#include(第十六回短編小説大会情報窓,notitle) 伝わらない。こんなに近くにいるのに。ずっとそばにいたのに。 伝わらない。まだここにいるってことが。消えたわけじゃないってことが。 泣いてる主人を慰められない。亡骸を抱える主人に何もしてやれない。一緒にいた時間は同じなのに、気付いてもらえない。その亡骸は俺で、俺もまた、その亡骸だということに。 俺は死んだ。虫ポケモンの寿命は短い。でも、俺はここにいて、自分の死を見ている。片割れに乗り移った? そうじゃない。俺はもともと1匹で、進化することで2匹になった。また、1匹に戻っただけだ。 ここにいるんだ。まだ、俺はここにいる。伝わらない。一緒に旅した時間も、勝ち進んできたバトルも、覚えてる。ただ、その体が朽ちるのが、この体よりも早かっただけ。今まではスピード勝負だった。でも、これからは新しい戦い方をすればいい。 伝われ。まだここにいるって。伝わってくれよ。こんなに感情的になっても、涙も出ないし声も出ない。言葉が話せたらどんなに良いか。 振り向いた主人を見て確信した。俺に向けられていたあの眼差しは、もう俺には向けてはもらえない。なんでお前が生きていて、コイツは……と言わんばかりの主人に、たったの1の体力が、削られたような気がした。