#freeze
#include(第六回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle)
若干、暴力的な場面があります。ご注意ください
冬が来て
もう冬だなあ。
黒天から雪が舞い降り、地面に落ちて消えていく。
私が生まれたのも、たしか冬。
その時は、確か雪が降っていたっけ、どちらにしても今とは大違いだった。
昔は、自分の居場所があったけど、今は無い。主人がいたけど、居ない。
いつだったか、引っ越すとか何とかでこのあたりに来たはいいけれども、その後すぐにご主人には捨てられた。
なんでもレギュレーションとか何とかで、お前は使えない、悪いな。
って、本当に勝手なものだ。
おかげで、日々路頭に迷うことになるなんて、つくづく人間の考えることは理解しかねる。
この辺りは都会らしくて、華やかな表通りはまぶしく思うけど、ああ、雪を見ると余計な考えが浮かんでしまうな。
とにかく、今日のご飯を漁りに行かなきゃ、そろそろ、店が閉まり始めるころだ。
「よう、今日も会うとはな」
「またアンタか、いい加減その顔も見飽きた」
「まあ、この街に生きる者同士、仲良く食らおうぜ」
うるさい、いつもほとんど一人で食べてしまうくせに。
私のようなポケモンは、暗い裏路地に入ればいくらでもいた。
そんなもんだから、生きることは過酷だ。
食料は奪い合うことも多いし、安心して過ごせられる場所なんて数えるほどしかない。
ポケモンの死体なんていくらでも見てきたけど、それでも私は生きられている。
慣れてしまえば、昔のような、日々のルーティーンをこなせばそれで良いともいえるか。
今日の飯は何にしようか、あのお店の廃棄物からは、なかなかおいしいものが漁れたなとか、今日はあの路地のあたりで眠れば、少しは寒くないかなとか、そんな感じ。
「お、来たな」
くそネズミが言った通り、店の従業員が、残飯の入ったバケツを裏口の前において、また店内に入っていった。
なぜかは知らないが、この街ではこうして、店で出た食べられるごみをこうやって私たちのようなポケモンが食べられるように裏口に出してくれることが多い。
私たちをごみ処理機だか何だかのように思っているのかは知らないけど、おかげで生きていられるんだから何でもいいや。
「ちっ、負けるか」
人間が居なくなった瞬間にバケツに飛びつくが、一歩遅れた。
バケツは倒れ、中身がコンクリートのじめんに広がり、くそネズミ含め、4匹のポケモンが群がる。私もその中に飛び込み、貴重な食料を少しでも多く胃に入れる。
そして、あっという間に、地面まできれいに舐めとられ、ひとかけらも残さずに食べられるものはなくなった。
私はというと、そんなに食べられたわけではないが、食べないよりはましといったところだろうか。
「へへ、嬢ちゃん。また食えなかったか」
「くそネズミが」
こんな生活の癖に、丸々と太りやがって。
健康的とは言い難いけども、こんな中でそこまで肥えるなんて、まあ、実力なんだろうな。
この街には人間に捨てられたやつも多い。
その中には、高いポテンシャルを持つものだって、少なくはない。
そんな中で生存競争をやっていることを考えると、くそネズミと言っても侮りがたい。
「まあ、今日もごちそうさんっと。お嬢ちゃんの目が怖いからとっとと逃げるとするかい」
いつものように、逃げ足だけは速い。ミネズミの特性はにげあしだったっけ。
ため息をつきながら、店の裏口を後にする。
さてと、どこで寝ようかな。
そう言えば、昨日に寝た場所はあまり寒くなかったなあ。
よし、そこに行こうとひとり呟き、凍てつくような風が吹き始めた裏路地を走った。
目的の場所はさほど遠くなく、程無くしてたどり着く。
幸運なことに、ほかのポケモンは一切見当たらない。
これならば、今夜はゆっくりと眠れるかな、そう思いつつ、室外機のそばにその辺りにあったビニールの袋を持って来て、それを下に敷いて丸くなる。
薄汚れた毛をかき分けて、足で頭を掻き、一眠りしようとしたとき、何かの気配を感じた。
「……誰」
相手が人間ならば、どうせ鳴き声にしか聞こえないだろうが、気配の主はその問いに答える。
「失礼なものだな、小童」
「そんな風に呼ばれる筋合いないと思うんだけど」
確かに、新参者に近いほどしかこの街にはいないし、生まれてからそんなに経っていないのも事実である。
しかし、そういう馬鹿にしたような言い方をされるのは腹が立つ。
「わしは街のこの辺り一角で、一番上にいる。知らんのか」
「別に、あんたみたいなじじいなんて知らないよ」
ビニール袋を踏みつけ、立ち上がり相手を見据える。
ヤンチャム、進化していないけどもその貫禄は、さすがこのあたりの首領といったところか。
「知らないならば、今から知れば良い。わしのねぐらを荒らした代償は、ちと高めにつくがな」
「やってみなよ、じじい」
なっ。声にならない驚きを覚えた次の瞬間には、間合いを詰められ、腹へまともに拳を食らう。
「けほっ、さすが、首領っていうからには流石に強い……けどぉ!」
スカイアッパーでほとんど体力が削れているからこその、重い一撃。
じたばたとは、主人から聞いたときはなんともひどいネーミングだと思ったが、なるほど確かに、こうして使ってみると毎回妙に納得する。
「っ……ぐぅ! やりおる」
ヤンチャムは体勢をいったんは崩すものの、すぐにたてなおす。
お互いに、お互いの技を受けて、もう一撃でも入れば確実にやれる。
しかし、自分とて同じ。
私もだが、ヤンチャムのほうも同じような考えのはずだろう。
そうした中で。しばらくの沈黙が裏路地の空気を張り詰めさせる。
最近で、こんなに緊張するバトルは久しかった。
負けることは、ほぼ死を意味するこの生活の中で、私は負けるわけにはいかない。
そうした中で、少し焦りが出ていたのだろうか、ヤンチャムはそれを見透かしたかのように口を開く。
「そんなに力が入っていては、思うように動かんぞ」
「う、うるさい」
「どうせ、明日生きられるかもわからぬ世界、ここで無駄に力を使うこともない。そう思わんかな」
相手は構えを解き、ゆっくりとこちらに近づく。
「お前さんは、アーティファクト、じゃろう」
その言葉を聞いた瞬間、私の体が強張るのを止めることができなかった。
「世の理を見出し、それを操り、意のままに望むパートナーを呼び寄せる禁忌の技、その産物ではないかな」
「だから何だっていう」
「お前さん自身に恨みはなくとも、許せ」
鈍い痛みが胸のあたりに重く響く。
動揺と油断が命取りになる。
こっちの一角に来る前にも、痛いほどわかっていたのに。
それでもまたしてやられた。
そうだ。アーティファクトってばれた時点で、そこから逃げるなりなんなりすればよかっただろうに。
これでもう三回目、何やってるんだか、私は。
「この街にはお前さんのようなポケモンは受け入れられん。死ぬのが、幸せじゃろう」
動けない。言葉を返すこともできない
放っておいても死ぬと考えたのか、くそじじいはどこかに行ってしまったようだったが、その読みが外れることはなく、私はここまでと、そう覚悟を決めた。
本当に、あっけないものなんだな。
寒空の下に、私は意識を手放した。
暖かい。
ここはあれか、天国か。
「おーい、あ、起きたかな」
「なん……ここは」
目を開けてみると、おおよそ天国には思えない何かのパイプやらバルブやらがある薄暗いところだった。
上に光が映っていて、そして下の方から人間の声が聞こえる。
どこかの天井裏にでもいるのか。
「気が付いたかな、良かった。隣のヤンチャムのとこまで少し用事があって行ったら君が倒れててさ。ヤンチャムに聞いたら、君、ひどくやられたみたいだね」
私は黙って頷く。
そうか、なら私は少なくとも生き延びられたのか。
未だに思うように体は動かないが、ひとまずは誰だか知らないポケモンのおかげで生き延びられたことに感謝する。
「ありがとう、助けてくれて」
「いいっていいって、僕と同じイーブイだしさ。それに……」
「それに?」
そのイーブイは、何かを咥えて持ってくる。
「まあ、いいや。よかったらこれ食べてよ」
「動けない」
そういうと、そのイーブイはわざわざそれを私の口にまで入れてくれる。
残飯以下な物はそうそう無いので、特に気にせずそれを食べた。
その瞬間に広がる久しいあの味。
なんて言ったか、昔、主人には食べすぎはダメと怒られていた、そう、甘いってやつだ。
まともな味の物なんて、いつ以来だろうか。
嬉しさと、懐かしさと、あと悔しかったりとかそういうのが混ざった涙が私の目から流れた。
「あれ、おいしくなかった?」
私は黙って首を横に振る。
そいつは、それならよかったと言って、不意に私の頭を撫でてきた。
主人が居なくなってから、そんな事されたことは無く、久しぶりの安心感を覚える。
それと同時に、そのイーブイへの警戒心が強まっていく。
「何する気」
「何もしやしないって。ただ、いろいろ辛かったりしたんじゃないかって」
優しい声をかけられ、少し警戒を解いたところへ、イーブイはそっと抱きしめてくる。
あまり、そういう弱いところを見せるのは良くないと、そう思って強く生きてきたつもりだったけど、私が本当は大して強くはなく、嗚咽を止めることはできなかった。
「好きなだけ泣いたらいいよ。僕以外は居ないから」
別に誰か居たりとか、そんな事はもう関係なく、私は押し込めていた気持ちを吐きながらひとしきり泣いた。
その間、イーブイは何も言わず、ずっと私の頭を撫で続けていてくれた。
涙が止まっても、呼吸が落ち着くまでにはしばらくの間、その状態が続く。
そして、落ち着いてくると今度はなぜだか恥ずかしさが湧いてくる。
「あの、少し離れてくれませんか」
「ん、落ち着いた? よしよし」
そっと、イーブイは前足を解き、私のそばに座る。
「その、いろいろ、すみません」
泣きながら私は何をいろいろと言ってしまっていただろう、さっきの事なのに詳細に思い出せなくなっていたが、いろいろと訳のわからないことを言った申し訳なさから、謝罪の言葉が思わず出てしまう。
「いいよ、そういうのが役目だし」
「役目……?」
「そう、この居場所もそうやって作った」
やたらと笑顔を見せながら語るイーブイは少し不気味にすら思える。
ああ、そういうのも役目のうちなのかな。
「ああ、心配しないでよ。君を助けたのは僕の気まぐれ、というか、何だろ。
同族見てたらなんだか助けなったんだよ。それに君は作られたんでしょ」
ハッとして身構える。
先ほどの事もあり、自分の事に感づくポケモンに対しては警戒してしまう。
「ほら、何にもしやしないから、そんなに怯えなくてもいいじゃない。何かあるんだったら助けやしないし」
確かに、それもそうだし、それでも少しびくびくしている自分に戸惑いを覚える。
今まで、こんな事なんて一度もなかった。
「大丈夫だからさ。まあ、ここには好きにいていいから。僕は少し行くところがあるから少し出るね。できれば、帰って来ても居て欲しいな」
初めてイーブイと目が合う。
私と同じような目で、優しく笑ってからイーブイはどこかへと去っていった。
「いったい何……」
私は深く息をつきながら、やわらかい毛布が敷かれたところに丸くなる。
おそらく寝床のようだが、二つ並んでおり、そして好きにいてもいい、などと言うからには、
この上で寝ても文句は言われないだろう。
それにしても、毎日の寝るところがしっかりとあるってすごいなと思う。
私では手に入れられなかった物を、そうやって手に入れている、しかも他のポケモンからこんな所なんてすぐに狙われたりしかねないだろうに、維持し続けられるなんて。
さっき言っていた、役目、に関係があるんだろうか。
「そうだ、暇だし、調べてみるかな」
ここから出るのはまだやめておく方がいいだろうけど、この住処に何か手掛かりになるものがないかと調べてみることにした。
まず、寝床のあるスペースはと言うと、まずまずの大きさで、天井に映る光は、床に空いた穴から漏れているようだった。
金網がふさがれ、さらにガラスのはめ殺し窓にしているようで、少しだけしか下からの音は漏れてこなかった。
そっと様子をうかがってみると、服などが売ってある店が見えた。
そして、案内表示に上の矢印と共に地上と書かれている。
と言うことは、ここは地下街の天井裏なのか。
寝床と穴以外にはめぼしいものは無かったので、ほかの所に行ってみる。
おそらく人間が修理とかのために開けていたのだろう、通路などはそれなりの広さがあり、パイプとかがむき出しでいっぱい通っているが、特に邪魔になったりはしなさそうだ。
通路の途中に丁字部分があり、曲がるとどうやら地上につながっているようだ。
外には出たくないので、まっすぐ行くと、別のスペースに出る。
ここにも毛布が敷かれ、さらに、人間の服がその上に置いてあった。
結構きれいなものなので、どうやって手に入れたのかは謎だが、少し鼻をつくにおいがした。
それが意味するところは私にもわかる。
「役目って、そういうこと……」
人間からも愛玩として人気のあるその容姿を生かしての、都会で野生として生きるポケモンたちの慰め役。
確かに、人間から捨てられやすいのはオスのポケモンのほうだったりするし、生まれやすさのバランスがオスメスで違うポケモンもあり、需要は普通、あるに決まっているだろう。
何より、過酷な生存競争の中ではそういうことへの欲求も出てくるだろうし、荒んでいく心を癒すという面もあるのだろう。
それと引き換えに、こうして住処や食料を貰い、守ってもらう、か。
「つまり、私を助けたのも、その役目の一つ、ってことなのかな」
でも、私は何も渡せるようなものを持ってるわけではないし、うーん、本当にただの気まぐれだっていうのかな。
頭がくらくらするような空気の部屋を出る。
外につながる通路の前で、上の方に伸びるコンクリートの床を見ながら、イーブイの事を考える。
どこかに出かけるって、たぶん、役目なんだろうな。
「いつ帰ってくるんだろう」
結構時間かかるのかな、まあ、それもそうか。
夜中とかになるのかなあ。
おなかはすいてないし、ひとまずはさっきの寝床でゆっくりとしているのが吉だろう。
のそのそと歩いて、寝床まで戻り、伏せる。
そのまま目を閉じ、うとうとして待つことにした。
どれくらい時間がたったんだろうか。
おそらく、夜も更けているころだろう。
隣でばさりと、倒れこむような音がする。
「今帰ったんだ」
「あ、起きてたの? ただいま。いてくれてうれしいよ」
「いや、それより、大丈夫?」
ツンと鼻に来るにおいは、別の部屋で嗅いだそれと同じだった。
大丈夫とイーブイは答えるが、私にはとてもそうには見えない。
「あ、においとかきついのが嫌かな。そうだ、これから体洗いに行くけど、君も来なよ。汚れてるでしょ」
「あ、うん……」
言われるがままにイーブイについていき、外に出る。
どうやらこの辺りは街の繁華街近くの雑居ビルが集中している当たりみたいで、前後はそこそこの高さのビルに挟まれていた。
「ここの水道ね、給湯器とつながっている上に、蛇口がレバーだから、簡単に使えるんだ」
そう言って、イーブイは水を流し始める。
少しすると、湯気が上がり始めて、出てくるのがお湯に変わり始めたのだとわかった。
そして、イーブイはその水流の下に身体をやり、お湯を浴び始める。
前足を器用に使いながら汚れをすっかり落とし、プルプルと水を飛ばして、洗い終わったようだ。
「君も、どうぞ」
「う、うん」
勧められて、私もお湯を身体に浴び始める。
いつ以来なのだろうか、ずっと洗っていなかった身体を伝うお湯は真っ黒に変わって排水溝に流れていった。
「はい、これ使って」
「なにこれ」
「ポケモン用のシャンプー、今日のお礼に貰ったの」
「は、はあ」
差し出すボトルのふたを開け、少し傾けて身体にかける。
あまり泡立たず、黒色の泡が毛に絡む程度だったが、一度全身を洗って流した後、イーブイがやれと言うので、もう一度シャンプーを使ってあらうと、あまり黒くはならず、泡がしっかりとたつようになり、久しぶりのシャンプーの心地よさを味わうことができた。
「うん、見違えるようになったじゃない」
「そうかな」
まだ濡れてはいるが、確かに薄汚れていた見た目は、元通りとはいかないが、昔のような毛色になっていた。
「まあ、しっかりと水を切ってから、元の部屋に戻ろっか」
身体を振るって水気を飛ばし、元の通路を入って寝床に戻る。
「ふうー、今日はなんて言うか疲れちゃった」
「役目、って大変だね」
「ん、まあね。何してるかわかっちゃったかな」
首を縦に一度振る。
「まあ、これが私の生きていく術だからさ」
「わかるよ」
そっか、とイーブイは落ち着いた声で言う。
「今日の相手は、ヤンチャムだったんだよね、君がやられた」
「あの……」
「悪く思わないであげて、あのポケモンも結構苦労してるんだから」
そう言うと、イーブイはこちらの寝床に入ってきた。
「な、何」
「先代のトップが死んでさ、この街が乱れないように、あのヤンチャムが慣れない中でトップやってさ、ポケモンをまとめ上げてくれてるの。そうしないと、あまり暴れてると人間が駆除しに来るしさ。僕はヤンチャムのお願いで、ポケモンの慰めをして、サポートしてるってわけ」
「それは……」
そんなのでいいのか。
それになんであえてヤンチャムの事を私へこんなに話すのか。
「君も、ほかの地区で結構暴れてるって聞くし、それに、僕とすっごく似てるから、いろいろ迷惑だって、受け入れるわけにはいかないから、ヤンチャムは君を始末しようとしたんだけどさ、僕が掛け合って、いい子にさせるから助けてあげてってお願いしたの」
「詰まるところ、私におとなしくしろって言いたいわけ、長々と話して」
「あー、うん、そういうこと」
なるほど、私を助けてからの役目とはそう言うことか。
しかし、ならなんで助けたのだろうか。
「なんで、私を助けようと思ったの」
「それはさ、同じじゃん、目が。アーティファクトで、同じイーブイ。同族を助けたいって気持ちかな」
なるほど、このイーブイも確立に支配された私たちの強さを、歪めてしまう禁忌の技の産物だったのか。
「イーブイってよく捨てられているのは見るけど、たいてい死んでいくんだよね。進化できないから」
たしかに、進化することによって適応する能力の私たちは、外的要因のきっかけ、石だったりするものによるところが大きかったりする。
こんなところで野生になってしまえば、ただのイーブイならまず生きていくのは厳しい。
「んーまあ、助けた理由で一番を言うと、単純に僕の慰めっていうね。同族の異性を見つけるのはきついんだよ、すぐ死ぬから」
息が詰まりそうになる。
イーブイの口と私の口が重なり、一呼吸の間密接していた。
「要するに、私は道具と」
「まあ、許してよ。僕だって役目でやるコトは満足なんてしないしさ」
「こういうのって、もっとロマンあるものだと思ってた」
「道具がつべこべ言わない」
何も言い返せずに、されるがままになる。
どうせ死んでいく物だったのに、こうして助けられ、寝床を一晩でももらえた。
これ以上に何を望むか。
別に慰めの道具として使われようが、それはイーブイだってしていることだし、立場が変わっているという点を除けば、おかしなことなんてあまりない気がしてきた。
それでも、なんだか違う思惑があるような気がしてならない。
「本当の所は何なの」
「君も僕と同じ役目をしてもらう、僕とは違う方の性別をね。そのための味見。あとは、おとなしくなってもらう為とか、いや、いちいち考えたらきりがないな。こんな路地裏の野生に、恋だの愛だのは求めちゃいけない。今気持ちよくなれて、満足すればそれでいいやってさ」
なるほど、それもごもっともだと、私は口元を緩め、目を閉じて頷く。
優しく、頭にイーブイの前足が載せられ、ゆっくりと撫でられる。
「ま、楽しもうよ」
「わかった」
イーブイは私を突き飛ばすように倒してくる。
すぐさまにイーブイは私の股に顔を埋め、長らく排泄くらいにしか用の無かった器官を摩擦の大きい舌で舐めた。
気持ちいいと知ってはいても、こうして他のポケモンにされた事は無いため、鋭い快感が逆に気持ち悪く思えてしまう。
「あんまり、って顔」
「私はそういうことしたことないから」
なおもイーブイは舌で私の物を舐める。
特に敏感なところは避けるようにしているようで、ようやく気持ちいと感じ始め、初めて牡が固まっていく。
「私って言うくせに、しっかりオスだね」
「うるさい、お前だって僕とか言うくせに、淫乱なメスじゃないか」
「だからこうしてるんだね」
最大まで膨らみきった私の牡をお腹同士で挟むようにイーブイが乗ってくる。
ぴくぴくと私の鼓動と同じように震える牡が、イーブイの体温を私自身の高揚に変えていく。
イーブイも加速していく気持ちで、火照っていっているのか、息遣いは艶やかになっていき、
私と合わせる瞳もあまり理性を感じるような光ではなかった。
「君も、結局は期待しているんでしょ」
「否定はしないよ」
「じゃ、期待に応えて」
あ、これかと最初は思った。
イーブイがお腹をずらしていって、ふわふわとした毛並みとは違う、肉体を直に触れる感覚が、牡に押し付けられる。
ぬるりとして、くすぐったいような感じがし、そして、圧迫感が全体を包み込んでいく。
「わかる? もう入ったけど」
「へ?」
何だ、あっけないものなんだな。
もう少し、手ごたえとか、何かしら反応できる要素があればいいなと思ったけども、贅沢か。
とりあえず、私の牡がイーブイの中に入ってしまったんだなと思うと、感じる体温が少し熱くなった気がした。
それから、イーブイはくっくと笑うと、自らの身体を少し浮かしたり落としたりと、私の牡を擦り、扱き上げるように動き始める。
それまでは、ゆっくりと打ち寄せる波のように神経を伝わってきていた刺激が、荒波のように押し寄せてきた。
頭で変換することは叶わず、反射的に、イーブイの腰の動きに合わせて、喘ぎを漏らしている。
欠片ほどしか残っていない意識の中でイーブイの様子を見ると、恍惚とした表情で、イーブイも喘ぎをあげていた。
なんでか、イーブイがかわいくて仕方なく思えてきて、前足をイーブイの頭に回し、撫でながら引き寄せて抱えていた。
一定の拍子を刻むようで、その実はお互いの鼓動を重ね合わせたような、微妙な速度と、強さの変化を交えながら、一つ一つ、階段を上っているような感じだ。
私の中にある、魂のような、そんな力のかたまりが一つになっていくような。
もはや音とか毛並みの心地よさなんて感じなくて、イーブイの中の熱さと、牡を包み込んでいるぬらりとして、容赦なく締め上げてくる器官の事だけが、頭と神経に伝わってきていた。
「うっ……あ、無理」
不鮮明な意識の中で、限界を宣言する。
快感と私の力すべてを込めたようなかたまりを、もう抑えられなくなり、開放してしまう。
牡を伝い、とくとくと流れ出ていき、イーブイの中へ。
それが私の中から全て出てしまったと、そう思ったところで、本当に私は力を使い果たしてしまった。
頭がぼーっとした中で、ようやく五感が戻って来て、イーブイの啼く声と、私と同じように階段を登り切った顔の、光の無い目が記憶の最後に刻まれた
「おきろ、ねぼすけ」
その声で私は目を開ける。
すぐにははっきりとした意識が戻らないが、私の顔を覗き込んでいるのは、間違いなくイーブイだ。
「あー、え、何だろう。どうだったかな」
「何言ってるの。ほら、今日から君も役目だよ」
ああ、要するに合格ってことか。
いや、合格なんかしてもうれしくない。
「辞退することはできないの」
「死にたいなら」
拒否することはできないのか。
いや、突拍子の無いこと過ぎて、少しついていけてない。
「いいから、つべこべ言わず。君は道具」
「は、はあ」
相変わらず反論ができない。
何だろう、雪の降る日は不幸なことばっかりなのか、ましになっているのか。
それでもまあ、こんなことになっても生きていられる分、ましなのかな。
本当に、雪の降る日は余計なことを考えてしまうものだなあ。