしたのだ。 それ自体はゼンとしてもありがたい申し出だが、問題はそのポケモン達がゼンを見ても大丈夫かというところだ。 この森に住み着いて数年経つが、未だゼンの前では気配すら悟られないようにしているポケモン達がいきなり連れてこられても気を失うか逃げ出す未来しか見えない。 そのためアカネにきのみを持たせてその友達と食べるように促した。 だがそれはつまり、そのポケモン達もきのみを食べることになるわけで、同時にまだ子供の数が増えてもいないのに消費量だけが増えることを意味する。 「仕方がない……大分早いがもう一回きのみを取りに行くか……」 「大丈夫? 私も手伝うわよ?」 「……いや、面倒事に巻き込まれる可能性があるし、まだアカネだけに子供達を任せるのには少し不安が残る。今回も俺だけで行く」 そう言ってガブリアスは以前使用したカゴを手に、また住処の森から離れて群生地の存在する草原へと繰り出した。 二度目の訪問の際は最初こそ警戒されたが、すぐにゼンだと気が付いたのかすぐにゼンの周りは賑わいを見せた。 前回はゼンも長く住処を空けていたため、すぐに戻るために挨拶もそこそこだったこともあり、あれから半年経った今も多少は平和になっていたようだ。 バンギラスも変わらずきのみをヨーギラス達に食べさせには来ていたが、根こそぎ樹木をなぎ倒すようなことはなくなったことで、彼等も漸くきのみにありつく事ができるようになったらしい。 食料であり逃げ場所である群生地が定期的に破壊されなくなったことで随分と子供が他のポケモンに襲われることも少なくなり、少しばかり賑わいも見せていたようだ。 手始めにゼンは熱烈な歓迎を受け、きのみを沢山渡してきてくれたが、一応自分の中での礼儀があるためゼンは受け取ったきのみを幾つか地面に埋め、群生地を更に広げる手伝いをした。 「あんた……そんなことまでしてたのか……。本当にガブリアスなのか?」 「変わってるとはよく言われるよ。まあでも確かにガブリアスだな」 そう言って笑いかけると、同じようにその森に住むポケモン達も笑顔を返してくてた。 「だったらついでだ。もし知り合いに草タイプの奴がいるんならこれもお願いしときな」 そう言うとそのポケモン達の中からコノハナが飛び出し、自分のエネルギーを集めてきのみを埋めた場所に向かって吹き出した。 すると今埋めたばかりの種が芽吹き、にょきにょきと伸びたのだ。 「おぉー!! やっぱり草タイプのポケモンなら他の植物も成長させられるのか!」 「ありゃ? 知ってた感じなのか?」 ゼンが考えていた森のポケモン達との交流を行いたかった理由は正にこれだった。 草タイプのポケモンは周囲の植物に自分の集めたエネルギーを分け与えて成長を促進させることができると噂で聞いていた。 それを聞いてゼンが考えていたのが、森のポケモンと交流して彼等にきのみを育ててもらい、森全体にきのみを豊富にすれば彼等も食料に困ることもなくなり、自分達も食料に困らないうえ、彼等と交流することで敵視されることもなくなり気楽に生活できるだろうという算段だった。 聞いた話だとほとんどの草ポケモンがその技能を使うことが出来るらしいとのことだったため、慣れた頃に交流を深めておきたいというのがゼンの考えていた計画だった。 そうして交流を深めていた時、後ろの方で轟音と共に地響きが鳴り響いた。 会話していたポケモン達はその瞬間に木の上に隠れたため、ゼンもそちらの方向に集中した。 視線の先では砂埃が巻き起こっており、その中心にはいつぞやのバンギラスの影がちらりと見えた。 『あいつ……分かってはいたが結局同じことを繰り返してたか……』 そう言ってそのバンギラスの元へと向かおうとしたが、どうにも状況が違うのに気が付いた。 バンギラスの視線の先には大柄なポケモンが何匹かおり、いかにもなにやけ面を浮かべている。 一方のバンギラスの方は明らかに苦しそうな表情を浮かべており、バンギラスの方が追い詰められているのがよく分かった。 「ほらほら? どうするんだよバンギラス? 早くしねぇとまた死んじまうぜぇ?」 「……クソ野郎共が!!」 「威勢がいいのは勝手だが、ガキの命は可愛くないってわけだよな?」 ゼンが近付くとそんな会話が聞こえてきた。 やはりとでも言うべきか、バンギラスの方がヨーギラスを人質に取られて不利な状況のようだ。 怒りに満ちた瞳でバンギラスはヨーギラスを捕まえているニドキングを睨み付けていたが、その手の中のヨーギラスは明らかに顔色が悪い。 「別にいいだろ?俺の子供を産めって言ってるだけだ。お前が早めに頷けば残りの子供は生かしておいてやってもいいって言ってやってんだろ?」 取り巻きのニドリーノが残りのヨーギラスを囲んでいて逃げられるような状況ではない上に、発言から察するに恐らく毒に冒されてしまっている状態だろう。 子供を殺してメスのポケモンだけを奪うのは自然界ではままあることだ。 自分の子供ではないポケモンをわざわざ育ててやる義理はないのだから当然のことだが、ゼンとしてはその光景は見逃せなかった。 土煙の中でもよく見通せる目で狙いを定め、ニドリーノ達に向けて竜の息吹を吹き付けた。 「なっ!? だ、誰だ!!」 「あ、アンタ!? なんで!?」 バンギラスとニドキングの間に飛び込みながら現れたゼンの姿に双方とも驚愕していたが、ニドリーノ達が慌てふためいている間に素早く分け入り、残りのヨーギラス達から遠ざけた。 「成程、てめえが今のバンギラスの番ってわけか……」 子供を助けに入ったのだからそう思うのも至極当然のことではあるが、実際は違う。 しかしそう思い込んでいるニドキングはニヤリと笑って、自分が腕で鷲掴みにしているヨーギラスをこれでもかと見せつけてくる。 「ガキの命が惜しかったらじっとしてるんだな」 「いや、別に俺の子供じゃねぇぞ」 「は?」 予想外の返しにニドキングは思わず面食らっていたが、ゼンはその隙を見逃さずに一気に近寄り、鋭い爪を振り抜いた。 いきなりの攻撃に怯んだニドキングは攻撃こそは避けたものの、ヨーギラスを思わず手放してしまった。 「て、てめえ!! やっぱりそいつの番なんじゃねぇか!!」 「だから違うって言ってんだろ! 別にあんたらが乳繰り合うのに文句を言うつもりはないが、助ける気もないくせに子供を人質に取るその性根がムカついただけだ」 弱った様子のヨーギラスを抱き上げて、すぐに後ろのヨーギラス達の所にそっと置く様子を見て、ニドキングは声を荒らげたが、当然ながらゼンも反論した。 口にした言葉の半分は本音だったが、もう半分は仮にも敵として戦った相手ではあるが、見知った存在が命の危機に瀕しているのを単に見逃せなかっただけでもある。 「ふざけやがって! そいつは俺が狙ってたんだよ!!」 「そうかい。ならオス同士、小細工なしで命懸けでメスを奪い合うってことでいいんだよな?」 睨みつけながらゼンがそう言うとニドキングの方は怖気づいたのか、何か捨て台詞を吐き捨てながら去っていった。 一先ずの危機が去り、振り返ったゼンは急いでヨーギラスの元へと駆け寄ろうとしたが、その前にバンギラスが立ちふさがり、ゼンを鬼気迫る表情で睨みつけた。 「バカ野郎! 毒を受けたヨーギラスがいるんだろ!? さっさと解毒するぞ!」 「アンタもさっきのクソ野郎と同じでアタシ狙いだって聞いたからね。退くわけないに決まってんでしょうが!!」 言うが早いか、バンギラスは大地を引き裂き岩錐を走らせたが、ゼンはその攻撃を避けずに真正面から受け止めた。 「面倒だから話を合わせてやっただけに決まってんだろ!! 俺とこうやってモタモタ戦ってる間に子供が死ぬぞ!!」 「もう何匹も殺されたわよ!!」 ゼンとしては今すぐにでも戦いを止めて子供達の毒を抜いてやりたいところだが、バンギラスの方は子供を護るという考えで一杯になっており、ゼンの言葉も耳に入っていない様子だった。 かといってここで下手に刺激すれば命懸けで猛反撃してくることだろう。 そこでゼンは冷静に戦闘態勢を解いて、自分に戦う意思がない事を示すが、それでもバンギラスは一切警戒を緩めない。 「……チッ! もういい! モモンのみを持ってきてやるからそこで大人しく待ってろ!」 下手にここでヨーギラスを動かされても手遅れになる可能性が高いため、急いで身を翻し、受け取っていたきのみの中から幾つかモモンのみを取り出してすぐさまバンギラスの元へと戻ると、案の定急いで子供達を連れてバンギラスは逃げ出そうとしていた。 「だから動かすんじゃねぇ!! 毒の巡りが早くなるだけだ!! こいつを食わせろ!!」 そう言ってモモンのみをバンギラスに目掛けて投げつけた。 だがバンギラスもきのみを受け取ろうとはせず、破壊光線で撃ち落としたが、警戒しきっている現状反撃してくるのは目に見えていた。 予め囮で一つ投げ、意識がそちらに向いた隙に裏に周り、一番衰弱しているヨーギラスを抱き上げてその場から少し離れた。 見るからに弱りきっているためすぐに自分でモモンのみを噛み潰してヨーギラスの口に移して食べさせたが、バンギラスにはその光景が襲いかかっているようにしか見えていなかったのか、バンギラスは急いで駆け寄り、奪い取るようにしてヨーギラスを抱き上げた。 だが特に外傷が無いのに気が付き、ガブリアスの方へすぐに振り返った。 「アンタ!! この子に何をしたんだい!!」 「だ か ら!! 解毒だって言ってんだろ!! モモンのみには強力な中和作用があるんだよ!! どうせ他のヨーギラスも毒を貰ってるんだ。さっさと全員にモモンを食べさせろ!」 そう言ってゼンはヨーギラスの方を見させた。 他のニドリーノ達に囲まれていたヨーギラス達もゼンが指摘した通り、既に皆毒に冒されている状態で、幼い子ほど毒の周りが早く同じように苦しんでいる。 まだゼンの行動全てに納得したわけでは無いようだが、とりあえず危害を加えていない事を理解したのか敵対するのはやめて他のヨーギラス達にもモモンのみを与えて回った。 ヨーギラス全員にモモンのみを与え終わってから大体三〇分程が経過した頃、ようやくモモンのみの効果が現れヨーギラス達の顔色は元に戻っていた。 「ああ……よかった! どういう風の吹き回しかは知らないけどとりあえず礼は言っておくよ」 元気になった子供達を一匹ずつ抱きしめてからバンギラスは改めてゼンに礼を言った。 まさかちゃんと礼を言ってくるとは思っておらず、ゼンの方が少々驚いた表情を浮かべたが、残念ながら全てのヨーギラスを助けられたわけではない。 何匹かのヨーギラスは既に毒で事切れており、その骸をゼンは拾い上げて集め始めた。 「何をする気だい?」 「救えなかった子達だけでもせめて埋めてやらんとな……子供の喰われる所は見たくはないだろ?」 そう言うとバンギラスは少しだけ寂しそうな表情を見せてから小さく頷いた。 落ち着きを取り戻したバンギラスと共に亡くなったヨーギラス達を群生地近くの土に埋めてやりながら、ゼンは色々な話を聞いた。 そのバンギラスの名はタイラーというらしく、近くにある岩山を縄張りとするメスのバンギラスだった。 そこいらのポケモンには力で負けることもなかったタイラーはそれこそオスと巡り合う機会も多かったが、大抵のオスはタイラーよりも弱かったこともあり、彼女のお眼鏡には適わなかったようだ。 いつまで経ってもいいオスに巡り会えなかった彼女は面倒になったらしく、そこら辺の適当なオスを半ば脅す形で番にし、子育てを開始したが、強引な形で番となったポケモン達とは長く続かず、オスはほぼ全て子育てを放棄して終いには逃げ出していたらしい。 そのせいで子育てに必要な食料がいつまでも足りず、子供は沢山いるが上手く大きく育ってくれないという状況が続いていたらしい。 「だったら尚更この群生地のポケモン達の機嫌を損ねるべきじゃなかっただろうに……なんでわざわざ嫌がらせをしたんだ?」 「だって……バンギラスが子供を育てたいが為に有象無象のポケモンに頭を下げるようなことがあっちゃいけないだろう?」 「それで結果がこの沢山の子供達と、今回みたいな襲撃で少しずつ数を減らす原因で、また子供がみんな死んだら同じ事を繰り返してた……そんなところだろう?」 「お見通しってわけかい。そうだよ……まだ子供が巣立ったところを見たことがない」 そう答えたタイラーの表情は悲しげだった。 どれほど強がってみせようと彼女も一匹のメス。 子供の成長を願うのには変わりない。 だが結局は子供を育てたいという思いとバンギラスとしてのプライドが矛盾しており、彼女のメスとしての願いは自らが潰していたことになる。 「だったら、素直にこの群生地のポケモン達に頭を下げな。気の良い奴等だ。危害を加える気がないんならお前さんの子育てだって応援してくれるかもしれんぞ?」 「……本当に随分とお優しいこと。ちょっと前に争ったアタシを助けたどころか、その子供達まで助けようとするだなんて、本当に変わってるわね、アンタ」 「だろうな。ただまあ、あの日以来お前も同じ事を繰り返さない良心は持ち合わせてるらしいし、仮にも関わった相手だ。そうでなかったとしても食料目的でもなくいたずらに命を奪うような行為は自分の倫理観として見逃せないってだけだよ」 そう言ってゼンは立ち上がり、群生地の方へ向かって歩き出そうとしたが、その尻尾をタイラーが掴んできた。 「なんだよ。まだなんか言いたいことがあるのか?」 「あるよ。アンタ、ゼンって言ったかい? アンタさっき、あのニドキングとアタシを巡って争ったんだろ?」 「別に。向こうが勝手に勘違いしてきただけだ。戦ってる最中に無駄話するのも面倒だったから適当に話を合わせただけだ」 「そういうつれない事を言うんじゃないよ。アタシは結構アンタのこと気に入ったんだから」 「……は?」 そう言ってタイラーはゼンに今まで一度も見せたことのない満面の笑みを浮かべた。 その言葉に偽りはないらしく、漸くお眼鏡に適うオスが見つかったと心の底から嬉しそうにしていたが、ゼンからしてみれば寝耳に水だ。 「バンギラスなんて勘弁してくれ……。絶対に俺の考え方と合う訳無いだろ」 「そんなこと言わないでおくれよ。アンタが言うんだったらなんだって言うこと聞くからさ!」 「ならここで大人しく子育てしててくれ」 「それは断るよ。アンタなら子供の事大切にしてくれそうだしね。こんな機会滅多にないんだ。逃がさないよ」 そう言ってタイラーはゼンの体に飛び付いた。 尻尾まで振って上機嫌の様子だが、ゼンからするとこの上ない程の面倒事がのしかかって来たようにしか見えない。 何度も諦めてもらおうと言葉を変えて言い続けたが、タイラーは聞く耳を持たない。 「なんなら今すぐにでもアタシとの子供も増やしておくかい? アタシはそれでも全然いいわよ」 「それは既成事実だろうが! そんなんだからオスが全部逃げるんだよ!」 なんとか興奮気味のタイラーを押しのけて逃げ出したが、既に彼女の方はヤル気に満ちており、メスの匂いを放っている。 ゼンとしてはここ最近子育てで忙しくしており、子供ができないアカネの方は発情期が治まるまで付き合う形にしていたため、実際溜まっているといえば溜まっている。 だが出先で現地妻を作るほど節操のないオスではない。 とはいえ既にタイラーの方はゼンと番になる気しかないらしく、なんとしてもゼンに気に入られようと必死だ。 ここで断れば間違いなく住処まで戻る途中で違う意味で襲われることとなるのはもう目に見えているため、深い溜息をついてから、タイラーも自分の番として迎える事を認めた。 「やったね! それならほら! 一匹仕込んでいきなさいよ! というかもう今すぐにでもヤリたくて仕方ないのよ!」 「お前……。絶対その性格のせいでもオスを逃がしてるからな……。番にはなるけど絶対に直せよ!?」 「もちろん! 相応しいメスになるわよ! だから……ほらぁ」 そう言ってタイラーは白昼堂々尻尾を持ち上げて恥肉がいやらしく蠢くスリットの内部を見せつけてきた。 この様子だと本当に男日照りだったらしく、タイラーのオスを求める匂いも非常に強烈なものになっている。 単に気に入ったオスがようやく現れたかもしれないが、流石のゼンもその匂いに本能が揺さぶられ、先程の思いも虚しくオスが鎌首をもたげた。 ヨーギラス達は普段見ない母親の姿に少々驚いている様子ではあったが、交尾そのものはもう何度か見ているのかあまり意に介していないようでもあった。 「……仕方がない。一回ヤッたらさっさときのみを持って俺の住処まで帰るからな?」 「それでいいから早く挿れて頂戴」 ゼンの言葉も聞こえているのか怪しいが、とりあえず了承は得た。 こちらへ向けたままのタイラーのスリットは肉が大きく盛り上がり、見るまでもなく溢れ出る愛液がゼンのオスを誘っている。 がっしりと巨木のようなタイラーの尻尾を掴み、自らのスリットから少し飛び出しているペニスの先端を物欲しそうな恥肉に宛てがうと、待っていたとでも言うように全体がペニスの先端へと収縮し、飲み込むように包み込む。 ぐちゅりと音を立ててペニスの先端が盛り上がった恥肉の間をかき分けて潜り込み、その恐ろしい程の内部のうねりに負け、あっという間に先端どころか全体がずぷずぷと音を立てて飲み込まれていった。 タイラーの内部は熱く、硬い体表と正反対に溶けたマグマのように柔らかく絡みつく。 更に恐ろしいことがあるとすれば、今までアクアですら不可能だった、最大まで勃起した状態のゼンのペニスを悠々と根元までずっぷりとくわえ込み、その状態で更にぎゅうぎゅうと締め付けてきたことだろう。 思わぬ名器にゼンも呻き声を上げることしか適わず、自然と腰を動かしていた。 アカネを乗せてもなんともなかったほど太く硬いゼンの物をいともたやすく飲み込み、なんなら押しつぶさんとする勢いで締め付けてくる膣内は悔しいが間違いなく一番体の相性がいいだろう。 全力で締め付ける肉を無理矢理押し広げると、それに応じる様にタイラーが嬌声を上げる。 彼女もこの瞬間を全力で愉しんでいることだけは間違いないようだ。 後はもう二匹の怪獣が唸り声のような喘ぎ声を上げながらまぐわい続けるだけだった。 ゼンの理性はとうの昔に消え失せ、いやらしい音が響くほどに全力で腰を打ち付けていた。 それはある意味、強者だけが味わうことのできる瞬間だっただろう。 周りのポケモン達に声を聞かれることすらお構いなしに、肉欲をただひたすらに味わう。 気が付けばゼンはタイラーに覆い被さり、背中のトゲに軽く噛み付き、本能のままに腰を振っていた。 ビュグリと大きな音を立てて、振りしだかれる結合部から白濁液が溢れるが、ゼンの腰の動きは止まらない。 出せるだけの精液を今この瞬間に解き放つ。 本能のままに行われる交尾は正に最大の快楽と共に種を残すためにできることを全て行っていた。 溢れ出る程のゼンの精液を少しでも零さぬ様にタイラーも更にぎゅうぎゅうと締め付ける。 そうして一度だけと言っていた交尾は数時間続いた。 気が付けば星の瞬く夜。 息も絶え絶えに自らの浅はかさを後悔するゼンと、出されるだけ出されて満足げに寝息を立てるタイラーと子供達の姿が群生地の片隅にあった。 ヤる事をヤりきった以上もう今更訂正もできないが、それ以上に問題があるとすれば、既に今回持って帰る分のきのみでは足りなくなっただろうということだ。 タイラーとヨーギラス達五匹を新たに家族に迎え入れると、同じように帰りを待つアクアとアカネ、そしてアクアとの子供四匹の十三匹の家族となる。 既にゼンが想定していた群れの総数を大きく超えており、こうなると嫌でも森のポケモン達の協力を得る必要が生まれた。 ただでさえゼンだけでも恐れられている現状にバンギラスのタイラーを招き入れることに一抹の不安を覚えながらも、幸せそうな寝顔を並べるタイラーと子供達を見ると、不思議とやってやろうという気が起きるのであった。 ――帰り着いてからアカネに激怒されたのは言うまでもない。 *前因巡り巡って 3 [#ym91EQq] タイラーの一件以降、尚更アカネは不機嫌になっていた。 いつまでも子供扱いは変わらず、自分だけまだゼンと擬似的な交尾しかしていない中、きのみを取りに行って帰ってきたと思ったら更に大柄な番が増えているのだからアカネからすればすれば納得いかないことは言うまでもない。 自分がメスとして見られているのか常々不安にはなるが、行為そのものは定期的にしてくれている以上完全にメスとして見ていないわけではないのだろうと言い聞かせつつ、更に増えた子供達の面倒を見るのがアカネの日常となっていた。 だが本人は気が付いていないかもしれないが、子供をまだ産んではいないが、恐らく今他のゼンの番達の中でも一番上手に子育てができているだろう。 強さに関してはもう野生で生きていくには十分すぎる程鍛え終わっていたため、残りは心の成長を目的としていた。 そしてその肝心の心の成長だが、やはり自分よりも弱い立場の者を育てたことはいい心の成長に繋がっていた。 自分が落ち着かなければ子供達の身に危険が迫っているかが分からないため、必然的にアカネ自身の警戒心と冷静に判断する能力が養われ、森のポケモン達からも随分と慕われているようだ。 これまではヌメラとヌメイル達の面倒だけだったためアカネだけでも大丈夫だったが、ここにヨーギラス達まで加わるととてもではないがアカネだけでは面倒が見きれない。 そのため子供達が仲良くなれるようにするためにも種族同士で分けることをせず、可能な限りすぐに馴染めるようにするために皆で遊ばせ、遠くに出る時は必ず五匹の群れで行動するようにさせた。 初めはゼンとタイラーが戦ったことでヨーギラス達はゼンの事を恐れていたようだが、タイラーの方がゼンにベタ惚れだったこともあってかすぐにゼンは恐ろしい存在ではないのだと理解したようだ。 当初ゼンが抱えていた不安は杞憂だったらしく、タイラーは口にした通りゼンの願いを全て受け入れ、アクアやアカネとも割と早い段階で仲良くなっていた。 不思議に思ったアクアがタイラーに何故バンギラス特有の荒々しさが全くないのかを訊ねたところ、 「今までずっとその『バンギラスらしさ』ってのに固執してたさ。強く荒々しく、全てを思うままに……ってね。その結果子供は一匹も大きく育たずに死んでいった……。子供が育たなければバンギラスらしさもへったくれもないよ。だからアタシはそんなクソの役にも立たないらしさってのを捨てたのさ」 と答えたらしい。 だからこそ、タイラーはゼンの考えに反発するようなことはなく、すぐに受け入れたようだ。 事実、最も子煩悩に溢れていたタイラーはその大柄でがさつではあるが、同時に素直で快活な性格をもって全ての子供をこれでもかと愛し、常に気を掛ける繊細さも持ち合わせているため、あっという間に子供達にも人気になった。 アクアやアカネともゼンの行うきのみの育成や収穫を率先して手伝ったりもしていた。 だがやはりというか必然というべきか、きのみの収穫量が十分ではなくなってしまった。 育ち盛りの子供達が満腹になるまで食べさせるのは優先として、植える分の事を考えると明らかに数が足りない。 アクアとタイラーはあまり住処から動かないため、食べるのを控えると言ってくれたがゼンも必要最低限だけ食べてもしもの為に皆で備える形となった。 元々ゼンが考えていた通り、森のポケモンに協力してもらってきのみを森全体に増やすしかないため、アカネにその旨を伝えて子供達と遊びに出かける際にゼンの元に連れてきて欲しいことを伝えた。 「こっちだよ! ゼンさん! みんなを連れてきましたよ!」 わいわいと楽しげな声が近寄ってきて、アカネの呼びかける声を聞いたゼンは可能な限りフレンドリーな笑顔で出迎えたが、残念ながらやはり森のポケモン達にとってはフレンドリーな笑顔ではなく獲物を見るような笑いに見えていたのだろう。 その場にいたポケモン達全員がゼンの顔を見上げて絶望の表情を浮かべ、瞳に涙を滲ませていた。 『うーん……これはお願い事ができるような雰囲気じゃあないな……』 アカネからは事前にゼンの事についてみんなに説明したと聞いていたが、どう見てもアカネから皆への説明にはアカネの主観が多分に含まれていたようだ。 とりあえずゼン自身も彼等と仲良くなるために持ち上げてあやしてみたりもしたが、どうにも効果はないようだ。 「アカネ……みんなになんて説明したんだ?」 「みんなできのみを育ててもらって、みんなで食べられるようにしようって考えてる私の大切な人ですよ!」 「うん……一番重要な部分を省いてるね……」 アカネからすればゼンは自分を救ってくれた大切なポケモンかもしれないが、大前提の『前からこの森に住んでいるガブリアス』と『アカネの番でいつも遊んでいる子供達の父親』という部分をまだ森のポケモン達は知らない。 本人的には当然の事過ぎて忘れていたのかもしれないが、その前提があるかないかでポケモン達から見たゼンが危険か否かの認識が大きく変わってくる。 今のままではアカネはゼンに小間使いとしてこき使われている手先であり、ゼンの前に連れてきて拒否権を無くしてきのみを育てさせようとしているようにしか見えない。 そのままでは本来想定している状況にはなりえないため、可能な限り丁寧に前提であるヌメラ達の親であること、アカネの番であること、きのみの成長を促してもらう代わりに皆にきのみを分けて、その一部を自分達にも分けて欲しいという旨を説明したが、表情を見る限り理解してくれてはいなさそうだた。 結局、森全体できのみを育てようというゼンの計画はまだ当分先送りになりそうだと考えながら、まだ群生地のポケモン達に迷惑をかけることになると遠い目をしていた。 森に戦慄が走った日から更に数ヶ月、ゼンとの間に授かった子供も生まれてヨーギラスは六匹となった頃、子供達もすくすくと育ちだしたこともあってアクアもタイラーも今は子育ての方に夢中になっている様子だった。 それに対しアカネの方は子供を産めていないため、発情期が治まらないどころか年を跨ぐ事に強くなっていた。 アカネの辛さを低減するためにも、そしてアカネのメスの匂いにつられて節操なく逆鱗するオスを宥めるためにも二人で慰めあう事も多く、よく初めにゼンがアカネと情事に耽った川側へとやってきていた。 この頃には既にアカネの手つきも慣れたもので、口淫は最初の拙いものから誰よりも巧みになっていた。 ゼンが腰を下ろすと股座に飛び乗って、スリットに十分に唾液を纏わせた舌を使って甘い刺激を与える。 そうして先端が飛び出すと優しく先端を吸い、挿入を促すための先走りが出るように舌と口とを使って刺激してゆく。 あっという間に大きくなるため、先端を舐めるのはその瞬間ぐらいであり、後は舌を使って大きなゼンのモノ全体を舐めてゆく。 この時には既にアカネの方もメスの妖艶な表情を覗かせながら、巧みな舌使いで快感を増してゆき、竿全体をゼンの先走りの液と自らの唾液とで混ぜ合わせて濡らしてゆき、いつものように自らの柔らかな毛を濡らして体全体を使って扱きあげる。 最初の頃とは違ってただ竿に乗っかるだけではなく、前足で輪を作って先端を刺激しながら、後ろ足をゼンの体に乗せて、曲げ伸ばすことで独特な刺激を与える。 膣内とは絶対的に違う感触と、時折竿と竿の間に顔を埋めて先走りの味を味わいながら舐め上げる舌使いが合わさってもうとても子供の前戯などとは揶揄できない。 濡れた毛の感触に混じって時折当たる熱いアカネの膣が竿の根元へと押し付けられる感触。 鼻腔に届くアカネのメスの匂いがゼンの本能を揺さぶり、竿の先端がアカネの膣内を求めて僅かにうねる。 それを見ると必ずアカネは体を反転させ、竿の先端へ自らのまだ穢れを知らぬ溶鉱炉を差し出す。 先端がクリトリスと擦れ合い、アカネが小さく嬌声を漏らしながらその凶悪なオスを受け入れようとする。 ツプリと先端が熱の中に埋もれる感覚が襲うと、ゼンはすぐさまアカネの体を持ち上げた。 「ふぅ……全く。ちょっと興奮しすぎるとこれだ。だから無理だって言ってるだろ?」 「だって……いつまで経っても進化できないんですもの。それならいっそのこと挿入すれば、それに合わせて身体が進化してくれるかもしれないじゃないですか」 「今はこれで満足させてやるから、もう少し待ちな」 そう言ってゼンは持ち上げたアカネの体を反転させ、口へと近付ける。 ドラゴンの長い舌が火照ったアカネのぷっくりと膨れた膣口を押し広げながら蹂躙してゆく。 アカネが性行為に慣れ始めた頃からこうしてゼンの舌が彼女のための擬似的なペニスとして挿入され、十分な快楽を与えることで発情を抑えていたが、やはり妊娠できなければそうやすやすと収まってくれるものでもない。 だが快楽が発情を弱める事も確かであり、一番奥まで余裕で届くゼンの舌が彼女の中をかき回し、いくらアカネが体をビクビクと震わせて絶頂を迎えたとしても止めないようにしていた。 ジュルジュルと溢れる液を吸い取り、そして口を大きく開いて口の中にアカネの体を載せる。 そのまま一呑みにしてしまえる程の体格差で行われる口淫は信頼関係の上でなせることであり、決してそんなことはないと分かっているからこそアカネもただただ強制的に与えられる快楽の海に溺れることができる。 悲鳴のような嬌声を何度も上げ続け、十五分程経ってからぐったりとしたアカネが涎と自らの愛液とゼンの先走りに混ざったドロドロの状態で口内から解放され、口の中から解放される。 アカネの体力に余力があり、ゼンの方も溜まりすぎている時はそのまま最後まで抜いてもらうのだがいつもの流れになっていたが、その日は食料の問題もあったためアカネの息が元に戻ったら地面の上に下ろすそうとした。 だがその刹那、ゼンの背後に鋭い殺気を感じ、大きく前方に跳んで何者かの攻撃を躱した。 「よく躱したな」 「そんな殺気を向けられりゃあ馬鹿でも気付く。わざわざ他人の情事を覗き見るたぁ随分な趣味だな」 「誰が! 変に動かれてその子に怪我をさせたくなかっただけだ!」 身を翻し声のした方を見ると、そこにはジュカインがいた。 リーフブレードで斬りかかったのかジュカインの腕の葉はエネルギーを纏って輝きを放っていた。 殺気からゼンはそのジュカインの目的を大体予想していたが、まさかこんな土地にゼンの縄張りを狙ってくる別のオスが現れるとは考えていなかった。 こういったいざこざを避けるためにわざわざ辺鄙な土地まで渡り渡ってやってきたというのだが、何かと巻き込まれやすい悪運だけは変わらなかったらしい。 「アカネ。動けるか?」 「え、ええ……動けますけど……どういう状況なんでしょうか?」 「コイツの狙いは俺だ。お前はさっさと逃げろ」 「コイツ? えっ!?」 漸く意識が元に戻り、状況を理解したアカネは目の前のジュカインの存在に気が付き驚いていた。 ゼンとの逢瀬の前にはいつも周囲の安全を確認しているため、目の前に殺気を放つジュカインがいることが予想外だったが、アカネもすぐにゼンの腕から抜け出して戦闘態勢を取った。 「へえ、言われる前にその子を開放したんだ。聞いてたよりは悪い奴ではなさそうだね」 「聞いてた……? チッ……まあこんな辺鄙な森にガブリアスが住んでりゃ噂にもなるわな」 そのジュカインはそう口にすると今一度リーフブレードを構え、姿勢を低くする。 ゼンも戦闘に備え両腕の爪を構えて姿勢を低くした。 「アカネ! 何をしてる! 早く逃げろ!!」 「だから! 私も戦います!」 「無理だ。こいつは俺よりも強い。お前らだけでも逃げろ」 「そ、それなら尚更一緒に……!」 ゼンの生まれたコロニーでは毎日のようにじゃれあい、大きくなって旅をする間に多くの強敵と戦ってきた。 そんなゼンだからこそ相手の力量を見誤ったことはない。 今目の前にいるジュカインはゼンの力量を大きく上回っているのは対峙した今なら尚更分かる。 先程の不意打ちはかなり手加減をしていたことと、もし本気で斬り掛かられればまず間違いなく躱す事ができない事を既に悟っていた。 強者の使うリーフブレードは岩はおろか鋼鉄すらも切り裂く鋭さになるというのを知っていたゼンは、死を覚悟して対峙していたからこそ、せめてアカネだけでもこの戦闘に巻き込まれないようにすることで精一杯だった。 寸刻前までの空気は消え去り、肌がひりつくほどの緊張感だけが場を支配する。 どちらかが動けばそれが開戦の合図になる……。 「喰らいなさい!」 そんな中で先に動いたのは他の誰でもない、アカネだった。 炎を勢いよく吹き出し、ジュカイン目掛けて吹きかける。 ゼンも予想していなかった奇襲に一番驚いていたのはゼン自身だったが、相手のジュカインはすぐに反応して飛び退き、炎を切り払うように腕の剣を振るった。 「バカ野郎!!」 アカネと刃の間に飛び込み、両腕でアカネの体を庇いつつ背を向けたため、ジュカインのリーフブレードを背中にもろに受けた。 凄まじい激痛がゼンの体を襲ったが、それでもゼンはアカネの体を庇って地面に倒れた。 呼吸をするのすら苦しい程の痛みだったがすぐに腕の中のアカネを遠くの草むらへと投げ、すぐさま起き上がって爪で斬りかかったがひらりと躱された。 「ま、待て! 何故あのロコンを庇ったんだ?」 「あ? それを聞いて何になる!?」 先程までずっと殺気を放っていたジュカインの態度が急に変わった。 何故か急に殺気を放たなくなったが、そんなことは今のゼンには関係ないとばかりにもう一度斬りかかるが、今一度躱された。 「お前はあのロコンを陵辱してたんじゃないのか!?」 「あれでも一応俺の番だ。奪いたいんなら俺を殺してからにしな!!」 「殺す!? 待て待て! 私は単にお前がこの森を荒らしていると聞いたから止めに来ただけだ!」 「止めに……? フッ……フフフ……成程、お前最近まで人間のポケモンだっただろ?」 「な、なんで分かるんだ!?」 「そりゃあその強さの癖に縄張りを奪いに来たわけでもなくて、しかも俺に致命傷を与えておいて殺す気はなかったなんて言う奴は野生で生きたことのない馬鹿だけだ」 そう言うとゼンは気力だけで立っていたため、その場に崩れるように座り込んだ。 ゼンが受けた太刀筋はかなり深く、地面には赤い水溜まりを作るほどの大怪我になっていた。 もし最初から脅しが目的ならこんなすぐに治らないような怪我をさせることはない。 適当に痛めつけて力の差を見せつけ、二度と歯向かわないようにさせるか逆襲する気を起こさせなくするものだ。 そうでなければ殺して食料にしてしまえばいいだけなのだから、わざわざ致命傷を負わせて逃がす理由が存在しない。 「ゼンさん……!?」 草むらに放り投げられたアカネが慌ててゼンの元に戻ってきたが、そこでゼンの背中側を見てしまい、絶句した。 背びれの後ろ側が半分近く無くなっており、そこと背びれの根元辺りに付いた深い傷口からとめどなく血が溢れ出している。 「ゼンさん!!」 「アカネ……。アクアとタイラーに伝えろ。子育てが終わるまではとりあえずこの森は安全だ……と。子供が巣立ったらいい相手を見つけに行きな」 「い、嫌です……そんな……」 「死ぬみたいなセリフは? ……自分の身体は自分が一番よく分かる。とりあえず今すぐ殺されはしないんだ。遺言ぐらい残していいだろ」 肩で息をしながらゼンがそう伝えると、アカネは縋り付いて泣き崩れた。 「ポ、ポケモンが死ぬはずが……」 ジュカインが声を震わせながら嘘だとでも言うように言葉を紡ぐ。 「ポケモンバトルではな。モンスターボールにはポケモンを無闇に死なせないようにするためにリミッターみたいなものがある。どれだけ強すぎる攻撃でも、決して殺めないように、そしてどれだけ危険なダメージを受けても先にポケモンの生命維持のための小さくなる能力が発動するようになっている。だが野生はそうじゃない。加減をせずに殴れば骨が砕けるし、切り裂けば真っ二つになる。いい勉強になっただろ?」 それを聞いてゼンは一つ長く息を吐いてそう答えた。 「き、きずぐすりは……」 「そんな便利なアイテムがそこらへんに生えてると思うか?」 「ポケモンセンターに連れて行けば……!」 「近くに人間も住んでない辺鄙な地だ。ある訳無いだろ。諦めろ」 &ruby(せけん){野生};ずれした言葉を並べるジュカインにゼンは一つ一つ冷静に言葉を返していく。 その度に希望が一つずつ刈り取られていくかのようにジュカインの表情が絶望に染まってゆき、ついに涙を零し始めた。 「こ、殺すつもりは……」 「なかっただろうな。大方生まれた時からトレーナーに手塩に掛けて育てられてただろうからな。だがお前にその気がなくても実際にそうなった。これから野生で生きていく気なら覚えとけ……命を奪うって事の後味の悪さを……俺はそれが嫌で、わざわざこんな辺鄙な場所まで移り住んだんだ……まあ、結局は俺も甘かったってことだ。俺みたいになりたくなけりゃ早めに命を奪う事に対する耐性を付けときな」 体から少しずつ熱が無くなっていく感覚を味わいながらゼンは目の前のジュカインに死にゆく者からの言葉を贈る。 「ち、小さくなることは……」 「できるがあれは仮死状態みたいなもんだ。大きな外傷にはほとんど効果がないし、なんならそのまま死ぬ可能性の方が高い」 「なら……必ず自分がポケモンセンターまで連れて行くから!!」 「だからそんなものは何処にある?」 「私の主人は引退して私をこの近くの人里近い森で私を離したんだ! そこまで戻れば必ずある! だから……」 「お前も甘いな……俺も他の奴のことを言えた義理じゃないが……小さくはなれない。俺の身体を担いで行けるならやってみればいい。無理だと思ったら……今後の為にも俺の肉でも食って慣れとくといい」 懇願するようなジュカインの提案を聞いてゼンはそう言葉を付け足した。 それを聞くなりジュカインはすぐに泣くのを止め、ゼンの身体を持ち上げようとしたが、そうやすやすとは持ち上がらない。 例えジュカインの方がゼンより強かったとしても、身体は一回り小さく、体重は倍近く違う。 それでもゼンの身体を背負い、なんとか持ち上げてみせた。 「止めて……ゼンさんを何処に連れて行くの!? 返して……返して!!」 ゼンがジュカインに背負われた事に気が付き、アカネが声を荒げてそう懇願する。 アカネから見ればジュカインがゼンを連れ去っているようにしか見えていなかった。 「アカネ……。これは最後の賭けだ。暫く経っても帰ってこなかったら俺は死んだと思え……。アカネ、アクアとタイラーを頼むぞ……」 少しずつその場所を離れていくゼンの背にアカネの悲痛な叫び声が聞こえてきたが、暫くする内に、その声も聞こえなくなった。 それは痛みのせいで失神したからか、それともジュカインが必死にゼンを運んでいるからかは分からない。 だが、意識が薄れていく中、ゼンは走馬灯のように不思議な記憶を思い出していた。 それはどうあっても思い出せなかった、人間だった頃のゼンが死ぬ切欠になったであろう日の出来事。 その日、ゼンはジムに挑んだが、上手くいかず負けてむしゃくしゃしていた時だった。 同じジムに挑戦し続けて半年以上が経っており、自らの限界が見えてしまったような気がしていた。 どうすればもっと強くなれるのか、今までずっと育ててきたパートナー達を手放し、新たに一から育てるべきなのか……そう思い悩むほどにはスランプに陥っていた。 そしてその日も川側の道路で流れる川を眺めながら、どうするべきなのかを本気で悩んでいた。 だがその度に育ててきたポケモン達との思い出と笑顔を思い出し、自分の中途半端さを悔いつつも、もう少しだけ頑張って育てることを選んだのだ。 そして振り返った時、道を渡るコリンクとパニック状態になっているのか、制御を失ったサイホーンが爆走してくるのが見えた。 どう見てもコリンクを救うことは間に合わない。 そう分かっていたはずなのに、身体は勝手に動いていた。 身が竦んで動けなくなったコリンクの身体を抱き上げて、庇い、ゼンが跳ね飛ばされたのだ。 『バカは死んでも治らない……ってのは本当らしな……。生まれ変わったのに……また同じような死に方をしてるんだから』 そしてゼンはまた、意識が途絶えた。 ---- どうやらゼンは一命を取り留めたらしく、ポケモンセンターで目を覚ました。 「良かったわね~無事で。背びれは残念だったけれど、それ以外は何も問題ないみたいね。外でずっとジュカインが待っているから、早く行ってあげなさい」 ジョーイさんにそう言われ、短くなった背びれを鏡で見せられた。 背中に入った大きな傷跡も残ってはいるが、手も足も尾も問題なく動かせたのは奇跡だろう。 ジョーイさんとハピナスに深々とお辞儀をしてゼンはポケモンセンターから出て、外で待っていると聞いたジュカインの姿を探したが、探すまでもなく扉の横に座り込んでいた。 「よう。まさか本当にポケモンセンターまで運んでくれるとは思ってなかった。一応礼は言っておこう」 ゼンが気さくに笑いながらそう話しかけると、ジュカインはボロボロと涙を流しながらその場に崩れていた。 聞いたところによると、ポケモンセンターに着いた時にはゼンは本当にギリギリの状態だったらしく、もしもあと一分でも遅れていれば今とは違う結果になっていたかもしれないと言っていたそうだ。 迎えに来ないトレーナーにドクターもジョーイさんも憤慨していたが、野生だと気付いてからはジュカインの事を褒めちぎっていたらしい。 それが返ってジュカインの心を傷付けていた。 自分が死なせかけたのに、自分で連れてきてまるで英雄のように褒め讃えられる。 今のジュカインにとってこれ以上はないという程の攻撃だっただろう。 それから目を覚ましたのは四日後のことだった。 最新鋭の設備が揃うポケモンセンターならば、どんな大怪我だろうと息があれば助けることが出来る。 その技術にゼンはただただ感心しつつ、感謝していたが、ジュカインの方はずっと表情が沈んだままだった。 「いつまでうじうじしてんだ。確かに殺されかけたが、お前が気合で運んでくれたんだろうが! 死んでないんだからもうそんな顔するなよ!」 「違う……全部、私のせいなんだ……」 そう言ってジュカインはゼンに涙を流しながら、一つずつ事の発端を話し始めた。 元のパートナーは高齢だったらしく、腰も悪くしていたため、自分がポケモンを連れていてもただポケモン達の自由を奪うだけだと判断し、ポケモン達をきちんと説得した上で野生に返したそうだ。 トレーナーの下で戦っていたジュカインはそれこそ、チームを引っ張るエースであり、トレーナーと共に多くの勝利を飾ってきた英雄だった。 その自負があったからこそ、野生に帰ってもジュカインはその誇りを捨てず、困っているポケモンを助けようと心に誓っていたらしい。 タイラーが言っていたような典型的なトレーナーに育てられて野生に帰ったポケモンであり、自分の強さに絶対の自信があったため、困っているポケモンを探しながら森を進んでいた。 そして出会ったのがゼンの住む森にいるナゾノクサだった。 「怖いガブリアスに友達のアカネちゃんが脅されてるの。僕もきのみを育てないと恐ろしい目に遭わせるって……ジュカインさん! 助けて!」 勘違いの溝はやはり埋まっておらず、遂にはアカネと子供達は悪いガブリアスに脅されている可哀想なポケモンだと捏造されてしまったらしく、それを聞いたジュカインは息を巻いていた。 絵に描いたような暴君がおり、か弱いポケモン達が虐げられている。 英雄である自分なら楽に救える! ……そう気が逸った。 「その結果、貴方を殺そうとしてしまった……。全て……私が……」 「あー……それは正直なところ、俺に半分以上非がある」 それを聞いてゼンは苦笑いを浮かべた後、自分のこれまでを話した。 森に移り住み、アカネ、アクア、タイラーの三匹を嫁として迎え、仲良くは暮らしていたものの、元々静かな森に大柄なポケモンが三匹も住み着き、森のポケモン達を脅かしたのは事実である事。 そのせめてもの償いとして森にきのみを還元することと、もしもの時は自分が森のポケモン達を守ることを約束しようとしていたが、食料が不足していたせいでその計画を焦っていた事を伝えた。 「だからまあ俺のせいだ。凶暴なポケモンであるはずのガブリアスがいきなり森に来たんだ。警戒するのは当たり前だ。俺が変な事を考えなきゃそもそもこんなことにはならなかった」 「だとしても! あの時せめて子供の言葉を鵜呑みにせず、きちんと調べていれば……!」 「ならそれでもしも俺が嘘を吐いたらどうする? 脅されてるポケモンなんて簡単に言葉を脅してる奴に合わせるぞ? それよりも先に覚えるのは力加減だろうけどな!」 そう言ってゼンは笑ってみせたが、ジュカインの方は全く気が晴れていない。 「私がもう少し落ち着いていれば、その背びれだって元通りになっていたはずだ……なのに……」 「命があっただけで充分だよ。そんなことよりも、どうするんだ? これから。その救済の旅をするにしても、野生で普通に生きていくにしても、命を奪う事には慣れておかないと生きていけないぞ?」 「何処にも行きません。こんなことで罪滅ぼしにはならないとは分かっているけれど……貴方の為に残りの命を使わせてくれ……」 「そこまでする必要はない」 「だったら……私の尾も切り落としてくれ」 「言っただろ? お前は甘い。野生で生きていくならいつでも死ぬ覚悟が必要だ。俺だってお前と戦った時、死ぬ覚悟をしてた。あのまま死んだとしても仕方がないと思ってた。俺は命を奪う覚悟を捨てた。だからこそいつか必ず殺されると覚悟もした。お前は俺ほど馬鹿じゃないはずだ。命を奪う覚悟と命を奪われる覚悟、どっちもしっかりと持て。そうすりゃ俺に尽くすなんて馬鹿な台詞は出てこない」 「でも……」 「でももだってもない! 今すぐにとは言わんさ。暫くは俺の縄張りで生活して、その間に少しずつ考えを変えていけばいい」 ゼンはそう言ってジュカインの肩を揺すったが、それでもジュカインは自責の念が強いのか、決して首を縦に振ろうとはしなかった。 一先ずそこで口論を続けても意味がないため、来た道をジュカインに案内してもらいながら帰路へと就いた。 街道を抜け、林へ入り、森の中へ中へと歩いてゆき、途中で日が暮れたため、適当な岩肌をくり抜いて一日そこで過ごすことにした。 「そういやまだ名前を聞いてなかったな。俺はゼン、あんたの名前は?」 「セップ……」 「セップか。いい名前だな」 ゼンはそう言ってセップの名を褒めることに始まり、なんとかセップを元気付けようと言葉を掛けたが、変わらずセップは沈んだままだった。 結局あまり二匹が会話をすることはなく、ゼンは寝息を立て始めたが、セップの方は眠れなかった。 ゼンの背中を見れば、自らが犯した罪が痕として残っており、その傷を見る度に寝ようとすると必ず悪夢を見るようになっていた。 ゼンはおろか傍らにいたアカネすら自らの刃が切り裂き、血の海が広がってゆく……。 事実、ゼンを切り裂いた刃はゼンへ向けたものではなく、自分へ吹きかけられた炎を払うために振り下ろしたものだった。 もしもあの時、ゼンが間に割って入らなければ……そう考えると、悪夢の中の血の海に沈むアカネの姿を思い出してしまう。 眠りたくても眠れなかった。 「眠れる時に眠っておけ。ここだって別のポケモンが来るかもしれないんだ。何をするにしても眠らないとできないし、考えることもできない」 いつから起きていたのか、ゼンが遠くを見つめ続けるセップを見てそう呟いた。 「……眠ると、貴方を切り殺してしまった夢を見る……。その度に目が覚めて……自分が恐ろしくて仕方がなくなるんだ……」 「こっちにこい」 見かねたゼンがそう言い、セップが言われた通りにゼンの傍に寄ると、そのまま背中を抱きしめた。 「俺は生きてる。目が覚めたら、背中には必ず俺が居る。安心して眠れ」 そう言ってゼンはまた寝息を立て始めた。 セップはその自分を包んでくれるゼンの腕を軽く掴み、目蓋を閉じた。 初めのうちは悪夢で飛び起きたが、その度自分をゼンが抱いていてくれる事と、寝息が聞こえている事を確認して、心を落ち着かせてもう一度眠りに就くというのを繰り返していたが、日が昇るまでには少しは眠れるようになっていたようだ。 その後残りの来た道を戻り、無事にゼンの住んでいる森に戻ってきたが、人里から遠く離れた地に移住してきたと思っていたら全速力で行けば一日も掛からない距離に街があったという事実にゼンはただただ驚いていた。 だが驚いたのはゼンだけではない。 「帰ってきた……ゼンさんが……帰ってきたぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」 真っ先にゼンの帰還に気が付いたのはアカネだった。 アカネの泣きじゃくる声でアクアとタイラーもゼンの存在に気が付き、同じようにゼンに駆け寄ってボロボロと涙を流していた。 みんなの感情が落ち着くまで一旦待ち、その後セップの事について話したが、当然ながら三匹はセップを同じ縄張りに置かせることに猛反対した。 一週間以上帰ってこなかった間、それこそ火が消えたように静かだった。 それほどまでに皆ゼンのことを慕っており、彼以外に番はいないと思えたからこそ、死を悟っても尚アカネから伝えられた遺言通りそこで子育てをつづけながらも、帰ってくる奇跡を待っていたほどなのだ。 結果奇跡が起き、元気なゼンの姿を見れて感極まり泣いてしまうほどだったというのに、その横にゼンを殺そうとした張本人が立っているどころか群れに招き入れるというのだから反対されても仕方がない。 だが当人も悪気があってやったわけではなく、そうして猛反対される中ただ静かに言葉に耐え続けるぐらいには猛省していることを理解してもらい、なんとかセップを群れに加えた。 「俺の縄張りにいる間に力の加減を教えるのと、食料……といってもきのみだが、それは確保する。心が落ち着いたらそのまま俺のコロニーでそのまま生活するか、野生で自分なりの生き方で生きていくか決めればいい」 「な……なら、私も貴方の番として生きます」 「え? もしかして……お前メスだったのか!?」 そこで漸く分かったのだが、なんとセップはメスだった。 ゼンどころか他の三匹も気付かないほどメスっ気がなかったが、どうも最近まで一線で戦い続けていた事が原因で戦い以外の事はからっきしだったらしく、鍛え抜かれた肉体とメスにしては低い声も相まって分からなかったようだ。 「今の私にできることはそれぐらいしか……」 「これに関してはアカネにも言っているが、一時の責任だとか罪の意識だとか、そういう後ろめたさでそういう大事なことを決めるな。心の底から『一緒にいたい』と思える奴が見つかった時にしな。今はまだ罪の意識が重いはずだ。今後のことはゆっくりと考えていけばいい」 そう言ってゼンはセップの頭を撫でた。 翌日からはアカネと共にセップとゼンも森のポケモン達の元へと出向き、先にアカネとセップにポケモン達の元へ行かせた。 件のガブリアスはアカネやいつも遊んでいる子供達の父親であり、セップからもそれは間違いないと証明できる事を伝えた上でゼンも皆の前に姿を現した。 当然その事実を聞いた後でもポケモン達は戦慄していたが、セップに成敗されて言葉足らずだった事を謝る体で話を進めた。 背びれと尾の怪我を見せ、反省した上で、今度はみんなで協力して森中にきのみを植えたい、という提案として本来の計画を進めることにしたのだ。 これを聞いて最初に猛反対したのはセップだった。 罪もない相手に大怪我をさせ、居もしない悪党を成敗した英雄などなりたくもなかったが、話を丸く治める為にここだけは話を合わせてもらう。 とりあえずそのおかげでゼンの家族が大所帯であることと、森のポケモン達の食料が尽きてしまわないようにするためにはもっときのみが潤沢に手に入るようにしないといけないことを伝えると、森のポケモン達も皆理解を示してくれた。 大人達に集まってもらい、ゼンがこれまでに蓄えていたきのみをそれぞれ持ってもらい、それぞれの住処の側に植えて周り、草タイプのポケモン達の協力を得てきのみの成長を促進させてゆく。 その日は挨拶も兼ねてだったため、軽く芽が出たのを確認して解散となる。 「悪いなセップ。お前が嫌がってることは分かってたが、森のポケモン達にしてみればお前は英雄なんだ」 「……分かってます」 「誰だって知らない事もあるし、間違うこともある。事実俺も森のポケモン達との付き合い方を間違ってたんだ。だったら次にやることは、同じ失敗を繰り返さない事だ。明日からは技を練習しよう」 そうゼンは優しく語りかけたが、セップの返事はなかった。 複雑な心境のまま、その日は眠りに就いたが、セップはまた悪夢にうなされ、飛び起きた。 それを見てゼンはすぐに道中でもそうしたように、ゼンを優しく抱きしめて寝かしつける。 翌日も、その翌日も……その更に翌日も……。 セップが悪夢にうなされなくなるのには数ヶ月を要したが、だからこそアクアやタイラーとも分かり合うことができた。 いつまたセップがゼンを襲うかと考えていたのも最初のうちだけで、毎日のように自分自身に恐怖する姿を見て、気に掛けてくれるようになったのだ。 元々野生で生きていたアクア達にセップの苦しみを心の底から理解することはできないが、それでも涙を流す度にゼンのように優しく抱きしめてやることはできる。 そうするうちに漸くセップは少しずつ明るさを取り戻していった。 きのみを育てて回る合間に技の微妙なコントロールも持ち前のバトルのセンスですぐに覚えたこともあり、漸く自分が誰かを不用意に傷付けてしまう不安が解消されたことも大きかっただろう。 それに加えゼンと共にいるアカネ、アクア、タイラーの面々が、皆どことなくゼンと似ていることや、少しでも心労を減らそうと笑いかけてくれるおかげで、皆の幸せが伝わってきた。 森のポケモン達も今までゼンを避けていたのが嘘のように、自分達からゼンの元を訪れ、色々な話をするようになったこともあって、後ろ向きな考えが少しずつ減っていったのだろう。 一番大きな心境の変化は、ゼンへの償いの気持ちで何かをしなければならないと考えていた部分が、単にゼンを喜ばせたいという考えに移り変わっていたところだろう。 しかしゼンに直接聞いてもセップの幸せを願うばかりで自分の願望を言わない。 「俺は充分幸せだよ。強いて言うなら、アカネとお前がいい番を見つけてくれたらもっと幸せかな?」 「だから! 私はゼンさんの番なんですって!」 「絶対に子供が欲しくなるからやめときな」 そう言って横でゼンの言葉にヘソを曲げるアカネだったが、冗談交じりのゼンと違ってアカネの方は本気でそう言っていることをセップはメスの勘とでもいうのか、自分自身ゼンの事を心の底から好きになっていたからか、感じ取っていた。 そこでアカネが子供達と森へ遊びに出掛けた時に思い切って聞いてみた。 「アカネさん。こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、アカネさんにとってゼンさんとの間の子供は必要ですか?」 「必要ないですね。だってここにゼンさんの子供達なら沢山居ますから。例え子供が産めなかったとしても、私と同じようにゼンさんを愛してくれるアクアさんとタイラーさんの子供がいますから、私はその子供達を自分の子供と同じぐらい大切にしてますよ」 それを聞いてアカネは立ち止まり、少し遠くを見つめた後、笑顔で振り返ってそう答えた。 アカネの顔を見てセップも同じように微笑んだ。 「でしたら……私も、ゼンさんを愛してもいいですか?」 「どうして私に聞くんですか?」 「子供は確かに産めないかもしれないですけど、進化すればまぐわうことぐらいはできるはずですし……もしアカネさんが嫌でなければ、一つ提案があるんです」 そう言ってセップはアカネに耳打ちすると、アカネは少しだけ驚いた表情をしたが、同時にあまり見せない悪い笑顔を見せた。 アカネはセップの提案を快諾し、住処へ帰るとアカネとセップはゼンを呼び出した。 「ゼンさん。今度こそ決めました。私もゼンさんの番になりたいです」 「そうか。分かった。じゃあこれからもよろしくな。セップ」 セップの告白を聞いたゼンは断ることなく、笑顔で受け入れた。 その言葉に陰りが見えなかったからこそ、セップの本当の想いなのだと分かったからだ。 「ゼンさん。私からも」 「ん? どうした?」 「私にはゼンさんとの間の子供は要らないです。アクアさんやタイラーさんとゼンさんの子供達が私にとっての子供なので」 アカネのその言葉を聞いたゼンは少しだけ微笑み、真剣な表情でアカネの顔を見つめ直した。 「お前ももう、立派に大人になったんだな」 「ええ。ゼンさんがセップさんに連れられて去っていったあの時、確かに悲しみに暮れました。でもそれ以上に、私とアクアさんとタイラーさんとで子供達を立派に育てないといけないと思ったんです」 「娘みたいなもんだと思ってたんだけどなぁ……そう言われちゃあ仕方ないか」 少しだけゼンは照れ隠しをするように言葉をはぐらかしたが、それでもアカネの真剣な思いをきちんと受け止めた。 そしてそれに重ねて、ゼンは今までずっと黙っていたアカネの進化に必要な条件を伝えた。 「え!? じゃあその炎の石ってのが無いと進化できないんですか!? というかそれさえあればいつでも進化できたってことですか!?」 「まあそうだな。確かに今まで黙ってて悪かったが、身体だけ大きくなっても中身が伴ってなきゃ意味が無い。元からお前の心が充分に成長したら教えるつもりだったよ」 それを聞いてアカネはまた毛を逆立てて怒っていたが、ゼンは平謝りしつつ、アカネの精神的な成長を今一度喜んでいた。 翌日、ゼンは森へは出向かず、アカネのための炎の石を取りに行くため、少し離れたところにある山脈へと向かった。 この辺りは森を見つける為に散策していたこともあり、その山脈には鉱石が豊富なのを事前に知っていたゼンは炎の石もあることを願って探しに来たのである。 この山脈には大柄で力の強いポケモンも多いが、ガブリアスにとっては非常に居心地のよい場所が多く、大抵の場合は鉱石なんかを食料にしていることが多いためあまりいざこざが起きることはなかったが、それでもサイドンのようなポケモンもいるため、変に縄張り争いの火種を作りたくなくて住む事を断念した土地でもある。 まさかそんな少々勿体無いと考えていた土地に再び足を運ぶことになるとは思っていなかったこともあり、その光景を見て思うのは何故ここにしなかったのかという本能からくる後悔だった。 思わず岩肌に身体を擦りつけてしまいたくなるが、別に縄張りでもない土地にマーキングするのは他のポケモン達の迷惑になるためなんとか堪えていた。 暗い洞窟内でも露出した鉱石達が光を受けて反射していることもあり、視界の悪い場所でも見通せる目のおかげで探し物自体には困らなかった。 しかし残念ながら洞窟内にはそれらしき鉱石は見当たらなかったため、今度は外の岩場を探す。 基本的には岩タイプのポケモン達が食べた鉱石の残骸である石ころばかりだが、逆に彼等の食料にならない鉱石はそのまま放置されていることがある。 変わらずの石はその典型だが、今欲しいのは変わらずどころか変化させてくれる石だ。 「おーい!そこのガブリアス。何か探してるのかー?」 岩をめくっていると、急に知らない声が聞こえてきた。 聞く限りは敵意は感じられないが、そもそもゼンにこの辺りに知り合いはいないため、少々不思議に思いながら振り返ると、珍妙な集団がそこにいた。 フライゴンを先頭にし、ミミロップ、ファイアロー、チラチーノ、エンニュート、タブンネというなんの纏まりもない集団となっている。 「ん? あ、ああ。炎の石を探してるだけだ」 「炎の石? アンタが使うのか?」 「俺が使う訳無いだろ。俺の番に必要なんだよ」 それを聞くとフライゴンは口笛を吹いて冷やかしてきた。 「いいじゃん! だったら折角だし俺達も手伝うか!」 「え? なんでだ?」 「一人で探しに来てるんだろ? だったらすぐに見つけて帰ってやった方が嬉しいだろうしね!」 そう言ってゼンが何かを言うよりも先に後ろにいたポケモン達もさっと岩山の中に散り散りになり、炎の石を探すのを手伝ってくれた。 あるかどうかも分かっていない状態だったが、手分けして探してくれたこともあり日が落ちる前には炎の石が見つかった。 「炎の石って確かこれだろ?」 「おお、確かにこれだ! よく分かったな。助かるよ」 「礼なら一宿一飯で!」 「成程、ちゃっかりしてるというかしっかりしてるというか。まあいいよ。住んでる所までは数日掛かると思うが大丈夫か?」 「え? 飛ばないのか?」 「この辺りはガブリアスなんか飛ばない土地だからな。無駄に他のポケモンを驚かせたくないし徒歩だよ」 そう言ってゼンは念のためフライゴン達に自分の中でのルール上、空は飛ばないようにしている事を伝えると、意外にも快諾してくれた。 「そういや、お前ら元人間のポケモンか? 炎の石の事も知ってたし、ガブリアスを見ても臆しもしなけりゃ喧嘩腰にもならないし、どう見ても関係性が見当たらないし……ん?」 「確かにご主人はいるけど……どうしたの? なんか顔に付いてる?」 その面々の統一性のなさを最初はなんとも思わなかったが、一つだけ自分の知っている共通点と同じ点があることを思い出し、しっかりと顔を見直す。 「いや……そんなまさかな……」 「どうしたの? さっきから険しい顔をしてブツブツと……」 「お前もしかして……フリューって名前だったりしないか?」 「えっ!? なんで知ってるの?」 急に自分の名前を初対面のガブリアスに言い当てられて、そのフライゴンは心底びっくりした表情を浮かべていたが、それ以上に驚いたのは間違いなくゼンの方だっただろう。 名前を知っているもなにも、彼がそのポケモン達の名付け親なのだから、知らないはずがない。 「信じられないと思うけど、俺がゼンなんだ。気が付いたらポケモンに生まれ変わってたんだよ」 まさかアカネのための炎の石を取りに来た先で、人間だった頃のパートナーのポケモン達に出会うと思っておらず、互いに驚愕していた。 フリューを含む元のパートナー達は最初こそ半信半疑でゼンの話を聞いていたが、人間だった時のゼンしか知り得ない情報を次々と言っていくと、驚いた表情を浮かべてはいたが信じてくれたらしく、とても嬉しそうにしていた。 人間だった時のゼンが死んだ時、フリュー達は急に全員モンスターボールから外に出されたが、周囲にはゼンの姿が見当たらないという状況に陥っていたようだ。 死ぬ前にあったはずのゼンの身体は何処にもなく、困惑した様子のフリュー達とコリンクだけがその場に残されていたらしい。 コリンクの方はすぐにその場を去ったが、フリュー達は呼び出したはずのゼンをそのまま暫く待ったが、日が暮れて次の日になっても当然ながら現れることはなかった。 「それで僕達はご主人を探して、みんなで旅をしながらここまできたんだけど……いやまさかポケモンになってただなんて……」 「それも驚くかもしれないけど、正直お前等がみんなでずっと俺の事を探してくれてた事の方が驚きだよ……。言っちゃなんだけど、捨てられた~とか思わなかったのか?」 「思うわけ無いでしょ! ご主人がそんなことする人じゃないって知ってるからね!」 フリューも他の皆も互いに顔を見合わせて言うほどには信頼していたことも、あれから何年経ったのかも分からないほどの時間が流れていたのに即答してくれたことも、嬉しかった。 気が付けばゼンの瞳からは大粒の涙が流れていたが、いじられたのは言うまでもないだろう。 帰りはゼンがいなくなってからのフリュー達の話を聞きながらだったため、行きの時よりも足取りは軽かった。 最初は街の中を探して回り、街の中にいないと悟ると、次にこれまでに来た道を戻ってゆき……それでも見つからなかったため全ての街を周り、丁度人のいない場所まで足を運んだところだったそうだ。 移動は空を飛べるフリューとファイアローのアロウがミミロップのミー、チラチーノのチッチ、エンニュートのエニー、タブンネのモモを乗せて移動していたため然程時間はかからなかったらしい。 「死んだとか思わなかったのか?」 「薄々そんな気はしてたよ。でもみんなで旅をするのは楽しかったし、ひょっとしたら何処かにまだいるんじゃないか……って、そう信じて旅してた。そのおかげで生まれ変わったご主人にもこうして会えたわけだし、結果オーライだよ」 「うーん……そのご主人っての止めないか? 今はお互いポケモン同士なわけだし、せめて友人とかにしてもらえないか?」 「僕達からすれば姿形が変わってもご主人はご主人だよ」 ゼンの問いに対して、フリューはそう答えた。 人間の頃ならば、ポケモン達が自分の事をなんと呼んでいるのかなど分からなかったから気にも留めなかったが、ポケモン同士言葉が分かる今、『ご主人』などと呼ばれると少々気恥ずかしい。 「あら、私は違うわよ? 折角ご主人がガブリアスになったんだもの。私はご主人の奥さんの座を狙ってるわよ」 「既に嫁も子供もわんさといるよ……これ以上大所帯にしないでくれ……」 「あら! 人間の頃より随分と大胆じゃない」 エニーはそう言って怪しく微笑んでみせたが、恐らく本気だろう。 一つ問題があるとすれば、ゼンからすると彼等は手塩にかけて育てたポケモンであるため、どちらかというと家族のような大切なパートナーだったが、ポケモン同士になりその枠が取り払われたことでそういった関係になっていくのはなんとなく気まずかった。 だが相手はあのエンニュートだ。 トレーナーがいるならまだしも、野生のガブリアスがエンニュートの本気の誘惑に対抗できるはずもないため、必要なのは克己心よりも番として迎える覚悟だろう。 そんな会話をする内にゼンの住処へと戻ってきたが、随分と大人数で戻ってきたことに驚きを通り越して呆れていた。 「ゼン……住処から離れると絶対に番を連れ帰ってこないと駄目ってわけじゃないのよ?」 「言われなくても分かってるよ……。というかここまで来ると最早呪いだよ」 少々同情した様子のアクアにそう声を掛けられたが、元パートナーを邪険にするわけにも行かず、なんとも珍妙な群れが完成してしまった。 そしてもう毎度の事となったが、アカネが不貞腐れていたのは言うまでもない。 ---- ゼンの元パートナー達には今のゼンの番達を、番達には元パートナーで、今日までずっと自分を探してくれていたことを、気の遠くなるような自分が何故か生まれ変わったことや、人間だった頃の事も含めて全て話した。 結局アカネの進化をその日の内に済ませることはできず、一気に人数が増えたことによるごたごたを先に片付けるのが先になり、進化ができたのはそれから一週間も経ってからだった。 「これが炎の石だ。昔聞いた話だと、進化したいと強く念じながら触れるといいらしい。決心したら触れてくれ」 そう言ってゼンはアカネの前に炎の石を置いた。 アカネはゼンと目を合わせて少しだけ見つめ合うと、小さく頷いて前足で炎の石に触れた。 その瞬間眩い光がアカネの身体を包み込み、光が次第に大きくなり、キュウコンの形を象る。 光が弾けるとアカネは目蓋を開き、自分の身体が大きくなったことを確認してから今一度ゼンの方へと向き直した。 「これで、私もゼンさんの番ですよね?」 「ああ。進化おめでとう。そして、これからもよろしくな」 そう言ってゼンはアカネの前足を取り、そっと口づけをした。 森のポケモン達やアクア達、フリュー達に祝福されながら、アカネの進化は無事に終えた。 そしてその日の夜、ついにアカネはセップと共にゼンを連れ出して、川傍の開けた場所へと向かった。 「そういえばなんでセップもついてきてるんだ?」 「アカネさんと約束してたんです。進化したら二人でゼンさんと交尾しようって」 それを聞いてゼンは少々微妙な表情を浮かべていたが、当の二匹がノリノリなためゼンが横から口を挟むのも違う気がして喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。 いつの間にそんなに仲良くなったのか知らなかったが、座り込んだゼンを前に二匹は普段ですら見せないようなテンションでその時を待っている様子だった。 既に二匹は恍惚とした表情を浮かべており、我先にとゼンの股座へと顔を突っ込んでくる。 いつもの二倍舌で舐められるだけではなく、アカネの方が体温が高いのか舌も熱く、セップの方が舌が長いため感覚の違う快感に思わず先程までの困惑も忘れて自慢の二股槍が突き出した。 最初にセップはゼンに二本のペニスがあるのを見ていたため、二匹で奉仕することを提案したのだが、理由はもう一つある。 片方は熱く、柔らかな毛に覆われた前足がふんわりとした快感を与え、もう片方は長い舌が絡みつきながら少しひんやりとした手がゼンの竿を擦りつける。 二匹で同時に先端を咥え、舌を使って先走りを舐めるが、普段から慣れているアカネの口は前よりも大きくなったことでさらに深く咥え込み、熱い刺激を与え、セップの拙くも喉奥まで使った全力の奉仕と絡みつく舌が恐ろしい程の快感を与える。 口内には既にゼンの先走りが溢れており、挿入するには十分だろう。 アカネの方はそれを見慣れているためズルリと口から離し、にやりと微笑んでから身体を反転させた。 セップの方も同じように遅れてゼンの方に尾を持ち上げて大事なところを見せつける。 尻尾の大きな二匹が尾を持ち上げてこちらに懇願するように尻を向けている様は正しく絶景だが、そのまま後ろから覆い被さるには二匹とも少々身体が小さすぎる。 「やっぱり挿入するのも二匹いっぺんにか?」 「もちろん!」 「お願いします」 念の為に確認したが、やはり二匹の返事は変わらない。 小さく溜息を吐いてからゼンはアカネの下半身を持ち上げ、口元へと近付ける。 ロコンの時とは違い、ぷっくりと膨れた恥肉はゼンと同じタイプのポケモンが持たないメスの魅力だ。 マシュマロのような弾力があり、舌が触れると中から熱い肉汁が溢れ出てくる。 舌を使って濡らすべきかと思ったが、その必要はないらしく、早くいれて欲しいとでも言うようにアカネは勝手にゼンのペニスを舐めていた。 「それじゃ……挿れるぞ? 無理そうだったらすぐに止めるからな?」 くるりと今一度身体を反転させて、アカネの大きくなった体を抱き上げながらゼンはそう言った。 いくらロコンの時より大きくなったといっても、まだ体の大きさはゼンの半分ほどしかない。 ヴァギナの大きさも明らかにゼンのモノに比べて小さく、確実に全体を挿入することは不可能だろう。 それでもアカネは静かに頷き、体をゼンに預けた。 しっかりと体を抱き上げ、アカネの豪華な尻尾で見えない下半身に意識を集中させ、アカネの入り口を探す。 ふわふわとした感覚の中に一箇所だけ濡れた場所を見つけ、狙いを定めて漸く彼女の中へとズプリと先端が沈んでいった。 アカネの中は非常に熱く、これまでに経験したことのない熱にゼンのモノがアカネの中で少し暴れたが、アカネの方は特に苦しそうな表情は見せておらず、嬌声を上げていた。 そのままゆっくりと沈めてゆき、三分の一程が彼女の中へ沈み込んだところでアカネが体を硬直させ始めたため、しっかりをそこで抱きとめた。 口には出していなかったがアカネは呼吸を荒げていたため、やはりこの辺りが限界だろう。 「やっと……やっとゼンさんと一つになれた……」 そう言ってアカネは涙を浮かべていたが、決してそれは痛みなどではない。 アカネにとっての悲願が今日、漸く叶ったのだ。 暫くはそのままアカネが落ち着くまで抱き抱えていたが、少し余裕が生まれたのかアカネは自分から催促するように腰を動かした。 ぐちゅりと中がうねり、溶鉱炉のように熱いアカネの膣内がゼンの槍を溶かそうとする。 今までに味わったことのないタイプの快楽にゼンも思わず喘ぎ声を漏らしていたが、ある程度余裕が生まれてきたのかアカネがゼンの口に自らの前足を当てて動きを止めるように促した。 「ごめんなさいセップさん。随分と待たせたけど私はもう大丈夫よ。一緒にゼンさんを感じましょう」 そう言って少し離れたところで見守っていたセップを招いた。 「マジでやるのか? ただでさえ今慣らしたばっかりだぞ?」 「もちろん続けますよ。私とセップさんで相談して決めたことなんですから」 「正直、口でされてた段階で結構感覚の違いでヤバかったんだ。挿れたら最悪理性が吹っ飛びそうで俺が怖いんだよ」 「その時は私達が気を付けますから……。それに私ではゼンさんのを全部受け入れることはできません。だから私とアカネさん、二人で受け止めれば私はアカネさんの子供も擬似的に産んだ事にできるような気がしたんです……」 そう言ってゼンの頬を舐めながらセップは片足を上げてゼンのモノを自分のスリットに宛てがった。 ヌプリと滑らかな感覚がゼンのモノを包み、潤沢な愛液が一切の引っ掛かりを生まずに飲み込んでゆく。 グプリと根元まで飲み込むと足を下ろしてアカネの体の下側に回してゼンの足で固定し、深く挿入されすぎないようにストッパーにした。 そしてアカネとセップは片腕をゼンの首に回し、もう一方でお互いの体を抱き合って、二匹共気持ちよくなれるように体を寄せ合った。 この時点でゼンは限界が近かった。 片方は非常にキツく、今までに経験したこともない熱さでゼンを包み込み、もう片方は程よいキツさだが、鍛え抜かれた肉体が呼吸する度に全体を揉み上げるように締め付けてくる最高の心地よさを与えてくる。 片方ずつでも十分に気持ちが良いのに、それを同時に味わわされているのだ。 その快感はとてもではないが口では言い表せない。 ゼンが珍しく一切動かしていないのに鼻息を荒くしており、体を動かすことができなくなっていたのを見て、アカネとセップはお互いに体を動かし始めた。 「ま、待ってくれ……!」 ゼンの言葉など意に介さず、二匹は互いに体を動かしてゼンのモノを愉しみ始めた。 グチュグチュと二匹分の水音と嬌声が聞こえ、互いにバラバラに体を動かすせいでギリギリだったゼンのモノはあっという間に限界を迎え、びゅくりという音が聞こえるほどの勢いで二匹の中へ精を解き放っていった。 あっという間に果てたが、異次元の快感にその射精は止めどなく続き、あっという間に二匹の胎内を埋め尽くして外へと溢れ出した。 「まだ数回しか動かしてないのに……そんなに気持ちよかったですか?」 アカネが意地悪そうにそう言ってクスクスと笑ったが、そのおかげでゼンの理性が振り切れた。 ゼンはアカネの体を固定していた腕を離して、逆にアカネとセップの体をガッチリと固定する。 「ああ、びっくりするほど気持ちよかったよ……。だから俺が満足するまで付き合ってもらうからな?」 獲物を見るような目で見つめて舌舐りし、抜けそうなほど二匹の中からペニスを引き抜くとバチュン! と音がするほど深く突き込んだ。 溢れる程の精液のおかげで滑らかになっていた分、二匹にはあまりダメージは入っていなかったが、最奥の大事な部分に先端が届くほどに一気に突き込まれたことによる快感は凄まじいものだった。 「ま、待って……」 凶暴な一突きにセップの方が先に身の危険を感じて止めようとしたが、その言葉が聞こえていたのかそれとも無視したのか、そのままグチュグチュと大きな音を立てて二匹をしたから突き上げてゆく。 奥の奥を先端がなぞり、中で動くことで彼女達にも凄まじい快感を与えていたが、当然ゼンの方も凄まじい快感が襲いかかっていた。 襲いかかる射精感を堪える事なく、無尽蔵な精力で次々と彼女達の中に精液を継ぎ足しながら、延々と交尾を続けていた。 ゼンが意識を取り戻したのはそれから数時間後の事だった。 全身を白濁液に染め、呼吸する度に膣から精液を溢れさせる二匹が地に倒れ伏し、その二匹の前でゼンも同じように舌を出して呼吸をするほどに疲れきっていた。 「マ……マジで悪かった……大丈夫か?」 「大丈夫ですよ……。でもまさか普段優しいゼンさんが、交尾の時だけはこんなに凶暴になるとは思いませんでした」 「流石はガブリアス……ってところなんですかね」 そう言ってゼンの心配を他所に、二匹は軽口を叩いてみせたのを見て、ゼンも安心して脱力した。 ---- 全てが落ち着いた頃、エニーは宣言通りゼンの番となり、元のパートナー達もアカネのように種族や性別上違うが結局はゼンと共に居たいとの事で家族となった。 森のポケモン達とも仲良くなったのが切欠で結局森全体がゼンの縄張りのようになってしまったが、それはそれで構わない。 結果的にゼンが元々いたコロニーのような大規模なものにはなってしまったが、争いのない平和なコロニーになったため、それはそれで結果オーライだろう。 今も何処かにその珍妙なポケモン達の住む森があるそうだ。 ---- *あとがき [#7GdXubW] 今更すぎますが、私が書きました! 実はこの作品、まだ話としては半分なので残り部分を更新してから作者名を公開する予定でしたが、そのまま忘れて放置してしまっていたのでとりあえず退路を断つためにも宣言しておきます! 大会の作品を読んでいただいた方、感想を書いてくださった方、ありがとうございました! 残りの分、更新お待ちください! 以下大会コメント返信 とてもよかったです >>ありがとうございます! 1票! >>ありがとうございます! ゼンさんの有り余る漢気に惚れたので一票 >>ゼンさんを気に入っていただけたようでありがたい次第です! ポケモン版異世界転生ハーレムもの……なのでしょうが、野生世界の描写やキャラがとても活き活きしていて最高でした。 私だけでなく、wikiにいる人は憧れちゃいますよね、こんな生活……本当に好き。 エントリーコメントの通り、ゼンさんマジでいい人で、だからこそ理想郷のような世界が描けるんでしょうね。 読んでいてとても気持ち良く、それでいてみんなの行為もエッチもえっちでそそりました。 当時のパーティメンバーにも再び出会えたのは、感動しましたね……助けたコリンクにも、この後出会ったりするんじゃないかと想像が膨らみます。 5万字以上あるにも関わらずサッと読めてしまい、続きが気になってしまうくらい夢中になれた作品でした。 素敵な作品をありがとうございました! >>そうですね。所謂異世界転生ハーレムものですねw 続きはすぐに書けるとは約束できない状況ですので気長にお待ちください! ---- #pcomment(コメント/前因巡り巡って,10,below);