ポケモン小説wiki
初めての幸せ (下) の変更点


[[ヤシの実]]


[[初めての幸せ (下)]]の続き
[[初めての幸せ (上)]]の続き
修正ついでに、ちょっとした展開を追加。


*初めての幸せ (下) [#l6a07525]


 どのくらい眠っていただろうか、寝起きで頭がボーッとしたままのせいか、洞窟の風景が僅かに曇って見えた。
 ミミと言うミミロップに看護され、ほどなく心地よい眠りについてしまった。
 辺りを見回すと、ミミの姿は無かった。浮ついた気分が残る中、立ち上がろうとしたその時、ラルカはある異変に気づいた。
「あぐっ……ゲホッ、なんだ?」
 立ち上がろうとした瞬間首を圧迫する苦痛が走った。咳き込みながら、首に異変を覚えたラルカは首元を触ってそれを確かめようとした。
 首を圧迫した原因を確かめた瞬間、棘が刺さる痛みが走った。寝ぼけた頭が、ショックで活性化する。そして、異変は衝撃にと変わった。
「何だよこれ!?」
 ラルカの首を拘束しているそれは、鋭いトゲの付いた首輪だった。首輪をつなぐ鎖は鉄か鋼で出来ていて、硬い岩壁にしっかりと固定されている。
 ペットの犬ポケモンに着ける首輪みたいな生易しい物じゃない。あきらかな拘束具だ。
 慌ててそれを取り外そうと首輪に両手を掛けた。力ずくで引っ張ろうとしてたがとても硬くて引き裂くのはまず無理だ。それでも止めず素手で、時には落ちている小石にぶつけたりもした。
 だが、鋼のクサリが擦れる金属音がする以外、何の効果もなかった。おまけに棘が刺さったラルカの両手は傷付き、血が滲んだ。
 誰の悪戯だろうか。誰かが自分が寝ている間にこんな事をしたのだろうか。目的が想像付かないが、こんな物を付けて自由を奪うなんて悪趣味にもほどがある。
「誰だよこんな事すんの、いい加減にしろよ!」
 広い空間で存在しない犯人に向かって、大声で吼えた。しかし、声が反響してくるだけでそれ以外の声は返って来なかった。
「誰か、誰がこんな事したんだ。隠れて無いで出て来い!」
 どこかで隠れて面白がっているに違いない。そう考えた。何処かに隠れていると思う犯人に止める事なく吼えた。しかし、それでも声は返っては来なかった。
 波動で周囲を探ってみるも、本当に誰も居ない。気配も無し。
 ラルカの心中に根拠の無い不安が生まれた。こんな暗く、広い洞窟で一匹で……
「クソッ、何だって言うんだよ。ふざけるなよ……!」
 時間だけが過ぎ、次第に孤独感に襲われる。一人ぼっちの子供の様に俯いた
 今思えば、一匹になる事はあまり無かった。こんな薄暗い洞窟で自分だけが取り残されている気がしてとても心細かった
「……うぅ」
 多才で幾多の状況でのバトルには対応出来ても、一匹になる事には全く慣れていない。泣きそうだ。そんな自分に少し情けなく思えた。
 ただここで拘束されているだけなのに、すでにラルカの気力は皆無だった。瞳が潤み、いよいよ泣きそうになる。
「ゴー兄さん、ミンミン姉さん……」
「そんなに兄弟が恋しいのかしら? ワンコ君」
 声がした。聞き違いなどではなく、確かな声だ。それも聞き覚えのある雌の声。
「その声、ミミ……?」
 ラルカの様子に動じる事も無く、暗闇から現れた。ミミとの出会いにラルカの表情が悲しみから喜びに変わる。
「ふふふ、そんなにアタシに会えたのが嬉しい? 感激だわ。ラルカ、泣いていたの?」
 ミミに指摘され、ふと自分の頬に触れてみた。一筋の水滴が流れている事に気づいた。慌ててそれを拭う。
「何でもないよ、それより俺は何時の間にこんな事に?」
「大変よね、その姿。自由じゃないし」
「そうなんだ、気づいたらこんな物を付けられてて。そんな事よりミミ、これを外してくれないか? 
 俺、一刻も早くマスターの元に早く帰りたいんだ」
 懇願するようにミミに言った。これで助かった、もう安心だ。孤独じゃない。安堵するラルカ。
 しかし、帰ってきた言葉はラルカの期待を裏切った。
「ふふふ、ごめんなさいね。それは聞けないお願いだわ」
「え……?」
 返ってきた言葉にラルカは呆気にとられた。そんな顔をするラルカを、ミミは不適に笑う。
「それに、その姿も中々素敵よ」
「何を言ってるんだよ、こんなの誰も望んじゃいないし。誰の悪戯か知らないけど、不愉快だ」
 困惑しながら言い放つも、ミミは言いながら近づく。
「悪戯じゃないわよ。だって、アタシがその首輪を付けたんですもの……」
 その言葉に、ラルカは一瞬混乱した。何を言っているのだろうかと。聞き違いじゃないかと自分の耳を疑った。
「あら、信じていないのね。これ、見えるかしら?」
 意地悪な笑みを浮かべながら、左手を前にして、持っている物を見せてきた。今のラルカでも瞬時に分かった。鍵と言う物だ。
「え、何の鍵だよそれ?」
「アハハハハ、何とぼけてんのよ。君の鎖の外す鍵に決まってるでしょ?」
「なら、それを使って外してくれ!」
 高らかに笑うミミに、焦る様なお願いをした。その様にミミは流石に呆れた表情を浮かべた。
「君さぁ、まだ今の状況が分からないの? それともアタシが言った事分からなかった?」
 そう言うとミミはゆっくりとラルカの傍で足を止める。ラルカと同じ目線に会わせて口を開いた。
「アタシが君を拘束したのよ。当然、鍵は外せないわ。ウフフフ……」
 無邪気な笑み、だがその心の底はドス黒い気持ちが見え隠れしている。
 その言葉でラルカはようやく今の状況を飲み込めた。それと同時に来たのは、衝撃と悲しみだった。
「どうしてミミが、俺はマスターの所へ帰りたいだけなんだ。こんな悪戯やめてくれよ」
「悪戯ねぇ、そんな軽い気持ちで拘束したりなんかしないわ。だってぇ、これから私達は素敵な事をするんだもん」
「ミミ、何を言っているのか分からないよ。俺はゴー兄さんとミンミン姉さんの所に行って謝らないと……」
 二匹の兄姉の事を口にすると、ミミの表情が苛立ちに曇り、声を荒げた。
「またその二匹の事を口にする! アタシはねぇ、兄弟って言葉を耳にするとすごく不愉快になるのよ!」
 怒り任せにラルカの背後に壁を大きく蹴った。その行動と壁の蹴る音に、ラルカの背筋が凍った。
「ふぅ、八つ当たりなんかしてもしょうがないわよね。でもいいわ、今からアナタはアタシの物になるんだし、永遠にね」
「はぁ……?」
 どう言う了見なのか、ラルカには理解できなかった。そんな事お構い無しにミミは続けた。
「でもぉ、まだ大人じゃない子がアタシの夫になるのかぁ、ちょっと若すぎるけど。でもそれはそれで良いかもね」
「どういう……事だよ。訳わかんないよ……」
「分からない? それもしょうがないわよね。だってワタシとアナタは、一緒になるんですもの」
 口に手を当てて、坦々と続けるミミに、次第に怒りに震えた。
「何だよそれ、聞いても無いし話ても無いのに、誰がそんな事決めたんだよ!」
 告げられた言葉の意味を理解し、遂に声を荒げ、ミミに吼えた。
「あら、決めたのはアタシよ? 話す必要なんて無いし」
「ふざけないでくれよ! 俺と一緒になるためにこんな事するのか!?
 ミミはそんな事する奴じゃないだろう、早く鎖を外してくれ!」
「ふざけてなんかいないわ、アタシは本気だもん。証拠を見せてあげよっか?」
 そう言うと、ミミは魅惑な笑みを浮かべ、ラルカと顔がほとんど近い距離に身を置く。
「ちょ、ミミ?」
 色気を見せながらミミは、両手でラルカの頬に触れた。その感触は、優しいと言うよりも、厭らしいに近い。
 思わず心臓が高鳴ったラルカは、すぐ近くの顔に何て言えばいいか困惑した。
「いい顔ね、アタシの好みよ……ラルカ」
 その言葉の次に、ラルカは言葉を返す間もなく、唇が塞がれた。ミミの柔らかな唇に塞がれている。分かりやすく言えば、『キス』だ。
 ミミの両手が顔を固定するように沿えられていて、離す事が出来ない。
「んんぅ……」
 唇同士を重なり合う二匹。だがラルカは反発し、自分の両手をミミの両手を掴み、離す。ようやく顔が自由になった。
「はぁ……はぁ……何を……!?」
 息遣いを荒くしながら、ラルカの顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤になっている。
「言ったでしょ、本気だって? ラルカをアタシの物にしたいって証拠よ……」
「ふざけるなよ……俺は、誰の物でもない! 何で俺の最初を、あんたにくれてやんなきゃいけないんだよぉ……」
 自分にされた口づけが、ラルカにとっての『初めて』だった。悔しさで頭がいっぱいになり、俯いてしまった。
「初めてだったんだぁ、ファーストキス、ごちそう様……」
 まだ誰ともやっていなかった雄の口付けを得た事に、ミミは優越感を覚える。初めての相手が自分と知り、それが嬉しく思えた。
「ぐぅ……!」
 反省の無い言葉にラルカは怒りが沸騰し、表をあげた。その表情は怒りに曇り、ミミを睨む。
「もしかして、先約でもいたかしら? そうだとちょっと悪い事したかしらね。うふふ」
「ふざける……なぁ!」
 怒りが爆発し、ラルカは両手に波動を込めた。その魅惑なボディに一撃を加えよう試みる。
 チャージは直ぐに終わった。回避される間を与えまいと、素早い動きで右手を突き出した。零距離からのはっけいだ。
 空を切るが如く、素早い拳が柔らかい雌の腹部に向かって突き進む。
 重い拳はノーマルタイプのミミロップに致命的なダメージを通す――結果になるはずだった。
 ラルカの怒り込めた一撃は、ミミの手の平に包まれ、その威力を失ってしまった。
 視界的にも隙をだらけなはず、ラルカの自信のあった一撃は無意味に終わってしまった。
 ショックで目が見開く。そしてその先にあるのは、不敵な笑みを浮かべるミミ。
「ふざけてなんか……」
 言葉を発しながら、ミミは受け止めた反対側の拳を強く握る。ラルカは波動でその異変に気づいた。
 腰の後ろにまで下げていた拳を勢いを付けて突き出す。その先は、ラルカの顎を捕らえる。
「いないわっ!」
 動揺していたのが仇となり、反応速度が鈍くなっていた。
 ミミの反撃に気づくのが遅すぎたラルカは、もろに攻撃を食らってしまった。
 アチャモの残像が視界の中をクルクルと飛び回る中、繋がっている鎖の金属音を鳴らしながら横倒しになった。
「どう? アタシが本気だって事、分かってもらえた?」
 冷ややかな瞳を、体制が崩れたラルカに向ける。
「ぐっ……うぅ……」
 顎から伝わる鈍い痛みに嗚咽を漏らす。
 何時ものバトルなら、ここらで立ち上がり、体制を整えるはずだ。しかし、ラルカは起き上がれなかった。
 体を起こそうにも、視界がグルグル回り、とても起き上がれる気になれなかった。
「混乱しちゃったの? そんなつもりはなかったんだけどな……」
 横倒しま状態のラルカに、ミミは身を屈める。目を回した顔に近づき。そして……
「うぅん……んぅ!?」
 混乱がさめた時には、自分は押したされた格好で、再びミミに唇を奪われていた。
 今度は引き剥がす事も出来ず、顔を真っ赤にしながらもがくが、唇は離れる事は無い。それほどの深い口付けだ。
「んぅ……んふぅ……チュッ……」
 柔らかい肌が互いに触れるくらいのディープキス。密着しあう肌同士からは、互いの熱い熱と鼻息が伝わりあった。ミミはそれに興奮を覚える。
 互いの肌を感じるだけじゃ物足りず、舌を口内に入れる。
 舌が絡み合う様に動き、唾液同士が交じり合い、互いの熱が更に上がっていく。
「チュゥ……んぅ……チュッ……んっ……」
「んん……んぐ……んんぅ……!」
 最初のとは違う、深く味わう雌との口付け。とても深い、離れる事の無い口づけ。舌同士が唾液を含み絡み合う。
 恥ずかしさと、強引に奪われた屈辱から衝撃に変わる。
 乳房がラルカの胸に触れるも、全く離そうとしないミミ。
 まるで長くこの夢の一時を味わいたいかの様に、肌同士が密着しあう。
 口を離して新鮮な息を吸いたいが、ミミがそれを許してはくれなかった。
「んふぅ……んぅ……チュッ……んふぅ……」
 ミミ自身の体温も、ラルカの体温と合わせる様に高くなっていき、絡み合う舌同士が活発になってくる。
 卑猥な水音を鳴らす。やがて長い一時は、ミミの方から離れて終わった。
 互いに暖かい吐息を吐きあい、交じり合った舌からは、銀色に光る唾液の糸を引いていた。
「はぁ……はぁ……」
「素敵ぃ……こんな口付けしたの、アタシ初めてぇ……」
 激しい口付けが終わった後のラルカは、心臓の鼓動が異常にまで高まっていた。苦しいまでに打つ脈の鼓動。
「何で、こんな事するんだよ……俺、初めてだったんだぞ!?」
 怒りか、それともショックなのか区別のつかない声色で告げる。
 大事にしていたはずの『最初』が、何の予告も無しに奪われてしまった。しかも雌の方から一方的に形で……
「ウブなのね、ハンサムな顔だからこれくらい平気だと思ってたのにな」
「この変態おん……ゲホッゲホッ!」
 憤怒する中、突然と咳き込みだす。キョトンとするミミに構う事なくラルカは続ける
「いつかきっと……誰かと……ゲホッ……自分から出来るかもしれないって思って大事に……あっ……」
 感情任せに吐いた言葉の中に、言ってはいけない事を含めてしまったラルカ。慌てて自分の口を塞いだ。
「もしかしてあなた、自分からキスするのが出来ないんじゃないの?」
 ミミは適当な言葉を投げてみる。見透かされたかの様に体をビクッ震わせるラルカ。完璧な図星だった。
「クスッ、ラルカは自分からする事が出来ないのね、キスが……」
 秘密にしていた自分の弱点がばれてしまった。冷笑するミミに、悔しさと歯痒さの余り、震えながら俯いてしまった。

 それはまだ進化して間もない頃、いつものバトルで見事なテクニックで勝利を収めそれに見惚れたとある雌との出会いから始まった。
 マスターに休憩をもらって一人で寛いでいる所を話しかけられた。相手はパッチールだった。田舎出の、しかしそれなりの魅力ある雌だった。華麗に戦う姿に惚れ。一緒に話をした。
 ラルカにとって、いつもの事だったのでとりあえず適当に相手をしていた。だが、そのパッチールは異様にラルカに密着していた。
 そこで、夕日が暮れる頃に別れようとし、さよならを切り出した時だ。夕日が良いムードが二匹の間に『それらしい雰囲気』を演出した。そのせいかパッチールはラルカに恋をしていたらしく、初対面の相手に口付けを要求してきた。
 これもいつもの事だと思った。今まで似た事が何度もあった為、その度に断ってきた。しかし、周りがアベックだらけな為に雰囲気的に空気を読むべきと考えたラルカは、他意も無く普通に口付けをすればいいだけの話だと思っていた。
 自分にとってこれが初めてだが、その時までは何とも思わなかった。互いの唇が重なろうとした時、ラルカにある異変が起きた。
 心臓が、過剰に鼓動を打つ感覚がしたのだ。ドキドキなどと言える生易しいレベルじゃない程だ。ただ唇を重ねるだけなのに、心臓が破けんばかりに鼓動を打っていた。
 顔や体が熱くなり、呼吸も苦しくなっていく。目の前で、目を閉じるパッチールを前に、以上にまで過剰反応していた。
 もしこのまま行ったら、本気で心臓が破けてしまいそうな妄想をしてしまい、気づけば自分は口付けを待つパッチールをおいたまま、逃げ帰ってしまった。
 その後も、荒呼吸をしたまま心臓の鼓動は収まらず、途中で咳き込んだ。大分たってからようやく落ち着いたのだ。
 だがそれ以来、ラルカは雌との特定な交渉に至りそうになると、きまってこの発作が起きてしまうのだ。その度にラルカは逃げていた。

 これは、ただ単にラルカが雌との『行為』が恥ずかしいとかの問題ではなく、異常なまでの緊張感と精神的な問題。特定の状況に陥ると、それが発作的に起きてしまう。
 他の雄や雌が出来る事が、ラルカには出来なかった。その心の病気は、ラルカ自身生まれる前から持っていた唯一の弱い部分であった。
 直せない訳ではないが、自分でそれを克服するのはいかに優秀な遺伝を持っているラルカとはいえ、克服するまでに半端無い訓練が必要と言える。
 今ではほんの少しだけ抑えるまでに至ったが、それでも自分からキスなんて到底出来はしなかった。
 こんな事、マスターやゴーやミンミン、誰にも秘密にしていた事だ。しかし、それがただの野生のポケモンにあっさりと見抜かれてしまった。
「発情期のポケモンなら、みんな好きに出来るのに、あなたにはそれが出来ないのね……」
「五月蝿い、黙れよ! 俺の気持も知りもしないで!」
 ラルカは叫んだ。ミミの言うとおり誰にでもある感情、欲望をラルカは成しえる事が出来ない。自分からキスをする事さえ……
「あぁそうだよ! 俺は情け無い奴さ、いくら自分でエリート気取ってても、女一匹相手に口付けがままなら無い!
 こんな生まれ持った性質のおかげで、俺はバトルでは優秀でも……雄としてはクズなんだよ! 畜生っ!」
 吼え終わると、ラルカは顔をゆがめて泣き出した。
 キスもままならない雄のルカリオ。雌に押し倒され、始めてを奪われ、あまつさえ自分のトラウマさえ掘り返されたその心はひどく傷ついた。
「クズ……?」
 ミミがラルカの言葉にピクンと反応した。それを知らずにラルカは続ける。
「どうせ俺なんて、苦しみを恐れて女から逃げ出す以外何も出来ないんだ! 幸せになれない不幸な奴なんだ……」
 最後の言葉にミミの表情が、憤怒に染まった。
「ふざけてんじゃないわよアンタ!」
 唐突に怒鳴り声に、ラルカは驚きの余りに零れる涙が止まる。
「その程度で不幸、それだけの才能を持てて、よく言えたわよね!?」
 罵倒しながらミミは乱暴にラルカの両肩を掴んだ。雌とは思えぬ握力に、ラルカは痛みのあまりに顔が歪む。
「自分から雌を抱くことが出来ない、それだけで不幸だって言うんなら、アタシなんて、抱いてすらもらえなかった……
 ラルカ、アタシね。生まれたばかりの頃はそれは幸せだったのよ。多分アナタと同じくらいね」
「え……?」
「タマゴから生まれたばかりのアタシは、ある人間に『このポケモンはゆうしゅうな才能を持っている』って言われた事があるの。アタシ自身そんなのどうでもよかった
 ご主人がアタシの事沢山可愛がってくれたから、幸せだった。でもね、その幸せなんて、すぐに終わっちゃった……」
 語るに連れてミミの表情が暗くなり、下を一点を見つめながら続ける。
「数週間後の話、ご主人の持っていた他のタマゴが孵化してね。そいつもアタシと同じミミロルだったの。そして再びあの人間に会って、こう言ったの。『このミミロルはすばらしい才能を持っている!』ってね。それからがアタシの幸せが壊れたんだ……」
 最後の部分を語った時、ミミは拳を強く握った。怒りか憎しみがうかがえるような震えだった。
「捨てられたのよ。糞みたいな主人だった。理由は簡単だわ。後から生まれたミミロルが、アタシと比べて遺伝子レベルで優勢だったの。アタシはそのミミロルに僅かに劣っていた。だから捨てられたのよ!!」
 言葉の最後にミミは爆発するように激怒し、地面を強く殴り、ガンッと鈍い音が洞窟に響いた。
「あの糞主人は、そのミミロルを手にするなり、アタシをボールから出して、何処かも分からない都会の路地裏の場所でアタシを捨てた……
 あの糞野郎はアタシの事なんて愛してなかった。愛してたのはアタシの才能の部分のみ!
 新品の玩具をもらって、古い玩具がいらなくなったと同じ様ににアタシを捨てやがったのよ……!」
 怒鳴る口調からは涙声が混じっている。恐る恐るラルカがミミの顔を覗き込むと、怒りで可愛らしい顔を台無しにした涙目のミミだった。
「そこから生活は一変して地獄に変わったわ。その時はちょうど冬の最中、まだ温もりの恋しい子供に冬の寒さは堪えたわ……
 寒さだけじゃない、空腹の飢えに苦しみながら都会を彷徨ったわ。野生の様に自分でご飯を探す事なんて出来なかった……
 アハハハ……当然よね。つい最近までは糞な主人の腕の中で温もって、ご飯をもらっていたんだもの。そんな術知る訳ないわよね! 生まれてほとんど間もない赤ん坊のアタシが、糞寒い都会に捨てられ、野良犬のように彷徨ってたんですから!
 捨てられて空腹のあまりにようやく最初に口にしたのは、ポリバケツに残ってた糞人間の食い残したカスみたいな残飯、そして路地裏に捨てられていた物を寄せ集めて造った寒さを凌ぐ為のゴミ小屋……笑えるわ……」
 顔をあげて、左手で自分の顔を抑えながら笑いだした。だが、顔を覆い隠す手の間に流れる涙は、壮絶な悲しみを物語っている。
「他の野良ポケモンに追い払われて……ズタボロに痛めつけられ、凍えるような雪に覆われて……それでもアタシは生きてきた。毎日死ぬような思いをしながら一匹でね……
 一匹で生きていく内に、アタシは生きる術を自然に学んだ。他の野良ポケモンが食ってた人間の残飯を……近くの石でその頭をぶち割って横取りした……寒い時なんか、暖かそうな毛皮を持ってる奴の皮を引きちぎって奪いとってやった……
 生きる為に……色んな悪い事した……血を見る事もしてきた……最初は怖かった……でも、段々慣れちゃって、欲しい物があったら、その度にひどい事して奪い取ってきた……
 うふふ、とてもまともな生き方なんて言えないわよねこんなの……」
 涙ながらに語るミミの壮絶な過去。ラルカにはとても想像が出来なかった。自分との境遇が全く違っていた……
「ラルカぁ……わかる? アタシがどんな思いで生きてきたか。恋人も優しいご主人はもちろん、一緒にいて嬉しい仲間一匹アタシには居なかった、みんなアタシを恐れて近寄らないし……アタシも生きる為、他人を利用するだけしかしなかった……幸せなんか全然なかったのよ!
 アタシとラルカは違う……ラルカは……選ばれて……優しい主人持って……暖かいご飯食べれて……暖かい場所で眠れて……仲間がいた……アタシには何一つ、ラルカの持っている物がなかったのよぉ!!」
 ミミの言葉に、夢で見た恨めしそうに自分を睨むリオルの事が思い浮かんだ。
 もしかして彼らもまた、ミミの様な境遇で捨てられてしまった、かわいそうな兄弟達だったのかと。
「ミミ……」
 激しい怒りに狂うミミの姿に、ラルカは何も言えなかった。欲しいと思えば誰かから与えられる、人生とはそんな物だと思っていた。
「良いわよねラルカは、アタシなんかより遥かに幸せで……アタシ、幸せって何だか分からないの……だから生きていても面白くないの……
 一匹狼みたいに過ごしてきたんだから、誰かと一緒な生き方なんて考えられない、それほどアタシは不幸だった……
 だから、ラルカみたいな、ちょっとの事で自分を不幸呼ばわりするあなたが、許せないのよ!」
 ひねり潰さんばかりの力でラルカの肩を握る。ラルカも痛みを感じながらも、まっすぐミミを見つめた。
「その……なんて言ったらいいか分かんないけど。ゴメン……」
 自分の軽率な発言を謝った。これで気が紛れてくれれば良いと内心思う。
「グスッ……でもね、ラルカ……」
 左手を降ろして流れる涙を拭い、ラルカに向き合うと、まだ暗い表情を引き攣ったまま笑みを浮かべ……
「そんなアタシに、望みが出来たの。それが子供を作る事。アタシがおかあさんになる事なのよ」
「お、おかあさん……?」
 唖然としていたラルカがようやく口を開いた。ミミは理解してはもらえまいと思いつつも答えた。
「ミミロルだった頃。とある日に、ガルーラ連れのトレーナーを見かけたの。そのガルーラ、お腹に子供を抱えていたの。
 その抱えていた子供は、ガルーラの前で泣いたり、我侭言ったり、五月蝿く笑っていたの。母親に迷惑をかけている様にしか見えなかった。
 当時のアタシからしたら、子供なんて面倒なお荷物しか思わなかったの。なんであんな重荷にしかならない物の為なんかに苦労をしなきゃいけないのって思った。でも、子供を抱えたガルーラは、迷惑そうどころか、その顔はすごく幸せそうだった。
 アタシは理解に苦しんだわ。結局は分からないまま終わった。けど、雌にとって何が幸せなのか、アタシは考えるようになった。
 子供を持つようになったら、あのガルーラのように幸せになれるんじゃないかって……思ったの。だから、どうしても子供を生みたい、それが理由なのよ……」
「ミミの望みって、子供を作る事? でもそれが、俺とどう関係するんだよ?」
 疑問に思いながら聞くラルカに、涙顔を笑顔に戻す。
「うふふ、だからラルカにはね、アタシの夫になってもらってぇ、子供を作るお手伝いをして欲しいのよ。分かってもらえたかしら?」
「そんなのどうやってぇ……!? 分かんないって! そんなに子供が欲しければ他の奴でやってくればいいじゃないか! 美人なあんたなら、それが出来るだろ!?」
 ミミの幸せの為に自分がその礎になるなんて、そんなの分かるはずが無い。ラルカとて、他の手前では大人ぶっていたが、己自身がまだ子供だと言う自覚はある。父親なんてあまりにも早すぎる。
「最初はそう思ったわよ。でも、それじゃ駄目なのよ。子供を欲しがっている事を聞いた連中が、協力してやるって言い寄って来るけど、、実はアタシの体目当てで近寄ってくるような下種な雄ばかり。
 アタシのこの体を厭らしい目で見て、隙を見ては犯そう狙ってくる。そんなの……いくら子供の為でも、あんなクズ野郎共の欲望の捌け口にされて、孕ませられるのは嫌よ! ドスケベで気持ちが悪い!」
 反吐でも吐きそうな表情で言う。今までミミが、いかに雄に恵まれていなかった事が分かる。
「だったらなんで、俺なんかが選ばれるんだよ? 俺は、別にミミの事をそんな目で見たりしないし、アンタは良い雌だから、まだマシな奴が探せるんじゃ……」
「アタシはこれでもラルカと同じ『高個体種』なんて呼ばれてたのよ。ラルカの言う通り良い雄が見つかっても、その雄が遺伝子が劣勢じゃ、釣り合わないしね? だから、アタシにはラルカ以外の雄なんてありえないの。
「そんな理屈っ……!」
「いい事教えてあげる。強い遺伝子を持ったポケモン同士となら、生まれる子供もより良い強い子が生まれるの。あなたはまだレベルは低そうだけど。成長すれば、他のルカリオなんかより素晴らしいくらい成長する。その遺伝子を子が受け継ぐの。分かってもらえたかしら?」
 高度な遺伝子を持つ親同士なら、親の長所を受け継いだより強いポケモンが誕生する。それを利用して、育てやに遺伝子レベルの高いポケモンの雄雌を預ける例もある。
 だが、自分が優勢な遺伝子を持つからって、それを理由に父親を強制されるんあて、可哀想な過去を持っているとは言え、勝手すぎる。
「それが理由だって言うのなら、俺にはまったく興味のない事だ!」
「そうね、まだキスも出来ないお子様には関心の無い話かしらね」
「黙れよ!!」
 再び心の傷を抉られ、感情が爆発するも、すぐに抑える。
「……ミミの言うとおり、俺は雌との関係が持てない。だから他の雌や、アンタの魅力も俺には分からない。だからもう、構わないで……んぐっ!?」
 話の最中に、ミミは仰向けのラルカを抱き寄せた。フニュっとする雌特有の脂肪に包まれた。
「別にだいじょーぶよ。今に分かるものぉ……いっぱいエッチすれば、分かるようになるわ……ラルカになら、アタシの体を欲望の捌け口にしてくれてもいい……いや、あなたがアタシの、望みの要になって……
 気持ち良いでしょ、アタシの胸。こんな脂肪の為に、沢山の雄共が求めてくるの。あいつらが欲しがったこの体を、思う存分に堪能させてあげる……いっぱい厭らしい事も、教えてあげる……」
「んんぅ……ミミィ……ぐっ……!」
 反論しようにも、抱き寄せられた顔が胸に密着しすぎて上手く喋れない。おまけに、激しく打つ心臓の鼓動に苦しむ。
 一方的なミミは、誘うような瞳で、自分より年下の少年を見つめる。
「苦しい? 狂っちゃいそう? 不安? でも安心して、すべて快楽の中に放り投げ出してしまえばいい……嫌な事、みんな溶かしてしまうの……」
 ミミの甘い囁きに、ラルカは不思議と、苦しいのにも関わらず、心地よさを覚え始める。まるで自分自身が、ミミの中に溶けてしまうような感覚が広がる。
「アタシの不幸も、あなたの不安も、兄妹の事も忘れてさせてあげる。だから、きて……」
 メロメロボディによる特性が、自然にラルカの、ミミに対する怒りも、不安も、恐怖も、薄れてしまう。自分そのものさえ……。
 あぁ、これが快楽……ラルカはもはや、抗う気はなくなった。この心地よい胸の中で、自分は溶けてしまうのだ。全てを忘れ……
 忘れる……?
 二つの声が、ラルカの中に木霊する。

『ラルカ……』
 ミミの声じゃない、別の雌の声。聞き覚えのある、懐かしい声。
『ラルカ、泣かないで、お姉ちゃんが取ってきてあげるから』
 小さい自分の前に、そびえ立つ大木。そこに実る、黄色した綺麗な木の実。手を伸ばしても、小さい自分にはそれが届かない。手に出来ない。それが無性に悲しくさせ、泣いている幼い自分がいる。
 そんな小さな自分を優しい声で励ましてくれるのは、微笑みを見せるピカチュウ。
 ピカチュウは、ずっと上にある木の実に向かって、眩い電撃を飛ばす。木の実を直接狙わず、枝を狙う。電撃に焼かれた枝は、プツンと切れて、落ちる。
 ポトンと地面に落ちたオボンの実を、ピカチュウが拾う。
『はい、あげる。だから、泣き止むかも」
 そう言って、とても優しい微笑みを自分に向けてオボンの実を渡してくれた。そんな暖かいピカチュウに、自分も泣き止み、笑顔を返す。
 その後、貰ったオボンの実を二つに分けて、二匹で一緒に食べた光景が思い出す……

『ラルカ……』
 声変わりする手前の、若々しい声。聞き覚えのある、懐かしい声。
『バトルの事、まだ気にしているのか?』
 誰かの部屋の中で、擦り傷だらけですすり泣く自分、相手トレーナーのポケモンとのバトルで技の繰り出しに失敗し、敗北した。傷の痛み以上に、悔しさで泣いている自分がいる。
 溜め息吐きながら心配そうに見つめるのは、厳しそうな目をしながらも、どこか優しさを感じさせるワカシャモ。
 掛けてくれた声を無視するように、視線を反らす自分。情けなさすぎて、もう放っておいてほしい。
 ワカシャモは再び溜め息を吐く。すると、自分の前に置いてある、女の子が使う椅子を手に取り、自分の前に持って来る。そして、ラルカの前に置くと、ワカシャモは『見てろよ』と言う。一呼吸し、ワカシャモは目つきを鋭くさせると…… 
 スバンッ、目に留まらぬ速さで、ワカシャモの右足が椅子の背もたれを蹴り上げた。背もたれの部分が衝撃で割れる。蹴られた場所から分断され、木屑を撒き散らしながら宙を舞う。その光景に、目を奪われる自分。
 やがて割れた背もたれは、ベッドの上に落ちる。椅子は無残な姿を晒していた。自分は思わず、すごい……と漏らした。
 ワカシャモは、白い爪を優しく自分の頭の上に落とし言う。
『お前にも、これを教えてやる。だから、何時までもメソメソするなよ』
 苦笑する顔を向けられる。厳しくも、何処か暖かくて何時までも頼りがいのあるワカシャモ。それまで、すすり泣いていた自分は何時の間にか笑顔になり、力強く、うんっと頷いた。
 そして、部屋に戻ってきたご主人に、真っ赤な顔で怒られ、済まなそうにするワカシャモの姿が、何時までも映った……

「……っ!」
 ハッと目を開ける。柔らかい脂肪に包まれ、心地の良さが、吹っ飛んでいく。そして、おもむろにミミの両肩を掴む。
「ぬううううっ!!」
「ラルカッ!?」
 驚くミミの声。構わず、ラルカは力の限り押し返した。
「きゃっ」
 バランスを崩しそうになったミミはその場で尻餅をついた。
 一方、体制を元に戻したラルカは拳を構える。
「はぁ……はぁ……」
 肩で呼吸をしながら、虚をつかれたミミを、キッと睨む。そして、鋭く尖らせた目から、涙が零れる。
「あなた……どうして!?」
「忘れない、忘れちゃいけねぇ……! 俺は、あの二人を忘れたくないっ! 馬鹿で自分勝手な俺の事を、懸命に心配して、本当の弟の様に愛してくれる兄さんや姉さんの事を忘れるはずがねぇ! 俺は、意地でも帰る!
 ミミ、アンタがどれだけ俺の事を必要としてくれても、俺にとって、あの二匹以上に大切な物は無い! とても大事なんだっ!」
 迷いの無い、気迫の篭った目がミミを睨みすえる。ミミは残念そうに表情を暗くすると、ゆっくりと立ち上がる。
「そっかぁ、意地でも受け入れてはもらえないのね」
 ラルカは涙を拭い、言う。
「あぁ、ミミの不幸話。同情はする。けど、どんなに自分が不幸でも、それを他人に押し付けるのはポケモンでも人間でも良くねぇ事なんだよ!」
「だったら何? アタシは欲しい物は奪い、いらない物は捨てる。そうやって生きてきたのよ。ラルカの言っている事は綺麗事にすぎない。だからアタシは、自分の望むがままに手に入れるだけ!」
「そんな勝手な理屈、それはアンタを捨てた最低な人間と、同じじゃないのかよ!?」
 確信を付いた言葉に、ミミは歯ぎしりする。どうやら効果は抜群の様だ。この一言でミミに一矢報いた。
「……そう言う事を言うのね。残念だわ、なら……迷いも悔いもないわ。あなたを、その兄妹から奪ってやるっ!」
 押し返すほどの、気迫の篭らせるミミ。もはや、開き直った彼女に掛ける言葉は無いと、ラルカは悟った。
 お互いの間に、バトルの火花が散らす。睨み合いは5秒で終わった。
 先手はミミが取った。
 風を切る程のすばやい動きで、ラルカに向かう。強く握られ左手が、助走を付けてラルカを捕らえた。
 見覚えのある技だった。今思い出すその技名はピヨピヨパンチ。食らえば運悪く混乱してしまう危険性のある技だ。
 今度は食らうまいとラルカは右手を顔面の前に出して受け止める。すかさず残った左手で鋼の様に硬く、鋭くする技、メタルクローを突き出した。
 ミミは咄嗟に右手で受けるも、反応が微妙に遅れ、後方にバランスを崩す。
 その気を見逃さなかったラルカは、繋がれている鎖が許す限り近づき、二撃目のメタルクローを放つ。しかし、ラルカの動きよりも早くミミは体制を整えなおした。
 追撃の一撃はミミの左頬をかすりともしなかった。ポンッと軽く右側に跳び、華麗とも言える動きで避けられた。
 無駄の無い動きで今度はミミが技を放ったラルカの右腕を掴む。両手で腕を取ったミミは自分の体を軸に一回転し、遠心力を生む。
 その勢いを利用し、ラルカの背後にあった灰色の岩壁に向かって腕を解き放った。追撃の速度と遠心力が加わり、ラルカの体は宙を浮かび、壁へと放り投げられる。
 壁に衝突する手前、体を90度回転させ、両足で岩壁に着地した。足腰をバネの様に縮ませる。次の瞬間、壁を大きく蹴った。壁を蹴る反動を利用し、ラルカは宙を飛んだ。
 宙を飛んだ状態でミミに向かう。両手で青白く光る横幅の長い骨状の武器を生み出した。それは波動の力を具現化した、ルカリオ特有の武器だ。
 波動の骨状を手に取るとそのまま力いっぱい投げた。骨はブーメランの様に高速回転し、ミミへと襲い掛かる。覚える種類が数少ない技、ボーンラッシュだ。
 迫り来るボーンラッシュに対し、ミミは軽く笑みを浮かべ軽やかにその場で大きく跳躍する。目標を失ったボーンラッシュは宛ても無く洞窟の先に消えて行った。
 ギリギリまで伸びた鎖が金属音を鳴らす中、地面に着地したラルカは顔を上げる。上空で攻撃体制を構えるミミを確認し、それに備える。
 岩の天井にぶつかるスレスレの位置で、右足を大きく突き出し急降下する。これも覚えられる種類が限定される技、とびはねるだ。
 対してラルカは回避行動をとらず、あえて両手をクロスさせて蹴りを受け止める体制をとった。
 「ぐぅっ……!」
 ピンと延ばされた美脚を食らう。防御しているのにも関わらずその衝撃は、腕から全身に掛けて電流が走った。苦痛の余りに呻き声があがる。 
 はがねタイプを持つラルカでも、半端無い威力に驚かされた。技の威力ではなく、ミミの攻撃力の高さに。
 凄まじい破壊力に全身が大きく後退する。足元には踏ん張った痕跡が線を描くように残っていた。
 しかし感応に浸っている時ではない。ジンジンと痛む腕に鞭を打ち、反撃の構えに出た。その時だ。
 「あっ……!」
 突然、筋肉が硬直する感覚に襲われた。やや遅れた後に、全身に大きな電流が走る。
 反撃の最中、態勢は大きく崩れて前方に倒れる。 
 唐突な出来事を前にラルカは全身の自由を奪われ、呼吸が乱れる。この時点でラルカは自身の異常を把握する。
「クスクス、麻痺っちゃったみたいねぇラルカぁ?」
 ラルカが答えを出す前に、ミミが口を開いた。とびはねるの追加効果によって、全身が麻痺してしまったのだ。
 目の前に敵がいるのに動こうとしない体に苛立ちを覚る。歯を食いしばり、腕だけでも動かそうと必死に力を入れる。 
 無様に地べたに倒れている雄を前に不適な笑みを浮かべ、勝利を確信するミミ。ゆっくりとラルカに歩み寄り……
「諦めてさぁ、アタシの夫になってよ……いくら高個体種でも、そんな体じゃ万策尽きたでしょ?」
 勝負が付いて余裕になると、トロンとした瞳でラルカを見つめる。優しい手つきで顎を持ち上げる。もう片方の手はなめらかな動きで頬を撫でた。
「このまま、アタシに抱かれて。兄弟もトレーナーの事もみぃんな忘れちゃってさ、気持ちの良い事しましょ……」
 そう言って、目を瞑り、自分の唇を動けぬ雄の口元に持って行くと静かに重ね合わせようとする。
「万策は……」
 震える唇で、麻痺で汗ばんだラルカの表情に笑みが浮かぶ。
「尽きちゃいない……!」
 その言葉に目を開き、口付けを止める。背後に何かが高速で近づく音を耳で拾った。
 とっさに背後に振り返り、その正体を目にする。素早い速度で回転しながら接近しているのは、ラルカが放ったボーンラッシュだった。
 骨状の波動が死角から迫る。ミミが気づいた頃には回避は間に合わない位置にいた。
 焦りの表情を浮かべ、片手をあげて緊急防御をとろうとしたが、間に合わなかった。
「きゃあぁ!」
 強い衝撃がミミをボディを横殴り、高い悲鳴をあげながら彼女の体が宙を舞った。
 重力に引っ張られ、受身を取る間も無く硬い地面へと叩きつけられた。
「へへっ、簡単に忘れてたまるかよ……俺だって、譲れないものがある……」
 痺れふらつく体に鞭を打ち、膝を笑わせながら立ち上がるラルカ。再度、両手で骨状の武器を構成する。
「ミミ……もう止めろ、アンタなら、いい雄だって見つけられる。俺に構わないでくれ」
 体制を維持するのも辛い中、武器を向けたまま説得を試みる。
「いててっ……アタシはね、欲しいと思った物は何としてでも奪い取る。色仕掛けでも、盗みでも……」
 苦痛に表情を歪ませながらは立ち上がる。瞳から覗える闘士の炎は消える所か、その勢いを増していた。
 やはり説得は無意味だと知ったラルカは行動に移した。手に取った骨を端側に持ち替え、地を蹴る。
 得物の長さを利用し、骨を力入れて横に振る。殴るには惜しいその美顔の右頬を狙う。出来れば、この一撃で終わって欲しいと願った。
 しかし、その願いは叶わなかった。骨の先が当たる直前にミミは腰を落とした。折れ曲がった耳の角の上を骨が空しくも空を切る。
 横薙ぎにした骨は目標を見失ったまま尚も進み、ラルカに僅かな隙が作る。ミミは、その隙を逃しはしなかった。
「力尽くでも手に入れる!」
 言葉と同時にミミは大きく上体を伸ばし、ラルカの目の前に来る。顔同士が触れそうな距離に、満面に映る怪しい微笑みが背筋を凍らした。
 咄嗟に獲物を離し、至近距離のボディにはっけいを打ち込もうと手首を引く。だが、その時異変は起きた。
「ウフン……」
 バトルの場に相応しくない甘い声が耳元に囁き、目の前でトロンとしていた紅色の瞳がパチンと弾ける。
 美形な雌が放つ色気さに見惚れ、闘士を忘れた拳はその場で動きを止める。ラルカ自身も気づかない内に頬が赤く染まっていた。
 頭の中がミミのウィンクが妬き付く。暗示に掛かったように体が動かず、心臓の鼓動が愛おしさに高鳴る。 
 後になって気づく事になろうその技は、性別を持つポケモンなら殆どが使える技、メロメロだ。
 集中しすぎた視線がミミを見すぎていた。その為に、色仕掛けと言う単純な罠に掛かってしまったのだ。
 後になって聞こえたのは、放り投げられて硬い地面へと落ちた骨の音だ。その骨も持ち主が離れてしまってから形が維持できず、消滅してしまう。
「……」
 雄と雌が至近距離のまま、僅かな一時が過ぎる。それは、緊迫したバトルでは大きな隙だった。
 動かず、ミミを見つめていてばかりのラルカに、ミミは不適な笑みを浮かべ……
「やっぱり、本当はあなたもアタシの事が欲しいんじゃないの?」
 その言葉の後に、ミミはラルカの視線と並ぶように屈み込む。そして重心を右足に掛けて地面を大きく蹴り、跳躍すると同時に左足を前に突き出した。飛び蹴りだ。
 ミミの左足が腹部をえぐり、鈍い音と共にめり込む。
「ぐふぉっ……!?」
 ラルカは呼吸が止まった。内臓を圧迫する衝撃が全身に流れる。
 完璧に決まった飛び蹴りを見ると、ミミは腹部に入った左足をゆっくりと離した。
 膝を尽き、激痛のあまりにラルカは腹部を抱え大きく咳き込んだ。
 大きく見開いた目からは涙が流れる。視線は焦点を合わせられなくなり、込み上げる吐き気に苦しむ。
「うぐぅ……おぇ……エホッ……うぉえ……」
 接吻した後に来た苦しさとは比にならない程の呼吸困難に襲われた。
「ちょっと強烈だったかしらね。立てる?」
 ミミの問いかけに答える様子も無く、いや、答える余裕すらないほどに激痛に見舞われていた。効果抜群の格闘技と言えど、このダメージは失神しかねない。
 互角と思えた勝負だったが、違っていた。僅かに残ったラルカの思考力が、この結果について一つの答えを見出した。レベルの圧倒的な差だった。
 外見からして可愛らしく、華奢な体系からはとても想像できない程の力量だった。立つ所か、吐く事を堪えるのもやっとだった。
「この体が欲しいなら、遠慮なくあげるわ。その代わり、あなたの体もアタシに頂戴……」
「エホッ……ハァ……ハァ……」
 激痛で震える体に、ようやく顔を上げるだけの体力が回復し腹部を押さえながら、ゆっくりと見上げた。
 相変わらずふざけた台詞を前に、反撃しようにも深いダメージで立つ事さえ出来ない。反撃できないのであればせめて睨みだけでもと思うが、メロメロの効果でそれすら叶わない。
 麻痺にメロメロ、おまけに飛び蹴りによるダメージを受けているラルカの体はもはや抵抗するだけの一握りの力さえ残っていない。
 今のラルカは強き者に服従を誓う犬の格好だった。屈辱のあまり、なんとか体制を起こそうとするが……
「やっと静かになったもの。もう抵抗なんてさせないわ」
 無抵抗と化した雄を前にミミは更なる追い討ちを掛ける
「がはぁ!」
 腹部が焼けそうなほどの痛烈なパンチが入る。それも効果の抜群な技だ。ノーマルタイプのミミが出せる技の中では、イレギュラーな攻撃、ほのおのパンチ。
 威力は低いと言えど、体力が瀕死に近いラルカにとってこの攻撃は追い討ちになった。
 激痛のあまりに再び吐き気が込み上げ、地面にのたうちまわる。
「ゲホッ……ちくしょう……」
 呻きながら悔しさに声が漏れる。今まで敗北知らずの戦歴が一匹の雌によって踏み躙られ、ラルカの中でプライドが音を立てて崩れていく。
「悔しいの? でも恥じる事はないわ、ラルカとアタシじゃ、レベルや年の数が違うんですもの」
 ラルカの気持ちを知ってか知らずか、ミミの言い方はラルカの心の傷を撫でた。高個体種の自分が、ここまで屈辱的にやられる様があまりにも悔しく思えた。
「もう止めなさい。素直にアタシの物になってよ、永遠にさ」
 ゆっくりと近づくミミの放ったその言葉が、ラルカの消えかけていた怒りと闘士に火を付けた。
 最後の気力を振り絞り、全身に響く激痛と麻痺を乗り越えながら体制を起こし、拳を突き出した。技というより、何の変哲も無いただのストレートのパンチだった。
 しかし、すでに体力が風前の灯に見えたミミにとって、予想外の反撃だった。
 もはや雌の体に拳を突き出すのに一遍の躊躇いも無い。腕を限界までのばし、最後の一撃を打つ。
「あっ……!」
 しかし、結果は無残なもので終わってしまった。唖然とするラルカ。
 気力を振り絞って放った一撃は、ミミの柔らかな手の平に包まれていた。頬に当たる手前に、受け止められたのだ。
 背筋に凍りつく。受け止めた手の平越しに、ミミが自分を睨む顔が覗き込んだ。予想外の行動に、彼女もまた臆されていた。それが怒りに変わったのだ。
「意地でも……抵抗するんなら!」
 怒りで震える声が囁く中、受け止めた拳を払いのける。体制を崩したラルカの腹部に跨り、手の平をパーにしてラルカの頬を力強く打った。
「あうっ!?」
 頬を打つ張り手の音が洞窟内に響き、ラルカは痛みの余りに悲鳴をあげた。
 じんじんと痛む顔、しかし攻撃の手は一撃で終わらなかった。続けざまにミミの張り手が反対方向に飛んできた。
「ああっ!」
 苦痛と恐怖で目を閉じる中、張り手は何度でも襲い掛かった。1発、2発、3発、4発……何度も往復するようにミミの手の平に打たれる。
 連続して強打され、青と黒の色した頬はじんわりと赤くなっていく。しかし、それでもミミは攻撃の手を緩めなかった。
 思い通りにならないのと最後まで抵抗を続けるお目当ての雄に怒りが爆発し、気が済むまで、何度でも何度でもその頬を打ち続けた。
 洞窟内で痛々しい音が音響する。他に聞こえてくるのは、痛みから来る悲鳴をあげる雄の嘆き。しかし、その音を聞くものは二匹の雄雌以外誰もいない。
 ラルカの中でミンミンやゴー、アナに助けを求めて叫ぶ。しかし、兄弟達や主人はその場にいない、当然ながら、その助けを呼ぶ声も本人達には届くはずがない。
 拷問の様にも見える光景の中、助けに来るものはおらず、時間だけが過ぎていった……

 一刻の時が過ぎた。数十回にも至った響きと悲鳴は止み、洞窟内はいつも通りの静けさを取り戻していた。
 時間で言うならば、ざっと10分程度。あるいはそれ以上の時が過ぎたか、知る者はいない。
 そんな中、この悲痛な騒音の原因となっていた二匹はその場を動かず、ただしんとしていた。
 ラルカに跨っていたミミは、張り手に疲れたのか顔からは汗が流れていて、呼吸は乱れている。視線をラルカに落としたまま。
「うぅぅっ……ひぐっ……うぅっ……」
 すすり泣く様な雄の声。まるで虐待に怯える子供のように震え、目からは止め処なく涙が溢れ出ていた。
 美形だった顔は、痛々しいまでに赤く腫れ上がり、その箇所を涙が濡らしている。震えた声で泣きじゃくるその様は、もはや一遍の抵抗力さえ見受けられない
 14の若い雄にとって容赦無い仕打ち。絶望と恐怖に駆られ、生意気口調で調子付いた瞳をした面影は、何処にも無い。
「はぁ……これでもう、何も出来はしないわね……」
 蓄積されたダメージと麻痺、それに付け加えて涙でくしゃくしゃになった顔を見て、荒呼吸で言う。
 震えた瞳が真っ直ぐへと自分を見ているのを確認すると、ようやくミミは平常心を取り戻し、笑みを浮かべる。
「うふふ、雄相手にこんなに興奮したの初めて……やっと大人しくなってくれたわね、ラルカ?」
 自分の名前を呼ばれたラルカはビクッと体が震えた。涙を流しながら黙って頷いた。
 もう、一切の抵抗をしないと言うラルカの降伏宣言だった。
 それを目にし、ミミは跨ったままラルカの上半身を起こし、自分の胸の中で抱いた。
 柔らかな乳房に包まれるラルカ。胸越しに伝わってきたのは、自分に対する恐怖心から来る震えと、胸を濡らす涙。
「やっと、アタシの物になるのね。ちょっと手間取ったけど、これでもう安心……」
 そう言ってラルカを乳房から離した。未だに怯え震える無様な顔を見て、それでも尚ミミの欲求は萎えない。自分に恐怖する雄にある種の愛着心を覚える。
 恐怖と涙で歪んだラルカの表情をじっと見つめる。その顔から何を考えているかは分からない、でも、もう気にする必要は無い。
 ようやくラルカを物に出来たと実感したミミ。涙で濡れる事にもお構い無しにその顔をじっくりと撫でる。
 愛おしく映る若い雄を前に、瞳を細める。未だ震えの止まらないその唇を引き寄せ、ミミは口付けを交わした。
「んふっ……」
 三度目となる口づけ、今度はラルカも抵抗はしなかった。成すがままに自分の唇を奪われ、諦めた様子で目を閉じた。
 柔らかい感触、ラルカの流した涙が唇の隙間に入り、塩の味がした。顔を支えていた両手を離し、後頭部に回す。ぐいっと引き寄せ、より唇同士を密着させあう。
 強く引き寄せ、交互に重ね、離しては何度も互いの感触と温もりを味わう。
 熱く濃厚なキスに興奮したミミはもう一度、相手の口内に舌を侵入させる。ラルカ自身も抗わず、もはや覚悟の上と言わんばかりに自分も舌を絡ませた。
「うふぅ……んちゅっ……」
 互いに舌同士が暴れあい、唾液が絡む。ミミは遠慮なしに舌を回し、犯していく。
 舌同士が絡み合う水音が鳴る。中ではお互いの唾液が混じり過ぎてどっちの唾液か、分からなくなってくる。
 興奮が高まり、キスだけじゃ物足りなくなって来たミミはラルカの右手を取る。顔同士が密着する中、片手を自分の乳房に触れさせた。
「んんぅ……!?」
 ラルカの目が半開きする。手の平に伝わってくる柔らかい感触に驚く。ミミは瞳で揉んで見てと伝え、逆らう事が出来ないラルカはそれに従った。
 躊躇いつつも、右手に微弱に力を加えて乳房を包む。驚くほど柔らかい脂肪が、手の平を沈めていく。更に力を加えていくと押し潰れて形を変える。
 雌のデリケートな部分を揉まれ、唇が塞がれた状態で甘い声を漏らすミミ。瞳が潤み、ラルカにもっと揉んで欲しいと目で欲求する。
 それに従うままラルカは胸を一度離し、元の形に戻す。丁重にその丸みのある膨らみ揉みあげる。その度にミミは口内で喘ぎ声をあげた。
 ラルカ自身も初めて触れた乳房に興奮を覚え、気づかない内に自分はもう片方の手でミミの空いた胸に手を掛けていた。
 両手を回すように強弱を付けながら揉み上げ、雌の体を堪能する。
 また、胸ばかりに構わず、舌同士も絡ませる。卑猥な水音を発しながら手の平にある感触を味わう事も忘れない。
 持病で鼓動が苦しいまでに高まっていくのを感じるも、ラルカはそれに構わず続けた。
「んはぁ、らるかぁ……んんぅ……」
 一度唇を離し、ラルカを名を呼びながら再度唇を重ねる。
 ラルカのソフトな揉み心地が快感を生み、気持ち良さそうに喘ぐ。高まる感情にまかせて舌をより激しく、厭らしく繰る。
 一方的に口内を犯されていく中、反対に胸をリズミカルに揉みあげて刺激をする。
 やがて乳房の快感に堪え、ミミの方から唇を離した。二匹の間からは、唾液を混じり合わせた証が銀色に光らせていた。
「あっ……素敵よ……もっと揉んで、アタシの胸を犯してちょうだい……」
 言われるがままにラルカは巨乳を手の平全部を使って犯し、目の前で厭らしく踊り、咽の渇きと欲望が彼を支配する。
 フサフサな毛越しに伝わる、押すと脂肪がムニュゥと沈み、力を抜いて離すと弾んで戻る。非常に弾力のあるマシュマロ見たいな感触。
「んぅ……気持ちいい……おっぱいで可笑しくなりそうよぉ……あんっ……もっと乱暴に揉んでぇ……んぁ……」
 甘い吐息を漏らし、胸から伝わる快楽に身をよがらせる。しかし、何かが物足りないと考えたミミは、自分のお尻に当たっている物を感じ、そっと両手をラルカの下半身に移動させ……
「はぅっ……!」
 余りの感触にラルカの頭に電気が走った。ミミが触れたそれは、雄として大事な物だ。乳房の柔らかさに興奮して膨張した逸物が手の平に包まれて快感が走る。
「ラルカのこれ、すごく大きいわ……アタシのおっぱいでこんなにカチカチになってるの……」
 胸を揉まれる心地を感じながら、ラルカの膨張した逸物をくすぐるような手つきで撫で回す。
 溜まらず喘ぎ声を漏らす。敏感になった雄の象徴が厭らしい手つきによって弄ばれ、それに伴い快感を生み出す。
「もっと乱暴に揉んで良いのよ……ラルカのおちんちんがもっと大きくなって欲しいもの……」
 そう言いながらミミは跨っている場所から降りる。上体を起こしたままのラルカと同じ視線に来る様にすわり、再び逸物に両手を掛けた。
 先端をちょんと指先で触れる。乳房によって膨張した先からは先走りが滲み出ていて、糸を引いていた。
「アタシもラルカのをいっぱい触っちゃうからね……」
 両手で包むように触れると、モノを扱いだした。
「あっ……ミミぃ……」
 逸物を上下に動かされ、快感の波がラルカを襲った。それに加えて、ミミの言うとおり乳房を少々荒く揉みしだいていく。
 荒々しい揉み方にミミは快感に喘ぎ声を上げる。それに伴い、ラルカの逸物を扱う速度を上げていく。
 揉んで、揉まれての愛撫にラルカはいつしか、性欲に頭が支配されそうになっていく。目の前で魅惑のダンスを踊る乳房を前にして、逸物は尚も膨張し続ける。
「あん……ビクビクしながら、大きくなってる……アタシのおっぱいが、そんなに気持ちいいんだぁ……」
 嬉しそうに喘ぎながらも扱く速度は緩めない。片手で抜きながらもう片方の手で先端部分をツンツンと突き、更なる快楽を生み出していく。
 終わらない波の如く迫る快感に耐え切れなくなり、押し殺してきた声が食い縛った歯の間から漏れてくる。絶頂が近い証拠だ。
「んふぅ……もうイきそうなの? でも駄目よ、もう少し我慢して……」
 絶頂が近いと判断したミミが、意地悪にも扱いている竿の根元を強く握り締める。
 性の通り道を塞がれ、ラルカは快感の渦から出られなくなってしまう。
「あっ……そんな……」
「だってぇ、アタシまだまだラルカのおちんちん弄りたいんだもん」
 小悪魔な笑みを浮かべて、困った反応を見て楽しむ。すでにそこまで絶頂が来ていたラルカにとって、ある意味拷問に近い。
 絶頂を制止して置きながら、先端部分をコリコリと弄るのはやめず、快楽を与え続ける。
「あっ……あぁ……」
 イくにイけない地獄の快楽にはまり、目からは止まっていた涙が再び零れる。思った以上の反応を見せてくれたミミは、よりラルカを苛めようと先を刺激する。
 涙を流しながら絶頂をさせてほしいと願った。
「だめよぉボク? 手間を掛けさせた分まで楽しませてくれなきゃ、割りに合わないでしょ?」
 胸を揉みくちゃにされながらも意地悪な事を言う。こうしている間にも、快楽は次から次へと押し寄せ、ラルカの理性を食いつぶしていく。
「あっ……くぅ……お願い……離してぇ……」
 必死に懇願するも、だぁめの一言に蹴られてしまう。そして尚も逸物を扱く速度を速めていく。
 逸物は今にも絶頂したいとビクビク脈動を打っている。これ以上、こんな性的な拷問が続けられたら本当におかしくなってしまう。
 涙は流れ続け、情けないまでに喘ぎ、無意識に鷲掴みしている胸。今のラルカは、完全に性の奴隷と化していた。
「ウフフ……辛そうね? そんなに辛いなら、イかせてあげてもいいのよ?」
 救いを差し伸べる言葉を耳に、快感に狂いながらも安堵の表情を浮かべた。
 しかし、それを目にして口元を吊り上げてミミは笑う。
「激しく抵抗した分。『ミミ様、あなたの言いなりになります。今までの非を詫びます。どうか許してください』って言えば、解放してあげるわよ? うふふ……」
 救いの手前で、屈辱的と言える要求をラルカに突きつけた。希望が絶望に変わり、表情が歪む。
「そん……なぁ……」
「いやならいいのよぉ? その代わりこの後まだまだ弄らせてもらうだけだからぁ……クスッ」
 厭らしい笑いが、ラルカを更なる絶望へと追い落とす。これ以上悪戯に逸物を弄られ、扱かれ続けたら、本当に狂ってしまう。
 涙を流しながら屈辱を噛み殺し、自分を飲み込まんばかりの快楽に耐えながら、震える口で言う。
「ミ……ミミ様……許してください……」
「ちがーう、『ミミ様、あなたの言いなりになります。今までの非を詫びます。どうか許してください』でしょ? それすらも言えないんなら、イかせてあげないんだから!」
 辛うじて発した言葉を無下にされ、あんまりだと言わんばかりに表情を歪ませるも、これ以上は耐え切れないと、屈辱を受けながらも言い直す。
「ミミ……様……あなたのい……言いなりになります……今……までの……非を詫びます……どうか……許して……くださいぃ!」
 涙声で、それだけの言葉を発する事が出来た。ミミはそれを聞いて、満足そうに笑い。
「はい、よく出来ました。存分にイきなさい……」
 ようやく、快楽地獄から抜け出す事が出来た。ミミは根元を掴んでいる腕を離した。
 解放された次の瞬間、逸物から強烈な快楽を覚える。膨張した先端部分から、白濁液が凄まじい勢いで発射される。
 絶頂を引き止められ、溜まりに溜まっていた分がこの場で快楽と共に爆発したのだ。
「きゃっ……」
 勢いよく吐き出された濃厚な液が、腰の辺りからミミの胸や顔にまで飛び散る。脈動を打ちながら、逸物は何度も尽きる事を知らない欲を放ち続ける。
「あぁぁっ……ぁぁ……」
 大きく開かれた目は視点が合わず、口はだらしが無いまでに大きく開けられ、零れ出る涙と涎を拭う余裕もないまま。
 やがて、無限とも思える長い射精に終わりが来る。ビクビクと動く逸物から放たれる精液は衰え、ようやく沈静化した。
 後に残ったのは、力を根こそぎ奪われたかのような脱力感と疲労感だった。鷲掴みにしていた胸を離し、手はだらんとぶら下がる。
 虚ろな目で、天井を見つめていた。これまで自分が抗ってきた事や、会いたい兄弟や主人の事を、忘れてしまいそうになる。
「んはっ……すごぉい……こんなに出すなんて、若い子ってすごいのねぇ……」
 頭がボーッとする中、耳が雌の声を拾う。意識がはっきりしない中、顔を声の主へと戻すと、手入れされていた茶毛の毛並みが、白濁液によって所々汚された魅惑ボディが目に入る。
 豊満な乳房も白く汚され、谷間は小さな湖を作っている。射精は顔にまで届き、綺麗な顔が白くドロッとしていた。
 くびれから頭部に掛けて、ラルカの放った欲望によってそのスタイルを汚していた。それでも、ミミは白濁液で汚れた己が様を喜びの表情を浮かべている。
「あっ……」
 頭が徐々にはっきりし、自分がしてしまった事に驚愕する。雄として初めての射精にラルカは戸惑った。よく見れば、僅かに耳の所も白く汚れているのが分かる。
 いくら相手がひどいとしても、流石に罪悪感を覚える。
「うふふ……こんなに溜まってたなんて、聞いてないわよ?」
「うぅっ……」
 返す言葉も無く、ラルカは白濁液で汚れたミミの体を見たり反らしたりを繰り返す。無理やりとは言え、抗う事も出来ず、謝罪する事も出来ず、複雑な気持ちがラルカの中で交差する。
「デリケートなアタシの体を、よくもこんなに汚してくれたわよねぇラルカぁ?」
 怪しい目でラルカを見つめる。何も言えないまま、体だけが小刻みに震えだす。何もいえぬまま、時間ばかりを食う。
「うふっ……あなたには、ちょっとお仕置きしないとねぇ?」
 その言葉の次に、ラルカは目の前が柔らかい何かに覆われる。
「んぅ!?」
 汗を含んだ雌の匂いが鼻を刺激する。それと別にヌメリとした液がラルカの顔に一部付着する。これは間違いなく、自分が放った液だ。
 自分の顔を覆っているそれは何だか判断が出来ない。分かるのは、乳房と同じくらい柔らかい感触だと言う事だ。
「雌の体を汚した罰よ? アタシの胸の中で存分に喘ぎなさい……」
 その言葉で、今自分がミミの胸の谷間に埋もれている事を知った。
 同時に恥ずかしさの余りに身を引こうとする。しかし後頭部がミミの両腕によって抱かれていて、逃げ道を塞がれていた。
「大きい胸の間に埋もれて凄く気持ちいいでしょう……?」
 その言葉を耳しながら、興奮した暖かい吐息が頭部の頭上に吹かれる。
 そして胸の谷間越しに、ミミの鼓動がリズミカルに鳴っているのが分かる。ラルカと同じくらいの鼓動が鳴っている。
「今度は、おっぱいであなたを犯してあげる……いっぱい苦しんで頂戴ね……」
 ミミは胸の谷間に挟んだまま、両手で自分の胸を横に持ちあげると。外側から力を加え、ギュッと乳房を寄せる。
「んぅぐ……!」
 挟まれた状態のラルカの顔面に、雌の汗が香る暖かい柔らかな肉質の脂肪がグイグイと押し寄せてくる。何度も胸を寄せあげてはラルカの顔を圧迫した。
 顔のほとんどが乳房に埋もれ、ラルカの視界には何も写らない。耳から聞こえてくるのは胸を寄せるギュッギュッとする音のみだ。
 弾力ある脂肪は顔のあらゆる部分を塞ぎ、視界の自由と呼吸の自由を奪い、甘美な臭いが嗅覚を麻痺させ、残り僅かな理性すら侵す。言葉通り、自分の顔がミミの乳房によって犯される。
「んふぅ……鼻息が胸に掛かって……くすぐったいわ……でも、良い……」
 顔を挟んだまま、先ほどみたいに胸をリズミカルに上下に動かす。柔らかな肉が顔面を擦り、興奮と刺激が往復に襲い掛かった。
「どぉ……? おっぱいに犯されるって……苦しい? 呼吸するのも辛い? でも簡単には解放しないわよぉ……苦労掛けた分までじっくりと楽しませて頂戴……」
「んぐっ……んんぅ……!」
 息苦しさから喘ぎ声を胸の中で漏らす。呼吸をする間もろくに与えられない状態で苦しむ様をミミはうっとりした表情で見下ろす。
 上下に激しく動かし、時に左右に上下に動き、幾多のパターンで動き、柔らかい脂肪で隙間無くラルカを包んでいく……
「はぁん……これだけじゃ物足りないわ……そうだぁ……」
 何か良からぬ事を思いつくミミ。左手で乳房を抱え、右手でラルカの後頭部を抱える。胸元に押し付けたまま、ミミはラルカの耳の付け根辺りを舌でチロッと舐める。
「んっ……んん……!?」
 舌が耳に触れた瞬間、厭らしい感触にラルカは身震いした。
 良い反応を得られて、ミミは付け根からなぞる様に耳の先端まで、ねっとりした舌を滑らしていく。
「うふふっ……ここも感じるんだ……」
「ふんぅ……んっ……んっ……!」
 胸の谷間からラルカの喘ぎ声が漏れ出る。背筋から頭部に掛けて、快楽と言うなの電流が走り、身を震わせた。
「子供みたい震えて……可愛い……もっと苛めたい……」
 唾液でベタベタに汚れた耳に、こそばゆい吐息を掛ける。くすぐる感触にゾクッとする快感が走った。
 舐めるだけじゃ物足りず、ミミは口を耳の先端部分に持っていき歯を立ててきた。強弱の無い、コリッコリッと先端を歯で弄り遊ぶ。
「んくっ……耳を弄られるのも好きなのね……感じやすい子……そういうの興奮するわ……」
 強すぎる刺激に耳が小刻みにピクピクと震える。痛くは無いが、歯跡が残るくらいの強さで甘噛みをされる。
 時に離して舌で耳の穴の中に滑らしたりと、身を震わせるような愛撫が続く。
 耳への愛撫に柔らかな胸の谷間に挟まれ、再び波のような快楽がラルカを容赦なく襲った。
 胸に手を当てずとも、今ラルカの心臓は尋常じゃないまでに鼓動を鳴らしている。ミミもまた、絶頂を覚えそうな興奮に身を預けている。
「可愛いわぁ……アタシの舌とおっぱいに弄ばれて、ラルカが喘いでいる……素敵ぃ……癖になりそう……」
 溢れる性欲と肉欲に身を任せ、精神の続く限りラルカを苛め続ける。自分自身驚くほどS気のある事をミミは初めて知る。
「もっと苛めたい……犯したい……んふぅ……そうだ……」
 試行錯誤する中、ミミはある事を閃く。そこでようやくラルカはお仕置きから解放された。
「はぁ……はぁ……」
 開放された瞬間、今までまともな空気を吸えなかった分、新鮮な空気を吸おうと荒呼吸で取り入れる。顔色がミミの顔と同じくらい熱く、真っ赤に染まっていた。
 苦しかった長い一時が終わりを告げる。視点の定まらない虚ろな目で流れる涙にも気づかず、空間をただジッと見続けていた。
 愛撫による快楽と乳房の圧迫による呼吸困難によって、ラルカはまともな思考が働かない状態だ。そんな見っとも無い様を楽しそうに見つめるミミ。
 視線をラルカの下半身に落とす。それに気づくとミミは前に屈み、同時に両手でそれを手に取り。
「すごい……あれだけ出したのに、もうこんなになってるわぁ……」
 胸や口の濃厚な愛撫によって逸物は再度膨張し、先走りで溢れてて輝いてた。血液の集中で逸物はこれ以上無いほどにまで硬く勃起していた。
「若いっていいわねぇ……アタシ、我慢できないの……頂戴……」
 目の前でギンギンに勃起している肉棒を前にして、ミミの欲望が大きく疼いた。遠慮なく、むしゃぶる様に逸物を咥えだす。
 膨張しきった逸物が柔らかな唇に触れられ、全身がビクッと震える。
「ううっ……あっ……」
 ミミを離そうと右手を持ち上げようとするラルカ。だが、思考が快感を欲求するあまりに理性が麻痺した状態で、ほとんど力が出せなかった。
「んはぁ……おいしい……こんなにカチカチしてて、ビクビクしてて……ちゅっ……」
 二度口付けした後、舌で舐めながらゆっくりと口内へと咥え込んだ。
「ふぐっ……くあっ……あぁ……!」
 逸物が滑るように生暖かい口内に入り、ラルカに強い快感が襲う。
 左手で逸物を支えながら、ギンギンに硬くなった逸物を可能なまで奥に入れ、美味しそうに吸い付く。
 卑猥な唾液音を発しながら、ゆっくりと口内で出し入れを繰り返した。
「あっ……あぁ……ミミ……や……」
 容赦なく迫る快感の波に、抗う術が無いラルカ。
 思考の片隅に僅かに残った理性で言葉を発するも、それは言葉として役目を果たさない。
 欲望が更なる快楽を欲している。それに答えるかの様にミミは口内の舌で逸物の先を突き、舐め回した。
「あぁぁっ……ミミぃ……止めて……くれぇ……!」
「んちゅっ……いや……だめ、止まらない……もっとしゃぶりたい……」
 舌先での先端部分と、唇での逸物全体への愛撫に快感の波は強烈なものとなってラルカの頭全体に走る。
 その耐え難いほどの快楽に、視点がおかしくなり、再び涙が溢れる。枯れた声が、精一杯に喘ぎ声をあげる
 野生にしては手馴れたテクニシャンだ。だが逸物に対する欲望は獣並みのミミは、狂おしいまでにラルカの逸物に吸い付き、舌で舐め回し、しゃぶり続ける。
 上目遣いでラルカの淫らな表情を見て、更なる興奮を覚えたミミは可能な限りまでラルカを快楽の餌食にし、涙と涎まみれにしてやりたいと、黒い欲望が膨れ上がる。
 それ以上に今咥えている物に対しての欲望が膨らみ、貪るよう雄の肉を味わい続ける。出し入れを繰り返す速度をあげ、更なる快楽へと落としていく……
「だ……だめだっ……また……くるぅ……!」
 涙声で迫り来る絶頂に悲鳴をあげる。
 絶頂が近いと知ったミミは、口内で出し入れを繰り返す速度を更に速めた。唾液音を洞窟内に響かせながら逸物を獣のように貪る。
 逸物を舌で当てながら、頭の中で大量の精液と絶頂に狂うラルカの喘ぎ声を望む。
 汚したい……その膨張しきったモノでドロッとした濃厚な精液を口内や体にぶちまけて、めちゃくちゃになるまで性によがり、自分以外の雌を抱けなくなって欲しいと。
「あっ……でる……でるぅ……!」
 絶頂間近に迫り来る激しい電流に思考が狂い、天国に上ってしまう幻覚を覚える。
 思ったより絶頂の遅いラルカに、顎が疲れてしまいそうなほどの速度で逸物をしゃぶり尽くす。
 押し殺すような枯れた悲鳴をあげ、ラルカは絶頂に達した。
 ミミの口内で、逸物の先から濃厚な白濁液が暴発したかのように吐き出される。脈を打ちながら激しい勢いで射精を繰り返し、ミミの口内はラルカの精液で瞬時に満たされる。
「んぐぅ……!? ゲホッ……ゲホッ……」
 飲み干そうとして咽を鳴らしながら飲む。だが、二度目とは思えぬ圧倒的な射精量においつかず。飲みきれなくなったミミは口内に精液を蓄えたまま口を離し、咳き込んでしまう。
 ミミの口から溜め込んだ白濁液が吐き出され、ドロッと落ちる。 
 止まらない射精がミミの顔面にビュッビュッと撒き散らし、瞬く間にその可愛らしい顔立ちを再び白く染めあげた。
 勢いが衰える事なく続け様に発射される。ミミは左手で持っている逸物の角度を下げ、精液を自分の胸元に向ける。何度も脈動を打ちながら、豊満な乳房を白く染め上げた。
 最初の射精に負けないまでの射精は、時間の経過と共に、やがて衰えた。
「はぁ……はぁ……信じられない……まだこんなに出るのぉ……?」
 白濁液に掛けられた胸を手ですくって舐める。精液特有の臭いが辺りに臭ってくる。
「見てぇ……これ全部あなたが出したのよぉ? 随分溜めてたのねぇ……ウフフ……」
 魅惑な体にぶっかけられた姿を見せつけてくる。ラルカ本人は、あまりの激射の快楽で虚ろになっていたが、それでも歪む視界でそれを目にしてとても信じられない様子だった
 自分の性器から、あれだけの精液の量が吐き出された事に動揺が隠せなかった。しかも二度も……
「これだけ濃いのが出せるなら、子供が沢山作れちゃうね……でもアタシ、まだまだほしいの……ラルカのミルク、全部絞りつくしてあげるぅ……んちゅっ……」
 有り得ない位に出た射精量と、瞳を潤せこれでも足りないと要求してくるミミに、火照ったラルカの体に怖気が走る中、飢えた野獣のような目つきでラルカの逸物に口付けし、残った精液をも吸い取る。
「あっ……ミミィ……もう……やめてくれぇ……」
 沈静したばかりに、間もなく快楽に襲われる。竿の中に残った僅かな量さえも吸い上げられる。
「もう……出ないよ……出ないったらぁ……!」
 だらしの無い叫びを口にする。ラルカは二度にわたる大量射精によって流石に逸物は疲れてきている。
 咥えた状態で、微弱に縮小しながら萎えてきている逸物に不満を感じたミミは、口を離す。
 耳の毛深い部分を手でごそごそすると、ある物をラルカの前に見せた。
「はい、これ」
「え……何それ……?」
 手の平に乗せられた物に注目する。真紅色に輝く、ハートマークの形をした変わった気の実だった。
 肩で呼吸をしながらラルカが尋ねると、ミミは満面な笑みを浮かべて質問に答える。
「これはね、ホウエンで取れる不思議な木の実なの。これを一個でも食べるとぉ……ウフフ……」
 説明の途中で意地悪な笑みを浮かべるミミ。その厭らしい顔が、これ以上の説明を必要としなかった。
 ラルカは、その木の実にどんな効力があるかは知らないが、明らかに危険な物だと直感した。絶対に食べてはいけないと本能が告げる。
「ほぉら、食べてぇ……」
「嫌だ……近づけないで……」
 木の実を目にしながらずるずると体を引きずり、後ずさりする。それを追うようにミミは迫る。
 必死に逃げるラルカだが、やがて背中が硬い岩壁にぶつかり、逃げ道が塞がれてしまう。
 首輪の鎖が、不気味に金属音を響かせる。
「逃げても無駄なんだから、観念しなさい」
「嫌だ……そんな物、絶対食べない!」
 首を振って意地でも食そうとしないラルカに、ムッとする。
 それならばとミミは、そのハート型の木の実を自分の唇にと持って行く。そして、ラルカの目の前で自ら食した。
 甘そうな果汁を垂らしながら、口の中で噛み砕いていく音がラルカの耳に入る。しかし、続いて飲み込む音はしなかった。
 一通りハートの木の実を口の中で噛み砕き、口内に残したままにすると、ミミはラルカの顔を両手で掴んで口元に近づけると……
「んぐぅ……!?」
 再び体が重なり、唇が塞がれた。すでに慣れてしまった口付けだが、今度のは違った。
 ミミは自分が食し噛み砕いた木の実を吐き出し、ラルカの口内へと強引に押しやった。所謂、口移しという形で。
 まさかの行為に慌てて押し返そうとするも、力量的に引き離せない。そうしている間にもラルカの口内は甘い果汁と唾液を含んだ木の実で満たされていく。意地でも飲み込むまいと抗った。
 しかし、口内に押しやられた木の実が新鮮な空気を遮断し、別の呼吸方法である鼻もミミの手で摘まれる。次第に呼吸が苦しくなり、抵抗も空しく、咽を鳴らしてしまった。
 後に口内に残ったのは、厭らしく残された雌の舌だけになってしまった。ラルカが飲み込んだのを確認するとミミはゆっくりと唇を離した。
「んはぁ……よーやく食べてくれたね……」
 その言葉に我に返ったラルカは、自分の咽を掴み、吐き出そうとするも、すでに手遅れ。
「それじゃぁ、続きしましょ?」
 体力が休まらない内に再び性行為が開始される。
 身を屈めると自分の乳房を持ち上げると、その逸物にゆっくりと挟む。
「うあっ……」
「お口だけじゃなくて、おっぱいでも気持ちよくなって……」
 重量感のある乳房が逸物を覆い尽くす。乳房の体温と肉質が、ラルカの神経を心地よく刺激した。
 二度の射精の後にも関わらず、モノは包み込まれて今以上の大きさにまで膨れ上がった。
「すごい、もう効果がでたの? 今度はおっぱいでどれだけ我慢できるか見せて頂戴……」
 そう言うと、ゆっくりと乳房を上下に動かす。胸に掛かっていた精液が逸物と擦れてネチャッと音がした。
「うはっ……あっ……くぅんっ……!」
 淫口とはまた違った快感を生まれる。柔らかい肉質的な部分が逸物全体を根元から先端まで刺激が走る。柔らかな質感と快楽に逆らえない。
 ミミが胸の上下運動の速度を上げると、精液と擦れる音が一段と高く響き渡る。
「ビクビクしてる……胸から伝わってくるわぁ……可愛い……」
「ひっ……やぁ……そんなに……揺すられたら……」
 視界が潤んで歪んで見える。先ほどの淫口の時と同じく強烈な快楽により僅かな理性が保てなくなる。
 快感に喘ぐ雄の姿を見て、興奮したミミは胸の上下運動だけでなく、先っぽに舌で突いた。我慢汁を嘗め回すように先端部分も愛撫する。
「んちゃ……ラルカのお汁おいひい……もっと出してぇ……」
 胸が竿を上に擦る度に我慢汁が滲み出て、それを舌が救い舐める。
「あ……くぅん……やだ……おかしく、なりそう……」
 快楽にに精神が削られ、引き締まっていた表情はだらし無く崩る。快楽に支配されながらミミの玩具として喘ぎ続ける。
「うふん……変になって良いのよ? もっとおかしくしてあげるわ……」
 興奮任せに乳房を激しく揺さぶり、舌で先端部分を唾液で汚しながら舐め回す。
 小波だった快楽が大波に変わり、体を微弱に痙攣させる。
 絶頂が近くなった逸物を、それを感じ取ったミミは口元を逸物に付ける。そして胸で逸物をギュッと締め付けると唇で逸物の先端部分を強く吸いあげた。
「あっ……あっ……駄目えぇぇぇ……!」
 女々しい悲鳴をあげ、絶頂を迎えた。乳房の圧力と柔らかな唇の吸い付きがとどめとなった。
 三度目の射精、ミミはこれも口内で受け止める。ビクンビクンと脈動を打ちながら濃厚な白濁液を暖かい口内へとぶちまけた。
「んく……んく……んく……」
 苦しそうに顔を強張らせるミミ、木の実の効果で戦前復帰した精力が、遠慮する事なく外へと放出される。苦しい顔をするも、漏らさず必死に飲み込んでいく。
 やがて、ラルカの三度目の絶頂を、ミミの口内で終えた。
「はぁ……はぁ……何だよこれ……まだ出るのかよ、俺の体……」
 射精を終えた後も微弱に痙攣を起こしながら、自分が吐き出した分量に恐怖した。自分の体は、どうなっているのかと……
「ふぅ……ラルカの精液って濃くておいしい……若いエキス、残さず飲んじゃったぁ」
 口を右手で拭い、顔を上げてラルカの顔を見た。
 だらしないまでに口が開きになっている。気づけば涙目だった。波動の覇者と呼ばれていたルカリオだが、ラルカの様は、まさに性の奴隷だった。
 心も体も蹂躙され、今のラルカは完璧なまでにミミの慰み者に成り下がっていた。
「ミミぃ……もう十分だろぉ……もうこれ以上は耐えられない……許してくれぇ……」
 涙目のまま、枯れた声で乞う。しかし、その哀れも無い姿が、逆にミミの性的興奮をさそう結果となる。
「だぁめぇ……お仕置きを兼ねて、まだ終わる訳にはいかないもん。それにアタシ、まだ気持ちよくなってない……今度は、アタシも一緒よ?」
 体力的にも精神的にも限界なラルカを絶望的な気持ちに陥らせる。それに構うことなくミミは体制を起こすとラルカの腰部に来る。
「いっぱい気持ちよくなりましょ……壊してあげる……」
「もう……やだ、やめて……」
 怯える雄に、悪魔の微笑を浮かべた雌が呟く。
「だぁめ……いっぱい犯してあげる。可愛いラルカ……」
 ミミの目の前に未だ衰えを見せず、本人の体力の有無関係なしに、ギンギンなままの肉竿を勃てている。
 今からその肉棒を犯す事に興奮しながらミミは、自分の秘所を片手で広げる。今にも肉欲を欲しそうに、愛液で十分に湿った肉壁を、逸物へと降ろしていく。
「あ……あん……入る……入るわぁ……」
 雄と雌が交わる。二匹の間に強い快感が走る。
 雄の肉竿を食らい、その快楽に身を捩じらせるミミ。熱い肉壁にぬるい液体と共に強く締め付けられ、快感の波に溺れるラルカ。
「いっ……ミミ……きつい……」
「んんっ……あなたのすごく、熱いわぁ……」
 快感とは別に、痛いほどにまで締まる膣の中。
 そうなるまでにラルカの逸物を欲しがったミミはお構い無しに、二匹が繋がっていく卑猥な音を発しながら腰を降ろす。
 やがて逸物を根元まで降ろし、ラルカの肉を全部飲み込んだ
「あはっ……すごく気持ち良い……中でビクビクしてるの……」
 ファーストキスのみならず貞操までミミに奪われ、もはや自分がすべき筈だった克服は無と化す。
 ショックと悲しみ陥り、さらに理性までも蝕む快楽の前に零れる涙が止まらない。
 もはやラルカは十分と言っていいほど蹂躙された。心も体も、そして己のプライドでさえ。
「動くね……いっぱい気持ちよくさせてね……」
 表情を歪めて泣くラルカをよそに、すぐにでも快楽を欲したミミが自分から動きだした。
 最初はゆっくりと動く。てかてか光る逸物が秘所から顔を出し、そしてまた中に埋もれていく。
 二匹が繋がっている部分が愛液と重なり合い、グチュッと擦れる音を鳴らしていく。
 まだ序盤にも関わらず、痺れるような気持ちよさにラルカは目を閉じる。
「あっ、気持ちいいよ……奥に当たって……いいわ……」
「ぐぅ……ううぅ……」
 逸物が膣内に入る度に、甘ったるい喘ぎ声と涙声で快感を押し殺す呻き声が洞窟内に響く。
 リズミカルに一定の感覚で腰を動かす。すでに三度目の絶頂をにも関わらず逸物から伝わる快感は休む事を知らない。
 14の若すぎる肉棒を感じるミミも、その激しい快感に夢中になっていた。
 それでもまだ欲し、より快感を得ようとピストン運動を早く繰り返す、喘ぐ声のトーンを高くする。
「あぁ……んっ……らるかぁ……ああっ……」
「うぅ……ぐっ……みみぃ……あがっ……!」
 重なりあう二匹の甘美な声。無我夢中に互いの手を重ね合い、愛し合う恋人のようなやりとりを見せる。
 激しい運動から体が熱くなって、一筋の汗を流す。
 自然と上下のピストン運動は更に速度を増し、絶頂前にこの上ない快楽が二匹を支配する。
「らるかぁ……アタシ……いきそう……あっ……あんっ……」
 若い雄を物にした優越感と、繋がり合ってはぶつかり合う愛の証に涙をポロポロと零す。
 流した涙がラルカの頬に落ち、ラルカの涙と交じる。
「みみぃ……あぐぅっ……みみぃ……」 
 すでにこの欲望と言う名の泥沼にはまりすぎたラルカは、支配されるがままに自分からも腰を強く突き上げ、子宮にぶつける。
 歪んだ視線の先には、乱れる狂うミミの姿だけが写る。
「らるかぁ……あんっ……らるかぁ……」
 互いの名を呼び合い中、互いの限界が近くなっていた。
 愛液を散らせながらぶつかり合うピストン運動。擦り切れそうになるほどの速度で突き上げ、沈めていく。
「イくっ、イっちゃう! 中に……いっぱい出してぇ……あっ……あっ……あぁぁぁ!」
「出るっ……持たないっ……! がああぁぁぁっ!」
 絶頂は同時に起こった。ラルカはこれまでにない絶頂感に達し、引き千切らんばかりに締めつける膣内に熱い体液をぶちまけた。
「あはぁ……くる……きてる……らるかのが、いっぱい……アタシのなかで……びゅくびゅくしてるぅ……」
 手を取り合ったままの二匹。ラルカは叫び過ぎて言葉が枯れてしまってもなお逸物は射精を繰り返した。何度も何度も、残した一滴も残さないようにと。
 二匹を繋いでいた秘所からは収まりきれなかった分が、結合部から漏れ出て白く塗りつぶしていく。
「だめぇ、入りきらないわぁ……あはっ……まだびゅくびゅくでてるのにぃ……」
「あっ……あぁっ……ハァ……ハァ……」
 力尽きて声も出せなくなったラルカ。目も情報を送り込む役目を果たせず、吐息だけが今の彼の発する事の出来る唯一の行動だった。
「らるかぁ……あたしのものぉ……絶対にはなさなぁい……」
 口にしながらミミはぐったりとラルカの胸に落ちる。ふらつく両手でゆっくりと彼の体を抱いた。
 絶頂を過ぎた二匹はどっと疲労が出て、急速に眠気に襲われた。会話を交わすことも無く、恋人の様に抱き合ったまま、その瞳を閉じていく。
 洞窟内に静けさが戻る。四戦にも渡った長い熱帯は、疲労によってその幕を閉じた……

 次に彼が目覚めた時は、移動の自由を奪う首輪だけに留まらず、両腕を引き付け合わせて頑丈に拘束する手錠までもが嵌められていた。僅かな抵抗も許すまいとした、ミミの歪んだ愛情表現だ。
 あの性行為の後から10時間が経過した。今ラルカが置かれている現状は、さらに過酷のものとなっていた。こんなの、まるで囚人とも呼んでいいほどだ。
 自分の腕に嵌められている物を目にして、歯を食い縛って震えるラルカ。それを楽しそうに見下し、悪魔の笑みを浮かべているミミ。
 溜まらず、ラルカは吼えた。
「どうしてこんな事するんだ! お前の望みは……子供を作る事だろ……俺はその願いを叶えたじゃないか……なのにどうしてだ!」
「言ったでしょ? アタシ達は夫婦になるんだって。子供がいるなら、当然父親も必要でしょ? アタシ一人に面倒を押し付ける気ぃ?」
 自分勝手な理屈に理不尽な怒りを覚える。使えなくなった両腕を上げて立ち上がるも、短く調整された首輪がそれさえも許さなかった。
 金属音を鳴らしながら体制が硬い岩に落ちる。
 自由に立つ事すらままならない状況に陥り、もはや屈辱を通り越して心底絶望を覚えていた。
「お願いだ……ミンミン姉さんと……ゴー兄さんの所に……返してくれ……」
 俯いたまま、沈んだ声でミミに懇願する。
「兄妹達の事は。忘れてしまいなさい……今アタシ達がするべき事は、子供を作り『続ける事』よ」
 続ける事、を耳にしてラルカはハッとして表をあげる。
「まさか……あんな事をまだ続ける気かよ!?」
「当たり前じゃなぁい。いくらラルカが濃い遺伝子を出してもさ、生まれてくる子供は一匹なのよ? 一度に沢山作るには、もっとももぉっとやらないと……ね?」
「そん……な……」
 絶望的な気持ちに追い討ちを掛ける言葉を聞いて、目の前が真っ暗になりそうになった。構わずミミは続ける。
「ラルカは優秀な癖に、そう言う事は知らないのね。だからさ、パートナーのアタシが徹底的に体で教えてあげるわ。エッチを繰り返しながらね……ウフフ……楽しみぃ」
 茶毛の手てを厭らしく唇に当てたまま、ミミは不適に笑った。
 しかし、もはやラルカはその笑みに対して睨む事さえ出来なくなっていた。すでに彼の心は、闇の奥底にへと落ちていってしまったのだ……
 目は生気を失い、だらんと首を硬い岩に落した。自分の帰りを待つ、仲間の元へと帰れず、ミミの為の生贄にされるこの運命に、希望を失ってしまった。
「うふっ、そうがっかりしなくてもさ。子供を持つようになれば、アナタもなれるわよ、幸せにね……
 一日に、う~ん……三回は心配だから、確実に産めるようにしたいから、四回にするか。頑張ろうね、ラールカ」
 声も返さなくなったラルカに近寄り、ミミは子供の様な無邪気な笑顔を満面に広げて見せた。
「……ぃさん……ぇさん……」
 蚊の鳴く声で何かを呟くも、ミミにも自分自身にも届かなかった。
「今日はぐっすり休んでね。アタシの夫になる体だから、風邪なんかひいてエッチが出来ないなんてならないでよ~?」
 子供のような口調で告げるも、ラルカの耳には入らなかった。
「それじゃぁ、おやすみなさい。アナタ」
 沈んだラルカに背を向けて、ゆっくりと歩き出した。
 洞窟の闇へと消えていくミミを、ラルカは拘束された両手を前に出して引きとめようとしたが、もう何も叶わない。
 やがて闇の中へと消えてしまい、崩れるように肩を落す。声さえ出せなくなった自分に失望し、絶望した。
 暗い洞窟の中で、少し前まで優秀と煽られて鼻を高くしていた自分が脳裏に蘇る。
 そんな天狗になっていた自分を困った顔で心配する者と、きちっとした声で叱る怒った者の顔。そして、自分に名前をくれた、女の子の顔が浮かんできた。もう、会えないかも知れない……
 掛け替えの無い大切な存在。…………ミンミン姉さん…………ゴー兄さん…………アナ………… 
 静かな広い空間の中、ポツンと取り残された若い雄の虚ろな目に一滴の雫が流れた……

 あれからどのくらいの時が経っただろうか、季節はすでに冬を迎えていた。
 外は冷たい風がヒューヒューと鳴り、ほとんどのポケモンが冬を越えるために大人しくしている時期だった。
 そんなある洞窟の中、二匹のポケモンもまた冬の寒さを越す為に洞窟で身を寄り添うように互いを暖めていた。暖かい毛皮の寄せ集めた布団で、二匹はまるで中の良さそうな恋人のように、寄り添っていた。
 ミミとラルカの二匹は、寒い風を凌ぐ為に洞窟の中で過ごしていた。ラルカに取り付けられていた首輪は、すでに無い。
 そして、お互いの間に挟んである一つの丸い物体。いや、一つじゃない。二つ、三つ……
 全部で三つ、二匹が守るように卵を挟んで暖めていた。寒い冬の最中で凍えさせない為に。
 そんな中、ミミの目が開いた。真ん中に置いてある卵の異変に気づいたのだ。
 長く夫婦で懸命に暖めてきた卵に、ひびが入る。ピキピキ、ピキピキと音を立てながら……
 その音に、ラルカもゆっくりと目を覚ました。以前していた生意気な瞳に、生気はなかった……
「生まれるわよ……」
「……そうだね」
 穂のかに微笑むミミ。新しい命が誕生する瞬間を心から待ちわびていた。
 卵をゆっくりと大事そうに抱え、ラルカもその卵に優しく触れる。二匹で生命の誕生の瞬間を待った。
 少しずつ時間を掛けて割れていく卵の殻、やがて、卵に大きなひびがはいり、中にいる新しい命が最後の力を振り絞り、卵の殻を破った。
「ミィィ……」
 誕生と共に産声をあげたのはミミロル、ミミロップの進化前のうさぎポケモンだ。
 ミミは心の底から喜び、生まれたばかりのミミロルを優しく抱き、頬ずりをした。
 ラルカも一緒にミミロルを抱き、頬ずりした。父と母の間に挟まれ、嬉しそうにミミロルが笑った。
 ミミがゆっくりと口を開く。
「やっと、アタシ母親になれたんだ。ありがとね。ラルカ……」
 子を抱いたまま、父親のラルカを見つめた。自分があれほどにまで望んでいた母親に、ミミは今なったのだ。
「……頑張ったのは君だよ。ミミ……」
 生気のない瞳で微笑をミミに返す。今ミミは自分が子供を持つ母親になって、初めて幸せを感じていた。
「可愛い……天使みたい……」
「……うん」
 ミミに強く抱きしめられているミミロルは、少し苦しそうだ。
「名前……どうしよっか?」
「……僕達の子供は、雄、それとも雌?」
「う~ん、この子は……雌ねぇ」
「……じゃぁ、ミンミンって名づけようよ」
「良い名前ね、どうしてその名前にしたの?」
 ミミに問われ、生気のない瞳で天井を見上げる。どうしてその名が思いついたのか、ラルカは考えるが……
「……わからない。ただ……その名前が自然と思い浮かんだんだ……」
「いいわ、それじゃ、次に生まれた子供が雄だったら。何て名前をつける?」
「……ゴーが良いな……雄らしい名前だよね」
「フフッ……あなたがそれで良いなら、アタシもそれでいいわ」
 そう言って、ミミはミミロルを抱き抱えたままラルカに肩を寄せた。ラルカも、ミミの肩に腕を回した。
「……でも、どうしてだろうなぁ……」
「え?」
 何も無い先を見つめ、ラルカが不思議そうに言った。
「……何だか、この名前を思いついたとたん……急に悲しくなっちゃうんだ……」
「悲しく?」
「……うん、何だか、とても大切な……何か……」
「そう……」
 ミミは何も応えなかった。そして、生気の無いラルカの瞳から、一筋の雫が流れた。
「……泣いてるの?」
「……違うんだ……でもなんでだろう……分からない……ゴーとミンミン……」
 二つの名前を口にし、ラルカの中で二匹のシルエットが浮かんで見えた。でもそれが何なのか、分からなかった。それがとても悲しかった。そんなラルカに、ミミは流れた雫を指で救ってあげた。
「父親が泣いてちゃ、子供も悲しむわ」
「……そうだね、ごめん」
 沈んだ瞳の先に、ミミが微笑んだ。そしてミミはラルカにミミロルを渡す。
 ミミロルは太陽の様な笑みを父親、ラルカに見せた。ラルカはそんなミミロルを、ゆっくりと抱いた。
 寒い冬の中、洞窟で二匹のポケモン、ミミロップとルカリオ。
「アタシは今、とても幸せよ。ラルカ……これからも、家族増やそうね……」
「……うん、ミミが望むのなら、僕は構わない……」
 ミミロルを心地良さそうに抱いているラルカの背中に、ミミは呟いた……
 望んでいた物。子供のいる幸せ。そして、優しい夫がいる幸せ。それを掴み取ったミミは幸福の中にいた。残酷のような幼少の頃になかったこの幸せ。
 これからもそうだ、子供を作り、家族を増やし、幸せを大きくする事。今ある幸せを、何時までも続ける為に……


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