ポケモン小説wiki
兎の小話集 の変更点


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Twitterで書いたSSを一つに纏め、加筆修正かつ時系列に並べ替えた物です。


* 夢の子は親を見て育つ[#E5000B]

 うちの兎は猫である。
 ある日飼い猫のニャオニクスが何処からともなく卵を持って帰ってきた。
 何の卵かも解らず、持ち主は居るのか拾った場所は何処か警察に連絡をするか等の探りを入れ、進展が無いままに卵は孵り、ヒバニーが産まれた。

 ヒバニーはニャオニクスを母と思い込んだのか、片時も離れようとはせずにくっついて甘え、ニャオニクスもそんなヒバニーを無碍にはせず子育ての意を決した表情で我が子を迎え入れた。
 家族が一匹増えても懐事情には困らない程度の蓄えはあったので彼の覚悟を尊重した。
 なおママとは言うが、彼は♂である。

 ♂なので当然乳は出ないが、子兎にそれを伝えた所で通じるかも怪しく、何度か彼は出ない乳を吸われては虚無の眼で天井を見つめていた。
 元から虚無の様な瞳をしていたが、それより酷い有り様に笑ってはいけないと知りつつも噴き出してしまう。

 とは言え彼の自尊心を護る為にも助け船は出すべきか。
 赤子が好みそうな木の実を絞り、乳飲み子の鼻近くにそっと包みを寄せてみる。
 直ぐに匂いに反応したのか標的が移り、彼の胸は解放されたが見るも無惨で涎で貼り付いた毛並みの奥では艶やかな小豆が俯いて泣いていた。
 良く耐えたねと心の中で褒めた。

 エスパーの特性で心を読んだニャオニクスは母親ですからと澄ました顔を向けて交代をせがむ。
 いや、貴方パパ親だからね。
 手元の子兎をパパに明け渡し、それからの育児を見守る事数日。
 子の成長は早く、今では部屋中を走り回るやんちゃぶりを披露している。
 一時期火事になりかけたのは胆が冷えた。

 普段なら足音で存在感が分かるのだが、ここ最近はそれを感知できない。
 心配になって家中を巡るも姿は無く、一呼吸置いて思案して心当たりを探ってみた。
 乳離れしたとはいえ子兎はまだまだパパ親に依存しているので、パパを探せば自然と見つかるはずである。
 向かう先はパパの隠れ家だった。

 ビンゴだった。
 半開きの箪笥の中をそっと確認すると猫と子兎が丸く重なってしわくちゃの服の中で眠りこけている。
 多分しわくちゃになったのはヒバニーが無理矢理割り込んだからだろう。
 パパは賢く要領がいいのでそういう所は繊細に扱った上で下敷きにする。
 至福の一時を心のシャッターに納める。

 それから時は流れ、子供も当然大きく育つ。
 すっかりパパ親と同じ背丈に並んだラビフットは以前程にはしゃいだりもせず、年相応の落ち着きを備えてしまった。
 子離れが出来てないのか私の心中は穏やかではない一方でパパ親の方はあっけらかんとした態度で伸びを繰っている。
 案外とドライだよねお前。

 それでも完全に親離れした訳ではなく、姿を見かけない時はいつもの隠れ家の所で二匹揃って眠っている。
 子は親を見て育つと言うが、寝相まで真似なくても良いのではなかろうか。
 海苔巻きのお餅とあんころ餅が箪笥のスペースを占有している。
 今はいいけどこれ以上育ったらどうなるのだろうか。

 不安に駆られてラビフットの進化先を検索すると、平均の高さで1.4m、重さ33kgと出てきた。
 流石にそんな大きな子は入らないどころか箪笥の底が抜けかねない。
 何か対策を打ちたい所だが、最終進化まで育ったらもう立派な大人とも言えるし、分別の弁えも親離れも巣立ちが済んでいるのではなかろうか。

 楽観的に捉えるのは私の良い所である。
 心配性の癖に肝心な所が何処か抜けてるとも言われるが、性格は変えられない。
 心配しすぎて杞憂に終わるだろうと高を括ったのが間違いだった。
 遠くない未来の私はラビフットもといエースバーンに向けてこう愚痴るのだろう。

 どうして童心に逆戻りしているの……?
 部屋中を駆け回らないで!
 箪笥の中に無理矢理入ろうとしないで壊れちゃう!

 助けてニャオニクス!
 貴方パパ親でしょう!?
 どうしてエースバーンの頭の上で司令塔ごっこをしながらはしゃぎ回っているの!

 ほんの少しの危機感があれば回避できた未来の姿。
 それを教えない我が家の猫は忘れていたが、悪戯大好きな困り者。
 困り果てる私に誰かが教えてくれた。

『貴方の猫ちゃんたち、どちらも夢を持っているのね』


* 黄昏兎の影伸ばし[#E5000B]

 兎は伸びる。
 それは猫ではないのかだって?
 確かに伸びると言えば猫のイメージが強いが、兎も負けず劣らずさ。
 尤も彼等の場合は伸びるに加えて潰れると言うのが表現としては正確に近いかもしれないね。
 私のヒバニーもその内の一匹で、つい先日進化をしてラビフットになった。

 それからはあまり以前のポーズを見せることはなく、常におすまし顔を維持して冷静沈着な態度を貫いている。
 どれだけクールぶろうが私は君の本当の姿を知っているのにね。可愛い反抗期である。
 一人にやける私を気味悪がってか彼はそっぽを向いてしまった。
 つれないお方だこと。

 昼食を終え、遅めの夏季休暇の消化で本日は休日になっているのだが、特に予定があるわけでもなくすることもないので窓辺から吹くそよ風を受けながら景色を眺めている。
 季節はすっかり秋めいており、こないだまでの猛暑が嘘であったかの様な心地好い気温である。

 そういう時分は得てして眠くなるもので、微睡む視界に意識が飛び継ぐ。
 船を漕ぐこと数回、窓辺に寄り掛かる形で寝入り、次に目覚める頃には陽が傾き掛けて陰の濃さを増していた。
 膝元に重さを感じて目を見やると反抗期真っ最中の子が私の膝を枕に寝息を立てて丸まっている。
 おやおや。

 起こさない様にそっと手指を頭に乗せると一瞬身動ぐ。
 無意識に伸びを張り、頭を掌に押し込める力強さで全身を強張らせ、そのまま伸びた手足を戻すことなく脱力して再び寝息を立て始めた。
 こうしてみると想像以上に大きいというか、長い生き物だと分かる。

 毛並みの感触を玩びながら耳の裏筋を捲って親指の腹で逆撫でていく。
 毛の薄い部分に密集した毛細血管の赤が白桃色によく映える。
 軽く指圧すると気持ち良いのか脱力の度合いが進み、徐々に溶けていくその様から液状化して蒸発してしまわないか不安を覚える物があった。

 折角だから反対側の耳裏も指圧マッサージを施そうと頭を横に傾ける。
 ぬるんとした動きで体も連動してこちらに倒れるその勢いに笑みが零れる。
 耳裏の指圧から降下してこめかみ、頬骨へとなぞっていく。
 彼はとても恍惚そうに夢を見続けている。
 髭の根本をなぞること数回。
 流石に感触で起きるか。

「おはよう」
 寝ぼけ眼で散見する視線が私と噛み合い、ようやく事態を把握し始めたのか脱力しきった体が固体になっていく様が感触で分かる。
 あらぬ失態を見せただけでなく口許を覆う黒毛の襟巻きがずり落ちているのに気づき、咄嗟に隠して表情を隠す。
 可愛い反応をありがとうとにこやかに笑む。

 罰が悪そうにする彼を解そうと頬骨に置いた両手を顎下に潜らせる。
 はずみで自然に外れる襟巻きへ戻しても無意味と悟ったのか、どうにでもしろと言わんばかりの表情が貼り付いた。
 無の境地に至った子を愛おしく撫で擦る。
 落陽もその様が大層に気に入ったのか。
 重なる温もりに兎は目を反らす。


* 兎な亀と猫の兎[#E5000B]


 家の子兎は自分を猫だと思っている。
 そんな話を少し前にPoketterに挙げてみたらどうやら似たようなお悩みさんが他にも居るらしく、寄せられた声の中でも目を引いたのは自分を亀だと思い込んでいる兎の話であった。

 詳細を掛け合ってみると飼い主の彼は亀が異様に好きらしく、亀に属するポケモンを揃えるのを夢にしているらしい。
 トレーナー志望なのかと思えばそれも夢見たことはあったが、自分には力不足だと悟って生涯の友となる一匹と添い遂げる覚悟を決めたという。

 ポケモンと暮らすことは経済的にも豊かな環境を維持できて居るかが問われる。
 それは自身のみならず相棒が尤も暮らしやすい環境を整えてやれるかどうかも絡んでいる。
 彼が現時点で用意してやれる環境は一匹だけだったのだろう。
 それもまたひとつの家族であり愛の形である。

『これが僕の亀です』
 短く自己紹介も兼ねた短文に添付された画像を見る。
 ……亀だ。亀だが、亀の衣装を羽織った子兎、ヒバニーがそこにいる。
 何故そうなったのかを問うと、本来なら彼はゼニガメを捕まえる予定だったのだという。

 手持ちにポケモンは居らず、捕まえられるかどうかも運任せのギャンブル。
 失敗すれば自身の命が危機に脅かされる危険性を押してまで彼はなけなしのモンスターボールを標的に投擲した。
 草むらの中から見え隠れする甲羅へバウンドしたボールから放たれた光線が対象を捉え、地に落ちて大きく揺れ動く。

 一つ。二つ。
 一拍の間を置いて三度目が揺れ、ボールの中に彼の望む夢の一つが納められ、小躍りしながらそれを拾い上げて中身を解放する。
 出てきたのは先も述べたが、亀の衣装を纏ったヒバニーであった。
 ゼニガメとはこんな姿をしていただろうか等と混乱する彼をおいて子兎は亀らしく嘶いた。

 一つも全く似ていないその鳴き声に彼は噴き出してしまい、彼と同じく亀が好きな子兎と意気投合して現在に至るのだと言う。
 彼の子兎が何故亀に拘るのかは謎だが、家の子兎と同様に猫に育てられたケースもあれば亀に育てられたケースもあるのかもしれない。
 まぁ真相は少し謎を残しておくのが楽しいので追求は止めておこう。

 奇妙な縁同士が結ぶ奇妙なエピソードは互いに意気投合を結び、それぞれの美談から困った話までを語らいあった。
 今の彼の子兎は進化してラビフットになったのだが、それに併せて亀の衣装も新調しようと手探りで裁縫しているのだという。

 初めて凝った作品に着手する故か、出来具合は未熟な部分が多く残ると愚痴ってはいたが、最終進化するまでには技術を磨いて双方満足のいく甲羅を用意してやろうと意気込んでいた。
 その気概に当てられたか、ふと家の猫等にも何かを見繕って上げたくなった。

 ニャオニクスのフード位なら作れそうかな……と採算を立てていると隣の部屋から轟音が鳴り響き、もしやと思い現場に駆けつける。
 二匹の隠れ家である箪笥が倒れてその下には明らかに入れる基準をオーバーしている兎、エースバーンが下敷きになっていた。

 いい加減学習してくれないものかと我が家のおバカに呼び掛ける。
 箪笥の隙間からパパ親のニャオニクスが這い出てきて、お得意のサイキック能力で箪笥が元の場所に収められ、何事も無かったかの様にいつもの定位置へと戻り、夢の世界へ旅立ってしまった。
 お前のそういう所好きだよ。

 さて、無駄にでかい我が家の兎猫は説教タイムのためちょっと連行されて貰おうか。
 見た目に反して頑丈なので怪我の類いは心配してはいないが、一応身体検査も兼ねて採寸させて頂こう。
 こら、ワガママ言うんじゃありません。
 大人しく逮捕されろ現行犯。

 そんな攻防を繰り広げていると喧騒に苛立ったのかパパ親から一喝。
 眠いのもあってか目付きがおっかない。
 今の短い一鳴きにどんなメッセージが込められていたのかはまぁ大体の予想がつく。
 長い耳を萎らせた兎猫を慰めつつ部屋を退室し、そして日々の安らぎが訪れる。

 お前ももうちょっと親離れしなさいねと両頬を乱雑に掻き回す。
 気分が少し良くなったのか、催促する様に喉元を差し出すのでついでに撫で繰り回してやると歓喜の歌声を漏らしていく。
 本当に兎なのかしらと毎度の事ながら疑問符を浮かべつつ、ありふれた日常が過ぎて行く。
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 後書
 お久しぶりの投稿です。
 Twitterでこっそり書いてた兎の小咄が割と続き物になっていたので一つの物語として纏めてみればお手頃な文章に仕上がりました。
 従来の書き方と違ってTwitterでは140文字という制限を繋げながらリレーしていくので自然と読みやすい文章力が鍛えられる様な気がします。
 早いものでもう10月半ばです。後2か月もすれば私が創作活動に復帰して1年目です。時の経過が早すぎる……。
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