writer is [[双牙連刃]] はい、嵐来たりての続編ですよ。訳あって中編です。 前書きは手短に、スタートです。 ---- 家の中が静まり返っている。俺を含めた全員が今、リビングに集まって朝飯を食っているんだが、話し声が全くしない。 暗えよ! 幾らこれから大変そうなのが来るからって皆して俯いて食事するこたねぇだろ! 鬱になるわ! この状況に戸惑ってるのは俺とリィ。特に動じずに飯をバクバク食ってるのがフロスト。食ってるのか食ってないのかよく分からんのが×6って所だな。 空気が重過ぎてこれ以上食う気にならん。何とかしてくれよ……。 「ごちそうさん」 「あれ、ライトもう終わり? 僕ももういいや。食べたい分は食べたし、おかわりしなくていいかな。ごちそうさまでした」 呻き声のようなものが聞こえたが、食器をキッチンのシンクへと運ぶ事に集中する事で飲まれる事はなかった。六人の亡者だぜ……。 さて、と。今日俺達はどうなるのかな? リィはカランて奴と会いたくないって言ってたし、俺も指し当たっての興味も沸かんしな。チラッと見れれば満足だ。 「お~いマスター? 今日俺達はどうすりゃいいんだ?」 「……とりあえずカランに一応紹介しなきゃいけないからここで待機。その後は……カランの被害に遭いたくなければ自室待機……」 無気力過ぎる。しかも何故わざわざ紹介する必要がある? 居ない事にすればいいじゃないか。 「ハヤト、まさかとは思うけど……リィやこいつの事……」 「……昨日の電話で、話しちゃった……」 ……ノーコメントだ。何で話すんだよ! 「いや、だってさ。あいつ、ブイズの事好きだし、まさか来るとは思わなくて、つい……」 ブイズ、つまりはイーブイ進化系列のポケモンが好きって事で良いんだよな。変な省略の仕方すんなよな。それに、昨日それはフロストに聞いたっつうの。 やれやれ、これでどうしてもそいつに会わなきゃならなくなっちまったじゃねぇか。さい先悪いねぇ……。 「で、でも、人にあんまり慣れてないとは言ってあるし……」 「それが通じる相手かは、兄である貴方がよーく知ってるでしょ? サメハダーにさえ躊躇無く触ろうとするのよ? 噛み付かれた位じゃ怯みもしないわよ」 「う……」 あの~、俺の中でカランって奴のイメージが人から化け物にすり替わりそうなんだが。それ、好きってレベルなのか? わかんねぇ……。 まぁ、相手に居るのが分かってようとやりようは幾らでもある。例えば……そうだ! 誰かに預けたって事にすればいい! そうしよう! 「なぁ、俺達を誰かに預けた事には出来ないのか? それなら俺とリィは散歩でもして時間潰せば済むだろ」 「カランは二日はここに居るぞ? それに、ライトとリィが居ないとなると他の皆が大変な事になりそうだし……」 マスターの一言に反応して飯を食い終わった全ポケモンがこっちを見ている。 視線が物語ってるぜ。「行くな」ってな。どうしたもんだか……。 「……会ってすぐ部屋に行けばいいんだよね? それならそうしようよ。いいでしょライト」 「ん? 俺はいいが……いいのか? リィ。逃げる間もなく捕まるかもしれないぞ?」 フロストとマスターが頷く。話の流れからそうかも知れないと思ってな。会った瞬間に抱きつかれる可能性も有りそうだし。 「それは無いよ。僕はライトの上に居れば良いのさ。ライトなら、咄嗟でも回避出来るでしょ?」 「まぁ……出来なくはないが……」 「オーケー、それで行こう。マスターも、避けるのは承諾してくれるよね? 僕達のことを人馴れしてないって説明してるみたいだし」 「う、あ、あぁ、いいけど……」 「アンタ、リィを背負いながらそこまで速く動けるの?」 「さぁ……やってみた事ねぇからな。ちょっと実験してみるか。フロスト付き合えよ。リィ乗んな」 「実験て? 何する気よアンタ」 「僕は何となく分かった。振り落とされないかな? 僕」 「なる様にならぁな。じゃ、庭借りるぜマスター」 「うん……いや、俺も実験とやら見てみたいな。俺も行くよ。他の皆は片付けしといてくれ」 は~いとか、承知したとか言うのを聞きながら庭へ向かう。リィ背負ったままで何処まで動けるかねぇ? ---- 「連れて来られたのは良いけど、どうするのよ?」 「お前さ、『氷のつぶて』使えるだろ? それをこの状態で避けれれば、人の動きくらい楽に避けれるだろうなと思ってな」 「なるほどね。それは良いけど……リィは大丈夫なの? くすぐったくないのかしら?」 「僕なら大丈夫。もう慣れちゃったし、ライトの毛ってふさふさで気持ち良いんだよ」 一般的なサンダースと違って俺の毛は硬質化しないからな。戦闘中でも誰かをおぶれるのはメリットだろう。微妙だが。 だからと言って首の毛の中に顔を埋める必要は無いだろうリィ。俺はくすぐったいんだぞ? 「へへっ、シャンプーの香りだ」 「あのなぁ……」 「ふーん……終わったらアタシにも確かめさせなさいよ」 「うえぇ、マジで?」 「マジで。じゃ、準備はいい? まずは軽めに行くわね」 「オーライ、リィ来るぜ。ちゃんと掴まってろよ」 「了解」 毛をかき分けてリィの前脚が俺の首に巻かれる。これで多少は振り落とす心配は減るが……もそもそして俺がくすぐったいのがネックだな。 お、フロストの周りに人の拳位の氷が形成されたな。形状が丸いのは当たった時の事を考えてくれてんのかな? 尖った氷は流石にいてぇからな。 フロストがこちらに片前脚を向けると、数個の氷がこっちに目掛けて飛んできた。スピードは速くない。本来なら相手が動き出すよりも速く出せる技だから、飛んでくるのなんか見えねぇよ。相当加減してんだろうな。 さて、避けるにしてもどうするかな? サイドステップくらいなら行けるかなっと。そいっ。 俺が居た場所に氷が転がる。この程度なら余裕余裕。リィは大丈夫か? 「リィ、平気か?」 「問題無し。もっと動いても大丈夫だよ」 「分かった。フロスト! スピードアップだ!」 「分かったわ! 行くわよ!」 暫くはこのまま回避の練習だな。マスターはじ~っとこっちを見てる。何考えながらこっちを見てるんだか? ~二十分後~ 「驚いたわ。今の、殆ど通常のスピードで出したのに……」 「うっし! 回避成功! リィも平気だったか? 結構な振動だったろ?」 「振動よりも速くて振り落とされるかと思ったよ……」 「ははっ、わりぃわりぃ。でも、あれ避けるにはそれなりに真面目に動く必要があったからな」 なんせステップの連続だからな。横への移動ってこの体だと結構しんどい……。 お? 見てるだけだったマスターがこっち来た。なんだ? 「改めて見るとライトの凄さが分かるよ。リィを背負ってるのに氷のつぶてを全部避けるなんて……」 「避け易いようにフロストがコントロールしてるのもあるがな。そうだろ?」 「当然。アンタはともかく、リィに怪我なんてさせられないわよ」 「んしょっと。ライトの上に居て怪我する気は全然しないけどね」 リィが降りると背中がスースーするぜ。動いた後だしな。 「さて、次はアタシが……」 「おいおい、何で寄ってくんだよ?」 「始める前に言ったじゃない。アンタの毛並み、私も確かめるって」 「そういや言ってたな。しょうがねぇなぁ」 「あ、俺も触ってみたいかも……」 皆して俺の毛並みなんか確認してどうするよ? 別に良いけど……。 フロストが俺に飛び乗ってくる。乗る必要はあるのか? 更にマスターも俺の首辺りに触れてくる。おいおい……。 ひょ~! 流石グレイシア! ひんやりしてて動いた後の体には効くぜ~! シップ代わりにはなるな! 「あら、なかなか……」 「へぇ~、癖になりそうなふさふさ感……、初めて触ったけどこれはいい……」 「でしょ? 僕がライトの背中に乗るの好きな理由が分かった?」 「「納得……」」 「お前等……俺を弄って楽しいのか?」 「「楽しいというか、気持ち良い……」」 お~い大丈夫なのか? フロストはさっきのリィみたいに俺の毛に顔埋めてるし、マスターはやたら撫でてくるし……。 何これ? 俺ってば癒し効果なんてあったの? フロスト~、そのまま寝たりするなよ~。 そもそもカランて奴を避ける為の実験が何故こうなったし? 「リィのさらさら感も良いけど、ライトもいいなぁ……」 「……アンタこれからたまにアタシのベッドね」 「へぇ、マスターはリィの事は撫でた事あったのか。って、お前は何言い出してんだフロスト!」 「フロスト姉ぇ駄目だよ。そこは僕のなんだから」 「お裾分けを要求するわ」 「俺もたまに撫でたい」 「う~ん……たまになら良いかな?」 「ちょっと待て。俺に拒否権はねぇのかよ!」 「「「無い」」」 ……泣いていいだろうか。 「俄然やる気出てきたぞ! このふさふさとサラサラはたとえ妹でもカランにはやれないな!」 「同意するわ。アンタ達、上手くやりなさいよ!」 「もちろん。僕もライトも、この家のポケモンだもんね!」 「俺は今、若干野良に戻りたいぞ……」 憂鬱になりそうなところで、マスターに促されたので家の中に戻ることにした。 フロストが降りない……。横からはリィがくっ付いてこようとするし、マスターはなんかやる気になったし、俺の体って……どうなってんだ? ---- ……マスターが靴を履いて外に出てきてたから玄関から入ったんだが……。 何故レオやらレンやらが玄関先に並んでいらっしゃるのか? 「ふおぁ!? な、なんだ……主殿でしたか……」 「皆何してるんだい? 玄関なんかに並んで?」 「さっき、ご主人達が庭に出ちゃった後にねぇ? 電話が掛かってきたのぉ」 「もしかしてカランから?」 「うん。でねぇ? お昼前にここに着きそうだから伝えてって言われたのぉ」 「それが何でこの整列状態に繋がるんだよ?」 「一度にいっぱいのポケモンが居れば、カラン姉ちゃんだって抱きついて来ないだろうって」 「レオの兄貴が提案したからっす!」 なんとまぁ……どれだけ抱きつかれるのが大変なんだかな? 俺は抱きつかれる気は無いが。 「皆、大丈夫だよ。変に気を遣わないでいつも通りいこう。カランだってその方が大人しくなるかもしれないし」 「そうそう、気を遣い過ぎて接待みたいになるから向こうも乗っかってくるのよ。いつも通り、ね」 「今現在俺に乗っかってる奴がよく言うぜ……」 「なんか言った?」 「ナンデモゴザイマセン」 俺とフロストのやり取りで場の空気が少し和らいだ気がする。先のマスターの一言もあるだろうがな。 そんな空気も束の間。ぶち壊すには十分の音が聞こえてきた。 ピンポ~ン…… 家のチャイムの音が聞こえた瞬間、目の前から全員が居なくなった。 「来たかな……ライト達もリビングで待ってて」 「了解。……フロスト、そろそろ降りろよ」 「アンタがリビングまで行ったら降りるわ。ほら、行くのよ」 「フロスト姉ぇ……何気に気に入ってるの?」 「まぁ、ね」 気に入られてもこっちはあまり得をしないんだがな。まぁいいさ。 ……首の辺りをもそもそされなければなお良いんだがな。 リビングにイン。……全員ソファーに座ってたら違和感が凄いと思うんだがな。 あ、やっとフロストが降りたぜ。重い事は全く無いが、よく考えるといつもは絶対にこんな事しない筈だよな。フロスト、熱いのはそんなに好まないし。 よっぽど気に入ったのか? 別に良いんだけどな。ベット化だけはなんとしても避けたいところだが。 で、今度は何にも言わずにリィが乗ってくると……いつも通りだな。 玄関が開いた音がする……。来たか。 「お兄ちゃん、お久しぶり!」 「あ、あぁ、久しぶりだな。カラン」 玄関先で立ち話に花が咲いてるようですな。時間稼ぎ、かねぇ? 皆……表情が硬い。これじゃいつも通りってのは無理だろうな……。 俺はどうするかな? 動かずにドアの前に居たんじゃ格好のターゲットになっちまうし……ソファーの後ろが妥当かね? 居なかったら居なかったで後が面倒そうだし。 別に隠れる訳じゃないが……様子見ぐらいしても良いよな。そうしよう。 「お兄ちゃんのポケモンは!? 皆に会いたいわ!」 「ん、皆リビングに居る筈だよ。……ほどほどにしろよ?」 マスターの声が全部聞こえる前にリビングの扉が開いたな。声はなかなか悪くないが……さてさて、見た感じはどうかな? ……なんかこう、普通。長めのスカートにブラウス、髪は長いのを縛らずにそのままか。普通だなぁ……。 「皆! お久しぶり!」 「うおぉ!?」 目が輝いたと思ったら一番近くに居たレオがもう腕の中……ま、見切れないスピードじゃないが……結構早かったな。 あーあーほっぺにキスされて、レオの奴赤くなってやんの。普段は見れないレアシーンだな。 で、ソファーに並んでる順に餌食になっていく、と。雄とか雌とか関係無くやられるのね。 ソファー組最後のレンに抱きつき終わって、辺りを見てるな。どうやら俺達を探してるみたいだな。 あ、気付かれた。 「居たー! サンダースとエーフィ~!」 「やれやれだぜ……」 見つけた途端に飛び込んできたし。これを……避ける。 「あ、あれ?」 「ポケモンとはいえ、初対面の奴に抱きつくのはどうかと思うがな?」 「カラン……言ったろ? そいつ等はそうそう触れないって」 マスターもやっとリビングに入ってきたか。一通り終わるまでわざと玄関に居たな? ってか事前にそんな事言ってたのかよ。それでこれとは……おそれいったぜ。 「自己紹介はしようかね……俺はサンダース、ライト」 「僕はエーフィ、リィ」 「ライト君にリィ君ね! 私はカラン、お兄ちゃんの妹よー。よろしくね♪」 言いながらまーた腕広げてこっちきやがったよ。懲りないねぇ……。 腕が閉じられるタイミングで……すり抜けて後ろに回り込む。まぁ、余裕だな。 で、例の如くリィは雄に間違えられてると。なんだろうな? 雰囲気か? 間違えられる要因は? 「あれぇ!? い、居なくなっちゃった!?」 「こっちだよ」 「わぁ! いつの間に後ろに!?」 「……悪いが、俺はあまり人間にベタベタされるのが嫌いでね。よくも分からん相手には抱きつかれたくないんだよ」 「僕も、僕が気を許した相手以外は人間に近付かれたくないね」 「えっと、私はお兄ちゃんの妹だし、今まであったポケモンに嫌われた事も無いんだよー♪」 恐れられてはいるみたいだけどな。主にこの家のポケモンにだが。 レオ達を見ると……表情が物語ってるな。刺激するなって。 そうだとしても、やっぱり抱きつかれるのは御免だぜ。 「それは俺があんたを認める要因にはならねぇな。あんたはマスターの妹かもしれんが、マスター本人な訳じゃあない」 「それに、今まで嫌われた事が無かろうと……僕は人間全般が嫌いなんだ。あなただけが特別だとは思わないね」 今までに俺達みたいなポケモンには会った事が無いんだろうな。ここの家のポケモンは大体気の良い奴らだけだし。 その所為か、俺達が言った事に戸惑ってるみたいだな。どうであろうと意見を変える気は無いがな。 「お、おにいちゃ~ん……」 「こればっかりは俺でもどうしようもないぞ? リィにもライトにも事情があるからな」 「え~……」 「紹介はこれくらいでいいだろ? 俺達はもう行くぜ」 「あぁ、悪いねライト。……何かあったらまた呼ぶから、その時は……」 「……まぁ、また上手くやるさ」 最後の方のは他の奴に聞こえないように小声で話したぜ。マスターもよく合わせてくれたもんだ。助かったぜ。 でもこの感じだと確実にまた呼び出し来るよなぁ。なんとかするけどよ。 さて、そのままリビングからは出させてもらうとして……。どうするかな? 部屋っつっても俺達は個別の部屋は無いし、プラスか……レンの部屋へ行く事になるんだよな。 「とりあえずは上手くいったねライト。じゃ、行こうよ」 「ん~……どっちがいい? リィ。 プラスの部屋か、……レ、レンの部屋か」 「ん? 僕が決めて良いならレン姉ぇの部屋。そっちの方が落ち着くし」 「だよな。あっ、あはははは……」 いやぁ、なんとなくは分かってたけどな? どうする……俺、レンの部屋なんか入った事無いぞ? そもそも異性の部屋なんてそうそう入っちゃいけないエリアだろ。 ちょっとばかしドキドキするんだが!? いや、別にレンが居る訳じゃないし、リィと二匹だけになるのはいつもの事だからな! 気にしなければいいんだよ! 「おし、じゃ、お邪魔させてもらうか」 「うん」 リィを乗せたまま階段登るのも初めてかもしれないな。あ、エーフィになってからだけどな。 えーっと……階段登ってすぐの部屋だったな。各部屋、基本的に表札とかつけてないから場所で覚えるしかないんだよ。 「扉は僕が開けるよ。はい」 「おぉ、サンキュー」 前脚かざすだけで扉開けられるんだからエスパーってのは本当に便利だよなー。傍から見たら勝手に扉が開いたように見えるんだろうな。 さて中は……ほぉ、白を基調としてるんだな。清潔感あっていいじゃねぇか。プラスの部屋はかなーり電気タイプである事をプッシュしてるからなぁ……。 いつもはレンとリィしか居ないからか、こう……空気が違う感じだな。俺が場違いな気がするぜ。 「ふぅ……本当にいきなりだったね。悪い人じゃ無さそうだったけど」 「まぁな。強引なのさえ無かったら悪くはなかったな」 リィが背から降りたぜ。乗ってる理由ももう無いし、そりゃ降りるわな。 ふーん、机とか本棚まであるぞこの部屋……本棚の中は料理と菓子作りの為の本がかなりあるな。レン、もしかして人間の字も読めるのか? 今度教わろうかねぇ。 俺もまだ字だけはよく分からんのがあるんだよな。そもそもそういうのは殆ど独学だし。 「あんまりジロジロ見てると、後でレン姉ぇに怒られるよー」 「うっ!? そ、そうだな」 キョロキョロしてたらリィに笑われちまったい。でも珍しいんだからしょうがねぇじゃねぇか。 ん? 写真立てが伏せられてる……なんだこれ? 気になるが……俺じゃどうしようもないし、ほっとくか。でも気になるなぁ。 「その写真立て、レン姉ぇも寝る前とかしか見ないんだよね。なんの写真なんだろ?」 「そうなのか? ……レン自身もそんなに見ない物を、勝手に見る訳にはいかんな」 「だね」 気になるもんはそれくらいだな。リィの方にはベッドしかねぇみたいだし。 「でさ、これからどうするの? ずっとこの部屋に居るわけにはいかないでしょ?」 「マスター待ちってとこだな。今頃、俺達について色々聞かれてるだろうし」 「そうだね。……僕の事はともかくとして、ライトの事は……マスター説明出来るのかな?」 「事実は言えるだろ。俺がこの家に来た経緯とか」 「確かにそれは言えるか。……考えてみると、ライトって全然皆に自分の事話さないよね」 「話すような事が無い。それだけだ」 「ふーん……話すかどうかはライトが決める事だもんね。無理には聞かないよ」 「……すまねぇな」 本当は……話さなきゃならん事がある。俺が、どういう存在なのか……なんで前の主人の所に嫌気がさしたのか……。 閉じ込められていた。それも確かにある。でも、それだけじゃねぇんだ。 閉じ込められなきゃいけなかった理由……前の主人のお気に入りの一匹になった理由……。 俺は、存在しては……いけない者……。 「……イト? ライト~?」 「ん? あぁ……悪い、ちょっとぼ~っとしてたぜ」 「珍しいね。ライトが本当にぼ~っとするなんてさ」 「俺にだってたまにはそんな事もあるさ」 ……今の俺には関係無い事さ。逃げ出した時に、俺は全てを捨ててきたんだからな。 今ここに居るのは……馬鹿力こそあるが、ただのサンダースさね。 ……うぉぉ!? 目の前にリィの顔が!? 「やっぱりライトちょっと変だよ? 心も……見えなくなってるし」 「そうなのか? ……ちょいと疲れてるのかもな。お呼びが掛かるまで、少し休むか」 「……そうだね。あ、僕のベッド使う?」 「いや、絨毯あるんだし、ここでいいわ」 「分かった。じゃあ、お休みライト」 「ん。何かあったら起こしてくれや」 真っ直ぐにポケモンが好きな奴……俺も、そんな奴にもっと早く出会ってれば……。 何も捨てる事なんて、無かったのかもな……。 ---- 温かい……なんだ? 俺は、眠ってただけの筈……。 傍に……何か居るな。優しい香りがする……。 リィ? いや、もっと大きなポケモンのような……。 目を開ければ済む事か。誰だろうな? ……驚いた。だって、眠ってるレンが目と鼻の先に居るんだからよ。 「……どうなってんだ? レン?」 「ん……」 俺の体の上に、レンの腕が乗ってたから温かかったのか。いつの間にか、丸まった状態でもなくなってるし。 この家来てからは体伸ばして寝てたからな……その所為か。 って、うわっ! 俺もレンの上に前脚乗せてるし! やばい、抱き合ってるみたいじゃねぇか! 本当に抱き合ってたら俺死んでるぜ……。 起きたいところだが……寝てるレンを起こすのもどうかと思うしなぁ。 それに……もう少しだけ、この温かさを感じていたい……かも。 ……棘までもう少し寄れそうだな。少しだけ……。 「んん……ん?」 「あ、わりぃ……起こしちまったか?」 「あ、ライト……!? えっ、あっ、わぁぁ!」 飛び起きて後ろ向いて正座しちまった。体寄せようとしたのは不味かった……ってか、俺らしくなかったな。 「あ、あの、ごめんねライト! あの、えっと……」 「……こっち向いてくれよ、レン」 「い、今は駄目! 絶対、ぜぇったい!」 そっぽ向かれてると話しにくいんだがな? まぁいいさ。 「悪かったな。勝手に部屋使わせてもらって」 「そんなの全然いいよぉ! 私もごめんなさい! 勝手にライトの横で寝ちゃって!」 「あぁ、それは俺が寝てたのも悪かったしな。気にしねぇでくれや」 正座するレンの後ろまで行って、俺も座らせてもらうとするか。 まだレンはこっち向いてくれそうにねぇな。テンパッてるところを見ると、恥ずかしがってるようだし……俺も気恥ずかしい事でも言ってみるかな。 「それに、起きた時に隣に居てもらえたのは……ちょ、ちょっと嬉しかったからな」 「え!?」 俺の一言でレンがこっちを向いてくれたのはいいが、今度は俺が顔合わせにくいぜ。完全に赤くなってるだろうし。 なるほど、レンも顔真っ赤になってた訳か。どっちも顔赤らめて向き合ってるとかどういう状況だよ! 駄目だ、この感じに俺が耐えられん! 何か話題を出さねぇと! 「そ、そうだ! リィは何処行った? 寝る前はこの部屋に居た筈なんだが」 「り、リィちゃんね! えっとぉ、お昼ご飯食べてると思うよぉ」 チラっと時計を見ると……わお、完全に昼過ぎてるじゃねぇか。ちっと寝すぎたな。 「ライトが来ないから呼びに来たんだけどぉ、あのぉ、ライトが凄く気持ち良さそうに寝てるの見てたら私も眠くなっちゃってぇ……」 「そうだったのか。ってことは、レンも昼飯食ってないって事か」 「うん。多分、もう皆食べ終わっちゃってるなぁ……」 「しょうがねぇさ。ま、ここに食ってないのがもう一匹居るんだ。一緒に食おうぜ」 「うん♪」 うーん、最近俺……距離感が分からんのだよなぁ、異性とのよ。この家の奴が自重しないのも原因であるとは思うんだが。 その所為で妙な事を考えるのも増えてきてるぜ。さっきなんか自分からレンに……いかんなぁ。 気持ちを落ち着けつつ、リビングへ行こうじゃないか。そういやあの後どうなったんだ? リィだけで行かせて大丈夫だったのか? ……で、レンと並んでリビングまで来たんだが……なんで誰も居ないんだ? 「こりゃ、どういうこった?」 「誰も居ないねぇ……」 俺達が寝てる間に全員で出掛けた……っつーのは考え難いか。リィは俺達ってか俺の居場所を知ってるんだから呼びに来るだろうし。 ふーむ……おぉ、そうだ。もし近くに居るならだが、レンなら探せるじゃねぇか。 「レン、他の奴が近くに居ないか探してみてくれよ。確か出来たよな?」 「うん、出来るよぉ~。ちょっと待ってねぇ……」 右手をスッと前に構えて、目を閉じた。レンが波導を見る時の仕草だな。何回か見た事あるぜ。 そして後頭部の四つの房が浮かび上がって……レンの周りから青白い波紋みたいのが見えてくるんだよな。 どうもこれ、俺にしか見えてないみたいなんだよな。前にこれ見た時にフロストやソウに聞いてみたら見えないって言われたんだよ……なんでだろうな? 「……あれ? 皆家の裏に居るみたいだよぉ?」 「何? なんでそんなとこに?」 「ん~……ご主人とカランさんが向き合ってるから、これから勝負でもするんじゃないかなぁ? 私達以外の皆は、ご主人がボールに入れてるみたい」 「ん? リィもか?」 「うん。皆の波導がご主人の腰のベルトの辺りから出てるもん」 ふむ、どうやら本当にバトルするみたいだな……一体何があったんだ? 「やれやれ……飯の前だが、行ってみるとするか」 「そうだねぇ。カランさんのフレ君強いから、ご主人勝った事無いしぃ」 「へぇ……面白そうな奴なら、俺もやってみるかいね」 「ライトだと多分、あっという間に終わっちゃうと思うけどぉ……」 「分かるのか?」 「だって、ライトから出てる波導って……と~ってもおっきいもん。それに、温かいし……」 ……なんでそこで赤くなられたのかは俺には分からないが、まぁ……レンにしか分からん何かがあるんだろ。 そういや波導はそれが持つ力の大きさとか性質を現す……とか前にテレビで見たな。それが俺のはでかいって事か。まぁ、理由は俺自身が分かってるけどな。 それは一先ず置いといて、マスターのとこに行かんとな。 「どっちにしろ行ってみないと状況が分からんからな。行くか」 「あ、うん」 庭に出るいつものルートでいいな。ポケモンは靴なんか履かないから何処からでも出入り出来るのが楽だぜ。……一応入る前に汚れてないかチェックはしてるがな。 で、家の裏手に回るっと。こっちには確か物置しか無いから、バトルしても被害が出るもんは無いだろ。 因みに物置は物でいっぱいになってたぜ。昨日の片付けで、家の中に置かれてた邪魔なもん全部移動したからな。 「頼むぞ、レオ!」 「お願いね、フレちゃん!」 「! 始まったか!」 駆けつけてみると……レオと一匹のブースターが睨みあってるぜ。あのブースターがカランのパートナーらしいな。 ……どーも俺の見立てでは、あのブースター大した事ねぇぞ? あれが本当に強いのか? マスターがレオへ火炎放射を指示してるな……相手がブースターなのに。そこはノーマルの技とかで削ってやるべきだろ……。 まぁ、避けないわな。特性貰い火だし。寧ろ敵に塩送りまくりじゃねぇか。 「フレちゃん、どくどく!」 「ほぉ、良い技覚えてるじゃねぇか」 「うん、カランさんはいつも始めはあれだよぉ」 常套手段ではあるわな。毒で弱らせて止め、バトルじゃよくある光景だ。 それをマスターが対応出来れば良いんだが……しょっぱなにブースターに向けて火炎放射してるようじゃ駄目だわな。 紫色の毒液が、レオに向かって飛んでいく。火炎放射の吐き終わりを狙われてるんだから避けれる訳が無いわな。 「うぐぅ!」 「レオ! くっ……」 「やれやれ……マスターもまだまだ甘いな。これでよく昨日十連勝なんて出来たもんだ」 「あ、あははは……ご主人は相手によって変わっちゃうんだよねぇ……カランさんには今まで一度も勝ててないから、余計焦っちゃってるんだと思うよぉ」 確かに切羽詰まってるような感じだな。ようは苦手意識か。 そんなもんで勝敗が不安定になるとは……まだまだな証拠だ。トレーナーになったら、もっとやばそうな奴と戦う可能性もあるんだ。場慣れしてもらわんとな。 因みに俺達が居るのは物置の影だ。少し様子を見ようと思ってな。 そうしてる内にもレオがジワジワ弱らせられている。攻撃はことごとく守るで防がれてるし、電光石火で更に削っていく。嫌~な戦略立てるじゃねぇか。 「フレちゃん最後よ! だいもんじ!」 「これで終わりだよ、レオさん!」 溜められた火炎が一気に吐き出されて……レオに直撃。ギリギリまで削られてたレオは……。 「ぐぁぁぁぁ!」 「やっ、やられた……」 ですよねー。幾ら炎タイプでもありゃあやられるよ。 「わーい♪ フレちゃん頑張ったねー♪」 「カランの為だもーん♪」 「うぅ……すまん、レオ……」 「お、俺が不甲斐無かったんです……すみません主殿……」 「お兄ちゃん、約束通りにリィ君撫でさせてもらうからね♪ そ・れ・に、頑張らないとライト君もリィ君も私のポケモンになっちゃうよー♪」 「ほう……聞き捨てならん事が聞こえてきたな」 「ライトとリィちゃんがカランさんのポケモンになるって……どういうこと?」 「うぇ!? レンと……ライト!? いや、これはその……」 「「せ・つ・め・い!」」 「ひぃぃ!」 俺+レンのダブル睨みつけにマスターが怯んだ。当然といえば当然だな。 「それなら私が説明してあげるよライト君♪」 背後に来てたのは分かったから当然の如く避けた。……俺が居た場所には、空しく空を切ったカランの抱きつこうとした姿がある。 「もぉ、なんで避けるの?」 「会った時に説明したと思うがな」 「むぅ~、でも、その人嫌いも私と一緒に居ればすぐに直るよ。私の行ってる学校、ポケモンに優しい人ばっかりだから♪」 「はぁ~……マスター、さっさと説明してくれ」 「実は……」 マスターから聞かされた衝撃の事実……内容はこうだ。 リィと俺の事を説明し終わって、マスターはこれでカランも俺達に触れようとするのを諦めると思ったそうだ。ま、リィの事を話せば大抵は諦めるだろうな。 ところがどっこい、このカランは何を思ったか、「それなら尚更人と仲良くさせてあげなきゃ可哀そう!」って始めやがったんだと。 だがカランも馬鹿じゃない。初対面時の俺達の反応から、一つの提案をしてきた。 それがこれ、マスターとのバトル。 俺が言ったトレーナーとして認められるのと、リィに自分が本当にポケモンに優しいのを見せる為だと。 ただーし! このバトルにはあるものが賭けられる事になった。 カランが一勝するごとに俺かリィと触れ合えるようマスターが説得する事。そして……カランが全勝したら俺とリィ、両方をしばらくカランが預かる権利が与えられるという言語道断な賭けだった。 そういうのは俺とリィに断りも無くして良いものじゃないだろぉが! 何を勝手にしちゃってんの!? 「おい! どういう事だ!」 「酷いよぉ、ご主人! ライトに何にも言ってないじゃない!」 「うっ、いや、でもリィからはちゃんと許可貰ったよ! ……必ず勝つって理由で」 「「負・け・て・る!」」 「うぅぅぅぅぅ……」 不味いぞ! このままマスターに任せてたら確実に俺とリィはカランのもんになっちまう! なんとか……なんとかしねぇと……ん? そういえば……。 「マスター、こっちが勝ったら?」 「……カランの勝って得た権利を一つ消せる。全勝すれば、家に居る間にライトとリィにこれ以上ちょっかいを出さないって」 「……つまり、ちょっかい出されなくなるのはもう無理だが、他のはまだ防ぎようがあるって事だな!?」 「あ、あぁ」 ならばまだ間に合う! 俺に秘策有りだぜ! 「なぁ、カランさんよ。俺から提案があるんだが」 「なぁに? バトルはもう始まっちゃってるんだから、約束は無しにしないからね。これはあなた達の為でもあるんだから」 余計なお世話だ! それに、そんな事言ってくるのも折込済みだぜ! 「そんな事は言やぁしねぇよ。ただ、戦うのを俺だけにしてもらいてぇって事さ」 「え? ライト君だけ?」 「ライト!? 無茶だって! 6対6のバトルで始めたんだぞ!?」 「幾らライトでも途中で疲れちゃうよぉ!」 「まぁ待てよ。俺も自分が戦って負けるなら、このカランについて行っても納得する」 そう、それなら俺だって納得するさ。……俺を使えるかは別にしてな。 「で、リィの方は……」 必ず勝つ……だったな。頭の良いリィの事だ、俺が出張る事も見越してそう言ったんだろうな。 それなら、勝とうじゃねぇか。 「マスターが言った約束、俺が引き継ごうじゃねぇか」 「じゃあ……」 「必ず、勝ってやるよ。マスターに言ってるんじゃないぜ? あと、マスターは今負けたのを反省して、何が悪かったか考えてな」 「あうぅ……」 「ちょっと待って。1対6なんて私が納得出来ないわ。ライト君をいじめたい訳じゃないもの」 あれ、意外なところから異論が来たな。かなりそっちに有利……に聞こえる提案なんだがな。 「でもライト君の意見だからねぇ……そうだわ! ダブルバトルにしましょ! それならライト君も一匹じゃないし、勝負も早く済むわ♪」 ま、マイペースというかなんというか……こっちの話は殆ど聞かないのかよ……。 これ以上ごちゃごちゃ言われる前にこっちが折れとくか。 「それでいいぜ」 「うん! じゃあ、ライト君はパートナーを選んでね♪」 じゃあ、誰にするかいね? ソウ? も悪くないか……レオは戦える状態じゃ無さそうだからな。 「あのぉ、ライト……私に手伝わせてくれないかなぁ?」 「レン?」 「だって私ぃ、リィちゃんにもライトにも、この家に居てほしいんだもん……お願い」 レンか……戦い方が分からんから選択肢に入れてなかったんだが、自分から言ってくれるなら……。 「……じゃあ、頼むわ。決まったぜ! 俺とレンだ!」 「あら~、レンちゃんは戦うの嫌いじゃなかったかしら? いが~い」 「戦うの好きじゃないよ。でも、もっと嫌な事が出来たのぉ」 「ライト、俺の指示は……」 「さっき俺が言った事を実行しててくれ」 「うぅ~……」 マスター……言われそうな事は分かってるだろうに、もっと頑張ってくれよなー。 さて、レンとのコンビバトルか……一丁頑張ってみるかね。 ---- 「じゃあ、まずはこの子達! 出てきて、バンちゃん、ロス君!」 ……いきなりなかなかパワータイプを出してきてくれるじゃねぇか。バンギラスとメタグロスかよ。 確実に俺達の苦手なタイプで攻めてきたってわけかよ。勝つ気まんまんだな。 「……準備はいいか? レン」 「うん、頑張るよぉ」 レンの手の中で光が形を作っていく。これは……ボーンラッシュか! それを小脇に抱えて、左手は相手に向ける。これがレンのバトル時の構えか。人間が使う棍術ってやつに構えが似てるな。……いや、あれは棍を両手で持ってたか。 「行っくわよー! バンちゃんは岩雪崩であっちのサンダース君を、ロス君は反対レンちゃんに念力!」 「来るぜ!」 「ライトも気をつけて!」 弱点を狙った良い攻撃だ。俺のほうにはしっかり足止め効果のある岩雪崩だしな。まずはスピードを殺そうって魂胆か。 が、当たらなきゃどうって事は無い。隣のレンと同時に走り出す! 岩雪崩は俺の後方で発生、レンを狙って念力は……俺が潰す! 「おらぁ!」 「へ!?」 リィとの訓練でよく潰してんだ、この程度は余裕余裕。 「レン! 突っ込め!」 「てやぁぁぁぁぁ!」 横薙ぎにレンのボーンラッシュがメタグロスに……当たった! でもそんなにダメージは無さそうだな……。 こりゃ、メタグロスのほうは俺が相手したほうが良さそうだ……そもそもメタグロスはエスパータイプ持ち、レンでは荷が勝っちまうな。 まずは一呼吸置くか。急いては事を仕損じるって言うし。 「何? 何が起こったの? ライト君に念力、当たったよね? ロス君?」 「当たった……けど、消えた」 「正確には、ぶん殴って消したんだけどな」 「それ、出来るのライトくらいだよぉ」 ……おっと、ネタ晴らししたらメタグロスがやる気出してきやがったな。どうやら念力が掌打で消されたので火が付いたみたいだな。 「レン、こいつの相手は俺がする。お前はバンギラスの方を頼む。やばそうだったら俺が援護に入るから……」 「思いっきり、だね。分かった」 「おう、頼んだぜ」 一気に行ったほうが良いな。俺がもたつくとレンの方への援護も遅れる。手伝ってくれてるレンにダメージは無いようにしたいし。 重量級でも関係ねぇ! 叩き込むぜ! 「っしゃあ! 攻めるぜ!」 「気をつけてね、ライト!」 「向かってくるの!? バンちゃんもロス君も構えて!」 遅いな。体制が整う前に畳み掛けて、連携は潰しておこうかね。 目の前まで走りこんで、そのまま真正面で飛び上がる。まずは一撃当ててどんくらいの効果があるか見るか。 他のポケモンなら眉間にあたる目と目の間、そこに、掌打! 「ぐぅぅぅ!?」 「む……やっぱり硬いな」 こりゃ当て身技は掌打じゃないとこっちが怪我するな。硬い表面から衝撃を中に打ち込む感じか。 蹴りや鉄拳制裁は逆にこっちの手足がもたない。この後もまだバトルがあるんだからダメージは減らさねぇとな。 「バンちゃんは岩雪崩で迎撃、ロス君はアームハンマーで反撃!」 「おっと、やられる前に……」 離れておくか。その場を蹴って一気に横へステップ。おぉ、俺が居たところの地面にメタグロスの脚が刺さった。あれは喰らいたくはねぇな。 レンは……よし、避けてるな。足をやられない限りは大丈夫そうだ。 でも妙だぜ……立ち上がり方がどうも大人し過ぎる。メタグロスもバンギラスも明らかに俺達よりも重量級のパワータイプだ。もっと力任せに攻めてきてもおかしくないんだが? 「……そろそろ、準備出来てきたわね」 「ん? ……ちっ、そう言う事か」 やけに砂埃が増えてきたと思ったら、なるほどこいつはあっちの策略か。 砂嵐。空中に舞う砂が風に乗って肌を切っていくし、おまけにもっと厄介な視界不良が発生する。こいつを待ってたって訳ね。 「レン気をつけろ! 仕掛けてくるぞ!」 「分かってるよぉ! ライト、ロス君が来てる!」 何? って……うぉぉ!? 砂嵐を割って、奴の前脚が降ってきやがった。レンの一言が無かったら直撃するところだったぞ……。 「この砂嵐の原因はバンちゃんなの! 私がなんとかするから、それまで頑張って!」 砂嵐の原因はバンギラス……! 思い出した! 奴の特性は砂起こし、居るだけで砂嵐を起こせるんだったな。 こりゃ、レンに任せるしかないようだ。視界が悪くて不利過ぎるし、俺はメタグロスに集中させてもらおう。やられたんじゃ話にならねぇ。 「……無理しないでくれよ」 「ありがとぉライト。でも大丈夫、負けないから」 「あんまり頑張らなくていいのよライト君もレンちゃんも。降参したらこれ以上は攻撃しないから♪」 「生憎、降参なんてする気は無いんだ……よ!」 前脚が来た位置は覚えてる。その先には奴が……居る! メタグロスが硬かろうとも、やりようは幾らでもある。砂嵐も、姿が確認出来りゃ特に問題にはなりゃしねぇ。 「よぉ。見にくいだろうから、来てやったぜ!」 「むぅ……」 前脚が持ち上がっていき、爪が閉じられた。自分の重さを利用するアームハンマーがこいつのメイン技ってわけか。 でもな、俺の狙いは……その上げられた前脚よ! 「大技ばっか狙い過ぎだぜ? 隙だらけだ!」 「ぐぅ? な、なん!?」 持ち上がり切った瞬間を狙えば……ひっくり返す事も難しくはない。 もうすぐ攻撃に移る場所に飛び込んでいくサンダースなんてざらには居ないだろう。もし避けそこなったら、タイプとか関係無く戦闘不能になっちまうからな。 でも俺は馬鹿だからよ……それしかできねぇんだよ! 「おらっしゃぁぁぁぁぁぁ!」 「ぐ、おぉぉぉ!?」 掌打を思いっきり振り抜いてやったぜ! ははっ、予想通り、そのままひっくり返してやるのに成功! 「ロス君どうしたの? ロス君!?」 「この作戦の欠点は、どうやらそっちにも状況が分からなくなる事みたいだな、カランさんよぉ!」 俺が編み出した新技、行くぜ! じたばたしてるメタグロスの上に乗って、左前脚を体の中心にすえる。 残った右前脚に力を溜めてぇ……一気に左前脚へ振り下ろす! 昔の人間が鎧を着た相手に用いた戦闘技術、古武術から編み出した秘技。名は……鎧通し! 「ぎぃっ!? が……は……」 「効果は絶大、ってか?」 派手な音はしないし、若干ながらこっちもダメージを受ける技だけどよ、効果は見ての通り。へっ、四肢が震えてそのままばたんきゅーってな。 無理も無いな。使いどころは難しいが、相手の内部に直接衝撃を捻じ込む技だから防御は殆ど無視。今までに受けた事の無いダメージだろうよ。 よしよし、完全に倒せたみたいだな。カランのボールに戻っていったぜ。 「嘘、ロス君がやられちゃったの!?」 「そういう事だな。なかなかお目に掛かれない相手だったし、それなりに楽しめたぜ」 どんな顔してるのか分からないのが残念だぜ。やられた直後の挑発だから、多少なりとも効果はあったはずだぜ。 さてと。これで後は5匹か。この砂嵐の中で戦うのはちょいと苦労しそうかねぇ。 「うぁぁ!」 ……どうやら、4匹に減ったみたいだ。今の叫び声はレンのものじゃなかった。カランもちゃん付けで呼んでいたし、間違いないだろ。 「バンちゃん!? まさか……」 「ごめんねぇ? でも、私も負けられないの」 「うぇぇ!? レンがカリンのバンギラスを倒したのか!?」 「うぇぇ!? レンがカランのバンギラスを倒したのか!?」 巻き上げるように吹いてた風が穏やかになっていく。クリアになっていく視界に映るのは……倒れたバンギラスの前に佇むレンの姿だった。 そのままバンギラスもカランの元へ戻っていった。とりあえず、第一陣はこれでしのいだ。最初からとばしてきたもんだぜ……。ってかそこに驚くのかよマスター……。 「レン、大丈夫か?」 「うん、平気だよぉ。ライトは?」 「砂嵐でちょこっと削られたくらいかね? まったく問題無いけどな」 「えぇっ!? じゃあ、どっちも殆ど攻撃受けてないの!?」 「スピード重視の俺達に重量級じゃあなぁ?」 「強い攻撃も、あんまりそればっかりだと動き覚えちゃえるしねぇ」 という事は、レンは出された技を全部避けたって事か。それはすげぇな。 お? 無傷で俺達が二匹を倒したのが相当ショックみたいだぜ。これなら、揺すれば戦意喪失も狙えるか? 「どうするカランさんよ、まだ続けるか? 俺達の実力は見せたとおりだぜ」 「う……ま、まだこっちには4匹も居るんだもん、続けるわよ」 「カランさん……手加減は、しないよ?」 おぉ~、なんとも頼もしいぜ。そのレンの一言でカランも焦ったみたいだな。 さっきの二匹との戦いで分かったが……ポケモンの選び方なんかは悪くないんだけど、タイプ以外の相手の力量を測れてない。ま、どっちにしろマスター同様まだまだだな。 確実に数を減らしてやれば、まぁまずやられる事は無いだろ。 「うにゅぅ~! 負けないんだから! アゲハ君、テンちゃん!」 今度はアゲハントにダーテングか。やれやれ、本当に珍しいところを揃えてるな。あ、マスターもかなり珍しいの揃えてるか。 俺寄りにダーテング、レン寄りにアゲハント……ダーテングが悪タイプ持ちなのを考えても妥当だろうな。 「アゲハ君は銀色の風、テンちゃんは影分身!」 「ほぉ……考えたな」 銀色の風で俺達を牽制しながら、ダーテングの分身でこっちを撹乱する気か。確かに囲まれると走り回るのは難しくなるか。さっきヒントやっちまったしな。 一先ずはレンの前に出て、銀色の風を遮るとしますか。 「レン、ちょこっとバックしてしゃがみな」 「え? って、ライト危ないよぉ!?」 アゲハントの鱗粉が含まれた風……直接受ければそれなりにダメージがある。でも正面からだけに限定出来れば、俺が盾になって十分にレンを守れる。 あててて……倒される事は無いにしても、受け続けるのは得策じゃねぇな。 「うん、アゲハ君はそのまま続けて。テンちゃんは悪巧み」 「ちっ……そこからあのアゲハント狙えるか?」 「出来るけど、ライト大丈夫?」 「心配するなら、ちゃちゃっと頼むわ」 「分かった、それもそうだね」 影分身は撹乱用としても、悪巧みだと? 確か、特功を高める技だよな。……ちょっとばかし、嫌な予感がしやがるぜ。 レンは俺の後ろで……この感じ、波導弾だな。そいつを練ってるようだ。この風を突破してアゲハントにぶつけるのには、そりゃやっぱりある程度の錬成が必要か。 ぬぅ……風が強くなってきやがった。そういや銀色の風は発動者の力を増す効果もあったか……多分、その所為だな。 「……よし、これなら多分大丈夫だよぉ」 「オッケー、派手に頼むぜ!」 「うん! いっけぇ!」 上に向かって波導弾は飛んでいった……だ、大丈夫だよな? 地味にきつくなってきてんだけど。 「あ、アゲハ君避けて!」 「え!? うわっ!」 「えへへ、誘導成功♪」 「お見事! よし、風も……止んだぜ!」 待ってました! んの野郎バサバサバサバサ風起こしやがって! しんどかったっての! どうやら波導弾は背中に命中してたみてぇだ。つんのめったみたいに倒れてやがる。十分に追撃出来るぜ! 「わわっ、アゲハ君早く起きて!」 「い~や、そのまま……寝てな!」 掬い上げるようにしてアッパー! ……決まった。我ながら完璧に意識を刈り取る一撃だ。 って……おいおいおいおいちょっと待て待て! なんであのダーテング、攻撃のモーションに入ってる!? 「もう逃がさないよ!」 「……え?」 「アゲハ君! ……でも、これでレンちゃんには休んでもらえるよ」 「なん……だとぉ!?」 遠距離からって事は特殊技! ダーテングの掲げる手の間に光が集まってる……やっべぇ、あれは! 「まさか、テンちゃんが撃つ前にアゲハ君が倒されちゃうとは思わなかったけど……やっちゃえテンちゃん!」 「行くよ! ソーラァー……ビィィィーム!」 ちくしょう、こんなもん狙ってやがったのか! 指示したのは間違いなく悪巧みが終わった後……くそ、風圧が上がった所為で向こうの指示が聞こえなかったんだな! レンが立ち上がろうとしてるところを狙われた! 体勢の整ってない状態じゃ、避けるのは無理だ! 間に合うか!? いや、絶対に間に合わせろ、俺! 「うっ、あぁ……」 「ごめんねレンちゃん……でも、ちゃんと手当てはするから許してね。お兄ちゃんがだけど」 「レ、レン止まるな! そんなの受けたら一撃でやられるぞ!」 マスターの言うとおりだ。予想以上に技の効果範囲が広いし、何より光の密度が高い。仮にかすっただけでもかなりの体力を持ってかれる。 もう少し時間があれば弾けるが、弾くのには溜めが足りない。なら……やる事は一つ! 「させるかぁぁぁぁぁ!」 「ライト!?」 「え……ライト君!?」 当たる前に飛び込んで、俺がソーラービームを受けるしかない。じゃなきゃどっちにしろ、レンのダメージは避けられない。 「ぐっ……がぁぁぁぁぁぁ!」 「だ、ダメ、ライト! さっきも銀色の風いっぱい受けてるのにそんな事したら!」 「カラン止めろ! このままじゃライトがもたない!」 「テンちゃん止まって! お願い!」 「む、無理よぉ!」 こりゃ……まずった、我ながら油断したもんだぜ。ジリジリ毛が焦げていきやがる。とんでもない熱量だ、それに速度もあって逸らせねぇ。 このまま受けてたんじゃ、後ろのレンも余波でやられる。まったく……加減知らずにもほどがあるだろ。 ……心を落ち着かせろ。一つでいい、それ以上は開放するな。このソーラービームだけをなんとかするんなら、それで十分だ。 来い……俺の中の、雷! 「ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおあああ!」 「なんだ!?」 「……ライトが……光ってる……」 開放した電気を前方に全て集中! これが俺の電撃による絶対防御、『雷の壁』! そのまま……ソーラービームを散らしちまえ! 「す、凄い……あのビームを、打ち消してる」 「何? 何が……起こってるの?」 ……残存エネルギー、無し。無力化完了だ。はっ、我ながら化け物じみた力だぜまったく。 やらかした……目撃者が多過ぎる。こりゃもう、隠してられないな……!? 「ごふっ、うぐ……」 「え? どうし……い、いやぁぁぁぁ! ライトしっかりして!」 「どうしたレン!? な、血!?」 「え? え?」 あ、物凄い久々の力の解放+ダメージで体がいかれた。やばっ、中を傷めちまった……。 不味い事が上塗りされてくぜ。今日は……厄日か? まじぃ……もう、意識がもたねぇ……。 すま……ねぇ……リィ……や、く……そ……く……。 …………。 ---- 後書き(中書き)です やれやれ、諸事情で中編が誕生です。後編はもう少しお待ちください。 まだまだ続きますよ。 そして主人公ライトがダウンしたので……次から視点が変更されます! ご注意下さい! ---- コメントはこちらにお願いします。 #pcomment