#include(第十回仮面小説大会情報窓・官能部門,notitle) ---- *ワンクッション [#hZ05jAf] この作品には&color(red){作者オリジナル要素(多分)};、&color(red,red){人×ポケ};、&color(red,red){流血表現};、&color(red,red){Vore要素};の表現が含まれます。 苦手な方はご注意ください。 *僕には自信がない [#eccn530] [[次話へ進む>僕には才能がない 2]] [[一覧に戻る>僕には才能がない]]|[[次話へ進む>僕には才能がない 2]] 作:[[COM]] 『僕の夢は、ポケモンマスターになることです』 部屋の片付けをしている最中、小学生の卒業アルバムを見つけて思わず片付けの手が止まってしまった。 ほとんど開いたことのないアルバムは新品の書籍のように固く、その一枚一枚を感慨に浸りながら読み耽っていた。 そしてページの中ほど、冒頭で先に抜き出したが、『自分の将来の夢』について書かれた拙い作文の書き出しを見て、何とも言えない気分になってしまった。 この作文を書いた頃から十数年。決して僕は小学生の頃から夢が変わったり、諦めたりしたことはなかった。 「努力をすれば必ず報われる。ただし、それは正しい努力でなければならない。常に自分に問い掛け続ければ自ずと答えは見えてくる」 今でも僕の心を支えてくれる、当時のチャンピオンが防衛戦に勝利した後、インタビューに答えた際に放った一言だ。 ずっとその言葉の通り沢山ポケモンについて勉強し、ポケモンとの絆を大事にし、トレーニングを続けて僕は二年前にプロのポケモントレーナーになった。 プロといってもただライセンスを持っているかどうかの差だけで、武者修行をするようなポケモントレーナーとほとんど差はない。 ただポケモンの育成に関わる職に就きやすく、ある程度の腕を認められればそのままエスカレーター式でポケモンブリーダーやトレーナーコーチになれるというだけだ。 いや、流石になれるだけ。などと言い切るには世のプロトレーナーに失礼だった。 トレーナーライセンスは『ポケモンについて正しい知識を持っている人』に与えられるライセンスだ。 そのライセンスとその後に積んだキャリアさえあれば、ポケモン学者にもなれるような謂わば夢の足掛かりとなるもの。 ポケモンに携わる仕事に就きたいのならこのライセンスは必須となるだろう。 勿論、先程も言った通り、先に実力を認められれば後からライセンスを与えられることもあるが、基本的には様々な保証や活動の記録をしてもらえるため、大抵の場合は先に取得する。 だが、記録されるのは何も良い結果ばかりではない。 僕のように才能のない人に、早めに『君には才能がない』と分からせてくれる厳しくも優しいシステムでもある……。と今の僕は思うよ。 というのも、このライセンスを取得してからの二年間、僕は目立った成績を残していなかったからね。 僕のパートナーはアブソルのルナ。小さい頃から一緒に生活していた、家族同然の存在だ。 甘えたがりでボールから出していれば大体僕の傍にやって来て、撫でて欲しそうに僕に体を擦りつけながら前にゴロンと転がるのがとても可愛い。 言うこともしっかりと聞いてくれるし、少々やんちゃをする程度で誰かに迷惑をかけたりもしないようなとても優しい子だ。 だが、バトルの時はそうはいかなかった。 大体の場合、ルナは僕の言う事を聞かずにそっぽを向いて試合放棄からの不戦敗となることが多く、たまに戦ってくれたかと思うと全く言うことを聞かず、少々バトルをしたらフィールド外へひょいと飛び出し反則負けとなっていた。 普段僕の言うことを聞いてくれるルナがバトルの時だけは言うことを聞かない。以前それをベテランのトレーナーに相談したら 「それは君にトレーナーとしての才能がないからだろう。普通はちゃんと言うことを聞いてくれるものだ。本当に君が普段からその子を大事にしているのならな?」 と逆に僕が普段からルナを虐めているからなのでは? と遠回しに疑われる始末だった。 つまり、僕にはどう頑張ってもトレーナーとしての才能は無かったようだ。 何度もチャンピオンの言葉を反芻し、自分の何が悪いのか、努力の方向は合っているのか何度も考え、思案し、色々と試したが結果は変わらずだった。 ふっ……と自傷にも似た乾いた笑いとため息が漏れ、少年の頃の無垢な自分に申し訳ない気持ちになった。 『努力してもできないことはある。時には諦めも肝心なのさ……』 世間を知った風なひねくれた答えで自分を慰めて、アルバムを閉じてダンボールへと詰め込んだ。 「アブッ! キャウ!」 「ん? どうしたんだ? ルナ。……ってもうこんな時間か。散歩に行こうか」 「アブッ!」 その時、不意にルナが吠え、ふと我に返って時計を見ると既に夕方近く。 思っていたよりもアルバムを長いこと眺めていたようで、荷造りはほとんど今朝と変わらないほどしか終わっていない状態だった。 このぐらいの時間になるといつもルナを連れて近くのトレーナーがよく集まる公園へ散歩に出かけていたため、片付けもそこそこに外出の準備をして公園へ向かった。 公園へと向かう道中、結局どんな言葉で誤魔化したり、納得したつもりになっても片付け途中の部屋の様子と同じで、僕の心も釈然としないまま整理が追いついていなかったが、公園へ向かう道中のルナのとても嬉しそうな表情と元気に揺れる尻尾を見て、そんな思いも少しだけでも忘れられる。 僕よりも少し前を踊るように歩き、少し先に行き過ぎたと感じると振り返って待っているルナを見て、笑顔とも悔しさともとれる何とも言えない表情を僕は浮かべていた。 何故なら……こうしてルナと一緒に散歩をできるのも最後だからだ……。 もうそろそろ僕は『プロトレーナー』の肩書きを失う。 いや、そもそも僕はそんな大層なものを持ってなどいなかったのかもしれないが、とにかく資格という保証されたものを失う。 プロトレーナーはそれというだけで様々な補助を受けることができる。 ポケモンセンターの無料・優先利用、ショップでのポケモン関連グッズの割引など、ポケモンに関わる様々な機関で保証を受けられる。 だがそれほどの保証はあくまで『その中から次の世を担う優秀なトレーナーとポケモンが生まれるための補助』であり、『ただのポケモン好きを自堕落に過ごさせる』ためのシステムではない。 曲がり形にも『プロ』と名打っているのだから、勿論プロとしての資質を問われる。 数年に一度、バトルやポケモンと共に行った冒険などの活動を記録されている、手帳にも証明証にもなる『ライセンスカード』を提出しに行かなければならない。 そこで勿論プロトレーナーとしての評価が行われ、評価基準未満と認定されればライセンスカードは失効する。 先にも言ったが、僕はプロトレーナーライセンスを取得してから一度も……いや、その前から一度もポケモンバトルで勝った事がなかった。 それでも諦めずに今まで頑張って努力してきたんだ。誰かが一言でも『頑張った』とでも言ってくれれば僕も報われるが、勝負の世界は結果が全て。 そんな生温い言葉を掛けてくれる人はいるはずもないことは僕自身が一番分かっている。 だからこそ不甲斐なかったし、ルナに申し訳なかった。 せめてルナだけでも認めてもらいたかった。 というのも、トレーナーの僕が不甲斐ないからルナは言うことを聞いてくれないが、たまに戦った時のルナはそれは素晴らしいものだった。 親バカみたいなものではなく、明らかに一方的に勝負を進めていく様はまさに素晴らしいの一言に尽きるほどだったんだ。 そんなルナも、僕と育って僕がトレーナーになったせいで埋もれていくのは嫌だ。 まるで僕がルナの足を引っ張っているようで……。 だから……荷物の片付けが終わったらライセンスの手続きを行って僕は実家に戻り、家業を継ぐつもりだ。 そしてルナは他の優秀なトレーナーに託そうと思っている。 勿論家業だって嫌いじゃないし、両親はこんな僕のことを優しく送り出してくれた。 にも関わらず、こんな結果なんだ……。 母さんは泣くだろうか、父さんは……きっと怒るだろうな。 家族同然のルナと別れるのは正直、寂しいなんてものじゃないが、かと言って僕と一緒に居てもルナは幸せにはなれない。 この二年、色々考えて、努力して、必死にやってきて……何をやってもどうしようもないのなら流石にバカでも諦めぐらいつくさ。 だから、ちゃんと言葉にしよう。 そうすれば諦めたとしても前に進めるさ。 「ルナ」 「キャウ?」 「今までありがとう」 ---- いつもと同じ散歩道、いつもと同じようにポケモン達が沢山いる公園へ遊びに行く途中、急にユウヤはいつもとは違う表情でそう言った。 いつもならその後ユウヤは『これからもよろしくね』と言って私の大好きな笑顔を見せてくれる。 でもその日はいつまで待ってもその後の言葉も、笑顔も見せてはくれず、何事もなかったかのように歩き始めてしまった。 目に涙を一杯浮かべたまま、必死に泣かないようにして……。 突然のことで困惑した。 これからも毎日大好きなユウヤと一緒に楽しい日々を過ごせると思っていたのに、ユウヤは何故か突然そう告げた。 「ど、どうしたの!? ユウヤ! 私何かいけないことした!? 何があったの!?」 「大丈夫。落ち着いて。今日は公園に遊びに行くんじゃないんだ。次の君のトレーナーになってくれる人を探しに行くんだよ」 頭が真っ白になるってこういうことを言うんだろうな……って思った。 ユウヤが何を言っているのか全く意味が分からなかった。 急な言葉で動転してたっていうのもあるかもしれないけれど、それ以上に私自身がその言葉を理解しようとしなかった。したくなかった。 生まれた日から今日まで、私はユウヤといつも一緒に行動してきた。 優しいユウヤのことが大好きで、私がもっと魅力的な雌になれたらいつかはユウヤと夫婦になりたいとも思っていた。 なのに……その言葉はあまりに唐突で、あまりにも非情すぎた。 私にとってユウヤの存在は全てであり、ユウヤのいない人生なんて想像もできない。 それは私にとっては端的に『死ね』と言われているのに等しい言葉だった。 言葉も出ず私は思わず涙が溢れ出していた。 それを見てか、ユウヤも必死に堪えていた涙が溢れ出していた。 なればこそ更に意味が分からなかった。 ユウヤも私のことを愛していて、こんなにも離れたくないと思っているのに、何故ユウヤはそんなことを切り出したのか……。 「分からないよ! なんで!? 私の何が悪かったの!?」 「僕だって君と離れ離れになりたくないよ。できることなら君と一緒にプロトレーナーとして……世界を見て回りたかった。ポケモンリーグにも出てみたかった! でも、僕じゃ君をそんな舞台には連れて行ってあげられないんだ……。もっと僕よりも君のことを理解してあげられる人じゃないと君は幸せになれないんだよ」 「居る訳ないじゃない!! ユウヤよりも私の事を理解してくれてる人なんて!!」 「そんなに泣かないでくれよ……いくら僕が頑張っても君をバトルで勝たせてあげるどころか、言うことを聞かないんだ。ずっと一緒にいた君がバトルになった途端、言う事を聞かなくなるぐらい僕はどうしようもなくトレーナーとしての才能がないんだよ! 分かってくれよ……」 その言葉を聞いて私の心はスピアーにでも貫かれたかのように激しい痛みが走った。 どう足掻いてもユウヤが決意を変えないからではない。 だって……ユウヤがそう言ったのは私のせいだからだ……。 それが分かった途端、私は悔しくて、でももうどうしようもなくてただひたすら泣いた。 動かなくなった私をユウヤは自分の涙を拭ってから、抱き抱えて公園へとまた歩き出した。 ユウヤが本気でポケモントレーナーを目指しているのは昔からよく知っている。 二人とも小さな子供だった頃は毎日本気でトレーニングをしていた。 いつかはポケモンマスターになるために。 でもある時、ユウヤと一緒に見ていたテレビに写っていた人間が放った一言で、私の中にあった志は変わってしまった。 「優秀なポケモントレーナーを、ひいてはポケモンマスターを目指すのならば、沢山のトレーナーやポケモンと出会い、沢山の出会いと別れを繰り返して最高のパートナーを見つけなくちゃいけない」 いつも勉強していたユウヤの言葉をよく覚えていたからこそ、その時から私は必死にユウヤがポケモントレーナーになるのを『阻止しようとしてきた』。 理由は……こうなった今なら恥ずかしい話だけど、ユウヤとずっと二人だけでいたかったから。 ポケモントレーナーは最大で六匹までポケモンを連れて歩くことができる。 それはつまり、私以外にもユウヤと一緒に寝食を共にするポケモンが現れるということ。 下らない話だけれど、私はもうその時からユウヤのことが好きで仕方がなかった。 だからこそ、私以外の誰かがユウヤと一緒にいて欲しくなかった。 そのために私はバトルでは尽くユウヤの命令を無視した。 ユウヤは優しいから、例え私が言う事を聞かなくても私を見捨てないことを知っていたから……。 今にして思えばなんて最低な事をしていたんでしょうね。 それでもユウヤはトレーナーになることを諦めなかった。 だからこそ、もしもの時を考えて私は一人でもユウヤを支えられるほど自分を鍛え上げ、たまに私だけでもそこらのポケモンには負けないことを見せつけて、でも彼がトレーナーであろうとすることを阻止し続けた。 それでもユウヤはいつも少しだけ困った顔を見せるだけで、すぐにいつもの笑顔を見せてくれていた。 だから……私はこれでいいんだと思ってしまっていた。 当たり前よね……こんなことをし続けて今の今まで嫌われなかった方が寧ろ凄いわ。 結局、私は自分のワガママでユウヤの大切な夢も自分の大切な人の心も失った。 だからこそこれは自業自得で、もう諦めるしかないのだろう。 分かっていても、必死に私を抱き抱えて歩いてくれるユウヤに体を預けていた。 いつもよりもかなり時間は掛かったけれど、結局公園には到着してしまった。 今日もいつものように沢山のトレーナーとポケモン達が楽しそうに遊んだり、本気でバトルを繰り広げていたりする。 「さあルナ。新しいパートナーを探しに行こう。今度のトレーナーはちゃんと君のことも分かってくれるさ」 もう私はユウヤの言葉に何とも答えることができなかった。 私のことを分かってくれるのはユウヤだけで十分だった。 でもそんな私の傲慢さが原因で、結局ユウヤは私のことが分からなくなったのでしょうね。 それからは公園の中でバトルをしている人達の辺りまで歩いていくユウヤの後ろを素直について回った。 だけれど、ここでも私はまたユウヤを苦しめてしまった。 流石に二年も同じ町に住んで、同じ公園でバトルを続ければ、嫌でもそのトレーナーとそのポケモンの情報は皆に知れ渡る。 つまり、誰も『言う事を聞かないポケモンなんていらない』とバッサリと切り捨てて、ユウヤの元を去っていこうとする。 その度にユウヤは必死に引き止めて『悪いのはルナじゃないんだ。僕があの子の力を引き出せていないだけなんだ』そう言うユウヤを見る度に心が締め付けられて、悔しくて悲しかった。 違う……。 全部違う……。 あなたはこれまでずっと努力してきた。 それをずっと阻止してきたのは私なの。 そう言いたかったけど、今日ほどユウヤに私の言葉が聞こえていないことを悔やんだ日はないかもしれない。 「馬鹿じゃねぇの? そもそもバトルもできないくせにそんなポケモンいると思うか? そうだな……せめて一回きちんとバトルが出来たら引き取ってやらんでもないぜ?」 「……分かった。バトルしよう」 「なーにがバトルしよう。だよ。ま、仕方ねぇから一回だけはチャンスをやるよ」 会話を聞いていても明らかにその相手のトレーナーはユウヤの事を馬鹿にしていた。 それが悔しかったのもあるけれど、それ以上に私は申し訳なかった。 「よかった。久し振りにバトルしてくれる人が見つかったよ。いい? ルナ。一回だけでいい。ちゃんと言う事を聞いてくれ。そうすれば君の凄さは皆に伝わるはずだから……」 そう言ったユウヤが誰よりも凄いって事を知ってるのが……私だけだということが……。 だからこそ振り切れた。 最後ぐらい、ユウヤにいい格好をさせたい。 凄いトレーナーなんだって、もう一度ユウヤに自信を取り戻してもらいたい。 奪った私がいうのもおかしいかもしれないけれど……。 だからこそ、負けられない! ---- 胸に手を当てて一つ、深く息を吸ってゆっくりと吐き出して、胸の高鳴りを沈めていった。 何ヶ月振りだろう……いや、そもそもバトルが出来るかも分からないが、それでも誰かが目の前に対峙してくれる感覚自体が久し振りで少々緊張する。 でも、ルナのためだ。 「行くぞ! ルナ!」 「アブッ!!」 その思いが伝わったからなのか、それともいつもの気まぐれか、どちらにしろルナは久し振りの僕の掛け声に答えてくれた上に、真っ直ぐにバトルフィールドへと飛び出していった。 相手をしてくれたトレーナーもボールを投げ、ムーランドを繰り出してきた。 両者ポケモンを出したところでバトル開始。 「いくよルナ! でんこうせっか!!」 「たいあたりで迎え撃て!」 お互いの最初の支持がフィールドに響き渡り、ルナは指示通りに走り出してくれた。 相手のムーランドは迎え撃つためにしっかりと身構えていたが、ルナは以前僕が教えたことを覚えていてくれたのか、でんこうせっかを左右に大きくステップを踏むように動きながら翻弄してくれた。 素早く相手の懐に飛び込んで攻撃する技だが、相手が後手に回ったと分かった時点で身構える人が多いため、でんこうせっかは初撃の不意打ちとしては人気だが、同時に対策もよく練られている。 だからこそ僕はルナにでんこうせっかの可能性を加味して別の使い方を教えていたけど……まさかちゃんと使ってくれるとは思わなかった。 早さこそ大きく落ちるが、身構えた相手を翻弄するには十分な動きだった。 ムーランドは明らかに動揺しており、ルナもそれを見逃さなかったのか、いいタイミングでそのまま思い切り突っ込んだ。 当たりは軽かったが確実にムーランドはよろめいた。 「つじぎり!」 「ギャウン!!」 地に前足が着くやいなや、そのまま倒れこむようにムーランドの下へ低く身を滑り込ませ、深く鋭くルナは自分の角を、よろめいて少しだけ隙のできたムーランドの腹部めがけて斬り込んだ。 致命傷、とまではいかなかったが、急所に当たった一撃は明らかにムーランドを一瞬で険しい表情にするほどのものだった。 というよりも僕自身もなのだが、ルナがこれほど僕の言うことを聞いてくれるとは夢にも思っていなかったので僕も相手のトレーナーも怒涛のラッシュに驚愕していた。 でもそれはこちらにとってはかなり好都合だった。 相手のトレーナーが呆気にとられて指示を出せないならいくらでもルナのいいところを見せつけられるからだ。 「よし! そのままかみつくだ!」 「させるか! たいあたりだ!」 調子に乗ってそのままかみつくを指示したが、流石に相手のトレーナーもすぐに次の指示を出した。 そのため既にルナは噛み付くために飛び掛っていたが、ムーランドの体当たりをもろに受けて吹き飛ばされた。 「ルナ!」 「アブッ!」 思わず心配になってルナに声を掛けたが、僅かに宙を舞ったルナは何事もなかったかのように着地し、僕の事を安心させるためにかこちらを一度見てから一声鳴いてくれた。 「ビビらせやがって! いけ! とっしんだ!」 「サイコカッター! 使ったらそのままでんこうせっかだ!」 すぐにルナは敵の方へ向き直し、走り出そうとしているムーランド目掛けて角を振り抜き、光の鎌を飛ばしてすぐに素早く走り出した。 既にとっしんを使うために走り出していたムーランドは『サイコカッター』を避けきれず、当たったことによって怯んでいた。 動きの止まったムーランドに向かってルナは今度は一直線に、速度を最大限に利用したでんこうせっかで飛び込んでいった。 相手のトレーナーは必死に避けろ! と叫んでいるが、このタイミングでは流石に避けられないだろう。 そして僕の読み通り、ルナの『でんこうせっか』をもろに受けてルナよりも重たいムーランドは後方へふわりと飛んでいった。 そのままドサリと地面に落ちると、ムーランドは身動き一つ出来ずにいた。 勝った……。 初めて勝てたんだ……。 「凄いよ! ルナ!」 「キャウ!」 嬉しかった。 ただひたすらに嬉しかった。 初めて勝ったことにではなく、ルナがこれほどまでに強かったこと。 そして、最初で最後だが、僕がルナをちゃんと導くことができたことが……とても嬉しかった。 努力してきてよかった。 たった一度きりになったけど、ルナの凄さを全部引き出してあげることができた。 嬉しくて嬉しくて、ただただルナをしっかりと抱きしめて頭を撫でてあげた。 「畜生! あんな奴に負けるなんて! この役立たず!」 「ギャン!」 だが、そんな僕とルナとは対照的に対戦相手のトレーナーは、負けて傷ついているムーランドをあろうことか蹴飛ばしていた。 同じトレーナーとして自分のために戦ってくれたポケモンをそんな風に扱える相手に怒りを覚え、思わずムッとした表情でその対戦相手のトレーナーを睨み、立ち上がった。 アブソルも同じ想いなのか、そのトレーナーを見て低く唸っていた。 「そんなことする必要ないだろ! 君のムーランドだって頑張ってくれていたじゃないか!」 「お前に関係ないだろ! いや、関係あるな……そうだ、約束だ。お前のアブソル俺がありがたく受け取ってやるよ」 「ふざけるな」 こんな感情を抱いたのは初めてかもしれない。 憎く思えるほどに目の前のそのトレーナーに怒りを覚えていた。 その時僕がどんな表情をしていたのかは分からないが、相手は明らかに少し怯えていた。 だが少しすると今度は苛立ちを見せた表情で怒鳴ってきた。 「ふざけるなだ? お前が『勝ったらポケモンを譲る』って言ってきたんだろ? さっさとよこせ!」 「ルナは確かにポケモンだ。ポケモンはいいトレーナーに巡り合うのが最も幸せな事だ。君は僕よりも優れたトレーナーかもしれない。だが……それ以前にルナは僕の家族だ。大事な家族を負けただけの理由で、傷だらけのポケモンを蹴飛ばせるようなトレーナーには渡せない」 声はいつもよりも冷静だったと思う。 いや、冷静にならないと今すぐにでも彼を殴りそうだった。 だが恐らく表情は冷静なままではなかったのだろう。 またも彼は怯えた表情を見せてムーランドをボールに戻して足早に去っていった。 それを見届けるとどっと疲れが襲ってきた。 人に対して怒るのも久し振りだし、ポケモンバトルをするのも久し振りだった。 そんないつもとは違うことをいっぺんにしすぎたせいなのか、思わず地面にへたり込むほど疲れた。 「アブ……」 「大丈夫だよ。ちゃんと君のことを安心して任せられるトレーナーに託すさ」 ルナが急にへたり込んだ僕を心配したのか、不安そうな表情で顔を覗き込んできた。 その頭をにっこり微笑んで撫でてあげると安心したのか、ルナも笑顔に戻っていたが、その表情は少しだけ元気がなかった。 ゆっくりと起き上がって埃を払い、前を向くと一人のトレーナーがこちらに向かって歩いてきていた。 「やあ初めまして。君の噂はよく聞いていたけど、やはり実際に見るまで分からないものだね。それに対してあのトレーナー……君のアブソルを奪おうとするなんて」 「ああ、それは対戦の前に僕が約束していたんです。ただ、あの人に僕がルナを託したくなかったので結果的に僕が嘘を吐いたことになりますが……」 「そうなのかい? 君達はいいパートナーに見えるけれど……。またなんでそんな大事なパートナーを譲ろうとしているのか聞かせてもらってもいいかい?」 歩み寄ってきたトレーナーは僕でも知っているほどこの街では有名で、腕の立つトレーナーだった。 彼のバトルは何度か見ていたからこそ、この人にならルナを託してもいいと思い、事情を説明した。 すると彼はとても驚き、残念そうな表情を見せた。 「トレーナーを辞めてしまうのか……。確かに今までの君とアブソルはいい関係とは言えなかったかもしれないが、今日の君達はまさに最高のパートナーだった。まだ辞めるには早すぎると思うよ」 「いえ……二年もトレーナーを続けて結果が今日の一戦のみなので……。これほど努力してその程度なら諦めも付きます」 「そうか……。なら一つだけ聞いておきたい。君にとって良いポケモントレーナーとはどんなトレーナーを指すのか。それを教えて欲しい」 「良いポケモントレーナー……。そうですね、ポケモンにとって最良の指示を出せる、そのポケモンの最大限の力を引き出せるトレーナーだと思います」 僕がそう言うと彼はなぜかニッコリと笑い、アブソルの方を見つめ、僕の方へ向き直した。 「トレーナーセンターにはもう行ったかい?」 「いえ。ルナを他のトレーナーに託してから行こうかと思っていました」 「ならすぐにでも行ってみなさい。そこでやはりダメだったのなら明日、君の言う通り私が責任を持って君のルナちゃんを受け取ろう」 彼はそう言い、何故か僕の背を押して公園から追い出してしまった。 理由が分からず首を傾げるが、どう転んでもあの人がルナを受け取ってくれるのなら問題はないだろう。 それからは彼に言われた通りトレーナーセンターに向かうことにしたが、その前に一度ポケモンセンターに立ち寄りルナが先程バトルした際の怪我を直してもらうことにした。 トレーナーセンターというのはプロのポケモントレーナーとして認可された人達が、定期的に自分の活動を報告するための場所であったり、トレーナーが悩みを抱えた際の相談場所であったりする施設だ。 将来のトレーナーのために可能な限り様々なアドバイスを施してくれたり、活動を認められてトレーナーとしてより高い評価を受ければその記録を本人の目指す業種へ先に情報を提供してくれたりする。 もちろん僕も何度も相談に行きたいとは思っていたが、バトルに一度も勝っていないどころかそもそもバトルになっていない僕が相談できるはずもなかった。 僕にとってこの施設はいつの間にか、トレーナーとして上を目指すために訪れる施設ではなく、トレーナーを辞める時に訪れる施設になっていた。 ルナの治療も終わり、トレーナーセンターに辿り着いた僕はかなり複雑な心境だった。 恐らく、あの人がもしかするとトレーナーを続けられるかもしれないなんて淡い希望を持たせたせいかもしれないが、どちらにしろ成績を残せていない僕にチャンスはないだろう。 ふぅと一つ息を吐いてから施設へと入る。 中には僕以外にも何人もトレーナーが順番待ちをしている状態だった。 様子を見る限り、ポケモンと一緒にいるトレーナーも結構いたので、僕も整理券を取ったあとに念の為にボールに戻していたルナを出してあげて、一緒に待つことにした。 初めて見る場所にルナは少しだけ戸惑いと興奮を隠せなかったようだが、ルナの頭を撫でてあげるとすぐに落ち着きを取り戻した。 三十分ほど待っていると僕の番号が呼ばれ、受付へと向かった。 「本日はどういったご用件でしょうか」 「ライセンスの更新をお願いします」 「畏まりました。それではライセンスカードとモンスターボールをお預かりします」 「あ、モンスターボールもなんですね。分かりました」 普通にポケモンを出しているトレーナーが多かったため、ルナを出していたが、不意にモンスターボールを要求され、ルナをボールにまた戻してからすぐにカードと共に渡した。 少々お待ちください。と言われ、また待合室の椅子に背を預けるが、そこで思わず鼻で笑ってしまった。 ライセンスの更新……だなんて名目上言ったけれど、僕はライセンスの失効をわざわざ自分から訪れてやっているのかと思うと非常に惨めな気持ちになった。 ライセンスを失効する者の多くは自分の実力の無さから諦め、ライセンスの更新すらせずにそのまま何もかも放棄する人の方が圧倒的に多い。 結局、そういった人達と違い、僕にはまだ心の何処かで自分は違うかもしれないなどと無駄な期待があるのだろう。 そういった点ではそもそも更新に来ない人達に比べれば僕の方がちっぽけで惨めだった。 少々と言われてから三十分以上経ったが、それでもまだ僕の名前が呼ばれることはなかった。 流石に退屈になり、眠気も襲い始めたため、周りのトレーナーとポケモンを観察していた。 どのポケモンもトレーナーのことを信頼しているのかトレーナーの傍にぴったりと付いていた。 と思ったらそういうわけでもなく、見た感じまだ子供のポケモンは好奇心からか、トレーナーの目を盗んでウロウロとしているポケモンも少しだけいた。 しかし、トレーナーに名前を呼ばれると真っ直ぐにその人の足元へと戻ってゆく。 そんな姿を見ていると無力感に襲われた。 僕もそうなりたかった。 そんな思いが溢れて、思わず涙が出そうになるほどだった。 諦めた。口ではどうとでも言える。 そんなに簡単に諦められるなら二年間もなんの結果も残さずに努力を続けられない。 だが、どう足掻いても今日、答えが出る。 まるで死刑執行を待つ死刑囚のような気持ちだ。 待たせないでいっそのこと五分ほどで言い渡してくれた方が僕もまださっぱりと諦められる。 「ユウヤ様。お待たせしました。奥の四番の部屋へ入ってください」 そんな卑屈な考えを巡らせている内に受付の人は僕にそう言ってきた。 言われるまま四番の部屋の中へ入ると、そこには一人の男性が座って待っていた。 「初めまして。トレーナーコーチのマコトです」 「初めまして……。ユウヤといいます」 そう言うとマコトさんはニッコリと微笑んだ後、良く知っていますと言った。 トレーナーコーチにまで僕の名前は知れ渡っているのだから、答えは聞くまでもないだろう。 悪い方ではかなり有名なようだが、それも今日までの話。これだけ噂されていたのが分かれば流石にもう辞めることになってもなんともなかった。 「先にライセンスカードとポケモンをお返ししておきますね」 「ライセンスカード? 失効じゃないんですか?」 モンスターボールを乗せたトレーとライセンスカードを渡されて、思わずそう口にしてしまった。 「とんでもない。あなたは自分が思っているほど酷いトレーナーではないですよ」 「またまたそんな……。褒めても本当に何も出ないですし、僕自身もう諦めもついていたので……」 「まあまあ。そう答えを急ぐ必要はないでしょう? ちゃんと理由もあってこう言っているので。私の話を聞いてから決めても遅くはないでしょう?」 かなり気が動転していたせいか、カードを返そうとした僕をマコトさんはそう言って止めた。 それから先に僕を落ち着かせるためになのか、少しだけ他愛のない話をした後、本題に移った。 まずトレーナーとしての評価だったのだが、マコトさんが言った通り、ライセンス基準は十分に満たしていると記載された紙を渡された。 悲しいかなバトルに関する評価は大きく凹んでいたが、ポケモンとの相性、ブリーダー適正は非常に高く示されていたのを見て、また心の中で小さく驚いていた。 「ユウヤさんはいいトレーナーとはどういった人を指すか分かりますか?」 「えっと……ポケモンの力を最大限引き出せる、的確な指示を出すことのできる人。他の人に聞かれた時にもそう答えました」 「半分正解ですが、半分不正解です」 そう言われ、思わずえっと声を出してしまった。 トレーナーとはポケモンバトルにおける司令官の役割であり、ポケモンバトルにおいて使用するポケモンのタイプ相性などよりもずっと大事な要素だと、以前見たトレーナー講座番組で凄腕のトレーナーが語っていたのを覚えていたからだった。 事実、トレーナーの指示一つでポケモンは一気にその能力を最大限発揮できるようになる。 野生のポケモンがトレーナーを見つけると積極的に人間の前に現れる理由の一つでもあるほど、ポケモンにとってのトレーナーとは重要な存在なのだ。 混乱したまま、思いを巡らせているとマコトさんはそのまま言葉を続けた。 「確かに的確な指示を出すことはトレーナーにとって大事な要素の一つです。でも、それ以上にトレーナーとして大事な要素があります。何か分かりますか?」 「それ以上……? ごめんなさい。想像もつかないです」 「そうでしょうね」 なんだか馬鹿にされたような気がするが、マコトさんの顔を見る限りそう言った意味は微塵もないようだった。 不満が顔に出ていたのか、それとも僕がただ単に答えが分からずに首を傾げていたからだろうか、もう一度マコトさんはニッコリと笑って言葉を続けた。 「ユウヤさんにとってはごくごく当たり前のこと。それはポケモンを大事にしてあげることです。大切なパートナーとして認識し、絆を深めること。これが何よりも大事なことです」 「確かにルナはとても大事にしていました。……でも! ルナは僕の言う事を全く聞いていなかったんですよ!? 僕がトレーナーとして……」 「とても大事にしていたのはよく分かります。それこそルナちゃんがユウヤさんに恋心を抱くほどに大事にしてあげていたんですから」 「へ?」 僕が慌ててトレーナーとしてダメな言い訳をしていると、マコトさんは僕が予想もしていなかった答えで言葉を遮った。 そんな想像もしていなかった答えで思わず間の抜けた声が出たが、マコトさん曰く、それで何故今までルナが僕の言う事を『バトルの時だけ』聞かなかったのかの理由が説明できると言った。 「ルナちゃんとはパートナーになってからどれほど経ちますか?」 「えっと……物心ついた頃からなので……」 「その時から今までずっと大切にしてきてあげたんですね」 「え、ええ。大切な家族ですから……」 「ただ、それはユウヤさんから見たルナちゃんです。ルナちゃんとしてはそれほどの長い月日を共にし、自分のことをちゃんと理解してくれるユウヤさんはルナちゃんにとっては家族以上、それこそ生涯のパートナーのような存在だったんです」 「そ、それがバトルで言う事を聞かない理由なんですか?」 「直接的に理由ではないですが、そこから生まれたルナちゃんの独占欲が原因ですね」 ルナが僕の事を家族ではなく、恋人のように思っていたというだけでもかなり話についていけなくなっていたが、更に被せるようにマコトさんはルナに独占欲が生まれたせいでバトルでは言うことを聞いてくれなかったのだと説明され、尚更頭が混乱した。 明らかに僕が混乱していることに気が付いたのか、マコトさんは補足するようにポケモンがトレーナーに恋をすることは割とよくあることです。と付け加えた。 正直、そんな補足をもらったところで焼け石に水なのだが、どうしても気になることを先に聞き返すことにした。 「あ、あの! どうしてルナがそう思っていると言い切れるんですか?」 「ああ、失礼しました。説明不足でしたね。それは私がルナちゃんの感情を実際に見させてもらったからです。そのため私の言葉は憶測ではなく、あくまでルナちゃん自身の気持ちの代弁です」 聞いたところによると、ライセンスカードの更新を行う際、昔はバトルの履歴から査定を行っていたらしいのだが、それだけでは様々な問題が発生したため、結構前に査定方法自体が変わっていたそうだ。 その方法が今までの査定方法に加え、『預かったポケモンの感情を確認する』といったものだった。 理由としては、プロトレーナーに発行されるライセンスカードは一番はトレーナーを支援するものだが、ポケモンレンジャーやポケモンドクターを目指しているような人にとって不利になる査定方法だったからだ。 前述した職を目指しているようなトレーナーは戦闘自体はあまり行わず、ポケモンを探し求めて彷徨ったり、絆を深めて誰も行ったことのないような土地を目指しているからだった。 ライセンスである以上、公平な審査基準が必要であるとされ、トレーナーにも必要なポケモンとの絆を査定基準に取り入れ、重点を置いたそうだ。 というのも、その審査方法にしてからとある問題が浮き彫りになったためだった。 それこそが先程、僕が半分は正解と言われた理由でもある、『強くなるためにポケモンを道具として扱う』ようなトレーナーが多く存在していることが明らかになったためだった。 道具として扱われるようなポケモンはそれこそ酷い仕打ちを受ける。 例え勝負に勝とうとも、トレーナーの思い描く通りに動けなければ虐待にもほど近い『調教』が行われることも多かったそうだ。 プロトレーナーライセンスの審査基準を変更してからはこういった『強いだけのトレーナー』はみるみるうちに減っていったそうだ。 「そして……逆に今までポケモンを大事にしていたけれど、なかなか結果が残せずに悔し涙を流しながらプロを諦めていくようなトレーナーも減ったんです」 「でも、それならルナが何故戦ってくれなかったのかが尚更分からないです」 「ルナちゃんはユウヤさんが好き過ぎるあまり、トレーナーになってもらいたくなかったんです」 「そんな!」 「言いたいことは分かります。ですが、あなたがトレーナーとして強くなっていったのなら、ルナちゃん一人でずっと戦えますか?」 「いえ……。ルナに負担が掛からないようにするためにも他にポケモンを捕まえる必要があります」 「ルナちゃんにとって、それが嫌だったんです。ユウヤさんの傍に自分以外のポケモンがいて欲しくなかった。それがバトルの時だけ言うことを聞かなかった理由です」 ポケモントレーナーは普通、本人の腕がない場合、ポケモンがトレーナーを見限り、命令の通りに戦わないことがあるという。 僕の場合もそうだろうと思っていた。 だからこそ色んな方法を考えて、ルナに認められる立派なトレーナーになろうとしていた……のに……。 ルナにとって、それは望んでいた僕の姿ではなかったらしい……。 ずっと一緒にいたからこそ、誰よりも僕の夢を分かってくれている。そんな僕の身勝手な思いがルナを苦しめていたとも知らずに……。 「……やはりトレーナーには向いていなかったみたいですね」 「何を言っているんですか。ユウヤさんは間違いなくいいトレーナーですよ。ただ、ルナちゃんとは距離が近すぎただけなんです」 「近すぎただけ?」 「ずっと一緒にいたからこそ、ユウヤさんはルナちゃんに自分の思いや理由をちゃんと話してあげていましたか?」 そう言われてハッとした。 確かに昔はルナによく、ポケモンマスターになると言って聞かせていた。 でも、最近ではどんなトレーナーになりたいなんてことも話していなかったし、ルナがどんなことを思っているのか考えたこともなかった。 僕が笑いながらパートナーになったポケモンたちと楽しい旅をするようなポケモントレーナーになりたいことも、なって例えパートナーが増えたとしてもルナはかけがえのない存在であることも、一度も僕は話して聞かせていなかった。 分かっていると思い込んでいた。 言葉が足りなかっただけだったんだ……。 「恐らく、今まで全部一人で抱え込んで、全部自分のせいにして、そして耐え切れなくなって、今日初めて耐え切れなくなった思いをルナちゃんにちゃんと言葉にして伝えたんでしょう?」 「ええ……。ポケモンにとって恵まれた人生というのは……いいポケモントレーナーに巡り合うことだと思って……。ルナを他のトレーナーに託すと打ち明けました」 「なるほど。だからルナちゃんは振り切れたんでしょうね。恐らく、今日はちゃんということを聞いてくれたのでは?」 「ええ、自分でも驚くほどルナは素直に戦ってくれました」 「ルナちゃんだってあなたの夢についてはよく知っていたようです。だからこそ毎日罪悪感を抱えたまま、トレーナーとなることを阻止しようとし続けていたみたいです」 思わず何も言えなくなった。 初めは小さなボタンの掛け違いだったのかもしれない。 でも、僕はルナは僕の事を分かってくれていると信じて、何も話さずに一人で悩んで、一人で勝手に答えを出していた。 僕が悩んでいる間、ルナも同じように悩んでいることなんて微塵も考えたことがなかった。 そうこうしていく内に二年も月日が流れて、掛け違ったボタンはもうどうしようもなくなってしまっていた。 ただちゃんとルナと今後どうしていきたいのか話せば全部解決する話だったのにも関わらずに……。 「どう……謝ればいいでしょうか」 「謝る必要はありませんよ。ただ、今まで話せなかったことを全部話してあげればいいんです」 「そうですよね……。ありがとうございます」 「一先ず、ユウヤさんとルナちゃんの軋轢はこれで解決ですね。ただ、最後に一つだけ忠告があります」 「忠告ですか?」 聞く限りではそれらを行動に移すにあたって、なにかしろの問題が発生するとは考えにくかったが、これほどまでに的確なアドバイスをくれたマコトさんがいうことなのだから気を付けなければならないことがあるのだろう。 そう思ってしっかりとマコトさんの話を聞いていた。 「これから先、ポケモントレーナーになるのならば、ルナちゃんとの関係は大事にしてくださいね」 「もちろん!」 「ポケモンは割と普通に求めてくるので、そういう関係を続けていくのなら体力作りはしておいた方がいいですよ」 「求めてくる……って何をですか?」 「察しが悪いですねぇ。あんまり大きな声では言えませんが、交尾ですよ」 今度は別の意味で何も言えなくなった。 先程まで的確なアドバイスをしてくれていたものだから今度も大事なことを話すのだろうとしっかりと聞いていたが、驚愕の答えが返ってきて思わず顔が能面のように固まってしまった。 いやいやいやいや。何を言っているんだこの人は。 馬鹿なのか? というよりもさも平然と何故そんなアドバイスをしているのか、他にもよくあるケースだとマコトさんは言っていたのだが、つまりそういうトレーナーが割と沢山いると? どんな表情をしていたのかは分からないが、マコトさんは思わず吹き出して、声を出して笑っていた。 「真剣に悩みすぎですよ。口外できるようなことではないですが、そういった特別な関係のトレーナーとポケモンは割と多いですよ。それに、もちろんライセンス制度としてもポケモンとトレーナー、双方が合意の上なら何の問題もありませんし」 「そういう問題じゃなくて……」 「あくまで選択肢の一つです。それが最もポケモンとトレーナー双方が傷つかず、良好な関係を築けるというだけです。実際にこの話をしてから考えて、ただのトレーナーとポケモンという関係のままにした人も同様に大勢います。まあ、傾向で行くのならば、ポケモンの想いに答えてあげるトレーナーが多いため、勝手にそっちの方向で話を進めていただけですよ」 「わ、割と普通なんですね」 「普通ですよ。かく言う私もそんなトレーナーの一人なので」 その話を聞いて思わず笑いがこみ上げてきた。 マコトさんの言う通り、何ら悩む必要のない普通のことだった。 忘れたつもりはなかった。でも、いつの間にか忘れていたんだろう。 ポケモンにだって感情がある。 ちゃんと話し合えばいいだけなんだ。 その上で決めよう。 トレーナーとしてこれからも頑張りたいこと。 そして、家族のままであるべきなのか、恋人としてルナを愛してあげるべきなのか……。 ちゃんと相談しよう。 ---- 帰り道……もう一緒に歩くことはできないと思っていた帰り道をユウヤと一緒に帰っていた。 でも、もう明日はないのでしょうね……。 悲しみと不甲斐なさで、家に帰りついてもユウヤの顔を見ることができず、私の心は沈んだままだった。 そんな私をユウヤはいつもと同じように優しく抱き上げ、風呂場へ向かった。 散歩の後は二人でお風呂に入るのが日課だった。 頑張りもせずにユウヤを振り回し、落胆するユウヤが明日は頑張ろうね。と私に声を掛けながら体を洗ってくれる毎日を思い出しながら、思わず笑いがこみ上げてしまった。 それまでの私の行為は明らかに好きな人を喜ばせる行為ではない。 明日は必ず来る……。 そんな傲りがなければ毎日そんな言葉を掛けられて平然と好きな人の横に居ることはできない。 本当に……酷い人よね、私って……。 「ルナ。今までありがとうね」 シャワーで体を濡らし、丁寧にポケモン用のシャンプーで私の体を洗いながらユウヤはそう呟いた。 何も言えず、思い出した記憶と重ねて私はまた泣きそうになってしまう。 泣く資格もないというのに……。 「君の気持ちに気付いてあげることもできなかったのに、それでも僕と一緒に闘ってくれて」 一瞬、言葉の意味が分からなかった。 いままでの中で、私のこの意地悪な恋心に気付ける余地なんてあったのかしら? そう思って思わず振り返りそうになるが、先にシャワーで綺麗に体を洗い流してくれた。 本能的に体を震わせて濡れた毛の水を飛ばしたくなるが、言葉の意味が気になってその言葉の先を聞くのを待っていた。 「今日、帰りにトレーナーセンターに寄った時に色々と聞いたんだ。まだ君はプロのトレーナーとして十分やっていけることと……。ルナの気持ちのこと……」 「聞いた……ってどうやって?」 「僕にとって君は大切な家族ではあった。けれどそれ以上ではなかったつもりだったんだ。君にとっては僕はそれ以上の存在だったのだとしてもね……」 状況が飲み込めず、ただキョトンとした表情を浮かべ、ユウヤの顔を見つめただけだった私をそう言って優しく抱きしめた。 そんなはずないわ……。 これはきっと夢よ。 そうでなければあまりにも私に都合が良すぎる……。 「これからもよろしくね。まだ君の思うような彼氏になれる自信はないけれど……これからは精一杯努力して、トレーナーも続けていくし、君の愛に答えられるようになっていくよ。だから分かって欲しい。これから先、ポケモンが増えたとしても僕の気持ちは変わらない。僕も大好きだよ。ルナ……今はまだ、愛してるって気持ちはちょっと分からないけれどね」 言葉にされてもまだ信じられなかった。 思わず涙が溢れ出した。 卑怯よあなたって……。 殴られる覚悟も捨てられる覚悟も出来てたのに……この後に及んであなたは私を許してくれるなんて……やっぱり優しすぎるわ。 そう考えながら私は思いっきり体を震わせた。 まだ体の水気を飛ばす前で良かったわ。 今ならこの涙も一緒に隠せる。 ズルばっかりしてきた私を許してくれた。 そんなユウヤの優しさを嘘でもいいから笑顔で受け取るために……。 ちゃんと笑えてたのかは分からないけれどね。 水飛沫を笑いながら受け止めたユウヤはまた私を抱きしめて、子守唄でも言い聞かせるようにありがとう。と呟いていた。 これからはちゃんとユウヤを支えてあげなくちゃいけない。 もう、ユウヤが悲しい顔を二度と見せなくてもいいように……。 私の決意を知ってか知らずか、そのままユウヤはすぐにドライヤーで私の体を乾かして、櫛で綺麗にブラッシングしてくれた。 毎日私の体を綺麗にしてくれていたけれど、今日は私の中にあった後ろめたい気持ちまで洗い流してくれた。 過去は変わらない。 私がやったことだってそう。 明日からは誰にも負けない。 これから先、増えていくであろう仲間よりも強くあってみせる。 ……でも、やっぱり少しだけ迷惑を掛けるかもしれない。 ユウヤは優しいから、きっとこの先出会うポケモン達もユウヤに少なからず好意を抱くはず……。 そんなことを考えているとふと目の前のユウヤの状況を確認して、邪な考えが浮かんでしまった。 今はまだ裸。 ユウヤにとってまだ私は宣言しただけで家族でしかないのだから、勿論欲情しているはずもない。 だったら意識させちゃってもいいのよね? 私だっていつまでも女の子ではない。 悪い話、襲って私が雌であることを意識させれば、今後どれほどポケモンが増えようと、私はただのパートナーから秘密のパートナーになれる。 ユウヤはお風呂から上がるとベッドの下に格納されている小さな洋服ケースから下着を取り出す。 狙うならそのチャンス一回でしょうね。 ごめんなさいユウヤ。 あなたは素晴らしいほどの聖人だけれども、私はどこまで行っても悪女のようよ……。 洋服ケースに手を掛けた。 えいっ……! 後は流れでどうにかするまでよ!! 「どうしたの? ルナ」 背中に伸し掛るようにくっついていたため、ユウヤは声だけで私に聞いてくる。 不意打ちまではなんとか決まったけれど、明らかにユウヤの顔はじゃれつかれた程度にしか考えていない。 「よかった。元気を取り戻してくれたみたいだね。ただ、遊ぶのは着替えが済むまで待っててくれない?」 ダメッ……!! このままでは既成事実が作れない。 完全に私は離れ離れにならずに済んで喜んでいるだけだと思われてる。 異性だと意識させないと……。 でもよくよく考えると異種なのよね……。 気にしたら負けよ! 愛の前に障害なんて何もないの! ユウヤは私の両前足を掴んで降ろそうとしている。 ならば……! そう考えるが早いか、ユウヤの背中の辺りを舐めた。 「うひっ!?」 聞いたこともないような奇妙な悲鳴を上げた。 それを聞いて思わず可愛いと思ったけれど、ユウヤは明らかに私の意識に気付いたのか、振り返りもせずに急いで着替えようとしていた。 それは予想してなかったわ。 ささっと下着を着てからこちらへと振り返った。 「もう、びっくりさせないでくれよ」 「でもそこまでは計算通り! 覚悟!」 振り返った瞬間にまたユウヤに飛び掛る。 ユウヤは寝る時、冬場以外は下着のまま。 だからその先、さらに服を着ないことは分かっていた。 今度は意識させるために飛び掛ったのではなく、その意識させないために急いで着替えた薄い防御を破るため! 前足を腰ではなく、下着の根元辺りに引っ掛けてそのまま重力に身を任せる。 予想通りあっさりと下着を脱がせることができた。 顔を上げると目の前にユウヤのペニス。 どうやら作戦は成功していたのか、僅かに勃起し始めていた。 ユウヤは自慰すらしたことがないから、その状態を確認したことがあるのは朝勃ちだけしかないけれど、間違いなく今は私の一連の行動で意識しているはず。 ユウヤは混乱と恥ずかしさからか顔を真っ赤にしていたけれど、優しさからか単に頭が真っ白になっていたからか、抵抗はしなかった。 なら好きにさせてもらうだけ。 ペロンとユウヤのペニスを舐めた。 「うっ……」 押し殺したような声が漏れ、ペニスはムクムクと大きくなっていく。 よかった……。なんだかんだ言って異性として意識してくれてはいたのね。 そのまま飴でも舐めるように舐め続ける。 手をパタパタさせて抵抗しているつもりなのでしょうけど、直接止めさせようとはしない。 その反応すら愛おしく感じてしまう。 暫くもしない内にユウヤのペニスは硬さを持ち、朝見たことのある姿になっていた。 舌舐りをしてから今度は飴を頬張るように、口にその愛しい人のペニスを含んだ。 「うあっ……」 その途端に私の口から彼のペニスはスルンと逃げ出した。 抵抗されたのかと思っていたら、どうやら単に初めての感覚に腰が砕けただけのようだった。 息を荒くしながらベッドに座るユウヤの紅潮した顔を見ると思わず悪戯してしまいたくなるが、この聖人はそういう経験なんてあるわけないからそんな余裕はないでしょうね。 ダメとは言わないことを分かってて襲っている私は本当にヒドイ恋人よね。 そのまま私もひょいとユウヤの横に飛び乗り、期待と不安の入り混じった表情を浮かべるユウヤの顔を意地の悪そうな笑みを浮かべて見つめた後、ゆっくりと彼のペニスへ顔を近づけ、また頬張った。 その瞬間に前足を掛けていたユウヤの足やそれ以外の場所もグッと硬直したのを感じる。 先程までとは違い、硬いだけだった彼の分身は少しだけ塩見を感じる独特な臭みを持った粘液を出していた。 でも、私にしてみればそれは最高のエキスだ。 間違いなく私を異性として、恋人として意識してくれている証拠だ。 そして……そういうことをしてもいいという合図でもある。 だって、本当に嫌なら抵抗するはずだもの。 それすらもユウヤはしないほど優しいのなら……それはそれで利用させてもらうと考えている私は本当にヒドイ奴ね。 でも今度は違う。 それでユウヤが心底嫌がっていたのなら私はこの前戯を続けられなかったでしょうね。 もう一度そうやってユウヤの優しさにつけ込んで彼を苦しめたのだから、二度目は流石にできないわ。 まあ、でも彼の顔も満更ではなかったから……。 正直に言えば、私もなぜこんなことをしているのか分からなかった。 ただ本能の赴くままに、こうすればユウヤが悦ぶと思ってやっていた。 だから間違っていないはず。 そんなことを考えながら口の中の小さなユウヤを舌と口を使ってねっとりと舐め上げる。 下側の筋に沿わせて上下になぞったり、先端の溝をなぞったり、全体に絡みつかせるようにしたり……。 口全体も先端だけを咥えたり、喉の奥まで届くほど全体を咥えたり……。 チュブッチュブッと卑猥な水音が聞こえるほど執拗に舐め上げた。 そうしていく内に鼻腔をくすぐる様な匂いは少しずつ強くなっていった。 ユウヤも息をする度に声が漏れるほど感じてくれているらしく、だんだん口の動きに合わせてペニスも僅かに震えるように跳ねていた。 「ル……ルナ! もうっ!」 言葉を聞く頃には既に彼の先端からはもっと濃厚なエキスが溢れ出ていた。 全身を震わせながら次から次へと送り出されるエキスを私は焦らずゆっくりと味わいながら飲み干してゆく。 正直、好きな味ではない。 でもそれはとても美味しかった。 彼の初めてを味わっているのだと考えればその味はそれこそ最高のものだもの。 脈動が緩やかになり始め、吐き出されるエキスも収まり、ペニスも少しだけ硬さを失った。 それでもしっかりと最後の一滴まで飲み干そうと舐め続けていると、またペニスは硬さを取り戻していった。 嬉しさを感じながらまだ舐めていると、初めてユウヤが私の顔に触れた。 思わず口の動きが止まると、ユウヤはそのまま私の顔を彼のペニスから離した。 口の中に残っている彼のエキスを、もう一度舌舐りをして全部飲み干してからユウヤの顔を見た。 肩で息をしながら少しだけ潤んだ瞳で私の瞳を見つめ返してくる。 それだけでも私にとってはご褒美にも等しかったが、ユウヤはそのまま私の唇に唇を重ねてくれた。 嬉しいけれど、その先は流石になかった。 だから私から彼の口へ舌を滑り込ませた。 彼の濃厚なエキスを飲んだ後だというのにも拘らず、ユウヤは嫌な顔一つせずに私の舌を受け入れてくれた。 ユウヤの口の中に私の舌が入り込み、同じようにユウヤの舌が私の口の中へ入り込む。 絡みつくように濃厚なキスをして、息が切れたのかユウヤは顔を離してまた肩で息をした。 「ルナ……。続きをしてもいいかい?」 「勿論」 ユウヤのことだからこれで終わり、というのも覚悟していたけれど……思ったよりもユウヤも雄だった。 嬉しさと恥ずかしさで私の顔も火照っているのが分かったけれど、続きを楽しみたい気持ちの方が勝り、すぐにベッドに背を預けて仰向けになった。 普通ならユウヤの前に背を向けるだけでいいのだけれど、いつか公園で聞いたスケベな話を思い出してそうした。 二足歩行のポケモンだけれども、なんでもそういう二足歩行の人達はこっちの方がやりやすいらしいし……自分も気持ち良いらしい。 だったとしてもとても恥ずかしい。 ユウヤに服従するのは全然構わないけれど、彼の顔を見つめたまま交尾をするなんて……考えただけでも恥ずかしさで顔が更に火照るのが分かった。 思わず体勢を変えようとしたけれど、それよりも先にユウヤが覆い被さってきた。 嬉しい……あなたも私のことを……。 ---- なんでこんなことになっているのか正直分からない。 でも、悶々とした思いも何もかもルナが吹き飛ばしてくれた。 物欲しそうに僕の顔を見つめている姿を見て、僕の中でも何かが吹っ切れた。 ポケモンだとか、家族だとか……そういうこと全部ひっくり返してくれるほど、今の彼女は妖艶で魅力的だった。 僕も結局、口では家族と言っていたのに男なんだな……。 誘われたらあっという間にその気になってしまった。 これでは今までの自分の意思が簡単に揺らいでしまった気がするが、色々と意識させられることを今日だけで沢山言われた上でのこの追い打ちだ。 そういう関係になってしまったとしても仕方がない……はず。 他のそういう関係のトレーナーの馴れ初めもそうだったのだろう、と勝手に解釈して、今は行為を続けようと考えた。 僕が初めてだったように、ルナも今まで一匹だけだったから初めてだ。 分からないことだらけだけれども、それでも彼女を満足させてあげたい。 そう考えると自然とルナの上に覆いかぶさるような姿勢になり、静かにルナの顔を見つめた。 恥かしそうな表情を浮かべているルナを見るのは初めてだが、その表情はとても愛おしかった。 自然と右手はルナのまだ汚れを知らない秘部へと伸びていた。 ぷっくりと柔らかく膨らんだ恥丘からは滑らかな液が溢れ出しており、触れるだけで指が滑つくほどだった。 誘われるようにそのままゆっくりとその液が溢れ出る場所へ指を滑り込ませてゆく。 ルナの体が僅かに強張るのが入れた指から、触れ合っている身体から伝わってきた。 思わずルナの顔を見つめるが、そんな自分の感じた思いとは裏腹に、早く早くとせがむような表情を浮かべていた。 そのままゆっくりと指を中へ押し進めていくと、ルナの足は小刻みに震えていた。 そしてそのままルナの緊張が解れるまでゆっくりと指で慣らしていこうとしていたその矢先、ルナがキャン! と甲高い声で鳴いた。 何かしてはいけないことをしてしまったのかと不安になって指を引き抜くと、指先には鮮血がまとわりついていた。 「ご、ごめん! ルナ! 無理に入れたから怪我が……!」 自分の指先に付いた血を見て、思わずパニックになったが、ルナは自分の秘部を何度か舐めてその溢れた血を舐め取ると、何事もなかったかのようにまた身体を仰向けにしたままベッドに預けた。 その様子を見て僕はそれが大事無い事であることに気付くと同時に、ルナは早くその続きがしたいのだと理解できた。 僕も初めてだが、同じように過ごしていたのだからルナだって初めてだ。 ポケモンにも初めてのしるしがあることは知らなかったが、少量垂れてきた血はあの後、一向に溢れてくる気配がなく、ルナも落ち着いているところを見ると、僕が考えているソレで間違いないだろう。 少しだけ潤んで見えるルナの瞳を少しだけ見つめ、ゆっくりと唇を重ねた後、自分のぺニスを彼女の滑らかな秘部になぞるようにして宛がい 「挿れるね……」 そう口にすると、ルナは小さくうなずいたような気がした。 実際には瞳を潤ませて、顔を逸らして何処か遠くを見つめていたため、痛みや恐怖を必死に耐えているのはよく分かった。 もし、これをルナが望んでいなかったのであれば、これは唯の拷問でしかなかっただろう。 「痛かったら……すぐに僕の身体を押し退けてね。 すぐに止めるから」 だからこそそう伝えたが、やはり返答らしきものはなかった。 一呼吸置いて、宛がったままだったぺニスをその恥丘の割れ目を押し広げながら中へゆっくりと滑り込ませていった。 先端が入った時点でルナの下半身全部が強張ったのが感じられ、思わず引き抜きそうになるが、ルナの顔はやはり遠くを見つめたまま耐えていた。 それだけ必死になっているルナの思いに反するのはあんまりだと感じ、自分も覚悟を決めてそのままゆっくりと推し進めていった。 一回り身体の小さいルナは当然ながら雄を受け入れる空間も狭い。 入らない空間に無理矢理押し込むようなそんな感覚だったが、ルナはそれでも耐えていた。 中程まで進んだ頃だっただろうか、そこでビックリするほどスルンと残りの部分も彼女の中に吸い込まれていった。 全体が入ってもやはりかなりきつく感じられたが、そのまま少しの間じっとしていると、ルナの緊張が解けたのか少しだけ圧迫間が和らいだ。 一番奥に挿れたまま少しだけ腰を動かすと、動かせないと感じるほどではない程にゆとりも生まれているように感じたが、それはルナの方も同じだったようだ。 あんなことを言ったものだから、なんとしても続きをするためにルナは必死に痛みを堪えていたのだろう。 少しだけ申し訳ない気持ちにもなったが、いつの間にか涙を溜めた瞳でこちらを見つめているのに気付き、ルナの肩の辺りに手を回し 「動かすよ……」 「クゥ……」 囁くように口にするとようやくルナも返事をした。 初めはそのままお互いの密着した部分が離れない程度に緩やかにルナの中だけを動かした。 ぺニスのカリ首がルナの膣壁に擦れてなんともいえない快感が緩やかに伝わり始めた。 そうしていると物足りなくなったのか、慣れたのか分からないが、ルナが唇を僕に重ねようとして来た。 少しだけ腰の動きを止めてルナの唇に自分の唇をそっと重ねると、ルナの緊張が更に解れたのが分かった。 それに合わせて腰を動かす範囲を広くした。 ルナの毛がギリギリ触れるか触れないか程まで腰を引き抜き、そしてゆっくりと中にもう一度挿れてゆく。 問題なく動かせることを確認したら、今度は少しずつ動きを早めて行く。 ただ布が擦れ合うだけの乾いた音だけが聞こえていた空間に、クチュ、クチュ、と小さな水音が混ざるようになった。 そしてそれを掻き消すように自分の荒い息遣いと、ルナの押し殺したような鳴き声が聞こえ出した。 必死に腰を振っていると身体が前のめりになったのか、ルナの首元に自分の鼻先が近づいていた。 いつもルナを綺麗にしている石鹸の臭いがするのに気付き、僕は何故かルナの唇を探した。 ルナも求めていたのか、すんなりと唇を重ね合わせ、流れるようにルナの口の中へ舌を滑り込ませた。 正直呼吸はかなりきつかったが、それ以上に彼女と呼吸を交えている方がとても心地よかった。 流石にキツくなって唇を離して、二人で荒い呼吸をし、そのまま絶頂へ向かってただの獣のように腰を動かした。 ルナの中は既に非常に滑りが良くなり、激しく動かしても快感以外を感じないほどになっていた。 「ルナ……! 出すよ……!」 ルナの返事はなかった。 というよりも返事を出来るほど彼女には余裕がなかったようだった。 ぺニスから伝わる痺れのような高揚感を便りに更に速度を上げていき、そしてルナの身体をギュッと抱き寄せて溢れ出る精液をルナの中へ放っていった。 全部出し終わるとどっと虚脱感のようなものに襲われ、ルナの横に身体を滑らせてゆっくりと息を整えた。 冷静になった頭で考えると、いくらポケモンと人間とはいえ、中に出してよかったのだろうかと不安になったが、疲れながらも幸せそうな微笑みを浮かべているルナの表情を見ているとそんな思いも何処かへ消し飛んだ。 ---- 気怠さに襲われながらゆっくりと目を開くと、そこにはいつもと変わらない格好で眠るユウヤの姿があった。 だからこそ夢のようにも感じるけれど、少しの痛みと全身の倦怠感が昨日の事を夢ではなかったのだと教えてくれた。 あの後、少しだけ休憩してもう一度お風呂に入って、体を乾かしてもらったのだけれど、私もユウヤも初めての事で精神的にも疲れたのか、ブラッシングまでせずにそのまま滑り込むようにベッドに移動してすぐに眠ってしまった。 お陰でいつもはフワフワしている私の胸毛も今日だけは絞った布のように依れて小さく纏まっていた。 でもそんなことはどうでもよかった。 これから先もユウヤの傍で笑いながら生きていいだけではなく、ユウヤの……全部を貰えたから……。 自分で頭に思い浮かべるだけでも、思わず顔から火が出そうになるけれど、私が望んでいた最大限の願いが叶ってしまった以上、これから先どんなことがあっても全てが幸せでしかない。 ユウヤには本当に……感謝しかできないわね。 だからこそもう子供じみた意地悪はしない。 もう、ユウヤのあんな顔も見たくないからね……。 今日からはユウヤは私のパートナーであり、恋人なのだから、これから先増えるであろう仲間たちに決して遅れを取らないようにもっと鍛えていかなくちゃね。 「おはよう。ルナ」 「おはようユウヤ!」 そんなことを考えているとユウヤも目が覚めたみたいで、いつもと変わらない優しい声で話し掛けて、頭を撫でてくれた。 その後ユウヤはさっと着替えて、私の分のご飯と自分の分のご飯を準備してさっと済ませ、そのまますぐに私の体をブラッシングしてくれた。 いつもと変わらないはずなのだけれど、今日だけはいつもより念入りにブラッシングしてくれたように感じた。 素早く、でも丁寧に色々な準備を整えていた理由は私にも分かっていたから、甘えたい気持ちを抑えてじっと外に出る時間を待っていた。 「それじゃあ行こうか、ルナ」 「うん!」 昨日と同じ道を今度はとても晴れやかな気持ちで歩いていった。 もうユウヤの夢を邪魔する後ろ暗さもなく、それでいて自分の気持ちにも素直になっていい。 こんな結末を迎えられるなんて考えたこともなかった。 気持ちも楽だったからなのか、いつもの公園にはあっという間に着いてしまったように感じた。 「あ、いた! すみません! お待たせしました!」 「おはよう。それほど待ってもいないよ。それよりも……君もアブソルも思ってた通りいい顔になった。答えは聞くまでもないみたいだね」 「ええ、あなたのお陰です。 あのまま辞めてたら多分、沢山の後悔を抱えたまま生きていくことになってたと思います」 「はははっ。私は何もしていないよ。君達に元々あった信頼関係のズレに気付いただけだよ。教えたのはトレーナーコーチの方だろう?」 そう言ってその人は笑った後、自分も昔、同じような思いを抱えて苦労をしていたと話していた。 トレーナーコーチに助言をもらって彼もようやくポケモンたちの思いに気付き、良好な関係を築けるようになったそうだ。 今ではこの町ではそこそこ有名なトレーナーであり、彼自信ももうそろそろ同じくトレーナーコーチの道に進むか、エリートトレーナーとしてより多くのトレーナーに良い出会いを提供するかで悩んでいるそうだった。 「そこで一つ相談なんだけれど、君は恐らくこれからトレーナーとして多くの経験を積むつもりだろう?」 「そうですね……新しい仲間を探しつつ、ジムを巡ろうかと考えています」 「なら丁度良いかもしれないが……この子をもしよかったら引き受けてくれないだろうか」 そう言ってそのトレーナーは少し離れた位置でトレーニングをしていたルカリオを指差してユウヤに紹介した。 呼ばれたことに気が付くとルカリオはすぐにこちらに歩いてきたが、なぜか少しだけ距離を開けていたのが気になった。 「この子なんだけれど……少しだけ問題があってね。君のアブソルの逆パターンってところかな?」 「逆パターン? どういうことですか?」 「トレーナーの指示には絶対従順。バトルでは必ず言うことを聞くのに、それ以外では必ず距離をとろうとするんだ」 ああ、なるほど。といった感じではあったけれども、別にトレーナーのことを嫌っているようには感じないわね。 なんでも、そのルカリオは捨てられていたのを彼が引き取ったらしく、前の名前も分からないため、一先ず名前は付けずにそれでも大切には接していたそうだ。 過度なスキンシップはおろか、頭を撫でることすら拒むらしく、なかなか打ち解けられなくて悩んでいたそうだ。 「勿論断っても構わない。この子もあまりコロコロとトレーナーが変わるのは嫌かもしれないし、何より気難しい。ただ、私の見立てでは君の方が私よりも優秀なトレーナーだと感じたから、できればこの子の心の凝りを取り除いてあげてほしいんだ」 そう言って彼はルカリオの背中を押して前に進ませようとしたが、それよりも早く動いて手が触れないようにユウヤの前に歩み出た。 ユウヤとルカリオはしっかりと目を見つめあっていたが、ルカリオの方が先に目を逸らして何処か遠くを見つめていた。 「分かりました。僕にどれほど力があるかは分かりませんが、この子の事を預からせてください」 「そうか……。ルカリオ、君もそれでいいかい?」 二人の会話に対して、そのルカリオの返事はなかった。 ただゆっくりと歩いてユウヤの後ろまで歩いていった。 「……まあ、見ての通りだよ。僕ではこの子の心の傷は癒してやれなかった。分かってあげられなかったんだ。君なら大切にしてくれるだろうから安心して任せられるよ」 「どちらにしろこれから長い付き合いになるんです。ルナとも分かり合えたんですから大丈夫ですよ」 そう言ってそのトレーナーはユウヤにルカリオのボールを渡して、ルカリオにも改めて挨拶をしたが、やはりルカリオからの返事はなかった。 「ちょっと、あんた失礼なんじゃないの? あの人にお世話になったんでしょ?」 「別に世話になどなっていない。マスターが単に好きで色々していただけだ。私はお前と違ってマスターに対して好意も敵意も抱いていないだけだ」 「なによ! その言い方! ユウヤー! こんなヘンクツ仲間にしなくていいよー!」 「仲間にしてもらおうとは思っていない。好きなように使えばいい。ただそれだけだ」 「うわっ 感じわるっ!」 あまりにつっけんどうな反応だったからそのルカリオにそう言ったが、結局そいつがクールを気取った嫌なヤツということしか分からなかったけど、ユウヤはあまり気にしていないのか、普通に受け入れていた。 そのまま正式に譲渡が済んだ後、少しユウヤ達は雑談をした後、そのルカリオを引き連れて家へと帰っていった。 「これからよろしくね。名前は……トウ、なんてどう?」 「好きに呼べばいい」 「う~ん……その返答は良いってことなのかな?」 「別に何でも構わない」 ユウヤが折角名前を付けてくれたのに、やっぱりこのルカリオはあいも変わらず感じの悪い返事しかしない。 結局、人の良いユウヤはコイツのために必死に悩みながら帰ったため、帰りは少しだけつまらなかった。 そのまま帰りついてもユウヤは新しくやって来たルカリオの事でかかりっきりで、私のことはほとんど相手にもしてもらえなかった。 ユウヤに怒ったというよりも、それだけ色々なことをしてもらっているのにも拘わらず、全くもって態度を改めないルカリオの方に少しだけ……ううん、結構ムカついてた。 まあ、多少はこうなることも覚悟はしてたから仕方がないけれど、やっぱりユウヤが自分以外の誰かを大切にしているのを見ると、心がざわめく。 「ごめんねルナ。あの子のことは早めにどうにかしてあげたいから」 「別に良いよ。その代わりキスしてくれたらね!」 そう言って申し訳なさそうに頭を撫でるユウヤの顔にスッと近づいた。 流石にこれだけじゃ分からないだろうと思っていたのに、ユウヤはニッコリと笑ってから唇を重ねてくれた。 ……これは私だけの特権なんだし……贅沢言っちゃダメね。 そのままユウヤは色々と準備があるからと言って、私だけを先にベッドに向かわせて、せっせと荷物を纏めていた。 ---- 次々と運び出されていく荷物たちを見送る。 少し前まではこんな気持ちでその光景を眺めることはできなかっただろう。 「この荷物は運ばなくていいんですか?」 「はい。これはそのままで大丈夫です」 荷物と間違われるほどにまで大きくなった登山用のリュックサックを見つめて、忘れかけていたワクワクが甦ってきた。 いつかは沢山の荷物と沢山の仲間を携えて、世界中を冒険して……そんなことはもうできないと諦めていたからこそ、一際感慨深いものがあった。 空っぽになった部屋とパンパンになったリュックサックを見つめ、引っ越し業者の人たちにお礼を言って……そして母さんに電話を掛けた。 「もしもし、お母さん?」 『あら、ユウヤ? 元気にしてる?』 「うん。今、僕の部屋の荷物を全部そっちに持っていってもらったから、受け取りだけお願いするね」 『あら? 帰ってこないのね。それはよかった』 「え?」 『やっとあなたの元気な声が聞けたから安心したわ。多分旅に出るんでしょ?』 「そうだけど、何で分かったの?」 『自分の事は自分では中々分からないものね。最近のあなたからの電話、とっても元気がなかったのよ? あんなに頑張ってて、張り切って出ていったのに、そのまま帰ってきたらあなた、フッと消えちゃいそうなぐらいだったから心配してたけれど、もう大丈夫みたいね』 「そっか……そうだったんだ……心配かけてごめんね。もう少しだけ頑張ってくるよ!」 『ええ、頑張ってらっしゃい。ただし、無理だけはしないでね?』 「うん。ありがとう」 『それじゃ、荷物はきちんと受け取っておくから。気を付けていってらっしゃい』 「行ってきます」 母さんに沢山迷惑と心配を掛けていたと思ったけど……そんなに最近の僕は酷かったんだ……。 大丈夫。もう無理はしないよ。 これからは一人で考え込まなくてもいいからね。 心の中でルナやマコトさん、そして悩んだけれど、ユリと名付けたルカリオと、ルカリオを託してくれたトレーナーの人達に感謝して、荷物を持ち上げた。 「お待たせ。ルナ。それとユリ。さあ、出発しよう」 「アブッ!」 二匹を引き連れて長いようで短かった家を後にした。 どこまでやれるか、どんな仲間と出会えるか、胸は期待と不安で一杯だったけれど、もう迷わない。 精一杯、出来る限りの事をしてから家に帰ろう。 そう考えると、自然と歩みに力がこもったような気がした。 僕にはまだ自信がない。 だから、今出来る最大限の事をしよう! そうやって僕の旅は始まった。 ---- [[次話へ進む>>>僕には才能がない 2]]