ポケモン小説wiki
兇暴サザンドラ の変更点


登場人物

ポポ(オノノクス♂)
めんどくさがりやでフィラの実大好き

ノノ(サザンドラ♀)
恥ずかしがりやでモモンの実大好き
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はじまり


 あの洞窟には、凶暴な竜が住んでいるんだ。今まではいってきたポケモンは、みんな悲鳴をあげて、涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにして逃げるように洞窟から這い出ていく。洞窟の中は巨大な口の中のように、常に鍾乳洞から水が漏れ、あちこちに木の実の残骸や、ポケモンの骨が散らばっている。鼻を突くような腐臭と、頭が割れるような気味の悪い鳴き声――
 あそこにはきっと化け物みたいにおっかない竜が潜んでるに違いない。こういうとき、村の自警団であるお前がやるんだ、ポポ。おまえは自警団のリーダーで、体躯も大きいし、何よりみんなを率先して引っ張る力も持っている。お前しかいない、お前ならできるって、あ、そんなめんどくさそうな顔をするな。ちゃんと報酬も用意してあるから。ほら、お前の好きなフィラの実を四個ばかり、え?もっと増やせ?おまえは何を言ってるんだ。俺を飢えさせる気か、なに?へそくりを使えって?なんでお前がそれを知ってるんだ!?――え、もっとくれないならやらない?それでも自警団かお前は!!あ、ごめんなさい、わかりました、もうちょっと増やすからお願いします。行ってください、退治してください、兇暴な竜を、お願いしますオノノクスのポポ様。同じドラゴンタイプだから大丈夫だよね、俺が行けばいいって?いや、おれはそのほらあれだあれ、資料の整理があるからはははあはあは――
 じゃ、がんばってねー。


1


「なぁんでこんなことしなくちゃならないんだか……」
 村を離れて五分ほど歩いたら、俺は口から不満を垂れ流し始めた。とはいっても、進んでいるのは俺一人。野草やら木の実のくいかすやらを踏みつけて、げんなりしながら散歩気分で村の外れの山の中の岩が並んだ池の奥から左に進んだ場所にあるへんな洞窟に向かっているだけで、特別変ったことがないからこそ、面白みも何も感じないこの状況がとても退屈だった。別に面白ければいいというわけではないが、やはり何の益もない行動は胃の底にたまるものがある。
 何の変哲もない俺の住む村の自警団のやつらが、今まで何の変哲もなかった洞窟に目を向け始めたのは、つい最近のこと。なにやらへんな声が聞こえるとか、血を啜るような音が聞こえるとか、洞窟の奥底でぎょろぎょろと光るようなものが見ていたとか、眉唾ものの話を自警団のリーダーである俺に話した。遠回しに様子を見てほしいということだと思ったが、そもそも遠いんだからそんな所に行かなければいいじゃんと返すと、何かがいて取り返しのつかないことになったらどう責任をとるのかとご都合主義全開の理屈をこねくり回して、おれの腰を動かそうとした。
 もちろん、筋は通っているし、おれ自身も自警団に入っているからこそ、危険が迫ったら、村を守らなくちゃいけないという気持ちを先行させる、めんどくさがりやなおれでも、やる時はやる。何かあってからやる気を出しては遅いことくらい、アバゴーラみたいにのろのろした人生を歩んできた俺でもわかる。アバゴーラは殻を破ってすっぽんぽんになると速くなるけど。かといって、おれだけ行くのはもしかしたら心もとないと思い、同じ自警団のポケモンたちに連携を取っていくようにと促したが、全員顔面を蒼白させて、首を横に振った。お前らそれでも自警団かと思ったが、聞いたところ、全員洞窟にいって逃げかえったらしい、昨今のポケモンというのは、肝っ玉が小さくなったなと思ったが、全滅なら仕方がない、俺一人で行くしかないということになったが、さすがに危険があると思い、無償では梃子でも動かない怠惰のポーズをとったら、好物の木の実を十個あげるからという取引の下、若―い村長の意見を尊重して――
――現在にいたる。
「大体、暗闇から目が六つ光ったとか、口が三つあるとか、トリコロールな光線を吐くとか、ねつ造しすぎだっつーの」
 そんな生き物いたら腰を抜かすどころではない。たぶんこの世の物とは思えない悲鳴をあげて、そりゃ虫のように這いずりまわって逃げ出すかもしれないが、いまだかつてそんなポケモンを見たことがない、いるかもしれないけど、伝説上のポケモンだろう。生き物というのは、強烈な印象を受けたことを他者に伝えようとすると、決まって頭の中で勝手に肥大化させてしまうものだ。今まで襲われた自警団のやつらもきっとそうに違いない。
「あー、馬鹿くさ」
 急にやっていることがあほらしくなってきた。たぶん自警団のみんなは洞窟の中に光る石とかを見てびっくりしたとか、光の反射でトリコロールな光線を見たとか、そんな感じだろう。現実的な方向に思考を泳がせると、どうもただの散歩にしか思えなくなって、帰ろうかと思ったが、洞窟を探索するだけで大好物のフィラの実を十個ももらえるのだと自分の心に甘い囁きをかける。歩いて適当なゴミのかけらでも拾って仕留めたと言い張ればいいだろう。証拠隠匿のために洞窟の入り口を塞いでしまえばいいだけだ、オノノクスの力なら巨石を持ち上げることも大して苦にならない。自警団の連中で巨石を持ち上げられるとは思えない。素晴らしい証拠隠匿だ。
「楽しみだなー」
 もう洞窟の探索よりも報酬のフィラの実をもらって何を作ろうかなどという皮算用を思いながら、俺は口の端を釣り上げてほくそ笑んだ、足取りが軽くなって、視界に池が見えてくる、よしよし、あとちょっと。待ってろフィラの実(十個分)。
「今夜は木の実パーティーだー」
 いい年をしてはしゃいだ声を上げながら、池を通り越してそのまま洞窟の方向へと足を進めていくのだった。


2


 洞窟の入り口に来てみると、妙なにおいが充満していることに気がついた。鼻を衝く異臭――というほどではないが、確かに変なにおいがする。甘いよう酸っぱいような臭いが大量に芳香剤のように漂っている。
「うぅっ……なんか木の実の汁が垂れたにおいだな」
 鼻を突くとは言い難いが、長時間嗅ぎたいと思う匂いではなかったのは確かだ。とにかく行動をと思い、洞窟の中に入り込む。湿気とむせ返るようなにおいが充満して、獣の臭いとか血の臭いとか、想像していたものは全く見当たらなかった。洞窟が妙に明るく感じて、周りを見渡すと、壁には打ちつけられた燭台のようなものに立った蝋燭が、淡い火を燃やし続けていた。
「自警団の仲間たちは何を見てたんだ?」
 首をひねりながら、燭台に近づいてみる。人が作ったような印象があり、何度も何度も蝋燭を取り換えたような跡がある。少なくとも、自然物ではないということはわかった。他に見るところはないかと視線を足元に移すと。いろいろなものが散乱していた。野葡萄の皮とか、食べられる野草の茎とか、この近辺に生っている木の実の種とか、そういうものが見られただけで、腐臭とか異臭とか目を背けたくなるようなグロテスクな肉の塊とか、そういうものはなかった。やっぱりねつ造だった。自警団のみんなは背中に目が付いているのだろうかと思いながら、ゆっくりと歩みを進めていく。
「誰かが暮らしたような跡――食べ物のカスとか、就寝をとった場所とか、特に変わったものとかはないな――」
 まだ何かがあるだろうかと思いながらも、とくにそれ以上変わったものは見つけることができなかった。これ以上見つけてもどうせゴミばかりだと思ったのはある意味正解、ある意味間違い、かもしれない。
「生活した跡があるってことは――」
 もしかしたら、と思ったが、それ以上考えるのはやめておいた。俺の考えることはそういうことばかりで、もしかしたら、なんて希望的観測はない。やっぱりとか、こうなると思った、という言葉のほうが後に出てくるから、もしかしたら、という言葉は使い方を考えなければいけないような気がした。
 もしかしたら、という気持ちを心の中にしまいこんで、何が来ても恐れないように胸に手をあてて、息を大きく吸い込む。こんな気分になるのは久しぶりだし、最近緊張感というものが著しく損なわれている気がしたから、こういう出来事はもしかしたらありがたいかもしれなかった。フィラの実ももらえるし――
「生活した後だけなんてことはないだろうからなぁ……」
 そうであることを祈りたいが、それももしかしたら、のうちにはいる。つまり希望的観測だ。そして、希望的観測というものは、総じて外れる傾向にある。だからあまり考えないようにして、緊張感を保ったまま壁に手をつけて、明かりをもとに進んでいく。ろうそくの光は途中で途切れて、あとは真っ暗な闇が周りを塗りつぶしていた目が慣れるまで慎重に進もうと思いながらも、俺は何もいないんだろうなぁと無意識に思っていたから――
――闇からこちらを見つめる六つの瞳を見た瞬間に、腰を抜かした。
「おわぁぇ!!!」
 非常に情けない声をあげてしまった。今だれもいないことに切実に感謝した、腰を抜かして、思わず素っ頓狂な声を上げた俺を見たら、それ見たことかと自警団のポケモンたちはやたらとはやし立てるに違いない。案外人のこと言えないからきっと俺は反論することもできずに棒立ち状態になるだろう。しかし今はそんなことを考えている場合じゃない。こんなことを考えている俺の脳みそは相当平和ボケしているんだろうと思った。平和が一番なのはもっともな意見だが、たまにこういうアクシデントがあるとすぐに思うように動けなくなっちゃうからやっぱりある程度の危機感は持っておいたほうがいいんだろうなー……
 そんな悠長なことを考えている間にも、自分自身の身に危険というものは迫るものだ。とりあえず睨みつけられているような六つの瞳が濁った紫色をたたえて、とにかくこっちを見続けているのがとにかく恐い。相変わらず腰が抜けて立てない状態な情けない自分を恨みながらも、とにかく逃げるなり攻撃するなりして何とかしなければ、こんなところで命を散らす気は毛頭ないと思いながらも、それができないのはやっぱり腰がまだ立ち直っていないからである。
 そんなことを考えていたら、ゆっくりと眼が近づいてきた。自警団のみんなはとりあえず睨みつけられただけでびっくりして腰を抜かして逃げ出したらしい、俺もそうなるんだろうなぁと思いながら、今すぐに目をそらして這いずってでも逃げたい感覚にとらわれる。
「…………」
「く、くるなら、こい――おれは、ただじゃ死なない!!」
 口から出た言葉が何とも情けないと思いながら、何とか立ち上がれた。本心を打ち明けてしまえば、今すぐに回れ右して全力で逃げたかった。そこまで足に自信はないけれど、火事場の馬鹿力というものを信じて逃げたい気持ちになったが、逃げたら自警団のみんなと一緒になってしまうという安っぽいプライドが、逃走のひと押しを邪魔していた。
 暗闇に移る瞳は、襲い掛かることも、声を出すこともしない、いったい何がしたいのかわからなかったが、沈黙が続くとこちらも手出しがしにくいという理由もあったのか、恐怖心を振り切りながら言葉を絞り出す。
「お、おい、何とか言ったらどうだ!!」
「!!」
「こ、こっちはお前なんて怖くないぞ、俺はオノノクスなんだから、力だって強い、そんじょそこらのポケモンなんかに、負けないんだ!」
 言っていることが支離滅裂になってきて、なんだかよくわからないが、死にたくなった。なぜおれの口は相手を刺激するような言葉を発しているのだろうか、自分の言葉に後悔をもったのは生まれて初めてかもしれない。のんきなことを考えていたら、六つの目が、困惑したように濁った光を湛えた。その瞳に映っている俺の顔はとても情けないくらいのから元気だった。頭の中で困惑する思考を整理しようとしたら、か細い声で何かが聞こえてきた――
「ぇと、ぁの……ひ、ひっく、う、ご、ごめんなざい……」
「……え?」
 何が起こっているのか全く分からないまま、真ん中で光っている瞳からぽろぽろと水の粒がこぼれおちる。不審げに思い、探索用に持ってきた松明をごそごそと弄り、火を付けた。周りが明るくなって、眼が少し痛んだ。にじむような明るさに慣れてきて、目の前のポケモンがゆっくりと見えるようになる。
 三つの首に、ふわふわと浮いた大きな体、黒と青を基準にした少し暗い目の色合いの体色。一目見れば、ドラゴンポケモンだとわかり、そして一目見れば、そのポケモンが泣いていることがわかった。
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「ご、ごめんなさい、ぼく、ぼく……怖がらせたりしません、悪いことなんてしません、だから、だから――怖がらないでください、嫌わないで、うっ、うぇぇぇっ――」
 目を真っ赤に泣き腫らして、洞窟に嗚咽の声が響き渡る。
「……君は――」
 それが俺が初めて出会った新しいドラゴン。サザンドラのノノとの出会いだった。


3


「つまり君は、この洞窟にすんでたのか」
 泣きべそをかいていたサザンドラを落ち着かせて。その場に座り込んで、話を聞いたら、彼女はこくこくと大きな頭を頷かせた。
「名前を聞かせてくれないかな?教えないなら、泣き虫サザンドラってつけるけど」
「や、やめてよぅ……僕の名前は、ノノ」
「ノノ……ね。俺はポポ、よろしくね、ノノ」
 ノノが名乗ったのだから、こちらも名乗らないわけにはいかないと思い、俺は自分の名前を口にする。正直名前が可愛らしくて、自分の名前は好きじゃない。あまり威厳というものや、ネーミングセンスというものを気にしない性格だったけど、村の子供たちに、「ポポさんはとってもかわいい名前」と言われたことがあって、あまりにもショックを受けた。子どもゆえの純粋無垢な言葉と受け取れたかもしれないけれど、もしかしたら村の大人たちもそんな風に思っているんじゃないか?と思ったときに、自分の名前を気にするようになった。つい最近の出来事だ。
「ポポ……すごくかっこいい名前だね。ポポ。ポポ」
「あまり人の名前を連呼しないでくれないか、ノノ」
 きゃっきゃ、と子供のように喜ぶノノをじっとりとねめつけると、ノノはしゅん、と頭を垂れて、口元を尖がらせた。そこまで落ち込むことでもないと思ったけど、ノノはもしかしたら他のポケモンと話すこと自体が久しぶりで、嬉しかったのかも知れなかった。それを表すかのように、まだまだ話し足りないといった風情で、左右の頭がパクパクと喋りたそうなノノの思考を代弁していた。
「さて、ノノ。君はどうしてこの洞窟にすんでいたんだい?俺に詳しく話せるなら、話してほしい」
「うん――」
 ノノは、待ってました、と言わんばかりに瞳を輝かせて、自分がどうしてこの洞窟に住みつくようになるのかを語り出した。
「僕は……子供のころは違うところに住んでいたんだ。どこだったかな、ここよりももっともっと遠いところで、僕は小さい時からそこにいたんだ。だけど、進化していくうちに、僕って他のポケモン達とは違うんだって、自分で思ったんだ。自分で思って、もしかしたら迷惑になるか持っていう風にも、思った。僕の住んでいる所にはいられないって思って――」
「いろいろな所に行ったわけか?」
「うん、そうだよ」
 この話を聞いたときに、純粋に驚いた。人が大声を上げただけで泣き出す弱虫かと思っていたが、もしかしたら意外と芯は強いのかも知れない。しかしよくよく考えてみると、洞窟内で大声を出すことは迷惑行為であるし、そもそも泣き出したのも自分のせいだ、と自分の心が激しく自分の頭を叱責していた。そういう細かなことをとっさに思いつけないのが、めんどくさがり屋の宿命か、と自分を卑下しつつも、俺は苦い顔をした。
「大変だったんじゃないのか?寝る場所、住む場所、食べ物や飲み物、自分で調達するのは困難だし、外で寝るにしても、住む所に自分の体があわなければ、厳しい時間になるだろうし、そういうのは大丈夫だったのか?」
「ううん、大丈夫じゃ無かったよ、虫ポケモン達に乗っかられたり、とっておいた食べ物を食べられちゃったり、寝る所を見つけたらそこは他の人の所だった、っていうのもあったかも……僕、臆病で馬鹿だから、すぐにごめんなさいって言って、自分から下がっちゃうの」
 なるほど、臆病というのはあながち間違ってはいなかったようで、今現在俺と会話している状態でも、声は少し下がり気味で、なんだか緊張しているようでもある、でも、人と話したい、という気持ちが瞳の奥から伝わってきているから、物おじはせずに自分の意見はしゃべることができる範囲で吐露しているようにも見える。どうしてそんな風に自分の思いを先行して伝えたがるのかと、不思議に思ったりもしたが、もしかしたら、と思ったら、ノノは少しだけ呼吸をおいて、調子を整えると、静かに続きを吐き出した。
「僕は、みんなに怖がられたくなくて、嫌われたくなかった。最初に進化したときに、鏡を見たら、僕は顔が三つ、翼が六つ、不思議な姿に代わって、思わず悲鳴をあげちゃった。すごく怖い姿なんだってことも、姿を見てから、ちょっと考えてみて、僕自分でわかったんだ。だから、みんなきっと僕のことを怖がるだろうって。だから、迷惑にならないうちに――」
「自分の姿を知られないうちに行方をくらました、ということか」
 被害妄想や先入観の思いで行動する癖があるように見えて、少しだけ眉を顰めた。確かに怖いと思われることが嫌なことだとは思うが。姿かたちが変わったところで、性格もまるっきり変わってしまうわけではない。だからこそ、自身の姿形が変わってしまったとしても、一度でもいいから恐れずに話しかけ、立ち向かうことも大事だと俺は思った。事実、俺はそうやって自分のことを相手に認識させるに至った。
「うん、僕、本当に嫌われたくなかった。僕のせいで、みんなに迷惑をかけたくなかった――だから出て行った。きっとみんなは、僕が行方不明になっちゃったって思ってる。でも、それでいいんだ」
「……ノノがそう思うなら、俺がこれ以上何かを言う必要はないな。――でも、そう思っているなら、なんで嫌わないで、怖がらないで。何て言ったんだ?」
「それは――」
「本当は、一人ぼっちが嫌なんじゃないのか?ノノは」
 言葉にしてみると不思議な感じがした。一人ぼっちというのは、好むものと好まれるもの。自分からなるものと、勝手になっているもの、そして、嫌が応にも輪からはじかれるもの。ノノは、きっとはじかれる前に自分で自分のことをはじいたんだ……。
「僕は……ここに来る間、ずっと一人だったんだ。だけどね、他のポケモンの皆がここに来るたびに、僕はわくわくしたり、ドキドキしたりしてた。もしかしたら、って心がドキドキしてたりした。だけど、暗闇で僕を見たり、明るいところで姿を見た皆は、びっくりして腰を抜かして、逃げちゃった」
 そう言って話しているノノの瞳には、先ほどのように大粒の涙がいっぱいたまる。純粋にわけがわからないまま逃げられた理由が分からず泣いているのだろうか?そう思うと、子どもなんだろう、という思いが膨らんだ。
「僕、何か悪いことしちゃったのかな、ここにいるだけで、僕、僕、悪い子なのかな……だ、だから、みんな僕を、嫌って――」
 そう言ってまたわんわんと泣き出した。大きな声が洞窟内に反響して、パラパラと小石が降ってくる。やっぱり子供なんだろうかという気持ちはさらに大きく膨らむ。
(だけど、この子の思うことは、間違いではない)
 そう思える。自警団のみんなは、勝手にこの子のことを膨張させて恐ろしいポケモンだと思い込んだ。そしてこの子は、自分が悪いことをしたポケモンだと思っている。三者の目で見れば、どちらも悪い、という風に見てとれるかもしれないが、俺には自警団のやつらが悪いように見えた。どうしてそう思うのかはか分からないが、おそらく自警団のみんなの被害妄想が原因だと思った。
「ノノ、気味が悪いことだとは思わないけど、いいこと、だとも言い難いかな」
「ひっく、――え?」
「考えすぎるな、ってことさ。確かに、見た目が悪いと悪い奴だって判断されちゃうかもしれないけれども、自分のことを話しても見ないでみんなに悪いから、っていう理由で人のことを避けるのは、気遣いじゃなくて、逃げ、じゃないか?」
「逃げ……なのかな……僕には、わからないや」
「わからないなら、わかろうとしてみることも大事だ。実際、俺は君のことを見たけど、怖い奴とは思わないし、かといって思慮深い奴、とも思わない――しいていうのなら、子供かな」
 子供、という言葉に、ノノは瞳を大きく瞬かせた。それに呼応するように、左右の頭もパクパクと口を開閉した。
「子供、うん、僕はきっと子供だよ。わからないんだ、みんなに隠れて暮らすことで精いっぱいだった。みんなの気持ちとか、わからないんだ」
 そう言って悲しそうな顔をするノノを見て、どうしたものかと考える。明かりが少しだけ小さくなって、松明の炎をどこかにともせないものかと考える。それと同時に、若い村長からの依頼を思い出し、鬱屈とした気分になった。ありのままを説明するのなら、たぶん報酬なんてもらえない。ここまで来たのだから、フィラの実十個は惜しかった。かといって、ノノをこのまま放置しておくわけにもいかない。
「そうだなぁ……じゃあ、俺がノノに教えてあげるよ。相手との話し方とか、友達の作り方とか、全然わからないよりも、わかった方がいい時だってあるだろう?」
「え?ほんとに!?僕にそんなすごいことを教えてくれるの!?や、やったー!!」
 ガマガルみたいにぴょんぴょんとびはねて喜ぶノノ。その仕草は見た目とうって変わってとてもかわいらしかった。サザンドラもよく見ればもしかしたらかわいいのかも知れない。
「ありがとう、ポポ!」
 そんなことを考えていたら、松明を持っていない方の手を、ノノの左右の頭がぱくりと食らいついた。食いちぎられるかと一瞬鳥肌が立ったが、どうやら左右の頭の口には歯がないらしい。逆に飴をなめるように口内の舌が指先の間接やら指と指の間やらを愛撫するように舐めまくる。おそらく感謝の表現であるが、いろんな意味で鳥肌が立ちそうだった。
「おうわっ!!おっ……ぉぉお!!……ま、まぁ、お礼を言われることでもないけどな、でも、教えてもらうからにはちゃんと俺のことを礼節を持って接してくれよ?」
「……??れいせつ?なにそれ?食べ物?おいしいの?」
どうやら難しい言葉はわからないようだ。他人との接し方のほかに、一応勉学とかも教えておいた方がいいと、俺は指をなめられながら思うのだった――。


「あ、お帰りポポ、どうだった?」
夜、村に帰り、村長の家の門徒を叩くと、期待を含んだ顔を見せて、若いアブソルの村長は目を輝かせて、俺の顔を見て、少しだけ落胆した。どうやらおれも他のポケモン達のように、びっくりして腰を抜かして逃げかえってきたという思いを、少しはもっていたらしい。確かに腰を抜かしたし、びっくりもしたが、あいにくとそこは見られていない。
「どうだったと言われてもな、村長さん。別段怪しいポケモンもいなければ、恐ろしいポケモンもいなかった。食べ物のカスやらなんやらは大量に残ってたけどな、だからと言って、それだけだったよ。特に何かがいたとか、変なにおいがしたとか、そういうものはなかった」
「ええ?本当に?」
「本当だよ」
俺は揶揄を含んだ笑いを村長に返すと、村長は少しだけ眉を顰めた。どうやら俺の話に納得がいっていないような、そんな顔だった。
(そんな顔するくらいなら、自分で調べに行けばいいじゃないか)
そう思いたくなる気持ちがゆっくりとのし上がる。それを言ったらおそらく首を横に振って汗を流して、お断り、というに違いない。そういう弱腰のところもひっくるめて、俺に白羽の矢を立てた以上、俺の言葉で納得してもらうしかない。
「とにかく、そんな顔したって、何もないのは何もないんだ。ちゃんと調べてきた。フィラの実は十個、ちゃんともらうからな」
「うむむ、俺にもう少し力があれば――その、二個くらいまけて――」
「いやだ」
即答した。その言葉を聞いたら、村長はとても嫌そうな顔をして、がっくりと頭を垂れた。そして恨めし気に肩をゆすると、真紅の瞳を濁らせて、唇を尖らせた。
「まったく、最近の若い者は、ちょっと散歩に行っただけですぐに報酬をもらいたがる、物を調べるっていうことの意味をしっかりと把握してないから、ちょっと調べただけですぐに報酬報酬って恥ずかしくないのか全く」
子供のころから一緒にいた村長の発言に、やれやれと首を横に振る。あんたも若い、とは言わない。若くして村長に抜擢されてしまった彼の気苦労は、推して知る由もない。おそらく白い体毛がストレスで抜け始めるのも、そう遠くないのかも知れなかった。
「あんたとおれは子供のころからの付き合いだ、俺は嘘は言ってないし、不利になるような情報も垂れ流しているわけじゃない、事実をありのままに、村に伝えただけだ」
そういうと、ぐうの音も出なくなったのか、ブチブチと呪いのように垂れ流していたお小言のような愚痴も聞こえなくなった。不平不満を流すなら、自分の足で行ってこい。と思いながらも、革の袋に詰められたフィラの実を乱暴に突き出す村長を見て、くすりと微笑を浮かべた。中を確認すると、十二個入っていた。
「おーい、村長、二個多いんじゃない?」
「……一応無理をいった手前、こちらとしても情報提供に対する報酬の上乗せだ。これからもよろしく頼む。ポポ」
少しだけ頬を朱に染めて、そんなことをいう。これだからこの村長は嫌いになれない。妙に理屈っぽくて、やたらと仕事を押し付けたりして、前の村長とはうって変わってめんどくさいことも多いけれど、村長としての責務は果たしているし、それに見合った謝礼や、ちょっと気の利いたサービスもしてくれる。だからこそ、いい村長だと思うし、いい友達としてやっていける仲でもあることを、この行為で再認識した。
「これはどうも、ありがたく受け取っておきますよ。村長殿」
「これからも治安維持の向上に努めてほしい、自警団隊長殿」
皮肉でも揶揄でもないこのやり取りを聞きながら、胸の奥がすっとするのを感じる。明日になれば、またおそらくはあの洞窟に行くことになるだろうが、その旨を村長に伝えておくのは、明日でもいいか、などと思いながら、俺は軽い足取りで家路にたどりつく。木製のドアをゆっくりと引いて、部屋の中に入る、果物の変なにおいが充満して、少しだけうっとくるものがあった。そんな気分を払いつつ、ぼろぼろの質素な木の机にもらったフィラの実を置く。ぎしり、と嫌な音がした。そろそろかえなければいけないが、金がない。
「さてと、何を作ろうかなー」
宵が深くなってきてはいるが、あふれる好奇心、料理への渇望、食事の欲望を抑えられない。空腹というものはいつだって、唐突にやってくるものだった。夜だろうが朝だろうが黄昏だろうがなんだろうが、腹が減る時は腹が減る。そしてそれを満たすのは、自分に合った食事だ。
「うーん、これだけあるんだし、冷凍保存もした方がいいかな……」
そんなことを考えながら、頭の中で膨らむフィラの実料理を思い浮かべつつ、口を大きくあけてよだれが流れそうな時に、ふとある言葉が頭をよぎった。
――え、ぼくにそんなすごいことを教えてくれるの!?
 すごいことなのかどうかは知らなかったが、教えると言ってしまった手前、逃げ出すわけにもいかない、やたら気に入られてしまったことも反映しているかもしれないが、俺の心の中ではどうもそれだけではないような気がして、首を捻る。それが何なのか、俺には分からない、とにかく、何かが、また彼女に会いたい、という気持ちを押しているというのはあった。
「やれやれ、わからないものに突き動かされるっていうのも、なんだかな」
 ぼうっとしながら、四つのフィラの実の皮を丁寧にむき、流し台に置いてあった清水の中において、奇麗に揉み落とす。汚れや変な虫ポケモンがひっついていないかをよく確認してから、机と同じくらいのぼろぼろの保冷庫から微妙に湿ったパイ生地を取り出した。カビが生えてないか心配だったが、チーズを食べていると思えば大丈夫だろうと念をかける。
 ゆっくりと洗ったフィラの身を一口大にきざむ。爪とか牙とか尖っているものがあると、包丁やらなんやらを使わなくて本当に助かる。尖っている分細かい作業は難しいが、要は慣れだ、こういうのは慣れるしかうまくなる方法がない。そう自分に言い聞かせながら、石の加熱台の下の薪口にこれまたしけった薪を四、五本突っ込む。火がつきますようにと念じながら、口からゆっくりと、小さめの炎を吐きだす。ひゅるひゅると小さな炎が薪に引火して、何とも頼りない炎が燃え上がる。今の俺の精神状態を表しているような気がして、何とも言えない気分になった。虚ろうな、ということかもしれない。
 一口大に切ったフィラの実を適当に均一の高さになるようにバターを強いた鍋にばらまいて、そのまま加熱台の上で弱火のひと煮立ち。適当に気べらを動かしている間に、彼女に何を教えようか、と頭を回転させた。
「とりあえず、一般教養かな?」
 一般教養とは何のことを指すのか、と思いながらも、馴染んだフィラの実に砂糖をまぶす。少し鼻に入ってくしゃみが出そうになった。鼻水が入ったものを食べたくはなかったので、ぐっとこらえる。がまんも積もればカウンターというらしいが、よくは知らない。そのままことことと煮込んでいると、少し焦げくさい気がした、たぶんちゃんと混ぜてなかったのかもしれない。あわててそこを掬いあげるようにかき回して、弱い炎をたたえている薪を両手ですべて引っこ抜くと、今度は焼き窯の方にすべて移しかえる。完全に火が消えたのを確認して、少しシナモンパウダーを入れる。また鼻に入って、くしゃみが出そうになった。これもぐっと我慢した。自分の鼻水を自分の口にいれたくはない。その気持ちが踏ん張りを加速させた。
 終わったら卵を木のボウルの上で二個ほど片手で握りつぶす。目玉焼きを作るわけでもなく溶き卵を作るので、握りつぶしても大丈夫だろう、溶き卵に優雅さや気品さは必要ない。ついでに言うと卵のからも必要ない。ちょっと入った卵の殻をゆっくりとつまんでその辺に放り捨てる。くちゃくちゃになった卵を爪の先を使って思いきり溶いて混ぜる。あまり強すぎるとボウルごと粉砕してしまうので、力の加減を間違えないようにした。
(なんにせよ、明日は大変だなこりゃ)
 ため息をつきながら、放置したパイ生地を見る。やっぱり湿っているけど、解凍はできているようだった。端っこを指先でつまみながら、奇麗に二つに裂く。爪は本当に便利だ、爪切りなんてものは必要ないな、と思う。すっかり冷めたフィラの実を麻布に移し替えて、水分を取る。力を入れすぎるとすべて潰れるので、ここも神経を使って、優しくもむように水分を取り去る。水気を完全に切り、割ったパイ生地の片方にフィラの実を乗せる。ボウルに入った溶き卵を刷毛に浸してゆっくりとパイ生地に塗りたくり、もう一つのパイ生地を重ねて、爪で淵を抑える。パイ生地の上部に切れ目を入れて、そこにも溶き卵を塗る。すっかり加熱しきった窯にそれを突っ込んで。ボケっと待つこと十五分。とても美味しそうな――フィラの実のパイができた。
 そんな動作を何回も何回も繰り返し、知らないうちにフィラの実のパイが五個、六個と重なっていく、とても美味しそうな匂いが食欲をそそりはするが――
「あれ?」
 お菓子を作りたいわけではなかったのに、どうしてこんなものを作ってしまったんだろう、と俺は首を傾げた。
「しょうがないなこりゃ、包んで保存しておくか」
フィラの実を丸かじりしながら、げんなりとした顔でほっかほかのパイを見つめて、俺はため息をついた。


4


「おっす、村長」
朝目が覚めると、まず真っ先に村長の家に行く。フィラの実のパイを包んで、首にかける姿は何度鏡で見ても間抜けたような調子になる。こんなことで大丈夫だろうか、と思いつつも、大丈夫と思わなければいけない。という気持ちになる。
「ああ、おはよう。ポポ、どうした?そんな物騒な格好して」
「これのどこを見たら物騒な格好になるんだ」
 このアブソルの思考は少しばかりずれているんじゃないか、と思いながらも、俺は外出の意を伝える。
「ちょっとばかし出て行くぜ。あの洞窟、まだ何かありそうだからな、だれも近付けるなよ」
「ああ、わかった」
 今の言葉は何か違和感を感じられることなく、自然と口から出ただろうか、などと心の中ではびくついてしまう。朝っぱらから、あの洞窟は爆発してしまった方がいいのかも知れないという物騒な言葉を聞いたからかもしれない。自然の生態系よりも、近辺の安全を優先するというのは自警団らしい考え方であり、それも反対はしないが、いくらなんでもノノがいる洞窟を爆破するというのはどうなんだと思った。言った方がいいだろうか?と心の中で思う自分と、言って受けれてもらえるのだろうか、と首を捻る自分がいる。
 言っても受け入れてもらえるには少し時間がかかるだろう。いや、少し、という控えめな言葉ではない。かなり、いや、それ以上だろう。なにしろノノは、俺たちの村のポケモン達からは、とても兇暴なポケモン、という印象をつけられている。話せばきっと印象は変わるかもしれないが、今の村の自警団の連中は、話す前に倒してしまうという雰囲気がびりびりと伝わってくる。
――え?ほんとに!?僕にそんなすごいことを教えてくれるの!?や、やったー!!
 そう言って喜んだノノの顔を、もう一度思い出した。あれは俺を信じてくれた、ということと、もう一度俺に会いたい、という気持ちが込められている。そして、俺はそれにこたえたいという意思がある。
(だから、今みんなに教えるわけにはいかないんだ)
秘め事というのは必ず漏れてしまうかもしれないが、今この状態で秘め事がばれてしまったら、ノノはどうなってしまうんだろう、という気持ち。空恐ろしいものが臓腑を鷲掴みにするような感覚。思わず口を押さえてしまう。
「ダメだ、そんなこと考えちゃ」
 今は彼女に会うことを考えて進まなければいけない。他のことは、あとで考える。今は彼女のことだけを考えた方がいいと思った。
「おっと、そういえば、昼でも暗いんだったな、この洞窟」
 洞窟についたときに、周りを確認する。誰かここにきていないか、俺の後ろをついてきている影はないか、それらを確認しながら、松明に炎をつける。ぼやけたように洞窟が明るくなり、先に進む道を示す。薄気味悪さと湿気の関係か、知らないうちに背筋が寒くなり、背伸びをするように背筋を伸ばしてしまう。敵に警戒されている時や、戦いが近くなる時、闘争本能に火がついたように急に背筋を伸ばしてしまう。
(……癖、だな)
 自警団に入ってる以上、野党とか暴漢とかがたびたび小さな村を襲う。だからこそ自警団が存在する。まるで延長線上のいたちごっこのようだったが、野党や暴漢に、理由なんて存在しない。そこにむらがあるから襲う。そこに人がいるから暴行を加える。本能に従う獣の様な行動をとっている。だからこそ、自警団のポケモン達も、本能的に守り、応戦するというように、警戒心や敵対心を強める。それが頻繁に続けば、知らないうちに空気のように身について、無意識に気を引き締めてしまうものだろう。しみついた本能が、周りに殺気を向ける。最初に入った時はしなかったが、緊張した空気中、背中を刺されないように壁に背をつけて、クラブみたいに動く。我ながら情けなかったが、正直に危険の前に見えや外聞は必要ない。
「ノノ!!」
 大きな声を出し、ノノがいるかどうかを確認する。洞窟の中に声が響いて、一瞬の喧騒の中、ふたたび沈黙が訪れた。その中で、黒い影がのっそりと動く。
「ノノ……なのか?」
 まだ警戒を解くことができなかった。もしかしたら違う、という思いも必ず持っていなくてはいけない。それを忘れたときに、自分は世にも恐ろしいことに見舞われるかもしれない、その思いが、一層警戒を強めた。のそのそ動く黒い物体に松明を近付けると、それは穏やかな寝息を立てていたと思ったら、暑そうに寝返りをうった。どうやら彼女の朝という時間はこの時間ではないらしい。まだ日が昇りきらないうちにここに来るのは失敗だったか、などと思いながらも、苦笑して少し肩を叩いてみた。
「起きろ、ノノ」
 少し肩を叩いて、それでも反応がなかったので、ゆすってみた。すると、鬱陶しそうに身を捩りながら、うなり声のような歯ぎしりを鳴らす。これは無意識に出しているとしても、聞きなれない人が聞いたら深い獣の呻きに聞こえるだろう。こんなのを耳にしたら、それは確かに恐ろしい化け物がいる、などと吹聴されてもしょうがないなと思った。
「うぅん、やぁだ、まだねむるのぉ」
「やだじゃない、俺だ俺。ポポだ」
 そう言ってもう一度揺さぶると、今度は少しだけ上半身を起して、うっすらと瞳を開けた。どうやら今のノノの頭がフル回転しているらしい。目を何度も瞬かせて、きょろきょろと左右の頭も起きだして、周りを見渡す。夢の中と現実と、その区別をつけるように、口を何度も開閉する。どうやら脳みそが活性化してきたらしいのか、体をぷるぷると震わせて、ごしごしと目をこすっている。夢にしてはディティールが凝っているような気がすると疑う前に、ノノはぽろぽろと涙を流して、俺に抱きついた。
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「ポポ……ポポだぁー!!うわぁああん!!会いたかったよ、ポポぉ!!!」
「おうっ!!」
 思い切り胸部に頭突きをされて、体が後ろに仰け反ってしまう。そんなことも気にせずに、ノノは大きな体を震わせて、わんわんと泣きついてくる。喜んでいるのか、悲しんでいるのか、不思議なところを思考がさ迷っているようにもみえた。
「ずっとドキドキして、早く来ないかなぁって、そう思っているうちに寝ちゃって――夢の中で、ポポは僕に冷たい態度を取って、離れていったんだ」
 そういう彼女の瞳には、悲しそうな色が曇っていた。ノノは本当に寂しかったという気持ちを心の中で表している。それを感情に出すことなく、夢の中や自分の気持ちの中で処理をしているんだろう、それがプラスの方向に働けば働くほど。溜めていたものが爆発する。良い方向にも、悪い方向にも。
「大丈夫だって、俺はノノとの約束はちゃんと守った、ほら、俺はちゃんとここにいる」
「うん、だから、僕、凄く嬉しい。またポポに会えた。もう一度ポポの名前を呼べた。二度同じ名前を呼ぶことなんて、すごく久しぶり」
 そういう彼女は涙をいっぱい流して、笑った後に、また泣いた。頭をなでてなだめながら、首にぶら下がったパイは果たして原形をとどめているだろうか、などというどうでもいいことを考えてしまう。警戒心は完全に消えてしまった。この洞窟には、ノノしかいないんだという確証が、ゆっくりと頭の中に伝わった。
「これからは何度でも呼べるよ。だからもう、泣きやみな、ノノ」
 頭をなでながら、優しく微笑んでみせる。今の俺は、なんだか子供の世話をする人のようだと、思うのだった。


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「わぁ……これおいしい」
「そうか、作りすぎたから結構あるぞ、まだまだ食べるか?」
「うん、食べる食べる」
 洞窟内で俺が持ってきたパイにぱくついて、ノノはもっぱらご機嫌だった。作りすぎたフィラの実のパイを頬張りながら、時折こちらのことを気にするように視線を移動させる。おそらく俺が何も食べていないのかどうかが心配なのかもしれない、彼女の前では確かに俺は何も食べていないが、出かける途中に嫌というほど食いながら歩いていたので、その点は何の問題もなかった。
「ポポ、何も食べなくても大丈夫?」
「ああ、途中で食べてきたから」
 そうなんだ、と彼女は言うと、興味関心を完全にパイの方へ移した。そのまま黙々と食べ続けること数分、すっかり満腹になった彼女は幸せそうに息をついた。食事の速度はどうやら人並み以上らしい、ただ単に早食いの気質があるのか、食事をとることがそんなにないのかは謎だった。
「ごちそうさまでした」彼女は丁寧に両手を合わせて合掌した。残さず食べてしまうのはサザンドラ故なのか、それとも彼女が食事を大切にとっているだけなのか、両方の頭についた食べかすもぺろぺろとなめとってしまう。なんかお互いの頭がくすぐったそうにしていた。
「さて、食事も終わったし、ちょっと休憩したらいろいろ教えるよ」
「わぁ、ありがとう」
 ノノは嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねて、そのままふにゃりとねっころがって楽しそうに笑っている。教える、といった手前、中途半端に教えてしまえば手抜きになるだろう。だからこそ、教えてあげるといった自分のことを信じる彼女に、俺はいろいろ教えたい。他人との付き合い方さえ覚えれば、ノノがこんなところにいる必要もないだろう。その気持ちが大きくなればなるほど、自分がしっかりしなければというわけのわからない使命感のようなものが持ち上がる。こういうところがあると、自分がまるで世話焼きのポケモンのように思えてしょうがなかった。
 頭の中に残るもやもやした思考を払拭して、溜息をついた。体中が妙な感覚におおわれて、ちょっと疲れが残るような感じだった。特に何かに憑かれているわけでもないのに、どうも首筋のあたりから嫌な感じがする。
(またか)
 心の中でそう呟く。いつもそんな感じがした。子どものころからの癖のようなもの、小さいときに、周りに不幸があった時、急に首の後ろがむずむずしたのを覚えている。それから始まって、自分や周りに不幸があった時に、妙に首の後ろから嫌な気がたまるような感覚がたびたびあった。
(迷信だよな、たぶん)
 そう思って言い聞かせながら、項の辺りをなでる。昨日今日会ったばかりの子供に、どうして俺はこんな風に重苦しいことを考えてしまうんだろう。ただの迷信、子供のころから続いていたとはいえ、絶対ではないんだ、そう言い聞かせて、口を引き結んだ。
「ねえ、ポポ、僕に何を教えてくれるの?」
 ノノの声を聞いて、少しだけ飛んで行った思考が元に戻る。ノノは不思議そうにこちらを見つめて、そして笑う。
「僕、いろんなことを知らないから、もっともっといっぱい知りたいな」
 とても無邪気に笑う彼女を見て、自分の不安が何だか遠くへ行ってしまうような気もした。そうだ、と自分に言い聞かせる。悪い縁起が続いても、これから続くなんてわからないし、そもそもそんな迷信を信じる方がおかしいんだと思う。勝手に自分が思い込んでいるだけで、確証のない思いだ。それに振りわまわされるのがおかしいんだと、笑った。
「そうだな、何から教えようかな……何を一番わかりたい?」
「ええとね……ええとね……いっぱーい」
 がく、と肩を落として、乾いた笑い声を洩らす。いろいろ知りたいという思いで、頭がいっぱいなんだろう。そんなノノの姿はとても魅力的で、自分が感じた少しの不安なんてすべて吹き飛んでしまいそうなくらい、とてもまぶしかった。自分の考えていることは、きっと間違いだと、そう思う。
「よーし、じゃあいろいろ教えるからな、振り落とされないようについてこいよー」
「はーい、よろしく、ポポ」
 おれの言葉に対して、ノノは呑気に頷いて笑う。右手も左手もとてもうれしそうに笑う。早くいろいろなことを覚えて、もう人から怖がられなくなるようにしてあげたいと、俺は思った。そのために今やるべきことを、今は精一杯やっていこうと思った。ゆっくりと息を吸って、口の端を吊り上げる。
「じゃあ、まずは人との付き合い方からだな」
「はーい」
 ノノはちゃんとついてきてくれるだろうか、という心配もあるが、それはやってみなければわからない、やれることをすべてやろうと、心に決めて、今日一日を過ごすのだった。


 人に何かを教えるときは、まず自分がそれを理解していなければいけない、理解がおろそかなまま行動に移せば、それはたちまち間違った認識として脳が記憶してしまい、間違った知識として教えられた人の中でそれが正しいと思われてしまう。だからこそ学校の先生とか、仕事を覚えていない新人に何かを教えるときは、必ずわかりやすい人が教えるようにはなっていると思う。
 俺自身は、そこまで人に何かを教えることが上手なタイプではない。詳しく原理を聞かれたら閉口してしまうだろうし、恐らく自分が思っている以上に難しいことを教えているという自覚もない分、教えてしまったらあとは独自解釈で何とかしてくれ、という投げっぱなしの考え方があるかもしれない。(もっとも、詳しく原理を聞く人はごく少数ではあると考えている)
 誰かに物事を教えるのは、自分の知識の深さをも示していると思っている。自分自身の脳を器として考えてみると、わかりやすいかもしれない。中に入っている水は、知識の量だ。器の大きさは、その水と一緒に成長していく。ある過程でぴったりと止まってしまったら、それは許容量というものが限界に達したときだろう。小石を投じれば、波紋が立ち、知識量はあふれ、そのまま落ちていく。それが忘れるということ。小石はその過程を表すものにすぎない。しかし、受け皿に巨石を投じたらどうだろうか?
 巨石を投じれば、その瞬間受け皿の水は大きくはね、飛沫とともに多量の情報量が消えて無くなる。それは知識を忘れるというレベルでは済まされないかもしれない。それはつまり、脳が知識を吸収するということを停止し、完全に動かなくなった状態なのかも知れない。それはつまり、脳が活動を停止した――死んでしまった。ということだろう。
 人生はいくらでも知識を吸収する場面が存在する。それは自分の今後の行動によって大きな転機となりうるし、逆にありすぎるものが災を齎すかもしれない。知識というのは、自分の持つ受け皿の許容量を超えるものを入れすぎてもいけない気がする。入れるに越したことはないが、多すぎるそれが何かよくないことを引き起こすこともありうるだろう。知識というのは常に、自分自身で管理するものであり。間違っても他人にひけらかすものではない。
 俺の頭の許容量はそこまで多くはないと自他共に認めている。近所のおばさんが「あらあら、ポポちゃんは大事なところで抜けてるわねェ」などと鞴のような音を出して笑うこともしばしばある。それは抜けてるという言葉の意味が、自分の今の知識の限界を表しているのかもしれない。(ただ単に注意散漫なせいで、自分が明らかに頓馬なことをしているだけかもしれないが)それはそれでいいと思う。今の総合的な知識の限界はそのあたりで止まっているということだ。それはそれ以上伸ばすと何かよくないことが起こるという危惧かもしれない。
 ノノの頭は空っぽだ。空っぽという言葉に語弊があるが、空っぽという以外いい言葉が見つからない自分の語彙の無さにちょっとだけ辟易した。空っぽというのは、知識の受け皿には水が入っていないということになる。一般的な行動というのは。本能で行っているように思える。だからこそ、知識とは違う場所にあるために受け皿の水としてはカウントされない。体に染みついて覚えているんだ。食べることも、喋ることも、考えることも、寝ることも。
 空っぽというのは、悪いことでもあり、いいことでもある。知識が入っていないということは、ほとんどの教養、微妙な気づかいや心配りから、日常生活に至るまでの知っておいた方がいいようなことなどは覚えていないだろう、しかし裏を返せば、それは何もないっていない状態から知識を吸収するということになる。正しいことを理解すれば、もっともっと多くのことを素早く学び、受け皿に水を多く入れる絶好の機会となりうる。教える方にも責任がかせられるが、勿論覚える方にも多少の責任は伴う、正しいことを言ったとしても、覚える方がそのまま流してしまっては、受け皿に水はたまらない。教える側と教えられる側が協力して初めて、知識というものは完成する。ノノを見ていて――彼女は、協力というよりも、言われたことをすぐに吸収して、それを自分の中で分解し、応用する。自分で覚えなかっただけで。
――彼女は天才の部類に入るかも知れなかった。
「偉い人と話すときは?」
「謙って話す。自分は常に下だと思う。たとえ何を言われても身分や敷居の違いを常に頭に置いて話すこと。これをそつなくこなして、初めて上位のものとの会話が成立する。性格は個々で違う、いい人もいれば、悪い人もいる。その見極めをするしないにかかわらず、上位の者との対話というのは、いつかは訪れる。その時になったら、一言二言で見極めができるように、自分の頭の中で心構えをしっかりとしておくべき」
「百点満点の回答だな」俺は上機嫌に笑って、ノノの頭を撫でた。ノノは嬉しそうにはにかんで、頬を紅潮させて、くふふ、と笑う。「へへ、先生がいいから、僕すぐに覚えちゃった」
「覚える方も凄いと思うときはあるぞ、ノノは間違いなく、凄いの部類に入るんじゃないのか」
 乾いたスポンジのように日を追うごとに知識を吸収する彼女を見て、俺は驚愕を隠せずにいた。最初の日こそ、何が何だかわからない有象無象の行動ばかりで、時間だけが過ぎていったような覚えがあるが、一週間がたった今では、彼女の知識は信じられないほど増大し、受け皿はほとんど満たされていった。それはノノが自分では自覚していないほど、理解力と応用のきく頭だということになる。人のことを頭で分析すること自体が間違っているような気もするが、物を教えるということ、その成長過程は頭の回転力や理解力、応用力を見て凄いと判断するしかない。貪欲に知識を吸収するノノの姿は、見た目はとても兇暴なサザンドラという生き物だが、実際は蟲も殺せないような臆病で気弱な性格の女の子だ。年頃の娘らしく、笑ったり泣いたりする生き物の姿だ。見た目の先入観で判断してはいけないというのが、この子を見ているとよくわかる。
 しかし、サザンドラは兇暴なポケモンで、左右の頭は脳味噌を持たず、本能で動き、敵を食い殺す。などと物騒なことが村の本には記されている。気になって調べてみたものの、これはおそらく先入観で書いたものだ。サザンドラという個体も大量に存在するので、代表的な性格はそうである、という知識がそういう言葉を捻り出したのだろう。もちろん間違っていると否定はできないが、正しいと肯定もできなかった。
(目の前にいるノノは、そんな子じゃない)
 それだけははっきり言えた。いくら昔の偉い人が書いた生物図鑑にそう書いてあったとしても、実際に見たサザンドラは、目の前にいるノノ一人だけ。俺の頭の中のサザンドラというイメージは、ノノを見てしまった所為か本に書いてあったことよりも実物を見た率直な思いの方が知識として刷り込まれている。実際に見たことがないことも相まって、本に書いてある黒一色の文字ばかりよりも、目の前で動いて、コロコロと表情を変える生き物を見ているせいか、どうも見るだけの文字よりも生きている者に対しての意識の方が強くなる。それは当然だとも思う。百聞は一見にしかずという言葉のとおり、百回聞くよりも、一回見た方がそれはそれはイメージというものはしやすいし、かくも簡単に崩れる脆いものだというのもわかる。
「……?どうしたの?僕の顔に、何かついてる?」
「あ、ああ、いや、何も」
「ふぅん」ノノは俺の返答を聞いて特に不思議にも思わなかったのか。今日覚えた言葉を頭に置き換え、書き取りながらぶつぶつと独り言をと呟いていた。この調子なら三日もすれば一般人以上に基本的なことはすべて覚えられるだろう。覚える時間を彼女は他人から接触を遠ざけることに費やしていただけで、これだけ覚えてしまえば、もう自分が何かを教えることはないかもしれない。成長ぶりに目を見張るものがあるのと同時に、これは俺の力など必要ないのかもしれないという思いがあった。
(もしかしたら、余計なことをしてしまったかもしれないな)
 頭の中でそう思ってしまう。それがどれだけ間違っていると思っても、どうしてもそう思う。おそらく彼女は俺の覚えたこと以上のことも、覚えていくだろう。知識を教えられ、自分で吸収してしまえば、あとは自己流にことができる。俺の教えたこと以上のことを、彼女はこれからも吸収していくに違いない。俺が教えなくても、もしかしたらきっかけさえあれば、彼女は自分自身の力で身につけることをすべて身に付けたのかもしれない。それは、人が教えるよりも効率的だし、自分の知識の程度を知っているのは自分自身だからこそ、資料だけ渡して後は傍観していたほうが良かったのかもしれない。
「……あ――っと、そう言えば時間がどのくらいなのか見てなかったな」
 考えを押しやるように、俺は周りを見渡した。燭台の炎はゆらゆらと燃え、洞窟の中は昼だろうが夜だろうが常時暗いという意味をその揺らめきで教えてくれる。常時暗いということなので、今が昼か、夜かの判別はとてもつきにくい。ここが最奥だということもあるし、それ以上のものがあるからなのかも知れない。とにかく、時間を忘れて教えることに没頭していたのは事実だった。
「たぶんの昼ぐらいだと思うよ。朝から来てくれて、こういうことしてると何となくわかっちゃう。後、僕お腹がすくとお昼だなーって思うんだ。そうして見てみると、お日様が昇ってるのがわかるから、お昼なんだって」
 意外な特技だなと苦笑した。お腹が空いたらお昼とわかるのは、健康的な証拠なのかも知れない。俺はお腹が空こうが空くまいが、食べたい時に食べるからと思いつつ、自分の首にかけたポーチからピザを取り出す。
「ホイ、今日のご飯は夏野菜のピザだぞ。案外野菜だけでも食べられるものだから」
「わぁい、いただきまーす」
 ノノは嬉しそうに笑うと、受け取ったピザに齧り付く。左右の頭も食っているせいなのか、次々と持つところを変えるのが何だか見ていてとても面白い。パンの耳を端から食べて、真ん中を残すような気がして、そう言えば村長はパンの耳が嫌いだったなぁ、とどうでもいいことを思い出した。
「どう?」
「うん、すっごく美味しい。野菜とパンって、合うんだね」
「おいおい、パンなんて基本的に何でも合うぞ。みそ汁とはさすがに相性悪そうだけど」
「和洋を合体させたらダメだと思うよ」
 違いない、と言って笑う。和洋を合体させるのは家だけで十分だった。古きものの意匠は、家の中で再現するに限る、などと笑っていると、唐突に――本当に唐突にノノが口にした。
「ポポは、お料理上手だね。――お料理屋さんなの?」
 体が硬直した。それに対しての返答は、いい淀み、ばつが悪そうに俯いて、首をちいさく横に振った。体が倦怠感に包まれて、口の中に嫌なものがたまるような感覚がのし上がる。
「どうしたの?」
「あ、ああ、いや――俺は、自警団だ」
「自警団」ノノは覚えたての言葉を使うように、嬉しそうに説明した。それは自分に、自分自身が覚えているということを認識するために口にしたのかもしれない。「自警団、権利の侵害が強く想定される場などにおいて、司法手続によらず自らの実力行使を持って自己および共同体の権利を維持確保するために結成される組織。及びそれを模した防犯組織。私設軍隊・民平も同じ感じがする。要するに、町や村を守るガードさんだよね?」
「大正解だけど」
「どうしたの?」
「いや、どうしてノノは俺の仕事を料理屋さんなんて言ったんだ?」
「んー」ノノは何かを思案するように考え込んでいたが、残りのピザを平らげて、小さくげっぷをすると、にこりと微笑む。「だってさ、一週間ポポのお料理を食べて僕思ったんだ、この人はきっと料理屋さんなんだって。安直な発想かもしれないけど、そうに違いないって思ったんだけど、違ったね」
 違ってはいない。それは、俺自身が諦めてしまった夢だった。だれにも打ち明けることなく、だれにも相談することもなく、ただ、自分がドラゴンタイプだったから、それだけで諦めてしまった夢。なりたいと思ったものに対して努力を惜しまなかった俺のその過程を、自分の姿で駄目にしてしまった。自分が違う姿だったのならば、と思う時も多々あり、思い起こすたびにやるせなさが増幅する。
「昔は、そういうのを目指してたんだ」
「……どうしてポポは、お料理屋さんにならなかったの?」
 その回答は、とても短く、俺自身もそこまでその問いに答えたくはなかった。言えば自分のすべてを否定することになるかもしれない。それでも、ノノの瞳は、教えてほしいといわんばかりに光っていた。
「……俺が、ドラゴンだからだよ」


5


 ドラゴンタイプというのは体躯も大きく、力仕事やボディーガードというものに向いている節がある。それは自分がなりたいと思ったわけではなく、周囲の期待や責任の重圧から連なるようにそうなることが多かった。大きなものはそういう重圧を受けながら、結局は周りの期待や責任感なんかに流されてしまうものだ。俺はそうならないようにと努力してはいたが、結局はそうなってしまうことにいら立ちや悲しみ、そして深い後悔などもまぜこぜになっていた。なぜ自分はこんな姿に、こんな種族に、こんな時代に生まれてしまったのか、嫌なことばかりを考えて積もる思いを振り払うこともできなかった。お前がいてくれて助かった。お前にしかできないことだと思う。それは周りの期待や重圧を乗せられるのと同時に、種族柄から見た目から、そして何よりもそういうことをやりたくないからという思いで誰かにそれを押し付ける傾向が強いのかもしれない。やりたくない、絶対にやりたくない、そういう思いも絶対に入ってるに決まっている。事実それがまるで当たり前のように、強いものや大きいものはそういう仕事に就かされている、という印象が拭えない。実際、自警団の職についている奴は体躯が大きいもの、力の強いもの、戦いになれているもの、そういうものが中心的になっている気がする。その気持ちはいつまでも持っているものだし、もちろん、だからと言って今の自分が変わるわけでもない。何か明確な理由がなければ、職業を辞めることなどできはしない。無理やりやらされていると、逝ってしまえばそこまでだが。この村では俺以外にできるやつは基本的に身を引いていたし、周りの期待に答えなければならないという思いを、少なからず俺は持っていた。それに答えなければ、という責任感もあって、切り出すことすら躊躇われる。そんな時に悩めば悩むほど、自分が諦めきれないという思いを抱いて日々漫然とした時間を送ることに苛立ち、夢を追い求めて努力をしていた自分の姿を思い出し、そして自棄になる。何もかもどうなってしまえ。そう思ったことは何度もあったが、それでも何とか今日までやってくることができた。誰かに励ましてもらえなくては頑張れないのかも知れないと思い始めたときに、ノノは話した言葉を砕く様に吟味して、に、と顔を破顔させた。
「そんなに嫌なら、やめちゃった方がいいんじゃないかな」
「……それができたら、とっくにやめてるぞ」
「遅くはないと思うよ」ノノは洞窟の壁に寄り掛かるようにして座っていた俺に、ぴたりと体を密着させた。自分よりも少し小さめの彼女の体格は、ほかのサザンドラとは違って、やはりまだ大人になりきれていないという思いがある。自分とはどれだけ年が離れているのだろうと思った。あけどない少女の面影を残したノノは、自分の思うところを全てすくい上げて、そのまま何もかもを見透かしているようだった。透き通る赤色の瞳に自分の姿が映った時に、何とも情けない顔をしているものだろうと思う。本当に情けない、意気地がない男の顔だった。優柔不断ともとれるような顔をしているのはいつも決まって考え事をしている時。情けないと思ってしまえばそこまでだった。「ポポはそれとも、自分の種族がドラゴンだったってだけで、自分のずーっとやりたかったことを諦めちゃう情けないポケモンだったの?」
「痛いところをつくが、実際そうなってしまうほどだから、今俺は自警団なんてやってるんだよ。わかるか?他人の重圧がのしかかるっていうのは、必要以上に自分の思いに負担をかけるんだ。――自分がやりたいって思うことを諦めるくらいにな」
「わからないなぁ、僕は、ポポじゃないから。ポポの気持ちがわかったらきっと僕気が狂っちゃう」
 子供のように笑うノノを見て、俺は怒りよりも先に、溜息が洩れた。どうしようもないのは自分が一番よくわかっているし、そんなことで他人に当たってもしょうがない。自分の思いに比例して、夢というのは大きくなったり小さくなったりするもんだと思う。そうじゃなければ、自分の夢が燻って、この村で自警団などやっているわけがないだろうと思うし、もちろん燻っているからこそ、踏ん切りや決心がつかないのだと思う。それはやはり、思いに左右されて、燻ったり燃えあがったりするものだった。そして今の自分はきっと――燻っているんだと思う。
「あのね、僕にはわからないんだ。ポポの夢がどのくらいの挫折を経験したら諦めるのかが。だからどのくらいポポがその夢に対しての意識を持っているかが、わからないんだ」
「意識って」いいかけた俺ににこりと微笑む。彼女の思考がつかめずに、少しだけ頬を紅潮させた。「僕はさ、ずっと意識してたよ。誰かに怖がられずに、ずっと一緒にいられるようになれたらいいなぁって、最初にポポが言ったとおり、僕は自分の姿が見られたら、きっとみんな怖がってしまうって思ってただけ、それは逃げだって思えた。だけどそんな僕にもちゃんとあるんだよ。夢。もう叶いかけてるけどね。だからさ、僕は自分の達成したいことに対しての意識は誰よりもあるんだって思ってる。ポポは、そんな風に何かを達成したいって思うことを、どれだけ意識してる?それに対して自分がどれだけ頑張ってきたかっていう、意識はある?」
「……意識ならあるさ、こんなことをするためには、下積みの段階でどれだけ頑張ればいいかとか、この段階を乗り越えるために、自分がどれだけのことをすればいいのかとか、その過程は、今でも覚えてる」
「そっか、ならもう叶えられるんじゃないかな?大切なのって、自分がやってきたことに対して、最後のひと押しをすることなんじゃないかって思えるから」
 最後のひと押しという言葉を聞いて、そうなのか、と首を捻ってしまう。自分が確かにここまでやってきた。自分を頑張ったと讃えられるほどに、自分の夢や理想に向かって邁進する気持ちを持ち続けたというのは確かに実感として残ってはいるが、はたしてそれに対して最後のひと押しを加えられるかというと、やはり他人の言葉に押し詰められてしまうのかも知れないという懸念が、頭から離れなかった。それを思うと、自分もノノと同じなのかも知れないと思った。ノノに対してはあれだけ言っておいて、いざ自分のこととなれば、このざまだ。
(情けないな)
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 心のふちでそんなことを考えていると、ノノは俺の腕に頬をすりよせて、気持ちの良さそうな顔をする。さっきから密着してばかりで、少し心拍数が上昇気味だった。人とあまり接触しないので、恐らく戸惑いが大きいのかも知れないなと自分に言い聞かせた。
「会話って不思議だよね」ノノは瞳を閉じて、ゆっくりと口を開いた。「他人の顔を見て、口の動きを見て、目を見て、顔色を窺って、どんなふうに話せばいいのか、どんなことを言ったらいいのか、何もわからなかったけど、ポポがいっぱい教えてくれて、今ポポがどんなこと考えているのかわかるよ。ドキドキしてる、心拍数も上がってる。目や口で会話しなくても、僕はこうやっているだけで、君の気持ちが伝わってくるよ。自分の思いに嘘をついて、燻ったままのポポじゃないと思う。僕の知ってるポポは、見た目や先入観だけで僕のことを判断しなかったとっても優しい人、いろんなことを教えてくれた親切な人。約束をちゃんと守ってくれる正直な人。だから自分の気持ちにも嘘はつけない人。諦めなければきっと叶う夢。皆がなんて言ったって、僕はポポの夢を応援したいな」
「ノノ」
 だって、とノノは少し口を歯を吊り上げて、頬を紅潮させる。
「ポポのおかげで、僕の夢はもう叶いそう、だからね」
「さっきも聞いたけど、ノノの夢ってなんだったんだ?」
「んー、進化する前はね、偉い人になりたいなんて思ってたよ。偉い人になったらみんなが注目してくれるかなぁって。それだけの理由。進化してからは――誰かと親しくなりたい、になったかな。だからもう、叶いかけてるの」
 最後に何かノノが口を動かしていたような気もしたが、その言葉は掠れてよく聞こえなかった。あまり気に留めることなく、叶いかけているという言葉を考察する。
「叶ってないのか?」
「僕とポポは、教えてくれる側と教えられる側だから、仲良く、なんて関係じゃないもん」
「そうか、俺はノノとは友達同士だと思ったけどな」
 え、とノノは眥を大きく見開いた。それはもう一度聞きたがるような無邪気な子供の顔。もう一回聴かせてほしいと顔に書いてあるのが、なんだかとても微笑ましく思えた。
「ね、もう一回きかせて、今の言葉」
「ダメ、一回限り」
 ケチ、という言葉、そんな言葉を言いながらも、ノノはとても嬉しそうに笑っている。彼女が思っていた関係よりは、よほど明るい関係で、思っていた以上の関係だということに対しての笑み。意地悪く笑うノノに絡まれながら、クックと笑う。
(諦めないことか)
 頭の中で思ってみる、今までやってきたことはすべて無意味だったのか、否。
 自分がやりたいと思ってきたことに嘘はつけない。ノノの言うとおりだった。俺は自分の本当にやりたいことを、他人の重圧という言葉で誤魔化して、被害者を演じているだけなんだと思う。本当になりたいものになろうと思わなければ、今でも自分の料理にこれだけの時間をかけるだろうか、誰かに食べてもらって美味しいと言われた時、心の底で喜んでいる自分がいることに対して、自分の理性で押さえこんで、自分の夢を燻ったまま終わらせていいのだろうか。
「自分の心に、正直になってみようかな」
 洞窟でひとりごちる声は、妙に反響して大きく聞こえたような気がした。


「悪いな村長。急に上がり込んだりして」
「いや、一向に構わないが、どうしたんだ急に?」
 翌日の朝、村長をの家に行った俺は室内を見渡して息をついた。この間は報酬がとてもいいものだったので特に気にも留めなかったが。やはり室内はジャングル状態だった。植物が異常氾濫しているといってもいい。木枠の窓から顔を覗かせる木々の数々が、その枝先を容赦なくこの家にのばしている。木々に隣接している村長の邸には、床下にはなんだかよくわからないキノコが胞子をまき散らしている。不気味に思いながら、村長はそれを特に気味が悪いと思うこともなく、不思議そうな顔をする。
「村長」
「なんだ?」
「掃除しろよ」
「嫌だよ」村長はあからさまに顔を歪ませた。「掃除なんて非効率的な行動、なんでやらなきゃいけないんだ。自分の衣食住の場所が最低限確保されていれば、極寒だろうが灼熱だろうが耐えてみせるさ、めんどくさいよりはましだしな」
 ああ言えばこういう、言うに事欠いてこの発言。本当に厳しい環境で育っていないからこその発言だった。俺もそうだが、どうにもこうにもそういう意識が欠けているような気もした。意識というのは日常生活に求められるものだと思う。
「怠惰な奴はもてないぞ」
 村長は眉根を寄せて、ぎ、と俺を睨みつけた。たとえ温和で抜けているような村長でも、アブソル本来が持つ鋭い眼光というのは背筋に走るものがあった。その顔は、怒っているようでも、悲しんでいるようでもみえる、奇妙な表情だった。
「判断材料はほかにもあるんじゃないのか?姑みたいなことを言って、自警団とは思えないな」
 押しつぶすような強い口調。村長の顔には薄い笑いが浮かんでいた。ただ細めただけに眼光が鋭い。触れてはいけないものに触れたつもりは毛頭なかったが、どうやら逆鱗を触ってしまったようだった。
(そうか、そう言えば――)
 昔を思い出して、息をついた。俺自身も覚えているその陰惨とした出来事は、村長にとっても忘れられないのだろう。少しだけ申し訳ない気持ちになりながらも、自分の要件を伝えにきたことを思い直す。正面と向き合うと、視線が絡み合う。気圧されるような感覚が一瞬頭をよぎる。それでもかぶりを振って、息を吸う。押し出すように足を前に出して、口から言葉を吐き出す。
「話がそれて悪かった」
「……」
 村長は顔を緩めて、息を吐いて椅子にもたれかかった。いつもの顔に戻った村長は、いつも通りの口調で話しかける。
「用事って?」
「何も言わずに、黙ってこれを受理してほしい」
 それを何も言わずに受け取った村長は、それを見て顔色を変えた。無理もないのかも知れない。こんなものを見たくなかったのかもしれないし、もしかしたら俺がこんなものを出すことはあり得ないと思っていた節があるのかも知れない。自分でもこんなものを出すとは思っていなかった。おそらく彼女の一言が、俺に勇気をくれているのかも知れない。
「いまさらなんで――退職届なんか」
「俺は俺のやりたいことがあるんだ、だから自警団をやめたい……ダメかな?」
「そんな馬鹿な」村長は乾いた笑い声を漏らした。「いくらなんでもそれは無理だ、ポポがやめたらだれが自警団を統率するんだ」
「変わりなんていくらでもいる、俺以上に使えるやつなんてどこにでもいる。村長は俺の顔を立ててくれてはいるけれども、俺がドラゴンだから選んだんだろう?」
「それは」
「そのことに対して怒るつもりはないし、妥当な判断だったかもしれない。けれど、体格や種族に左右されずにもう一度だけ考えてほしいんだ、ちゃんと能力を見れば、俺より適任のやつがいるし、もしかしたら選ばれたかった奴だっている。そういうことは村長が一番わかってるんじゃないか?」
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「……わかってはいるが、いきなりこんなものを渡されてもはいそうですかと受理するわけにはいかない」
 その返答にはさすがに顔を歪めざるをえなかった。もちろん、その返答が来ることもある程度予想はしていた、しかしそれでもと、顔はますます暗澹として暗くなる気がした。
「村長!」
 声を張り上げても意味がないことは、自分が一番わかっている、それでも、大きな声を上げざるをえなかった。ここで逃してしまったら、きっと一生後悔するだろうと。そういう気分さえした。
「……理由だ」
 村長は小さな声でそう告げて、息を吐いた。
「こういうのは急遽に解雇されるには、それ相応の理由が必要になる。悪事を働いたとか、二心持っていたとか、不利益になることを包み隠していたとか、それ相応の理由がなければ、早々動かすわけにはいかないからな」
 理由なんて早々作れはしないというのは、だれでもない俺自身がよくわかっているし、それを分かっていると村長は思っている。彼は誰に対しても公平で、だれに足しても平等だった。それがいいところで。俺はそこが好きだ。誰が悪いとか、一方的に詰りつけることはしない。村長はあくまで誰でもない中立の立場から、他人の意見を聞くことで、その思いを公平に吐き出す。若くして村長に抜擢される理由の一つに、それが入っているのかも知れない。彼は村長などという柄ではない、せいぜい他人の意見を聞く親しい近所の人間という印象の方が強いからだ。それは誰よりも村長自身が心得ていたし、彼は村長などという重責を背負うのは嫌だとも言っていた。それに対しては同意もしたし、親しく話しかけてきてくれて一向に構わないとも言っていた。それは俺だけでなく、ほかの誰にでもそう言っていた。そう、平等だからだ。
 だからこそ今、村長は平等に俺にチャンスをくれているんだと思った。言っていることはやってはないけないことの暗示だが、それは裏を返せば、自分が何かをしてしまえば、理由を作ることになる。それが原因で辞めることができるかどうかは、その出来事の大きさに比例しているだろう。悪いやつを突き出すことなく、野に返したりとか、そういう感じだ。それをしただけでも、またこの村にやって悪事を働くという不信感がこちらに流れて、そのまま役職を取り上げられることはある。
(そんなことをするはずないって、村長は思ってるんだろうな)
 もちろん、恐らくというより絶対に俺はそんなことしない。というよりも、できないという感じが正しいかもしれない。そういうことをしてしまえばおそらく俺自身は一生この場所で生きていくことができないだろう。俺がこの村が嫌いならやるかもしれないが、あいにくと村の住民も村も大好きだ。この場所から離れることを考えたことがなかった。それはこの場所にとらわれているというか、縛られているという感じが大きいのかも知れない。それは良い意味なのか、それとも悪い意味なのかは、これから先の出来事で決まっていくのかもしれない。少なくとも今は良い意味だ。この場所にいるからこそ、ノノと出会えて、もう一度自分の夢に対してしっかりと向き直ることができたからだ。それに対しては、もちろん感謝もしているし、思い直すきっかけを作ってくれたノノに対しても感謝している。
(ノノ……)
 思考があまりまとまらないまま、かぶりを振った。体中から変に緊張した雰囲気が抜けて、村長の方へと顔を向き直す。
「村長、いろいろ悪かったな、そろそろお暇させてもらうよ」
「ああ、また何かあったら言うといい。とりあえずこの件は半永久的に保留だ。一朝一夕で決まる問題じゃないからな」
「わかってるよ」俺の心はまだどこかでそれが嘘だと信じている自分をす、と押さえこんで、息をつく。「じゃあ、村長。俺行くからな」
 結局受理してもらえなかったことに対して少し憤慨を覚えても、しょうがないと諦めることができずに、俺は自分の家に帰って、眠ることにした。ドアを少しだけ乱暴に閉めて、外の空気を吸うと、意識もはっきりすると思ったが、そうでもなく、悶々とした気分を抱えたまま、曇った吐息を吐きだした。


 しばらくの間、腹ばいになって天井を見上げる。何一つ変わらない世界で、何一つ変わらない自分の部屋。最近は植物やらキノコやらが生えているせいか、多少の変化はあるかもしれない。悪い方向になっているが、もうこれ以上自分でこの家の中を掃除する気にはなれなかった。
――怠惰な奴はもてないぞ
 ポポの言葉をもう一度思い出すように頭の中に浮かべて、溜息をひとつ吐く。自分の時間は、あの時から止まったままなのかもしれない。彼女のことを思い浮かべては、心臓が締め付けられるような感覚に襲われる。生まれつきに持ってしまったものだと、運命だからしょうがないだと、諦めきれなかった自分が女々しいのか、それとも自分がまだ彼女のことを引きずっているせいで、何か自分自身に対して支障をきたすのか、思い出すことはそれほどまでにいけないことなのか、考えていると、わからなくなる。
 息を吐いて、ゆっくりと右の前肢をおでこにあてる。部屋が汚いのは、彼女がいなくなって、掃除をする必要がなくなってしまったから、家の中が寂れてきているのは、もう招き入れるものが少なくなり、寂れて忘れ去られても問題がないから。
――村長さん、もっとちゃんとしないと、女の子にもてませんよ。
 少しだけ呻いた。声が潰れて、しゃがれたような音が響き渡る。ポポの言葉で思い出してしまった。彼女の笑った顔や、彼女の怒った顔、あの子の思い出がゆっくりとこの家から出て行ってしまうような気がして、何かをしなければ、何かを変えなければ、と思っても、結局は何もしない自分がいて、何にも関わらなくなる自分が見える。それは近い未来か、遠い未来かはわからないけれど、ひどく現実味を帯びていて、寂れていくのはこの家だけじゃない、彼女との思い出も、自分の意思も思考も行動も、「今は」まだ大丈夫、でも、「これから先」はどうなるんだろう?その不安が拭い去れずに、今の自分のままでいいはずがないとわかっていたとしても、自分は何もしなくないし、何もできない。うつ病とはまた違う、蝕まれるような失意の中に堕ちる。悪循環がおさまらずに、嘔吐感がこみ上げる。
――村長さん、ほら、しゃきっと起きてください。
――はいどうぞ、今日はちょっと豪勢にしてみましたよ。どうですか?
――あーあー、また汚くして、ダメじゃないですか。清潔にしないと、私村長さんのこと嫌いになっちゃいますよ。
「思い出すなぁ」
 一人でいると思いだしてしまうそれは、ひどい寂寞とした気持ちに包まれて、隠遁者のそれを彷彿とさせるような場所も相まって、この場所だけ村から切り離されているような気がする。実際に、自分はそのうち切り離されていくんだろうという懸念もあった。
 この村の村長をやって、公平な意見を聞き入れることで、誰からも慕われる村の一村長としてやっていく。そう思わなければ、この仕事の重圧に押しつぶされる。村長という立場から自分を引き抜けば、何もできない無益なアブソルが一人残るだけだ。そうなってしまった方が良かったのかも知れない。怖いことは人に任せて逃げるし、自分がやりたくないことはおそらく一生かかってもやろうともしないだろう。そんな自分に人は呆れることなくついて来る。それは村の中で、自分がそういう役回りであるということを理解しているからなのか、そうでなければ、こんな猿芝居を演じてまで、良き人であり、良き村長であることを振舞おうとはしない。それは上っ面を繕った偽の顔であり、本当の自分はこれほどまでに怠惰で、やる気のない情けない人物。こんな姿を見せられるのはポポだけで、ほかのポケモンには見せたこともない。おそらく見せる気などないし、見せたくもない。
 こんな自分が今でも村長を続けられるのは、彼女の言葉がやはり大きいのだろうと思う。それだけ彼女は自分に影響を与えたし、自分も彼女にそれだけ依存していたのだろう。いろいろな意味でも、彼女は支えになってくれた。出会ったときから淡い慕情を募らせて、一緒に住んでくれることになった時は心臓が跳ね上がったものだ。体中から力がわいてきたような気もしたし、何よりも彼女の笑顔を見るだけで幸せな気分になれた。だからこそ、突然の別れというものに現実味を書いた覚えがあった。いつものように起こしてくれて、いつものように食事を作ってくれて、いつものように、掃除をしてくれる。小間使いという関係の方が強かったのかもしれないし、もしかしたら相手はその気がなかったのかも知れないと、今思えばそんな感じもした。キスもしたことなければ、手をつないだだけで幸せだった。そんな老人の様な恋心で満足していた。
 そんな彼女は病気という古典的なものに蝕まれて、あっけないほど早くにこの世を去った。それが信じられなくて、それが受け入れられなかった。またいつもの日常が始まるのだと信じて疑わなかった。
 誰もが悲しんだ、そんな中で、自分は何もしなければ、悲しみという感情すらも湧かなかった。死というものは確率の問題で、だれが早くこようが遅くこようが、それも確率なんだと自分の心に言い聞かせた。それよりも先に、彼女が眠る棺をゆすって、なぜ確率に引かれたんだと、亡骸に対して罵声を浴びせていたような気がした。自分の行為に皆がもっと泣いた。その時に自分も泣いた。泣き崩れた。そうやって気がついたのは、本当に彼女のことを思い、死を悼んでいたのだと、その思いに気がついたときにはもう彼女はそこにはいない、ただ抜けがらだけを残し、輪廻転生の輪に入っていった。
(リコリス……)
 彼女の名をもう一度思い浮かべて、手で覆った顔から温いものが滴る。感傷に浸り涙を流すなどどれだけ久しぶりか、そんなことをしてもリコリスが帰ってこないのはもうわかっているが、せめてもう一度会えるのなら、すまなかったと謝罪をしたかった。彼女は自分にどれだけつくしてくれただろうか、自分はそんなリコリスにどれだけ依存していたのだろうか、時間がたてばたつほど、彼女との思い出は際立つ。それは唐突に表れては消えていく夢のようなもので、ある種の言葉をきっかけにすぐに思い出せる。
 この先自分はずっと一人身で生きていくのだろうか、彼女のことを引きずったまま、家に残る彼女の残滓を追いながら、これから先ずっとこの寂れた家で過ごしていくのだろうか、それが終わるのは何年後だろう、そもそも、これは終わるのだろうか、何もわからぬ無知蒙昧な自分が嫌になり、軽く地面をたたいた。埃が舞いとび、胞子と一緒に空中を踊る。慌てて窓を開けようとしたが、窓はほとんど開閉不可能な状態になっている。そんな丸い木枠の窓を見て、結局起こした上半身をまたゆっくりと地面に置いた。変わることなんてないんだろう、こんな自分が変わることなんてありえない。恐らくは死ぬまで変わらないだろう、おじさんになり、おじいさんになり、なんの華やぎもないまま散っていく。それはまさにこの家と同じで、隠遁者の面影を残すことすらなく、忘れられていくのだと。それはそれでいいかもしれなかった。自分にはもう何も残されてはいないのだと。
「ポポの奴……最近すごい楽しそうだったな」
 自分とは対照的に明るくて、だれとでも親しくなれるポポ。彼は自警団のリーダーという役職を持ち、その持前の明るい性格をさらに大きくしたように見える。自分のような日陰にいるものとは全く違う、日の中を歩くもの。それは誰が見ても分かりやすく、誰が見ても羨むような、枠にはめたような性格。そんな彼が、今日自警団をやめる等とのたまった。一応預かってはいるが、これをどうしたものか、と目線を動かしてみるものは、先ほどポポからもらった――退職届。
(別に、今すぐに受理しても良かったんだけどな)
 自分がポポを止める権利などない。最近は物騒なことなんて起こり得ないし、自警団の中でポポと同じくらいの働きをするポケモンもいくらでもいるのはわかっている。それでも彼の退職を許さなかったのは、もしかしたら嫉妬なのかもしれない。ポポとはずっと一緒にいて、お互いにお互いを知り尽くした仲だった。それは他人という隔たりを超えた、絆で結ばれたものがあった。これだけ怠惰な自分を見ても顔色一つ変えることなく一緒にやってきてくれたポポが、今、その楔を抜けようとしている。彼が自警団になり、自分の言葉で自警団が動くことが多かった。それはポポが少なからず介入してくれたからこそ、そんな状況から彼は抜け出すと言った。しがらみから抜け出して、自分のやりたいことをしたい、そういった。彼を祝福するこそすれ、呼びとめて縛り付ける権利は自分にはない。なぜ彼を縛る必要があるのか、離れて行ってしまったリコリスとは違う。ポポは生きているし、この先輪廻転生の輪に入る予定もない。自分でそう考えておいてなんて不謹慎だと嫌になった。
「やっぱり、依存してるんだな」
 依存というには微妙だが、自分は確かにポポに依存していた。彼がいるからこそ自分が存在できるのだと、そういう実感を湧かせていたのは事実だし、ポポの知らない処で、それを感じることに愉悦を覚えたのも事実だった。
 それは依存する相手が逝去し、もう縋るものがいなくなったからという揶揄も含めるかもしれない。依存する相手がいなければ自分から依存する相手を見つけ、縛り付ける。この不毛なサイクルを断ち切りたくなくて、ポポを縛りつける自分の行動は矮小で最低なものだ。それがわかっていてもなお、自分は彼に依存する。それを悪いとは思っていたとしても、それでもこの流れを切りたくはなかった。
(縋るものがいなくなったら)考えて、ゆっくりと目を閉じる、生乾きの涙の感触が嫌に心を締め付けた。(無益なアブソルが一匹残るだけだ)先代の村長よりも好感が持てると言っている、平等にみてくれると言っている、しかし実際は、他人の意見を聞いて、それをさいただけだ。(俺は無能な……村長だ)
 考えれば考えるほど、自分という矮小な存在が露呈する、これでいいはずがないと思っていても、自分から動くことなんて、できはしないんだと諦める。なにも考えることなく、ただただ意識に流されるうちに、自分が寝ている時がつくにはもう時間が流れていった。


6


 僕が目を覚ましたら。いつもの見慣れている洞窟の湿っぽい壁、同じような色の変な天井、腐った木の実の異臭がする。そんなものにはもう慣れっこなのが、この場所で暮らしているということに実感を持たせた。大きく欠伸をひとつ、背筋を伸ばして、体をほぐす。昨日の出来事は何だったんだろうか、夢なのか幻なのか、ポポは僕のことを友達と言ってくれた。それが嬉しくて、まだ余韻が残ることを顔が破顔することで理解した。
 嬉しいというよりも、友達になってくれたことに対しての、申し訳ない気持ちの方が大きかったのかも知れないと、目覚めてからはそう思ってしまう。自分からはそういうふうには言わないのはもちろんだけれども、意識的に目をそらしてしまうのは、恐らく恥ずかしさからではなく、自分に関わってしまったからという後ろめたいものがあったような気もした。それは自分のような異質なものに関わり、教え育むという過程を了承してしまったこと。それに対してポポは何も言わなければ、僕に対して引け目を感じることも、罵り蔑むこともしない。あくまで一定の間隔を通った関係を構築していたはずだった。
(友達)口にしてみると、ひどく新鮮なものに聞こえる。それは今まで聞いたどの言葉よりも不思議に聞こえて、どの言葉よりも重く、僕の体にのしかかる。(僕と、ポポが、友達)それは実感と一緒に、ひどく現実味を欠いたものに思えて、かぶりを振ってゆっくり体を起こす。固い質感の冷たい地面から少し浮きあがり、そばに置いてあったベーコンのトーストに目をやった。冷たくても美味しいから、起きたら食べるように、なんて言われたのを思い出して。苦笑した。
 ゆっくりと体を起こして、トーストに手をのばす。パンの柔らかい感触とともに、持った瞬間にそこに穴が開く様にぽっこりと口の痕がついた。右の頭が勝手に食べたことに対してびっくりして、脳を持たない頭は、食事をすることでしかその存在を表せない。ポポに教えてもらったことを思い出した。サザンドラの頭は三つ、二つの頭は脳を持たない。本能で行動する節が大きい気がする。する、というのは確たる証拠や確信を持った情報がないからだとポポは言っていたが、僕はそれで納得した。そして本能に従えば、三つの欲望を満たすために動くらしい。それは食欲、睡眠欲。そして性欲と呼ばれるものらしい。
 最後の欲望に対して聞いてみたら、ポポは紅潮してよく知らないと返した。つまりはポポにも分からないことがあるんだと少し吃驚した。あらゆる知識を所持したような印象を受けたのは少なからずあるし、ポポが何でも知っていると思っていたことも間違いではなかった。それは僕が、ポポとしか会話をしていないからである。子どものころはいろいろなポケモンと会話をしていたような気がしたけれども、もうそんなことは忘れた。自分の姿を見たときに、下品で醜悪なポケモンに変わってしまったと頭がそう思った。それはその時に、自分を見た人の反応が先に思い浮かんだから、自分はもうここにはいられないと思ってしまったから。それは自分の思考が生みだしてしまった間違えた思いだとポポは言った。だけれども、ポポは最初、僕を見たときに腰が抜けるほどびっくりした。それはやはり心のどこかで、この場所には化け物が住んでいるという認識を持っていのかも知れない。
「ポポは僕のことを信じてくれたけど、ほかの人は――」
 どうなんだろう、そう思うと僕は怖くてほかの人に会うことなんてできやしない。自分の性格は臆病でとってもまごついている。何かしなければいけないということを分かっていたとしても、それに対する踏ん切りがつかずに思考が宙を舞う。結局食事は両方の頭が全部すませてしまった。喉を通らないほど考えているわけでもないけれど、どうも考えていると食事をしたくなくなってしまう。僕が健康なのは二つの頭が示してくれたけれども、頭の中はどうも昨日の言葉が引っ掛かり、嬉しいけれども、もしかしたら、という意識が飲み込んでいる。そんなことを考えていたら、洞窟の中から反響したような声が聞こえた。小さくて高い声で、この奥だ、とか、もう帰ろうよ、とかそんな声が聞こえた。洞窟の中は結構な空洞があって、静かにしていればたいていの音が聞こえてくる。何だろうと首を傾げて、声のする方へゆっくりと動いていくと、暗がりに明かりを持った、三人の子供が見えた。
「ほら、大丈夫――うわぁあああああ!!!」
 先頭にいたピチューが大きな声を出して松明を取り落とした。このあたりに燃えるようなものはないが、湿っている地面が炎の勢いを弱めて、すぐに消してしまった。
「わあぁぁっ!!!うわぁぁぁぁぁっ!!!」
 ピチューの隣にいたキバゴが、同じように大きな声を出して、口を大きくあけてこちらを指さす。やはり僕の姿は見た者に強烈な印象と恐怖を与えるものだと思った。それは無理もないことだし、誰でもびっくりすることだった。
「や、やっぱり、ポポお兄ちゃんうそつきだ!!こんなお化けがいるなんて聞いてないよー!!!」
 ポポ、という言葉に少し反応した。子供たちは泣きじゃくり、洞窟内に声が響き渡る。冒険心でもあったのだろうか、子供というのはえてして、じっとはしていられない性分だということを、僕が一番よく知っている。それは僕が最近まで子供だったから、子供だったから僕はじっとしていられなくて、でも他人に畏怖されるのが怖くて、結局何もできずにもがくだけ。怖いという感情、嫌だという思い。それらはすべて、僕にとっての怖いだった。
――逃げ、じゃないのかな
 ポポの言葉が浮かんだ、怖がられたまま、自分が悪いんだと思ってしまうのは逃げだと、勇気を持って話しかけるのが、進歩だと。
(勇気――そうだ、僕はポポにこういうときのために、いろいろ教えてもらったんじゃないか)
 何かを教えてもらっただけではない。僕にはそれを実践させる実力も伴っているはずだ。そう思った。そうじゃないのなら、そうなるように今から変わることができればいいのだ。もう自分はただ他人の意識に怯えているだけではない。考え、行動して、自分の存在を知らしめることができるはずだ。
(僕は……怖くないんだ、兇暴なポケモンじゃ無いんだ)
 自分の中にあったイメージを全てかなぐり捨てて、僕は――サザンドラのノノは、話しかけた。


 子供たちがいなくなったという声にたたき起こされた。少し眠っていたんだという意識もはっきりとしてきて、あわてた村人たちの声が聞こえる。
「あ、ポポ!!大変なの、大変が大変なの!!」
「落ち着いてください、どうしました?」
 村人のライチュウが大慌てで俺の手を引く、半ば無理やり引っ張られるような形で村の中央広場に集まる。自警団のみんなと軽く挨拶を交わして、村長の所にやってくる。
「なんだこの騒ぎは?」
「さっき聞いただろう、子供たちがあの洞窟に向かうところを目撃した村人がいたんだ」
 背筋が伸びて、体が硬直した。飲み物を飲んでいたらもしかしたら噴き出すくらいに、息が詰まって、喉の中に嫌なものが張り付いた。それはあまり聞きたくない言葉と認識されて、脳が拒絶するようにぐわんとなった。
「あそこにはポポが誰もいないと断言していたからな。おそらくは大丈夫だと踏んだんだろうが、まだ戻ってこない。これはどういうことだ?」
「さ、さあな、洞窟の中で遊んでるんじゃないのか?」
 しどろもどろのようになり声があまり出なくなったのを聞いて、村長は俺の顔をゆっくりと両前肢でつかんで、ぐい、と間近に引き寄せる。鼻に息がかかるほどの位置で、村長はゆっくりと、しかしはっきりとした声で俺に警告するような言葉を吐いた。
「お前はなんで、誰もいないと断言した洞窟の中で会話をしているんだ」
 心臓が跳ね上がった。体に伝う汗の感触がゆっくりと掘り起こされるような感覚、視界が塗りつぶされて、醜悪な臭いをぶちまける。同様と恐怖で、感覚が錯綜した。
「信じなかったわけではなかったが。ポポ、お前の後をつけさせてもらった。誰もいない洞窟の中で、お前の声が響いた。あの声はだれかと会話をしていた声だった。お前の言っていたことは――嘘だったんだな」
 頭の後ろを殴られるような衝撃が襲うような感覚がした。村長は臆病であまり行動を表ざたにしない性格だ。しかしそれが災いした。俺の後をつけていたということに、俺自身が気がつかなかった。それはつまり、俺の警戒心が完全に落ちぶれてしまったということだ。
(ノノのことを考えていたからなのか)
 そう思ったが、そんなことは関係がない。ゆるゆると平和な時間が自分の意識を変えていったんだろう。ノノがいてもいなくてもこうなることは予想できたかもしれない。だけれども、それは平和になったということだ。だが、自警団としては致命的だ。
 村長はしばらく沈黙をしてこちらの目を見ていたが、乱暴に体を突き放すと、低い声でつぶやいた。
「これから洞窟に行く。ポポも来るんだ。お前の言ったことが村の人たちに信用されるかどうかは、お前自身で確かめるんだ」
 有無を言わさないその口調に俺は押し黙るしかなかった。村長の言うことは正しい、自分の言うことが嘘だったら、村の人たちはみんな俺の言葉を信用しなくなる。だが、結局洞窟の中にノノがいれば、必然的に俺の信用などすべて消えてなくなってしまう。
 みんなの先頭に立って、俺は洞窟に行くことになった。行きたくないという気持ちが大きく膨らみ、結局ノノを守れそうにもないという後悔が過った。こんなことなら、この件を断ればよかったかもしれないと思ったが。俺の性格上それは無理そうだった。
(それに、村ぐるみで何かするなら必ず何かのアクションを起こさないと)
 それは何かに限った話ではない。莫迦莫迦しいと思ったとしても、早々あけすけに言ってしまえば、隣近所との付き合いが成り立たない。村で生活するのならば、信じていなかったとしても殊勝な顔くらいはしないと困ったことになる。同じ情報を共有できなければ、そのものは異分子扱いになる。えてして村ぐるみの行動というのはそういうものであり、それ以外ものをも見いだせない。頭から押し付けることはしないが、白い目で見られるのは確実だ。そしてそういうことをした奴は全員、ここから離れ行くものだった。その姿を間近で見たことはなかったが、それは村から外されて、そして孤立して消えていくものたち、覚えられるのは難しいだろう。
 村のポケモン達が不審な声を出したり、こちらに訝しげな視線を向けているのがわかる、後ろを振り向きたくないのは、避難をされたくないからではない。自分の言葉を少なからず信じてくれたみんなの心が、俺のせいで瓦解することを恐れる。それを招いたのが俺自身の行動だったために、後悔や懺悔の思いなど積もるようだった。
「ポポ、着いたぞ」
 そう言ってはっとする。村長に後ろから小突かれて、慌てて松明を灯し、洞窟の中に入っていく。明るい炎と対比するように、洞窟の陰惨とした部分は、生き物の口の中を思わせる。ぞろぞろと続く列の先頭で、周りにある炎をともすところに松明の炎を当てながら、明るくなるところをひた進む。
 進めば進むほど、自分の思いがどんどん崩れてしまいそうだった。自分が守ってあげなければいけないという責任感を持たず、ただの化け物として処理した方が良かったのかもしれないし、ノノにここから逃げた方がいいと言った方が良かったかもしれない。どこで言葉を間違えてしまったのだろうか、どこで何を間違えてしまったのかわからずに、汗だけが体を伝った。これ以上は進めない、そう思うのは、もうそこが奥だから。
(ノノ)縋るように眼を閉じて、大きく開けた空洞に最後の松明を灯す。周りが薄く光り、洞窟の暗がりがゆっくりとはがされていく。(お願いだ、ここにいないでくれ)
 その願いは――ゆっくりと打ち砕かれた。
 洞窟の真ん中に、横たわる子供達。洞窟の中に入っていった子供たちに間違いないとほかの村人たちが認識した瞬間に、その後ろに佇む、三つ首の竜がこちらを向いた。
「ポポ?」
「ノノっ!!」
 だめだった。彼女はとても嬉しそうな顔をした、しかし、その次に戸惑うような表情を見せた。それは俺の後ろにいる、村のポケモン達を見ていたのか、それとも別の何かだったのか。
「うわぁっ」
「ば、化け物!?」
「ポポの言うことは、やっぱり嘘だったのか!!?」
 自警団が騒ぎ、村人たちも動揺する、見たことのないその異生物を見るような目を向けて、避難するようにノノに指を刺し、まるで見てはいけないものを見るように聞き取れない悲鳴のようなものを喚き散らす。
 ノノは指を刺されて、びくり、と体を硬直させて、そのまま困ったように目の前でうつぶせになっている子供たちを見やる。
「ああ、村の子供が」
「まさか、襲われちまったのか!?」
「ポポ、お前――なんて事態を引き起こしたんだ!!」
 村長は何も言わずに何か憎悪するような視線を俺に向けた。俺は何も言えない。言えなかった。本当にノノが――子供たちに何か危害を加えたのなら。もう何も言えない。
 今まで教えたことも、彼女の心も、俺の思いも、全てが崩れて、砂糖のように溶けてなくなる。もう何が何だかわからなくなり、無意識にノノの前に立ちふさがり、両手を出して、彼女を守る。
「ポポ!!おまえは何をしているのかわかっているのか!?」
「こんな化け物がいることを村に伝えずに放置していたというのか!?」
「早くこの化け物を片付けろ!!」
「あいてはたったの一人なんだ、全員でかかれば、すぐに片付けられる!!」
 やめろ、そんなことをしないでくれ。その言葉の前に大きな声を上げたのは、ノノの方だった。
「静かにしてください!!!子供たち、起きちゃいますよっ!!」
 村のポケモン達の声が、一瞬にして静かになる。三つの頭から発せられた音は洞窟に響き渡り、鼓膜を破らんとする勢いだった。言った本人の超音波のような声で、子供たちはもぞもぞと動いて、嫌そうに呻いた。それでも疲れているのか、そのまままた眠ってしまった。
「お、おい、子供たち、生きてるぞ!?」
「何がどうなってんだァ?」
 人々の動揺をよそに、俺も驚いて、振り返る。ノノは優しく子供たちを撫でながら、心配そうに様子を窺っていた。
「ノノ?」
「みんなと遊んでたら、疲れて寝ちゃったみたいで、起きたら僕が責任を持って村まで送り届けようって思ったんだ。この場所まで探検しにきたみたいで、僕を見てびっくりしたけど、ちゃんと説明したらすぐに仲良くなれたよ。僕、ポポの言うことを思い出して、初めてポポ以外の人と友達になれちゃった。ねえ?ポポ。褒めてくれる?、頭、撫で撫でしてほしいなっ」
 普段と何も変わらない彼女は、えへんと胸をそらして、頭を下げて俺の反応を待った。
(そう――だよな、ノノが、そんなこと、するはずないもんな)
 俺は何を怯えていたんだろう、ばれることだったのだろうか、村人たちにばれてノノを守れなくなることだったのだろうか、それとも、彼女の姿をもう見られなくなると思ってしまったんだろうか。
「ね、ポポ、いつもみたいに、偉いぞって、言って欲しいなぁ」
「……ああ、偉いぞ、ノノ」
 ゆっくりと頭を撫でるその腕を、拒むことなく、気持ちよさそうに受け入れる。村人たちは茫然とその姿を見ているだけだった。
「百点満点だ」
「うんっ」


 夜に上った月はとても綺麗で、複数の光点が散り落ちたように美しく、村を照らしている。そんな綺麗な場所で、俺とノノは隣同士に座って、村長がコーヒーを淹れて持ってきた。まだキッチンは生きているのだろう、相変わらず何度見ても掃除をしない部屋だと思ったが、ノノは村長の家の中に興味があるのか、しきりにきょろきょろとあたりを見回しては、もらったコーヒーをちょびちょびと飲んで、熱そうな顔をする。
 動揺する村人たちに説明をして、彼女のことをどうするかは村長が決めるという形に落ち着いた。皆警戒心をむき出しにして彼女のことを見ていたが、ひとまずは村につれていくことを了承してくれた。その計らいをとってくれた村長には感謝の言葉しか述べることができない。俺にはそれ以上に言えることがなかった。
「さて、話をまとめようか」村長はキノコの胞子を適当に払うと、机にコーヒーを置いて、俺とノノを交互に見やると、まるで不思議なものを見るような眼をノノに向けた。「ポポは彼女があの洞窟にすんでいることを最初の探索で発見した。とても恐ろしいと思われていた彼女は、とても臆病で、人との接触を望んでいた。しかし、見た目のせいで彼女はあの洞窟に隠れるように住むことしかできなかった」
 一息ついて、村長は持ってきたコーヒーに口をつけた。黒く濁り、そこが見えない泥水のようなものを啜るその姿は、混沌を口の中に放り込んでるように見えて、なんだか背筋が寒くなった。それは夏が終わり、秋に近づくことが肌寒いのもあるかもしれない。そんな俺の思考をよそに、村長は話を進めていく。
「ポポは彼女に対して、人との使い方や礼儀作法を教えると約束し、彼女のことを俺たちに内密にして、こっそりと彼女の所に行って勉強を教えていたんだと、そういうことだな」
 村長の言葉に首を縦にしながら頷く。ノノは熱いコーヒーを覚ましながら飲んで、遠慮がちに村長の方へ視線を移していた。しばらく村長は何かを思案するように顔を傾けていたが、やがて呆れるように息をついた。
「ポポ」
「……なんだ?」
「俺が知らないとでも思ったか?」
「――え?」
 子供のころの付き合いだ、わからないはずがないだろうという村長の言葉を聞いて、俺は眥が裂けるほど大きく見開いた瞳を、村長に向けた。それは誰でもない自分自身が一番驚いている。
「お前が何をしていたのか、あの洞窟にだれが住んでいるかまではわからないけれど、何かが住んでいて、それをお前が保護していたのは知っていた。俺が臆病ものなら、お前は隠し事が下手糞だ。感がいい奴はみんな気がついていたさ、俺みたいなやつとかね」
「なんで――」それを教えてくれなかったんだ、そう言おうとした言葉は村長のコーヒーをすする音にかき消される。「なんでって、確証がなかったからさ。頼んだのは俺自身。もっとも本当に兇暴な性格のポケモンが住んでいたのなら、ポポは俺にすぐに相談してくれると思ったからな。村ぐるみだろうがなんだろうが、まず俺を通して一番に相談してくれたのはお前だ。おそらくそれは今までもこれからも変わらないと思った。そんなお前が言葉を濁すみたいに、洞窟には何もいないって言った。たぶんいるんだろうって思ったけど、ポポの言葉通りなのか確かめる勇気はなかった。自警団のみんなもそうだが、俺もそうだ。おそらく洞窟内で彼女の姿を見たら、腰を抜かして逃げかえるだろうな」
 そう言ってちらりとノノを一瞥する。ノノは恥ずかしそうにごめんなさいと頭を下げた。
「そんな中、子供たちがあそこの洞窟に入り込んだ。誰も入れるなって言われてたが、子供たちにそれを伝えてもほとんど効果がなかったな。これは俺の落ち度だ。恐らく謝罪しても間に合わせすらできんだろう。村の者を危険にさらすのは、村長として失格だ。すまなかった。ポポ」
 謝罪の言葉とともに、頭を下げる彼の姿は、いつも見ているもののそれと違い、俺はなんだか不思議な感覚がした。今日に限ってなぜ彼はそんな言葉を口にするんだろう。子どもたちの行動を止められなかったことへの責任は確かにあるかもしれないが、それはこちらが事実を隠蔽していなければなんとでもなった問題であり、大本をたどれば非は明らかにこちらにある。彼を責めることも詰ることも、俺にはできない。
「この件に関しては何も言えない――が、しかし、ポポ、お前にも非はある」
 その言葉を聞いたときに、背筋が伸びた。全身が強張って、体が委縮するような感覚に見舞われる。ノノは心配そうな顔をしてこちらを見ていたが、見ることに気恥かしさか、申し訳なさを覚えたのか、すぐに顔を引っ込めて、俯いた。その時の顔はどこを見ていたのか、だれを見ていたのか。三つの顔から伺える表情は一つしかなく、ノノの心は探れなかった。
「それはポポが一番よくわかってると思う。彼女のことだ」いわれて、体が硬直するような気分だった。言われたことに対して緊張するのは何年振りだろうか、それは当時、自警団の統率役に選ばれたものと同じ緊張だった。その当時の情景をありありと思い出しながら、ごくりと唾を飲み下す、胃の中から湧き上がらる焦りと緊迫が汗を噴き出す速度を速めた。「私たちがお前に調べてほしいと言ったのは私たちでは力不足だったからであり、そしてお前はそれを了承した。報酬をもらったためそれは正当な条件下で執り行わなければならないことだ、違うか?」
「……違わない」
「そうだ、まったく違わない。お前は正当な条件下で契約を交わし、それを実行したと言い切った。それは間違いない。だが――彼女は何だ?」
 目を細めて、口を真一文字に引き結ぶ村長は、ちら、とノノを一瞥した。彼女は顔を俯かせて悲しそうな顔をしていた。自分のせいで、自分をかくまったから、小さく呟くそんなことを言っている。彼女に何の責任があるというのだろうか、全てはこちらが情報を包み隠していたせいだ。子供たちに何と説明しても、好奇心が勝っていってしまう場合のことを考えることがなかった。ノノに言っておけば、もしもの時に隠れてやり過ごしてくれたかも知れなかった。そのことまで考えが回らなかったのは俺の失点であり、誰の所為でもない。俺自身の所為だった。
「彼女は洞窟に存在し、そこで生活をしていた。自警団の皆が何かいるという証言や情報が前もってあったというのに、お前は何もいないと言った。よく調べもしない俺たちも俺たちだったが、嘘の情報を流すとは何事か。それに――この子は、悪いことをする子じゃない。ただ住んでいただけだそうじゃないか。――なぜ保護しなかった?」
「――それは」
 言葉に詰まった。正論が胸を貫いて、体が足の底から冷えるような感覚。緊張と恐怖で言葉がうまくまとまらない、言い訳も思いつくことができずに、村長の振りかざす言葉に刺されるだけ。
「自警団のリーダーとしてあるまじき行為。村という組織を無視した行動。団体から外れてお前が得たものは――失墜だ」
「だけど……みんなは彼女のことを恐れて勝手なねつ造を作り上げていたじゃないか――」
「お前がそうじゃないと感じたのなら、連れてきて説明してやればよかったことじゃないのか?」
 最後の言葉も論破され、砕け散る。なにも言えなくてただ呆然と立ち尽くす俺の前で、村長はくす、と破顔した。その表情の変化に、少なからず戸惑い、目を細めた。虚をつかれたようにぼうっとしている俺の前に、村長は一枚の羊皮紙を取り出し、俺につきつけた。
「これ、なーんだ」子供のように笑う村長を見て、俺はその羊皮紙をよく見た。それは俺が自警団のリーダーである証の証明書であり、それは承った時村長に渡すもので、それはリーダーとしての行動やたち振る舞いをすることを義務付けられるもの、それをなぜ今俺の前に――
「こんなもの、こうだ」
 村長はそう言って、証明書を縦に引き裂く羊皮紙の千切れるような音が響いて、驚愕に目が見開いた。それは驚愕と同時に、一つの解放を意味するような気がして、心を締め付けていたものが砕け散ったような気がした。
「お前の今回の行動は、到底自警団のリーダーとして務まるものじゃない。ポポ――ポポはもう、自由だよ」
 自分の名前を彼にあんなに無邪気に呼ばれたのはいつ振りだろう、ノノが自由という言葉を聞いて、少しだけきょとんとした。村長は昔に戻ったように、緩く頬を吊り上げて笑う。
「ほんとはね――ポポがやめたいって言ったときに、すぐにでも受理しようって思った」
「え?」
「ポポがどれだけ自分のやりたいことに対して情熱的で、それに対して努力を惜しまない人だったのか、幼馴染だもん。すぐにわかっちゃうよ。本当はこの仕事に対して積極的じゃなかったのも知ってたし、何とかしてあげたいとも思ってた。だけど俺が村長になって、俺の縋るものが消えたときに、お前が自警団のリーダーとして押し上げられた。俺にはポポにしか縋るものがなくなって、俺はお前を縛りつけた。自警団のリーダーとしてのお前の立場に縋って、自分を保とうとした。ポポはすごく働いてくれて、俺の評判も上がった。だけどね――心のどこかで満たされてないんだって、わかってたよ」
「そん――……クロア、お前」
 クロアのことを、「村長」という役柄ではなく、彼の本当の名前で呼んだのも――久しぶりだった。幼い頃はよく名前を呼び合って笑い合っていた。成長して考えが変わるにつれて呼ばなくなった。だけど、俺は根っこごと変わることがなかった。
「俺は臆病だから。お前という存在がいなくなったら、何もできないただのアブソルが残ることが嫌だった。村人たちからの信頼が失墜し、地に落ちた自分を村人たちは村長と呼ぶ、「村長」という鎖は消えないから。これがどれだけ心を縛りつけるのか」
「……クロア」
 クロアの目尻には涙が浮かんで、無理して笑おうとする姿が子供のころにそっくりで、ぐっと口を引き結んで俯く。目頭が少しだけ滲んだ。
「そんなときにポポが――仕事をやめたいって言ったとき、俺は喜んだ。喜んで、畏れた。お前がいなくなることを畏れ、お前の心を押した存在に喜んだ。もう縛り付けなくてもいいって、踏ん切りをつけて鎖を切りたいって、下らないものに縛られないで、ポポには自分のやりたいことをやってほしいって、だけどね、俺……やっぱり怖かった。お前がいなくなって、どうなるんだろうって」
「……」
「この子が――ノノちゃんがお前の夢を押してくれたんだって、すぐにわかった。お前がノノちゃんを隠していたのも、それは自分の夢に共感して、それを応援し、押してくれる人を危険な目にあわせたくない、その気持ちがほかの優先事項よりもずっとずっと先に来てたんだって。悔しいけど、俺にはお前の夢を笑顔で応援できる相手にはなれないし、こんな純粋でひたむきな子になんて、敵わないよ」
 だから、と一呼吸。クロアは涙を流して二つに裂いた羊皮紙をさらに破る、乾いた紙の音が大きく響いて、俺の目の前で俺を縛っていたものが取り払われていく。視界が滲んで、口が開かない。
「俺――もう一人でやれるようになるよ。大人の癖に何もできないなんて、カッコ悪いし、夢をずっと忘れなかったお前に、正面切って顔を合わせられないから……だから、もうお前を縛らない、もう、お前を頼らない、だから――自分の夢を、やりたいことを、叶えてくれ」
 言葉が浮かばない、それよりももっと大切なものを、俺は知っている。村長の手を引いて、思い切り抱きしめる。強く強く、幼い頃から何も変わらない彼の細い体を、消えそうなほど強く。
「クロアはずっと頑張ってきたよ。俺が一番見てた。だから俺が変わってしまっても、俺はずっとクロアのそばにいる。大丈夫だから、きっと大丈夫だから」
「ごめんなぁ……ポポ、もっと早く、お前にしてやりたかったこと、こんなに遅くなっちゃって……」
「いいんだ」ただ一言つぶやいて、強く強く抱きしめる。「いいんだ……」もう一度だけつぶやいて、さらに強く抱きしめる。苦しそうな嗚咽も、体中に伝わる震えも、全てが全て、彼の思いが伝わるようだった。
「クロアがどれだけ頑張ったのか、俺が一番知ってる、クロアは、ずっと俺の友達だよ」
「ありがとう……ポポ」
 泣きながら笑い合う。そんな俺達を見て、ノノは羨ましそうに、それでいて嬉しそうに、視線を二人に送っていた。
----
続くー
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- たいしたことないさ大丈夫さ、で現場に向かうのは結構な死亡フラグなんですけどねw
ひとまずはポポがノノに食べられちゃうようなことはなさそうで一安心です。
サザンドラのノノは外見のせいで皆に怖がられちゃってるんですかねえ。
続きも頑張ってください。
――[[カゲフミ]] &new{2011-05-31 (火) 22:02:09};
- >カゲフミさん
わざわざコメントを下さりありがとうございますorz
ポポ自身がたいしたことないと思いこんじゃってるのはもしかしたら自意識過剰の表れかもしれませんね。こんな仕事をさっさと終わらせて、自分の好きなものにありつきたいと思うことは、自分の力に絶対的な自信を持っている証拠かもしれません、めんどくさがりやで自意識過剰なのは、オノノクスだからこそかもしれません。そしてそのまま現場に向かうのは死亡フラグと。使い古されたフラグですが、見事にへし折ってしまいました。さすがドラゴンタイプ、フラグもブレイクしちゃいますね。
ノノは見たポケモンの先入観を植え付けられてしまったかわいそうなポケモンでもありますね。暗闇で光る三つの目、トリコロール光線を放つ怪物、などなど、結構ひどい扱いを受けています。そんなノノにはじめて向かい合ったポポはやっぱり違う印象を与えてくれるのですかね?そのあたりは書いている私自身にもわからないです。つまりどういうことなんだってばよ。
外見のせいで怖がられてしまうのはやっぱりサザンドラだからなのでしょうか。そのあたりはまた続きを書いたときにゆっくりと咀嚼して回答していきたいです、書きながら;;
コメントありがとうございましたorz
――[[ウロ]] &new{2011-06-03 (金) 01:30:10};
- サザンドラのノノが超かわいい嫁にしたい
―― &new{2011-06-03 (金) 20:36:00};
- いいや違うおれの嫁d(ry
…つい本音が…orz
こんなに続きが気になった小説は久しぶりです! こそこそと読ませてもらいますので、頑張ってください!
――[[こはくろ]] &new{2011-06-03 (金) 23:38:03};
- >名無しさん
かわいいと言っていただいてありがとうございます、ポケモンって見た目はあれでもどこかしこに茶目っ気やら愛らしさやら憎らしさが存在しますね、生き物と同じでちょっといき物とは違う感じがして楽しめる、それがポケモンかもしれません、さて、その中でなんか見た目と能力からやたら人気が高いサザンドラは、私の目から見たら、かわいい、という変な位置づけに定着いたしました。かっこいいよりもかわいらしさのほうがずいに出てる感じがしますね、ノノはそんな私の思いが詰まった、かわいいサザンドラって感じになってますね。たぶん他の人も絶対かわいいとおっしゃる方がいるはずです。怖いと思うポケモンをかわいく書く。こういうギャップもまたいいものですね。だけど嫁にされてしまいましたら物語の進行が著しく低下してしまいそうですので、もうしばらく自制心で耐えていただければと思います;;
コメントありがとうございましたorz

>こはくろさん
俺の嫁宣言とはまた大胆ですが、たぶん小説の世界に飛び込んだらやたらペロペロされてお手玉にされちゃうかもしれません。子供の心は純粋ですからね、どんなふうにされちゃっても無邪気なものなので、もしノノに出会ったらあまり刺激しないで上げてくださいね、泣きだしてたぶん一日そのままです。合うかどうかの確率は低そうですが;;
続きが気になった小説のひとつに挙げていだたいて光栄です、その期待にこたえられるように粉骨砕身の精神を持って、意気軒高と進めていきたいと思います。
コメントありがとうございましたorz
――[[ウロ]] &new{2011-06-06 (月) 00:40:04};
- 「もう一つのパイ生地を重ねて、詰めで淵を抑える。」間違いがありました。
ウロ氏の挿絵は今回も可愛かったです。泣いちゃってるノノとうろたえるポポは。
大好きなフィラの実を無意識にパイにしてしまう辺り、ポポはノノのことをちゃんと考えてあげているようで。それが今後どう転がったりするのか楽しみです。
執筆頑張ってください!
――[[ナナシ]] &new{2011-06-08 (水) 08:23:30};
- 挿し絵が……ッ!(ズキュ-ン
絵が上手で羨ましいです。 もっと自分に画力があれば…と、たまに思ったりします
絵も小説も無理しない程度に頑張ってください!
――[[こはくろ]] &new{2011-06-08 (水) 22:04:09};
- >ナナシさん
誤字脱字の報告ありがとうございました。やっぱりちゃんと見ていたつもりでもそういうものがあるので申し訳ないと思います。添削もちゃんとできないで汚らしい文章をさらしてしまったことを深くお詫びいたします。このたびは誠に申し訳ありませんでした。
オノノクスのかわいらしさや、サザンドラのかわいらしさをもっと出せるような絵を描きたいですね、着彩技術がないのはご愛敬。もうちょっと色塗りとか綺麗にできるようになりたいです。挿絵なんて入れなくても伝えられるような文章とかもかきたいです。こういうのは誤魔化しの様な気がしてなりません。うーん、そのあたりも人の考え方一つで変わりますね。
無意識にぱ異にするっていうのはある意味芸術かもしれませんね、私も料理を作っていたら当初とは違う料理ができたというのはありました。こういうのを無意識というのかもしれません。そういうことはあまりしないほうがいいかもしれませんが、小説内の表現の一つとしてならいいんじゃないかなーって思います。フィクションだしね。このくらいのありえなさがちょうどいいかもしれません。
どんなふうに転がってもかわいい感じを出したいですね、もともとかわいいポケモン達がこまごまとする姿を想像してちょっとほくそえんだりする小説を目指します。
コメントありがとうございましたorz

>こはくろさん
挿絵を見て心がクラッシュしてしまわないようにしていただきたいです。やっぱりああいう変な絵は載せないほうがいいですね、でも挿絵載せないと私がどこ書いているのかわからない、というわけじゃないんですけど、気分ですね。申し訳ありませんでした。っていうかお目汚し失礼いたしましたorz挿絵でごまかす前に小説の執筆による技術向上を努めたいです。画力は私もありません。描くことが大事です。描こうかな、と思った時に描く気持ちがあれば下手でも楽しい絵がかけると信じないとやってけないです;;
コメントありがとうございました。無理をせずにいきたいですorz
――[[ウロ]] &new{2011-06-09 (木) 10:41:00};
- リアドラ爆発しろ(リア充的な意味で
――[[漫画家]] &new{2011-06-26 (日) 10:52:08};
- 「どうやら今のノノ頭がフル回転しているらしい」"ノノの"ですね。
ノノ可愛い(^q^) ちょっとヤベェぜ……。ポポ羨ましい。
図鑑の説明ではかなり危ないポケモンですが、ノノはそれに当てはまらない&純粋な子でホント可愛いなぁ~(ry
これからの執筆と挿絵の作成頑張ってください!

ノノの涙が少し白濁液っぽく見えるのは気のせい?
――[[ナナシ]] &new{2011-06-26 (日) 11:58:28};
- >漫画家さん
うーん、本人たちにしてみれば結構普通の会話かもしれませんね、ぶっちゃけて言うとそこまでリアルが充実しているようには見えないかなって思います。
コメントありがとうございましたorz

>ナナシさん
誤字の報告毎度申し訳ありません、添削しきったと思ったんですが、まだまだ目が腐っているようですorz
サザンドラが可愛いと思ったのなら作者としてうれしい限りの大成功です。ちょっとヤバいって何がやばいんでしょうwwとは思ってしまいますが、それだけノノが可愛いということですね。図鑑の説明通りに描かないのが私です。図鑑の説明なんてなかったんや。なにも全部の個体が同じ性格してたら怖いですもんね。個性があったほうが楽しいです。純粋ってことはあっちのほうも(ry
白濁色のエロい汁に見えるのはそういう目で見ているからです(^ω^)
コメントありがとうございましたorz
――[[ウロ]] &new{2011-06-27 (月) 12:34:30};
- 元々のイメージから離れた性格とか、
それまで想像できなかった世界とか広がるので大好きです。
この小説を読んで、サザンドラを見る目が変わった気がします。
続き楽しみにしてます。
――[[がるる]] &new{2011-06-27 (月) 23:48:22};
- サザンドラめっちゃ可愛い!
ゲームでもこんな感じだったらな……
って思ってしまいました。
無理しない程度で、がんばってください。
―― &new{2011-06-28 (火) 10:40:32};
- これはヤバい…… 良い意味でサザンドラのイメージが崩壊したでありんす。
―― &new{2011-07-20 (水) 02:30:55};
- サザンドラって……こんなに可愛かったんですね…。
今まで気がつかなかった自分を蹴り飛ばしたい。
――[[初心者作家]] &new{2011-07-20 (水) 17:22:50};
- 「それは何も“ない”っていない状態から知識を吸収するということになる」 間違いがありました。

ノノがこんなに凄い才能の持ち主だったとは…頭の中が元々空っぽだったとはいえ知識をどんどん吸収し、更にそれを自分なりに分かりやすく編集して記憶しているのだから凄い。
そしてポポの過去の一端も明かされようとして続きが気になります。無理しないよう頑張ってください。
――[[ナナシ]] &new{2011-08-15 (月) 17:57:06};
- >がるるさん
 もともとのイメージがどんな性格かわからなくなりましたwwこの小説をお読みいただいて、サザンドラのイメージが変わっていただけたのなら幸いでございます。ありがとうございました。

>名無しさん
 サザンドラは可愛い系ですからね。ゲームではこんな感じになるともうそうすれば(ry
 ありがとうございました。頑張ります。

>名無しさん
 放火したら私の思惑通り、ということですね。私の想像するサザンドラというイメージが、読者や作者の方に伝われば私は大満足です。ありがとうございました。

>初心者作家さん
 サザンドラってこんなに可愛いんですよ。気が付けなくてもしょうがないと思います。兇暴だもん。ありがとうございました。

>ナナシさん
 誤字の報告ありがとうございました。自分自身無意識に知識を吸収していると、もしかしたら都合のいい解釈方法とかが浮かぶものだと思います。ノノはそれがずば抜けて高いということになりますね、やっぱり天才の部類に入るかもしれません。ポポが何を思っているのかは、次の更新で明かされますね。ありがとうございました。

 皆様、コメントありがとうございましたーorz
――[[ウロ]] &new{2011-08-18 (木) 10:08:30};
- 「無理やりやらされていると、逝ってしまえばそこまでだが。この村では~」間違いがありました。

ポポとノノの話し合いはとても素晴らしいものでした。ノノが考えるポポのイメージを伝え、それによってポポの気持ちが晴れやかになった感じがしました。
それと、ノノの可愛い顔とイメージが素敵すぎて、サザンドラの公式絵がスッと浮かばなくなってきた。
――[[ナナシ]] &new{2011-09-09 (金) 13:51:06};
- 村長にはそんな暗い過去があったんですね・・・
これからも執筆頑張って下さい(o≧∇≦)b
――[[FREEDOM]] &new{2011-09-11 (日) 22:40:27};
- 「(私→{僕})に対して引け目を感じることも」 「今まで聞いた“度の”言葉よりも不思議に聞こえて、“度の”言葉よりも重く」 「持った瞬間にそこに穴が開く様にぽっこりと口の“後”がついた」 間違いがありました。

洞窟にやってきた三人の子供達にノノはきちんと話しかけられるのか… 正念場ですね。頑張れノノ!!
そしてポポはノノに性についてをどう教えるのやら…ニヤニヤ
――[[ナナシ]] &new{2011-09-13 (火) 17:43:40};
- 成長したね、ノノ。

執筆これからも頑張って下さい!(^∀^)
――[[通りすがり]] &new{2011-09-14 (水) 01:53:30};
- ノノが可愛すぎてもう…
―― &new{2011-09-14 (水) 09:21:06};
- サザンドラのノノちゃんを化け物呼ばわりした、臆病かつ卑怯者の村長は、
今すぐ村長を辞任すべきである。当然ながら、異論は認めぬものとする。
―― &new{2011-09-14 (水) 16:49:51};
- 「大変なの、“大変が”大変なの!!」 「後ろを振り向きたくないのは、“避難”をされたくないからではない」 「異生物を見るような目を向けて、“避難”するようにノノに指を刺し」 「褒めてくれる?“、”頭、撫で撫でしてほしいなっ」 間違いがありました。

ノノのことが村人にばれてしまったポポ。洞窟に向かう道のりの彼の考えは、彼女のことを心の底から想ってあげているんだなと言うのが良く分かりました。
そしてノノが発見されてしまったとき無意識に彼女のことを守ってあげたことにとってもカッコいいと思いました。ノノも子供たちと仲良くなれて凄いと思いました。

「撫で撫でしてほしいなっ」とか…可愛すぎる…ズギュン
――[[ナナシ]] &new{2011-09-14 (水) 16:58:37};
- 大変なの、大変が大変なの!! は
それだけ村人がパニクっていたことをあらわす表現の1つじゃないかな?

純粋にノノ可愛いですね
――[[がるる]] &new{2011-09-14 (水) 19:04:23};
- うっひょーノノが頃されてポポが反撃というか「ノノの居ない世界に未練なんてない」とか「コレは村人に対する宣戦布告でもなく復習でもない、逆襲だ」つって牙の赤みにしちゃうのかと思ったら平和!そしてノノ天使!
というか悪タイプがマジ天使、村長女の子にモテないなら俺と結婚してくれ
――[[まん]] &new{2011-09-14 (水) 23:54:19};
- 「ちょっとばかし出て行くぜ。あの洞窟、まだ何かありそうだからな、だれも近付けるなよ」

と言われて

「ああ、わかった」

と返したのだから、子供達が洞窟に入るのを防げなかったのは村長にも責任あるよねこれ。尾行してた時に”何かが居る”であろう事もわかっていたわけで。それらを棚にあげて一方的にポポを責めるとかどういう事なの‥w


村長の真意やいかに。
―― &new{2011-09-16 (金) 22:03:35};
- >ナナシさん
 誤字の報告ありがとうございます。いつものことながらすいません。脳内変換みてねえへ。ノノの心は成長していろんなものを知ってきたからこそ、子供たちと仲良くなれたんじゃないかなって思います。多分そう思っておけば大丈夫のはず(ry

>FREEDOMさん
 暗い過去を持っていても村長は村長の立場で優しい人だから問題ない。ありがとうございます。執筆頑張ります。

>通りすがりさん
 成長しましたね。この子の成長が一番でかいんじゃないかと思ってます。個人的に。ありがとうございます。執筆頑張ります。

>名無しさん
 純粋に可愛いと思ってると官能見れないよ。さあ不純な目で(ry
 純粋な子がエッチなことするのって背徳感があっていいと思います(`・ω・´)

>名無しさん
 村長が村長をやめるのも時間の問題かもしれませんね。でも今はまだやめませんから、意見は却下されちゃいますね。ノノが可愛いなら仕方ない。私もサザンドラが好きです。

> がるるさん
 表現と誤字は紙一重。よくあることだ問題ない。誤字だらけだしね(ry
 純粋に可愛いなんて思ってたら(ry
 えろいめでみてね!!

>まんさん
 あまり血なまぐさいのは好きじゃないんですww平和なお話が一番です。
 ノノが天使ならポポはなんだろう、変な人かな。村長はノーマルです(^q^)

>名無しさん
 責任はあるにしてもやっぱり嘘つくほうも嘘つくほうってことですね。一方的に攻めるのはきっと気の迷いかなんかだと思ってね(ry
 村長の真意は実は何も考えてなかったという罠。

 皆さんコメントありがとうございましたー。
――[[ウロ]] &new{2011-09-19 (月) 11:40:46};
- ダメだ、村長ことクロアくんの本音に涙腺大崩壊……
ポポくんの事はもとより、ノノちゃんの事まで考えていたとは……

村長を勇退すべきか続行すべきか、それは今後のポポくん、ノノちゃん、クロアくん次第かかっていますね。

最後になりましたが、クロアくんを『臆病かつ卑怯者』と呼んでしまい、すみませんでしたっ!!
―― &new{2011-09-19 (月) 14:09:43};

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