---- writer is [[双牙連刃]] ---- 窓から差す朝日を目覚ましに一日が始まっていく。 半月前までが嘘みてぇだな。こんな穏やかな目覚めは野生にゃねぇもんな。 ……俺がマスターの手持ちになってもう半月か。 時間の流れって奴はなかなか早足だねぇ。 この俺、ライトの新たな生活は野生に比べれば遥かに快適なもんだ。 雨風を凌げる寝床に食うに困らない食生活。 野生の時の苦労から全部開放されるんだからそりゃ快適に感じるわな。 ただ一点を除いて、だがな。 「ライト、ご飯ご飯♪」 「あ~、分かった分かった。ちょっと待ってろよ」 現在朝食中。 マスターとその手持ちのポケモンが一同に集まり食卓を囲んでいる訳でして、 俺の隣には自分の食べる分の食事を待つ一匹のイーブイが居る。 そう、あの泣き虫のリィが俺が食事を取ってやるのを今か今かと待ちわびている。 何でこうなったか説明するには、半月前、正確には十三日前に遡る事になるな。 リィとのドタバタの後、俺はマスターからリィについての話を聞きながらマスターの家に向かう事になった。 「しかし、このリィが懐く奴が現れるとは思わなかったな」 「あん? どういう意味だ? 別にポケモンが何かに懐くのは珍しいことではないだろう?」 「いや、このリィについてはちょっと事情があってな……」 マスターの言うことにはリィは少々育てるのが難しい奴らしい。 なんせ、生まれてこのかただっれにも懐かないで過ごしてきたって話だ。 「んな馬鹿な……大体リィの奴は小さいからって生まれたてって感じはしない。少なくとも5ないし7才ぐらいだろ」 「正解。リィは7才だ。でも、そうとう厄介な7年を過ごしてきてるらしくてね」 「……? 意味が分からんな。元々のリィの主人はマスターじゃないのか?」 「そうだな……俺が知ってる限りでなら説明するけど聞くか?」 「今更だろ? さっさと話してくれ」 「ライトはきっつい性格だな……まぁ、いいや」 きつい性格で悪かったな! って突っ込み入れたい衝動に駆られたがマスターが説明を始めたので止めといた。 マスターの口から語られる話は俺的にかなり胡散臭いもんだったがな。 信じろって言われても無茶があるぜ。人の手を渡り歩く7年間なんてな。 リィが生まれたのは7年前……言わなくても分かるか。 最初の主人が誰なのかはマスターも知らんとのことだ。 その最初の主人の所でリィは受けちゃいけないもんを受けちまう。 虐待って奴だな。元々は、育てていても一向に懐かないリィに業を煮やした主人が手を上げちまったのが発端。 ぶたれたリィはさらに懐かなくなる。主人のイライラはさらに加速。負の連鎖の出来上がりってな。 それに気づいた周りの奴らがリィを保護したが事すでに遅し。 リィは誰にも懐かなくなるまで心を閉ざしちまう。 それからはリィにとっては地獄だな。 いろんな奴がリィの心を開こうとするが敢無く轟沈。 別の奴にリィを託して、受け取った奴がまた挑戦。 それを繰り返してなんと7年。途中で捨てられなかったのがビックリの年月が経ったとさ。 そんなたらい回しにされている内に辿り着いたのがマスターの友達の一人。 名は別に興味無いから聞き流したが、やっぱりそいつもリィの前に撃沈。 んで、その友達が泣きついたのがマスターだったと……要約するとこんな感じだな。 酷いもんだねぇ。人間の業に振り回された挙句に知らん人間から人間へのたらい回し。 そりゃ誰にも懐く訳がないわな。小さいリィにとってはなお辛かったろうに。 で、マスターの所にリィが来たのはなんと俺と出会う5日前。 他に漏れることなくマスターにもリィは怯えた様子で固まるだけで、人間だけでなくマスターのポケモン達にさえ怖がって近寄らなかった……らしい。 マスターも諦めかけて次の渡す相手を探している内にリィがついに脱走。 で、俺との出会いへ繋がっていくと。そういうあらましになって現在へ至ったらしいな。 「なるほどね……それなら現状を見て驚くのも無理はない。全部本当だとしたらだがな」 「全部本当だよ……リィ、凄く悲しい目をしてたからね……」 俺も全て疑ってる訳じゃない。一つの疑問の答えも見えたしな。 覚えてるだろうか? 俺が会ったばかりのリィにした質問の一つ。 「君にご飯をくれる人は何処かなぁ?」 この質問の後、一度泣き止んだリィはまた泣き出した。 こんな経験してりゃご飯をくれる人なんて恐怖の対象にしかなりゃしねぇ。 質問の答えを思い浮かべて泣き出すのも無理はねぇわな。 だが、新たな疑問も一つ。 そんなリィが何故俺の背中で寝ているかだ。 マスターの話の中のリィは他のポケモンでさえ恐れている。 が、俺は現に会話も僅かながらしているし、こうやっておぶってやることもできている。 つーかリィが引き止めなければ俺は今マスターと会話していない。手持ちになる気は無かったしな。 此処が俺がマスターの話を全て信じられてない要因だ。 「……? 腑に落ちないって顔してるな」 「なぁ、マスターは現状をどう見る? 自分の言った話全てを信じた上でだ」 「全っ然分かんないな! リィはライトの何処を気に入ったんだか」 「そうなるか……」 コイツはリィ本人に聞く以外答えは見つかりそうになさそうだな。 まったく……厄介なもんに好かれたもんだぜ。 そんな話をしてれば歩くのなんてあっという間。 マスターが自分の家を指差し俺に教えてきた。 中々……いや、かなりデカい。 例えるなら一般住宅二個分庭付きの家だな。 玄関を抜けてリビングへと歩を進める。 ふむ、散らかっている事も無いし、なかなか綺麗だな。 で、リビングに居るわけなんだが……。 此処も広いな。テレビにテーブルにソファー、至れり尽くせりだねぇ。 キッチンもしっかり整理されてるな……良いとこに住んでるもんだよ。 チラッとポケモンにも部屋が一つ割り当てられているって言ってるし、こいつはかなり美味しい話っぽいな。 だが、今日あれこれ決めるのは無理だろう。 なんせマスターのポケモンのほとんどが行動不能だからな。話ができるとは思えん。 まったく……誰のせいだ? ……俺のせいだな、うん。 とりあえずこれからのあれこれはポケモンを休めた後で、という話を家のリビングで聞いてその日の俺の記憶は終わっている。 その後すぐに眠ってしまい気がついたら次の日の昼だったてのが理由なんだがな。 で、目覚めた俺の視界を占領していた者が一人……もとい一匹居た。 リィのクリッとした目が、不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。 近い! かぁなぁりぃ近い! これあれだ、ちょっと寝返りとかしてたらぶつかってたぞ。 「どぉぉぉぉ! リィ!? どうした!?」 飛び起きたのは言うまでもないな。 起きた俺の奇声を聞きつけ一人と数匹がリビングに入ってきた。 「あ、ライト起きたんだ。ビックリしたよ。戻ってきたらいきなりソファーで寝てるし」 「ゆすっても叩いても起きんとはな」 最初に喋ったのはマスター、それに続いて喋り出したのが傍に居た……たしかバクフーンとか言うポケモンだったな。 さりげなく叩いたってワードが聞こえたが此処ではスルーしておこうか。 「あ、紹介してなかったな。これが俺の仲間……って見るのは初めてじゃないか」 「あぁ、もう一戦交えているしな」 「とりあえず、居る分だけ名前教えとくな」 そう言うとマスターは各ポケモンの名前を教えてきた。 バクフーンの『レオ』 パチリスの『プラス』 グレイシアの『フロスト』 「後もう三匹居るんだが……今は用事を頼んでて居ないからまた後でな」 「ふぅん……ま、こちらも名乗るのが礼儀だな。ライトだ。これからよろしくな」 名乗ったはいいが若干二名からは好戦的なオーラが出てんだが……。 「お前……」 「ん?」 「僕が絶対倒してやるからなぁぁぁぁぁぁーーーーーー! うわぁぁぁぁぁぁん!」 ……泣きながらパチリスのプラス退場。なんなの一体? 「俺とてお前に不覚を取っているのは忘れてはいない……次は倒す」 そう言い残してレオも退場。いやぁ、恨み買いまくりだな。愉快愉快。 で、残ったグレイシア、フロストがそれを見てクスクス笑ってやがる。 「フフフッ、面白い人が来たみたいね。これからは面白い物が見れそうだわ」 ……なんだこの野郎? 訂正、『野郎』じゃなさそうだな。 とりあえず交戦意思は無いと見える。まだリビングに居るしな。 じゃ、マスターに俺的に大事な話を始めさせてもらうか。 「マスター」 「ん? どうした? ああ、あいつらのことは気にしなくても……」 「飯くれ」 言うのと同時に目の前のテーブルにダウン。 六日間な~んにも食ってないから動く気がせん。 結局オレンの実も食わずじまいになっちまったし……。 「あ、そっか、ライト昨日から何も食べてないもんな」 「昨日じゃない、六日前からだ」 「……あっと、とりあえず何か作るよ」 「頼む」 本当にもう無理。死んじまうって、六日も何も食わないと。 てかそこのグレイシア笑いすぎだ。人の不幸がそんなに可笑しいか。 リィはリィで俺から離れないし……もうなんかしんどい。 「簡単な物しか作れなかったけど、とりあえずこれで我慢してくれな」 そう言ってマスターが持ってきた物は大皿に乗った野菜炒めだった。 全然オッケーです。むしろ木の実とかより数段食い応えがありそうだから最高です。 「うぉぉ! いいのか? ポケモン用の飯とかじゃなくて?」 「生憎切らしてるんだよ。そっちが良いならもう少し待ってもらう事になるけど」 「いや、こっちでいい! つーかこっちがいい!」 「そっか。実は俺があんまり好きじゃないからポケモンフーズって買ってなかったんだよね」 「ほう? つまりこの家では人もポケモンも同じ物食ってるって事か」 「そうだね。別に分ける必要もないしね」 「同感だな。食ってうまい物は誰が食っても大概うまいしな」 「じゃ、冷めないうちに食ってくれよ」 「おう! まかせろ!」 いやぁ、うまい! 今なら何食ってもうまいだろうがとにかくうまい! 空腹は最高の調味料とかってどっかで聞いたが本当だな。 ……ん? なんかリィも食べたそうにしてる気がする。 「どしたリィ? 一緒に食べるか?」 返事は……分かりやすいな。必死に首を縦に振ってるわ。 「おし、ちょっとまっててな。……これなら食べれるだろ?」 マスターが小鉢をついでに置いていったからそいつに少し分けてリィの前に置いてやる。 お! 嬉しそうに食うねぇ。分けてやったこっちとしても嬉しいもんだな。 「へぇ、驚いた。その子が他人と一緒に食事するなんて……」 「ん? そうなのか? って何お前まで食ってんだよ!」 「いいじゃない。私も見てたらお腹空いちゃったのよ」 「だー、もう、食って良いからその話少し聞かせてくれ」 「この子のこと? 私も詳しくは知らないわよ? でも、この家での様子ぐらいなら話せるわね」 「それでいい。聞かせてくれ」 フロストの聞かせてくれた話でリィの事は大体掴めたな。 この家に来たリィは怯えた様子で誰にも近寄らなかったんだと。 マスターなんかが話し掛けようとしてみたらしいが、逃げるか泣きそうになって断念。 飯は、置いておいたのを誰も居ないのを確認して一人で食べてたのをフロストが見かけたそうだ。 「だからこうして、この子がテーブルに着いて食事してるのは始めて見たわ」 「ほ~う、なるほど……ところで、気になったんだが」 「何かしら?」 「食い過ぎだろ! 半分以上食ってるし!」 「美味しかったからつい、ね?」 「ね? じゃねえよ。まぁ、美味いのは確かだが……」 正直食い足りない。 しゃあないな。マスターにもうちょい作ってもらうか。 「お~いマスター。おかわりって頼めるか~」 「なんだもう食べ終わったのか? お! リィも食べてるし!」 「実はこうなるの狙ってたろ? 小鉢なんかわざわざ置いていってたしな」 「バレたか。リィ、ライトにくっついたままで何にも食べてくれなかったから、もしかしたらと思ってね」 「読み道理、てか?」 「なんかライト、ノリ変わった?」 「腹減ってたからイライラしてたし、元はこんなもんだぜ?」 「そうか。とりあえず馴染めそうだな。フロストとも普通に喋れてるし」 「馴染めなさそうなのが二人ほどさっき居たけどな」 「ま、まぁ、それはおいおい慣れてくれ」 「そういや後三匹居るって言ってたな。そいつらはどうなのよ」 「それなら大丈夫よ。私が保証してあげる」 「それなら大丈夫よ。私が保障してあげる」 「本当かねぇ、会ったなりケンカ売られるのは勘弁だぜ?」 「だから保障するって言ったでしょ。そういう性格はさっきの二人だけよ」 俺としては会ってみないと分からないから保障されてもさっぱりなんだがな。 ……こんな他愛のない会話が楽しいとはな。 前の主人の時も、野生の時も、ほとんど独りだったせいかねぇ。 此処が俺の新しい居場所、か。 悪くないな。こういうのも。 「そうだライト。一つ聞きたいことがあるんだけど」 「おう? なんだ? 急に」 「リィって今現在、ライトにしか懐いてないんだよ」 「あぁ、フロストにも聞いたが、どうやらそうらしいな」 「それで、リィの世話をしてくれって言ったらどう思う?」 「……やらんでもない。ってところだな。今までのリィの話は聞いちまった訳だし」 「……ダメ?」 「そんなことじゃいつまで経っても俺に指示できないぜ? ま、リィについては引き受けてやるよ」 「助かる! リィもこれで他の所に行かなくても済みそうだな」 「ライトって言ったわよね。本当に大丈夫なの? 安請け合いはしない方がいいと思うわよ?」 「なんなら代わってくれるかい? フロストさんよ?」 「はぁ……あなたにしか無理ってあなた自身が良く分かってるようね」 「そういうこった」 何の因果か、リィに好かれちまった以上乗りかかった船だ。 とことん付き合ってやろうじゃないの。 「リィ、俺の名前はライトだ。これからは俺が一緒に居てやる。だから皆とも仲良くなっていこうな」 「ライト……ライト!」 こんなやりとりがあって俺はリィの世話係になった。 それから半月経ったのが今なんだが……半月の間に何があったかは別の機会だな。 リィがまた呼んでるし、行ってくるわ。 最後に一言言うとだ、俺の新しい居場所での生活は悪くないって事だ! ---- 後書きです。 これだけは未発表だった新作です。 リィの過去がメインのお話ですね。主人公はあくまでライトなのですが……。 とりあえず作品のアップは一段落です。 ---- 感想等、随時募集中です。お次は[[こちら!>光、捜索]] #pcomment