[[Lem>Lem]] 7月にTwitterに挙げてたSSのまとめ。 * 兎の小咄集2[#E5000B] 戯れ兎の火遊びごっこ インエス 2021/07/08 兎の食欲に御用心 人ポケ(エス) 2021/07/12 雨岩兎 インエス(兎の食欲に御用心の前日譚) 2021/07/14 尾/何しあう蜥蜴兎々(とかげとうさぎ) インエス 2021/07/21 * 戯れ兎の火遊びごっこ[#E5000B] 歯を見せてほしい。 唐突なお願いに面食らう僕へ向ける彼女の屈託無い微笑み。 細めた目と口端から汲み取れる情報は少なく、あれこれと考えても邪推にしかならないので諦めて理由を彼女に問うた。 「八重歯、あるよね?」 不意に伸ばされた白い手に驚いて自然と身を引く僕を気にもせず彼女が追う。 次第に狭まる距離感。 這い寄り、詰められ、背を樹木の壁に遮られ、退路が絶たれる。 もう後退りも出来やしないのに彼女はそれ以上を僕に強いてきた。 顔と顔の距離が狭まるにつれて全身の密着度も増えつつあり、僕に馬乗りになる彼女の微笑みが時に恐ろしく映る。 「ね、八重歯……見せて?」 ふわりとした毛先に続いて細指の感触が肉を押し上げた。 「おお~……本当にあるんだ」 興味津々の眼差しがいつ僕の目と重なるか気が気でない。 瞬膜を閉ざして強すぎる光を一時的に遮断したくともそれをすれば怪しまれるのは分かりきっている。 詰まる所彼女の気が済むまで僕は堪えるしか無いのだ。 雄の本性すらも理解していない無垢な色はそっくりそのまま彼女の被毛に表れている。 その下に隠された兎の肉は、恐らく、きっと、僕が好む味がするに違いない。 鼻腔を擽る彼女の甘い匂いが僕の妄想を悪戯に煽り立ててくる。 早くこの時が終わって欲しい。終わって欲しくない。 どちらが僕の本性か。 「誰かのね、歯を見るのが好きなんだよね」 不規則になりつつある呼吸を彼女が詰める。 「この鋭い牙がさ、ボクの頚を貫くんだって思うとね」 揺らめく炎が妖しく灯る。 「それって何だか……とっても素敵な事だよね……ね?」 耳元への吹聴。 鼻先に振れる挑発的な綿毛の感触。 「どう思う?」 言葉は出なかった。 悪戯に嗤う兎の手は矮小な僕の、小さな蜥蜴の尾を踏み抑え、僕の反応を只管に楽しんでいる。 蜥蜴は自分の身に危険が及ぶと自らの尾を千切り、尾を囮にして逃げる。 自切という現象は僕の心一つで何時だってできる。できるはずなのに。 「ねぇ、どう思う?」 嗚呼、逃げられない。 * 兎の食欲に御用心[#E5000B] 私の兎には妙な癖がある。 癖というと当たり障りの無い言い方になり、マイルドになる感じがして今から語るそれには程遠い物なので今の内に修正しておこう。 ようは性癖の話だ。 だからこの話はディープでありセンシティブな物になるし、ひょっとしたら兎を見る目が変わってしまう可能性もある。 その辺りを汲んだ上で視聴を続けるか否かよく考えて欲しい。 以上注意書き終わり。 それでは本題に戻るが、僕の兎には妙な癖がある。 並みならぬ執着心を覚えるといっても過言ではない。 現に今の僕はその兎の癖に付き合わされ、身体の自由を拘束されている。 自由なのはこの右手、絶賛実況中。 左手の感覚は長時間の拘束によって麻痺しており、何処から何処までが自分の物であったのか定かではない。 分かる事はフワフワしてじんわり熱くて全身を溶かされそうになる多幸感が洪水を起こし、決壊した波が頬の筋肉を弛緩させている状況下である事のみ。 そんな僕の綻びには目もくれぬ兎の真剣さよ。 最終進化を果たしてから背丈が僕とほぼ並んだ兎は一足先に大人の階段を登り、つい先日我が家へ帰宅したばかりである。 将来はポケモンの生体研究に携わる夢を描く人生設計を建てているので兎が施設で何をしに行ったのかは概ね理解している。 同じ雄としてそういう願望に苛む事も解るからこその決行だ。 だからさぞや良い思いをしたのだろうとは思う。 その体験と感覚が忘れられないからこそ、擬似する物で自身を慰めているのだろう。 然し、だからといってかれこれ数分間の拘束は苦ではないと言うのは嘘になる。 通常ならそうなのだが、一心不乱に僕の左手を揉み続ける兎の顔を見るとどうでも良くなる。 ここでひとつ怖い話をしよう。 肉は揉まれ続けるとどうなるのか。 答えは──秘密。 気になるなら調べてみるといい。 気持ち良さの裏には大概ろくでもない代償が憑き物なのだ。 揉み解された僕の左手の明日等想像したくもない。 尤も想像をする程の余裕が挟める余地などある訳無いのだけれども。 ふと弛緩した左腕に兎の手が伸びてきた。 左手の先はそのまま滑るように兎の胸へと収納され、摩擦で火炙りにされている感覚が広がる。 白い手が上へと伸びてくる度に左手は胸から腹へと下っていく。 嫌な予感がした。そう予感する頃には既に手遅れで、一連の流れに嵌まった時点で確定の予定にあった。 恍惚に蕩けた兎の顔が左肩に座礁し、続く左手は同じ雄ならばその先は語るまでもないであろう深海に沈み、脳内と胸中の情報伝達が反発しあい、百々のつまりお手上げだ。 左手は上がらないだろうと上手い事を言ったつもりの急速な冷却がほんの少しだけ冷静さの維持に一役を買う。意地とも言えるか。 身動ぐ事もできない僕に構わず兎は左腕を巻き付けて蠕動行動を起こす。 緩んでは絞まる表情の変化へ思う僕の答えは、どれだけ施設で気持ち良い事を学んできたのだろうな──という憐憫の情と、この先を考えると相棒には別のパートナーもとい番が必要になるのかもしれない等の未来図が描かれる。 そんな設計図を建てている所へ唐突な筋肉の収縮が始まり、左手に広がる感触から全てを察した僕の思考は 一旦全てを隅に追いやった。 不快感は不思議となく、同じ雄であり生き物である以上の生理的な衝動に深い同情を抱く僕は右手の操作を止め、荒い呼気を繰り返す兎の頭に手指を絡めた。 薄目から覗く視線が噛み合い、申し訳なさそうに一鳴きすると再び目を閉じて頭部の愛撫を甘受する。 呼吸と動悸に穏やかな細波が戻ると兎はいつの間にかまほろばの夢へと沈み、絡む腕を抱いて寝息を立てる。 夢の中で兎は何を相手に抱いているのか興味は尽きない所だった。 さてそこまでは良いのだが、問題はまだ残っている。 熱伝導という言葉があるように、くっついているだけで兎の高い熱は徐々に僕の頑なな壁ともいう名の癖を融解し、元々あった性癖が別物へと変じていく取っ掛かりを感じる。 それは僕の股間の状態を見れば分かるだろう。 これを熱に浮かされた状態と捉えて気の迷いだと片付けるならそれも良いだろう。それもひとつの形である。 だが鉄という物は一度溶けてしまえば元の形には戻らない物である。 再生成しない限りは──。 そう考える頃には右の手指は自身の股間へと伸びていた。 使い慣れない覚束なさの感性は目を閉じれば傍らの兎に≪されている≫様にも捉えられた。 高熱で駄目になっている思考も相まって楽な逃げ道へと脳が補填していく。 兎の手が自分を慰めていると妄想が全身を走らせ、達するまで時間は掛からなかった。 左手にも右手にも広がる共通の雄の昂りの感覚に何をやっているのかと溜め息と同時に細目を開く。 視界の端で兎が微笑んでいた。 それぞれがうたかたの夢から目覚め、逃れようのない現実を直視し、決断の時を迫られる場面だった。 先手を取ったのは兎であり、人間はどう足掻いても兎を追い抜けない。 僕の右手に広がる残滓を兎の手指が掬い上げ、自らの口内へと運ぶ。 味を確かめる様に咀嚼し、吟味した後に今度は僕の右手ごとそれを掬い上げて残留を舌先で啜り、歯先で根本をこそげとり、余すこと無く全てを喰らい飲み干した。 口端や手指に残る残滓も掻き寄せ、その男前な仕草に心の何処かが揺らぐ。 そうしてようやく拘束を解かれた左腕を兎が僕の眼前へと導く。 当然左手には兎の残滓が熱を残して狼狽える僕を見上げている。 ちらりと兎の顔を見た。 細目の奥に広がる太陽の妖しげな陽光が僕の答えを欲して強く突き刺さる。 一度歪んだ癖は二度と元には戻らない──そう、二度と。 啜る音が室内の至る所でこだまする。 或いは自身の耳朶を打つこだまかもしれない。 咥内に広がる酷い味に顰める僕を兎の舌が撹拌する。 舌先、唇、首筋、手指、果ては自身の小人まで。 余す事無く全てが貪られていく。 貪欲な兎の食欲に。 食欲にも似た性欲に。 僕という癖が捻れ壊れて狂っていく。 * 雨岩兎[#E5000B] ※<兎の食欲に御用心>の前日譚 これは過去の話で俺が施設に世話になっていた頃の話。 そこでは俺と同じく最近に最終進化を迎えた同期が集まる事もあれば、少し歳の離れた先輩が度々利用を重ねていたりする事もある。 右を見ても左を見ても木の上を見ても先客が姦しく主張し合い、その空気に当てられた俺は少しばかり物怖じしていた。 ≪番の無いポケモンに憩いの場を≫ そういう目的から作られた出逢いの場を別の言葉で言い換えるなら発展場とも野生に還る場所とも形容できる。 そんな施設へ俺が送り込まれたのも進化祝いと主人の粋な計らいからだったのだが、正直な意見を述べると早く帰りたい気持ちで胸が一杯になっていた。 なるべく人目に触れない場所を求めて施設内の至る所を彷徨く。 当然ではあるがそういう行動を起こせば当然出逢いの確率というものは高くなるもので、面倒な会話をやり過ごす為に姿を隠すこの能力は大変都合が良かった。 風景に溶け込んだ俺を視認するのは難しく、体臭もほぼ無臭で音さえ立てなければ俺はそこらの岩と同じ無機物の一つとしてやりおおせる。 このまま時が来るまでじっとしてるのが一番面倒も後腐れも無くて良い。 陽光も射さない岩場の隙間は場所さえ知っていれば大変な穴場であろうが、未発見なのか周囲の荒れ具合から推して俺が最初の一匹目らしい。僥倖な事だ。 とは言え姿を晒すのは得策では無い。このまま姿は隠して次の朝が来るのを待つ。 背中や尻を伝う岩壁の冷たさはどれ程経っても暖かくはならない。 ここは隠れるには最適だが、昼夜を過ごすには実の所最悪であり悪手とも言える。 変温動物の辛い所が如実に発露されており、最終進化の形でなかったらこのまま動けなくなる危険性を孕むリスキーな場所であった。 立ち上がれなくは無いが、余計な体力を消耗したくない一存が全身を強張らせる。 そうしてじっとしていると眠くもなるもので、張り詰めた警戒心がぷつりと切れる音も聞き取れず、完全に岩と同化したまま時が流れた。 不意に聞こえた足音が覚醒を促すも長時間の冷却は思った以上に身体の自由を奪い、珍客の様子を伺う位しかできることはなかった。 背丈は自分より低く、上半身と下半身の全体は白と赤の被毛に覆われ、頭頂部から伸びる二本の長い耳は物音でも立てようものなら瞬時にこちらを振り向く有能さを秘めていた。 外では雨が降ったのだろうか、眼前の二足する兎はじっとりと毛並みを濡らし、全身を震わせて雨粒を弾いている。 飛び散る雨粒に混じる彼の臭いからは同性と解る。一先ずは安心した。 雌は──嫌いなんだ。 粗方の水分を振り切り、後は毛繕いなり自然乾燥なりで整えるのだろう兎の行動の切り替わりを観察していると次は独り言を漏らし始めた。 どうやら彼も自分と同じく最近の姿を迎え、同じ目的で送られたらしい。 そこまでは良いが、どうも彼は相手に恵まれない様で色んな雌に声をかけても「カワイイ雄はタイプじゃない」の一点張りで酷いものなら「お子様はお家に帰る時間よボウヤ」等とあしらわれたりと散々な目に遭ったらしい。 果ては別の雄に雌と間違われて言い寄られたりも何度かあったという。 兎は幸運の象徴と言うが、目前の兎からはとてもそんな雰囲気を感じられない。 不幸のどん底に突き落とされ、終いには雨に打たれ、這々の体でここに流れ着いたという。 だが俺にとっては幸運が降ってきたとも言えるかもしれない。 目下動けないこの身を晒すのはプライドの名折れだが命には変えられぬ。 「こんにちはお嬢さん」とそう一声を掛けるだけだったが、それより早く兎が我が身に寄りかかり、背凭れた部位から伝わる感度、肌を擽り刺す濡羽の毛先、じんわりと広がる陽光の温もりが我が身を椅子に彼の恵みを甘受していた。 兎の独り言は止まらず全身の毛繕いを行いながらも愚痴を零していく。 自分も思考の深みに溺れて愚痴を溜める事はあるが、それを口に出すことはあまり無い。 にも拘らずこの兎の口の軽さには驚くばかりで、貶し貶されども最後には相手を恨みはせず、一頻り吐き出したら後は完全に忘れてしまえる鳥頭は何とも利便性のある性格であろうか。 ある意味羨ましいとも思う。 愚痴を吐ききったもののそれが兎の全てではなく、そもそも彼の目的はここで一皮剥ける事にあり、それが果たされてない以上義憤は残ったままである。 それは自分にも言える言葉であり、この状況を掴むか見逃すかの主導権は完全に自身に握られていた。 指先は動く。ならば決断するだけだ。 そっと指先を彼の口元に忍ばせる──それだけ。 なのだが又しても先手は挫かれ、目下の兎は唐突に自慰行為に走り出してしまった。 この兎、やる事成す事が速すぎる。躊躇とか葛藤とかそういう恥じらいはないのだろうか。 手持ち無沙汰になった指先を引っ込め、終始を観察に徹する。 次第に粗くなる呼気と動悸が背中越しに伝わり、徐々に自分の心音とズレが生じ始めていく。 だが兎はそれに気づかない。目の前の事に全力で挑み続けるその様は成る程と謂わしめる彼の姿があり、彼を表す異名に相応しい在り方でもあった。 そしてそれは同時に自分自身にも返ってくる。 陰陽の様で対極にある互いの立ち位置。 ストライカーとエージェント。 決して重ならない対の存在。 だが交わる事は可能である。 線と線が結ぶその一点が今なのだから。 そうでなくとも身体は彼に引き摺られる様に反応を促し、刺又の先端が兎の小さな尾を押し上げる。 その感触に気づいたかどうか定かではない新鮮な反応に兎の手が弛む。 昂りに昂った感受性が全身をおかしくさせているだけかも知れないと兎は快楽の波に揺られている。 刺又は更に尾を押し上げ、裏筋を執拗に逆撫でる。 引き潮の如く寄せる快楽が兎の動きを狂わせる。 黙してそれを観察に費やす俺はただただ不動を貫いた。 狙うは彼の弱点で、それを探り当てるまで下手な行動はしない。 確実に急所を撃ち貫く。 一撃必殺こそが俺の得意とするアイデンティティーであるが故に。 実に奇妙な戦いが岩場の奥で繰り広げれている。 だが誰もその戦いを記録には残せない。 唐突に嘶く兎の張り詰めた背筋に連動して押し出された尻が刺又を強く押し潰す。 快楽の波及が俺を襲い、堪らず喉から這い上がる淫声の尾を噛み殺すも刺又の制御までは手が回らず、暴発した。 できることは暴れ狂う声の尾を噛み砕き、飲み干す、その繰り返しだけであった。 快楽の波及は俺のみに留まらず再び兎へと伝播し合い、兎も同様に雄種を吐き出しては撒き散らしていた。 這い上がる快楽も悲鳴のような淫声も全てを外に、愚痴同様に零していく。 長い長い快楽の細波が穏やかになり、水面が波紋を立てなくなった辺りで兎がゆるりとこちらを覗き見た。 深淵を覗く赤い瞳は陽光の射さない岩戸を抉じ開け、瞳に写る自身の姿を改めて認識する。 太陽と月が、今交差した瞬間であった。 * 尾/何しあう蜥蜴兎々[#E5000B] 自分には理解できない事柄、常軌を逸した執着心、そういう状態が見られる者を人間の言葉を借りれば「変態」と言う。 ではボク等ポケモンにそういった単語は当て嵌められるのだろうか。 空と同化する様な透明感のある青は自身が内包する闇を羽織り、昼なのに夜の様な影をボクに降らせている。 ふわふわとした兎に覆い被さる蜥蜴。 端から見ていると捕食寸前の関係。 その認識は半分正しく半分間違いでもあった。 別にボクの命が脅かされる危機的状況という訳ではない。 けれどボクは彼に食べられる。そうされるのが大好きな位に彼に好意を寄せている。 彼が望むなら何でもボクは付き合おう。 それが本当に命を奪い、彼の血肉となる行為に発展したならその時はその時に考える。 今のボクでは答えは死にたくないから本当に食べられるのは嫌としか答えられないからだ。 そこまで進んだ先のボクにしかその答えは出せないのだから。 だから好きでいる限りは彼の好意もあらゆる行為も許している。 この態度が実の所とても危うい。 恋は盲目、愛は狂喜と誤認しやすいからとボクの姉達も母も祖母も果ては親族を含めた一族郎党の雌が揃って口癖にする位だ。 規則というよりは掟に近い頑なな意志を感じ取れもする。 皆その手で必ず一度は痛い目に遭ってきたのだという戒めがそこには含まれていた。 呪いにも似た言葉だが、未経験のボクにはその真髄まで理解しておらず、今日も明日もその先も彼にこうやって身体を許していくのだろう。 何時しか姉妹の内の一羽がボクに呟いた言葉を思い出す。 「相手が好きという好意ではなく、誰かを好きになる自分自身に酔いしれていくのが私達一族の性よ」と。 腑に落ちる至言はそれまでの世界をがらりと変えてしまう。 彼に対する好意は変わらない。 けれどどこか一歩退いた目で、俯瞰した眼差しで、ボクと彼の行為を観察する自分が生まれてもいた。 ボクの頭上で一心不乱にボクの腹をまさぐる彼の表情は笑みの一つすらなく、真剣を宛がう様に冷ややかだ。 両腕は彼の細長い片手に絡め取られ、視線が被毛の下に隠れた乳頭を突き刺していく。 見られているという感覚が悪戯にボクの内部を掻き乱し、下腹部を中心に渦巻いていく。 ──変態。 か細く呟いても彼の態度が軟化することはない。 むしろ彼を硬くさせていくだけだった。 そこまで雄を、欲望を見させてくるのならば無遠慮に本能に従ってボクを貫けば良いのに。 人並みに賢いばかりに彼は変な所で理性的になる。 そうしてボクを労れば労る程彼の好意や行為は蛇蝎を辿り、本人の捻くれた態度の様に形を伴っていく。 身籠るボクを前にしながら彼は自身の尾で雄を慰めている。 酷く滑稽で、端から見ても何をしているのか目を疑う状況下にボク等は佇んでいた。 それにしても彼は本当に器用だ。 手指だけでなくその長い尾でさえ変わらない器用さを披露している。 そういう所は感心の念しか無い。 そして慰めるのは自分だけでなく、尾腹をボクに擦り付けて快楽を共にしている。 そういう彼の優しさが身に沁みる反面で心の何処かで破滅的な願望を抱く自分のざわつきに溜め息が漏れる。 淫声を伴って外へと漏れ出していく。 吐いても、吐いても、どれだけ吐いても。 紳士的な彼と相対する度にボクは望んでしまう。 彼に壊されるボクと壊れた彼の笑みを妄想し、そして果てる── ---- 後書 最後の投稿が5月になってたので結構間が空いてしまいましたが、お久しぶりです。私です。 まだまだ兎を書く情熱は健在の様で書いてる私の方が毎回驚かされます。 Twitterの文字数制限ルールで小咄を書くと独特のリズムがまた更に奇妙さを生み出しており、これ私は読めるけど他の読者方にはどうなんだろうな……とちょっと不安にもなりますが、これ以外の書き方を知らないので兎の熱が枯れるまで今しばらくお付き合い頂けるととても助かります。 本日8/15はエスバンの日でもありますのでこの小咄集2とは別にもう一つ新作をご用意してあります。 是非そちらもお楽しみください。 #pcomment