ポケモン小説wiki
俺のありえない日常 の変更点


#include(第二回仮面小説大会情報窓・エロ部門,notitle)
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そろそろ仮面を剥がそうかな。

writer is [[双牙連刃]]

前置き。
この小説には特殊な表現(&color(White){人×ポケモン BL 多人?数};)があります。ご注意ください。

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 俺の名前は野咬 終夜(のがみ しゅうやって読んでくれ)
一般的な公立高校に通う健全な高校二年だ。
俺が中学卒業の時に両親が事故で亡くなるという極々ありふれた部類の一人暮らし。
んでもって、高校には親の残したもんの凄い額の遺産+親の働いてた会社からの労災で通っている。
両親がやってたのはセルフ……だかシルフだかいう会社でポケモントレーナーが使う各種道具の新作の開発。平たく言えば研究員だな。なんでもそうとう優秀だったそうな。
馬鹿馬鹿しいことに、死んだ理由もその研究とやらをやっている最中に暴れ出したポケモンに襲われた所為だって言うんだから笑えないけどな。
だけど俺は別にポケモンが嫌いな訳じゃない。生きてるもんで実験なんかやるからそんなことになるんだ。自業自得。両親が死んだのはそういうことだからな。
ま、好きな訳でもないのは確かだけどな。同年代の奴が憧れてるトレーナーやらレンジャーなんかになりたいとはさっぱり思わん。
俺の夢は料理人。フレンチでもイタリアンでも和食でも、菓子でも何でも作れるな。

 そういやポケモンの説明もしないでいきなりポケモンて単語を使っちまったな。ちょっと説明するか。
ポケモンは略称。正式にはポケットモンスターって言う。
犬や猫とは違い、火ぃ噴いたり電気出したりとかな~りデンジャラスな生き物だ。
そいつらを専用のボールで捕まえて育てるのがトレーナー。で、それとは別に保護するのが目的で活動してるのがレンジャーなわけ。
危険極まりないそいつらをどうこうしようって考えにはついていけねぇ。ま、この世界で生きている以上嫌でもポケモンは目にする。多少は諦めてるよ。

 この物語は、そんなポケモンアンチな俺の物語。
あぁ、心配は要らない。何も俺が手当たり次第に周りのポケモンを襲いだしたり、グレて不良になったのをポケモンが救ってくれるとかそういう類の話じゃない。
ただの俺の日常さ。ただ、一般人としてはとんでもなく異常な、な。

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                       ~俺のありえない日常~


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「見つけたぞ野咬! 今日こそ観念しやがれ!」
 毎日一度は聞かされるこの啖呵。一年も聞いたら流石に飽きるってばよ。
俺は今、周囲を十人ほどの同じ学校の奴等に囲まれている。しかも先輩。同じブレザーがこれだけ並ぶとなかなかに壮観だ。
皆一様に俺の方をキッと睨みつけている。まぁ、怖くも何とも無いけど。
その手に握られているのはモンスターボール。ポケモンを捕まえるためのそれが持ち主に投げられるのを鈍く光りながら待っている。
「先輩達も懲りずによく来ますね? 何度来ても無駄だと思いますけど?」
「煩い! お前が……お前がそんなじゃなければこんな事をしなくて済むんだ!」
 若干シリアスな雰囲気が出てる所に悪いが、これから因縁のバトルが始まる訳では無いので悪しからず。
何故なら、俺はモンスターボールを持っていない。
「行くぞ! かかれぇぇぇぇえええい!」
 一斉にボールが俺目掛けて投げつけられる。いつも見ているがやっぱ怖え。
が、ボールは一つも俺に当たる事無く空中に静止する。
俺がやってる訳じゃないぜ? 原因は……。
「ミュウウゥゥー!」
 俺の頭の上で力んでるこいつ。名前はミュウ。全身光沢のあるピンク色で、触った感じはツルツルとサラサラの中間くらい。全てのポケモンの始まりって呼ばれてる……らしい。
こいつが念力で、投げられた十数個のボールを全て空中に縫い付けているのだ。
「くぅっ! やっぱりこの程度じゃまだ駄目か! だが、まだまだ!」
 更に大量のボールが飛んでくる。俺はただその様子を欠伸しながら見てるだけ。
幾ら飛んできてもボールは空中に止まる。目の前にはボールの弾幕が形成されていく。うーん、テラシュール映像だ。
そろそろ撃ち止めかな? 疲れた顔してボールを投げる手を止める奴等がちらほら出始めたな。息切れるまでやるかね普通?
そして最後の一人まで投げるのを止めた。さて、今日はどうする気かな?
「ミュ!」
 ミュウの一鳴きで弾幕が散弾へと姿を変え、投げてきていた当人達へ投げられたスピードのまま返却されていく。
「う、うわあぁぁぁぁああ!」
「助けてくれー!」
「うごっ! ふぐっ! ぐっはあああぁぁああぁ!」
「ミュミュミュミュミュミュミュ♪」
 先輩達の阿鼻叫喚。ご満悦のミュウの笑い声。俺の前に地獄絵図がめでたく完成した。……毎度の事だ。
それを俺はただ、ため息交じりで眺めるだけさね。気楽なもんだろ?

「クソッ! こうなったら……サイドン、行けぃ!」
「うおぁ!? 今日はそこまでやりますか!?」
「あったりまえだぁ! 今日こそはそのミュウちゃんをゲットしてやる!」
 先輩の一人が自分の腰に付けたボールの一つをほおり投げたと思ったら中から一匹のポケモンが出てきた。
鼻から伸びる一本の角。パワーがあるのをありありと見せ付ける巨躯の色は灰色。ドリルポケモンと呼ばれるそいつの名は先輩が言ったとおりサイドン。
ぶっちゃけ、怪獣だぜ。いつもはボールを投げてくるだけでポケモンはけしかけて来ないのに、今日は本気でミュウを捕獲する気らしい。
さて、お気付きの方も居るかもしれんが、俺はミュウをボールでゲットして育てている訳ではない。
ミュウの奴が勝手に俺の首に自分の長ーい尻尾を巻きつけて、勝手に人の後頭部にしがみ付いているだけなのだ。
ゆえにミュウはトレーナーの居ない野生のポケモンと扱いは同じなのだ。だからこそ先輩達は捕まえるのに躍起になっている。
ようするに、俺はミュウの捕り物に巻き込まれているだけなのだ。
とは言ったものの、今回は流石にヤバイ。寧ろヤヴァイ。ポケモンの攻撃が人様に耐えられる訳はなく、サイドンの一撃を俺が食らえばあっという間にゴートゥヘブン。父さん母さん久しぶり。な事になる。
「よし行けサイドン! 『岩雪崩』だ!」
「ちょっ! うおおおぉぉぉ!」
 サイドンの雄叫びが辺りに木霊し、俺の上にはフォーリンロック。こんなの受けたら人もんじゃの完成です。全 力 回 避!
「あっ、こら逃げるな野咬! ミュウちゃんに当たらんだろうが!」
「ふざけないで下さい先輩! そんなの当たったら俺がどうなるか分かるでしょうが!」
「それならミュウちゃんを置いて逃げれば良いだろうが!」
「それが出来たらとっくにしてますよ!」
 そう、それが出来るのならば一年も狙われ続ける必要は無い。さっさとミュウを引き剥がして先輩達に謙譲している。捕まえられるかは先輩達の力量次第だけどな。
試しに今もミュウの尻尾を掴んで首から外そうとはしようとしてはいるんだよ? だが!
「ミュー! ミュー!」
 俺の抵抗は空しく、ミュウは尻尾を頑なに解こうとはしないし、寧ろがっちりと俺の頭にしがみついてぺちぺちと小さい手ではたいてきている。
ようは「梃でも離れないぞ」という意思表示ね。勘弁して欲しい……。
「わかったわかった! もうしないから後ろの奴を何とかしてくれ!」
「ミュ~ウ~♪」
 後ろからは猛然と先輩+サイドンが追いかけてきている。追いつかれたら多分俺オワタなことになる。
俺の一言で機嫌を直したミュウが後ろを向いた。バトルする気のようだ。
それを確認して俺も停止。ミュウがバトルできるようにな。
「よ~し野咬。そこに居ろよ。一発で終わらせてやるからな」
「多分終わらせられるのは先輩だと思いますよ」
「ほざきやがれ! サイドン、ロックブラスト!」
 サイドンが腕を動かすのと同時に大岩が高速でこっちに飛んでくる。当たったら粉微塵になれる自信がある!
しかしこんな所で死ぬ訳にはいかないし死ぬ要因も一切無い。
「ミュミュ!」
「よっと」
 ミュウの技の一つ、サイコキネシス。これによって俺の体は持ち上げられる。まぁ、自分でもジャンプしてるから軽くしてもらってるって言った方がいいかもな。
そのままサイドンと先輩の頭上を飛び越え後ろに回りこむのに成功。さて、
「暴れ過ぎですよ先輩。グラウンド均すの頑張って下さいね。チェックメイトです」
「なにぃ! うおああぁぁぁあ!」
 先輩とサイドンの周りに季節外れの雪が舞い踊り、一匹と一人は白い空間に包まれた。
これもミュウの技。名前は『吹雪』。文字通り一時的に吹雪の空間を作り出し、相手をその空間に閉じ込める技だ。
幻想的なヴィジョンが終わり、目の前にはサイドンが一匹。うわ、寒そ。雪積もってるよ雪。
あれ? 先輩がロストしたな? 何処いったんだ?
「う、うぅ……寒ぅ」
 居たーーー! サイドンが抱え込むようにして先輩を護ったようだ。何という主人愛! グゥレイト! はい、ふざけましたすいません。
「さ、サイドン……」
 先輩が振り向いてサイドンの名を呼んだ。サイドンはニッコリと笑う。そして、溶け始めている雪の上へ静かに倒れていった……。
「サイドン? サイドーーーン!」
 ……さっさと回復してやれよ。可哀想だろうが。
「ミュウ……」
「心配はいらんだろ。手加減はしたんだろ?」
「ミュ」
 ミュウがやり過ぎたと思ったのか、申し訳無さそうに鳴いた。まぁ、目の前でいきなりドラマな展開が起きたら心配するわな。やった張本人だし。
手加減したようだし大丈夫……あ、元気の欠片使ってる。もう本当に心配は要らないだろう。
ん? ミュウと意思疎通が取れるのが変かな? トレーナーじゃなくても一年前からこの状態なんだ。嫌でも分かるようになるさ。それに……と、そろそろかな?
「こらーーー! 校内での無許可なバトルは禁止だとあれほど言ってるだろうがーーー!」
「やれやれ……」
「ミュミュミュー!」
 校舎から数人の先生方が走ってくるのを目視した後、俺の居る場所はグラウンドから校舎の屋上へと変わる。エスパーってのはなんとも便利なものだねぇ。
もうすぐ昼休みも終わりか……。教室に戻るとするかな。

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 眠い……昼休みにハッスルし過ぎたな。お陰で午後の授業は耳から入るものの、脳をスルーしてまた外に出て行ったようだ。
それもこれもミュウの奴が俺にへばり付いたままな所為だ。大部分は諦めたけど。
もうすぐ帰りのホームルームも終わる。そしたらさっさと家に帰るだけだ。
「おっと、ホームルームを終える前に一つお知らせだ。といっても毎度の事だが、昼にグラウンドで無許可のポケモンバトルが行なわれた。皆はしないように。それから~……野咬。終わったらすぐに前に来い。なに、大した事じゃないからな」
 先生……このタイミングで俺を呼ぶのかい? ただでさえバトルの件でクラスメイトの視線が注がれているというのに追い討ちを掛けるのかい? 後生だからやめて欲しいもんだぜ。
何にせよ、皆の前で呼ばれてしまった以上行くしかあるまい。話の内容は大体察してはいるけどな。
「そんじゃ、以上で終了。号令は……ま、面倒だから省略! 気をつけてバトルするなり帰るなりしろよ~」
 先生が適当すぎる。それでいいのかよ?
それは置いといて、教壇の前へ移動。う、皆がこっちをチラ見している。やめてください。訴えるわよ!
脳内おふざけも大概にして先生の前に到着。その間三十秒なり。
「野咬、何が言いたいかは分かってるよな?」
「イエッサーボス」
「……ツッコまんからな」
 ボケ殺しか。なかなか、やる!
「ふぅ、お前もいい加減折れてボールをだな」
「持ちませんよ。俺はトレーナーにはならない」
「はぁ……しかしな? あれを見て何とも思わんのか?」
 先生が窓の外をチョイチョイと指で指す。外では昼に俺(ミュウ)に奇襲を掛けた先輩方がグラウンドを均していた。
「うん。いつもの光景ですね」
「それが困るんだろ。それに、今日も来てるんだぞ?」
「あ~、やっぱりですか」
 何が来てるかは後で自ずと分かるから今は説明を省く! 疲れるからな。
「とにかくだ。それだけポケモンに、それもミュウに懐かれるなんて世のトレーナーなら大喜びして気絶するぐらいの奇跡が起きているんだぞ? お前には才能があるんだよ」
「才能があろうと無かろうと俺にはやる気が無いんです」
「……ご両親の事は俺だって知っている。説明されたし。ポケモンを嫌う気持ちもわからんではないが……」
「先生、言ってて矛盾してるのに気付きません? 俺がポケモンの事を嫌ってるならこの状況はありえないでしょう」
 なんたって頭にポケモン乗っちゃってるんだからな。嫌いならこんな事にはならんでしょう。
「それもそうだな。聞いた事は無かったが、なんでそんなに頑なにトレーナーになる事を拒むんだ? ポケモンが嫌いでないのならな」
「こいつ等にだって嫌な事は嫌だと意思表示する事はできるし、人の勝手で縛り付ける事はしちゃならんでしょ。……俺が両親から最期に教わった事ですよ」
「……」
 先生が黙り込んでしまった。さらに、周りで聞き耳を立てていた若干名のクラスメイトが顔を曇らせささっと帰っていった。う~ん、我ながら重いこと言ったぜ。
だけどこれは真実だ。ポケモンにも心がある。嫌な事は嫌だし、したい事はやりたいだろう。だから俺もミュウを無理矢理ひっぺがそうとはしない。
ミュウが望めば、いつでも勝手に野生に戻れるように捕まえようとも思わない。自然体が一番さ。
「降参だ。ミュウについてはお前に任せるよ。だがな?」
「お前には才能があるし、ミュウを狙ってる奴もたくさん居る事を忘れるな。でしょ? 分かってますよ」
「なら良し。気を付けて帰れよ」
「了解ですよ」
「本当に、本当に気をつけて帰るんだぞ? 人に迷惑を掛けないようにな」
「……なるべく努力します」
 この念押しの意味は校門まで行けば分かるさ。やれやれ……。
とにかく今はもう教室でやる事は無い。帰りますか。

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 校舎を出て、グラウンドを横目に見ながら校門を目指す。
グラウンドには何個かの長方形が描かれ、その中ではポケモン同士がバトルを繰り広げていた。
「マンキー! 瓦割り!」
「よし、ラッタ! 電光石火で避けて必殺前歯だ!」
 中々白熱してるようだ。ウチの学校はトレーナーが通う学校ではないが、下校時間などにはグラウンドのスペースを開放してポケモンバトルが行なわれているのだ。
一般人なんかも来てバトルが出来るように配慮までされている。ただ、その代償として先生方は何があってもいいように必ず一匹はポケモンを持つ事になってるけどな。
どっちにしろ俺には無縁の事さ。ミュウもバトルをやりたがる事は無いし。昼間のは自己防衛の為のバトルさね。
ただし……。
「おい終夜。俺とバトルしろよ」
 こんな風にバトルを持ちかけられる事はあるけどな。
そして俺はそれをスルーする。ミュウも関心は無いようだし。
因みにこの学校で俺の名前を知らない者はいない。当然といえば当然だけどな。
「何だよ逃げんのかよ。お前、それでもトレーナーか?」
 どうやらこいつはモグリのようだ。俺がトレーナーでない事を知らないとは……。
そんな奴なら尚更ミュウは関心を持たないだろう。はいスルースルー。
「けっ、こんな臆病者にミュウなんてレアなポケモンは勿体無いぜ。俺が……頂いてやる!」
 うわぁドン引きです。目の前に躍り出てこれ見よがしにボールをこっちに見せびらかす。うざさマックス。
彼は気付いて無い様だが、君、周りの奴から笑われてるぞ。
「あいつ終夜に挑んでるよ。馬鹿だな~」
「終夜君のミュウちゃんに勝てる訳無いのにね」
「ね~」
 小言がボリュームマックスで聞こえているのに目の前の奴は全く気付かない。もうミュウしか見えていないようだ。ピエロめ。
「さぁ行くぞ! バタ……」
「ミュウ」
 ポケモンを出そうとした瞬間に目の前の奴が消えた。原因はもちろんミュウだ。
今頃は屋上辺りで……あ、光った。おそらくご自慢のバタフリーを披露している事だろう。
これじゃまた先生に念押しされそうだな。……問題はこの先にもあることだし。

 余計な邪魔が入ったが無事に校門を通過。したのはいいんだが、やっぱり居たし。
ベースの色は黄色。そこに黒い毛で所々にラインがあり、尻尾は細い稲妻を連想させる形。背には鬣の様に見える紫色の雷雲。
そしてベリー厳つい顔の虎の様なポケモンがそこに……居る。
地を駆ける伝説の一匹、いかずちポケモン、名はライコウ。
街中に居るのがありえないポケモンが今、校門前でお座りをしている。
「ガウ」
 俺の顔を見るなり一鳴きしてきたよ。そう、こいつは俺を待っていたんだ。
ライコウの座っている所を中心に焦げた物体Xが大量に転がっている。これはライコウに投げられたであろうボールの残骸である。美味しく……じゃなくて、上手に焼けましたー! な感じで。
じーっとライコウがこっちを見てる。どう反応してやろうかな。
「さってと、帰るか」
 あえてスルーしてみようと試みる。シカトされるならそのまま駅まで行って、電車に乗って帰るだけだ。
「ガウゥ!」
「おわぁ!?」
 そうは問屋が卸さなかった。華麗なる膝カックンを決められ、鼻先に乗せられたかと思えば今度は上に放り上げられる。
そしてそのままライコウの背に、ラァァーーーイド、オン! を決めることと相成った。
「分かったっちゅうに。目立つから早く行くぞ」
「ガオオオオォォォオ!」
「吼えるな! ドアホ」
「グゥウウ……」
 えー? みたいな顔してこっちみんな。何で走り出すだけで咆哮が必要なんだ。
何はともあれ乗ってしまった以上包み隠さず言おう。俺はライコウに送り迎えをされている。
その速さは電車にも匹敵し、縦横無尽に野を駆けられるこいつはどんな乗り物より優秀な移動方法だ。それは認める。
だが、いかんせん目立つ! そこらを行く人達や学校に普通に通ってる奴等がライコウを拝める確率なんて、本来なら道端で隕石拾うくらいに難しい事だ。
それがここでは毎日のように現れる。それもミュウを頭に乗せた俺と共にだ。ありえなさここに極まれり。
重宝はしてるよ? 電車代は浮くし、本来一時間掛かる登校と下校が二十分で済むんだから。
そしてもう分かってるだろうがこいつも勝手に俺を迎えに来ているのだ。俺は何もしていない。
ん、ライコウが動き出した。移動中に人を轢かないように注意だけはしておかないとな。車よりスピード出てるんだからぶつかったりしたら重傷になっちまう。
景色の流れるスピードが速くなってきたのでライコウにしがみつく。更に加速していく。うおぉぉ風圧! 風圧!
頭では俺と同じようにミュウが俺の頭にしがみついている。目指すは俺の家。沈んでいく夕日が眩しいぜ。

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 高速で景色が流れていく中、俺はなるべく身を屈めてライコウに密着する形になってた。否、なるしかなかった。
この高速ダッシュの時に上体を起こしていたら……間違いなく俺は道路にスタントを決めることになる。さながら、走行中の車から飛び降りるカースタントだ。
にしても、このライコウの背中が何とも気持ち良いんだよな~。程よく温かいし、何と言ってもこの雲。ふっかふかのもっふもふっすよ。下手なベットなんて目じゃないね。
眠くなってきたな……。寝るついでに何でこうなったかの回想に入りますかな。
俺と……ミュウ、ライコウとの……出会い……ぐぅ……。
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「要る物は……後は……洗剤か?」
 高校の入学式が午前中に終わり、これから始まる一人暮らしの為近くの商店街まで足を運んでいた。
といっても、両親が家に帰ってくる事なんか滅多に無かったから基本的にはいつも一人なんだがな。
食料品なんかを買い、殆ど買い出しは終わってるんだが、帰っても落ちつかない。だからこうして洗剤を求めて街中を歩いていた。
家に帰って一人になるとどうしても考えてしまう。俺が、天涯孤独の身となった事を。
もちろん親戚は居る。が、殆ど会った事が無いし、何より親が残してくれた家を他の奴に住まわれるのが癪だったので、親戚が俺を預かるという話を突っ返し一人暮らしをする事にした。

 夢も希望もありません。俺の好きなゲームのキャラクターのセリフの一つさ。『の』が多いって。
まさしくそんな感じだな。これから高校での新生活が始まるっていうのにお先真っ暗。中学を卒業してからこっち、俺の表情は曇ったまま。入学式の後のクラスに分かれた時も誰とも喋る気にならなかった。
『終夜、お前の名前はな? 終わらない夜は無いって意味なんだ。どんなに悲しい事があっても、それが終わらない事は無い。どんな悲しみでも乗り越えていける、そんな強さを持って欲しくて父さんはお前にそう名付けたんだぞ』
 昔父さんが俺に話してくれた名前の由来……。ごめん父さん。俺の夜、しばらく終わりそうにないや。
思い出したら泣けてきた。両親が死んだって聞かされた時も泣かなかったのに……思い出したら、泣けるぜ。
道端で泣いたってどうしようもない。だって、俺は今……独り、なんだからな。
「フーーーーー!」
「ミュ、ミュウゥ……」
「ん? なんだ……あれ?」
 涙を拭いてたら横の方から猫の声と……何かの声が聞こえてきた。
そっちを向いたら……。
ピンク色の、おそらくはポケモンであろう生物が浮いていて、複数の猫に囲まれてた。ピンク色の奴は所々引っ掻かれたような跡がある。
なるほど、あいつが猫の縄張りだと知らずにあそこに入っちまったみたいだな。馬鹿な奴。
あ、こっちに気が付いたかな? 潤んだ目がこっちを見ている。助けて欲しいのか?
何でポケモンなんかを……俺が独りになった原因はポケモンなのに? でも、相当困ってるみたいだし……。
あ、そうだそうだ。あのピンクの奴が本気でケンカしたら危ないのは猫のほうだよな。そう。俺は『猫』を助ければ良いんだよ。そうしよう。
「お~い、お前等が何匹居たってそいつには適わないんだから早く逃げ……」
「ンニャーーーー!」
「のぉ!? ノギャーーーー!」
 ね、猫って結構……強いのね……。ポケモンを包囲してた猫たちが一斉に飛び掛ってきて俺を引っ掻いていった。痛えってばよ!
買い物袋が無事でよかった。下手すれば二度手間もいいところだ。余計な事には関わるもんじゃないな。
で、この空間には俺とポケモンが残された。どうしよう。こんなことになる予定は無かったんだが。
ま、ポケモンに構うとやっぱりろくな事が無いって事の教訓にしておこうかな。さっさと帰……、
「ミュ~~~~」
「うお!? ちょっ、こら、放せ!」
 いきなりポケモンが向かってきた。アンド抱きつかれた。何でじゃ!
やめてくれよ。俺はお前等なんかと係わり合いになりたくないんだ。くっ付くな!
「うっ、ひっく……」
 泣いて……る? のか? こいつ。人が泣くみたいにしゃくりあげるように……。
怖かったっていうのか? とんでもない力を持ったこいつが? 人さえも……殺める事ができるこいつ等が猫を?
シャツの顔を押し付けられてる部分が僅かながら濡れている。やっぱり泣いてるんだ! マジかよ。
……こいつも、『独り』なのか? 助けてくれる仲間も居なかったみたいだし、何処にも行こうとしないし。
「……傷の手当ぐらいしてやるか」
 人のシャツを引っ掴んだまま泣きじゃくるこいつの背にそっと手をやってみた。ポケモンなんて初めて触るぜよ。
しゃくりと共に背中がピクッと揺れる。相当怖かったみたいだな。まぁ、一対五じゃポケモンでも分が悪いか。
そのまま家へと進路をとる。傷の手当をしてやったら何処かへ行くだろうと思いながら……。

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「……ゥ……ミ……ュウ……ミュー!」
「んがっ! って……あ、着いたのか。すっかり寝ちまったな」
「ガゥッ♪」
 うむむ、ミュウに起こされちまったぜ。ほっぺをぺちぺち叩かれるまで起きなかったとは……。
ライコウ、こっちみんな。何で笑ってんだよ! この野郎!
あ、涙出てる。これの所為か。久々に思い出したからな。懐かしき一年前のファーストコンタクト。あの頃は俺もツンツンしてたものだ。
夢の続き? そんなの現状で分かるっしょ? 結局手当てしてやったら今同様に首に尻尾巻きつけられてこの状態になったんよ。
最初こそ何とかして引き剥がそうとはしたが一日で諦めた。で、事情を先生に説明して、とりあえずこのまま登校する事が許されたと。ま、そのまま一年経ってるけどな。
てか結局ミュウとの出会いだけで家に着いちまったよ。ライコウとの出会いは……今さらっとやるか。

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「へー、お前ミュウって言うんだ。全てのポケモンの始まり、ねぇ?」
「ミュ♪」
 俺が見ているのはポケモン図鑑。本来の物は機械式で、出会ったポケモンがオートで登録されていくハイテク機器らしい。が、俺の見ているのはその機器を使って収集された情報を本にしたもの。著者は……何か有名な博士らしい。
で、中程のページにこいつの事が載ってた。全てのポケモンの始まりと呼ばれている幻のポケモン。人の前に現れる事は滅多に無い。と記されている。
道理でこいつを乗せて登校すると街中でも学校でもじろじろ見られる訳だ。そんなに貴重なポケモンだったとは知らなかったぜ。
しかも登校三日目にしてやたら話しかけられるのもその所為か。そら注目されるわな。
今も後ろからこっそり近付いて来てる奴が居るし。あ、駆け出したな。こっちに来る気か。
「おいお前! それってもしかして……ミュウか!?」
「そうらしいですけど、おたく誰?」
「二年だ!」
「そうですか」
 これが先輩との出会い。うざいな。
「なんでポケモンを出したままにしてるんだ! 校則違反だろ!」
「先生から許可は取ってます。仕舞うにしても俺、ボール持ってないし」
 廊下がざわめいた。皆が皆、気になってはいたんだろうが俺と親しくないため聞けなかったのだろう。
そし事態は急変した。周りに居る奴等が一斉にモンスターボールを手にしている。
「それはつまり……そのミュウはお前の手持ちじゃないんだな!?」
「う~ん、そういうことですね」
「ってぇ事は……ミュウ捕獲のチャンスじゃねぇえかぁぁぁぁ!」
 先輩の叫びにより更に大多数の奴等がボールを取り出した。うわぉ四面楚歌って奴だ。
「いっけぇぇぇぇ! モォンスタァーバァゥル!」
 変な叫びと共にボールが投げつけられた。で、それによって飛び火して……。
「こんなチャンス二度と無いぞ! 俺達も続けー!」
「おおおおぉぉぉぉおおお!」
 廊下で大混乱発生。すんごい不味い。ってか、トレーナーこんなに居たのかのかこの学校!? 周り殆どだぞ!?
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
 大量のボールが眼前に迫ってきた。これは食らったら相当痛いぞ。傍から見たら俺が集団リンチを受けているようだろうな。
あまりの状況に思わず叫んでしまった。怖い。マジで怖い。
「ミュウーーー!」
「ミュウ!? うおっ!? どうなって……んだ?」
「この騒ぎはなん……!?」
 騒ぎを聞きつけた担任が駆けつけてくれた。が、俺に近付く事は出来ないだろう。
俺の周りには見事なほどのボールの壁が形成されているからだ。
「これは……お前がやってるのか?」
「ミュウ!」
 元気に返事された。マジかよ。三十個ぐらいあるぞこれ。
それが全部空中に止まって、後から来るボールを弾いている。
「こ、こら! ボールを投げるな! 各自教室に戻れ! 休み時間が終わるぞ!」
 先生の一言でその場は収まった。というか、投げても無駄な状況が生まれたため解散したと言った方がいいかもしれない。
収まったのをミュウが確認したからか、壁を形成していたボールがバラバラと崩れていく。マジで何個あるんだ?
そして俺はやっと先生と対面する事になった。
「お前は……野咬、か?」
「は、はい」
「えっと、そうだな。とりあえず職員室に避難するぞ。いいな」
「はい……」
 職員室に連行された俺はそこで先生に改めて事情を話す事になる。ってか、最初に説明した時に止めてくれよ。
こいつがミュウで、俺から離れなくなり、俺はポケモントレーナーにはなりたくない事。そしてその理由……。
先生だけに話しているが、場所が場所だけに他の先生方にも聞こえているようだ。
「なるほどな。両親を……」
「はい、で、この前このまま登校して良いか聞いたんです」
「俺はてっきりコラッタ辺りかと思って許可したんだが……まさかこれがミュウだとは……」
「ミュ!」
「事情は分かった。先生方で何とかしてみよう。どうでしょうか皆さん」
 先生が他の先生に同意を求める。先生方は……泣きながら頷いてる。何故に泣いている?
疑問には思ったがあえて聞く事はしないでおこう。
そして先生がスペシャル良い人だ。普通これだけの騒ぎ起こしたら停学とかでもおかしくないのに。何とかしてくれるとは……。出来るかは別として。
「で、今日は……そうだな。事情が事情だ。早退を許す。明日までにどうするかを決めるからな。その方が安全だろう」
「了解です」
「くれぐれも気を付けて帰るんだぞ?」
「分かりました」

 そんなこんなで家に帰される事になってしまった。明日から俺、学校に通えるのか?
ちょっと寄り道して河川敷でぼ~っとしていた。ミュウは頭の上で同じくぼ~っとしている。
皆があそこまでミュウを捕まえようとした事に驚いた。こいつが何か悪い事をした訳じゃないのにな。
「ミュア~~~」
「ははっ、欠伸してら。気楽なもんだな。さて、帰るか」
「ミュウウ」
 考えてても埒が明かない。先生に任せるしかないようだな。
そのまま河川敷の上を歩く。サラサラとした川の流れの音って落ち着くよな。それが狙いで川まで来たんだし。
普段なら電車使うんだが、学校の事が頭を過ぎり止めた。歩いて三時間ぐらい掛かるが、またボール地獄になるのはごめんだ。
そのまま歩いていると橋に差し掛かる。川が大きいから必然的に橋も大きくなる。歩いて渡るのは難儀しそうだなぁ。
「ミュウ! ミュウ!」
「ん? どうした?」
「ミュウ!」
 頭の上で騒ぐのは止めてくれ。で? 何か指してるな。橋の……下?
「ミュウウウウー!」
「ぐえっ! おいおい引っ張るなって!」
 尻尾はそのままでぐいぐいと引っ張られる。首絞まるー! 死ぬー!
仕方ないから後に続いて橋の下へ。何があるっていうんだよ?
「おいおい……なんだよこいつは……」
 何か、居た。デカくて黄色くて厳ついの。ポケモンであるのは間違いない。
ちょっと待て待て。えっと図鑑図鑑……あった。
ぱらぱらとページをめくっていく。こいつが新種のポケモンとかでなければ何かしら載ってるはず……おぉ、ビンゴ!
えーっと何々? ライコウ、いかずちポケモン。雷と共に落ちてきた言われ、雷の化身と呼ばれる。背には雨雲を背負い、そこからいつでも雷を放てる。エンテイ、スイクンと共に地を駆ける伝説と呼ばれる。
「……ええええええええええええええええええええ!!!!」
 また来たよ伝説のポケモン! それが何でこんな所にいる! そして何でミュウはこんなのを見つけるの!
どうするよ。えっと、そうだな……。

1、何も見ないフリしてここから離れる。

2、とりあえず近付いて様子を見る。

3、ボールを買ってきてゲットする。

 俺がトレーナーなら迷わず3だろうな。据膳食わねばなんとやらで。でも俺はトレーナーじゃないからパス。
1も悪くないけど……いや、駄目だな。ミュウであれだけのパニックになるんだ。こいつをこのまま放置しておいたらどうなるか分からん。想像するだけで怖くなってくる。
とすると……2しかないよな。でも、トレーナーじゃない俺に何とかできるのか? とりあえずは様子見だけだな。動かないでくれよ?
「グゥゥ……」
 小さく唸ってる。こころなしか辛そうにも見えるし。なんだ? どっか怪我でもしてんのか? う~む、血が出てたりはしないから違うっぽい。
見た目は何とも無さそう……いや、ちょっと待てよ? 何か……細くないか? こう、全体的に。図鑑の絵はもっとがっしりした感じなんだけど。
「ぐうううううぅぅぅぅうう」
 明らかに鳴き声じゃない音が周りに響く。聞こえてきたのは腹。これはイコールで、
「お前、もしかして腹減ってる?」
 顔赤くして涙目で頷いた。言葉は分かってるみたいだな。コミュニケーションも取れなかったらどうしようかと思ったぜ。
それにしても、伝説のポケモンとやらもやっぱり生き物だな。腹減って動けなくなるとはな。それなら直すのは簡単だ。
「お前ついてるぜ。俺が昼飯前に早退させられてな」
「グ、ゥゥゥ」
「待ってな。直ぐに美味いもん食わせてやるから」
 取り出しますはただの弁当箱。この中にはサンドイッチが三つ。
俺特製の照り焼きチキンサンド(大判)! 鶏胸肉一枚を豪快に照り焼きにしてサンドした贅沢な一品だ。照り焼きのタレだって醤油とみりんにモモンの実をちょっと加えてまろやかにしたスペシャルバージョンなり! 自慢の一品だぜ。
これを食えば多少なりとも元気になるだろ。
「ほれ、食えるか?」
 手渡しで食うかどうか迷ったが、少しにおいを嗅いだ後にかぶりついた。危うく俺の手も持ってかれそうになったがな。
おぉ、食っとる食っとる。これだけガツガツ食ってくれると作った方としても気持ちが良いぜ。
「ミュ~ウ~」
「あ、悪いな。お前も腹減ってたか。ほれ」
 二つになったサンドイッチの一つをミュウに渡して俺も自分の分を手に取る。川見ながら飯食うのも乙な物だ。
口に運ぼうと思ったんだが、横からの……ライコウからの視線が痛い。懇願するような目で見ないでくれ。
ようはもっと食いたい訳ね。はいはい。
「ほれ、これも食いな」
「ガウー!」
 渡したら早速食。美味いんだろうな。料理人冥利に尽きるぜ。なってないけど。
今度は一気に食べずに味わいながら食べている。気に入ったのか? ミュウもゆっくり食ってるし、しばし休憩~。
川のせせらぎを聞きながらふと思う。いつの間にか助けちまったが、俺、悪くないと思ってる。
ミュウに会った時は助ける気なんてさらさら無かったのにな。数日でそんなに変わるものか?
べったりミュウがくっ付いてくるもんだから心境がちょっとだけ変わったのかもな。どんよりしてた気持ちもここ二~三日はミュウの事で忙しくて感じてる暇なかったし。
何せいきなり料理も二人分になったんだ。それだけで結構忙しくなってるのに学校ではあの騒ぎ。勘弁して欲しい。
それでも、ミュウを叱る気にはならなかったな。
なんだかんだ言っても、独りでいるよりは……マシだったから。
「ミュミュ~」
「食い終わったか? オッケー、お前さんは?」
「ガウ!」
 元気になったようだな。これなら問題は無さそうだ。
「よしよし。もう大丈夫そうだから俺達行くな。元気になってよかったな」
 さて、大分時間使ったな。早退してる身分なのに……。
たまにはいいよな? こんなに穏やかーな気持ちになったのも久々だし。
立ち上がって歩き出そう。なんか体も軽くなった気がする。家まで後一時間半、余裕です。
で……。
「何で付いて来てんだよお前! 早く行きたいとこ行けって!」
「ガウ?」
「ガウ? じゃなくて!」
「ミュミュミュ♪」
 結局、そんなやり取りをしてるうちに家に着いたのは言うまでも無いな。

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 回 想 な げ え ! さらっとやるつもりががっつりやってしまった。ま、全て脳内でだがな。
家の前で何やってんだ俺。入ってからやればよかったじゃねぇかよ。あ~、頭疲れた。
何にしても礼だけは言う様にしてんだよな。
「サンキュ、ライコウ。助かった。さ、入ろうぜ」
 普通に家の中にライコウを入れるのは変だろうか? でもな、入っちゃうのよ。
町外れにあるためひっじょうに交通の便は悪いんだが、その分俺の家はデカイ。
元々は両親が俺をトレーナーにしたかったらしく、大型のポケモンでも家の中で不自由しないようにと造られたのがこの我が家。
この辺一体では一番でかい家に俺は暮らしているのだ。(ポケモンを除けば)一人でな。
なもんだから入口もでかい。何と高さ2.5メートルまでカバーできる。どんだけだよ。しかも観音開きの二枚ドア。何処の貴族の屋敷だ。
扉も普通のよりは頑丈らしいし、下手な地震があってもびくともしない。いやぁ、良い仕事してますね~。
とまあ、玄関だけの説明だけで一苦労する家だが、ようはデカイ以外は他の家と施設的な違いは無い。屋根は高いけど二階なんてないし、ほんとに浅く広くしたような家。
家の説明はこれくらいにして、ちゃかちゃかと入りますか。
「お帰りなさい。終夜」
 忘れてたー! 俺の家、無人なんだけど、有ポケなんだよ。
そして驚く事に出迎えてくれたのは……。
「ん? 私の顔に何か付いてますか?」
「いや、何でもない。ただいま、スイクン」
 そう、スイクン。ライコウと同じ走る伝説。それが我が家には居るんだよ。……ミュウにライコウと伝説メドレーが続いてるんだから今更驚きも何も無いよな。
「はぁ~、やっと喋れるよ~。ミュウもう疲れちゃった~」
「いやぁ、不便で仕方ないよな。喋れるのに人前では喋るな~とかって」
 ……スイクンが喋った時点で賢い方は気付いたかもしれないが、こいつ等人の言葉が分かるだけじゃなくて喋れるんよ。
あらかじめ言っておくが、全てのポケモンが喋れる訳じゃないぞ! こいつ等が異常なの! ポケモンは喋らないからな!
もし普通にポケモンと人が会話出来るのならばわざわざ隠す必要は無いだろ?
こいつ等が喋れるって分かったのは、スイクンと出合った時だったなぁ……。






 回想に入ると思っただろ! 入らねぇよ。疲れたし。
「終夜~、ミュウお腹減ったぞ~。ご は ん♪ ご は ん♪」
「そうだ! 俺も腹減ったぞ。 め ~ し♪ め ~ し♪」
「貴方達は……少しは終夜の疲れを考えなさい! 私もお腹空いたけど……」
 こいつ等の飯コールは煩いしな! スイク~ン、さりげなく自分もアピールしてるんだから同罪だよー。
「わかったっちゅうに! 今から作るから手伝え」
「は~い」
「めんど~い」
「分かりました」
「うん。ライコウ飯抜き」
「誠心誠意やらせていただきます!」
「よろしい」
 こんな感じでいつも夕食の準備が始まる。どうやってこいつ等が飯作りを手伝うって? ミュウはサイコキネシスが使えるからそれで。スイクンとライコウも神通力っていうエスパーの技を使えるから問題は無い。
さて、何を作るかな。

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「ふぃ~! 食った食った~。満足なり!」
「お腹いっぱいだ~」
 二匹とも飯食い始めてからものの10分で完食しやがった……。どっちも俺の倍食って、なおかつおかわりまでしたのに……。
ライコウは何となく分かるが、ミュウの体の何処にその量が収まった? 理解出来ん……。
「はいはい、二人とも自分の食器は自分で片付けて。洗うのは私と終夜がやるから」
「ほ~い」
「分かった~」
 スイクン、母親だな。良い嫁になれるよ。何故俺がニュートラルに洗い役にノミネートされてるかが気になるけど。
それに引き換え2匹の自由さ。子供か! いや、どうなんだ? 人で言うと何歳ぐらいなんだ? 分からん。
聞くのも面倒だから迷宮入りさせておこう。別に知っても得は無いし。
「ん、ご馳走さん」
「ご馳走様でした」
 これで全員食事終了。因みにメニューはカレーになりました。簡単だし早いし。
スイクンは食べ終わった後に俺に付き合ってくれてただけなんだけどな。まぁ、嬉しいけどな。
「さて、洗い物するか」
「お手伝いします」
「サンキュ。じゃ、俺洗うからスイクンは拭いていってくれ」
「了解です」
 まさか両親が死んだ後にこうしてシンクに誰かと並ぶとは思わなかったな。相手ポケモンだけど。
空中で皿と布きんがふわふわと動く。なんとも不思議だ。それでいてちゃんと拭けているから凄い。
四人分の食器も二人でやればあっという間に洗い終わる。一人の方が一人分で済むから早いには早いけど、こっちの方が楽しいな。
さて、全てが終わってまったりタイム。ライコウとミュウは二匹でじゃれて遊んでる。おいおいライコウ。伝説のポケモンなんだから腹見せて寝そべるなよ。俺以外皆そうだけどさ。
それにしても奇妙なリビングだ。なんてったって、伝説のポケモンが三匹も居る家なんておかしすぎるだろ。しかも全匹ボールの縛り無し。トレーナーなら涎を流して羨ましがるだろうさ。
ソファーに座ってぼんやりしてたら隣にスイクンが来た。あの、顔を覗き込まないで。
「どうしました? 不思議そうな顔、してますよ」
「あ、うん。こうやって一つの所にこれだけのポケモン達が集まるのって、結構不思議じゃね?」
「確かにそうですね。一年前までは皆、独りだったのに……」
「……俺は別にここに居てくれとも言ってないのにな」
「あら? 終夜は私達がお邪魔ですか?」
「別に。皆好きなようにやれば良いさ。俺が困る事なんて……指し当たっては無いし」
「ふふふっ、終夜は本当に変わった人間ですよね。他の人間では、私達を追って躍起になっている者も居るというのに、貴方は私達を自由なままにさせておくんですから」
 俺そんなに変わってるかな? そんなの別に人それぞれだと思うけど。
この状態で俺がトレーナーを始めたら、俺最強だな。そう考えると確かに変か。でも捕まえる気なんて起こらないし、こればっかりはしょうがないな。
時間は夜八時。暇だ。ゲームしても良いが、こいつ等ついて来るしなぁ。落ち着いて出来ん。
今日はインスタントのルー使ってカレー作ったからレシピ纏める必要も無いし……。風呂でも入るか。
「あら? どちらへ?」
「ん、風呂」
 風呂って単語が出た瞬間に全員がこっちを向いた。いや、怖いってばよ。
「ミュウも入る~!」
「俺も!」
「私も!」
「おおう、やっぱりか」
 ……何故かこいつ等は皆一様に風呂が好きなのだ。正確にはその後のブラッシングが。だから俺が入るタイミングで入りたがる。
別にやってやるのは構わないんだが……俺がお前等のトレーナーではないという事を理解してるのだろうか?
この問題を解決から遠ざけているのは風呂の大きさ。父さんの風呂好きが祟って、この家の風呂はもちろんデカイ。それも銭湯並みに。ゆえに今現状に居る全員が同時に入れてしまうのだ。
父さん……金の使い方が一定方向に偏りすぎていたと思う。息子は今、大型ポケモンに悩まされてるよ。風呂の事で。
過ぎた事はどうしようもない。諦めて風呂へいこう。三匹がぞろぞろとついて来る。もう、なんか凄い。
俺達の入浴シーンなんてお届けしてもしょうがないからな。ここいらでスイクンとの馴れ初め、いっとくか。

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 ライコウが来て一週間、俺は何とか学校に通っている。
結局先生から妙案が生まれる事は無かったが、あの大混乱が良い方向に転んだんだ。
ミュウが見せたあのボールの壁。どうやってゲットしようとしてもあれに阻まれるならゲットのしようが無いと生徒達に情報が行き渡っていた。
物欲しそうな目では見られるが、試しとばかりにボールを投げても止められる。ポケモンを仕掛けようにも、バトル禁止なこの高校ではそれも出来ない。
先生方の対策としては、無許可バトルの見張り強化が一番だという事になったらしい。
それでもちょっかい出してくる奴は居そうだが、概ね何とかできるだろう。
これで学校の問題はクリア。したんだが、新たな問題が浮上していた。もちろん……。
「ガウガウ」
「ミュミュ」
「ガウー」
 何やらミュウと話しているこいつ、ライコウの事だ。
毎日毎日、俺が高校へ向かおうとするとついて来ようとする。もちろん駄目。やっとミュウ問題が落ち着いてきたのに、厄介事は増やしたくない。
「いいか? お前が、俺について来ると何かと問題があるんだ。分かった? 家で大人しくしててくれ」
「ガァウー! ガウ、ガウ!」
「……はぁ、お前が人の言葉を話せたら苦労しないんだけどな」
「ガウゥ……」
 現在は高校から帰ってきた後。朝について来ようとしたのを止めるように説得をしていた。
いつも言い聞かせようとすると何か伝えたいように鳴く。それを俺がどんな意味か分かればぜーんぶ収まりそうなんだけどな。
何か思う所があるからついて来ようとするんだろうが、街中をこいつが走り回れば大混乱再び、だ。学校でのミュウの騒動が可愛く思えるくらいのな。
「分からないものはしょうがないか。……今日も散歩、行くか?」
「ガアウ!」
 とりあえずついて来る理由を、『家の中は退屈だから』と定める事にしている。だから人気が無くなってからこいつを散歩させてみているんだ。
それで満足すればついて来なくなるだろうしな。今のところ効果は無いけど……。
玄関へ向かうとミュウもふよふよと近付いてきて、それが当たり前のように首に尻尾を巻きつけてくる。実は結構温かかったりする。

 目的地なんて無いから適当に歩く。いつもなら町の方に行くんだけど、今日はそれとは逆方向に向かってみた。
逆の方にあるのは林。その先は、道路は通っているけど殆どただの山が連なっている。夜に入るのは断固として避けたいね。
この散歩も手前の林で終わらせるつもりだ。野生のポケモンなんかに襲われたら無事じゃ……済むな。何故かミュウは俺を護ってくれるし。そこいらのポケモンやトレーナーには負けないだろう。
とにかく、林が近付いてきた。ふ~む、月が綺麗な夜だ。夜でも割と明る……。
「!」
「!! おあっ!?」
「ミュアア!?」
 な、なんだ!? いきなりライコウが俺の服銜えて引っ張りやがった! と思ったら俺が居た場所を何かが横切っていった。暗いし早いしでよく分からなかったが……泡?
え、これは俺、何かに狙われてる? 
「ガァ!」
「へ? お前、急に体低くして何を? もしかして、乗れってことか?」
「ガウ! ガガウ!」
 何か焦って……。
「ミュウ!? ミュー!」
「うおっ!? と!?」
 今度は目の前に薄いガラスみたいな壁が出来た。そしたらその壁に何かぶつかった。目の前の壁が音を立てて割れていく……。
壁が無くなった所の道路が雨も降ってないのに濡れてる。これは間違いない。俺が、水タイプの技で狙われてる!
「これはヤバイだろっ! ライコウ、助けてくれるんだよな?」
「ガァ!」
「オッケー、背中借りるぜ!」
 緊急事態だ。厚意にあやからせてもらおう。しかし、何だって俺が狙われてんだ!? 水タイプのポケモンに何かしたことなんて無いぞ!?
ライコウにまたがった訳だが、この雲……確か雷起こせるんだよな? 痺れないから大丈夫そうだけど、ふかふかで中々良いかも。
それどころじゃなかった。しがみついて、と……。
「よし、いいぜ。ライコウ」
「ガウ!」
 ライコウがすっくと立ち上がり、もと来た道を……戻らなかった。寧ろ謎の水弾が飛んできた林の方に駆け出した。
「うおおおおい! 何してんだよ! 逃げるんじゃないのか!?」
「ガウ! ガガウ、ガウ!」
「くっそ、何言ってるか分からんが、何か考えがあるんだな!?」
「ガァウ!」
「……分かった。頼んだぞ!」
 任せろ! とでも言いたげにキリッとした表情をこっちに向けた後、前に居るであろう襲撃犯を目指して走り出す。本当に大丈夫なのか?
速い。ライコウってこんなに足が速いもんなのか。お陰で掴まってるのも一苦労だ。
攻撃してきた奴はまだ見え……いや、居た! 目の前を走っているポケモンが居る! 嘘だろ? このスピードと互角?
それでも僅かにライコウの方が速いな。差が詰まってきた。
ん? 観念したのか、相手が方向を変えた? ってか、もうここ山。俺、帰れるのか?
相手が曲がった方向にライコウも進む。お、何か開けた所に出るぞ。明るくなってきた。(月明かりで)
「ここは? 池?」
 月を写した水面がなんとも綺麗だ。これは相当綺麗な水じゃないと起こらないだろう。それだけはっきりと月が映し出されている。
その池の中心に佇んでるポケモンが一匹。スゲッ! 水の上に立ってるよ!
月明かりの下、全身が水色のポケモンがこちらを見ている。
なんにせよ、ここが終点らしいな。ライコウから降りるか。
「動くな人間! 降りればすぐさまお前を攻撃する!」
「ぬぉっ!? しゃ、喋った!?」
 思わず両手を上げて固まった。喋れるのだけでも驚いたのに、いきなり脅されたよ。怖っ!
一時の静寂。聞こえるのは吹き抜ける風の音と、夜行性のポケモンの鳴き声だけ。この空間で一番非力なのは俺だろうな。何も出来ん。
「答えなさいライコウ。何故貴方は自分を捕らえた者を護るのです? 貴方が邪魔さえしなければ、先程の一撃で貴方はまた自由となれたのに」
 静寂が目の前の奴によって破られた。何でそんなに流暢に喋れるんだ? それにライコウに聞くんなら別に人の言葉である必要は無いだろうに。
「ガ……」
「やはり捕らえられて従わされていますか。人間の言葉をも失うとは……」
 ……何やら勝手に落胆している。答えようとしたんだから答えさせてやれよ。
「許さない。我が同胞を苦しめる者には消えてもらいます」
「のぉっ!? おいおい物騒な事言うなよ! だいたい……」
「待てよ、スイクン」
 え、下から声がした。下には人は居ない。居るのは、居るのは……。
「ビックリしてるところ悪いんだけどよ。ここは俺に任せてくれや。頼む、終夜」
「ら、ライコウ……なのか? 喋ってるの?」
 ライコウが頷いた。マジですか。
「スイクン、勘違いしねぇでくれ。俺は終夜……こいつに捕まったりしてねぇ。護ったのだって俺が勝手にやったんだ」
 ライコウが池の上のポケモン、スイクンって言うのか? に話しかけ始めた。どうなるの俺。最悪、ここで死ぬんじゃね?
「貴方喋れるのですか? 人に捕らえられれば私達の力は抑えられる筈では?」
「だーかーらー、俺は捕まってないって言ってるっしょ? じゃなきゃエンテイみたいになってるだろ」
「た、確かに……では何故その人間を助けたのですか?」
「命の恩人だからだよ。恩返しもしてないのに死なれてたまるか!」
「なんと!? そういう事だったのですか!?」
 ワーオさっぱり話が分からない。頭が混乱し過ぎておかしくなりそうだ。
それにしても、ライコウ喋れるのかよ! マジでか!? そしてエンテイって誰!? 聞いた事はある気がするけどな?
それに、恩返し? そんなのしようと思ってたのかこいつ。ポケモンなのに。
「それでは、そちらのミュウは? もしや?」
「……もうミュウも喋っちゃっても良いかな? うん。ミュウも同じだよ」
「ミュウ!?」
「終夜ごめんね、内緒にしてて。後でちゃんと説明するから」
 は、ははは、ミュウも喋ったよ。いいや、もうそういう事だってことで今は納得しておこう。……後できっちり説明させるけどな。
さて、二匹のことを聞いてスイクンとやらはどう動くのかな。
「人間」
「ひょっ!? な、んだよ?」
 変な声出た。不意打ちで聞かれたからしょうがないけど、なんか情けないな。
「何故二匹を捕らえないのです?」
「何故って……捕まえる気なんてないし、そもそも一緒に居るのだって俺は強制してないし」
「嘘ですね。人は私達を見かければ襲い掛かってきて、己の物にしようとしてきました。例外無くね」
「嘘じゃないって。こいつ等に会ったのは偶然だし、それに俺、トレーナーじゃないからポケモンを持ってない。こいつ等を襲いようがないんだよ」
 ミュウとライコウが同時に頷いた。スイクンが顔をしかめる。納得出来ないんだろう、俺とこいつ等の状況が。
でも事実だし、他に説明のしようも思いつかないし。
「本当に、捕らえる気は無いと? そんなことが……」
「あり得てるんだよ。終夜の場合はな」
 難しい顔してるな。ど、どうなるんだ? 大人しく解放してくれると嬉しいんだけど。
「……やはり信じられません。人間の話す事は」
 うわ~、俺の終わりですか? 逃げてくれ~、逃げてくれよライコウ。
「ですから、この目で確かめさせて頂きます」
「へ? どういうことだよ?」
「貴方を監視させてもらいます。それで、私を含めた三匹に何もしなければ、信用いたしましょう」
「それは……ついて来るってこと」
「その通りです」
 うええ!? また厄介事が増えたし。何でこうなった?
とにかく、命拾い……出来たみたいだから良しとしときますか。

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 そうしてこの奇妙な共同生活が完全に始まり、丸一年こいつ等は俺の家に居るわけですよ。
スイクンは最初やばかったね。めっちゃこっち睨んできてたし、何しようにもじーっと見てきたし。三ヶ月ぐらいはそうだったかな?
そうなった原因を聞いたのがその三ヵ月後の頃。何でももう一匹の伝説、炎のエンテイがこいつ等の目の前でトレーナーに捕まって、こいつ等もそのトレーナーに散々な目に遭ったんだと。
その時は何とか逃げ出して二匹は無事だったんだが、エンテイはそのままそいつの手持ちにされてしまったそうな。
こいつ等にしてみれば嫌な事だよな。よく知らない奴に追い掛け回されて、自分の知り合いが捕まってさ。俺でも嫌だと思う。
だからあの時、ライコウまでそうなったら嫌だから俺は襲われた。そういう事なんだとさ。
その後は、今までのお詫びがしたいってんでそのまま暮らしてる。別に分かってもらえたんなら俺は別によかったんだけどな。
ライコウとミュウについては、両方とも恩返しがしたくて元々ついて来たんだと。
ライコウが俺についてこようとしたのは、俺を乗せて連れて行ってくれようとしていたみたいなんだよ。今思うとそんな感じだったな。
ミュウは……とりあえず護ってくれてたし、それで恩返しらしい。後付けっぽかったけどな。
言葉を喋れるのに隠してたのは、要らない混乱を防ぐ為だとさ。確かに、いきなり喋られたら俺もびびる。そうなったらここに居辛いからってことでね。
一年経つ前に、恩返しもお詫びももう十分だって言ったことももちろんあるんだぜ。そう言ってやれば、こいつ等はまた自由になるんだからな。
でもその返答は……。
「じゃあ、後は勝手にここで暮らす」
 と、三匹同時に言われました。そこで俺は完全に諦めたよ。どうやってもこいつ等には適わないって。
よーし、ブラッシングも終わりっと。満足そうな顔しやがって……。こっちは頭の中で回想しながらだから疲れたわ!

 さーてと、風呂にも入ったし、後は寝るだけなんだよな。テレビも面白い番組無いし。
明日の準備ぐらいするか。えーっと、明日は……休みじゃねぇか。何だよ、準備しようとして損した。
とすると、本当にやる事無くなったな。マジで寝るか。まだ九時だけど。
「お~い、俺もう寝るからな~。あ、スイクン。明日起こさなくていいからな」
「あら、そうなんですか? またどうして?」
「休みくらいゆっくり寝ようぜ。いつもは朝飯の準備で忙しいんだしさ」
「あ、お休み。なるほど。それならゆっくりでも良いですね」
 ふむ、こうして喋ってるとスイクンが丸くなったのがよく分かるな。一年も一緒に居れば当然かもしれないけど。
「明日休みなのか!? ならどっかいこうぜ~。どーせする事無いんだろ?」
「ぐっ、確かに無いが……そう言われると何か悔しい! ま、行くのは良いけど、お前等引き連れて人の居る所には行けんだろ? 何処に行くんだよ」
「う~ん……スイクンとミュウ! よろしくぅ!」
「他に、ポケ任せかよ! 言いだしっぺなんだからもっと考えれ!」
「だって、俺ってば終夜が居れば何処でも良いし」
「どういう意味だ?」
「言葉の通りだ」
 俺が居れば何処でも良い、ねぇ? 普段かまってやらんからか? それとも……いや、思いつきはしたがそれは無いな。あいつ牡だし。
因みに性別はライコウが牡。スイクンとミュウは牝、らしい。はっきりとした事は言えない。証拠を見せろとは言えないだろう。俺は変態じゃない。ポケモン相手でもそこはわきまえてるさ。
「お前等性別あんの!?」って聞いてめっちゃ怒られたのが懐かしいな。生き物なんだから子孫を残さないと滅ぶだろ! って。伝説のポケモンにそんなの関係あるのか?
おっとっと、そんなことより目的地だよ。どうせ行くなら嫌な思いしたくないし、ボール乱舞も受けたくない。
人が来なくて、なおかつのんびり出来そうな所か……。
「あぁ、それなら私と出会った池はどうですか? あそこなら人は来ないし、水も澄んでいて綺麗ですよ」
「えー? 遊べそうになさそー。もっと面白い所無いのー?」
「近くに小さめですけど草原もありますし、野生のポケモンも居るから遊ぶのには不自由しないと思いますよ」
「う~ん……」
 なんかスイクンが必死だ。いつもはミュウがああ言うと他の場所を提案するのに今回は池にこだわってる。何かあるのか?
ここは……スイクンの意見にBETしてみるか。
「いいじゃないか。たまにはまったりしようぜ。ミュウだって毎日ボール投げられて疲れてるだろ? 美味い物作ってやるから、な?」
「美味しい物!? それならいいよ~!」
「終夜……ありがとうございます!」
 嬉しそうに笑顔になったスイクンに不覚にもドキッっとした。ヤバイ可愛いかも……。いやいや落ち着け俺。ビークール。そう、冷静になろう。
相手は喋れようが可愛かろうがポケモン。俺は人間。これは不変の事実だ。
「いよぉ~し! 行く場所決定! 終夜~、照り焼きサンド作ってくれよ~」
「手伝うなら作ってやる。オーケー?」
「俺、頑張る!」
 無邪気だ。それだけ気に入ってるってことか? 屈託の無い子供のような反応だな。これでライコウなんだから驚きだぜ。もっと威風堂々って感じでもいいと思うんだがな。
これで明日はピクニックか。天気予報じゃ晴れらしいし、気晴らしにはちょうど良いか。

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 朝から戦場のような騒ぎになりました。なんせ午前六時にライコウに叩き起こされましたから。部屋に鍵なんか掛けてないから普通に入って来るんだよ。
それからひたすら昼飯の準備。各種サンドイッチに卵焼きとか色々。ミュウが起きてこないから三人でせっせと調理。こいつ等には好きな所に寝かせてるけど、ミュウが何処に居るかが分からなかった……。
その内にミュウ起床。何処に居たか聞いたら俺のベッドの下で寝てたらしい。う~ん灯台下暗し。いつの間に俺の部屋に入ったんだか。
そこでミュウに朝飯を要求されて気付く。昼飯の物作ったら冷蔵庫が殆ど空だった。朝飯作れねぇぇぇぇぇ!
とりあえずは昼用に作った物の一部を食す。お、結構上手く出来てる。
そんなこんなで現在玄関前に集合! つ、疲れた……。
「準備出来たど~! はっやく行こうぜ~」
「出来たとたんに外に出て来やがって……ちったぁ休ませろ!」
「いいじゃんよ~。俺、疲れてないし」
「ミュウも~」
「……スイクン、助けて」
「あ、あははは……」
 笑ってごまかされた。もういいよ! すねてやる!
「これからは疲れないんだからいいだろ? ほれ、乗った乗った!」
 ライコウが身を屈めている。ん? なんかスイクンの視線が気になる。こっち見てどうしたんだ?
後で聞くとして今はライコウに乗ろう。早くしないと、幾ら人気の無い所に行くにしても誰かに見られちまう。
「ちゃんと乗ってろよ? 行くぜぃ!」
「あ~! 待って待って~! ミュウまだ乗ってない~!」
 おぉ、通りで首がスースーする訳だ。ミュウも流石にライコウ達の走りにはついて来れないだろうからな。置いてくわけにもいかないし。
やっと本格的に出発ですよ。バタバタしたな~。

 朝方の景色が高速で流れていく。まだそんなに人は居ないな。居られたら困る。ライコウとスイクンが走り回ってて、その背中にはなんか人乗ってて、その頭にはミュウが乗ってるんだ。意味が分からないだろう。
この道に来るのは実に一年ぶり。スイクンの襲撃以来だな。その時は夜だったし、狙われてたしで周り見る余裕なんてなかったっけか。
これだけ乱雑に木が生えてる所をスピードも変えずに駆け抜けれるんだから流石だよなぁ。木々の間を縫うとは言うが、正にそんな感じ。
お、この辺は何となく覚えてるぞ。この木の間を抜ければ……。
「いよっし到着!」
「へぇぇぇぇ……」
 朝日が反射した水面が何とも綺麗だ。覗き込んだら池の底が見える。すっげぇ水が透き通ってる。とにかく綺麗だ……。
「この池、偶然見つけたんですよ。最初は濁ってたんですけど、私の力で浄化してあげたら綺麗な水が沸いてきたんです。どうやらその時のままみたいですね。良かった……」
「そっか、スイクンが綺麗にしたんだ。へぇ~」
 ライコウから降りて池の淵に腰掛けた。マジで綺麗だな。飲んでも大丈夫かな?
「終夜~見てるだけじゃつまんないよ~。遊びに行こ~?」
「ん~、俺はもうちょっとここでのんびりして行くわ。お前等は遊んで来いよ。……野生のポケモン、いじめ過ぎるなよ?」
「俺達だってそうだっちゅうに! そんなら行ってくるぞ。勝手に居なくなるなよ? スイクン、ミュウ、行こうぜ」
「ほ~い。ライコウ待って~」
「私は残りますよ」
「ん? 何故に?」
「終夜は人間ですよ? ここにだってポケモンは出るんですから、危険が及ばないようにです」
「おぉ! そういやそうだな! 普通に接してると忘れちまうぜ。じゃ、よろしくな~」
 何とも落ち着きの無い奴等よのぉ。ミュウもライコウも行っちまったよ。あいつ等なら心配は無いだろうけど。
さて、掬った水の味見をしますかな。……うん、水道水の何倍も美味い! この水でスープとか作ったら美味そうだ。
「いきなり飲んだら危ないですよ。何があるか分かりませんし」
「うぉ、ビックリした。見てたのに止めなかったってことは大丈夫なんだろ?」
 隣までスイクンが来てました。本気でビックリしたぞ。声掛けてくれても良かったのによ。
問い掛けには笑顔だし、飲んでも大丈夫なんだろう。これで腹壊したら笑えないけどな。
「隣座りますよ。ここで終夜とは初めて会ったんですよね」
「分かってて連れてきたんだろ? 珍しいよな。スイクンが積極的になるのって」
 一年間一緒に居たわけだが、スイクンは面倒見が良い分、自分から発言する事は少ないのよ。ライコウとかミュウに合わせる方が遥かに多い。もっと要望言ってもいいと思ってたから、今日は此処に来たいという意見を尊重したのさ。
「実は……ごめんなさい!」
「ほっ!? 繋げ方がおかしいぞ!? 実はごめんなさいって……」
「あ、私ったら緊張しちゃって……」
 緊張? 何故に? 家ではいつも一緒に居るのにな。仄かに頬が赤い……水色だから余計に目立つんだよな。そんなに緊張する理由ってなんだ!?
「なんで緊張なんかしてるんだよ。場所は違うけど、いつも一緒に居るだろ」
「二人きりなんて……初めてじゃないですか……」
 喋るたびに赤さが増していく。二人きりは初めて……言われればそうかもしれない。いつもミュウは首に巻きついてくるし、ライコウはライコウで暇になったらちょっかい出してくるし。
そう言われると俺の方もなんか緊張してきたな。
スイクンか……水色の体毛に額には綺麗な水晶の飾り、何処を見ても綺麗なんだよな。オーロラポケモンって呼ばれるだけはあるよなぁ。体もすらっとしてるし、伝説じゃなくても欲しがるトレーナーは多そうだよなー。
「そんなに見ないで下さい……恥ずかしい///」
「あ、ご、ごめん」
 な、なんだこの空気。甘いような、ほろ苦いような……初恋か! ……初恋か!?
おおいおいおいおおいおい! どうした俺! 相手はスイクンだぞ!? で、でも、恥らってる姿も可愛い……じゃな~い! やばいぞ~、何とかして空気を変えねば!
「そ、そうだ! さっきのごめんてなんだよ。俺、特に何かされた覚えは無いぞ」
 なかなか上手くシフトできた、か!?
「あれですか。……一年前のお詫びです」
「一年前の? なんで今更?」
 多分出会った時のことを言ってるんだろう。お詫びなんて、いつも家で色々手伝ってくれてるんだからしなくていいのによ。
「ちゃんとここでしたかったんです。この綺麗な池で、悲しい思い出しか残ってないのが嫌だったから……」
「あ、……」
 確かにここではスイクンに睨まれてた思い出しかないな。それがスイクン的には嫌だったと。
「貴方は、今まで会ったどんな人間とも違った。会ったばかりの時は何故ライコウやミュウが貴方の傍に居るか分かりませんでしたが、彼等の方が人を見る目があったみたいですね」
「俺、そんなに他の人と違うか? 自覚は無いんだけど?」
「言葉にはし難いですけど……傍に居たくなる雰囲気があって、私達を縛りつけようとしない優しさが、ある?」
「何故に最後が疑問系? それに、傍に居たくなるって?」
「だから言葉にはし難いって言ったんです~! 私にもよく分からないんですよ!」
 う~ん、俺にもよく分からんな。それで困る事も無さそうだし。
……傍に居たくなる、か。一年前の俺からそんなもんが出てたとは思えないけどな。
スイクンと会った時は大分マシになってたけど、やっぱり親の事は引きずってたしな。寧ろポケモンを寄せ付けなくしてそうだけど。
「だから、こうすれば伝わりますか?」
「おわっ!? スイクン何を……」
 スイクンの頬が俺の頬に触れてる。ち、近い! 顔真っ赤にするぐらいならしなきゃいいだろうに!
そのまま動けないまましばし停止。耳元にスイクンの息遣いが聞こえる。ふんわりと優しい香りが鼻をくすぐっていく。やばっ、変な気持ちに……。
「終夜、私は……」
 それ以上は言わないでくれぇぇぇぇ! その場で自分を制御出来なくなる恐れがある!
何か……何かアクションが起きなければ不味い!

----

「うおおおぉぉぉ! 終夜ー! スイクーン! 逃ぃげぇろぉー!」
「へっ!? ライコウ? (なんでこんな時に!)」
「いや待てスイクン! 後ろのは何だ!?」
「うわーん! 終夜助けてー!」
 ライコウにしがみついたミュウ。の後ろに。
「ビィーーーー!」
「ス、スピアーだぁー!」
 一匹ならライコウも逃げてきたりはしないだろう。やられる事も無いだろうし。
だ が! その数、数えられただけで15! 黒い雲のようになりながらこっちへ向かってきとる!
「うぉあああぁぁ! 逃げなきゃ、やられる!」
「不味い、人間の足では追いつかれる! 終夜! 乗ってください!」
「スイクン!」
 飛び乗る形でスイクンにライドオン! おお、ライコウより安定感がある。ってそんな場合じゃないな。
「お前等は何をしたぁ! めっちゃ怒ってるぞ!」
「い、いやな? 何かいっぱいぶら下がってるなーと思ってな?」
「突っついて遊んでたら……」
「スピアーの巣、だったんですね?」
「うぅ、スイクン睨まないで……すまないとは思ってるから」
「……とにかく、この辺に開けた所って無いか?」
「へ? 終夜~どうする気なの?」
「お前等はなんだ? スピアーに負けるような奴等じゃないだろ」
「ですが場所が……あ」
「そういう事!」
 先生が才能あるって言った意味が自分でも何となく分かったわ。意識する前に開けた場所に行くように指示していた。
そこならばこいつ等なら何匹相手だろうと負けないから。
「それならば、ライコウ! ついて来て!」
「分かった!」
 うおお、後ろからブンブンブンブン聞こえてくるよ。後ろは見ない。見たら気絶すると思うから。
目の前が……開けた! と同時にスイクンの背からジャンプ! 着地……失敗!
「あいたぁ!」
「わっ! 大丈夫ですか!?」
「俺はいいから! 後ろぉ!」
 ライコウとスイクンがドリフトしとる。いや、車じゃないんだからって思うだろ? でもな、急ブレーキして一気に反転するのはそう見えるんだよ。
「じゃ、任せた!」
「任された! このヤロー、驚かしやがって!」
「スピアー達を驚かせたのはあなた達でしょうが!」
「も~、早くやろうよ~」
 三匹から同時に技が放たれる。上から雷、右からオーロラビーム、左から大文字。
「ビィ!? ビイイイイィィィィ!」
 先頭のスピアーが急ブレーキ! ア~ンドUターン! ぶち当たったらヤバイと判断してくれたようだ。助かっ……んん!?
三つの技がぶつかって……爆☆発! その爆風で吹き飛ぶ俺。助かってなかったー。
「うおぁぁぁ! あいで! ……おいおい、加減しろって」
「おー、終夜無事か?」
「遅いわ!」
 吹き飛ばされた後に心配されても手遅れだ! 幸い何とも無いけど!
こいつ等の力の強さを改めて思い知ったぜ。流石のパワーだ。
「ご、ごめんなさい……」
「う~、終夜ぁ……ごめんねぇ……」
 ライコウもどうかと思うが、ここまでしょんぼりされるとこっちが気を遣うな。どうするか……。
「ここって、スイクンが言ってた小さな草原ってとこか?」
「はい……」
 暗い! 暗いぞスイクン! そんなに俺が怒ってると思ってるのかね?
「ふーん、皆疲れただろ? ここで飯にしようぜ」
「えっ! 怒って……ないの?」
「別に。助けてもらったんだし、ミュウとはしょっちゅうこんなもんだろ?」
 事実、学校の奴等に追い掛け回されるよりは遥かに楽だ。あれは拷問だよ。何度倒れても向かってくるし。
「わ~い! 終夜ありがと~! 大好き~!」
「うわっととと」
「よかった……」
「おいおい……」
 こいつ等は……抱きついたり擦り寄ったりとよくトレーナーじゃない俺にするよな。……悪く、ないけど。
「うっしゃあー! 飯ダー!」
「お前はもう少し反省したらな」
「そんなぁぁぁぁぁぁあああぁ!」
 反省の色が全く見えん! 罰だ罰!
てな訳で昼食タイム。吹き渡る風を受けながら外で食事するのはいいもんな。ゆっくり、食うとしますか。

----

 ゆっくりし過ぎたー。帰る時間を考えないで食後もまったりしたから忘れていたんだよ。
家帰ってきて冷蔵庫を開けてビックリ。理由は朝のやり取りを見てくれ。
全力で商店街へ行って買出し。休みにやらないと平日が大変だからな。ライコウに乗っては来れないし。
一週間分の食料ゲット! ……三匹の分もあるから超重い! ミュウに手伝ってはもらってるけど!
途中でスイクンが迎えに来てくれたのには助かったが、人に見られないか内心ドキドキした。……今日って、休みだった筈なのに普段より疲れたぞ。
しかーし! まだ俺は休めない! 夕食作りが待っている! 昨日は手抜きしたから今日は……とも思ったが、朝に大分頑張ったので楽した。蕎麦茹でてテキトーに汁作ってかけ蕎麦。別名さぬき……ならぬ手抜き蕎麦だ。
うおーもうクタクタだー。ソファーにダイブ。本当に疲れた……。もう一つ、やりたい事もあったんだけどな。
ん? 何か……ライコウ達が固まってもっちゃりしている。違う、何か話してる。俺に聞かれたくないのか、人の言葉じゃない。
まぁいいさ。あいつ等にだって秘密の一つや二つある。だろう! 分からんけど。
飯ももう食ってるし……眠くなってきたな。
「おーい、俺、そろそろ寝るからな。電気消してくれよ」
 一声掛けたら全員でこっち向きやがった。しかも何か驚いてる。
「ま、待った! 終夜、風呂入ろうぜ」
「ん? 疲れたし明日の朝でも……」
「いいからいいから。ほれほれ」
「お、おい? あいつ等は?」
 ミュウ&スイクンが動こうとしない。それどころか後ろ向いてる。あ や し い。
「いいじゃねぇか。たまには男だけで入ろうぜ」
「う~む……まぁいいけど、何する気だ? あいつ等」
「なななな何するって? スイクンがいるんだ。変な事する訳ねぇだろ。あはははは」
 隠し事の出来ない奴。何かあるって言ってるようなもんじゃないか。でも、確かにスイクンが何かするとは考えにくい。う~ん……。
「行かないんだったら、このまま引っ張って行くぜ」
「うお! コラッ! 分かったっちゅうの! 入ればいいんだろ入れば」
「素直でよろしい。いっくぞ~」
 だからライコウ……わざとらしいって。二匹に聞こえるように言ったらよ。
とにかく風呂へと連行された。入る。出ようとする。ライコウに止められる。このサイクルを五回ほど続けた後、ようやく開放される事となった。
時間稼ぎが見え見えだ。出ようとすると体洗ってくれー、洗ってやるーととにかく出そうとしない。三十分も粘られるとは……不覚。
「もういいだろ? 十分温まったし、体洗い過ぎてふやけちまう」
「これからまた汚れるけどな……」
「何か言ったか?」
「いや、そうだな。そろそろ出るか」
 何か言った。ぜぇったいに何か言ったぞこいつ。聞き取れなかったけど。なーにを企んでるんだ?
いいさ、別に困る事は無いだろ。こいつ等だって大それた事はしないだろうし。
「今度こそ俺は寝るからな? 二人は……もう寝たか。お前も適当な時間に寝ろよ?」
「分かったって。お休み~」
「ん」
 二匹は、リビングからいなくなってた。何だよ思わせぶりだな。ライコウも大人しかったし、気のせいだったか。とにかく自分の部屋へ行くか。

----

 俺は二度目のリビングで気付くべきだった。あのライコウが大人しい? それが異常じゃねぇか! くっそぉ……。
現在俺の時間は部屋の扉を開けた所で止まっている。それを今、解凍しよう。

「何……してんだ? スイクン?」
 部屋の間取りの変更をお知らせします。俺の部屋からベッドが消えました。代わりに、仰向けになってこっちを見ているスイクンがログインしています。どうしますか?
どうしたもこうしたもあるかー! ベッドは何処に消えたの! 何でスイクンが居るの!? 何で顔が赤いのー!
「ど、どうも」
「どうもじゃなくて! とにかく起きろ! 無防備すぎるだろ!」
 直視出来なーい! だってこう……色々見えちゃいけない所が目に付く事極まりないから!
「ベッドは何処にいったぁ! ……あ」
 部屋の隅に綺麗に解体されたベッドを発見! 壊した訳じゃないから組み立て直せば使えるっぽい。良かった~。
だが、眼前の問題が大きい。依然としてスイクンは起きる様子は無い。このままでは部屋に入れないではないか!
「何やってんだよ終夜。突っ立ってたってお楽しみは始まらないぜ? ていっ!」
 後ろ、だと! 反応が遅れてそのまま突き飛ばされる。声の主はライコウ。それしか居ない!
不味い、不味い不味い! 体勢が整えられない! 目の前には……スイクン!
「もぶっ!」
「あっ!」
 そのままダイブを決めることになった。うわ、柔らかい……お腹も……胸も……。ノーゥ! 落ち着けぇ! 早く立たねば! 煩悩にやられる!
「ご、ごめんスイク……うわぁ!?」
「離れないで……ください」
 前脚で立ち上がるのを妨害!? しかもこの状態は俺がスイクンに抱き締められてるのでは!?
「オッケ~。玄関の鍵も他の窓とかも戸締り確認してきたよ~」
「ご苦労さん、ミュウ。さてと、俺達も入りますか」
 ミュウも合流したようだ。さっきの話し合いはこれか! 俺は……見事に嵌められたらしい。部屋の扉が閉められる。ノー! 脱出不可能! 
相変わらずスイクンは放してくれない。俺はスイクンの胸に顔を埋めさせられている。スイクンの体から香る甘いような匂いで身動きする気が失せていく……。
と、思ったら強制的に体が浮いた。ミュウのサイコキネシスか!?
「いや~、驚かしてすまないな。でも、まんざらじゃあないんじゃないか?」
「こらぁ! お前等人の部屋に何をした! 何でベッドがバラされてるんだ!」
「邪魔だったから一時的に片しただけだ。終わったら直すからよ。許してくれや?」
 終わったら? 何されるんだよ! もしかして……。
「ミュウ、やっちゃいな」
「は~い、終夜ごめんね?」
「なっ、うわぁぁぁ! あーれー!」
 ふ、服がぁ、服がぁぁぁぁぁ! 基本的に家ではシャツとハーフパンツしか穿いてないからあっさりいいいいい!
「いやぁ、壮観壮観♪ いつ見ても良い肌だ♪」
「人の事ひん剥いて何を言っとるかー!」
「これもお前を……好きだからだよ」
「そうか……うえぇ!?」
 見れば俺以外の奴等全員頬が赤い! マジで?! これって、そういう事!?
あ、浮力が弱まってきた。ら不味いじゃないの! 下にはスイクン! 待ってー!
じたばたしようがどうしようもないよね。そのまま再ダイブ。直に触れるスイクンのサラサラ感が何ともくすぐったい。
冷静になってきた。こいつ等から逃げるのは非力な俺じゃ不可能だ。だが、隙はあるはず! その一瞬を逃がさず一瞬で脱出すればいいのさ!
逃げなければ……おそらく、俺はこいつ等にとんでもない事をされる!
「終夜……私達はあなたの事を好きになってしまったんです。あなたを、愛させてください……」
「待てスイクン! 俺は人間でお前等はポケ、んぐぅ!?」
 スイクンのヒラヒラッとした尻尾みたいので体を巻き取られたかと思ったら持ち上げられてそのままキス。始まっちまったよぉ~、しかも逃げられなくされて。
ケって発音してる所にキスされたからそのままスイクンの舌が俺の口の中で暴走。舐め回されて、舌同士が絡みつく。うぅ、なんかヌルヌルして気持ちわりぃ。
「俺達はな、人とかポケモンとか関係無くお前を好きなんだよ。もちろん……性別もな」
「!? !!!」
 絶対に触れない所にヌルッとした物が触れた!? ライコウ、おま、そんなとこを!?
「ライコウもスイクンもズルイよぉ~。……ミュウはこれにしよーっと。へぇ~、これが終夜のなんだ~、お風呂では隠しちゃうもんね~」
「!! !!!!!」
 極めつけに俺のあれにも刺激がぁぁぁぁあ! ミュウの小さな手が撫で回す! 止めてくれぇぇぇぇ!
喋れない、動けない、俺には今自分の体をコントロールすることが出来ない! ただこいつ等から弄られ続けるしかない。
しかも大変な事に、最初は不快感しかなかった全ての行為に対して体が反応しだしている。気持ち良く……なり始めてる! このままじゃ本当に抵抗出来なくなるってばよ!
「ふぅいくん、ん、ふぁめ……んん」
 スイクンとのキスがお~わ~ら~な~い~。口の中はスイクンの唾液と俺のが混ざって洪水ですよ。喋ろうとして口を動かす度に端から漏れるぐらいに。
後ろではライコウの執拗な攻めで鈍いじわじわっとした快感が止まる事無く与え続けられる。気持ち悪い~。でも、止められても困る~。そんな感じ。
でもって、各快感によって決壊寸前な俺の逸物をミュウは弄り回していた。ホントもう限界……出そう……。
「お~、ビクビクしてる。終夜気持ち良いんだ~。……最初のは、ミュウが貰うね♪」
 先端が、温かい物で包まれた。まさかミュウ、銜えた? 不味い、もう!
「ん、ぐっ! けほっ、けほっ!」
 限界突破……ミュウの口の中に出しちまったよ……。飲み込めなかったのか、吐き出したみたいだけど。
その様子を聞いてライコウもスイクンも一時停止。俺はぐったりとスイクンの腹の上にうつ伏せになった。
「終夜イッちゃったか~。あれだけ一辺にされて良くもった方かな」
「はぁ……」
 ライコウ、お前は何でそんなとこを……あ、風呂で体を入念に洗わされたのもこの為か! 確かに洗う所無くなったからそこもやったけど!
スイクンはスイクンでうっとりしちゃってまぁ。顔が溶けちまいそうな位トロンとした目して余韻に浸っちまってる。
俺もうギブ。頭の中がかき回されたみたいに何にも考えられない。逃げるチャンスなのに、体に指令がいきません。
「あ~……勿体無いなぁ。でも、終夜の美味しいよ。さっすが料理人♪」
 ミュウ、それ関係無い。絶対に。そして精液舐めないで。恥ずかしい。
「さ~てと、終夜も一回イッちまった訳だし、もう逃げられないだろ? 今度は……俺達も満足させてくれよ? へっへっへっへっへ……」
 YO☆MA☆RE☆TE☆TA! 不適な笑み……これはもしかして、あれかい? 俺、ポケモン固め第二ラウンド?

 スイクンが余韻から戻ってきたらしく、キスの時のようにまた持ち上げられる。今度はそのまま降ろされる。わけは無かった。
俺のモノが何かに触れたのをキャッチしました。位置的に……。
「しゅうやぁ……私と一つになって……」
 やっぱりそこかぁぁぁぁ! それは不味いってマジで! 子供出来るかとかは分からんけど、俺、初めてなの! チェリーまで頂きますと!
「俺とも……だからな」
 はぁっ!? おわっ! ライコウ!? 何覆いかぶさってんの!? 潰れるって!
「心配するなよ。ミュウのサイコキネシスでサポートしてっから。お前もスイクンも問題無し」
「おっまかせ☆」
 ……ライコウとスイクンの俺サンドが完成した。ミュウはサイコキネシスを……してんのか? どうもしてないような……。
こうなったらもう駄目だ。覚悟を決めよう。
「じゃあ、いくぜよ」
「!! はがっ!?」
「う、あああ!!」
 さっきまで散々ライコウに苛められていた所が押し広げられる! 何かが……てもう一つしかないけど、入ってくる!
と同時に重みが掛かって、俺のモノが同じスピードでスイクンの中へフェェェェーーード、イン! していく。
いったい! 穴が裂けるぅ! 止めてくれぇ! 無理だって! ペットボトルが挿れられてるみたいな太さだし!
「い……た……、あぅぅ!」
「ら……い……こう……止め……すいく……」
「スイクンだってお前と一つになりたいんだ。その為の痛み、だから我慢できる!」
 お前は挿れてるだけだから痛くないだろうが、俺とスイクンは、いてぇんだよ!
「ジワジワやるからもっと辛いんだろ。じゃあ、これでどうだ!」
「あ、がああぁぁあぁあ!」
「うあああぁぁあぁ!」
 二人同時に叫びました。身を体内から切られるような痛み。痛過ぎて気絶しそうだ……。
「……すまん!」
「すまんで済むかぁ!」
「あなたは加減という言葉を知らないんですか!」
 それまでのしっとりとした空気を吹き飛ばすのには十分な一撃だった。それほどのインパクトだ。
「うわぁ~、三人が繋がっちゃってる~」
「ミュウは何処から見てんだぁ! 見るなぁ!」
 後ろに回り込んで覗くか普通! って、あれ!? サイコキネシスって集中してないと使えない筈じゃ!?
「だって、ミュウだけ見てるなんてつまんないもん。サイコキネシスはライコウの嘘だしさ」
「嘘なのかよ!」
「いやぁ、安心させて力抜かせるならいいかな~と思って。でも、お陰で根元までずっぷりだ。気持ち良いぜ終夜」
「言うな! 言うなぁぁぁ!」
「嬉しい……終夜が、私の中に居る……」
 後ろから侵されて、前では侵して、理性が保っていられなくなりそうだ……。
「にひひひひ、まだまだこれからだ、ぜ!」
「はくっ、ううぅ!」
「あ、う、ひゃん!」
 ライコウが腰を動かし出した。抜かれて、差し込み直される度に息が詰まる。そしてその運動に連動してスイクンの中を同じようにえぐっていく。
「ライ、コウ! 激し、すぎるぅ!」
「は、う! っしゅうやぁ! うっあ! きもひ、いいよぉ! もっとぉ!」
「俺は、何も、ひて、ひゃい!」
「いいやしてるぜ~。俺のをぐいぐい締め付けてるぜ!」
 スイクンが壊れたー! 快楽の渦に飲まれたようです。涎を垂らしながら甘い喘ぎを振り撒いてる。
俺ももう若干呂律がおかしい。ライコウからの攻めが痛みから快感に変わりつつある証拠だ。何この罪悪感。俺別に悪い事してないのに。
ライコウは休み知らずに俺の中をかき回す。一瞬だった。ライコウの動きの中で一瞬、俺の中にあるこりっとしたところを通過した。
「あ! ああぁぁぁ!」
「にゃかにあったかいのがぁ! ヒャァァァァ……」
 その衝撃で本日二度目の射精。動きながらもスイクンの膣内を汚していく。ついに、やってしまった……。
「終夜またイッたか! じゃあ、俺も!」
 ライコウ止めてー! 一際グイッと奥に押し込むとか無理だから!
「はぁっ!? あぅ! うぅぅぅぅ!」
 腹の中に熱くてドロドロした物が流れ込んでくる。今しがたスイクンの中に俺が流し込んだ物と性質は同じものが俺の中を今度は汚していく……。
腹が、重くて熱い。それなのにまだドクドクと流し込まれている。苦しい……。でも……。気持ちは……良い訳あるか!
「早く……抜けよ……」
「……まだ出したりない、な!」
「ぐっ、は……」
「ひゃ、ぐぅう!」
 まだ続けるのかよ! もう、拡げられすぎて痛くも無い。体内をかき回されても、声も出ない。
スイクンも声も出せないほど喘いでいる。もうまともな事は考えてないだろうな。
「しゅうやぁ……ミュウ、我慢出来ないよぉ……ミュウにもしてよぉ」
 涙ぐんだミュウが目の前に浮いてる……。すっかり忘れられてた事がショックなのね。
もう考えるのを止めよう。ミュウが尻尾を俺の首に巻きつけた後、テラテラに濡れてしまってる秘所を近付けて来る。我慢が限界を超えてるのがよく分かる。
そこに何も言わずに舌を這わせる。ミュウが顔にしがみついてきたが気にしない。
這わせるだけじゃなく舌を中に挿れて暴れさせる。面白いようにミュウが善がっているな。
「ひゃううう! しゅうやらめぇ! しょんにゃにはやいと、みゅうがまんれきない~!」
 後ろから一心不乱に突いて来るライコウのモノも中で震えだした。俺のも限界。スイクンの締め付けも今までで一番強くなった。
最後の瞬間、全員が繋がったように一斉に達して、俺の意識は白い光に吸い込まれていった……。

----

「……ゅ……し、や。……うや……終夜」
 ん~何かに呼ばれてる? スイクンかな? 今何時だ?
あれ、時計が、無い。おかしいな。いつもベッドの横に置いてるのに。
それにこのベッドってこんなに寝やすかったっけ? なんか、生き物の上で寝てるような……。鼓動とかも聞こえてるような……。
「て! そんなベッドがあるかぁ!」
「はぅん! そ、そんなに暴れないで下さい! まだ私達繋がってるんですからぁ」
「スイクン!? 繋がってる!? は!」
 下腹部を辺りを見ると……俺のムスコが無い! 違う、スイクンの中に収納されてる!
「うわぁ! あうっ!」
「きゃん! ……そんなに急に抜かないで下さいよ」
「ごめん……。うわぁ、なんじゃこりゃあ」
 体を起こすと、俺の部屋はとんでもない事になってた。
ぐったりと横たわるライコウとミュウ。飛び散ったさまざまな液でぐちゃぐちゃの床。悲惨だ。
体は……だるい。特に下半身。酷使しすぎだよなぁ、どう考えても。
「終夜……愛してます」
「いや、嬉しいんだけどよ? まずは色々やる事あるよな?」
「そうですね。……ところで時間は大丈夫でしょうか?」
 おぉそうだ。えーっと時計時計……!!! うおー! 完璧に遅刻だー! 十一時だよ! 昼だよ昼!
「不味い! 早く準備! 時間割は……あら?」
「どうしたんですか!? 今日は平日ですよ! 休みじゃな……」
「今日も休みだ。今日、開校記念日」
「え」
 心配して損したー! なんだよ、そうか休みか。

----

「「「すいませんでしたー!」」」
 とりあえず三匹に謝らせる所からスタート。当然だよな。俺は全面的に被害者だもんな。
現在は、部屋を居られる状態に復元して、一度風呂に入って身を綺麗にした後だ。
「お前等が俺の事を好きなのはよーく分かった。だが、騙してまで事を進めようとするのはどうかと思うぞ!」
「「「ごめんなさい……」」」
 反省はしてるみたいだな。俺も、なんだかんだで結局拒めなかったし、これぐらいにしておくか。
でもな、ひとーつだけ俺がやりたい事、やらせてもらうかな。
「反省してるなら全員そこを動くなよ!」
 三匹が目を閉じてじっとしている。ぶたれるとでも思ってるのか? 俺がそんなことする訳ないでしょうに。
えーっと、三脚立てて、その上にデジカメ置いてっと。よーし、準備オッケー! じゃないや。タイマー合わせてと……よし。
スイクンとライコウの間にダッシュ! 二匹の首を抱え込む!
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
「ほれほれ、ミュウは頭の上に乗らないと写らん。早く乗りな」
「へ? あ、待って~!」
 ミュウも配置完了! キョトンとしてるが、目の前にある物は分かるだろ。
「ほら笑え~!」
 カメラのシャッター音が響き、撮影の完了を告げる。さて、どんな写真が出来たかな。
うん、確認してみたが……悪くないな。これでよしとしよう。
「あの、終夜? これは?」
「ん? 記念写真。お前等来て一年経つからな。本当は昨日撮ろうと思ってたんだ」
「そうなのかよ! なら説明してくれてもいいじゃねぇか! 俺は何されるかと思ったぜ」
「ミュウもビックリした~」
「悪かったな。ちょこっと驚かしたくなったんだよ」









 あ、後で写真立て、買いに行こう。

「よーし、部屋の掃除するぞー。片付くまで飯抜きだ!」
「「「えー!!!!」」」

 置く場所は、父さんと母さん、それと俺が写ってる写真の横。

「ほら、ライコウさぼるな! 本当に飯抜きにするぞ!」
「うえぁ! それは勘弁してくれー!」

 ようするに家族写真。その横。

「スイクン、そこの胡椒取ってくれ」
「はい、これですね。どうぞ」

 何故って? だって、この写真はな。

「ミュウ~、飯出来たぞ~」
「わ~い! ご飯ご飯~♪」

 これからも一緒に暮らして、日常を送っていくと思う、新しい家族の写真だからさ。

「では、皆揃った事だし!」
「「「「いっただきま~す!」」」」

     ~FIN~

----
後書きなり。
さてさて、大会も終わり気付けば官能部門2位となっていた今作。お読み頂いた全ての方に感謝です!
言い訳を一つさせて頂くと、時間配分を間違えましたね。後半のグダグダはその所為です。以上、言い訳でした!
----
こんな私で良ければ、コメントを……。

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