[[ヤシの実]] 数年ぶりのリセオ物語、またせたなぁ(ドヤッ) *初めての姉 [#q4d81860] ずっと寂しかった。満たされない心を埋めるには、ひたすら何かにしがみ付いて、決して離さなければ良いと、ずっとそう考えてきた。 欲しい物という物は、望んでさえいれば必ず優しい誰かから与えられる物。幼い頃ずっとそんな事を信じていた。 まだ小さくてか弱い手を懸命に伸ばして望めば、空から舞い降りてきて自分の所に来てくれるなどと、夢物語の様な理想が自分にはあった。そう思っていたかった。 しかし、現実と言う生き物はそんな夢見勝ちな幼い子供の気持ちなど、いとも簡単に打ち壊してしまう。望みを口にしても、誰も聞いてはくれない。欲しいと手を差しのべても、誰も与えてくれない。 そんなごく当たり前な事に気づくのは、得たい物が自分を遠ざけ、手にする事が出来なくなった後からだった。 願望と言うものは言葉に表せれば、他人から与えられる物ではない。差し伸べた手の平から落ちてくるのを待つのではなく、指し伸ばした手で、自ら掴み取らなければならないという。 ひとつしか無い林檎を、ふたつの生き物が同時に欲していたらどうするか。与えられるのを待つか? 欲しいと相手に望むか? そんな事、応えるまでも無い。勝ち取るしかないのだ。 宝、夢、自由。そして愛。全てに置いてその例外では無い。最初から自分の為に用意などされてはいないのだ。向こうから来てくれると信じて待っていたら、誰かに取られてしまう。二度と手にする事が出来なくなってしまう。 だから、決して取られてはいけない。ありとあらゆる努力をし、自分の物にしてしまうのだ。決して汚い事でも綺麗事でもない、極当たり前な事で、唯一の心理でもある。 己の力で望みを叶え、そして強く握り締める。決して自分から離れてしまわないように。 そして、ようやく掴んだ。自分よりまだ幼いと言えるほどの小さな子を抱きしめ、決して離さない。それだけ欲しかったのだから…… しかし、運命と言うのは意地悪だった。その手に掴んでいた抱いていた物が、たった一つの出来事で、いとも簡単に離れて自分の手から消えて行ってしまう。 それはどんなに懸命に求めて手を伸ばしたとしても、決してその手に戻ってくる事のない、理不尽な物だった。 ――おねえちゃん ただその一言だけが欲しくて、どんなに諦めず、叫び、求めても叶えられない。星に手を伸ばすような無力さと、目の前にあって手にする事の出来ない虚しさだけが残る。 心に穴が開いてしまった一匹のポケモンは、遠のいてしまう願望を前にして、一筋の涙を流した。 「うあああん、ままぁ~~っ」 一匹の幼子の泣き叫ぶ声が静寂な沈黙を破る。 外の世界でどんな大きな争い事が起きようともそこだけは静寂な時が永遠にあると思えるような場所。時折、何処からか洞窟内の奥底で水滴が地面に落ちる小さな音が反響し響いて聞こえる程だ。 灰色のゴツゴツとした硬い岩を剥き出しにした、自然の力によって開けられた場所。 光と言う照らす物をほとんど通さず非常に薄暗い。しかし、全く回りが見えないと言う程でもない。目が慣れれば、それなりに周りの物が認識できるくらいだ。燐寸棒一本でもあれば、十分に照らせれるが―― かと言って、入っても面白い観光名所がある訳でもなく、その他の目ぼしい物ははっきり言って無い。取り得といえば、そこそこ広い場所であると言う事だけだ。 そんな薄暗く、静寂な空間に用があるとすれば、住処にする事ぐらいだ。ポケモンと言う生き物は、生きていく為に、自分達の生活環境に適応する場を常に求めるもの。 生きていく上では、最適な場所だった。侵入し、襲い来る外敵は滅多にいない。冬の寒さを凌ぐにも打ってつけ。それに広い為に、住処としてだけでなく、遊び場として走り回るくらいの余分なスペースがある。 つまりそれは、子供を作って暮らせるだけの環境があると言う事だ。 一匹のミミロルが、しゃくれた声で自分を生みの親である元へ駆け寄る。まだ幼く、覚束無い足取りで、懸命に歩いている。 行く先に、鳥ポケモンの羽や羽毛を集めて作った、白くて質量のある、ふかふかした羽毛のベッド。その上で気持ち良さそうに寝ているのはミミロルの進化系。 ミミロルがそのポケモンの元による。無駄な肉質が無く、しなやかに伸びた足元から膝にかけて白い体毛を覆われ、そこから先は腰部にかけて茶色をした、人間の女性の様にムチムチした太ももが美しい。 見ているだけで魅了されそうな美脚線をくの字に曲げた足元に、ミミロルはすがって泣きじゃくる。 幼い鳴き声を耳にし、そのポケモンが目を覚ます。ぼやけた視界の先で、自分の子供が泣いている事に気づく。 まだ眠たそうに半開きの眼差しを向けて軽く微笑むと、ミミロルの頭部に手首辺りを白い体毛で覆われた手を伸ばして撫でる。 「どうしたの、また喧嘩したの?」 尋ねると、ミミロルはしゃくれた声でコクンと頷いた。母親見たく、長い耳を元気無さそうに垂れ下げる言う。 「ミンミンが僕の頭を叩いたんだ。ちょっと驚かしたら、何かを落としたみたいで、そしたらすごい怒ってきて……僕悪い事なんてなんにもしてないのに……」 目を擦りながら、怒られるには最もな理由を母親に暴露する。自分がした事を、ちょっとした事ような言い草で自分は悪くないと言う。 母親はそれを耳にするなり、またかと、呆れて笑う。今だに涙を浮かべたままのミミロルの頭を撫でながら、注意をする。 「何時も言ってるでしょ。お姉ちゃんを後ろからわっと驚かすのは止めなさいって。だから怒られるのよ?」 「だってぇ……」 言い訳がましく口を開くも、それ以上の言葉が思いつかず、ミミロルは口ごもる。涙を拭い、不満そうに母親を見る。 「ゴー、そんな事じゃ妹に笑われちゃうわよ」 そう言って母親は身を起こし、真っ直ぐ見つめるように正座する。両手で我が子を抱きかかえ、お腹で抱きしめる。 「ほら、もう泣かない。お兄ちゃんなんだから」 優しい手つきに撫でられる。ゴーと呼ばれたミミロルは気持ち良さそうに頬を寄せて、その温もりに身を寄せて甘えた。もう涙は浮かんでこない。 母親を見上げるその顔は、にっこり笑顔。歪まない我が子の愛くるしい表情に向かって、優しい笑みを返した。 「あ、こんな所にいた!」 親子で抱き合っている中、遠くの方からもう一匹、あどけない少女の声が響いた。 聞き覚えのある声に、母親はやんわりと振り返る。母親に抱かれたままのゴーは、ばつが悪そうに嫌な顔をすると、頭だけを声のほうに向けた。聞き覚えのある声に両方はそれぞれ違った反応を見せる。 やや怒り口調で声を荒げたのは、同じくミミロル。ムスッとした仏頂面で、母親に抱かれているゴーを睨む。 予想的中と言わんばかりにそのミミロルは「全くもぉ!」と憤怒する。その後に、ゴーを抱いている母親に向く。 「お母さん、聞いてよゴーったらさ、せっかくお父さんから貰った綺麗なモモンを、後ろから脅かしてきてぐしゃぐしゃにしちゃったのよ! ゴーの馬鹿!」 ミミロルが怒鳴ると、母親に守られてるゴーは強気になってあっかんべーする。 「パパが帰ってきたのね。ミンミン」 母親が聞くと、ミンミンと呼ばれたもう一匹のミミロルは、怒った顔で頷き返す。ゴーへの怒が篭ったままはきはきとした口調で言う。 「今アナを連れて帰ってきてる所! あぁもう、とても綺麗なモモンだったのにぃ~」 無くしてしまったリンゴへの執着心の余りに、ミンミンは未練がましく、今度は嘆きだす。 彼女の中で、さっきまで持っていたはずの桃色に熟した艶々なモモンの実が鮮明に思い浮かぶ。父親からもらった、食べるのが勿体無いくらい綺麗な木の実だった。 「そんなに大事な物だったら、ちゃんと持っておけばよかったんだよ!」 ゴーが皮肉を込めて煽る。母親がこらっと叱る。 「何ですってぇ~、絶対に許さないんだから。この馬鹿ゴー!」 もこもこした毛並みを逆立てて憎らしげに言う。 感情を剥き出しにして今にも飛び掛かりそうなほど怒りに震える背後から足音が近づいてくる。 「やめるんだ、ミンミン」 やんわりした口調の若々しい雄の声が、ミンミンの背後から優しく囁く。 声を耳にし、怒りでいっぱいだった表情が、急に冷えたかのように変わる。 そして急に振り返り、その姿を確認するや、ミンミンは声の主である胸にいきなり飛び込んだ。銀色の棘を持つ父親は、危うく刺さらない様に両手で捕まえる。 するとミンミンは、先ほどまでの怒り顔がガラリと変わり、涙顔に変わる。 「だってぇ、あれ後でゆっくりと食べようと思ってものなのに、お父さんからもらった大切な木の実なのに、ゴーがぁ……」 悲しげに強張った娘の顔を、まだ若い父親は自分の棘に気をつけながらギュッと抱きしめる。ミンミンはその暖かく逞しい胸に抱かれたとたん、涙栓が抜けたようにすすり泣き始めた。その震える小さい背中を、ポンポンと叩いて慰める。 「おかえりなさい、帰って来たばかりなのに、この子達ったら喧嘩ばかりで……」 「大丈夫さ。ほぉら、よしよし。泣き止むんだミンミン。また見つけてくるからさ」 「ぇっく……ぇっく……」 体を揺さぶって、泣きじゃくる娘を懸命にあやす。 「パパ、あぁにもだっこ、だっこ」 父親の隣にいたもう一匹のミミロルが、自分も抱っこしてほしいと黒色の肢に触れて訴える。 そのミミロルは、ゴーやミンミンと比べて小さくて幼い。まだ呂律が回り切らないくらいゆったりした口調だった。 「はいはい、よいしょっと……」 仕方が無いと苦笑すると、ミンミンを片腕で担いだまま腰を下ろし、余った方の片腕でもう一匹のミミロルを抱きかかえる。 父親に抱かれるもその無表情さは変わらない。円らな瞳はまっすぐと親の顔を見据える。 「気に入ってたのに……綺麗だったのにぃ……」 傍ら、未だにすすり泣いているミンミン。それを横目にした一番小さいミミロルは、両手が塞がっている父親の変わりに、小さい前肢を伸ばして、微弱に震えるその頭を無言のままよしよしと撫でた。 「ふふふ、妹に慰めてられてるわね」 おかしそうに母親が思わず拭き出すと、父親も釣られて拭きだした。そして、健気に慰める娘を優しい目つきで見つめる。 「アナは良い子だな。泣いているお姉ちゃんを慰めるなんて」 「うっ? あぁはいいこ。パパがいいこっていうから、あぁもいいこする」 「ははっ、偉いぞ」 父親は嬉しそうに笑みを浮かべると、褒めようと塞がった両手で撫でる変わりに頬擦りをする。鋼タイプの硬い頬に、アナと呼ばれたミミロルはやや嫌そうに顔を遠ざけるも、父親はうりうりとして離さない。 「なんだよ。良い子ぶっちゃって、パパ離れが出来ないくせにさぁ」 アナを小馬鹿にするように言うと、母親は呆れた口調でゴーを軽く叱りつける。 「ゴーもママ離れ出来てないでしょ。悪戯ばかりのあなたは、少しはアナを見習いなさい!」 母親は白い体毛で覆われた手首の方で、こつんっ、とゴーの頭を叩き付けた。そして付け加えて言う。 「それと、後でミンミンにも謝っておきなさい。元はと言えばゴーが悪いんだからね」 そこに父親が「そうだぞ」と付け足す。頭を両手で押さえながら、ぶすっと不貞腐れて「はぁい……」とだけ返事をする。そんなゴーの様を、何時の間にか泣き止んだミンミンが、これみよがしにゴーにあっかんべーをしていた。 この兄弟たちは、何時もこんな感じだった。喧嘩も良くするし、その旅に父親や母親に甘えたり、叱られたりしている。しかし時には、兄弟同士で慰めあったりもしている。そうやって、ミンミン、ゴー、アナは少しずつ成長している。 若くて逞しく、その上に優しさを持つ父親と、毛並みが綺麗で子供の事を大事にする母親。人間にも良く見られるような、ありふれた暖かい家族。 これが幸せと言うべきだろうか、子供を作るまで、母親は幸せと言う物をしらなかった。 遠い昔に、ひたすら耐えるばかりで生きていた過去が嘘のように思える。 ずっと一匹のまま、愛情に飢え、辛く寂しかった日々。明日の食事さえ約束されないひもじい思いを過してきた日々。今日を生き延びる為に、敵から逃げ、立ち向かい、がむしゃらになっていた幼いあの頃。 欲しい物はすべて腕付くで奪い取っていた。弱肉強食な生活。身を守るために容赦や甘えの許されない過酷な生活環境。当然、幸せと言う物なんて知る術などなかった。 明日を食い繋ぐ為に、非道な事もやってきた。罪悪感など感じる心の余裕すらなかった。血を見る事だってあった。そんな自分に、幸せと言う名をした、純粋で清らかな存在の物が与えられるなんて、あの頃はそうぞうもしなかった。 しかし、生きていく内に幸せに対する渇望は、成長するに従って、日々肥大化していた。やがて、具体的な形を持たない欲求は、子供を得ると言う方法によって成し遂げられると、思い至ったのだ。 それは間違いではなかった。現にいま、幸せと言う形の無い存在を、内なる胸に確かに持っている。暗い気持ちを掻き消してくれるような、心が温まる、形を成した幸せと言う名の存在が、目の前にある。 必死に子供を作る術をしろうと、色々と学び盗み、それを知った次に、子供の元となる存在を探し始めた。それが、今子供を両腕に抱えている、父親だった。 一片の悔いすら無い、充実したこの生活。望むのなら、さらに沢山の子供を作り続けていたかった。だが、流石にそれだけはしなかった。 幸せを生きる中での、母親の最大の誤算があった。それは子供を育てると言う事だ。 父親を見つけ、子供を作る。そこまでは熟知はしていたものの、その後の事までは計算外だった。思ったよりも苦労の耐えない現状だった。 生まれて間もない子供は、自分の身の回りの世話など出来ない。それが出来るようになるまでは、とにかく色々覚えさせ、じっくりと成長させる必要があった。 幼い頃捨てられて、自力で生きてきた自分だからこそ、想像の出来なかった最大の誤算。食料を与え、危険から守り、巣立ちするまでに常に監視が怠れない。それも、外へ連れ出すとなれば尚更だ。そんな事を、休まる間もなく続けていかなくてはいけない。 そうなると、一匹だけでも大変だった。それを三匹も――気が休まらないのは当然だった。ゴーが、知らず知らずの内に危険なポケモンの出現する草むらに入って小一時間も迷子になっていた事を知った時は、不安で心臓が凍りついた。外敵の存在にも懸念をしなければいけないのだ。 まぁ幸いにして、父親が頼りのある実力者なおかげで、子供の安全は確保できている。母親の負担はそれほど大きいものではなかった。 父親と母親が子育ての分担が出来ていれば、苦労だってそれほどのものじゃない。やっていける。このポケモンと一緒なら―― 「パパ、ママ。あぁ、どーくつのおくであそんできていい?」 アナが何時も遊んでいる洞窟の奥へと遊びに行きたがっている。この洞窟は、自分達以外に済んでいる者はいない。奥の方も危険な場所はさほどもない。ただの行き止まりだ。 子供達はそこを一つの遊び場として気に入ってる。暇さえあれば時々、洞窟の奥へと遊びに行くらしい。 「あ、それじゃ俺も行きたい!」 「ゴーにはアナは任せられないから、私も行く」 ゴーがアナに同調する。その後にミンミンが父親の腕から離れ、二匹と一緒になって行くと言い出す。 母親は、ふぅと息を吐いて、その次に「行ってらっしゃい」と優しく言った。 「危ない遊びはするんじゃないぞ、それと行くんだったら、アナの手も繋いでから行ってやるんだぞ」 アナはまだ幼すぎるために、迂闊に一匹で遊ばせておく訳には行かない。たとえ一本道の洞窟でもだ。うっかり放置なんかすると、泣き出してしまう。 ゴーは機嫌よさ気に「大丈夫さっ」と軽口を叩くが、母親から言わせると、その言葉はあまり宛にならない。 「よっし、今度は何して遊ぼうか。パンチでもしようかな」 「ゴーはまたそれ? いい加減そんな遊びばかりじゃなくて、アナと一緒に遊んであげてよ」 ゴーの言うパンチとは、壁に落書きした『相手』を、自慢の耳で殴りつけると言う。ボクサーみたいな遊びだった。至って単調な遊びだが、ゴーはそれを気に入っているらしい。 注意する言葉を聞かず、ゴーは元気よく、出口とは反対方向の奥へと跳び出して行った。その後姿をミンミンが、アナが途中で逸れないようにしっかりと手をつなぎ、叱り飛ばすように後を追いかけて跳ぶ。 「まちなさいゴー。こらぁ~!」 弾けるように三匹は、元気良く遊びに行ってしまった。騒がしい元がその場からいなくなり、洞窟内は徐々に静まり返る。まだ聞こえてくるのは、道中で騒ぐ子供達の声のみだ。 やがて子供達の声すら聞こえなくなり、辺りは再び静寂さを取り戻したかのように、何も聞こえなくなった。 残された夫婦は愉快そうに笑む。 父親は世話の仕事がなくなると、疲れが出たのか母親の隣であいてある毛布にへと腰を下ろし、胡坐をかいだ。 「よっこいしょ。疲れたなぁ」 「お疲れ様。ゴーったら勝手にちょろちょろ動き回るものだから、大変だったでしょ?」 三匹の朝の散歩に付き合わされた父親を、ご苦労様と撫でる声で労う。彼は美人な相方を横目で見て、ふと笑う。 「そうだね。まだ小さいのに、もうあんなに動き回るなんて、子供の成長っていうのはとても早いと感じるよ」 「ほんとよね。アタシ達の側から離れるのを嫌がっていたあの頃が、まるで嘘のようだわ。だから常に気配りを注意してないといけない。子供を育てるって本当に大変よね。苦労の連続だわ」 後ろ頭に腕を回して枕代わりにしながら、羽毛に身を預けた母親が気兼ねに言った。その言葉に同調するように父親が苦笑を漏らす。 「苦労ばかりでもないよ」 意外そうな物言いに、気になって顔を向ける。父親は天井の岩を遠い目で見ながら、懐かしむように言う。 「ついさっきまで、ゴーは僕や君に甘えてばかりの子だった。ミンミンもね。それが今じゃ、一人で遊びに行きたいとか言って、自分で行こうとしたり、『お父さん、毛並みが崩れてる』とか言ってきて、周りに気を配れるようになったりさ」 「そういえば、あなたって寝癖が何時もひどかったわよね。ある日、ミンミンが気になって、頭によじ登って毛並みを整え始めたもの。あの時は本当にすごかった」 話の途中で母親は昔の事を切り出し、クスクスと笑い出す。一方は、トラウマを思い出すような苦々しい表情を浮かべる。 朝が来て、父親が目覚める前の話。何時も親より遅く起きるはずだったミンミンが、珍しく先に目を覚ました。その時、母親はちょうど目を覚ましたばかりで、虚ろな様子で見ていたと言う。 ミンミンが、退屈そうに父親の顔を乗り越えて、その隣の場に移ろうとしていた時だった。何かに気づき、跨ったままその顔をじっと眺めていた。 『おとうさん、毛がぴんぴんしてる』そう言ったミンミンは、気になったまま、ずっと寝癖を眺めていた。やがて、見ているだけじゃ退屈になったのか、まだ短い前肢を伸ばして、父親の毛並みを整えようとしたのだ。 毛並みの手入れ――と言うには余りにも不器用な仕草だった。頭部の跳ねた毛を手にかけるなり、それをわしゃわしゃと弄り始めたのだ。最初は何事かと、母親も目を丸くして見ていたが、やがて二度寝してしまったらしい。 次に母親が起きたときは、手入れに飽きてしまったのか、ミンミンは父親の上で頭部の毛を押さえ込んだまま眠っていた。寝返りを打って、父親から落ちる。その時、足をマズルに引っ掛けてしまい、それが起因となって父親は目を覚ました。 起き上がり、欠伸をする父親を目にした母親が驚いて、笑いを堪える声で頭を指差した。娘によって掻き乱されてしまった頭部が、まるでそこだけが荒らされたかのように、頭部の毛はすべて、あらゆる方向に逆立っていた。 後になって、頭部に触れた時に本人もようやく事の事態に気づいたらしい。慌てて頭部の毛並みを直そうとしたが、毛並み同士が、複雑に絡み合って、中々元に戻らなかった。不器用ながらにして器用な娘の愛情の篭った初めての手入れ。 一度付いたしまった寝癖は、中々元には戻らない。元々長い体毛をしているだけあって、その惨状は悲惨そのものだった。当時の母親がそう言っていた。 「あははははっ、もう、思い出し笑いしちゃうわ」 「止めてくれよ、恥ずかしい……」 「近くの水辺で、顔を見た後に絶叫したあの時の姿は最高だったわ。娘からの愛情表現が、まさかあんな風になるとは思ってもなかったわ。フフフッ」 羽毛の上で、腹を抱えて笑いこける。父親は頭を前肢で抑え、恥ずかしそうに苦々しい表情をする。 「あぁ、ごめんなさい。でも、多少変になって、あなたは十分素敵だわ」 「ひどくダサかったって言ってなかったっけ? あの時は君は……」 図星を付かれて、うっと表情を引きつらせる。 「まぁいいよ。つまりさ、僕が言いたかったことは、子供達がそれだけ早く大人に向かって成長しているさ。アナはまだまだ僕達の側にいなくちゃいけないけど」 「誰かの事を気に掛けたり、自分らしい個性を持てるくらい、大きくなったって事よね。ゴーなんて未だに甘えん坊さんだけど、時々強がっちゃって、アタシの心配をよそに危ない所に行ったり、他のポケモンとバトルしようとしたり」 母親は足を交差させて、父親と同じく天井の岩に腕を伸ばし、遠い目で眺める。そして付け加えるように言う。 「やっぱり、血がそうさせるのかしらね」 「そうかもね。でも僕はさ、そんなミンミン達が目に見えて成長していく姿を見るのが、とても楽しいんだ。親の僕達でも想像できない、新しい発見や動きを見せてくれる。それが子供達から僕達への贈り物だと思えるんだ」 父親が嬉しそうに言う。しかし、母親は対照的に、笑みを浮かべながらも、何処か寂しそうに呟く。 「でも、それだけ早く親離れが進んでいるって事よ。何れ大人になって、あたし達元から去っちゃうかもしれない」 まだ遠い未来の話を、まるですぐそこにまで来ているような風に言う。そう思えるほど、子供達の早い成長を見せている。その元となる自分達が―― 「高個体種だもんね、あの子達もまた……」 自分の運命を不幸に陥れた、呪われた言葉を口にする。 「それがあの子達にとって、果たして幸せなのか不幸なのか、それは自分達次第かもな……」 「きっと、近い内にアタシ達の元から、巣立っちゃうわ。成長が早いって事は、そういう事だもん……」 何時か親を必要しなくなり、自分で生きる道を見つけていくのだ。当たり前のように思える自然の摂理を、こんな風に物悲しく思ったことはなかった。 深く望んでまで手に入れた幸せが、子供の成長するに従って離れていってしまう。母親には、それがどうしもなく切なく感じた。 「気が早いんだよ君は」 父親は苦笑して言う。 「そんな事、仮の話だろう。いくら成長が早いと言っても、子供は子供さ。まだまだ親が恋しい時期さ。僕達は懸命に、それに応えてあげる。それだけだろ」 感傷的に言う母親に対し、父親は至って愉快そうに笑って見せた。それを聞いて、暗く沈んだ表情に明るさが戻る。 「……そうよね」 「君はあの子達を育てて、今の幸せをじっくりと噛み締めてくれれば良い。その内に、あの子達も立派に成長した頃は、同じように生きていくんだから」 そうだとも、巣立つと言っても子供は子供。存在自体が無くなってしまう訳ではない。遠く離れているだけで、血はしっかりと繋がっている。 何時かミンミン達が大人になって子供を作り、親になる時に幸せの中で生きて、命を繋ぐ生命としての役割を果たすのだ。そう思えばこそ、笑って巣立って行く姿を祝福できる。 寂しい事だけど、それは同時に嬉しい事でもある。子供にも、今のような幸せを味わって生きて欲しい。子供を生んだ親としての、心の底からの願いだ。 母親は安堵し、寝返りを打って父親の方に顔を向けた。 「ありがとね……」 突然のお礼を述べる言葉に、父親はキョトンとして顔を向ける。そこへ、予想もしなかった不意打ちを食らう。 「んっ……」 甘ったるい小さな喘ぎ声。唐突に重なり合った唇は、やがて母親の方から離れた。 「なんだい、突然?」 少しだけ驚いた様子で、苦笑しながらも優しい口調で尋ねる。母親は唇を手で抑えて言う。 「ううん、ただのお礼。不幸でしかなかった、アタシを幸せにしてくれた……」 「何を今更……」 「きゃっ……」 今度は彼女のほうが驚かされた。腕をとられ、魅惑な体をそのまま仰向けの体勢にされてしまう。 天井の方に向かって見開いた先には、陽気な微笑んだ父親が、押し倒している状態で上に来ている。両腕はすでに、愛する夫の手中。 優しい眼差しを向けられ、その中に自分の顔が映って見える。何処か少年のような若さが残るその瞳に、思わず魅入る。彼がこの後何をしようとするか、考える間もなく答えに辿り着く。 彼はそのまま顔を近づけさせ、同じ事をしてきた。 「んふっ……」 今度は長い口付けだ。なんて事の無い、純粋なキスだった。それでも、内なる胸をとろける気分にさせるには十分だった。 やがて唇が離れる。何時の間にか気分が高まった二匹は、お互いに暖かい吐息をかけ合う。すると、今更ながらに彼が言う。 「それは、僕だって同じさ」 撫でるような口調で囁く。彼の唇がそっと首筋に触れ、彼女は堪らず嬉しくなると同時に恥ずかしそうに微笑みながら、視線を反らして言う。 「……子供達が戻ってきたら、見られちゃうわ」 躊躇い気味に言う。そうなったら多分やばい事だと、心配そうに困る。しかし、内心ではそんな事など心の片隅にしか思って無い。 そんな心境を察した父親がそんな僅かながらの理性を振り払うように言ってくれる。 「ゴー達は一度遊びに言ったら、しばらくの間は夢中になって帰ってこないさ……」 「それもそうよね……」 彼女は納得する。理性を捨てて、やっとその気になったようだ。 愛する者の体に自然と撫でるように腕が回る。そして、そのまま抱き返す。しばらくぶりだった雄雌の行為に、期待感が高まっていく。 三度目の口付けをしようと、唇を僅からながらに尖らす。その時、彼が唇をが触れそうになる手前に、笑いを含んだ口調で言う。 「ふふ、子供達も成長するにつれて、こういう事をするようになるんだろうな」 「もぅ、何が言いたいの?」 これから愛し合うという時に、なんと馬鹿げた言い草だと、彼女は呆れて背中を叩いた。 「君って、その気になったら結構激しくする方じゃない。大人になった娘達が、将来の旦那をひいひい言わせるのじゃないかなって思ってさ……」 「やだっ、あなたってそれでも父親ぁ……?」 自分の娘をそんな風に考えるなどと、母親として信じられない。虚ろな眼差しを、責めるように向ける。しかし彼は動じずに、囁く。 「血は争えないからね。君に似て……」 何となく図星を付かれた彼女は返す言葉を失い、顔を紅く染めた。 「ばか……」 そんな言葉しか思いつかなかった。もっと罵ってやろうとするが、その口を、彼が塞いだ。彼女は抵抗する事も無く、受け入れた。 ――ゴソゴソ ゴソゴソ 何かが蠢く音を、最初に感じ取ったのは彼女だった。足まで伸びた大きな耳が特徴である彼女は、僅かな音も聞き逃さない。 唇を離し、音のする方に顔を向ける。 「あぁ、忘れていたよ。ようやくお目覚めのようだね」 「チッ、こんな時に……あのガキは!」 折角の夫婦の交わりを阻害され、苛立ちを浮かべる彼女。 体を重ねていた彼は、愛する妻から離れて立ち上がり、音がする方へ向かう。名残惜しそうに母親も立ち上がると、その後を着いていく。 何時も家族で一緒に寝る羽毛から、少し離れた隣の場所にそれはあった。その音となる原因は、薄汚れた白い頑丈な袋からだ。 呻き声らしき音が漏れ、中で何かがもがくように蠢いている。子供達には触れるなと前もって注意しておいたお陰で袋の中身は知られていない。 「起きたようだね。人間に飼われたポケモン」 冷やかに告げる言葉を向けたのは夫の方。瞬間、袋はピタリと動きが止む。 「あんまりゴソゴソしないでくれる? 子供達が居たらビックリしてたわ」 腕を組んで不機嫌そうに袋に向かって言う。 言葉は返ってこない。大人しくなったと感じた彼は近づき、袋を縛る紐を解いた。縛りから開放された包みは力無く、宙を泳ぐように全体に広がっていく。 最初に二本の長い茶色の耳が最初に覗き、やがて袋に包まれていた者の正体が露になる。 「せまーい袋の居心地はいかがだったかしら? ボンボンのイーブイ君……」 「ふぇ……!?」 不機嫌な口元が僅かに吊り上がた彼女が言った。面食らった顔で声の主に振り向く。 見下ろす夫婦を目にした途端、得体の知れない物でも見るような目で恐怖する。静かに威圧されて人質にされた被害者みたく震えだす。 ご主人は、別荘は、兄妹は、どうしてここに、この人たちは一体誰? 複数の疑問が目まぐるしく過ぎ、混乱する。 「お姉ちゃん……ご主人様ぁ……みんなは……?」 薄暗い洞窟の中で泣きそうな声を上げる。求める声も、今居る夫婦の二匹以外誰にも届かない。本能的に知る、 ほんの少し前まで暖かい身内と一緒にいたはずなのに、何故こうなってしまったのだろう。それは、ほんの少し前に遡る…… まだ上ったばかりの真夏の太陽が照りつける。青空にはシンオウ地方が生息地としている主な鳥ポケモン、ムックルが四匹ほど群れで飛んでいる。 整備された道には脇の草むらからビッパが時折姿を現している。人通りの無い道なだけに、我が物顔で警戒心無く横断している。 一軒の建物が、周りの木々に囲まれていて、とても静かだ。汚れの無い清々しい空気に祝福されている。 透明な窓越しに見える、閉められたと思われたカーテンに僅かな隙間が空いており、そこから一日の始まりを告げる弱い朝日が通る。 そこへ、一匹のパチリスが光を遮断するかのように、限られた視野で、カーテンの中を覗き込んだ。気持ち良さ気に寝ているポケモン達を、クスクスと笑った。 淡い日差しが窓の隙間から入り込む。高級な木材を利用されて作られた焦げ茶色の家具が揃い並ぶ広い部屋には、ボールやら玩具やらが遊んだ後のように散らばっている。 横に設置されているベッドの上で、ヒトカゲ、イーブイ、サンダースの三匹のポケモン達が、ベッドの上で寝息を立てながら夢の中にいた。 もう一匹、雌のミロカロスのラーナだけが、長い体格でソファーを占領するように眠っていた。 細長い体を許す限りに伸ばしているラーナを除いて、残りの三匹の方は、それぞれ自分達のベッドで寝ている。どれもだらしがないほど、無用心に仰向けの体制ですやすやと寝ていた。 そんな中、すやすやと眠っている茶毛をした雄のイーブイ、リセオが淡い日差しを瞼に食らって小さく呻いた。ゆっくりと見開いた瞳は、まだ寝足りないと言わんばかりにトロンとしている。 「ふわぁぁっ……」 目覚めの第一声にリセオは大きく欠伸をした。せっかくの心地良い眠りを朝日に邪魔され、目を擦りながらふと窓を見やる。 窓を覗いていたパチリスがリセオの視線に気づき、けらけら笑いながらそそくさに窓から離れて消えていく。悪戯な覗き魔がいなくなると途端に日差しが強くなり、眩しくなる。 眠気を訴えてくる瞼の為に、リセオは一眠りしようと考えた。前肢で瞼を守りながら、日差しの刺す方とは逆の方に寝返りを打った。邪魔な光を遮って、ようやく目を閉じようとした矢先だった。 大きい何かが顔を覆い、口を塞ぐ。新鮮な空気を遮断されて呼吸が苦しくなり、耐えれずもがき苦しむ。 神聖な眠りを邪魔する物を鬱陶し気に思い、前肢を力いっぱい前に出して押しやる。 「うぅん……うぅん……」 触れた途端に呻き声が聞こえてくる。それを含め、前肢に残る奇妙な感触に疑問を思ったリセオが瞼を開いた。 レモン色をした艶のある毛並みが視界いっぱい広がる。今触れているのは、自分を苦しめていた正体だった。 リセオは、その正体を理解するまでに時間が掛かった。寝ぼけていた頭が徐々にはっきりし、今自分が何に触れているのかがようやく理解できた。 「ふぇ……アンリさん……?」 雌のサンダース、アンリだった。元々は野生のポケモンであるアンリだが、事情によって一緒のベッドで寝ている。前肢が触れていたのは、そんな彼女の顔だった。 鼻を押さえら、息苦しそうに表情を歪ませている。リセオは慌てて前肢を離そうとしたが、途中で止めてしまった。頭の中で、悪戯な小悪魔が囁く。 離し掛けた前肢を再び戻し、グイグイと押しやる。その度にアンリの鼻を押し上げ、顔の形が変わっていく。そして彼女自身も眠ったまま、不快そうに表情を崩していく。 何時も美形なサンダースが、無様な姿で弄られている。とても面白く、何時しか眠気を忘れて、ばれない程度に加減をしつつ前肢で鼻を回していく。 辛そうにふがふがと鳴く。とてもサンダースの鳴き声とは思えない奇警な声に、リセオは噴出しそうになった。 「昨日の仕返しだ、やっちゃえ」 何時もやられる側だった子供が、滅多にないこの機会をチャンスに思い、油断の許す限り彼女の弄り続ける。 やがて、ゆっくりと前肢を離す。鼻を開放された相手は安心しきったのか、表情が再び安らかな眠りに戻った。しかし、この程度では終わらない。 今度は前肢を左右に広げ、アンリの両頬に触れる。やんわりと力を加え、両サイドから中心に掛けて押し付ける。 「んがっ……」 己の無様な姿に気づかないまま、アンリは間抜けな声を上げた。 頬が凹み、両頬の肉が口元に寄り、一際に無様に歪む。何とも言いようの無い滑稽な姿に再び噴出した。無論声を上げないように気をつけながら。 徐々に面白くなり、調子に乗ると両頬を交互に上下に動かし、雌の顔面をこねこねと作り変えていく。それでも起きる様子は無かった。 これでもかとリセオは前肢にやや力を加え、頬肉を中央に押しやったり、引っ張ったりを繰り返す。ある意味、肝試しの用にも思えた。 流石にやり過ぎては無いかと不安に思い、前肢を止めて様子を伺う。それでも彼女は大した反応も見せず、相変わらず間抜け面ですやすやと眠っていた。 「プッ……フフフフッ」 余りの鈍さに堪えきれずリセオは笑い出した。声で起きてしまわないように口元を前肢で塞ぎ、目に涙を浮かべながら懸命に笑い声を抑える。こんなに面白い事は中々無い。時間が許す限り、もっとしてやろうと思った。 今度は頬を掴んで左右に引っ張りながら離して見よう。不細工に広げられた顔を、どんな風に揺れながら元の形に戻っていくかを想像しながら前肢を伸ばす。 「おいっ……!」 「ふぇ?」 唐突に声がした。視線を頬に集中していた為に一瞬誰が言ったのか分からなかった。嫌な悪寒が背筋に走る。 頬に伸ばした前肢をそのままに、リセオは目をぱちくりさせた。改めてアンリの顔を見直した。起きるはずがないと思っていた鈍い雌が、怖い目つきで自分を睨んでいるのが分かる。嫌な予感はすぐに的中した。 睨み据えるアンリの表情は、少し前まで間抜けに眠っていた時の面影は全く無い。明らかに怒りを含めた、獲物を刺す様な鋭い視線を自分に送りつけている。両方に言葉の無いまま一時の時間が流れた。 やがて、事態を把握したリセオは全身の血が凍てつく様な錯覚を覚える。体が硬直し、冷や汗がドッとでてきた。 「ふぁ……ア、アンリさん……」 震えながらその名を呼ぶ。途中で伸ばした前肢を振るわせたまま、誤魔化そうと愛想笑いをするも、相手の睨む顔に恐怖して上手く出来ない。 頭の中で必死に言い訳を考えようとするも適当な言葉が思いつかない。口をぱくぱくさせながら。 「起きてたんですね……」 「……当たり前だろうが。あぁん!?」 ようやく口にした言葉に、アンリは怒り口調で返した。元が綺麗なだけあって、その迫力はさっきまでの間抜けな寝顔のものとはとても思えなかった。 「あの、その……これは……べつに……」 困惑する頭の中で必死に言葉を探す。そうしている間にも完全に目を覚ましたアンリは体を起こす。 「ふっふっふ……迂闊だったよ。これが野性の世界だったら致命的だったなぁ。得に俺は雄から狙われやすい雌だから、相手が野郎ならとっくに犯されてたよ。これが悪戯程度で済んで良かったよ。なぁ、リセオ?」 彼女は睨み顔のまま、薄っすらと口元を吊り上げて笑いだす。全身に怒りのオーラが纏いながら続ける。 「なぁに、お前は悪くねぇよ。外敵の居ない場所だったからついつい油断していた俺が悪かったんだ。何時でも自分の身を守る気でいないと野生って生き物はやってはいけないんだ。 そこをついたリセオは賢い。弱肉強食の世界じゃきっと賢い方だぜ。けどな……」 優しい口調からはとても殺気立っているのが肌で感じる。 臆したリセオは謝罪を口にする前に逃げたほうが良さそうだと判断し、とっさに身を起こして逃げようとする。しかし、逃げる体制が整う前にアンリに押し倒される。 「ふわぁっ!?」 「腕力の無い奴が俺の寝込みを襲って事は、賢いと言うより無謀としか言わないんだぜ?」 大した力もないリセオは、仰向けのままあっさりとアンリに押し倒されてしまった。前肢は彼女の強い力に押さえつけられ、身動きが取れない。 「そんな、僕は別に襲ってなんかいませんよぉ……」 「俺の顔に悪戯しといて、今更なにが襲っていませんよだ。お前じゃなければとっくに十万ボルトを浴びせまくって、体をチリチリの灰にしていた所だ。俺は夜這いや寝込みを襲う奴が大嫌いだからな。マジで殺ってたかもなぁ……」 アンリはスタイルが抜群な所が自慢で、雌特有のフェロモンをムンムンと放っている。その為に他の雄に擦り寄られやすい。警戒心の強い彼女は自分が許した相手以外との体の交わりを許さず、欲情して襲い掛かる輩には容赦無い。 おぞましい台詞に、逆立っているアンリの体毛から放たれる強力な電気技を食らい、己の体が焼け焦げる姿を想像し、血の気が凍りついた。 自分がアンリのお気に入りって事は前々から知っていて、それが自分の生命を助ける結果となった事を、今回ばかりは感謝した。 「それは、ご、ごめんなさい……」 落ち着きを取り戻し、ようやくするべき謝罪をした。これで許してもられると思った。 「いいよ、別に気になんてしてないさ、ただの悪戯だもんな」 許してくれると言う言葉にリセオは安心し、深く安堵した。 「ありがとうございます……ん、あれ……?」 リセオは困惑した。アンリの許しを得て、ようやく安心することが出来たというのに、自分の体を離してくれない。 痛みのあまりに逃れようと必死に足掻いた。しかしレベルも力も低いリセオでは、彼女の力には到底及ばない。アンリの前肢はピクリとも動かなかった。 そんな抗うか弱いリセオを、アンリは不適に笑う。 「どうしたんだよ、そんな嫌そうな顔をしてさ? もう許してやったじゃん?」 「じゃあ離してくださいよぉ! 痛いですよアンリさぁん!」 意地悪そうに言うアンリに必死に離すように頼むが、一向に離してくれない。それどころか、更に力を入れて抑えてくる。両前肢が痛い。そして、絶句するような言葉を口にする。 「おいおい、許してやるとは言ったけど、離してやるなんて一言も言ってないぜ?」 その言葉に、リセオの背筋が再び凍りつく。想定できる嫌な事が、次々と頭をよぎる。それを見通したアンリは、グッと顔を近づけさせ、そして―― 「んんっ!?」 唐突だった。アンリは何一つ言わずして幼い唇を奪った。そして問答無用にと口の中で舌を入れてきたのだ。 まだ整理すら出来ていない状態で、彼女は容赦無しと言わんばかりに口内に入れた舌で絡み、掻き乱す。 今までこういう事は何度も経験はしてきたが、今度ばかりはあまりのも突然過ぎる。恐怖と驚きで頭の中がパニックになり、涙目になった。 その間にも彼女はリセオには対応出来ない程のペースで口内の奥へと奥へと進入させていく。彼女の絶妙な舌使いは自分の口の中を容赦なく蹂躙する。 頬の内側をペロペロと舐められ、上唇を、舌の付け根を歯の裏を、全体を舐める様に艶かしい動く。今までには無い経験だった。 舐めるだけでなく、唇を無理やり抉じ開けさせ、唾液をも入れてきたのだ。ベドベトする感触に嫌気を覚えるも、全く押し返すことが出来ず、全て受け入れる。 激しく、テクニシャンなディープキスにリセオは堪らず、全身の力を使って抵抗するもアンリが相手では全く歯が立たず、力の差は歴然だった。後ろ足をじたばたさせる以外何にも出来ず、一方的にやられていくだけだった。 「んうぅぅ~~っ、んぐぅぅぅ~っ!」 彼女は止めるどころか次から次へとまだ犯していない所を探しては舌先を向かわせ、そこを犯す。すでにリセオの口内は、アンリの唾液と舌によって占領されてグチャグチャに汚されていた。 それでもアンリの目はまだ汚し足りない、犯し足りないとその要求をぶつけてくる。 今度は、舌を挿入させたまま唇を離す。リセオが新鮮な呼吸を取り入れる間もなく再び唇を重ねる。荒々しい口付けにリセオは息苦しささえ覚える。 恐ろしげに見上げた彼女の表情は、何時の間にか目が肉食獣のようにぎらつき、レモン色の頬は紅潮しきっている。相手が年下の子供だと言う事を全くお構い無しに犯していくのが楽しいと、その瞳が告げていた。 反対にアンリは、犯される事に怯えるリセオを愛おしく見つめ返し、唇を重ね合わしては離し、また重ねる。または深く付けたまま口内の純潔の乱す。まるで買ってもらったばかりの玩具を夢中になるかのように…… 「んはぁっ、んちゅっ……んはぁんっ……目覚めのキスにはちょっと激しいかなぁ? ふふふっ……」 十分に犯され、口周りが汚れてようやくアンリの口付け地獄から開放された。微弱に肩を震わせながら、恐怖しきった目で見返す。乱暴的な口づけした事を反省する様子は全く無く、むしろ喜んでいる。 「いやら……許してくださいっ……!」 ほんの悪戯の為にここまでの仕打ちなんて、自業自得とは言えあんまりだ。口付けが終わっても彼女は開放してくれなかった。 いっそうの事、大声でも上げてすぐそばにいるラーナに助けを求めようとしたが、それを見越した風にアンリは言う。 「大声とか出さない方がいいかもよ。お前のおねーちゃんが起きて、もしこんな光景でも見てしまったらど~するぅ?」 優しく脅す口調に、声が詰まる感覚に囚われる。仮に、血の通った姉が悲鳴を聞きつけて助けに来てくれたとしても、この惨事を目の前にして、どう思われるか。考えるだけでも怖い。 あの優しく微笑む顔が、ショックと絶望の余りに悲劇色に染まる表情を向けられでもしたら、お互い立ち直れないかもしれない。 リセオは喉の奥から出掛かった悲鳴を堪え、その代わりに今の状態を抗う事さえ叶わない状態に自分が涙した。 「うぅっ……うっく……」 この状況に絶望し、せめて声を上げて泣く事が出来ればどれだけ楽だろうか。それさえ許されない。今になって、自分の愚かな行為を呪った。 そんな事にはお構いなしに、下半身に違和感が走る。茶毛に隠れていた雄の象徴が、欲望を掻き立てられて徐々に成長していくのが分かる。それを分かっていたかのように、視線をそのままにリセオの前肢の片方だけを開放すると、アンリはしなやかな前肢を下半身に向けて移動させる。 「いいよリセオぉ。お前の泣く顔見ると体が火照っちまう……」 見ずにして彼女は、勃てたくもなかった逸物をいきなり掴み、ギュッと力を入れて握る。 「ひあぁっ……んぐっ!」 強く握ってくる雌の前肢に思わず絶叫してしまい、慌てて口元を抑える。敏感に伝わってくる刺激に、懸命に堪えようにも声が漏れ出てしまう。今の絶叫で、すぐそばで寝ていたラーナやマッチが起きてしまったのではないかと、違う意味で震えが走る。 リセオは恐る恐ると、やや離れたソファーで眠っているラーナと、隣のベッドで眠っているマッチに視線を向ける。 幸いにも二匹はこの騒ぎに目を覚ますことなく。相変わらずすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。不安は杞憂に終わった。しかし、これで最悪な事態が回避された訳ではなかった。 アンリは尚も不安に怯えるリセオを面白そうに微笑し、彼女はゆっくりと身を起こして座ると、やがてもう片方の前肢を離してくれた。逸物を掴んだ方はそのままにして…… その表情は、悪戯の仕返しに苛めようと企んだ不適な笑みが浮かび、大事な所を人質にされたリセオは許しを請うよう眼差しを向けるも、彼女は容赦なく次の行動に移った。 「あっ……ひっ……!」 アンリはクスクスと笑いながら、膨張した逸物を上下に扱きだす。体中に駆け巡る快楽にまだ幼い体に電流が走った。 口元を抑えて必死に声を出すまいと耐えるも、それでも襲い来る快感に身を捩じらせ、震えるような声が漏れた。 「おいおい。そんな声だしたらすぐそばの奴等が起きちまうぜぇ? もっと頑張って堪えろよぉ」 アンリは意地悪そうに注意するも、まるでそれを望んでいると言わんばかりに前肢の速度を速め、更なる快楽を送りつけてくる。 リセオは喘ぎ声を抑えるのに精一杯で、涙で潤った瞳で必死に止めるように伝えるも、願いを逆に聞き入れた彼女は、今度はリズミカルに物を扱いだし。先端を肉球で撫でるように刺激してきた。 不規則に変化する前肢の動きに、頭を殴られたような快楽が襲う。どれも一定の行動に止まらず、パターンを変えては逸物を弄り、扱いていく。 「おね……がい……れす……やめ……てっ……」 耐えるにも限界があり、快楽の波を振り切るように、それだけの言葉をようやく口にする。でも、言って止めてくれる様なサンダースじゃない事を、今までの経験が知っていたはずだった。意地悪な彼女が止めてくれる筈が無い。そんな絶望的な事を考えていたその時、 「はーい、これで良いんだろ」 意外な事に扱きを止めてくれた。素直な彼女の行為にリセオは安心の笑みを浮かべるも、内心戸惑いを覚える。しかしこれで、自分の喘ぎ声で二匹を起こさずに済む。それで良かった、良かったはずなのだが―― 不完全燃焼のおかげで雄の象徴が膨張したままになっている。体の全身が熱く、放置された逸物が要求不満を訴えてくる。 アンリの手前でそれを隠そうと前肢で抑えるも、一度雌の愛撫を受けた物は簡単に静まってはくれない。 「どうしたんだよリセオ? せっかく止めてやったのに、苦しそうじゃないか……」 リセオの様子を察していながら、わざとらしく意地悪な口調で聞いてくる。 「うぅ……」 分かっているくせに――原因を作った当の本人を睨む。彼女は愉快そうに厭らしい笑みを返し、更なる追い討ちをかけて来た。 「あーあ、どうするかな~それ。しばらく治まりそうにねぇし、もうすぐ皆も起きちまうし、こんな姿を見られたら恥ずかしいだろうな~」 「そ、そんなぁ……!?」 再び背筋に悪寒が走る。 リセオは外見に寄らず、逸物は通常のイーブイと比べかなりの膨張力がある。そんな特有の物が災いして、少々沈めた程度じゃ茶毛から隠しきれないのだ。 逸物は既にギンギンになるほぼ手前までになっていて、自然に沈めるまでには結構な時間を要する。アンリの言うとおり、もうすぐ皆が起きる頃だ。とても自然治癒なんかにまかせておけない。 「ど、どうしよう……どうしよう……」 涙が今にも零れそうな潤んだ瞳で、一向に静まらない憎たらしくも思える己の性器を無理やり茶毛の中に押し込もうと努力した。 しかし、変に弄ってしまったおかげで本意じゃないにも関わらず、物はまた少し膨張してしまう。どう見ても無駄な抵抗だった。 そこで、遠くの方からうぅん、と低い声を漏らす声を耳にした。ラーナの声だ。いよいよ危険な状況になってきた。 崖っぷちに立たされ、絶望的になる。こんなものをおったてている姿をラーナやマッチ、姉に見られてしまったら―― 「ふふ、困ってるな~。そんなにそれを沈めたいんだったら、手を貸してもいいんだぜ?」 突然な救いの声に、リセオは一瞬と惑う。彼女は続けて言う。 「そんな姿を身内に見られたくなけりゃ、俺の言う事を聞きなよ。分かったか」 多少威圧するような物言いにも構わず、リセオは首を慌てて縦に振った。そんな対応を待ってたと言わんばかりに彼女は、再び不適な笑みを作る。 その後は何も言わず、押し倒した状態から身を引き、少し下がる。顔を下半身にまで持ってくると膨張した逸物を前に舌を舐めずり―― 「ひぐっ……!?」 股間から快感の波が、電流のように全身を駆け巡る。 アンリはリセオの逸物を美味しそう舌を滑らす。そのおかげで体温が更に上昇する。 「うっわ、すげぇビクビクしてる~。ほんっと子供のモノじゃないよねぇこれ」 今更何を言うのかと、リセオは低く呻いた。逸物の脈動を楽しみながら上目使いで告げる。 「口を貸してやるから、お前が腰を動かして抜くんだ。そうすれば治まるだろ」 何時もなら強引にやられる身である彼が、自ら腰を動かせと告げられて困惑する。 「なんで僕が、自分でやらないといけないんですか……?」 「ばっか、何時までも俺達にしてもらえるからって楽してんじゃねーよ。これからも長い付き合いでいるんだから、この際勉強しろよな」 俺達を満足させれるようにな、と最後に付け加えて言った。楽してんじゃないと言われても、こちらから頼んだ覚えはないし、むしろ迷惑している。 半場困惑気味になるも、最終的には沈めなければいけないのだと覚悟を決め、彼女に向かって頷く。 「ふふっ、あむっ……」 「んっ……!」 不適に微笑むと、アンリは美味しそうに咥えこむ。柔らかい唇が竿を滑り、わざとらしいくらいの鈍い動きで口内に進む。 竿が半分まで沈んだ所で動きが止まる。ここから先は自分でしろと言う事だ。彼女は早くしろと言わんばかりに舌先で突いて急かしてくる。 ビクビクと痙攣を起こす。呼吸が落ち着かないのまま彼は抑えられた腰を浮かす。見ずとも自分の逸物が柔らかい口内の中に沈んでいくのが分かる。 何も動きもとらない彼女のプリプリした舌が口内で滑る。 「んんぅっ……んんっ……」 始めはぎこちなく動く。アンリは普通のサイズではない雄の性器を向かい入れ、呻く声を漏らす。 リセオは自分でも驚くほど慎重になっていた。難しい訳ではなく、普通に腰を浮かして快感を得ようとするだけで良い。ほとんどの雄雌がやっていそうな事だ。 自分からするのは初めてな為に、胸の鼓動が高鳴る。全身が寒さで震えているような感覚だった 「ひぁ……あうぅっ……」 自らの動きによって生み出される快感に甘い声をあげる。落ち着かなく呼吸を乱しながら懸命に腰を浮かしたり引いたりを繰り返す。 出来るだけ早く済ましたい。皆が起きる前にこの鬱陶しい硬直した肉の塊を沈めたく思い、それでも何処か遠慮気味に欲望を押し込む。 中途半端な欲望の発散に、アンリが半場呆れ顔になる。 ――もっと勢いを付けて入れてみろ。早く済ませて楽になりたいんだろ? 遠慮なくぶち込んで見ろよ。 逸物を咥えた上目がそう告げてくる。 「だってぇ……」 頭の中で言い訳を考え、口にしようとしたその途端、 「うぅん~……」 別の方から呻き声を聞いた。しかめっ面で目元を擦るマッチの姿に目を向けて、背筋が凍りついた。ラーナに続き、今度はマッチの方も、もうすぐお目覚めを迎えてしまう。 自分の逸物を美味しそうに咥えられているこの最悪な状況を目にされたら、考えただけで恐怖に駆られる。 リセオは口元を自分の前肢で抑え付け、出来るだけ声を立てないようにすると、止まっていた動きを再開させる。今度はぎこちない動きではない。 焦る気持ちが募り、膨張しきった逸物を根元まで押し付けるように口の中に沈めていく。 「んぐっ……!」 流石のアンリも驚いたのか、片方の目が開き、驚き顔になった。そんな事になど構っていられず、次々と中に押し込んでいく。 唾液が絡み、出し入れを繰り返していく度に逸物がベトベトに濡れる。それに伴い、快感も大きくなっていく。それでも声はあげない。 逸物から伝わる快楽に負けて、少しでも声を上げてしまったらアウトだ。 欲望の発散を表に出すことが出来ず、その表情は快楽を得ながらも苦しそうに歪む。 その反面アンリは、口内に押し込まれる勢いをつけた逸物にもすぐに慣れ、リセオの欲望のはけ口にされている事に喜びに、瞳をトロンとさせている。 何時もなら攻められる側が、今は攻める側になるという攻守の逆転劇。しかし、それでも自分が優位に立てれる訳ではなかった。何匹も雄の物を舐めてきた、彼女の唇に敵うはずが無い。 それでも気を抜く訳にはいかなかった。今にも起きそうな二匹を傍にして、焦る気持ちと快楽の波が同時に襲い掛かる。 堪えてきた涙が頬を伝う。それにを気にもとめず、更に腰を加速させていく。 「んんぅっ……んんぅっ~……!」 悲鳴に近い喘ぎ声が、抑えている口元から漏れる。 ――早くイって……早くイってよ…… 自分の逸物に言い聞かせる様に心の中で呟き、射精のコントロールの利かない自分の逸物に苛立ちを覚える。まるで、己の逸物さえも焦るリセオを弄ぶひとつであるかのように。 絶頂しようと腰を加速させても、快楽がより強烈なものになるだけで、射精に中々至らない。――なんてモノを持っているんだ、僕は…… 改めて、自分の性器の性能に驚愕した。 そこへ、予想だにしない別の快楽が襲い掛かってきた。 「ひっ! んんぐぅぅっ~!?」 あまりの刺激に浮かしていた腰の動きが止まる。原因は逸物の先端から伝わってきた。怯えた目で下半身を見下ろす。 アンリが何時の間にか頬の色が紅く染めあげ、咥えているだけでは物足りないと、口内で竿を吸い上げていた。きついまでの吸引力に、針にさされた痛みに似た快楽が襲った。 行為を中止された彼女が再び上目使いを向け、もっと逸物をよこせと要求を告げてくる。 止めてしまいたい。すぐにでも行為を中止してアンリから逃げ出したい。ピストン運動を再開させながら怖気づく。それでも、止める訳にはいかない。 自分にそっくりで、笑顔の似合う実の姉を思い浮かべてしまう。雌相手に醜い欲望を剥き出しにしている自分の姿を見て欲しくない。 逸物を美味しそうにしゃぶるアンリの要求に懸命に応えながら、涙をポロポロと零していく。射精に至るまで、まだ遠い。 自らがやっている行いに拷問されているような感覚に囚われる。逃げ出す事が出来ず、行為を中断する事も出来ず、声を出すことさえも許されない。泣いてしまいたかった。 狂ってしまいそうな快楽に包まれながらも、リセオは自分の逸物を口内に激しく出し入れする。苦しむ事も無く、吸い付くように全て受け入れるアンリの口内。 長く続きそうな快楽地獄も、やがて終わりが近づく。待ち望んでいた射精が近づいてきたのだ。だがそれに伴い、快楽の波もまたパワーアップする。 「んふーっ……んふーっ……!」 吐き出してしまいたい喘ぎ声を、それでも堪える。腰を止めず、絶頂を迎える衝撃に備える。 アンリは何時でも来いと、ベッドのシーツをギュッと掴みながら射精を待った。リセオはこれ以上にないほど加速する。 「んんぅぅぅぅっ!!」 次の瞬間、リセオは気絶してしまいそうな快楽と言う名の衝撃を受けた。 小さな体がビクンと跳ね上がり、悶える。アンリの口の中で逸物から勢いを付けた精液が迸る。 痙攣を繰り返す度に竿の先から熱い白濁液が飛び散り、雌の口内の壁にぶつかる。口内はすぐに、リセオの精液によって埋めつくされる。 しかし漏れる事なく、アンリは嬉しそうに半端の無い量に臆する事もなくゴクンゴクンと喉を鳴らしながら飲み込んでいく。そのおかげで、口の外に漏れる事はなかった。万が一ベッドに染み付いてでもしたら、後が大変だった。 リセオは尚も射精を繰り返しながら、気持ちが浮付く感覚になる。 やがて射精も勢いが静まる。全てを飲み干したアンリは、ようやく逸物を解放し、唇を舐めて満足そうに見下し、微笑んだ。そんな彼女の表情を見て思った。 ――やっと終わった。これでもう、ラーナやマッチに無様な姿を見られずに済む…… リセオは半場生気を失った目で、その真意を探り難い笑いを浮かべる。 「何してるの……あなた達っ……?」 透き通るような雌の声。その声が聞こえ、リセオは血の気が凍りつく。 射精したばかりの脱力感が残った身に鞭を打ち、恐る恐る振り向く。悪い予感が当たってしまった。 ソファーから、目を覚まして上半身だけ起こしたラーナが行為後の二匹をまっすぐ見ていた…… リセオはその瞬間、目の前が真っ白になるような気持ちに陥る。血が繋がらなくても本当の兄弟のように仲の良かったあの日々がもう無くなり、失われるのだと、完全にクリアする思考の片隅でそう思った。 「おはようっ、リセオ~」 涼しい声が疲労した頭の中に響く。ふらりと顔を横に向ける。ピンッと伸ばした長い四足を上品に歩かせて近づく。 氷のような色合いをした、しんせつポケモンのグレイシア。今、疲労の表情を浮かべているイーブイのリセオの、血縁のある姉のヒュレイだ。 二匹は別荘の廊下で出会った。ニコニコと見下ろし、出会ってからまだ日の浅い弟の頬を、舌で舐める。 「ふあぁっ」 ヒュレイの舌は冷たく、ヒヤッとしていて思わず震えた。 「あら、ゴメンネ。私は氷タイプだから冷たかったでしょ?」 「別に大丈夫だよ。おはよう、お姉ちゃん」 謝りながらクスクスと笑う綺麗な姉の顔を目にして、疲れが吹っ飛んでいく。やんちゃな顔で姉を見上げて、自分も笑顔を浮かべる。 「ベランダに行くの?」 「うん、外の空気でも吸ってこようと思ってね……」 そっけなく言う。実際は、アンリとの朝の行為によって気疲れしていた所だ。朝食を済ませ、そこで少し休もうと思っていた所だった。 「リセオ、ベランダに行くなら私も一緒に行くわ」 ヒュレイとは逆の方向からラーナが爽やかそうに言う。昨日の長旅の疲れがすっかりと癒せたと言えるような表情だ。 「そ、そうなんだ。それじゃ一緒に行こうよ」 平然を装うも、一瞬声が裏返ってしまう。不自然な様子を気にもせずラーナとヒュレイは廊下の角を曲がって先に進んで行った。 ラーナの背後をじっと見続けて、やがて安堵の息を吐く。 「本当によかったなぁ、見てなくて……」 アンリとの行為を見られたときは、本当に絶望的な気持ちだった。 まだ自分の物を咥えたままのアンリと、気が抜けた自分を交互に見た彼女が言った言葉がリセオを救った。 『アンリったら、リセオを枕にしてて、そんなに心地良かったの?』 ラーナは起きたばかりで、完全に寝ぼけていたのだ。そのせいか、視界がぼやけていて二匹の行為が細かく、はっきりと映らなかったのだろう。 彼女から見て、きっとアンリがリセオの股間に顔を埋め、枕代わりにして眠っていたのだろうと受け取ったのだろうと。 無論リセオは寝ぼけ混じりに彼女が言った言葉を本当の事にして言い訳し、なんとか信じさせた。その後彼女は、寝ぼけ眼のまま顔を洗いに部屋から出て行った。初めて神様に感謝したくなる気持ちが沸いた瞬間だった。 その後は欲望が落ち着きを取り戻し、アンリから逃げるように部屋から出て行ったのだ。全く、無闇に彼女に悪戯しただけでこうなるなんて、思いもしなかった。 軽い仕返しも考えてはならない。相手が野蛮な野生のポケモンなら尚更…… 思い出すだけで、また疲れそうだった。トラウマを振り払い、さっさと二匹の後を追いかけた。 廊下の角を曲がり、ヒュレイの背後に追いついたリセオは並ぶように位置づく。 「んふふ~、リセオの肌ってふさふさしてる~」 「ふわっ、お姉ちゃん?」 年上の姉とは思えない甘えた声で、頬擦りして寄ってくるヒュレイに動揺した。ひんやりした彼女の肌が密着する。 先を進んでいたラーナが驚いた声に振り返り、思わず苦笑する。 「リセオはもう覚えてないと思うけど、お姉ちゃんがこれすると、リセオったら必ず笑ってたのよ。しょんぼりしている時にこれすると、不思議なくらい笑顔になってたんだから」 ヒュレイは頬を離すと、昔の事を懐かしそうに言った。 「そうなんだ、全然覚えてないなぁ。僕、物心付いた時から居たのはマッチと、後から一緒に暮らすようになったラーナお姉さんくらいだから……」 俯き、記憶の中を探った。しかし、幼い頃の記憶なんてほとんど無い。血の通っている姉と言えど、昨日までは全く知らなかった情報だけの存在だった。 しかし、今こうやって出会っていて、間もなく打ち解けているという事実が本当の姉弟だからこそ、通じ合える何かがあるのだと内心納得する。 リセオは何だか嬉しくなり、見つめ返して笑顔を向ける。 「ふふふ、その笑顔も昔のまんま。私は形がすっかり変わっちゃったけどね……」 ヒュレイは昔の自分を思い出すように、歩く先を真っ直ぐと見つめる。昔を懐かしむその容姿端麗な横顔は、純粋で曇り一つすら見当たらない無い。改めて見ても疑い様の無いほど綺麗だ。 僅かに閉じかけた紺色の瞳が遠くを見つめるその姿に、ちょっと悪戯してみたくなった。 さっきの頬擦りの仕返しと言わんばかりに、遠くを見つめているヒュレイの隙を突いた。 「ふぁっ……」 「えへへ、お姉ちゃん油断しすぎだよ」 リセオはそっと真っ直ぐを見ていたヒュレイの近づき、油断していた彼女の首もとをチロッと舌で舐めたのだ。くすぐる小さな感触に彼女は一瞬振るえ、子供の様な反応を見せた。 「もお、やったわねぇ~。えいっ!」 「ひゃぁっ」 ヒュレイは目を吊り上げ、軽く怒った口調で言うと、再びリセオに擦り寄る。さっきまでの大人びた表情が、子供に戻ったように無邪気に変わる。 体毛を撫でるように顔をぐりぐりと押し付ける。くすぐったさに堪らずリセオは笑いを漏らした。 「えい、これでもか、これでもかぁ~!」 「ひゃはははっ、お姉ちゃんくすぐったいよぉ~」 じゃれあう二匹。すっかり自分達の世界に入っていた。 「お二人とも、ベランダに行くんじゃないのかしら?」 ふと前を見やると、何時の間にか遠く、小さくなっていたラーナが苦笑気味に叫んでいた。ハッとする二匹。 慌てた二匹は小走りで後を追う。並んで走る二匹の姉弟。 リセオは一生懸命に走ったが、肢の長さでヒュレイと若干速度に差が出る。 「やっぱり、似ているわね」 苦笑気味にラーナが、追いついたヒュレイに言う。 「そうですか?」 「そうなの?」 二匹が同時に聞き返す。その仕草までもがそっくりだった。ラーナは思わず吹き出しそうな顔をする。 「ふふっ、話には聞いていたけど、見た時は本当にビックリしたわぁ。性格もなんとなく似ているし、やっぱり血がつながっている事はあるわね」 「そんなにそっくりですか? 私、イーブイの頃はリセオと見分けが付かないって言われた事があるのですよ」 ヒュレイは自分の顔がリセオとそっくりと言われて嬉しそうに笑みを返す。 「お姉ちゃんの顔とそんなに似てたの僕?」 「そうねぇ。私のご主人が、リセオは雄なのに、私とそっくりな雌みたいな可愛い子だって言ってたわ」 「え~、雌みたい~?」 リセオは不満そうに首を傾げる。雄ならば格好の良い風に見られたいという気持ちもある。端整な顔立ちでありながら、生まれつき雌っぽい顔つきの為にどうにも雄らしく振舞うことが出来ない。 暮らしている屋敷の使用ポケモン達が、どうにも自分に対して過保護的に思えるのは、この顔が原因かもしれないと疑問に思ったのは一度二度ではない。 嬉しそうに笑むヒュレイの反面、リセオは複雑な気持ちにとらわれ、しかめっ面になる。 「雌っぽくて可愛いわよリセオ」 「うぅ~、僕は雄としてみてもらいたいよぉ~」 雄みたいと見て欲しいと言いながら、瞳を潤わせて抗議する様子は全くもって雄らしくない。ヒュレイの言うとおり、幼い雌みたいに可愛らしい映る。 ラーナは苦笑しながらも不満を垂れるリセオをなだめる。 「大丈夫よ、まだ成長しきってないだけで、もう少し大人になればきっと逞しい雄になれるわよ」 「きっと……?」 曖昧な励ましに逆に違和感を感じた。ラーナは慌てた様子で「絶対なれるわよ」と、言い直した。それを信じて、表情を明るくした。 お花が咲いたように笑むリセオの顔を見て、ラーナは思った。やっぱり雌っぽいなぁっと。 「私はむしろ、女の子っぽいリセオの方が似合ってていいな~」 ヒュレイがムフフと笑ってからかう。せっかく機嫌を直したのに、幼い雄心を弄ぶその言葉に、リセオは再びムスッとしてしまった。 「あ、怒っちゃった……? ごめんリセオ、機嫌直してよぉ……!」 姉にそっぽを向いたリセオに、流石に焦ったヒュレイは困り顔で謝った。それでもムスっとしたまま、彼女と顔を合わせない。 ぷんぷんと怒りを露にする弟と、それを懸命に謝る姉の姿。 ラーナはやれやれと呆れる。しかし、その表情には何処か羨ましい思わせるものがあった。これが兄弟と言うものなんだろうなと―― 「ねぇ、ラーナ姉さん! 僕は雄らしい方がいいよねぇ?」 「ラーナさぁん……」 雄々しく見せようと必死に顔を強張らせる。そおねぇ、と苦笑気味な返事が返る。 同意を求めるリセオの顔を見つめている内に、横で助け舟を求めるような困り顔のヒュレイと見比べた。 「プフッ……」 堪らずラーナは吹き出す。リセオとヒュレイは唐突な笑いに訳が分からずに、互いの顔を見る。ぽかんとしていた顔が、まるで鏡に映したようにそっくりにだった為に、また吹き出す。 「プフッ……もぉ、笑わせないでよ二人ともぉ」 「ふぇ? 僕達、何かおかしな事でもしたかな?」 急に笑われ、リセオはヒュレイと顔を向かい合わせる。邪気の無い子供の様な自分が、彼女の目の中で映る。そしてまたラーナを見返した。 二匹を見比べるラーナに、次第に込み上げて来るものに我慢出来ず、整った理知的な顔を崩し、堪えていた糸が切れる。 「あはははははっ、もう、何でも間でもそっくりよねぇあなた達ってぇ~」 高貴で美しいイメージのミロカロスも流石にこの時は爆笑している。彼女自身も、正直みっともないとは思っているようだ。だが、この可笑しさには勝てない。敵わない。 どうしたのだろうと、ヒュレイとほぼ同じタイミングで首を傾げた。そんな行動を見たラーナがまた、全身を振るわせるくらい爆笑した。 「もぉ……二人とも僕の事馬鹿にしてぇ!」 今度こそ機嫌を損ねたリセオは、謝りながらも今だに笑い続けるラーナを睨む。頼りの綱が切れてしまったヒュレイは、どうしようかとたじたじとしている様子だ。 そんな時、ラーナの背後の通路から何かが近づいてくる。そのシルエットを見て、リセオはそれが誰なのかすぐにわかった。 「あ……」 怒りを忘れ、名前を呼ぶか一瞬迷う。そうしている内に相手の顔がはっきりした。 「おはよう」 滑らかな声が、リセオ以外の二匹にも届き、はっと声の方へ向く。 相手の心を見透かしたような透き通る紫色の瞳、額に小さく輝く真紅色の宝石が印象的。 通路の照明に照らされて薄紫色の体毛に反射して美しく煌めかせて、先が二つに別れた細い尾をゆらゆらと妖美に揺らし、しっかりと伸びた長い四肢をしゃなりしゃなりと上品に歩かせる美麗なポケモン。 プライドが高くて、上から目線で常に他者を見下して、小馬鹿にしてそうな目つき。口元を吊り上げて笑えば、可愛いと言うより、不適な笑みが似合いそう。 雌のエーフィであるナリアは、リセオと目が合った。何時もなら冗談半分、本気半分に厭らしい意味でじゃれつく彼女の表情に、影が掛かっている。何だか元気がなさそうに思えた。屋敷で一緒に住んでいた時には一度も見た事の無い、初めて見る顔だった。 調子でも悪いのだろうか、あるいは何か悲しい事でもあったのだろうか、美麗な顔を曇らせた表情から、その真意を探るのは難しい。 戸惑ったリセオは、朝の挨拶を返そうか一瞬迷った。声が掛けづらい雰囲気だった。開いた口は、固まったように動かない。 「おはようナリア」 躊躇している内に、落ち着きを取り戻したラーナが返してしまった。先を越されて、返しづらくなったリセオは、開いた口を塞ぎこむ。 「昨日は何処に行ってたの? 皆が寝るまでずっといなかったけど」 「別に、ちょっと外の散歩をしていただけよ。昨日は別の場所で寝てたわ。あのベッド、寝辛そうだし」 ラーナの問いに、ナリアはさっきまで僅かに寂しそうな表情をやんわりと溶かし、何時もの不適な笑みが似合う顔に戻る。 気のせいか、彼女は問いに対して、適当にあしらっている気がしたが、ラーナがそれに気づいた様子はなかった。 「そうなの。所で、もう朝食は済ませたの? これから私たち、ベランダに行って風にでも辺りに行く所だけど、一緒にどう?」 「そうねぇ、私も行こうかしら……」 顔が合うと、思わずその視線から顔を背けてしまった。理由は自分でも分からないが、何だか視線が合わせ辛い。何時もと変わらぬ彼女の表情なのに。 なんて声を掛けたらいいのだろうと、頭の中で言葉を探す。今更、朝の挨拶を返すのもおかしいと思った。しかし、適当な言葉が思い浮かばない。 どうして、出会っただけでこんな息が詰まりそうな感覚になるんだろうか、自分でも疑問に思った。元より、ナリアは苦手ではあるが―― 「リセオ、一緒に行きましょ」 リセオが何か言う前に、ナリアから声を掛かけられる。一瞬驚き、顔を上げて彼女を見る。綺麗な顔が答えを待った。 「えっと、わかりまし――」 「リセオ~~っ!」 涙声と共に、背中が重みがのしかかる。ヒュレイが泣きつくように抱きつき、その重さでリセオの体勢は大きく崩れ、地べたへと落ちる。 リセオは身を起こす暇もなく、ヒュレイの許しを媚びるような頬擦りを受ける。ずっと、どうやって彼のご機嫌を取り直そうか困り、悩んでいる内に答えが出てこず、悲しさと虚しさのあまりに抱き付いてきたのだ。 「おねがい~、怒らないでぇ~。お姉ちゃんを嫌いにならないでぇ~~」 年甲斐もなく、わんわんと大粒の涙を零して許しを乞う。全身を美しい水色の前肢でホールドし、ガッチリと掴んでいる。 微弱な膨らみを背中で感じながら、ひんやりとした体温をもろに感じ取り、寒気を覚えるに、ヒュレイは決してリセオを離そうとしない。 「お、お姉ちゃん……苦しいよぉ~っ!」 知らず知らずか、彼女は呼吸が止まるんじゃないかと思うくらい、強く抱きしめている。息苦しさに悶えながら、前肢をばたつかせて抜け出そうとする。 「……っ!」 その時、ナリアの表情がキッと強張る。一軒、泣きながら弟にしがみつく姉にしか見えない。今まで一緒に暮らしてきた愛しいリセオを、会ってからまだ間もない雌ポケモンなんかに抱きつかれるのは、彼女からして癪だ。 しかしナリアが苛立ったのは、ヒュレイの行動ではない。リセオの言葉だった。 ――お姉ちゃん たったそれだけの単純な言葉が、ナリアの中で重く響き渡る。嫉妬の篭った目で、未だに涙目でリセオにすがり、じゃれつくヒュレイを睨んだ。 いくら血が通わないからといって、ナリア自身もリセオと暮らし初めてから結構の時が経つ。 暮らし始めた当初は、姉らしいとはとても思えない事を多くやってきた。自分と野生の友人達が気に入り、抱いてて飽きない、夜のマスコット的な存在だったからだ。 いやいやながら拒み、そして攻められて泣く、幼く哀れな姿は、湧き上がる欲望を満たしてくれた。ナリアは、たったそれだけの要求を満たしたいが為に、リセオの住む――人間の手持ちとなって屋敷の一員となったのだ。 これで望む者を手に入れた。後は、十分に堪能しまくり、時々協力してくれた仲間にもその甘美な一時を味あわせる。なんとも言い難い、至福に満たされた時だった。 しかし、野生とは違う世界で生きてきたナリアは、その暮らし慣れていく内に、少しずつ変わってきた。そんな中で、ナリアは己の暗い欲望とは全く違う、純粋な欲望が生まれてきたのだ。それは…… 「ナリア、どうかしたの? 怖い顔なんかして……」 ラーナに言われ、ナリアはハッと強張った表情を消す。邪念を払うかのように首を振り、笑みをつくって誤魔化す。 「う、ううん。なんでも無いわよ。そんな事よりも……」 未だに半泣きのままリセオにしがみ付いて謝るヒュレイの元に歩み寄る。 体重の重い進化系に上から抱きつかれて、迷惑そうなリセオを見て、見ていられなくなった彼女は囁ように言う。 「リセオが迷惑しているわ。どいたらどうなの」 一瞬、苛立ちを浮かべていた表情を和らげ、撫でるような落ち着いた声をかける。ヒュレイは一瞬だけ戸惑い、声の主に顔を向け、「ふぇっ?」と間の抜けた返事をした。 見ている限り、とても姉とは思えない。しかし、綺麗でありながら、リセオと瓜二つな顔立ち。下で鬱陶しげにもがいているリセオと見比べても、疑い様がないほど似ている。 それが、ナリアに再び苛立ちを募らせた。優劣をつけるつもりはないが、よくよく観察してみれば自分の方が魅力的だ。たった一つだけ年齢が違う、リセオと大差を感じさせない幼い言動。これは現状を見る限り、疑い様のない事実。 魅力の差では、ナリアとヒュレイは顔立ちが違うといえれど、それほどの差は無く、どちらとも美しい。それはナリア自身も認めるほどだ。しかし、顔立ちからして、ヒュレイはまだ子供っぽい所が残っている。それに比べ、可憐で大人的な魅力を誇る自分。だから…… ――自分の方が姉らしい 「わ、私。迷惑かなぁ……」 哀愁を帯びた眼差しをリセオに向ける。本格的に悲しみに顔を歪ませる姉を前に、困惑した。彼女を慰めようと苦しいの堪えて「大丈夫だよ」と作り笑顔で答えた。 「嫌いになんかならないってば。だから落ち着いてよ」 気を利かせたリセオの言葉に、ようやく落ち着きを取り戻した姉が、にぱっと、氷タイプなのに、見る者を照らす太陽みたいな笑顔を広げた。どうみても、子供っぽかった。 ナリアはそんな彼女とリセオに、クスッと御淑やかな笑みを送った――がっ、心の中で暗い、嫉妬に似たようなドロドロした感情が込み上げて来る。 ――こんな雌がリセオの姉だなんて…… 「何時までもしがみ付いていたら、リセオが苦しいでしょ?」 見かねたラーナが気づかせるように言う。ヒュレイははっととして、咄嗟に身を退かす。 「わわっ、ごめんなさいっ! 私ったら何時までもくっついちゃって、苦しかった?」 つい感情任せにやってしまったと、彼女は恥じらいを覚えた様子で慌てて謝っる。 息苦しさから開放され、ふぅと溜め息をつくと、その後に深く深呼吸をした。別荘内の新鮮な空気がおいしく感じた。ずっと吸っていても飽きない。元々この周りは緑に囲まれて作られた別荘だ。大自然の清々しい匂いが別荘を通じて、ほんのりと漂っている。 しかし、どうせならシンオウの朝のを吸いたい。待ち遠しくなり、急かす様に彼は言う。 「もういいよ。そんな事よりも早くベランダに行こうよ。僕達にとって、初めてのシンオウの朝なんだしさ!」 自分で言いながら、居ても立ってもいられずになり我先へとベランダの方へと駆け出して行った。 「あ、リセオ待って~」 先を走る弟を見て、ヒュレイが慌てて追いかける。 「ふふ、まったく忙しいわね二人とも」 「クスクスッ、そうね。あれがリセオと血の繋がった姉だって事が納得できちゃうわ……」 やんちゃな言動の二匹に苦笑する、置いていかれた二匹の雌達。 「リセオは最初からそうだけど、あのお姉さんの方も目が離せそうにないわね。弟好きで、なんだかへまをやらかしちゃいそうだし」 手間の掛かるような妹が増えたような口調でナリアは言う。その反面、彼女の表情は愉快そうに笑顔になっていた。 置いて行かれないように、ラーナは自分のペースで進みだす。そうしながら、ナリアに振り返る。 「私だけじゃ面倒見切れないかもしれないから、もう一匹の小さい弟の方はよろしくね。もう一人のおねえさん」 冗談めかしく言う。ナリアは苦笑交じりに「はいはい」とだけ返し、二匹の後を追いかけて先を行くラーナの後ろ姿を見送った。 三匹が廊下を行ってしまう中、ナリアだけが追わずにその場に佇んでいる。美しく笑っていた美麗な口元がゆっくりと歪み、笑顔を崩す。そして独り言の様にボソッと囁いた。 「……何がもう一人のお姉さんよ」 ラーナの言った言葉が、ナリアの中に鬱陶しいくらい木霊する。さっきまで笑みだった顔は、やがて憤りに歪んでいく。 「私なんて、まだ、それすら呼んでもらってもないのに……!」 「うわぁ、でっかいな~」 それだけで言うならば、何処にでもありそうな、ありふれた水の塊。 だが、そんな言葉で一緒に考えるのはとても失礼になるほど、その水の塊は格別に大きい。絶景な光景を前にして、ヒトカゲのマッチが堪らず感嘆の溜め息を漏らした。 目を覆うような広がる湖は、空から降り注ぐ日の光を反射させて、青く澄んだ透明の水が煌びやかに照らしている。生ける物がすべてが利用する清い水。元気良さそうに、コイキングが水を散らして跳ねる。 広大に広がる水の中央には、まるでその湖の象徴であるかのように、小さい洞穴が孤立している。 ここは、リッシ湖。シンオウ地方で有名な三大湖のひとつ。人間の手が一切加えられてない、自然の観光名所。伝説と呼ばれている、意思を司るポケモン、アグノムが眠る場所だと言われている。 「マッチ、あんまり近づきすぎないの」 身を乗り出しすぎて危うく落っこちそうになっている所を、ラーナが注意する。 「尻尾の炎が消えたら大変よね。マッチ君はこれ以上近づかない方がいいわ」 金髪の、ヒュレイの飼い主である金髪のセミロングした女性、マリアが同調して言う。 その左隣には、トレーナーの守り神であるかのように後ろでフワフワと浮いているポケモンがいる。 別荘を離れ、かなりの距離があったリッシ湖まで、彼女らがどうして此処に来て観光しているのか。その答えは、まるで気球のように全身を膨らませたポケモンにあった ヒュレイの横を ピッタリくっついて歩いていたリセオが、気になってそのポケモンの事をチラチラと伺っていた。すると、視線に気づいた様子で、赤い目をこちらに向き返す。そして、バッテン模様の中央から、軽く息を吹いてきた。 「ふわっ……」 突然の突風が体を襲う。全身の体毛が風に流されて靡く。 辛うじて踏ん張る。あのまま倒れてたら、危うく横に居るヒュレイとぶつかってしまう所だった。 「大丈夫? もぅ、私の弟なのよ。悪戯しちゃダメ」 ヒュレイが前肢を持ち上げて、めっ、と叱りつける。そのポケモンは自分が叱られたという自覚が無いのか、表情ひとつ変えずにふわふわと浮かんだまま。 ただ、その後は風に流されるようにマリアの右隣に場所を移した。 「ごめんなさいね、リセオ。彼女ったら人見知りで、初めて見る相手についああいう事しちゃうのよ。悪気はないんだけどね」 ヒュレイが謝るように言った。リセオは、そのポケモンを唖然とした顔で見つめた。名前は、既に聞いている。 名前はバルーム。風船みたいに脹らむ姿から、その名が付けられたと言う。シンオウ地方出身の、ききゅうポケモンであるフワライド。 外見からその性別の判断は難しいが、ヒュレイの言った言葉からして、彼女は雌だ。 先ほどの行為が警戒心でやったことなのか、それとも照れ隠しでやったのか、あるいは悪戯なのか、まったく変わらぬ表情から、その真意を知るのは難しい。 主人の横に隠れたあと、もう一度視線をこちらに向けてくる。不思議と、警戒心は沸いてこなかった。最も、彼女のおかげでリッシ湖まで来られたのだから、文句は無かった。 実際彼女は、本物の気球と同じく、人を乗せて空に浮くことが出来る。それも、大人の一人二人はどうって事もないほどに力持ちだ。 速度は速い方では無い。だが、高所から流れ吹く風を上手く捕まえ、意図した方角へ進む事によって加速を生み、広大な大陸を時間かけて進んで無事に目的地についたのだ。 翼を利用して飛行する鳥ポケモンとは異なる、吹いてくる風を利用して飛ぶタイプだ。 「おーい、リセオも来てみなって。近くで見るとすっごいぞ!」 「あ、うんっ!」 叫んで呼ぶ声を聞いて、関心をバルームからリッシ湖へと変える。草むらに近づかないようにして、マッチの元へと駆け出した。 残されたヒュレイが、無邪気に行く姿を笑って見送った。 「本当に無邪気な子ね。あなたそっくり」 「あぁん、マリアまでそんな事言う~」 まるでリセオと同じ子供のような言われように、ムスッと頬を膨らませる。 「フフフ。だってぇ、あの時と変わって無いんですもの。当時の事を覚えてる子なら、誰だって思っちゃうわよ」 昔の頃を思い出すように、マリアが口に手を当てて笑った。横でバルームが、リセオの行った方角をじっと眺めている。 「お姉ちゃんと言うよりも、双子って感じよね。あなたってとろくさい所あるし、リセオ君の姉として勤まるかしらね」 「馬鹿にしないでよ! 私はその気になれば、弟の一人守ってやれるわよ」 まるでその資格がないような小馬鹿にした言い草に、ヒュレイはムッとしてそっぽを向いた。まるで、別荘でヒュレイ本人が怒らせてしまったリセオの時と全く同じであった。 「あ、ちょっと……ヒュレイ?」 マリアの呼び止める声も無視し、ヒュレイはぷんすかと明後日の方向へ駆け出していく。マリアの姿が見えなくなるまでヒュレイは池の周りに沿うようにひたすら走った。 やがて遠く離れた所まで来たヒュレイは、不貞腐れていた。 やがて遠く離れた所まで来たヒュレイは、ふてくされていた。 ――お姉ちゃんと言うよりも、双子って感じよね。 反射する自分の顔を見ながら、不意に自分のご主人が放った言葉が頭の中に響く。しょんぼりしていた顔は、徐々に可愛らしい膨れっ面へと変わり、苛立ちに反射する池をキッと睨み返した。 その理由は、マリアに言われた通り怒った時のリセオそっくりだったからだ。幼い証拠、それを自覚してしまうから尚の事ムスッとしてしまう。 「……もうっ!」 悔しさに膨れっ面を写す澄んだ水を前肢で叩き付けた。池の水はパチャンと音と共に歪み、しぶきをあげた水滴がヒュレイに顔面に飛び散っていく。 怒り任せに池の水を叩いても空しいと感じ、八つ当たりを終えた途端に急激に冷めていく感情と共に溜め息をついた。 「そこに居たのね」 背後からの声にヒュレイは慌てて振り返る。 「あ、あら、ナリアさん……アハハ……」 先ほど池に八つ当たりしている所を見られたと思ったヒュレイは焦り、赤面しながら愛想笑いする。リセオの姉らしい振る舞ってなけらばならないのにと、内心恥ずかしさと情けなさで埋め尽くされる。 一方のナリアは気にした様子もなくしゃなりしゃなりと歩き、側まで来る。ヒュレイと並ぶとナリアは無言でその場に座り込んだ。 となりで座るナリアの自然的な仕草に、不思議と見惚れてしまった。 ほんの少し年上なだけなのに、美しさとか気品差がまるで違う。比べるのも失礼なくらい大人びたオーラを彼女は纏っていた。何を考えているか分からないその無表情さが、作り物の芸術品みたいな美しさを創造していた。 また、紫色をした妖美な目は何故だかほんのり悲しそうな目付きをしていた。絵に描いたら様になりそうな美の生物が、今自分の隣に座っている。 昨日出合ってから何度か顔を合わせては綺麗なポケモンだと思った。しかし、こうやって無言で池の方をまっすぐ見つめている姿を横目に、ヒュレイは初めて自分との格の違いをはっきりさせた。なんて美しいんだろう。 ナリアの友達とか言っていたアンリと言う雌のサンダースも負けじと美しかったが、それはナリアみたいな芸術的な意味とは違う。言葉にするのを躊躇うような、官能的と言うか、異性を惑わす魔性的な魅力を持っていた。それはそれで別の意味で綺麗だと思えた。 どちらとも、子供じみた容姿の自分には到底敵わないと、池に写り込んだ自分の容姿と比較してしまう。 「何をジロジロみてるの。私に何か付いてる?」 横目で尋ねるナリアの言葉に、ヒュレイはハッとして首をブンブンと振り、 「あ、いえ……何か、その、考え事でもしてるんじゃないかって思いまして……いえ、えっと、別に何でもないです……」 弱々しい口調からでた言葉に、我ながら苦しい言い訳をしてしまったなと内心呆れてしまう。同じ異性でありながらナリアに見惚れてしまったなんて、到底言えるはずもない。 対するナリアは「そう……」と一言だけを返し、すぐに池の方に視線を戻した。 それから、一言の会話も無く長い時間だけが流れた。池の遠くでコイキングの跳ねる音がしっかりと耳に出来るほど、場は沈黙していた。ナリアはたた遠くを眺め、ヒュレイは時折その姿を横目でチラチラと見つめる。 やがて沈黙に耐えかたヒュレイはおずおずと話を掛けて見る事を決意する。 「あの、ナリアさんって……」 「えっ?」 さらりと、横顔を向けてくる彼女にヒュレイは緊張してしまい口ごもってしまう。それでもと、聞きにくい事を承知の上で尋ねる。 「あ……ホウエンでリセオやマッチのお姉さんをされてたんですよね。その、向こうに居た時のリセオってどんな感じだったんです?」 「そりゃ元気いっぱいで、とっても可愛い子よ。そうね、丁度今のあなたと同じくらいにね。まるで双子みたい……クスクス」 「あら、ウフフ」 マリアと同様の事を言われたが、ヒュレイは不思議とムッとする気持ちにはならなかった。ナリア程の綺麗で大人びた雰囲気に、やはり自分とは桁が違うと自覚してしまい、逆に笑えてしまった。 「やはり、そうですよね。自分で言うのもなんですけど、世間知らずでしてね。私の住んでいる所では人やポケモン達が身の回りの世話を焼いてくれるので、姉として自慢できる所が何もないんです」 「いかにも温室育ちのお嬢様よね。他人に頼りっぱなしじゃそう自覚してもおかしくないわね」 なんともな言われようだが、正論だった。ヒュレイは改めて自覚し、恥ずかしそうに低く笑いだす。それを切欠に緊張が解れ、ヒュレイは体勢を変えてナリアを真っ直ぐに見つめる。 「だから、外の世界での暮らしを経験して、リセオやマッチ君からも頼りにされるナリアさんがとても羨ましいんです。ずっと、他人に頼らずに一匹で何でも出来て、そして誰かの頼りにされる事が私の憧れだったのです」 「憧れる程のものじゃないわ、野生なんて。自由に生きていけるけど、その分だけ大変なの。私の暮らしていた所じゃ特にね……」 「そんなに厳しい世界なんですか? 野生の暮らしって……」 「そうね。ヒュレイはさ、人間や他のポケモンに頼らずに一匹だけで生きていける自信はある?」 問いに対して問いで返され、ヒュレイは首を傾げて「う~ん……」と頭を悩ませるが、当然ながら有無の答えは出てこない。 「あはは、どうなんでしょうね?」 悩んだ挙句に口から出た答えが、これだった。けど、決してめげたりなんてしない。憧れていた暮らしを得れるのであれば、不可能なんて無い。 「けど、やってみなくては分かりませんわ」 自信に満ちた答えを、ナリアはむしろ予想通りの答えだと肩をすくめて微笑する。 「口ではそう言っても所詮は無理よ。あなたみたいなお嬢様にはね……」 意地の悪い言い方だが、怒る気にはなれなかった。透き通るような紫色の瞳の中に浮かぶ深い闇に、ヒュレイは言葉を失った。 美しい微笑みの奥底に隠れる、野生の頃に過してきた素顔。思いもしないような壮絶な過去を生きてきたのだと、その瞳が語っていた。 言葉を無くしたヒュレイに、彼女は続けて話しだす。 「私は生きる為ならばどんなものでも利用するし、必要とするものがあれば何としてでも手に入れる。どんな物でもね……」 池の方に視線を戻す。 「その為には自分で手に入れるしかないの。それが例え他人を傷つけ、裏切ったりする事になろうともね」 そこでヒュレイが「えっ?」と漏らす。 「それくらいの事をしなくちゃ生きていくなんて到底難しいわ。強く生きないと、無残に打ちのめされて無様に散る……それが、私の過してきた現実なんだから……」 ヒュレイは青い瞳を大きく見開いて真っ直ぐナリアを見つめる。 「ヒュレイはさ、他人を裏切ってでも生き延びる覚悟はある?」 「そ、それはちょっと……でも、なんでそんな話を急に?」 唐突な問いにヒュレイは困惑すると、ナリアは勝手に納得したのか、そうっ、とだけ呟いた。 「ある仲間から聞いた話なんだけどね。昔、ある所に二匹で仲良く暮していた二匹の娘がいたわ。争い事を好まず決して他人から物を奪わない。優しい娘達だったわ……他人に優しくて弱い者の見方だった。本当の姉妹の様に仲の良かった二匹だった。他人に恨まれる事など決して無い娘達だったわ」 何を語ると思いきや、ただの昔話だった。優しくて何処か懐かしむ様な彼女の口調に、側で聞いてるヒュレイも心地良い顔色を浮かべた。 「けどそんなある日、二匹は何時ものように仲良く食料を探しが終わって住処に帰ろうとした最中だった。一匹の娘が突然凶暴な雄の集団に囲まれてしまってね、もう一匹はそれを助けようと雄の集団に飛び込んで助けようとしたけど、ろくな抵抗も出来ずに襲われてしまったわ……」 「へっ……?」 ヒュレイが唖然とする中、遠くを見る彼女の表情がみるみる内に曇っていく。それでも、微笑だけは曇らなかった。 「その娘達はさ、その雄達に何時間も渡って酷い目に合わされて、心も体もボロボロにされた。最後はゴミの様にその場に捨てられて――持っていた食料を全部を持っていかれたわ……」 「そんな……酷い……」 「そうねぇ、ヒュレイにはその二匹の娘がどんな目にあったか想像出きるかしら?」 冷笑を含んだその問いに、ヒュレイは言葉に出さずに首だけを横に振った。 「ふふ、そしてその娘達は夜になってもその場から動けずにいて、辛うじて二人共生きていたわ。けど、片方は連れ去られてしまったわ……」 「連れ去られたって……!?」 「えぇ、妹の様な存在だったからね。残された娘の方はショックと絶望の余りに生きる気力を無くしてしまった……」 最後まで聞いたヒュレイは信じられない様子で愕然としていた。話を終えた頃にはナリアは寂しそうな表情で俯いていた。 「その……その娘はその後どうなったのですか……?」 その問いを口にした途端、ヒュレイは自分自身で愚かな質問をしてしまったような気がした。こっちに振り返るナリアから出てくる答えを聞くのが怖くなってしまった。 「知らぬ間に何処かに消えてしまったわ。その後、彼女の行方を知る者はいなかった……」 救いようの無い話にヒュレイは一瞬目眩を起こし、そんな彼女をナリアは嘲笑う口調に変わる。 「そんなにショック? せっかくだからぁ、ついでに教えてあげるわ……クスクス」 いつしか妖艶な笑みをする彼女の顔はまるで悪魔が変貌したかのようだった。そして、聞いても無いのに語り始める。 その話し方はまるで当時の事を再現するように細くて、当事者であるかのような口調で語り始める。 それは、ヒュレイの心を砕くもっとも残酷な話であった…… 太陽が沈み、オレンジ色の大地が藍色へと染まり始めていた。空に浮かぶ雲は藍色の空を僅かながらに照らし出している。 二匹の雌達は、食料探しを終えて日が暮れてしまわない内に共に居た住処への帰路に向かっている最中の事だった。 無法に生い茂る草むらに通りかかった所を、十匹以上のグラエナ達に取り囲まれてしまった。何事かと身構える間も無く、目をギラつかせた雄達は彼女達を襲った。 緩い風と普段静かなる草原で、悲劇は行われた。 『やだっ……嫌ぁっ……んぐぐっ……むぅ……ううぅっ……!』 『お願い、やめてぇ……その子だけには手を出さないでぇ……!』 かろうじて相方を助けようとして身を投じたキュウコンだったが、何匹もいるグラエナに敵わず、涙を浮かべて必死になって哀願する。 キュウコンは今、背後にいる雄に体を抑え込まれて強姦されていた。乱暴に突かれる痛みと苦しみに顔を歪ませながらも懸命に相方の身を案じていた。 しかし相方を思う懸命な声も欲望に血走った目をした雄共には届かない。涎を流し、下種な笑みを浮かべながらもう片方の雌が一寸はある業物を強引に口内に捻じ込まれていく。 『んぐぅっ!? んんんぅ~っ!!』 悲鳴を上げる雌のオオタチは恐怖に涙を流し、吐き気に嗚咽を漏らす。 暴れて抵抗をしようにも両前肢は蔓で縛られ、後頭部は雄のグラエナに抑えられていて身動き一つ取れずにいた。 雄のグラエナは荒々しく息を吐きながら、腰を急速に前後に振り出す。乱暴な動きにオオタチは極度の息苦しさに痙攣を起こす。 ビクビクと痙攣するオオタチの背後に回るもう一匹の雄のグラエナ。天を突くような赤黒い肉棒を縞模様の尾に宛がう。 どの当たりが胴体と尾か判別がつき難い体毛に肉棒は行き場を求めてなぞる様に移動し、やがて肉の割れ目に届く。 お目当ての物に気づいたグラエナは興奮にハッハッ、とおぞましいまでに吐息する。肉棒の先っぽで雌の性器を摩擦する。 『んうぅぅっ~っ!! んんぅ~っ!』 その動きに感づき、これから自分が何されるかを悟ったオオタチは恐怖に首を振ろうとするも、グラエナの筋力には叶わない。以前として口の中の肉棒が暴れている。 『お願い……やめてぇ……!』 キュウコンの必死な声も空しく、見向きもせずに雌の肉に夢中なグラエナは腰に力を入れ、それを一気に押し込んだ。 『んぐぅぅーーっ! んぐぅーーーっ!』 声に出はしなくとも、キュウコンにはオオタチの悲痛な声を耳にした。迷彩を失ったオオタチの瞳から涙の粒がぶわっと広がった。 前から雄の肉棒が、後ろからも雄の肉棒が、まるで鋸を引くような動きでオオタチの体内に沈み込む。 無残な光景を目の当たりにしたキュウコンはグラエナに犯されながら押し殺すような嗚咽を漏らし、泣き崩れた。 絶望感に浸る雌を前にしても強姦魔達は一切の容赦無しだった。背後を突いていたグラエナが肉棒を一度引き抜くと、乱暴にその身を仰向けに向かせる。 『うあっぐっ……!? ううぅぅっ!!』 強引に股を開脚させられ、その上にグラエナが覆いかぶさる。顔面同士が直ぐ近くに迫り、開きっぱなしの口から涎が落ちる。 間もなくグラエナは腰を前後しだす。 犯される雌の顔を気分良さ気に眺め、生暖かい吐息を思う存分に浴びせていた。激しい動きにキュウコンの体はピストン運動するかのように前後した。 勢いは衰えることを知らず更なる刺激を求め、血走った目はキュウコンの十分に実った二つの膨らみに目が行く。 ハッハッハッハッと、獣の声を上げながら前肢を乳房に移した。寄せるように揉み、乱暴に扱うグラエナの動きは更に加速させた。 『ああぁっ……ぐふっ……ううぅぅっ……嫌ぁ……!』 下半身と胸の両方を犯され、涙の粒を散らしながら首を左右に振るも、少しの抵抗にもならずむしろ逆効果だった。 悲鳴は雄達を興奮させ、刺激し、忽ち精欲を高まらせる。順番を待っている他のグラエナの表情が険しくなり、まだかまだかと涎を流しながらガチガチと歯を鳴らしていた。 オオタチを犯していたグラエナの二匹の動きが凄まじく前後する頃。口内を犯していたグラエナの目がクワッと見開き、動きを止めてビクンビクンと痙攣を起こす。 『うんぶぅぅっ!!』 同時にオオタチの瞳も大きく見開き、異物を無理やり入れられたように頬を膨らませる。 雄々しく嗚咽しながらゆっくりと腰を引かせ、ようやく肉棒から開放されたオオタチは吐き気と共に口からグラエナの液体を吐き出した。 『うぼえぇっ……ゲボッ……おえぇっ……』 唾液と白濁液の入り混じる物を吐き終えると、背後で荒い息を吐いていたグラエナにも同じ反応が起きた。 『やっ……あっ……ああぁっ!!』 体内に雄の体液が容赦無く侵入する絶望感にオオタチは枯れた悲痛の叫びを上げた。 その間にもグラエナは己の欲望を全て出し尽くそう微弱に肉棒を浮き沈みさせる。言葉無く、はぁはぁと吐息を吹きかける。 やがて満足した様子のグラエナは肉棒をそのままに動きを止める。残りを余興で楽しんでいた。オオタチの悪夢は、終わったと思えた…… しかし、順番を待っていた三匹のグラエナが我先へとオオタチの元へと駆け出し、背後にいたグラエナを強引に押し退け、肉棒が白い糸を引いて抜かれる。仲間意識などお構い無しに皆自分の欲求の捌け口の為に必死だった。 回復する暇も与えられないオオタチの背後にはち切れんばかりの肉棒が姿を現す。まだ膣内で白濁液が充満している内に新しい雄肉が侵入し、突き進んでいく。 『あっ……あぁぁっ……やだぁ……お腹が……やめ……てぇ……』 精液まみれの口内でようやく言葉にするも聞き入れるはずも無く、肉棒の激しい運動が再開される。 出遅れたグラエナは不満そうにオオタチを犯す仲間を睨み、止む得ず開いた前の方で欲望を発散しだす。前も後ろも、雌に対する加減などありはしなかった。 『ひっ……やっ……よごさ……ないでぇ……』 愛する仲間が別の雄達に汚されるむごい光景にキュウコンも、次第に瞳から迷彩を失っていく。自然に伸びる前肢もオオタチには届かない…… その自分を犯していたグラエナも果てる時、肉棒を強引に抜いた。 血と分泌液でぬるぬるした竿は生き物の様にビクンと震えると、爆発したかのように欲望が放たれる。 真っ白で熱い液体が弧を描いて撒き散り、生気を半分失った顔面に降り注いだ。一度や二度、キュウコンの股に擦りながら射精を繰り返し、顔だけでなく胸やお腹までも汚していった。 黄金色の体毛が白く汚れ、生々しい臭がから広がり他の雄達の鼻孔を擽る。 まだ犯してない雄達のぎらついた視線がキュウコンの、顔、胸、お腹、尻、肢、尾と向けられる。 疲労で動けないキュウコンは飢えた野獣の前に晒し者にされ、震える。まだまだ終わらぬ恐怖に表情を歪ませる。 やがて強姦に満足したグラエナが一度身を引くと、待ち構えていた他の雄達が一斉に飛び掛ってきた。 『い、やあああっ! んああぁぁっ!!』 体勢を立て直す間もなく、悲鳴と共にグラエナ達の牙が向かれた。 取り囲まれる様にもみくちゃにされるキュウコン。仰向けのまま、一本の肉棒が口の中へと捻じ込まれる。もう一本の肉棒は胸を強引に掴まれてその谷間の間に入り込む。そしてもう一本の肉棒は犯されたばかりの性器に再び挿入される。 待ってましたと言わんばかりに肉棒は暴れ始める。 『うぶぅ……んやぁ……んぐうぅっ……んあぁん……!』 三本の雄槍に汚され、体毛は酷く乱れ、涙と涎と精液でぐちゃぐちゃにされていった。 『げぶっ……ごえっ……げほっ……がほっ……あ、ああぁ……』 二本目の肉棒から開放されたオオタチが、雄三匹に取り囲まれる光景を目にし、止め処なく涙を溢していく。 『やめて……やめて……やめて……やめて……やめ、んぶっんんんっ……!!』 消え入りそうな声で何度も同じ言葉を口にするが、その口もすぐに塞がれてしまう。三本目の肉棒は他と違い、口内を全開させるほど太かった。 前を犯すグラエナは妙に大人しそうにオオタチを見下ろし、犯すよりむしろ苦しむ様を楽しむかのようにゆっくりと性器を前進させる。 『んんんっ! んんぐっ……ごえっ! げぼっ……』 想像を絶する肉棒が口内を貫き、喉に行き届く。その勢いにオオタチは激しい吐き気を催し、酷く痙攣を起こす。 その間にも、背後のグラエナが絶頂に達し、二度目の体内射精される。 『んんーっ! んんーっ! ゲホッ……やめ、あぐうんぅっ!』 息苦しさに悶絶する相方が悲惨すぎる余り、辛うじて口内の肉棒から逃れ、懸命に言葉するもすぐに塞がれてしまう。 一度離され、口内を犯しているグラエナは興醒めし苛立ち、今度は離さないと言わんばかりに肉棒をより深く口内を貫いていく。 呼吸も満足に出来ずに悶える間に下半身に夢中だったグラエナが腰を急加速させ、奇形な呻き声を上げて中で朽ち果てる。 達成感と支配感に口元を吊り上げて笑む。それを合図に、口内を犯していた他のグラエナが同時に絶頂を迎えた。 肉棒で塞がれていた口内に治まりきれない程の性液で溢れ返り、口元から広がっていく。 そして胸を犯しているグラエナが肉棒を挟んだまま果てる。放水の様に放出され再びキュウコンの顔面に降り注いだ。 『ゲボッ……うぇっ……ゲホッ、ゲホッ……』 顔面が咽帰すような熱い液状にまみる。ようやく三本の肉棒から開放されたキュウコンは咳き込みながら呼吸を塞ぐネバネバを吐き出す。凛とした表情は見る影も無く汚され、無残だった。 それでも悪夢はまだ始まったばかり。キュウコン目当てにずっと耐え忍んでいた残りのグラエナが新たに加わり出す。 呼吸を整える時間も与えられないキュウコンは強引に四つん這いにされる。他の雄の体液が残ったまま、次の肉棒が体内に侵入し大暴れする。 まるで相手の体力などお構い無しに激しいピストン運動を始める新たな強姦者。そして空いた前の口も赤黒い棒が行き場を求めて強引に迫る。 さっきまでのオオタチと同じ格好で犯される。生暖かい吐息を間近で触れる程の密着する背後のグラエナ。内部で液体と肉棒がぶつかる卑猥な音が辺りに響いた。 まだ雌の肉体と交わずにいる他のグラエナ達が欲求不満のあまりに歯をガチガチと鳴らし始めていると、もはや待ちきれなくなった四匹が飛び出した。 キュウコンを囲み、挿入する場所が無いのにも関わらず、いきり立った肉棒をまだ汚れに染まっていない部分に、なんと擦りつけ始めた。 黄金色の毛を絡ませながらも雌の肉体にひたすら擦り、ピクピクと反応させている。キュウコンを囲む肉棒の本数が倍に増えてしまっていた。 肉棒に囲まれ、嬲られる雌のキュウコン。そしてオオタチもまた、我慢が出来なくなったグラエナ達に囲まれ、同じ陵辱を受けていた。 縞々の体躯に肉棒を擦り付けているだけで堪らなそうに喘ぐ獣達。もはや性欲を発散さえすれば何でも良さそうだった。 『んぶっ……ぶぇっ……ごほっ……ゲボッ……』 一向に止まない巨棒との口内交わりオオタチは嘔吐したかのような汚らしい声。瞳はすでに生気すら失い、口内はその嘔吐物らしき物が肉棒の出入りと共に漏れ出ていた。 雄の象徴と下半身の周りが見るに耐えない液体にベドベドに汚れても尚、グラエナは蹂躙は止めず、むしろ下種な笑みを深めていくばかり。 背後を犯していたグラエナはそんなオオタチの醜い有様に興奮が高まり、口から漏れ出る涎を縞々の体躯に掛けながら、イかれたように腰をバンバンと振り続けていた。 同じ目に会っているにも関わらず、明らかに惨い光景にキュウコンは犯されながら目が離せずに泣きじゃくっていた。 『やあぁぁっ……止めてよ……止めてってばぁ……!』 自身の身よりも愛する相方の為に無意味に助けを乞い続けるも、雄達の感心は雌の体のみ。一つの情けも有はしなかった。 キュウコンの背後を心地良さそうに突いていたグラエナが突如、低い遠吠えする。耳にした前の相手をしていた仲間がそれを聞いた途端、口内を犯す速度を上げる。 唾液を散らせながら待ち望む欲望の発散に夢中になり、周りの四匹も負けじと擦り付ける勢い上げていく内に、背後を除く五匹のグラエナ達が低く遠吠えた。 その声を合図に背後のグラエナは絶頂間近で肉棒を抜く。すると他のグラエナも一度キュウコンから肉棒を遠ざけた。 開放され、疲労でその場で落ちていくキュウコンに六匹の雄達は、がうぅっ、と雄々しい呻き声と共に欲望をぶちまけた。 六本から放たれる、溜まりに溜まった白い欲望達。キュウコンの周りに四方から降りかかり、美しかった黄金色の体毛に絡ませる。逃げ場の無い、白濁液のシャワー。 艶かしい九本の尾も忽ち穢されてしまい、全身に白いネバネバの糸を引かせていた。 『あぅぁっ……』 体力的に起き上がる事すら叶わないキュウコンは死んだ様な視線を七本の肉棒に蹂躙されていくオオタチに向けていた。 辛うじて前肢を伸ばすも決して、届かない。 オオタチの口内を蹂躙しているグラエナがその巨棒を引き抜き、豪快な勢いで白濁液を放水させていく。愛する相方の顔が、もはや別の何かに変わり果てる程に…… 希望の一欠けらも無い現状を前に、キュウコンは魂が抜かれた様にがっくりと崩れ落ちてしまった。 それでも、雄達による悪夢は終わりはしない。 一度抜いても満足のいかなかったグラエナが二匹程出る。死んだ同様の雌体を無理やり起し、四つん這いになったキュウコンの下に来る。垂れ落ちる白い液を気にもせず、再度膨張させ物を雌の肛門を強引に捻じ込ませる。 『はっ……ぁっ……』 僅かにキュウコンはビクンッ、と反応を見せるも、掠れた声しか出てこなかった。 残った一匹は液状まみれの体の上に乗りかかり、残った前の穴の方に欲望を挿入する。 べったりと付着していく汗と雄の液体。雌の体をしっかりと掴み、二匹同時に腰の浮き沈みを始める。 上のグラエナは必死の余り舌をだらしなく出し、ハッハッと吐息する。目の前に無防備に揺れる胸に目を細め、厭らしく伸ばした舌をネバネバの液と一緒に舐めて愛撫する。 下のグラエナも、まだ仲間がヤってない箇所を始めて犯す喜びにニンマリと笑みを浮かべていた。 成す術も無く、無抵抗に穢されていくキュウコン。その瞳は涙を流すだけで、何も写してはいなかった…… オオタチもやがて、キュウコンの二の舞になり、縞々の体躯は白濁液まみれと化していた。 それでもオオタチ目当ての雄共は順番が回ってきて、間も無く犯し始める。キュウコンがされている後景を真似し、二匹掛かりで上下から犯していく。 上に乗っていたグラエナが、顔面を白濁液まみれにされたオオタチをウットリと眺め、精液と嘔吐物が付着している口周りを舌で舐めとると強引に口付けをする。 『ふぁっ……んっ……んぅっ……』 グラエナに接吻をされたオオタチは、もはやどうでも良さそうに受け入れ、舌を絡ませられる。膣内を犯しながら唇を重ねているグラエナは、何度もその行為を繰り返した。オオタチの事を大変気に入ったように。 何度も通わせ内に、二匹同時に果てる。前後の二つの肉穴を埋めている肉棒がビクビクと震わせ、精液が逆流する。 欲望を放った後も、下のグラエナはオオタチから口も性器も離さないまま、飽きずに唇を重ねていた。 上に居たグラエナの方は用が済んだらさっさと抜いて次の雄と変わる。一向に離れようとしない下のグラエナを仲間達はやや呆れたように見ていた。 違う雄が上に乗りかかり、拡張されて精液を垂れ流しながらひくついてる肛門を一回り太い物が当たり、強引に広げる様に捻じ込んでいく。下のグラエナも性器が復活したのか、再び腰を振り出す。 下のグラエナが肉棒を出入りさせる度にグチュングチュンと性器から精液を散らせる卑猥な音を響かせる。 『んはっ、あっ、んはあっ』 キスから開放されたオオタチが、何故か悲鳴とは違って甘ったるく喘ぎ始める。そして、次第に様子はおかしくなっていく 絶望に顔を歪ませていたキュウコンが、オオタチの異変に真っ先に気づいた。なんと、今度はオオタチの方から下のグラエナに唇を重ねたのだ。 恐怖による幻なんかではなく、はっきりと目に焼きつく。 重なり合っている唇から二匹の舌同士が見え隠れしていた。惨劇の中で、その二匹はまるで恋人同士であるかのように。 迷彩の消えた瞳は色気づき、表情からは恐怖が消えていた。 『うふぅ……んぅ……あむぅ……』 白濁液と嘔吐物が入り混じる口内で、互いの唾液が絡みあう音が響く。 『ふっ……あぁっ……どうし……たのぉ……!?』 蹂躙される中で、堪らなくなって声を掛ける。だがオオタチは耳をピクンッとさせただけで、顔を向けない。下のグラエナに夢中になって唇を重ねている。 心配の余りに枯れた声で懸命に相方の名を叫ぼうとするが、下と上のグラエナがタイミング悪く射精を始めた。 『んあっ!! やっ、あぁぁっ……!』 凄まじい量が塞いだ穴の間から漏れ出し、衝撃にキュウコンの下半身はガクガクと震えだした。 涙が止め処なく溢れ、その視線の先にいるオオタチを捉えられなくなっていた。 グラエナ達は一呼吸し、ゆっくりと肉棒を引き抜く。おおっぴろげになった性器から、何匹も相手にしてきた精液が収容量を超えて、ゴプッと排出された。 やがてキュウコンは立っていられなくなりその場に崩れ落ちる。 乱れた呼吸を整える暇も与えられず、精力の復活したグラエナが三匹で囲んでくる。その中に、オオタチを口内で悶絶させていた肉棒を持つグラエナもいた。 そのグラエナはキュウコンを仰向けにすると腰部に前肢を置き、精液垂れ流しの性器に当てがうとゆっくりと体内へと押し込ませる。 『はっ……ぐあっ……はぁっ……!!』 他の雄相手には無かった反応だった。全身をぴんと伸ばし、激しい痙攣を起こす。 激痛とも苦悶とも思える表情を浮かべ、口を大きく開けたまま無音の悲鳴を上げた。 残りの二匹は上半身に移動し、太くたぎらせたその肉棒を左右に広がる乳房に乗せる。柔らかな肉を堪能するかのように互いにクロスする動きで擦り始めた。 肉棒の動きに合わせて乳房は押し潰れされ、透明な液体の後を残す。その間にも巨物がキュウコンを激進する。 その業物が中で暴れる度にキュウコンの全身が揺れるように上下する。 『あっあっあぁっ……痛っ、いだいぃっ! いやあぁぁっ!!』 悲痛な悲鳴も、巨物のグラエナは心地良さそうにニヤリと笑む。そして無慈悲にも更に動きを加速させていった。 揺れ動いていく胸の艶かしい動きに二匹のグラエナもしっかりと抑える様に肉棒を摩擦する。 首を振り回して泣き喚く声も、オオタチはまったく意に関さずだった。後ろ穴を犯していた雄はすでに用を足していた状態だった。 『んむっ、んんっ、ちゅっ、むっ、ああぁっ……!』 下のグラエナは接吻を交わしたままオオタチの中で二度目の絶頂を迎えた。逆流させながら、まるで快楽にイかれ狂った様に腰を一定のリズムで上下させている。 性を受けたオオタチは壊れた笑みを浮かべて唇を離し、異物と白色の糸を引かせた。 それを最後にオオタチは力尽き、繋がったまま、グラエナの上に落ちたまま動かなくなってしまった。 『あ、ああぁぁっ!?』 激痛に耐えながらその後景を目にしたキュウコンが、震えた声を漏らす。 目の前で愛する妹の様な存在が、汚され、蹂躙され、壊されてしまった。疲労と痛み中で瞳を大きく開き、嘆く。 がっくりと全身から力が抜けてしまうキュウコンに巨物のグラエナはとどめに膣内を思う存分に暴れまくった。 『あっ、あっ、やだっ、やだっ、あああああっ!!』 恐怖の中で汚らわしい雄肉にイかされた。最後に奥底から漏れ出すような呻きを上げた後、限界ぎりぎりまでに堪えた肉棒を引き抜き、欲望を爆発させてた。 放水の如く弧を描き、濃厚な精液が襲い掛かる様に飛び散り、顔面に容赦なく降りかかった。 呼応するかのように胸を陵辱していた残りの肉棒も欲望を放ち、二つの山がどろりとした液が降り注ぐ。 『ふぁ……ぁっ……ぅ……』 数回に渡る獣達の強姦についに力尽き、消え入りそうな呟きを漏らした。 もうこれ以上汚しようが無い程にまで濁った白濁液にまみれ、整ったボディは見る形も無くなり、幾度となく中に射精された腹は妊娠したかのように膨れ上がっていた。 キュウコンの顔からは死んだように表情が消えうせ、ひたすら涙ばかり流す。黄金色の体毛の至る所に絡み、キュウコンの周りには雄達の欲望の汁が広がっていた。 新鮮な空気を濁す、咽かえすような強烈な匂いがその場を占めていた。巨棒に陵辱されたのを最後に、他の雄達はキュウコンに近寄らなくなっていた。 気が付けば、空は月が暗闇の闇を照らしだしていた。何時間にも渡って続けられた、悪夢のような一夜が終わった…… 思う存分に性欲を発散させてすっきりしたグラエナのリーダ格が、二匹の集めていた食料を奪い取り、逃げる様に駆けて行く。他の仲間達も後に続くように去って行った。 体中を精液に塗りたくられた二匹の雌がその場に捨てら、無残な格好で残された。 『……』 『……』 お互い、一言も喋る程の気力も無く、横たわるキュウコンとオオタチ。 どうして、こんな目に会わなければならないのかと、キュウコンの変わらない表情の変わりに生気を失った瞳が絶望の色を浮かべていた。 一体何匹の雄達を相手にしたのだろう。赤黒い不気味な物体を押し付けられ、犯されて、蹂躙された。 次第に時間の経過と共に僅かに体力が回復したキュウコンはやがて、溢れる感情を静かに爆発させるように…… 『……うっ……うぅっ……ううぅっ……ぬううぅぅぅ……』 悔しさに歯噛みすると嗚咽を漏らすように泣き始めた。純潔を汚され、懸命に探した食料を奪われ、更には愛する相方をも目の前で陵辱されてしまった。 静寂な草むらでキュウコンの鳴き声だけが響き渡った。 近くのオオタチは、精液の池に溺れたままピクリとも動かないでいる。まるで死んでしまったかのようだった…… 泣きじゃくりながらオオタチに前肢を伸ばす。あの場で意識の無い彼女を放置するより、せめて直ぐ側にいて守ろうと動いた。まるで子を守ろうとする親のように。 後ろ肢が歩くのが無理だと考えたのか、前肢だけ動かして体を這いずらせる。あの悲劇の後の彼女は僅かな気力だけで動いていた。這いずる度に黄金色の体毛が土で汚れ、浴びせられた精液が後を引いていた。 ほんの僅かな速度だが、前肢があと少しでオオタチに届きそうだった。今にも閉じそうな瞳を懸命に開いたり閉じそうになったりと。 『だい……じょうぶよ……せめて……側にいてあげる……』 掠れた声で意識の無いオオタチに語りかけた。涙顔を僅かに笑みを浮かばせ、前肢でそっと包み込もうと伸ばした。だが…… 黒い影が疾風のように飛び出し、一緒になろうとする二匹の間に割って入ってきた。 『きゃぁっ……!』 ほんの少しの慈悲も無く、それは問答無用にキュウコンを突き飛ばした。 キュウコンの体は放り投げた石の様に飛ばされオオタチとの距離が大きく離れる。受身を取ることも出来ずに顔から落ち、顔面を土まみれにさせた。 疲労状態の体に容赦無い一撃にキュウコンはぴくぴくと痙攣を起こすも何とか目を開ける。しかし、衝撃で前肢を痛ませた彼女はその場から動くことが出来なくなってしまった。 辛うじて開いた目でその黒い正体を確かめた、やがて驚愕に大きく見開いた。 『フーっ……フーッ……』 突き飛ばしたキュウコンの方に目もくれず、興奮した目でオオタチを見下ろしていた。強姦集団の一匹のグラエナだった。 しかも、あの強姦の最中でオオタチに接吻をかました唯一のグラエナだった。キュウコンは戦慄し怯えた。またグラエナ達がやってくると…… 急いで身を起こそうとしたが、すでに体力が尽きた体は震えるばかりで動けずにいた。 『あっ……ぁっ……!?』 何故いまさら戻ってきたのか、そして何故戻ってきたのがそのグラエナだけなのか分からなかった。しかしそのグラエナの口元がにやりと笑ったのをキュウコンは見ていた。 舌をぺろりと舐めずさりオオタチを見下ろす。その表情は彼女の事をとても気に入ったとでも言わんばかりだった。 一瞬、グラエナはキュウコンの方に一瞥した後、まるで蔑むように鼻で笑い、下に落ちてあるオオタチをその大きな口で首元を咥える。 『やっ……やめっ……』 震える余りにちゃんとした言葉が出ずにいた。僅かな気力を振り絞って二匹に向かって前肢を浮かすが、絶望的に届かなかい。 再び涙を流して哀願するもグラエナは目にする事は無く、その強靭な顎でオオタチを持ち上げた後、もう一度だけキュウコンに一瞥する。 無慈悲な深い笑みをくれてやった後、地面を蹴って持ち去って行ってしまったのであった。 「い……やぁ……嫌っ……!!』 喉を潰さんばかりに発したキュウコンの声も、グラエナに咥えられたオオタチは気絶から覚める事はない。 闇の中へ消えていくグラエナとオオタチの姿を見ながら、キュウコンの悲痛な叫びが木霊する。 身寄りの無い、唯一の家族と呼ぶべき仲間が連れ去られてしまう。消えていってしまう。追いかけたくても動けず、喚き、泣き叫び、枯れた声で何度もオオタチを呼ぶ事しか出来なかった。 すでに暗くなってしまった草むらの中で一匹のキュウコンの、愛する相方を呼ぶ悲痛な叫びのみが、何度も何度も痛々しく響き渡ってた…… 凄まじい惨劇を迎えた二匹の雌達は、なんとも救いようの無い残酷な結末で終わってしまったのだった。後の話も、キュウコンとオオタチが再開する事は一切なかった…… 「……っ」 ナリアの話を全て聞き終えたヒュレイは、元々水色だった顔色を更に濃くするほど青ざめていた。鮮明に、ひとつひとつ細かく伝えらてくる悲劇の物語に驚愕していた。 口元をわなわなとさせ、目元からは気が付かない内に涙を浮かばせていた。地に着いている前肢も震え、不安定な姿勢になっていた。 まるで自分がナリアの話に出てきた悲劇のヒロインに移り変わったように、顔に絶望の色を浮かばせていた。 にわかに信じられないような話だが、それでも心の奥底から無視しようと思う気になれなかった。 ヒュレイ自身が夢に見てきた外の世界。自由のあふれる世界。広くも狭い、不自由は無いが退屈でまるで鳥篭の中にいるみたいな生活。一度でいいからナリアのように外の世界で暮して見たいと言う、切なくも純粋な願い。 しかしそれは甘ったれた幻想に過ぎなかった。ヒュレイが愛焦がれていたものの正体は、とても残酷で無残。幼い小娘の憧れなど微塵に砕いてしまうくらいの過酷な物だった。 ヒュレイは性的な知識は乏しいと言えば乏しいが、それでも同じ雌(女性)であるマリアと過してきた中で教えられ、ある程度の知識は持っている。少なくともリセオよりは詳しいし、賢い。 だがそんな知識など、温室と言う名の鳥篭で育ってきたヒュレイにとって絵本の中の物語ぐらいしか価値がなかった。性別を持った生き物ならば子孫繁栄の為にそうするだろう。そう考えていた。 しかし、ナリアの話は聞いてから、自身の知識から来る常識感覚など意図も容易く踏みにじられた。ヒュレイの性知識とナリアの言う性と遭遇する場面。 強姦……聞いた事なら会った。人の雄が雌に対して行う暴力的な性行為。お互いの同意を得ない一方的な事。知った所で気持ちの良い話では無いが、人やポケモン達に守られてきたヒュレイにとっては知識の中の模範でしかない。 無論、そんな事をされたと言う回りの話も聞かない。ヒュレイも自分とは縁の無い、テレビの中の『物語』にしか過ぎなかった。今まで…… 「そんな事が……本当に!? 信じられない……」 「本当の事よ、力が無くちゃ生きていけないの。弱いと奪われるばかり、私が話した通りの酷い目にあうのも事実。綺麗な世界じゃないのよ実際は……」 「外の暮らしって、そんなにも残酷な物なんですか……? 」 「そうよ。それが私のくらしてきた野生の世界。けど私の話した事はそのごく一部に過ぎないの。中にはもっとひどい事はあるわ。自分の身も守れない奴は皆そうなるのが当然なのよ」 初めて聞かされた強姦の実態を前に幼い少女の心は意図も容易く砕けてしまったのだ。これが――ナリアさんの生きている野性の世界……! 強いものはひたすら蹂躙し、弱いものは陵辱される。卑猥な図式だが、すくなくともそれが正しい。法の無い世界で唯一認められている、野生のルール。 「どうしたの、震えているわよ。怖かったかしら?」 何でも見通しているような妖艶な瞳がヒュレイを捉える。ショックで打ちのめされている自分を嘲笑っているかのようだった。 ヒュレイは強がって首を振ろうとするが、その前に涙の粒が瞳から落ちてしまう。無様な泣き顔をナリアに晒してしまったのだ。 「あ、私……そんな事……」 「やっぱりね。あなたみたいな温室育ちのお嬢様にこの話はちょっときつすぎたみたいね。どう、これでもまだ外の世界に憧れなんてものを抱ける?」 ナリアの言うとおりだった。もう何を言えばいいかわからなかった。自分が抱いていた夢は、勝手な幻想の底なしの沼。憧れで入っていいものではない。 数匹に強姦されたその果てに、愛する相方と引き離されてしまった野生のキュウコン。自分がもし遭遇してしまったらと思うと、背筋が凍る。耐えれる訳がない。 息苦しくなる。絶望に打ちのめされた純粋の瞳は、止まる事なく、溢れるように涙の粒が落ちていく。 「私、私……そんなの……知らなかった……そんなひどい事が……あるなんて、私……うぅっ……」 「知らないのも当然だわ。人の手に守られて生きている娘がどうして過酷な現実を知る事ができるの? 夢見たいな想像しか持って無くて、それで一匹で生きるのに憧れる? そんなの所詮は甘ったるい幻想でしかないのよ」 その厳しい言葉がヒュレイの心にグサリとささった。くしゃくしゃな顔で涙声になり、下を向く。落ちた先の地面は涙の後を次々と作っていた。 「……」 ナリアの顔から笑顔が消えていた。ただ無言のまま泣きじゃくるヒュレイを見つめていた。それから会話はなくなり、嗚咽だけが聞こえる。 頭の中で描いていた厳しくも甘ったるく、安っぽい理想の世界。実に浅はかで愚かしい自分自身にヒュレイの精神は耐えれなくなり、崩れそうになりかけた。その時―― 「ぷふっ……くっ……アハハハハハッ」 ナリアは軽く噴出すと、一気に大笑いをした。重苦しい空気を砕かんばかりの明るい声だった。 突然の事にをヒュレイは顔を上げて、くしゃくしゃな顔のまま涙を溜めてナリアを見返す。 一度笑いを堪えるナリアは、その泣き顔を見て、再び大笑いしだした。 「アハハハハハ、やだ、もう……ちょっと、笑わせないでよ。イヒヒヒヒ……」 ヒュレイにはまるで訳が分からなかった。突然の笑い出し、そしてこっちを非難するかのような言い草に。 ナリアは笑いすぎる余りに両目に涙を浮かべ、腹を両前肢で抑え付け、体勢が維持できずに横からポテッと落ちる。倒れた後も、彼女は必死に笑いを堪えようと悶えようとして、まだ笑っていた。 「ナ、ナリアさぁん……?」 対照的にヒュレイも涙を浮かべたまま、今にも泣き出しそうな声で心配そうに声を掛ける。すると、堪えたものが破裂したかのようにまた大笑いされてしまった。 「も、もうやだ……アハハハハ……だめこの子……クスクス……アハハハハ……」 「ナリアさん……ナリアさぁん!!」 折角泣いているのに、理由も分からずに大笑いされ続け、流石のヒュレイも水色の顔をオレンジ色に染め上げて怒鳴った。 そこでナリアは笑いを抑え、辛うじて身を起こす。未だクスクスと笑いを燻っていた。それでも何とか抑え、涙を拭ったまま言った。 「ふふっ……ごめんなさいね。だって思った以上に反応するんだもん。流石に泣くなんて想像もしてなかったわ……クスクス」 何のことだろうと、ヒュレイは唖然とした。ナリアも何時の間にか険しかった表情もまんまるとしていた。さっきまでの話や態度が嘘のように。 「ナ、ナリアさん。それは一体どういう事ですか……?」 溜まらずヒュレイは聞いてしまう。先ほどの重苦しい話と、今の馬鹿笑いについてどうにも整理がつかない状態だった。 「クス、ん~、教えて欲しい?」 そう言ってナリアは悪戯っぽい笑顔を見せた。大人らしさなど微塵も感じさせないほどに無垢だ。 目上の様に見ていたはずが、何時の間にか年下を相手にしているような奇妙な感じ。 「んふふ、あの話はね……嘘なの」 語尾に音符が付きそうなほど、甲高い声で、はっきりと言った。 「へっ?」 ……今なんて言ったの? ナリアの放った言葉が理解できず、自身ですら疑問に思う程の間の抜けた声を出してしまった。 「ん~、だからぁ嘘なの。ウ・ソ。 つ・く・り・ば・な・し」 はっきり聞き取れるようにナリアが文字をひとつひとつゆっくりと言う。これならヒュレイも理解できた。 ぽかんとした頭がようやく今の現状を整理して、ひとつの答えを導き出してくれる。 自分は騙されたんだと。 「嘘、だったんですか!?」 口元をわなわな震わせながら再度尋ねた。ナリアは何一つ悪びれた様子なく答える。 「ようやく理解したのね。私って、自分で言うのも難だけど、演技の天才ね。クスクスクスクスクス……」 ナリアは前肢を口元に当て、わざとらしく声に出して微笑した。 「あ、あぁ……ああぁっ……!?」 ようやく理解しきったヒュレイは、作り話を真に受けて会って間もないナリアを前に泣きした記憶が蘇る。オレンジに染まっていた顔が、完全に紅潮していく。 震える前肢を目的もなく伸ばし、その先で舌を出してテヘッと笑う彼女。 「ごめんなさいね」 ヒュレイは、溜まらず叫んだ。 「イヤアアアアアッ!」 騙された。彼女のまさかの嘘、演技力に、疑う余地も無く見事に騙されてしまった。それも、涙をポロポロ溢す醜態を晒すまでに…… 頭の中がパニック状態になる。次第に後から押し寄せてくる恥ずかしさに耳まで紅潮させ、瞳は違う意味で涙を浮かべ始めた。 余りの醜態に自分で恥ずかしく思い、とっさに両前肢で顔を覆ったが、それでも紅く染まった箇所は隠しきれない。 「プフッ……アーッハハハハハハハ……」 そしてナリアが再び噴出し、爆笑する。再び地べたに倒れてよじれそうな腹を懸命に抑えている。ヒュレイもつられて地べたに転がり、何度もイヤァと叫びながら左右にゴロゴロ転がり、悶えた。 「ひ、ひ、ひどいですぅぅっ! 騙すなんてぇぇぇっ!」 悶えながら叫ぶとナリアは少し落ち着き、未だにクスクスと笑いながらも実を起こす。 「だって、あんまりにもちゃんちゃらおかしいんですもの。野生の世界で生きたい理由が、そんな単純な考えだったらね」 「な、なななななぁ……」 何で、と言おうとしたが、余りに気が動転していて言葉が出なかった。それを察したナリアが悪びれた様子も無く答える。 「だからさ、ちょっとからかってみたの。まぁ実際は厳しい一面もあるのは事実だけどね」 二つに割れた尻尾をユラユラ揺らしながら続ける。 「現実の野生の世界ってのは、無法ながらに秩序が成り立っててね、そのルールは住む場所によって違うけど、違う種族でも同じ場所で暮らす者同士、尊重しあって生きているの。そうでないと、他の種族との争そいを起こし、別のポケモンにまで影響して敬遠されてしまう。それは自然で生きる上でとっても不利な事なの」 「どどど、どういう事ですかぁ!?」 ようやく呂律が回るようになったヒュレイが声に出す。 「野生のポケモンが力を誇示する理由は外敵から自分の身や住処を守り、種族の繁栄を途絶えさせない為のもの。力を闇雲に振るって、それが同じ土地に住む他のポケモンの敵意を煽って、それが返って自分達の外敵を作りだす。その結果、別の力を持ったグループに排斥され、自分達の暮す場所を失ってしまう。自然と共存し合えなくなるの」 「ふえぇ……?」 ヒュレイは意味は分かっても、今一理解し難い表情をする。 「木の実を食料としている彼らは同じ土地で住む同士、その土地を守らなくてはいけない。例えばカントーじゃディグダは荒れた土を綺麗にし、ナゾノクサはその土に種を撒いて新たに植物を植えるの。自然に実り生かされている分、自然に対して恩返しをするの。どんなに種が強くても、自然を疎かにして生きていける訳がないしね。植物を守り育てるポケモンがいるならば、それらを荒らして壊そうとする輩を追い払うポケモンも居る、役割分担をしているの。野生達にとって自然とは共存の場なの」 それなら聞いたことがある。ナリアは知らない、ミツハニーと言うポケモンが居て、そのポケモンは花の蜜を貰う代わりに花粉を体に付着させ、遠い地に運んで行くと言う話しを聞いたことがある。 先ほどまで無邪気な子供の様に笑っていた顔が、何時の間にか真剣な顔つきに変わっていた。 「同じ土地に住む者同士なら、自然を守り、不可侵的な秩序を守って、穏やかに暮していくの。力が必要なのも確かだけど、最も大事なのは互いに尊重し合う事。それが野生の絶対的なルールなの。自然の頂点に立ちたいと言う支配的な考えを持つ奴がいるならば、それらも自然と暮していく野生の敵よ。無闇に力を振るう生き物は土地や自然すらも破壊してしまうのだから」 全てを聞かされたヒュレイは唖然としていた。野生の暮らしとは、たんなる自由きままに生きるのとは違う。住処を守り、自分を生かす自然をも守り、異なる種とのルールをも守りながら生きるという事なのだ。 それが野生で暮す絶対の秩序と言う事だ。人間の社会の中で幸福に暮してきたヒュレイにとって、それは考え付く事すら出来なかった、 「私だってそうよ。野生の頃は自然にあやかっているに過ぎないんですもの。 誰にも頼らずに生きる? 野生の世界で暮すのが憧れ? そんなの、文明とお金に浸透しきった人間社会で生きてきた奴の戯言よ」 「……」 ヒュレイは黙り込んでしまった。己の無知さに打ちのめされ、下を向いてしまった。 「ヒュレイが憧れていた野生の暮らしの正体は、形は違っていても、人間の暮す社会とそう違わないのものなのよ。分かってもらえたかしら?」 「はい、分かりました……」 ヒュレイはしゅんとして言った。憧れていた物のイメージが大きく崩れた為に、反動が大きかった。 「そんなに落ち込まなくてもいいんじゃない? あなたは野生の暮らしをしていた私と比べて恵まれた環境にいるわ。わざわざ不便な野生暮らしに憧れる事も無いと思うんだけど」 逆に問われたヒュレイはややかしこまって答えた。 「……退屈だったんです」 「退屈?」 「はい、憧れとか言いましたけど、本当は退屈でしょうがなかったんです。確かに不憫は無いのですが、その分自由もほとんど無くて……外出する時は常にご主人と一緒の時だけなのです。だから、自分の知らない外の世界が見てみたかったんです。せめて姉としてリセオに自慢できる事が一つでもあればって……」 「そう……」 それから、何の会話も無く二匹の間に沈黙が流れる。池を囲む森から吹く優しい風に体毛を靡かせ、水ポケモンが跳ねる湖をじっとみていた。 ヒュレイの方から話をしようと思っていたが、あの話の後だと気まずくて何も喋ることができなかった。ただ一緒にいるのみ。 外の世界の事に関しては、しばらく心の隅に置いておく事にした。今は、ゆっくりとナリアとの距離感を縮めていきたい。 もっと仲良くなりたい。一緒に話をしていて自然とそう思うようになってきた。昨日までは不機嫌そうで気安く話が掛けにくかったが、それも改めて違うと認識した。大人のような厳しい一面もあれば、無垢な子供の様な姿も見せるナリアに心惹かれていた。 今はこれが精一杯。でも、昨日と比べて少しは近づいたような気がした。何も自慢する事も無いヒュレイにとって、それが誇らしく思えた。 「綺麗な湖ね……」 「はい」 何時までシンオウにいるかは分からないが、せめて、彼女がホウエンに帰ってしまう前に友達になっておきたかった。それが、今のヒュレイの願いだった。 やがて、雌同士でリッシ湖のほとりに居て随分時間がたった。そろそろマリアへの怒りも薄れ、ナリアと一緒に皆の待つ所へと戻る所だった。 尻尾を魅惑に揺らすナリアを前にして、その背後からヒュレイが付いてくる。 「ねぇ」 ナリアの尻尾に見惚れている所、不意に声を掛けられる。 「はい?」 「別荘に帰ったらさ、お話しましょ」 「お話ですか?」 「えぇ、さっきは嘘ついちゃってちゃんと教えていなかったけど、私が暮してきた世界や仲間の事、教えてあげるわ」 「本当ですか!?」 ヒュレイの表情がパァッと明るくなる。 「えぇ、泣かせちゃったお詫びよ。今度はあんな酷い事の無い、本当の事を話してあげるの。どうかしら?」 「是非お願いします。それと、良かったらリセオと一緒に過してきた事も教えてくれませんか?」 次いでのお願いをすると、不意にナリアがぴくりと反応する。 「……そうね、何処から話そうかしら。そうだわ、初めて出会った所がいいわね。きっと驚くと思うわ。クスクス」 「はい!」 元気欲く返事を返した。家に帰ったときが楽しみになり、心の中は期待でいっぱいになった。 「なら私の方こそ、何か盛り上がるお話をしないといけませんね。多分、ナリアさんには退屈なお話になるかもしれませんけど」 「そんな事ないわよ。何でも教えて頂戴」 何処で話そうとか、自分はシンオウの古い言い伝えとか、自分が住んでいる町並みの良さとか、それ以外は何を伝えようかと頭の中で張り巡らしていた。 その時だった―― 「きゃっ!」 突然、木の陰から黒い影が飛び出てきた。それはヒュレイとナリアの間を抜けるように駆け抜けていき、凄まじい風が二匹の体毛をが強く靡かせた。 それらは一瞬にして素通りする。飛び跳ねるように、もう一つは疾風を吹かせるかのように駆け抜けた。 「何!?」 ナリアが只ならぬ様子で叫ぶ。 ――襲撃者!? ヒュレイは一瞬、ナリアの嘘話に出てきた悲劇なポケモンの二匹を思い出してしまう。まだ相手が誰なのか明確な事は分かってはいなかったが、もしかしたら自分もその二匹の娘と同じ目に会うんじゃないかと強烈な不安が襲い掛かった。 怯むヒュレイに対し、ナリアは瞬時に身構えた。神秘的な瞳をきっと鋭くさせ、全身の毛を逆立てて素通りしていく二つの影を睨む。怯む事無く咄嗟の襲撃に備える事の出きる彼女は、こんな時でありながら格好良いと思った。 風の様に駆け抜けていく二つの影はナリアの声に反応し、ふたつ同時に動きを止めた。ヒュレイは堪らず身構えるナリアの後ろに隠れた。 突如として表れた二つの影に対し、ナリアはまだ失われていない研ぎ澄まされた野生の神経を働かせる。 二つの影は自身の一声に反応し、なんとも息がぴったりと言わんばかりにその場にぴたりと止まった。凄いスピードからの急ブレーキに二足の相手は少しも姿勢を崩さなかった。その動きからして、相手はただ者じゃないと直感的に判断した。 ほんの一瞬の出来事にも関わらず、ナリア達と二つの影との距離は大分あった。すでに相手の姿が小さく見えて、その姿をはっきりと確認する事が出来なかった。 すると、二つの影は僅かにこちらの方に振り向いた。 一匹はスレンダーな体型をしており、頭からとても長い耳らしき物を垂れ下げ、赤い目つきをしている。見た事のないポケモンだが、おそらく雌だろう。そして片手に大きな袋みたいなものを抱えていた。 そしてもう一匹は、頭から犬の耳の形をして、房らしき物を左右に二つずつ下げている。下半身はシンプルな尾を生やしていた。こちらもホウエンでは見た事のないポケモンだった。 どちらとも自分達を睨むように観察し、微動だにしなかった。こちらから仕掛けるにしても、そんじょそこらの野生のポケモンとは違うオーラを纏っている相手では、数的に厄介。 背後に隠れて怯えているヒュレイを尻目に、ナリアは警戒を続けた。実戦経験もろくに無い彼女で足手まといでしかない。得体の知れない相手に、最悪の場合自分のみで戦う事になる。まさか旅行先で野生のポケモンと対峙するなんて思いもしなかった。 額に汗が流れる。不利を悟り、アンリの手を借りようと考えた。どうやって呼ぼうか、ヒュレイに呼びにいかせるかで悩んでいる内に、相手から動きがあった。 向こうはこちらの方を一瞥した後、何もせずにまるで逃げるように奥の方へと駆け出していった。 「何なのかしら……」 瞬く間に去っていく来襲者、いや、杞憂かもしれない。最初から何もするつもりもなく、ただ素通りしたつもりなのかもしれない。しかし、言い様の無い焦燥感駆り立てられた。何故だろう…… ほんの一瞬の出来事とは言え、冷や汗をかいてしまった。背後で未だに体を震わせているヒュレイが声を掛けてきた。 「い、行きましたか?」 「えぇ、ちょっと驚かせただけのようね。あの連中……」 安堵の溜め息を吐いてそう言った。しかし、あの見知らぬポケモンを見た途端に沸き起こった不安感は未だに消えない。 「それにしてもビックリしましたぁ。ものすごい速さで走ってましたよ」 ヒュレイも安心したとたんに笑顔に戻っていた。 「えぇ、始めて見るポケモンだったわ」 「あぁ、今のポケモンはナリアさんご存知ないですよね」 さっきまでナリアの背後で震えていたヒュレイがすっかり平然として言う。 「えっとぉ、さっきの耳の大きいのがミミロップと言うポケモンです。そして、もう片方の胸に棘を生やしたのがルカリオって言うポケモンなんですよ」 「ふぅん、そうなの。それにしても、ミミロ……なんだっけ、なんでもいいわ。なんだか手に袋みたいなのを担いでいたけど……」 「え、そうなんですか? よく見えてなかった物で……」 そこまでは見えていない様子のヒュレイに、ナリアは何でも無いわと訂正した。しかし奇妙だった。野生のナリアだからこそ一瞬見えた、袋の中身。 中に何が入っているのかは分からないが、なんだか生き物の「足」らしき模様が袋越しに見えた。 「ちなみにですね。ルカリオって言うのは一見格闘タイプに見えるんですが、実は鋼タイプも備えていて、それ以外にも何でも「はどう」っと言う、よく分からないエネルギーを使えるとか……」 聞いてもいないのにヒュレイが説明口調で語ってくれているが、ナリアには上の空だった。何事もなかったからどうでもよかった。 「そしてミミロップと言うのはですね、何でもあのしなやかな足で凄い高さまでジャンプが出きるみたいなんです。それで――」 「もういいわよ。後は別荘に帰ってからゆっくり話して頂戴」 話を遮るナリアに、ヒュレイはややしゅんとして「はい……」と返した。 早くリセオ達の元に戻ろうと、肢を動かそうとしたその時だった。 「ナリアねえちゃあああん!」 自分の名前を呼ぶ、やや幼い声がナリアを止める。聞きなれた声だ。 「マッチ?」 ナリアは先ほどまで飛び出してきたポケモンの方に目を向ける。マッチが慌てた様子でこちらに走ってくる。それも、只ならぬ様子で…… 走るにしては遅いペースで、ようやくこちらに辿り着いた頃には意気が上がってた。 「ぜぇ……ぜぇ……な、ナリア姉ちゃん……助けて、助けてよぉ……!」 息絶え絶えにしながら、血相を変えてナリアに詰め寄ってくる。 「落ち着きなさいマッチ。そんな顔して一体どうしたのよ、助けてってどういう事よ?」 ナリアに宥められ、マッチは一度落ち着こうと乱れた呼吸を整えようと深く深呼吸をした。それでも顔色は戻らず、虚ろな表情は下を向いた。 間に割って入ってきたヒュレイがマッチの顔を覗き込むようにして尋ねる。 「マッチ君、そっちの方で何かあったの?」 優しい口調のヒュレイに励まされたマッチは、ゆっくりと顔をあげる。その目からは、マッチらしかぬ涙が浮かんでいた。 「ご主人様とアンリおねえちゃんが、そして……リセオがぁ……」 今にも泣き出しそうな声で、それでもどうにか言葉にする。最後まで言う事なく、溢れ出そうになる涙。 ヒュレイは前肢を伸ばしてマッチの頭を撫で、そしてゆっくりと引き寄せるように頬擦り、抱きしめる。その仕草がいかにも姉としての抱擁感があった。 ヒュレイの胸(首)で肩を震わせながら泣きじゃくり、やがて落ち着いてくるとマッチの方から離れ、事情を説明する。 「あのね、俺とリセオがさ、変なポケモンを見つけてさ、そいつなんかぐったりしてて、助けてやろうとして皆で近づいたら……そしたら変な奴らが後ろから現れて、ご主人様を襲って来たんだ……」 変な奴と聞いて、ナリアはふと通り過ぎる二匹のポケモンを思い浮かべ、表情を険しくする。 「ご主人様が倒れて、マリアさんも襲われて、アンリ姉ちゃんが戦ってくれたんだけど、犬みたいな顔の奴に返り討ちにされちゃったんだよ……」 ――アンリがやられた!? 信じ難い言葉にナリアの瞳が大きく開く。同じ森に住む仲間、そのバトルの実力はナリアでも強いと認める程だ。半信半疑になって聞き返す。 「アンリがやられたって、あの子が簡単にやられる筈が無いわ……! それに他の皆はどうしたの!?」 食って掛かるようにマッチに詰め寄るナリア。マッチは見慣れぬ彼女の表情に怯えてしまう。 「ナリアさん落ち着いてください。マッチ君、ゆっくりで良いから話してね」 ヒュレイに制されて、しぶしぶ下がるナリア。我ながらヒュレイに見っとも無い様をしてしまったと少し後悔してしまう。さっきまで自分の背後で震えていたとは思えない。 これが、お姉ちゃんと言う物なのだろうか…… 「うんっと、アンリお姉ちゃんは、長い骨みたいな物に殴られて気絶しちゃって……ラーナ姉ちゃんも、耳の長い奴に倒されちゃった……」 アンリだけでなく、ラーナまでも倒されたと聞いて、ナリアはいよいよ表情をきつくさせる。毛を逆立て、怒り任せに身内に暴行した連中の後を追い掛けたくなる衝動に駆られる。 「そしてあいつらが最後にご主人様に近づこうとしたんだ……そしたら、リセオが……」 「リセオが、リセオがどうしたの!?」 リセオの事を聞くと、流石のヒュレイも優しい表情が崩れた。ナリアにも、緊張が走る。 「あいつは、ご主人様を助けようとして……強くないのに、自分から飛び掛ったんだ……」 「リセオが!?」 「うん、油断したあいつらに取り付いたんだ。けど、すぐに引き剥がされて、地面にたたきつけられた……そして、袋みたいなのを出して……」 ――袋!? ナリアは背筋が凍り付く。顔から汗が噴出し、頬から一筋の雫が流れる。 あの時に視界の隅で見えた、袋の中に浮かんだ「肢」が脳裏に蘇る。そして、 「リセオを入れて、そのまま連れ去ったんだっ!!」 ――お姉ちゃん ――ナリアさん 無垢で愛おしい声が蘇る。雌の子供みたいな顔で笑う、あの最高の笑顔…… ずっと自分だけの物にしたいと切に願ってたあの天使が…… 私の、リセオが…… 「ナリアさん?」 「ナリアお姉ちゃん?」 視界がシャットアウトしていく。黒く、何も映らない闇に変わっていく。ヒュレイとマッチの呼ぶ声も、聞こえなくなる。 「ナリアさんっ! ナリアさんっ!!」 ヒュレイの呼ぶ声も、次第に小さくなっていく。 「ナリア姉ちゃん! しっかりしてよぉっ!」 マッチが体を揺すってくれる感触さえ、ナリアの肌から消えていく。 その後は、何も無い闇だけが彼女の中に残った。 *コメントフォーム [#l26b9799] 感想、指摘などお待ちしています。 #pcomment() IP:153.136.176.129 TIME:"2013-03-28 (木) 22:12:12" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%AE%E5%A7%89" USER_AGENT:"Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; SLCC2; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30729; Media Center PC 6.0; .NET4.0C)"