ポケモン小説wiki
信じる事(前半) の変更点


勉強地獄から解放された放課後、僕達はいつものように校庭で野球をしていた。 
「さぁ、来い!」 
僕はバッドを持って、バッターボックスに入る。軽く一回バッドを回し、構え、正面を見る。 
ピッチャーはゼニガメだ。 
ゼニガメはキャッチャーのフシギダネとサインを合わせると、大きく振りかぶってボールを投げる。 
投げられたボールは大きな放物線を描く。予想もしていなかったボールの軌道に僕は、バッドを振れないまま、ボールはフシギダネの蔦で静止した。 
フシギダネは蔦の位置を確認すると 
「ストライク」 
と、言った。 
「変化球を覚えたの?」 
僕はゼニガメに聞く。 
ゼニガメはそれを聞くなり、笑みを浮かべながら答えた。 
「そう、一生懸命練習したんだよ。ねー、フシギダネ」 
「うん」 
この二匹、急に仲良くなったと思いきや、特訓をしてたとは……。 
「そんなボール、打ってやるさ」 
僕は、ゼニガメに向かってバッドを突出し、ホームラン予告をする。 
ゼニガメは僕のホームラン予告を見るなり言った。 
「ふーん、自信満々にホームラン予告か。ピカチュウに僕のボールが打てるのかな?」 
「そんな大きな口を出せるのも、今だけだ」 
僕は一回バッドを軽く振って、バッドを構える。 
ゼニガメはフシギダネとサインを合わす。 
そして、ゼニガメは大きく振りかぶり、ボールを投げた。 
ボールは再び、大きな放物線を描く。 
……大丈夫。打てる。さっきのでボールの軌道は分かった筈だ。 
僕はバッドを思い切り振る。 
カーンッ。 
ボールは宙に舞い、ライト方向に大きく飛んでいく。 
「どうだ!」 
「なっ!」 
流石に、ゼニガメは驚いている。 
だが、ボールは風のせいか、さらに右に曲がりボールはファールのラインをきる。 
そして、ボールは森に落ちた。 
「ちぇっファールか……」 
僕は、がっくりとする。 
風さえなかったらホームランだったのになぁ……。 
「ほら、拾ってきなよ」 
フシギダネが僕に言う。 
「ああ……」 
僕達の決まりでは、ファールになったボールは基本的に打ったポケモンが拾うことになっている。 
僕はトボトボと森へ向かっていった。 



「確か……この辺だよな……」 
僕は地面を見て、ボールを探す。 
すると、急に背中に冷たい感覚がした。 
僕が空を見上げると、雨が降ってきた。 
「早く、探さないと……」 
僕は急いでボールを探す。 
だが、ボールが見つかる事は無く、雨は次第に強くなっていく。 
それに伴い、身体はどんどん濡れていく。 
「こうなったら、何処かの木で雨宿りしよう」 
僕はボール探しを中断し、雨宿りが出来る木を探す。 
だけど、どれも葉が小さくて少なく、雨が葉の間から漏れる木しか見つからない。 
このままでは、風邪を引いてしまう。 
僕は、走りながら必死に雨宿りができるところを探す。 
すると、前方に洞窟が見えてきた。 
あそこなら、暫くは凌げるだろう。 
僕は洞窟に向かって全力で走った。 



「はぁ……はぁ……」 
なんとか洞窟には入れた。 
僕は体毛を振り、水を飛ばす。飛び散った水は、辺りの地面を濡らした。 
それでも、多少は濡れたままなので寒い。僕は寒さで身体を震わせる。 
「今日はツイてないなぁ……」 
と、口が自然に動く。確かに、今日はツイてない。 
ホームラン姓の当たりがファール。ボールは見つからない。突然の大雨。何もかもが必然的の様なタイミングだった。 
でも、洞窟を見つけられたから、まだマシな方だろう。 
僕は外を見る。雨は激しく地面を叩き、雨音が洞窟まで響いてくる。雨は止みそうにない。 
いざとなったら、この土砂降りの中、家に帰るしかない。 
それよりも、洞窟の奥が、ちょっと気にかかる。奥から光が漏れているのだ。 
きっと、誰かこの洞窟に居るに違いないのだが……。 
「すみません、誰かいますか?」 
僕は洞窟の奥に向かって言う。 
洞窟なので、声が響いた。きっと、洞窟の奥の方まで聞こえた筈だ。 
すると、奥からポケモンが出てくる。 
体毛の色はピンクと白の中間で淡い色。僕よりも細くて、長めの尻尾。どうやら、空中浮遊ができるらしく、宙に浮いている。 
見る限りでは、僕と同年代だと思う。 
「少しの間、雨宿りがしたいんですけど……」 
僕はそのポケモンに言う。 
「い、いいですよ……。こんな所でよろしければ……。つ、ついてきてください」 
「此処でいいですよ。迷惑になると思いますし」 
「い、いいえ。困ったときはお互い様です。それに、そ、そこだと風邪を引いてしまいます。」 
「じゃあ、御言葉に甘えて……」 
僕は、彼女の後についていった。 



洞窟の奥は住めるようになっており、ベッドとか色々な家具が置いてある。 
ベッドが一つしかないから、一人暮らしなのだろうか? 
彼女はタンスの中からタオルを引っ張り出し、僕に渡す。 
「あの、これで身体を拭いて下さい」 
「有難う。有り難く使わせてもらうよ」 
僕は、彼女からタオルを受け取り、濡れた身体を丁寧に拭く。 
彼女は、木の実の入っている籠に向かい、何やら漁っている。 
そして、彼女が一つの木の実を手に持ちながら、僕の方に来る。 
「こ、これマトマの実です。食べると、と、とっても、身体が温まります」 
彼女はそう言うと、マトマという木の実を僕に手渡す。 
「どうも、有難う」 
僕は、彼女に御礼を言い、手渡されたマトマの実を食べる。 
すると、すぐに身体がポカポカと温まる。さっきの寒気が嘘みたいだった。 
「何だか悪いね。こんなにして貰っちゃって……」 
「い、いえ、そんなことないです」 
彼女は、うつむきながら言う。 
……緊張してるのかな?まぁ、僕は彼女からしたら、見知らぬポケモンだしなぁ。 
そういえば、まだ名前とか聞いてなかったな……。 
「そういえば、まだ僕の名前言ってなかったよね?僕はピカチュウ。君は?」 
「わ、私はミュウです」 
「ミュウ、今度、御礼がしたいから、また今度来ても良い?」 
ミュウは顔を上げ、僕と目を合わす。 
「い、いえ、御礼なんか要らないです。そんな、大したことやってませんし……」 
「でも、僕にとっては大したことなんだよ。このままじゃ、ミュウに悪いよ……」 
「……と、取り敢えず、御礼の方はいいです。でも、また、此処に来てもいいですよ」 
「本当?じゃあ明日行くよ」 
「た、楽しみにしてます」 
ミュウは笑みをこぼす。 
「やっと、笑ったね」 
「え?」 
僕の言葉にミュウは目を丸くする。 
「いや、正直、僕の事ウザったいのかと思ってたからさ……」 
「そんなことないですよ。まぁ、突然の訪問には驚きましたけど……。普段は、この辺にポケモンなんて来ないんですよ?」 
「へぇ、そうなんだ……。まぁ、僕もこんなところに家があるなんて知らなかったしなぁ」 
僕が言うと、洞窟中に響いていた雨音が止んだ。 
「あっ……雨が止みましたよ」 
「そうだね」 
そして、ミュウと僕は洞窟の入口に行き、外を見る。あんなに降っていた雨は見事に止んで、晴れていた。 
「じゃあ、僕は行くよ」 
「ええ、明日、遊びに来てくださいね。待ってますよ」 
「うん!」 
そして、僕はミュウに手を振る。ミュウも僕に手を振り、別れを告げた。 



翌日……。 
「えっと、確かこっちだよなぁ……」 
僕はミュウの家を目指していた。 
だが、場所がうろ覚えのせいか、辿りつけないという危機的状況だった。 
十年以上住んでいる土地なのに分からないとは……自分が情けない。 
行けども、行けどもミュウの家には着かない。 
「参ったな……」 
これじゃあ、ミュウとの約束が果たせない。こっちは約束を破るつもりなんてないのに。 
取り敢えず、崖沿いに歩こう。どんなに時間がかかっても辿り着かなきゃ。 
そう考えてたときに 
「ピカチュウ!」 
上からミュウの声がしたので上を見上げるとミュウがいた。 
「ミュウ!」 
ミュウは下に降りてきて地面に着地する。 
「良かった。此処にいたのですね。てっきり来ないのかと……」 
「道覚えてなかったみたいでさ……辿り着けなくて……本当に御免」 
彼女は何故か暫く黙っていた。何か考えているように。 
そして、気がついて口を開いた。 
「いや、いいですよ。早く私の家に行きましょう」 
「あ、うん、そうだね。道案内頼むよ」 
「いえ、一瞬で辿りつくので」 
ミュウがそう言うと、ミュウは僕の手を握り、目を閉じる。 
何をするつもりだろう……と、思っていると、数秒後にはミュウの家にいた。 
あれ?何でもう此処にいるの? 
そう思いながら、辺りをキョロキョロと見る。 
確かに、此処はミュウの家だ。 
「驚きましたか?」 
「うん、さっきまで外にいた筈なのに……どうして?」 
「私がテレポートを使ったんですよ」 
「テレポートが使えるの?いいなぁ、僕も使えたらなぁ……」 
「でも、私の場合は、物質が複数の場合は、私がそれらに触れていないと効果が発揮できないんですけどね」 
「あっ、だから僕の手を握ったんだ」 
僕がそう言うと、ミュウは頬を赤く染め、僕の手を離す。 
「ご、御免なさい。ピカチュウの許可も無く、いきなり手なんか握って……」 
「いや、気にしなくていいよ。貴重な体験が出来たしさ」 
「そうですか……。それを聞いて安心します。今からお茶を出すのでベッドに座って貰えますか?」 
「わかった」 



「おまちどうさま」 
ミュウはお茶の入ったコップを僕に手渡す。 
「有難う」 
匂い、色と共になかなか良い。 
僕はお茶を飲んでみる。 
「……うん、とっても美味しいよ」 
「そう言って貰えると、とても嬉しいです」 
ミュウは笑みを浮かべ、答えた。 
「何か淹れるコツでもあるの?」 
「いえ、本で読んだとおりにしただけですよ」 
「あの本の数のとおり、本が好きなの?」 
僕は本棚を指しながら言う。ミュウの家には本棚もあり、本は軽く千冊以上ある。 
「ええ、私は読書が大好きなんですよ」 
「そうなんだ。僕はどっちかというと身体を動かしてる方が好きだから、読書はあまりしないんだよなぁ……。 
本をあまり読まないポケモンでも読みやすい本ってある?」 
「それだったら……」 



その後、色んな本を紹介してもらったり、ミュウと雑談をした。 
ミュウと過ごす時間はとても楽しく、別れを告げるのが惜しかった。 



そして、僕は来る日も来る日ミュウの家に行った。 放課後、友達とも野球をしないで。 
友達に何でしないの?と聞かれても、読書に目覚めたから、と、言ってミュウの事は教えていなかった。 
だってミュウは……。 




とある日の事……。 
「そういえば、ミュウは何処の学校行ってるの?」 
僕の言葉で、ミュウは黙りこみ、表情は暗くなった。 
「御免、聞いちゃいけない事だったみたいだね……。さっきの言葉は忘れて」 
そして、沈黙の間……。場は気まずい雰囲気に陥る。 
どうにかしなくちゃ、と、思っていたときにミュウは沈黙を破った。 
「……いえ、いいんです。ピカチュウは私の事を知りたいんですよね?」 
僕は首をコクリと、ゆっくり縦に振る。 
「……じゃあ、私の手を握ってください」 
ミュウは僕に手を差し出す。 
僕には彼女が手を差し出す理由が分かる。それはテレポートをするためだ……。 
ミュウは僕を何処に連れて行くつもりなんだろうか? 
僕はミュウの表情を見る。ミュウの表情は楽しくも哀しくも無い、無表情。 
この手を握った方が良いのか、握らない方が良いのか……。 
僕は覚悟を決めて、目を瞑ってミュウの手を握った……。 



次に目を開けると、周りには木の実の樹が沢山あった。 
何故だか、ミュウが隣には居なかった。 
僕は後ろを振り返る。 
「うわっ!」 
僕は驚いて尻餅をつく。目の前が崖だったのだ。僕は落ちない様に下を見ると、 
村が確認できたが、僕の住んでいる村じゃなかった。此処は何処なんだろう……。 
僕は後ろに後退し、崖から離れる。そして、振り向き、木の実の樹の方向を見る。 
ミュウは何の為に此処に連れてきたのだろうか?僕はそう思いながら先へと進む。 



進んでいる時に気付いたのだが、これらの木の実の樹々には、 
ミュウの家にある木の実の籠に入っている木の実がすべて成っていた。 
これはどういう事なのか?まさか盗んでいるのでは? 
いや、そんな訳無い。ミュウがそんな事をする筈が無い。 
どんどん、疑問が募る。先には草原が見える。そこに行けば何か分かるかもしれない。 



草原、と、言うよりは荷が重いような気がする。確かに草原なのだが……。 
一ヶ所にまとまって沢山の木材、窓硝子などが粉々に砕け散っていた。 
恐らく、ログハウスが建っていたのだろう。 
そして、その隣には……ミュウがいた……。十字架の墓石の前に。 
僕は歩いてミュウに近付く。僕が歩く度に草を踏む音が響く。それ程、此処は静寂だった。 
「お父さん、お母さん、あの子がピカチュウだよ」 
ミュウが墓石に向かって言っている言葉が聞こえた。 
そして、僕がミュウの隣に立つと、ミュウは僕に向かって微笑んだ。だけど、どんな反応をすれば分からなかった。 
取り敢えず、僕は墓石に向かって言った。 
「始めまして、こんにちは。ミュウのお父さん、お母さん。僕がピカチュウです」 
そして、お辞儀をする。 
ミュウは再び、墓石に向かって言う。 
「ね?私の言ってたとおり真面目なポケモンでしょ?お父さん、お母さん、私、ピカチュウと話すことがあるから、少し離れるね」 
そして、ミュウは墓石から離れる。 
「失礼します」 
僕は再び、墓石にお辞儀をしてミュウを追う。 
ミュウはログハウスの跡地前に座ると、続いて僕も隣に座った。 
適度に冷たく、乾燥した心地よい風が吹き、草や木の葉を揺らせ、この場をザワザワと響かせる。 
だけど風はすぐに止み、再び静けさを取り戻すと、彼女は口を開いた。 
「私のお母さんは、私が生まれて間も無く死にました。 
だから、私はお母さんの事はよく知りません……。写真で見たことがあるだけです……。 
だから、お父さんが私の面倒を見てくれました。私はいつもお父さんにくっついていて……。 
お父さんは私にとても優しくて……あっ、でも、私がいけない事をしたら、ちゃんと怒ってくれましたよ。 
あと、毎日、毎日、私に絵本を読んでくれたりとか……」 
ミュウが僕にお父さんの事を説明してる時、ミュウはとても嬉しそうな表情をしていた。 
それほど、お父さんが好きだったのだろう。 
「……でも、私のお父さんは病弱だったんです。ずっと、無理をして私の面倒や樹達の世話をしてたんです。 
そして、樹達の世話をしてたときに倒れて……。とっくに許容範囲を過ぎてたんです。だけど、私の前では何時も元気で……。 
私は直ぐに村の病院にテレポートして、お父さんを診て貰おうとしました。 
でも、医者は私の事なんか無視して、お父さんを診ようともしませんでした……。 
そして、私のお父さんは死にました。村の皆に見殺しにされて……。 
なんでも、私の両親は駆落ち夫婦で外部から来た余所者だったから、村の皆には嫌われていたそうです。 
お父さんが死んで、身内もいなかった私は村のとある民家に引き取られました。 
最初の内は皆、私に優しくしてくれましたけど、暫く経つと、私は奴隷のように扱われました。 
田畑の手伝いを大人並に手伝わされ、駆落ち夫婦の子供はゴミと同然だ、と、言われながら暴力を受けて……。 
私には自己再生が使えたらので傷跡は残りませんでしたが、心の傷跡は癒えませんでした。 
その為……誰も信用出来なくなりました。頼れるのは自分だけだ、もう誰とも関わりたくない、と、思うようになりました。 
自殺しようと思ったときもありました。だけど、折角、お母さんから授かった命を無駄にしたくはありませんでした。 
そして、私がとった行動は一つ、この村から逃げることでした。 
今、私の後ろにあった家を壊して、お父さんとお母さんの形見の千冊以上の本と一緒に逃げました……。 
そして、今、住んでいる洞窟で私は孤独に住んでいるという訳です……」 
彼女が言い終えると、風が吹いた。だけど、この風は冷たくて、僕は寒気がした。 
「……寒くなってきましたね。帰りましょうか?」 
ミュウは心なしか冷たく言う。それとも、僕の気のせいなのだろうか。 
「……うん」 
僕が答えると、再び、冷たい風が吹いた。 




ミュウはあの日、誰とも関わりたくないと言った。 
だから、僕はミュウの事を学校の皆、村のポケモン達、姉、両親でさえも話していない。 
僕の心に引っ掛かっていたものがある。それは、他人は信用出来ないというミュウの言葉……。 
この言葉が本当なら、僕は信用されていないという事になる。それは、僕にとって、何より悲しい事だ……。 
でも、ミュウの言葉は矛盾しているんだ。その証拠に僕の手元にはミュウの本がある。 
正確には、ミュウの両親の物で、さらに形見でもある。 
ミュウが僕に自分の事を話す前に、ミュウが貸してくれた物だ。普通、形見の物を信用していない者に貸す訳がない。 
……ミュウは僕の事信用してくれてるのかな。 



ミュウが自分自身の事を僕に話してからも、ミュウは以前と変わらぬ様子でいる。 
それはそれで、良いことだけど、やっぱりミュウの本心が知りたい。僕の事どう思っているか……。 
僕は放課後、何時も通りにミュウの家に行った。ミュウが貸してくれた形見の本を持って……。 




「いらっしゃい、ピカチュウ」 
ミュウは何時も通りに出迎えてくれた。 
「……うん、御邪魔するね」 
「どうぞどうぞ」 
ミュウに招かれ、僕はミュウの家に入った。 



僕はミュウのベッドに腰を掛ける。ミュウは僕の隣に腰を掛ける。 
「その本、読み終わりましたか?」 
ミュウは僕の持っている本に指を指しながら言った。 
「……まだなんだ。丁度、半分読み終わったところ」 
「ピカチュウのペースで読むといいですよ。本を返すのは何時でもいいのですから」 
「……うん、有難う」 
「お茶を淹れに行きますね」 
ミュウは、ベッドから降りると、お茶を淹れにいく。 
僕は独りベッドに取り残された。 
駄目だ……。ミュウに聞かなくちゃいけない事が聞けない。 
言葉にしようと思っても、言葉にならない。だって、この関係が崩れるのが怖くて……。 
胸が苦しくて、苦しくて、たまらなかった。精神的にも、肉体的にも。 
呼吸はしている。だけど、酸素が肺に入ってないような気がした。 
「はぁ……はぁ……」 
僕は酸素を吸う為、呼吸する速度を上げる。 
だけど、どんどん苦しくなるばかりだった。 
目の前のものがどんどんぼやけていく。死ぬんじゃないかと思った。 
いや、いっその事、死んで楽になったほうが良いかも知れない。 
所詮、僕は、彼女から信用されてない奴なんだ。 
だったら、僕は彼女の友達でも何でもない。赤の他人だ。 
そして、彼女がお茶を持って僕の方に来る。ぼやけてて、彼女の体の色ぐらいしか分からない。 
彼女が僕の方に近付いてくる度に、どんどん目の前が暗くなっていく。時間は余り無いらしい。 
でも、最後ぐらい言わせてくれたっていいだろ? 
「だいっ……すきだ…ったよ……」 
もしかしたら、彼女には届かないんじゃないかと思うくらいの小さい声で。苦しくて、このくらいの大きさでしか言えなかった。 
別に、彼女に届かなくてもいい、言えただけで充分だ。 
完全に目の前が真っ暗になると、僕は倒れた。 
倒れるときに何か割れたような音がした……。 



僕は気が付くと、誰もいなくて、一点の光も射さない、真っ暗な空間にいた。 
死後の世界だと、僕は感じた。 
皆はお花畑とかイメージするけど、実際はこんなにも空しいものだ。孤独で、闇に包まれているだけ。 
僕はもう戻れない。死前の世界に。 
まさか、父さん、母さんより先に逝くはめになるとは予想外だったな。 
そう、思ったときに、頬に滴が落ちる。 
可笑しいな。僕は泣いてなんかないのに。大体、此処では僕の肉体は存在しない筈なのに。 
また、僕の頬に滴が落ちる。 
雨でも降っているのだろうか?いや、こんな空間では雨なんか存在しないはずだ。 
それに、雨が降っていたら、耳か頭が真っ先に濡れるはずだし、雨にしても冷たくない。 
頬に落ちた水はぬるかった。まるで、涙のように。 
きっと、誰かが泣いているんだ。その涙が、たまたま此処まで届いただけ……。 
……でも、僕の死によって、誰かが悲しむぐらいだったら、まだ生きたい。皆には、笑ってもらいたい。……彼女にも。 
すると、暗闇の空間に一点の光が射した。小さくて、すぐに消えそうな位の光。 
僕は光に向かって歩いた。

IP:114.165.31.55 TIME:"2011-12-12 (月) 19:51:07" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E4%BF%A1%E3%81%98%E3%82%8B%E4%BA%8B%28%E5%89%8D%E5%8D%8A%29" USER_AGENT:"Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.0; Trident/4.0; YTB730; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; Media Center PC 5.0; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30618; YTB730)"

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