ポケモン小説wiki
人魚姫 の変更点


えっち小説です。それはいかんよ。と思う人はバックバック。
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「と、言うわけで人魚姫は愛する人を想い、泡となって消えてしまいました。というお話です」
水面がきらきらと光る美しい泉の中央で、三匹のポケモン達が集まって何かを話し合っている。周りには透き通った水晶がいくつも伸び、水面に輝く光を反射して、周りを明るく照らし出している。
「凄い!なんて悲しいお話なの!?人魚姫が可哀想過ぎるよ!!シフォン!この話ってこれで御仕舞い?やまなしおちなしいみなし!?」
「落ち着いてください、ロール。これはこういうコンセプトで、聞いた人の頭の中に鮮烈なインパクトを加えて、聞き手にも読み手にも感情を与えるように仕向けた下らない童話の一つなんですよ。まぁ、感情ポケモンである貴方なら感情移入してしまうのも分かる気はしますけどね…」
「それ、ちょっとひどいんじゃない?僕だって感動したし、シフォンがわかりやすく話してくれたから、僕たちそのお話に感情移入できたんだよ?なのにあげるだけあげておいて、思い切り叩き落すなんて、マスコミみたいなことするのやめなよ」
一匹のポケモンがうんざりしたようにシフォンと呼ばれたポケモンに諭すように話しかける。薄がりの中から水晶の光と泉の光が混ざり合い、三匹のポケモンをうっすらと映し出す…
二尾の尻尾に、同じような体系に同じような体つき、色は黄色、ピンク、紺色。カラフルな色が集まっている。黄色のポケモンは先程話をしていたポケモンで、いかにも理知的といった雰囲気が漂ってきている。そのポケモンの名は、知識ポケモン、ユクシー。もう一匹のポケモンは、先程ユクシーの言った物語に感動していた感情表現がとても豊かなポケモン。そのポケモンの名は、感情ポケモン、エムリット。最後にユクシーにきつい一言をずばりと言い放ったポケモン。一度言ったことは断として曲げない強い意思の光を、その瞳に宿していた。そのポケモンの名は、意思ポケモン、アグノム。
ユクシー、エムリット、アグノム。この三匹は、世界を創生した神話伝説の時代に生まれた神、アルセウスが使いのものとしてこの世に生み出した、いわば特殊なポケモンである。
その神々しくも神聖な三匹が、お話の賛否についてあれこれと議論を交わしていた。
「私は知識をつかさどるものです。ですから、どんな風に読めば相手の感動を誘うことができるなんてお手の物ですよ?」
「それでも私は感動したの!!どうしてそんなに冷めた返答しかできないのよ!!」
「それは貴方の感情抑制装置が壊れているだけですよ。私はごく普通に返答しています」
「意味分からないよ!!」
ユクシーとエムリットはお互いに不毛な言い合いを続けている。そこに割って入る第三者の意見。
「シフォン五月蝿い。ロールはもっと五月蝿い。面白かった。これでいいじゃない?どうしてそうそのお話に拘るのさ??」
きっぱりと言い切ってからジャガイモで作ったチップスを摘んでぱりぱりと食べ始める。シフォンと呼ばれたユクシーも、ロールと呼ばれたエムリットも、アグノムの姿をじっと見ていた。
「……何?何でそんなに僕を見るの?」
「エクレア…それ、いつ作ったの?」
「さっき。火は僕が生み出せるし、ここの洞窟から出てちょっと進めば、油もジャガイモもあるしね。あとは適当な鉄から適当な鍋を作って、ジャガイモ切って油に入れるだけ、めんどくさいけどおいしいよ」
エクレアと呼ばれたアグノムはそっけなく言ってから、もう一度チップスを摘んで口の中に放り込む。ぱりぱりと小気味のいい音が聞こえてきて、程よい塩の臭いが、シフォンとロールの食欲をそそる。
「えっと、エクレア?」
「その…」
「んあ?どうしたの?」
シフォンがもじもじしながら口ごもる。ロールもエクレアを見るが、その目線は完全にエクレアの隣にある大量のジャガイモチップスに向けられている。エクレアはそれが分かっているのだろう二人を一瞥することもなく、きっぱりとこういった。
「喧嘩してるからあげないよ」
エクレアはそっけなく言ってからぱりぱりとチップスを口の中にほお張る。数秒は我慢していた二人だったが、やがて同じタイミングでエクレアに頭を下げた。
「わ~!!エクレア!!ごめんなさい!!」
「私たちが悪かったです!!」
二人がぺこぺこと頭を下げてエクレアに謝る。エクレアはしばらく黙っていたが。無言でチップスの山を指差した。
「やたっ!!」
「ありがとうございます!!」
「がっつかないでよ」
さりげなく警告したが、二人は聞いていなかったようで、すぐに手を伸ばしてジャガイモチップスをほお張り始めた。エクレアはやれやれとため息をついて、何事もなかったかのようにチップスを摘んだ。澄んだ風がひゅうっとふいて、洞窟内をふわりと喚起する。伝説のポケモンがたむろしている洞窟の中は、あっさりとした塩の臭いとジャガイモを上げた油の臭いがぷーんと漂っている。伝説のポケモンにしてはやけに庶民的な三人だったが、三人はそんな生活を特に嫌いとも思っていなかった。起きたいときに起きて、食べたいときに食べる。そして眠たくなったら眠る。只の食っちゃね状態だが、三匹はそれでも今の生活に充実感を感じていた。
今日も、三人は平和を楽しんでいた…
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三匹がいる洞窟から遥か彼方まで離れた海の底で、三匹のポケモンが動いていた。
一匹のポケモンは不機嫌そうに頬を膨らませている。そばにいる二匹のポケモンは困った顔をしてそのポケモンの機嫌をとっていた…
「王子…いい加減むくれるのはおやめください。もうここから抜け出そうという考えもおすてにおなりください…只でさえわれわれが貴方の行動に手を焼いているというのに…」
「うるっさいな!!人の楽しみを邪魔する側近の言うことなんて聞けるわけないだろ!!」
「王子…ですが…」
「あーもー!!ラムネ!!ソーダを押さえておいて!!お小言聞くなんてもう真っ平だよ!!」
ぎゃあぎゃあと言い争いをした挙句、王子と呼ばれた小さなポケモンは、水を大きく蹴ると、深海の更に奥まで潜っていってしまった。
「王子!!」
「駄目ですよソーダ。王子の命により貴方を拘束します」
「こら!!離せラムネ!!離さんか!!ああ!!王子!!お待ちください!!王子ー!!!!!」
二匹のポケモンはぴったりとくっついて、そのうちの一匹は王子のことをまだ叫んでいた…
「ふん、全く、うるさいんだよソーダのやつは…」
静かになった深海の中で、王子と呼ばれたポケモンの姿がゆっくりと浮かび上がる。
澄んだ水色の体に、瞳の上にある金色の色。栗尾根を連想させる体つきに、頭についた一対の触手。胸部についた赤い宝石のような器官…そのポケモンの名は――マナフィ
俗説、伝説でしか知ることができない希少ポケモンと呼ばれ、一説の中には海の王子と呼ばれるポケモンだった…実際、マナフィは王子だった。側近二匹に加えて、遥か深くにある大きな宮殿に住んでいる。そこにはたくさんの水ポケモン達が住んでいて、全員マナフィに忠誠を誓ってくれている。それがマナフィには面白くともなんともなかった。
「はぁ、もう少しで陸地に上がれると思ったのに、裕福な生活、大きな宮殿。信頼できる側近たちその他もろもろ…そんなの、要らないよ…」
マナフィは深海の奥深くにある淡い光に向かっていく…近くまで来たとき、それの姿が浮かび上がる。とても大きな鏡だった。金色の枠に飾られていて、鏡は七色の光を放っている。マナフィは鏡の前に立つと、こういった。
「我、海面界鏡に命ず。我が声を聞きいれよ。我が名はサワー。我、マナフィの血族において命ずる。海面界鏡よ、陸地の世界を映し出せ!」
サワーと名乗ったマナフィが、七色の鏡に手をかざした瞬間。鏡が優しく光り、鏡に土と緑が映し出された。
「わあ!今度は洞窟が映し出された!!凄いや…いったいどんなポケモンが住んでいるのかな…」
サワーは瞳を輝かせて鏡面を食い入るように見つめている。しかし、それに気を取られていて、後ろから迫る気配に気付かなかった。
「王子!!」
「うわぁっ!!?」
後ろからがっしりと掴まれて、サワーは身動きができなくなった。後ろを振り向いて、うげっと顔を顰める。サワーが最も会いたくなかったポケモンに出会ってしまった。
「ソーダ!?どうしてお前がここにいるんだよ!?ラムネが抑えていたはずじゃあ…」
「あいつの弱点を知っているのが王子だけだと思いましたか?わき腹をこちょこちょしたら潔く開放してくれましたよ」
「なっ!?脇腹こちょこちょは僕が初めて知ったのに!!何でソーダが知ってるんだよ!?」
「言い訳して逃れようとしても無駄ですよ。全く、海面界鏡をこんな下らないことに使うなんて…」
ソーダと呼ばれた側近の言い方に、サワーはむっっとして反論した。
「下らなくない!!ソーダに何がわかるんだ!!」
「分かりたくもありません!!さあ、宮殿に帰りますよ!!」
「いーやーだー!!!はーなーせー!!」
「わがままを言わないでください!子供ですか貴方は!?」
「子供だよ!!離せっ!!」
「いけません!!」
「くっそー!!いつか仕返ししてやるー!!」
サワーはぎゃあぎゃあと喚きながら、ずるずるとソーダに手を引かれて、水の中にある大きな宮殿へと引きずられていった…
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一方そのころ、洞窟の中ではシフォンが新しいお話を二人に聞かせているところだった…静かな洞窟に反響するシフォンの声、二人は息を呑んでシフォンの話を聞いていた。シフォンは時には陽気に、時には怒りを込めて、時には哀愁を込めて話を分かりやすく進めていく…
「そこで灰かぶりは言いました…「お母様…どうか私をお救いください…」。するとどうでしょうか?なんと小さく純白の羽に包まれた鳥がやってきてこういったのです…「いい豆は籠の中に…悪い豆は暖炉の中に…」…」
「…………そ、それで?」
「続きは?」
ロールはごくりと生唾を飲んで続きを催促する。エクレアは純粋な興味から続きを催促した。シフォンは一呼吸おいてから、静かにこちらを見ている二人を手で制すると、小さく短く、こういった。
「続きはまた明日。今日はもうこれで御仕舞いですよ」
シフォンがくすりと笑って、左手を顔の前で数回スライドさせる。これはシフォン独特の信号のようなもので、続きは明日。という意味を示す。その不思議な仕草を見たロールはがっかりとして頭をうなだれた。エクレアはこくりと頷いて。適当に作った銅鍋から何かを作り始めた…じゅわぁっと油が飛び跳ねる音が洞窟に反響し始める。エクレアは納得しているようすだったが、ロールは納得できていないようだった。シフォンは恨めしそうな瞳で見つめるロールの顔を見て、困ったような顔をした。
「そんな顔をしないでくださいよ、ロール……いくら私でも一日中しゃべっていては疲れてしまいます。一応私たちもポケモン、生体機能は他のポケモン達と何ら変わりはありませんゆえに、喋り続けると疲れてしまうというのもまた心理です。ですから、今日のお話をよく覚えておいてください。続きを考える楽しみが増えるでしょう?」
「私は考える力がシフォンより疎いんだって。貴方みたいな天才じゃないから、貴方のお話の続きが聞きたいのに…お預けなんてひどいよ…」
ロールが泣きそうな顔をする。その泣き顔が嘘泣きならシフォンも軽く流して御仕舞いにできるのだが、それが本気で泣いているのだからしゃれにならないな。と、シフォンは心の中で小さく呟いた。
「ああ、ごめんなさい。ですが、私がお話を全て話してしまったら。話す物語がなくなってしまいます。私の知識も無限ではありませんので…今日全て喋ってしまったら、今度は私は何を話せばいいのか分からなくなってしまいます。ですから、あまり催促しないで、いい子にして続きを待っていてくださいね?」
シフォンがロールの頭を優しく撫でる。ふわふわとした指の感触に泣き止んだロールは、「絶対だよ?」と催促すると、シフォンの横に寝転ぶと、くぅくぅと穏やかな寝息を立て始めた。エクレアはいつの間に完成したのか、油ぎらぎらの肉の丸焼きに齧りつきながら、シフォンに問いかけた。
「シフォン、君のお話っていくつあるの?」
「おおよそ三億五千八百万と二千六百四十六あります」
「多っ」
エクレアはあきれつつも苦笑して、肉にしゃぶりつく。肉汁がぼたぼたと零れ落ち、ジューシーな匂いが洞窟いっぱいに充満する。シフォンは顔を少しだけ顰めて、エクレアに注意した。
「エクレア、もう少し行儀よく食べることはできないのですか?…私が見ている限り、あなたは何かと食事をするときに限ってはぽろぽろこぼしたり、ぼとぼと落としたりしているような気がするのですが…」
エクレアは少しだけむっとしたような顔をしたが、すぐにもとの顔に戻ると食事を再開する。シフォンが見ている限り、エクレアは何かと見るとものを食べている。三匹が食べる食事係もエクレアのため、文句を言うことはないのだが、綺麗好きであるシフォンにはどうしてもエクレアの行動は解せない感覚があった。そんな考えが顔に出ていたのか、エクレアがくっくっと小さく笑うと、話題をさくりと変えてきた。
「僕のことはどうでもいいよ。それよりシフォン、どうしてロールにそんな嘘をつくのさ?三億ちょっともお話を持っているんならさ、一生かかっても語りつくせない量の情報じゃない。別に物怖じする必要性ないと思うんだけどな…そこのところに僕は非常に興味があるんだけどな~」
エクレアの的確な言葉に一瞬だけシフォンの動きが硬直した。全く持ってその通りだ。三億ちょっとも情報があるというのなら、別に物怖じする必要性がない。さっさと話し続ければ、ロールもいつかは眠たくなって寝てしまうだろう。しかし、シフォンはそれをすることはなかった。
「確かにそうかもしれません。私がロールに言ったことの大半は嘘ですよ。三億ちょっとのお話を私は一字一句間違えることなく伝えることができます。……ですが、私のお話を聞いても面白いと感じるだけで、御伽話や冒険談に記された新の意味を知ることができなくなります……」
エクレアがいぶかしげな顔をしてシフォンに問いかけた。真の意味とは何なのか。そう問いかけたら、シフォンは穏やかな笑みを浮かべるだけだった。
「よく考えてくださいエクレア。ロールよりも貴方のほうが考える力や頭の回転は速いでしょう?」
「それ、一言で言うとロールを馬鹿にしてるってことになるから言わないほうがいいよ?僕としてはその言葉、凄い不愉快だ…まるで君が頭がよくて、僕たちの頭が足りていないって感じだね…そこはどう考えてるのさ、シフォン」
エクレアがきっぱりと言い放つと、シフォンはため息をついてやれやれというばかりだった。洞窟内にはロールの寝息が反響するのみであり、それだけに二人の会話は自然と大きな声になっていった。
「それは誤解です。私は兄弟同然に育ってきた貴方たちを馬鹿にする気持ちなどこれっぽっちも持ち合わせておりません。私が言いたいことはですね、…そうですね、なんと説明すればいいのでしょうか…たとえば子供と母親がいたとします。子供は母親からいろいろな冒険談を聞かされて育ってきました。さて、子供が大きくなったら、その子供は何をしようと思いますか?」
いきなり問いかけられたシフォンの不思議な問いに、エクレアは首を傾げて考えた。しばらく思案顔になって考えた結果、一つの結論を弾き出すに至った。
「その子供は多分、自分も冒険談のようなことをしてみたいと思うだろうね。でもそれはあくまでその子供の精神年齢が子供のままだったときの仮説に過ぎない…精神年齢が何かの誤作動でもし異常に発達した子供だったらそれを面白がるだけかもしれない……違うかな?」
エクレアの問いに、シフォンは正解をした子供をほめるような顔をして、小さく頷いた。
「大当たりです。そして、ロールは多分その子供の中に入るでしょう。このままいろんなお話を聞かせたら、きっと何処かに冒険に行きたいという探究心がうずいてしまうかもしれない…それを抑えるために、ゆっくりゆっくりお話の続きを伸ばすようにしているんですよ……外は危険がいっぱいですし、我々三匹はここを離れるわけにはいかない。そうでしょう?」
「そうかもね」
エクレアは短く言ってから、食べ終わった口周りを腕で拭いてから、ごろりと横になる…天井を見上げて、静かに物思いに耽る。
その行動、無駄だと思うけどな…シフォン。僕たちはいつまでも一緒にいられるわけじゃないんだ……いつかは離れるときが来るんだ。だからそれを引き伸ばせば伸ばすほど、僕たち三匹の別れがつらくなるんだよ…
そんなことを考えながら、どうせ行動するのが好きなロールのことだ…そのうち「外に出てみたい」って言って聞かなくなるんだろうな。と、思いながら、まどろむ意識の中に飛び込んだ…
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「外に出たいなぁ…あ~…でたいなぁ…」
透き通った海の中で、一匹のポケモンの不機嫌な声が聞こえる。そのポケモンは水中に存在している宮殿で、豪華な玉座に居心地が悪そうに座っている。
「我慢してください王子。あなたは全ての海をすべる王になる存在です。亡き先王の頼みを聞き入れるのが我ら側近の勤め、そのためには王子の心が満たされるならばどんなことでも致す所存故に、この宮殿内で王子の心を存分におやすめください…」
「だったらこの玉座何とかしてよ。ごつごつして座りにくいし、お尻が痛いんだけど…」
むすっとした顔の――マナフィのサワーがべしべしと玉座を叩いた。しかし、側近であるソーダは首を横に振った。
「それはなりません」
「全然僕の言うこと聞かないじゃん!!何が何でもするだ!!全然何でもできないじゃん!!」
サワーはいきり立ってソーダに食いついた。ソーダが困った顔をしてもう一人の側近――ラムネに助けを求めるような顔を見せたが、ラムネは顔をほんのりと紅潮させるだけで、ぷいっと知らん振りを決め込んでしまった…
「おい!酷いぞラムネ…私が困っているというのに、お前は幼馴染を困らせて楽しむのか?」
「あんな破廉恥なことをする幼馴染など、私には持ち合わせておりませんので…」
「わき腹をくすぐっただけだろう!!」
「女性に対してあなたは無頓着すぎるのですよ…カイオーガのくせに…変態ですね」
ラムネはぷくっと顔を膨らませてソーダと顔を合わせるのを頑なに拒んだ。地上から射す太陽が一瞬だけ届き、宮殿内を照らし出す…
大きな体に青色をまとい、悠々とたたずんでいるその姿は、見るものを圧倒する威圧があった。体に刻まれた赤色の模様がぼやぼやと点滅して、周りをうっすらと照らしている…カイオーガのソーダが、ラムネに反発するように子供の反論を口出した。
「私は変態ではない!!そんな風に考えるお前のほうが変態だろうが、全く、ルギアともあろうものが、はしたない……恥を知れ恥を!」
ソーダが大きな鰭とも手ともいえるものの人差し指と思われるものを突き出して、ラムネを叱りつけた。
純白の体に柔らかな羽毛のようなものに包まれている。緑色の瞳は見るものの心を吸い込んで放さないような、妖しい魅力を放っている…海の神様と祭られて崇め奉られるルギアという種族のポケモンであるラムネは、ソーダのふざけた反論に、こめかみをひくひくさせながら、きわめて低い声で物覚えの悪い子供を諭すように、ゆっくりと毒を吐いた…
「私は、はしたなくは、あ・り・ま・せ・ん!!ソーダのそういう偏見のせいで、王子が困っているのが分からないのですか?全く、体だけでなく頭も筋肉なのですか?」
「お前は頭に余分な知識をつめすぎているようだな。その無駄な知識を捨てて一度頭の中を空っぽにしたらどうだ?少しはものの考え方が変わって視野が広くなるかも知れんぞ?」
「余計なお世話です。頭でっかちの貴方に言われる筋合いも了見も権利も理由も理屈もありません。貴方こそそのせんべいみたいな固い頭を少しは柔らかくしたらどうなんですか?そんなことだから王子に嫌われるのですよ。全く王子の従者とあろうものが…嘆かわしいことこの上ないですね」
「何!?そういうお前こそ――」
「何ですか!?そういう貴方こそ――」
二人はぎゃあぎゃあと不毛な問答を繰り返しては下らない口喧嘩を延々と続けている…サワーはそれを見ていてうんざりしたような顔をすると、「ちょっと席を外すから、後よろしく」と、その辺りにいたマンタインにその場の収拾を任せて、再度海面界鏡が安置されている海のそこへと大きく泳いで進んでいった……残されたマンタインは困った顔をして言い争いを続ける二匹の神様を見て深いため息をついた。
「ふぅ…海面界鏡…僕の見たいものを映して…」
海色の鏡の前で、サワーはそっと念波を送る。すると、鏡面がぐらりと歪み、陸地が映し出された。そこにはいろいろな木々が生い茂り、美しい空がどこまでも広がり、ポケモン達が笑いながら行きかう姿が映った…それを見てサワーは益々ため息をついた。はあっとついたため息も、海の中では気泡に変わってしまう…
「陸に行ってみたいなぁ…どんなところなんだろう…何があるんだろう……どんなポケモンが住んでいるんだろう…」
サワーはかなわない思いをため息につめて吐き出しては、物欲しそうな瞳で鏡面に映し出される陸地を眺めていた…そうしているうちに、無意識に手が鏡に伸びる。はっとして慌てて手を引っ込めると、自嘲気味に微笑んだ。
「何やってるんだろ、鏡に触れたくらいで陸地にいけるはずないのに…でも、この鏡は本当に不思議だな…どうして見たいものや思うことが映し出されるんだろ?」
サワーは難しい顔をして鏡を見ていたが、何かを考えても特に何かが変わるわけではないので、むなしいことをしているのだと自分で思っては、またため息を一つ。海は綺麗だ。とても透き通っているし、水辺のポケモンたちも何かに縛られることなく、悠々自適に過ごしている…よく言えば平和そのもの、悪く言うならば、刺激が何もないのだ……あえて刺激的なことを上げるというならば、自分の身の回りにいる従者二人の口喧嘩を煽る事くらいだろう。しかし、そんなものを刺激的と思えるには程遠いことと考えた…
「あ~あ~、退屈だなぁ…」
陸地の映像が鏡面から消え、サワーは鏡の前にごろんと寝転んだ。何か刺激的なことはないのか……そうでなくても、この窮屈な日常から抜け出すことは出来ないのか…悶々とそんなことを考えていたとき、サワーはふと先王に言われたことを思い出していた…
「あ、そういえばこの鏡、移動装置にも使えるって聞いたことあるような…でも、昔のことだしなぁ……先王はユニークで活気あふれるいいポケモンだったのに、従者があんなに固い頭じゃ意味無いよなぁ…でも、先王はジョークは言っても嘘は言わなかったなぁ…」
サワーは湖面のように静かな深海の世界で、淡い光を放っている鏡に目を向けた。それは悪魔が手招きをしているようにも、新世界への扉のようにも見えた…
「ほんとに、もしほんとに、ここから何処かへいけるんだったら…僕は……陸に行きたい……鏡面海鏡…応えて」
サワーの問いかけに答えるように、鏡が歪んで、虹色の穴が見え隠れする…。サワーは驚いて、一瞬だけ躊躇ったが…きっと顔つきを変えると、恐る恐る鏡に手を触れた。
「うっ……わぁっ!!」
その瞬間海面全体を大きく照らすような光が鏡から漏れ出し。数秒間海を照らした。
「何だっ!?」
「王子?」
その光に驚いたソーダとラムネが、光の下へと泳いでいく。しかし、光が収まるころには、海は静けさを取り戻して、美しい鏡が只そこに存在しているだけだった…
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「青い空、白い海…は、無いから湖!!さんさんと照りつける太陽!!私、ロールは外に出てみたいと切に願います!!」
「いけません。馬鹿ですかあなたは」
翌日。目覚めのいい朝と共に放ったロールの第一声に、シフォンは軽く嘲笑するともそもそと二度寝をしようとしたが、泣きそうなロールを見て少しだけ罪悪感を感じていないわけでもなかった。
「そんな顔しても駄目ですよ。いいですか、私たちは伝説上の生き物なんですから、一般のポケモンの前にむやみやたらと顔を出すことは神であるアルセウス様に堅く言われている事を貴方も知らないわけではないでしょう。もし貴方の邪念の無い好奇心のままに外に飛び出てみてください。たちまち珍しいポケモンとして知れ渡り、悪いポケモンに捕まっていろいろと乱暴されてから、ぼろ雑巾のように捨てられてしまうのですよ?そんなことになったら私は物凄く悲しみます。私だけではありません。エクレアだって、……多分悲しむと思います…。とにかく、外に出てはいけません。そもそもですね、私たちは今のこの生活に不自由を感じているわけではないんですから、外に出て新しいものを持ち込んでも、私たちには不要でしょう?外の世界にあるもの全てが真新しいというわけではないんですよ?大体私たちの力を使えば大抵の物は創作できてしまいます。そんなものを見るだけなら外に出る必要性は全く無いと―――…………ロール?」
「何処かにいったみたいだよ。多分外に出たんだと思うけど…?どうしたのシフォン?顔が凄くけんあぐぇぇっ…」
今起きたばかりという雰囲気をぷんぷんさせて、事の次第を傍観していたエクレアがのほほんとしゃべった瞬間、シフォンはぐわっとエクレアの首を掴むと、ぐいぐいと締め出した。
「どうしてっ…止めないんですかっ!!あなたは、本当に、私たちがどんな存在なのか、分かってるのですか!?」
「ぐぇぇぇ…ぐ、ぐるじい……放して…」
ぐいぐいと締め上げながら、がくがくと前後に揺らす動作を加えて、エクレアの顔が段々青白くなってきたところでようやく手を放すと、ぜいぜいとシフォンは肩で息をすると、ぐったりとなってしまったエクレアをようやく話すと、声も荒げにエクレアに怒鳴り散らした。
「あなたは本当にロールのことを考えているのですか!?本当に大切な兄弟と思っているのならっ…」
「本当に…大切に思っているのなら……どうすればいいのさ!?」
逆に怒鳴られてシフォンはぐっと黙ってしまう。げほげほと咳き込みながらエクレアは湖面のように静かな瞳でシフォンを見据えるだけだった。ぴちゃり、ぴちゃりと洞窟内に出来た自然の鍾乳洞の先端から滴り落ちる水滴の音が静寂の洞窟内に反響する。エクレアが若干の沈黙を破り、静かな声でシフォンにこう告げた。
「僕は君みたいに知識があるわけじゃない、ロールみたいに感情をそのまま伝えることが出来るほど勇気あるポケモンじゃない。けどね、少なくとも他人の顔を見て、その人がどんなことを考えているのか位なら多少は分かっているつもりだよ…君の童話を聞いていたロールの顔は…………凄く幸せそうだった。そのときの顔を君は見たのか?外に出たくて、外の世界を見たくてしょうがないって顔してたよ…だけどさ、君がロールが外に出るということを封じていたから……彼女は今までうずいていた気持ちを押さえ込まなければいけなかったんだよ……それがどれだけつらいことなのか…わからないわけじゃないよね?それでも、君に嫌われたくなかったから、か、どうかは知らないけど…それでも、君の言うことをロールはずっと聞いてきたんだから、少しくらいのわがままを通してあげるのも、僕たちの仕事だと思うけどね。……ロールは感情論が先に出ちゃうけど、君はそうじゃないだろ?知識の神様、それは無限に湧き出る知恵の泉だ…そんな君が、そんな風に感情的になってどうするんだよ…どう?君の頭で考えて、僕の言ってること、間違ってるかい?」
一気にまくし立てられて、押し黙る。むっとして、頷いて、はっとして、納得してしまう。エクレアの言葉にはそう思わせる魔力のようなものがあるというのが、シフォンは今の会話から少なからずともそう感じていた。エクレアは頭が回るほうではないし、かといって相手の感情をしっかりと読み取って、それに合わせた言葉を選べるほど器用なポケモンでもない。しかし、それを補って余りある意志の強さを言葉に乗せて人に伝えている。自分の言動に絶対の自信を持ち、それを断として曲げない意志の強さを、エクレアは持っていた。それを分かっていたからこそ、シフォンは何も言い返すことが出来なかった。
「エクレア、貴方の言うことも一理あります。確かに正論ですが、それでも、ロールは…」
居心地が悪そうに体をゆらゆらと揺らして、シフォンは視線をあちこちに泳がせる。もごもごと口を動かして、何かを言いたげな顔をしている。エクレアはそんなシフォンの顔を見て、くすりと微笑を浮かべると、分かっているといった感じで口に手を当ててゆっくりと話した。
「心配なんでしょ?分かってる。君は人一倍他人に気を遣う性格だからね。ロールがどれだけ外に出たいかという思いを無視できなかったんでしょ?でも、外には危険なことがあるかもしれない。だからあえてその想いを尊重せずに、仲間を守ろうという気持ちが先行したんだよね?」
エクレアに言われて、こくりと頷く。なんと言うことだろう。私の心の中がエクレアに見透かされているのだろうか?という悔しいのかほっとしたのかなんともいえない気持ちがシフォンの中でぐるぐると錯綜する。
「でも、一回くらい外にいって世界を見ないと、僕たちは変化しないよ?体がじゃない、……心が、さ。それに、外に出て危険な目にあってみれば、ロールも少しは自重するかもしれないよ?だから、僕たちはロールの後を追って、ばれない程度に彼女の事を見ているってのはどうかな?それなら君も納得するでしょ?」
聞いただけでストーカーを連想させるような提案に、シフォンは一瞬だけ理性と本能が格闘したが、エクレアの言うとおり、ロールが心配であるということは事実であるし、何よりロールにばれなければいいのだ。それならば何ら簡単であり、リスクも少ない。そのため、シフォンはエクレアの提案を了承してしまった。
「分かりました。しかし、危険だと感じたら全員で逃げますよ?」
「わかってるよ。危険かどうかを判断してもらうために君に来てもらうんだから。君が危険じゃないって思えるんだったら、僕も外に出ることが出来るしね」
エクレアが悪戯っぽく微笑む姿を横目で見て、シフォンはたちまち渋い顔をして横を向いた。
「何を言ってるんだかこの人は……あなたはいつも外に出てるじゃないですか」
「何言ってんのさ。洞窟の周りを飛び回ってるだけじゃん。それを外に出たとは言わないでしょ。せいぜい庭で遊んでた程度にしか感じられないんだから、外に出たとは到底言えないよ」
「そうですか……」
エクレアの気持ちがよくわからないシフォンには、外に出て少しの範囲を飛ぶだけでもつまらないという気持ちが分からなかった。始めてみる世界ならば、何かしらの感動が待っているはずなのだが……しかし、シフォンはエクレアではないのでそんな彼の気持ちが分かるはずもないために、そんな気持ちもあるんだな程度にしか考えなかった。
「よし、決めたら即行動だ。早くしないとロールの事見失っちゃうよ。ほら、急いだ急いだ!」
「ちょっと、ちょっと待ってください!!せめて準備くらいさせてくださいよ!!危険ですよ!?」
シフォンが慌てて出て行こうとするエクレアを止めるが、一度決定してしまったら徹底して進めるのがエクレアというポケモンの性格なので、シフォンにはとめようが無かった。
「準備なんてしてたら遅れちゃうって!!ほらほら早く!!……いや~楽しみだなぁ…」
「…………………………結局それって自分が外に出たかっただけなのでは?」
はしゃぐポケモンと諌めるポケモンがいろいろな押し問答を繰り返しつつ、大切なポケモンを守るために飛び立っていった…
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風が通り抜ける原っぱを、進む、進む、進み続ける。今まで閉じていた花が急成長するように、ロールは凄いスピードで草原を駆け抜け、森を突き進み、山を越える。その姿はまさしく隼だった。
「えへへ、すごいや!!こんなに綺麗な世界だったんだ。凄いな…広い…とっても広い。これが……これが世界」
全速全身、全身全霊。そんな言葉が今のロールには凄くぴったりだった。走ることを止めることなく。大量の風を浴びて、太陽を浴びて。気持ちよさそうに飛行する。
「………んっ?あの子…誰だろ…」
ロールはふと、砂浜のそばに倒れている見慣れないポケモンに目を向けた。少し疲労の色が見えるのか、息が若干荒かった。ロールが何事かと思いそばによっていく…
「大丈夫ですか?しっかりしてください」
軽く体を揺さぶると、もぞもぞと動いた。死んでいるポケモンではないようだった。ロールはほっと胸を撫で下ろして、きょろきょろと辺りを見渡した。人影は何も無く、この子が一人ということは確認できた。
「うぅ……あれ?…ここは……そっか、僕は海面界鏡に…触れて……」
「??」
ロールは不思議な言葉を話してきょろきょろしているポケモンをじっと見つめる。美しい水色の体、金色の睫のようなもの。先端が淡く光る一対の触手のようなもの…この当たりでは見ないポケモンだ…
「あの…すみません、あなたはどこから来たんですか?」
「えっ?」
言われてようやく気付いたのか、一瞬だけどきりとしたそのポケモンは、きょとんとした瞳でロールを見つめてから、逆に質問した。
「え~っと、ここって、陸?」
「……えっ?」
「聞いてるじゃん。ここってさ、陸なの?」
ひどくぶっきらぼうな物言いに、ロースは少しだけカチンと来た。少しだけ顔を顰めたが、相手のポケモンは気付いていないようだった。
「そんな風に聞く人には教えたくありません」
ちょっと声を低くして注意するように言ってやったが、相手はロールのその物言いに、ひどく腹を立てた。
「何で君みたいなポケモンに丁寧口調で話さなきゃいけないんだよ?理由があるのならそれ相応の理由じゃなきゃ聞かないよ…」
「失礼、無礼、無神経。これでいいですか?」
挑発をするように言ってやった。それだけ怒っていた証拠だが、相手もそれを聞いたとたんに激昂してロールに食いかかった。
「何だそれ!?理由じゃなくて罵詈雑言だろ!!」
「貴方みたいな我侭な人には罵詈雑言で十分です!!!」
思い切り自分の気持ちを相手にぶつけてやった。ようやく外に出たとたんにこんな変なポケモンに捕まってしまっていたら、相当神経を使うだろう。だから適当に罵って、さらっとあしらおうと思ったが、我侭、という言葉を聞いたそのポケモンはハンマーで殴られたような顔をして。少しだけうつむいて考え始めていた…
「わが……まま……」
「そうですよ、貴方みたいなポケモンを我侭というんですよ。いきなりあんな無礼な言葉遣いで、恥というものが無いんですか?」
言い過ぎたのか?と思ったが、構わない。どうせあちらもこれくらい言わないと分からなさそうに無いと思った…が、相手はしばらく黙っていたが、やがてぼそぼそと呟き始めた。
「そっか、我侭かぁ…そうだよね…ここはあの宮殿じゃないんだ。召使がいるんじゃない、ここでは僕の地位や権力なんて何の意味も無いんだったね……ふふっ」
「……?」
何を言い出したかと思えばくすりと笑ってから、そのポケモンは深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした…こちらはなにぶん外部に出たばかりでしたので…心より謝罪いたします」
「へっ?……えっ…っと、い、いえ、その、何と言うのか……こちらこそすみません。…何だか失礼な言葉を…」
急に慇懃無礼になった相手の変わりように、ロールは急にどきどきしながら自分の非礼を詫びた。
「いえ、元はといえばこちらのせいですので……それで、もう一度お聞きしたいのですが…ここは、陸地でしょうか?」
「えっ?……は、はい。そうだと思いますよ?私も外に出たばかりでよくわからないんですけど……」
「…そうですか…ありがとうございます!!それではっ!!」
そのポケモンはロールの言葉を聞くと、嬉しそうな顔をしてふわりと浮き上がると、大きく飛んでいった。
「……………………………あっ、名前、聞いてないや……………」
一人で残されたロールは、ぽつりと、それだけ呟いて、走り去ったポケモンの軌跡をいつまでも追い続けていた…
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「昼間に会ったポケモンはいったい誰なのかな?」
帰った途端。そんなことを聞かれた。覗かれていたのかと思うと、にこやかなエクレアの顔に思い切りパンチを叩き込んでやりたい衝動に駆られる。恐い顔をしていると、エクレアがはははと乾いた笑い声を出した。誤魔化しているつもりだと思うが、全く誤魔化しきれていない。
「いつから見てたの、っていうか、何で私がポケモンと一緒にいることを知ってるの…?」
「はじめから。君のことが心配になってさ、僕とシフォンが考えた結果、君を見守ることにしたんだ。…ごめんね」
乾いた笑顔に乾いた笑い声、あまり謝辞の気持ちが入っていない様子だったが、ロールはそんなに気にしていなかった。勝手に出て行ったのは自分であるし、それを心配してくれて見に来てくれた二人には感謝感激雨あられといった感じだった。馬鹿に表現が大げさではあるが。それがロールのロールである由縁のためであった。
あの後、結局ロールはそのポケモンと去ったあとに砂浜で二時間位物思いに耽っていたのだった。あのポケモンのことを考えていたのか、それとも別のことを考えていたのかは謎だったが。外に出てもロールは大して珍しいことは何一つしていなかった。
「でさ、結局あのポケモンはなに?」
「さあ、初めて会ったから全く分からないポケモンなんだよね」
「私の頭の中にもあんなポケモンのデータは入ってはいませんね」
それぞれ、口々に自分たちの感想を述べる。ポケモン生き字引きのようなシフォンが分からないのであれば、エクレアやロールが分かるはずもなかった。三人はしばらく沈黙し、時には体を軽く揉み解しながら、考えて考えて考えた結果――
「ルーツ様に聞いてみましょうか…」
「賛成だね」
「分かったよ」
結論が出た。自分たちを、というか、全てのポケモンの始祖に当たるポケモンの頂点に立つポケモン。創造ポケモンのアルセウスに聞いてみるということに決めた。三匹は静かに目を閉じて、自分たちの念波をアルセウスに送った。
その瞬間、光が三匹を包み込んだかと思うと、三匹は一瞬で別の場所に飛ばされていた。
その場所は…とても静かだった。光がさしているだけで。何も無い。地面も、雲も、空も、海も、ただ光り輝いているだけで、他には何も無かった。そんな場所の真ん中に、大きなポケモンが立っていた。
白と金色の不思議な体色に、全てを見るような赤色の瞳。ディアルガに似ているような、そうでないような、パルキアに似ているような、そうでないような…不思議な感じをしているポケモンだった。
「久しいな、三匹とも」
そのポケモンが、喋った。なんとも偉そうな口調だったが、実際このポケモンは偉いのだ。ロール、エクレア、シフォンの三匹は、恭しく頭を下げると、自分たちを作り出した神―――アルセウスに帰宅の挨拶を告げた。
「ただいま帰りました。ルーツ様」
「ただいま、お父様」
「やっほ~、帰ってきたよ」
シフォンは丁寧に、ロールは若干砕けた感じで、エクレアはへらへらしながら軽い口調でそれぞれ挨拶を告げる。ルーツと呼ばれたアルセウスは特に気分を悪くするわけでもなく、三匹の帰宅を純粋に喜んだ。
「お帰り。わが子たちよ。お前たちが三匹で暮らして生きたいと言い出したときは驚いたが、その様子だとトラブルは起こっていないようだな…」
ルーツがご機嫌な口調で三匹に近況報告を聞くと、シフォンは苦笑しながらルーツにこういった。
「何を言っておられますか、ルーツ様は千里眼をお持ちではありませんか。近況報告など聞かずとも、貴方様なら私たちがどのような状況下お分かりになっているのでは?」
「いや、お前たちが下界に降りてから、千里眼は使っておらん。お前たちが見たもの、聞いたもの、触れたもの全てをお前たちの口から聞きたいと思ったからな…こんな私は身勝手か?」
とんでもない。と、シフォンが告げる。身勝手も何も、神は一匹しかいないのだから身勝手もくそも無いだろうとエクレアは思った。全てを生み出したポケモンが殊勝だったら、それはそれで問題がある。
「貴方様のおかげで私たちはこの世に生を受けることが出来たのです。それを感謝こそすれ、身勝手などといって罵倒する心を、我々は持ち合わせておりません」
「シフォン、そう硬くならなくていい。私とお前たちの仲は生物学上は親子だ。エクレアのような感じでもいいんだぞ?」
恐れ多いです。とだけシフォンは言って萎縮した。それを見てルーツは困ったような呆れたような微笑を浮かべただけだった。本当にかまわないといった感じだったが、あくまでシフォンはルーツとの関係を公と考えているらしい。こりゃ駄目だ。頭が固すぎるのも問題だなぁとエクレアが心のそこでそう考えた。
「……ところで、今日は何用だ?昔話でも聞きにきたのか?それならばとっておきの話を聞かせよう……そうだな、まずは異種間を超えた愛の物語でも…」
「いえ、今日はルーツ様と談笑をしに来たのではないのです……」
シフォンがぷっつりとお話をさえぎったので、ルーツは少しだけ悲しそうな顔をした。シフォン、ルーツ様の気持ちを汲み取ろうよ。あんなに悲しそうな顔してる…子供に勘当同然にされた親は寂しくて死んじゃうんだよ…と、エクレアは思っていた。
「そこまで柔な精神はしておらんぞ、エクレア」
「あら?読んでました?嫌だなぁ~ルーツ様は、覗き間みたいなことをしちゃって、エッチ~」
「む……すまん」
いやん、そんなご無体な。そんなことを言いながらエクレアは体をくねくねとさせて変な動きをしている。正直に言って、気持ち悪い、思い切り張り倒したいという気持ちをシフォンはぐっと堪えた。そもそもルーツ様に謝らせるとはどういう神経だ。何と言うか、エクレアはもう一度ルーツ様に頭だけ作り直してもらったほうがいいんじゃないだろうかと深く深く思ってしまうのだった。
「それでルーツ様、お話の続きなのですが…」
「む、すまん。それで?」
「ええとですね、ちょっとポケモンのことで聞きたいことがあるんですが…」
「ポケモンのこと?シフォンにも分からんポケモンがいるというのか?」
「はい。ロールと接触したポケモンなのですが…少し見てはいただけないでしょうか?」
シフォンがそういうとロールが不意にひょいっと前に出て、頭を少しだけ下げた。ルーツは前肢を優しくロールの頭に乗せると、ロールの記憶を読み取り始めた。静かに、しかしゆっくりと、ロールは頭をさわさわと撫でられて、嬉しそうに頬を高潮させた。
「いいなぁ…僕も後でなでなでしてもらおっかな…」
「何言っているんですか!?……は、破廉恥な」
「私に触れることは破廉恥なのか?」
「うひゃあっ!!」
いきなり声をかけられてシフォンはびっくりした。前を見るとルーツが元の姿勢に戻っていて、ロールは少しだけ寂しそうにルーツ――の、前肢を見ていた。
「い、いえルーツ様が破廉恥と言うのではなくてですね、エクレアが少々下品な発言をしたため。それを嗜めていたところです」
シフォンがしどろもどろにルーツに説明すると、エクレアが明らかに不満たらたらな声を出した。明らかに納得がいかないといった顔を思い切り顔に出している。
「僕はルーツ様になでなでしてもらおうって思っただけなんだけど……それって、下品で破廉恥で卑猥で淫靡で淫乱で妊娠しちゃう位いけないことなの?」
エクレアの不機嫌そうな反論の声に、シフォンがうっとする。ルーツは春風のような微笑を浮かべてエクレアを手招きした。
「そんなこと、いくらでもしてやろう……シフォンもどうだ?」
「ええっ!?」
シフォンはどきりとして頭を撫でてもらって幸せそうな顔をしているエクレアを見ていた。大好きなルーツ様に頭をなでてもらうというのは、自分の威厳やらプライドやらをすっぱ抜いてルーツ様の母性本能?を存分に堪能したいという気持ちと、やはりそういう子供のように甘えるというのは自立をした自分にはいまさら親に甘えるということは自分のプライドがなんとなく許さないという気持ちが揺らいでいた。しかし幸せで顔をふにゃふにゃにしているエクレアを見ているとそんな意味不明なプライドなんかどうでもよくなってくる。……もういっそのことそんなチンケで陳腐なプライドは溝に捨てた後に踏みつけてペリッパーの餌にでもしてしまえばいいと思った。しかもいつの間にかロールも余った前肢でなでて貰っている。ずるい、不公平だ。私も撫でてもらいたい。というか抱きついて擦り寄りたい。
「いいですよ~、シフォンはどうせ子供じゃないんだから、ルーツ様に触られることは破廉恥なんですよ~」
「ふむ、そうか…今後のために検討しておこう」
切れた、というか本能がむき出しになった。もうプライドとかどうでもいいや。ルーツ様の胸に飛び込もう。
「嫌です、お断りします。私もルーツ様にもふもふしてもらいます!!」
シフォンが狂ったようにそういうと、思い切りルーツの胸に抱きついた。もはやロールが会ったポケモンの話題など、無視である。
「むおっ…フフ、少々こそばゆいな」
「あっ!!ずるい~」
「私もして欲しいなぁ…」
「五月蝿い!!黙れ!!早い者勝ちです!!」
シフォンは大声でがなり散らすとルーツの胸の中で幸せそうな顔をした。ふわふわして、もふもふして、ぬいぐるみの三倍くらい気持ちよくて、心地よくて。……何だか眠くなってきた。シフォンは何にも考えずにうとうととし始めた。ロールやエクレアもこくりこくり、うつらうつらとしていた。
嗚呼……もうお話はこれくらいにしましょう…今はただ……まどろむ夢の中で……大好きなお父さんの胸の中にいる……その幸せを…かみ締めよう…
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「おきなさい、三匹とも」
ルーツが優しく声をかけて、シフォンたちが眠たそうな目を擦って起き上がる。周りを見渡すとルーツのいた白い空間がいつまでも続いている。どうやら眠ってしまったようだった…
「ふぁぁぁぁ…」
「す、すみません」
「あ~、おはようパパ~」
ロールがあくびをして、シフォンはうつむきがちに謝り、エクレアはすりすりとルーツの前肢に擦り寄ってキスをする。よく見ると全員に毛布がかけられていたようだ。何でもありな神様である。
「フフフ、お前たちの寝顔はしっかり拝ませてもらったぞ。我ながらかわいいポケモンを生み出したものだ」
ルーツは柔和な微笑を浮かべて三匹を見ている。金色の瞳に見つめられて、三匹は恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「うひゃぁ…は、恥ずかしいなぁ……」
「うぅぅ…申し訳ありません」
「ひゃあ…やっぱりルーツ様ったらえっち~」
三匹がそれぞれの返答を返す。ルーツはニコニコ笑って顔を手で押さえたりぺこぺこと頭を下げたりくねくねと動いているポケモンを見つめた。他人がこの光景を見れば誰もが思うだろう。
何だ、こいつら…
「ところで、お前たちの言っていた不思議なポケモンのことだが…」
「「「???……あぁ~っ!!」」」
三匹は同時に首を傾げて、同時に絶叫マシーンに乗って死にそうな目にあう瞬間の可哀想な高所恐怖症のポケモンが出すような叫び声ともいえない奇妙な大声を喉の奥から搾り出すように吐き出した。
「………まさか、忘れていたとは思わなかったな……」
ルーツはあきれるというよりは純粋な驚きの表情で三匹を見つめる。三匹は益々顔を紅潮させて先程の動きを三割り増しにした。やはり、気持ち悪い。
「ふむ、まぁ忘れることは思い出すことの階になる。誰も忘れることが悪いこととは言わん」
なんとも寛大な言葉を吐き出したルーツは、三匹が落ち着くのを静かに待ち続けた。
綺麗な白に覆われた空間は音も無く、光も無く、ただそこにあるだけの存在だった。そんな世界に静かに鎮座する全てを統べる王は……なんともいえない親馬鹿だった。
「そろそろいいか?…………私が知る限り、あのポケモンの名前はマナフィ…はるか深くの海、つまり深海だな…そこにすんでいるといわれているポケモンだ。滅多にあえる存在ではなく、お前たちと同じような存在である」
ルーツが軽い説明を終えると、三匹は首を捻って考え込んだ。
「ええっ?そんなに珍しいポケモンだったの??」
「それ以前の問題ですよ…深海にすむポケモンが陸地にいたこと自体がおかしいです」
「ええっと、じゃあどうしてあのマナフィってポケモンは陸地にいたんだろ?もしかして……迷子?」
「それは無いと思います」
いろいろと考えてはいるが、やはり本当のことは分からない。三匹はうんうんとうなっては意味の無い交錯を続けていた…
「お前たち、考えるのはあとにしておけ。もうすぐ夜が来る。もう自分たちの寝床に帰りなさい。こんなところにいても面白くないだろう」
考えている最中にルーツが三匹に帰宅するように促した。三匹は少し躊躇したが、やがて頷くと、名残惜しそうにルーツの元から去っていった。
「さようなら。お父さん」
「今日はありがとうございました」
「またなでなでしてね~」
三匹がそれぞれ異なった挨拶を湖の湖面にひっそりとたたずんで水面下では必死でバタ足しているのに何食わぬ顔で知らん振りをしている白鳥のごとく静かにしているルーツに別れを告げて。シフォンのテレポートでルーツのいる空間から脱兎のごとく消えていった。
「ふぅ…いろいろなことがあるな」
あわただしい三匹がいなくなり、また静寂が訪れた白い空間の中で、ルーツは静かにため息をついた。下を見下ろすと、白い色にうっすらと、黒色が侵食していくのが見えた。透けて見える空間から覗く夜の黒は、いつも見る暗闇とは違った色をしていた。
「フフ、あの三匹はもっともっと成長するだろうな…サワーと接触したことがいいきっかけになればいいが……」
ルーツはひとりでに笑みがこぼれるのを抑え切れなかった。それは子供同然である自分が作り出したポケモン達が自分から自立していくのが嬉しいのか、三匹以外のポケモンに興味を持ったことが嬉しいのか。それが分かるのはルーツのみであり。まさしく、神のみぞ知るというやつだった。


「ふぅ~!!ようやく帰ってこれたよ。片道一時間十五分もかかるんだもん、あんなところに住居構えるなんてルーツ様もどうかしてるよね~」
「失礼ですよエクレア。ルーツ様はひっそりと暮らしたいのです。でしたらあのあたりに家…?ま、まぁとにかく家のような空間を作り出すのは得策なのでしょう。嗚呼、ルーツ様の知的感覚はすばらしいです。やはり私は、まだまだ遠く及びませんね…」
「うわぁ…凄い自分の世界に入っちゃってるよ。シフォンもエクレアのことあんまり変とか気持ち悪いとかいえないよね…」
洞窟に帰ってきた産引きは帰ってくるなりぺたりとその場にへたり込んでしまった。ルーツのところに行きたいと念じれば片道だけはルーツが部分空間テレポートで運んでくれるのだが。帰りは自分たちの念力が続く限り飛行しなければいけないのであるため、三人分の体を浮かせたエクレアは荒い息をついて、肩を激しく上下させていた。
シフォンはエクレアの言ったことに対してしっかりと突っ込みを入れたあとに、なにやら夢心地といった感じでぼんやりと虚空を見つめていた。ロールはそんな二人を見て何だかなといった感じで苦笑いを浮かべていたが、すぐに何かを考えるようにうつむいてしまう。
考えることは――陸であった、あのポケモンの事…
どんな姿をしているのか今ではぼんやりとしか思い出せないが、そのときの記憶が焼きついて頭から離れなかった。いったいどうして陸にいたのだろうか、彼はどこに行きたかったのだろうか…そしてルーツのいっていた情報によると、あのマナフィというポケモンは自分たちと同じ希少種だという。
それらを考えていたとき、ふと、シフォンが聞かせてくれた人魚姫のお話を思い出した。
人魚姫は陸に憧れて、声を失う代わりに海の魔物と契約し、自由に走り回れる足を手に入れたという。そしていつも遠くからしか眺めることの出来なかった愛しい王子に接触できるという部分が、今の自分におかれた状況となんとなく一致しているような気がしてならなかった。
「あれ?じゃあ人魚姫は私じゃなくてあのマナフィってことになるのかな?…………ふふっ…おかしいな、普通逆なのに…あ、でもここじゃない何処かに行きたいって言う点については似てるかも…これでマナフィさんが王子さまだったら文句ないくらい人魚姫のストーリーなんだけどなぁ…」
ロールはいろいろと考えて、最後にはこうなったらいいなという自分の妄想に近い言葉を発していた。それを言った後に、ふふっと微笑を浮かべた。
「それはさすがに、高望みしすぎだよね…」
ロールは静かなため息をついてからごろりと横になった、天井から僅かに射す月の光が、洞窟内を照らし出す。ロールは大きなあくびを一つして、ゆっくりと瞳を落とし始めた。どうやらルーツのところでは睡眠時間が足りなかったらしい。
「う~ん、きっと明日になれば…また違うところにいける」
ロールはそれだけを考えて、明日に向けて眠りにつき始めた。ロールが思った叶わない妄想のような理想が現実になるのには、そう時間はかからなかった…
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朝目が覚めると、いつもの場所のいつもの光景が視界に移る。それは日常生活の中で無意識的に見てしまう現象の一つである。結局のところ、数年間も住んでしまえばその場所に愛着がわいてしまうのだろう。ロールは目を覚ますと、未だに眠りこけている二人を見つめて柔らかな微笑を浮かべた。
「おはよう………そして、行って来ます」
静かに、そして小さい声でそう告げると。二人を起こさない程度の忍び足で洞窟から出ると、ゆっくりと浮かび始めた。
三匹は同じ能力を持っているが、それぞれ何かの力が秀でている。エクレアならば凄まじいサイコキネシスを、シフォンは異常なほどのアルティネイションを、ロールは強力なサイコメトルをそれぞれ備えている。ルーツのところから帰るときは、エクレアのサイコキネシスの力を借りて飛行をしていた。
「うぅ……やっぱりエクレアほどの速度は出ないか……不便だなぁ」
自分の体を見て、ロールは深いため息をつく。自分の能力は何かと中途半端だ。エクレアのような山を吹き飛ばすほどの念力を持つわけではなく、かといってシフォンのようなミサイルのような攻撃をも受け止める物体硬化能力があるわけでもない。あるとすれば他人の心理状況を触れるだけで見ることの出来るサイコメトルだけ。しかしその力はプライバシーの侵害になるためにロールは絶対に使わないようにしている。そのため、ロールには身体能力的、精神能力的に秀でた部分が無い。それが二匹ともの間を分け隔てる壁になるのではないかと不安になったこともあったが、二匹は笑って接してくれる。ロールはそれが嬉しくもあり、同時に何だか悪い気もした。
「もう少しいい力が欲しかったなぁ…」
自分だけ何だか妙な力をルーツから授かってしまったため、ロールは一度だけルーツに作り直して欲しいと願ったことがあった。しかしルーツは首を縦に振ることはしなかった。
「お前の力は他人の気持ちを汲み取って、よく理解した上で、他人を最も知るようにという気持ちを込めてサイコメトルの力を授けたのだ。お前は感情ポケモンだ。その力を使って、他人の気持ちが分かれるようなポケモンになりなさい」
それがルーツの言い分だった。そういわれると何だかサイコメトルという力もたいそう立派に聞こえるが、所詮元をたどってしまえば覗き見である。女風呂を覗いてはぁはぁしている変態と何ら変わりは無い。もちろんロールにそんな変態的性的趣味はないが、そのことを考えてしまうとむやみやたらとサイコメトルの力を乱用するのには抵抗があった。そんな考えを抱いてしまうくらいなら、いっそのこと封印してしまえばいいではないか。そうすれば他の二匹より少し劣ってしまうが、少なくとも他人の心を読み取ってしまうようなことにはならなくなる。そう思ってきたが…
「やっぱり何か新しい力が欲しいなぁ……」
のんびりとした低空飛行でぶらぶらと木々の間をすり抜けて、大きな草原に出る。そこには草ポケモンたちや、陸上で生活しているようなポケモン達がわんさかと存在していて、見ていたロールはとても壮観だった。
「すごーい!!なんていうのか、絶景??」
まったく意味の違う賛辞の言葉を述べてから、ロールは草原をゆるゆるとした飛行で抜けていく。行く先々に見えるポケモンたちは、ロールの姿を見ては不思議そうな顔をしていたが、特になんとも思わずに自分たちの作業に戻っていった…
「何だ。他のポケモンたちは凶暴とかシフォンが言ってたのに、そうでもないみたいだね……あ~、でもそれは一部のポケモンなのかなぁ?」
ロールはシフォンの話から想像していた外の世界の違いにちょっとだけ驚いた。シフォンの話によると、自分たちを見た瞬間に襲いかかってくるみたいな物騒な言い方をしていたためにロールも外に出ることを躊躇っていたが、百聞は一見にしかず。やはり、自分で見て確かめたほうが早かった。
「シフォンの言ってたこととはまったく違うけど、みんな他人に興味関心が無いだけなのかな?」
ロールが見ていると、ポケモンたちは自分のことに集中していて、他人を見ていることはほとんど無い。ロールは周りを見ながら飛行していく。草原の次は砂浜が見える。ロールは砂浜を見て昨日のことを思い浮かべていた……
「あ~、そういえばあのマナフィってポケモン、どこに行ったんだろう……あれ?」
飛行をしていると一つの建物が見えてきた……それは家というよりは、休憩所といったほうが適切な表現かもしれない。ロールはその建物の近くまでよって、入り口付近に立てられた看板に目を寄せる――
――喫茶店・ミルクアート――
キッサテンというのがどういうものか分からないロールには、看板に書かれた喫茶店の文字が魔法の言葉にしか見えなかった…
「きっさてん?ミルクアートって書いてあるけど…牛乳で絵でも描くのかな??」
安直な連想言葉を想像したロールは、どんなところなのだろうという純粋な興味がわいてきた。危険な気もしたが、虎穴にいらずんば虎児を得ず。危険を冒さないと何も手に入らないという気持ちが若干の恐怖に打ち勝った。
「よ~し、何かきたら催眠術で眠らせちゃえばいいや!!」
意気込んでロールは入り口と思われるドアに手をかけて、ゆっくりと扉を開いた。
「いらっしゃいませぇ~」
扉を開けて出迎えてくれたのは――シェイミだった。
普通の姿ではない。スカイフォルムになってる。そして何よりも目を引くのが―――メイド服を着ている事だった…
「お客様は何名さまですか?」
「えっ?……えっと、一名です…」
「はぁい、それではこちらの席にご案内いたしますね……フレンドさ~ん!!お客さんが新しくきましたよ~!!」
シェイミは柔和な笑みを浮かべると、誰かを呼び出した。すると店の奥のカウンターから、フレンドと呼ばれたポケモンがひょこっと現れた。
そのポケモンはニャースだった。きちんとしたウェイターの服を着て、シェイミによっていく。
「フラウ!!お客さんの前でメイド服を着るのはやめてくれよ!!絶対引かれちゃうでしょ!!?」
「ええ~、いまどきのポケモンはこういう型破りな趣向が好みじゃないんですか??」
「それは一昔前のオ○クの発想だって!!」
「えっ?……じゃあ私が考えた喫茶店、メイド喫茶にするって言う夢は……」
「それは夢じゃなくて妄想だよ!!」
「ひどいですよフレンドさん!!妻の気持ちを尊重しようって心はないんですか!?」
「それに振り回される夫の身にもなれっちゅーの!!」
二人はぎゃあぎゃあと言い争いをしている。ロールは呆然と二人を見ているしかなかった…。それに気付いたニャースがはっとして、咳払いを一つした後に。ロールに営業スマイルを向けた。
「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした。お客様は一名さまでしたね?こちらの席にどうぞ」
ニャースが誘導してロールは指定された席に座った。周りを見るといろいろなポケモンがせわしなく動き回っている。椅子に座っているポケモンもたくさんいるようで、この喫茶店は繁盛しているのが分かった。
働いているポケモンがあの二人だけではなく、複数のポケモンが同じような服を着て注文を受けたり、飲食物を運んでいる。アブソル、ルカリオ、ザングース、ハブネーク、ボーマンダ、フライゴン、ブースター、グレイシア…大中小までさまざまなポケモンたちの会話が途切れ途切れにロールの耳に入ってくる。
「ありがとうございました。お会計はこちらでございます」
「ウコン~、もっと笑おうよ~。あの時のあっつ~い夜みたいな笑顔でさっ♪」
「絶対断る」
「ひどい~」
「パレット~皿洗ったけど~」
「あ~、そこにおいて置いて…って!!なんかネチャネチャするんですけど!?クロック!!ちゃんと洗剤使った??」
「え?…何それ?舐めて綺麗にしたけど」
「余計汚いだろ!!まさかクロックが皿洗いのときだけいっつも舐めてるって事!?やめてよ!!不衛生でしょ!?」
「安心しろって、パレットの部屋ほどじゃないから…」
「あれは綺麗にしようと思えば綺麗にできるの!!」
「イリス~、この料理って何番のテーブルだったっけ?」
「えっと……三番」
「分かった、すぐに持ってくね」
「あ、ちょっとアクロ!!慌てないでよ。この間お客さんに飲み物こぼしちゃったでしょ」
「う、うん…大丈夫」
「なんか不安だなぁ…」
「あっつ!!熱い熱い熱い!!グレイシアにホットコーヒー持たせるってどういう了見ですかリブさん!!」
「つめたっ!!寒い寒い寒い!!じゃあブースターにかき氷持たせるのやめてよジェラード!!!溶けちゃうでしょ!!」
「………お互いに持つものを間違えてたみたいですね」
「同感」
聞いていて何だか楽しくなるような会話のキャッチボールだった。他人の前でこんなことをしてもいいのだろうかという感じはしたが、他のポケモンたちは日常茶飯事だといわんばかりにその様子を笑ってみている。ロールは一頻り自体が落ち着くのを見て、手元の紙をとって開いた。
さまざまな文字の羅列が一気に目に入ってくる。見ていて頭の痛くなるような文字列の多さだったが、何とか読解できるような文字であったために少し安心した。
「えっと、&ruby(フルーツアンドナッツ){F&N};シュトゥルーデル……ミルフィーユ…ヨーグルトチーズケーキに……ラズベリータルト…それにブラウニーかぁ…」
ロールが聞いたこと無いお菓子の数々がこの店には鎮座しているらしい。喫茶店というところがどういうものか知らないロールにとっては読み上げたお菓子はどんなものなのだろうかと想像を膨らませる材料になっていった…
―――――と、
「F&Nシュトゥルーデルがお一つ、ミルフィーユがお一つ、ヨーグルトチーズケーキがお一つ、ラズベリータルトがお一つ、ブラウニーがお一つ、以上でよろしいでしょうか?」
「………は?」
いきなり別の声が聞こえたのでロールは調子の外れた声を上げて上を見た。いつの間にか先程ルカリオの隣にいたアブソルがいつの間にか伝票を片手にニコニコしながらロールの隣にいて、返事を待っていた…
「えっと、その……」
「以上でよろしいでしょうか?」
「いえ、その、あの、ちょっと……」
「以上で……よろしいでしょうか??」
「えっと…………ち………」
「…………ち?」
「チョコ……レートコーヒーもつけてください……」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください……フレンドさぁ~ん!!いっぱい頼んだお客さんが来ましたよぉ~♪」
そのアブソルは心からの笑顔を浮かべると、スキップしながら先程のニャースのところへと歩いていった……
断りきれなかった。というより、断ると何をされるのか分からなかった。ロールの心臓はバクバクと鳴っていた。
「な、何だか強引なお店だな……それにしても、どうしよう……お金ってどんなものか分からないからなぁ……とりあえず、キラキラした物でも作ってみよう…」
ロールは自分の行ったことに後悔しながらも、他の客にばれないように両手をぎゅっと合わせて念じた。すると両手の中がぼんやりと淡い光を放ち、光が収まったとき、ロールの手には傷も汚れも何も無いキラキラした金貨が十枚ほど乗っていた。
「これでいいかな??初めて作ったからわかんないや……」
金貨をテーブルの上に重ねておくと、ロールはぼぅっとしてお菓子が来るのを待った……
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「お待たせいたしました。ご主人しゃひゃ…いひゃいいひゃい、ウコンはなひへ~」
「お見苦しいところをお見せしてまことに申し訳ありません。ご注文の品をお持ちしました。ええと、F&Nシュトゥルーデル、ミルフィーユ、ヨーグルトチーズケーキ、ラズベリータルト、チョコレートコーヒーでよろしかったでしょうか?」
「は、はい……ええと、その、御代はこれでいいでしょうか?」
ロールが片手でアブソルの頬を抓って、お菓子が載せられたお盆を波動の力だけで持っているルカリオに、すっと手を差し出して、先程作り出した金貨を見せた。それを見た瞬間にルカリオは驚愕に目を見開いた。
「なっ!?これは……滅んでしまった都市の記念硬貨じゃないか!!?おいラック!店長を呼んでこい!!」
「あいあいさ~」
「…………え?」
驚いたのはロールだった。まさか適当に作った金貨がそんな値打ち物だとは思わなかった。この店の壁にかけられた方欲の竜の紋章を見て、それをそのまま金貨の絵柄にしただけだったのだが、そんなに大変なものだとは思いもよらず、思わずロールはルカリオに聞き返してしまった。
「あの~、この金貨、そんなに値打ち物なんですか??」
「………お客様の金貨一枚で、このお店を買って更に三十年は遊んで暮らせるようなお釣りが帰ってきます」
「ええっ!?」
「ウコーン、フレンドさん連れてきたよ~?」
「ああ、助かる」
恐ろしい言葉をさらりと言ってのけたルカリオを見低たら、先程挨拶をしてくれたニャースがやってくる。なぜかシェイミもついてきて、更に他の従業員たちもぞろぞろとついてくる始末だった。
「……ラック、俺は店長をつれてこいといったはずなんだが、何でパレットたちがついて来るんだ?」
「金魚の糞だね~」
ルカリオがこめかみをひくひくさせながらアブソルをにらみつける。アブソルはそれを軽く流して笑うだけだった。
「金魚の糞って何ですかラックさん!!」
「そうだそうだ。パレットは糞って言うよりも小便くさ……うげぇっ!!」
「クロックは黙ってて!!」
ザングースが思い切りハブネークの腹にエルボーを叩き込む。ハブネークはその場でどさりと倒れこむ。
「わー!!クロックさんが気絶したぁ!?」
「アクロ、五月蝿い」
いきなり目の前でハブネークが気絶したため、隣にいたボーマンダが素っ頓狂な悲鳴を上げる。その隣にいたフライゴンは耳を押さえて五月蝿そうな顔をするだけだった。
「何かあったときは僕たち皆で解決する」
「それが私たちがここで働く約束でしたよ」
ブースターとグレイシアがそれぞれ口を出す。いまやロールの席はてんやわんやの大騒ぎとなっていた。やっぱり出さなきゃよかったなぁとロールは心の中で激しく後悔するのであった。
「それで……ウコンさんどうしたんですか?」
アブソルに呼ばれたニャースが、ルカリオに何事かと告げる。
「はい、その…これを見ていただけないでしょうか」
ルカリオがニャースの手にロールからもらった金貨を渡す。その絵柄を見たニャースは目を見開いて脂汗を流し始めた…
「えっと…この金貨…本物?」
「まごうこと無き本物です」
「うわぁ!!懐かしいなぁ、ベルランド王国の紋章ですね……フレンドさんと一緒に見に行きたかったなぁ」
ニャースが硬直し、シェイミは昔を懐かしむようにその金貨に描かれた絵柄を見つめて遠い目をしていた。
「僕、生まれてないから…何百年前の話してるの…」
「おおよそ千五百年前かなぁ…」
「生まれるどころか存在すらしてないから!…えっと、如何しよう。このお店…買い取られちゃうの?」
「おそらくそうだと思います。この喫茶店を建設して一年、短い年月でしたね」
しんみりとルカリオが呟く。ザングースは頭を抱えて深いため息をついた。
「ああ、皆で力を合わせて立てた努力の結晶も……所詮は滅亡国の金貨一枚分の価値しかないんですね…三ヶ月の努力の集大成が……金貨一枚に消えてしまうなんて…」
ハブネークがよろよろと起き上がり、ばつが悪そうな顔をして尻尾で顔をぽりぽりと掻いた。
「あ~あ、結局また森暮らしかぁ…結構繁盛して、皆とも打ち解けてきたのになぁ…ショックだぜ…」
ボーマンダとフライゴンが、悲しそうな顔で天井を見つめる。
「はぁ、もう村には戻れないなぁ…イリス、如何しよう?」
「大丈夫だと思うよ…私達は飛べるんだもの。皆と別れるのはつらいけど、また新しい住処を探さなきゃ…」
ブースターとグレイシアも辛らつな顔をしてぼそぼそと何かを囁きあっていた…
「リブさん……やっぱりレイス先生のところで働いていたほうがよかったのでは??」
「……ここの喫茶店で楽しく過ごすか、あのへんちくりんな先生の下で媚薬の実験台になるか…どっちがいい?」
「やっぱり駄目ですよね……終わりましたね…何もかも」
それぞれがそれぞれ、絶望に打ちひしがれるような顔をして落胆した。他のお客さん残念そうな顔をして、ロールの金貨を見つめていた…
何だか勝手に話が進んで。ロールがまるで貧しい農民から税を搾れるだけ搾り取る極悪非道な役人のように取り上げられてしまった。
「ちょ……っと!!待ってください!!勝手に話が進んでるんですけど!?私はこのお店を買い取る気なんて全然ありませんから!!」
ロールの言葉に、悲しんでいたポケモン達がぴたりと止まって、一斉にロールを見つめる。いきなり視線の集中砲火を浴びて、ロールはどきりとしたが、すぐに気を取り直すと息を吸い込んで放し始めた。
「ええっとですね……その、何と言うのか、私は喫茶店というところが如何なる所か分からなくてですね……料理屋さんということは分かりましたけど、その、お金を払うところということも知らなかったし、その、自分のつくっ……じゃなくて持ってた金貨にそんな価値があるなんて知らなかったんです。だから別にこのお店を買い取ろうなんて思ってませんしお釣りもいりません。だからこの金貨一枚は差し上げます!!」
ロールはそういってからルカリオの持っていた金貨を指差して目を硬く瞑った。どんな言葉がくるかわからずに身構えていたら、返事がない。恐る恐る目を開けて周りを見ていたら、ルカリオが困ったような顔をしてロールを見つめていた。
「差し上げますといわれましても……このような高価なものをいただいてしまってはどのようにお返しをすればいいのか返答に困りかねます…」
ニャースも首を捻って考えていた。アブソルはにこやかな顔をして金貨をつんつんとつついていた。
「いいじゃないですか、貰える物は貰っておかなくひゃ…いひゃい~ウコン何ふるの~」
「お前はことの重要さが分かってないのか。この金貨の使用に困るだろうが!!」
のんきに行ったアブソルの顔を思い切り抓って、ルカリオは如何しようかといった顔で皆を見た。全員が全員、如何しようかといった顔で首を捻っていたら、向こう側の席から怒声が聞こえた。
「んだぁこの餓鬼が!!ぶっ殺されてぇのか!!」
「みんなの迷惑になりますから、落ち着いてください。それに、謝罪は致しました。これ以上僕に何を求めるというのですか?」
聞き覚えのある声を聞いて、ロールははっとして怒声の聞こえた席を見た。見覚えのあるシルエットが柄の悪そうなサワムラーに絡まれている。見間違いじゃない。水色の体に金色の眉。ルーツに聞いたポケモン。マナフィだった。
「………柄の悪い客だなぁ……如何しましょう、フレンドさん?」
アブソルがのほほんとした口調でニャースの命令を待った。ニャースはげんなりとした顔で、アブソルに小さく、短くこういった。
「店を荒らすような行為をしたらつまみ出しておいて、ラック」
「はぁい。ピンチになったら助けてね、ウコン♪」
「お前の何処を如何ひっくり返したらピンチになるんだこのゴリラ女」
「……かっちーん」
あくまで笑顔でのほほんとした口調。どうやら罵詈雑言を受けても怒っていないようだ。凄い寛容さだなと感心していたが、それどころではない。言い争いは益々ヒートアップして、サワムラーが思い切りテーブルを叩き壊した。
「ああ!?決まってんだろ、金出せやこらぁ!!」
「そ、それは……今は持ち合わせが…」
「んだと!?ふざけんじゃねぇぞこらぁ!!」
会話を聞いていたらマナフィのほうもかなり問題発言をした。無銭飲食をしていたのか……こりゃ捕まるなぁなどとロールはしんみりと思ってしまった。
「わぁお、あっちのポケモンさんは無銭飲食してたんだ。……今日はいろいろありますね~、セレブなお金持ちさんにゴロツキさんに無銭飲食の貧乏さんかぁ…」
「無銭飲食をするのは貧乏だからじゃなくて立派な犯罪者の行為だろ」
のんびりした口調でほやほやとした顔でことの騒動を見ていたアブソルの発言に、ルカリオがしっかりとした突込みを叩き込む。漫才師になるには一味足りないがいいコンビだった。
「何でもいいから、早く放り出してくださいラック。このまま暴れられるとテーブルが全部壊れます」
「はいは~い。了解~。……こらぁ~」
アブソルはとてとてとかわいい動作でサワムラーとマナフィの間に入っていく。ピラニアの群に松坂牛を放り込む位危険な香りがしたが、他のポケモンたちはもはや日常茶飯事だといった感じでアブソルを見ていた。
「ああ!?んだてめぇ――」
「喧嘩はやめろ」
それだけ言うと、サワムラーの後ろに回りこんで首の辺りに的確な手刀を叩き込んだ。それを食らったサワムラーは、反撃をするまもなくどさりと倒れこむ。アブソルが先程とは違う氷のような瞳でちらりとサワムラーを一瞥して、一言だけ、
「失せろ、ここはお前の来ていい場所じゃない」
それだけはき捨てると、窓を開けてサワムラーを口で咥えると、口の力だけで思い切り窓から放り投げた。その投擲力たるや、八十メートルくらい吹っ飛んでいった…
「……さて、と。お客様、無銭飲食はいけませんよ?」
先程とはがらりと口調を変えて、かわいい声でにっこりと笑う。マナフィはびくりとして、たじろいだ。
「あらー、ラックの姿に恐がってらぁ…」
ハブネークが渋い顔をしてマナフィを見つめる、ザングースも苦笑いをするしかなかった。
「あれは軽くトラウマになるよね。僕も最初そうだったもん…」
ボーマンダがおろおろしてアブソルを見ている。ドラゴンなのに気が弱いようだ。
「どどどどどどうしようイリス…ラックさんがあのお客さん殺しちゃったら……お客さんが寄り付かなくなっちゃうよ?」
「わけのわからん妄想を…いくらラックが強いからって、罪の無いいたいけなポケモンを殺すほど極悪非道な脳味噌してないでしょ?」
フライゴンはあきれるような口調でボーマンダにそういった。それよりも呆れる様な口調でグレイシアがフライゴンの言葉に突っ込む。
「無銭飲食をしている時点で罪人決定なんですけど…もしも~し、イリスさん?……聞いてないですね」
「ジェラード、、声小さすぎ。もっとボリューム上げて…」
ぼそぼそと喋るグレイシアの隣でやけに大きな声でブースターが指摘する。しばらくそんな会話を聞いていたら、アブソルが更にこう告げた。
「無銭飲食をするほど路頭に迷っていたのですか?ですが罪は罪です。罪人には罰を、因果の鎖は断ち切らねばなりません。食事をした分だけ働いてもらいますよ?」
ぬらり、と笑うアブソル。余計それが恐怖を煽ったのかマナフィは目に涙を浮かべ始めた。
「待ってください!!」
それを制止する声、声の主は――
「そのポケモンさんは……私の友達です!!!」
――私でした。
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「えっ?……き、君は…」
マナフィが驚いている。それもそうだ。事実、私も驚いている。何でこんなこと言っちゃったんだろう……。別に彼と何かしらの因縁が会ったわけでもないというのに、私は何でだか感情に任せて血迷った発言をすることが多いらしい。……感情ポケモンだから仕方ないことだけど…
「また会いましたね、マナフィさん」
にこりと笑って挨拶をする。マナフィのほうは未だに事情が飲み込めていないのかあたふたとしていた。
「知り合いだったんですか~?」
アブソルがにっこりと笑って聞いてくる。ここで変な回答をしたら殺気だけで殺されそうだったので、素直に頷いた。
「はい、このポケモンとは二日前から知り合って、その、大変変な話なんですけど、友達になっちゃいまして…」
「……」
マナフィが黙って私の話を聞いてくれた。どうやら話にあわせてくれるらしい。それを少し意外に感じながらも私は嘘の作り話を続けた…
「それでですね、彼はこのまま東に行ったようだったんですけど、まさかお金を持っていないとは思わなかったんです……それで、その、私の金貨の件も踏まえて決めたんですけど……」
金貨の件と聞いて、皆がごくりと生唾を飲む。もはや意識は完全にマナフィに向かっていたのだろう、忘れかけていたらしい。咳払いを一つして、淡々とした口調で話す。
「その、私は彼の分も払います。それでもこの金貨ではまだ御釣りが繰るようなので……30年間、ここのお得意様にしていただけないでしょうか?」
「「「「「「「「「「ええええっ!??」」」」」」」」」」
10匹の声が重なって奇妙な交響曲を生み出す。確かに無茶な方法だとは思うが、そうでもしないとこの金貨を使えない羽目になり、マナフィと一緒に無銭飲食者と成り下がる。個人的にはそれは御免蒙りたかった……
「どうでしょうか?二人でお得意様になれば、15年間。30年よりも半分の時間でこの金貨を使えますよ??先程ルカリオさんが言ってくれました。このお店を買って30年間は遊んで暮らせるような御釣りがくるって。でも、私はそんなものは要りません。ですから、お釣りの代金をここで使わせてください、15年分…いかがです?」
最後ににこりと微笑する。最後のは余計だったかもしれない。しかし、ニャースとシェイミはくすくすと笑い出した。
「ははははっ……確かに面白い条件ですね。でも、このお店を買われるよりはマシですね……分かりました!!今日から、貴方たち二人をこの店のお得意様とします!!いつでも食べに来てください!!」
「ふふっ。久しぶりに熱い気持ちを持ったポケモンに出会えました。まるで一年前のフレンドさんみたいです」
「ほ~、よかった~、このお店買われちゃったら僕体売ってお金稼がなきゃいけない羽目になったよ…」
「何をわけの分からんことを、……大体、そんなことは絶対に俺がさせない」
「うふっ、ありがと、ウコン」
「忙しくなりそうですね」
「大丈夫だって、何とかなるぜ?」
「やったねイリス。またふかふかのベッドで眠れるよ!!」
「ベッドの心配してたんだ…」
「……ひとまず、助かったのかな?」
「助かったとは、ちょっとだけ語弊がありますね…」
それぞれの喜びの声が聞こえる。私も凄くうれしかった。何せ本当にこの金貨を使えたことと、マナフィを助けることが出来たから……
「あの、えっと、その」
マナフィが顔を赤らめてこっちに話しかけてくる。にっこりとした顔で返してみる。するとマナフィはオクタンみたいな赤色を更に赤くして俯いてしまった。
「ほらほらっ!!君も助かったんだから、笑わなくっちゃ。気分がいいときや、うまくいったとき、幸せなときは笑いの顔っ!!イライラした時やむかむかしてる時は怒った顔っ!!どんよりしたときや悲しいときは悲しい顔っ!!喜怒哀楽が一番だよ!!」
それだけ言うと、私も笑う。それはもう嵐の後の綺麗な太陽のように…そんな顔につられたのか、私の言葉を真に受けたのか、マナフィも笑った。
「は、はい!!ありがとうございます!!」
「ほらほら!!気分いいときはハッピーハッピー!!」
お店の中は活気に溢れた。とてもとてもいい気分に満たされて、本当に外の世界に来て良かったと実感できた。空は夕焼けに染まって、喫茶店を明るく染め上げていた…
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ご馳走様でした」
「はぁい、お粗末さまです~」
あの後、大量のお菓子をぺろりと平らげたロールは金貨を責任者であるニャースに全て渡すと、ぺこりとお辞儀をしてお礼を言った。
「ありがとうございました。またお時間ができましたら二人で食べに来ます」
「はい、いつでもお待ちしておりますよ……ええと…」
ニャースはロールの名前を言おうとして少々口ごもった。そういえば全く名前を名乗っていなかった。まぁ、一般的に考えれば店長の名前を知る必要など皆無なのだが、ロールは今日付けでこの店のお得意様となったので、名前は教えておかなければならなかった。正直に言ってしまえば、何時までも名無しさんでは正直寂しい。
「えっと、ロールです。私の名前はロール」
「ロール様ですね?そちらの御仁は??」
「えっと、ぼ、僕は…僕はサワーといいます」
ロールが名乗ったあとに、サワーと名乗ったマナフィが深くお辞儀をする。ニャースはにっこりとして頷くと、
「ロール様にサワー様ですね。では、我々の名前もお教えしておきます……皆、自己紹介!!」
ニャースが周りできりきり動いているポケモンたちを呼んで、自己紹介をさせた。
「私はフラウ、といいます。一応フレンドさんの新妻です♪」
メイド服を着たシェイミが元気よく挨拶をする。
「僕はラック。そこにいるルカリオ君の奥さんだよ~」
きっちりとしたウェイトレスの服装をしたアブソルがニコニコしながら。隣でしかめっ面をしているルカリオを指して再度微笑む。
「私はウコンと言います…その、一応。ラックの…夫です」
ウコンと名乗ったルカリオはぼそぼそと小声で言いたくないといった顔で自分のことを呟いた。
「僕はパレットといいます。その、そこにいるハブネークの…嫁です…」
ザングースが恥ずかしそうに両手を絡ませる。
「俺はクロック。よろしく。パレットの夫だよ」
クロックと名乗るハブネークが尻尾をひらひらさせて挨拶をした。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕、アクロって言います……ええええっと……その、イリスの…恋人……なんです…つりあわないけど…」
「最後が余計だよっ!……えと、私はイリスって言います。アクロとは付き合っているんですよ…」
アクロと名乗るボーマンダは俯いてしどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。その隣でイリスと名乗ったフライゴンは両手を腰に当ててため息をついている。
「……ジェラードと申します……リブさんの、彼女です…」
「僕はリブって言います。ジェラードとは好き合っているんですよ。よろしくお願いしますね」
少し小さい声で、とても明るい声で。リブと名乗ったブースターとジェラードと名乗ったグレイシアがそれぞれ挨拶する。
しかし聞いてみると、ここで働いているポケモン達は皆恋人同士か結婚しているらしい。よくもまぁそこまで寄り添ったポケモン達が集まったものだとロールは感心していた。
「これで全員紹介し終わったね。では最後に私の名前を、私はフレンド。この喫茶店の店長をしております。先程紹介したフラウとは、結婚して一年目になります」
自分のことをフレンドと言ったニャースはにこりとして口を開いた。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
フレンドがそういって頭を下げると、全員が深々とお辞儀をしてロール達に再来店の挨拶を告げる。ロールはそれに笑いながら答えてサワーと一緒に店を出る。夕焼けは墜ち始めて、小さな星々が瞬き始めていた……
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください!!」
あたりが暗くなり、そろそろ洞窟に帰ろうと思ったとき、ロールは後ろから声をかけられて立ち止まる。いわずともがな、マナフィのサワーがロールを呼び止めていた。
「……なぁに?」
「どうして、その、助けてくれたんですか?」
いきなり不思議なことを聞いてきた。確かにそれは疑問だった。自分でもどうしてだろうと思ってしまうほど不思議な行動だったからだ。それはいくら考えても自分の頭の中では答えは返ってこない。ロールは少し咳払いをすると、シンプルな答えを返した。
「君が知ってる顔だったからだよ。知らない人なら助けない。でも、今回はうまくいったかもしれないけど、二度目はないよ?」
「………」
サワーは黙っている。ロールはくすりと微笑を浮かべて、サワーの鼻をつんとつついた。
「もう無銭飲食したら駄目だよ。じゃあね、サワー。今日はとっても楽しかったよ♪」
それだけ告げて、念力の力でふわりと浮き上がると。高速でもと来た道を戻っていく。風が部わっと舞い上がり、草木がざわざわと揺らぐ。
「………また、会えるかなぁ…」
一人残されたサワーは、小さくそんなことを呟いた。
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「なんか最近ロールがおかしいね…」
「おかしいのはエクレアも同じでしょう…」
ロールが外に出てから一週間がたった。ロールはその日からやたらと外に出て、夕方時になると帰ってくるということが多くなった。と、言うよりも、それしかしていない。エクレアはそれが面白くないのか、洞窟の冷たい意思壁に背中を預けて、自分で作った焼き芋をばくばくと胃の中に詰め込んでいた。薩摩芋の甘い香りが洞窟内を漂い、シフォンが芋の臭いと食べかすが充満した洞窟内をちらりと一瞥して嫌そうな顔をした。
「エクレア、汚いですよ」
「ん?ああ、御免。掃除しとくよ」
そっけなくそれだけ言うと、念力を使って食べかすをまとめて洞窟の外に放り出す。そうしてまた壁に背中をつけて芋を齧る作業に戻った。
「はぁ…そりゃ、確かにさぁ、僕達は別にいっつも一緒にいるってわけじゃないし、別々に行動しても罰は当たらないけどさぁ……でも、でもねぇ…いくらなんでも行き先も告げずにささっとどっかに行っちゃうのは感心しないなと思ってさぁ…もう心配で心配で…」
口調こそ軽いが、エクレアの金色の瞳は掠れて曇っていた。はぁ、と、ため息を一つついて、最後の一口を口の中に放り込む。
「それは確かにそう思いますけど、そんなに心配すること…ですけど、でも、あまり過剰に心配するというのもどうかと思いますよ?別にロールは戦えないわけではありませんし……それに、私たちがついていっても、どうにかなるわけでもありませんしね」
シフォンは焼きたての芋をひょいっと摘んで一口齧りながら、そんな言葉を吐き出す。その言葉が更にエクレアのため息を増幅させた。心配ない。それはそうだが、でも心配してしまう。仲良く三人一緒だったのに、あのときの友情はどこに行ってしまったんだろうかなどとエクレアは心の中で虚しい気分が膨らんでいった。
「………男でも出来たのかなぁ?」
ぽそ、っと、エクレアが呟いた一言で、シフォンは思い切り口内の芋を吐き出した。それがエクレアの体に思い切りかかって、エクレアがうぎゃあと飛び退いた。
「うわっぺぺぺぺぺぺ!!きったねー!!シフォン!何するんだよ!!」
「げほっげほっ!!すっ、すみません…でも、男って」
どんどんと胸を叩いてエクレアの言葉を考えてみた。男が出来た。それはありえないと思っていた。何せ外の世界のことを何も知らないロールが、異性を好きになるという感情にも疎いはずだったからだ。だが、ロールがそういう感情を覚えてしまうと、そういう感情が何倍にも膨らんでそういう道に一直線に進んでしまうかもしれない。何せ感情ポケモンだ。他のポケモンに比べて笑い上戸だし、他のポケモンに比べて涙もろい…それはいろいろと問題があるが、いろいろと楽しい性格だ。しかし、色恋沙汰となると話は別だ。シフォンはどうも落ち着かない気分になった。
「うう…男、男ですかぁ……うううううううううううう…」
「気になるなぁ……」
二人が洞窟内でうんうんとうなっては頭を抱える。自分のことじゃないのに、何だか知らないけど考えてしまう。それはロールが大切なのもそうだが、人一倍人懐っこいロールが物凄く心配だというのが一番だった。
「こっそり、こっそりですけど、ちょっとだけ様子を見に行ってみます…エクレアは留守番よろしく!!」
「は?えっ?ちょ……」
エクレアが反応する前にシフォンはふわりと浮かび上がると、ロールの残留思念を追って全速力で飛び立った。
「お~いちょっと……自分勝手に行動すんなーー!!」
一人だけぽつんと残されたエクレアは、思い切り大きな声を出した。しかしその声は洞窟に反響するだけで、エクレアは一人だけぽつんと残されてしまった…
----

「いらっしゃいロール…今日は何を食べるの?」
「ええっと…チュロス下さい」
「畏まりました」
暴走と錯綜を繰り返す二人の思考とは全くかけ離れた世界で、ロールは一人でアフタヌーンティーを楽しんでいた。時計を見ると午後二時だった。まだまだこの喫茶店で楽しめる時間帯だった…
「フフフ、本当に毎日来てくださるんですね…」
「毎日来ないと損ですから。ね、フラウさん」
ロールがお菓子を運んできてくれたフラウと他愛の無い会話を繰り返していると。喫茶店の扉が開いて新しいポケモンが入ってきた。
「いらっさ~い」
「真面目にやれ」
おちゃらけた挨拶をしたラックを、ウコンがぽこりと軽く叩く。扉を開けて入ってきたのは、マナフィのサワーだった。
「いらっしゃいませ。ロール様と同席でよろしいでしょうか?」
「あ、はい、全然かまいません」
サワーはロールと対極の席に座ると、ぎこちなく笑って、挨拶をした。
「や、やあ……えっと、その、こ、こんにちは…」
「あ!サワー!!来てくれたんだね…もう会えないのかなって思ったよ…」
「そ、そんな大げさな…」
サワーはははっと笑って適当なお菓子を注文した。注文を受けたジェラードが厨房にいるフレンドに注文を告げる。
「しばらくお待ちくださいね……」
ジェラードがにこりと笑うと、そのまま厨房に消えていった。それを見つめた後に、ロールがサワーのほうに視線を戻して、話しかけた。
「そういえば、サワーって海に住んでるんだよね?」
「え?あ、ああ、うん。そうなんだ…」
ちょっとしか好奇心から、ロールは質問をする。
「ええと、どうして陸地にいるの?」
「……」
「いや、深い意味は無いんだけどさ、マナフィって普段は海に住んでるんだよね?」
「……うん。まぁね」
「どうして陸地にいるのかなって思ってさ。いや、これは私の単純な疑問だから。いいたくなかったら言わなくていいよ…ははははは…」
「……海にいてもね、面白くないんだ。何でも出来るけど、何でもしてくれるけど……面白くない。満たされない……それが嫌だったから海から陸に上がってきたんだよ。僕は陸がどんなところか知らなかったし、興味もあった。機会があれば一度でもいいから行ってみたかった。それが叶って、今はとっても充実してるよ……」
「へぇ…海にいると何でも出来るんだ。……王子様みたいな生活してたんだね…羨ましいなぁ…」
確信をつくような発言に一瞬肝をつぶしたが、サワーは苦笑いをして首を横に振った。
「あはは、そんなにいいもんでもないよ。小うるさいポケモンが一匹いるしね…それに、そういう生活に憧れているポケモンもいると思うけど、僕はそういう生活が嫌なんだよね、あれしろこれしろって、何でもかんでも決められちゃうんだよね…不自由は無い代わりに、自分の自由は奪われる。そんな生活だったら、多少無理は利かないけど、こういう生活のほうがいいと思うな…」
そういって、瞳をキラキラと輝かせる。本当に今が幸せらしい。そんなサワーを見て、チュロスを齧っていたロールは少しだけ羨ましそうな顔をした。
「そっか、不自由の自由かぁ……サワーは心が豊かな環境で育ったんだね…私にはそういう経験が無いからよくわからないなぁ…」
「そうなんだ?」
「うん。私、今の生活が凄く好きだからさ、この今の日常が壊れて欲しくないんだよね……別にいきなりお金が入ってくるとか、急に王子様が現れるとか、身近な人が泡になって消えちゃうとか…」
最後の一言に、マナフィは不思議そうな顔をした。眉間にしわを寄せて、小首をかしげている。
「…泡??」
「あ、あ~…ご、ごめんなさい。最近聞かせてもらった物語のお話がまだ頭の中にこびり付いちゃってて…」
ぶんぶんと大げさにもろ手をふって謝罪をすると、ロールは食べかけていたチュロスを齧って、紅茶で無理やり流し込んだ。サワーは気にしていないといった顔をしているが、先程のロールの言動が気になるのか、腕を組んで思案顔をしていた。
「もしかすると、そのお話って、人魚姫?」
急に聞かれてびっくりした。といった感じだったが、何よりびっくりさせられたのは、サワーがそのお話のタイトルを知っているということだった。
「えっ?何で知ってるの??」
「僕が住んでいる書庫……じゃなくって、僕の部屋の本棚にそのお話が載ってる本があるんだ。童話集の詰め合わせって言うのかな?とにかく、そういう類のもの…」
若干書庫という言葉が引っかかった。しかし、そんな些細な言葉のしこりは気にせずに、ぱあっと顔を明るくしてロールは喜んだ。それは同じ話が出来る人だからなのか、詳細なことで熱く語り合える…俗に言うマニアの会話なのかは謎であった…
「そうなんだ!でも、凄く面白いお話だよね!!!先々に語られる臨場感とか、お話の展開とかが独特でさ…」
「そうだね。僕もあのお話は大好きだよ…読んでても飽きないしね…」
そういったサワーの顔は、どこと無く寂しそうだった。まるで言いたくないことを言わされたような顔。ロールはその顔を見て少し訝しげな顔をしたが、すぐにかぶりを振ってお話しの続きをした。
「私、思うんだ。あのお話を読んだあとに、もしも人魚姫が王子様と結ばれたらって…素敵だなって――」
「王子様なんていないよ」
それはひどくきっぱりとした言葉だった。がやがやとにぎわっている喫茶店で、周りの声が聞こえているというのにもかかわらず。サワーの声はロールの耳にハッキリと届けられた。
「えっ?」
「王子様なんてもの、この世にも、架空の世界にもいやしないさ。人魚姫はひょっとして、王子様なんてモノを勝手に作り出して死んでいったんじゃないかって最近じゃ思えてきたからね…」
それだけ言って自虐的に微笑む。ロールはそれを聞くことしか出来なかった。そういう話をし始めたサワーの顔は、まるで自分に当てはめているような感じがして、一概に物語を否定されたことを怒ることはできなかった…
「……御免よ、変な話になっちゃったね……僕は先に帰るよ…ごゆっくり…」
ご馳走様と小さく言って、サワーは店を出た。残されたロールはすっかり冷めてしまった紅茶に移った自分の顔を、じっと見つめることしか出来なかった…
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「王子……一体どこへ行かれてしまったのか…」
ぶつぶつと何かを呟きながら頭を抱えるカイオーガが一匹、それを横目で見て失笑を漏らすルギアが一匹…夜の深海は漆黒よりもなお暗く、深淵と言った方が適切な表現だった…
「少し落ち着いてはどうですか?ソーダ、貴方は私が思うにカルシウムとたんぱく質が不足しているように見えますから、もう少し甲殻類の殻でも食べてカルシウムとたんぱく質をですね……」
「やかましい!!」
一言怒鳴って一蹴する。それをみてルギア――ラムネは更に失笑した。何度も何度も笑われているのでさすがに腹が立ってきたのか、ソーダはいらいらしながらラムネを問いただした。
「ラムネ、お前は妙に落ち着いているな?いいことでもあったのか?」
「ええ、今日はいつもよりも十分くらい多く睡眠が取れました」
「ほう、それはそれはよかったな…って!!そんなわけ無いだろう!!お前も少しは危機感というものを持て!!王子がどこに飛ばされたのかも分からんのだぞ!!」
ソーダの言葉を右の翼でしっしと払ってから、にこやかな顔になってこう答えた。それはそれはいい笑顔だった。他人からみればまぶしいくらいだろう。
「心配は要りませんよ。王子は貴方とは違い節操は分かっている人ですから。先代の王の若いころにそっくりですよ…」
「そうじゃないだろう?王子のみが心配ではないのかお前は?往時に何かあれば先代の王に申し訳が立たんぞ!?」
ぜいぜいと荒い息で放すソーダを堂々と宥めてから、ラムネはゆったりとした口調で離し始めた。
「ああ、そのことですか。心配ないと思いますよ。転送された距離もたかが知れていますし、何よりも感じるんですよ。王子の気配を……案外この海の上にある陸地でぐうたらしているのではありませんか?」
「何だと?なぜそれを早く言わん!!」
「いえ、ですから推測ですよ。だから私の言葉を鵜呑みにして行動すると大変危険だと思われますよ。陸地のポケモンたちにも迷惑がかかりますし…」
「嘘か!!」
「ですから推測です……ソーダ、探さなくてもいいでしょう?こんな窮屈な宮殿に何年もいたらノイローゼになりますよ。たまには彼の我侭も聞いてあげなくては…」
ラムネはそういってくすくすと微笑を浮かべる。全く心配していない様子を見て、ソーダは益々頭を抱えた。
「おお、何たることか、先王よ、貴方の慕っていた重臣の一匹はとんだぐうたら者に変わってしまわれました…」
「人を怠け者みたいに言わないでください。鬱陶しい」
ソーダとサワーはそんな会話をしながら深海の遥か上を見つめる。深海の懐に、月の光は届かず、変わらない静寂が毎日を彩っていた…
「王子……」
「きっと帰ってきますよ…」
二人はそれだけ呟いて、真っ暗な世界の中を見続けていた。
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「いらっしゃいませ」
毎日変わらない言葉を言っていてよく飽きないなと思ってしまうけれども、それが仕事なんだから仕方ないと思う。ロールはいつもの席に座ってサワーを待った。何だかよくわからないけどそわそわしてしまう…何度も何度も時計を見ては落ち着かない気分になる。昨日の出来事が頭から離れないのだ…
王子さまなんかいないよ…
それだけ言った彼は何だかとても寂しそうで、見てられなかった。でも、彼がきてくれると思って気がつくとこの店のこの席に座って彼を待ってしまう…
「ロール」
はっとして目の前を見ると、サワーがいた。なぜかたっている…
「あ、えっと、おはよう…その、座ったら?」
「ちょっと来てくれない?」
え、と思う間に、彼は私の腕を掴んでがちゃりと店を出た。わけが分からないまま喫茶店から離れた町に来た。
「ここでまってて」
大きなビルや綺麗な店が立ち並ぶ町の中心の公園、その中央のベンチに腰掛けるとサワーがどこかへ消えていってしまった。
「………何なんだよ、もう…」
いきなり喫茶店を離れて、大きな町に来た。町、というものはあまり知っているわけではなかったが、シフォンの分かり易い説明を聞いていたときに大体把握していた。色々な物が行き交い、ポケモン達の笑顔が交錯する。そういうところだと記憶している。しばらくすると、サワーが両手に何かを抱えて戻ってきた。
「御免御免。待たせたかな?」
「待つのはかまわないけど、いきなり引っ張り出されてびっくりしたよ…」
「ごめん。はい、これ」
そういって、両手に持っていたものの片方を渡してくれた。不思議に思っていると、それから甘い匂いが漂ってくる。どうやらお菓子であることは間違いないようだ。
「……これ、なあに?」
「クレープだよ?」
「それは分かるけど、何でこんなものを私に渡すの?」
「えっと、だ、大丈夫だよ!!今度はちゃんとお金出して買ったから!!」
「いや、そんなことを聞いてるんじゃなくて…」
話の論点がかみ合わない。今日は朝っぱらからこんなことばかりだなぁと思いながらクレープに齧りつく。程よいイチゴの酸味と生クリームが見事にマッチしている。喫茶店で出されたクレープも美味しかったが、これも相当美味しい。
「わ…美味しいや」
「そ、そう?……よかった…」
「??」
急に安堵のため息をついた彼を見て、ちょっとだけ訝しげな顔をする。何がよかったんだろうか…自分が作ったものなら美味しいといってもらえば成功したと思えるが、これは明らかに買ってきたものだ。いろいろなことを考えていたら、先に彼が口を開いていた。
「ロール、甘いもの好きそうだったから、この間の御礼……まだしてなかったからさ……」
「へ?……え、そ、その…あ、ありがとう……」
急にそんなことを言われたから、顔が紅潮した。それが自分でも分かるくらいに、自分の心臓が高鳴るのが分かる……なんだろ、この気持ち、変なの…
「あのさ、ロール。他にも、食べたいものとか、行きたいところとかある?」
「へ?」
いきなりそんなことを言われても…いきたいところはありすぎるし、食べたいものは…今はクレープがあるからいいや…
「う~ん、特にないよ…それに、お礼だったらこのクレープで十分だよ…ん~、美味しいや…」
そういうと、かれは喜ぶような顔をしたけど、すぐに物足りないという顔をする…ころころと顔が変わるあたり、私と同じような感じでちょっと面白い。
「何だってするよ!……君の喜ぶ顔が見たいから………もっと、もっと君の……笑った顔が見たいから…」
「…………えっ?………」
そのときの顔は、多分一生忘れないかもしれない。……吸い込まれるくらい綺麗な瞳、真剣な彼の表情が、太陽に照らされてキラキラしていた……
その後のことは…思い出せない…
よく、覚えてない……
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「へい、ロール、おかえ………り?」
ロールが帰ってくるのを予想していたかのような爽やかな笑顔を迎えて、エクレアがお帰りを言おうとした瞬間に、ロールを見て訝しげな顔をした。
顔が紅潮していた。何を考えているのかは分からないが、いつもの笑顔がない。口数も少なくて、ただぼぉっとして天井を仰いでいるだけだった…シフォンも何事かと思ってロールをみていたが、ふらふらとおぼつかない足取りでよたよたと自分の寝る所まで寄ると、こてりと横になってしまった。
「……どうしたのさ?」
「何か………頭がボーっとして、体が熱くて、胸がどきどきして、いろんな意味で苦しい……どうしちゃったんだろ…」
「………?何かあったの?」
「……風邪でしょうか?」
二人は熱っぽいロールの顔を見て不思議そうな顔をする。しかし、たいしたことはなさそうだと判断したのか、大丈夫と思ったのか、ロールにあまり近づかないようにして、すやすやと眠り始めた。
「むぅ…やっぱり風邪かなぁ……でも、頭は痛くないし、喉がひどく痛むわけでもないし……」
はぁ、と、ため息をついてロールは床に突っ伏した。寝転んで思い浮かべることは、今日の出来事。不思議な町に来て、そこでサワーの思いがけない一言を聞いた。あんな言葉を言うなんて思いもよらなかったし、何よりも自分に向けていったことが一番度肝を抜いた。なぜ自分だったのか、それが一番の謎なのかもしれない。
「……わかんないなぁ…サワー……今頃どうしてるのかなぁ……何でこんなこと思うんだろ…どうしてこんなこと考えるのかなぁ…」
いまさら考えても仕方がないことだが、考えてしまう。どうしてこんな気持ちが思い浮かんでくるんだろうか…誰かに会うまでは、そんな感情など微塵も思い浮かぶことのない感情だった。知っているポケモンはシフォンとエクレアだけ、外の世界には興味はあったけれども行く事は出来ずに悶々とする毎日を過ごしてきた……でも、一度外に出て、いろんなポケモンたちとであって、それでいろいろな体験をして。そして、その中の一人…サワーに出会った…
「……何どきどきしてるんだ私は……もう寝よっと……」
もやもやした気持ちを抑えて、壁に身を預けて瞳を閉じる。目の前が暗くなってから十秒、二十秒、三分たってようやく諦めた…眠れないのだ。
「ううん…どうしよう……星でも見れば眠れるのかな?」
のそのそと寝床から移動して、よたよたとした足取りで洞窟の外から出て、満天の星空を見上げた。暗闇に所々瞬く星達を見て、はぁ、とため息をつく……綺麗な夜でも、ロールの頭の中は別のことを考えていた。じっと夜空を見上げれば眠くなると思ったのに、むしろ目がどんどん冴えて、益々眠くなくなる…
「はぁ、どうしよう…体でも動かせば眠くなるのかな?…」
よっこらせと立ち上がり、たいそうでもしようかと思った瞬間、ぐらりと周りの景色が歪む…はっとして周りを見ると、時間が止まっていた。樹も、地面も、水も、全てが止まっている。ロールがいぶかしげな瞳で空中を見つめていると、ぐにゃりと空中が歪んで、一匹のポケモンが姿を現した。
「悩み事か?感情ポケモンが悩むと一時間ぐらい悩み続けるだろう…ロール」
「……余計なお世話ですよ…バジル様……」
ロールは恭しく頭を下げて、現れたポケモンに挨拶をした。青色と銀色の綺麗な色合いに、赤い瞳がよく映えている…このポケモンは――ディアルガ…ルーツと並ぶくらい偉いポケモンだ。
「……何ようですか?貴方のようなポケモンがこんなところに来て…」
「まぁ、そう言わないでくれ…ようやく逃げてこられたのに……」
「……また?ですか?」
ロールはため息をついてバジルを見上げる…ディアルガというのは時間を操るポケモン。この世界の時間はディアルガの心臓が動いている限り流れ続けるといわれている…その反面、ディアルガと対を成す空間を統べるポケモン…パルキアが呼吸をする限り空間は安定し続けるという伝説が残っている…真実を知るものは少ないが、少なくともロールたちとルーツは知っていることだった。ロールが腰に手を当てて、バジルを叱り付ける。
「まじめに仕事をしてください…ペッパー様に怒られるのはバジル様がずぼらでいい加減な性格だからでしょう?このところ変にここが歪んでると思ったら、毎日毎日ここでズル休みしてたんですね?」
バジルがしかめっ面をしてロールを見つめる。神様のくせに面倒くさがりというのも珍しいケースだ…
「おいおい、お前まで説教か?勘弁してくれ…」
「いえ、こっちのほうが勘弁して欲しいんですけど……とにかく、ペッパー様に連絡をば…」
ロールはそういってありったけの念波をペッパー――パルキアに送ろうとした瞬間、ぺしりとバジルに頭を叩かれた。
「いった!!」
「やめんか!!」
バジルは冷や汗を流してロールを見た。痛む頭を抑えてぎろりと睨み付けると、少しだけたじろいで数歩後ずさる…神様のくせに恐がりらしい。
「女の子に手を上げるなんて最低ですね……いい死に方をしませんよ?
「いきなりそんなことをしようとするお前のほうが最低だろうが!……まったく、私の心臓を止める気か!?」
「ええ、ぜひ止まってください。…死んだらルーツ様にもう少しマシな貴方を作ってもらうように掛け合ってみます」
「空恐ろしいことをさらりと言うやつだな……」
「はぁ…ちょっとたったらすぐに帰ってくださいよ…」
そういうと素直に頷く。素直でよろしいです。といって、もう一度夜空を見上げる。時間が止まってしまった世界はその空間だけ灰色に染まってしまう…美しい光も濁って見えなくなっている…再度ため息をついてごろりとねっころがる。
「それにしても、ロール、お前はどうしてこんな時間に起きているんだ?いつもならぐうぐう眠っていると思うんだが…」
「人の寝顔を覗かないでください……いや、その、へんなこと考えてたら眠れなくって…」
「変なこと?」
バジルが興味津々と言った顔で顔を覗き込んでくる。そのときの自分はひどくみっともない顔をしていたに違いない。誰に話すわけでもなく、気がついたら語りだしていた…
「今日、気になるポケモンに……私の笑った顔が見たいって言われて…それで……いつもよりも真剣な顔してたから……そういう言葉にどういう風に返せばいいのか分からなくて…」
「ふぅん…よくわからないけど、もう少しちゃんと喋ってくれ、いきなりそんなこと言われても全く話が読めない」
バジルに言われて…少しだけ躊躇ったが、はぁ、と息を吐いて、全部を話した。助けたポケモンのこと、外に出たこと、そのポケモンといろいろ話したこと…全部話し終えると、バジルが口に手を当てて思案顔をしていた。
「ふ~ん…ロール、お前はどう思っているんだ?そのポケモンのことを…」
「どうって、友達ですよ…」
「本当にそれだけか?相手はお前のことを違う目で見ているのかもしれないぞ?…そうだな、たとえるなら異性として…または、片思いの相手として……そう思っているから、さっき言った言葉なんかが出てくるんじゃないかな?」
「そうなんですか?……私には分かりません。あんなにまっすぐな言葉をぶつけられたら…なんていっていいのか…」
下を向いてしょんぼりとする姿を見て、バジルがはぁ、とため息をついて隣に座る。
「迷ってるんだな?ロールは人一倍感情が強い。そういう気持ちを知らないからどんな風にしていいか分からないから迷ってしまう…それでもいいと思うぞ。迷わないよりは迷うほうがいいことだってある。迷って迷って、考えて考えて、それでも答えに辿り着かない時だってあるんだし…まだ答えを出してないうちは迷ってたほうがいいぞ…」
「………………………」
黙ってしまう。事実を突かれたから、言いたいことを先に言われたからなのか…
「まぁ、私が言えることはほら、アレだアレ」
「アレじゃ分かりません。宇宙語を喋らないでください」
「かわいくないやつだな。まぁきけ、ロール、お前はシフォンの話す昔話が好きだったな?」
「はい。架空の物語でもそこにはドラマが存在します。それがどんな風に展開していくのか、聞けば聞くほど続きが気になります…」
目を輝かせて語る当たり結構やばい性格なのかもしれない。自覚しているだけいいかもしれないが自覚してなかったらかなり危ない人なのかも、などと考えているとバジルが更に話を続けた。
「そうだな、さしずめ今のロールを当てはめるとしたら、…"人魚姫"だな…」
「……………………人魚……………姫??」
「ああ、そうだ。今のお前は迷っている人魚姫にそっくりだな。自分の声と引き換えに足を得るのか、それとも今のままの自分を王子に受け入れてもらおうと考えるのか…まぁ、結局最後は泡になっちゃうんだけどね…」
「………泡……」
「迷うのはかまわないけど、迷いすぎるなよ?……今のロールがどうしたいかが肝心なんだ。泡になって消えたいのか、それとも自分の気持ちを正直に伝えたいのか…選ぶのはお前だけど、泡になって消えるなんて選択肢だけはとらないでくれよ…」
「…………うん」
「まあ何だ。自分の気持ちをあまり押さえ込むなって事だ。考えてもだめなら、当たってみるのも一つの手だからな。……そろそろいくかな。戻らないと怒られる」
「……もうここにこないでくださいね」
「それは断る」
最後に短く言うと、バジルが空中に浮き上がると、もと来た空中からぐにゃりと空間を歪ませて、消えていった。その瞬間に灰色の空間がぱちんとはじけて、周りの時間が流れ始める…「今の自分のきもちかぁ……」
残されたロールはその場にとどまって、試行錯誤を練っていたが、やがて大きなあくびをした。今頃になって眠気が襲ってきて、出てきたときと同じような動きをして洞窟の中に入っていった…
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「いらっしゃいませ……どうしたんですか?ロールさん何だか元気がないですね…」
ジェラードさんに言われてはっとした。入り口でぼぅっとして迷惑をかけているということにも気付かないくらいに頭が回っていなかった。…何を考えていたのかも忘れてしまうくらいに、昨日のことが蘇る…
迷うのはかまわないけど、泡にだけはなるな……
そういわれて、自分は一体何をしたかったのか分からなくなってきた。サワーを助けたのはどうしてなんだろう。自分がここに来たのはどうしてなんだろう…どうして、昨日のバジル様の言葉が頭に引っかかるんだろう…
「あの、ご注文は何になさいますか?」
再度ジェラードさんが尋ねてくる。物凄く心配そうな顔をしていた。コーヒーを頼んでから、ぺしぺしと頬を叩く。
「私が……人魚姫かぁ……」
バジル様の言葉を口から放ってみた。どうして人魚姫なんだろうか…何を迷うというのだろうか……
「うぅん……あんまり考えても何も思いつかな――」
「やぁ…ロール……」
いきなり声をかけられてびっくりした。気がつくと目の前にサワーがいた。ニコニコしてこっちをみている。それをみているだけで何だか恥ずかしくなって顔を紅潮させてしまった…おそらく、昨日の出来事があったからかもしれない…
「あのさ、今日も、何処かに行かない??」
「えっ?……」
急にそんなことを言われるとどきりとしてしまう。昨日はいきなり連れ回されたからびっくりしたけど、今日はどきりとする。急にそんなことを言われても返答に詰まってしまう。しばらく沈黙していると、サワーが控えめに口を開いた。
「僕さ、外って、どんなところかまだよく知らないんだ。……それでね、ロールと一緒に見ることができたら楽しいかなって……だめかな?」
それだけ言って恥ずかしそうに頭をかいた。それを見ていると、つい最近までの自分を思い出す。外に出たいということだけを夢見ていたけど、危険だからでなかった。外に憧れるという気持ちはあるけど、恐いからでなかった。サワーは、あのときの自分とよく似た顔をしている。……そのときの気持ちを自分はよく知っている。
「うん、いいよ。私もいろいろ見てみたいから……いこっか!!」
「!!うん!!」
サワーの手を繋いで、離さないようにして喫茶店を出る。…そのあとに現れたジェラードなど、完全無視である…
「あの、ロールさん…コーヒー…飲まないんですか??」
その言葉、全く聞こえず。がちゃりと喫茶店のドアを開けて、外に出てから二人が浮遊してその場を去ってから、不思議な二つの影がざざっと現れた。
「ね、見た…?やっぱり…」
「お、男……なんですね…やはり…」
二つの影――シフォンとエクレアは揃って顔を見合わせた。
「凄いね、先を越されたよ……」
「……認めなくては、いけないのでしょうか……いつまでも一緒にいられないというのを……」
どうかな?とエクレアがくすくすと笑いながら去っていく二人を見つめる。
「僕達ずっと一緒にいられない…でもいなくなるわけじゃないんだからさ、…あの二人のこと、もう少し見てみようよ……」
「……そうですね……少しだけ、様子を見てから決めないと駄目ですよね…」
シフォンはこくりと頷いて、去り行く二人を見つめる。エクレアがこそこそと二人の後を追う後ろにぴったりとくっついて、シフォン達はあとをつけていった…
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「見て見て!!サワー!すごいや、とっても綺麗な湖があるよ!!」
「こっちには物凄く綺麗な花畑があるよ!ロール!」
はしゃぐ、とにかくはしゃぐ。二人は跳んだりはねたり回ったり。いろいろなところを飛び回って、いろいろなものを見て、いろいろな所にいって、すっかり心が舞い上がっていた。
「はぁー…疲れたね…ちょっとだけ休憩しようか…」
「うん、賛成だね…」
サワーが自然に整備された芝生にとさりと身を預けて、ロールもそれをまねする。そよ風が吹いていて、体を休めている二人の体にさらりと流れ込む…
「ひゃあー、気持ちいいや……」
「こういう場所で休めるのって結構幸せだよね……」
風に体を預けて、二人はしばらく静かな時間を楽しむ。太陽は湖の水を光らせて、水面を美しく彩る。そんな風景を見て、しばらくたってから、唐突にサワーが口を開く。
「ねえねえ、ロール…」
「ん?なに??」
「どうして君は、僕を助けてくれたんだい?」
唐突に口を開いて言った唐突な言葉。それは深い意図を持つわけでもなく、意味深な言葉でもない。ただ単純に思ったことを言った言葉。それでもロールは若干どきりとしてしばらく考えていた。どうして助けたのか…理由は特に思い浮かばない。なんとなくとか、しってたとか、そんな感じだろう。
「どうしてって言われても…」
「最初にあったときさ、僕、君に物凄く失礼なこと言ってたからさ、あのときのこと、根に持ってるんじゃないかなって…」
最初にあったとき、確かにサワーは物凄く失礼なことを言っていた様な気がする。しかし、不備を指摘されてから人が変わったように慇懃無礼になったため、怒るというよりは物凄くびっくりした。それ故に、最初にあったときの印象は覚えていないというのが事実だった。
「いや、別にそんなことはないけど、でも、何ていうのかなぁ……サワーはさ、私によく似てたんだよね……自分の周りのこと以外は全然しらなくて、興味はあっても、危険だから近寄らない…サワーはそれと逆の生活してるように感じるな。自分の周りには全部あるけど、今の時間が満たされてないみたいな感じ……だから助けたのかなぁ…同じ感じだったからなんていう変な理由だったけどね?」
はははとから笑いする。しかしサワーは訝しげな顔をして、ロールのことを神様でも見るような瞳で見つめていた。
「………ロールって、サイコメトルでも使えるの?」
「え?ああ、うん、使えるけど、今のは完全に想像して言っただけだから…僕はサイコメトルは使いたくないんだ。何だか覗き見してるみたいで嫌な感じがする…」
そっか、といってサワーはキラキラ光る湖を見つめて小さなため息をつく。
「僕の生活を想像であてちゃうなんて、ロールはよく他人を見てるんだね……」
「あははは…想像すればするほど、サワーって王子様じゃないのって思えるけどね…」
「ははは、何それ、僕は王子なんかじゃないってば…」
また王子という言葉を否定するようにサワーがそういったが、今度は別に拒絶をするような口調ではなく、別にそんなものじゃないといった軽い口調だった。
「王子じゃないけど、そういう生活はしてたよ。周りには何でもやってくれる人たちがいて、そのせいなのかな、ロールが言ったみたいに我侭に育っていって…自分が何かをしようとすると、それを勝手にやってくれて、何処かに行こうとすると、すぐに誰かがついてくる…」
「……」
「朝から夜まで、付きっ切りに誰かがついてくるんだ。僕は一人で何も出来ないポケモンになっちゃっててさ…一人になりたいって思ってたんだ。一人になって、いろいろなことをする苦労を味わわないと…いつか絶対後悔するときが来るって思ってたから…」
「そうなんだ…」
「だからさ、こういうところに来て、いろいろやったんだ。畑を耕すのを手伝ったり、雑草を抜き取ったり…そういうことをやってさ、初めて何かをすることの苦労と、それをやれることの喜びを知ることができたんだ……」
サワーはキラキラと輝く瞳で自分のやってきたことを熱っぽく語る。その姿を見ていると、幸せなんだと感じさせるような姿だった。
「それで、自分の力で稼いで、買ったのがあのクレープだったんだよ…ほら、ロールあの喫茶店で食べてたクレープ美味しいっていってたからさ…」
そんな大切なものだとは知らずに、ただ単純にパクパクと食べていたのか…そんなことを思いながら、ロールは何だか自分がひどく恥ずかしくなって、俯いてしまった。そんなロールの姿を見て、サワーはふふっと笑いながら話し出す。
「気にしなくていいよ。あれはもともとお礼をするために買ってきたものだったんだからさ……外に出るといろいろなことがいっぱいある…それを知ることもできたし、ロールみたいな、優しいポケモンに出会うことも出来た……今なら分かるんだ、今の僕は、満たされてるって…」
「サワー……」
太陽の光が強くなって、サワーの顔に若干の陰が射す。そのせいで顔を見ることはできなかったけど。たぶんその顔はとても生き生きしていたことだろう。ロールは何だか嬉しくなって、よかったよかったと一人で頷いていた。
「僕、君に出会えてよかった。君と一緒に過ごせてよかった。………君を好きになれて……凄くよかった」
えっ?と、一瞬だけ時が止まったような感覚に襲われる。自分のことが、好き…。バジルの言っていた言葉が蘇る。
相手はお前のことを異性として認識しているのかもしれないぞ……
その言葉が頭に残る。バジルの言っていたことは本当だった。自分の事をそんな風にみていたなんて全然知らなかった。自分の頭の理解力の遅さに呆れてしまうが、サワーは確かに言ったのだ。君を好きになれてよかった……と。
「……だけど、もう時間みたいだ……もうすぐ来てしまう…」
「…?」
何がくるのだろう。と、不審に思っていたその刹那、湖の水面がゆらり、ゆらりと静かに動き出す。はじめは緩やかな動きだったが、徐々に激しくなり、水が激しく渦を巻き、ごうごうと音を立てて水しぶきが上がる…
――と、いきなり水が舞い上がり、巨大なポケモンが一匹、姿を現した。
「うひゃぁぁぁぁっ!!」
「やっぱり来たのか…ソーダ…」
サワーが静かに現れたポケモンを見続ける。ロールは悲鳴を上げて現れたポケモンをみた。巨大な魚のような風貌に、赤と青の体色…まるで夢か幻を見ているようだった…。
巨大なポケモンは、サワーの前まで近づくと、恭しく頭を下げて、耳を疑うような言葉を発した。
「ようやく見つけましたよ……王子…」
「お前の気配はしていたからな。なんとなく覚悟はしていたよ…」
二人はまるで知り合いのように会話を繰り返す。――しかし、ロールは違った。魚のようなポケモンの放った言葉を聞いて、己が目と耳を疑った。
「おう…じ……?」
「……違うよ。僕は王子なんかじゃない……君と会っているときはただのサワーだよ…」
「何をおっしゃられるのですか王子!!もうこんな戯れはやめて、いい加減に宮殿にお戻りください!!もうじき挙式の日も近いというのです!!このような場所で油を売っている暇はないのですよ!?」
「それはお前の考えだろう?自分の考えを他人に押し付けるな。僕はここに来て少なくとも、苦労や他の人の暖かさを知った。油を売っていたつもりは毛頭無い!!」
「貴方様は苦労など知る必要はないのです。貴方は王になり、一刻も早く今の深海の世界を統治してください…」
二人の会話が続いている中で、ロールは未だに状況が飲み込めなかった。ぐるぐるといろいろなことが渦巻いて、ロールの頭の中をくちゃくちゃにかき回す。
王子?深海?サワーが王子??
「サワー…どういうこと??」
「それは――」
「そこのお前!!お前か!?お前が王子を連れまわした張本人か!?王子はお前のような下民が口を利ける身分のものではないのだぞ!!」
「えっ?……そんな……私…そ、そんなこと…」
いきなり犯人扱いされて、ロールはもう何が何なのか全く分からなくなってきた。分かることは、唯一つ。サワーが嘘をついていたということだけだった……
「下がれ、ソーダ。ロールに無礼を働くな。お前も先王の重臣ならばそれ相応の器量を見せろ。それに…ロールは僕の友達だ…」
「……はっ、申し訳ありません…」
サワーがそれだけいうと、ソーダと呼ばれたポケモンはまた恭しく頭を下げて、サワーの言葉を待った。
「お前の言い分は分かっている。………僕は宮殿に戻る。必ず戻ると約束しよう…だから、もう少しだけここにいさせてくれ…」
「…………………御意に…」
短くいうと、魚のようなポケモンは出てきたときと同じように。大きな音を立てて水中に消えていった…
残されたサワーとロールは、何をどう切り出せばいいのか分からずに、ただぼうっとたっていた…
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「騙すつもりはなかったんだ……言い出せなかった……」
誰もいなくなり、静かになった湖の辺で、サワーがぽつぽつと語りだす。ロールは黙ってそれを聞いていた。
「君といる時間を壊したくなかったんだ。…君を失いそうだった……」
サワーの声は何処か重苦しい。まるで世界の終焉を予言するような感じだった。ロールはしばらく黙っていたが、やがてすう、と、息を吸って、静かに言葉を吐き出した。
「王子様だったんだね……王子様じゃないっていってたのに…」
「君といるときは王子なんて身分じゃないよ。ただのサワーだよ…そういう風に、思いたかった」
サワーはそういって辛そうな顔をする。ロールはふぅん。と、生返事をして湖を見つめる。
別に王子だったことが嫌なわけじゃない。別に騙されたことに憤りや怒りを感じているわけじゃない。…なのに、胸はもやもやを抱えたまま、じっとりとしている………。
「結婚間近だったなんてね……さしずめお相手は王女様ってところかな?……婚約者がいたのに私のことを好きだって言ってたんだね…」
何だかよくわからないけど、今の私はひどくいやな顔をしていることだろう。そう感じるほどに、心の中に出来たささくれが、どんどん大きくなっていくことがわかる…
「ち、違うよ。それは――」
「――結婚式の日はいつかな?……私も行って祝福してあげるよ…」
「ロール…僕の話を――」
「バイバイ。もう会うことはないかもね。……さよなら……っ!」
泣くまい。と、思っていたけど無理だった。いつの間にか流れた涙が頬を伝って地面に吸い込まれていく。顔を見られないように瞳をごしごしと擦って、念力で飛び上がる。そのまま洞窟の方向へと凄い速さで飛んでいく。
「うっ…ぐすっ…ひっく……」
知らないうちに涙が流れて流れて、空を飛んでいる最中にずっと泣き続ける…もっと早く飛べば、もっと激しく動けば…この悲しみはちょっとでも和らぐのかな?
そんな思いを胸のうちに抱いて、飛ぶ。飛ぶ。飛び続ける…ひたすら何かを振り払うように……考えていることを全て吹き飛ばすように…
飛んでいるうちに、涙も出なくなった。それに、洞窟にも着いた。洞窟の中に入って、こてりと横になる。そのまま動かずに、声だけを発した。まるで、そこに誰かがいるかのように…
「シフォン、エクレア。そこにいるんでしょ。僕達のこと、ずっと見てたんでしょ?」
そういった時、洞窟の入り口に二つの影がさす。申し訳なさそうに、シフォンとエクレアが入ってきた。
「ご、ごめんなさい」
「覗き見るつもりじゃなくて…その、心配だったから」
二人は全てを知った。いや、知ってしまったといった顔つきで、申し訳なさそうに俯いていた。ロールはごろりと仰向けになって、二人の顔を見ることも泣く、こういった。
「ねぇ、二人とも………私、馬鹿なのかな?」
冷静になろうとしても、なれない。自分が感情ポケモンだから。どれだけ考えても、何を考えても、考えを忘れ去ることが出来ない。すぐに体が熱を持って、無理やり思い出させるようにサワーのことを思い浮かばせる。
「……やっぱり、あのマナフィのこと、好きだったんですか?」
シフォンの問いに頭を少しだけ揺らして、考える。サワーとは数日前にあったばかりで、関係も薄い。…たぶん彼をそんな風に見てしまったのは、シフォンの言ったとおり、感情の抑制装置が壊れているからなのだろう。
「好き。凄く好き…そう思っちゃう……だって私…感情が他のポケモンより強いから…でしょ?シフォン…」
「……それ、本気で言ってるんですか?それが本当に貴方の本心なんですか?」
強い口調でそういわれる。本心だ。紛れもない本当の気持ちだった。一方的に別れを告げてから、胸のささくれが取れない…それは未練がましくサワーのことを思っている証拠だろう…
「本気だよ…私、サワーのことが好きだよ…」
「……だったらさ、何であの時別れちゃったのさ…好きなんだろ?」
エクレアの言葉を聞くと、若干の後悔が顔を出してしまう…そんな風に言わないで欲しい…まだ未練が残っている。でも――
「無理だよ……だって、かれは王子だし……私は……そうだね、人魚姫だよ…」
「………人魚姫?………あの御伽噺の人魚姫??」
うん。と頷いて、体の上半身だけ起こして、俯いて泣き始めた。乾いた頬にまた水の感触が伝わる……本当に自分は涙もろい。
「だって……好きでも………好きになれない……か、かれは…王子で、私は…ただのポケモンだもの……泡になって消えちゃうような存在なんだよ?……自分の気持ちを伝えても、彼にはもともと思ってる人がいたんだから…私の気持ちなんて……意味がないよ…」
ぐずぐずと泣きながら言葉を搾り出す。途中で何を言っているのかも分からなくなるくらいに、自分の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた…
「それ、おかしいよ!……好きなんでしょ?嫌いになれないんでしょ?……自分の思いを伝えてないのに……自分の思いが伝わらないなんてどうして思えるのさ!!」
エクレアが強い言葉で自分の考えを否定した。啜り泣きをやめて顔を拭いて、エクレアを見つめる。強い気持ちが瞳に宿っていた。
「でも…」
「僕以外の人にも聞いてみて。相談してみて。……きっと僕と同じことを言うと思うから……」
エクレアはそれだけ言うと、岩壁に体を預けて静かに瞳を閉じる。シフォンが何かを考えているような顔を見せたが、すぐにいつもの顔に戻って、短くこういった。
「ロール。貴方が好きになった人は…貴方のように思っていますか?」
「………」
それだけ言うと。ゆっくりとした動作で、エクレアの隣に身を寄せて、人形のように動かなくなる。すやすやと規則的な呼吸音を繰り返して、眠っているということだけを告げる。外はまだ昼間だ。二人とも本当に自分のことを心配してくれていたのだろう、相当疲労が溜まっているようだった…
「……他の人に、聞いてみる……」
ロールはゆっくりとした動作でもう一度体を浮かして、洞窟を出て行った。他の人に聞いてみる。それは、ある一つの場所をさす言葉に聞こえた。ロールがサワーとの再開のきっかけになった場所であり、大切な思いが詰まっている場所でもあり、お得意さんになっている場所でもある…その場所に向かって、力を込めて飛び立った…
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「いらっしゃ…ロールさん……どうしたんですか??」
笑顔を運ぶ喫茶店。ミルクアートのドアをがちゃりと開けて、笑顔で迎えてくれたジェラードさんの顔を見て、どれだけ自分がひどい顔をしているのかがなんとなく分かったような気がした……ジェラードさんは凄く心配そうな顔をして、自分のことを見つめていた。
「あ、大丈夫です……今日は食事に来たんじゃなくて……その、皆さんに聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと?……そういえばサワーさんの姿も見ませんね……ここ一週間くらい二人で何をしてたんですか?……まさか、不順異性交ゆ――いたっ」
「何を言ってるんだこの被害妄想さんは……ロールちゃんやサワー君がそんなことするわけないだろ?ジェラード、変な想像しすぎ……」
ため息をついて、リブさんがやってきた。相変わらずの笑顔でお客さんに食事を提供しているんだろう。仕事をしているときの瞳に一点の曇りもない。それはそれは綺麗な青色をしていた。
「それで、聞きたいことだっけ?今は忙しいから、席に座ってお客さんが落ち着くまで待っててもらえるなら、フレンドさんに頼んで早めに閉めさせてもらうよ……それでいい?」
「はい、ありがとうございます」
じゃ、この席で待ってて。といって、リブさんはにこりと笑ってそのままカウンターの奥に消えていく。指定された席は…いつも座っている場所じゃなくて――
――サワーが最初に、座っていた場所…
「ふぅ……」
椅子に腰掛けてから、そういえばこの席に座っていたっけ?などと記憶の糸を手繰ってしまう。そんなことを考えているからいつまでも未練のように引きずるのだろう。ずるずる、ずるずると……
「待ってるだけじゃ、喉が乾くと思いますよ~?」
いつの間にか目の前にいた白と黒の物体。アブソルのラックさんがにこやかな顔をしてコーヒーを持ってきてくれた。いつもニコニコ、笑顔を絶やさない。でも、恐いときには本当に恐い。何だか不思議な感じのするポケモンで、話をしているととっても安らぐ感じがする。ラックさんは根がとっても優しい人だからだろうか…
「でも、喉、渇いてません。お腹もすいてません…」
ラックさんの好意を思い切り無下にするような無神経な発言だった。行ってからはっとしてごめんなさいと謝る。ラックさんはきょとんとしていたけれども、すぐににこやかな顔になった。
「別に気にしていないですよ…でも、もったいないのでそのコーヒーは僕がもらっていいですか?」
「……へ?あ、あ~…いいですよ?別に…」
いきなりそんなことを言われてちょっとだけ気が抜ける。肩透かしを食らった気分だ。気分がいつも一定で、マイペース。そんなことすら感じさせない。でも、それがラックさんらしいんだろう……
「ぐびぐび~……ぷはぁっ!!うまいっ!!……と、いってみる♪」
「ははは……元気ですね…」
まだ熱を持っているコーヒーをぐぐっと飲み干してからにっこりと笑う。熱くはないというのだろうか。猫舌な自分にとっては羨ましい限りだった。コーヒーも紅茶もお茶も、全て温くなってからしか飲むことが出来ない。全くお茶の意味がない。
「ロールさんは元気ないですねぇ……失恋ですか?」
心の中をついたようにラックさんの発言が自分の胸に突き刺さる。どきり、と、心臓の鼓動が高鳴るのを感じる。バクバクと脈動し、血がどんどん熱くなっていくのが分かるくらいに――動揺していた。
「い、いえ……そんなんじゃ…」
「話せばすっきりしますよ?」
「ですから――」
「――話せば……すっきりしますよ?」
じっと見つめられる。何でもどうぞといわんばかりに瞳が輝いている。その姿勢のまま五分、十分……この人には何をやっても叶わないだろうな。などと半分諦め、少しだけ躊躇ってから、話し出す。
「その、……あるポケモンに好きだといわれたんです……」
「……」
「でも、そのポケモンは…王子様で、私は、珍しいだけの一ポケモンにすぎません……」
「……」
「ふられたというよりは……ふるしかなかったんです……好き合うには……」
「身分が違いすぎますか?」
言う前に言われて、何もいえなくなった。その通りであるし、そうとしか思えない。そもそも向こうには婚約者もいるという。勝負などしても無意味だ。きっと相手はお姫様だし、こちらはただのポケモン…勝てるはずもない。
「はい……ですから…気持ちが浅いうちに諦めたほうが私のためにも……向こうの為にも幸せなんだと思います」
「僕はそうは思わない」
喋ったあとにいきなり否定されて、びっくりした。ラックさんが今までのどんな顔よりも真剣な眼差しでこちらを見つめていた。唖然としているといきなりずずいと顔を寄せてきてこういった。
「ロールさん……人を好きになるのに必要なのは何だと思う?見た目?地位?権力?………そうじゃないでしょ?本当に必要なものは、その人を好きだっていう心だよ。その心があれば、身分だろうが地位だろうがそんなものは小さいものになるよ?」
「えっ?」
「それとも………ロールさんは相手と自分がつり合わないと好き合えないとか考えているの?……だったら店長とフラウさんなんか好き合えないよ?」
「………えっ?」
ラックさんは少し早めの口調で一気にまくし立てたあとに、ちょいちょいと人差し指でフレンドさんとフラウさんを指差した。二人は協力しながら仕事をしている。たまにフラウさんがちょっかいを出して、フレンドさんに頭を叩かれる。むすっとした顔をしていたけれども、すぐに笑顔になる。そんな二人を見ていると、本当に幸せなんだろうと思える。
「ね?あの二人、幸せそうでしょ?ロールさんの言った言葉……自分とつりあわないなら好き合えないって言うのなら、あの二人なんかまさしくそれに入るよ?」
「ど……如何してなんですか?」
聞きたかった。あんなに仲良しの二人が自分の言っていた言葉の通りで好き合えないのなら。どうして好き合えないといえるのだろうか…それに大きく興味があった。
そんなこちらの反応を見たのか、ラックさんはこほんと咳払いを一つしてから、短くこういった。
「答えは簡単。彼女が&ruby(・・){伝説};のポケモンで彼が&ruby(・・){普通};のポケモンだからだよ――」
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「どういう、ことですか?」
思わず聞き返してしまった。まるで何も聞いていなかったかのように…ラックさんは再度。同じことを言う。
「フラウさんが伝説のポケモンで、フレンドさんは普通のポケモン……これは君が言っていた"王子様と珍しいポケモンの差"と同じようなものだと思うけど?」
そういわれて、はっとした。確かに、フラウさんは大地に緑を芽吹かせた伝説を残すポケモン、シェイミだ。しかし、フレンドさんは、どこにでもいる何の変哲もないただのニャースだった。そういってしまうと失礼だが、その通りだろう。
「君の解釈なら、あの二人はまず結ばれないよ?でも、何で一緒にいるのかな?」
ラックさんが悪戯っぽく笑う。思わず考えてしまう。あの二人は全然種族も身分も違うポケモンだ。でも、自己紹介をしてくれたときにハッキリとフラウさんは言ってくれた。自分はフレンドさんの妻だ…と。
「ど、どうして?」
自然にそんな言葉が口からこぼれてしまう……どうして?何で?……そんな言葉しか浮かばない。頭を抱えて悩んでいる自分にラックさんが静かに、しかしよく聞こえる声で一つの話を切り出した…
「昔々――」
「…??」
「あるところに、一匹のポケモンがいました。そのポケモンはある伝説のポケモンを捕らえるためにその伝説のポケモンの眠る町までやってきました――そして、捜し求めた伝説のポケモンに出会ったときに……そのポケモンは落胆しました。伝説のポケモンとは程遠い粗野な性格と、自分勝手な行動で、そのポケモンをぶんぶんと振り回していました…」
「………」
「そのポケモンは力が無く、伝説のポケモンの力の前では従わざるを得ない状況で、無理やりいろいろなことにつき合わされました。……しかし、そのポケモンは最初の言動で勝手に伝説のポケモンの全てを想像し、こいつはなんて嫌なやつなんだ、とそのポケモンの像を作り上げたのです。だが、伝説のポケモンと過ごしていくうちに、そのポケモンはわかったのです。言動だけじゃない。我侭なだけじゃない……そのポケモンにはしっかりと周りを見る目と、誰よりも優しい心を持っている…と」
「………」
「そのポケモンは最後の最後で、ようやく気付いたのです。伝説のポケモンに恋をしてしまったということが……しかし、そのポケモンはどこにでもありふれたポケモン、どれだけ相手を好きでも、相手は伝説のポケモン。こんな恋が成就するはずが無い。そう思ったそのポケモンは最後の最後に、自分の胸のうちを明かしてその伝説のポケモンの前から去っていこうとしたのです…」
「そんな、それじゃあ……思いは成就しないじゃないですか!!」
ついつい興奮して大きな声を上げてしまった…はっとして周りを見て――自分以外の客がいないことにようやく気がついた。きょとんとしてラックさんを見上げると、ラックさんはニコニコしながら私の顔を覗き込んでいた…
「――だけどね、フラウはこういったんだ…"フレンドさんがいなくなったら私は誰を好きになればいいんですか?"……ってね」
「は、恥ずかしい台詞を掘り起こさないでくださいよぉ……フレンドさんのえっち……」
別の声がして、はっとする。いつの間にかラックさんの隣にいたフラウさんとフレンドさんがにこりと微笑を浮かべて、二人一緒に立っていた。
「………え?」
「結局そのあとに、僕はフラウと一緒にいることを選んだ。いつまで一緒にいられるか分からないけど……いつまでも一緒にいようねって……約束までしてね」
フレンドさんが笑いながらそういって、フラウさんが耳まで真っ赤になってぽかぽかとフレンドさんの胸を叩いていた……一方私は硬直するしかなかった…まさか、さっき話してくれたお話は…
「フレンドさんと、フラウさんの物語?」
「そう。ラックの話したとおりだよ。僕達はお互いがお互いを好きになったんだ。そのときに、伝説のポケモンだからとか、身分が違うとか、そんなことは全然考えなかった……だって、好きになるって、そういうことだから……」
フレンドさんがそれだけ言って自嘲気味に笑った。照れ隠しのように鼻の頭をぽりぽりとかいているフラウさんも笑った。
「フレンドさんの言ったこと、全部ほんとだよ?……ちなみにね~僕はウコンと――」
「――俺は、ラックと一緒にいたから、幸せを知ることができた…それに、笑えるようにもなった…」
ラックさんがはなそうとした途端別の声が聞こえてくる。ルカリオのウコンさんがくっくっと笑いながら話に割り込んできたのだ…
「ちょっと~、僕が話そうとしたのに~」
「すまんな」
「ばかっ!目立ちたがり屋なんだから…」
「でも、そんな俺をお前は好きになった…」
「うぅ……ひ、否定はしない……」
ウコンさんにおでこを小突かれて、ラックさんがむむっといって、顔を紅潮させた。そんな二人をぼけっとしてみていると新たな声が聞こえてきた。
「ロールさん…僕は、クロックと一緒にいることが出来たから……僕達の呪われた因縁の関係に、終止符を打つことが出来ましたよ?」
「あ~、そういえば俺とパレットが一緒にいるの見てたら、争うことがあほらしくなったって。他のザングースとかハブネークとか言ってたもんなぁ…」
ザングースのパレットさんと、ハブネークのクロックさんが一緒に顔を出した。今考えてみれば、ザングースとハブネークが一緒にいるだけでも奇妙なのに。二人はきっちりと婚姻関係を結んでいる。唖然としている横で新しい声がした。
「えっと、僕、実は飛べないボーマンダだったんだよ……だけどさ、小さいころイリスと約束した……進化したら一緒に……ずっと一緒にいようって言う約束……その約束があったから、今の僕がいるんだ…」
「約束も大切だけど、でも飛べるようになったのはアクロ自身の力でしょ?」
「でも、君のおかげだから……」
「そ、そうかな?………そういってもらえると嬉しいよ……エヘヘ」
ボーマンダのアクロさん、フライゴンのイリスさんが、二人の話を聞かせてくれた。ハッキリ言って、信じられなかった。飛べないボーマンダがいるなんて思わなかった。この世で翼をもらったポケモンは全員とベルと思っていた自分にとってはとんでもなくサプライズな話だった……
「えっ!?で、でも…普通に飛んで――」
「今は普通に飛べるけど…昔は落ちてたんだ……それこそ無様にね…。だけど、飛べるようになったのは、イリスが僕のこと見てくれたおかげだったから……そういう気持ちに、身分とかは干渉しないんじゃないかな?一緒にいることで罰が当たるわけじゃないから…」
呆然として二人の話を聞いていた。この喫茶店の従業員達は皆が皆、そういう苦難を伴ってきたのだろうか?そんなことを考えているうちに、先程聞いた声が再度聞こえてきた。
「僕とジェラードはね……変な病気にかかっててね…直る見込みはなかったんだって……」
「でも、二人で一緒になれたから、自分達の病気と向き合う覚悟と、同じ人がいるんだっていう安心感。そして、一緒い病気を治そうっていう気持ちが…わきました…」
びっくりして後ろを振り向く。さっき話をしていたリブさんとジェラードさんが静かな動作でこちらに近づいて来ていた。
「ちなみにもう病気は治ったけど、僕達は分かれることはなかったからね」
「一緒に痛いって言ったときから、私達自分たちのことを好きになれましたから……」
二人が自嘲気味に笑う。病魔に蝕まれた人と一緒にいることは危険とは思わなかったのだろうか?自分の頭の中にはそれしか浮かばなかった。そのせいで、二人が言った大切なことを聞き逃すところだった。
「病気になってもね、一緒にいればなんとも思わない。治らない病気はないんだし、何よりも、病気が恐いなんて思ってたら……誰かを好きになるってことなんか、幻になっちゃうからね」
「……幻……」
その言葉の、何とも脆く儚いことか……今の自分はまさに幻を追うような存在だった。幻のような存在をいつまでも引きずって、何もせずにただぼおっとしているだけ…急に自分が恥ずかしくなり。下を向いて俯いてしまった。
「ロールさん。幻は、捕まえたら幻じゃなくなるんだよ?………恋はうたかたの夢っていうけどね……僕やジェラードは、うたかたじゃなかったから……ここにいる皆もそう。みんな……皆大好きな人と一緒にいる」
リブさんの暖かい手が頭を撫でてくれる。顔を上げると、リブさんが笑いながらこういってくれた。
「だからね、身分とか、位とか、地位とか、そんなことで悩んでいるよりも、もっと他にするべきことがあるんじゃないかな?………気持ち…伝えてないんでしょ?」
「………あ………」
「早く行ってあげたほうがいいよ……刹那の一瞬は無限の時。恋が実る時間はごく僅か……さっ!…早く!!」
そういわれた瞬間にはじかれたように椅子から飛び降りて、ありがとうございましたという暇もなく。喫茶店のドアを開けて――
「サワーっ!!」
――大きな空へと飛んでいった…
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「あ、ロール?」
帰ってきたことへの挨拶をしようとしたエクレアの言葉を無視して、洞窟の中の中心部、丸い岩が水の上に浮かんでいるその岩の上に座り、静かに瞳を閉じる。幾千の心をたどり、幾億の気持ちを汲み……ロールは二匹のポケモンを探し出す。
「……どうしたの?ロールってばさ?」
「エクレアのいったこと、本当にやったのかもしれませんよ?ほら、他の人にも聞いてくればいいって言ったじゃないですか」
まさか?問いってエクレアがくすくすと笑った。
「そんな馬鹿な…あれはロールの気持ちをハッキリさせようとして言った言葉であって―――」
「うん。そのおかげで私……自分の気持ちにハッキリした……ありがとう。エクレア」
別に深い意味は無いんだよ。と、言おうとした瞬間にロールが割り込んで嫌にハッキリとした感謝の言葉を述べた。それを聞いた瞬間エクレアがうげっという声を上げて瞳を閉じて意識を張り巡らせているロールを見た。
「まさか、本気にしてたのか??」
「意思の神様?自分の言動にはきちんと責任を取りましょうね?」
シフォンが微笑を浮かべてエクレアの頬をぷにぷにとつつく。エクレアはこめかみの辺りに脂汗を浮かべて「肝に銘じておくよ」などと殊勝になっていた。そんな二人のやり取りには目もくれずに…ロールは一心不乱に心を繋げる…
「早く……お願い……早く捉えて……!!」
世界に散らばるポケモン達の心を捉えて、ある特定のポケモンに自分の念力を送って、自分の言いたいことを伝える。俗に言うテレパシーというものだ。ロールは一心不乱になって。あるポケモンたちを探し続ける…と、そのとき……
「繋がった!!……バジル様……ペッパー様……助けて……」
そう呟いた瞬間、周りの空間が歪み、周りが灰色になる。水が石のように固まり、動かなくなる。洞窟全体の時が止まった――と、シフォンとエクレアが思った瞬間に、外から不思議な声が響いた。
「ロール………私とバジルを呼んだのはお前か?」
外から響く声を聞いて、シフォンが硬直する。何故?どうしてこんな場所にあの二人が来るのだろうか??
「えっ?何で??ロール……あの人たちを呼んだの??」
エクレアも驚いた顔でロールを見つめる。自分が呼んだ二人が来たことを声を聞いて確認し、エクレアの問いに対して無言で首を縦に振る。それを肯定と受け取ったエクレアは、
「………ロール……何するつもり??」
と、訝しげな顔をして。外に出て行くロールに対してそう呟くことしかできなかった。
「バジル様……私のテレパス……聞いてくれたんですね?」
「いきなり来たからびっくりしたぞ?…しかもペッパーも一緒に来いだなんてな…」
「呼ばれることはかまわない…しかし何用だ?」
外に出て、空中を見上げる。声がしたほうを見上げると。そこには巨大な二匹のポケモンがずん。と佇む様に宙に浮いていた。一匹はバジル。もう一匹は――
白とピンクの色合いに、鳥を思わせるような薄い羽が二枚ほどついている。両肩には新円をあらわすパールがはめ込まれている。空間をつかさどるポケモン、パルキア。
そのポケモンはそう呼ばれている。
「ペッパー様。バジル様……ご機嫌麗しゅう…」
ロールがぺこりと頭を下げて挨拶をする。ペッパーと呼ばれたパルキアは首を横に振って、辺りを見回してから短く、透き通るような声で、
「挨拶はいい。用件は何だ?あまり空間を歪曲させるのは自然の生態系に悪影響が及ぶので控えたいのだが……」
そういわれると、ロールは申し訳なさそうな顔をして、一瞬の躊躇の後、意を決したようにこう告げた。
「ペッパー様、バジル様、お二人のお力で、私を海底まで連れて行って欲しいのです……」
海底、と聞いたペッパーは調子はずれな声を出して驚愕した。
「海底へ!?……別段不可能ではないが……海底に忘れ物でもしたのか?」
「はい、とても大切な忘れ物……自分の気持ちを好きな人に告白したくて……」
それを聞いてバジルがピクリ、と反応する。一方ペッパーは訝しげな顔をしてその言葉を疑った。
「海底に好きな人?……なんで海底にいるのだ…邪なことにわが力を使うのは許されんぞ……」
その言葉に、ロールは大きな声で反論する。自分の気持ちが決まり、気持ちの整理がついた者が発する。よく聞こえる。迷いのない声。
「邪なんかじゃありません!!……信じてもらえないかもしれないけど……ホントのことなんです!!」
強い強い主張。声を思い切り張り上げて、ロールは自分の気持ちを主張する。それでもペッパーは不審げだったが、しばらく沈思黙考していたバジルが、急に口を開いた。
「連れて行ってやってくれ……俺の力だけじゃ海底にはいけない。空間適応できるお前の力も必要なんだ…」
頼む。と、それだけ言って。バジルはロールを見つめた。二人の間に何かしら精通しているものがあったのかもしれないと思いながらも、ペッパーはどことなく不愉快だった。……が、やがて諦めたかのようにため息をつくと、
「空間を安定させる。深海の水圧も感じないし、水も入ってこれないだろう。……後できっちりと説明をしてもらうからな……」
「十秒後に深海に時間移動する。心の準備しとけよ?」
二人の神がロールに協力してくれる。協力とまでは行かなくても、力を貸してくれている。その二人の行動が、俄然ロールを力づける。
「はいっ!!」
バジルの胸の金剛が輝く。周りの空間がぐらりと歪む。しかし三匹の周りの空間は安定を保っている。……ディアルガの心臓が動くとき、時は動く。パルキアが呼吸をすると、空間が安定する。あながち間違いではないなと思いながら、ロールは渦巻く時間の乱気流の中で呼吸を整えていた。
「あと五秒だ……息を大きく吸って、力を抜いて、目を閉じて…」
「3、2、1……」
バジルがぐっと念じる。その瞬間自分の体がまるでないような感覚に襲われて――
「移動する!」
今いる場所から別の場所への自分達の体の分解……今いた場所から自分達が移動する所への体の再構築……ワープを一般のポケモン達が実用化するのはあと何百年先なんだろう…そんなことを考えながら、渦巻く時間の中でロールは瞳を閉じた。
----
「では、王子、式の正装にお着替えを…」
「戻ってきた瞬間に式を挙げるなんてね……全部計算済みだったってこと…かな?」
海底の宮殿の奥――美しく装飾された小奇麗な部屋で、二匹のポケモンが会話を繰り返す。会話というよりは、よく知っている言葉を羅列しているだけかもしれない…
「王子がいなくなってからの一週間ほど前からすでに準備はしてありますゆえに…早めに式を執り行い、この深海を一刻も早く統一していただきたく思っておりますゆえに、先走った行動に出てしまいました……罰せられるなら、如何様にも…」
「別に怒ってないよ。いきなりだったから、ちょっとびっくりしただけ…いいよ。もう時間はないんでしょ?……早く王様になってほしいって言うのなら、僕はこの深海の王になることを決意する……けどね、これだけは覚えておいて欲しいんだ……ソーダ…僕が王になったとしても、ほかのポケモン達をうまく統制する力なんか僕にはない…わかっているように僕はまだ子供だからね…だからこそ、ほかのみんなの力も借りなきゃいけないんだ…」
「王子…」
「力不足はちゃんと補う。だから間違ったことをしていたときは指摘して欲しい。そうでもしなければ、僕は一生変わることがないからね…そう、多分、一生ね……」
力なく言って、挙式の服に着替えたサワーは、近く似合った手ごろな椅子に腰を下ろして、自嘲気味に微笑んだ。それを見ていたソーダは静かに息を吐いて、しばらく沈黙を保っていたが、何かを伝えるように口を開いた。
「王子はお変わりになられましたな…」
その言葉を聞いて、僕が?冗談。と、サワーは首を横に振ってソーダの言葉を否定した。
「変わってなんかいないよ……もし本当に変わっているのなら、こんなに家臣達に迷惑はかけないからね……そう、僕は変わってなんかないよ、何にも…なぁーんにもね……」
そうだ。自分は何も変わっちゃいないんだ…あまりにも幼稚な自分を見返して涙を通り越して笑いがこみ上げてくる…こんな自分が大様になるなんて、多分誰もついては来ないだろう…どれだけ自分が我侭だったのか、ロールと一緒にいてからよくわかった…
「いいえ、王子はお変わりになられましたとも…」
ソーダはそれだけ言うと、再度沈黙する。サワーは少しだけ考えるようなそぶりを見せて、しばらく黙り込む。何を考えているのか、それとも何も考えていないのか……数十秒の沈黙が流れたあとに、サワーの声が沈黙を破る。
「ねぇ、ソーダ。……僕のどこが変わったのかな?」
その言葉に含まれるものは、疑問と、煩悶…。自分が代わったという言葉に、迷い、悩んでいる。何が変わったのか、どこが変わったのか………。そう考えていると、ソーダは静かに息を吸うと、その答えを吐き出した。
「全て……ですよ。覚えておられませんか?ここ二週間ほど前の貴方は何をするのも否定を指定なさっていたではありませんか…それは、否定をするというよりも、いつもの日常への反逆のように感じられました。そんな貴方が、二週間ほどでここまで成長するとは思いませんでした。王子が変わっていないと思われましても、きっと皆のものは言うでしょう。貴方は前よりもずっとお変わりになられましたよ……」
「そうかな?…………そうだとしたら、きっと彼女のおかげだね……彼女が僕の世界を変えてくれたのかもしれない……」
彼女、という言葉に少し引っかかりを感じたソーダは、その彼女というのがどのような人物なのかを瞬時に理解した。
「彼女と申しますと…あの時王子と一緒にいたあのポケモンでしょうか?あのようなポケモンはこの宮殿の文献にも載ってはいませんでしたね……おそらく原始の精霊、太古の始祖に近い存在なのかもしれませんね……」
太古の精霊、原始の始祖、その言葉を聞く限り、彼女はポケモンの祖になる存在に近いものかもしれないということが想像できた―――――が、
「もう関係ないよ……彼女とはもう、会うことも、会えることもない……それに、僕には婚約者がいるから…昔からの………婚約者が…」
諦めよう。諦めよう。彼女の存在は幻だったと思えばいい。忘れよう。忘れよう。彼女とであったことは儚い幻影だったと思えばいい……そう思わなくちゃ、これからやっていけなくなる…
「王子……姫がお待ちです…」
ラムネが音も立てずに部屋に入ってくる。その姿を見たサワーは、静かに頷くと。
「すぐに行くよ……」
それだけ言って、静かに立ち上がった…
----

見知らぬ海のそこで凶悪な悲鳴が上がる。攻撃されてもいないのに硬直したマンタインを放り投げて、バジルはふんと鼻を鳴らした。
「全く、ちょっと出てきただけですぐに不法侵入扱いとはな……この辺りの治安もたかが知れてるな」
「いきなり攻撃するやつがいるか!!」
「あ、あああの、バジル様……私はそんな荒っぽい方法で宮殿に侵入しようなんて思っていませんけど…せめて攻撃するなら裏門じゃなくて正門から堂々と…」
「お前の考えていることも十分荒っぽいが…」
ぼそりと喋ったペッパーの呟きも、ロールには耳に入っていなかった。まっすぐに裏門を見つめて、どこにサワーがいるのか探しているようだった。
「サワー、サワー、どこに、どこにいるの??」
「ちょっと落ち着けロール、お前鼻息が荒いぞ?」
きょろきょろしているロールにバジルが頭を軽く小突く。ロールははっとしてバジルのほうに首を向けて、今気付いたといわんばかりに驚いた顔をしていた。
「ば、バジル様………」
「ちょっと落ち着くんだ。そんなにきょろきょろしてるとまた衛兵を呼ばれかねん。こういうときは頭をつかってだな…」
「頭を、使って?」
「頭を使って、突っ込む」
「つまるところ頭突きか…回りくどい言い方をして…」
ペッパーが嫌そうな顔をする。頭が痛くなるのが嫌なのか、それとも品がないから嫌なのか。その真意はなぞだが、そんな考えを張り巡らせているうちに、バジルが頭をかがめた。
「え?まさか本当に頭突きをかます気じゃ…」
「この門を破るのにペッパーと俺の力を使ってみろ。軽く宮殿が吹っ飛ぶぞ?だから物理的な衝撃を加えて、裏門を破るんだ。その後は、お前しだいだよ、ロール」
「………はい!」
ロールが力強く頷くと、バジルは少しだけ後退する。
「私はやらないからな…痛いし」
「ああ、中に入ったらロールに力を貸してやってくれればいい」
適当な相槌を打って、バジルが一瞬瞳を閉じる。次の瞬間かっと目を見開き、凄まじい頭突きで裏門を吹き飛ばした。水の気泡が大量に出て、周りの瓦礫が踊りまわる。ロールはびっくり仰天して顔が引きつっていた。
「よし、あいた」
「壊したの間違いだろ……さて、ロール、目を閉じていろ」
ペッパーが指先をすっとロールの額に当てる。その瞬間ロールの周りの空間だけ隔離されて、ロール一人分を包む。それは膜のように展開して、ロールの体にくっついた。
「これでお前は地上と何ら変わりない動きが出来るはずだ…私達の役目はここで御仕舞いだ。後は、自分の力で何とかするんだ…出来るな?」
それだけ言ってにこりと微笑する。それは、ロールなら絶対に出来るという信頼の証…ここまでやってくれた二匹のためにも、自分は絶対に思いを伝えなくてはならない。
「任せてください!!」
ロールが胸を大きく叩いて頷く。それを見てペッパーは静かにうんうんと首を縦に振る。
「ちゃんと帰ってくるんだぞ?……お前に何かあったらルーツ様にばらばらにされてしまう…」
冗談めいたことを言って苦笑する。でも事実かもしれない。そう思いながら、ロールも笑顔で返す。
「ありがとうございました……必ず帰ってきます」
ぺこりとお辞儀をして、ロールは宮殿の中に入っていく。それを見届けてから、二匹の神様はお互いに顔を合わせてこれでいいと頷いて…歪んだ空間の中に吸い込まれるように入っていった…
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静かな世界、結婚式場とはそういうものだった。静寂の中で、つつましく式は行われていく…
「では、汝チェリーは、サワーを夫として認め、どんなときでも生涯一緒にいることを誓いますか?」
神父の言葉が静寂の中に響き渡る。サワーの隣にいる、花嫁の衣装に身を包んだポケモンが静かに頷く―――マナフィとよく似た体つきだが、瞳は透き通った青色。マナフィの同種と呼ばれているポケモン。その名はフィオネといった。
「はい、誓います」
動作も静かで、声もまた静かだった。神父はその言葉を聞いて頷くと、今度はサワーのほうへと体を向けた。サワーは何も感じることはなかった。ただ胸の中に残るのは。忘れようと思っても忘れられない数々の思い出…ロールの怒った顔、泣いた顔、笑った顔…
御伽噺にもない王子の数週間だったが、サワーはそれがどうしても忘れることが出来なかった…
「では――」
神父の声がサワーの耳元に入ってくる。
「汝サワーは――」
しかし言葉は入ってこない。何を言われても絶対に模範的な答えを返すことしか出来ないからだ。
「チェリーを妻として認め――」
黙って下を向いて、今日のことを思い出す。今は時間帯で言うのなら夜…今日の昼間にあった出来事が夢のようだった…
「どんな時でも生涯一緒にいることを――」
そう、あれは夢…あれは夢だったんだ。叶わない夢で、願うことの出来ないもの。欲しいと思っても手にはいることの出来ない宝石のようなもの…
「――誓いますか?」
そうだ…夢なんだ。あのときのことは夢…そう思うんだ…。
涙が落ちることに気付かずに、サワーは顔をゆっくりと上げて――
「はい、誓い―――」
「サワーッ!!」
最後の言葉は続かなかった。夢でもなかった。声のほうを振り向くと――
――ほら、君の元気な顔がこっちを見ている。いつもの元気な声で、いつものまぶしい笑顔で、僕の心に光をくれる。そしてこういってくれる。「サワー、遊ぼうよ!!」って……
「ロー………ル??」
式場の扉を開けて現れたロールの体中には、殴打された後と擦り傷、鋭利な刃物で斬られた痕も見受けられた。ぜいぜいと荒い息をついてまっすぐな瞳でこっちを見ていた。
「サワー……また、会えた……」
ロールは痛む体を引きずるように、ざり、ざり、と一歩一歩を踏みしめるように歩いていく…ロールの瞳からは涙がぽろぽろと零れている。それが痛みによる苦痛の涙なのか、それとも再会の喜びのために出た感動の涙なのかは分からなかった。
「何者だ!?式場の前は衛兵達が守っているはずだぞ!?」
会場で静かにことを見守っていたソーダが声を張り上げた。その問いかけにロールは嗚咽をこらえながら答えた。
「扉の前にいた衛兵?……それなら、私が、無力化させたよ……殺すんじゃなくて、文字通りの"無力化"してね……」
「無力化…とは?」
そこまでざわついていた式場の空気にも動じることなく、沈黙を保っていたチェリーが口を開いた。とても静かな声で、ざわついていた式場が沈黙する。
「だから言葉の通り…だよ。衛兵を殺したらただの殺人鬼だ……殺すことは命の尊厳を踏みにじる行為…だから私は"さいみんじゅつ"をかけて眠らせたの…抵抗されてこの有様だけど……ね」
ロールはそれだけ喋るとごほごほと咳き込む。体中の傷跡が彼女の容態を明確に現してくれていた。
「………王子、彼女とはどのような関係に当たるのですか?」
チェリーは怒るわけでもなく、騒ぐわけでもなく、ただ単純な疑問からサワーに問いかけた。サワーはなんといえばいいのか分からずうろたえていたが、チェリーはよく通る声でこういった。
「王子にあいにきただけにしては物騒ですが……おそらく彼女は王子にとって大切な存在なのでしょう?そして王子もまた、彼女にとってはなくてはならない存在……そうでなくては、こんな深海まで陸上で生活しているポケモンが王子の下に来るはずがありませんもの…」
さっ、と身を翻して、ぼろぼろになったロールを見つめ、純白の花嫁はこういった。
「貴方にとって、王子はどのような関係に当たる存在だったのですか?」
単純な疑問の声。ロールは迷うことなくこういった。
「私は、私は、私は…………私はサワーが大好き!!ずっと言えなかったけど、別れちゃったけど、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけないもんっ!!たとえ結婚が決まってても……どれだけ身分が違っても……私の心が叫んでるもの!サワーのことが大好きって!!」
大声で叫んでから若干ふらつく。体力を使いきったのかがくりとひざを折ってしまう。ロールの純粋な気持ちを聞いたチェリーは、しばらく黙っていたが、やがてうっすらと微笑むと。周りのポケモンたちに向かってこういった。
「どなたでもいいです。彼女に合うサイズのウェディングドレスを持ってきてください……」
「!!!……姫………」
「王子…家臣同士が決めた婚姻とはいえ……自分の気持ちに嘘をついてはいけません。王子が望まない結婚であれば、意味が無いでしょう?」
「で、でも…」
「どうぞ……お幸せに……」
チェリーはそういって静かに一礼して、軽やかな足取りでロールに歩み寄ると、ブーケとヴェールを託して、式場から出て行った。
「うっ…くぅっ……」
それが限界だったのか、ロールはブーケとヴェールをぎゅっと握り締めたまま、意識が飛んでいき倒れてしまった。
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瞼を開くと、変わらない顔がこちらを心配そうに見上げている。虚ろな瞳の焦点を合わせて。大きく目を開くと、心配そうなサワーの顔がロールの瞳に映った。あの後何があったんだろうと思って身を起こすと、体中に包帯が巻かれていることに気がついた。
「あ、アレ?どうしてこんなものが……ここ、深海なのに……」
「私が巻きました。きっと必要になると思いましてですね……」
「ロール!!よかった、気がついた」
いろいろな言葉が一気に耳の中に入ってくる。少し五月蝿げに耳を押さえて。上を見ると、巨大な竜の顔がこちらを見下ろしていた……
「うぎゃっ!!へっ…蛇!?」
びっくりして後ずさろうとして、ロールはふわりとした感触をおぼえて後ろを見る。見ると、巨大な掌の上に。自分は寝かされていたんだと理解した。そしてその手の主は、自分を見下ろしていた蛇のようなポケモンだと理解して、蛇ではなく鳥のようなポケモンだということも分かった。
「ひどいですね、蛇ではなくてもう少しまともな呼び名がよかったのですが…まぁいいでしょう。相当体に負担をかけていたようですからね。あれだけ傷だらけの体でサイコキネシスを駆使したのですから、倒れて当然でしょうね……」
そのポケモンはくすくすと苦笑し。ゆっくりとロールを地に下ろす。ひやりとした感触が、ここが水の中だと感じさせてくれた。
「えっと、ここは……?」
きょろきょろと辺りを見回す。見た感じかなり高価なものが立ち並び、部屋の中はとても広いがとても綺麗で、まるで王子がすんでいるような高貴で豪華な部屋だった。あまりの綺麗さにはぁ~と感嘆のため息を漏らしてしまう。
「ここは王子のお部屋ですよ。貴方が倒れたあとに王子が真っ先に駆け寄ってくれました。感謝しておいてくださいね……」
「ラムネ!……そんなこと言わなくていいよ…」
「おっと、これは失礼。野暮、でしたね……フフフ」
そのポケモンは不適に笑うと、ごゆっくりといって巨大な扉を開けて、そのまま外へと消えていった。扉が閉まって訪れる沈黙の空気。その空気を破るようにロールが喋りだす。
「えと、その、あの、あ、ああ、そうだ!!結婚式は!?結婚式はどうなったの!?」
自分が乱入したことによってめちゃくちゃになってしまった結婚式のことを心配しているロールの顔が面白くて、サワーはふふっと笑ってしまった。結婚式を中断するつもりで突っ込んできたのではなかろうか、それなのに心配するとは全く不思議でおかしくなる。
「アハハハ……結婚式は取りやめになったよ……君が乱入してきたからじゃなくてね…姫が…チェリーが自分からこういったんだ。「私は王子の傍にいていいポケモンじゃない。本当に傍いるべきは王子のためにここまで来た、あの可愛らしい女の子でしょう」…ってさ。彼女、そういって身を引いたんだ。
それを聞いたロールは結婚式が中止になったことよりも、その姫の言った言葉に衝撃を受けていた。自分とサワーをそんな風に見るとは思わなかったのだろう、顔を紅潮させて自分の心臓を抑えていた。
「えっ?……えっと、その…わ、私……私とサワーが、そんな風に、見られて……えっ?」
「ねぇ、ロール……さっき言ってたこと、本当なの?僕のこと、大好きって…」
そう聞くとロールはどきりとして目を見開く。見るだけで分かる。恥ずかしいことを言われてどきどきしたロールの顔、落ち着いていないのが見て取れる。
「え、え、えええっ!?」
「答えて。ハッキリしないのは嫌いなんだ。僕のこと、好きなの?嫌いなの??」
「………大好き!!大好きだよ!!だ、い、す、き!!……愛してるもん!!」
もうほとんどやけくそになってロールは好きとか愛とかこっ恥ずかしい台詞を連呼する。最後は好きを超えた愛になっていたが、それもロールの素直な気持ちなのだろう。それを聞いたサワーは、ロールの体をぐいっと引き寄せて、ぎゅっと抱きしめた。二人の体が密着して、二人の心臓の鼓動が重なり合う。
「ありがとう。ロール…僕の気持ちにこたえてくれて……」
「えっ?…サワーの…気持ち?」
「うん。あの時、別れる前に…僕言ったよね?君のことが、好きだって。…結局君の気持ちは聞かずにあの時は唐突に分かれちゃったけど……でも、今やっと聞けた。僕も、君のことが大好きだから……」
耳元で囁くような声。サワーの息が耳にかかって、頭の芯まで溶けてしまいそうなくらいロールはどきどきしていた。腕をサワーの後ろに回して、抱きしめ返す。
「こ、これって、そ…"相思相愛"ってやつなのかな??」
まだ信じられなかった。さっきまでの自分は地上で泣いているだけだったのに、今の自分は深海で大好きな人を抱きしめている。やっぱり夢かと思ったけど、サワーの熱っぽい体と――唇の感触がこれは現実だということを頭に叩き込んでくれた。
「!!!ふむっ!?……んぅ……」
「んっ……ふぁっ…」
サワーが舌を積極的に絡ませてくる。水の中にいるというのに二人の耳にはぴちゃぴちゃと淫靡な水音が入ってくる。
「んぷぅ…ふあっ……」
「ぷはぁ…んむぅ……」
二人が口を離すと、銀色の糸がとろりと垂れて水の中に溶け込む。キスを舌だけでロールの動悸は上がり、はぁはぁと荒い息をつく。紅潮している顔を更に紅潮させて、金色の瞳をとろんとさせてサワーを見つめる。
「えと、これ…は…どんなキス??」
「人魚姫に求婚を申し込むキス…かな?ほら、結婚式…中断しちゃったしさ……それに……僕が傍にいて欲しい人は、その、目の前に…いるしね…ハハハ」
サワーが冗談めかしく言って微笑む。ロールは呆然としてから…真っ赤な顔でまた泣き出した。ぐしぐしとなきながらサワーの言葉に答えを返す、
「うん……うん!!」
サワーはそんなロールを見て、すっと涙を拭いてあげると。もう一度笑ってこういった――
「泣かないで…僕は君の……笑った顔が…見たいんだ…」
そういってもう一度口付けをする。唇が触れるだけの短いキス。それでも、二人の体には二人の温もりがじんわりと伝わっていた…
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「ふっ、くぁっ……ぅうんっ……」
静かな夜に、熱っぽい声が響く。水の中だというのに、そこだけ異常な熱を持っているようにも見える…
「声を出したら、他の皆に気付かれちゃうかもしれないよ?」
静かな声で警告するように、サワーはくすくすと悪戯っぽく笑うと、ロールの小ぶりな胸を片方の手で弄り始める…指先で乳首をはじいたり、なぞったり。まさしく弄っていた。
「ひゃうっ!?あっ、あうっ……ひっ……んんっ!!」
そんなことをされるたびにロールはびくりと仰け反り、口から甘い吐息を漏らす。切なげな喘ぎが深海に響いて、静かな夜の海の世界を熱い欲望でかき乱す。
「ほら、そんなに大きな声出したら聞こえちゃうってば……僕は全然かまわないけどね?」
サワーは特にばれてもさしたる問題ではないといった口調で相変わらず胸への愛撫を続けている。ロールはそれだけはいやだというかのように自分の口を両手で押さえて漏れ出る喘ぎ声を抑えた。ソモソモこんな羞恥の姿を他のポケモンに見られたら、感情ポケモンである自分など恥ずかしさで死んでしまうだろう……などと考えていたのである。
「んっ、んんーっ…んむっ!?」
胸に奇妙な違和感を感じて、ロールはびくりと跳ね上がる。何事かと目線を下に向けて――強烈な刺激に体が浮き上がる感覚をおぼえた。
「んんー!!んっ、んんっ……んんんんんんっ!!」
見ると、サワーがもう片方の胸を乳児のように吸っていた。ちゅぷ、ちゅぷ、と。吸い上げる音がロールの耳に入ってくる。その音を聞くたびにロールは恥ずかしくて目をぎゅっと瞑ってひたすら耐える。
「ぷぁっ……ふふっ、ロールの顔………いい顔してる♪」
心から嬉しそうなサワーの顔を見て、ロールは一瞬だけでもサワーは残虐色情者の気でもあるのではないだろうかと思ってしまった。しかしそういうところがあったとしても自分は彼のことが好きになったのだから、そう考えると自分はとんでもない被虐色情者なんだろうかと思ってしまった。
「むぅ…」
ロールはむすっとしてサワーをにらみつけていたが、その視線をさらりと流してサワーは再び胸を吸い始める。舌を使って舐めあげるように…それをされるたびに、ロールの体の真にびくびくと快感が走り抜ける。
「んっ…んんんっ…」
「あまり上ばかり気にしてると……こうなるよ?」
サワーが不敵な笑みを浮かべて、一本の触角をつつっとロールの下腹部の更に下――秘部にまで持っていく。ピンク色のスジを少し突かれてロールはどきりとした。
「…………えいやっ♪」
サワーの声とともに、触角が秘部にぬるりと入り込む。すでに若干濡れていたため容易なく進入し、その瞬間にロールの頭はスパークしたような快感が走った。
「んーーーーー!!!!ぷはぁ!!……うああっ!!ひゃあんっ………あっ…あぅぅぅ…あんっ……や、やだぁ…サワーぁ……ぬ、抜いてよぉ…ひうっ!!」
膣に挿入した触角がゆっくりと前後に動き出す。中の肉壁と触角が擦れ合ってロールの頭を真っ白にする。いつの間にかロールは口をふさいでいた手をサワーの触角に持っていって、ぎゅっと触角を握っていた。サワーはそれを見て更に意地悪な顔をした。
「あれ?いいのかな?声が聞こえるよ?」
そういわれてロールはびくりとして、握った両手の力を若干弱める。それを待ってましたとばかりにサワーは動きを早める。くちゅくちゅという音が回りに響いて、ロールの秘部からは愛液がとめどなく溢れ出す、
「!!!!ふぁっ!!ああっ…やっ、サワー…ぁぅっ!ま、待ってよぉ!!ひうっ…わ、私、もう…いっ……ちゃうよぉ…ふぁあっ!!」
「どうぞ?」
サワーはそれだけ言って、とどめといわんばかりにもう一本の触角で、ロールのクリトリスをぷにゅっと押しつぶした。
「っ~~~!!!○×■△◎ℓ☆◆γ;@~っ!!!」
声にならない声をあげて、ロールはぷしゃっと愛液を噴出してそのまま気絶してしまった。
「あれ?ロール?あらら……どうしよう……」
本当に困った顔でサワーはくたっとしているロールの顔をぷにぷにと突いていた…
----
起きた瞬間に、思い切りサワーは念力で殴られた。
「うぐっ!!」
「サワーの馬鹿っ!!」
吹き飛んだサワーを念力で引き寄せてから、ぐぐっと顔を近づけてきっぱりとこういった。
「待ってっていったんだから待ってよ!!あんなにめちゃくちゃにして……ひどいよ!!」
「ご、ごめんごめん……あんなに敏感だったとは思わなくて――」
りぃん。という音がして、ロールの瞳が光った。金色の瞳が怪しく光り、夜の世界に月光のように煌く。サワーは不思議な顔をしてロールを見つめていた。
――と、
「"動くな"ぁっ!!」
びしっと指を突き出して、ロールがそう叫ぶと同時に、サワーの体がまるで石にでもなったかのように硬直した。それが"かなしばり"だと理解したときには――
「お・か・え・し・だ・よ!!」
――ロールの顔が下のほうに移動していて、すっかり元気になったサワーの肉棒を両手でがっしりと掴んでいた。
「えっ?……ちょ、ロール、お返しって…うくっ…うあっ!!」
ロールの行動によって、言葉は中断される。
ちゅぷ、ちゅぷ、つつー、ぴちゃ、ぴちゃ…
ロールがしたと口を使って、サワーの肉棒をひたすらに舐め始めた。最初はゆっくりと、段々と動きを早くしていく。
「うぅ、な、なんの、こ、これ……しきぃ!?」
素っ頓狂な声を張り上げるサワーが見たもの。――舐めるだけにとどまらず。ロールはサワーの肉棒を口に含んだ。たっぷりと濡らすように唾液を擦り付けて、そのまま全体を丁寧に舐め上げる。予想外の濃厚な奉仕行動だった。
「うあっ、ちょ…っと、待って!ストップロールストーップ!!」
「んむ?んむうんんんむむむぅううんむぅんぅむんんあ!!」
咥えながら喋っているため何を言っているのかわからない。多分「はぁ?待ってっていっても待たなかったのはどこの王子様ですか!?」とでも言いたかったのだろう。無論、待つ理由なんてないし待とうという気持ちもロールには持ち合わせていないだろう。ねっとりと絡みつくように塗りつけた唾液がてらてらと光るサワーの肉棒を、止めといわんばかりに思い切り吸い上げた。
「うっ……くあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
びゅる、びゅる、びゅくっ…
我慢の臨界点に達したのか、サワーはくぐもった声を上げて、濃厚な白い液体をサワーの口内に思い切りぶちまけた。ロールはそれをじゅるじゅると吸い上げて、こぼさないように飲み込んでから、うえっと咳き込んだ。嫌そうな顔をしてサワーを見上げて、一言
「濃い。溜めすぎ…」
それだけいって、まだ先っぽに出ていた液体もぺろりと舐めとってくすりと笑う。
「だ、だったら、飲み込むなよぅ……」
サワーはとても申し訳なさそうな顔をする。確かに焦らした上に待ったを聞かずにイかせてしまった自分に責任はあったが、それにしてもお返しに"かなしばり"をすることはないだろうと感じていた。…などと考えているうちに、ロールが肉棒と秘部が密着する位置にまで移動していた。
「こ、これだけ濡らしたんだから、入るよね?」
かすかに不安な声、サワーもどきどきしてロールを見ていた。逃げようと思っても"かなしばり"のせいで逃げることは出来ないし、何より逃げられる状況でも逃げようとは思わないだろう……不安そうなロールの顔は、とても艶やかで色っぽく、魅力的だった。
「ふ……ぅあっ!」
ロールがゆっくりと腰を落とし始める。最初のうちはゆるゆると入っていったが、徐々に動きがぎこちなくなる。かなしばりのせいで動けなくても段々と膣の締め付けがきつくなっていくのがサワーにも感じられた…
「うぅっ…ロールっ…大丈夫なの?」
「サワーは何も……心配しなくても良いよっ!…私なら、だいじょぶだから…ふきゅっ!!」
何かに当たる。ロールはそれを気にせずにぐぐっと腰を沈める。ぷちり、と何かが破れる音、結合部からは血が流れ出て、ロールが苦痛に顔を歪める。
「ろ、ロール……」
「平気だから……こんなもの、何ともないから……気にしないで…」
苦笑いを浮かべて、ロールは更に腰を落として、サワーの肉棒を全て飲み込んでしまった。はぁはぁと荒い息をついて、呼吸を整える。
「全部、入った…う、動くからね?」
きゅっと目を瞑ると、ゆっくりと動き出す。最初はゆっくりと動く。ロールの中をサワーのものがかき回す。ぐちゅぐちゅとした異様な水音が響いて、そのたびにロールが苦痛に耐えるように硬く目を瞑る。かなしばり状態のサワーは何も出来ずにただロールを見上げることしか出来なかった…
――と、右手を動かすと動くことに気がついた。かなしばりが解けていることを確認したサワーはすぅっと息を吸って、自らの腰を動かし始める…
「ひゃあっ!?えっ?な、何で…ふぁぁあっぁっ!!やぁんっ!!かっ、"かなしばり"はっ…」
「もう解けたよっ!……うっ、凄いや、締め付けがっ…でも、気持ちいい…」
いきなりの不意打ちにロールはびくりとして、体をすとんと落としてしまう。大きく突き上げられる形になったその行為は、ロールの体に快楽を与えるのに十分な動きだった。
「ふきゃあっ!?」
「うわぁっ!!」
その瞬間に、ロールの膣がきゅっと締まる。それだけでもサワーのモノは大きく刺激され、二度目の精をロールの膣内に思い切り放った。
「ふあぁぁぁぁ……あ、熱いよォ……」
「うぅっ…くぅぅっ……」
二人は繋がったままへたり込んでどさりと横になる。お互いが息をつき、呼吸を整える。
「中に出しちゃったね………」
「ご、御免………押さえ込みが効かなくて……でも、これでずっと一緒……だね」
「う……うん!!私……幸せだよ……!!」
お互いの存在を確認するようにキスをして、二人は互いの顔を見て笑いあった。御伽噺の物語にもない本当の愛が、ここにあるという証だった…

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結局、結婚式は再開することになった。二度目の静寂が訪れて……式場には色々なポケモン達が新しい王の誕生と、王の愛した一匹のポケモンを祝福しに来ていた。シフォン、エクレア、バジルにペッパー……ロールのテレパシーで呼ばれた者たちが静かにこれから現れる新しい王と、新しい王妃を迎える準備をしていた……
――その刹那、扉がゆっくりと開き…二匹のポケモンが姿を現す。一匹はマナフィ、もう一匹はエムリット……二匹はやけにドギマギしながら神父の前に歩んでいく。
「………それでは………汝、サワーはロールを妻として迎え、どんな時でも生涯をともに生き、決して変わることのない愛を誓いますか?」
答えは一言。サワーは微笑を浮かべてこういった。
「はい、誓います」
「……では、汝、ロールは――」
どきどきする。心臓が飛び出してしまいそうだった…これは夢ではないかと今でも疑ってしまう。
「サワーを夫として向かえ――――」
落ち着いて深呼吸をしようとしても、駄目だった。嬉しいドキドキがどうしても止まらない。今、自分は本当に幸せなんだと感じてしまう…
「どんな時でも生涯をともに生き―――」
今の自分はどんな風に見られているのだろうか?気になる。きっとしまりのない顔をしているに違いないから、でも、そんな顔にしかならない――だって、
「決して変わることのない愛を―――」
好きだったお話の物語の――幸せにならなかったお姫様の悲しい物語……泡になってしまった人魚姫の悲しい結末……でも、私だったらきっと諦めないだろう…
「―――誓いますか?」
幸せになる方法が―――きっとあるはずだから…
「誓います!!」

Fin
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これにて御仕舞いです。ちょっと違ったマナフィとエムリットの物語、お楽しみいただけたでしょうか?[[リング]]様。
リクエストをしていただいて本当にありがとうございました。
そして、こんな駄文を読んでくれました皆様。本当にありがとうございました!!orz
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コメントがあればどうぞ
- 御三方、みんな美味しそうな名前ですねw&br;人魚姫、私はあまりストーリーは知らないのですが、それを一言、それも、下・ら・な・い・童・話と、片づけてくれちゃったしふぉんさんには脱帽です。 -- [[ダフネン]] &new{2008-12-12 (金) 22:59:40};
- 早速リクエストの消化に取り掛かってくれたわけですか。ありがとうございます。これからの展開に期待しておりますね。&br;それにしても、こいつらなんと言う言い回し……流石神と感じざるを得ない天才ぶりですね -- [[リング]] &new{2008-12-13 (土) 00:22:26};
- マナフィ出たー! 期待させてもらいまっせー! ソーダは特に描写ないけどフィオネ当たりかな? -- [[62tree]] &new{2008-12-14 (日) 21:41:01};
- お菓子の名前トリオと来て次は炭酸飲料トリオとはw&br;他にはどんな名前がくるか、そっちにも期待です -- [[ダフネン]] &new{2008-12-14 (日) 21:48:33};
- 小説完成後に登場人物一覧表とか作ってくれると有難いな -- [[acs]] &new{2008-12-23 (火) 17:21:47};
- やはり創造神様の名前はルーツになるのですねw自分はそれ以外の名前は思いつきませんけど。。&br;ルーツ様はもふもふしていましたか。自分も一緒にもふもh(以下省略&br;続きの執筆頑張ってくださいね~。 --  &new{2009-01-23 (金) 00:00:25};
- おぉww全員集合しているww --  &new{2009-02-01 (日) 20:00:20};
- なにっっ!今までの小説のキャラが全員集合!?意外なコラボにびっくり仰天。 続きへの期待は高まるばかりです。 -- [[ジューダス]] &new{2009-02-01 (日) 21:46:13};
- 何この小説………すごい………凄すぎるよ!!!! -- [[Fロッド]] &new{2009-02-02 (月) 00:00:15};
- 凄い。ですね。マナフィとの再会がどのような展開になるのか楽しみです。喫茶店に全員集合てきなシーンも良かったです。 -- [[眞]] &new{2009-02-03 (火) 05:38:55};
- うわぉ、ロールさんの救出作戦。てか、口で投げ飛ばすラックさんに拍手。(急に言うとこ変わるアホ)それと、「と手と手」は、「とてとて」ではないかと…。(このコメント意味不明。) -- [[ジューダス]] &new{2009-02-03 (火) 21:12:08};
- >へんちくりんな先生の下で媚薬の実験台にされるか…どっちがいい?&br;>やっぱり駄目ですよね……おわりましたね…なにもかも&br;これに腹筋崩壊したwwwレイス様~www --  &new{2009-02-03 (火) 23:00:43};
- マナフィwwカワユスwww --  &new{2009-02-15 (日) 22:59:50};
- 執筆お疲れ様です!他の作品からの登場のさせかたが非常に大好きです。 これからのソーダ君の行動に期待しながら待っております! -- [[銀猫]] &new{2009-02-25 (水) 00:13:18};
- あの~、ルカリオの力は「波動」ではなく、「波導」です。字が違います。 -- [[そなた]] &new{2009-02-25 (水) 19:15:25};
- サワーが話してるのに中にロールではなくサワーになってるところがあります --  &new{2009-03-08 (日) 15:13:52};
- ソーダとラムネが交わっちゃうのが見たいなあ・・・。 -- [[ここなっつ]] &new{2009-03-09 (月) 17:26:43};
- ロールの心情の移り方が自然で可愛らしいですね。喫茶店の役割もこれほど重要になるとは思ってもみませんでした。&br;先輩方のアドバイスを聞いたロールがどう動くのか、どんなアドバイスや助言をするのかをwktkしながら待っていますね。 -- [[リング]] &new{2009-03-11 (水) 00:04:19};
- まさに神☆小☆説!個人的に一番期待大の小説です!自然なコラボの具合といい、ストーリー展開といい、これからの期待を更に膨らませてくれます!そしてキャラクターのネーミングセンスが素晴らしいw -- [[ななしぃ]] &new{2009-03-13 (金) 22:04:25};
- ここのところ更新が早くて嬉しいです!深海に移動した先には…?続きが楽しみです! -- [[ななしぃ]] &new{2009-03-15 (日) 11:19:17};
- 更新も早いし、ストーリー性も抜群。(何様だ)いやはや 皆が説得すりシーンに全俺が泣いた。続きwktkwです -- [[SEED]] &new{2009-03-17 (火) 01:43:26};
- 次は結婚式会場突撃かな?だとしたら某最終幻想10みたく派手に突っ込むのか!? wktk -- [[62tree]] &new{2009-03-17 (火) 02:22:28};
- ロールが「……幻……」と呟く辺りで 痛い とベル と誤字らしき部分がございますですはい --  &new{2009-03-17 (火) 03:23:48};
- 更新お疲れ様です!それで、唐突ながらも修正点をですね、ハイ。「任せてください!」の上の部分の「に引き」→二匹かと。後はチェリーの「はい、誓います」の下の部分ですが、「神秘」→「神父」では?以上どうでも良さげな指摘でした^^;それにしてもチェリーはなんという大人!まるで如来様ですねw -- [[ななしぃ]] &new{2009-03-19 (木) 03:10:30};
- 皆様いろいろなコメントと誤字脱字指摘ありがとうございます。見苦しい文ですみませんorz -- [[九十九]] &new{2009-03-19 (木) 09:17:22};
- いえいえ、凄く見易いですよ!で、また誤字なんですが、「太鼓の精霊」→「太古の精霊」かと。発見時、不覚にも吹いてしまいました(失礼だろ -- [[ななしぃ]] &new{2009-03-19 (木) 15:48:15};
- 話ができたときから読んでましたが、読んでてこんなわくわくしたのは初めてです!執筆お疲れさまでした^^ --  &new{2009-03-21 (土) 22:35:02};
- 長きに渡って執筆お疲れ様でした!そして完成おめでとうございます!というよりはありがとうございます(?)凄くクオリティが高くて大いに感動しました!他の作品にも期待してます^^ -- [[ななしぃ]] &new{2009-03-21 (土) 23:56:32};
- 執筆お疲れ様でした! -- [[X]] &new{2009-03-22 (日) 00:29:08};
- おぉ! 全員集まってる。  いっそのことバジルの力で、式場の時間を止めてしまえば・・・・
――[[かなみ]] &new{2009-10-11 (日) 00:31:41};
- 全員集まっている。
結婚式にお父さんがいなかったが千里眼で見守っていたのかな。
自作金貨で30年遊び放題やべー
GJな小説ですね。
結婚するところの空間と時間狂ったと一瞬思いました。
――[[菜菜菜(ry]] &new{2009-10-11 (日) 03:40:27};

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