ポケモン小説wiki
初めての幸せ… の変更点


[[ヤシの実]]

世の中は不公平なものだ。どんなに努力をしていても、どんなに経験を積み重ねていても、どんなにつらい思いをしても、決して得られない者がいる。
世の中は非常に不公平なものだ。どんなに努力を怠っていても、どんなに経験が浅くても、どんなに怠慢な日々を過ごしていても、簡単に得てしまう者が居る。
その優劣は何で決まるのか。それは至って簡単な質問だ。生まれの良し悪し、たったそれだけの事だ。
一つは貧富、生まれながらにして誰もが羨む大富豪の所で生まれ出た者と、誰もが惨めに思う貧困な所に生まれた者。
もう一つは血統、皆の尊敬の眼差し集める親の元に生まれた者と、皆の軽蔑な眼差しを受けた親の元に生まれた者。
そして最後は遺伝子、生まれながらにして秀でた才能を持った天才。生まれながらにして何の才も持たないただの凡人。
得る者は必ずしもこう思うだろう。自分は選ばれている。自分は勝ち組だと。そう思っていても不自然じゃない。
周りの者が『人生は勝ち負けではない』と言っても、得る者からしてみれば、そんなの綺麗事だとしか考えない者もいる。
あなたはどう思う?得る事がその者にとって、必ず幸せをもたらせると重うだろうか?
富・栄誉・遺伝子、これらの一つでも得ている者は絶対に幸せな人生が保障されている。そう考えて当然だ。そう、当然なはずだった…
だが世の中の本当の不公平は、持っているが故に、その幸せが保証されない事だ。



……

………

これは得すぎた故に訪れてしまった、理不尽で不幸な運命のお話である。


夏の季節。太陽の容赦ない日差しが差し込み、蒸し暑く感じる。
まだお昼になる少し前の時間に、一人の人間と、数匹のポケモンが見守る中、それは命を吹き込まれたかのように小刻みに動きだした。
長く大事に暖めてきた一つの卵が、ピキピキ、ピキピキと、殻を破る音が鳴る。命が誕生する瞬間だ。
卵の中に居る命は、一秒でも早く外に出たいのか、急ぐように卵の殻を破っていく。しかし、卵の殻は中々割れない。
もう少し、もう少し。あと少しで初めて外の空気を吸う事ができる。そう思うと、じっとなどしていられない。
小さな力で、一生懸命に殻を少しずつ卵の殻の破り、その欠片が地面にポロポロと落ちていく。
破る度に差し込んでくる光が、徐々に大きくなっていく。あと少しと実感した。そして、ほんの少しで表の世界に飛び出せるまでに破れてきた殻に、最後の力を振り絞る。
殻が破け、大きな欠片が地面に落ちた瞬間、見守っていた人とポケモンの目が大きく見開いた。殻を破った始めに見たのは、鬱陶しいまでに眩しい太陽の光だった。
慣れない日差しを受けつつも、徐々に視界が光以外の物を映し出した。最初に目にしたのは、茶色のショートヘアーしたまだ幼い5~6歳ぐらいの女の子だった。
周りを見回すと、その女の子と、アチャモ、ピチューの二匹が、嬉しそうな瞳でそれを見ていた。
再び顔を女の子の方に戻すと、満面の笑みが待っていた。そしてすぐさま抱きついた。初めての出会いに喜び、誕生を祝ってくれた。
生まれたばかりの子は、何が何だか分からなかったが、表情を作る事をすぐに覚えた。女の子が見せてくれた笑みと同じくらいの明るい笑みだった。
その時、横から声が聞こえた。
「おめでとう、新しい仲間の誕生だね」
男の声だ。女の子よりずっと身長の高い青年だった。その男も涼しい笑みを浮かべていた。
「うん、ありがとう!」
それを抱きしめながら、青年に礼を言った。そこに、看護師の帽子を被った女性が顔を覗き込んできた。
「おめでとう、その子はリオルね!」
卵から生まれ出た新しい命は、波動ポケモンルカリオの進化前、はもんポケモン、リオルだ。
波動と言う、生き物特有の『気』で仲間とコミュニケーションをとったりする事の出来るポケモンだ。
童顔ながら、根気のありそうな強そうな赤い瞳。それが印象的だった。
皆が祝福する声をあげる中、もう一人、メガネを掛けた男が、リオルに近寄ってきた。
「へぇ…これは中々良さそうな…ちょっと鑑定していいかな?」
メガネの男はそう言って、リオルの顔、体を嘗め回すように見つめてくる。人見知りじゃない性格なのか、リオルはキョトンとしたままそのメガネの男をジッと見ていた。
やがて、メガネの男は、やや真剣な表情を浮かべ、口を開いた。
「このポケモンは、すばらしい能力をもっている!そんなふうに見えるね!」
その言葉を聞いた時、リオルを覗く周りのポケモンや人が期待に喜びの表情を浮かべた。
ポケモンには人間と同じく、一匹一匹に個性がある。その中には、優れているのもいた。人はそれを優秀とか素晴らしいという言葉で表現をしていた。
リオルからすれば、何がすばらしいのか意味が分からなかった。だが少なくとも、喜んでくれている事が伝わった。
「名前は何にするの?」
看護師の帽子を被った女性が尋ねた。女の子の中では、すでに名前が決まっているのか、黙ってうなずいた。そしてリオルを高々に持ち上げ、リオルの名前を口にした。
「ラルカ、あなたの名前はラルカね」
初めて貰った、自分の名前に、意味は理解できなくとも、リオル、ラルカは明るい笑みで答えた。
ラルカ、他のリオルと違い、秀でた才能を持ったリオル。これから、色んな所を旅をして、その素晴らしい能力を育てていくのだ。
ラルカ自身まだ気づいていない、ただの優秀とは違う、優秀の上を行く素晴らしい才能を持っている。他のポケモンに劣らない、ラルカ自身の持つ、他のポケモンが羨む才能と言う名の財宝でだ。

やがて時は過ぎた。この日は、ラルカが生まれた日と同じくらい蒸し暑く感じる夏の季節だった。
今ここ、ラルカ達はは214番道路。トバリシティからリッシ湖のほとりを通り、222番道路を通ってナギサシティに向かう最中だ。
道草が多く生い茂っている為、野生のポケモンが沢山潜んでいるため、トレーナーの姿もよく見かける場所だった。
今はこの暑さのせいか、トレーナーの姿はちらほらしか見掛けない。反対に野生のポケモンはあちらこちらに見える。
野生のポケモンに襲われる可能性が高いために、むやみな戦いを好まないラルカのマスターは、あらかじめ体中にゴールドスプレーを掛けていた。そのお陰で、ちらほら見かける野生のポケモン達はラルカのマスターは襲わないでいた。
ゴールドスプレーは、野生のポケモンを近くに寄せない上、自分より弱いポケモンを遠ざける効果がある。手持ちの一番強いポケモンのボールを腰に付けておくと効果的だ。
野生のポケモンは避ける事が出来て、余計な体力の消耗を防ぐ事ができる。だけど、この蒸し暑い気温だけは防ぐ事は叶わない。
一滴の汗が頬を伝う。重力に従うままに地面に向かって落ちる。ラルカ達のマスターである、顔がほっそりとした、ナチュラルロングヘアー、少女のアナ。19歳。
照りつける太陽の暑さに、口が半開きのまま、少し疲れた様子で歩いている。トバリシティを出て大分経ち、表情からは疲労がうかがえた。
リッシ湖まで後どのくらいかと、地図を広げて見た。なぞる様に地図と睨めっこする、やがてリッシ湖までまだ先だと知ると。やや小さく溜め息を吐いた。
休憩しようと、近くの草むらの無い。この影を見つけ、そこに腰を下ろした。そこでまた小さく息を吐いた。
どのくらいで出発するか、休憩しながら考えている中。アナの腰に付けてあるモンスターボールの一個が、ガタガタと震える音がした。
そして腰に付けてあるモンスターボールは、赤い閃光が放たれた。アナはまだそのモンスターボールには触れてはいない。モンスターボールが勝ってに動作したのだ。
「あ、コラ…!」
暑さと疲労で衰えた声を上げ、手を伸ばす。閃光の先に現れたのは、二本立ちをしていて、両前肢の甲と胸に一本、白いトゲが付いてある。腰の部分は、青い短パンを履いている風に見える。赤い鋭い眼光をした狐のような顔立ち。ルカリオだ。
14になったラルカは、マスターからの愛情を受け、リオルからルカリオに進化した。生まれた時と比べて、大分頼もしくなった。
一層に強い波動を持つ様になった。外見もまた、瞳は自身に満ち溢れれ、身長も大きく伸び、あの時のような幼さをほとんど残さなくなった。
毛並みは綺麗に整い、スタイルはスラッとして、少し華奢な感じはしたがルックスも良く、少し微笑むと可愛らしく受け取れるほどルックスの持ち主だ。
あの時のメガネの男の言った言葉に偽り無く、そのバトルセンスはアナの目からしても素晴らしかった。仲間からも期待の新人として見て貰っている。
誰もがラルカの事を立派なルカリオになったと褒めよう、一部を除いては…
「ラルカ、また勝手に出てきちゃダメじゃない」
疲労で気迫の無い声でで注意するアナの声を耳にするなり、ラルカは振り返った。心配交じりの疲労した表情を見たラルカだが、あまり関心が無いのか、すぐにそっぽを向いた。
「ほら、戻って…」
そう言ってアナはラルカ用のモンスターボールをラルカに向けて、閃光を放つ、この閃光はポケモンをボール内に戻す為のビームの様な物だ。
自分を戻そうとするその閃光を、背後で感じ取ったラルカは、振り返る事もなくその閃光を軽く跳躍してかわした。
「よっとぉ」
跳躍するなり、近くの太い木の枝に飛び移った。そこからアナを見下ろすなり、不適な笑みを浮かべる。
「ラルカ、お願いだから戻ってよ、ナギサシティまでまだ先なのよ?」
「ハハハッ、やぁだね」
アナのお願いを軽く蹴り、鋭い目つきに似合わない子供の笑い声をあげた。
「ボールの中なんて、退屈すぎて嫌だよ!俺はそんなボールより外のほうがいいんだ」
「この前沢山外で遊ばせてあげたでしょ!あんまり自由勝手出られたら困るのよ」
少し苛立ちを含めた声で言うアナ。しかしラルカはそんな言葉を気にもとめずに言った。
「どうしようと、俺の勝手じゃないか。アナはいつもそうやって俺の事を縛るんだ」
「縛っているんじゃないのよラルカ。あなたが自由にやりたい気持ちは分かるの、でも少しは皆と合わせて行動する事も守ってほしいのよ。お願いだから、ほら」
両手を広げてラルカを注意するアナだが、そんな言葉をを理解する気になれないラルカは面倒臭そうに頭をポリポリ掻いた。
そして、そんなアナの気持ちを余所に、ラルカは今居る木の枝から別の木の枝に飛び移り、それを繰り返して何処か遠くに行ってしまう。
「ラルカ!?」
「ちょっと散歩したら戻るよ。じゃーねー」
遠くからそんな言葉を残し、ラルカはそのまま奥に行ってしまった。
アナは消えてしまった先の方向に、何度もラルカを呼んだ。しかし、声は返って来ず。
自分の顔を手で押さえる。呆れ半分、悲しみの篭った表情を浮かべる。アナはもう二つのボールを手にとって。それを投げた。
二つのボールから赤い閃光が放たれ、そこから二匹のポケモンが登場した。
最初のボールからは、アチャモの最終進化系の猛火ポケモン、雄のバシャーモ。二本肢と鉤爪のような腕、仮面を付けたような顔立ちが印象のポケモンだ。
もう一つのボールからは、ピチューの最終進化系の電気ネズミ、雌のライチュウ。コッペパンの様な短い腕、ポッコリしたお腹とまん丸な瞳が愛らしいポケモンだ。
バシャーモの名前はゴー。チームリーダーの立場で、厳しそうな顔立ちをしている。そんな顔つきのせいか、初見から警戒されるのが玉に傷。
ライチュウの名前はミンミン。可愛らしい容姿とは別に、レベルが高く、チームの先頭バッターなポジションにいる。にゴーとは長い付き合いだ。
彼等もまた、アナの手持ちのメンバーだ。ラルカの事は弟の様に可愛がっているが、最近は少々手を焼いている。その理由はまた後に…
「マスター、急に我等を呼び出し、いかがされたか?」
「あの~、何かあったの…かも?」
堅苦しそうな喋り方がバシャーモのゴー。内気的な喋り方のライチュウのミンミン。その二匹の姿を交互に見て、手に顔を当てながら状況を説明した。
「またか…日に日に増長しておる、幾多に渡る我の警告も聞かずになんと愚かな!」
独特的な喋り方をするゴーの口調は怒りがこもっている。
「あの~…その、また脱走ですか。あの子、肢が早いから…追いかけないと…おいつけないかも?」
「ラルカはどの方角へ行かれたか?」
アナは黙って、ラルカの消えていった方向に指を指した。指した方角は木の入り組んだ、森に近い場所だった。
「うん、それじゃ捕まえて来る…かも」
「そこでしばし待たれ」
その言葉を合図に二匹は、地面を強く蹴り、土煙を上げてラルカの消えていった方角へと駆け出した。
二人とも、ラルカと旅をして大分経つ。だからラルカの性格も知り尽くしている。故に自分勝手な行動は許せなかった。ラルカの身勝手な行動は日に増して多くなっていた。
すでに姿は見えないくらいまで進んでいっている。ゴーはミンミンを前にし自分はは後から着いて行く。すでに姿が見えない為にミンミンの優れている聴覚を頼りにしていた。
ラルカの行き先を、ラルカ自身が残している足音を頼りに進んでいった。
「相変わらず、マスターの言う事聞かない…かも」
先頭のミンミンが高速移動で走りながら、小さくつぶやいた。少し悲しい目をしている。遅れる事無く着いて行くゴーは、やや曇った顔で答えた。
「昔はあんな融通の利かない奴ではなかった。我等も、ラルカの持つ才能に期待し、助長するのを見過ごしていたのかも知れん…」
「私達…ラルカの事、弟と思って接してきた…かも。ラルカは私達と違って、天才だから、それでラルカを甘やかしてたの…かも。」
二匹は、ラルカの増長が自分達にも原因があると考え、頭の中で反省をする。
「我等にも責任はあるが、奴の傲慢にも目があまる。ミンミン、今度という今度は我も我慢ならん。全力でラルカを阻止するぞ!」
ゴーの言葉にミンミンは、小さくコクンと頷いた。途中で立ちふさがる岩や切り株を軽く飛び越えながら、次第に近くなっていくラルカの足音を目指した。
「ゴー、ラルカの足音が近くなった…かも!」
足音からして、すでにラルカとの距離は50m以内と判断したミンミン。それを聞いたゴーは速度を上げた。ミンミンを追い抜い抜くと。
「ミンミン、我が先に仕掛ける。お主は後から攻撃して奴の動きを止めるのだ!」
「分かった…かも」
それを合図に、ゴーは地面を大きく蹴った。そして上空の先にある太い木の枝に飛び乗り、そこから速度を落とさずに木の枝から他の木の枝へと飛び移り、ミンミンの先を行った。
目的までもう後僅かな距離の所で、ゴーは何かが走る後姿を目にした。小さく見えるものの、バシャーモ特有の目はその距離の物体を見切る事が出来る。
ルカリオらしき後ろ姿。間違いなくラルカだった。ゴーの目が厳しく変わる。他のメンバーの心配をよそに、気持ちよく風を切りながら走っていた。無論反省など微塵も無い様子だ。
それを確認したゴーは次の木の枝に移ると、そこから強く枝を蹴り、大きく跳躍した。上空から見えるラルカの姿を捕らえた後、そこから急降下しだした。
方肢を突き出すように蹴る体制になる。バシャーモ以外に、サワムラーぐらいしか覚えない希少な蹴り技、ブレイズキック。死角からの不意打ちを不本意に思いつつも、目標のラルカをしっかりと捕らえたまま襲い掛かった。
ゴーのブレイズキックが、ラルカの頭部直撃する手前まできた。当たれば前に大きく転び、止まるはず。目標に命中すると確信したゴーだった。
しかし、技が命中するその矢先、ラルカの姿が突然消えてしまった。
「何!?ラルカ!」
急に目標を失ったブレイズキックは、体制を直す間もなく肢から先に地面に激突してしまった。
強力なブレイズキックの威力に、激しい激突音と共に大地は大きく凹み、凄まじい土埃が当たりに撒き散らされた。
自身の放った技の反動の衝撃で、目や口に混じりこんでくる土埃に咳き込んでしまう。あの距離で、命中してもおかしくないと確信したその矢先での出来事に、ゴー自身は一瞬頭が混乱してしまった。
すぐに平常心を取り戻し、視界を遮る土埃の中から、必死でラルカの姿を探した。
また別の場所でミンミン。衝撃で地面が鳴る音を耳にし、キリッとした瞳でラルカの背後姿を捉えた。頭の中でゴーがしくじったと瞬時に把握した。
次は自分の番だと神経を集中させる。足音が響かない程度に速度を落とし、十分な距離を取るまでに迫る。ラルカ自身まだ気づいていないと確信したミンミンは、ゴーと同じくラルカの死角から迫った。
そして、蛇が獲物を捕らえるが如く、十分な距離を取った後に両手を大きく広げ、空間から見えない磁場を発生させた。電気タイプの得意とするでんじはだ。
これを食らえばいくら素早さに自信のあるポケモンでも、体の麻痺に肢を取られて大きくすばやさを落とす。スピードキラーな技だ。
「おとなしくするかも、ラルカ!」
技が命中する矢先に吼えるミンミン。すると、ラルカは振り替えざまに何かを投げつけた。それはミンミンの放ったでんじはの射線上だった。でんじはに巻き込まれるように進むそれは、ミンミンの腹にぶつかって、グシャッと割れた。
「え?…かも」
何をしたか分からない様子のミンミンだ。キョトンとしたまま、自分の腹にブツカッタそれに目を落とした。何かの木の実が潰れて、その汁がミンミンのお腹を汚していた。
「え、え?…かも」
慌ててそれを前肢で払った。巻き状の先に着いた、僅かに残った赤い木の実の欠片が、その正体をミンミンに教えた。
「クラボ…かも?」
「イエス、ミンミン姉さん」
鼻で笑いながら、ラルカが答えた。二匹の死角からの攻撃に驚いた様子も無く、まるで予め予想したかのような余裕の笑みが浮かんでいた。
「クラボの実には、体の動きを麻痺らせる要素を除外してくれる要素があるんだ。だからミンミン姉さんにぶつけたのさ」
「え?…ちょっと意味が分からない…かも」
理解に苦しむ様子に、ラルカは片手に持っているもう一つのクラボの実をチラつかせながら答えた。
「これには麻痺を取り除くだけでなく、それの原因となる波動をも吸収してくれる要素があるのさ。理解できたかい?」
ニヤニヤしながらクラボの実を目の前で一齧りした。
植物は大抵水だけでなく、太陽の光や綺麗な土もいるが、他にも一例の中では電磁波を吸収して育つ植物がいる。何処かの説で電磁波を吸収し、成長するサボテンがある話があった。
その説が正しいかどうかは曖昧だが、人間の生活の中で、電磁波を発生させる電化製品に囲まれた家庭では、電磁波対策でサボテンを飼う事があった。
その為に、身体に疲労や頭痛の改善効果があるなどと噂されている。クラボの実は、ちょうどそれと煮た性質があった為に、ラルカはそれを利用して、ミンミンの電磁波を防いだのだ。
「え…そんなの…ありえないかも…」
キリッとしていた瞳が、急に衰え内気に戻ってしまったミンミン。それを微妙に楽しむラルカだが、その時背後で殺気を感じた。
「ラルカァ!」
土埃からゴーが豪快に現れ、ラルカに向かって拳(鉤爪)を突き出した。
瞬時にそれを察知して、頬すれすれの所を、ゴーの攻撃をかわした。しかし、ゴーの攻撃はそれだけでは止まなかった。
交わされたその次に、ゴーはその場に踏みとどまり、避けたラルカの方向へ直し、調度良いほどの距離に身を置くとすぐさま姿勢を低くした。拳を強く握り、右肢で地面を踏む。そして地面を強く蹴るのと同時に拳をラルカの顎辺りに向かってに突き出す。
ブレイズキックと同じく、格闘技の中で僅かしか覚えられない技。スカイアッパーだ。大きく跳躍しながら拳を突き上げる技だ。
先ほどのブレイズキックとは違い、角度と距離からして回避はありえない。なにより、ラルカの体制が戻りきっていなかった。最初の攻撃で方足が宙に浮いたままだった。今度こそ命中すると確信した。
「もらった!」
ゴーの中で自分の技に自信を持った。しかし、その自信もまた砕かれてしまった。
「うわっと…!」
「なっ…!?」
ゴーの予想外の二連撃に、焦りながらもラルカは浮いていない方足に力を込め、きつい体制であるのにも関わらずその場で宙返りを行ったのだ。
まさかの行動に、ゴーは驚きが隠せなかった。目標を見失った拳は、空を切るだけで功を成さなかった。
美しいとまでは行かなくとも、見事な宙返りでスカイアッパーの回避を決めたラルカは、そのまま後方へ落ちた。足だけでの着地が無理な為、手を使ってなんとか着地した。体制が体制な為、綺麗な着地までとはいかなかった。
「ふぅ…」
あまり自信が無かったのか、ギリギリ成功な回避に安堵の溜め息を吐いた。ラルカの額に、一滴の汗が滲んで見えた。やがて、ゆっくりと顔を上げた。
「まったく、危ないよな。加減無しかよゴー兄さん?」
「有り余るお主の行い、加減など必要とせん!観念してマスターの元に戻れラルカ!」
「そうだよ、マスターとっても心配してる…かも」
「別にいいじゃん。本人の自由を行使する権利もあるだろ?何が悪いんだよ」
反省の気配がまるで無しのラルカの態度に、ゴーが苛立ちを含めながら続けた。
「マスターがお主をそこまで育てたのは、そんな平然と規律を乱す為に育てたのではないぞ!もっと主の僕としての自覚を持たぬか!」
「私達、あなたの事を本当の弟だと思ってこそ心配してるの。だからラルカが自分勝手だと、皆がとても心配しちゃうの、そう言うの困る…かも」
ゴーの背後でミンミンと二匹が、必死に説得をする。その様子に、ラルカは鬱陶し気に頭をポリポリと掻いた。
「ちょっと遊ぶだけじゃないか、心配しなくても10分20分で戻るからさ、ちょっとは多めに見てよ?ボールの中退屈なんだよ、分かるだろう?」
ラルカは基本的、その場をジッとするのを好まない性格で、何かに興味を持てば周りの声をよそに直ぐにそっちに行ってしまう。それも一回二回でなく、もう何十回と繰り返されている行為なのだ。
本来ならそんなポケモンをトレーナーとしては許す事はできない。それが複数となればなおさらだ。しつけをするのが当たり前だ。しかし、アナもゴーもミンミンも、その行いを度々目を瞑って来た。
何故ならば、ラルカはある種、特別なポケモンだからだ。特別と言っても、色違いとかその類ではなく、他のルカリオよりその能力が優れているからだ。それも、ただ優れているだけじゃなくて、その中でも突発的に秀でた才能の持ち主だからであった。
防御、攻撃、すばやさ、どれをとっても秀でている。他のルカリオと比べて成長率の桁が違う。育てると育てるほど、その才能をより良く開花させていくのだ。
人間は何時からか、そう言うの種類を『高個体種』などと呼んでいた。何処から来た名称なのか、どういう意味なのかは、本人もよく知らない。
しかし、シンオウ地方では、それを求めるあまりに、生まれたばかりの命を、目的とそぐわない為に平気で捨ててしまう事件が相次いでいる。
その事件は最初は小さな事で処理していたが、各地方でそれが増え始めてから、徐々に目立つようになった。やがれそれは大問題として認識され。ポケモン保護団体の第一解決課題とされている。
身勝手なトレーナーが、それほどにしてまで欲しがるポケモンの持つ英才的な能力。ラルカはまさに、その憧れの一品と言っても良いのだ。
それをたまたま卵としてもらったのが、トレーナーのアナなのだ。
リオルの頃から、常に自分よりレベルの高いポケモンとの戦いで、それを発揮し勝利を収めていった。何時かのメガネの男が行った言葉の通り、期待にそぐわない働きを見せた。
ゴーやミンミンと比べてまだレベルの差が大きいにも関わらず、その素晴らしい突発的な能力は他を圧倒していた。
ラルカはそんな中、マスターやチームにだけでなく他のトレーナーや店の店員、またはテレビ取材の対象にもなったりして持て囃されたのだ。
周りポケモンの憧れ、尊敬、信頼、または嫉妬を買い、それがラルカの助長の心を育ててしまったのが原因でもあった。
今のラルカは、自分が世間から認められた唯一の存在と自分で思うくらいにまでその怠慢が膨らんでしまっている。
「ラルカ、今のお主は立場と自覚がまるで解っておらぬ。少し周りに持て囃さた程度で天狗になっている。真の格闘ポケモンなら、己の才能に良い痺れず更なる上を目指して精進すべきなのだ!分かるか!?」
「天狗?俺はダーテングじゃないのよ。自分の持ってるこの才能を、ちょっと面白可笑しく使ってるだけじゃない?」
「それが良くないの…かも。あなたはまだ子供、だから皆の言う事聞いて…ちゃんと大人になるのを待つべき…かも」
「俺はもう大人だ!今だってルカリオに進化したじゃんか」
子供と言われたのが気に入らないのか、ムッとしたまま反論する。
「進化して大人だと?笑止、まだ進化して然程だってはおらぬ。己がいかに未熟なのかを知りもせず、自惚れているだけだ!そんな輩を世間は大人とは言わぬ、餓鬼だ!」
ゴーの言葉にカチンッとし、苛立つ。その様子がいかにも進化したての子供らしかった。
「ガキかどうか、さっき試したじゃんか!?これだけではまだ足りないって言うかい?俺は大人だ!他より成長が早いんだ、何時までの兄さんや姉さんの世話になる年じゃないんだよ!自分で好きな道を決めていいんだよ!俺は!」
顔を僅かに赤くして文句を言う。その仕方もまた子供らしかった。面倒くさければ勝手に列を乱し、気に入らなければギャーギャー喚く。精神的に幼い証拠だ。
その様子にゴーは呆れつつも、止む得まいと身構える。ミンミンはそんなラルカの姿を、少々哀れな目で見ていた。
「哀れそうな目で見るなよミン姉さん!俺は子供じゃない!子供じゃないんだったらぁ!」
「…もう良い、何も言うな!従わぬなら力ずくで連れ戻す。ミンミン、良いな?」
「分かった…かも」
覚悟を決めたミンミンの目に再び厳しさが戻る。ミンミンとしては手荒な事はしたくないが弟のラルカの為と思い、目つきを鋭くさせる。
「ラルカ、ちょっとお仕置きする…かも」
「え…?」
ミンミンの言葉にラルカの身が少し引く。そして二匹が一斉にラルカに飛び掛った。
「わっ!!」
ゴーのブレイズキック、ミンミンのかみなりパンチの二重攻撃がラルカを襲う。慌てて後方へ跳躍してそれをかわした。
「ちょ…二人ともやめろって…!」
ラルカの静止する言葉を二匹は耳にせず、次なる攻撃に移った。ゴーが先攻を取り、鋭い鉤爪で切り裂いてきた。
連激で繰り出される攻撃を、ラルカは左右に顔を反らしながら回避した。そしてゴーの後ろで鋼の硬さを持った尻尾がラルカの上空から襲い掛かってきた。
ゴーに気を取られて気づくのが遅れたラルカは、回避を諦め、ミンミンのアイアンテールを片手で防いだ。しかし片方の手が奪われたその隙にゴーのきりさく攻撃がラルカの頭部を襲った。
ラルカは咄嗟にもう片方の手でそれを受け止めた。威力は高く、受け止めた反動で大きく後ろに後退させられた。間一髪の防御なために、頬から汗が流れた。しかし、二匹の攻撃は続く。
今度はミンミンが先攻で、コッペパンのような腕を光らせ集中力を高める。そしてミンミンは一気にラルカに飛び掛った。格闘タイプの中で強力な威力を誇る、きあいパンチだ。
これを受けたらいくらラルカでも防ぎきれない。再び跳躍して回避を試みようと思った。だがそれは考えだけで終わった。上を向くといつの間にかゴーが木の枝の上にいた。何時でも飛び掛る体制だった。
考えを見切られていたのだろうか、もしこのまま跳躍したら、そこをゴーに狙われてしまう。
どうするか…頭の中でこの戦局どう乗り越えるか。頭の中の電卓を素早く計算させ、考える。
そこで、ラルカの中である事が閃いた。汗だくで余裕の無い表情に、笑みが戻った。
「覚悟する…かもぉ!」
ミンミンのきあいパンチが、ラルカを捕らえるほんの僅かな距離に差し掛かった。ラルカは左右に避ける体制を取る事もなく、両手を挙げた。
ミンミンの中でラルカが降参したのかもと、そんな考えが頭をよぎった。でもいまさら攻撃を止める訳には行かない。少し痛めつけてから連れて帰るのだと、心の鬼にしてラルカにコッペパンのパンチを横に切った。
その時、きあいパンチが目標を捕らえる寸前の所でラルカの体が動いた。前に跳躍し、横に切る腕を避ける。回避と同時にラルカはミンミンの背中に両手を乗せ、そのまま体重をかけて跳び箱のようにして飛んだのだ。
ミンミンは一瞬何が起こったのか理解できず、ラルカに跳び箱にされたミンミンは重力に従うままに地べたに叩きつけられた。技でも何でも無い、ただの馬乗りだけの技で。
「ひゃぁ…!」
「ラルカ!!」
上から見ていたゴーがミンミンの敵討ちに出た。ラルカの頭上に奇襲を掛けた。もはや躊躇いは無い。
宙にいたまま口から豪快な火炎放射を吐き出した。頭上の危険を察知してすぐさま姿勢を低くし、地を蹴りながらやり過ごした。辺り一面草が焼け、焦げる匂いが漂った。
やりすごしたラルカの背後に、再び火炎放射が吐き出される。その場に留まる間も無くすぐに跳躍し、木の枝に飛び移った。
火炎放射の凄まじい熱に、ラルカの頬から汗がタラッと落ちた。しかし、息づく間もなかった。また背後から殺気が走った。
別の木の枝に飛び移る。すると、さっきまでラルカが居た場所に電撃が衝突した。その枝は、電撃の威力のあまりに折れてしまい、真っ黒こげになりながら地面に落ちた。
電撃が来た方を見下ろすと体制を直したミンミンが体中から電撃を身に纏っていた。10万ボルト。これをくらったら一溜まりも無い。
「本気かよぉ…何でそんなにムキになるのさ…うわっ!」
愚痴を言う暇もなかった。近接攻撃では埒が明かないと考え、遠距離からの攻撃でラルカを仕留めようと切り替えたのだ。
ラルカもルカリオなら、遠距離で反撃出来る技を覚える…だが、ラルカのレベルでは遠距離からでの攻撃技をまだ覚えていなかった。
強烈な火炎放射に、10万ボルトの交互攻撃に、避けるのが精一杯のラルカは次第に疲労が溜まってきた。レベルの差とスタミナの差では、流石に年配の方に分があった。
それに二対一と言う卑怯な状態でのバトルだ。やり切れないと判断したラルカは一旦木の枝から飛び降り、二重の攻撃を防ぐ為に大木に背中を預けた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
流石にヤバイ、今までゴーやミンミンに追いかけられては連れ戻されると言う日常を繰り返してきたが、その度に軽くバトルが発生した。ラルカとしては日常のストレッチング程度の物だったが、今度ばかりは違った。本気になった二匹を目の当たりに、自分がピンチに立たされている。
ラルカ自信気づかぬ内に、顔中汗だくになっていた。心臓もバクバクだ。今この束の間の安らぎが、とても貴重に感じられた。
大木を背にしている間、二匹の出方が分からない。二匹の動きを読むために、大木に触れる。静かに目を瞑り、波動の力を利用してゴーとミンミンの居場所を特定し、距離を測っていた。
二匹は足音をなるべく立てず、ラルカのいる大木へとゆっくりと近づいているのが分かる。今大木から離れたら、その瞬間に10万ボルトと火炎放射の標的にされる。波動の力がそれをラルカに教えた。ラルカはどう出るか、焦りつつも冷静に考える。
しかし、二匹は同時に駆け出した。ラルカのいる大木に二手に別れ、挟み撃ちを掛ける。すでに技の準備も整えており、何時でも技が繰り出せる状態だった。
ゴーとミンミンが同時にその姿を現せる。背後の大木に阻まれ、逃げる場所がないと踏んだゴーとミンミンは、再び近接方に変えてきたのだ。アイアンテールとスカイアッパーの挟み撃ち。
下に避けたらアイアンテールの餌食、上に跳んだらスカイアッパーに撃ち落とされる。
体制が不利なだけに、今度こそヤバイと本能的に危険を察知したラルカ。自慢の知恵とテクニックではどうしようもない状態だ。そんな時、一か八かの策に出た。
二匹の接近する前に、自身の気、波動の力を両腕に込めた。そして自分の背後にある大木に向かって、波動をぶつけた瞬間、大木が大きく揺れた。
ラルカの波動の衝撃で大木が左右にゆれ、木の葉が地面に舞い散った。
「何を考えているんだ?勝負を捨てたか!」
「やつあたりは良くないの…かも」
ゴーとミンミンは、ラルカの行為がやけくそになり、デタラメに技に繰り出していると思っていた。木の葉が散るだけで何も起きない。勝負はあった。そう思ったその時だ。
二匹の目の前で何かが視界を掠めた。物が落ちてきた様に見えた。二匹は一瞬動きを止め、その正体を目にした。
落ちてきた物の正体、正確には物じゃなく、ポケモンだった。それはゴーとミンミンが知っている『やっかいなポケモン』だった。
「いかん…!ミンミン引け!」
「ふわっ…やばい…かもぉ~」
「何だ…これ?」
ラルカは始めて見る。大木から振ってきたポケモン、クヌギダマとフォレトスだった。瞼が微妙に開いている。何だか機嫌が悪い。表情だけでこの大木の居住者達が落とされる前までどんな状態だったのか想像がついた。
眠りの最中に叩き起こされた大木のフォレトス達は、二匹が技を繰り出す様子を見て、居住区の侵略者と判断した。
フォレトス達の苛立ちは怒りに変わり、ラルカ達を睨む。
「ま、待て!我等はそなた達の襲いに来たのではない!」
「あの~、話を聞いて欲しいの…かも」
必死の説得を、だがフォレトス達は聞く耳を持たなかった。しかも寝起きで機嫌が悪い。自分達の住処を荒らす者達に容赦する気は微塵も無いようだ。
「フォオォォォォレェェェェ!」
フォレトスは威嚇の声をあげるのとの同時に、体がピカッと光り、ゴー達は咄嗟に防御体制を取った。そして、その瞬間、大地が震えるような凄まじい轟音を響いた。捨て身の大技、大爆発だ
一匹が大爆発をすると、続けざまに他のフォレトス、クヌギダマがだいばくはつを起こした。
辺りは爆発に巻き込まれ、土埃が捲き起こり、凄まじい暴風が吹き荒れる。小さな小石は吹き飛ばされ、弾丸の様な速さで辺り一面に飛び散った。
半端無い大爆発の威力で、ゴーとミンミンは体が焦げ、勢い余って別の大木に激突してしまう。
「ぐぁっ!」
ぶつかった衝撃でゴーの体が悲鳴を上げた。いくらレベルが高くとも、大爆発をもろに食らってしまっては、とても無事ではいられない。
騒然とする中、やがて、爆発の威力が収まった。逃げる間もなく起きた大爆発で、ゴーは体が麻痺したかのように動けずにいた。
「うぐっ…ミ…ミンミン…?」
ようやく目だけが開き、ゴーは辺りを見回した。さっきまで草木が生えていた綺麗だった場所は、地面が焼け焦げ、草は枯れてしまい、大木も葉っぱがほとんどなくなってしまうなど、悲惨な光景だった。
絶景を目の当たりにし、ラルカはこの事態を予想して大木を攻撃したのではないかと考えた。気づくのが遅すぎた。あんな荒行事などとても予想がつかなかった。
それより、ミンミンの安否が心配だった。彼女もまた、別のフォレトスの大爆発に巻き込まれているのが一瞬目にしたのだ。
痛みで麻痺した首を必死に動かし、ミンミンの姿を探した。すると、切り株にもたれかかってグッタリしているポケモンがいるのを目にした。
背中が黒くこげ、それでも背後の模様がようやくわかる程度までは焦げていなかった為、それが誰なのか解った。ミンミンだった。
「ミ…ンミン…ミンミン…!返事を…!」
ゴーが懸命に声を掛ける、だがミンミンは動く様子は無い。もしや、この大爆発のショックで瀕死状態になってしまったのではないかと不安になった。
そう思うといてもたっても居られず、痛む体に鞭を打ちながら、体を這いずる様にゆっくりとミンミンの方に近づいていく。
ようやくミンミンの居る場所まで辿り着くとその柔らかな体を揺さぶった。
「ミンミン…無事か…?」
安否の有無を確認し、何度も名前を呼び体を揺さぶった。僅かに体がピクッと動いた。
「うぅん…めちゃくちゃ痛い…かもぉ…」
辛うじて生きていた。痛みで震える体に我慢しながら、ゆっくりとゴーの方に振り向いた。目は虚ろで、小さく呼吸をしていた。
「大丈夫そうだ…痛っ…!!」
「ちょっと大丈夫じゃない…かも…あっ、それより…ラルカは…?」
一瞬忘れかけていたその名を聞き、ゴーはよろよろ立ち上がり、再び辺り一面を見回した。
焼け野原な一面、枯れきった大木だけ。その大木の周りには、自分達の居住区を守ろうと身を挺して大爆発を行ったフォレトスとクヌギダマの哀れな姿がゴロゴロ落ちていた。
どれも瀕死状態で、再び襲い掛かってくる心配は無さそうだった。ゴーは、ここまで自分達に傷を負わせたフォレトス達を前に、悲しそうな表情を浮かべた。
身内の揉め事に巻き込まれ、迷惑を掛けてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
そんな中、ふと不思議に思った。爆発のほぼ中心にいた。事の発端であるラルカ本人が何処にもいなかった。遠くを探すように見回すが、それらしき影も見られない。
あの大爆発に巻き込まれて何処か遠くに吹き飛ばされたのか、それとも一瞬の隙に乗じて逃げ出したのか。どの道、この騒ぎの発端であるラルカをこのままにしておく訳にはいかない。
一発ぶん殴って、その後マスターの所に連行した後、鎖付きの首輪を付けて二度とこのような惨事にならぬように徹底監視すべきだ。
少し休んで体力が回復したら再び探しに出ようとしたが、ミンミンの傷が思ったよりひどく、足に血が流れているのを見て、放置して探しに出るのは危険だと判断した。
「一度、マスターの所まで戻る…歩けるか…?」
「片方が凄く痛い…かも…手を貸して欲しい…かも」
弱った声で答える。言葉通りゴーはミンミンに肩を貸して、よろける足取りで、一度マスターのいる方角へと進んだ。
それにしても、ラルカは本当に何処に行ってしまったのだろうか。
「……」
「どうしたの…何か見つけたの…かも?」
「いや、マスターの元へ戻るぞ…」
時間の経過で、ある事を思い出していた。
大爆発された瞬間、あの爆発の最中、何かが視界を掠めたのを目にした。二足歩行する、ポケモンらしき影を目にした。
その向かう先が、ラルカとフォレトスのいる場所に向かっていた気がしたが、そこから先は爆発だけでこれ以上何も思い出せなかった。
「…こんな姿、マスターになんて言うの…かも」
「…」
ボロボロの二匹のポケモン、肩を寄せあうようにして荒れた一面を歩きながら、奥にへと消えていった。


痛い…痛い…何処かが痛い…
腕が痛い、肢が痛い、鼻が痛い、耳が痛い、目が痛い、腰が痛い、腹が痛い、体のあらゆる箇所が痛い。全身が痛い。痛いだけでなく、熱い。
何も見えない真っ暗闇の視界で、動けないほどに痛む体がポツンとそこに置かれている。
ここは何処だろうか。どうしてこんな事になってしまったのだろうか、記憶が飛んでいるかの様に、何も思い出せない。
とにかく、こんな不愉快な場所に居たくない。こんな所、傷を治して熱を冷まし、光のある所に出たい。
でも、体は全く言う事を利かず、痛く、熱いばかりでどうにもならなかった。
…ここは何処だ、どうして真っ暗なんだ…不愉快だ…出してくれ…体が痛い…熱い…
何度渇望しても、何も起こらない。鎖で縛られた衆人の如く、閉じ込められたような気持ち悪い感覚だった。
お願いだ、ここから出してくれ、誰でも良い…暗い…怖い…心細い…
孤独と恐怖に、心が壊れ、気が狂ってしまいそうだった。
…誰か…声だけでも…
そんな中、僅かな願いが叶った。彼の耳に何かが喋る声が微かにした。
………
聞き取れなかった。何かを喋っているのは解ったが、とても意味を取るのは出来なかった。もっと、近くで大きな声で…
『選ば………め……』
今度は聞こえた。一部分が微かに聞き取れた。彼はそれをもっとはっきりと聞こうと耳を研ぎ澄ませた。
『選…れ…奴め……』
え?選ばれた…?…奴?何の事だ?
そんな疑問がする中、突然青い光が灯った。あまりの眩しさに彼は目を瞑った。
『選ばれた奴め……』
目を細め、それが何かを確かめた。瞼の先に居たそれは、なんとも恨みがましい物でも見るような目で自分を見ていた。
リオルだった。目がぎらつき、凄まじい怨念を自分に向けていたのだ。
え…?俺が選ばれた…何の事だ…?
『選ばれた奴…!』『選ばれた者…!』『選ばれた優遇者…!』『選ばれた存在…!』
声が複数した。それと同時に、青い光が、暗闇の中に一斉に灯った。見回すと、どれもリオルだった。それも、最初に出てきた奴と同じく、恨みがましい目で睨んでいる。
何なんだ…お前達…何なんだ…!?
『選ばれて幸せになって…!』『選ばれて裕福に過ごして…!』『選ばれて毎日ご飯食べれて…』『選ばれて毎日暖かい場所で過ごして…!』『選ばれて皆に愛されて…!』
何なんだよ…!?何なんだって言うんだ!?お前達は一体誰なんだ!!僕に何の用だ!
圧倒的な数で、しかもどれも邪念と怨念が篭った気で、自分を指していた。動かない体で、恐怖が余計に増した。
『憎い…』『苦しい…』『辛い…』『ひもじい…』『愛されたい…』
多くの邪念と怨念の篭ったリオル達は、ゆっくりと彼に近づいてくる。恨みがましい目で、ゾンビの様に前肢を出しながら…
やめろ…触るな…
『お前の幸せ…!』『僕たちにも温もり…』『よこせ…よこせ…!!』
寄せ…来るな…来ないでくれ…!
恐怖の余りの願いも空しく、群がるように集まってくるリオル達。
お願いだ…来ないでくれ…なんで俺が…こんな目に…!?
そして、一匹のリオルが自分の目の前に、すぅっと現れ…
『 何 で お 前 が 選 ば れ た ん だ … !!!』

「うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
一匹のルカリオの叫び、自身の鼓膜が破けそうなほどの悲鳴を上げた。その声は反響するように辺りに響き渡った。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…?」
ラルカの心臓が破裂せんとばかりに鼓動を打っていた。気づけばあの悪夢が一変し、周りの景色が変わった。此処は何処なのか?
呼吸が静まらない。あの悪夢が未だに網膜に焼き付いている。夢ならば良いが、それにしても恐ろしすぎた。
「ハァ……ハァ……ここは…?」
少しだけ冷静さを取り戻し、辺りを見回した。
ピチャン…ピチャン…と、一定のリズムで雫が水溜りに落ちる小さい音が響いた。上も回りも岩だらけ。どうやらここは洞窟のようだ。
体が痛む、目覚めたお陰で記憶が徐々にはっきりした。あの時、ラルカはゴーとミンミンの挟み撃ちを防ぐ為に、威嚇のつもりで大木の中にある物を落とそうとした。
だが運悪く、フォレトスやクヌギダマの住処だったため、逃げる間もなく爆発に巻き込まれてしまった。そこからラルカの記憶が途絶えてる。
爆発に巻き込まれ、何故洞窟にいるのだろうか、そもそも222番道路に、洞窟なんてあっただろうか。幾多の疑問が頭をよぎった。
「ん…毛布…?」
いまさら気づいたが、自分下半身に毛布らしい物が掛けてあった。鳥ポケモンの羽と羽毛で寄せ集めたような毛布だった。
これらの事を入れて考えると、もしかして自分は誰かに助けられたのか?そんな時。
「起きたかしら?」
背後から雌の声がした。ラルカは声の主の方に振り返った。声の主は暗くて見えにくかった。
「えっと…誰…?」
「あらま、親切で助けてあげたのに、最初に言う事はそれぇ?」
少し不機嫌な声になり、ゆっくりとラルカに近づいてくる。その内、声の主が何者なのかはっきり見えるようになった。
二足で歩行で、長い足にはソックスを履いたような毛皮。両手は暖かそうな毛皮で包み、くびれのある腰つき。小さくでた毛玉のような尻尾。そして優に腰まで垂れ下がっているほどの大きな耳。その種類のポケモンに見覚えがあった。
うさぎポケモンのミミロップ。ミミロルの進化系、長い足と大きいフカフカの耳が特徴なポケモンだ。
「アンタが俺の事助けてくれたの?」
唐突にそのミミロップに聞くラルカ。その無礼と言えるくらい突然な質問に、ミミロップはキョトンとした。
「アタシ?そーねー、やばそーだったからつい家にまで連れて帰ったのよ。あなた死に掛けてそうだったし」
「そっか…ドジってしまったな全く」
「ドジ?ウフフ。アタシから見れば自殺行為をしていたように見えたわよ、アハハハハ」
口に手を当てて大笑いするミミロップ。ラルカはムカッとしながらも聞いた。
「それ、どう言う事?なんで俺が自殺行為なんて…」
「あなた、ここの辺りの住人じゃないわよね、ね?」
「え…そうだけど、それがどうしたんだよ?」
興味津々そうに、顔をグイグイと近づけるミミロップの行為に、ラルカは僅かに照れてしまう。
「あなたの殴ったあの木、フォレトスの一団の縄張りなのよ。あいつ等、縄張り意識がものすごく強いから。」
ミミロップの説明に、ラルカは背筋が凍る思いをした。まさか自分がそんな危ない場所で一か八かの策を行ったと思うと、今更ながら怖くなった。
そう言えば、ゴーやミンミンを巻き込んでしまった。それを今になって思い出した。
「そうだ、兄さんや姉さんの様子が気にな…イタタッ…痛いぃ…!」
毛布から出ようとした途端、体中から激痛が走った。堪えきれないほどの痛みで、ラルカは立ち上がるのを止めた。
「ほらほら~、もっと安静にしてないとさ~。アタシの介護がなかったら、もしかしたら死んでたかもしれないよ?」
「…マジ?」
「ホントよ、だってあなた、丸一日寝ていたんですもの。体中傷だらけでさ」
「え、丸一日?」
「ん?」
ミミロップの言葉に、ラルカの目が点になった。丸一日って事は、あの出来事から発生して、24時間経過したという事だ。
「どーかしたの?ワンコ君?」
「戻らないと…アイタタタタッ!」
慌てて体を動かそうとして、再び体を強く痛めてしまった。ミミロップは落ち着いてラルカの体を支えた。。
「ほぉら、横になってないと痛いわよ?ウフフ…」
そう言って、ラルカの頭を片手で支え、ゆっくりと横に下ろしてくれた。
「え…あっ…ちょ…!?」
その時、僅かにミミロップの胸が顔に当たってた。思春期の最中の雄には刺激が強い。ラルカは思わず顔が真っ赤になってしまった。雌特有の豊満なバスト、ミミロップの中では、結構大きいほうかも。
よく見てみれば、野生にしては引き締まった体をしていて、申し分ないまでにスタイルが良い。毛並みも手入れされていて、野生にしてはとても綺麗だった。
「どうかしたの?顔赤いけど、風邪引いた?」
「いや、それよりアンタ。俺急いで帰らないと行けないから…」
顔をマズルまで真っ赤にしながらもラルカは言い続けた。自分の事を、大人と吼えていたくせに、まだこの『手』の大人の階段を上ってはいなかった。
「アタシ、アンタって名前じゃないんだけどなぁ」
「え?」
「ミミって名前なのよ。あなたは何て名前?」
「…ラルカ」
「ラルカ…かぁ、変わった名前よねそれ、名づけ親誰なの?ママ?それともパパ?」
顔をグイグイと近づけてくるミミに顔を反らしながらも答えた。
「トレーナーだよ…」
「え…」
ラルカがトレーナーって名前を口にした途端、ミミの表情が大きく変わった。
「父親の顔も母親の顔も見た事も無い、俺を育ててくれたのは、アナって名前のトレーナー。人間だよ」
「人間………人間……」
「いっつもそのトレーナーに迷惑掛けてしまうんだよな…自分がちょっと優れてるから、つい調子に乗ってしまってな…あのメガネのオッサンが何でも俺の事素晴らしい奴だとか何とか言うからさ。だからつい調子に乗っちゃって…」
「え?」
「ん?どうかした?」
「あなた…ちょっと聞くけどさ、もしかして、何ブイとか…言われてない?」
ミミの質問に、ラルカは困惑する。だけど、その『ブイ』と言う言葉に、僅かながら聞き覚えがあった。
「さぁね、何かそのメガネのオッサン。俺の事ほとんどが『ブイ』だとか、すばらしい能力持ってるとかほざいてたよな。俺になんのかんけーがあるか分からないけどね」
「ラルカも…………た…奴なんだ…なら………私も………」
「は?」
ミミの声が突如小さくなる。聞き取り難いほどの小さな声だった。可愛らしい顔に似合わないほどの暗い表情になり、ブツブツと呟いている。
「な…何?どうかしたの?」
「…別に、何でも無いわよ…」
何でも無いと言うミミだが、その表情が、笑みでも隠し切れないくらい暗そう見えた。視線を地面に落としたまま。しかし、すぐにその表情が変化した。
「所で、ラルカってどんな才能持ってるの?話だけでも聞かせてよ」
「な、何でそんな事言わなきゃ…」
「いーじゃない!看護もしてあげたんだし、どうせその体じゃまだ動く事も無理なんだから。話くらいはできるでしょ?」
「さっき言ったはずだけど、マスターの所に…うぅ…」
一段と瞳を輝かせているミミに威圧感を感じたのか、押し黙ってしまう。
暗い表情から一変し、星でも浮かんできそうな大きな瞳。しょうがないと思いつつもラルカは語り始めた。
「どれから話したらいいかなぁ…あれだ、まだリオルの頃。生まれて初めてバトルに出た時の事だ」
ラルカの話を、おとぎ話を聞く子供のような無邪気な表情でうんうんと頷く。
「あの時、俺はバトルって何なのか、また何をするのか全く理解できない内からやらされてたなぁ」

生まれて程なく、当時リオルだったラルカは初心者トレーナーとのポケモンバトルで最初に出された。
まだ自分が何者なのかとか、優秀な才能を秘めているとかなど、そんな事考えもしないくらい幼さなかった。しかし、この生まれて初めて行ったバトルで、自分の才能を回りに知らしめる大一歩となったのだ。
マスターの対戦相手は短パン小僧と呼ばれる、それらしい服装をしていた男の子だった。
ラルカの最初の相手は、不利な事にムウマだった。
格闘タイプにとってゴーストは、相性的に不利だ。肉体を持たない幽霊を相手に、己の肉体を駆使して使う技は一切通用しない。言い換えれば空気と戦うようなものだった。
知恵のあるトレーナーなら格闘技しか持たないポケモンを出してしまったら、まっさきに交換するのが普通だ。
だがその当時は、アナもラルカも未熟な為に相性の良し悪しがまだ理解できていなかったのだ。もちろん技の有効活用なんてアナもラルカも知るはずが無い。
アナはラルカに適当に攻撃するような指示を煽ってはいた。初めてのバトルで何をしたらいいか解らないまま、勢いだけで突き進んだ。
技は何と言うか、ムウマ目掛けてただ突っ走るそれだけの攻撃だ。たいあたりと言っていいのか、それさえ判断し難い行為だった。無論それは無意味な結果に終わった。
肉質感の持たないゴーストに肉体的なダメージなど与えられるはずも無くすりぬいてしまい、石に躓いて勢いよく地面とキスしてしまった。
初めて味わう砂の味に、口の中がジャリジャリしてて気持ち悪るくなり、その場で唾を吐いた。そんな見っとも無い状態のラルカをケラケラと笑うムウマ、余裕そうだった。
それにう生まれて初めて苛立ちを覚えた僕。敵に対する攻撃的意識が生まれた瞬間だった。睨みあう双方の間に電撃が走る。
緊張が走る中、先に動いたのはムウマだった。顔の先の空間から闇色の塊玉を作り出す。ゴーストタイプの技で知られている、シャドーボールだ。
どす黒い闇玉をラルカに向かって放った。闇色の残存を残しながら早い速度でラルカに迫ってくるのを目にし、本能的に危機感を感じたラルカは横に飛ぶようにして避けた。
目標を見失ったシャドーボールは当ても無く地面に激突し、大きく弾けた。それからアナの指示が飛んだ。技名は、まだ覚えたばかりのはっけいと言う技だ。
両手に力を入れ、接近戦で挑もうとした。避ける様子の無さそうなムウマを見て、理由は分からないがこれは好機だと、この時思っていた。
しかし、自身有りの渾身の一撃は、目標に当たる所ですり抜けてしまった。最初の攻撃と同じく何の効果もなかった。
まさに無知。ゴーストタイプでは単純な打撃は一切通じないのをまだ理解できてなかった。焦ったラルカは思わず敵の顔を見上げた。ムウマは鼻で笑い、シャドーボールをラルカのボディに遠慮なく放った。
ほとんど近かった為、胴体に命中。ラルカは衝撃の余り横なぎ吹っ飛んだ。勢い余り背後の木に大の字に貼り付く状態でぶつかってしまい、そのまま重力に従い地面へと落ち、地面と再びキスしてしまった。
骨身に沁みるくらいの激痛が体中に駆け回った。幼い体にしてはとてもハードだった。
しかし、なんとか顔を地面から離す。顔は土で汚れてしまっている。そんなラルカの顔を見て、バトルをそっちのけにムウマはケラケラと笑っていた。
一方アナの方は、どうして攻撃が当たらないのかと理解に苦しみながらパニックになっていた。その時はまともな指示が出せない状態だった。
トレーナーが当てにならない以上、そのポケモンも混乱するのは必須だった。だがラルカは違っていた。
まだ幼いのにも関わらず、本能が次はどうするかを感じ取り、体が自然に構えを取らせた。何時攻撃が来ても対応出来るようにと。
対して勝利を確信したムウマは目から漆黒の光線状を放った。ナイトヘッドと言うゴーストタイプの技だ。射線はラルカの顔面を捉えていた。
すると、ラルカの目が鋭くなった。自然に姿勢を低くしそれと同時に地を駆け出した。ナイトヘッドはラルカの頭部すれすれの所で交わされた。
攻撃の下を掻い潜り、その姿勢を保ちながら、まっすぐにムウマの方を目掛けて進んだ。思いがけない回避に油断したムウマは、浮遊能力を利用して上空に飛ぼうとした。
しかし、ラルカはそれを逃さなかった。上空を飛ぼうとするムウマよりも早く、ラルカは先に跳躍する。上空にいるまま、再び両手に力を込める。そのまま、重力にしたがうまま落下する。
拳をいつでも振り下ろせる体制をとり、しっかりとムウマをターゲット絞り込んだまま。
一瞬焦るムウマ、だがその表情が笑みに変わった。ムウマ自身は忘れていた事を思い出したのだ。自分がラルカの技で倒れる事が無いと言う事を把握している。
どうせこのまま拳を振り下ろした所で何も功を成さない。そう違いない、また無様に地べたにキスするのが予想できた。
そして、ムウマとラルカとの距離が僅かになった所で、事態は一変した。
目標を捕らえていたラルカの目が、とたんにムウマから目を離した。その視線の先には、何でもないただの地面。その事に構わず、ムウマの目の前にすれ違うように落ちる。そして、ラルカの拳はその地面へと振り下ろされた。
その瞬間、地面が大きく爆発した。衝撃音と共に砂埃や小石、砂利が空を覆う様に撒き散らされた。その衝撃はその場に居たムウマにも直撃した。小石や砂利がムウマを襲った。
地面から捲き起こる小さな粒々の砂がチクチクと刺さるように当たり、僅かながらのダメージを与えていた。それだけでなく、砂埃がムウマの目を痛め、視界をも奪った。
目の痛みに小粒の涙を流すムウマ。まさかの予想外の行動に混乱し、見えない視界で当たりをキョロキョロする。ムウマの上で、声がした。ラルカが自分の居場所を教えるかのように大声で叫んでいるのが聞こえていた。
視界が遮られたムウマは、これを好機と声のするままに、体制を自分の真上に向き直り、シャドーボールを上空目掛けて放った。一発だけでなく、二発、三発と。
もしラルカが声のする場所にいるならば、そのまま乱射したシャドーボールが命中し、射ち落とされる小鳥の如く地面に堕ちるはずだ。その衝撃音を待ちわびた。
だが、いつまでたっても攻撃が命中する音はしなかった。不振に思ったムウマは、痛む目を無理やり開いた。そこには、驚く光景があったのだ。
声のする通り、ラルカは上空にいた。あの土埃に油断した隙に、ムウマの上をとっていたのだ。攻撃の矛先は間違ってはいなかった。だが、その攻撃を、ラルカは交わしていたのだ。
連発で放たれたシャドーボールの間を、ラルカは本能的にどう動いて回避したらいいか察知し、来るシャドーボールの命中するギリギリの所で体を反らし、シャドーボールの射線上の隙間をスレスレの所で避けたのだ。
そして、3連発の攻撃を避けたラルカは、重力を利用してムウマ目掛けて落下。慌てたムウマは目から、ナイトヘッドを放った。
射線上はしっかりとラルカを捕らえている。命中は確実だった。すると、今度は攻撃を回避しよとせず、両手を斜め十字にクロスする。攻撃を甘んじて受ける体制だ。
攻撃を受けたラルカ、苦しそうな表情を浮かべながらも、その視線はしっかりとムウマを離さなかった。ダメージに耐えつつ、落下に実を任せ、ムウマと再度すれ違った。
地面に上手く着地したラルカだが、その時、ラルカの表情が苦痛に歪んだ。目がうっすらと涙目になる。左肢を捻挫してしまったのだ。
バトル中に捻挫とは、スピードを殺されたのも当然。また、先ほどのナイトヘッドのダメージで、ほとんどボロボロだったそれを見逃さなかった。
ムウマのトレーナーが指示し、シャドーボールで止めを誘うとした。てこずらせたその分、強烈な一撃をラルカに叩き込もうとした。ラルカとは僅かな距離の差と、左肢の捻挫を含め、回避は不可能だった。空中で見下ろすムウマは勝利を確信をした。
その時、ムウマの背後で、何かが爆発したのだ。ショックとダメージで攻撃が止まった。何が起きたのか、ムウマ自身分からないままだった。しかも、その爆発は一発だけではなかった。
怯んだムウマの背後で二発目、三発目と爆発が起こった。半端の無いダメージがムウマを襲った。耐え難い激痛は、自身の浮遊能力を保つ事もままならず、地面へと倒れてしまった。そのまま、起き上がる事はなかった。
唖然とするムウマのトレーナー。もちろんアナもポカンとしたまま、その光景を見つめていた。
誰もが口にはしなかったが、バトルはラルカの勝利で終わった。初めての戦いにも関わらず、瞬発力と集中力に長け、咄嗟の判断で勝利を収めた。
アナは驚きの余り、勝利の喜びを忘れ、ボロボロながらその肢でしっかりと大地に立っているラルカを見て、とてもとても頼もしく見えた。
それが、ラルカの初めてのバトルであり、同時にラルカの持つ存在能力を、他の者に知らしめる事になった。

「これが俺の初めてのバトルだよ。あの時はどうしようもなく、泣きそうになったけど。でもどうにか勝てたよ」
ラルカの話をマジマジと聞いていたミミは、すごいと言わんばかりに口がポカンと開けていた。それと同時に不思議に思った。
「でも、ゴーストに対抗できる技が無いラルカが、どうしてムウマを倒す事ができたのかしら?」
どうやって倒したのかと言う質問に対して、う~んと唸りながら頭を掻いた。
「正確には、倒したと言うより…相手の自爆だったんだ。俺が直接倒したわけじゃないんだ」
「へ?どう言う事?」
不思議そうに尋ねながら、ミミはラルカの顔に近づいてくる。
「あっ、近いって。それはなぁ、ムウマが撃ってきたシャドーボールが、調度真上だったんだ。ほら、真上に投げた物ってさ、かならず下に落ちるじゃないか」
「それって、まさかそのムウマが撃った技を、ムウマ自身に当てたって事?」
「それが正しいね、投げた物はいつまでも飛んだままじゃないだろ?あまり自信なかったんだけどさ、真っ直ぐに降りてくるかどうかは賭けだったんだ。もちろん、あのムウマが手負いの俺の傍に居続けた事も賭けの内に入るけどさ」
あの時、ラルカは自分の技が通用しないって事を確信し、どうすればいいか悩んでいたところ。ムウマの上空に飛び、シャドーボールを撃たせようとしたのだ。視界を奪ったのは、他の技に切り替えられない様にする為だった。
「でも、空を飛んでいたアナタも危なかったんじゃないの?そんな状態で3発も撃たれたら避けるのは容易じゃないわ」」
「…そこなんだけどさ、実はあのムウマ、シャドーボールを撃つとき、ある癖が見えたんだ。大きく呼吸をしてるんだ。」
「癖?呼吸?」
癖は人に限らず、ポケモンにもある。しかし、ミミには攻撃を避けた事と癖がどう結びつくのか理解できなかった。
「他の奴ならあの技を使うならすぐに撃ってくる。でもあの時のムウマは、一呼吸してから放つんだ。多分、吸った息を、攻撃するのと同時に吐いて、加速させていたんだ。あの一呼吸が、俺に避ける僅かな猶予を与えたんだ」
「そんな事まで見抜けていたの子供の頃のアナタは…癖なんて、一度見た程度じゃ普通わかるものじゃないわ」
「いや、どうしてだろうかな。バトルの時になると、全部の感覚が鋭くなってね、そういうのが分かっちゃうんだ。俺って」
自慢気に笑みを浮かべるが、ミミはふぅんと言うだけだった。
「あ、その顔信じてないな?」
「そんな事無いわよ、だってフォレトスの爆発がある前、アタシはあなた達の戦っている所を一部見てたんですもの」
その言葉に、今度はラルカが驚かされていた。あのバトルの光景を見られていたとは気づかなかった。
「見てたのかよ!?何処で?」
「ウフフ、でもラルカ。なんであのライチュウやバシャーモに反撃しなかったのよ?」
質問を質問で返され、ちょっと腑に落ちない表情をするも、ラルカは答えた。
「なんて言うのかな…あれでも、生まれたばかりの時、とても世話してくれた。血は全然繋がってなくても、二匹は俺に優しかった。でも、自分の事ばかりに夢中になって、ついつい反抗してしまうんだ」
「そんな仲間を攻撃できないって事ね」
「ほら、なんて言うか。俺って血の繋がった兄弟なんていないからさ。だからゴーとミンミンが俺にとって兄と姉だよ…」
「…」
ラルカが『兄弟なんて』と言う部分で、ミミは氷のような冷たい瞳に変わった。
「ミミ?」
「ラルカぁ、あなた今の姉や兄の事、愛しているの?好きなの?」
さっきまでの明るい声が、急に低くなる。表情も暗いし、その視線も何だか痛い。
「何だよ急に…だって、生まれた時からずっと一緒なんだぜ、当たり前じゃないか」
「ふぅん…ならいいわ」
ラルカの答えに、ミミの表情は更に暗くなった。そして、ラルカに気づかれないような薄笑いを浮かべた。
「何だよ、俺何か気に障るような事言ったか?」
「それよりラルカ、そんな体じゃ動こうにも無理でしょ。だからここで安静していなさい。いいわね」
急にミミの表情が元に戻った。不思議に思いつつも、今のラルカはそれに従う訳にはいかない状況だった。
「でもさ、俺すぐに帰らなきゃ…」
「でもさ、じゃなーい!
「俺はすぐにでも帰らなきゃいけないんだってば!ってかここ何処なんだよ、大体222番道路に洞窟って…んぷっ!?」
すぐにでも出たく、抗議するラルカの口に何かを詰められた。妙な形をした木の実を口に押し込まれてしまった。
「いーから黙って休む。雄が体壊したまま、こんな所うろついていたらやばいんだからね…せっかくアタシが見つけた…物…」
最後の部分が小言になり、その部分だけ聞き取れなかった。
「んはぁ…え、何か言った?」
「あ、あー…別に、気にしないで、それでもしゃぶりついてなさいよ。それじゃーね、ラルカ」
そう言い残し、軽くウィンクした後、ミミは洞窟の奥へと行ってしまった。
「ったく、どうしてこーなるんだよ畜生…にしても、何だこの変な形した木の実?新種?」
ラルカの横に、二種類の今まで見た事も無い気のみが転がっていた。
一つはピンクが濁った色をしたまん丸の変わった木の実。そしてもう一つ、赤いハートの形をした、木の実らしくない形をした木の実がそこにあった。
ラルカがむりやり咥えさせられたのは、その赤いハートの形をした木の実だった。
「味としては…何だか甘酸っぱい。妙な味だったけど…変な味…」
文句を言いつつも、ミミのくれた赤いハートの気のみを残さず、全部食べた。
「あのミミって奴…何だろうな…何か…変な感じはするけど……こうやって…助けてもらったし…良い奴かもしれない…」
今まで自分に近寄るポケモンや人間はいた。だが、どいつもラルカにあやかったり、技を盗もうとしたり、時には敵対目的で近づく奴もいた。だが、ミミのような無邪気なミミロップはある意味初めてだ。
「そーいや…ゴー兄さん…ミン…ミン姉さん…どーしてんだろ…さすがに…あれは…やばかった…かな…あれ…?」
声のトーンが徐々に落ちていく。ラルカ本人も、視界が僅かに、しかし徐々に強くフラフラしていくのが解る。まるで催眠術にかかったように、瞼が重くなっていく。
おまけに、何だか体が熱い、妙な興奮を覚える。だが、興奮よりも睡魔のほうが強かった。ウトウトする中、自分の額を押さえた。
「…なんだ…俺マジで風邪引いてるのかな…?体が熱い……それに…すっごい眠い………」
眠気の強さが増し、今瞳を閉じればそのまま眠りの世界へ誘われてしまう。
「そう言えば…お礼…言ってなかった…なぁ………」
その言葉を最後にラルカはバタッと倒れ、そのまま眠りの世界へと入ってしまった。今思うと、助けてくれたお礼をまだ言ってなかった。そんな事を重いながら、またあんな悪夢を見ない事だけを説に願いながら。



どのくらい眠っていただろうか、寝起きで頭がボーッとしたままのせいか、前と同じ洞窟の風景が僅かに曇って見えた。
ミミと言うミミロップに看護され、ほどなく心地よい眠りについてしまった。どうして急に眠たくなったか分からず、体中はまだ熱っぽい。風邪のせいかと疑問に思いつつも起き上がろうとしたその時、ラルカはある異変に気づいた。
「う…あれ?なんだ…?」
立ち上がろうとした瞬間首を圧迫する苦痛が走った。咳き込みながら、首に異変を覚えたラルカは首元を触ってそれを確かめようとした。
首を圧迫した原因を確かめた瞬間、手にトゲが刺さる痛みが走った。それで寝ぼけた頭が、ショックで急に活性化する。そして、異変は衝撃に変わった。
「何だよ…これ!?」
ラルカの首を拘束しているそれは、鋭いトゲの付いた首輪だった。首輪をつなぐ鎖は鉄か鋼で出来ていて、硬い岩壁にしっかりと固定されている。ペットの犬ポケモンに着ける首輪みたいな生易しい物じゃない。あきらかな拘束具だ。
慌ててそれを取り外そうと首輪に両手を掛けた。力ずくで引っ張ろうとしてたがとても硬くて引き裂くのはまず無理だ。それでも止めず素手で、時には落ちている小石にぶつけたりもした。
だが、鋼のクサリが擦れる金属音がする以外、何の効果もなかった。おまけにトゲが刺さったラルカの両手は傷付き、血が滲んでいた。
誰の悪戯だろうか?誰かが自分が寝ている間にこんな事をしたのだろうか?目的が想像付かないが、こんな物を付けて自由を奪うなんて悪趣味にもほどがある。
「誰だよ!こんな事すんの、いい加減にしろよ!」
誰も居ない広い空間で存在しない犯人に向かって、大声で吼えた。しかし、声が反響してくるだけでそれ以外の声は返って来なかった。
「誰か、誰がこんな事したんだ。隠れて無いで出て来い!」
どこかで隠れて面白がっているに違いない。そう決め付けた。何処かに隠れていると思う犯人に止める事なく吼えた。しかし、それでも声は返っては来なかった。
波動で周囲を探ってみるも、本当に誰も居ない。気配も無し。ラルカの心中に根拠の無い不安が生まれた。こんな暗く、広い洞窟で一匹。
「…クソッ、何だって言うんだよ。ふざけるなよ…」
次第に孤独感に襲われ、一人ぼっちの子供の様に俯いた
今思えば、一匹になる事はあまり無かった。こんな薄暗い洞窟で自分だけが取り残されている気がしてとても心細かった
「………」
多才で幾多の状況でのバトルには対応出来ても、一匹になる事には全く慣れていない。泣きそうだ。そんな自分に少し情けなく思った。
ただここで拘束されているだけなのに、すでにラルカの元気は皆無だった。瞳が潤み、いよいよ泣きそうになる。
「ゴー兄さん…ミンミン姉さん…」
「兄弟が恋しいかしら?ワンコ君」
声がした。聞き違いなどではなく、確かな声だ。それも聞き覚えのある雌の…
「その声…ミミ…?」
ラルカの様子に動じる事も無く、暗闇から急に現れたのだ。ミミとの出会いにラルカの表情に自然と笑みが浮かんできた。
「ふふふ…そんなにアタシに会えたのが嬉しい?感激だわ。ラルカ、泣いていたの?」
ミミに指摘され、ふと自分の頬に触れてみた。一筋の水滴が流れている事に気づいた。慌ててそれを拭う。
「何でもないよ、それより…僕は何時の間にこんな事に?」
「大変ね、その姿。自由じゃないし」
「そうなんだ、気づいたらこんな物を付けられてて。そんな事よりミミ、これを外してくれないか?俺、やっぱりマスターの元に早く帰りたいんだ」
懇願するようにミミに言った。これで助かった、もう安心だ。孤独じゃない。安堵するラルカ。しかし、帰ってきた言葉はラルカの期待を裏切った。
「ふふふ、それは聞けないお願いね。その姿のアナタも素敵よ?」
「はっ?何を言ってるんだよ、こんなの誰も望んじゃいない。誰の悪戯か知らないけど、不愉快だ」
やや怒りを込めて言い放つ。そんなラルカの怒りを楽しむかのように、ミミの表情は暗い笑みに包まれた。
「悪戯じゃないわよ。だって、アタシがその首輪を付けたんですもの。フフフ」
その言葉に、ラルカは一瞬混乱した。何を言っているのだろうかと。聞き違いじゃないかと自分の耳を疑った。
「あら、信じていないのね。これ、見えるかしら?」
意地悪な笑みを浮かべながら、左手を前にして、持っている物を見せてきた。今のラルカでも瞬時に分かった。鍵と言う物だ。
「鍵…?これ何だよ?」
「アハハハハ、何とぼけてんのよ。アンタの鎖の外す鍵に決まってるでしょ?」
「なら、それを使って外してくれ!」
高らかに笑うミミに、焦る様なお願いをする。その様にミミは流石に呆れた表情を浮かべた。
「アンタさぁ…まだ今の状況が分からないの?それともアタシが言った事分からなかった?」
そう言うとミミはゆっくりとラルカの元に歩み寄り、ラルカと同じ目線に会わせ、近づいてこう言った。
「アタシがアナタを拘束したのよ。当然、鍵は外せないわ。ウフフフ…」
無邪気な笑み、だがその心の底はドス黒い気持ちが見え隠れしている。その言葉でラルカはようやく今の状況を飲み込めた。それと同時に来たのは、衝撃と悲しみだった。
「どうして君が…俺、マスターの所へ、帰りたいだけなんだ。こんな悪戯やめてくれよ」
「悪戯ねぇ…たしかにこれからする事は悪戯と一緒だけど、アタシの幸せに関係するから、悪戯じゃないわね」
「ミミ…君が何を言っているのか分からないよ。俺はゴー兄とミンミン姉の所に行って謝らないと…」
二匹の兄姉の事を口にすると、ミミの表情が苛立ちに曇り、声を荒げた。
「またその二匹の事を口にする!アタシはねぇ、兄弟って言葉を耳にするとすごく不愉快になるのよ!」
怒り任せにラルカの背後に壁を大きく蹴った。その行動と壁の蹴る音に、ラルカの背筋が凍った。
「ふぅ…アナタに八つ当たりしてもしょうがないわよね。でもいいわ、今からアナタはアタシの物になるんだし、永遠にね」
「はぁ…?」
どう言う了見なのか、ラルカには理解できなかった。そんな事お構い無しにミミは続けた。
「でもぉ…まだ大人じゃない子がアタシの夫になるのかぁ、ちょっと若すぎるけど。でもそれはそれで良いかもね」
「どういう…事だよ。訳わかんないよ…」
「分からない?しょうがないわねぇ、アナタは、アタシの夫になるの。若い夫を持つ妻って何だか好き物っぽいわね~」
口に手を当てて、坦々と続ける。だがラルカは、次第に怒りに震える。体が熱くなるのを感じる。
「何だよそれ…聞いても無いし話ても無いのに…誰がそんな事決めたんだよ!」
ついにラルカが激怒した。決め手も無い事を勝手に進められて、まるで知らない内に見知らぬ人と政略結婚させられる人の気持ちだ。
「あら、決めたのはアタシよ?話す必要なんて無いし」
「何勝手な事言ってんだよ!いいから早くこの首輪をはな…んぅ!?」
怒り任せに放った言葉が、途中で口を塞がれてしまった。何で塞がれたのか、それはすぐに理解できた。
ミミの両手がラルカの顔を固定するように添えられ。そして口の方は、ミミの柔らかな唇に重ねる様に塞いでいた。分かりやすく言えば、キスだ。
「…んぅ…んんぅ…んん…!!」
唇同士を重ねたまま、だがラルカはそれに反発し、自分の両手でミミの手をを離そうとした。ミミの両手を掴み、ようやく顔が自由になった。
「はぁ…はぁ…お前…何を…!?」
息遣いを荒くしながら、ラルカの顔は怒りと恥ずかしさで真っ赤になっているのが分かる。ミミはラルカの手を払いのけながら言う。
「だってぇ、アタシの話を無視するし、それにちょっと五月蝿いよラルカ。アタシの物になるんなら、ちょっと節操を守ってもらわないとぉ」
「ざ…ざっけんなぁ、誰が…ゲホッ…他人の物なんかに…!俺は、誰の者でも…無い…ゲホッ…はぁ…はぁ…よくも…俺の…」
自分の口に手を当てながら睨みつけるが、何故だか表情に迫力が出ない。
それに体の方がとても熱くなり、途中で咳き込みながら息遣いも荒くなってくる。そんなラルカに涼しい顔をするミミ。
「よーやくあの実が効いた所ね。それじゃアタシもそろそろ楽しくやろっと」
そう言い、今度はミミが、ラルカの両手を掴み、自由を奪った。そして、顔をグイグイ近づけると。
「ファーストキスよね。さっきの反応からしたら。嬉しい…チュッ…」
「やめ…んんぅ…!」
背後の壁に追いやられたラルカは逃げ場が無く、両手の自由も奪われた。何の抵抗もなく、再び唇同士が重ねられた。
今度は引き剥がす事も出来ず、顔を真っ赤にしながらもがくが、唇は離れる事は無い。それほどの深い口付けだ。
「んぅ…んふぅ…チュッ…」
柔らかい肌が互いに触れるくらいのディープキス。密着しあう肌同士からは、互いの熱い熱と鼻息が伝わりあった。ミミはそれに興奮を覚える。
互いの肌を感じるだけじゃ物足りず、舌を口内に入れる。舌が絡み合う様に動き、唾液同士が交じり合い、互いの熱が更に上がっていく。
「チュゥ…んぅ…チュッ…んっ…」
「んん…んぐ…んんぅ……!」
初めて味わう雌との口付け、それも軽く無い。とても深い、離れる事の無い口づけ。初めてのキスが舌同士が絡み合うとはラルカ自身も想像しなかった。
恥ずかしさと、強引に奪われた事への屈辱から、掴まれた両手を払おうとしたが、ミミは全く離そうとしない。まるで、いつまでもこの夢の一時を味わいたいかの様に。
ラルカの体温が、口付けする時間の経過と共に、徐々に上がっていくのが分かる。口を離して新鮮な息を吸いたいが、まったくそれを許そうとはしないミミ。
「あむぅ…んぅ…れろ…チュッ…んふぅ…」
ミミ自身の体温も、ラルカの体温と合わせる様に高くなっていく。温度が上がるにつれ、ミミの唇や舌が、ラルカの口内を貪る様に絡み、交じり合う。
卑猥な音を発しながら、何時までも続くと思われた口付けが、やがてミミの方から唇を離した。
互いに暖かい吐息を吐きながら、交じり合った唾液から二匹の間に、銀色に光る唾液の糸を引いていた。
「はぁ…はぁ…」
「フフッ…雌の唇のお味はどうかしら?」
あまりの心地に、ラルカは反論する気力を失われ、さらに心臓の鼓動が以上にまで高まる。苦しいまでに打つ鼓動に、それでも震えるような声で言う。
「誰が…何で俺が…ゲホッ…アンタなんかに奪われなきゃ…ゲホッ…いけないんだよぉ…」
怒りなのか、ショックなのか区別のつかない声色だ。さっきまで怒りに怒鳴っていたラルカはとおの過去だった。
大事にしていたはずの『最初』が、何の予告も無しに奪われた。あまりに強引な方法なんかで奪われた。変態な雌によって。その事実を前に、ラルカは崩れるように体の力が抜けてしまった。
「あらぁ?秀才君でハンサムのあなたなら、雌とのキスの一回や二回あってもおかしく無いと思ってたわぁ。フフフ…案内ウブなのねラルカはぁ」
「この…ゲホッ…変体野郎!いつかきっと…誰かと…ゲホッ…自分から出来るかもしれないって思って大事に…ハッ!」
言葉の途中で口を塞いでしまう。しまったと言わんばかりに、表情からは激しい動揺が伺えた。ミミはその表情をみて、何かピンときたのか、急に吹き出した。
「プフッ…もしかしてあなた、自分からキスするのが出来ないんじゃないの?」
適当な言葉を言ってみたが、ラルカのビクッと大きく震えた様子を見て、それが完璧な図星だと知った。
「あれぇ?やっぱり本当なんだ。あなた女の子と口付けがまともに出来ないのかしらぁ?アハハハハ」
秘密にしていた自分の弱点がばれてしまい、悔しさと歯痒さ、ブルブル震えながら俯いてしまった。

それはまだ進化して間もない頃、いつものバトルで見事なテクニックで勝利を収めそれに見惚れたとある雌との出会いから始まった。
マスターに休憩をもらって一人で寛いでいる所を話しかけられた。相手はパッチールだった。田舎出の、しかしそれなりの魅力ある雌だった。華麗に戦う姿に惚れ。一緒に話をした。
ラルカにとって、いつもの事だったのでとりあえず適当に相手をしていた。だが、そのパッチールは異様にラルカに密着していた。
そこで、夕日が暮れる頃に別れようとし、さよならを切り出した時だ。夕日が良いムードが二匹の間に『それらしい雰囲気』を演出した。そのせいかパッチールはラルカに恋をしていたらしく、初対面の相手に口付けを要求してきた。
これもいつもの事だと思った。今まで似た事が何度もあった為、その度に断ってきた。しかし、周りがアベックだらけな為に雰囲気的に空気を読むべきと考えたラルカは、他意も無く普通に口付けをすればいいだけの話だと思っていた。
自分にとってこれが初めてだが、その時までは何とも思わなかった。互いの唇が重なろうとした時、ラルカにある異変が起きた。
心臓が、過剰に鼓動を打つ感覚がしたのだ。ドキドキなどと言える生易しいレベルじゃない程だ。ただ唇を重ねるだけなのに、心臓が破けんばかりに鼓動を打っていた。
顔や体が熱くなり、呼吸も苦しくなっていく。目の前で、目を閉じるパッチールを前に、以上にまで過剰反応していた。
もしこのまま行ったら、本気で心臓が破けてしまいそうな妄想をしてしまい、気づけば自分は口付けを待つパッチールをおいたまま、逃げ帰ってしまった。
その後も、荒呼吸をしたまま心臓の鼓動は収まらず、途中で咳き込んだ。大分たってからようやく落ち着いたのだ。
だがそれ以来、ラルカは雌との特定な交渉に至りそうになると、きまってこの発作が起きてしまうのだ。その度にラルカは逃げていた。

これは、ただ単にラルカが雌との『行為』が恥ずかしいとかの問題ではなく、異常なまでの緊張感と精神的な問題。特定の状況に陥ると、それが発作的に起きてしまう。
他の雄や雌が出来る事が、ラルカには出来なかった。その心の病気は、ラルカ自身生まれる前から持っていた唯一の弱い部分であった。
直せない訳ではないが、自分でそれを克服するのはいかに優秀な遺伝を持っているラルカとはいえ、克服するまでに半端無い訓練が必要と言える。
今ではほんの少しだけ抑えるまでに至ったが、それでも自分からキスなんて到底出来はしなかった。
こんな事、マスターやゴーやミンミン、誰にも秘密にしていた事だ。しかし、それがただの野生のポケモンにあっさりと見抜かれてしまった。
「こんなの、人間もポケモンも当たり前の様にやっている事よ?なのにラルカはそれが怖いんだぁ?可愛い~」
心の傷を抉る様なミミの言葉に、ラルカの拳はブルブルと震え上がった。
「そんな事も知らずにアナタの初めてを奪っちゃったのね。ごめんなさいねぇ、お詫びにアタシの事、メチャクチャに犯していいからさぁ」
そう言って自分の豊満な乳房を持ち上げ、誘惑をする。ラルカにそれが出来るはずがないと知っていながら…
ミミの少しの悪びれた様子も無い様子に、ラルカの表情は怒りに震えた目で睨む。その瞳には僅かながらに涙が浮かんでいた。
「あれぇ?泣いてるの?ラルカって案外純情な雄だったのねぇ」
「俺の気も知らないで…ゲホッ…アンタなんかに何が分かるんだよ…ゲホッ…誰にもまだ許してないんだよ!」
直すのが難しいと分かっても、いつか自分からできる様になりたいと今日まで誰ともしないでいた誓いだった。それを無残に踏みにじられ。涙目で咳き込みながらミミを強く睨んだ。
「雌みたいな事言うのねぇ。雄のくせにさ…?」
「こん畜生!!」
怒りが頂点に上り、大変な苦しさにも構わずミミに飛び掛ろうとしたが、首輪で繋がれているのを忘れていた為、これ以上進む事は叶わなかった。
「あらま~、優しく遊んであげようとしたのに。それじゃぁさぁ…ちょっと泣かせちゃうか…」
ミミの表情が、黒い微笑みに変わった。獲物を前にした狼のような目つきで、ラルカを見下していた。ラルカは怒り任せに、力を振り絞って首輪を引きちぎろうとしていた。完全に冷静ではいられなかった。
「まずはさ、その有り余った体力削いでしまわないとね…クスッ…」
その言葉の後に、ミミはラルカの視線と並ぶように屈み込む。そして重心を右足に掛け、地面を大きく蹴り、跳躍すると同時に左足を前に突き出した。飛び蹴りだ。
ミミの左足がラルカの腹部に鈍い音と共にめり込んだ。背後の壁に背中から激突したラルカは呼吸が止まった。怒りに夢中でミミの攻撃が予想出来なかった。
完璧に入った技を前に不適な笑みを浮かべ、腹部に入った左足をゆっくりと離した。激痛のあまり、ラルカは腹部を抱え大きく咳き込んだ。大きく見開いた目からは涙が流れ、視線も焦点が合わず、吐き気に苦しんでいる。
「うぐぅ…おぇ…エホッ…ゲホッ…うぉえ…」
キスされた時の苦しさとは比べ物にならないほどの呼吸困難に襲われた。腹部の圧迫に内臓に激しい苦痛が襲う。。
「ウフフ…さっきのちょっと強烈だったかしらね。大丈夫かしら?立てる?」
ミミの問いかけに答える様子も無く、いや、答える余裕すらないほどに激痛に見舞われていた。効果抜群の格闘技と言えど、このダメージは失神しかねない。
僅かに残ったラルカの思考力が、この結果について一つの答えを見出した。レベルの圧倒的な差だった。
外見からして可愛らしく、華奢な体系からはとても想像できない程の力量だった。立つ所か、吐く事を堪えるのもやっとだった。
「あらあら、立つのも無理みたいよね?ごめんなさいね、ちょっと本気だしちゃって…うふふふふ…」
「エホッ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
激痛で震える体に、ようやく顔を上げるだけの体力が回復し腹部を押さえながら、ゆっくりと見上げた。
流れる涙を拭い去る事も用意でないまでに苦しむラルカの無残な姿を見て、絶頂を覚えそうな快感が体中に駆け巡った。
ゴクリッと咽が鳴った。雄に対してこんな感情が沸きおこる事はミミ自身も初めてだった。
「何だか、その姿とっても素敵よラルカァ…アタシ、興奮してきちゃったわ…」
吼えるラルカに、自分のたった一撃の蹴りでどうしよもない程に無抵抗な子犬に成り下がる。
もっとやってみたい、ミミは内心、今以上のどす黒く燃える己の欲望が沸いてくるのを覚える。その衝動を抑える事が出来なかった。
糸が切れるように、腹部を押さえて震えるラルカを肩を乱暴に掴んだ。抵抗も出来ない常態のラルカの体を地べたに押し倒された。
ミミは、腹部を押さえる手をどかせると自分はその腹部に馬乗りになる様に乗りかかった。
「あぐぁ…痛い…乗る…なょ…」
「五月蝿い!犬が!!」
僅かに抵抗を試みようとするラルカに、ミミはいきなり怒鳴り声と共に、ミミの平手打ちがラルカの頬を強く打った。
「あぁぁっ!」
頬を打つ音が洞窟中に響き渡った。左頬を叩いたミミの手が、ジンジンとした。それ以上に打たれたラルカの左頬は赤く腫れていた。
痛みのあまりに頬を抑え、再び涙が流れた。
「何よ、そんなに自分の顔が大事かしら?アハハハハ!」
高らかな笑うと同時に、ミミは頬を打った右手でもう一度、右頬を強く打った。
「痛いぃ!」
ラルカが悲鳴を上げた。その声がする度にミミの欲望を快感に変えた。快感の虜にされた雌は、打つ事を止めず何度も何度も、無抵抗な雄の頬を強く打った。
「痛い!痛い!痛い!痛いよぉ!」
まるで虐待に悲鳴を上げる子供のような声でラルカは叫んだ。それでも構わず、何度でも、その端整な体を容赦なく打ち続けた。
「痛いの!?もっと痛みなさいよぉ!!」
良いわ…良すぎる…止まらない!この熱くなる衝動、ドキドキしてしまう。
気づけば、ミミの右手は痺れがするほどにまで赤く、ジンジンと腫れているのが分かった。そこでミミはようやく冷静になる事ができた。
「はぁ…はぁ…」
「…ぐっ…うぅっ…ぐぅっ…うっ…」
ラルカの方を見ると、両頬が痛々しいまでに赤く晴れ上がり、口は切れたのか薄っすらと血が滲んでいる。何よりも、溢れんばかりに流した涙で、今のラルカの無様な姿を映し出していた。
格好の良い美形が、見るも無様だった。だが、その姿がミミにとっては、溜まらない光景に映った。震えが止まら無い。
ミミ自身、自分のどす黒い欲望に絶句していた。アタシは何てサディストなんだろうと。そんな自分に愕然とするも、その表情に自然と笑みが浮かんだ。
「…ひどい様ね、ラルカァ…」
「うっ…うぐっ…畜生…」
激痛な飛び蹴りの次は、屈辱的な往復ビンタの連続。そして秘密を知られてしまったラルカのプライドはズタズタだった。今追い討ちを掛けたら、まさにガラスの如く割れてしまいそうなほどだった。
だが、もうそろそろこの遊びはお終いだ。ミミの中でそんな欲望の告げが聞こえたような気がした。いくら気分的な快感があったとしても、肉体的な欲求は不満が積もる一方だった。
「お遊びはここまでにしましょうかしら、今からアタシ達は子供を作るんだから…」
「な……何だよ…それ…?」
ミミの言葉に、流れる涙を拭いながら尋ねた。
「アタシねぇ…子供がほしいの…だからアタシ、アナタといっぱいエッチな事して。子供を生むの。それがアタシの願い…」
「は…はぁ…!?じょ…冗談じゃない…何で俺がアンタなんかと子供を…!?」
ミミの言う事に若いラルカはまったく理解できない。だがその事の重大さは理解できた。子供を作る…ミミとラルカとの子供。想像するのも怖い。
若すぎるラルカは子供を作る気など全く無い。ミミの望みを拒むように後ずさりをするも、すぐに背中の壁にぶつかった。
「何で…俺まだ…大人じゃ…無い…そんなの…分からないよ…!」
逃げ場など無いのに必死に逃げようとするラルカにミミは薄っすらと笑みを浮かべる。子供を作る理由に苦しむラルカに、ミミはゆっくりと口を開いた。
「ラルカ、アタシね。生まれたばかりの頃はそれは幸せだったのよ…多分アナタと同じくらいね」
「…?」
「タマゴから生まれたばかりのアタシは、ある人間に『このポケモンはゆうしゅうな才能を持っている』って言われた事があるの。アタシ自身そんなのどうでもよかった
 ご主人がアタシの事沢山可愛がってくれたから、幸せだった。でもね、その幸せなんて、すぐに終わっちゃった…」
語るに連れてミミの表情が暗くなり、下を一点を見つめながら続ける。
「数週間後の話…ご主人の持っていた他のタマゴが孵化してね。そいつもアタシと同じミミロルだったの…。そして再びあの人間に会って、こう言ったの。『このミミロルはすばらしい才能を持っている!』ってね…それからがアタシの幸せが壊れたんだ」
最後の部分を語った時、ミミは拳を強く握った。怒りか憎しみがうかがえるような震えだった。
「捨てられたのよ。糞みたいな主人だった。理由は簡単だわ。後から生まれたミミロルが、アタシと比べて遺伝子レベルで優勢だったの。アタシはそのミミロルに僅かに劣っていた。だから捨てられたのよ!!」
言葉の最後にミミは爆発するように激怒し、地面を強く殴り、ガンッと鈍い音が洞窟に響いた。
「あの糞主人は…そのミミロルを手にするなり、アタシをボールから出して、何処かも分からない都会の路地裏の場所でアタシを捨てた…あの糞野郎はアタシの事なんて愛してなかった。愛してたのはアタシの才能の部分のみ!
 新品の玩具をもらって、古い玩具がいらなくなったと同じ様ににアタシを捨てやがったのよ!!」
怒鳴る口調からは涙声が混じっている。恐る恐るラルカがミミの顔を覗き込むと、怒りで可愛らしい顔を台無しにした涙目のミミだった。
「そこから生活は一変して地獄に変わったわ。その時はちょうど冬の最中、まだ温もりの恋しい子供に冬の寒さは堪えたわ…。寒さだけじゃない、空腹の飢えに苦しみながら都会を彷徨ったわ。野生の様に自分でご飯を探す事なんて出来なかった…
 アハハハ…当然よね。つい最近までは糞主人の腕の中で温もって、ご飯をもらっていたんだもの。そんな術知る訳ないわよね!生まれてほとんど間もない赤ん坊のアタシが、糞寒い都会に捨てられ、野良犬のように彷徨ってたんですから!
 捨てられて空腹のあまりにようやく最初に口にしたのは、ポリバケツに残ってた糞人間の食い残したカスみたいな残飯、そして路地裏に捨てられていた物を寄せ集めて造った寒さを凌ぐ為のゴミ小屋…笑えるわ…」
顔をあげて、左手で自分の顔を抑えながら笑いだした。だが、顔を覆い隠す手の間に流れる涙は、壮絶な悲しみを物語っている。
「他の野良ポケモンに追い払われて…ズタボロに痛めつけられ、凍えるような雪に覆われて…それでアタシは生きてきた…毎日死ぬような思いをしながら一匹でね!
 一匹で生きていく内に…アタシは生きる術を自然に学んだ。他の野良ポケモンが食ってた人間の残飯を…近くの石でその頭をぶち割って…横取りした…寒い時なんか…暖かそうな毛皮を持ってる奴の皮を引きちぎって奪いとってやった…
 生きる為に…色んな悪い事した…血を見る事もしてきた…最初は怖かった…でも…段々慣れちゃって…欲しい物があったら、その度にひどい事して奪い取ってきた…うふふ…とてもまともな生き方なんて言えないわよねこんなの…」
涙ながらに語るミミの壮絶な過去。ラルカにはとても想像が出来なかった。自分との境遇が全く違っていた…
「ラルカぁ…わかる?アタシがどんな思いで生きてきたか…恋人も優しいご主人はもちろん、一緒にいて嬉しい仲間一匹アタシには居なかった…みんなアタシを恐れて近寄らないし…アタシも生きる為、他人を利用するだけしかしなかった…幸せなんか全然なかったのよ…!
 アタシとラルカは違う…ラルカは…選ばれて…優しい主人持って…暖かいご飯食べれて…暖かい場所で眠れて…仲間がいた…アタシには何一つ、ラルカの持っている物がなかったのよぉ!!」
激しい怒りに狂うミミの姿に、ラルカは何も言えなかった。欲しいと思えば誰かから与えられる、人生とはそんな物だと思っていた。
「良いわよねラルカは…アタシなんかより遥かに幸せで…アタシ、幸せって何だか分からないの…だから生きていても面白くないの…
 一匹狼みたいに過ごしてきたんだから、誰かと一緒な生き方なんて考えられない…それほどアタシは不幸だった。幸せなんてもう無いと思ってた…でもね…」
左手を降ろして流れる涙を拭い、ラルカに向き合うと、まだ暗い表情を引き攣ったまま笑みを浮かべ。
「そんなアタシに、望みが出来たの。それが子供を作る事。アタシが母親になる事なのよ…」
「なんでそれが…アンタの望みなんだよ…」
唖然としていたラルカがようやく口を開いた。ミミは理解してはもらえまいと思いつつも答えた。
「ミミロルだった頃。ガルーラ連れのトレーナーを見たの。そのガルーラ、お腹に子供を抱えていたの。
 当時のアタシからしたら、子供なんて面倒なお荷物しか思わなかったの。でも、子供を抱えたガルーラの顔を見て、とても幸せそうだった。雌にとって何が幸せなのか、子供を持つ事が幸せなのか…アタシは気になった。
 アタシも…子供を持つようになったら、あのガルーラのように幸せになれるんじゃないかって…思ったの。だから、どうしても子供を生みたい…それが理由よ…
 うふふ、だからラルカには、アタシの夫になってもらってぇ…子供を作るお手伝いをして欲しいのよ。分かってもらえたかしら?」
「そんなの勝手すぎる…!俺にだって幸せがあるんだ…マスターやゴー兄さんやミンミン姉さんと一緒にいる事が…そんなに子供が欲しいなら他の奴でやってくれよぉ!」
ミミの幸せの為に自分がその礎になるなんて、そんなの分かるはずが無い。ラルカとてまだ子供、父親なんてあまりにも早すぎる。
「他の奴じゃ駄目よ…エロい目でよってくる雄共はいるけどさ…みぃんな弱くて、劣勢ばっかだから…アタシはこれでも優秀なんて言われた。ラルカと同じ『高個体種』なんて呼ばれてたのよ
 よってくる雄が劣勢じゃ意味が無いのよ。釣り合わないしね?でも、ラルカとアタシみたいな強い遺伝子を持ったポケモン同士となら、生まれる子供もより良い強い子が生まれるでしょ?母親として丈夫な子供を埋めるならそれにこしたことはないわ
 何よりアタシ達、性の相性良さそうだし。ウフフ」
高度な遺伝子を持つ親同士なら、親の長所を受け継いだより強いポケモンが誕生する。それを利用して、育てやに遺伝子レベルの高いポケモンの雄雌を預ける例もある。
だが、自分が優勢な遺伝子を持つからって、それを理由に父親を強制されるんあて、可哀想な過去を持っているとは言え、勝手すぎる。
「誰が、アンタの子供の父親になんかなるかよ…」
「まだアタシのお願いを聞いてくれないの?まぁ嫌がった所でアタシが勝手にするだけだけどさ」
「俺を…俺をここから放せ!マスターの所に返せぇ!」
強引な口付けで心臓が苦しい状態だが、体に鞭打って首輪を外そうと足掻きだした。興奮で更に高まる鼓動にも関わらず、力いっぱい叫び暴れだす。
「ふぅ、まだその気にならないんだ。それならもう一個使ってみようかな」
するとミミは自分の背後から、さっきのハートの形した木の実を取り出し、残った手でラルカの肩を掴み、体重を掛けて強引に押し倒す。再び仰向けの形になってしまう。
「うぐっ…その木の実、何なんだよ…、それ食べてから変な気分に…!」
「気になるんだぁ。これはね、ホウエンで取れる不思議な木の実なのよ。食べるとすっごくエッチな気分になるの。ウフフ…」
「さっきみたいって…こんな変な気分になるのを分かって食わせたのかよ!?」
「そうそう、あなたならいっぱい感じてくれそうだし、苛めがいがあるわ。フフフ…」
「黙れぇ…!」
怒りを力に変えて、押し倒すミミを力づく押し返そうと両肩を掴む。レベルが低いとはいえ、雄のラルカにとって雌に押されっぱなしはプライドに傷が付くのだ。
「わっと…あれだけ痛めつけたのにまだ抵抗出来るみたいね、それじゃ…」
ミミは片手に持っていたハート型の木の実を自ら食す。ある程度口の中で噛み砕き、それを飲まずに口元をラルカに近づけ。
「んんっ…!」
「んぅ…ん…」
口内で噛み砕いた木の実をラルカに舌を絡ませながら。口移しと言う形で強引に食させた。
「んちゅっ…んふぅ…」
「んぐぅん…んんぅ…!」
食すのは危険と分かって吐き出そうとするが、ミミの唇に完全に塞がれて吐き出せない。飲み込むまで離す気もない。
次第に呼吸するのも苦しくなり、ラルカの口内で噛み砕かれた木の実を飲み込む咽の音がした。それを聞くなりミミは唇を離した。
「ぷはぁ…!ゲホッ…ゲホッ…ハァ…ハァ…」
苦しそうな吐息をし、絶望的な表情を浮かべながら飲み込んでしまった自分の咽を両手で押さえ込んだ。
「ウフフ、よーやく飲み込んだわね…ほどなく体が熱くなってくるわ…」
ミミはラルカと額を合わせ、天使のような笑みを浮かべながら、悪魔の呟きをささやいた。
「アタシの為に壊れるまで絞らせてね、ラルカ…」
そしてミミは、もう一つの方の木の実を背後から取り出した。ピンクが濁った色をした丸い形の気の実。
「ゲホッ…何だよそれ…!?」
「これをね…アタシが食べるの。そしたら、すごい事になるの…」
「はぁ…はぁ…すごい事…?」
「体で教えてあげる…すごく気持ちが良い事したくなる木の実なの。アタシも初めて使うんだけどさ。本当ならラルカにこっちを食べさせようと思ったけど、子作りしながらラルカを苛めて遊ぶのもいいなって思ってね…ウフフ」
不適な笑みを浮かべながら言うミミに、ラルカの表情が引きつった。あの濁り色の木の実は危険だと、本能的に察知した。
自分が食すのじゃ無いと知ると一部安堵する反面、それをミミが食したらどうなるのか、ラルカには想像が付かなかった。
ラルカの表情に恐怖の色が浮かび、それを楽しみに見つめながら、自分は手に持っていた木の実を噛り付いた。
「はい、食べちゃった~」
悪戯に舌を出し、持っていた木の実が無くなった事をラルカに確認させた。
「…クッ…!」
ラルカは今すぐにでも逃げたい気持ちだが、今この状況から逃れる術が無い。絶望的な気持ちの中、ミミの異変に気づいた。
「うはぁ…なんだか凄い…体が芯から熱くなってきた…」
子宮がすごく疼いた。ミミが自分の秘所に触れてみると、湿っているのが分かった。愛液が付いた自分の手を、ペロッと舐める。
「ミ…ミミ…?」
顔が火照り吐息が荒いミミを見て、さすがに心配になったラルカは思わず震えた自分の手で相手に差し伸べた。
「心配してくれるの…?うれしい…ならアタシがアナタを気持ちよくさせてあげる…」
差し伸べるラルカの両手を取ると、ミミはその両手を自分の乳房に自ら押し当てた。
「…っ!?」
初めて触る柔らかな感触にラルカは痛みを忘れ、驚き、混乱した。
「どう?アタシのおっぱいは、柔らかいかしら…」
ラルカの手には余るほどの巨乳が目の前で形を変えながら、ラルカの目の前で踊った。
フサフサな毛越しに伝わる、押すと脂肪がムニュゥっと沈み、力を抜いて離すと弾んで戻る。非常に弾力のあるマシュマロ見たいな感触。驚くほど柔らかかった。
ミミは自分の胸に手を当てたままのラルカに、その手に沿うように重ねる。続けて両手を回すように動かし、乳房をグイグイと押し付ける。
「んぅ…気持ちいい…ラルカの手で…アタシの胸が揉まれてる…あんっ…」
触られる刺激から、徐々に強く揉ませた。時には触る場所を変え、下から持ち上げるように触らせる。
「あんっ…もっと乱暴に…揉んでぇ…気持ちいいのぉ…んぅ…」
甘いと息を漏らしながら。物足りない快感を求め、ラルカの両手でグニュッと胸を鷲掴みさせた。最初のより更に心地の良い感触が彼の手の平を刺激した。
余りの揉み心地の良さにラルカの頭に電気が走った。咽の渇きと欲望が彼を支配する。
そして乳房を鷲掴みにしたまま、ミミは両手を激しく上下に動かした。弾力ある脂肪の塊が目の前で弾く。魅惑のダンスがラルカの手の平で踊る。
「あぁん…イイ…気持ちいい…!ラルカ…もっと握って…揉んで…もみくちゃにしてぇ…」
ラルカの手の感触が胸に伝わり、微妙な大きさがまた、心地よく、快感だった。強弱を付けながら揉ませ、やんわりと揉ませたり、時に強く扱わせたり。
優しくムニュッと、また激しくにギュゥッといったり。リズミカルに、上下に揉ませまくり、豊満な乳房の形をメチャクチャにした。
自分で触るのとは違い、ラルカと言う雄に、自慢な巨乳でデリケートな胸が犯され、メチャクチャにされるのが堪らない。触るだけでなく、吸われたり、汚されたい。
雄に触られるだけでここまで敏感になるなんて、こんなの癖になってしまう。耐えられない。理性が保てない。
止まらない、楽しくて、気持ちよくて、心地よくて、甘美で、堪らなくて、どうしようもなくて、でもこれだけじゃ全然足りない。
「ラルカの手が…んぅ…アタシのおっぱいが…犯されてる…気持ちいい…あんっ…だめぇ…耐えられない…こんなの…んぅ…」
ミミの欲望に対する感情は、膨れ上がるばかりで、限度が無い。もはや手の平だけでは終わらなかった。
一度、ラルカの両手から手を離す。短くとも長いとも思える甘い一時が終わり、ラルカの両手を乳房から離した。乳房はあまりに激しく揉まれた証から、汗が滲み出ていた。
ようやくミミの乳房から開放されたラルカは己の両手を震わせながら見つめていた。あまりの心地よさから、一時正気が失われていた。
離した後でも、あの強い弾力から来る感触が手の平に燻るように残る。自分の目の前で揉みくちゃになったミミの胸が今でも脳裏に浮かび上がる。しかし、それだけには終わらなかった。
ミミは両手でラルカの両頬を強引に掴み、力任せに仰向け状態のラルカの上半身を無理やり起こす。
「わっ!?何を…んぐぅ…!?」
「揉むだけじゃ…物足りないのぉ…」
強引に起こし、その先に待っていたのはさっきまで揉みくちゃにしてた豊満な乳房。目の前まで顔を持ってこられ、迫力のあるミミの弾け飛ぶ乳房にラルカの顔面が押し付けられた。
ラルカの後ろ頭を両手で抱える様に持ち、自分の胸の谷間に無理やり押し付けるように抱えた。
「顔でも…アタシのおっぱいを感じて…ほら、ラルカも気持ちいいでしょぉ…」
興奮で暖かく荒い吐息が頭部の頭上に吹かれる。そして胸の谷間越しに、ミミの鼓動がリズミカルに鳴っている。それはラルカとて同じだった。
「今度は…アタシがおっぱいでラルカのお顔を犯してあげる…」
ミミは谷間にサンドしたまま、両手で自分の胸を横に持ちあげると。外側から力を加え、ギュッと力強く乳房を寄せた。
「んぅぐ…!?」
挟まれた状態のラルカの顔面に、雌の汗が香る暖かい柔らかな肉質の脂肪がグイグイと押し寄せてくる。何度も胸を寄せあげてはラルカの顔を圧迫した。
顔のほとんどが乳房に埋もれ、ラルカの視界には何も写らない。耳から聞こえてくるのは胸を寄せるギュッギュッとする音のみだ。
弾力ある脂肪は顔のあらゆる部分を塞ぎ、視界の自由と呼吸の自由を奪い、甘い甘美な臭いが嗅覚を麻痺させ、残り僅かな理性すら侵す。言葉通り、自分の顔がミミの乳房によって犯されている。
「んぁ…ラルカの鼻息…おっぱいにかかってるぅ…もっと…そのお顔メチャクチャにしたい…」
今度は顔を挟んだまま、先ほどみたいに胸をリズミカルに上下に動かす。柔らかな肉が顔面を擦り、興奮と刺激が往復に襲い掛かった。
「どぉ…?おっぱいの挟まれて…気持ちいい?苦しい?呼吸が出来なくてもがきそう?でもダメ…アタシの胸に溺れて…もっとアタシを興奮させてぇ…」
「ん…んぅ…んんん…!」
息苦しさから喘ぎ声を胸の中で漏らす。呼吸をする間もろくに与えず快感を貪る雌獣の乳房がラルカを呑み込もうとする。
上下に激しく動かし、時に左右に上下に動き、幾多のパターン動く。
「はぁ…ラルカぁ…こっちも犯してあげる…ペロッ…」
左手で乳房を抱え、右手はラルカの後ろ頭を抱え込んだ。そして胸元に押し付けたまま、ミミはラルカの耳の付け根辺りを舌で舐める。
「ンン…ぅ…!」
舌が耳に触れた瞬間、厭らしい感触にラルカの全身が身震いした。ミミは構わず、付け根からなぞる様に耳の先端まで、ねっとりした舌を滑らした。
「ラルカァ…お耳がピクピクしてるぅ…レロ…ここが気持ち良いのねぇ…んふぅ…」
「ふんぅ…んんぅ…んっ…!」
谷間からラルカの喘ぎ声が漏れる。背筋から頭部に掛けて走る電流に溜まらず、声を抑える事が出来なかった。
「やっぱりぃ…お耳も犯してあげる…ふぅ~…」
唾液でベタベタになった耳に、こそばゆい吐息を掛ける。それもまた、ゾクッとする刺激を与えた。
舐めるだけじゃ物足りず、ミミは口を耳の先端部分に持っていき歯を立ててきた。強弱の無い、コリッコリッと先端を歯で弄り遊ぶ。
「んぐっ…んっ…んんぅ…んっ…」
「んくっ…お耳カリッとされるの好きなのぉ?アナタのそういう所…可愛らしいわぁ…んふぅ…」
強すぎる刺激に、耳が小刻みにピクピクと震えているのが分かる。痛くはせずとも、歯跡が残るくらいの強さで甘噛みをする。
時に離し、下で先端部分を突いたり嘗め回したり。暖かな吐息と共にミミの愛撫に弄ばれる。
耳への愛撫に胸の谷間に押し付けられる強烈な快感をもろに受け、若いラルカの思考はオーバーヒートを起さんばかりに興奮していた。
胸に手を当てずとも、今ラルカの心臓の鼓動は異常なくらい音を立てて脈打っているのが分かる。
「楽しい…気持ちいい…ダメ…止められない…アタシの…鼓動が収まらない…何時までも…こうしていたい…」
有り余る性欲に身を任せ、体力の続く限りラルカをいじめ、弄び、気持ちよくなりたいと言う願望だけがミミを支配している。
「もっと…もっと苛めたい…ペロッ…どうしたらラルカもっと泣いちゃう?レロ…気持ちよくなれる?」
試行錯誤する中、ある答えにたどり着いたミミはようやくラルカを乳房と口から開放し、ラルカを自由にした。
「んはぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…ゲホッ…」
開放された瞬間、新鮮な空気を取り込もうと荒呼吸で吸い込む。顔色がミミの顔と同じくらい熱く、真っ赤に染まっている。
視点の定まらない虚ろな目で流れる涙にも気づかず、空間をただジッと見続けていた。だらしなく半開きされた口からは僅かにこぼれている唾液を拭う事も無く…
今のラルカは、激しい愛撫攻撃によって思考が完全に麻痺している状態だった。
その淫らな姿を潤んだ瞳で見つめるミミ、そして、そのまま視線をラルカの下半身に落とす。それに気づくとミミは前に屈み、同時に両手でそれを手に取り。
「すごい…こんなにガチガチになってるぅ…」
雄特有の象徴が、胸や口の濃厚な愛撫によって成された逸物は膨張しきって、先走りで溢れてて輝いて見えた。何より血液の集中で逸物はこれ以上無いほどにまで硬く勃起していた。
「こんなに大きいのぉ…堪らなくなっちゃう…ラルカのえっちぃ…チュッ…」
うっとりとした目で両手でそれを触れまくり、感動の余りに逸物の先端に口付けをした。
膨張しきった逸物に柔らかな唇が触れ、またラルカの体が大きく震えた。
「うっ…はぁっ…」
ミミを離そうと右手を持ち上げようとするラルカ。だが、思考が快感を欲求するあまりに理性が麻痺した状態で、ほとんど力が出せなかった。
「だめねぇ…見てるだけでもう…アタシ我慢できなくなっちゃうじゃなぁい…スケベなおちんちん…チュッ…あむぅ…」
二度口付けした後、舌で舐めながらゆっくりと口内へと咥え込んだ。
「ふぐっ…くぅ…あっ…あぁ…!」
滑るような舌に生暖かい口内に咥えられる快感で、ラルカに更なる快感が襲った。
「んふぅん…ペロッ……ジュルッ…チュル…チュル…」
左手で逸物を支えながら、ギンギンに硬くなった逸物を可能なまで奥に入れ、美味しそうに吸い付く。卑猥な唾液音を発しながら、ゆっくりと口内で出し入れを繰り返す。
「あっ…あぁ…ミ…ミ…や…や…め…」
容赦なく迫る快感の波に、成す術が無いラルカ。思考の片隅に僅かに残った理性で言葉を発し、自分の逸物から離そうとしたが、無限に快楽に要求する体がそれに従おうとしない。
それに答えるかの様に、ミミは口内の舌で逸物の先を突き、舐め回した。
「んふぅ…ジュルッ…チュッ…ジュルッ…レロッ…」
「あぁぁっ…やぁ…あぁっ…うっ…あぁっ…あっ…ぁ…!」
舌先での先端部分と、唇での逸物全体への愛撫に快感の波は強烈なものとなってラルカの頭全体に走る。
その耐え難いほどの快楽に、視点がおかしくなり、気づかぬまに涙が溢れる。だらしないまでに口が開きっぱなしなまま喘いだ。
野生にしては手馴れたテクニシャンで、だが逸物に対する欲望は獣並みなミミは、狂おしいまでにラルカの逸物に吸い付き、舌で舐め回し、しゃぶり続ける。
上目遣いでラルカの淫らな表情を見て、更なる興奮を覚えたミミは可能な限りまでラルカを快楽の餌食にし、涙と涎まみれにしてやりたい気持ちが膨れ上がる。
それ以上に今咥えている物に対しての欲望が抑えられず、貪るよう出し入れを繰り返す。出し入れのスピードをあげ、もっと、もっとラルカを狂い苛めたい。
「んぷっ…チュルッ…ジュル…ジュル…んふぅ…」
口内に伝わる逸物の打つ脈を楽しみながら、後どのくらいしたら絶頂に達するのか想像していた。いつ爆発してもおかしくないと思いながら。
「で…で…出そ…う…何か…あぁぁっ…うあぁ…」
涙声で、訪れるそれに混乱しながら。それだけの言葉をようやく口にしたラルカ。
絶頂が近いと知ったミミは、口内で出し入れを繰り返す速度を更に速めた。唾液音が洞窟内に響かせながら逸物を貪る。
「ジュプッ…ジュプッ…ジュプッ…ジュプッ…ジュプッ…」
逸物を舌で当てながら、頭の中で『早くきて…いっぱい…いっぱいだしてぇ…』と願う。
『汚したい…汚されたい…その膨張しきった逸物でドロッとした濃厚な精液をアタシの口内や体にぶちまけて、めちゃくちゃになるまで汚して…アタシのお口で狂うように精液を吐き出してぇ…!』
欲望に満ち溢れ、口にせずとも頭の中でその台詞が自然と出てきた。
「ひゃっ…だ…め…とめ…て…し…死ぃ…ぬぅ…」
絶頂間近に迫り、激しい電流に思考が狂い、天国に上ってしまう幻覚を見る。
「んんぅ…ジュプッジュプッジュプッジュプッ」
思ったより絶頂が襲いラルカに焦り、顎が疲れてしまいそうなほどの速度で逸物をしゃぶりまくった。そして…
「ぃ…あっ…アッ…ああぁぁぁっ…ぁっ…ぁっ…ぁぁぁっ…!」
押し殺すような枯れた悲鳴をあげ、ラルカは絶頂に達した。
ミミの口内で、逸物の先から濃厚な白濁液が暴発したかのように吐き出される。脈を打ちながら激しい勢いで射精を繰り返し、ミミの口内はラルカの精液で瞬時に満たされる。
「ゴクッ…ゴクッ…んぶぅっ!?」
飲み干そうとして咽を鳴らしながら飲むが、圧倒的な射精量においつかず。飲みきれなくなったミミは口内に精液を蓄えたまま口を離す。
勢いの止まらない射精がミミの顔面にビュッビュッと撒き散らし、瞬く間にその可愛らしい顔立ちを白く染めあげた。
それでも尚勢いは衰えず、ミミは左手で持っている逸物の角度を下げ、精液を自分の胸にまで掛けた。何度も何度も脈を打ちながら、豊満な乳房のほとんどを白濁液で染め上げた。
信じられないほどの量が、それも暖かく濃厚で、勢い良く飛び出るラルカの精液に、ミミは驚き、うっとりしながら眺めた。
どれくらい射精を繰り返したか、数える余裕すらなく、大分たってからようやく逸物から吐き出される精液の勢いが衰えた。
「んはぁ…濃いぃ…こんなに大量に出してくれるなんて…ラルカったら相当溜まってたのね…顔も胸もビチャビチャよぉ…」
白濁液に掛けられた胸を手ですくって舐めた。精液の臭いが辺りに臭ってくる。
「見てぇラルカ…これ全部あなたが出したのよぉ?若いのにすごいわぁ…よほど気持ちよかったのねぇ…ウフフ…」
魅惑な体にぶっかけられた姿を見せつけてくる。ラルカ本人は、あまりの激射の快楽で虚ろになっていたが、それでも歪む視界でそれを目にしてとても信じられない様子だった
自分の性器から、あれだけの精液の量が吐き出された事に動揺が隠せなかった。
「これだけ…濃いのがいっぱいだせたら、子供の一匹や二匹、余裕で作れちゃうわねぇ…」
「はぁ…はぁ…何だよ…これ…全部俺が…!?」
「そうよぉ…これ全部あなたが出したのよぉ…こんなに出してくれて嬉しい…でもぉ…まだまだほしぃ…」
有り得ない位に出た射精量と、瞳を潤せこれでも足りないと要求してくるミミに、火照った体に怖気が走る。しかし、その気持ちに反する様に逸物は射精後も衰える事なく状態を維持していた。
「ラルカァ…全部絞りつくしてあげるぅ…チュッ…チュッ…」
飢えた野獣のような、色っぽい目つきでラルカの逸物に口付けし、残った精液をも吸い取る。
「あっ…くぅ……ミ…ミミィ…もう…やめて…あぁっ…!」
「チュゥ…チュゥ…んふっ…」
萎えてしばらく落ち着くと思っていた快感は間を持たず、すぐに迫った。これも木の実のせいなのかと内心思いつつも、ミミの吸い付きに抗えない。
「んはぁ……ラルカのおちんちんカチカチでおいしぃ…今度はこれで感じてぇ…」
逸物から手を離すと、自分の乳房を持ち上げると、その逸物にゆっくりと挟む。
「うあぁっ…!?」
「お口だけじゃなくて、おっぱいでも気持ちよくなってよ…」
重量感のある乳房が、硬度のある逸物を柔らかに包み込む。逸物越しに感じる乳房の体温と肉質が心地よいぐらいに刺激する。
「これはね…ペロッ…おちんちんをおっぱいで包んじゃうと、すごく気持ちが良いんだってぇ…ラルカも気持ちいいでしょぉ…?」
射精の後にも関わらず、むしろラルカの逸物は包み込まれて今以上の大きさにまで膨張していた。
「すごいわぁラルカ…アタシのおっぱいでこんなに大きくなっちゃってぇ…まだまだイけそうね…フフフ…」
ミミはゆっくりと乳房を上下に動かす。胸に掛かっていた精液が逸物と擦れてネチャッと音がした。
「うはっ…あっ…くぅ…んっ…!」
フェラとはまた違う、柔らかい肉質的な部分が逸物全体を根元から先端まで刺激が走る。反抗する気力を根こそぎ奪うこの快感に逆らう事が出来なかった。
「良い鳴き声ぇ…そんなに気持ちいいんだ…もっとおっぱいで苛めてあげなきゃ…」
次第にミミは胸の上下運動を激しくする。精液と擦れる音が一段と高く響き渡る。
「あぁっ…あっ…止め…て…駄目…おかし…く…なるぅ…くぁぁ…!」
「ラルカのおちんちん…すごい脈を打ってる…胸から伝わってくるわぁ…」
「あっあぁっ…変に…なるぅ…なんでぇ…これだけで…こんなにぃ…!」
視界が潤んで歪んで見える。先ほどのフェラ行為と同じく、強烈な快楽に僅かな理性が保てなくなる。
「おっぱいでされてるだけで気持ちよすぎて泣きたくなった?いいわよぉ…もっと泣いて。アタシを満足させて…そしたらもっと泣かしてあげる…!」
ミミは胸の上下運動だけでなく、先っぽに舌で突く。そして我慢汁を嘗め回すように先端を愛撫する。
「むぁっ…うぁぁ…まじ…で…おかひく…なる…止め…てぇ…ひぁっ…」
木の実の効果もあるが、それに伴うミミの愛撫に、快楽に精神が犯される。普段引き締まった表情は跡形も無く、無抵抗にミミの玩具と化していた。
「ペロッ…ピチャッ…んっ…狂ってぇ…泣いてぇ…アタシに犯されながら、身も心もめちゃくちゃになってしまってぇ…」
興奮任せに乳房を激しく揺さぶり、舌で先端を弄り回すように舐め、この快感を前にラルカの瞳は涙を流すだけで何も見てはいなかった。
やがてラルカの逸物は絶頂が近くなり、それを感じ取ったミミは口元を逸物に付ける。そして胸で逸物をギュッと締め付けると唇で逸物の先端部分を強く吸い付いた。
「っ…!?あ、あっ…あああぁぁぁぁぁぁっ!!」
乳房の圧力と柔らかな唇の吸い付きが強烈な快感となって、声を抑える事が出来ずに絶頂をした。
二度目の射精が始まり、ミミはこれも口内で受け止める。ビクンビクンと逸物が脈を打ちながら濃厚な白濁液をぶちまける。
「んぎゅ…んくっ…んくっ…んくっ…んくっ……ゴクッ…」
苦しそうに顔を強張らせるミミだが、激しく放射する精液を必死に飲み込んだ。最初の射精とほぼ変わらないほどの勢いにも関わらず、漏らす事なく今度は全部受け止めた。
やがて、ラルカの二度目の絶頂はミミの口内で終えた。
「ぁっ…あっ…はぁ…はぁ…」
射精が終わった後も、ラルカは津波の様に押し寄せた快楽地獄に体の一部が痙攣していた。
「んぱぁ…全部飲んじゃったぁ…ラルカの精液、濃くておいしい…癖になっちゃった…」
口を右手で拭い、顔を上げてラルカの顔を見た。
だらしないまでに口が開き、視点の会わない瞳に涙を拭う余裕すらないまでに追い詰められた波動の覇者と呼ばれたルカリオの無様な姿。ラルカの精神はすでに快楽のあまりにボロボロになっていた。
自分がラルカをこんな風にした。そんな優越感がミミの気持ちを満たす。しかし、未だに逸物の味を味わって無い子宮は、逸物を欲求するかのように疼く。
「たった二回の射精でこんなになるなんてぇ…そんなに気持ちが良かったのねぇ…すごいわこの木の実…」
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…ぁっ…ぁぁ…もぅ…終わりにぃ…して…くれぇ…」
枯れた声が、ミミに届く。ミミが望んだ通り、ラルカの表情は快楽と涙でグチャグチャになっていた。
「だぁめぇ…アタシ、まだ気持ちよくなってないもん……」
まだあるのかと、ラルカは絶望的な気持ちに陥った。それを知る事なくミミは体を起こし、ラルカの腰部に来ると。
「今度は、二人一緒よ…いっぱい気持ちよくなりましょ…ウフッ…」
「もう…やめ…」
「まだこんなに元気にして言う台詞じゃないわねぇ…」
ミミは両手で未だ状態を維持しているラルカの逸物に触れながら、それを掴む。
「アタシのあそここんなにグチョグチョよ…ラルカがこうさせたんだからぁ」
自分の秘所を片手で広げ、ラルカに見せる。初めて見る雌の性器を前に、驚きと恥ずかしさに、心臓の鼓動がまた高まった。
「もう限界なのぉ……アタシを感じながら…もっと泣いて…」
「ま…まって…」
ラルカの慈悲を乞う声を聞こうともせず、逸物を支えたままミミは秘所をゆっくりと腰を降ろす。
「アッ…!アァッ…!」
「ウッ…グッ…ウウッ…!?」
愛液で濡れていた秘所に逸物が進入し、二匹の間に激しい快感が走った。
「あぁん…気持ち…良い…ラルカのが…アタシに…入ってきたぁ…」
雄の肉竿を食らい、その快楽に身を捩じらせた。ラルカはフェラやパイズリと違う、熱い膣内に締め付けられる逸物から別の快感が走る。
「あっ…ミ…ミィ…きついよぉ…!」
「んんっ…ラルカァ…あなたの…すごく…熱いわぁ…入れただけなのに…感じちゃう…」
「ミ…ミィ…これ以上…耐え…れない…きつすぎるぅ…!」
「あんっ…アタシの…ラルカのが…欲しくて…ずっと…我慢してたんだよ…んっ…」
痛いほどにまで締め付けるミミの膣内にラルカは悲鳴に近い喘ぎ声をあげる。
そうなるまでにラルカの逸物を欲しがったミミはお構い無しに、二匹が繋がっていく卑猥な音を発しながら腰を降ろす。
やがて逸物を根元まで降ろし、ラルカの逸物を全部飲み込んだ。
「ふあぁっ…ラルカのぉ…気持ちよすぎる…アタシ…今ラルカを…食べてるんだぁ…」
「…ぐぅっ…うっ…うぅっ…」
ミミと完全に繋がり、湿った熱い膣内と離さないと言わんばかりに締め付ける膣の締め付けに、快楽に襲われるラルカの目から涙がまた流れた。
「ラルカァ…素敵よぉ…こんな気持ちいいの…アタシ…初めてぇ…」
嬉しそうにラルカを感じ、涙目で震える。
「俺は…こんな形で…するの…望んで…無いぃ…」
初めての貞操喪失に、ラルカはショックでもはや抵抗する気力も無かった。何から何までミミに蹂躙された。ファーストキス、貞操、体、精神まで…
「うふ…動くよ…あっ…あんっ…らるかぁ…」
「ぐぁっ…あっ…み…み…ぃ……!」
ラルカの両手と重ねるように手をとり、ミミは腰を浮かせ落とすの行為を始めた。二匹が繋がっている部分が愛液と重なり合い、グチュッと擦れる音を発した。
「あぁっ…あっ…いいっ…あんっ…あんっ…」
「ぐぁっ…あっ…んあっ…あっ……あぁっ…」
逸物が膣内に入る度に、二匹の甘い喘ぎ声が洞窟に響く。リズミカルに一定の感覚で腰を動かす。
「き…気持ち…いいょ…らるか…あんっ…すごい…あんっ…」
「熱い…んぐっ…そんなに…動かない…でぇ…あぁっ…!」
二度目の絶頂をにも関わらず激しい快感が襲う。そして今始めて逸物を感じるミミにも、その激しい快感に夢中になっている。
より快感を得ようと腰のピストン運動を激しくし、喘ぐ声もまた一段と高くなっていく。
「あんっ…あんっ…あぁんっ…もっと…気持ちよくしてぇ…!」
「あぁっ…みみ…ぃ…みみぃ…んあぁっ…」
激しい運動から体が熱くなって、互いに汗を流す。それが甘い香りとなって鼻孔を刺激する。
自然と上下のピストン運動は更に激しくなり、絶頂前にこの上ない快楽が二匹を支配する。
「らる…かぁ…あたし…イ…きそう…動いて…あなたも…いってぇ…いっしょ…にぃ…」
喜びと快楽に喘ぎながら、涙をポロポロと零す。互いに絶頂をしようとラルカも抗わず、自分から腰を振って激しくぶつかり合った。
膣内で逸物が激しく擦れ、お互いはもう限界に近かった。
「みみぃ…みみぃぃ…ぃ…ぃ…!」
すでに涙でいっぱいなラルカの視線には、乱れるミミの姿だけがようやく写る。
「らるかぁ…あたし…もう…い…くぅ…いくぅぅぅぅぅっ!!」
「み…みぃ…がっ…あっ…あっ…ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
絶頂は同時に起こり、ラルカはこれまでになく絶頂し、ミミの締まる膣内に激しく射精した。
「あぁぁっ…らるかのが…あたしの…なかで…出てるぅ…熱いよぉ…」
手を取り合ったまま、ラルカは絶頂で言葉が枯れてもなお逸物は射精を繰り返した。何度も何度も、脈打ちながら。
二匹を繋いでいた秘所からは、収まりきれなかった精液が漏れ出ていた。
「らるかの…すごく…多くて…入りきらなぁい…」
「ぁぁっ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…」
力尽き、声も出せなくなったラルカ。吐息だけが今の彼の発する事の出来る唯一の声だった。
「らるか…絶対はなさなぁい…あたしのものぉ…ハァ…ハァ…」
射精を終えた後も二匹は繋がったまま、暗い洞窟で暖めあっていた…
少しの時が経ち、ミミは疲れを癒し終えていた。傍らに居るラルカを横目で見て。少し絶句する。
さっきまで、軽い調子で話をしていた若いルカリオが。三度目の射精で、虚ろになり、声も無く呼吸をしているだけだった。
ミミ自身も、ハートの形した木の実の凄まじい効力に驚いた。これがある限りラルカを物にするだけに留まらず、性奴隷に出来そうだ。
何より、木の実の効力はまだ続いている。あれほどの大量射精に気力が0な状態のラルカの逸物が、未だに状態を維持していた。
そして、ミミ自身もまた、木の実の効果なのか。落ち着いたと思ったとたん急に体が熱くなっていくのを感じた。だが…
「これ以上出させたら、ラルカ本気で壊れてしまうかも…」
普通なら三回程度の絶頂で若い雄が壊れるはずが無い。だがこの木の実の齎す快楽と絶頂の心地は、通常では有り得ないまでに食した相手に快感を与えてしまう。
もはや劇薬。媚薬などと生易しいレベルじゃないくらいの威力だ。それを眠る前と起きた後に二度も食させたのだ。想像出来ない程の快楽に見舞われたのだろう。
まだ大人じゃない体に、この快感はあまりに強烈だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
死人の様に、蚊の羽音見たいな吐息だけを漏らしているラルカ。これ以上やったら、本当に壊れてしまう。
流石にやりすぎた。木の実の効力を侮っていた為に、三度の激射と激しい快楽でラルカの精神は限界に近かった。ミミの僅かに残っている良識が、それを告げていた。日を改めるべきと思わせた。
「でも…アタシ…」
しかし、ミミはある暗い願望が沸き起こる。『ラルカが壊れてしまうまで犯したい。その純情さを完膚なきまでに蹂躙したい』っと…
「駄目…溜まらない…体が熱くなってくる…」
互いの絶頂で落ち着いたのがほんの僅かな一時だった。まるで無限に沸くような性欲にミミは支配されそうになっていた。
ミミの中で黒い欲望が僅かに残った良識さえ食らい尽くす。絶頂で落ち着いた気持ちに、再び性欲が沸いた。今のミミにそれに抗う事など出来なかった。
「もういい…壊れても良い…アタシが犯して…ラルカを壊しちゃうんだぁ…アハハハ…」
壊れしまっても構わない。その時は自分も壊れ、快楽に身を任せるまでだ。そうなるまでにミミの思考は壊れていた
「っ…!?ミ…ミ…?」
「ラルカ…ごめんなさいね…アタシ…自分を抑えられない…」
ゆっくりと、火照った体でラルカに迫る。体力の尽きたラルカにその対策は何一つなかった。絶望的な表情を浮かべ、震えるその唇をミミが手で塞ぎ、言った。
「うふふ…あなた見たいな可愛くて楽しい雄は初めてぇ…何かも忘れて気持ちよくなりたいでしょぉ?アタシもよぉ…ラルカぁ…アタシを犯して、汚していいから…アナタも…アタシに犯されてぇ…壊れてしまってぇ!!」
ミミ自信が食した濁ったピンク色の木の実の効果がいよいよ発揮され、ラルカを強く押し倒した。そして、ハートの実を食した効果で未だに萎えない逸物を秘所で咥えた。
四度目と五度目と、性欲に飢えた雌が、己の欲望を満足するまでに何度も何度も、ラルカを食った。
望むなら永久にこの淫らな業を繰り返したい。性欲の奴隷に成り下がっても、この高まる興奮を快感に変え、何時までも堪能していたい。ラルカと共に…



あれからどのくらいの時が経っただろうか、季節はすでに冬を迎えていた。
外は冷たい風がヒューヒューと鳴り、ほとんどのポケモンが冬を越えるために大人しくしている時期だった。
そんなある洞窟の中、二匹のポケモンもまた冬の寒さを越す為に洞窟で身を寄り添うように互いを暖めていた。暖かい毛皮の寄せ集めた布団で、二匹はまるで中の良さそうな恋人のように、寄り添っていた。
ミミとラルカの二匹は、寒い風を凌ぐ為に洞窟の中で過ごしていた。ラルカに取り付けられていた首輪は、すでに無い。
そして、お互いの間に挟んである一つの丸い物体。いや、一つじゃない。二つ、三つ…
全部で三つ、二匹が守るように卵を挟んで暖めていた。寒い冬の最中で凍えさせない為に。
そんな中、ミミの目が開いた。真ん中に置いてある卵の異変に気づいたのだ。
長く夫婦で懸命に暖めてきた卵に、ひびが入る。ピキピキ、ピキピキと音を立てながら…
その音に、ラルカもゆっくりと目を覚ました。以前していた生意気な瞳に、生気はなかった…
「生まれるわよ…」
「…そうかい…」
穂のかに笑みを浮かべるミミ、新しい命が誕生する瞬間を心から待っていた。
卵をゆっくりと大事そうに抱えるミミに、ラルカもその卵に優しく触れ、二匹で誕生の瞬間を待った。
少しずつ時間を掛けて割れていく卵の殻、やがて、卵に大きなひびがはいり、中にいる新しい命が最後の力を振り絞り、卵の殻を破った。
「ミィィ~」
誕生と共に産声をあげたのはミミロル、ミミロップの進化前のうさぎポケモン。
ミミは心の底から喜び、生まれたばかりのミミロルを優しく抱き、頬ずりをした。
ラルカもミミと一緒にミミロルを抱き、頬ずりをした。父と母の間に挟まれ、嬉しそうにミミロルが笑った。そしてミミがゆっくりと口を開いた。
「やっと、アタシ母親になれたんだ。ありがとう、ラルカ…」
ミミは感動していた。自分があれほどにまで望んでいた母親に、ミミは今なったのだ。
「…頑張ったのは君だよ、ミミ…」
生気のない瞳で、微笑をミミに返す。今ミミは、自分が子供を持つ母親になって、初めて幸せを感じていた。
「可愛い…天使みたい…」
「…そうだね」
ミミに強く抱きしめられているミミロルは、少し苦しそうにしている。
「名前…どうしよっか?」
「…僕達の子供は、雄?雌?」
「う~ん、この子は…雌ねぇ」
「…じゃぁ…ミンミンって名づけようよ…」
「良い名前ね、どうしてその名前にしたの?」
ミミに問われ、生気のない瞳で天井を見上げる。どうしてその名が思いついたのか、ラルカは考えるが…
「…わからない。ただ…その名前が自然と思い浮かんだんだ…」
「いいわ、それじゃ、次に生まれた子供が雄だったら。何て名前をつける?」
「…ゴーが良いな…雄らしい名前だよね…」
「フフッ…あなたがそれで良いなら、アタシもそれでいいわ…」
そう言って、ミミはミミロルを抱き抱えたままラルカに肩を寄せた。ラルカも、ミミの肩に腕を回した。
「…でも…どうしてだろうなぁ…」
「え?」
何も無い先を見つめ、ラルカが不思議そうに言った。
「…何だか、この名前に…思いついたとたん…急に悲しくなっちゃうんだ…」
「悲しく?」
「…うん…何だか、とても大切な…何か…」
「…」
ミミは何も応えなかった。そして、生気の無いラルカの瞳から、一筋の雫が流れた。
「…泣いてるの?」
「…違うんだ…でもなんでだろう…分からない…ゴーと…ミンミン…」
二つの名前を口にし、ラルカの中で二匹のシルエットが浮かんで見えた。でもそれが何なのか、分からなかった。それがとても悲しかった。そんなラルカに、ミミは流れた雫を指で救ってあげた。
「父親が泣いてちゃ、子供も悲しむわ」
「…そうだね…ありがとう…」
沈んだ瞳の先に、ミミが微笑んだ。そしてミミはラルカにミミロルを渡す。
ミミロルは太陽の様な笑みを父親、ラルカに見せた。ラルカはそんなミミロルを、ゆっくりと抱いた。
寒い冬の中、洞窟で二匹のポケモン、ミミロップとルカリオ。
「アタシは今、とても幸せよ。ラルカ…これからも、家族増やそうね…」
「…うん、ミミが望むのなら…構わない…」
ミミロルを心地良さそうに抱いているラルカの背中に、ミミは呟いた…
ミミ自信が望んでいた物。子供のいる幸せ。そして、優しい夫がいる幸せ。それを掴み取ったミミは幸福の中にいた。残酷のような幼少の頃になかったこの幸せ。
これからもそうだ、子供を作り、家族を増やし、幸せを大きくする事。今ある幸せを、何時までも続ける為に…


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