writer is [[双牙連刃]] 久々の光更新&初の前後編があるお話です。 要するに長くなりそうです。書き切れるだろうか……。 とにかく、前編スタートです。 ---- いやはや、天気が良くて暖かくて絶好の散歩日和なんだが……。 暇だ、暇だ暇だ、ひぃぃぃまぁぁぁぁだぁぁぁぁぁ! 何っにもする事がねぇ! マスターが居れば散歩に洒落込むんだが、そのマスターは学校! とは言っても、明日から夏休みとやらで、今日は半日らしいがな。 問題はその半日だよ。退屈でしょうがねぇ。留守番をサボる訳にはいかんし! はぁ~、こんなに天気良いのによぉ、何で家の中で腐ってないといけないんだ!? 「退屈だね~ライト」 「全くだ。ってか降りろよリィ。あっちぃ」 現状はソファーに寝転んでダラダラしてるんだが、背中には進化して体がでかくなったリィが乗ってる訳ですよ。 こう、なぁ? イーブイの頃は良かったんだよ。背中に乗っても、首の毛の辺りをもそもそしてるか、腰の辺りにくっ付いて寝てるとかだったからよ。 今は違う! 体のサイズがほぼ同じになった所為で、乗られると上から下まで届く訳よ。おまけにだらけてるから密着箇所が増える。ようは、覆い被さっちまうんだな、これが。 どっちも毛がある訳で、おまけに陽気が良いと来たら、とにかく触れ合ってるところが熱い! 体温が逃げないんだな! 「やーだよー。ここは僕の場所だもんねー」 「……俺の背中は俺のもんだ」 「しっしょおおおおぉぉぉぉ! 暇なら稽古つけてほしいっすよぉ!」 暑苦しいの其の二も居るからたまったもんじゃない。何でマスターもよりにもよってソウを置いて行くかなぁ。 今日は授業も実習も無いから四匹居れば十分だ、てことでソウが俺たちと共に家に残されたのよ。後一匹は何だって? 今はキッチンで昼飯の仕込みしてますよ。レンじゃないぜ。 ふむ、稽古か……どーせ暇してるんだ。たまにはかまってやるかいな。 「そうだな。よし、暇潰しに付き合ってやる」 「うほぉっ!? マジっすか!? ぃやったーい!」 「あっ、それなら僕の訓練にも付き合ってよ。早く慣れたいからさ」 「オーケーオーケー。そんなら、庭に出るとしますか」 「了解っす! とぉーう!」 誰も飛び出せとは言ってないんだがな。まぁいいか。 「よしっ! ライト、ゴー!」 「お前は降りんのかい!」 ……そのままリィを背負ったまま庭に出る事になっちまったよ。どんだけ面倒なんだか。 それとも降りたくないだけか? どっちでもいいけどな。 ---- まずは何をするかな? いきなり実戦形式で、っていうのも芸が無いしなぁ……。 「よし、まずはリィの訓練に付き合ってやるか。ソウもこっち来いよ」 「ウィッス!」 「いいの? それなら遠慮無くやってみようかな。じゃあ、二人とも行くよ!」 訓練て言うのはだなぁ、無事エーフィになってエスパーの力を使えるようになったリィだが、使えるようになっただけじゃあ駄目だろ? ようは力をコントロール出来るようにしないといけないし、その力を高めなくてはならない。 それで訓練な訳。言い出したのはリィ本人。それに俺達が付き合ってやってる感じだな。 やる事はとても簡単。俺達を念力で持ち上げて、それを軽く飛ばすだけ。俺はエスパーじゃないから分からんが、リィ的にはこれが良いらしい。 持ち上げる力を鍛えれば自ずと能力のアップになるし、飛ばすのが上手くなればコントロールも磨けるだろうからって事らしい。よく自分で考えたもんだよなぁ。七歳児が。 「お、おー。おれっち浮いてるっす」 「へぇ、なかなか浮かせるようになってきてるじゃねぇか」 「集中してるんだから話しかけないでよ……」 念力による空中浮遊である。俺が電磁浮遊とか使えたらこんな感じなのかね? 最初は僅かに俺だけを浮かせるのが精一杯だったのに、今はかなり高く浮かせるようになったんだぜ。そうさな、地面から一メートル位かな。 リィの額の赤いクリスタルが淡く光ってる。エスパー能力使うと光るらしいな。見てたから気が付いたんだが。 そろそろ限界かいな? 顔が曇ってきたな。ま、無理する事は無いが、リィも自分の限界は分かるだろ。集中してるし、今は見守ろう。 「くっ、限界ギリギリ……」 「よっと。へぇ、上達してるじゃねぇか。二匹を十秒か」 「うるぉ! あだぁ!」 「う~ん……もっといけそうなんだけどなぁ。まだまだ練習しなきゃ」 熱心だねぇ。向上心もあるし、リィは伸びるな。……俺の背にしがみついて泣いてたのが懐かしくなっちまったなぁ……まだそんなに経ってないはずなのによぉ。 それに引きかえソウは……着地ぐらいしっかりしてくれよ。一応俺の弟子を名乗ってるんだからよ。 「ふむ、そんじゃ次は……リィはちょっと休んでな。ソウ来い。組み手だ」 「よーし! 今日こそは師匠に触れるっすよー!」 「出来るかな? 俺だって手加減はするが、そうそう甘くは無いぜ?」 強くなるには戦うのが一番、かな? ま、実戦ではないし、俺もちょいちょいアドバイスしながらだしな。勉強に近いかもな。 因みにノルマ的な物を設定しとるわけですよ。ソウのノルマ……目標だな。それは『俺に十回攻撃される前に一度でも俺に触れること』 一見すると厳し過ぎる目標だろ。俺が怒涛で攻撃すればあっという間に終わっちまうし、もちろん俺は回避をする。う~む、本当に厳しいな、これ。 だが、手加減はかな~りするぜ。通常戦闘の十分の一位の動きしかしないし、体術だって普通の突きと蹴りしか使わん。それも避けやすくなるべく大振りで。 もちろん電磁波も使わない。これだけの手加減をすれば大分対等だと思うがな。数ヶ月見てやってるが、一向に触れられてはいない。着実に強くはなってる……とは思うがな。 「ちょい待って。僕にやらせて」 「ん? リィ? お前は疲れただろ。ちょっと休んだら稽古はしてやるって」 「そうっすよ。それに、おれっちやりたくてウズウズしてんすから」 「そこを何とか! 集中力が上がってるうちにやりたいんだよ。ソウ兄ぃ、お願い!」 な~るほどね。訓練直後で集中力が増してるからか。特殊系の技の要だからな、集中力は。 PPとしては念力一回使っただけだし、問題は無いだろ。 「う~ん……、しょうがないっすねぇ。弟弟子の頼みならば聞かない訳にはいかないっすね」 「やった! ソウ兄ぃありがとう! と、言う訳で最初は僕ね」 「はいはい。無理すんなよ?」 「分かってるよ。今日こそ目標達成するもんね!」 ソウ……弟って……、まぁ本人が気にしてないからいいが、他の雌なら怒り出すだろうな。 にしてもターゲットがソウからリィに替わっちまったよ。どっちもやる事は大して変わらんけどな。 因みにリィの目標は『俺に攻撃を当てる事』ようはソウの目標の制限無しバージョンだ。 俺はリィに攻撃しないし、リィが疲れるor攻撃方法が無くなるまで続く稽古だ。(実はソウの相手するより疲れるから最初にソウの相手をしたかったんだがな) 「よし、じゃあ行くよ!」 「うむ、来い!」 「リィっちー! ガンバー! 今日こそごほうびゲットっすー!」 順番を譲った上に応援。ソウの優しさはかなり評価してるぜ。だから俺も、面倒ながらも強くなろうとするのに協力してんのさね。 ごほうび、か。これはやる気を起こさせるために俺が言い出したんだが、若干後悔してんだよなぁ……。 理由は褒美の内容だよ。何だって俺は『俺が叶えてやれる範囲の願い事を叶えてやる』なんて言っちまったんだか。 やる気は確かに起きたよ。ソウもリィもな。だが……起き過ぎた。特にリィ! メキメキ上達するもんだから実はかなりやばいのよ。 進化して二週間ほど相手をしてやってるんだが、エーフィなもんだからとにかくこっちの動きを読むのが上手くなっていきやがる。それに加えて元々の賢さ。それがネックになって、こっちが教えたことをスポンジが水吸うみたいに覚えると来たもんだ。 実際リィが同年代のポケモンとやりあったら、恐らく触れさせもせずに勝てるんではなかろうか。恐るべき七才め……。 考えてる場合じゃねぇや。リィの念力がこっちに飛んで来とるよ。念力だから目で見える訳じゃないが、空気の揺らぎとか、気配なんかで分かる。 ちくしょー足元狙って飛ばしてきやがって、避けずらいったらありゃしない。……俺が教えたんですよそうですよ! とりあえずバックステップ。飛び上がったら思う壺よ。狙い撃ちされるからな。 さて次は何だ? ……あら? リィがいねぇ。えっと、こういう時はなんて教えたかな。 「敵の真正面に居続けるのは狙ってくださいって言ってる様なものだ。だよ」 「……どうも」 横から念力の三連射と共にリィの声。そんなことも教えたような気がする。ってか心読まれてるよ。マジですか。 とりあえず念力を前脚の拳打で相殺。リィ自体に攻撃はしないが、相殺はOKなのよ。じゃないと……。 「飛んでけ流れ星!」 「ちぃっ!」 リィの十八番、スピードスター。こいつは回避不可能な技だから相殺出来ないとそこで終了になっちまうからな。自動追尾って嫌だねー。 飛んできた無数の星型の弾を弾く。体術が使える俺ながらの芸当だぜこれは。普通のポケモンならまず相殺出来ん。それくらい乱射してくんだよ。 正直に言ってこれがしんどい! 弾幕だな正しく。食らえばあっという間に体力を削られるし、避けられない。けったいな技だぜ。使い方も上手いしな。 「もらった!」 「くっ、そう簡単じゃないぜ!」 そう、弾幕は囮。その間に俺の後ろに回り込むのが目当て。 ゼロ距離で念力のチャージをしないで欲しいもんだぜ。避けるこっちは必死だっての。 放たれる直前、俺は後ろ足に力を一気に溜め、上半身を起こして飛び上がる! 秘技! バック宙発動でぃ! 綺麗に空中に弧を描いてリィの背面に着地。本来のバトルならがら空きの背中にドギツイ一撃を食らわせるんだが、これは稽古なのでそれはしな~い。 「惜しかったな。俺じゃなけりゃ今のは決まってたぜ」 「ライトに効かなきゃ意味無いじゃん。今の相手はライトなんだから」 「そりゃそうだ」 及第点ってとこだな。俺じゃなけりゃ今ので確実に勝敗が決まるだろう。耐えたとしても、首筋にダイレクトに衝撃を食らうんだ。フラフラで動けないだろうさ。 及第点なのは俺がバック宙を決めてる時に攻撃をしなかったから。あのタイミングでスピードスターを撃ち込まれてたら相殺は無理だったから。惜しかったねぇ。 悔しがるか。悔いるようなコンボじゃないぞリィ。一般のバトルならスピードスターの所で本当は終わってるんだから。 もう俺がしんどい。普段は俺が速攻かましてはい終わりってパターンだから避けまくるってのは性に合わないんだよ。だから気苦労の方が多くて……。顔には出さんけど。 「はぁ……流れ星の連射で疲れちゃった。僕リタイア」 「そうか。大分強くなってきてるなリィ。そろそろ他の奴と本格的にバトルしても大丈夫そうだな」 「その前にライトの目標はクリアするよ。絶対ね!」 ふぃ~、よ、よかった……。このまま続けてたら不味かったな。最初に訓練しといてマジで良かったぜ……。 「うぉー! 思わず見入ってたっす! リィっち凄いじゃないっすか! あそこまで師匠を追い詰めるとは!」 「う~ん、追い詰めても詰めが出来なかったからなぁ……。ソウ兄ぃにタッチ。あ、ライト。ソウ兄ぃと終わって休んだらまたやってね」 「よ~し次はソウか……って何ぃ!? まだやる気かよリィ!?」 「うん。試したい事もあるし、時間あるから良いでしょ?」 「わ、分かった……じゃ、今はゆっくり休めよ」 「ほ~い。ソウ兄ぃ! 僕の敵討ち、任せたよ!」 「よっしゃー! おれっち、やっちゃうっすよー!」 マジですか? あれをまたやれと。辛い。師匠って……とっても辛い。 おまけにしっかりソウのやる気も焚きつけて行くんすかリィさん。敵って……。 ---- 「師匠! こっちは準備オッケーっす!」 「ほいほい。そっちのタイミングで初めていいぜ」 「では、速攻!」 やれやれ、いつも言ってるんだがな~これ。直情一直線。思い立ったらひたすら真っ直ぐ。それじゃあ俺は捕らえられないって。 攻撃も単調。左右の爪でまずは相手の防御を下げられるブレイククロー。ま、振り回してるだけだからこれは掠らせるぐらいの距離で対処。 で、左右のラッシュの合間に一発。 「ほいっ」 「あうっ! む~やられたっす」 腹に軽~く掌打。打って言っても触る程度だがな。 当てられた所を擦りながら構え直す。立ち上がりはいっつもこうなんだよなー。学習してくれよ。 「いつも言ってるだろ? 真っ直ぐ来たって俺には当たらんて。リィとの稽古も見てたろうに」 「う~、これやんないといまいちテンション上がってこないんすもん。言わば、俺式の『剣の舞』っす!」 「お前、普通に剣の舞使えたよな……?」 「モチっす!」 ……いや、何も言わないでおこう。本人のモチベーションの問題らしいし。 らしいと言えばらしいしな。俺も熱血タイプだし、暴れてテンションアップってのも俺は嫌いじゃない。やり方は考えた方が良いかもしれんが……。 「うぉっし! ガンガン行くっすよー!」 「まぁいいや。来い!」 さてさて、次はどんな手で来るかな? ん? 来な、い? こいつは驚いた。今までは攻めて攻めての一辺倒しかしてくる事は無かったんだが、ソウが動かない。待ちの作戦か? 意外な、そして猪口才な。 よーし、それならその策、見事に掛かった上で突破してやろう。 「なんだなんだ? 来ないならこっちから行くぜ!」 おお、喋っても動かない。俺が向かってるのにも関わらず一切瞬きすらしない。こんなに集中してるソウは始めてみるな。……集中? ソウの覚えてる技は俺が覚えてるだけで言えば、 剣の舞にブレイククロー、後は、連続切りだったはず。四つめは何か知らん。今までこの三つしか使ってきたことが無いから。するってぇと、今スタンバってんのはこの四つめか? 何か分からんから警戒すべきだろうが、今まで使わなかった取って置きまで出そうとしてんだ。ここで止まったら漢が廃るな。 「これで、二発目!」 「くっ、肉を切らせて骨を絶つ……骨を絶たせて意識を刈り取る! うぉりゃああああ!」 腹に当てた掌打を抑えられた!? やばっ、ガード……しようにも前脚が! ちょっと待て! その右腕を振り下ろすな! 「ぬぅっ! しょうがねぇ!」 「はれっ?! うわわわ!」 掴まれた前脚を軸にして……後ろ足で地面を横に蹴る! 自分ごとソウをそのまま回転させる! いってぇから真似すんな! 「のぎゃ! くぅぅ……渾身のカウンターだったのにぃ! そんな外し方有りっすか!」 「いやーやばかったー。今のはなかなか良かったぜ。でも、これで三つな」 「う~……」 ソウ……お前のチャンスはまだまだ続いてるぜ。今ので右肩の辺り傷めた。ズキズキしてしばらく使いもんになりそうに無い。まさかカウンターなんて使えたとはな……やられたぜ。 後七発か……ちこっと辛い……かな。 「む~! 仕切り直しっす! 行くっすよ!」 「ああいいぜ! 来な!」 痛いが、素直に成長が嬉しいぞ俺は。試行錯誤して、捨て身まで使って挑んでくるとは、全く大した度胸と戦略だ。見直したぜ。 だが! 負傷したぐらいで簡単には触れさせんよ! 「はぁぁ!」 「甘い! 四つ、五つ、六つ!」 「うにゃにゃ! ……くぅ~、師匠、連撃は酷いっす~」 「ソウ、お前、自分で考えてるより強くなってるぜ。だから俺もより本気になる。当然だろ?」 「……そ、それなら仕方ないっすね! よ~し、ガンガンお願いするっす!」 ブレイククローで飛び込んで来たところに左掌打と蹴りのコンボ。これで後四発! 速めに終わらせないと疲弊しちまうぜ。痛みで。 文句言われるのはしょうがない。今まで連撃は使わなかったからな。だが、こんだけ強くなってるなら問題は無い。自分で急所は外してるみたいだしな。 いやぁ、何? 急成長? それとも、リィが稽古を始めたのが良い刺激になったか? 俺もうかうかしてられんな。追い抜かれちまいそうだ。 「ふぅ……さぁ、来て下さいよ師匠。おれっち、今日で目標達成っす!」 「お、言うねぇ。じゃあ、また行かせて貰うかな!」 また待ちのスタンスか。ソウのこれはヤバイって分かったからな。警戒すべきはカウンター、これは分かってるんだ。 うぎょおー! 一歩踏みしめるたびに肩が、肩がああああああ! 表情には出すなライト、ソウに気取られたら折角の組み手が台無しになるんだからな! 「これで七……つ?!」 「今だ! おれっち的必殺! 『見切り』!」 よ、避けられたでー! いかんいかん、あまりの事で喋り方がおかしくなっちまった。 これはヤバイ! 肩を庇って蹴りにしたのがなお不味い! 俺の体的に、蹴りを出すには小ジャンプをしなければならない。つまーり! 俺は今、空きだらけ! 「チェストー!」 「くっ! ぐぁ!」 イ゛エ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛! 横っ腹にソウのブレイククローが決まった……決まっちまったよ……。 痛くは無い。深く当たるのは逸らしたから痛くは無い。 問題は、一撃を決められた事。わーいソウ君目標クリアー♪ ご褒美ゲットでーす。……ウワアアアアアアアアァアァァァアアァァァ! 「……」 「ぬ、う~、やられた、な」 「おれっち……本当に師匠に攻撃、当てたんすか?」 「ああ、見事に決まったよ。お前の勝ち」 「……イィィィィィィィヤァァァァァッタァァァァァァァイ!!!!! マジっすよね! 夢オチとかじゃないっすよね!」 「はぁ~、夢なら俺が喜んでるっつうに。おめでとさん」 あはははは~喜んでる喜んでる。その辺を転がり回るほど嬉しいのか。そうかそうか。 俺は内心穏やかじゃねぇ! どんな事願って来るんだ!? お、恐ろしい! ああ恐ろしい! そしてぇ! 次はリィが待っている! 今の俺の状態はちっと休んだぐらいじゃ恐らく治らん! つまり! この状態でリィの相手をすることになる! 不味いぞ~、凄く不味いぞ~。 「うっしゃあ! 師匠へのお願い考えなきゃな~♪ 師匠! いいんすよね!」 「……そういう約束だからな。ただし、一回きりだぞ」 「了解っす! いや~、これで兄弟子としての面子も守れたし、一石二鳥っすね!」 リィが修行を始めた頃の俺をぶっ飛ばしたい。今すぐぶっ飛ばしたい。 本日、俺はランプの魔人権を二弟子に与える事になるかもしれません。肩さえ治ってくれれば……くぅ~! ---- 「わ~、ソウ兄ぃやったじゃん! あ~ぁ、先越されちゃったな」 「ソウ君凄いです! ライトさんもお疲れ様です」 「げっ! リーフ!? ……見てたのか?」 「はい! ソウ君とっても強くなっててビックリしたです!」 「いやぁ……にひひひ」 OH MY GOD! 飯の支度をしていたリーフがいつの間にかリィの隣に居る……。こいつ等ならともかく、やられた所を見られるとは……恥ずかしいじゃねぇか! 「二人とも疲れてるですよね? 飲み物持ってくるからちょっと待っててです」 「すまねぇ……頼む」 「あ、そうだ! ライトさんに頼みたい事あるから一緒に来て欲しいです! 良いですか?」 「ん? 頼み? まぁいいが……ここじゃ駄目なのか?」 「飲み物準備しながらで大丈夫です。行こうです!」 「あ、あぁ……じゃあ、二人は休むなり何なりしててくれ。ちょっと行ってくるわ」 「ほいほ~い」 「了解っす」 で、キッチンへ向かうんだが、頼み事ねぇ? 出来れば何か運ぶとかはご遠慮願いたいんだがな。 冷蔵庫の前でリーフが止まった。何も話し掛けてこないぞ? あれ? 頼み事は? と思ってたらリーフのツルの鞭が一本伸びてきて俺の肩を撫でた。そこはね!? 今痛めてるんですよおおおおおおお! 「うぐっ!」 「……やっぱり、痛めてたんですね。今傷薬塗るからちょっと待っててです」 なんと!? 見抜かれた!? こいつは一体……。 リーフの鞭が向きを変え、傷薬の入ってる棚を漁りだしたよ。器用だよなぁ。 あ、出てきた。良い傷薬じゃねぇか。助かるが……勝手に使って良いのか? マスターは何かあったら使えとは言ってたが……。 そのままこっちにノズルが向けられて、肩に液体が掛かって濡れるのが分かる。乾く頃にはまともに動いてくれると良いんだがな。 「ソウ君が無茶した所為ですよね。ゴメンなさいです……」 「いや、訓練でやってるからな。あいつも頑張った結果だし、ってかリーフが謝ることじゃねぇよ。……それにしても、何で分かったんだい?」 「えっと、私も途中から見てたんですけど、何だかライトさん動きにくそうだったし、極めつけは最後のキックです」 「と、言うと?」 「明らかにソウ君が何か狙ってるのに、飛び上がらなきゃいけないキックを出すのはライトさんらしくないと思ったです。それで、もしかしてって」 こいつはたまげた。すげぇ観察眼だぜこれは。俺様も真っ青なくらいだ。 読みも適格だし、へぇ~……おっとりした感じだと思ってたが、意外な一面を垣間見たな。これは凄い。マジで。 「これからまたリィちゃんと訓練するんですよね。無理しないでくださいです。ライトさんが無理すると、ソウ君も気付いちゃうかもしれないですし……」 「ふむ、確かにな。……さっきもそうだが、やけにソウの心配してるんだな?」 「あ、えっと……ソ、ソウ君無茶しやすいし、一度何か心配しだすと落ち込んじゃうから気になってるだけです!」 ほぉ~う? それを普通に言ってくれれば俺もそれで納得したが、リーフさん、お顔が赤ーくなってますぜ? 隠し事が出来ないねぇ。 なるほどなるほど。そういう事ですか。 「はっはっはっはっは。あいつも幸せもんだ」 「えっ? な、何のことです?」 「いや、気にすんな。さて、あんまり待たせても悪いし、飲み物持って行きますかいな」 「あぅ……からかわないでほしいです……」 いや~、面白いもんだねぇ。あまり弄ると可哀想だからこの辺にしとくがな。 肩の方も何とかなりそうだ。鈍くは痛むが、時期に治まりそうだぜ。 「お~い、またしたな。休憩しようぜ」 「飲み物お待たせです~」 「あ、やっと来たよ。何してたの?」 「冷蔵庫の扉が開き難くなってたのを開けてたんだよ。思ったよりてこずったぜ」 「なんだぁ。それならおれっちが行ってもよかったっすね」 「俺だから良かったんだよ。なぁリーフ?」 「え、え~っと! そ、そうです!」 「? 分からんすけど……ま、いっか」 ソウも感は悪そうだ。リーフも苦労するだろうなぁ……。 ---- 休憩も済んで、肩の調子も概ね良好。完治した訳ではないが、動かすのには問題無し。 何せ、これだけはやられてやれないからな。ソウにやられただけでも大きな痛手なんだ。リィの願いまで聞くことになったら……考えただけで震えが来るぜ! 「準備良いのライト? さっきはリタイアしちゃったけど、今度は決めさせて貰うからね」 「ふふん、自信まんまんじゃねぇか。よほどの作戦があるのかね?」 「それは見てからのお楽しみ! 絶対ビックリする結果になるよ!」 「そいつは楽しみだ」 「リィっちー! ファイトっすー!」 「どっちも怪我だけはしないでですー!」 それじゃあ……勝負と行きますか! 「それぇ!」 「なっ、砂!?」 いきなり予想外デス。砂掛けなんて覚えてたのかよ! 目には入らなかったが、視界が遮られた! 何処だ、右か左! 「いっくぞー! たぁぁぁぁ!」 「いっ! 正面!?」 まさかの速攻ですか! 速い、電光石火か! ソウの真似かね? でもそれじゃあ避けてくれって言ってる様なものだぜ? 右へのサイドステップで回避! 意外性は十分だが、リィのステータスを考えれば牽制策だな。 「掛かったね! 食らえぇ!」 こ、これは!? 前脚を軸にしての回転! うぉい、マジかよ! 間一髪、俺が地面を踏むのが速かった。脚が地面に着いたと同時にその場ジャンプ! じゃないとこの攻撃は避けられない。俺が、一番良く知ってる。 「狙い通り! そのままでこれが弾き切れる?」 「ぬぇい! ライト様を舐めんなよ!」 空中の俺にスピードスターが容赦無く襲い掛かってくる。さっきの比じゃねぇ。が、受けない! 全弾打ち落としてやらぁ! 「オラララララララァ!」 「これじゃ決められないか……ていっ!」 「こなくそ!」 最後に念力一発。これは俺から離れるためだな。……スピードスターの前、俺がジャンプしなければいけなくなった理由。あれは……。 「どう、驚いたでしょう? ずっと練習しててやっと納得出来るくらいの仕上がりになったんだ」 「まさかだぜ……俺は教えてないし見せてない筈だ。『足払い』はな」 そう、俺の体術の一つ、足払い。リィが体術を使いやがった。ほんとにまかさだ……。 体術は俺の普通以上の身体能力を持ってして始めて出来たもんなんだが、格闘タイプなら出来なくは無いだろう。だが、それをリィが使うとは思わなかったぜ。 おまけに、速いし鋭い。相当に練習したのは簡単に分かった。二週間やそこらで出るもんでは断じて無い。 つまりはイーブイの頃から練習していた事になる。俺の見てない所でなんてもんを練習してたんだ……。 「見せてないって? 僕には一番思い出に残ってる技だよ。思い出してみなよ。僕と出会った時をさ」 「出会った時? ……あ」 俺、足払い使ってポチエナ倒してるー! そうだよ! それだ! リィの賢さなら分からなくはないな。一度見ただけであれを覚えたってのも。 「思い出した? 苦労したよこれ使えるようになるの。前脚だけで体重支える事なんて無かったからね。で、出来栄えは?」 「……完成してる。寧ろ俺より上手いかもしれん」 「やったね。練習したかいがあったよ」 マジですか。俺の専売特許が……。この心に吹く虚しさは何? 他のも使えるんだろうか? 鉄拳制裁とか、パイルドライバーとか。 「残念ながら前脚での突きとか、相手咥えて投げるとかは無理。それはライトの力が無いと出来ないっぽいね」 「心を読むな心を! 出来なくて当たり前なんだ!」 正直良かった……。体術全部使えるとか、俺もう要らない子になるじゃねぇか。主人公としての立ち位置が危ぶまれるぜ。 だが、足払いが出来るのは事実。PP無しで使えるから、体力が続くかぎり使えるからな。こいつは厄介だ。相手にしてみて初めて分かるぜ。 「ところで、僕の攻撃まだ終わってないんだよね」 「は? こんなに離れてるのにか?」 「師匠! 上! 上!」 「ライトさーん! 危ないですよー!」 上? 上に一体何が……。 石だった。間違う事無くそれは石だ。大きさはその辺に転がってるような石。何処にこんなもんあったんだ。それが、俺の頭上に浮いていた。 「落ちろっ!」 「うぉっ! 危なっ!」 落とすよねー。だから攻撃か。いつの間に仕掛けたんだか……。さっきのラッシュの時以外に無いよな。でも、最後のフォローで念力は使ってたし……。 「考え事してる暇は無いよ!」 「うっ! くそっ!」 リィ速えぇ! 電光石火で懐に入りやがったな! もう足払いのモーションに入ってるし! くっそ避けるのにまた飛ぶしかねぇ! だがな、弾幕なら何とか防げる! 一度見た策は効かんぜよ! 「甘いね! 同じ事すると思った!?」 「なん……軌道が変わった!?」 足払いはそのまま横に薙ぎ払って終わり。だが、これは違った。途中で勢いを止めて、俺目掛けての蹴り上げに変えやがった……。 地面を蹴って、俺への側転蹴りが飛んでくる……。あ、アレンジ。そうかそうか、俺の体術を元に、リィ自身が編み出した技か。 名前を付けるなら……蹴術ってとこか? うん、そんなところだろう。 「ぐほぁ……」 「手応えあり、だね」 また腹ですか……今日は厄日だな……。 例によって打点はずらしました。見た目にはしっかり腹に蹴りを食らってますが、ダメージ的にはかなり減らしてますよ。 あぁ……ダメージなんかどうでも良いんだよ……。終わった……。完全に一撃入れられた……。 とりあえずその場に着地。蹴られたからずれてはいるが、吹き飛ばされる程の威力は無い。手加減をしたのか、はたまたこれが今の限界か。後者であってほしいもんだ。 「ふぅ……どうかな?」 「……参った。完敗だ」 「へへへ……。ソウ兄ぃー! やったよー!」 「うぉぉー! リィっちすげー! 師匠の技で目標クリアっすー!」 「あー……ライトさん、大丈夫です?」 「体はな……」 ヒィィィィィィギイウェアァァァァァァァァァ! やっちまっただー! どうするよ俺、どうするよぉぉぉぉぉ! ソウだけじゃなく、リィの願いまで! あぁぁ……悪夢だ……これは夢だ……。 「じゃ、僕もライトへのお願い考えなきゃな。ソウ兄ぃ、何にするの?」 「う~ん……考え中っす! リィっちは?」 「えへへへ、実はもう何個かには絞ってるんだ。どれにしようかなー♪」 「ライトさん……あんな事言ってるです……」 「……俺は、泣いて良いだろうか」 よし、自暴自棄になろう。そうすれば、願い事を叶えることが出来なくなる。 そんな上手く行く訳無いよー。約束だしねー。ウワァァァァァァァン! リアルでは泣けないから、心で泣いてやるー! ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ---- な~か~が~き~ 「う゛~」 「あのぉ……ライトさん?」 「うー! うー!」 「あぅぅ……ライトさんが、うーしか言わなくなっちゃったですぅ」 悔しかー。あー悔しかー。予想外とはいえ、一日で二回も負けるとは……。 いや、訓練だもんな! 俺は負けた訳じゃない! 断じて違う! 「ライトさんも悔しがるですね。ちょっと新鮮な光景です」 「うーーーーーーーーーー!」 「ひゃああ! ゴメンなさいですー!」 リーフにあたってもしょうがないんだよ。結果は覆ることは無いんだからな。 ソファーでふてくされてても、リーフに謎の攻撃をしててもどうにもなるまい。そろそろ喋ろう。 「だいたい」 「あ、喋ってくれたです」 「あいつ等はいつ体術やら見切りなんて覚えたんだ! 俺は知らなかったぞ!」 「ふふふっ、ライトさんが知らない所でも二人は頑張ってるですよ。今だって、ね」 「そうだよなぁ」 あいつ等は「自主訓練だー!」って言ってまだ庭でバトってますよ。これ以上強くなられると、俺、本当に抜かれそうだな……。 俺とリーフは先にリビングに戻ってきて談笑中。といっても、俺はさっきまであんな感じだったがな。 お願いの事を思う度に鬱になりそうだ……。リィは決まってるっぽいし、どうなんのかなぁ……。 「ところで、ご主人様遅いですね。もうお昼回っちゃったです」 「あ、そうだな。昼までには帰る~みたいな事言ってたっけか」 「お昼ご飯は温めるだけですから良いですけど……お腹空いたですぅ……」 「う~む、先に食っちまって待ってるか? 俺はどっちでも良いんだよな」 「そうしたいですぅ。ソウ君とリィちゃん呼んでくるです!」 輝かんばかりの笑顔に変わって走っていくリーフ。そんなに腹減ってたのか……気付かなかったぜ。 にしても確かに遅いな。実は半日じゃありませんでしたーってオチか? あまり笑えんな。 「ただいま~」 「噂をすれば、か」 弁当持っていってないからそら帰ってくるわな。遅かったが、クラスメイトとバトルでもしてたんだろ。 「あ、ライトただいま。参ったよ、今日からしばらく会わないだろうからってバトルしててさ」 「そんなとこだろうとは思ってたがな。四匹で大丈夫だったのか?」 「問題無し。皆かなり強いからね。助かってるよ」 「後はマスターの腕次第かね」 「厳しいなぁもぉ。ところでご飯は? もう食べちゃった?」 「まだだぜ。今リーフがソウとリィを呼びにいってんだ」 「そっかそっか。いやぁ、お腹減ってたんでちょうど良かったよ」 バッグ置いてくつろぐのは良いんだが……早く出してやらないとフロスト辺りがブーブー言い出すんではなかろうか。被害を受けるのは俺じゃないから言わないが。 ふとマスターのベルトのボールを見ると、案の定かたかたいってるよ。気付いてないのか、わざとなんだか……。 「ライトさ~ん、呼んできたです~。って、ご主人様帰ってたですか。お帰りです~」 「腹減ったっす~。リィっち、もうちょい加減してくれっすよ~。おぉ! ご主人お帰りっす!」 「ソウ兄ぃ、もうちょっと回避にも気を遣わなきゃ。あ、マスターお帰り~」 「う~ん、皆元気だね。良い事だ! 明日から夏休みだし!」 「何でも良いから飯食おうぜ。リーフ、準備があんなら手伝うぜ」 「ありがとうです! ……あれ? レンさんや他の方が居ないですね? 何処です?」 お、リーフ気付いた。マスターもこれで気付いたろ。流石にこれで気付かなかったらどうかしちまってんだろ。 「……あ。出すの忘れてた……ってうわぁ! めっちゃ動いてる!?」 「やれやれだねぇ……リーフ、キッチン行こうぜ。ソウとリィも来るか?」 「え? 急にどうしたです? ライトさん」 「へ? 僕たちも?」 「っすか?」 「とばっちりは受けたくねぇだろ」 「「「あ~~~……」」」 その後、キッチンに居た俺たちに怒声と共に何かが凍った音が聞こえてきたのは言うまでもないだろう。 ---- 「ったくハヤトの奴……私達を忘れるとはいい度胸じゃないっ」 「まだ怒ってんのかよ? 根に持つねぇ」 「当たり前でしょう! あんなにバトルさせといて忘れるなんて! 10人よ10人!」 「そ、そんなにやってたのかよ……」 はぁ~、何故に俺がフロストの愚痴を聞いてやらにゃならんのだ。愚痴言いたくなるのは分からんでもないがな。 まぁ飯を済ませた後、俺がソファーでぼ~っとしてたのが悪いんだがな。まさかフロストまで残るとは思わなかったぜ。 マスターはリィとかの訓練が見たいって言って庭に行っちまうし、他の奴もそれにくっついて行っちまったし、愚痴くらい聞いてやるか。 「アンタ達留守番組は気楽だったでしょうね。特に何も無かったんでしょ?」 「…………」 思い出したくない事を……うぅぅ、さっきの苦々しさが蘇ってくる……。 「あら? 何その沈黙は? 何かあったの?」 「何でもねぇよ……気にすんな……」 「そんな事言われると気になるじゃないのよ~、教えなさいよ~」 「ぬぇい! 擦り寄ってくんな!」 「アンタもこういう攻撃には弱いのね~。ほらほら、白状しちゃいなさ~い」 「やめろってばよ!」 くっつかれたら意識しないようにしてても、こう、近付かれると匂いなんかが……。 軽く甘いような香りがふわっと……ぬぇーい! 煩悩退散煩悩退散! 何でここの家の雌は恥じらい無しにこういう事をしてくるの!? レンしかり、こいつしかり! 俺はどっちかと言えば、リーフみたいなおしとやかな感じとか、リィみたいなさっぱりした感じがいい! あ~、脳が侵されていく~。くっつくなよ~。 prrrrrrrr…… 「ん、電話か?」 「そんなのいいじゃないのよ。ほら、話しちゃいなさい」 「そうはいかんだろ。マスター呼んでくるわ」 「あら~、逃げられちゃったか」 電話ナイス! 危うく心が折れるところだった……。今日は散々なんだ。これ以上傷口に塩は塗りたくないぜ。 えっと? 皆庭に居るはずだったな。 おぉ、居る居る。今はソウとレオが組み手してらぁ。……ほう、なかなかソウも動けてるじゃないか。 それは置いといて、マスターは……あぁ居た居た。 「お~いマスター。電話だぜー」 「ん? 電話? 誰からだろう? あ、ライトありがとう」 マスターが家の中へ……俺はどうするかな。こっちに居てもいいが、皆してこっちに居てもなぁ。 俺も一緒に戻るか。ソウの成長も身を持って知ってるし。 「あら、アンタも戻ってきたの」 「なんだよ、悪いか」 「いえ? 自分から来るなんてね。さぁ、続きといきましょうか?」 アウチ、こいつが居るんだった。勘弁してくれ……。 「……だ……ラ……、……そ……」 「ん、マスター電話中か」 「それでアンタが呼びにいったんでしょう? バカねぇ~」 言いながらジリジリ迫ってくんな。こうなったらとことん聞き出そうとしてくるから嫌だねぇ~。 「はっ!? なん、はっ!?」 「ん? なんだ?」 「ハヤト?」 電話で大きな声出すなって。相手が凄い事になるだろ。 にしても、急に慌て出したな。誰と話してんだ一体? 「ちょっと待てカラン! おいっ! カラン!」 「カ、カランですって!?」 「おわっ! どうしたんだよお前まで?」 カラン? う~ん、どうやら名前っぽいが、マスターの慌てようが妙だな。 フロストも驚いてるところを見ると、知らない相手じゃないみたいだが……。 あっ、受話器落とした。おいおいどうしたんだよ? 壊れるだろうが。 「おいおいマスターどうしたよ? ……マスター? お~い」 駄目だこりゃ。放心状態になってら。受話器はっと、……通話は切れてるが壊れてはいないみたいだな。とりあえず戻そう。 「大変だぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」 「おわぁ!? 何事だ!?」 「ハヤト……もしかして、もしかするの?」 「そうだよフロスト! あいつが……あいつが帰ってくる!」 「なんて事……」 うぉい! 俺を置いて二人で納得すんな! あいつって誰だよ! 多分カランて奴の事だろうが……それは誰!? 「はっ! 不味い……不味いぞぉ! なんとかしないと……」 「いや、何で俺を見るんだよ」 「あっ! 確かに不味いわね。どうにかしないと……」 いやだから、こっち見んな。俺が不味いのか? 何にもしてないぞ。 まさか受話器を戻すのが不味かったか? だとしたら悪い事したなぁ。 「何とかしないと……ライトかリィ、いや、どっちもかもしれない。とにかく、二人がこの家から居なくなる可能性がある!」 「……はぁ? なんで」 どういうことだ? 俺かリィが……居なくなる? マジでどういう事? 「とにかく全員集合だ! ライト、フロスト! 皆を呼んできてくれ!」 「いや、説明しろよ! 何で俺達が居なくならなきゃならんのだ!」 「後で説明するよ! とにかく今は、嵐対策を考えないと……」 マスターがぶつぶつモードに入っちまったよ。こうなったら何にも耳に入らんからなぁ……。 しょうがねぇ。皆を呼びにまた行くかいなっと。 ---- 今まさに第二回ハヤト家会議が始まろうとしている。今回はノッケから全員集合だぜ。 「さて、皆集まった訳だが、俺はイマイチ状況を掴めてないぜ。俺司会で進めていいのか?」 「別に誰でも良いじゃない。前もアンタなんだから今回もアンタで問題無し」 「納得がいかん。貴様じゃなくても誰でも良かろう。という事で今回は俺が……」 「はいライト進めて」 「ぬっ!? ぐっ……」 レオが不憫な気はするが、推薦されたので俺が進めようか。言っておくが、推薦されたからやるんだからな? だからレオさん、俺を睨まないで。頼むから! 俺悪くないよ!? 「諸君! 事態は急を要するぞ! あの……嵐が明日、帰ってくる!」 うぉビックリした! マスター急に喋るなよ! 発言は挙手をしてからしてもらいたいぜ。 ……あれ? 皆が固まったぞ? 俺とリィとフロスト以外だが。 「あ、あああ主殿!? 嵐とはまさか……」 「カ、カランさん……なのぉ?」 「まさかっすよね!? ご主人!?」 「嘘なんだよね!? ハヤト兄ちゃん!?」 「それも明日なんて……急過ぎるですぅ!」 「えっと……ねぇライト、カランて……誰?」 「俺に聞かれてもな……」 とりあえずリィと俺に誰か説明して。カランて誰よ? 新参者には全く分からんワードだぜ。 青ざめた顔×6には聞けんから……フロストかぁ~。な~んか嫌な予感がするが……、聞いとかないと話が掴めんからな。 「おいフロスト、カランて誰よ」 「そうね。アンタとリィは知らなくて当然よね……アンタ達に昼間起こった事を話してくれたら教えてあげる」 「むぅ!? やっぱりか……」 そう言い出すんじゃないかと思ったんだよ。くそぉ、弱みにつけこみやがって……。 知識を得るために更なる弱みを晒すか、話が分からず流されるか……究極の選択だ。 「昼間って今もお昼過ぎじゃん。午前中にあった事なら、僕とソウ兄ぃがライトとの訓練に合格したぐらいだよ」 「リィ!? ちょ、まっ!」 「あらそうなの? ん? 確かアンタ……」 「あー! あー! 他には何にも無い! 全く無い! だからカランて奴の事話せよ!」 「んふふふ~♪ そういう事~。それじゃ、隠したくなるわよね~」 ウギャギャー! 俺前にフロストにご褒美の事話しちまったんだよ~! だから言いたくなかったのに……。 あぁ、リィやソウに悪知恵を与えるフロストが見える……死にたい、死んでしまいたい。 痛みの代償は大きいが……とにかく聞く事だけは聞こう……。 「こっちの聞きたい事聞いちゃったんだから話そうかしら。まず、カランが誰か、ね」 「……あぁ」 「ライトどうしたのさ? 元気無いよ?」 「気にすんな……」 俺の痴態を晒したのはお前だぜリィ……。ははは、ははははははは……。 「まず、カラン(華嵐って読むわ)はハヤトの妹よ。今は遠くの街の女子寮のある学校に通ってるわ」 「あ~……それが帰ってくるって事か。だが、何で皆青ざめてるんだ?」 「そうだよね。久々に会うんなら嬉しいんじゃない?」 「一般的ならね。ただ……」 そう言ってフロストが一瞬止まった。変なところで区切るなよな。気になるだろうが。 しかも、俺達をそっちのけで真っ青シックスは話をしている。ボソボソ言ってて聞き取れねぇ。 「かなり厄介な癖があるのよ。特にアンタやリィ、それとあたしは被害に遭う危険が高いわね」 「は? 被害? あぁ、それが俺かリィがこの家から居なくなるって奴か?」 「はっ!? なにそれ!? 僕もう何処にも行きたくないよ!?」 「まぁ、それは結果そうなる可能性がある程度ね。イーブイ種がとんでもなく好きだし。カラン」 可能性あるのかよ! イーブイ種が好きでこの家から居なくなるって……そいつに連れてかれるって事じゃねぇか!? おいおい、俺も二君に従う気は無いぜ! 「嫌だ! そんな事されるぐらいなら……僕はその人に会いたくない!」 「う~ん、確かに会わない方が良いかも……その辺の対策はこれから考えましょう」 「ってか厄介な癖って何だよ。まだ聞いてねぇ事になるよな?」 「あぁ、気に入ったポケモンが居ると、抱きついて撫で回しだすの。この家のポケモンは大半が……というか、アンタ達以外はされてるわ。1時間ほど」 「なんだそんだけかよ……って一時間!? ただの拷問じゃねぇか……」 「それも僕ヤダ。知らない人間にそんな事受けたくない」 ですよねー。特にリィの場合やっと傷が治ってきたんだ。心のな。 それを拡げかねない行為は受けさせたくねぇ。たとえ悪気が無かったとしてもだ。 「ま、こんな所かしら。ね? 皆が青ざめた理由が分かったかしら?」 「なるほどな。確かに厄介そうだぜ」 「嫌だなぁ……」 「よし! まずはカランたちが寝る部屋を作らないと! 皆行くぞ!」 「「「「「お~!」」」」」 「……なんか、団結してたな」 「共通のピンチに直面しての団結力ね」 マスター他ポケ団体が二階へと上がっていった。どうせなら俺の部屋とかリィの部屋も作って欲しいもんだぜ。 嵐、か。もしリィに何かあったら俺は……全力でリィを護る。約束したからな。たとえ何であろうと、リィを悲しませるのなら容赦はしない。 出来ればそうならないことを祈りつつ、マスター達の手伝いに行くかね。 「とりあえず、来るもんはしゃあねぇからマスター達を手伝いに行きますかいな」 「あの状態ではまともな話し合いは不可能だろうしね。そうしましょう」 「ライト……僕は、僕は……」 「……心配するなよ。俺が傍にいる。どうにかなるさ」 「私達だってリィの味方よ。簡単にはあなたの居場所を奪わせはしないわ」 「……ありがとう。二人とも」 「よし、行くか!」 「うん!」 来るべき明日に備えて、今はやるべき事をする。 何が起きても、護る事を俺自身の心に誓って……。 ---- あ~と~が~き~ 初のライトがやられてる話ですよ。彼だってサンダース。負ける事もあるのです。 リィの願いとは何なのか! ソウの願いは決まるのか! ライトは、どうなるのか! 明かされるのは後編予定ですよ。 まだまだ続きますよ。 前編は完結ですよ。 ---- コメント、駄目出しはこちらにそっと……。 #pcomment