[[ヤシの実]] めちゃくちゃ時間掛かったけど久しぶりの投稿です 未完成故に1/2とタイトルの後に付けさせてもらいました。(12/10/15) 長い道のりを超えてようやく完成させました。すっごい疲れた><(13/01/06) *初めての愛 [#d51e33b9] 幸せとは、一体何処からやってくるのだろうか。 生きていると何故かしら本能的にそれを求めたがる。人と言う知的生物のみならず、自然界で生きる生物にとってもそれは例外ではない。 一言に幸せと言っても、その種類は語り尽くせない程存在する。単純に一つの意味ではなくて、生きる者によって様々だ。 美味な物を食べて空腹を満たした時。自信の持つ価値のある物を手にしている時。不安の無い安全な暮らしに守られている時。他者の暖かい肌からぬくもりを感じている時。誰より優位に立っている時。愛する者の愛情を感じている時。 また、苦労の末に達成感を得た時。物理的な物や他人を支配している時。他者と愉快な感情を共有している時。異性と性の快楽を感じている時、死に際からの生存した時など、上げていくときりがない。 それらを幸せと呼ぶとするならば、幸せの正体とは欲求を満たした時の湧き上がる感情と言う事になる。欲求は生物の持つ、生きる上での絶対的な感情。何時いかなる場合でも自然的と沸き起こり、本能的に動く為の原動力となる。欲求を満たした時に、生物は初めて幸せと言う物を体感するのだろう。 また、苦労の末に達成感を得た時。物理的な物や他人を支配している時。他者と愉快な感情を共有している時。異性と性の快楽を感じている時、死に際からの生存した時など、挙げていくときりがない。 それらを幸せと呼ぶとするならば、幸せの正体とは欲求を満たした時の湧き上がる感情と言う事になる。欲求は生物の持つ、生きる上での絶対的な感情。何時いかなる場合でも自然と沸き起こり、本能的に動く為の原動力となる。欲求を満たした時に、生物は初めて幸せと言う物を体感するのだろう。 ならば、不幸はその逆と言える。欲求が叶えられなと分かった時に生物は本能的に不満、不安、苛立ちを覚え、不快感を示す。満たされれなかった心がぽっかりと大きな穴を開け、そこから不幸が生まれてくるのだ。 誰だって、不幸になんてなりたくはない。生を授かって生まれてきからには、かならずしも幸せになりたいと考える。 しかし、幸せとは相手を選ぶのだろうか、神様と言う存在は、理不尽にも全ての生き物達に対し、平等に幸せを与えてはくれない。この世は勝ち組と負け組みが存在する。 主に言う勝ち組とは、恵まれて居る者は周りから守られていて、大した苦労もなしに食べて、寝て、愛されて、温もりに包まれて、何不自由の無い安定な日々を充実に過す幸せ者。 そして、恵まれなかった負け犬と呼ばれる者は、苦労の末に僅かな食い物しか口に出来ず、明日の食事も約束されない環境の中で、日々ひもじい生活を強いられる、幸せから取り残されたはぐれ者。 だが時として、二極に分かれた立場が逆転する時もある。 運命の赤い糸と呼ばれる形の無い紐が、幸福に見放された空虚な人生をおくる者に光を照らし、暗黒の闇から救われるのだ。 闇の中で過してきた一匹の兎が見つけたのだ。ずっと呪い続けてきた己の運命と絶望しかなかった人生に転機をもたらしてくれる存在、同じ形で生まれた者どうしでありながら天と地ほどの差のある暮らしの者に。 そして、ついに幸せを運ぶ青い鳥をこの手で掴み取る事が出来たのだ。だから決して逃してはいけない、形無き幸せを実現させるが為に兎は硬く誓った。 どんな手段を使っても構わない。例え、相手の人生を生贄に捧げ、恨まれる事になっても、この身に罰が降り注ぐような罪を犯すことになろうとも、目的の為ならば全力を尽くすまでだ。 幸せを望むのであれば、決して他人に期待してはいけない。自分の手で掴み取らなければならないのだ。たとえ汚れきってしまった、この手でも…… 不気味と思えるほど無音で空虚で広々しい空間と、ごつごつした灰色の岩がずっと先まで続くこの光景。 若干な暗さにも目がすっかり慣れてしまい、今では見飽きるほど全体の光景がはっきりと見渡せる。何時までも変わる事もなく、すでにかなりの時が回ったと言うのに…… 暗くて、寂しい場所に置かれ、その心は本格的に太陽の日差しと逸れてしまったある人間への愛情に飢えきっていた…… 寝ても覚めても、生気の失われた瞳に映し出される同じ後景。すっかり時間の感覚が麻痺していた。 せめて、外が今は昼なのか夜なのかだけでも知りたい。少し歩く事さえ出来れば、この拷問のような空虚な場所から開放されるのに。 まるでその辺に転がっている石ころのように微動だ出来ず、僅かな気力を振り絞って立ち上がる事さえ、今は叶わない。 そんな無気力に心を覆われてしまった哀れな雄のルカリオ、ラルカにとって唯一許されている事と言えば、今一番に会いたくて愛おしい者達の顔を思い浮かべ、今どうしてるかなと考える事だけであった。 「………………」 自分の吐く息さえもその耳に入ることはなく、まるで死んでいるかのように動かないでいる。 首を繋ぐ、忌々しい鎖付きの首輪と手錠が自由を奪っているのだ。あまりにも頑丈で、まだレベルも力も至らないラルカに抜け出す術はなかった。 それでも過去に開放されたいと懸命に抗いはした、その分だけ体を傷つけ、首周りと両手に痛々しい痣を作り続けた。その拘束具も、ラルカが抵抗した分だけ所々金属の部分が欠けているが、そんなものは微々たる物で拘束具としての役目は健全であった。 次第に無駄だと頭の中で考えるようになり、抗う気力を失わせていた。今ではもう、立ち上がる体力も惜しむように硬い岩の上で座ったままだ。 おかげで本来なら発育の良かったはずの全身は、見る影も無くなるほどにまで痩せこけてしまっていた。だが唯一衰えること無く、むしろ急成長する部分がある。それは―― 「はぁい、良い子にしてたかしら?」 無音の世界を破るようなご機嫌そうな雌の声が響いた。魂の抜けきったラルカはその声に反応する事もなく空を見続ける。 「うん、その様子だともう馬鹿げた考えはしなくなったようね。ウフフ……」 雌の声は勝手に納得したような口調で言い、足音を立てながら近づいてきた。そこでラルカはようやく首を僅かに上げ、声の主に視線を向ける。 つま先から膝にかけてスラリと伸びた長い薄色の足、そこから上にかけてムッチリとした茶毛のふともも、一目しただけで見惚れてしまいそうな美脚だ。それを魅せ付けるかのように交差させる。それが、まず最初に目に付いた。 その次に、曲線を描いたようにしまったくびれに目移りする。程よい脂肪の付き具合がしなやかな足と見事に合っていて、魅力を感じさせる。そして柔らかい毛で覆われた両腕を腰部に当て、セクシーさを強調している。 そこから上に行くと、スリムなボディを覆す物がある。そこだけ余分な脂肪を集中させてたかのように飛び出た胸が見事な丸みを作り、雌の象徴である事を主張している。人間の女性と比べても劣りのしない。 反則と言わざるえないスタイルを前に、生気の失った瞳で全体を見終えた後、視線は声の主の顔を向ける。 「すっかりやつれちゃっているわね。もう少し実のある物でも食べさせた方がよかったかしらね」 やつれ気味なラルカを見て、美形な雌のミミロップ、ミミは大して困った様子も見せずにうーんと呻って首を捻り、腰まで届く手入れのされた長い耳を揺らす。 「やっぱりさ、オボンみたいな栄養の沢山あるものじゃないとダメみたいね。たっぷり食べて、いっぱい性をつけさせないとね。うふふふふ」 可愛らしく、無邪気そうに笑むミミだが、ラルカはその笑顔を見たとたんに人形みたいに不変だった表情にしわを作り、生気の無い瞳を僅かにきつくさせる。そして掠れる声で言った。 「……ふざけるな……!」 周りに雑音があれば掻き消されそうな低い声だが、静寂な洞窟内では十分すぎるほどミミに届いた。彼女はラルカの憎々しげな声に表情一つ変えること無く、肩で溜め息を吐く。 「あら、オボンの実は嫌いかしら? けど好き嫌いはあまり感心はしないわね。ラルカにはもっと性をつけてくれないとアタシが困るもの」 「そう言う事を言ってるように見えるのかよ……!」 やつれきった顔に怒りの感情を浮かばせる。しかしミミは聞いていないのか、勝手に続ける。 「まぁリクエストがあるなら特別に答えてもいいけどね。なにせあなたにはもっともっと頑張ってもらわないといけないんだから、アタシの為にね……」 「……っ!」 深い意味の篭った言葉を前に、ラルカは顔をきつくさせ、冗談じゃないとそっぽを向く。 対するミミは子供じみた態度だと呆れてクスクスと笑った。そしてゆっくりと膝を折ってしゃがみ、ラルカと同じ目線で向き合う。 「何がいいかしら、木の実じゃダメなら、もっと別の物が食べたいとかあるんじゃないの、例えばさ、女の子の体とか……」 そこでラルカはキッと目つきを鋭くさせ、まっすぐミミの顔を睨む。しかしミミは微塵の恐れる様子も見せず、余裕の笑みを浮かばせる。逆に厭らしい眼差しで返し、挑発するかのように両手で腕組し、わざとらしく胸を寄せ上げて魅力さを強調させた。 「あら、怖い顔なんかしちゃって。こんな所にずっといるから、飢えていてイライラしてるんでしょ」 魅惑的な腰を浮かし、卑猥に寄せられた胸の脂肪を目の前に運んでくる。ラルカは鼓動が早鐘を打つのを感じた。卑猥過ぎるにも程がある雌の果実に恐れを感じ、逃げるように身を引かせる。 「うふ、照れちゃってさ。子供みたいね」 雌の武器を両手で持ってミミは怯える雄を追いかける。誘惑の元となる卑猥な果実の迫力に気圧されながら、やがて背後にある岩壁にぶつかった。 「……くっ!」 「本当は今すぐにでもむしゃぶりつきたいんでしょ……ね?」 とろけそうな甘い言葉に誘惑され、ラルカは顔の芯から熱が篭りそうな感覚になる。ミミの特性であるメロメロボディのせいであると信じたい。 彼女の言うとおり、その魅惑的に膨らんだ胸の誘惑に乗ってしまいたい。柔らかな脂肪の海に埋もれてみたい。生唾を飲み込み、その後から口の中が急激に渇きを覚える。だが、 「そんなものいい加減食い飽きてるんだよ……それも好きでもねぇのに無理やり食わせやがって、腹を下してしてしまいそうだ!」 こちとら負けじと挑発し返す。口元を強引にニマッと吊り上げて侮蔑な視線を叩きつける。 「あらっ、以外にも草食系なのね、若い雄が勿体無いわ。それとも他に好みでもあるのかしら?」 「そうだね、俺はおしとやかなのが好きなんでね。アンタには縁のない話かもしれないけど!」 続けざまにもう一度皮肉を叩きつけたが、それでも彼女の笑みは崩れず、まるで程度の低い子供の悪口を相手にしているかのように微塵も効いた様子は伺えなかった。 「へぇ、ラルカにも好みとかあったんだ。でもそれって本当かしらぁ?」 「あぁ、本当だよ。それが何だって言うんだよ!」 ミミは首輪で繋がれた首元に細い腕を伸ばし、艶かしい手つきで頬を撫でる。目線を合わせ、懸命に皮肉るラルカを小馬鹿にするような目で見つめた。 完全に舐められているとラルカは苛立ちに顔を歪ませる。そしてミミは火に油を注ぐかのように口火を切った。 「そんな子と付き合うだけの度胸なんて微塵も持っていないくせに」 「黙れよっ!」 一番痛い部分を突かれ、頬を撫でる腕を顔で振り払う。頭に血を上らせ、カッとなって怒鳴る。繋がっている鎖が金属音を鳴らし、静寂な洞窟内で響く。 怒号を向けられたミミは勝ち誇ったように不敵に笑い、癇癪起こす子供でも相手しているみたいな余裕を見せ付ける。 「あらあら、そんなにむきになったらせっかくの良い雄が台無しよ。そうとう溜まってるのかしらね」 「五月蝿いんだよ、そうだとしても誰があんたなんかに……!」 「ふふ、あそこをこんなにしてから言う事なの?」 そう言われてラルカは咄嗟に自分の下半身に目を向け、ある事に気づいてしまった。血が上ってたのは、頭だけではなかった。 慌てて隠そうとした。両手が使えないから、代わりに両足を閉じて強引に閉じる。女々しい真似をして内心情けなくなり、彼女の屈辱的な視線が痛く感じる。 「あはは、やっぱりね。慌ててあそこ閉じちゃって、かっわいい~」 見下すような冷やかな視線を股間に向けながら、口に手を当てて爆笑するミミ。悔しさで顔がまた熱くなってくる。しかし反論など出来なかった。事実だから。 ミミの言うとおり、すぐにでもどうにかしないと狂ってしまいそうだった。洞窟内で放置されている間は無心で何とか抑えてきたが、ミミが現れてからすぐに体が熱を宿し、興奮を積らせていた。 「黙れ、黙れよこん畜生っ!」 情けなさと怒りに洞窟内で激しく叫ぶ。 「そんなに目を血走らせちゃって、怖いわね。このままだとアタシ、レイプされちゃいそうだわ。うふふふ」 「このやろうっ……!」 挑発上手のミミに、苛立ちに歯を食いしばり、拘束されている両手の金属音をカチャカチャと鳴らす。可能であれば、今すぐにでも吹っ飛ばしてしまいたいほどだ。こんな状態に貶められた報いの為に。 抵抗できまいとすでに悟っているミミは警戒する事もなく、両手を頬に当ててふぅと溜め息を吐く。 「まったく、まだ反抗するのね。せっかく今日は特別に可愛がってあげようと思ったのに、ホント強情よね……」 表情を変えてしんとするミミにラルカは頑として言い放つ。 「生憎だが素直な性格じゃないんでね! 我慢は強い方なんだよ!」 「せいしんりょくって奴よね。いい加減素直になってしまえばいいじゃないの。意地になっても苦しいだけよ」 「はっ、なおの事だ。意地張ってるのが好きなんだよ!」 顔を紅く染めながらも、鼻で笑って強気の笑みを浮かばせる。生まれ持った特性であるせいしんりょくが今に至るまで気力を保ち続けていた。 意地でも反抗すると決め込む。そうでもしなければ身も心も誘惑に落ちてしまい、自分の生涯をミミに捧げるはめになってしまう。それだけは、どうしても駄目だ。 そんなラルカに若干気に入らないようにミミは言う。 「捻くれた雄ね。ラルカは飼われていた人間の愛情が足りなかったのかしら」 「一緒にしないでもらいたいね! 一番愛情に飢えていたのはあんたのくせに!」 反撃に、ミミにとって痛恨の一撃と言える罵倒を叩きつけた。しかしそれでも、彼女はピクリとも微動だにしなかった。それどころか、ゆっくりと口元を吊り上げていく。 「可愛いくないな、そういう所。やっぱりさ、きつーいお仕置きが必要みたいね……」 ミミの顔がグイッと近づく。冷笑を含んだその声に、ラルカは背筋が凍る感覚にとらわれる。頬から冷や汗が吹きだし、表情を引き攣らせる。 「いいわ、今日は沢山いじめてあげる。後で泣いて喚いたって、加減なんてしてあげないから」 「うっ……ちょ、待て……!」 制する声も無視され、ミミは腕を青色の短パンみたいな股の間にかける。とっさに女々しく閉じた両足に力を込める。 「無駄よ。諦めてその恥ずかしいものを晒してしまいなさいよ!」 それでも意地として抵抗するが、体勢の悪さと力の差で負け、ラルカの股は左右に開こうとする。 「あ、ミミぃ、や、やめっ……!」 「だーめ。今更謝ったって許してあげない。そのハンサムな顔を涙でくしゃくしゃにしてあげる」 じょじょに左右の足との差が生まれ、見せたくない雄の惨状が顔を覗かせる。ミミはうっとりした声で蔑む。 「もう先っちょが見えてきたわ。口先ばかりでここは別ね」 「やめろ……手をどけろって、やめてくれっ!」 羞恥にラルカは叫ぶが、ミミの視線は完全に股間の方に釘付けだった。既に下半身に力が入らなくなり、一気に押し広げられた。そして哀れにもそそり勃った逸物が露になる。 「うわぁ、すごい。もうこんなに膨らんでるじゃない。お仕置きと聞いて、興奮しちゃってるのね~」 それは誤魔化しようの無い雄の反応の印。溜まっていた精力が勃起を促せられ、抑えようがない程にラルカの肉棒は天を突いていた。 「くっ……うぅっ……」 すでに幾度となく見られては弄くられてきた物だ。すでに見られる事に慣れてはいたが、あれだけ啖呵を切っておきながら、肝心の性器がこのありさまだ。羞恥心も湧く。 「見るなよ、見ないでくれよぉっ!」 「いやよ、アタシの目の前でひくついちゃって、あなたの性格とはまるで正反対ね。エッチで、だらしなくて、甲斐性も無い……まだ青い雄ね」 甘ったるい口調で屈辱の言葉を並べられ、悔しさと惨めさに打ちのめされる。 「何が、食い飽きてるよ。ちょっとお預けしただけで、もうこんなにもビンビンさせておいて、やっぱり抜いて欲しくて堪らないんじゃない。自慢のせいしんりょくもアタシの前じゃ役立たずね、あははは」 「――っ」 せっかくの意地もメロメロボディには敵わず、皮一枚で繋がっていたプライドすらも嘲笑され、無残に砕かれた。精神は大きく乱れ、耐え難さに肩を震わせる。僅かな抵抗力も失い、足は完全に脱力してしまう。 「お望み通り、沢山苛めてあげる。あなたの泣き声を沢山聞かせて頂戴……」 ミミは卑猥な言葉を口にした後、体を岩の床に伏せさせ、顔を肉竿へと移す。 「んふっ……ちろちろちろ……」 「はうぁっ!?」 肉竿の先端部に柔らかい舌肉の感触に衝撃がはしる。まるで電撃を受けたようにビクンと跳ね上がり、沈んだいた頭の中が覚醒する。 「あらぁ、先っぽ舐めただけなのに、女みたいな反応をしちゃって。こっちの方は全く我慢弱いのね……」 刺激への耐久の無さを貶されながら、とてもゆっくりと舌先が竿の根から先まで滑る。 「うぅっ……ぁっ……くぅっ……!」 衝撃から鈍い快楽へと変わり、今度は呻き声を上げるように悶える。敏感になった状態の肉竿が、余計に刺激を生み出している。 「んはぁ、ちょっと舐めただけなのに、すごくビクビクしてる……血が滾ってるのね……」 メロメロボディの効果と精力が溜まり過ぎて、下半身に血流が集中しすぎていた。これ以上太くなりようの無い肉竿が、更に膨張しようとしている。 堪らなそうにうっとりとした声色のミミは、強引に開脚させていた腕を離して性器を握る。 「ふぐっ、やめっ……触るなっ……!」 「うわぁ、あっつい……ラルカのおちんちん、木の実が割れそうなくらい硬いわぁ……」 すっかり熱を宿した肉竿が、ミミの手の中で脈を打っている。雌に握られる事により、余計に反応してしまう。 「あぁぅ……やめろって……言ってるんだ……」 指先と舌で弄られただけで、すでに頭がオーバーヒートしかかっていた。施錠された腕をガチャガチャと鳴らして、無駄に足掻く。 「んふふっ、くすぐられるのが嫌なら、これはどう?」 上目使いでラルカの反応を楽しみながら、ミミは手のひらに力を加えて思いっきり握りだす。 「はぐぁっ!!」 くすぐられる刺激から急激な圧迫に変わり、悲痛な叫び声をあげてしまう。緩い痛みと共に鈍い快楽が全身に駆け巡った。苦しむラルカにミミはわざとらしく言う。 「あらぁ、ちょっと痛かったかしら。上手に扱わないと大変ねぇ?」 そう言いながらもまったく手の力を抜こうとしない。ラルカは強烈な圧迫感に苦痛を受ける。 「ひっ……い、痛い……はな……せぇ……」 「離せ? 自分の立場が分からないのかしらねぇ……?」 ミミは命令口調に不快そう言いながら、更に力を加えてくる。ギチギチと痛々しい音を立てて肉竿が握られていく。 「あがぁっ……!! わ、悪かったって……ひぃ……!」 激しく圧迫する苦痛に耐えかね、目に涙を浮かばせながら懸命に謝罪の言葉を口にした。しかしミミの圧力拷問は収まらず、むしろ強まっていく。 「言葉使いを知らないようね、ごめんなさいでしょ。もっと痛くしないと理解出来ないの!?」 「ひぎっ……ご、ごめんな……さい……ごめん……なさい……ごめんなさいぃ……!」 激痛から逃れたく、震えながら押し殺すような声で必死に謝り続けた。 やがてそれで納得したミミは、肉竿の圧迫する手の力をゆっくりと抜く。苦痛が和らぎ、呼吸を整えようとするも、彼女は時折ぎゅっぎゅと握り続けてくる。 「最初からそう素直になればいいのよ」 機嫌を直し、彼女はゆっくりと腕の力を抜いた。雌のものとは思えないくらいの握力に開放され、息を整えながら抵抗力と共に脱力していく。しかし、依然として物は掴んだままだった。 「はぁ……はぁ……そろそろ、離してくれよ……お願いだから……」 半泣き状態であるラルカは、文字通り弱点を掌握された状態で口調も弱々しくなり、媚びる様な声で言った。雄の無様な顔にS気な眼差しを向けるミミは容赦ない言葉を投げる。 「あら、これはお仕置きだもの。ちょっと痛い目に会わないと意味がないでしょ? それとも、こっちの方が良いかしら……」 ミミは上半身を起こした後、上から見下ろしてもその迫力を失わない胸を肉竿と同じ高さに持ってくる。嫌な予感がラルカに走る。 「あら、怯えた顔しちゃって、やっぱりこっちの方が効果的で良さそうね。ラルカったら本当にこれに弱いんだ……」 厭らしく唇を舐めた後、掴んでいた竿を自身の巨乳に宛がった。 「あっ……うっ……!」 「うわぁ、すごいカチカチ。おっぱい越しから熱が伝わってくる……」 肉竿の先っぽがぷにゅんと触れる罪と言っていい程の柔らかい肉質に触れただけで、見っとも無い声が漏れてしまう。 意識が遠のきそうな程の感触を味わった後も、ミミは面白半分にラルカの肉棒に胸を押し付けては沈み込ませ、弾力で反動する。 「ほら、ほら、やわらかくて気持ち良いかしら? 両手が塞がってるから触れなくて残念かもしれないけど、かわりにこの素敵なおちんちんで味あわせてあげる」 そう言って遠慮無しに肉竿で円を描くように摩擦を行い、まるで玩具の様に扱われていく。そして屈辱を味わう余裕すらない程に、敏感に刺激が伝わってきた。 「はっ、あぅ……やめろって……そんな物……押し付けないでぇ……!」 「いやよ。アタシのおっぱいでおかしくなっていくあなたの様を見てみたいもの。それに、やめろとか言う癖にここはどんどん硬くしてるじゃない」 確かに、否定する言葉とは裏腹に性器の方はこれ以上無い程に膨張しきっていた。己の意思とは関係無しに雌肉を求めたがる自分の性器が恨めしくなってくる。 ミミは肉竿で胸を沈ませるばかりでなく、一度離すと今度は竿全身を胸に押し当て、それを上下に動かして肉竿を擦ってきた。底無しの沼みたいに胸肉に沈み込み、挟まれても無いのに十分な肉厚が竿全体が刺激していく。 先ほどの握りつぶさんばかりの握力の後もあってか、その後味が返って性器を敏感にしていた。 「んぅ……なんかすごい気持ち良い……硬いおちんちんでおっぱいを弄られてるみたい。うふふ、変なの……」 実際は逆なのに、火照った自分がやられているような事を言いつつ、胸で雄の性器を苛めるのに夢中になっている。 一方のラルカは電流みたいな快楽が全身に駆け巡り、麻痺を起こしたかのようにビクンビクンと痙攣を起こす。敏感になりすぎた肉竿のせいで頭がパンクしそうになっている。柔肉のお仕置きに耐えれそうになく、身を震わせていた。 「んっ、ぐぅっ……うっ……」 「んっ、ラルカのおちんちんから我慢汁が出てきてる……」 むふふと意地の悪い言い草をしながらも摩擦を続けていく。その内に先走り滲み出てくるとミミは、お仕置きついでの余興として、てらてら光る透明な液体を楽しそう胸全体を塗りたくる。 粘り気のある糸を引いては、まだ塗っていない所にも宛がい、ラルカの先走りで胸をコーティングしていく。 「や、やめっ……そんなに、何度も胸に当てないでぇ……変になる……」 「あら、もう頭パンクしそうなの? 情けないわね、若い雄なんだからこれくらい耐えてくれないとさぁ? ラルカって以外にもこっちは弱いのかしら」 雄種を沢山溜め込んで刺激に弱くなった上で胸の愛撫をしておきながら何とも理不尽に言うも、ラルカは愛撫に耐えるのに必死で反論する余裕すらも無い。 一方的に豊満な胸で弄ばれ、だらしなく開いた口を悔しそうに歯噛みし、瞼から込み上げて来るものを堪える。 「ううっ……くぅっ……」 「んふっ、ようやく雄らしい表情になってきたわね。頑張ってお仕置きに耐えようとするラルカの顔って、とっても可愛い……」 見惚れるようにラルカを見上げるその顔に赤みがかかる。相変わらず表情は笑っているも、少し余裕がなくなってきている感じだった。 「……そうだわ、お仕置きついでにここを鍛えてあげないといけないわねぇ」 何かを思いついたような顔で、胸の脂肪に沈む肉竿を指先でぐりぐりと弄くる。 「くぁっ……き、鍛えるって、何をするんだよ……」 「決まってるじゃない。もっと気持ちいい事、してあげる。けどね……」 ミミはパッチリした目を悪人みたく吊り上げると、続けて言う。 「絶対にイかせてあげない。イきそうになったらすぐに止めるから。ラルカのおちんちんが長くエッチに耐えれるようにする為にね……んふふ……」 あんまりな言葉にラルカは表情を凍らせ、絶句する。後もう少しで性器が絶頂を迎える状態で、蛇の生殺しを宣言される。 「そ、そんな!?」 「あらぁ、本当はイきたかったの? だったらちょっと可哀相な事しちゃうわ……でもね、これはお仕置きだから我慢してちょうだい」 ミミは自慢の胸を一度離す。ラルカは束の間の休息を得るも、すでに引き返しようが無いまでに膨らんでしまった欲望が、雌の肉体を求めている。 見っとも無い欲求に答えようと、ミミは唾液を溜め込んでいた口をぱっくりと開き、ねっとりとした口内が肉竿を包み込まれる。 「んふぅ……ちゅる……じゅるっ……じゅるるっ……」 序盤から肉竿が半分以上も口内に納められ、生暖かい舌がちろちろと触れる。さっそくも雄肉を味わうように勢いを付けてしゃぶりだす。 「ああっ……ふあぁっ……あっ……」 今までの微弱な快感とは違う強烈な刺激に絶えれず、我慢していた声が漏れ出し、雄らしくない喘ぎ声を上げてしまう。 頬の内側のヌルヌルした肉壁と厭らしく絡み付いてくる舌の二重の圧迫感に感情を堪える事も出来ず、酔い痺れる。 「きもひいいれしょ……んちゅる……じゅるるっ……たへれなひでひょ……れも、ひかへてあげにゃいから……」 舌を巻きつかせて一心に吸い上げる様に頭を上下する。この電撃とほぼ変わらない凄まじい快楽に耐えるなんて不可能だった。 「うあぁっ……あっ……くぅっ……だ、だめぇ……」 溜まっていた雄の体液が今にも込み上げ、出口を求めてすぐにでも爆発を起しそうなほど迫っていた。その様子をミミは頬張りながら上目遣いで見る。 「んちゅっ……んふっ……きもひよすひて……らめになりひょうなのね……れろっ……れも、ゆるひゃなぁい……んふふ……ちゅるるっ……」 絶頂手前でも絶対にイかさない程度にゆっくりと上下する。それでも気力を回復するだけのゆとりを与えず、じっくりと吸って、舐めて、緩い快楽でじわじわと嬲っていく。 「も、もう……くるっ……で、でそう……でるっ……!」 「んむぅっ……んふふふっ、だぁめ。出させてあーげない」 頬張っていた口の動きがピタリと止める。絶頂手前だった肉竿は快楽を失い、熱を帯びたままゆっくりとミミの口の中で萎えていく。 「ミ、ミミっ……!」 身をブルブル震わせ、途中で止めてしまうミミに涙目で懇願する。快楽を失った状態の肉棒は徐々に萎えて射精感が静まり、達成感の無い中途半端な気持ちになっていく。ここまできて止められたらどんな快楽に味わえたとしても、後味の悪いもやもや感が残ってしまう。 ミミは射精する手前で、その機会を奪われて飢えに苦しむラルカの様を愉快そうに見上げている。そして熱が完全に冷め切ってしまう前にミミは口内を上下を再開させた。 「んちゅるっ……ちゅるるっ……ちゅっ……ちゅっ……ふんぅ……ちゅうぅっ……」 「あっ……くぅぅ……くぅんっ……」 再び快楽に襲われ、身を縮ませて雌みたいに喘ぎ出す。認めたくなくても、体はすっかりとミミの口の虜になり、彼女の口が擦れる度にラルカはビクビクと震える。 抵抗らしい抵抗もこの浮ついてしまいそうな刺激には勝てず、体は自然に降参を宣言するように力が抜かれていく。もはやラルカの肉棒は、ミミの支配に置かれる。 ミミは一心にして肉棒に集中している。唾液を全体に絡ませながらしっかりと唇と舌を密着させ、吸い上げては竿の根元まで深く沈みこませる。速度は極めてゆっくりだったが、威力は強力だった。 「ふわぁぁぁっ……あううっ……ひっ……うっくぅぅっ……」 ミミが上下する度にラルカは反応するように甘く喘ぐ。やがて、再度の射精がすぐそこまで迫ってきているのを感じる。早く絶頂を迎えてこの鈍い快楽地獄から抜け出そうと構えるも……そこでまた、ピタリととまる。 以前として舌と唇が密着した状態で、肉棒がビクビクと脈を打った状態のまま静止する。 この行為をミミは何度も繰り返した。絶頂間近で止めては再開の行動は、若い雄であるラルカにとって精神的にも体力的にも激しく消耗させていく。発散されない性欲に喘ぎ苦しみながら、その内、ラルカは声も出なくなっていった。 「……ぁっ……ふっ……うっ……」 「んちゅっ……じゅるるっ……ちゅずっ……もう、こへもでらくなったかひら……」 肉棒を大きく頬張るミミはラルカの様子を見て、ねっとり上下する口を緩めていく。 「ちゅずずっ……んぷっ……はぁ、ぎりぎりの所で止められる気分はどうかしら?」 「…………うっ……」 肉棒から一度口を離したミミの問いにもラルカはまともに答える事は出来なかった。再び、行き所を失った性器が熱を帯びたまま、もやもや感に襲われる。 射精したくて堪らない雄に、なんともえげつない行為。生かさず殺さずの生殺しだった。みっともなく腫れ上がった肉棒を手に取ったミミがはにかむ。 「あはぁ、なんだか本当に辛そう。お仕置きとしては上等だけど、ちょっと可哀相になってきたわ」 「な、なんで……お、俺が……」 ほとんど聞き取りにくい声でラルカが逆に問い返す。ミミは胸を張って答える。 「何でイきそうなのが分かるですって? 当然よ、あなたとは何度も体を合わせてるんだもん。どんな時にイくのか、アタシにはわかっちゃうんだぁ。これって愛? うふふ……」 いくつもの日が流れ、もう数え切れないくらいミミに抱かれている。弄ばれ、犯され続けられて、体中至る所を愛撫され、弱いと言える部分を知られている。へろへろになるキスの仕方から声を漏らしてしまう肉棒の舐め方まですっかりと熟知しているミミにとって、ラルカの絶頂するタイミングを図るなんて造作もなかった。 それだけでなく、物音に敏感なミミロップの性質上、ラルカの細かな肉体の鼓動を聞き取り、微妙な反応も見逃さない。ラルカはミミに、弱点も絶頂するタイミングもすべて掌握されているのだった。だからこそ、イかすもイかせないのもミミの自由だ。 「アタシはあなたのパートナーだもん、知らない事なんて何も無い……ラルカがアタシで感じてくれる顔がもっと見たいの、だからいろいろと尽くしちゃうもん」 語りながら、萎えかけている肉棒に手を伸ばす。やさしい手つきで上下に扱い、微弱な快感が走る。無論、射精に至るほどの物ではない。 「くぅっ……この、やめっ……!」 「止めていいの? イきたいんでしょ……? 無理なんかしないで、正直に言いなさい……」 勝ち誇った時のとは違う、うっとりとした険の無い顔で、優しく微笑みかける。ラルカは天使のささやきに負け、呻きながら素直になる。 「うぅっ……や、止め……いや、止めないでぇ……」 延々とイく事の出来ない苦しみから開放されたいあまりに口からでた言葉。イきたくてしょうがない。だから、止めてほしいけど、やめないでほしい。何処でもいい、胸でも口でも手でも、何でもいいから果ててしまいたい。開放されたい。 プライドを殺してまで本音を口にした。ミミは満足気にふふっと笑った。 「よく言えたわね、本音を言ってくれてうれしいわ。だから、お望み通りイかせてあげるね……」 その言葉はまるで救いを差し伸べる言葉だった。こんなみっともない様にした張本人である事さえ忘れ、涙を浮かばせたまま表情を綻ばせる。 溜まりに溜まった性欲と無限に続けられる快楽地獄から救われると信じ、目の前にいる美形のミミロップを救いの天使みたく心から崇めた。 思わず感謝の気持ちを言葉にしようとする前に、ミミは付け加えるように言い放った。 「……キスをしてくれたら、ねっ」 「えっ……きす……?」 ラルカは不覚にも頬を紅く染め、胸をドクンと高鳴らせる。 「そうよ、それだけしてくれれば、この辛さから開放してあげる」 ミミとキス……監禁されてから絶えず繰り返しやってきた事だ。しかし、ラルカの方から迫った事は一度も無い。 「……ほ、ほ……ぉ……」 「ん、何?」 あまりに聞き取れないような途切れ途切れな声にミミが聞き返してくる。ラルカは激しく鼓動する胸の苦しさを堪えて口にした。 「頬で……いいの……?」 「ほっぺたぁ? この期に及んで、何で微妙を選ぶのよ! もぅ、アタシがして欲しいのは、く・ち・び・る!」 ムスッとした顔でミミは強く強調して言った。当然な回答だったが、そこでまたラルカの鼓動が高く鳴る。やっぱりそこか、と言う顔をする。緊張感が一気に高まっていく。 「や、やっぱそこじゃないと、駄目なの……?」 荒々しく吐息をして改めて聞いた。ミミはやや不満げに眉を吊り上げる。 「当たり前でしょ。エッチが出来てもキスがまともに出来ないんじゃ全然つまらないもん。それにイかせて欲しいんでしょ。待ってあげるから、そっち来て……」 そう言ってミミは股間から離れるとラルカと同じ目線に来る。雄の我慢汁が付着した下唇をペロリと艶かしく舐め、プリンと柔らかそうな唇を見せ付ける。 ラルカは頭から血が上るような感覚が走る。今からこの唇に向かって、自分の唇を重ねていかなければならない。ミミとの口付けを…… 「ほら、んっ……」 ミミは赤い瞳を閉じると待ち構えるように自分から唇を前に突き出す。その自分の顔との距離は、ちょうど舌を伸ばせば軽く触れそうな位置だった。鎖で繋がれていても、ちょっと前に出せば簡単に触れられる。 自分からキスをする――そう考えただけでラルカは激しく鼓動する胸の苦しみに表情を歪ませる。すぐそばに雌のてらてら輝く唇が待ってくれている。吸い込まれてしまいそうな美しいさに、頭は正常に機能しなくなり、すでに乾ききった口の中が唾を飲み込む。とても苦しい状況だった。 緊張するあまり顔中から冷や汗を噴出す。欲望が滞ったまま発散が出来ない辛さも加わって、このままでは精神が持たないと何処かで警告してくる。 意を決し、ラルカはぎこちない動きで首を前に出す。距離が縮まるにつれて、緊張は頂点に達する。あと少しの所まで到達した頃、異変を感じ取った。心臓が今にも爆発しそうな勢いで鼓動をしている。発作的な勢いで呼吸が不安定になり、体が震えだす。後少しなのに、前に進めない…… 「何を怖がってるの……何時か自分から出来るようになりたかったんでしょ……」 目を瞑ったままのミミが待ちくたびれた様子でそっと言う。ラルカはハッとして、息をするのを忘れる。 過去にラルカは、キスを迫ってきた雌相手にそれをしようとした時、異性への免疫力の無さと生まれ持った性質で、非常に苦しい思いをしてきた。それが幾度と無く続き、誰にも知られたく無いトラウマとなっている。 その秘密を監禁された初日に彼女に知られてしまい、死にたいとさえ思った。 だが、当時と比べて胸の苦しさは以前よりも良くなっているような気がする。気が保てている分まだましだった。過去の自分だったら近づく事さえ出来ずに逃げ出していた。 「きてよ、ラルカ……」 甘ったるくつぶやくミミの瞳が薄く開く。とても色っぽく大人びいた魅力に誘われてしまう。それでも何処か子供っぽいような、こんな状態であるにも関わらず守ってあげたくなるような無垢さを感じる。自分を監禁した相手なんかに何考えているのだと自分を叱咤したくなった。 だが、極限まで快楽に飢えている雄肉の欲求に耐え難く、有無を考えるのがもどかしくなってくる。再び乾いた口の中で唾を飲み込み、いい加減覚悟を決めた。ぎこちない動きで顔を前に出し、綺麗にてかる唇に触れる。 「んっ、ふぅ……」 「んんっ……!」 可愛らしい口に、初めて自分から唇を重ねる。緊張で目を瞑り顔をしかめた。唇の感触なんかよりも先に頭の中が一瞬真っ白に染まった。心が浮つくような不思議な感覚に包まれ、ラルカは開放感を覚える。 さっきまで激しかった心臓の鼓動が急速に落ち着き始めている。それとは別に、まるでぶ厚く高い壁を乗り越えたかのような達成感を感じた。 自分は本当にキスをしたのだろうか、現実味を感じさせない自分の感覚を疑い、それを確かめるべくラルカは恐る恐る瞼を開く。 「…………」 未だに目を閉じているミミの顔がすごく近くに映る。ラルカは目をぱちくりさせて、ただ呆然とした。そして緊張で鈍くなっていた感触が今になってむにゅっとした感触を得る。 キスの手前であれだけ心苦しかったのが嘘のように落ち着きを取り戻している。まるで今まで幻でも見せられてきたみたいだった。 「んふぅっ……」 ミミの色っぽい声が塞がれている口から洩れて聞こえる。彼女はまるで気持ちよさそうに頬を紅潮させて、両手でギュッと抱きつく。とっさに自分の胸に付いている棘を心配したが、彼女の乳房の間に埋もれて刺さらないようにガードしている。暖かくて柔らかい肉質を全身で感じとり、心地良く包まれる。 密着しあう肌越しから鼓動を感じて確かめると、それはミミの鼓動だった。それもすごい振動がリズミカルに刻んでいる。彼女方もまた緊張しているのだろうか。 近すぎてその表情を伺うことは出来ない。波動を通じて読み取ると、溢れるような快感を感じ取った。間違いなく嬉しい気持ちの波動だと確信した。 呆然と観察していると、ミミは閉じていた瞼を開く。さっきまで余裕な表情をしていたとは思えないような潤んだ瞳が映し出される。 「んんふっ……あむっ……ちゅっ……んちゅっ……」 そして間を置かずして彼女は唇をぐいぐいと押し付けて更に濃いキスをしてきた。あれだけ自分を見下していた雌がこんなになるまで興奮している事に驚きを隠せず、ラルカは気圧されて唇を奪われる。 「んんっ、むっ……んむっ……!」 初めてのキスに動揺しているせいか、まったく押し返す事が出来ずに一方的にやられていく。とても柔らかい感触と火照りきった体の熱にある意味悶え狂いそうになる。 そうしている間にもミミはぐんぐんと迫ってきている。濃く密着しあう唇が更に押し付けてくる。甘くて、官能的で、とろけてしまいそうな熱気がラルカの思考を奪っていく。言葉にするならば、すごく気持ちが良い…… 「ちゅっ……んふぅ……んちゅぅっ……んぁ……はぁ……ラルカからのキス、初々しい……けど、すごく嬉しい、熱くなっちゃう……」 「ふぁっ……俺……俺……ふあっ!?」 ろくに回らない頭で何か言葉を発しようとした途端、背筋がビクンとする感触が走る。ミミは自分の指をラルカの体の上でつーっと滑る様に移動させて、ゆっくりと撫でる様に徐々に上に上っていく。くすぐるような愛撫に上擦った声を洩らしてしまう。 「ふっ……うっ……みみぃ……?」 「何も言わなくていいのよ……アタシ、初めて会った時にラルカの始めてをもらった……そして今度はラルカの方からもらっちゃった……」 息を上がらせるミミの這いずる三本指が頬を伝い、後ろの房に辿り着く。トレーナーや愛する兄姉にさえ触れさせなかった房が彼女によって優しく撫でられ、くすぐったいような感触にぶるっと小刻みに震える。 「ふわぁっ……あぁっ……」 「可愛い……あなたはアタシだけの物……初めての唇も、この房も、情けない声も、泣きそうな顔も、そしてここも……ラルカを飼ってる人間や兄姉の知らない所を、アタシしが支配してる……」 ミミは支配的な快楽に愉悦し、そして熱いキスを繰り返す。今度はミミの方からきた。 「んっ……ふぅ……はぁ……んちゅぅ……んふぅ……」 合わさった唇は余す事なく触れ合う。可愛らしい口なのにとろけるそうなほど卑猥に動き、体中冷える事なく更に熱くさせる。ラルカのやりなれていないラルカのキスとは違い、やはりミミの口付けの仕方のほうが断然上だった。この心地良さに抗う術がない。 全てを委ねる様に肩の力を抜き、潤んだミミの瞳に吸い込まれるよう見詰め合う。甘い快楽の毒に抵抗する気も起きず、口内に絡み付いてくる柔らかい舌の動きに合わせるようにラルカも舌を返す。 心が天に浮いてしまいそうな感覚、これがメロメロボディの威力なのだろうか、それともミミの恥辱テクニックのおかげなのか、あるいは雄としての本能なのか、考えるのも面倒くさい。今は身も心も彼女に許してしまっている。時間の感覚を失ったラルカは息苦しさもお構いなしに、彼女が止めない限り何度でもキスを繰り返し続ける。 やがて卑猥な動きが止まると、ミミは両手で顔を支えたまま体ごと唇を離した。唾液の銀色に光って糸を引かせる。 「はぁ……気持ちいい……はぁ……好きな雄とするキスって最高よね……」 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」 濃厚なキスで息を切らしたミミが豊満な胸を揺らしてうっとりしている。 「お願いだよミミ……俺もう、本当にやばい……そろそろしてくれないと……もう……」 濃厚な口付けのおかげで限界まで膨らました性器が限界を感じてきている。理性を覆い尽くす性欲にいい加減に開放されたく、長く餌のお預け受けた躾けられたペットみたいに無様と思いながらも必死に懇願する。 「うふふっ、いいわよ。ラルカは頑張ったんだもんね、お仕置きはやめてご褒美してあげないとね……」 ミミは苦笑しながら身を屈めると、痛々しいまで張った肉竿を両手で全体的に優しく包み込み、付け根の方からゆっくりと上下させていく。 「はっ……あぁっ……うはぁっ……」 ミミの綺麗に伸びた茶色の手が肉竿から滲み出る我慢汁と絡み合う。扱い慣れたような動きで雄肉をしごき、ラルカは情けない声と共に全身の血が熱く沸騰する。 優しくて厭らしい指が竿の根元と先端を滑るように行き来を繰り返し、滲み出ていた先走りで更に滑りを良くさせる。ねちょねちょと卑猥な音を立てながら扱く速度を上げていく。 竿全体が隙間無く艶かしい手付きで上下され、その度に快楽で体をビクビクと震わせる。 「まだビクビクしてる……触れてるアタシの方が蕩けちゃいそうなくらいに……ペロッ……」 速度を上げるだけでなく、顔を近づけては舌で先端をこねくり回すように舐める。ラルカは両手と舌の二重の責めの衝撃にビクンと体を痙攣させた。 「はぐぅぅっ……あああぁっ……ああっ……!」 理性を失ってしまったように呻き、じんわりと込み上げてくる物にラルカは耐え難い表情をする。溜めてきた分の射精感が早まっているのだ。 「アタシの手こきでもうイっちゃいそうなの? そんなに気持ち良いんだ、嬉しい。このままイかせてあげてもいいけど、それじゃなんかつまらないわね……」 火照った顔を名残惜しそうに両手を離した。再び快楽を失ったラルカは性に飢えた顔を渋く歪ませる。 「そんな顔をしないで、ちゃんとイかせてあげるから。アタシのおっぱいで……ね」 ミミは意地悪そうにうふふと笑うと、美しいその手に余るほどの実りきった巨乳を誘惑するように左右に押し広げ、雄々しく天に向く肉竿をむにゅりと包み込んだ。 なんとも言い難い快感に思わず浮ついた声をあげた。肉竿全体を覆いきるほどのボリュームが包み込み、柔らかい肉質から暖かい体温が伝わる。 息子が母親の中で抱きしめられるような抱擁感と重量感が、性的に刺激する。 「んふふ、ラルカはこれが大好きでしょう。おっぱいでおちんちんを食べられちゃうのが堪らないほど気持ち良いのよね……」 言い返すことの出来ないほどの感触と快楽に腰の力が抜け、顔は乳房の圧迫に負けてだらしなく変わる。 「あぁっ……ミミの……すごく暖かくて……柔らかくて……」 「初めて会ったころよりもちょっと大きくなっちゃったみたい……ほらぁ、おちんちんがおっぱいに埋もれてほとんど見えなくなってる……情けなくて、可愛らしい……」 胸を自慢し、ラルカの性器を批評する。見事に作られた谷間の間に、ぽっこりと僅かに突き出ているように肉竿が存在している。 ミミは肉竿を挟んだ胸を両手でユッサユッサと擦るように揺らし、上下に動かしていく。淫らに胸肉が満遍なく肉竿にまとわり付いてくる。 「あっ……はぁぁっ……ミミ……ミミぃ……」 「うんっ……はぁ……ラルカのおちんちんが……はぁ……喜んでるのがわかるわぁ……」 ミミ自身もとろんとした表情で熱く吐息しながら、豊満な乳房を遠慮なしに揺らしまくる。溺れている肉竿を扱き、責めたてる。先端が浮いたり埋もれたりして谷間が押し広げられていく。 乳肉に弄ばれる感覚と鈍い快楽に頭が支配され、心が浮つく。口や手こきとは違って何処までも柔らかくて圧迫し、根元から先端まで全てを刺激し、絶えず快楽を生み続けていく。 「はぁ……はぁ……すごく熱い……おっぱい越しからビクンビクンしてるの……」 頬の色をオクタンみたく紅潮させたミミはもっと雄の体温を感じたく、乳房の動きを激しくさせて肉竿を苛める。 「あっ、あぁっ……ああっ……」 豊満な乳房にどこまでも飲み込まれ、溺れるその中でもみくちゃにされていくラルカはまるで雌みたいに喘いだ。気持ち良さに抗えず、乳肉の扱きで射精欲が込み上げてくるのを無意識に感じた。 絶頂間近と悟ったミミは小刻みに肉竿を愛撫し、時に左右から押し潰すように圧迫させながら上目遣いでラルカを見上げる。 「もう限界……? イっちゃう? 我慢できずにイっちゃうの……? アタシのおっぱいで沢山出しちゃうの……? うん、いいわ……溜め込んだ若い雄汁をいっぱい吐き出してぇっ……」 息を切らしながら甘えた声で囁き、乳房の形を歪ませるほど激しく弾ませ、絶頂手前を体と胸で感じ取ったミミはとどめと言わんばかりに根元からぎゅぅと乳圧を加えた。 「も、もう……で、出る、出るぅ! あぁっ、ああああっ!!!」 凄まじい射精快感が一気に押し寄せ、意識が遠のいていくような絶頂を迎えた。乳肉に埋もれていた肉竿が噴火するように白濁液を発射させた。。 卑猥な谷間の間から濃密な白い液体がビュクビュクと脈を打ちながら迸る。その先に淫乱色に染まったなミミの綺麗な顔に張り付いた。 「ああっ、やだっ、すごい量っ……!? んはっ……あっ……」 放出された熱い精液のシャワーが凄まじく、ミミは予想を超えて驚愕する。溜め込まれた量に面食らいながらも乳房はしっかりと逸物を圧迫して射精を促してくる。 絶頂時の快感が凄まじいあまり、肉竿は狂ったように痙攣を繰り返しながら濃密な白濁液を吐き続ける要因になっていた。 熱の篭った精液はその後も休まる事なくドバドバと飛び続け、淫乱兎の面を白く染め続けていく。 顔で受け止め切れなかった液体は重力に引かれて豊満な乳房にも厭らしく垂れ落ちて白色に染めていき、肉竿を挟んでいた魅力的な谷間には白濁液で埋まりきる。 コントロール出来ない射精の波はそれだけでは飽き足らず、垂れ下がった茶色く美しい毛並みの整った耳にも降り注いだ。 「あんっ……んんっ……はぁん……すごい量……止まらない……!」 勢い劣らぬ粘っこい精液シャワーにまみれたミミは、ねばねばする白い糸を引かせながら甘美に喘いだ。誘惑しそうな身体つきの至る所に精液が張り付き、卑猥な格好になっていた。 「はあぁ……はあぁ……はぁぁ……」 溜まっていたものを吐き出したラルカの意識は尚も遠のいたままだ。口をだらしなく開けたまま肩で息をしていた。正気を取り戻すのに時間が必要な状態だった。 ミミはそんな無様な格好のラルカをうっとりと眺め、自身にべったりと付着した白濁液を指先ですくってぺろっと舐める。 「苦くて、濃い味……ラルカの味……うふふっ……アタシのおっぱいでこんなに出しちゃうなんて、そんなに溜めてたのね……」 まだ意識の戻らないラルカの体に、ギュッと両手で抱きつき、甘えるように胸に顔を押し付ける。 「うふふ、あなたの胸がドクドクしてる……アタシも絶倫なあなたにドキドキしぱなっしよ……」 お互いの鼓動を確かめるように再び抱き合い、白濁液がねちょりとラルカの方にも付着していく。そのままミミはまだ汚れていない手をラルカの股間に伸ばす。 「ふあぁっ……!?」 「あれだけ出したのに、まだここは元気ね。立派に成長してて嬉しいわ。これならいくらでも子作りが楽しめそう……」 ミミはくすぐるような厭らしい手つきで、未だに衰えを見せない雄の性器を触れながら顔をほころばせる。 「ねぇ、アタシ体が熱くなってきちゃった。ラルカのきつーい精液の匂いがくすぐってきて堪らないのよぉ……」 ようやく意識がはっきりしだしたラルカの耳元に、悪魔のような淫乱の囁きが届く。 「もう一度その濃いのぶちまけてちょうだい。今度はアタシと一緒に気持ちよくなりましょ……?」 「え、ええぇっ!?」 厭らしい白い糸を引いたままミミは妖美に笑った。その姿を見てラルカは思い出す。彼女は自分の望みの為に、身動き取れない自分を子供欲しさに何時も犯してきた淫乱の雌だと言う事を。 体力的に差があるのもお構いなしに、彼女は自分が満足するまで止めない性格で、精魂果てるまで無理やりやらされるのだ。精液の匂いで完全にスイッチが入ったミミは、もう止まらない。 「まってくれ……その、イったばかりで俺……疲れてて……んんむっ!?」 らしくない言い訳をするもミミは聞く耳を持ってはくれず、往生際の悪いその口を強引に捻じ伏せる。両手でしっかりとホールドされていて離れられない。間を持たずミミの方から舌を繰るように絡ませ、言葉の自由を奪う。再び唇同士の濃厚な接吻に息をするのも精一杯だ。 「あむっ……ちゅく……ちゅぷ……んちゅっ……れろぉ……」 まったく余裕を与えまいとミミのディープな口付けにラルカは考え事が出来なくなってしまう。 甘くて痺れるような官能さに酔わされ、イったばかりの雄はすぐにとろんとしてしまう。 「んふふっ……」 完全に抵抗力がなくなると、ミミは唇を重ねたまま小さく笑い、魅惑的な腰を浮かす。片手を離してラルカの下半身に手弄りし、お目当てのモノに触れる。 ぐしょぐしょに濡れた割れ目に手を当て、指で押し広げる。そして激射後も萎える事なく雄々しくそそり勃てている肉竿へと宛がい、ラルカの膝に乗る形でゆっくりと腰を降ろす。 「ふぐっ! んんぅっ!!」 「んんんっ……んっ……んんっ……」 ふとましく膨張したラルカの性器が愛液状でぬるぬると滑り、ぐちゅぐちゅと淫らな水音を鳴らしながら熱い肉壺にくっぱりと咥え込んだ。まるで最初から受け入れ万全であるかのように…… 再び自分のモノを咥えられ、体が一つになる。ミミの中で一物が湿って柔らかい肉質にきゅうっと締め付けられ、大切なモノを支配したような、されたような違和感を覚える。 挿入させられて間もなく、中で肉竿が膨張を始める。それが余計に膣内の圧迫を受けてしまい、よけいにきつく締め付けられる。 何度繰り返された行為でも未だにこの衝撃に慣れず、瞳から込み上げてくる衝動に逆らえず、ポロッと零す。雄らしかぬ様に彼女は唇を軽く離し、途切れ途切れの言葉で囁く。 「硬くて……熱くて……入れただけなのに、あそこが気持ち良いの……ラルカも、泣いちゃうほど……気持ちいいんでしょ……アタシに犯されて……堪らない……んっ……」 「ぐふっ……うぅっ……何で……こんな……」 認めたくなかった。自分を拉致し、何日も監禁して支配と性欲の限りを尽くしてきた身勝手な雌なんかに、ここまで体が心地良くなってしまうのが。 悔しい、情けない、まるで自分の体が彼女の性奴隷に成り下がってしまっている。なにより、寸止めによる溢れる性欲に耐えれなくなってミミに乞いてしまった自分がみっともない。 「いいのよ、頭では拒んでも……体がそう感じちゃうんでしょ? 繋がっている証だもん……」 ミミは紅らめた顔でくすりと微笑した後、ゆっくりと魅惑な腰を浮かして沈ませる。 「くぅぅっ……くはぁっ……!」 「んっ……あっ……あっ……」 雄肉が湿った雌肉に全身に絡みつき、柔らかく、吸い付いてくる。燃えるような熱さに肉竿が摩擦され、堪らない刺激と快楽が駆け巡り、果てたばかりの意識を覚醒させられる。 ミミのしなやかな美脚が淫らな動きを刻み込み、それと一緒に近くで見るとド迫力な乳房がたゆんたゆんと弾む。二匹の間に分泌液が卑猥な水音を生み、洞窟内に小さく響いていく。 繋がっている快楽に美麗な顔を歪ませるも彼女の顔は嬉しそうにラルカを見つめ、ひとつになった事を、または独占したような歪んだ喜びに満ちていた。暖かい吐息を感じさせる。 ミミの潤う瞳が泣きそうにくしゃくしゃになっている自分を映し出し、ラルカはその視線から逃れられず吸い込まれるように見返す。まるで自分が支配されているかのような…… 「はあぁっ……んぅっ……熱いぃっ……ラルカのが、硬くてぇ……奥にきてっ……んあっ……いいのぉ……」 悦に入って淫らな腰の動きを更に加速させ動かしてくる。繋がってからまだ間もなくなのに、思考が乱れて整理がつかない中でラルカは更なる追い討ちをかけられる。 「くっ……あふあぁぁっ……あっ……やめっ……うっ……そんなに……激しく……動かない……でぇっ……あぁっ……!」 動きが早くなったために膣内の熱い肉壁がより絡みつきが増し、全身が電流のような刺激に襲われる。ラルカは堪らず喘ぎ声を洩らした。 「あはっ、ラルカかわいぃ……ダメだもん……もっと責めたくちゃうもん……アタシの……んっ……前で……泣いてっ……」 ラルカのお願いに逆らうように彼女はより深く腰を沈み込ませ、雄肉を咥え込んだ。 「あがっ……あああぁぁっ……いっ……うっぐぅぅっ……!」 喘ぎ続けている内にラルカの喘ぎ声も甲高くなり、目に浮かべていた涙をつぅっと流した。 彼女の暖かくて柔らかい肌の抱擁と熱くねっとりと締め付けてくる膣内に、自分の体がまるで意のままにされているラルカは改めて自分が雌に犯されている事を自覚してしまう。屈辱と服従感、そして天に昇るような肉欲の喜びに感情が掻き乱される。 「いいわぁ……はあんっ……あたしので、気持ち良いのよね……泣いちゃうほど良いのよね。ねぇ、おっぱいとどっちが気持ち良いのぉ?」 問われても答えるだけの余裕も無く、比較しようの無いミミの乳房愛撫と蕩けるような膣内、どっちも良い痺れるような気持ち良すさで選べない。 答に詰まらせている間にも彼女はゆとりをくれずに、腰の速度を保ったまま口元を妖艶に微笑ませ、雄肉によがりながらラルカの反応を楽しんでいる。 「はぐううぅっ……少しはぁ……うっ……加減してくれよ……」 遠慮無く雄肉を貪る淫肉に堪らず悲鳴を上げる。二度目の射精が込み上げてくる。 「あんっ……加減なんて出来なぁい……んぅっ……ねぇ、どっちがぁ……気持ち良いの、ねぇ……?」 淫乱に腰を浮き沈める動きの彼女に再度尋ねられるが、答を口にする前に射精がすぐそこまで迫ってきていた。 「ミ、ミミ……だめっ、だめっ……くぅっ……あっ、ああああっ……ああっ!!」 激しい締め付けに耐え切れず、ついにラルカは熱い膣内に二度目の昇天を迎える。 「はあんっ!! きてる、きてるぅ……あっついのが……精液がぁ……!」 ミミは二度目の射精に喜びながらぎゅぅとラルカに抱きつき、豊満な乳房を押し潰していく。魅力的な谷間に挟まれている棘がわずかに彼女の柔肌に刺さりかかる。 膣内が溜めこんでいた精液を搾り取るように締め付け、ラルカは繋がれたたまま身をビクビク震わせる。ビュクビュクと迸る性に肉竿が快楽に痺れていく。 「はっ……あっ、ああっ……あぁぁ……」 浮ついていく気持ちで喘ぎ、ラルカはミミの中ですべてが甘く蕩けていくような感覚に陥る。もう何もかも彼女に身を任せてもいいくらいに…… そして膣内をラルカの遺伝子で満たし尽くし、熱く迸らせていた肉竿も落ち着き始めた。 「はぁ、はぁ、アタシの中がラルカのでいっぱいになっちゃったなぁ……ウフフ……」 繋がった状態でミミは少し疲れた笑みを浮かばせる。そしてラルカは二度の激射による疲労のあまり、浮ついた視線を岩壁の天井に向けている。 そこで、まだ頭がぼんやり中ミミは優しくラルカの顔を持ち上げ、うっとりとした眼差しで唇を重ねた。 「んちゅっ……んふぅ……」 静かなキスだった。意識がはっきりしない今の状態でのキスは、まるで言っていいほど感覚が無かったが、温かいものを感じる。 彼女はゆっくりと唇を離すと甘えた声で囁いてくる。 「んふっ……たっくさん溜めているんだからまだ出るんでしょ。このまま続けて出しちゃお……」 特性のメロメロボディが雄の性や感情を刺激する。効果が持続しているおかげで二度目の射精した後も雄のモノが衰えを感じられない。 射精の後で体の感覚が鈍くなっているにもかかわらず、ミミはラルカを顔を両手で掴み、強引に胸の中に抱きしめてくる。鼻と口が塞がれ、息苦しい上に胸に付着している自分の放った精液の匂いに悶える。 柔らかい胸の脂肪にがっちりとホールドした後、彼女はそのまま乱暴に腰を浮き沈みを始める。ほとんど快楽が無いのにもかかわらず、窮屈すぎる膣内の締め付けだけはしっかりと感じてしまう。 「んぶっ……んんぅっ……!」 「あっ、んっ……ラルカの……いっぱい、いっぱい絞ってあげる……休ませたりなんか、させないからぁ……あっ……あっ……」 ミミが喘ぎながら上下に腰を振る度、胸の脂肪が揺れて顔が淫らに擦られていく。下も上も圧迫されてすごく窮屈を感じる。 身動きとれずに圧迫責めに遭わされるラルカは、その言葉通りに疲労などお構いなしにひたすら雄液を絞ていく。肉竿の膨張が収まらない限り、ずっとずっとこのまま…… 監禁されてからずっとこんな具合だが、彼女のしつような責めには適わずに肉体がよがってしまう。子作りの為に絞られるだけ絞られ、気力が尽きるまで犯される日々をおくっている。 まだ彼女は子供を身篭ってはいないが、こんな監禁生活を続けていく内には、いずれ…… 「んぐっ、んんんんっ!!」 「あはぁっ、出るっ、出てるぅ! ラルカのせーえきがぁっ、あああぁぁっ!!」 快楽に鈍くなった状態でも、射精する時だけは肉竿が敏感になってしまう。二匹の繋がりあった所から精液が溢れかえり、凄まじく噴射させていく。 すでに子宮が入りきらなくなった状態であっても、膣内がそれを受け入れようと絞りまくる。 「はぁ、はぁ、アタシもイっちゃった……最高よ、あなたのおちんちんは……んふふっ……」 絶頂で悦に入るミミの声も、ラルカには遠く、小さくしか聞こえてこない。 「ふぅ……ふぅ……ふぅ……ふぅ……」 「久しぶりのエッチでラルカも気持ちがイイでしょ……意地になっても、結局は溜めている物を全部吐き出したいんでしょ? だから、観念してずっとここで、アタシと暮らそ……」 彼女の胸の中で、肩で息をするように震える。重なる疲労で意識が遠のいていきそうになる中、白濁液まみれで淫らに笑うミミを見て、こう思った。 ――子供が出来て、無理やり父親にされて、俺はこのまま死ぬまで彼女の物なのだろうか…… そんな事、会ってはならない。絶対に帰らなければならない、愛するトレーナーと兄姉のいる場所に。 骨身まで彼女色に染まろうとも、帰りを待つ、自分の居場所へと帰りたい。だから決して…… 「お、おれは……」 枯れ果てた声を口に出す。物音に敏感な彼女がピクンと反応し、笑みを浮かべたままそれを見返す。しかし、これ以上の言葉は出はしなかった。声も出ない口をパクパク動かし、続く言葉は…… 「帰れる場所に帰りたい……」 監禁と快楽の中で、ラルカが唯一捨てなかった最後の希望を胸に彼は誓った。仲間の元に帰るまで、絶対に屈したりしないと。 外は秋風が心地良く吹いてくる満月の出る夜。 大地には水気を失って褐色に染まった落ち葉がそこら中に降り落ちていて、踏むとクシャっと潰れる音がいかにも風流を感じさせる。 鬱陶しいくらいジメジメして熱かった外の空気が信じられないくらいに涼しく、そして何処か物悲しさを感じさせる外の風景。 二本の足で地に立ち、そして歩くという動作を行ったのは実に久ぶりだろうと彼は思った。そのせいか、歩く動作はいまいち不自然で時折ふらついてしまう。気を付けないと転んでしまいそうだ。 自分の知っている季節じゃないと感じたのはその後だった。間違っていなければ、今の季節は秋と言える。緑色一色に染まっていた大地が所々茶色の葉で染められているのが根拠だった。 通り過ぎる木々には熟成されたオレンの実やモモンの実など、色々な木が実を咲かせていた。ラルカは嫌な事を忘れてしまいそうな不思議な気分に包まれ、思わず会釈する。 季節を愛おしく感じたのはこれが初めてだ。叶うのであれば、こんな不自由な足でも気によじ登って木の実をこの手でもぎ取って食してみたい。そんな緩い願望を持っていた。 「久しぶりの外の空気はどうかしら。夏よりは清々しくていいでしょ」 せっかく久しぶりの外の背景と空気を充実させているのに、不愉快な雌の声が耳に入り、気が滅入っていく。そして何よりも首を繋ぐ忌々しい鎖を彼女が握っているのを見て、尚の事うんざりする。 ラルカは声の主の方に振り向き、軽くにらみ付ける。 「あらら、そんな怖い顔してたらせっかくの気分が台無しになっちゃうわよ。少しは楽しんだらどう?」 「あんたの声を聞きさえしなければそんな気分でいれたよ!」 気分を害された仕返しに嫌味たっぷり含んだ言葉をミミに投げつける。 「ふふ、そんなに照れなくてもいいじゃない。せっかく今日は外でデートなんだから素直になってもいいのよ」 「……あんたは俺の話をどう受け取っているんだよ」 せっかくの嫌味も軽くいなされてしまう。ラルカは次の嫌味を考えるのもばかばかしくなってミミから顔を逸らした。 それを見るミミも微笑ましいと言わんばかりにクスクスと笑い返してくる。この雌には何を言っても無駄らしい。最も今彼女の機嫌を損ねるのはラルカとしても良くない。 外に出れたといっても、監禁されていた時と同じように身は不自由なままだった。両手は手錠で縛られ、首輪を繋ぐ鎖は彼女の腕に巻かれている。その鎖は何ともやりすぎと言わんばかりに何重にも巻かれていてる。 機嫌良さそうに前を歩いている後ろ姿が余りにも無防備で、その気になれば不意をついて倒せそうなくらい隙だらけだった。 完全に油断しきっているのか、或いは仮に襲い掛かったとしても返り討ちにするだけの自信があるのか。どっちにしろ、完全に舐められてると言わんばかりの状況だ。 嬉しそうに鼻歌まで歌い始めたミミを、ラルカは不意にある事を尋ねた。 「なあ、ここは何処なんだよ」 「ん、何が?」 足を止めて、きょとんとした顔で振り返る。 「ここは一体何処なんだって聞いているんだ」 聞かれたミミは首を可愛らしく傾げるだけで何も答えてはくれない。 「言っている意味がわかんねえのかよ? 今俺達は何処を歩いているんだって聞いているんだ!」 声を荒げるほど強く言い放つ。そうすると彼女の顔があぁ、と言わんばかりに表情をパッ明るくさせた。 何かを教えてくれると思いきや、彼女は突然ムフフと微笑むと何故か鼻歌を続けてもったいぶる。 「ふふふ~、何処かしらね~」 「おいっ……!」 いかにも知っていそうで、あえて知らない素振りをする彼女の態度にラルカはイラッとした。 「フンフフ~ン~」 「おいってば!」 咎めるように問いただしても答える様子は無く、再び前に向き直る。ご機嫌そうに丸い尻尾を魅惑的に揺らしながら前を歩き出す。 返答は期待できないと確信したラルカは仕方なくため息を吐く。とりあえずもう一度周りの風景や遠い背景を観察する事にした。 ラルカの周りに見えるのは精々有り触れた自然の風景だった。洞窟を出てすぐに遭遇した森だ。 人工物らしい物は全く見当たらず、左右には見渡す限り木の葉を褐色色に染めた立派な木々が並び、黄緑色の草むらはラルカやミミの腰の高さを超える程に伸びている。 214番道路にも大木にも同じ風景はあったが、どうにもこの辺りは木が密集しすぎている。あの時、兄姉と追いかけっこしていた場所と比べると自由に動き回るにしては障害物が多い。 万が一に不意をついて逃げだしたとしても、動きにくくてすぐに追いつかれそうだ。ミミはそれ計算にいれてこの場所を進んでいるのかも知れない。 今、分かる事と言えばそのくらいだ。空から見る事が出来れば、少なくとも近くに町とかあればある程度は分かるかもしれないが、飛行タイプじゃあるまいし、不可能だ。 渋々と彼女の後に着いていく途中に野生のコロトークや二匹のパチリスが茂みからこちらの方を物珍しげに視線を向けてくる。コロトックはただジッと見ているだけで、二匹組みのパチリスは笑いながらクスクスと何かを話しているように伺える。 向こうはどういう風に見ているか分からないが、間違っても恋人だとか夫婦だとか、そんな風に見ないで欲しいと心の底から願うばかり。その後も、木の枝に止まっていた就寝前のムクバードが自分達の異様な姿を見てポカンとしている。 気のせいじゃなければ、姿は見えなくともあちらこちらから痛々しいような視線をチクチクと刺さる。波動の力なんて使わなくてもそれだけは自然的に感じ取れてしまう。 思わずため息を付きたくなる。今すぐにでも彼女の背後を突いて鎖を奪い取り、逃げ出したい。しかし、いざと言う時が怖い。それに…… 「ここら辺はね、初めて来るポケモンにとっては複雑な地形だから、逃げようなんて馬鹿げた事は考えない事ね。うっかり迷子にでもなったら探すの面倒だから」 「……知ってるんじゃないかよ」 何処かしらねと自分で言っておきながら、森の構造と複雑さを熟知している。ラルカのげんなりした突っ込みにミミは嫌らしくクスクスと笑った。 「そうね。ここは人間が滅多に来ないし、秋になれば色んな木の実が生るし、悪くない場所よ。そしていざと言う時、地形に詳しいアタシの方が有利だしね……」 そう言ってミミはにんまりと不敵な笑みの込めた横顔を向け、背筋に冷たいものが走りだす。ふと思いついた不意打ちも効果はなさそうだと確信した。 手に持った鎖を、見せ付けるようにギュッとすごい握力で握り締める。言葉で言わずとも、力では大きく差があると言わんばかりの威圧感を漂わせる。 「……そ、そうかよ」 本能が自分より強い相手に警戒心が働きかけ内心怯えてしまう。雌相手に怯えるなど雄として情けなく、心の中で自分を毒づいた。せめて言い訳するならば、彼女は強すぎるからだ。 トレーナーの中で、過剰にポケモンの能力を求めたがる輩の間で「ぶい」と呼ばれる単位でポケモンの価値が決められる。同じ種族で、同じレベルのポケモンであっても、その「ぶい」の有無によって能力が若干違うのだ。 ラルカに自覚はなかったが、彼と彼女はその中で優秀な能力を持っている方だ。ミミは自分と同じ優秀な遺伝を持った同類を「高個体種」と呼んでいた。 しかし、彼女はそうであるにも関わらず幼き頃からトレーナーに捨てられてしまった。ほんの僅かな、能力の違いがあっただけで…… 彼女はそれ以来、人間を憎みながら生きてきた。野生の世界でなく、自然の物が殆ど無い都会のど真ん中で、ずっと一匹で生きていたのだ。 幼い頃から苛酷な環境で生き延びてきたミミと、ただ裕福な環境で暮らしてきたラルカ。同じ「高個体種」でありながら、二匹の間では決定的に違う所があった。生き延びる為の力の差が…… その差はレベルと言う形で大きく開き、自由の為に彼女と戦ったラルカは敗れた。自由をもぎ取られてしまった彼は今、彼女の言う幸せの為の生贄にさせられていた。 「アタシは手荒な事はしたくないの、いずれ出来る子供をアタシ達で育てて一緒に暮らす為なんだから、あなたにはなるべく健康であってほしいもの」 「あんな薄暗い場所に閉じ込めておいて何が健康であってほしいだ、おかげで体はなまってしまってよ!」 未だに時折ふらつく足取りで、ラルカは頭に血が上らせて言い返す。自分の都合で不自由にしておきながら自分勝手にも程があった。 「でも不便じゃなかったでしょ。あなたの身の回りの世話はずっとしてあげたんだから、少しは感謝してほしいくらいよ」 憤りの声も彼女は余裕でいなし、その上に世話をしてきた恩人であるかのように言ってくる。 ラルカははらわたが煮えくり返りそうな表情で背後のミミを睨み付ける。ちょうど、背後に振り返っていた彼女は鼻で笑って言う。 「ふふん、そんなに怒るだけの余裕があるならもう少しだけ、"あの時"のお仕置きしの続きをしてあげても良かったかしらね?」 そう口にしながら、生意気と言わんばかりに鎖を巻いた腕を力強く引っ張る。 「ぐふっ……!」 一瞬、呼吸を奪われたラルカは危うく転倒しかけるが、辛うじて体勢を保つ。 自分のみっともない様を見て静かに笑うミミを前にして、情けないがやはり力の差は歴然だと思わせた。 そして歩みを再開させた彼女は、歩きながら言った。 「それだけの余裕があるんだったら、出る前に一発抜いてあげれば良かったかしら。あの木の実を使って……」 「冗談じゃない、あんな最悪な木の実を食ったのは生まれて初めてだよ!」 そう言えるくらいにひどい物だった。それは現実に食した本人だからこそ言える台詞だ。 「あら残念。とっても気持ち良くなれるから気に入ってくれると思ったのにな~」 軽くステップした後、ひょいとこちらに振り返ったミミはけたけたと笑う。勢いで大きな耳が揺れて、二つの乳房がラルカの目の前で弾ませる。 ラルカは歯軋りしながら視線を逸らすように地面に落とす。 「教えてあげようか。あれはね、何処かの地方から運ばれてきた木の実なの。名前はたしかねぇ、う~んと……せーかんの実ぃ、だったけ?」 ミミは視線を下に落とすラルカの顔を覗き込むようにかがみこむ。そこでも魅力的な胸が堂々と谷間をつくり、存在感をアピールしている。 「それが、あのきもちわりぃ木の実の名前かよ……」 ラルカは顔が紅くなりそうなのを抑えながら言った。 すっかりとトラウマの一つとなった木の実が脳裏で一瞬ちらつく。ハートの形をした赤い木の実を思い出した。 「植物の癖にこれあ珍しいのよ。暗くて湿った場所で生えるらしくてさ、日に浴びないで育つ変わった植物なの」 「なんであんたがそれを持っているんだよ。野生のくせに」 皮肉を含めて尋ねると、ミミは横に並ぶように移動しながら答える。 「アタシさ、人間臭い都会から離れてこっちの自然に移り住んでから、ちょっと楽しい趣味をみつけちゃったの」 まっすぐと向いて歩く彼女の横顔が、怪しげに深く陰る。 ただ生きるためだけに苦労をしてきた彼女が見つけた趣味とは一体何だろうか、ラルカは恐る恐る気になった。 「あ、着いた着いた~。ここよここ、アタシが連れて行きたかったところは」 話の最中でミミは何かに気づくと、途端に表情を明るくさせた。嬉しそうにはしゃぎながら、ある場所を目掛けて跳ねるように前へ駆け出した。 「ちょっ、おいってば。急に走るなって……!」 ラルカの呼びかけにも反応せず、どんどんと前に飛び出す彼女。 さっきまでの彼女の怪しげな表情など馬鹿らしく思えてしまうほどの表情の切り替えの早さに、半ば呆れながら鎖に引っ張られないように彼女の後についていく。 ジャラジャラと金属が擦れる音鳴らせながら、両手が塞がった状態で走るのはバランスが取りにくく、足をもつれさせながらもすぐに体勢を立て直しながらで彼女の尻についていくのがやっとだった。 木々の間に差し掛かった所でミミは一度動きを止める。その瞳をキラキラと輝かせながら、目の前にあるものをジッと見ていた。 ラルカもようやくと言った感じで追いつき、その後姿を睨みつつ、彼女が見ているものを自分も見た。そして一瞬、心奪われた。 「うわ、でっかい……」 「うふ、これは気に入ってもらえたかしら?」 横目で尋ねながらふふっと微笑む。 目を大きく見開いてしまうほどに映りこんでくるのは、視界いっぱいに広がる大きな水溜まりだった。 暗い森の中でもその水溜りは周辺を明るく照らし、そこが湖だと気づくのに時間が掛かってしまった。 森達に囲まれているその湖は、中央には孤立するように木を生やした小島が浮かんでいて、月の光が差し込む水は綺麗に反射してきらきらと輝いている。 湖の壮大さにラルカは感動と衝撃に包まれ、深いため息を吐いた。しばらくボーッとしているとミミがうれしそうに笑みながら、じれったそうに言う。 「ほら、そんな所で見てないでもっと近くに行きましょ」 感傷に浸るラルカをミミは手錠された手をとり、強引に引き寄せられる。湖のほとりにたどり着いた二匹はそこで立ち止まり、静かに波打つ水を一緒に眺めた。 透き通った水は底がはっきりと見えて、コイキング達があちらこちらにと気持ち良さそうに泳ぎまわっている。一匹のコイキングがラルカ達の来客を歓迎するかのように水から飛び跳ねた。 名も知らない湖は何処か神秘的な雰囲気を漂わせている。それも、邪心を持った輩を近寄せまいといった、何かの力に守られているようなものを波動で感じ取った。それが何なのかまでは分からないが。 その根拠は、流れる気を辿ってみると、中央に浮かぶ島から伝わってくるものだった。あそこに何かあるのかとラルカは不思議と興味が沸いてくる。 まるでその孤島に湖の守り主が住み、自然の純潔と野生のポケモン達を守ってくれているかのようだ。ラルカは改めて、濁りの全くない湖を前に心奪われて本音をもらす。 「すごくきれいだ……」 「あら、アタシの事?」 ミミは横からひょいと現れ、悪戯な笑みを浮かべる。せっかくの気分を台無しにされたラルカは呆れながら言い返す。 「……んな訳ないだろ。ふざけるなよ」 「ムッ……失礼ね、もぅ!」 不満そうに顔をむくらせるミミに、この皮肉は以外にも効果があったおかげでいくばか気分が晴々した。 「失礼なもんかよ、本当の事しか言ってないしさ。この湖とあんたを比べる方があまりにも失礼だろ?」 更に追加攻撃するかのように満足げに鼻を鳴らす。彼女は真に受け取り、憤りに眉毛を吊り上げた。 「せっかくリッシ湖に招待させてあげたのに、ふ~ん、そういう態度に出るんだこの子は!」 「リッシ湖、ふ~ん。そういう名前なのかここは?」 「そうよ。アタシ達が暮らしている所から一番近い水飲み場だけど、とっても綺麗だからデートの為に連れて来たのよ」 質問に対して、長い眉毛を吊り上げて不機嫌そうに答える。 「あ、ここに花がっ」 説明を最後まで聞かずラルカは畔のすぐそばで大輪を咲かせる白い花に目をくれていた。 鎖の音を鳴り響かせながら小走りでそばにより、身を屈めてそれを見つめる。まるで、神秘的な存在から目が離せない子供のように目を輝かせている。 普段なら、たかがひとつの花くらいで関心を示さないラルカだったが、今は外の風景を含めて目の前に咲く一輪の花が神々しく映っている。 「ちょっと、話を無視しないでよ!」 気に食わないようにミミが詰め寄る。 「デートの為ってなぁ……うぐっ!?」 喋ろうとした所を、突然強い力が首輪を引っ張るようにかかり、両腕の自由が利かないラルカは体勢を大きく崩し、そのまま顔の方から前のめりに倒れこむ。 「この泉を気に入ってくれたのは嬉しいんだけど、アタシとしては気に入らないのよね、ラルカの態度には……!」 いきなり何をするんだと顔に付着した土を首を振って払いのけ、頭を起こす。「くそっ!」と毒ついて睨もうとした途端、後頭部を強く踏まれる。 「いい加減に自分の立場ってのを理解したらどうなのよ?」 「ぐううぅっ……」 「こういう時は女の子に対して、君の方が綺麗だよとか褒める言葉一つくらい言うものなのに、ほんとムードってものを理解しないわよねラルカってさ」 勝手な言い草にラルカは頭に血を上らせる。抑えつける美脚を力を込めて押し返し、苦しそうに歯噛みする。 「誘拐魔相手にムードもへったくれもないだろ……んなもん手に取っている奴が言える台詞かよ……!」 金属音を鳴らす鎖を持つミミの手を指すように睨む。 「……」 ミミは鎖の方に目を落とすと黙り込む。やがて、仕方が無いなと言わんばかりに軽くため息を吐いた。 「これはね、あなたとアタシを繋ぐ愛の赤い糸よ」 「はぁっ!?」 ラルカは驚愕にも等しい憤りの声を上げた。続けて罵倒してやろうとするが彼女は更に後頭部を強く踏みつけ、顔面がめりめりと土の中に埋もれていく。 「冗談じゃないって言い草ね。アタシに負けて屈服した雄の癖に、まだ逆らっちゃうんだ……」 力で負けたからといって、まるで自分から彼女の私物に成り下がったような言い方にラルカは屈辱と怒りで頭に血が上っていく。 「何度も言わせないで頂戴。あなたはアタシのものだって」 身動き取れずに屈辱の中で抗おうとする雄をミミはSっ気な黒い笑みを浮かべる。足はそのままどかさないまま言い聞かせるような口調で鎖を繋ぐ理由を語り始めた。 「これはね、その証なの。アタシ達はまだ愛の結晶が作れていない、そのための鎖。もしあなたに逃げられちゃったらせっかくの幸せを作る切欠を失っちゃう……そうしない為にしっかりと繋ぎ止める、その為の鎖なの」 「な、何が赤い糸だっ……自分の都合で勝手に愛を気取ってるんじゃねぇ……!」 顔面が地面と擦れて苦痛を受ける中、それでも意地として反論する。 「自分勝手で結構よ。アタシはそれしか知らないんだもん、だからあなたはアタシの物なんだから、文句なんて言わせない……」 「そんな奴が子供なんて……いでででっ……くそっ……」 更に言い返そうとしたが、足に加わる力が強くなりすぎて反論が難しいくらいな苦痛をうける。 「アタシはアタシで自分の幸せを掴み取るだけよ。それをどやかく言われる筋合いなんて無いっ! ラルカは黙ってアタシと一緒にいて、子供作る協力をしてくれればいいのよっ!」 「何が愛の結晶だ、子供さえ作れればそれで満足なのかよっ!!」 潰れそうな喉の奥底から怒鳴り声を上げた。これ以上反論したら苦痛から激痛に変わる痛みを受けると分かっていながら、反論せずには居られなかった。 「違うっ! アタシはあなたと………………」 踏み躙りながらも反論を続けるミミだが、そこから先ぐっと何かを堪えるようにして彼女は歯噛みし、やがて飲み込むように黙る。 「別にいいじゃない、アタシはもうそれしか幸せになる道はないんだもん……それなのに……」 ミミは急に落ち込むような口調で呟いた。 「それなのに、ラルカは分かってくれない。あんだけ頑張っているのに、卵は出来ない……アタシは未だに幸せの最初の一歩すら進んでいないのよ。神様って意地悪よね……」 彼女の言うとおり、ミミと一緒になって幾度となく体を重ね合わせてきたが、未だに卵が出来る気配が無かった。 沈んでいく声色は、徐々に独り言に変わっていく。存在の有無さえ分からない神様に対して八つ当たりするかのように、足をグリグリと押し付けてくる。 「んぐぐぐっ……!」 「もしかしてさ、これって生まれながらの罰なのかな……?」 罰とか言っておきながら、やけくそのように鼻で笑って雄の頭部を踏みにじる行為には矛盾を感じさせる。 「アタシはただ、幸せになりたいだけなの……」 気のせいか、ラルカには今の声が涙声に聞こえたような気がした。 「トレーナーには捨てられるし、体は傷ついて、寒さに凍えて、食べ物はすごくまずい物ばっかで、苦しいだけの人生……無意味な生……」 彼女の声が曇り、その言い方はまるで自分は幸せになるには向いてないんじゃないのかと悲しみに満ちていた。頭を踏む力も徐々に弱くなっていく。 「誰もが、当たり前のように持っているものを、アタシも欲しい。それだけなのに……」 悲しそうな声が耳を伝う。彼女に対して同情なんて一度っきりのみで二度とすまいと誓ったが、その決心がひとつの声で揺らいでしまった。 抵抗をやめて、ラルカは胸のうちで問う。頭の中の怒りを沈ませて、冷静に考える。 ミミが幸せになるにはどうすればいいか、それは彼女自身の中でもはっきりしていないのだ。彼女は前に言っていた。母親になれば幸せになれるんじゃないかって…… それは、子供を生んで幸せになれるかどうかは所詮、可能性に過ぎないのだ。今の彼女は、その可能性に賭けて子供を作ることに必死になっている。自分の幸せを形にして叶える為に。 しかし、そうなるとある疑問が浮かぶのだ。どうして自分みたいな父親になるには若すぎる雄が選ばれたのか、子供を作る材料に過ぎない自分が。同じ『高個体種』どうしだからと言って、なにもそれが彼女が雄として選ばれる理由としてはいまいち不十分だ。 その上にミミは、子供を作った後も、自分と一緒にいる事を強く所望していた。子供を作り続ける為ではなく、もっと別の理由があると思った。 過去に自分は彼女に聞いた。ミミみたいな美人なら他の雄もいただろうと。すると彼女はまっすぐ否定するように言い返した。 ――アタシのこの体を厭らしい目で見て、隙を見ては犯そう狙ってくる。そんなの……いくら子供の為でも、あんなクズ野郎共の欲望の捌け口にされて、孕ませられるのは嫌よ! ドスケベで気持ちが悪い! 頭の中でミミの返答が木霊する。そしてもう一度聞いた。自分はそんな目で彼女を見たりはしない、もっと良い雄も見つかると言った。その問いに彼女はこう返した。 ――ラルカの言う通り良い雄が見つかっても、その雄が遺伝子が劣勢じゃ、釣り合わないしね? だから、アタシにはラルカ以外の雄なんてありえないの ミミの二つの答えに、ラルカは強い疑問が生まれる。どうしても彼女が自分を選ばなければならなかった言い訳をしている風にしか思えなかった。理由はわからないままだが…… もしかしたら、子供を生んでも彼女は幸せにはなれないのかもしれない――いや、違う、そうではく、"子供を生むだけでは幸せにはなれない"かもしれない。 他にも、彼女は子供を作る材料程度に過ぎない自分を事を随分と積極的なような気がする。キスを求めたり、雄が喜びそうな愛撫をしたり、その上にデートもだ。 監禁生活だって、翌々考えてみるとそれなりの待遇をされている気もした。強気に強引に出る所があれば、こっちの注文に答えてくれた事もあった。腹が減れば食べたい物の注文を聞いたり、子作りとなれば好みの奉仕など、頼みも聞いてくれた。 こういうのも何だが、あの雄が喜びそうな美しくて抜群なスタイルは自分の気を引こうとする為に自分で磨き上げた風にも思える。 そしてなにより、ラルカに対する異常な執着心だった。野生の世界で何百何千といる雄達を跳ね除けて、自分を選んでくれた。こんな捻くれ者でキスも全うに出来ないガキみたいな自分を…… 恨みと愛情感、恐怖と快楽を一身に買い、誰よりも自分へ関心を求めるミミ。自分とずっと一緒に居たいと心の底から望むミミ。 ミミ、お前の本当の目的は子供を儲けることじゃなく、誰かと一緒に居られる居場所を求めたいんじゃないのか? そんな事を心の裡に考えている間に、いつの間にか彼女の抑え付けていた足がどいていた。それを知ったのは、結構前のことだった。 ラルカはゆっくりと顔を起し、顔面に付いた土を払うこともせずに黙って顔を見上げた。その顔に怒りとか恐怖の色はなかった。 「……ミミ?」 顔を起しすとすでにミミはいなかった。ラルカの視線にあるものは、視界いっぱいに広がる月光に反射する水溜り。 開放されてから彼はぐるりと仰向けになって溜め息を吐きながら、綺麗な夜空を見上げた。何時だったか、こんな空を随分と前に眺めていた気がした。 まだリオルだった頃、街を転々と移動する旅路は野宿をする事は多かった。トレーナーに抱かかえられて見上げた夜空は、ちょうどこんな感じだった。都会の夜空にはこんな点々とする星の光なんて見つかりもしなかった。 同じ空だって言うのに、都会と自然だけでこうも違う。沢山の物が浮かぶ夜空と、何も見えない夜空。 都会で飢えを凌ぐのに必死だった幼い頃のミミは、こんな夜空を見上げた事はあったのだろうか、また、そんな夜空を見て彼女はどう思っていたのだろうか。 それはまるで、自分達の幸せの数を表していたのだろうか。ラルカには沢山あった。トレーナーや兄姉、勝利や名誉、旅路で味わった事のある人の作った菓子など。 そんな日々の暮らしおくってきた彼にとって幸せがどういうものなのかいまいち理解できなかった。 当たり前な毎日。身の安全を保障するボールの中、決まった時間の食事、口うるさく構うトレーナーと兄姉の存在、バトルでもそれほど強くは無い相手とばかり戦ってきた。 すべてが、ただ退屈と感じていた。日に日にそれがラルカにとって息苦しいものになり、刺激を求めて何時しかトレーナーの声を無視し、勝手に出歩く事を始めた。 勝手ばかりをするようになって、周りに迷惑をかけ続けて来た。退屈な暮らしから脱出する為に。それがいかに愚かだと言う事にも気づかずに…… そう思うと、自分がいかに鈍感な生き物だと思い知らされる。 彼女と初めて出会った時、激しく憤った理由も今なら分かるような気がした。 ラルカは体を起して首振って土を払った後、繋いである鎖の後を追って彼女を探す。鎖はそんなに長くは無かった為に彼女をすぐに見つけられた。 ミミは湖から少し離れた場所の切り株に座っていた。彼女はしょんぼりした様子で顔をうつぶせにし、膝を抱えるような格好で座り、手に持っていた鎖はすぐ近くの大木に括り付けられていた。そういう所はしっかりしている。 「おいミミ」 「ん……?」 呼ばれて顔を上げる彼女の表情は、少し元気がなさそうだった。ラルカはさっき言った言葉に少し罪悪感を覚える。 「まさかとは思うけど、気にしてんのかよ」 「……別に、何でもないわ」 ミミは言うとラルカから顔を背けて、うんざりしたような深いため息を吐いた。気のせいか両耳を元気がなさそうに垂れ下がっている。ラルカは気まずそうにしながら、おぼつかない足取りで彼女の座っている切り株の横に座る。 「あ、あのさぁ……」 「何よ……」 返してくるミミの声も刺々しくて、とても自分から言い出しにくい状況だったが、意を決してラルカは言った。 「そのさ……さっきの、ホントごめん……」 「はぁっ?」 ミミの心外そうな返事が返ってきた。そのおかげで余計に気まずい状況になるも、ラルカもミミと同じくらいのうんざりしたようなため息を吐いた後、再び一呼吸する。 「どうしたのよ急に?」 「いや、もしさっき言ったのを気にしてるんだったら、謝っておこうと思っただけだよ……」 「ふ~ん、さっきまで反抗的だったくせに、急に素直になるなんてどういう風の吹き回しかしらね」 ミミは首をかしげて不思議そうにラルカの顔を覗き込む。 「風の吹き回しとかじゃなくて、その、なんっていうかさぁ……あぁ……くそっ……訳分かんないよぉ……」 自分で言った言葉が今となって恥となって帰ってきて、ラルカは言葉につまり、頭を激しくかきむしる。ミミは不信そうに眉をひそめるが、やがてフフッと笑い出す。 「ラルカ大丈夫? もしかして踏みすぎて頭痛めちゃった?」 「俺をトチ狂ったみたいに言うなよ変態ミミロップが! 喧嘩して落ち込んでると思って謝ったのに、心配して損したよ!」 あまりの反応の違いにまるで自分が変になってしまった風に思えてしまい、馬鹿馬鹿しくなって思わず叫んだ。 「心配なんて、あなたにしちゃ珍しい事するのね。でもアタシには必要ないもん。今までずっと一人で生きてきたんだから、いまさら誰かの気遣いなんて……」 「……本当にそうかよ?」 「何よ、アタシが嘘言ってると思ってる? 急に大人ぶって格好でもつけたいの?」 ミミは小馬鹿にするように嘲笑してくる。ラルカにはそれが痛々しく見えて仕方が無かった。 「さぁね。俺がアンタの悲しまぎれの嘘を言ってるから、とても心配だなんて口が裂けても言いたくはないよ。けどな……」 ラルカは小生意気そうに言い放ちながら、その後はやや言いにくそうにもじりながらゆっくりと口を開いた。 「ミミってもしかして、寂しいんじゃねぇのかって……」 我ながら赤っ恥かきそうな台詞をはいた事を、この時後悔しそうになった。しかし、ミミの反応は以外だった。 彼女はラルカの言葉を聞いた途端、小さな肩がピクンと動く。そして膝を抱える手をぎゅぅと強く抱いた。 「何でそう思うの?」 「あんたが俺に拘る理由、それに当てはまっている気がするからだよ」 ミミは何も返さずに黙ってラルカの言う事を聞き入れる。 「聞くんだけどさ、ミミはトレーナーに捨てられてから今日に至るまで誰とも一緒にいないで、ずっとあの薄暗い洞窟で暮らしてきたんだよな?」 「……だったら何。あんまりくだらない昔の事を詮索するなら、後でまた泣くようなお仕置きしちゃうわよ」 垂れ下がった耳を拭うしぐさをして、妖艶に笑む。その瞳は苛立っているのか、おだやかではなかった。 「やりたければ勝手にすればいいだろ。どうせアンタには逆らえないしな。なんかムカつくから、こんな事言いたくねーんだけど、おかげで随分泣きまくったもんな俺って。だからこの際恥じも忍んで言わせてもらうよ」 卑猥な脅しにもラルカは軽くいなすが余裕ぶるもラルカは内心緊張していた。自分らしい言葉で相手に言いたことを伝えた。 「寂しいのなら素直にそう言えよ。俺はもうアンタから逃げようなんて思わないからさ……」 そんな言葉を言った後、ラルカは一気に恥ずかしさが込み上げる。自分でもどうかしていると罵りたくなるほど顔から火が出そうになった。紅潮していく頬を沈める術がない。 ミミは信じがたい言葉だと言わんばかりに首をかしげる。 「ラルカ……?」 「んっ……自分で言って恥ずかしいな……ホント、はぁ……」 ミミの黒く光る瞳をまっすぐ見るのがが妙に恥ずかしく感じ、堪らず彼女の視線から逃れようと空に向けて目を逸らした。 木々の間から覗くのは闇夜に光る無数の星達と、秋を飾る風流な丸い満月が空に浮かび上がっている。大木の木の葉が風に煽られ、気持ち良さそうに揺らいでいる。 だがそれでもラルカの照れくさそうな感情を誤魔化してはくれない。ミミの視線が体中にささり、それがちくちくとこそばゆく感じる。 ラルカはちらちらとミミの方に顔を向けるも、中々彼女と視線を合わすのが恥ずかしくて感傷の無い心で綺麗な夜空ばかりを見つめた。 ずっと一緒に居るのに、初めて味わう雰囲気。誰もこの隙間に割って入ることの出来ない、二匹だけの空間。 「ねぇ、ラルカ。今の言葉、本当なの?」 中々次の言葉を言い出さないラルカにミミが痺れを切らして聞いてきた。 「ん、あ、そうだよ。俺もさ、その……今気づいたんだよ、一人ぼっちって本当に嫌だなって……」 兄姉達にずっと合えない状況が続き、何時しかラルカは内心ぽっかりと穴が開いていた。その原因はミミにあるが、今はそんな事はどうでもいい。 「今まで寂しいなんて気持ちは考えた事もなかったけど、今日まで暗い洞窟で暮らしてきて、逢いたい人達に逢えないままが続いてとても寂しいんだ。ミミの抱えている寂しさは、今の俺と一緒なんだろうなって……」 「……」 ミミの大きく見開いた黒い瞳が自分を映し出している。まだ払いきれていない土が紅潮している頬に付着したまんまだった。 今日までミミの事など意識の中から弾いていたから、ずっと洞窟の中で一人で縛られていると考えていた。けど、改めて考えると、ずっと彼女がそばにいたのだ。良くも悪くもそれは紛れも無い事実。ストックホルム症候群とでも言うのだろうか? 「出来ることならすぐにでも駆け出して、俺を待ってくれている所へ行ってしまいたいさ。でも、そしたらアンタはまた一人になっちまうだろ?」 「……!!」 ミミの黒く見開いた瞳が更に広がっていく。まっすぐと、染まっていたその視線はラルカだけを見ていた。 「あのさ、だから、その……うまくは言えないんだけどさ、もう少しだけ一緒に居てやってもいいかもって……」 我ながらなんと不器用な言い草だと自身を呪いたくなる台詞だった。しかし、たったそれだけの言葉が、彼女の心に深く沁みこんでいた。 「ラルカぁ……アタシ……」 ミミは瞳に大粒の水滴が浮かべていた。その水は次から次へと溢れ出て止まらない。ラルカが始めて見る彼女の雌らしい感情だった。今まで誰かに優しい言葉をかけられた事なんてなかった彼女の心の表れだ。 まさか涙を浮かべるほどの事だとは思わず、ラルカは照れくさそうに頬をかく仕草で苦笑いする。 「ははっ、あんたも雌らしい顔とかするんだな……意外と可愛いいんだな」 半分からかうような言葉にも彼女は全く反応しないまま下に俯き、肩を震わせている。ラルカに涙を見せまいと懸命に強り、濡れた瞳を両手で拭っても次々と涙は溢れ出てはこぼれていく。 その姿が異様に子供みたいで弱々しかった。彼女はこれまで一匹でたくましく生きていたように思っていたが、心の中では捨てられてからずっと孤独で涙を流し続けていたのだろう。 誰にも知らずに一人ぼっちで生きてきたミミはバトルに強くて、そして心はとても弱かった。 拭いきれなかった綺麗な雫が切り株の上にぽたぽたと落ちていく。 会話なくずっとすすり泣くミミを待って、ラルカは上を見上げる。 「とても綺麗だよな。この夜空……」 「……いてくれる?」 まだしゃくれていながらも、俯いたまま彼女はようやくといった感じで言葉を口にする。 「ん?」 「アタシは、あなたに暗い洞窟に閉じ込めて、色々強制したり、ひどい事も沢山した……それなのに、ラルカはアタシと一緒にいてくれるの……?」 それはまるで罪への懺悔の言葉。自身の幸せの為にラルカを犠牲にしようとした罪の意識を表していた。 ラルカはひどい仕打ちをされた事を思い出し、ぐっと表情を強張らせる。 「ミミが俺にしたことは確かにひどかった。強さで敵わず、絶望に打ちのめされた。けど、それもミミ自身の悪意じゃないんだろ? ひどいトレーナーに捨てられて孤独だったのに耐えれず、そうしてしまったんだろう……」 まるで自分に言い聞かせるように呟いた。 「誰だって孤独なんて嫌だよな……」 顔を上げて濡れた瞳を見せた彼女の顔は涙の筋を残している。彼女の泣く顔にラルカは不覚にも胸の鼓動を高まらせた。 ラルカは答えに詰まる。ずっと一緒と言う訳にはいかない。いずれはご主人の元に戻らなければならない。だが今は…… 「あぁ、寂しくなんてさせない。だから無理して子供作ろうとしなくてもいいんだよ」 「んっ……すんっ……アタシはただ……ね……」 何かを言おうとするミミの言葉を制し、ラルカは切り株に身を乗り出すように前に出てミミをまっすぐと見つめる。 「何も言わなくていい。強がってばかりでずっと寂しかったんだろ、その気持ちを俺が埋めてみせるよ」 出来ることなら両手でその震えた肩にやさしく置いてやりたかったが、手錠が邪魔でそうもいかなかった。かわりに許された限り手を左右に広げ、ミミの頬に優しく触れる。 「うぅっ……うっぐ……あり……ぅ……がとぅ……」 涙声で礼を言うミミの黒い瞳に再び涙が込み上げる。 「あぁ、別に構わないさ。ほら、何時までも泣いてねぇでさっさと涙拭いちゃえよ。湖の間抜け顔がそろってこっちを見てるぜ」 「……ぐすっ、え?」 ラルカの言った間抜け面、もとい、真ん丸い目のコイキング達が口を開いたままポカンとした様子で二匹のやりとりを眺めていた。 「ほら、俺達があれこれ言っている家に集まっちまったようだぜ。気持ち悪いぐらい視線を感じるよ」 「うわぁ、ほんとね。ふふふっ……」 気持ちがようやく落ち着いて涙を拭うミミがしゃくれた声で笑いを返した。 当の間抜け顔達は突然噴き出す二匹に訳が分からないみたいで、ただ口をパクパクさせていた。 「ふふふっ……」 「ははっ……」 複数の邪険の無い視線に見守られ、良い感じだったムードはすっかり壊されてしまったが、ラルカとミミは互いに顔を見ながら苦笑した。 悪くないかもしれない。こういうのも…… だが、その時だった。静かだった湖に、一瞬強い風が吹いた。瞬間的な突風に二匹はとっさにお両手で目をまもる。 そしてコイキング達の視線が自分達よりやや上を向いたかと思えば、真ん丸い目がぎょっと大きく拡大される。そしてコイキング達は一斉に逃げ出すように水の中に潜り込み、散り散りに深い底に消えていく。 突然の出来事にラルカとミミは唖然として消えていったコイキング達を一瞥した後、ラルカが背後上に振り向く。突風の正体は通り風などではなかった事に気づく。 「あ、あれはっ!?」 ラルカの声につられてミミも同じ方向に視線を向ける。彼女は驚くことなく湿っていた目つきを鋭く尖らせる。 巨大なシルエットが宙に浮かんでいる。月を覆い隠すほどの大きさが光を遮断し、頭部と思わしき場所から目のような二つの赤黒い光りがラルカ達を睨みつけているようだ。 目が慣れていない内に、突然の来客が言葉する。「お前達、許可なく童のなわばりで何をしているか……!」 ラルカが聞いた声は威厳に満ちた雌のだった。赤黒く光る三つの内、二つの光が細く尖り、威嚇するように羽のような音が頭の中に重く響いた。 「な、何だって?」 ラルカは威圧する相手の声色に臆しそうになるのを堪えつつ、聞き返した。 「ここは童の縄張りであり、そこで貴様達が何をしているのかと聞いている!」 細く尖らせた赤黒い目をくわっと開かせ、スカートを思わせる太い下半身から何かが飛び出してきた。 「ちょっ、待てってば!」 ラルカは攻撃を予想して咄嗟に構えようとしたが、腕が思うように操れない事に気づく。手錠の存在を忘れていた。 ぴんと引っ張った鎖は金属音を鳴らし、左右の手との距離が僅かしか開かない。パンチなどの攻撃が不可能で、これでは襲われてもまともに戦うなど不可能だ。 苦々しい表情で手錠を睨んでいる間に相手の放ったものがラルカとミミの周りを取り囲んだ。ラルカは不利な状態なまま警戒を怠らず、焦らず慎重に周りを伺う。 見慣れたシルエットにラルカはぼそっと呟く。 「ミツハニー……だよな、こいつら。それじゃこいつは……」 「ビークインね」 三つの六角形を合わしたポケモン、ミツハニーの姿を確認してその正体を口にする前にミミが答えた。 目が慣れて、大きなシルエットの姿がはっきりと映し出される。 黄色と黒を横縞模様の蜂の巣を下半身に下げ、丸みのあるボディから黒く細長い爪と赤い宝石のような出っ張りと威圧する二つの目。細かく噛み砕きそうな尖った顎が以下にも虫タイプを表している。 重そうな胴体を長く薄い四つの羽で上手にバランスを取りながら宙を飛んでいる。高圧的な雰囲気と声からして、相手はまるで何処かの女王みたいな態度だった。 それもそのはず、ようやく目にする事が出来た突然の襲撃者ははちのすポケモン、ビークインであった。 ラルカとミミとは別に、ビークインの周りにもミツハニー達が主を守るように前を飛んでいる。 「なるほど、僕に聞いてきてみたと思えば、貴様達はここを荒らしに来たのではなくて双方でイチャつきにきたのであるか。まさか童の縄張りでそのような事をするとは、なんとふしだらな……!」 何をしているかと罵倒してきた当のビークインが、身を固めるように身を寄せ合う様子を見て勝手に結論を出してきた。 「イチャついてるって、何か勘違いしてないか? 俺はただこの女に無理やり連れて来られただけで……」 怒り似たビークインの声にラルカは怪訝そうに顔をしかめて返す。 「なっ……ラルカひどぉい! あなたの心身を気にしてデートに連れ出したって言うのに!」 「はぁ? デートって言うんじゃねぇよ!」 「デートじゃないなら何よ! ただガイドしてもらった程度しか思っていないの?」 ミミの怒りまかせに吐いたとんでもない台詞にラルカは思わず突っ込み返した。馬鹿げた一言のせいで集中力が切れて、高めていた波動が弱まってしまった。 「だからさぁ、ガイドとかじゃなくて俺はただ……」 「ええい、やかましい! 童の前でイチャつくでないわぁ!」 ビークインが怒鳴ると、一匹のミツハニーが敵意を持って接近する。 意識が完全によそに向いていたラルカは気づく事なく、殺気を含んで迫るミツハニーの存在に気づかなかった。 「ちょ、うわっ!?」 しかしラルカは咄嗟に屈みこんで回避運動をとり、上空を通過するミツハニーにすれすれの所でかわした。 これはミツハニーの数少ない技、むしくいだ。相性的に殆どダメージは無いが、相手の懐に忍び込み持ち物と持ち主に危害を加えるというやっかいな技だ。 「おっとぉ……」 ミミも得意な反射神経で横ステップで難なく回避する。 「あれを避けるとは生意気な……」 「話もろくに聞かずに攻撃かよ……いいぜ、しょうがないから相手をしてやるよ!」 ビークインは忌々しそうに唸り、明らかな敵意の眼差しを向けてきた。言って分かってくれるような相手ではないとラルカは確信する。 ラルカはビークインとミツハニーの動きを警戒しつつ、背後にいるミミのそばによりそい、そっと耳打ちをする。 「おいミミっ」 「こんな時に何?」 ミミも小声で返してくる。構えは取っていないものの、意識は回りを飛ぶ敵に集中している様子だった。 「この手錠を外してくれ。これじゃ満足に戦えない……」 「えー……」 要求を言うと、ミミは何とも非協力的とも緊張感の無い声をあげた。ラルカは思わずムッとする。 「こんな時に俺を拘束してる場合じゃないだろ、外してくれってば!」 急かすように両手を上げて手錠を彼女に押し付ける。が、彼女は困った顔で言い出した。 「その手錠の外し方、アタシ知らないのよ……」 「はぁッ!?」 相手に会話が聞こえないように気をつけていたはずのラルカが大声を上げてしまった。 「知らないって、どうすんだよ!? ってか何で外し方知らないのに手錠なんてかけやがったんだよ!」 「だってぇ、そうしないと首輪を自分で外して逃げ出しそうだし……」 ミミは横目で恥ずかしそうにモジモジしながら答えた。 「馬鹿野郎! こんな格好じゃ波動もろくに使えねぇ、この状況どう乗り切るんだよ!?」 頭に血管を浮かばせてミミに強く怒鳴る。 「えっと、なんとかなるんじゃない? あはは……」 こんな状況の中で苦笑いで誤魔化そうとする彼女。 「あのなぁ……それじゃこの首輪はどうやって外したんだよ、え?」 今も首を忌々しく繋ぎ止める首輪に手を掛けながら、ぐいぐいと近寄りながら説明を求めた。 「あれはその、後ろのスイッチとかあって、その後はちょっと言えない……不器用じゃなければ外せなくもないんだけどねぇ」 睨む顔がすぐそばに迫り、困った顔で視線を横に反らしながら、つぶやくように答えた。 ラルカは更に半歩前に進んみ、鼻の先が触れそうにまで近づいて脅かすように言う。 「なら今すぐ外してくれ! 首輪だけでも!」 「やだ」 あっさりと断られる。唖然するラルカと、周囲のミツハニー達がその様子を見てやや戸惑っている表情をしている。 「い、今のは聞かなかった事にしてやる……だから、この首輪だけでも外してくれ」 「やだ」 最初のとまったく同じ口調で断られる。自分を不自由にしておきながら全く悪びれない彼女の態度には、ある意味まっすぐすぎるとすら思えてくる。 ラルカはもどかしさに歯を食いしばり、忌々しい首輪に手を掛けながら嘆きの声を上げた。 「ミ、ミミぃ~……!!」 「そんな嫌がる必要ないじゃない。上の世話とか下の……世話も、アタシがしてあげているんだから両腕が使えなくても別に不憫じゃなかったでしょ?」 ――下の…… 敵がすぐそばにいるにもお構いなしなミミの"ろくでもない"一言がラルカの羞恥心を掻き立てられ、顔が赤く染まるまで時間は要さなかった。 「ば、下のとか言うな……!!」 怒りとも恥ずかしさとも似たような感情が渦巻き、怒鳴ろうとも上手く声に出すことが出来ない。 本人の気を知ってか知らずか、ミミはラルカに向き直ると心外そうに口に手を当てて首を傾げる。 「え、言い方が悪かった? じゃぁ、あなたの溜まった性欲しょ――」 「だぁっ、もう口を開くなっ!!」 ようやくまともな発音が出来た時は、誰にも聞かれたくない監禁事情を口にされる手前だった。 「童を放っておいて何をまたイチャついておるっ! 無礼者めっ!!」 コント染みたやりとりをしている内に肝心の存在を忘れてしまい、その怒りのあまりに怒号をあげてきた。 戦闘開始の手前、無視され過ぎてビークインの黄色の顔は瞳の色同様に真っ赤に染まり、わなわなと震えている。周りで女王を守っているミツハニー達が若干怯えている表情をしていた。 「もはや話すことなど無いわ! 縄張りを汚し、その上に童を侮辱した罪は重い。二匹まとめて地べたで這い蹲せてやろう!」 ビークインの怒気の篭った声が二匹に響き渡る。ミミの方もようやくといった感じでまともに戦いの構えをとる。 「あーらら、本気でキれちゃったみたいね」 「誰のせいだよ。くそっ、一匹一匹相手なんかしてられねぇ。ここは一気にやつを攻めるしかないな……」 無数に浮かぶミツハニー群の奥に構えている女王、ビークインを睨む。両腕の自由が利かない以上、出来る限り一撃で倒したい。そうすれば邪魔なミツハニー達も主をやられて混乱し、木の葉を散らすように立ち去ってくれるだろう。 四の五の考える前にラルカは体を前へと突き動かした。不自由な体勢と感覚が戻りきっていない足を動かしてミツハニー達の間を駆け抜けようと地を蹴る。 それに反応した一匹のミツハニーがラルカの前に立ちはだかり、返り討ちにせんと真正面から突っ込んでくる。その攻撃を持ち前の格闘タイプの感をたよりに彼は咄嗟に身を屈めて交わした。 次に二匹のミツハニー達が左右からまだらな動きを取りながらラルカに迫ってくるのを、得意の反射神経で身を捻り、すれすれな所で避けながら、そして立ち止まる事なくまっすぐ本丸を目指していく。 あと少しで届きそうな所で、今度は真横の左右からミツハニー達が飛来してくる。今度のは楽々回避できそうにはなかった。 苦虫を噛み潰す顔をしながらラルカは左から接近してくるミツハニー達を避けると同時に、もう反対から来た敵を手錠の金具部分を利用して振りかぶって殴りつける。 技でもない攻撃に効果があるか分からないが、ミツハニーが怯んだ。そこからはランダムに回避、攻撃、回避、攻撃の繰り返しになった。 あと少しなのに、ミツハニーの猛攻に対処するので精一杯だった。技と波動の使えない不利な状況な彼の戦いを支えているのは、皮肉にもはめられている手錠だった。 それにしても、ラルカは戦いながら、ある疑念を感じていた。 「くそっ、こいつら油断ならねぇ……野生にしちゃ動きが的確すぎる……!」 不自然すぎる、ミツハニー達の行動があまりにも統率が取れていた。攻撃して一匹を押しのけても、待ち構えていたように次のミツハニーがラルカに攻撃をくわえてくる。 それとは別に、避けると次は逃さないと他のミツハニーからの連携攻撃に迫られ、止む得ず応戦せざる得なくなる。 無駄な戦いはしたくないのに、どうしてもビークインに届かないでいる。 体力も予想以上に激しく消費し、額から流れる汗が雫となって地に落ちていく。 左右と真正面の三匹による同時攻撃を回避と防御で上手く凌ぎきった所で突如、頭部に射すような痛みと共に衝撃が走る。 「ぐあっ!?」 ラルカは大きく体勢を崩して地面に倒れこむ。一瞬何が起こったか彼には理解するのに時間を要した。 三つの方向からの攻撃かと上手く対処したのが油断となり、実は背後からもミツハニーが迫っていたことに気づけなかった。 無防備な部分を見事に"むしくい"の餌食にされた。いくら相性が有利とは言え、これだけまともに食らうとダメージも大きい。完全に油断してしまった。 すぐに起き上がれないラルカに、攻撃を加えたミツハニーはこの好機を見逃ず、すぐさまターンした後に地べたに這い蹲るラルカに追い討ちを掛けようと攻めてきた。 とどめと言わんばかりに凄まじい加速を加えて接近するミツハニー。しかし、その攻撃はラルカに届くことは無かった。 「大丈夫かしら?」 その声の方に泥が付着した顔を向ける。あまり心配してなさそうな雌の見下ろす顔が覗き込む。そしてハイキックの姿勢で伸ばした美脚の先に、ミツハニーの顔が痛ましくめり込んでいた。 色気づいた見た目とは裏腹に強力である蹴りの威力は、一匹の虫ポケモンを一撃で気絶させた。 仲間をやられたミツハニー達は慌てた様子でミミとラルカの二匹を取り囲み、羽音をたてて警戒する。 「しゃにむにに突っ込んでも無駄よ。多分だけど、あいつは"ぼうぎょしれい"で雑魚に指示だして上手くコントロールしているのよ」 「チッ、そういう事かよ。どーりで統率がとれていた訳だ!」 初めて聞く"ぼうぎょしれい"と言う技を聞いて、とりあえず納得したラルカは毒づく。泥を拭って改めて遠くのビークインと対峙する。 ビークインは体内で分泌される特殊なフェロモンで子分達の統率をとっているのである。集団性、社会性のある生き物だからこそ成しえる技だ。 「……んで、あの"ハチノス"野郎の出すなんとかしれいってのを防がないと近づけないって訳か?」 ラルカは確認するようにミミに尋ねる。 「そうね、女王だけに何もせずにお高く留まってて気に食わないけど」 「じゃあどうするんだよ、このまんまじゃらちがあかねえ……」 手錠で繋がれている両手じゃ、このまま戦っても勝ち目は無い。体力の消耗で何れ敗れてしまう。 ラルカの不安をよそにミミは余裕そうに口に手をあてて「ん~……」と、考えるばかり。 「愚かも共め、そう易々と童に触れれるなどと思っているのか? 子兎一匹と両手が不自由な"子犬"の二匹とも、このままで嬲ってやろうぞっ!」 ビークインは考える暇も与えまいとミツハニー達に"こうげきしれい"を命ずる。 四方から、ミツハニー達が襲い掛かる。 視野に入っている数だけでも五匹は確認できる。背後の敵も考慮すれば、当然太刀打ちなど不可能だ。 焦るラルカに、ミミは突然耳打ちをしてきた。 「悪いんだけど、少しの間あいつらの相手をしていてね」 それだけ言うと彼女は答を言う前に、自らミツハニー達の方へ向かっていく。それも、ビークインとは全くの正反対の方向に…… 「え、おい? ミミ!?」 呼びかけにも振り向かず、ミミは自分の目の前にいる逃げ道を塞ぐ三匹のミツハニー達に向かう。ミミは軽やかに跳躍し、最初の一匹をすれ違いざまに"ほのおのパンチ"で殴り飛ばす。二匹目は真正面から接近してくるのに対し、一度地面に着地した後にすかさず片足で跳躍すると六角形の顔面に"とびひざげり"をおみまいした。二匹目のミツハニーは驚異的な脚力の威力をせいで顔面が陥没してしまい、力なく地に落ちていく。 二匹もの仲間をやられた三匹目のミツハニーは接近では敵わないと知り、間接的な攻撃に切り替える。ミツハニーはその小さな体に見合わないほどの羽根を可能な限り羽ばたかせ、強風を巻き起こす。飛行タイプが使える"かぜおこし"だ。これをまともに食らえば風圧に押されて身動きが取れなくなり、他の仲間が彼女に襲い掛かるだろう。 宙にいた状態で強風に煽られたミミは体勢を崩しかけるも大したダメージを受けた様子は無く、片方のしなやかな脚で器用に地面に着地した。そして"かぜおこし"の射線上から外れるように横ステップで移動する。 逃がさないとばかりにミツハニーはその場を固定したまま"かぜおこし"の射線をミミのいる方角へと変えていく。だが、強風に捕らえられる前にミミは余裕そうに長い耳を掻き揚げると、両手を後頭部に当ててわざわざくびれを見せ付けるかのように変わったポーズ(俗に言うセクシーポーズ)を取る。 彼女は冷笑を浮かばせ、赤く魅惑的な瞳を色っぽく細めると片目を弾けるように瞑る。そこから小さなハート型が飛び出し、ゆらゆらと、それも意外なくらい早いスピードでミツハニーに迫る。 不意を突かれて"かぜおこし"を中断したミツハニーだが、逃げようとした頃にはハートの形が円を描く様に取り囲んでいた。 卑猥とも怪しげとも取れるハートの形は、やがて四方からミツハニーに襲い掛かった。一瞬、背後から大きなハートマークの背景がちかっと光ったかと思えば、ミツハニーに異変が起きた。 ミツハニーの攻撃的な目がハートの形に変化し、恋焦がれているかのようにへろへろになっていた。何の反撃もしないままミミに熱い眼差しを送っている。 一瞬なんの技なのか理解しかねたラルカだが、ハッとその技の正体に気づいた。経験と共に。 「"メロメロ"だと……?」 初めてミミと退治したとき、油断して受けてしまった技だ。これのせいで自分はミミに強烈な一撃を許してしまうあの時の激痛を思い出してしまった。 そのミツハニーもラルカと同じ運命を辿ってしまう。間を持たずしてメロメロ状態から隙を突かれ、ミミの美脚の餌食にされてしまった。 それを鮮やかな動きに見惚れ、ミミを一瞬でもすごいと心の中で思い込んでしまった自分が悔しくなる。 三匹目を打ち倒した後、ミミはチラッとだけラルカの方に振り返ると、軽やかに跳ねながら言う。 「それじゃ、よろしくね~」 なんとも軽い口調でミツハニーとビークインに取り囲まれた状態のラルカを残し、程なくして森の方向へと消えていった。 「え、ミミ……?」 引いたような声でミミの名を呼んでも、彼女は戻ってはこない。 「お、おいおいマジかよ!?」 手錠が邪魔で満足に戦うことも出来ないラルカが、敵集団のど真ん中に取り残される。 唖然とする。両手の使えないラルカだけがその場に取り残される。 「あいつ……まさかこんな数を俺だけで……」 相手をしろと言う意味は、自分が逃げるだけの時間稼ぎをしろと言う事だったのか? 彼女はこれだけの数を相手に勝ち目がないと判断し、自分を生贄に捧げたのか。 「ふん、どうやら子犬は見捨てられたようだな。哀れなものよ」 ビークインが嘲笑うように哀れむ。それでも手加減するなど微塵もなく、無言で腕を振り下ろして僕たちに命ずる。 振動するような羽音と共に、ミツハニーが一斉に襲い掛かる。 「わ、わっ……!?」 ミミの時とは違って十匹以上の数を相手にしなければならず、頭でなりふり考えている暇など無かった。 真正面の敵の攻撃を身を反転させて避けた後、間もなく斜め右から続く攻撃をラルカは身を低くしてそれをやり過ごす。それを見計らったように地面ぎりぎりを垂直で飛行するミツハニーが接近してくるのに気づく。奴の目的は屈んでよけた所を顔面めがけて体当たりするつもりだ。冷や汗をかいたラルカは咄嗟に上体反らしですれすれの所をやりすごした。 すぐさま体勢を元に戻し、死角から攻めてくる相手の羽音に気づいて振り返りざまに手錠の鎖部分で受け止める。その状態で両手で挟むように掴むと、そのまま反対から飛来してくる敵に投げつけた。表意をつかれ、よける間もなく仲間と衝突してしまい、散るように左右に落ちていく。 その結果を目の当たりにしてラルカは僅かながら余裕を取り戻す。いける! 両手が使えなくとも戦いようはあると確信する。が、その慢心が一瞬の隙を生んでしまう。背中に体当たりされたような衝撃を受けた。 「うぐっ!?」 頭上を通過するミツハニーが確かな手応えを感じたように薄ら笑みを浮かべているのを見た。 油断したと思ったその次に、二度目の攻撃を右肩にくらう。大きくよろめいたのを好機に次々とミツハニー達の猛攻にさらされる。 背中、横顔、右足、左腕、四方から迫る攻撃に成す術が無く受け続け、苦痛が蓄積されていく。 「ぐふっ、がっ、あうっ……!」 それでもまだ続く、ミツハニー達の猛攻。奥ではビークインが愉快そうに笑っているように見える。 「がはっ、うげっ、ぐうっ……!」 次第に体勢を維持するのも苦しくなり、足元は立っているのがやっとだ。ブラックアウトしそうな視界を頭を振って覚まそうとしたが、真正面から堂々と突撃してくる敵の存在に気づくのが遅れてしまった。 腹部分を直撃を受けたラルカは大きく弾き飛ばされてしまった。 「ぐっ、ちきしょう……!」 「どうした、もうそれでお終いか? 雌の子兎は臆病であれば、子犬の方はなんと軟弱と言えよう。威勢ばかりで童に触れる事は敵わなかったなぁ?」 「この腕とそっちの数を見てから言えってんだクソ……!」 一方的と言える理不尽にラルカは吐き捨てる。 「どれ、これ以上苦しまぬよう楽にしてやろうぞ」 ビークインの目が狂気に赤く光る。そしてミツハニー達が攻撃をやめ、ラルカの前に列を組むように並ぶ。 「やってしまえ僕たち」 掛け声と共にミツハニー達が小さな羽根をいっそうに強く羽ばたかせ始める。様子をみたラルカがやばいと本能が感じ取るも、遅かった。 微弱な風が、脅威をまとった強風に変わるのにそう時間は掛からなかった。 ラルカは強く歯噛みする。近くの植物を激しく揺さぶり、凄まじい風が全身を打ってくる。 何匹ものミツハニーが起こすかぜおこしの威力は予想外に強力だった。足に力を入れて踏ん張っていないとあっさりと吹き飛ばされてしまいそうだ。 普段ならこんな野生のポケモンがする"かぜおこし"などそよ風程度にしか感じられないはずだったが、今は立っているのが精一杯という情け無い有様だ。 目を開けているのがやっとで、反撃するチャンスが覗えない。相性、或いはレベル的な理由もあるが、一番の理由は筋力の衰えと疲労だった。 こんな事ならミミに媚びてでも実のある物を食べておけばよかったと心の中で後悔した。 「あぐぅぅっ……!!」 左右から迫る風は木の葉を巻き上げ、目を開ける事も不可能になってきた。両腕をクロスさせ、吹き荒れる強風から身を守る事しか出来なくなった。 「ホホホホホッ」 無抵抗なラルカをビークインが嘲笑う。相手は何とも無様な姿だと思っているのだろう。 次第に立っている事さえ困難になり、ラルカは強風の中で膝をついた。 ラルカは敗北を前に屈辱を覚えるよりも先に、怖くなっていた。表情は苦痛に歪み、甚振られる弱い獲物みたいに、宛の無い助けを請う。 ――助けて、助けて…… 息が出来ない。殴りつけるような強風が全身を痛めつける。筋肉が圧迫される苦痛、空けられない目、無意識に落ちる涙が風に煽られて横に流れていく。これ以上攻撃され続けられたら、本当に自分は…… だが突如として、強風が止んだ。何事かと弱々しく瞼を開き、映し出された光景に驚いた。 "かぜおこし"をしていたミツハニー達が絶句した様子で自分らの主の方に向いている。そしてその先には女王たる貫禄のある羽ごと背中を大きく焦がしたビークインが横たわっていた。 突然の出来事に一瞬、何がどうなったのかラルカには理解出来なかった。そしてこの状況を作り出した正体が自分の名を呼ぶ。 「傷だらけみたいだけど、どうにか無事のようで安心したわ」 聞き覚えのある雌の声。ミミだ。 「み、ミミ……?」 まさかとは思ったが、自分をおいて先に逃げ出したかと思っていた相手が安心したように微笑んでいる。 「な、何でそんな所に?」 「アタシもラルカと一緒に敵の攻撃を掻い潜って親玉を倒そうとしたんだけど、数が多くてやっかいなの。隙を作るために一度その場を離れたのよ」 どういう事だ? ラルカはミミのいう事に頭を困惑させる。 「あなたがミツハニー共を引き付けている間にアタシが隠れて、こいつがラルカに夢中になった所をぶん殴ってやったって訳」 その言葉にラルカの表情が引きつる。この女は逃げたのではなく、自分を囮にしたんだとようやく自覚した。 攻撃を仕掛ける前までビークインは自分の周りにミツハニー達を囲ませ、ガードを堅くしていた。そしてラルカ一匹になった途端に防御を手薄にしていたのはラルカにも分かっていた。そのタイミングを計ってミミは奇襲をかけたのだ。 そんなミミは悪びれた様子をいっぺんも見せず笑ってみせる。そしてその足元で一撃でノックアウトさせて動かなくなったビークインを足蹴にしている。 従う者と従わせる者の連携が失われ、ミツハニー達は予想外の敗北を悟ったのだろう。主をやられてしまった僕たちは徐々に不安の色が浮かび上がり、統制を失って一匹がフラフラ飛ぶように逃げ出し、それに続くように他もその場を散るように次々と立ち去っていった。 「ふん、親玉がいないと子なんてこの程度ね」 ミミが鼻で笑ってその様子を見送る。 敵が立ち去り、安心したかと思うとラルカは愕然と肩を落とした。 「はぁ……はぁ……」 「大丈夫かしら、雑魚相手に随分と痛めつけられたみたいね」 散々嬲られ擦り傷だらけになったのに、囮にした当の彼女に軽く言われ、ラルカは恨めしそうな顔を向ける。 ミミは動かなくなったビークインの 蜂の巣状の胴体に片手を突っ込ませて何やらごそごそとしている。そして何か手応えを感じると彼女は喜んでみせる。 「あは、やっぱり持ってた。ラルカはそこで待っててね」 「……え?」 何を見つけたのか分からないラルカは疲れきった目で彼女の後を追うと、何かを探すように辺りをきょろきょろする。 「うん、これがいいかな」 湖のほとりに、人が捨てたであろう透明なビンを拾い上げる。丸みを帯びた大きめのガラスが光に反射する。 ミミはビークインの元に戻る。そこから一気に胴体の中に手を奥につっこませ、中からドロッとした綺麗な小金色をした液体を取り出した。 彼女は嬉しそうにさっそうと中をすくっては入れ物に詰め込んでいく。液体がゆっくりと入れ物の中を満たしていく。 「おい、なんだよそれ?」 傷が癒え切らないラルカが痛そう表情を歪ませながら尋ねる。 ミミは質問に答えず、入れ物を十分に満たせるとよいしょと持ち上げ、ラルカの元に来る。 「はい、ちょっとじっとしてて」 彼女は入れ物から手で液体を掬い取ると、それをラルカの傷口に触れようとする。慌ててそれを静止する。 「ちょ、ちょっと待てって。なんでそんなものをつけようとしてるんだよ?」 ミミは手を止めて心外そうにきょとんとする。その目はこんなものを知らないのかと言わんばかりに驚いている。 「え、甘い蜜を知らないの?」 「あ、甘い蜜?」 甘いと言うからには食べ物なのだろうが、聞きなれない単語をオウム返しすると彼女は噴き出すように笑う。 「ぷふっ、ラルカってバトル以外の事は無知なのかしら?」 「何だよ!」 馬鹿にされたみたいで腹を立て、立ち上がろうとする所を彼女に制される。 「あぁ、駄目よ。傷口にぬらないといけないからじっとしてよ」 ミミは片手で強引にラルカを押し倒し、軽い衝撃で擦り傷の痛みが疼いた。 「いててっ、ちょ……ぬるってそれをか? 食い物じゃないの?」 ラルカは不気味そうにミミの手に含まれた甘い蜜をさす。 「うん、これには傷を直すのに良く効くのよ。ミツハニー共の攻撃で傷だらけだし」 ミミは強引に片手の甘い蜜を肩の傷口に塗りたくる。鼻につーんと刺激する甘ったるい匂いとなんとも言えないベタベタした感触に驚く。 傷ついた時は自分の主人から木の実とか薬品スプレーで治療していた為に強い抵抗があった。 「い、いいって。こんなの放っておけば自然と直るって……だから触れないでくれ!」 「だぁめ、傷口から変な菌が入りでもしたらアタシが困るじゃない! ほら、他の所も塗るから大人しくしてちょうだい……!」 他の傷の箇所に触れようとするその腕を手錠の鎖で押しのけようとするが、彼女の治療したがる強引さに押されてしまう。 押し倒されて唯一抵抗となる手錠の鎖で攻防を続け、もみくちゃになる二匹。 「もう、大人しくしてないと怒るわよ……!」 「いいって言ってんだろ。そんなドロドロしたのヤダって、気持ち悪いし……!」 子供じみた抵抗の理由にミミの方もむきになり、意地でも治療してやるといった気迫で力押しする。 不自由な手での抵抗に限界を感じたラルカは、ミミの一瞬をついて塗りたくろうとするその手に両手を交差させて鎖を巻きつけた。 「やった……!」 「あぁ!? もう、帰ったらお仕置きだからぁ! 可愛くないなぁ……!」 「るっせぇ、ちょっと強いからっていい気になるなよぉ! 俺だって何時までもあんたにやられてばかりじゃないぃ……!」 ミミはシンプルな血管を浮かばせながら鎖から逃れようと左右に振りまくる。不安定なせいか、巻きつけた鎖が微妙に、少しずつずれていってる。 それでもラルカはなんとか抵抗を続けようとしたが……その時だった。 「もぉ、離しなさい……よぉ!」 「って、あぁっ!?」 その瞬間、ラルカがぎょっとする。 一瞬の隙を突いたとはいえ、不安定なまま巻きつけたのがいけなかった。 ミミが鎖から逃れようとする抵抗が勝り、解けてしまった腕が勢い余ってミミの別のほうの手にぶつかり、彼女の手から甘い蜜を詰めた入れ物が弾けるように宙に回転する。 二匹が絶句した表情で宙に浮かぶ甘い蜜をスローで追う。 甘い蜜を詰めた入れ物が宙返りして、中から綺麗な黄金色の液体が煌びやかに弧を描かせ、上空からラルカとミミの真上から零れ落ちていく。 「ぶわっ!?」 「きゃっ!!」 二匹は思わず目を瞑った。頭からドロドロした感触の悪い液体を被ってしまう。鼻をくすぐるような甘ったるい匂いが辺りに漂う。 次に瞼を開いた時には、互いに傑作な光景が映し出されていた。 長い青い耳、ぶら下げたような黒い房、鼻の先、棘を生やした体毛、両手を拘束する手錠にまで黄金色の液体を被るラルカ。 細く尖った淡色の眉、垂れ下がった立派な耳、そして魅惑なボディラインを満遍なく汚すように降り注がれたミミ。 二匹は揉み合っている内に甘い蜜を全身に被ってしまい、みっともないべとべと姿をお互いに晒していた。 「……」 「……ぁ」 無言の中、ミミを見上げていたラルカが気づく。 すでに地に落ちてしまったかと思っていた透明なビンが、未だにクルクルと宙を回りながら重力に従うように落下していく。ミミの頭の上に…… 「いたっ!」 頭から硬い物にぶつかる衝撃音とともに彼女の悲痛な悲鳴があがる。 ビンがぶつかった衝撃でミミの体が崩れるようにラルカの上に落ちていく。 「うおっとぉ?」 受け止めようとするも出来ず頭から強くぶつかり、ゴツンと鈍い音が鳴り響く。ラルカはとミミは崩れるように倒れては二匹そろって重なり合うように横たわった。 頭の中が真っ白にクリアになった一瞬の後、綺麗な星がチカチカと光ながらラルカの上を回っている。 異変に気づいた頃には意識が回復してからだった。ラルカは胸がトクンと高鳴るものに襲われる。体が熱くなり、甘い蜜とは違う刺激のある匂いに興奮が高まるのを覚える。 そこで理性を働かせていた頭の中が「しまった!」と危機感を知らせる。そう思わずにはいられなかった。その理由は異性を惑わす彼女の体に思いっきり触れてしまった。 異性を惑わす悪魔的なメロメロボディがラルカの異性的な部分を、鼻腔を、頭を、強烈に刺激していく。ただ重なっているというどうと言う事ない状態でも、理性を奪われてしまう。 その上、雄として反応にとどめをさしているのが押し付けるような圧迫感の正体である、雌特有の卑猥な脂肪が乗っかっていた。 「ミ、ミミちょっと……!?」 「うぅ……んぅ……」 退いてもらおうと彼女に問いかけるが、頭をぶつけた衝撃で中々意識を取り戻せないでいる。 「ミミ、おいってば……」 両手が塞がっていて自分からは退かせる事が出来ないラルカにとって、この状況は非常に危険だ。雌のフェロモンに雄が反応してしまい、身に起きてしまう。 「いててて、ラルカったらもぉ……!」 ようやくミミが意識を取り戻した頃には、すでに遅かった。 「せっかく傷を治してあげようとしたのに、あなたって奴はぁ……あれ?」 ミミは痛む所を擦る最中、違和感に気づいたようだ。ラルカはやばそうに顔を赤くする。 目をぱちくりさせた後、右手をゆっくりと違和感ある方向へと移動させる。そこは、今ラルカにとって向かって欲しくない所へと進んでいる。やがて本人の意思に関係なく、たどり着く。 「あぅっ……」 情けない声が洩れてしまった。傷を負っていると言う状態でうっかり"起き上がらせてしまった"物を触れられた衝動から…… 「あらぁ、これってもしかしなくても……」 もしかしなくても、彼女の言いたい事が予想できてしまう。 「今ので起きちゃったんだ」 彼女が見下すように微笑んでゆっくりと身を起こし、上から跨る体勢でラルカの"物"を再確認するように撫でていく。 「や、やめて……!」 「ふふ、手の中でむくむくと大きくなってきてるわよ」 口に手を当てて噴き出すように笑い、瞳は別にその気になっている事を喜んでいるような色目を情けない雄に送る。 手のひらの中で急成長していくそれを掴み直すと熱い脈動を感じ取るように全体を上下に擦る。 「ふっ……ちょっと、まてって……」 ほとんど力を入れないソフトな触れ方が逆に敏感に刺激されてしまい、自身の意思に反するように雄の物が成長を続けていく。 ミミは低く、喘ぐように笑む。もちろん待ってくれたりなどせず、三本の指を絡ませるように物に巻きつけてくる。 「こんな時にも発情しちゃうなんて、ラルカって意外と性欲強いんだ」 「違うって、ミ、ミミがのっかったりするから……ってかその手をとめてくれ……」 あくまで言い訳するが、下半身から微弱に伝わってくる刺激に言葉に説得力が失われていく。 「いやなら自分で沈めてしまえばいいじゃないの。それが出来ない癖に強がっちゃってさ」 「これは、その、あんたの体が原因で……って違う……うっ……その、だから……」 「あら、アタシの体がいけないから治まらないっていうの? どうしてかしらねぇ」 意地悪っぽくとぼける。そして顔を少しよせて目線をあわせるともう片方の手でラルカの腕を取り…… 「それとも、ここが原因なのかしら……」 ぐいっと引っ張り、そしてお返しと言わんばかりに自らの二つの巨乳に押し当ててきた。甘い蜜の掛かった雌の脂肪ごと手のひらが覆いかぶさっていく。 「うっ……ちょっと……」 何時触れても慣れそうにない感触と弾力にラルカの表情が引きつり、火がでそうなくらい顔が赤く染まっていく。そして下半身もそれに呼応するように血液が集中していく。 ミミはうっとりと目線を送りながら胸でラルカの手の暖かさと雄棒の感触を堪能し、楽しむ。 「やっぱりそうだったの、アタシの胸がいけないらしいわね。ラルカのここがカチカチになってるし……」 よりいっそうに自分の胸肉に沈み込ませるように強く押し当て、甘い蜜がヌチャッと押し広げられる甘美な音が響く。 抵抗力を失ったラルカは嫌でも伝わってくる雌の体温と感触に硬直してしまう。 メロメロにした本人が雄の反応にメロメロになってしまい、強引に触れたり触れさせたりの宴を始める。ミミは雄肉を開放させ、しばらく放置した後残った胸に触れていない方の手を広げさせ、別の胸を揉ませる。 鎖の長さを微妙に余らせ、ラルカの両手がふっくらした巨乳に支配され、重みを感じさせる柔らかい肉の中に沈んだり弾んだりを繰り返す。 「んあ、はぁ……うふふ、気持ちいい?」 分かっていて、わざとらしく感想を聞こうとする淫乱な雌獣の問いに困惑と動揺を隠し切れず、素直な答を口にしてしまう。 「あ、あぁ、ちょっと重い。あと暖かい……」 それと、なんかヌチャヌチャする。甘い蜜の匂いがブレンドされて僅かな理性さえも飲み込まれていくように掌の中の脂肪を味わう。 毎日強引に求めてくる彼女の姿が、今日だけは何時もと違う気がした。多分、外でするのは初めてだと最初は思った。 月の光がミミの背後から差し込み、若干陰る赤みのかかる彼女の淫らな姿が強調され、ラルカは今までに知らない興奮を覚えていた。そして無意識の内に彼は彼女の力を借りずに、両胸を左右に押し広げるように揉むスタイルを変えていく。 すぐにそれを感じ取ったミミは自然と手の力を弱めてゆっくりと離すとラルカのリードにまかせていく。彼女とて、ラルカの方から愛撫されるのは初めてであろうか、初々しい眼差しで見守っていく。 「んふ、んん、あはん……」 初めて自分からする愛撫に緊張しながら、左右に広げては掴む力を少しだけ強めては深い谷間を作るほど寄せたりを繰り返して、次に円を描くように回して揉んでいく。寄せ合わせていく内に彼女の胸に付着していた甘い蜜が全体に広がって滑らかに変わる。 ラルカの両手も甘い蜜でべとべとになって若干手がすべりそうになるが、それが返って巨乳が撫でやすくて不便には思わなかった。逆に、新しい感触の発見に興奮が高まっていく。 「すごいよ、なんかこれ滑る……」 「ラルカいいわ、なんだか心地良くて気持ち良いの……」 肩の力をすっかりと抜いて両手を遊ばせていたミミが素直な気持ちを口にした。 ミミにもこのぬるぬるが好評だった。食用だった甘い蜜にこんな使い方があるなんて互いに知らなかった。何処を触って揉んでも、指が滑り、掴むと弾ける。 ずっとこの踊る巨乳を味わっていたかったが、下半身の物が構ってもらえないのを抗議するかのように痛く張り詰めていた。 「ミミ、その、何だか俺のあそこがすっごい張ってて痛いんだけど……」 胸を揉む手を休めずラルカがミミにせがむ。彼女はこの心地良さを失いたくないのか、色っぽく瞳を細めて悩む。そして横目にした物に目が行くと、彼女はもっと厭らしい事を閃いて口元をゆっくりと吊り上げる。 「そうなの……ねぇ、おなかすいたりしてないかしらぁ……?」 唐突な質問の意味が理解できず、お構い無しに彼女はラルカの両手を取って、胸から引き離す。 「甘い蜜、舐めさせてあげる」 ミミは横で転がっている中身が半分も無くなった甘い蜜のビンを手に取ると、異様な事を始めた。 片手で胸の支えながら魅了するように深い谷間を作りだし、そこからビンの中に残っていた甘い蜜を運ぶとそこからわざと自分の胸の中に零すしていく。黄金色の液体はゆっくりと谷間の中に吸い込まれるように落ちていき、そこから漏れる事なく溜っていく。 そして用済みになった入れ物を転がすように捨ててしまった。 ラルカには彼女が何をしているのか理解できず困惑する。 「な、何をしているんだよ……」 甘い蜜が落ちないように両手で胸を寄せて支えたままラルカから降りた後、その口から淫乱な囁きが届く。 「ほぉら、見てみなさい。アタシのおっぱいに甘い蜜が溜まってるでしょ?」 目の前に迫る巨乳の間に、甘い蜜の池が出来上がっている。意図を察したラルカはミミの厭らしい過ぎる発想に喉が鳴る。 こんな時になんだが、過去に彼女の胸の圧迫で情けなく果てた時にその艶かしい胸の谷間を自分の白濁液で満たしたのを思い出し、甘い蜜と重なってしまう。しかし、それらを舐め取るなどと言うのは全く無かった。 「それってまさか、ミミの、胸ごと……」 想像しただけで更に下半身が痛んでくる。 「そう、ラルカにこれを全部舐め取ってほしいの。下品な犬みたいにアタシのおっぱいを掴みながら、その舌でペロペロと舐めるの。いいわね」 「……」 「そうしたらラルカのここ、気持ちよく抜いてあげるわ」 ふわふわ毛の指先で雄の性器にちょんと触れる。それだけで痺れる程の快感がラルカの中で駆け巡る。 犬らしく舐めろなどと屈辱的とも言える頼みすら逆らう事が出来ず、反発するよりも先に奉仕する行為に移るその身は、心と共にすっかり調教されてしまったと自覚せざる得なかった。 「全部舐めればいいんだな、うん……」 はち切れんばかりの肉竿を開放させたくて息遣いを乱しながら言われるがままに彼女の胸に手をかける。隙間が空いて甘い蜜が零れない様に柔らかい肉をがっちりと押さえる。 肉の窪みに浮かぶ黄金色の湖に顔を寄せつけると震える舌を伸ばし、ぴちゃん、ぴちゃん、とすくい舐める音が厭らしく響く。 「んふっ、そうよ。んぅ、上手、良い子よ。アタシのおっぱいの蜜は美味しいかしら……?」 甘すぎる味が口の中に広がっていく反面、あまりに濃厚な液体は一口で飲み込むにはとても苦労をするが、そんな事など構いはしなかった。 「んく、ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ、ペロッ、じゅぅぅっ……」 高ぶる性への開放を求め、無我夢中に欲望のまま乳房に付着した甘い蜜に一心に舐める。時に両手の中にある胸を押したり引いたりと胸を弾力で弾ませていく。 「そんなにがっついちゃって、ラルカはよほどアタシのおっぱいが好きなのねぇ」 ミミは変態染みた喜びと優越感に頬を紅潮させると、母性本能を擽られたのか子供をあやす様に頭を優しく撫でる。ラルカ自身も子供扱いされた事などお構い無しに性欲に突き動かされるままに蜜を舐め続け、口の周りはべたべたになっていた。 最初は羞恥心から否定ばかりしていた卑猥な乳房も、時と体を重ねる内にすっかり虜になってしまっていた。そう気づいた頃には谷間に集められた甘い蜜が全部舐め終わった時だった。 「はぁ、はぁ、ぜ、全部舐めた……だから、今度は……」 要求を終えたから今度はこちらの要求を受け入れてもらう番だと主張しかけるが、しかしミミはその口元に指を押し付けると挑発的な笑みを浮かばせ、残酷な事を口にする。 「うふふ、まだ終わってないわよ? ほらみて、周りのほうがまだべとべとしてるでしょ? ぜぇんぶ舐め終わるまでしてあげない……」 「そ、そんな……!」 この雌は何処まで自分を追い詰める気なのだろうか。 すでに最大にまで張り詰められた雄肉が我慢の限界を訴えている。このままだと性欲が発散できず自我が狂ってしまいそうだ。必死に懇願するもミミは聞き入れない。 「おっぱいを全部綺麗にするまで、ご褒美はお預けよ。このままじゃアナタも辛いのでしょ、早く綺麗にしてちょうだい。ウフフ……」 サディスト染みた眼差しで胸を触ったまま辛そうに見上げるラルカを見下してくる。 目に涙を浮かばせるも、逆らう余地はなかった。一刻も早くこの辛さから開放されたかった。意地悪な要求も涙と一緒に飲みこみ、諂うように胸の愛撫を再開させる。 ラルカは舌肉を胸の周り滑るように這い進ませながら残りの蜜を舐め始める。ふにゅふにゅした感触が舌先から伝わってくるのが、尚の事辛く感じる。 おあずけをくらって焦燥感に駆られるあまり、脂肪が弾むばかりで進まない。甘い蜜をすべてを取り除くのは思いの他困難だった。自分を魅了し惑わせ、綺麗にするのに手間がかかるこの巨乳が憎らしい。 口の中が甘ったるい味に満たされても尚、がむしゃらに舌を滑らせる。 「ちゅぱっ、ちゅっ、ぺろっ、ぺろっ……」 「んあっ、そんなにがっついちゃって、ラルカったらまるで子供みたい……」 雌の乳房ひとつに雄が必死になっている姿をミミは喘ぎながら、愉快そうにしていた。 ミミはこんな情けないラルカを見るのが大好きだった。何時も幸せな家庭作りに否定的で尚且つ反抗的だった彼が自慢のスタイルの前に無抵抗にメロメロになり、自分で発散する術を知らない純情さ故に苦しみ、プライドを捨てて性を露にした未熟な雄を見せてくれるラルカが愛おしかった。 だからもっと意地悪したくなる、性的に。お預けにしてみたり、焦らしたり、時に疲れ果てるまで彼の肉体でもみくちゃにして苦しめたりと、とことん雄としての誇りを粉々にしてきた。ぎりぎりにまで追い詰められて情けない子供の本性を自分だけに見せてくれるラルカがミミは大好きだった。彼のトレーナーや慕っていた兄姉にも見せた事のないその表情。会った事も無いラルカを繋ぐ目障りな輩に対し、優越感もあった。 強かったり格好が良かったりなど、そんな建前など彼女には関係なかった。もっともっと意地悪して、泣かして、懇願させて、自分だけがラルカを解放させられる存在だとはっきりとさせられるのだ。 ラルカが自分だけの物だと認めれるその瞬間こそがミミにとって何よりの至福だった。 「おっぱいの次は、足も舐めてちょうだい。こんなにべっとりとついてるでしょ。これもゆっくり丁寧に、あなたの舌でね……」 「…………」 ラルカは何一つ反論もせず物乞いするような上目遣いで見つめた後、黙って顔をすらりと伸びたしなやかな足元へと移動する。もう口答えするだけの気力もないのだろう。 ミミは余裕ぶってはいるが、すごくドキドキしていた。野生のポケモンには無い自分で見惚れる程の美脚を他の雄には決して気安く触らせた事などなく、今からラルカがそれを汚し、奉仕していくのだ。興奮が高まらない訳がなかった。 「んちゅっ、ぺろ、ちゅっ、ぺろ……」 震える彼の舌先が、まずはむっちりしたふとももに伸びていく。 「あふっん……いいわよ、そこから来るなんて分かってるじゃない……」 僅かに身を震わせたミミは自慢の美脚を崇拝するように顔を下げて舐める雄の姿に好感触にうっとりと顔をほころばせる。 ラルカは舌先を黄金色の蜜に触れさせ、そこから内股から外側にかけて滑らすように舐めていく。しかしべったりと付着していて簡単には取れず、寧ろ舌の後を辿るように広がっている。 思いの他ぐずぐずと苦戦をしているようだが、そんな焦らしが逆にミミの高揚感を高まらせていく。 アタシは何処まで彼を蹂躙させたいのだろうか。自分の中の欲求がラルカをさらに性の下僕として支配したがっている。体が火照り、下半身の滑り感が止まらない。 「舐めるだけじゃ駄目よ、舐めたらそこをキスするのよ。あなたの痕が残るようにね……」 次のステップに行く前にまた焦らし、ふとももへの口付けを命ずる。ラルカは少し戸惑いを見せた後、舌を引っ込ませて内股から唇を押し付けてくる。 「くっ、ちゅっ……ちゅっ……」 彼の唇が自分の太ももに触れている。深く、痕が残るくらい強く押し当てている。今まで抱き合った中でこれは始めて味わう感触だった。 そして言ったとおり、彼の口付けた後には彼の付けたマークが茶色の毛皮越しに薄く残っている。 「んぁ、こんなの初めてぇ……ラルカがアタシの唇だけじゃなくて足にもキスしてる……」 高ぶる高揚感に胸の鼓動の鼓動が熱く刻み、ミミは自身の下半身から漏れそうな程の湿り気を覚える。彼の肉棒が欲しくなってくる頃だが、まだそれを欲さず愛撫を要求する。 「そうよ。いいわ。今度はそのまま下の方に行って。脚のつま先を綺麗にするのよ」 片足のつま先を艶かしく上げると舐めやすくしようと彼の顔に近づける。すらりと伸びたラインをラルカに魅せつけて誘う。 「この足を全部、あなたのお口でするの。いいわね……」 彼は何も言わず、ぽぉっと見惚れた後にすぐ愛撫を再開させていく。不器用な舌の動きがくすぐったく、心地良かった。太ももから膝へ、膝から淡い色もこもこした脛辺りまで、甘い蜜の付着した所を辿るように進んでいく。 「んっ上手……気持ち良い……」 ぞくっと身震いし、喘ぐミミの表情にも赤みがかかりはじめる。 唾液の後を僅かに残しながら舌先がようやく目的の場所まで到達すると、両手で美脚のつま先を持ち上げてそこから丁寧に舌を滑らせていく。 あらかじめ踏んで付着させていた足の裏の蜜を近づけさせる。僅かに泥を含んで汚れた場所でもラルカは微塵も戸惑いを見せず、丹念に舐め取っていく。 雄が雌の足に口付けするなどと屈辱的な行為をしているにも関わらず、ラルカにはその憤りがまったく感じない。本人にも不思議と思えてくるほどスムーズに美脚愛撫が進んでいる。そのくらい性欲に切羽詰っている証拠なのかもしれない。 ミミは自分の両手で胸を揉み始め、彼の付けた唾液と共に自慰をはじめる。 「んはっ……ぴちゃっ、ぴちゃっ、ちゅぱっ……」 「んぁっ、んっ、足の裏も丁寧に……はぁん……」 性を自己発散できないラルカの目の前でよがる声を上げる自分を卑怯に思いながらも、愛らしい彼の表情をオカズにせずにはいられなかった。 唾液の湿り気を感じながら自分が気持ち良いまでに胸を上下に揉んだり左右に押し広げたりと、下半身の愛撫と胸の自慰に快楽を楽しむ。 幸いにもラルカは鈍いのか、愛撫に集中し過ぎているのか、ミミの自慰行為には気づいていないようだ。 「はぁ……んぅ、もっとべちゃべちゃに舐めてぇ……ラルカぁ……口の中に咥えて綺麗にしてぇ……」 「んぶぅっ……!」 ミミは興奮するあまり美脚のつま先を前に突き出し、ラルカの口内に押し込んでしまった。一瞬、彼の悶えるような声を耳にしたが、彼女は一向に構いはしなかった。 蕩けさす様な生暖かいラルカの口内、彼の痙攣する舌肉がつま先に触れているのが分かる。口の中の唾液がつま先をさっそくとべとべとに汚していく。 「早く綺麗にして頂戴、あなたもずっと舐めてるだけじゃ苦しいでしょ? 何時までもぺろぺろしていたらアタシばかりが気持ち良くなっちゃうのよ……?」 ラルカのじれったさにミミは急かす言葉を投げる。大分蜜が減ってはいるも、まだ完全に綺麗になってはいない。淡色の毛を掻き分けるように舐めるのに手間取っているようだ。 「くぅ、自分ばかり……ずるいぞミミ……」 ミミの自慰に気づいたラルカは口周りを唾液と甘い蜜で汚して若干涙を浮かばせながら、恨めしそうに呻いた。 下半身を見なくとも、少なくとも彼の若い欲棒が行き場を求めて我慢汁を流しているに違いなかった。 「何時までももたもた舐めているからよぉ、んっ……それとも、アタシの足に見惚れていて、それでわざとゆっくり味わっているのかしら、うふふ」 「……ちくしょうっ、くしゅ、ぺろっ、ちゅっ……」 言い返せず、言い返すだけの余裕が無く、悔しそうに顔を強張らせながら残りの所を愛撫していく。 その間にもミミは彼の膨れ上がった性欲を刺激するかのようにわざと大きな声で喘ぎ声を聞かせて続ける。 「はぁ、んぅ、ラルカの涎のついたおっぱいが気持ち良いのぉ……んふぅ、はあぁん、アタシ……イっちゃいそう……」 まだ絶頂には程遠くとも、気持ち的にはすでに舞い上がってはいた。このまま胸の愛撫だけで意識が飛んでいきそうだった。 じっくりと喘ぎ声を聞かせていくうちに、彼の愛撫が焦るかのように激しさをましていく。そろそろ限界が近づいているようだ。それでもミミはまだ褒美を与えない。何処まで性欲を引っ張れるか、興味があったからだ。 「んちゅっ、ぺろっじゅるるっ、ちゅれろっ、ぺろっ、ぺろっ……」 ラルカはようやくつま先の所を全て舐め終える。唾液の後が多少残るものの、しなやかな足は黄金色の液体を殆ど残さない状態で綺麗に舐め取られていた。彼は見事に犬としての要望を応えた。最後にミミはその証を求めるように甘く囁いた。 「うふふ、上出来よ。やれば出来るワンコ君ね……それじゃ最後に、足のつま先にキスしなさい。そこも、痕がしっかりと残るくらいに口付けるの。いいわね……」 最後まで焦らされて情けない顔を歪ませたりしたものの、反発する事無く彼は両手で足のつま先を持ち上げ、唇を付けた。その姿は何処か紳士的で、数秒にわたって口付けは続いた。 その唇の感触はしっかりとミミに伝わった。まるで彼が永久にミミの下僕になる事を誓うかのように…… 「んっ、素敵ね、完璧よ……それじゃ、今度はアタシの番よね……」 「はぁ、はぁ……」 ミミは美脚をラルカの唇から引かせると下唇をペロッと舐めて艶かしい顔つきになる。 「ほら、だらっと座っていないでそこで立ちなさい。ずっと我慢してて痛いまでに勃起させたものを見せてちょうだい」 ラルカは言われるがままに息を切らしながら、ふらふらと立ち上がる。情けない彼の表情とは違い、下半身の青い地毛から今にも張り裂かんばかりの欲棒が上を向くように突き出していた。 我慢汁で先端部が濡れて照らし、ビクビクと震えているのが分かる。今まで見たきた中でも特に膨張していて性別が違えどもこれだけで痛い理由が理解できる。 「うわぁ、すごくビンビンになってるじゃない。よくこれだけ我慢できてたわね、素敵だわぁ……」 「ミミ、もう本当に限界なんだ……もったいぶらずに早く……」 褒め言葉はいいから早く沈めてくれと彼が急かす。言われなくともそうするつもりだ。肉棒からむんと漂う雄臭がミミの頭を甘く蕩けさせる。 欲望を構わず剥き出しにする雄は好きではないが、自分の為にここまで欲望を高まらせ我慢し続けてきた雄は嫌いじゃない。 震えながら快楽と発散を待ち望む若い雄を前に、ミミの性的欲求が大きくくすぐられた。しかし、これをねっとりと奉仕したらどうなるだろうと、興味と共に興奮が沸き起こる。 「えぇ、いいわぁ……じっくり可愛がってあげる……んむっ……」 ミミは右手でラルカの腰に添えまがら大きく口を開け、血液が集中しきった熱くて硬い肉棒を半分以上も頬張った。 「ふあっ、ああぁっ、あぁぁ……!」 咥えた途端に、一瞬ビクンと震えたラルカから女々しい喘ぎ声が響いた。それと同時に口内の肉棒がびくびくと大きく痙攣を起こし、今までに無い珍しい反応を見せる。 ミミは頬張った状態で彼を見上げた。 「お口で咥えただけなのにそんなにきもちひい? おひんひんが敏感になってるのれ」 口の中で火傷しそうな肉棒をじっくりと味わいながら、弱々しい彼の喘ぎにうっとりとした表情になった。このまま口を動かすとどんな風に淫らに鳴くのか、そっちの方の興味が高まっていく。 ゆっくりと頬張った口を前進させ、ラルカの肉棒を飲み込んでいく。そこでまた小さく痙攣を起こす。またゆっくりと口を引かせ、ピストン運動を始める。 「はっ、ああっ、ミミの口の中、熱……ぃ……」 「んむっ、じゅる、んむぅ、じゅるるっ、すごいビンビンひてる……」 スローに前後させ、唾液をねっとりと絡ませながら頬の内肉でしっかりと肉棒を包み込む。進む時は舌で舐めながら、戻る時は吸いつくように引かせる。 我慢汁が唾液と絡みついて口の中がすごく粘つくのが分かり、舌先で肉棒の先端部をちろちろと突いていく。 「あぁっ、くぅっ、み、ミミ、最初っから舌で弄らないで……変になりそうっ……!」 理性を半分失っていたミミは欲望のまま奉仕するあまり、最初から遠慮無しにラルカをせめていたようだ。けど、そんな事構うことなどなかった。彼が望んだ性の発散だ。高ぶる感情に委ねて口淫を早めていく。 「じゅぷっ、じゅるるっ、じゅぷっ、んちゅるっ……」 「はあ、あぁっ……ミミの、すごく吸い付いてきて、撫で回されて、やばいよぉぉ……!」 肉欲を求める勢いと共に舌先で竿を左右に舐め回し、先端部の穴から吸い上げての激しいフェラ攻撃に早速もラルカが悲鳴を上げた。雄らしくない情けない声が、返ってミミの意地悪心が強くくすぶらせる。 先端や中央部だけでは足らなくなり、唇で肉棒全体を扱い、更には根元の部分にまで奉仕が進んでいく。口内で喉が突かれようとも彼女は殆ど苦に感じない。逆にそんな息苦しさが返って快感だった。 「はぁ、んむぅっ、じゅうぅぅっ、じゅるるっ、んぅむっ、じゅうぅぅっ……」 「あ、あぁぁ、そんなにしたら、俺、もう、でそっ、出そうになるぅ……!」 散々焦らしたラルカの欲望が頂点に達しようとしている。最初の射精が迫るにつれてラルカの下半身が微弱に痙攣を起こしているのにミミは薄々気づきつつも、硬くて生暖かい肉棒の味に夢中なままペースを落とさない。 時々上目遣いで見上げ、絶頂に歪む彼の無様で愛らしい表情を楽しむように眺め、舌肉で先端部の穴をちろちろと突き、これまた違った雄の反応を楽しんでいた。 「はうぁっ、やっ、そこ舌で弄ったら、俺、だ、駄目になるっ……!」 何時ものとは違ったフェラにラルカは快楽に負けてノックダウンしそうだ。射精に至る前に彼の気力が続くかどうか見ものだった。 すでにミミは何時でも口内に精液をぶちまけてくれて良かった。けど、こんな反応を見られるのであれば、もう少しラルカを苛めてみたい気もした。 そこで彼女は絶頂手前のラルカに意地悪を試みる。わざとらしく口の動きを遅くしてみた。 「んちゅっ……じゅるっ……ちゅるっ……じゅずずっ……」 「ふぅ、ふぅ、えっ……?」 半場気分が浮ついていたラルカが異変に気づいた。凄まじい快楽が途端に落ち着き、鈍い感触に変わったようで絶頂が緩くなっているようだ。 息を切らしながら半開きな瞳が見上げる自分を捕らえる。 「ミミ、なんで急に……んっ……ゆっくりするんだよぉ……?」 ラルカの疑問にもミミは愛撫で答える。口の中で舌を巻きつかせたり転がしたりと遊ばせる。 まだ出させる事はない、じっくりと可愛がればいいのだ。ラルカの大事な物はすでに自分の物なのだから。 「まららーめぇ、ラルカだひゅのはやいものぉ。すぐにはだひゃへてあーげない」 口の中で頬張りながら意地悪を言う。スローペースながらも快感を絶え間なく与え続ける。 ラルカは射精の手前のじんわりとくる鈍い刺激に抗議する事も出来ず甘ったるく悶え続ける。 「はぁ、あぅっ……くっ、うぅんんっ……」 笑うように腰を震わせるラルカがミミの頭部を両手で押さえてくる。生ぬるい刺激では不満だと思って自ら腰を振ってくるかと思ったが、それ以上の行動はない。それだけの度胸が無いのか、それとも崩れそうな体勢を支えているだけなのか。 子犬のように鳴き、涙を浮かべて自分が与え続ける快楽に震えているしか出来ないようだ。そういった弱々しい所がまた愛らしい。 ずっとしゃぶりながら眺めていたかったが、そろそろ可愛そうになってきたミミは楽にしてやろうと決めた。 「んふふ、ちゅるっ、じゅぷっ、んちゅぅっ、ちゅうっ、じゅるぅっ……」 ゆったりと動かしていた口を徐々に速度を上げてフェラに集中する。腰部をしっかりとホールドしたまま勢いまかせに口を前後させていく。 「くううぅぅっ……!? もう、でそう、でそうぅっ……!!」 ラルカが絶頂間近で顔を仰け反らせた。そのタイミングを見計らって肉棒を一気に飲み込み、吸い付いた。 「んぷっ、ちゅううぅぅぅっ……」 「あっ! あああぁぁぁっ!!」 雄の最後の絶叫が響いたその後に肉棒ががびくんと激しい痙攣を起こし、先から子種の元となる苦々しく熱い液体がぶちまけられた。 「んんんぅぅっ、んぶぅっ!!」 濃厚な味と粘つく液は瞬く間に口の中を満たされていき、頬張っていた頬が更に膨らんでいくのがわかる。飲みにくいものを喉を鳴らしながら一心になって飲み込むが、それでも吐き出される量の多さに負けて口の外から溢れ出ていく。 爆発的な勢いで射精されたとはいえ、溢すのなんてもったいなさ過ぎる。息苦しさや口周りを白濁に汚されようともミミは肉棒を離すことなく流れ込むものを口で受け続ける。 「あぁぁミミぃ……そんな、吸ったら、またぁっ……!!」 「んじゅずずっ、んくんくんく……ごぷっ、じゅるるるっ……」 ラルカの下半身が激しい痙攣を起こしながらも肉棒は衰えをみせず、焦らされた分を返すかのようにびゅくびゅくと放出する勢いにミミはしばらく呼吸の自由を奪われる。 息苦しさに痙攣を起こすも、まだ出るものを飲み終えるまで意地でも離したくはない。この新鮮な雄の味を苦痛程度で失いたくはなかった。逃げられないようにホールドの力も緩めない。 そして最後まで肉棒から口を離さないまま射精の勢いが衰える。余裕ができたミミは鼻で呼吸を整えながら口をゆっくりと引きながら残りの汁を吸いあげる。白い糸を引かせた唇が白く汚れていながらもてらてらと照手らしている。 「けほっ、やっぱ若いのを飲み切るって難しいわね……多すぎだし、ぺろっ、ぺろっ、んくっ……」 ラルカをホールドから開放させた後、口周りについた精液を両手と舌で舐め取り、最後は口の中に飲み込んだ。 「あ、はぁぁっ……はぁ……はぁ……はぁ……」 蓄積された性欲を思う存分発散させたラルカは途端に疲れた表情になり、気力を精力ごと吐き出したかのように体ごと崩れ落ちていく。肩を震わせ、激しく呼吸をしながら視線を下に落としていた。 「ラルカ、気持ち良かった?」 「う、うん。けど、流石にちょっと疲れたかな……」 デートに出かけて、敵の襲撃と戦って傷ついて、自分の体で発情して、性欲を発散させてあげて、彼の体はどれほどの疲れが溜まったのだろう。毎日絶え間なく子作りばかりに励んでいたのだ。疲れていない方が不思議だった。 指先で足元に溢した精液をすくい舐めながらミミはラルカの体を気遣った。 「へとへとね。疲れてるようだけど大丈夫?」 「あ、あぁ……ようやく収まったよ、ありがとうな。はは、自分からミミに頼むなんてさ……ちょっとおかしな感じがするよ……」 「ふふ、ようやくアタシの価値に気づいたようね。欲しかったら何時だってしてあげてもいいのよ。子供沢山作るためにはあなたの若い精力が必要だものね」 でかい乳房を揺らしながら胸を張って言った。ラルカがそれを苦笑する。 「まったく、子供の為にとは言え、自分の体を惜しげなく使うなんてとんでもない雌だぜ。その様子じゃばんばん作れそうだな……」 疲労した顔ではにかに笑顔を見せるラルカ。ミミもつられて笑った。 しかし、視線の先が別の物に移り変わる。性欲を発散させた後にも関わらず、完全に衰えきっていない若さの証拠である雄の象徴が目の前に映し出されていた。 昨日今日とあれだけ放出したにも関わらず精力は尽きてはいなかった。ラルカ自信は疲労のせいで自覚はないかもしれないが。 「ん、どうかしたかい?」 ラルカのあどけない表情にミミの胸がきゅんと打たれた。洞窟では全く見せなかった可愛らしい一面に、愛おしい気持ちが強くなっていく。鎮火したはずの胸の高ぶりが再び沸き起こり、下半身の疼きが増す。 ミミの胸の内が問う。 もうこれで終しまいなのか、これで終わりにしてしまっていいのだろうか? いや、これで終われる訳がない…… 可愛らしい将来の父親に向かって、ミミはとろんとした笑みを投げ返す。 ――そっか、ラルカはまだまだ出来るんだね。だったら遠慮なんて必要ないね。 「ラルカはもう十分なようね……」 ミミはそっと、ラルカの頬に手をそえる。 「そうだな、ん……ミミ?」 一度ついてしまったものは例え冷たい水をぶっかけたとしても消したりなどできない。 「けどね、アタシはまだまだなのよ……」 未だに漂ってくる大好きな雄の精液臭。 「えっ、ちょっと、ミミ?」 顔を間近にまで接近させる。 燃え盛る感情は、肉と肉の激しいぶつかり合いがなければ決して消える事の出来ない欲望の炎なのだ。 「…………」 とろんとした顔をまっすぐ進ませ、呆気にとられるラルカの唇に自分の唇を重ねた。 もうすでにミミに理性はなかった。相手が疲れていようがいまいがそんな事など関係ない。本能が求めるがままに相手の欲していた。 そう、アタシは欲している。ラルカを…… 魔性のメロメロボディによってラルカは雄の感情を強引に露にされ、やむなくミミに頼むことによって暴走しそうな性欲を沈めることが出来た。 誘拐魔な彼女にこんな羞恥的な事を頼むなんて本来なら自分のプライドが許さない、ましてやビークインとの戦いで無様に助けられたとなれば屈辱で腹が立つ。 だが、仕方が無かった。っというよりも、すっかりとそういう事に慣れてしまっている。彼女はとても強いのだ。まるで躾された子犬のような相手へ服従する事を当たり前のように考えるようになっていた。 ミミの言うデートへの道のりからビークインとの戦闘、ズタボロにされた体で彼女と卑猥なやりとりのおかげで疲労が溜まっていた。さっさとあの忌々しい洞窟に戻ってゆっくり体を休めたいと思っていた。もう、これで終わりなのだから。 そう思っていた矢先だった。さっきまで自分の身を心配してくれていた彼女が豹変したように迫り、そして、今に至る…… 「むぅっ、んんっ……!」 「んちゅぅ、んむっ、らうかぁ、ちゅっ……」 優しく頬を触れたかと思えば、強引に口付けをしてきたのだ。突然の行為にラルカは目を大きく見開いて絶句していた。 触れ合う唇越しに自身の放った精液の味が伝わる。ミミが残さず飲み込もうとしていたが、ラルカはとても飲めたものじゃない苦さと生臭さに怪訝そうな顔になる。それでも彼女は離そうとはしなかった。 やがて息苦しくなり止む得ずミミを引き離そうと両手で押し返そうとするが、先に彼女の方から両手で体に抱きつかれてしまう。再び、体が密着しあう形となった。 豊満な胸が自分の体で押し潰されていく感触に、収まったはずの感情が再び込み上がる危険を察知したが、もう遅い。彼女の魔性の体がラルカの理性を侵食はじめていた。 「んはぁ、お口でイかせてあげただけじゃ物足りないじゃない……まだいけるでしょ?」 「え、ちょ……俺もう体がへとへとなんだけど……っ!」 「関係ないわよ、若いくせに。ラルカの子種が空っぽになるまで絞りとってあげる……休ませたりなんかしないわぁ……」 ミミは言葉を聞かず、抱きついた両手を離した後乱暴にラルカの胸を強く押した。正確には押し倒されたとも言える。 「それに、自分だけイっただけなんてずるいじゃない、今度はアタシの番よ……」 疲労の身を気遣う優しかった表情はなく、瞳をうっすらと半開きにさせ、艶かしく口元吊り上げた淫靡な表情を見せ付ける。赤黒い眼光は淫靡ながらまるで獲物を捕らえるように鋭く光っていた。 ラルカはその目を久しぶりに見た気がした。それは彼女に初めて強姦されそうになり必死に足掻き、そして敵わず怒りと共に摂関され、苦痛に屈した自分に見せた彼女の眼光だった。 圧倒的な力の差を思い知らされた時の恐怖が蘇る。 「いい光景ね、ラルカったらアタシに初めて犯された時の顔になってるわ……」 「ち、違う。ミミが突然こんな事するから俺……」 唐突な言葉の意味にラルカは困惑する、が言葉の続きはミミによって塞がれた。 「んちゅっ、んふぅ……だから何? こんなに気持ちいい顔してる癖に……」 両手をラルカの顔に手にあてて逃がさないように覆い、獲物を捕縛した目つきが弱い雄を射す。 「ふふ、実は期待してるんでしょ? その証拠に、ここ……」 「ふあっ……」 復活したばかりの性具が柔らかくて暖かいミミのふとももに触れた。射精後で鈍くなった感覚が戻ったばかりで、その感触がはっきりと残る。 「それ、だってこれはミミの体がっ……」 ミミのメロメロボディの副作用だと言い返そうとしたが、下半身に意識が集中し過ぎて言葉がはっきりと出てこない。 「ほら、期待してるじゃない……ラルカってほんと素直じゃないのねぇ。でもそこが……」 蕩けた瞳がぐいぐいと迫ってくる。 「可愛いの……んっ……」 「ふぐっ……!」 全体重を乗せた口付けが圧し掛かり、わずかな抵抗する間もなく唇を完全に塞がれてしまう。 間髪入れずに舌が迫りラルカの下と交差し交じり合う。下にいるラルカの口内にミミの唾液が送り込まれ、自分のか相手のものか区別がつかないまでに埋もれていく。 相変わらず慣れない 「んちゅぅ、ちゅっ、あはっ……飲んでっ……アタシも飲んであげたんだからぁ……」 唇を一度離し、ミミは強引にラルカの口を両手で抑えて吐き出せないように塞いでしまう。 「んぐっ、んっ、んんっ……んぐっ……んっぐっ……くはぁ……!」 全てを飲み終えるまで離してくれず、口内に充満した唾液が他の行き場を失って喉の中に入り込んでしまう。他人の唾液が入る違和感と卑猥さに一瞬喉を詰まらせた。 「はぁ、はぁ、ちょっと、なんて事するんだよぉ……俺、別に飲んで欲しいなんて言った訳じゃないのに……」 「ふふっ、そうかしら? 嬉しそうな顔をしていたわよ。ラルカのエッチなお汁をごくごく飲んでいるアタシを見てねぇ……?」 見下ろしながら、自分の下唇をぺろりと見せるように厭らしくなめずる。 ラルカは反論出来ずに恥ずかしそうに押し黙った。ミミの言った事を完全に否定することができなかった。 絶頂に導かれて放出される子種を彼女が苦しそうにしながらも一心になって飲み込もうとする姿に、ラルカは言い様の無い喜びと達成感を覚えていたのだ。 その快感をミミも味わいたかったのだろう。反対の立場になると、服従と屈服感が埋まる。 「次は別の物を飲ませてあげる。今度は一緒に気持ちよくなってもらうから……」 ミミの瞳が怪しく笑う。何時も抱かれておきながら、次の展開に予想がつかず体が微弱に震えた。だがそれは怯えでは無く、武者震いに近い期待感がこもっていた。 その位置から尻に敷いた状態で体を回転すると、彼女の顔のすぐそばに完全復帰を果たした性器が向けられる。こじからではミミの顔は見えないが、代わりにもこもこした尻尾をつけたお尻がこちらに向けられる。 開脚されたむっちりした太ももと肉棒を受け入れる雌の割れ目が回りの毛並みを濡らしている。 お尻と顔の位置はすぐそばまで迫り、てかてかした透明の液体が舌を伸ばしただけで舐めれそうな程に近くにあった。 「またおちんちんを食べてあげる……ラルカもアタシの、ここを舐めて……」 「ミミの、ここを……!?」 それは初めての行為だった。今まで性器を舐められる事はあっても自分から舐める事はなかった。ラルカが下でミミが上になる事で互いのむらむらした性器がそばにある。 むわっと広がる雌の性器臭に生暖かいものを感じ取り、あたまが蕩けていきそうな感覚に包まれていく。それと同時に口の中が急激に渇きを覚え、今すぐにも濡れたミミのものを舐めてしまいたかった。 神秘的な輝きも見惚れる暇も無く、下半身が生暖かい唇に咥えられる快楽が襲い掛かる。 「んっ、ちゅぅっ、ちゅるっ……あれだけだひて、まだこんなに硬い……らるかのおひんひん……」 敏感に伝わってくるフェラの刺激にラルカは屈して喘ぎ声をあげそうになる前に、意を決してお尻を掴み、卑猥な割れ目に舌を宛がう。 「ん、ぺろっ……」 「んんっ……!!」 滲み出る透明の液体を舐めた瞬間、ミミがびくんと反応した。肉棒をむしゃぶる唇の動きが止まる。 ラルカは構わず両手で引きつけ、割れ目にそって舌先を上下させていく。割れ目をなぞる感触がぷりぷりとしていてなんとも心地良い気分に浸る。 「れろっ……れろっ……ここ、舐めただけで、ひくひくしてる……」 「はうぅんっ……んちゅっ、ちゅずっ、ちゅっ、じゅるっ……」 弱々しい喘ぎ声と共にミミも肉棒の愛撫を再開させる。気のせいか、焦った感じでしゃぶっている感じがあったが、無論射精を促す快感が復活する。 割れ目に見惚れて油断してると愛撫にまけて果ててしまいそうだった。肉棒の快楽に浸りながらラルカもミミの秘所への愛撫を再開させる。 唇をぐっと近づけさせて、割れ目と口付けを交わしそこから舌を忍びばせていく。 「ちゅっ、じゅるっ、ちゅぷっ、ちゃぷっ、ちゅるっ……」 「んくぅっ……んんっ……ちゅっ、じゅるるっ、ちゅじゅっっ、じゅるぅっ」 やはりだ、舌先で割れ目を忍ばせて少し動かしただけでミミが肉棒を咥えたまま堪えるように喘ぐ。舌が行き交う度に微弱に震わせながら愛撫を続けていく。 ラルカも負けじと、キスで舌を絡ませるような感じで雌の秘所内を掻き回していく。ピンク色の肉のねっとりした愛液が口の中に入り、ゆっくりと飲み込む。 いくら舌先で愛液を舐め取っていっても、中から次々と液体が溢れ出て留まる事を知らない。飲み込んでも喉の渇きは収まらず、むしろもっと欲しいと言わんばかりに渇きが増していく。 「すごい、どんどん出てくる。変な味だけど、ちゅずっ、口の中が乾いて、ちゅうぅっ、もっと欲しいっ……!」 「んんぅっ……おいしい……? ここ、ラルカのおちんちんがたっくさん出入りしてる場所なのよぉ……れろっ、あたひも……きもひいいぃ……」 こちらの愛撫を明らかに感じている様子を見せるミミ。雄としての興味心が強くなり、ラルカは更に深く舌先を伸ばしていく。膣内が侵入者を受け入れて逃さないように迫り、舌先に絡み付いてくる。 「はうぅん……んっ……やらっ……らりゅかの舌がっ……きてるっ……じゅずっ……じゅっ、るるるっ……」 「ちゅうぅっ、れろっ、ちゃぷっ、ぴちゃっ、ちゅずずっ……」 時に舌を引っ込ませて割れ目と深い唇を重ね、そこからまた膣内に舌を忍ばせては中で左右上下に暴れていく。 遠慮無しに滲み出る愛液がすっかりと口周りをべとべとに汚し、鼻の先にまで透明な液が付着していく。だが汚れることなどお構い無しに何処までも彼女の神秘的な体内への侵入に欲が沸いてくる。 次第にミミの肉棒への愛撫が遅くなり、口の動きも鈍く変わっていく。初めて秘所で味わう雄の舌先に予想以上の快楽に負けているようだ。 「はぁんっ……あんっ……掻き回されてるぅっ……あたひの中がっ……あっ……あぁんっ……だめっ……えぇっ……」 実に気分が良かった。肉棒への快楽が薄くなった分、先導権をこちらが握ったような愉快さがある。ずっとやられてばかりでみっともなかったが、今日だけは反撃ができる。 このまま彼女の喘ぎ声を聞きながら、もっとおかしくしてしまおうと企んだ。だが、ミミもやられてばかりではいなかった。 「んっ……はぁっ……このままじゃ負けそう……あんっ……これで、一緒に扱いてあげるっ……」 ミミは一度肉棒から口を離し体を仰け反らせた後、両手で何かを持ち出すような仕草でそれを肉棒に当てる。 「ちゅぷっ、じゅぷっ……んぅっ……この……感触っ……!?」 重量のある物体が肉棒に当てられた瞬間、ラルカの肉棒をやんわりと挟み、ずぶぶと埋もれていく。この重量感のある感触をラルカは身に覚えがあった。 暖かい体温と共にミミの唇が肉棒の先端をキスするように宛がわれる。 「んふふ……これならラルカも余裕がなくなるわねぇ……はむっ、んむっ、んっ、んっ……!」 柔らかい感触が根元まで圧迫され、それが口の連動する様に上下に動き始める。余裕のあった肉棒が途端にそれを無くし、上るような激しい快楽が迫ってくる。 「んくっ……あぅっ……ミミ、胸を使うなんて……卑怯だぞ……!!」 「んふふっ……らってこのままじゃあたひが先にイっちゃいそうだもん……ラルカはおっぱいで愛撫されりゅと弱いのよね……んっ……ちゅぅぅっ……」 優位だったのが逆転され、ラルカの愛撫が弱々しくなる。豊満な胸を使った扱きだけでなく、唇で肉棒の先を強烈に吸い上げる快楽攻撃までしてきた。 ラルカは射精感が波となって迫り、一気に余裕を失っていく。彼女は意地でも先に自分をイかせてしまいたいようだ。負けず嫌いなラルカは乳房と唇の愛撫に意識をしっかりと保ちながら秘所への愛撫を再開させる。 「んちゅっ、ぴちゃっ、ぴちゃっ、ちゃぷっ、じゅるっ、じゅずずっ……」 「ちゅっ、んっ、じゅるるっ、んっ、ちゅぅぅっ、んっ、ちゅぷっ……」 せめぎ合う二匹だが、優位はミミの方に合った。胸を使う事によってスムーズに、それであって段々と速度を速めていく愛撫をしていくのに対し、ラルカは秘所内で舌でがむしゃらに舐めたり吸ったりを繰り返している。 表情にも焦りが浮かび、少しでも油断したら即座に胸と口の中で果てていってしまいそうだから。 快感の波が胸の動きが激しくなるにつれて大きくなり、ラルカの愛撫も次第に乱れが生まれ、ミミに対する有効打撃が薄くなっていく。 「んふぅっ、んちゅっ、んっ、じゅるるるっ、うぅんっ、ちゅるるっ……」 「んぐぅっ……うっ……ちゅずずっ……ちゅうぅっ……んぶっ……んぅっ……!」 経験の差がはっきりと分かるような愛撫の差だった。射精がすぐそこにまで迫り、ミミは上半身全体を揺すり、乳房が許す限りラルカのものを深く飲み込み、射精に備えていた。 止めとばかりに胸が肉棒を強く圧迫し、それが電流となって体中に駆け巡る。もう、勝負はついた。 「ふぐっ、んぅっ、むむぅっ、んっ、んんっ、んっ……んんんぅぅぅっ!!」 ラルカは秘所に口付けしたまま激しい痙攣と共に呻き、爆発的な快楽に負けて大きく果てた。 「んぶっ……ぶちゅっ、ちゅぶっ、んぶぶっ……あはぁっ……!」 口内に放たれた物を体制的に上手に受け止めきれず、口を離して大きく仰け反った。そして肉棒からびゅくんびゅくんと弧を描くように白濁液が撒き散らしていく。 微弱な運動を繰り返しながら激しく放出する精液がミミの顔面に直撃し、綺麗な顔と大きな胸を枝模様に次々と汚していく。 初めての秘所への愛撫に不慣れなミミが気持ち良さそうしていたものの、やはりそこまでであって彼女の濃密な肉棒愛撫には敵わなかった。 「はぁぁっ……もっと出てくるぅっ……あつくて、気持ち良いぃ……」 顔を汚されても尚、彼女は胸で肉棒を強く挟み小刻みに震わせる事によって更に射精を促せ、可能な限り搾り取ってくる。 「あああぁっ……みみぃ……だめぇ……」 凄まじい快楽の波に負けて、糸を引かせながら秘所から口を離す。負け犬の遠吠えの如く、射精の快楽に甘ったるく叫んだ。 ようやく射精が終わった頃にはラルカの脳裏に敗北と言う文字が浮かんでいた。肩で呼吸をさせながら、半々な意識と共に目を半開きにしていた。目の前にある秘所を見てはいない。 「うふふ、良い鳴き声だったわよ。こんなにいっぱいぶっかけてくれて……んっ……やっぱりにがぁい……」 顔に付着した精液を指先で舐め取りながら、ハートが浮かびそうな甘い声で素直な感想を言った。 「ちき……しょうっ……んぶぅっ!?」 悔しがるラルカの顔に、彼女の股座に多い被さる。強引に秘所と口付けする格好となった。 「悔しがるのもいいけどさぁ、まだアタシはイってないのよぉ。あそこがうずうずしっぱなしだから、最後までしてねぇ~」 完全に勝ち誇ったように厭らしい目付きで、ラルカの顔面にぐりぐりと押し付ける。 もはや言い返すこともままならず、敗者らしくしぶしぶと最後の行事に移った。 鼻先までもが覆われて息苦しい中、割れ目を舌で強引に押し広げて愛撫を再開させる。 「ちゃぷっ、ぴちゃっ、ぴちゃんっ、じゅずずっ……」 「んんぅ……あむっ……んふぅっ……あぁんっ……」 ミミは精液の着いた箇所を指で救って舐めながら、ラルカの愛撫に心地良さそうによがっていた。 「らるかぁ……気持ち良いわぁ……あそこにキスしながら、もっとなめてぇ……」 特と気分が良いだろう。愛撫合戦に負けた雄の奉仕に快楽に浸るのは。くねくねと身を善がりながら、じっくりとラルカの行為を楽しんでいた。 負けた自分は言われる通りに秘所ともキスを交わし、再び舌を侵入させる。口元を濡らす雌の蜜を悔しがりながら味わいもした。 腹いせに膣内を滅茶苦茶に掻き乱す。膣内が舌にまとわりつくがもはや関係なかった。 「ぐちゅっ、ぴちゅっ、ぷちゅっ、ぴちゃっ、ちゅぱっ、ぴちゃっ……」 「あっ……あんっ……やだっ……イきそう……イく……イくぅ……あああっ……!!」 びくんとミミが痙攣を起こし、望みどおりの絶頂を果たした後、秘所から漏らすように潮を吹かせた。愛液のように滲み出る量とは違って、小水のようにどばっとした量が降りかかる。 慌てて舌を引っ込ませるも潮が口の中に入り、しょっぱいような甘酸っぱいような水が顔中に広がる。 降り注がれた潮は、ラルカの顔を雨に降られたようなびしょ濡れにしてしまった。 こうしてお互い、自分達が放った体液によって顔を汚してしまった。ミミは白く、ラルカはびしょびしょに…… 「はぁ、はぁ、ラルカの舌で初めてイっちゃったな……初めてにしては良く出来て嬉しい……うふふ……」 ミミはそのままの体勢で愉快そうに笑みを零した。 「はぁ、はぁ、そ、そうかい……ちくしょう……」 ラルカは小さく吐き捨てた。せっかくこの乱暴な雌にせめての仕返しが出来ると思ったのに、目論見は見事に外れてしまった。 「アタシはラルカの弱い所を沢山しってるのよぉ、そう簡単にイかされる訳がないでしょ? でもぉ、必死になってイかそうとするあなた姿、とっても可愛かったなぁ……んふふ……」 「馬鹿にしているかよ……」 せっかくの褒め言葉もラルカは侮辱に感じてしまい、不愉快そうにムスッとする。 「素直じゃないなぁ……けど、まだ終わりじゃないもの。もっと楽しませてくれるわよねぇ……」 「うっ……!?」 ミミは疲労が重なったこの体にまだ性行為を要求してくる。拒否を口にする間もなく彼女は一度体を起こし、ラルカと向き合うように馬乗りにされてしまい逃げ道が無くなる。 この体勢はいくつも経験してきたが、先導権が全く無く、彼女の思いのままに弄ばれてしまう。 それにイったばかりでまだ下半身が若干痺れたままだ。だがそれでも肉棒の方はまだしっかいと血液を集中させた状態で膨張したままだった。 「ミミ、待ってくれ……俺イったばかりですぐにはまだ……」 「関係ないわよ……それに、おちんちんを硬くしたまんまでそんな事言っても説得力に欠けるわ……」 白濁液を付着させたまま不適な笑みを浮かばせ、それが夜空の光に反射して妖艶さがいっそうに増して映る。 二度目を要求した時の淫靡な表情がそのままで、彼女は自分がまだ満足してない事がはっきりと伝わってくる。その性欲の深さにラルカは何時も付きあわされている。夜はまだ終わらない…… 腰を丁度良い高さまで浮すとミミは片方の手で割れ目を押し広げ、もう片方は厭らしい手つきでラルカの肉棒にそっと触れていく。痺れの切れない為に触れられている感触がいまいち伝わってはこない。だが、彼女の濡れた秘所が先端部に宛がわれた瞬間、鋭い痺れが走った。 「ふぅっ……くぅっ……!」 「んふっ……今日もたっぷり可愛がってあげるわ……存分に子供の元をぶちまけて頂戴……」 その一言を言い終えた後、肉棒の先をくっぱりと咥え込み、先ほどまで自分が舌を入れていた秘所内へとゆっくりと挿入されていく。 愛液が滑りとなってスムーズに進み、深々と腰を沈めていく内に肉棒が殆ど時間を掛けずにミミの体内へと飲み込まれた。根元まですっかりと入り、二匹は隙間無く腰部同士で繋がった。 「うあっ……はぁ、はぁ、はぁ……」 「んんぅ……二度もイったばかりのおちんちんとは思えない……アタシが鍛えてあげたおかげよね……」 「そん、そんな事は……」 「でも、中で段々と大きくなっているのがわかるのよ……んぅ……」 ラルカ自身も自覚はなかったが、暖かくて窮屈に迫る膣内に肉棒が反応してしまって膨張していた。 「違うって……熱くて、ぎゅうぎゅうするからたまんなくて……」 これでも一応言い訳したつもりだが、返って彼女の名器を褒める形となった。 「うふふ、アタシの中がそんなに気持ち良いんだ……ならぁ、たっぷりと絞り甲斐がありそうね……」 「い、いや、そういう意味で言ったんじゃ……はぅっ……!」 言い訳を続けようとするも彼女がピストン運動を始めてしまい、痺れと共に鈍い快感が襲ってきた。 「あんっ……んぅ……あっ……いいわぁ……硬くて、奥に届いて……いいのぉっ……」 始めは滑りに任せてゆっくりと動き、ラルカを可愛げに見やりながら状態維持する性器をじっくりと攻めて味わう。 「くっ……うぅっ……まってて……言ってるのにぃ……ああぁっ……!」 何度も経験してきたミミの体内だが、この容赦ない締め付けと絡みつきに声を我慢する事が出来ない。 「待つわけないでしょ……アタシがラルカのおちんちんが大好きなの……知ってるくせにぃ……あんっ……」 頬を紅潮させながら自分が犯している相手に穴を開けるほど見つめる。しっかりと繋がり、逃げる隙をまったく与えないまま徐々に速度を上げていく。 弾むように腰を浮かせたり沈めたりを繰り返し、つられるように二つの淫乱の脂肪が寄せ合ったまま誘惑するように揺れ動いていく。その質量感は見ているだけでも迫力のある卑猥なダンスだ。 「んふっ……ラルカもやられてばかりじゃなくてぇ……あんっ……こっちも触ってぇ……ねぇ……」 肉棒を摩擦しながらミミは物足りなさそうな目で見やり、持て余しているラルカの両手を拾い上げ、そして弾ける様に揺れる胸に触れさせる。上下に動く勢いが自分から揉まずともふにゃふにゃしたしっかりと感触が伝わってくる。運動しているだけあって、胸の重さも普段倍以上に感じた。 もちろん、一方的に肉棒をやられていくだけでは情けなから期待に添えるように回しながら揉み解す。 「んぐぅっ……持ち主と一緒で……うぅっ……制御のきかない奴だぁっ……」 顔を赤らめながらラルカは手の中で揺れて踊る乳房に文句をつける。しっかり掴んでいないと弾ける勢いに負けて零れてしまいそうだった。 ミミとの性行為でラルカはこの巨乳に沢山弄ばれてきた。押し潰されて、形を複雑に変えては元の形に戻っていく憎たらしい淫乱脂肪を腕の疲労が許す限りこねくり回す。それでも手に余る程の質量だ。 「あぁんっ……もっと、もっと激しく揉んでぇ……あそこが……しまっちゃう……んぅぅっ……」 「くはぁっ……うぅっ……そっちはむしろ激しくするなよ……きつ過ぎるんだってぇ……!」 胸の愛撫によって膣内がさらに窮屈さが増し、肉棒を強く締め付けている状態だった。愛液が滑りとなって役立っていても、耐え難い圧迫感にラルカは悲鳴をあげた。 「気持ち良いんだもんっ……ラルカが……あんっ……おっぱい好きだから……アタシも……あんっ……感じちゃうのよぉ……」 胸と秘所内の心地良さに悦に入り、本能のままに雄をせめたく腰の浮き沈みを深く、そして速度を上げていく。胸の弾みもいっそうに増していく。 「ミミ……ミミィ……俺もう、我慢できないって……」 「あんっ……うんっ? もう、イっちゃいそうなのぉ……? まだ早いわぁ……」 ラルカの胸を掴む力がギュッと強くなる。射精しそうなのを堪えて必死にミミに訴えかける。彼女は不満げに言いながら腰の動きを少しだけ遅くする。 「アタシ、もっとじっくりと楽しみたいのにぃ……それじゃ、こうしましょ……」 唐突にピストン運動をやめて、ミミはまだ果てていない体から肉棒をゆっくりと抜き始める。 「んっ……んんっ……あっ……」 「あうっ……はぁ、はぁ、はぁ……ミミ、どうしたんだよ……?」 突然の行動に赤く腫れあがった性器をおっ勃たせたままラルカが聞く。ミミはふふっと笑みを浮かべながらラルカから体を離し、そして自分は切り株に両手に置いて四つん這いの格好になった。 さっきまで肉棒と摩擦しあった場所から愛駅と我慢汁の混じりあった白い泡を残した秘所をラルカの方に向ける。押し広げられてピンク色の肉壁がしっかりと露になっている。 「今度はこの格好で、ラルカがアタシの事を突いてぇ……」 「お、俺がかぁ……!?」 突然の申し出に驚く。そして下半身のもやもやを残した状態の肉棒がぴくぴくと動いていた。 「そうよ、このままアタシの中で白いのをドバドバ出して、気持ち良くなるの……もちろん、二人でいっしょにね……」 足を広げた股座の間からは、重力に従って下を向いた乳房がぷるんと揺れ動いている。少しでも押すと反射的に揺れてしまいそうなくらいだ。 「ラルカもさぁ、このままじゃ収まりがつかないでしょ? おちんちんが落ち着くまでずっと座っている?」 挑発するような笑みを、全く膨張の収まる気配の無い肉棒へと向けている。ラルカは低く呻き、唾を飲み込む。 ずっと終わりを求めていたのに、今更そうする事が出来ないのを分かっててミミは言っている。性質が悪い。そして肉棒も痛い。痺れが切れて今すぐにでも快楽が欲しいと訴えてきている。 「ううぅっ……」 「うふふっ……」 ラルカの迷いは十秒も持たなかった。ふらつく足元を気合で立たせ、不自由な両手でミミのお尻をがっちりと掴む。 「んぅっ……きてぇ、ラルカぁ……」 待ってましたと甘い声で囁きかける。選択の余地の無いラルカはピンと伸ばした雄肉を、不慣れにひくひくさせた秘所へと当てがい、丁度良い角度を確かめた後に一気に推し進めていく。ぐちゅんと液体の摩擦する音と共に、肉棒がミミの中に埋まっていく。 「くううぅっ……!!」 「あはんっ……いいわぁ、奥にまで、届いてるぅ……」 再び二匹の間に快楽が蘇る。そしてラルカは膨張する欲望を抑えたく、本能のままに腰を左右に振り始めた。 不器用ながらの再開だが、それでも驚くほど肉棒はスムーズに滑り、根元まで沈めてはミミの子宮の壁に激突する。 「あっ……んっ……いいっ……ラルカのが……当たって……気持ち……良いぃ……」 「ぐぅっ……んっ……んっ……なんだか……やる事は一緒なのに……全然違う……」 体位を変えた性行為にラルカは快楽と共に全く新しい変化に気づく。上から圧し掛かる時のものよりも、こっちのは自分から突き進む事によって快感が生まれてくる。伝わるものは一緒だが、それでも感覚的には大分違う心地を味わう。自分が攻める立場だからそうなのかもしれない。 それだけでなく、腰の動きを早めれる速度限界が大幅に違う。ミミがしてくる時は一定のリズムがあったが、これは腰を振る速度を上げると上げるほど、どんどん快感が強くなる。 ずんずんと子宮にぶつかっては先端が半分以上まで出て、また沈めるの運動を自分がやっている。初めてなはずなのに、何故か本能が上手に出来るようになっている。 「はぁ……あんっ……あんっ……胸も……もん……でぇ……」 持て余された乳房が左右に前後に魅惑に揺れている。バックから突きながら胸を触ったらどんな感じなのだろうか、ラルカの関心がそっちにも行く。 「ふぅっ……ふぅっ……んっ……それならっ……ミミ、鎖を通すから一度体を立ててくれ……!」 胸の愛撫を要求されて、ラルカはミミの体勢を立ち上がらせる。肉棒の運動を止めて、両腕を頭からミミの両手を通し、そして胸の位置まで移動する。そしてまた彼女を四つん這いの格好にさせた。 自然的に体を上に重ねることによって可能になった。おもむろに胸を鷲掴みにし、そして腰の動きを再開させる。 「んあぁっ……はぁんっ……やだっ……いいよっ……胸も……一緒で、気持ち良いぃ……!」 「うぅっ……柔らかい……のに……すごく重くて……うあぁっ……」 両手で遠慮無しに巨乳を揉みくちゃし、時に下から押し潰す乳肉の柔らかさと弾力の変化に違った興奮を覚える。 胸の愛撫をしながら膣内を突き易いこの格好に何時しか慣れて、結合部から愛液を撒き散らせながらラルカはこの心地良さに酔い痺れていく。 「はぁっ……あぁっ……はあぁっ……あっ……んんっ……」 己の体に雄が熱中になっていく喜びにミミの瞳が潤い、段々と喘ぐ声も高くなっていく。その内に腰の動きもピークを迎えた。 「あっ……あぁっ……ああっ……ミミ、ミミぃ……もう……そろそろ……でそうだよ……イきそうだよっ……」 「いいよ……いいわよ……ラルカぁ……アタシの体で……いっぱい気持ち良くなって……そしていっぱい中で……だしてぇ……」 胸をギュッと掴み、ラストスパートに入る。可能な限り前後にピストンしながら射精の波が迫り、限界まで堪えるように歯を食いしばる。そしていよいよ肉棒が発射の時を迎えた。 「ミミ、ミミ……あっ……あぁっ……ああああぁっ!!」 彼は最後に子宮の壁を突き、体をピンと伸ばすように曲げて絶頂した。肉棒が膨れ上がり、先端から子種を子宮内に吐き出していく。中でびゅくんびゅくんと痙攣を起こしながら三度目の射精を迎えたのだ。 「ああぁぁっ……きてる、来てるぅっ……熱いのがいっぱいでてきてるぅ……ああぁっ……いいぃ……」 ミミも子宮への射精に絶頂し、膣内でラルカの肉棒を締め上げる。それが更なる射精を呼び、膣内を忽ち白濁液で溢れ返させていった。収まりきらなかったものは逆流し、行き場を求めて結合部から漏れ出ていく。 白と透明の色が混ざり合った液体がぼたぼたと地面に落ちていった。 精液の量も減っていた中で、射精は案外短く終わったが、ラルカにとってそれが短かったのか長かったのかどうかも分からない。天に昇るような昇天に時間を失っていたのだ。 「はぁ、はぁ、んっ……あぁっ、はぁ……」 目的を終えたラルカはから肉棒をゆっくりと引き抜き、鎖を足の方から通した後、乱れた呼吸を整えるように吐きだす。性器を抜かれてくぱっと開かれた秘所からも白濁液が逆流し、どろりと重力に従って落ちていく。 「あはぁ、はぁ、はぁ、すごぃっ……ラルカので、中が溢れてるのぉ……」 ミミも呼吸を整えながら、体内の異物にうっとりとしていた。 「はぁ、はぁ……すごく、疲れたよ……」 出す物出した後、ラルカは激しい疲労に襲われ、立つ事もままならなくなり、その場に座り込んだ。 流石の若い雄の性器も、三度目の正直で疲れを見せていた。勃起状態の半分ほどの大きさに戻り、すっかり満足した様子だった。 「……」 ミミは背後でラルカを見つめながら、四つん這いから腰を下ろして座る体勢になる。 「ほんと、とんだデートになっちまったもんだなぁ……ふふっ……」 疲労した表情で彼は不意に笑みを零した。 今日は散々な日だった。久しぶりに外に出たかと思えば戦って傷ついたり、激しい子作りをしたり、とんだ一日だ。 日常的に過ごしてきたバトルよりも遥かにハードなバトルだった。もう体はくたくたで、膝はがくがくと震えている。心も体も疲れきってしまい、今はもう何も考えることはない。アナの事も、ゴーやミンミンの事も。忌々しい洞窟でも良いから早く戻って、ぐっすりと休みたい…… そして明日からまた、ミミと淫らな日常が始まるかと思えば、それはまたそれで疲れるんだろうなと、何故だか笑いたくなった。不便だけど、決して寂しい訳じゃない。そう考えると、それはそれで悪いばかりではないと思えた…… 人生のパートナーはまだごめんでも、彼女とならば平穏な生き方を過ごしても良いかなと、今回ばかりはそう思った…… 「なぁ、ミミ…………んんっ!?」 同意を求めようと顔を上げた瞬間だった。彼女の顔が目の前に広がっていた。言葉の続きを塞ぐように口付けをされていた。ラルカは疲れた両腕でミミを離そうとするが、両肩をガッチリとホールドされていて離せなかった。 やがて彼女の方から唇が離れていく。 「んはぁ……お、おい、何なんだよ一体。いきなりキスするなんて、苦しかったじゃないか……ミミ?」 「そう、だけどまだ終わってないわよ」 「……え?」 ラルカはきょとんとした。終わってないとはどういうことだろう。あれだけ激しくやりあって、中で出して、それで終わりなはずじゃなかったのか? ミミは未だに瞳を潤わせ、艶かしい表情で言う。 「言ったわよねぇ、ラルカの子種が全部空になるまで絞ってあげるって……んふふ……」 妖艶な笑みを浮かばせ、白く汚れた顔で下唇を厭らしく舐めた。ラルカの表情が固まったまま凍てつく。 「お、おいそれって、嘘だろ? 冗談じゃなかったのかよ?」 「なんで冗談や嘘を言う必要があるの? アタシは自分の幸せの為ならばそのくらいやるわよ。何時だってアタシは本気だもん……」 「うあっ!?」 ミミは乱暴に肩を掴むと力任せに引きこまれた。疲れたラルカは抵抗も出来ず、ミミに覆いかぶさる形で倒れこんでいた。 しなやかな足が腰部に巻きつき、ぎゅうと抱きしめられる。発達した足の力は両手を使わずともラルカを捕縛するには十分な力を有している。 「ちょっ……く、くるしいって……離してくれよ……!」 下半身の自由が失なわれて、逃れようともがくががっちりと閉ざした美脚はびくとも動かない。 「離すわけないわ。こうも言ったわよね? ラルカはアタシのものだって、残りほんのわずかな精液だってぜぇんぶアタシのもの……」 メロメロボディのフェロモンが、沈静化したはずの性欲を強引に活性化させていく。感覚が鈍くなった性器が勃起を始める。危険と頭の中で考えるも、下半身の成長は止まらない。 位置が位置で、赤く膨張する肉棒が割れ目にそって進み、ぬるっと滑る。 「はうっ……!」 「んふっ、おちんちんがもう入れたがってる……それじゃ、最後はこの格好で絞ってあげるね」 逃れられないラルカの前でにっこりと笑顔を浮かべる。そんな可愛らしい表情が、ラルカには無慈悲な悪魔の微笑みのように一瞬見えた…… 強烈なフェロモンによって再度復活してしまった肉棒を確認したミミは、やんわりと威圧するように命じる。 「ほら、入れて頂戴……これで最後にしてあげるから……」 慈悲を含めた声が耳元で呟きかける。ラルカは呼吸を荒げながらもぞもぞと動き、肉棒の感触を頼りに彼女の秘所を探り当て、一気に押し込んだ。 「うっ、くあっ……また中で、ミミのが締め付けてくるぅっ……!」 まだ精液を搾り足りないうねる肉壁が、雄の異物の侵入を喜んで受け入れる。 「あはぁっ……んっ……んぅっ……」 右手で彼の背中をぎゅっと抱きつき、そして残った左手でミミは顔に抱いてぐいっと引き寄せ、口付けを交わした。下半身と上半身が淫らにくっつき合う。 「ふっ、んっ、んんぅっ、んちゅっ……んぅっ……」 二匹は熱いキスをしたまま、ラルカが腰を上下に動かしていく。 中に残った白濁液が摩擦されて動く度に結合部から漏れている。痺れたままだった肉棒の感覚もやがては快感に早変わりする。 すでに覚悟を決めたラルカはこの一回に残った気力を使い、全てを彼女に捧げるべく一心になって頑張る。 ぐちゅんぐちゅんと肉同士がぶつかり合う水音が静寂な湖に響かせるも、その音を聞く外部の者はいない。 どっちが先にやったか分からず、二匹は無意識の内に口付けから舌同士を絡ませあう。唾液の糸を引いては再び甘い口付けを交わす。 頭の中が蕩けるような快感と貪るような性欲に支配され、視界が涙で曇っていくのにも気づかないでいた。 「はぁ……あぁっ……ミミぃ、俺、また、また出そうぅ……」 舌を絡ませたまま射精手前を告げると、彼女は嬉しそうに涙を浮かべながら、そして揺れ動く中で告げた。 「ラルカ……アタシ、元気でぇ……はんっ……強い子……生むからねっ……んんっ……」 その言葉が歪んでいく意識の中ではっきりと聞こえ、ラルカの胸をきゅんと締め付けた。それが合図となり、肉棒が我慢の限界に達した。 「あっ……あぁっ……あああっ!」 「んっ……あっ……あーっ……!!」 最後に絶叫した彼女の体が仰け反るように跳ね上がった。四度目の射精にも関わらず、発射時は最初のものとほとんど変わらない勢いで膣内、子宮内で吐き出される。 言葉通り残った全ての子種を肉棒全体を締め付け、最後の一滴まで搾り取っていく。 射精が終わった後も、肉棒は膣内にごりごりと絞られ痙攣を繰り返した。最後の最後までラルカの心は快楽の中だった。 「はあっ……あぅっ……うぅっ……ふぅっ……」 全てを出し尽くした後も雄は悶え、善がり声をを上げながら最後まで彼女から離れなかった。 快感が薄れていく中、残った疲労が圧し掛かるように迫り、そのまま抱き合う形でミミの元に倒れこんだ。 密着する胸の感触もソフトな抱き心地があって落ち着きを取り戻す。 「はぁ……ラルカの……全部だしてくれたぁ……はぁ……アタシの中が……いっぱい……」 「ふぅ……ふぅ……うぅっ……」 ぐだぁと崩れるラルカをミミは抱きしめ、うっとりと目を輝かせた。彼の持てるもの全てを受け入れ、その顔は幸せそうだった。 子作りが終わった後も、ラルカとミミはしばらく性器を繋げたまま離れることはなかった。時間の経過を忘れ、二匹だけの世界に浸っていたのだった。 起き上がるだけの気力はもう無く、後には急激な眠気が襲う。 「ミミ……」 ラルカは彼女の顔をみつめたまま、ゆっくりと瞼が閉じていく。 「ありがとね……ラルカ……」 小さく笑う彼女もまた、瞳を閉じかけていた。 薄れていく意識の中で、二匹は抱き合ったまま眠りの世界へと入っていった。 長い夜が終わり、目が覚めて正気に戻った頃には月の位置がすっかり別の所に移動をした後だった。湖の畔でラルカとミミは水の底を眺めるように疲れた体を休ませていた。 「結局はこうなっちまったな……」 ラルカが小さく溜め息を吐いた。 「そうね。楽しくデートして過ごすはずだったのに……」 ミミも苦笑しながら、横に咲いてある一輪の白い花に触れていた。 珍しく、彼女は手に持っていた首輪の鎖を持っていない。それはラルカの背後で蛇の形をするように放置されていた。 「……」 「どうしたの?」 何も無い遠くの物を見るような眼差しに彼女は気づいて声を掛ける。 「いやさ、どうして俺はこうなんだろうなって、ふと思っちゃってさ……」 「ん?」 「自分から思い切って、雌を好きに抱きたいって気持ちになれなのかなって。頑張ればこんなに出来るってわかっているくせに……」 「どうしてそう思うの?」 ミミに問いにラルカは照れくさそうに言う。 「いやさ、前に話したことあっただろ。小さい頃、雌と口付けしようとした時、胸が苦しくなってできなかったって……」 ミミがピクンと反応する。 「一定の線を越える事が出来なくて辛い思いをしてきて、もしかしたらこれからもずっとこのままなのかなって不安になったりしてな。でもな、ミミと一緒に過ごしていく中で自分は駄目なんかじゃないって気づいてさ……」 「そうなんだ」 「うん、もしだけどさ……」 「うん?」 ミミが首をかしげて聞く。 「もし、ちょっと勇気をだせば良かったって気づけば、今頃は違う運命を辿っていたのかな考えてさ……」 星を見て語るラルカを、ミミは神妙な面持ちで見ていた。 「きっとさ、あのパッチールって子にも恥をかかせずに出来たと思うんだ。あの時の子には、急に逃げたりなんかして本当にすまないと思ったからね……それに、他に出会った子とも臆病にならずに済んだのだから」 夜空に浮かぶ星に、今まで逃げ出してしまった雌達の顔を思い浮かばせる。うまくいっていたら、彼女達とも良い関係が出来ていたかもしれない。キスくらいでそれが叶うかはわからないが…… ミミはそれを体を通じ合わせることによって知る事が出来た。唇を重ねるとはとても緊張するものだが、勇気を出せば出来ないものなんかじゃない。ラルカにとってこの経験は、重ねてきた勝利の数よりもずっと価値のある宝物だ。 「それってさ、どういう事……?」 ミミの声が低く聞こえた気がしたが、ラルカは大して気に留めず答える。 「俺はさ、それに気づかせてくれたミミには感謝してるんだ。ずっとひどい奴だとは思ってきたけど、でも、ガキだった俺を大人へとしてくれた良い奴だって事も、知ったんだ」 ラルカは照れくさそうに笑みを浮かべながら、星に向かって手を伸ばす。 「出会いって不思議だよな。俺の知らない事を色々と教えてくれる。俺はずっと、自分の中で全部を理解していたつもりだったけど、それは全部子供の考えに過ぎなかったんだって……」 天狗のように周りを見下しながら、強い自分は自由に生きて当たり前なんだと思い込んでいた。しかし、失って初めてその価値を大きく理解した。これも、ある意味ミミのおかげとも言える。出来ることなら今すぐにでも会いたい。 「ラルカはさぁ、自分が大人になれるんだったら、誰でも良かったの?」 少しだけ、ミミの声が震えているような気がしたが、それはきっと気のせいだろう。疲れが溜まっているんだ、彼女も…… 「ん? まぁなんて言うかな。俺は今まで自分が見下してきた奴としか出会わなかったから、ミミと出会ってからは、ぼろぼろにされて、打ちのめされて、あんな事をされて、それが自分変えた。気づかなかった事を沢山知ることが出来たんだ」 伸ばした手で、星を掴むように手をぐっと握った。 「俺はもう、前のようなガキじゃないんだってね……」 その表情はとっても誇らしげだった。自分を誘拐した雌との出会いが、こんな風に自分を正しく変えて言ったなんて可笑しな話だが、でも、全部悪い訳でもなかった。 キスが出来た。自分の仲間の存在が大切だと知った。周りの者馬鹿にした考えをしなくなった。ミミは良い奴である事も知った。それらが自分を成長させた。今はそれが、誇りに思えた。 「……」 「ありがとうミミ。今だけは、君にそう言いたい」 ラルカはそっと瞳を閉じ、心を込めて感謝の気持ちを一言に乗せて口にした。彼女の顔をみなかったのは照れくさい気持ちに負けて顔を真っ赤に染めたくなかったからである。 多分この後彼女の口から、言ってて恥ずかしいわねなどと、笑わいを含めた言葉が返って来そうだ。 「何がさ、ありがとう、よ……ふざけないで……」 しかし、彼女の口から発せられたのは感謝を否定する言葉だった。 「ミミ?」 予想が外れたその声はとても震えていて、苛立ちに満ちていた。同時に悔しさみたいなものさえ含まれている。 ラルカは目を開けて彼女の方に振り向こうとした。その瞬間だった…… 「わっ!?」 突然足元を蹴られ、大きくバランスを崩してその場に倒れこんでしまった。強い衝撃が背中から伝わり、苦痛に呻こうとした矢先に腹の上にミミが圧し掛かってくる。 「うぐっ……!?」 一瞬の出来事で体が対応できなかった。疲労と体が鈍っていた理由もあったが、一番の理由はミミの唐突な行いだった。 彼女は冷たい視線を瞳にやどし、その表情は冷徹であったが何処か憤怒の感情が漂っていた。 どうして、自分が何か気に食わない事いってしまったのだろうか。頭の中で模索しても答えは見つからない。 答を求める前に、彼女の口から冷たい言葉が飛ぶ。 「こっちの気持ちも知らないで、あなたなんて何もわかっちゃいないのよ……何が大人よ……エッチを覚えた程度のガキのまんまじゃない……」 「ミミ、どうして……?」 「ふふ……とんだ雌好きな雄ねラルカって……しかも無自覚で、誰ともキスが出来ればそれでいいだなんて……キスを迫ったアタシでも引いちゃったわ」 ミミは冷笑を浮かばせながら、瞳は何故か悲しみを宿す。 「どうしちゃったんだよ……俺が何も分かっていないって、どういう事だよ!?」 ラルカは怖気ながら面と向かって聞いた。ミミは悲しそうな瞳を反らし、やがて間を置いて口を開く。 「教えてあげる。ラルカはアタシと始めてであった時、アタシに乱暴されながら、心の内ではそういう事されるのを望んでいたのよ……」 「な、何? それはどういう事だよ……?」 ラルカは意味が分からず、 「アタシにぼろぼろにされて自分の中の自信が打ち砕かれて、それでアタシにめちゃくちゃにされるのを望んでいたのよ。きっと……」 「ち、ちがう……!」 ミミの言う事をラルカは否定する。しかし彼女は嘲笑うかのように言う。 「そうかしら、現にあの時のラルカは女の子とキスも満足にできないくらい臆病者だったでしょ?」 「それは……」 図星と言えばそうなる。言い訳のしようがなかった。事実、ミミの強烈な張り手が痛くて泣いた事があったがその後にむらむらした気持ちが襲っていた事があった。 そして成すがままに彼女の子作りをさせられた。しかし、なぜその話が今になって出てくるのだろう。ラルカは答を求めるようにミミを見つめる。 「あなたは確かに強いわ。そう、戦うことばかりにしか感心がなくなるくらいにね。だけど、戦うことは出来ても、雌と一線を越えた触れ合いは怖くてできなかったのよ」 「どういうことだよ……?」 雌との接吻をする際に心が締め付けられるように痛くて息苦しい思いに襲われた事が何度もあるが、それは産まれ持っての特性だったとずっと信じてきた。 それをこのミミロップはなぜ、その特性を恐怖と言い換えるのだろう。 「不思議に思っていたのよ。これだけたくましくて格好良くて、それ上強い遺伝子を持った雄として自信に満ち溢れているあなたが、なんで雌との口付けにそこまで苦しまないといけないのよ?」 ミミは仰向けになったラルカの上に重なるように倒れ、顔同士が触れ合いそうな距離を保って続ける。 「それはね。あなたは子供すぎたからよ。他の子と一線を越えるのが怖くてしょうがない子供だったのよ」 「なんだ……って……」 ラルカは顔を背けようとするも、ミミの言葉に驚いて向き直る。 「産まれたからずっと人間や血の繋がらない兄姉と一緒にバトル三昧な生活をしてきたのでしょ。あなたの今までの自信や自尊心はずっとバトルの勝利で培われてきた物。そして、人間や兄姉がいる人生がラルカにとって当たり前であって、それが絶対だったのよ」 説明しながらミミは細い指先でラルカの鼻先に厭らしく触れる。 「アタシと一緒になって欲しいと求めてもラルカは頑として嫌がった。アタシがいくら世話して尽くしてあげたりお仕置きをしてやっても、ラルカはそいつらの事を諦めようとしなかった。それがあなたの心の支えであるかのようにね……」 ミミは少しだけ悔しそうに表情をむっとさせる。 「それはね、あなたがそいつらとの関係が無くなるのがとっても嫌で、心の中で怯えていたのよ。子供は何時か大人になって、人生のパートナー見つけて親元から旅立つものでしょ?」 「め、雌に興味を持つ事が、俺がアナやゴー兄さん、ミンミン姉さんを失ってしまう事かよ?」 「そうよ。だから雌と口付けする事で雄としての一歩を踏み出せず、異常なくらい苦しんでいたのよ。ラルカはそいつらがとっても大好きで絶対無くしたくないくらい依存していたのよ。愛していたと言っていいくらい」 「でも俺、あの時アナ達に反抗して勝手に飛び出してしまったんだ。そんな俺がみんなを愛する資格なんて……」 動揺するラルカにミミはくすっと微笑した。 「誰だって他人の言う事を無視して自由に出たい事だってあるでしょ。ずっと人間の手で飼われてきたんだからそのくらい自然な事よ。反抗だって言い換えちゃえば一種の自立なのよ」 「自立……」 「でも、ラルカの場合は自立じゃなくて、自分が愛されている事を自分で証明したくてわざと人間の元から飛び出したに過ぎないのよ。だからすぐにあの二匹に追いつかれたのでしょ?」 「……え?」 ラルカは衝撃の言葉に驚愕し震える。 ゴーやミンミンに追いつかれた事はミミが知るはずなかったのだ。彼女との出会いは、少なくともフォレトスの大爆発に巻き込まれ、そこから自分を救い出してくれた所だったはずだ。 不自由なのに不満を持ち、アナに反抗して勝手に森の方に飛び出した。これはラルカと当事者にしかしらない事情のはずだ。それを彼女は、まるで最初から見ていたかのように語っていた。 なぜ彼女は、自分が兄姉達に追いかけられていたのを知っていたのだろうか……? そしてなぜ、当の本人でさえ知らなかった心の内を彼女は理解していたのか…… 「まてよ、ミミがどうして、それを知っていたんだ?」 「えっ……あっ!」 ラルカが問いにミミはそこではっとした表情になる。焦って両手で口元を塞いだが、言葉は既にラルカに届いている。 「なぜ俺が、ゴー兄さんやミンミン姉さんに追われて、すぐに追いつかれた事を知っているんだ!?」 「それは……」 ミミが戸惑った顔をする。 「そして、何で俺の事をそんな風に理解できてるんだよ。ずっと前から見てきたように言い草で!」 「……っ」 「ミミ、君は一体……!」 その時の彼女は何故か悔やむように怪訝そうに表情を歪め、ラルカに覆いかぶさった状態でしばらく長い沈黙に入る。 やがて、落ち着きを取り戻して元の表情に戻った時、彼女の瞳は何故か潤わせていた。そして深く深呼吸をした後、ゆっくりと口を開いた…… 「ちょっと喋りすぎちゃったみたいね。自分がバカみたい……」 「どういう……」 ラルカが言おうとする前にミミはそれを遮り、質問をなげる。 「……ねぇラルカ、アタシがあなたの子供が欲しい理由を聞いた時、なんて言ったか覚えてる……?」 突然の質問にラルカは慌てて思考をめぐらせる。その中で単純な理由を一つあげた。 「母親になる事、幸せになる為に……」 「そうね……じゃぁ、どうしてあなたを選んだかも思い出せる……?」 「それは……」 答えにしてはどうにも曖昧だった為に、何を適切にあげればいいか分からなかった。 彼女が自分を選んだ理由とは…… ・――他の雄が体目的でしかミミに近寄ろうとしていた。下劣な雄を父親にしたくはなかった。 ・――"高個体種"として優秀な遺伝子を子供に残したかった。 この二つだったが、ラルカは自信を持って答える事が出来なかった。その疑問に納得がつく理由がいま思いついた。 体目的で近寄られるのが嫌なら、なぜ自分には体を積極的に駆使したりするのだろう。体目的以外に彼女を思ってくれるのであれば、自分じゃなくてもいいはずだ。なぜ自分をそういう目で見ないと彼女は思ったのだろう? 逆に疑問だ。 もうひとつ、"高個体種"だから選んだのであれば納得はできるが、それを証明する事が自分には出来なかった。幼い頃のバトル話で天才的なセンスを発揮させたのを話しただけで、それが優勢な遺伝子を持っている理由にはならない。 現にラルカは彼女とのバトルにボロ負けしている。優勢な遺伝子が欲しいなら、負けた自分なんて用無しになるはずだ。楽勝に勝利してまで自分の遺伝子を欲しがる訳がない。 自分を選んだ理由としてずっともやもやしていた疑問を晴らすことができた。なら、最後に残った疑問にラルカは頭を悩ませる。 彼女はなぜ、"自分じゃないといけない"のだろうか…… 「ごめん、わからないよ……」 「……そうよね。わからないよね」 それだけ答えれずに謝った。すると彼女は微笑みながら、しかし表情はとても悲しそうに、そして愛おしそうに言う。 「だってラルカに言った、選んだ理由なんて……ほとんどが嘘なんだもん……」 「……え?」 ラルカはその言葉を聞いて唖然とした。――嘘? 「いえ、嘘って程でもないよ。若干、少しだけなら本当の事なのよ……」 ラルカはミミの言っている意味が分からなかった。しかし今分かるのは、彼女が今にも泣きそうな表情をしていた事だった。 ミミは長い耳をだらんとさげて顔を俯かせ、微弱に肩を震わせる。 「本当の事だけど、大分嘘……大分嘘であるけど、ちょっとだけ本当……」 「……」 「アタシね……アタシね……ラルカを選らんだ"本当の理由"はね……」 段々と喋るのも辛そうになるほど肩を激しく震わせた。次第に彼女は何も言えなくなり、右手でぐーを作ると意味もなく地面を叩き始めた。 気持ちが落ち着かせようと、何度も何度もミミはぐーで地面を叩き続けた。ラルカがその様子を見つめながら、やがて彼女は叩く事すらやめた。 「………………」 「………………」 お互いに言葉はなく、沈黙だけが流れる。 戦闘が終わって戻ってきた湖のコイキング達が、何も無い二匹の様子を見飽きて、一匹一匹と水の底に消えていく…… やがて最後の一匹が消えた。誰も見守るものがいなくなり、今の彼女を見る事できるのは自分だけだとラルカは悟る。手錠がなければ、彼は今頃彼女の肩を叩いていただろうが…… だからせめて、声を掛ける事によってせめての気遣いになればと思って、彼女の名前を呼ぼうとした。 「ミミ、無理して言わなくていい。俺を選んだ理由なんてどうでも――」 「アタシね」 ミミがラルカの言葉を遮った。そしてゆっくりと表を上げたその顔はとても晴れやかだった。彼女はまるで天使のようににっこりと笑顔を見せた。そして柔らかな口が次の言葉を告げた。 「あなたに、一目惚れしてたの」 「……え?」 三度目の台詞だった。 ラルカには一瞬彼女が何を言ったか理解するのに時間を有した。 そしてミミの方はその言葉を言った瞬間、顔から火が出そうな勢いで紅潮し、涙まで浮かばせた。 「はは、アタシ何言ってるんだろうね……一目惚れなんて、恋愛ごっこじゃあるまいし」 ミミは涙を浮かばせながら引きついたような笑顔で続ける。 「自分の都合でラルカから大事な人達と引き離したくせに……」 くしゃれた声が笑いと共に出る。 「監禁して、引っぱたいたり踏んだり、痛めつけたりしたくせに……」 その瞳から大粒の涙が零れ落ちる。 「そのうえ勝手に理由つけて犯して陵辱までしたくせに……ふっ……ふふっ……これでさ……理由がさ、一目惚れですって……ははっ……はっ……」 彼女は自嘲するかのように笑いながら泣いていた。次々と溢れ落ちる涙を必死に止めようと両手で目を擦る。それでも涙の粒は止まらない。 「なにっ……が、一目惚れよ……散々ひどい事しておきながら……奪ってばっかりで……何もしてあげないで……その上欲しがってっ……ばっかりっ……はっ……はぁっ……」 「ミミ……」 その涙の粒がラルカの顔に落ちていた。彼女の涙を顔で受けながら、時に彼女の涙が自分の目に落ちて視界がぐらつく。 それでもラルカは、彼女の事をみつめた。 「はっ……あっ……あぁっ……あたし……ああぁっ……」 そこで彼女はようやく、泣き出した。 両手で顔を押さえて泣き顔を隠すが、それでも指の間から漏れる涙が次々と落ちていく。 「ミミ、君はずっと前から俺の事をしっていたのか……」 偶然では無かった二匹の出会い。ラルカは真相を知ろうと泣きじゃくる彼女に問いかける。 「何時、何処で俺の事を知ったんだ?」 「うっ……うっ……ラルカがまだ、今の姿の前から……あなたを見かけた事があるの……」 泣き顔を隠すように嗚咽を洩らしながらもミミは語りだした。 「アタシがこの姿になる前、都会のど真ん中のゴミ捨て場で食べれそうな物をあさっていた時、たまたまあなたを連れたトレーナーを見かけたの……あの頃のアタシはとても荒んでいて、生き延びる為に盗みや強奪をやりまくっていたの……そこは覚えているわよね?」 「うん、前にミミが話してくれた過去の話だろ……?」 「あなたの飼い主をターゲットに決めて、路地裏からテーブルに座って眠るように休んでいる所を少しずつ近づいていったの。そして後少しの所で荷物に手が届きそうになった時、あなたがボールの中から飛び出してきたの……」 「俺が!?」 「小さいラルカが出てきて、せっかくあと少しで手に入りそうだった所で人間が起きてしまってアタシは慌てて逃げたの。その内に追いかけっこを始めたおかげで、食べ物を取り損ねた。ちょうどその頃のアタシはお腹が空きすぎて、何処かへいくラルカの背後を睨んだわ」 ラルカは昔の自分を思い出した。あの頃から自分はずっと何かとボールからは飛び出してはうろちょろしてはみんなを困らせていた。今思うと随分と迷惑をかけてきたなと反省する。 「アタシは諦めずにずっと持ち物を狙ったわ。何度も盗めるチャンスもあった……けど、その度にあなたがぴょんぴょん飛び出してはせっかくのチャンスを無駄にしてきたの。都会で狙っている間ずぅっとね」 ポケモンセンターにいる間・他のトレーナーとの勝負の間・公園で休憩中・本で料理の店を探している所・ぼおっと余所見をしている所・幾多と盗む機会はいくらでもあったと彼女は語った。 「毎日毎日ずっと邪魔されてばかりでいい加減アタシは腹を立てて、何時しか顔もよく見ていないあなたの事を思うようになったの。邪魔ばかりしてくるラルカに仕返しをしようとずっと機会を覗ってたわ。けど、こっちの思い通りにあなたは中々出て来てくれないまま、時間ばかりがすぎちゃったの……」 ミミは過去の話を懐かしげに語りながらふふっと笑みをこぼす。 「そんある日、顔も見ない内に都会を出る話を耳にした。それを聞いた瞬間、アタシは産まれて初めて悔しくてしょうがない気持ちになったの。ここまで舐められて黙っていられるかっ! ってな具合に怒ったわ。初めてよ、自分がこんなに怒ったのが……」 「そうなんだ……俺はアナ達だけじゃなくて、ミミにまで迷惑をかけていたんだな」 ラルカも噴き出すように苦笑する。 「そんなある時、あなたの飼い主がラルカの入ったボールを置き忘れていた。チャンスだったアタシはボールに向かっていった。一発殴ってやらないと気がすまない、怒りのままボールに手をかけようとした瞬間、ボールが勝手に開いて、あなたは初めてアタシの目の前にあらわれた……」 「あの頃から、俺と出会ったんだ……」 「うん、初めてラルカと対面した瞬間。アタシは今までの怒りを忘れてあなたを見つめていたわ」 ミミは顔を赤らめながら涙を拭いながら、気持ちのこもった声で言った。 「初めてあなたを見た時は、こんな奴がアタシの獲物を邪魔してきた奴だったなんて信じられなかった。生意気そうに釣り上がった目に、ムスッとした口元、可愛げの無い反抗的な顔で、アタシより弱そうだった。けど、あの瞬間から、アタシはあなたに見惚れてしまっていたの……」 「……」 ラルカは黙って聞いた。 「訳の分からない熱が顔中から込み上げてきて、変に胸が高鳴った。黙ったまま真っ直ぐとアタシを見つめる目が、アタシを混乱させた。ラルカに一目惚れした瞬間だった……」 初めて対面した時の話をまるで昨日の事のように語っていた。 「お互いに言葉は無くて、その内あなたの方から話をしてきたのよ……なんて言ったか覚えてる……?」 「え、いや、全くない……」 「『お前、そんなに見つめて俺とチューしたいのか?』よ」 「……え?」 四度目の台詞だ。ラルカは目のまん丸にさせながら聞き返す。 「俺、そんな事言ったっけ?」 「そうよ、鮮明に思い出せるわ。生意気な顔で堂々とそう言ってきたわ。アタシは驚いて、意味が分からずその場から逃げ出したわ。ふふっ……」 くすりと笑いを返す彼女に、ラルカは進化する前の頃の記憶を巡らせていた。 まだ、パッチールの子とキスしそうになるもっと前に、自分はちょうどアナと一緒にテレビを見ていた。そのテレビの中には人間の男と女がまっすぐと見つめあいやがて唇を交わしていたシーンがあった。ラルカはその時の状況が似ていた為に、何も考え無しに言ってしまったのだろう。 思い出すだけで火が出るほど恥ずかしくなった。自分からまともにキスなんて出来もしないくせに…… 「お、俺ってそんな大胆な事言ってたんだ……はぅぅっ……」 「うふふ、でもね、急いで逃げた後すごく後悔しちゃった。次に戻った頃には、すでにラルカも飼い主もいなくなっていた。いくら近くを探しても何処にも見当たらなかった、きっとアタシが逃げている間に都会から出ていっちゃったのよね……?」 「う、ん、まぁ……どうだろう……」 まだ恥ずかしさが残り、はっきりと答える事が出来なかった。目をちらちらミミの方に向けては反らしたりを繰り返していた。 「そしてアタシは何時からか人から盗むのを止めてしまってあなたの事ずっと探し回ったの。何日も何日も、あなたに会いたいその一心で駆け巡ったわ。その内、都会の外ならみつかるんじゃないかと思って、忌々しい記憶のある都会から出て行って野生の暮らしに入っていった」 「俺の為に……」 そこでラルカはまた、顔が赤く染まっていく。 「うん、でも都会の外は想像以上に広くて、探すあても無くて、見つけるのは絶望的だったわ。それでも、がむしゃらに探し回ったわ。その中で余所者を嫌った野性の奴らとも戦ったわ。慣れない野生生活をしていく内に、何時の間にか進化しちゃった訳……」 ミミは体を起こし、両手で自分の胸を持ち上げる。 「進化した後、長い間で胸が膨らんで、足もこんなに伸びるようになってすっかり雌らしい体つきになっちゃった。強くなって、移動にも便利で良かったけど、それでもラルカを見つける事は出来なかった……そして何時しか諦めて、自分の住処を持つようになって暮らしていたある日の事、またアナタと出会ったの……」 「それは、何処で……?」 「見覚えのある人間がリッシ湖とは逆の方向から来る途中、そこらのポケモンに襲われていたのを見かけたの。そこで偶然、ボールからあなたの現れたのよ。その時は進化していたから、最初は別物かと思っていたけど、でもあの時の生意気そうな目がそっくりだった。だからあなただと確信したの」 ラルカ自信もその記憶はあった。ちょうどあの頃、用事があってリッシ湖からトバリシティに向かう最中、野生のポケモンに襲われて止む得ず戦った。偶然だったのか、彼女はそこで自分を目撃したのだろう。 「アタシはびっくりしてまさかとは思ったわ。けど見ているうちにあっさりと事が終わっちゃって、飼い主が行こうとしたの。アタシは無我夢中でその後を追いかけたわ。途中で町中に入っていったけど、そんなお構いなしだったわ。なにせ、ラルカにまた出会えたんだもの……」 ミミは照れくさそうに、それでもって嬉しそうに言う。 「それからアタシはずっと、ラルカの後を追って旅をしてきたわ。食べ物は現地でとって、あなたの事を眺めながら過ごしてきたわ……ふふ。そうする内に、ラルカの色んな所が見れてとっても楽しかったわ……」 「あれ以来からひっそりと追い回していた訳か。どうりで俺がアナに反抗したり、兄さんや姉さん達に達にわざと捕まっていた理由が分かっていた訳か……」 「だけど、ラルカの名前だけはどうしても聞き取ることは出来なかったわ。耳は良い方なのにね。眺めて観察してるばっかりで、何時も名前を聞くタイミングを見失ってたから……」 「それじゃ俺がフォレトスの大爆発に巻き込まれた時、ミミが助けてくれたのは……」 「うん、あなたとお話をする切欠が欲しかった……フォレトスの時も、アタシは即座にあなたの近くにいたフォレトスを蹴り上げて爆発を止めたのよ。その後そいつを盾にして、あなたを守ろうとした。だけど完全に防ぐことまではできなかったわ」 「そうだったのか……」 「アタシもドジって巻き込まれて、手負いを受けてしまったわ。けどラルカ程重症じゃなかったから、アタシ一人で自分の住処まで運んだのよ。足が強いから、そこは楽だったんだけど、胸の棘が痛かったわね……」 「これは、その……ごめん……」 自分を助けてくれた恩人を仇で返したような気分になり、思わず謝った。 「くすっ、謝る必要なんてないのに、アタシが勝手にやっただけなんだから。けどこうして、ラルカと一緒になることが出来て良かったと思ってるのよ……」 「あの時は随分と手荒な事をしてくれたがな……」 「……監禁した事? それとも無理やり犯した事?」 「最初の時のミミは俺を解放してくれて良い奴だとは思った。次に目を覚ました時は、雌なんて信じられないくらいひどいと思ったさ……」 ミミはそこで悲しそうな顔つきになる。 「俺なんて、強い子供とミミが幸せになる為だけに選ばれた生贄なんだと思わされた。ずっとな……けど、まさかそんな理由があったなんてな……」 「ねぇラルカ……」 ミミが唐突に聞いてくる。 「ん?」 「アタシの事、恨んでる……?」 「……」 ラルカは答を言わず、黙って聞く。 「今更すぎるとは思うけど、あなたから大事な仲間から引き離しておいて、自分の都合で子作りまでさせて、逆らったら引っぱたいたりもしたし、憎いと思ってるでしょ……?」 そこもラルカは何も答えず、硬い表情を作る。 「いいのよ。恨んでくれても……所詮はアタシが一目惚れして勝手にした事だもの。愛される事をしらないで、あなたの子供が欲しくてあんな事をしたのよ。仕方ないわよ」 「……」 「はっきり言ってよ……恨んでるって、ありがとうと言っても、本当は心の何処かで恨んでいるんでしょ……当たり前の事だもん……」 再び涙を見せるミミ。彼女の言葉には、恨んでくれたほうがまだ良い。そういった気持ちが含まれていた。 『ひどい事した自分を恨め』、『一目惚れしていた』と、二つの言葉がラルカの中でせめぎ合う。好きだったのに、自分を嫌って欲しいとはどういった事なのだろう。 恨んでいないと言えば、それは嘘になる。しかし、彼女の自分に対する想いや尽くしてくれた事もあって、感謝だってしている。 一緒に暮らす時間が長く、その分だけ触れ合う事も多かった。いろいろあったが、それを恨みの一言で片付けられるものではない。この気持ちをどう表したらいいかラルカは答えに困った。 「わからないよ、俺がいまミミの事恨んでいるかどうかだなんて、そんなの簡単に言える訳が無い……」 「……」 ミミは押し黙った。瞳に涙を浮かべたまま、視線を下に落とす。やがて彼女はゆっくりとラルカの体から降りる。 「ごめんね……急に乱暴なんかしちゃったりして……」 「ミミ……」 月が雲に覆われて夜空の光が薄れていく。 暗くなった視界の先に背中を向けて肩を震わせて涙を拭っているのが分かる。 なんて声を掛けたらいいか、今のラルカには分からない。黙ってその様子を見守るくらいしかできなかった。 「でも、お願い……誓って……アタシから離れないで……目の前から消えたりしないで……お願い……」 ミミは涙顔で大きく振り返り、ラルカの胸に顔を当てて泣きじゃくる。 「アタシだけじゃ、子供を生んでもちっとも嬉しくない……あなたが居てくれないと……意味がないの……虚しいの……」 必死にせがむも、自分だって困っているのだ。本来ならば、憎む立場である者が相手の対してどうすればいいか分からずに申し訳なくなっている。 ミミが望む幸せがあるように、自分にも帰れる幸せがある。仮に前者に共感が出来ても、両方を得る事など不可能。 考えるだけもやが広がるばかりで、ラルカの心は複雑で分岐の多い迷宮に迷い込んだ感覚に陥る。 ――一目惚れしてたの。 その単語が頭の中で理解と言う形で知った。一目惚れなんて、自分の人生の中でそんなものは一度もなかった。 まだリオルだった頃、快進撃にバトルで連勝を重ねてきたラルカは忽ち、トレーナー達の噂になり、アナを通じてバトルを吹っかけられることが多かった。 そこでラルカが出会ってきたポケモン達はみんなライバル心を持ったり、嫉妬心をむき出しにしたり、単純な闘争心を向けたり、憧れをもったりと様々だった。 どれもこれも、ラルカにとっては有象無象程度にしか思わなかった。バトルを申し込まれてラルカは言われる通り戦い、そして勝ち抜いてきた。 そんな中で好意をよせて迫ってくる雌は珍しくなかった。けどそれもきまぐれな雌ばっかりで、軽い気持ちで自分と付き合ってみたい奴らばかりだった。 特別なものなんてなかった。 しかし、ある日パッチールの子と出会い口付けを要求された時、胸が苦しくなった。自分が始めて雌のと一線を越える事に怯えてしまったのだ。ずっと生まれ持っていた性質のせいだと思ってきた。いや、そう言い訳がしたかったのだ。 今思えば自分は、他人との触れ合いがトレーナーや兄姉のいる生活が狂わせてしまう気がしてずっと逃げ出したのだ。胸の苦しみはきっと、強い不安から産まれた反動だった。 自分は前に進みたくなかったのだ。アナ、ゴー、ミンミンのいる生活をずっと過ごしていたかった、変えたくなど無かった、成長する事から逃げていたのだ…… 今こそ己の内の気持ちを思い知り、ラルカは自分がいかに子供であるかを知った。 目の前にいる彼女もまた自分の気持ちにまっすぐになれず、奪う事でしか恋心を示す事の出来ない弱い子だった。一緒だ、ラルカとミミは似たり寄ったりの不器用な生き物だったのだ。 「ぐしゅっ、ごめん……せっかくのデートなのに、アタシったら泣いたり怒ったりで自分の事ばかり……こんな雌が、誰かを好きになる資格なんて無い……」 「そんな事ねぇよ……」 「でも……」 「あんた、俺と全く一緒じゃないかよ。自分の気持ちに素直になれず、言い訳して誤魔化して、それで納得して生きている。でも、それに気づいたじゃないかよ?」 不器用ながら、それでも自己嫌悪するミミをかばう為に知恵を絞って考えた言葉だった。 「俺はミミに教えてもらい、ミミは自覚した。俺より、よっぽど他人を好きになる資格があるよ。ただ、相手の都合を考えないってだけで、それ以外はなんて事ない……それに、振り向かせれるだけのものは持ってるんだしな……」 恥ずかしそうに言いながら、最後の台詞の所で視線を胸元に行かせる。最初ミミは何の事かと首を傾げるが、やがて理解する。 「……こんな時に何よぉ。アタシって気持ち以外は胸ばかりが取り柄って言いたい訳?」 不満そうに泣き顔をジト目に変えてラルカを睨み付ける。我ながら厭らしいフォローしてしまったと半分後悔してしまう。 「ち、違うって……ただ、いい部分を褒めただけだって……あっ……」 誤解を解こうとして、逆にますます誤解を深める真似をしてしまった。ミミが呆れたような眼差しを向けられる。 「ラルカったら、何時しかアタシの事をそういう目で見るようになったのね。そういえば胸の触り方も随分気合入って気持ち良さそうだったし、あーあ、アタシのラルカがスケベな雄になっちゃった」 「な、てめっ……勝手にきめんなっ! ってか、だれのせいだと思ってるんだよ!」 「あ、認めちゃうんだ。おっぱい好きなのを」 更にどつぼを踏んで顔を真っ赤にしたラルカをにやにやした笑みを見せる。 「あらあら、今後はスケベなラルカには注意をしなきゃね~。じゃないとむらむらした子犬君にアタシの自慢のおっぱいがレイプされちゃいそうだし~」 「この……レイプはお前の方だろうがぁ~……このド淫乱兎がっ!!」 両手で胸をガードするように、わざとらしく寄せ上げる嫌味な挑発にラルカは血管を浮かび上がらせながら強く叫んだ。 「うふふっ」 「ったくぅ……あんたって雌は慰めるだけ損だよな」 すっかり笑顔を取り戻したミミに恥をかいたラルカは深い溜め息を吐いた。 「あら、やさしいのね。だから好きになっちゃったのかな。アタシ……」 「ふんっ……もうどうでもいいよ……」 もはやどんなに恥ずかしい思いをしても構わなかった。やけ気味になったラルカは自分でも思いがけない行動に移った。 「えっ、きゃっ……」 ミミらしくない驚いた悲鳴があがる。ラルカは両手の手錠で彼女の背中を抱き寄せ、体を抱きつい。それもぎゅっと、力の限りでだ。 彼女の温もりと共にふわふわした耳が触れて、心地の良く感じる。 「ちょっと、やだ何きゅうに……」 「ふん、ちょっとしたお返しだよ……ざまあみやがれってんだ」 頬を紅潮せて動揺するミミにラルカはニッと勝ち誇った笑みを見せた。 何故このような事をしてしまったのか自分でも理解できなかったが、もしかしたら彼女の好意への表れかもしれない。心のどこかで、ミミの事が好きになっていたかもしれないが、それを知る術はない。 くっつきあうルカリオとミミロップの二匹を、雲から出た月の光が祝福するように強い光を照らしてくる。 「どうだよ、初めて抱かれた気分はよ」 「痛いっ……」 「あれっ?」 「痛いの……胸の棘が変なところに刺さってすごく……」 苦痛の表情を浮かべる様子を見て、ラルカはぎょっとした。 「やばっ……ご、ご、ごめんっ!」 考え無しに抱きついたのが誤算だった。いつも彼女の方から平然と抱きついていた自身の棘の存在をすっかり忘れていた。 慌てて謝りながらばっと飛び退く。恐る恐る、棘の刺さった場所を確認しようと視線を落とす。 「その、何処に刺さった……あれ?」 ラルカが彼女の胸辺りをいくら確認をしても、刺さった痕のようなものは無く、傷一つない美体があった。 不思議に思って顔を見上げると、ようやく気づいたかと言わんばかりに舌をだして微笑む彼女の顔があった。 「へへっ……それっ!」 「へっ?」 間抜けな顔に、二つの実りが迫る。 掛け声と共にラルカの顔が胸元に引き寄せられて視界と鼻を塞がれてしまう。 「ぬわっ……んっ……ぷっ……!?」 「ふふふ、嘘だよ~。そんな棘でアタシが傷つく訳無いじゃないの~」 イタズラな笑みを浮かべながらラルカの頭部を押さえて胸の間から逃げられないようにしている為に柔らかい脂肪が鼻を塞ぎ、息苦しさと羞恥心に悶え苦しむ。 「ぶはっ……ちょっ……離せって、自分の特性を考えろっ……!」 「何よ自分から抱きついておいていまさら。でも大丈夫っ! また興奮したらアタシが鎮めてあげるんだから、いくらでも。あははははっ」 可愛らしく高らかに笑いながら胸をぎゅうぎゅうに押し付けて離さない。ラルカは魔性のメロメロボディに頭を犯される事にびびりながら必死にもがいた。 再び騒がしくなったリッシ湖には水辺のポケモン達が集まり、外からも彼らの様子を見つめる他のポケモン達の姿もあった。みんな、何事かと様子を見守っていた。 沢山の視線を浴びながらも、二匹だけの世界にいたラルカとミミは気に掛けることなく、楽しそうにはしゃいでいたのだった。 「……貴様達、やっぱりイチャついておるではないかっ……」 地べたで気絶していたビークインが目を覚まし、ふらふらしながら二匹の様子を嫉視した。 いろいろあったリッシ湖から洞窟に戻ったラルカとミミは長い夜を終えてから次の日を迎えていた。外とは違って薄暗い洞窟内は静けさがあり、気持ちが落ち着く。 ビークインとの戦いでぼろぼろだった傷も目立たなくなり、順調に回復に向かっている。 そんな中、ラルカは妙に寝付けない気分になっていた。不思議と目が冴えていた。いくら瞼を閉じても結果は同じで、眠りにつく事はなかった。 どうにも違和感があった。それは横にミミが寝ていたからかもしれない。何時もならラルカとミミは離れていた場所で寝ていた。 用事がある以外はミミはこっちの所で来たりなんかはしなかった。自分の気持ちを曝け出し、心が晴れやかになった彼女は気負いする事なく自分と一緒に眠る事が出来るようになったのだろう。 ここ最近一人で眠る事の多かったラルカは、誰かと一緒に眠るのに不思議と暖かいものを感じていた。相変わらず冷たい手錠を身に纏ってはいるが、それも気にならないくらい落ち着いている。 ふと目を開けたラルカは上半身を起こし、隣を向いた。気持ち良さそうな顔で眠りについているミミの姿がある。自分の長いミミを抱いてぐっすりとしている。 隙だらけで何時でも襲えそうなくらい無防備だった。彼女の気持ちを知るまでは、強い彼女には一遍の隙もなかった。襲えるものなら襲ってみろの警戒心を常に纏っていたからである。 でも今日はそれがない。それだけミミは安心しきっているのだろう。ラルカ自身もまた、そんな彼女の油断を突こうなどと考える事はなかった。 「うぅん……んぅっ……」 寝言を言うミミの表情が笑った。眠りの中でどんな夢をみているのか。きっと、ミミが望んでいた家族の夢でもみているか。その中に、きっと自分も含まれているのだろう。 ラルカも寝顔につられて笑みを零す。こんな生意気なだけの自分と将来を望んでくれている。もし永遠にここから出られなくても、彼女と一緒なら大丈夫な安心な気がした。幸せの為の生贄などではなく、一匹の雄として。 ふとラルカは彼女と出来る子供の姿を思い描いた。その中には自分みたいな生意気な目つきをした子供と、ミミみたいな我侭で誰かを振り回してしまうような二匹が想像できた。そう思うと、思わず噴き出しそうになった。 反抗されたり振り回されたりを自分達が味わうことになったら、さぞかし大変だろう。それでも、ミミはそんな自分との間に出来た子供を望むのだろう。 馬鹿げた想像はここまでにして、ラルカは眠りに入ろうと体の横にしようとした。その時だった。 「んっ……?」 ミミと反対の方向に顔を向けようとした途端に別の違和感を感じた。 首輪を繋ぐ鎖が、異様なくらい長い気がした。洞窟にいる間は岩壁の穴に鎖をくくりつけて彼女が管理していた。その為に長さ的には攻撃するだけのゆとりがなかった。 しかし、今に至ってはそれが驚くほどゆとりがある。不思議に思ったラルカは首輪の鎖を引っ張った。ジャラジャラと金属音が鳴るため、出来るだけゆっくりと音をたてないようにした。 鎖は長々と続き、やがては彼女の左腕からするりと抜けるように途切れてた。ラルカは驚愕に目を見張った。 「鎖が……!!」 繋がっていない……脱出を邪魔してきた鎖が、自分を繋いでいた鎖が繋がれていないのである。ここから逃げる事ができる。 何故繋がっていないのか不思議に思い、途切れた鎖の端とミミの寝顔を交互に見る。 そういえば昨日、帰った後すぐに疲労で眠ってしまった気づかなかったが、朝起きてから彼女はずっと腕に鎖を巻いていたまんまだった。 彼女も疲れていたのかもしれないが、しかし、夜になるまでずっとそのままだなんてありえるのだろうか? 今日は一日中外に出ないで、彼女が蓄えていた木の実を食べて過ごしてきた。 外に出ない理由を聞くと、彼女はこう行った 『今日はずっとラルカのそばにいたいのよ、いいでしょ?』 などと、照れくさそうに言っていた。ラルカは苦笑しながらもそれを承諾していた。 そして眠る時になっても、彼女は鎖を岩壁の穴にくくりつけないまま眠ってしまった。 どうして逃亡させない為の鎖をそのままにしたのだろうか。 眠気に負けて巻き忘れたのか、それとも腕に巻いていた筈が何かの拍子に緩んだのか、或いは自分が逃げない事を信用しているのか…… 三つの内、一つ目二つ目の理由があるならばそれはミミの完全にな油断だ。自分は解放される。 しかし、そうではない三つ目が理由なら、ラルカはこれから良心が痛む行動を取る事になってしまう。 ラルカは怪訝そうな顔で、音をたてないように鎖の端をを自分の左腕に巻きつける。伸ばしたままだと逃げる際に引き摺った音で目を覚まされるからだ。 全てを巻き終え、冷たい温度と縛る感覚に違和感を感じながらもゆっくりと立ち上がる。 ミミは目を覚ます気配はない。相変わらず可愛らしい寝息を立てている。見納めと言わんばかりラルカは寂しそうに彼女を見下ろす。 そして、そっと行こうとした時、 「子供の……名前……考えてくれたぁ……?」 背筋がびくっとして振り返るが、それは寝言だった。 「ふぅ……」 冷や汗をかいて安堵の溜め息を吐いた。まだミミは夢の中にいるようだ。そんな彼女を裏切るような事をしているようで、心が締め付けられる。 せめて子供が一匹出来てからでも良かった気がするが、この機会を逃したら今度は何時になるか分からない。 また彼女は一匹だけになってしまう。せめて、彼女を身内に入れること出来ればと思ったが、後々の事を考えるとそれは無理だと諦める。だから、こうするしかなかった…… 「らるかぁ……うぅん……」 寝言の中で、自分の名を呼ばれた。その瞬間、ラルカの心の中が悲しみで満たされていく。 ラルカは寂しそうな目で背後にいるミミに静かに語りかける。 「ミミ、君が俺の事を好きだったのは、とても嬉しいよ。俺もね、もしかしたらミミの事を好きでいたのかもしれない。敵対してばかりだったけど、こんなにまで思っていてくれた事も薄々は感じてはいた……」 一歩を踏み出す。 「毎日毎日、君と過ごしてきた日々の中で少しずつ理解してきたよ……」 もう一歩を踏み出す。 「こんな俺の事をここまで好きだという気持ちを見せてくれた奴なんて、他にはいないよ。けどな、俺の事を思ってくれている者もいる。俺はそれを裏切るなんてできない。出来る事なら、君も一緒に来て欲しい……けどそれは無理だろう。君は人間をとっても嫌っているから……」 ラルカは沈むような気持ちでもう一歩踏み出す。 「誘う勇気も切欠もなくて、一人残して行く俺を君は許さないだろうな……俺も、君を裏切る自分自身が許せない気がする……」 次の一歩を踏み出し、そこでラルカは振り返り、涙を浮かべる。 「ようやくさ、好きだって事に気づいたのに……俺も君も……」 涙を堪えようとしてもが次々と溢れでてしまう。 「なんでさ、こんな不器用な形でしか出会わなかったのかな、俺達って……」 彼女と過ごしてきた日々が思い出となって思い浮かぶ。敵対して冷たい視線送りつけても彼女はそれを受け流し、笑顔で食事や色々な世話をしてくれた。会話はあまりなかったが、体を触れ合い、過ごしてきた時間は長かった。 自分の気づかなかった気持ちにも気づき、出来なかった事もできるようになった。変われるようにもなった。全て、ミミがいてくれたおかげで…… そんな素晴らしい彼女を裏切って、ラルカは出て行こうとしている。 「こんな形じゃなく、もっと別の形で君に会えたら、本当の意味で一緒になれたかもしれないよ……君が望んでいたことも、叶えられたかも知れない……」 瞼をこすり、涙を拭う。 「もし、もしもだけどさ……こんな俺を君が許してくれて、また出会えたならさ……俺……」 ラルカは真に自分の気持ちを言葉に変えて言う。 「今度は、俺の方から君を連れていってもいいかな……強引にも、誘い出してさ……」 無理だと分かってはいる。けど、もし叶うのであればそうしたい。自分が帰るべき場所に、彼女も連れて行きたい。 「いいかな? いいよな? 俺達、子供を作ってパパママになるんだもんな……ふふっ……」 自分を愛してくれた彼女をおいて行きたくは無い。もし脱走がばれて再び捕まってしまう事になっても良かった。 一目惚れを口にした時の彼女の純粋な笑顔が今でも瞼に焼き付いている。唇を交わした時の感触が蘇る。ラルカは静かに唇に手を当てた。 そこからラルカの言葉はなかった。目を閉じ、出口の方に振り返って、最後の一言を呟き、駆け出した。 「さよなら……」 その日の夜は、丁度雨だった。それも激しい程の豪雨であり、視界はとても悪かった 普段ならちらほら見かけるはずの野性のポケモンも、この日はまったく姿を見かけなかった。当然だろう、こんな日に好き好んで外に飛び出したがる奴なんていないはず。 そんな中を、ラルカは森の中を雨に濡れながら懸命に駆け抜けていた。 降り注ぐ冷たい水の粒が痛いほど体を打ちつける。体毛を濡らし、ゆっくりと体温を奪っていく。 濡れた地面が泥水となって柔らかくなって走る度に泥がびしゃびしゃと跳ね上がっていく。足場も悪い為に、何度か危うく転びそうになった。 ミミの所から離れてから数時間が立って、今は深夜の時間帯だ。まだ回復しきらない訛った体でここまで来たのは、相当苦労した。 そのうち、雷が凄まじい爆音と共に鳴り響くと共に風も強く吹き荒れ始める。いよいよ天気は雨から嵐に変わろうとしている。 適当な場所を見つけて荒れた天候を過ごせる場所を探そうと思えば出来たが、生憎そんな場所などなかった。冷静でなかったラルカはただ一心にアナやゴー、ミンミンのいる所に向おうとしていた。 だが方角が分からず、耳も嵐の音ばかりで五月蝿く、自慢の波動すらも地理を把握するのに何の役にも立たなかった。豪雨に打たれながら森の中を彷徨っていた。 「くそぅっ……!」 雨が目の中に入って痛い。鬱陶しい天候に毒づきながらもラルカはポケモンの勘を頼りに駆け回った。希望を捨てず、ラルカの帰りを待つ皆の元に返れる事を信じて…… しかし進むに連れてラルカが向かった先は思惑とは全く違う場所に着いた。 「ちっ、何だよここ……崖かよ?」 知らぬ内に傾斜を上り、気づけばそこは土砂崩れが起きて出来てしまった断崖絶壁だった。それ以外は暗すぎてて見えない。 下には無残に横たわった大木達が泥と岩の中に飲まれていた。もし生き物とかが落ちれば、普通なら助からない程の高さだ。 しかも、嵐のせいで足場は脆くなっていて直ぐにも再度の土砂崩れが起きそうだった。波動の力が危険だという事を告げている。 「こっちじゃないか、くそっ……!」 脱力しかけた体に鞭打って再び走ろうとした。 その瞬間、雨で足を滑らせてしまう。 「っと、わぁっ!?」 水溜りに顔を突っ込ませ、ラルカは前全体を泥水で汚れてしまった。その上…… 「ぐっ……いてててっ……!?」 右足に異常を感じ、苦痛のあまりに痛む箇所を強く抑える。どうやら、振り替え様にこけた時に右足を捻挫してしまったようだ。 こんな嵐の中で右足を痛めてしまうなど命取りだ。 「ちくしょぉ……あそこの、木にまで……!」 崖の近くで留まるわけにはいかず、痛む右足を引き摺りながら近くにあった大木のそばに体を寄せた。 痛みに歯を食いしばりながら右足を睨む。その間にも嵐は強くなる一方で状況はかなり危険だ。体中が冷えて、寒さに震え上がる。 「ううぅっ……こんな所で、くたばってたまるかよぉ……」 せっかく自由になれた身なのに、豪雨の中で寒さと痛みで体が震える。体力も奪われ、徐々に体は弱まっていく。 右足の痛みは退くこと無く、時間ばかりが経過する。自然のひどい仕打ちにラルカは絶望しそうになり、意識が遠のいていきそうになった。 しかし、脳裏に蘇る親しい者達の姿を思い出し、奮起して己の中の弱さを打ち払う。 短い休憩を終え、大木に背をもたれながら何とか立ち上がり、再び歩きだす。 走れないためにゆっくりと豪雨の中を歩く。少しでも気を抜いたら風の強さに負けて倒れてしまいそうだ。今ここで倒れることは、最悪な事態を迎える事になる。 こんな所で挫ける訳にはいかなかった。どうしても自分はあの場所に帰らなければならない。自分を愛した者を裏切ってまでここまで来たのだ。そう思いながら懸命に足を動かし、少しずつ先に進む。 しかし、右足が上手く着地できなかった瞬間に激痛が走る。呻き声を上げそうな程の苦痛に立っていられなくなったラルカは体勢を大きく崩し、前の方に倒れそうになった。 泥に顔を突っ込むのを覚悟したラルカだった、だがその時、何者かによって体を支えられた。 「ううっ……」 苦痛でうめき声をあげながら、自分を支えてくれた相手の方に視線を向けた。若干ぼやけるせいで相手の顔をすぐには確認できなかった。相手が人間なのかポケモンなのか、それすらも分からない。 何かを言おうとする前に相手は無理やり体を起こさせ、肩を貸してくれた。冷たい雨が降り注ぐ中、不思議と暖かさを感じて安心を覚える。 やがて、さっきまで休憩していた大木の所まで辿りついた。雨が当たらなくなって体力が回復するのを待って、ラルカはそこでようやくしっかりした意識を取り戻す。 肩で息をしながら右足の痛みが退くのを待ち、なんとか言葉を口にする。 「ふぅ……ふぅ……あんた、俺を助けてくれたのか……ありがとう……」 こんな天候の中で自分を助けてくれた相手に感謝する。相手は何も言わず、ただ黙ってそこに立っていた。 「こんな嵐の中でよく外にいたな、俺も他人の事言えないけど、とにかく助かったよ……」 呼吸も落ち着き、笑みを浮かべるだけの気力が戻ってきた。 目もはっきりとするようになり、恩人の姿形を見る事ができるまで回復したラルカは濡れた顔をあげた。 「ここの近くに崖崩れあったみたいだからさ、あんたもさっさと離れたほうがいい……えっ……?」 相手の姿を確認した途端、雷光が二匹の姿を一瞬照らした。ラルカは驚きと衝撃のあまり、引き攣った笑顔のまま相手の顔を見た。 ずぶぬれになった茶色の体毛から小粒の雫を垂らしてる。グラマラスなボディが雨で濡れいてて、魅了するほどの美しさを放っている。伸びた三本指ともこもこした腕毛をだらんとぶら下げている。 ラルカとは正反対に、それは疲労ひとつ浮かべる事なく落ち着いた顔をしていた。そして瞳からは、悲しげに冷めた視線を送りつけている。 それらを見たラルカはわなわなと震えた。顔が、目が、口が、そんな馬鹿なと驚愕した。恩人の正体、それは…… 「ミ……ミ……!?」 ラルカの前にいたのは、数時間前にお別れを告げたはずのミミロップだった。何故ここに、どうして…… 疑問が頭の中を飛び交うなか、冷静を取り戻し答を見つける。 「追いかけて来たのかよ……、こんな嵐の中を……!?」 自分も言えた事じゃないが、それはとても危険だ。信じられないようだが、彼女は吹き荒れる嵐の中を自分を追ってきたのだ。 洞窟から出てぶっ通しで走ってきたのに、彼女は綺麗な毛並みをびしょびしょにまで濡らしながら、ここまでやってきたのだ。 「ラルカ……」 ミミの口から自分の名を呼んだ瞬間、びくっと震え上がる。その声色から殺気が篭っていたからだ。 「なんで出て行っちゃうの? アタシの事なんて、やっぱりどうでもよかったの……?」 「いや……違う、俺はただ……」 「やっぱりさ、あっちじゃないと嫌なんだね……」 ミミの表情が暗く沈み、とても悲しい声で顔をがっくりと項垂れる。 「ミミ……俺は、ただ……」 哀れむラルカの左手が、彼女の小さくなった肩に伸びていく。嫌な訳じゃない、ミミの所に居続ける選択肢もあった。ただ、その選択をする事ができなかった。その違いに過ぎない。 同情と理解を求める手が肩に触れようとした途端、ミミがその手を強く弾いた。 絶句したラルカはじんと痛む左手に触れながら彼女を見る。震える喉が彼女の名を呼ぼうとしたその時だった。 「ミ……がはっ……!?」 腹部の物を圧迫する激痛が、喉を通じて吐き出される。 ぐらつく視線を自分の腹に向けると、そこにはミミの右手が作った拳がラルカの腹部を殴りつけていた。 それも深くめり込んでいて、その衝撃は自分の力で立つ事が出来ない程に苦しみが全身に広がっていく。 膝を折り曲げて地べたに屈する前に、ミミは落ちていくラルカの肩を左手で強引に掴み、痛いまでに力が篭める。 間髪入れず、ラルカの頬に右拳を殴りつける。 腹部の次に顔面が殴られたラルカは吹っ飛びそうになったが、肩を掴んだ左手がそれを許さない。 ミミはラルカの顔面を一撃ならず、もう一撃加える。更にもう一撃。その上にもう一撃。整った雄の顔立ちを殴りつける。 一撃の破壊力は半端無く、口の中が切れて出血を起こす。衝撃でラルカは一瞬めまいを起こしたが、すぐ覚ますはめになった。 肩を開放された後首根っこを掴まれ、水溜りの方に叩きつけられた。激しい水しぶきをあげて、口の中に泥水が入る。 腹と頬の痛みで口の中の物を吐き出す前に、ミミは腹部をしなやかな足で蹴りを入れてきた。 「ぐはっ……ぅぇっ……!?」 右手以上に鍛えられた美脚の蹴りは痛いなどと軽いものではなく、悶絶しそうな苦痛が腹部から響く。 両手が苦痛を和らげようと横腹を押さえようとするが、その間を与えずミミは再度腹部に強い蹴りを入れてくる。 あまりの激痛に大口開いて低い悲鳴をあげ、三度目の蹴りで意識が遠のきそうになった。 「げほっ……げほっ……み……みぃ……」 咳き込んで彼女の名を呼ぶが、名前を呼ばれたミミは気にいらない顔でラルカの背中を強く踏みつける。 そのまま踏み潰してしまいそうな圧力を加えられて声もまもとに発せられなくなる。それでもどうにか、彼女と話をしようとラルカは呻く。 「お、おねが……話を、きいて……」 最後まで言い終える前に、ミミは右足を大きく後方に折り曲げ、つま先が腰の位置より高くなった所で一気にラルカの腹を蹴り付けた。 凄まじい衝撃にラルカは体ごと蹴り飛ばされ、泥を跳ね上がらせながら宙を二回転し、別の水溜まり場にどしゃんと落ちる。 腹の中の物を押し潰された苦痛に、もはや悲鳴を上げることさえ叶わず全身をひどく痙攣させる。 ラルカの視線は焦点が合わないくらいにぐらつき、全身を泥まみれにしている。しかしミミは加減することなくラルカの横顔を右足で踏みつけ、水溜りを撒き散らせる。 顔の三分の一が水で埋まる程踏み躙られ、呼吸すらもままならない。 「言ったのに……あなたはアタシのものだって……言ったのに……」 絶望した顔で雨の音に掻き消されそうな声でつぶやき、雨で彼女の顔が涙を流しているように見えた。 そして更に右足に力を加えて顔を踏み潰していく。 「あががっ……あぐぁぁっ……」 このままだと本当に潰れてしまいそうな苦痛にラルカは呻く。それは全く和らぐ様子は無く、屈辱を感じさせる間すら与えない。 そして右足を開放させると痛みが引かないうちにラルカの顔面を無慈悲に蹴飛ばした。 上半身が陸に打ち上げられたテッポウオみたいに跳ね上がり、ラルカの意識大きく跳躍した。もはや痛みを感じる事さえなかった。 口から一筋の赤い血を吐きながら、体がぴくぴくと痙攣を起こしていた。 ミミはまっすぐに近寄り、冷たい表情で泥水に膝を突いてしゃがむと、ラルカの房を左手で掴みあげて顔を覗かせる。 「ひどいよラルカ。あなたも結局はアタシから逃げるんだね。アタシの事をいらないって捨てちゃう人間みたいに……」 暗さに満ちた声が悲痛な泣き声に変わり、涙か雨の粒とも区別のつかないものが筋を作って顔からぽたぽたと落ちていく。 悲しく、悔しそうに右手をぎゅっと握り締めてラルカの鼻先を殴りつけた。マズルの痛みで意識が現実に戻させ、目を薄く開かせる。 意識が飛んでいてもミミの声は聞こえていた為に、ラルカは口をぱくぱくさせながら言う。 「にげ……たり……なんか……しない……」 枯れた声で彼女に弁明するが、その声を聞いたミミは涙顔を更にくしゃくしゃにさせて叫んだ。 「うそだぁぁっ……あなたはあの糞人間みたいに……何も言わずにアタシを置いて行ったのよ……捨てたのよぉ!!」 錯乱させながら房を乱暴に握り締め、右手でラルカの顔面を何度も殴打する。口の中がいっそうに切れて、血の味が口内に広がっていく。 それでも、ラルカは言い続けた。 「ぐふっ……俺は……おまえとだって……いっしょに……いきたかっ……」 「聞きたくないっ!!」 泣き叫びながら乱暴に立ち上がらせ、ラルカの体を力の限り放り投げた。泥が口の中に混じり、最悪な味が広がる。 仰向けになったラルカを追いかけ、怒りのままに馬乗りになり、右手で、左手で殴りつける。 「嘘つき! アタシから逃げないって言ったくせに! 一緒にいてやるって言ったくせに! みんなでアタシを一人にするんだぁっ!!」 何発も何発も殴られ続けられ、それでもラルカはわずかな意識を保った。ふらついた手が彼女の頬に伸びていく。 「うそじゃ……ねぇよ……でも、ごめん……」 「うああああんっ!!」 ミミは張り裂けんばかりに泣き叫び、力の限りラルカの頭部を殴りつけた。 頭が割れそうな激痛に見舞われ、視界がブラックアウトする。意識がないまま彼の体はまた何処かに投げつけられた。 もはや体力的に限界がせまり、立ち上がる事すら難しい状態だった。 怒りのまま殴るのに疲れた彼女はその場でぺたんと座るように崩れ落ちる。 「アタシは結局、幸せからも逃げられてるのね……ううっ……うぅぅぅっ……」 そして溢れる悲しみを吐露するように顔を覆い、泣き崩れる。 「にげてなんか……いねぇよ……幸せは……」 ラルカは顔とぼこぼこにされた状態でも立ち上がり、ふらつく足取りでミミの所に近づいた。彼女はなんと、崖っぷちの所で泣いていた。このままじゃ危なかった。 「おれは……言い出せなくてさ……ミミといっしょに……」 少しずつ距離が縮む。 「うっ……ううっ……」 「俺のいる、アナや……ゴー兄さん……ミンミン姉さんの……いる所に……来て欲しいって……あぐっ……」 挫いた足が痛み、その場で転倒してしまった。それでも立ち上がり、ミミに向かう。 「ぐっ……ふっ、そうしたらさ……誰もさ……一人にならなくて……すむって……」 僅かに残った力を振り絞って一歩一歩を進む。 「ミミとだって……はぁ……はぁ……望んだ……幸せと違っても……俺とミミは……いっしょになれるんだって……」 「らる……かぁ……」 「だから……さぁ……」 ぼろぼろになった顔で優しく微笑む。 最後の力を振り絞り、言いそびれた言葉を彼女に向かって言おうとした。 その時、ミミの座り込んでいた地面に突然雷模様のひびが入り込む。ラルカは背筋が凍りついた。 雨と風に打たれ続けた崖のひびは瞬く間に凄まじい速度で地を駆け抜けている。ミミはその事に気づいていなかった。 例え気づいたとしても、彼女が立ち上がってその場で飛び退く前に崖が崩れて彼女が先に落ちる方が明白だった。 ラルカはその瞬間、世界が白と黒だけの色の無い世界が広がった。無意識に走り出して泣きじゃくって状況が理解できない彼女の元に向かっていた。 挫いていたはずの足の痛みなどまったく気にならず、それどころかありえない速さで地面を蹴っている。だが、そんな自分に驚く事はなかった。 周りの世界がスローに感じた。降り注ぐ雨が粒となってゆっくりと下に向かって落ちていく光景が広がっていたが、そんな事どうでもよかった。 地面のひびが間の手となって彼女の座る場所へと伸び、今まさに彼女を崖の下に真っ逆さまに落としいれようとしていた。やらせるものかっ! 神速の勢いで両手を伸ばして、彼女の右手を掴み取った後そのまま両足を地に着かせ、遠心力を利用して出せる限り力で彼女を崖と反対の方向に投げ飛ばした。 驚愕する彼女の顔がはっきりと見えた。投げ飛ばされる彼女もまた、スローに感じた。安全な所まで飛んでいく彼女をゆるやかに動く世界の中で、ラルカは微笑んだ。 そして、世界の速度が戻った頃には、自分が立っていた場所は存在しなくなっていた。細かく割れた地面は欠片となって落ちていく。ラルカと共に…… 落下していく中、彼女の悲痛な叫びが自分の名を呼んでいるような気がしたが、その言葉は崩れていく世界の音に掻き消されて聞こえなかった。 そしてそれを最後に彼女の姿は見えなくなった。 岩と崩れた地面と共に落ちていく中でラルカは悟った。自分はもう助からないだろう。せっかく皆の所に戻れるはずだったのに。帰って皆に、謝りたかったが、それももう叶わない。 これは罰なのだろうか。彼女の好意を裏切った自分への……もしそうならば、それは仕方の無い当然の報いだ。 けど、これで良かった。ミミが無事に助かったのだから。例え自分の命を引き換えにしてしまっても、ラルカは後悔はしなかった。 死を前にしてラルカは不思議と気持ちが落ち着いていた。それはきっと、自分にしか興味の無かったラルカが、初めて自分以上に大切と思えた者を守れる事が出来た安心なのだろう。 あの時の言おうとしていた言葉を言いそびれてしまった事だけが心残りだったが、もうどうでも良かった。ミミが無事なんだから。それ以上のものは望まない。 あぁ、これが、誰かを好きになるって事なんだな―― うん、とっても良い心地だ。心がほかほかする―― もっと、口付けの練習をしていれば良かったな―― ……………… ………… …… 「ラルカアアアアアアアアアアアっ!!」 大粒の涙が零れる。その涙の粒は、動かない体の元に落ちていく。 胸に棘を生やし、ぴくりとも動かないその体を前にして、涙を流すようになってどのくらいの時がたっただろう。 泥を落とし、得意の毛づくろいで乱れた体毛を綺麗に戻し、目が覚めるのをひたすら待った。 何時起きて、お腹を空かしても大丈夫なように食べれる物も沢山用意した。羽毛のベッドだって用意した。 出来る限りの手を尽くし、再び起きてくれる事を願いながらずっとそばを離れないでいた。それでも、彼の重い瞼が開くことは無かった。 「……」 静かに目を閉じ、ぴくりとも動かない体をじっと見つめている内に涙が込み上げ、また彼の体に落ちていく。 崖崩れから自分を守ってくれて犠牲になったラルカの目覚めを待ってから、何日もたった。 体温は冷たくは無い。もしかしたら生きているかもしれないと、淡い希望を持って待ち続けていたが、時間が重なるにつれてそんな希望も絶望へと少しずつ変わっていく。 もしかしたら彼の体はもう、二度と動く事はないのだろう。体温の暖かさは自分の錯覚であり、彼はもうこの世にはいない。 彼はもう二度と自分に向かって笑うことも怒ったりすることも無い。そんな残酷な現実がミミを心を突き刺していく。 もしかしたら、明日には、何時かはと、僅かな可能性を信じてきたが、それももう限界である。 ずっと目覚める事のない彼を待ち続ける事がとても辛く、気持ちが押し潰されていく毎日だ。 こんな事になるならば、自分が犠牲になったほうが良かった。 彼には帰れる場所がある。彼の帰りを待つ者達がいる。自分にはそれがないのだ。生き残った所で意味なんて無い。 もうミミにはラルカしかいないのである。 最後の望みを奪われ何もかもなくしてしまったら自分はもう生きている意味など無い。 だからこの世に存在するかどうか分からない神にミミは願う。幸せなどいらない、子供も望まない。だからせめて、彼の目を覚まさして欲しいと…… だが、後になってそんな願いなど叶うはずがないと知る。もし、願って叶うのであれば、捨てられたあの時から願っていたはずだ。暖かい元へと返してくださいと…… そう願って、結局は叶わなかった。だから、彼の目が覚める事もないだろう。 絶望的な気持ちがミミの胸の中に広がっていく。ラルカの体にすりよって、静かに泣く。 一方的に一目惚れし、彼の気持ちも考えないで無理やり自分のものにした。そして強引に子供までも作らせようとした。 これはその報いなのだろうか…… 相手の事考えないで幸せを掴み取ろうとした自分への罰なのだろうか。こんな事になるくらいだったら、彼の事を好きになるべきではなかった。 ただ生のびれただけでも良かったと思うべきだった。幸せなんて望むんじゃなかった。 ラルカが生きている世界で、自分が生き続けてさえいればそれで良かったのだ。 不幸な運命を変えて、幸せを望んだ結果がこれである。 生きていたって何の価値も無い空しさばかりが広がる。目の前にある絶望に生きる気力を無くし、自分もラルカの元に行ってしまいたかった。 「うっ……ううっ……ラルカぁ……うぅぅっ……」 いくらその名を呼んでも彼の目は覚める事はない。もう絶対に覚ます事などないのだ。 だからせめて、ずっと彼のそばにい続ける。最後の最後まで、この悲しみが止むまで、この場所を離れたくはなかった。 「ごめんねラルカ……ごめん……うっ……うっ……」 彼の胸の中で、ひたすら泣き続けた。涙が枯れても、ずっと…… 「……」 気づけば眠りの中に入っていた。泣き通しで疲れてしまい、ミミは眠りの中にいた。望んでいた幸せな夢を見ながら…… その中にはラルカとミミと、数匹の子供に囲まれて楽しそうに暮らしていた。 「……」 でもそれも、もう叶わない。 「……」 ラルカが目覚めることなんて、もう―― 「……っ」 ないのだから。 「うぅっ……」 眠りの中で何かが呻いたような気がした。気のせいだろうと、ミミは構う事なく眠りを続けようとした。 「ううっ……んっ……」 今度は気のせいなどではなかった。物音を捕らえる大きな耳が明らかな異音を感知していた。 その上、何かが自分の手に触れたような暖かさを感じ取った。ミミは腫らした目を開かせてその正体を見ようとした。 相変わらず動く事の無いラルカの体、しかしその上の眠っている筈の顔に視線を向けた瞬間、ミミは驚愕した。 「んぅっ……ううんっ……んっ……?」 ラルカの目が、薄く開いたのである。 「えっ……?」 ミミは信じられない光景を見たかのように自分の目を疑った。 「んっ、ここは……?」 今度は声もはっきりと聞こえた。ミミはしばらく放心した後、全身が震え上がる。 生きていた、ラルカが…… 「ラルカ……」 その名を呼んだ瞬間、彼との目が合った。 ラルカは首を傾げながら自分を見ている。そのうち、ミミの瞳から熱い物が込み上げてくるものを感じた。 体こそはまだ動かないものの、彼は確かに生きている。 「ラルカぁ……」 もう一度を名を呼んだ。すると彼がまた首を傾げるように反応した。 熱く込み上げてきたものは涙となって零れ、ラルカの体に落ちる。 もう一度、もう一度だけ見たかった彼の生きている顔を、ミミは見る事ができた。 「あっ、あぁぁっ……」 涙は次々と溢れ出て止まらない。それと同時に嬉しさが胸の中で爆発的に広がっていく。 震える両手がまっすぐと彼の体に触れる。暖かい、確かに暖かさを感じる。生きている証拠だ。 「ラルカぁぁぁっ!!」 ミミは喜びと共に、彼の体を強く抱きしめた。 この瞬間ミミは、存在するかどうかも分からない者に、初めて感謝した。 ありがとう。願いを聞き入れてくれて。 ありがとう。ラルカの目を覚まさせてくれて。 ありがとう。生きていてくれて…… ミミの人生の中で、これ以上の嬉しいことはなかった。 またこうして、彼の名を呼ぶ事が出来たのだから。生きている彼を抱きしめる事ができた。 もう何も願う事などなかった。これ以上願うとまた罰があたる気がしたからだ。 「あああっ……生きていた……ラルカが……生きていたよぉ……!」 好意を寄せた相手が生きていた事を心の底から喜び、その証が涙と共に笑顔となって表情に出る。 もう考えることなど何も無い。不安もない。絶望もない。 今はもうこのままずっと、彼を抱きしめていたかった。 「ねぇ……」 ラルカの声が聞こえた。生きている者の声だ。ミミは黙って泣きながら、彼の次の言葉を待った。 そこから続いた言葉は、ミミの想像を遥かに超えたものだった。 「きみは……誰なの?」 「……へっ?」 涙で濡らした顔で彼を見上げる。ラルカは不思議そうに見つめながら言葉を続ける。 「らるかって、誰なの……?」 「ラルカ、何を言っているの?」 彼の言っている言葉が理解できなかった。しかし、それ以上にラルカは理解に苦しむ様子で聞き返した。 「らるか? それって僕の事?」 ミミはしばらく間を置いた後、驚愕した。 「ラルカっ! あなたはラルカなんでしょ!? どうしちゃったの?」 ラルカはミミから顔を背け、何処か遠くを眺めるような目で答えた。 「わからない。自分が何者なんだか、君が誰なんだか、ここが何処なのか……なんでこんな所にいるかさえ、わからないんだ……」 返答を聞いたミミは絶句し、ラルカの顔を覗きこんだ。すると、ミミは以前のラルカとは違う所を見つけてしまったのだ。 瞳に生気がなかった。まるで心の何処かが欠けてしまい、一部が人形のようになったかのように、瞳に生気を宿していなかった。 「ラルカ……目が……!?」 「教えてよ……僕は、どうしてここにいるの……?」 気の無い質問がミミに向けられる。彼女はしばらく放心状態が続いた。そして彼女は現実を知った。 ラルカの記憶が消えてしまっていた。 「ここは何処なの……? 君はだれ……? どうして僕は、こんな所にいるの?」 しばらく、質問の投げかけが続いた後、ミミは試すように答える。 「あなたはラルカ、そしてアタシはミミ。ここは……アタシの住処よ。あなたはずっと前に、崖崩れからアタシを助けて、そして自分が落ちてしまって今ここにいるの」 最後にミミは「わかる?」と告げ足して、ラルカの反応を待った。 「わからない……全くわからないよ……何も覚えていないんだ……」 ラルカは頭を抱えだして苦しむように悩んだ。本当に何も覚えていないようだった。 「僕はどうして……どうして……!?」 いくら自問自答しても、ラルカ本人から返ってくる答えはなかった。すべてはミミにしか知らない事だ。しかし何故、記憶をなくしてしまったのか。 「どうして記憶を……あっ!」 ミミはラルカが記憶を失ってしまった原因を思い出した。あの時、崖崩れに巻き込まれた彼はショックのあまり記憶を喪失してしまったのだ。 自分を助けるために、ラルカは記憶を失ってしまったのである。 「ねぇ……ミミ……」 「えっ、えっと、何?」 「僕はこれから、どうしたらいいの?」 生気の無い目が不安そうに自分に問いかけている。それもそうだ。記憶を失ってしまったラルカは、自分自身でどうすればいいか分からない。 帰れる所も、帰りを待つ者達の存在も、分からないのだ。当然、ミミも知らない。 ラルカは帰れる場所がないのだ。記憶を失い、今の彼は何もかも失っている状態だったのだ。 誰が彼の事を助けてやれるのか、誰が彼の失った心を満たす事ができるのか……その疑問にミミは悩むこともなく、答を導き出した。 ミミは目に溜まった涙を拭い去り、ラルカに向き直る。 「ねぇ、ラルカ」 ラルカと呼ばれたルカリオはミミロップに肩に手を置かれる。 「あなたはラルカであった、アタシはミミ。そして……」 彼女は口元で笑顔を作り、優しい口調で、凛として答えた。 「あなたはアタシの……将来の夫なの!」 「そう……なの……?」 答を聞いたラルカはまだ不安そうな表情だったが、だが確かに信じている。疑うはずもなかった。今の彼には何もないのだから。 突然夫と呼ばれたラルカは、少し戸惑いながら口を開く。 「でも、君の事を何も分からないのに僕なのに、どうしたらいいのか……」 ミミはラルカの不安を拭うように明るく、力強く言った。 「大丈夫っ! あなたは何も心配しなくてもいいの! ラルカの知らない事を全部、アタシが教えてあげる!」 ミミはこの時確信した。神様はいるという事を。その存在に改めて感謝した。 「生きる方法も、外敵と戦う方法も、食べ物を取る方法も、そして……」 幸せはどんな境遇の者でも平等に与えられるという事を信じた。 「幸せになる方法もね、だからさ……」 そして幸せは今、目の前にある。直ぐそばで触れる事もできる。だから…… 「アタシと、子供を作ろう!」 *コメントフォーム [#l26b9799] 感想、指摘などお待ちしています。 #pcomment() IP:223.132.226.98 TIME:"2013-11-17 (日) 17:28:53" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%AE%E6%84%9B%EF%BC%881%2F2%EF%BC%89" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:26.0) Gecko/20100101 Firefox/26.0"