by [[朱雀フェニックス]] ---- 〜prologue〜 『じゃあ、行ってくるよ』 『うん、気を付けてね』 いつものように交わしていたこの言葉。 私と彼が、一緒にいるという証明の、暖かい言葉。 私は、…そんな当たり前の事を、…忘れていたのかもしれない。 この出来事は、私と彼と、何年間も一緒にいて慣れてしまい、 言葉の大切さを考え直すきっかけになったのかもしれない。 ---- 私が彼と出会って、もう7年になる。 私は7年前、あるトレーナーのポケモンだった。 そのトレーナーが、私を捕らえてから、毎日のようにこき使われ、ひっ&ruby(ぱた){叩};かれては魚や肉の食べ残しを食べさせられた。…あんな食べ残しじゃ、体力も食欲も全然回復しないわよ。 それなのにあいつは、私をこき使う事をやめなかった。 「役立たずめ。とっと出ていけ!」 と言われた方が、どれ程よかっただろうか。 だから私は逃げ出した。 なんとか逃げ切れたものの、ついに疲労と栄養不足で倒れてしまった。 その時、そこを通り掛かったのが、彼。今の私のトレーナーの、ユウセイ。その時は顔だけ見えてすぐ意識を失ってしまった。 彼の話によると、ユウセイは私を抱き抱えてポケモンセンターまで連れていってくれたらしい。 優しく、清らかな心のユウセイじゃなかったら、今頃&ruby(あっち){天国};にいたかもしれない。 私が目を覚ましてから状況を理解するのには、かなり時間がかかった。 あの時の私は、前のトレーナーの所為で人間に極端に恐れ、怒っていて、看護師二人に噛みつく程だった。 医者も「危険です」と言っていたが、ユウセイはそっと頭を撫でてくれた。あの温もりは今でも忘れられない。あの時の私は、びっくりしたが、安らかな気持ちが伝わって、警戒心を解いた。 それから、私は2週間入院することになった。ユウセイはあの時十歳の小学四年生だったのに、学校を休んで私の近くにいてくれた。親を説得したのだろう。 センターに連れていってくれて、 凶暴になっていたのに優しく頭を撫でてくれて、 小学四年生なのに学校を休んでまでも私の事を心配してくれた。 私が退院した時、こう思った。 こんなに優しくて清らかな心でお人好しの人間が他にいるのか そう思って、私はユウセイの手持ちになった。 あれから7年。ユウセイは17歳、高校二年生。 前からいつものように学校に行くとき、 「じゃ、行ってくるよ!待っててね、エブリィ!」 「うん、気をつけてね!帰ってきてよ、ユウセイ!」 このやり取りが、あの頃は楽しかった。嬉しかった。 ちなみに私のニックネームはエブリィ。ユウセイが着けてくれた。 ユウセイの両親は共働き。ユウセイが出掛けた後すぐに仕事場に行き、帰ってくるのは夕飯時だ。 だから私はいつも早起きしてユウセイを見送る。 土日はユウセイが自ら塾に通っている。彼は「勉強は楽しい。それを子ども達に解って欲しい」と言っていた。 だから毎日朝から昼は一人でいる。 私はポケモンだから、家事は出来ないので、彼の母にご飯を用意してもらってる。 私にも、家での楽しみがある。それは、近所のポケモン達と戯れる事だ。 右隣のフルハシさん家、 左隣のタカタさん家、 向かいのオオハラさん家の、 ポカブのキング、ミジュマルのペラー、ピカチュウのサンが馴染みがあるポケモンか。 「エブリィ、バトルのコツを教えてあげるよ。パワーがすべてじゃないんだ。テクニックも必要なんだよ」 「へぇ。私はバトルなんてやったことないから、是非教わっておくわ」 「オイラも!やっぱりサンはバトルが上手いからね!ペラーは?」 「オレも聞いておくよキング。将来為になるからさ」 「みんなありがとう。じゃあ…」 正直、みんなと一緒にいるととても気持ちが和む。こんな友達ができてよかった。 そして翌朝。 いつもの習慣で朝起きる。そう思って、外へ陽光を浴びに玄関に向かうと、 …あれ? いつも着ていくコートがない。 いつも履いていくスニーカーもない。 もしかして、私が早起きし過ぎたのか。だが時計を見ると、確かにいつもの時間だ。ならユウセイが寝坊したのか? 両親はいるので、彼の父に訊いてみると、 「ユウセイはもう学校に向かったよ。文化祭の朝練があって早く出るんだってさ。暫く続くらしい」 その言葉が、ショックだった。 いつものようにただ挨拶を交わしていただけだった。 いつものようにただユウセイと話していただけだった。 それが無いだけなのに。 何故こんなに悲しいの? 翌朝。 ユウセイは帰りが遅くなり、私が寝てから帰ってくるようになった。 昨日、目覚ましを少し早めにセットしていたが、習慣でいつもの時間に起きてしまった。 慣れというのは、恐ろしいものだ。 ユウセイを見送る事が出来ない。ユウセイと話せない。ユウセイに言葉を掛けられない。 私は泣いた。 ただ、ただ、ユウセイを見送る事が出来ない。 それだけなのに。 私は悲しかった。 私は泣きたかった。 私は涙が溢れた。 それから、近所のポケモン達と会わなくなった。 あの時の私に、そんな余裕は無かった。 それから暫くして。 「エブリィ、ユウセイの高校の文化祭が明後日あるんだ。一緒に見に行こう」 私は、嬉しくも思わなかったが、行ってみることにした。 「あなたは誰ですか?」 「私は遠くの森の魔女だ!」 ユウセイの学校は、毎年二年生が演劇をやることになっていた。 ユウセイの役は、よく解らないが、姫を守る軍のリーダーという役だった。 「行け!皆の者!なんとしても、彼女を御守りするのだ!」 「私は彼女の為なら、何でもします!」 「たとえ彼女と会えなくとも、私と彼女の心は、繋がっています!」 知らず知らずの内に、私はこの台詞を、ユウセイから私への言葉と捉えていた。 私は、胸の奥にあった汚れた塊が、一気に弾け飛んだような気がした。 私は、嬉しくて号泣してしまった。 翌朝。 私は朝起きて、いつものように…否、昔の私のように、嬉しく玄関に向かった。 ユウセイの、一匹の手持ちの、ブラッキーとして。 「じゃ、行ってくるよ!待っててね、エブリィ!」 「うん、気を付けてね!帰ってきてよ、ユウセイ!」 〜 言葉という物は大切な一つの繋がり 〜 THE END ---- だいぶ強引な所が目立ちますね……orz できれば、この作品を恋愛要素or官能表現を入れてアレンジして欲しいです。 ---- コメント欄ですよん #pcomment(above) IP:61.7.2.201 TIME:"2014-04-01 (火) 00:32:32" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E4%BA%A4%E3%82%8F%E3%81%99%E8%A8%80%E8%91%89" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.154 Safari/537.36"