#include(第十二回仮面小説大会情報窓・非官能部門,notitle) 「よう、そこの若いの」 周囲をきょろきょろと気にしながら歩いているリザードンは、何やらいい匂いのする頭でっかちなポケモンに呼び止められる。花のような匂いに、緑色の体。どうにも彼は草タイプらしい。ふわふわと浮いているが、飛行タイプなのか。それともエスパータイプなのか、はたまたゴーストタイプなのか初見ではわからない。 ひょろひょろとした手足を見るとお世辞にも強そうとは思えないが、顔は凛々しい印象を受けた。 「何でやんすか?」 「その喋り方、周囲の様子を逐一うかがうようなその挙動。どうやら君はこういう街に慣れていないようだ。要するに田舎者だな?」 「わ、悪かったでやんすね、田舎もんで」 思いっきり図星をつかれたリザードンはムキになって不貞腐れるが、そんな様子を見て、いい匂いがするポケモンはケラケラと乾いた笑いを浮かべる。 「まぁ、そういうな。あまり金もないのだろう? 俺の言うとおりにすれば、その金を倍にすることもできるがな? どうだい、一口乗ってみないか?」 いい匂いがするポケモンは、そう言ってリザードンの目を見透かした。 「な、な、な……なんでやんすか? いきなり怪しい奴でやんすね」 明らかに警戒しているリザードンだが、頭でっかちなポケモンはぐいぐいと顔を近づける。 「ほうほう、これはこれは、面白い運命の持ち主だ」 「見ただけでそんなのわかるんでやんすか?」 瞳を覗き込まれたリザードンは、目の前の頭でっかちなポケモンの発言に首をかしげる。大体、目がないポケモンはどうすればいいのか、と疑問である。 「はっは、目を見ただけでわかるはずがない、か? 心配するな、鼻を頼りにする者は鼻を。耳を頼りにする者は耳を見ればわかる。肌を頼りにする者は肌を見ればわかる、ってもんだ」 「うぇ……」 思っていることをきっちりと見破られてしまったリザードンは言葉に詰まる。 「まぁ、納得してもらえたか? ならばほら、そこにある見世物小屋を見るといい。あそこはな、入場料を払えば中に入れるんだが、中に入ったら応援券なんてのも買えるんだ」 「応援券?」 「応援券ってのはつまり、二人が喧嘩をしてどちらが勝つかを予想して、応援する方に買ってやるものさ。勝利した方の応援券を持っていたら、賞金のおこぼれがもらえるという寸法さ。ま、要するに賭け事だな。うまくいけば賞金を何倍にも増やせるぞ?」 「別にいいでやんすが、なんであんたが行かないんでやんすか?」 「それはあれだ。俺は出入り禁止なんでな、はっはっは……百発百中だからな」 頭でっかちなポケモンはケラケラと笑い声をあげた。正直、あまりにも胡散臭いが、洞察力が優れているのは確かである。 「まぁ、あれだ。田舎から出てきたばかりで、しかも今は帰る場所もないんだろう?」 「……え、なんでそんなところまで」 「わかるんだよ。家出同然で飛び出してきたんだろ? なら、所持金には不安があるはずだ」 頭でっかちなポケモンは不適な笑みを浮かべる。 「確かに、不安でやんすね……」 リザードンの男は銀貨や銅貨がたっぷりと入った財布を見る。一晩で使うには多すぎるが、二ヶ月もすればなくなってしまうだろうこの資金では、確かに心もとない。 「そうか、じゃあ参考までに占ってやる……見える、見えるぞ……うむ、応援券は鋼タイプ、虫タイプ、炎タイプ、水タイプ、悪タイプの順番で買うといい。ま、俺の言うとおりに買って損したら、金を返してやるからよ。キノコを売るよりは儲かるはずだぜ?」 「え、あ、うん……わかったでやんす……胡散臭いけれど、そこまで言うなら……」 この胡散臭い頭でっかちなポケモンは、リザードンが田舎の村でキノコの栽培をして生計を立てていることまでさりげなく見透かしている。こうまで見透かしてくるような奴のいう事ならばもしかしたら信用できるのかもしれないと、リザードンは信じることにした。 そうして向かった見世物小屋、というのはその名の通りで、日によっては舞や手品、歌や演劇といった芸を見せることもあるのだが、この見世物小屋は週に一度戦いを見世物にするのである。目の前でスリルのある戦いを見物できるということもあるが、この見世物の目玉はなんと言ってもギャンブルだ。会場側が用意したファイターたちの試合の結果を予想して応援券を買い、応援した選手が勝利すれば賞金と交換できるという、シンプルなものである。 「最初は鋼タイプでやんすか……」 リザードンは選手の二人をちらりと見る。一人は四足歩行のポケモンで、どっしりとした黄色い胴体と、重厚な分厚い鋼を纏った頭部が特徴的なポケモン。もう一方は、いかにも掌底による攻撃が得意そうなポケモンで、筋肉質な体に加えて、分厚い脂肪も蓄えている黄色いポケモンだ。おそらくは、格闘タイプ。 「あの鋼タイプのポケモンは……格闘タイプのポケモンには弱いんじゃないでやんすかね?」 相性としてはかなり悪く見える。だが、あの頭でっかちなポケモンが言うには、鋼タイプの券を買えという。うさん臭い男ではあるが、あんな言葉を吐くくらいなのだ、自信はあるのだろうと、リザードンは四足歩行の鋼タイプらしきポケモンの応援券を買う。 「さあさあ、週に一度のバトルデイ! 最初の試合が間もなく始まろうとしています! 対戦相手、東はトリデプスのフォート、鋼・岩タイプ! 西はハリテヤマのハクホー、格闘タイプ! 相性は最悪だが、フォートには相手を一撃で叩きのめす技もある。単純な相性だけでは勝敗はわからないぞ! さぁ、レディーファイト!」 四足歩行のポケモンの名は、トリデプス。そして掌底による攻撃が得意そうなポケモンはハリテヤマ。リザードンの見立て通り悪い。だが、ハリテヤマは相性が非常に良い相手であってもなかなか攻めに向かえず、じりじりと様子をうかがっている。 「おいおい、拍子抜けだな。勇猛な格闘タイプかと思いきや、とんだ臆病者だったってわけだ」 どっしりと構えていたトリデプスは、攻めてこない相手に対して挑発する。 「ちっ……やってやろうじゃねえか!」 攻撃を誘われたハリテヤマは前に張り手を突き出すが、二発ほどヒットしたところでトリデプスがカウンターの頭突きを行う。前のめりに体重をかけていたハリテヤマは歯を食いしばって頭突きに耐えるも、トリデプスは体内にため込んだダメージを増幅してハリテヤマの体内に直接流し返す。 見事なメタルバーストを食らってしまったハリテヤマは、浮足立ってそのまま試合場の端に追いやられてしまう。脚が浮いた状態で壁に押し付けられたハリテヤマは、そのまま腹部を圧迫されて呼吸を制限されてしまう。直接的なダメージこそ無いものの、徐々に苦しく、意識が朦朧としてきて、不意に地面に足が着いた時はたちあがった姿勢を維持することが出来ずに、床に崩れ落ちてしまった。 そこへ、トリデプスのダメ押しのアイアンヘッドが見事に決まり、勝負はついた。歓声が上がる中、トリデプスはガッツポーズをして勝利を喜んだ。 「もっと賭けておけばよかったでやんすね……」 やはり、相性の悪いトリデプスに賭けている者は少なかったようで、リザードンは少額の掛け金でなかなかの金を得ることが出来た。 「つ、次は……虫タイプでやんすね」 次は多めの金をかけてみようと、リザードンは次の対戦相手を見る。 「あれは……」 真っ赤な穴だらけの体から、にょろにょろとした胴体をのぞかせているポケモンと、妙に悪戯好きそうな赤い目をした、真っ黒でふわふわで、口に金色のジッパーがついたポケモン…… 「あ、あれは……どっちも虫タイプではないでやんすねぇ」 苦笑しながら、リザードンは意気消沈した。頭でっかちなポケモンからすれば、この戦いは飛ばせという事なのか、それとも間違いなのか。実のところ、真っ赤な穴だらけのポケモンはツボツボ、虫・岩タイプであり、真っ黒でふわふわなポケモンはジュペッタ、ゴーストタイプなので、真っ赤なポケモンの応援券を買えばよかったのだが、そうとは気づくことなく…… 「東はツボツボのアルフォンソ! 虫・岩タイプ! 西はジュペッタのランドルフ! ゴーストタイプ! さぁ、今回は相性に有利も不利もありません」 「えぇぇぇぇ、あれ、虫タイプなんでやんすか!?」 リザードンは実況のコールを聞いて後悔するのであった。そして、結果はツボツボの勝利。あの頭でっかちのポケモンの予想はまたまたあたりである。 「くっ……こうなったら次は当てるでやんすよ……」 リザードンは悔し気につぶやきながら、次の対戦相手を見る。次の対戦相手は真っ白ふわふわな、九本の尻尾を持つポケモンに、黒い体に真っ白な頭部の骨、そして太い骨の棍棒を携えたポケモンだ。 「あ、あれは知ってるポケモンでやんすね。キュウコンにガラガラ……しかし、都会のポケモンはハイカラさんでやんすねぇ。あのガラガラはずいぶん真っ黒いでやんすし、あのキュウコンはなんだか真っ白に染め上げているでやんすし……でも、どちらも今までのイメージと違って何かお洒落ででいいでやんすね」 当然、リザードンは炎タイプのキュウコンに掛け金を大量のつぎ込むのだが…… 「さぁ、本日最後の試合、第三試合、東はキュウコンのリージョンフォルム、クォーツ! 氷・フェアリータイプ! 西はガラガラのリージョンフォルム、レイザ! 炎・ゴーストタイプです!」 実況が言い終えると、ガラガラは骨の両端に緑色の炎を灯し、キュウコンは周囲に冷気をまき散らす。 「え……リージョンフォームって何でやんすかそれ……」 周囲に霰を降らし、オーロラベールで守りを固めたキュウコンではあったが、やはり相性の差を覆すのは難しく、キュウコンは負けてしまった。あの頭でっかちのポケモンの予想は全問正解ではあったが、肝心のリザードンは有り金の半分ほどをつぎ込んでしまったために、大損であった。 リザードンは、知っているポケモンだからと思って対戦者のタイプを聞くこともなしに金をつぎ込んでしまった事を後悔したが、後悔してももう遅い。リザードンの所持金は大幅に減ってしまうのであった。 まだ試合はあったが、四試合目はハサミがとても大きな、真っ白でカニっぽいポケモンと、鉢巻を巻いたような容姿、片足立ちの構えを取るポケモン。水タイプに賭けろと言われたのでカニっぽいポケモンに賭けたらカニっぽいポケモンは氷・格闘タイプでケケンカニという種族。熊っぽいポケモンは水・格闘タイプのウーラオスという種族と言われて見事に相性に素直な勝負結果となってしまった。 五戦目は先ほどの熊と同族らしきポケモン……少しばかり髪形などが違うが、ファッションセンスの問題だろうか? そして、いかにも悪人面な乾燥肌が気になる青紫色のポケモンだったが、青紫色のポケモンは毒・格闘タイプのドクロッグ。そして、先ほどと同じウーラオスというポケモンはどうにも進化の方法でタイプが違うらしく、悪タイプだと実況兼解説にいわれてしまう。 色々あって相性を覆してウーラオスが勝った……と、散々な結果だ。その後も試合はいくつかあったのだが、応援券を買うどころかバトルデイを初めて見た彼には、試合の予想だなんて出来やしない。結局、彼は失意のままに見世物小屋を後にするのであった。 見世物小屋を後にしたリザードンは、あっという間に軽くなった財布の中身を見て、トボトボと歩きながら途方に暮れていた。 「おやおや、若いの。君は大損したようだな。俺の予想通りに賭けなかったようだ。ハッハッハ」 頭でっかちな男はケラケラと笑いながらリザードンを迎えた。 「間違えたんでやんすよ……タイプが見た目からじゃわからなかったでやんすし……」 「それはそれは申し訳ない。俺が見た未来は見世物小屋の未来だけだったからなぁ、君の未来は見ていなかったんだ。すまんなぁ、ここまで知識がない田舎者だったとは予想外だ」 「うー……ものすごい言われようでやんすね」 「しかしまぁ、金を失ってしまったのは俺の責任ではないからな、弁償はしないぞ。一応、俺も見世物小屋の外で声を聴いていたから試合結果に間違いがなかったことは知っているんだ」 頭でっかちの男は同じような笑い声をあげて、リザードンのことをニヤニヤと見つめる。 「でも、どうすればいいでやんすかね……お金も少なくなってしまって……あっし、これからの生活が不安でやんすよ」 「だろうな。ならば、気分転換に美味い飯屋を探すといい。うまい飯屋を探すなら……ほら、ついてこい」 頭でっかちなポケモンは言いながらふわりと空中に浮かび上がる。リザードンもそれに倣って空を飛ぶと、頭でっかちなポケモンは外食店が立ち並ぶ場所を指さした。 「あそこだ。あそこらへんで、声を掛けられたポケモンについていくといい。だが、草タイプのポケモンにだけ耳を傾けるんだ。他のタイプのポケモンには耳を傾けるな」 「……うぅ、信じるでやんすよ」 そうして、リザードンは言われるがままに指示された場所へと向かう。すると、さっそく彼は現地のポケモンに話しかけられるのであった。 「はあい、お兄さん。うちでお食事していかないかい? 若い女の子が貴方を楽しませてくれるよ? なんと五〇〇〇ポケポッキリ!」 まず最初に話しかけられたのは、全身が真っ白いモフモフに覆われた四足歩行、黒い顔に青い鼻のポケモンだ。どうやら肉食獣のような匂いがするし、草タイプではなさそうだ。 「あ、遠慮しておくでやんすよ」 彼女はトリミアンと呼ばれるポケモンでノーマルタイプ。今回はリザードンの正解である。 「あら、そこのあんた。ちょっとうちに寄って行きなよ」 今度話しかけて来たのは、桃色の体に、カマや真っ赤な複眼を持つポケモンであった。彼女は大きな店ではなく、屋台に店を構えており、おいしそうなにおいが漂っている。客もいるようだが…… 「どう見ても虫タイプでやんすね……これはナシ。すまないでやんすよ、他の店を見てみるでやんす!」 リザードンは素通りする。 「あらぁ、残念。でも、気を付けてね、ここら辺、結構旅行客からだまし取ってくるお店が多いからさ」 「はい、気を付けるでやんすよ」 リザードンは彼女の言葉を大して気にすることなくそのまま突き進む。 「お兄さん、いいお店あるよ! 可愛い子がいっぱいいるよ!」 次にリザードンに話しかけてきたのは、顔の周りに青い花を纏った真っ白なポケモンだ。ひざ下あたりからは緑色となっており、大きな葉っぱが足元から広がっている。どう見ても、どこからどう見ても草タイプだ。とてもいい匂いがする。 「ふむ、可愛い子がいるんでやんすね。ちょっと興味があるでやんすよ」 リザードンは、その首の周りに花を纏うポケモンに興味を持ち、彼女が勤める店へと入っていく……それが罠とも知らずに。彼を出迎えたのは、可愛いポケモンとは名ばかりの年配の……いわゆるおばさん的ななポケモンたちの集まりで、下心で訪れたリザードンは楽しむこともまともにできなったうえに…… 「お客様、お勘定でございます」 「あ、はい。えーと……15000ポケ……へ?」 少量の酒しか飲んでいないというのに、数日分の生活費にはなりそうな法外な料金を請求されてしまうのであった……。 「ちょっと、どういうことでやんすか! 高すぎるでやんすよ!」 「お支払いになれないとなると……少々手荒な方法でお支払いいただくことになりますが……」 そして、こんな脅しをされてしまうと、田舎から飛んできたばかりのリザードンはビビッてお金を払うしかなくなるのであった。 数分後、若くもない女に接待され、高額の料金を請求されたリザードンは、怒り心頭で頭でっかちのポケモンに詰め寄った。ちなみに、頭でっかちなポケモンはというと、先にリザードンに話しかけてきた、どう見ても虫タイプな桃色のポケモンの店で食事をしていた。つまるところ、こっちが正解である。 「おいおい、若いの。俺は草タイプの言葉にだけ耳を傾けろって言っただろ? あんた、こう……首周りに青い花をつけたポケモンの言葉を信じていなかったか?」 「そうでやんすよ! 草タイプじゃないでやんすか」 「いや、あれフェアリータイプなんだよなぁ……フラージェスって言ってな、フェアリータイプ単一なんだ。そうかそうか、やはり俺の見た未来予想図は間違いではなかったというわけか」 「えぇぇぇぇ!? あれでフェアリータイプ? ありえないでやんすよ!? どう見ても草タイプでやんすよ!」 「いや、それがありえるんだよなぁ。特に、フラージェスとキュワワーってポケモンはみんな初見だと誤解するんだ……あと、ついでに、このお店の店主だが、この花のようなカマキリのような見た目の美しいポケモンはラランテスって言うんだ」 「そうよ。おばちゃんの見た目、美しいでしょ?」 「おう、お姉さんは本当に美しいね。毎日一生懸命生きている証拠だよ」 ラランテスが機嫌がよさそうに笑みを浮かべると、頭でっかちのポケモンはそんな彼女を褒めたたえた。 「ラランテス……それがどうしたでやんすか?」 「この方ね、草タイプ。この見た目で虫タイプじゃないんだよな、いやー……ポケモンって不思議」 頭でっかちのポケモンは白々しくそんなことを言う。 「先に言うでやんすよ、そういうのは!」 「はっはっは。タイプが分からないならば聞けばいいじゃないか。そうだ、腹も膨れたんだから宿も必要だろ? 今度はゴーストタイプのポケモンの言葉を信じるといい。酔っている旅人は絶好の客だからな、向こうから話しかけてくるはずだが……いいな? ゴーストタイプの言葉を信じればうまくいくからな。他のタイプのポケモンの話は聞かないほうがいい」 「そんな曖昧な言い方じゃなくって、もっとこう、特徴とかわからないんでやんすかねぇ?」 「はっはっは、それを言ったらつまらないじゃないか」 「こっちは死活問題なんでやんすよ!」 「そう言うな。こういう時は、誰かに尋ねたりする力や、嘘を見破る力というものも問われるってわけだ。俺を信じろ。おっと、俺はちょっとした従者を待たせているからな、そいつと一緒にちょっと高級な宿屋に泊ってくるよ」 頭でっかちなポケモンは、そう言ってどこかへと消えていった。確かに今まで一つも嘘を言っていないのかもしれない。意地悪ではあるが、今度こそ絶対に間違えないためにも、リザードンはポケモンのタイプを聞いておくことにするのであった。 数分後、宿街へと向かったリザードンはさっそく現地の者に話しかけられる。 「おや、そこの人。どうやら酔っているみたいだね。どうだい、うちに泊まらないかい?」 そう話しかけてきたのは、自身の体内で布を洗濯している黄色いポケモンであった。変わった生物である。 「お、お兄さん……何タイプでやんすか?」 「何タイプって? 今は電気・水だけれど……」 言いながら、そのポケモンはなんと自分の体を脱ぎ捨てたではないか。そのままふわふわ浮かんでいるあたり、なんとも不思議なポケモンである。 「ほら、うちの宿、今空き部屋あるんですよ。それほど安くはないけれど、安全性には自信があるんだ、ほら、壁をすり抜けることだって自由自在の私でも、ここの壁は優秀な結界が貼られているからね、通り抜けられないんだ。ゴーストタイプのポケモンに泥棒される心配もないというわけだ」 どうやらそのポケモンは、からくりの中に入り込むことでそのからくりの能力を使うことが出来るらしい。しかも、壁をすり抜けることも出来るという能力もちのようだ……だが、ゴーストタイプではないようだ。 「うーむ、ちょっと他の宿も見てみるでやんすよ」 「そうかぁ。あんまり治安はよくないから、いくら暖かい体でも野宿だけはやめときなよー?」 「分かったでやんすよー」 黄色いポケモンにそう返して、リザードンは進んでいく。 「おーい、そこの尻尾が明るいおぬし。夜も遅いし、拙者らの宿に泊まっていくといいでござるよ?」 次に話しかけてきたのは青い体のポケモンだ。彼は長い舌をマフラーのように体に巻き付けているなんとも言えない見た目をしている。 「うーん、お兄さん、あんた何タイプでやんすか?」 「拙者のタイプでござるか? おっと、虫でござるね!」 リザードンに尋ねられたポケモンは、長い舌を伸ばしてリザードンの尻尾の炎に惹かれてきた虫を捕食する。 「おお、お見事! あっしの尻尾、虫が寄ってくるんでやんすよねぇ」 「失礼。拙者のタイプは、悪・水でござるよ。そんなことよりも、拙者の宿は拙者が寝ずの番をしているから、夜も安心して眠れるでござるよ。壁をすり抜けて物を奪ったり、窓の隙間からサイコキネシスでものを奪うような輩も多いでござるが、拙者がいれば安心安全でござる。なんせ拙者は、変幻自在の特性があるから、どんな敵が来ても対応できるでござるよ」 「うー、うーむ……ちょっと、考えさせてほしいでやんすよ」 なかなか腕が立ちそうなポケモンであったが、やはりゴーストタイプではない以上、やめたほうが無難だろう。 次に話しかけられたのは、白くてふわふわな毛皮に、炎が燃え上がる額。ピンと立った耳が特徴的なウサギ型のポケモンであった。 「いよう! 兄さん! 俺達の宿に」 どう見ても炎タイプだしゴーストタイプでもないので、リザードンは素通りした。 「ちょっと待ってくれよ! 俺リベロって特性持っててな! ローキックもできるし、シャドーボールだって使えるし……ほら見ろよ! 見てくれよ! うちの宿はうまい飯と杏園保証で……ああ、もう……」 リザードンに無視されたウサギのポケモンは、リザードンに無視され続けたために黙ってしまった。ため息をついて、彼はリザードンを見送ることしかできなかった。 「よ、よう、お兄さん。うちの宿は安さが自慢だ、泊まっていかないかい? ほ、ほら……客が来てるだろ、今はちょっと離してくれよ……」 次に話しかけて来たのは目や体に宝石が埋め込まれたような二足歩行のポケモンであった。彼は何かトラブルにでも巻き込まれているのか、青と桃色のパステルカラーな、とてつもなく長い髪の毛のポケモンに締めあげられている。 「離さないし、逃がさないわよ? ちょこまか逃げる厄介な奴も、私の手に罹れば袋のネズミなんだから。借金からいつまでも逃げ続けられるとは思わないことね」 長い髪の毛のポケモンはそう言って宝石の男を睨みつけている。 「……お兄さんのタイプは何なんでやんすか?」 「俺? 俺のタイプは悪・ゴーストだぜ? いかにも暗闇が似合うだろ?」 リザードンはその男の事をいぶかしげに見る。 「ほ、本当でやんすね? 本当にゴーストタイプなんでやんすね!?」 リザードンが尋ねると、宝石の目の男よりも先に、髪の長い女性が答えた。 「本当だよ……ったく、ゴーストタイプだからこいつちょこまかと逃げやがって……だけれど、あたいが魔法の粉を使った以上、もう逃がさないわ。借金、払ってもらうから。それとも、あんたの体と目ん玉、引っぺがしてお金に変えるかい?」 髪の長い女性は、自慢のサラサラヘアーの先端を彼の眼球に這わせる。 「そ、そういうわけなんだよ、そこのお兄さん。俺、金が必要だからさ、ぜひ宿に泊まってってくれよ……ははは……サービスするからさ」 「う、うん。わかったでやんすよ」 ゴーストタイプの言葉は信じていいと言われたリザードンは、こいつの言葉ならば信じるべきだと、小躍りした。今度こそ聞いた! この耳できっちりと聞いた! 本人だけでなく、そばにいた女性からも、この全身宝石まみれのポケモンはゴーストタイプだと聞いた。これならばもう騙されていない! と、リザードンはほくそ笑む。 勝手に騙されたつもりになっていただけではあるが、今度こそ大丈夫なはずだ。 その日、リザードンは心地よく目覚めて、朝食をとって、気持ちよく宿を出る。安い宿ではあったが朝食は悪くなかった。 「さーて……今日からは仕事を探さないといけないでやんすね……思ったよりも早めにお金もつきそうでやんすし」 独り言を言いながら歩いていると、リザードンの目の前にはあの頭でっかちなポケモンが、真っ白な、いかにも冷たそうなポケモンに騎乗している。 「あぁ、あんたは……その馬型のポケモンが従者とやらでやんすか?」 「よう、リザードンのお兄さん。こいつはブリザポスって言うポケモンでな。足はそんなに速くないが、どんな荒れ地も力強く突き進む、俺の忠臣だ」 「主人は他人を振り回すのが好きで厄介なお人ですが……よろしくお願いします」 ブリザポスという名のポケモンは深々と頭を下げる。 「ところで君、今日はご機嫌だな? ゴーストタイプに紹介された宿は良かったかい?」 「あぁ、悪くない宿に泊まれたでやんすからね。昨日出会ったポケモン……ヤミラミって言うんでやんすね、あいつはゴーストタイプだったから、あんたの言う通りに行ってみたでやんすが、あたりでやんすね」 「ヤミラミ? あのヤミラミが店員やってる宿は、泥棒がよく入るってんで評判悪かったがなぁ」 「へぇ……そうなんでやんすかぁ」 「というか、お前が持っているるそのきんちゃく袋、中身本当にお金か?」 「え……」 頭でっかちなポケモンに言われ、どきりとしながらリザードンが財布に使っているきんちゃく袋を見る。案の定、詰まっているのは石ころであった。 「……えっと、銀貨が全部消えてるでやんすね」 「うーむ、やはりか。あのヤミラミ、借金しまくってたしなぁ。しかも、青とピンク色の髪の長いお嬢さん……ブリムオンっていう種族なんだが……あいつはゴーストタイプ専門の借金取りとして有名な奴が出てきてたはずだ。ゴーストタイプのポケモンは捕えておくことが難しいが、ブリムオンってポケモンは魔法の粉って技で相手のタイプを変えることが出来るから……」 「いやいやいや、どういうことでやんすか!? ポケモンのタイプを変えるわざとかそんなのありなんでやんすか!?」 「ついでに言うと、昨日出会ったと思われるあの舌の長いポケモンは、変幻自在って特性を持っていて、自分のタイプが出した技と同じタイプに変化するんだ……『舌で舐める』とかを使うとゴーストタイプになるはずだなぁ。あと、耳の長い白っぽいポケモンも似たような特性を持っていて……シャドーボールとか……」 「そんな技使って……たでやんすね」 「それと、ロトムってポケモンがいて、そいつはからくりに入っている間はタイプが水や炎に変わるけれど、からくりから出るとタイプがゴーストに戻るんだ……うーむ、ゴーストタイプ以外のポケモンの言うことは真に受けるなと言ったのは失敗だったなぁ。やれやれ、これだからきちんとタイプを確認しろと言ったのに…… 大体お前だって、その気になればタイプを変えられる((メガシンカをすることで炎・ドラゴンタイプになれる))んだ……他人がタイプを変えられないと思っちゃいけないな」 「あの……焼いていいでやんすか?」 あまりに意地悪な物言いに、今まで怒りを堪えていたリザードンもついに怒りで口の中に炎を蓄え始めた。しかし、ずっと睨みつけていたはずの頭でっかちなポケモンは、ふと気を抜いたら目の前から消えていた。 「おいおい、勘弁してくれ。俺もこいつも炎には弱いんだ」 いつの間にかリザードンは後ろから話しかけられて、リザードンは大きくのけぞった。 「な、いきなり後ろ! なにしたんでやんすか!?」 テレポートではない、確かに高速移動をしているように見えたが、まるで反応できずにいたリザードンは驚いて硬直する。 「いやさぁ、意地悪を言った自覚はあるが、嘘は一度も言っていないんだぜ? ちなみに、今のはトリックルームってやつだ。喧嘩を売るときはこういう技を使われることもあるから気をつけろよ?」 頭でっかちの男は得意げに笑みを浮かべる。 「意地悪をした自覚があるなら、なんか謝るくらいはするでやんすよ!」 背筋をこわばらせながらもリザードンは文句を続けた。 「じゃ、お前にとって嬉しい予言をしてやるから機嫌を直せ。予言でもあるが、お前さんの行動の指針にもなるぜ?」 「なーんか胡散臭いでやんすが……一応、聞くだけきいてみるでやんすよ」 「いい心がけだ。これからお前は親切なゴーストタイプのポケモンに助けられる。」 「む……どう助けられるかは……教えてもらえないんでやんすね。っていうか、そのゴーストタイプのポケモンは本当にゴーストタイプなんでやんすか?((彼は知る由もないが、パンプジンのハロウィンなどでゴーストタイプを無理やり作ることはできる。))」 「お、だいぶわかってきたじゃないか」 リザードンの勘の良さに、頭でっかちな男は上機嫌になった。そして、リザードンの質問にはっきりとは答えないまま、頭でっかちなポケモンの予言は続く。 「さて、そのポケモンに助けられた後に独り立ちしたら、次はドラゴンタイプのポケモンに助けられる」 「その途中に何があるかはわからんでやんすが、悪いことではないでやんすね……」 「そして、お前はドラゴンタイプのポケモンと恋人になるが、最終的には鋼タイプのポケモンと結婚する」 「マジでやんすか? えー。一体どんなポケモンなんでやんすかね……」 「そして、飛行タイプの男に誘われるがままに入った施設で新たな自分を見つけ……そう、炎が口から自然に漏れ出すような新体験……」 「え、ちょっと変な予言しないで欲しいでやんすよ」 「そしてお前は、毒タイプのポケモンに、女にされる……」 「いや、待つでやんすよ!? なんでやんすかその予言」 リザードンの男は一歩後ずさる。 「そして、毒タイプのポケモンの家族が増える」 「ちょ……ま……」 男から告げられる予言が不穏なものになり始め、リザードンは明らかに動揺する。 「他にもお前は……あ、逃げるな!」 「これ以上不吉な未来を聞かされたくないでやんすよ!」 ついに耐えいきれずにリザードンは頭でっかちなポケモンから逃れるようにして翼を広げ、大空に飛び出した。 「ここが一番重要なのになぁ……もう音速超えてるっぽいし、俺の声も聞こえやしないかぁ」 空を飛んで遥か遠方へと去っていくリザードンを見ながら、頭でっかちな男は笑みを浮かべる。 「陛下……少し意地悪な物言いをし過ぎでは?」 逃げて行ったリザードンを目で追いながら、氷の馬ブリザポスは苦笑する。頭でっかちな男は、リザードンが音速でいなくなり、『陛下』と呼ばれた瞬間から厳かな雰囲気をまとい、木の実を食べるのもはばかられるようなオーラを放つ。 「余はこれが好きなのだよ。まったく、まだ重要なことを伝えていないってのに、せっかちな奴だ。バドレックスに予言をしてもらえるだなんて相当な名誉だというのに」 「陛下。私だってあんな言い方をしたら逃げますよ……」 逃げて行ったリザードンを眺めながらブリザポスは苦笑する。 「なんだ、忠誠心の高いお前でも余の予言は怖いのか? 傷つくな」 「えぇ、怖いですよ、陛下。貴方は意地悪ですから」 はっきりと言われて、頭でっかちなポケモン、バドレックスはわざとらしくはっはっはと笑い声をあげた。 「やれやれ今日の余はサービスしすぎたかな?」 リザードンの男が、予言をしてくれたポケモンが伝説のポケモンであることを知るのは、ずっと後の事であった。