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主人と執事 の変更点


作者:[[ウルラ]](旧:イノシア)

&color(red){※この作品には官能的表現が含まれています};

**主人と執事 [#u74646eb]

 -1-

「ルカリオ。居る?」
「はい。何でしょうか」
 そう返事をして、開けてあるドアから足音を立てないように中へ入る。
 まず目に入ったのはふかふかの白いベッド。その上に座り込んだ私の主人。
 金色の美しい毛並みに、綺麗に畳まれた毛布の上に並ぶように置かれている九本の尾。
「紅茶、入れてきてくれる?」
「かしこまりました」
 彼女に向かって一礼し、私は部屋から出て階段を降りた。その最中にふとあることに気がつく。
(何で毛布が畳んであるんだ?)
 彼女はいつも毛布は畳まず、ベッドの端に避けておくだけしかしない。勿論、私が畳んだ覚えもない。
 いくら考えても結論は出ない。とにかく今は、彼女に紅茶を入れることを優先しよう……。




「紅茶をお持ちいたしました」
「ありがとう、そこにおいといてくれれば良いわ」
 彼女はそう言うと部屋の真ん中にある小さなテーブルを指さす。
 私はその言葉に頷くと、紅茶の入った洒落たポットと、ティーカップを乗せた盆をゆっくりとテーブルに置いた。
「あの……」
「何? ルカリオ」
 あのことを訊こうと声をかけると、彼女はこちらに赤い瞳を向ける。……自分の頬が赤くなるのを感じた。
 それを必死に振り払うように口を開いた。
「なぜ、私に毛布を畳ませないのですか?」
 彼女は軽く首を傾げると、後ろに振り返って畳まれた毛布を見る。
「なぜって、たまにはいいじゃない? 私が畳んでも。それくらい、私にだって出来るわよ?」
「それは私の仕事です」
 そんな私の言葉を聞いて、彼女はクスリと笑みを見せて言った。
「あら、そんなに畳みたかったの?」
「い、いえ。それが私の仕事ですから」
 首を横に振ってそれを否定した。
 確かに、彼女の毛布を片づけるのは嫌いというわけではないが、否が応でも畳みたいとは……。
「本当に仕事だから?」
「え……?」
 いきなり彼女が言った言葉に耳を疑う。戸惑う私を見て彼女はまたクスリと笑った。
「顔、赤いわよ?」
「……!」
 彼女の言葉を聞いて、すぐに隣にある等身大の鏡を見る。私の顔の頬がほんのりと赤くなっていた。
 それを確認したからなのか、さらに頬が赤くなっていく……。
「わ、私は……!」
「いいのよ。嘘つかなくても」
 彼女はまったりとした口調でそう言うと、私の方にゆっくりと近づいてくる。
 それと同じように心臓の鼓動も近づくかのようにだんだんと大きくなってきていた。
 そして、彼女の顔が目の前に迫った……。それに耐えきれずに踵を返し、部屋の入り口へと走って逃げた。ある程度離れると口を開いて叫ぶように言った。
「止めてください! 私はあなたの執事です!」
「……」
 そう叫ぶように言うと、私は廊下へと出て執事室に向かって走っていた……。


----

 -2-

 執事室についた私は乱れた息をゆっくりと整える。
 彼女はまるで誘うように私に近づいてきた。しかも、顔を近づけて接吻をしようと……。
 私にその気がないと言えば嘘になる。少なからず彼女には“そのような感情”を抱いている。
 しかし、許されることではない。そう言い聞かせていままで執事をやってきた。なのに、まさか彼女の方から……。

 ……いや、もし彼女が私に“そんな感情”を持っていたとしても、だ。
 絶対にそれは許されることではない。ましてや、彼女には夫がいた。
 元々私は夫人の使用人としてその義務を果たしていた。夫人が亡くなってからはその妻である彼女に仕えてきた。
 しかし、亡くなったからと言って、義務を放棄して良い事には繋がらない。
(このことは忘れよう……)
 そう心に決め、机に寄りかかっていた手を離し、彼女の部屋に戻ろうと振り返る。……その時だった。
「あ……」
 扉の前にいたのは紛れもなく彼女だ。まさか彼女から来るとは思ってはいなかったために少したじろぐ。
「あの……さっきはごめんなさい。急にあんなことして」
 彼女は耳を垂らしながらうつむく。
「あ、いや。あ、あまり気にしてませんから。お気になさらず」
 そう言った途端に彼女はこちらに近付いてくる。急いで下がろうとするが、後ろには机があって下がれない。段々と心臓の鼓動がはやくなっていく。
「でも、自分自身の気持ちに嘘をつくつもりはないの……」
 彼女のその言葉で自分の顔が火照っていくのを感じた。彼女は尾を怪しく揺らしながらさらに近付いて来る。

 気持ちに嘘をつくつもりはない

 ……その意味すら、考える余裕はなかった。
 彼女は念力で私を簡素なベッドの上に乗せると、その上にさらに彼女が跨った。
「婦人……!? な、何を」
「言わなくても分かってるんでしょ?」
 彼女はそう言って顔を寄せてくる。あまりにもとっさの出来事に、ただ強く目をつむるしかなかった。
 口に何かが触れる。そして勢いで中に湿った何かが入り込んできた。その行為が何か理解した途端、私は彼女を急いで退けようとする。
 しかし皮肉にも、彼女の体制の方が有利で、しかも口の中をかき回される感覚で体に力が入らない。私はただされるがままだった。
「さて、と……」
 彼女が口を離す。私と彼女の口に何か糸のようなものが出来たが、すぐに消えてしまった。なんだか頭がぼーっとしている……。
「くぁ!?」
 体が勝手に飛び跳ねる。それと同時に全身に走る妙な感覚。
 その根源を見ると、そこには私の……そそり立った雄の象徴ともいえるものがあった。
 ……それを彼女が舐めていたのだ。
「な、何を……!?」
「見れば分かるでしょ?」
 そう言って彼女はまた私のモノをぺちゃぺちゃ水音を立てながらと舐め始める。全身に言いようのない刺激が走り、彼女を退かそうとする力が全く入らなくなる。
 こんなこと、してはいけないと分かりながらも、その行為を認めている私の体が情けなかった。
「どう? 気持ちいい?」
 強い刺激に耐えるのに精一杯で、彼女の問いには全く答えられない。
「フフフッ……」
 彼女は笑みを浮かべると舐めるのを止めて、顔を再びこちらに近づける。それと同時に、何か湿ったものが私のモノにあたるのを感じた。
「ウォーミングアップはここまで。そろそろ本番といきましょうか」
 そういって彼女は腰を下げてくる。まさか……。
「……!」
「キャッ!」
 これだけはいけないと理性が勝ったのか、彼女は突き飛ばして、その行為を中断させる。
 すぐにベッドから降りると、彼女に向かって叫んでいた。
「あなたには夫人がいました! なのにあなたは……!」
 そう叫んで、私はその部屋から飛び出した。自分自身が恥ずかしくて仕方ないからかもしれない。
 でも今の主人である彼女が、前の主人……つまりは亡き夫人を忘れ、あんな行為に走ったことが悲しかった。
 あの人は、前の主人は……彼女をあんなに愛していたのに……。

----

 -3-

 気づけば私は屋敷から出ていた。
 目の前には一面に広がる花畑。前の主人が、彼女にプレゼントしたものだった。
 風で花々が揺れ、ほんのりと甘い香りが鼻をくすぐる。
 ……こんな立派なものをプレゼントするくらい彼は彼女を大事にしていた。なのに……彼女はなぜ私に……あんなことを。
(っ……)
 先程の行為を思い出してしまい、不覚にも下腹部が疼く。……本当に自分自身が情けなく思えてきた。


 ――花畑に逃げ込んできてからどれくらい経っただろうか。しばらく歩いたり座り込んではぼーっとしていたが、考え込むのは彼女のこと。
 何故彼女は私にあんなことをしようとしたのだろうか。夫人への思いは一体どこへ消えてしまったのか……。端から誰が見ても仲むつまじそうに見えたのに。
 この疑問はどんなに考えこんでも分からなかった。やはり、直接彼女に問いただすしかない。なるべくしたくはないが、またあのようなことをしてくるなら技で防ごう。
 そう意を決して、私は屋敷へと戻った。


 廊下をゆっくりを歩いていき、階段を上がる。そしてまた長い廊下を歩いて彼女の部屋の前にきた。意を決したとはいえ、いざ話そうとすると緊張する。
 一度深呼吸をしてから、ノックをした。
「婦人、失礼します」
 ……とは言ったものの、返事がない。この部屋にはいないのだろうか。
 そう思い、部屋を後にしようとしたが中から聞こえてきた物音を聞いて足を止めた。中に居るみたいだ。
 もう一度ノックをして、ドアノブに手をかけてドアを開けた。そこにあったものを見て思わず目を見開く。
「……! 何をやっているんですか!」
 彼女は瓶に入った睡眠補助薬を机上に散らせてその多くを手に乗せていっていた。
 私は急いで彼女の手から薬を全て払い落とした。彼女は何が起きたか分からないといったような、キョトンとした表情で私を見ていた。
 そして力の抜けた声で彼女は私にこう言った。
「……何してるの?」
「何してるって!? それはこちらの台詞ですよ!」
 息を荒げながら私はそう返した。彼女はプッと吹き出すと腹を押さえながら笑い出した。
(……い、意味が分からない)
 彼女は笑いながらも私の表情を見て察してくれたのか、必死に笑いをこらえながら口を開く。
「まさか、私が自殺しようとしてるように見えたわけ?」
「ち、違うのですか?」
 彼女は首を大きく横に振る。
「違うわ。最近、何故か眠れなくてね。眠るのにも、薬を使わないと寝付けないの。で、出そうとしたら瓶倒しちゃって」
「……で、集めてたと……」
「そうそう」
 彼女は私のつぶやきに首を縦に振る。その瞬間、いきなり肩の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。
「……良かった……」
 自分は冷静に止めに入ったつもりだったが、まさかこんなに動揺していたのか……。安堵のあまり力が抜けるほどに。
「……物凄く勘違いしてたわね」
「すみません……」
 彼女は軽く息を吐きながらそう言った。私は頭を下げて謝ったが、彼女は再び薬を拾い始める。
「……でも、とても嬉しかった……」
「……え?」
 最初はその言葉に耳を疑った。しかし聞こえたのは事実。彼女はしっかりと口を動かしていたから。
 思わず聞き返すように声を漏らしてしまったが、彼女は薬を瓶に戻してから蓋を閉めて、私の方に向き直った。
「何でもない。それより……さっきはあの、本当に……」
「……」
 今回ばかりは『気にしていません』と言うことは出来なかった。二度も夫人を裏切るようなことをしたのだ。簡単に許せそうにはなかった。
 しかし、事情を聞かない限りはよく分からない。彼女が何故あんな行為に走ろうとしたのか。そして、何故私なのかと……。
「聞きたいことがあります」
「……何?」
 彼女は話を切り出した私を見て首を傾げる。私は続けた。
「あなたには今は亡き夫がいましたよね。なのに、何故あんな行為を……?」
 さすがに答えづらい質問だったのか、彼女は俯いて押し黙る。そしてしばらく間をおいてから彼女は話し出した。
「もう我慢の限界だったの……。クロアが亡くなってから……相手がいないから」
 何の相手なのかはあえて聞かない。あの行為から察してそれがなんなのかは見当がつく。
「一人でやってみても、虚無感が無くなることはなかった。むしろ、寂しくなっていただけ……」
「それで、私に……」
 彼女は首を横に振った。
「確かにそれもある。けどルカリオ、あなたはクロアに似ていたから……」
「似ていた……? 私が?」
 彼女は机の上にあった写真を手に取ると、それを眺めながら言った。
「クロアの種族は私と同じキュウコンで、あなたの種族とは違うけど、雰囲気が似てるの。どこかそっけない態度で、でも優しく接してくれる……そこが、クロアと似てる」
「だから、私に夫人を重ねて……」
 彼女はそれを聞いて頷く。
 それを見た途端、どことなく悲しくなった。……私が、夫人の代わり……いや、それが執事にはお似合いなのだろう。
 それに、彼女は夫人を愛していた。似ている者にその姿を重ねるのも、無理はない。
「でも、ね……」
 写真立てを机にコトンと置いて元に戻すと、彼女はこちらを向いて言った。
「私は……ルカリオのあなたも好きだから……」
「……」
 それを聞いて嬉しくないわけはなかった。しかし、どうしても納得がいかない。彼女はクロアのことを今でも思っている。なのに、私“も”好きというのが引っかかっていた。
 黙り込む私を見てか、彼女は再び口を開いた。
「私の祖父が、よく言ってた。『悔いのない人生を歩みなさい』って。それって、こういうことなんじゃないかな」
 ……彼女が私をこうも想ってくれている。だが、私は執事としての責務があり、それと同じように禁忌がある。
 ……しかし、この場合は……。
「……また“私は執事だから”とか考えてる?」
 彼女の問いに、私は静かに首を縦に振る。
「私はクロア様に今まで仕え、接してきました。それは亡き今でも同じ事……」
 私がそう呟くように言うと、彼女はため息をついて言った。
「じゃああなたは何のためにクロアの葬式に参列したの? ……葬式は、亡くなった者との決別をするためにあるの。あなたは、彼と縁を切ったのではないの?」
 葬式の意味は私も知っていた。しかし、それが忠誠をも捨てるわけではない。いくら決別したとは言え、それは簡単に捨てられるものではなかった。
「……もう少し、考えさせてください」
「分かったわ。……でも、明後日くらいには答えを出してほしい」
 私は彼女の言葉に頷くと、一礼をして部屋から出ていった。


----

 -4-

 椅子に座りながら、机をコツコツと叩く。それを止めた途端に耳に入ってくるのは時計の秒針が一秒一秒を刻む音。執事室で考え始めてから、この音を何回聞いただろうか。
 深く考えようとも、答えが全くまとまらない。私は執事の身分であり、彼女とは雲泥の差。絶対に付き合うことなど許されるはずがない。
 しかし、彼女はそれを容認している。別に拒絶をしているわけでもない。むしろ、肯定的。私も彼女が……なわけだし、許されるのかもしれない。
 でも、亡き夫人に申し訳が立たない。死に際に『妻を守ってくれ』と言った彼に。
 ……こんな具合に“でも”や“しかし”という言葉が続き、埒(らち)があかない。これでは明後日までに決まるはずが……ない。
 せめて、夫人に返答を求められるのならば求めたい。だが亡き人に問いつめても答えは返ってこない。これは私が決めなければならない問題……。
 ……私は一体どうすれば……。
 ふと写真立てが目に入る。二匹のキュウコンが寄り添っている写真、つまりはクロア様と彼女。その隣に私も混じっていた。
 そう言えばこの写真、撮られる時に私は遠慮をしていたような。だから表情も少し堅いのか……少しうろ覚えだ。
 “ただの執事だから”と一緒に写るのを遠慮していた私を、夫人は無理矢理でも一緒に撮ろうと言って私も渋々ながらも写った……。思い出してきた。
 確か写真を撮った後、夫人は私に向かって言ったっけか、『もっと素直になりなさい』と。ならば……この気持ちにも素直になってよいのだろうか。
 でもやはり間には“執事”という身分の壁がある。長い間積み上げられたその壁を簡単に跨ぐことなど、到底無理に近かった。
 しかも、物心ついたときには既に召使いや奴隷の身。すっかり身分の差が身に染みてしまっている。

 不意に執事室の扉が開く音がする。長い間俯いていた首をあげると、そこには彼女がいた。
「考えてる最中悪いのだけど、そろそろ夕食の支度を……」
「あ、はい。かしこまりました」
 写真立てを元に戻すと、椅子から立ち上がりすぐに彼女のところへ向かう。彼女は写真立てを軽く見て、次にこちらを見た。
「あの写真見てたのね」
「……ええ」
 彼女の呟くような問いかけに、私は頷く。彼女は続けた。
「あの写真を撮った後にクロアが言った言葉、覚えてる?」
「もっと素直になりなさいって、言ってましたね……」
 淡々と答えたつもりだったが、私のほんの少しの動揺が彼女にはバレていたようで、彼女は軽く私の方に真紅の瞳を向けた。
「あなたならその意味、理解してくれると信じてる」
 彼女はそう言った後、踵を返して部屋を出ていった。私はしばらく部屋の中で立ち尽くし、夕食の準備を思い出してすぐに部屋を出た。

 ……あなたならその意味、理解してくれると信じてる……。

 その言葉がさっきから頭を木霊している。夕食を作る手こそ止めないが、夫人の言葉の意味を考え続けていた。

 “もっと素直になりなさい”

 この言葉がどんな意味を持つというのだろうか。自分の気持ちに正直になれとでもいうのだろうか。なら、今のこの気持ちは……。
 主従関係の壁を越えて、私はこの気持ちを素直に出してしまってかまわないのだろうか。……一体どうすれば。




 ――そう考えているうちに日は過ぎていく。何の答えも見いだせないまま、約束の明後日がきてしまった。
 執事室の扉がガチャリと開く。顔を上げて入り口を見据えると、そこにはやはり彼女がいた。
「答えは……出た?」
 その問いかけに、私は黙りこくる。答えなんて決まっていない。そもそも、三日で決められる問題じゃない。
 ずっと口を開かない私を見て分かったのか、彼女ははぁ〜っとため息をついてからこちらに近づいてくる。
「やっぱり、決められないのね……」
 その言葉に、私は何も言えなかった。
 自分自身が情けなく思えてくる。この問い一つにすら答えを出せないなんて。
「簡単に決められることじゃないから、仕方ないけど……」
 彼女はそう言うと部屋から出ようと扉の方へと歩いていく。
 私はこんなところで答えも出せないまま……。
「待ってください」
「……?」
 考える前に私は彼女を止めていた。答えはまだ決まってないはずなのに……。
「私は……」

----

 -5-

 呼び止めてしまった……。
 まだ答えは出ていないのに……。
「私は……あなたを」
 それなのに口からは言葉が勝手に出て行く。本心が引き留めることを望んでいたからかもしれない。いや、望んでいた。
 最後の言葉を言いだそうとするものの、“執事”という理性に阻まれて喉の奥に突っかかる。後もう少しなのに……。
 もうここまでくると言わなければならない。彼女を引き留めたのだから。止まってしまう舌を、声帯を……大きく振るわせて私は言った。
「私はあなたのことが……好きです」
 ――言えた。
 その瞬間、頭の中が真っ白になった。恥ずかしさなのか嬉しさなのか、全身が火照っていくのを感じる。彼女がそれを聞いて黙っているから、なおさらに。
 不意に彼女が足を前へと進める。そして私の方にさっと顔を寄せてきて口を半ば開いた。
「ん……」
 中に入ってくる湿った何か。それは何なのかすぐに分かったが、とっさにはねのけることはしなかった。もう、好きと言ったのだから、遠慮することはない。
 それに、おそらくはねのけようとしても彼女に押し倒されて全体重をかけられていては、身動きができない。もちろん、その気はない。
「……はぁ、はぁ」
 彼女は息を荒くして口を離した。混ざり合った唾液が垂れそうになったが、彼女はすぐにそれを舌で舐めとった。
 普段はキリっとした紅い瞳が、今はとろんとしていてこちらを見据えている。私は緊張からか自然と生唾を飲んだ。
「こういうこと、初めて……?」
 まだ少し息が荒いまま彼女は私に問う。それに軽く頷くと、彼女はくすりと笑った。
「大丈夫、きちんとフォローするわ」
 そう言いなから彼女は軽く後ずさりをするように頭の位置を下げていく。そして止まった位置は……。
「……ぁぁあ!!」
 不意打ちを食らわされた。彼女は唐突にも私のモノをくわえたのだ。言いようのない強い刺激が全身を駆けめぐり、思わず体を反らせてしまう。
「だいぶ敏感ね。普段一人で処理してないの?」
 彼女は器用にも、モノを口でくわえて舐めながらそう訊ねてくる。一応一人で処理したことはある。しかしそれを遙かに上回る刺激が、全身にきていた。
 質問に答えない……いや、答えられないまま快感に喘ぐ私をしばらく彼女は眺めると、いたずらをするかのような笑みを浮かべた。
「ガァァァァァアアアッ!!」
 思いも寄らぬ強い刺激がこみ上げてきて、モノから勢いよく白い液体を出してしまった。
「……はぁ……はぁ……なに……したんですか……」
 意識が半ば朦朧とするなか、彼女に問う。彼女は軽く笑みを浮かべると、口周りについたさきほどの液体を舐めとった。
「ちょっと、甘噛みしただけよ」
 “ちょっと”という言葉を強調しながら言った彼女の顔には笑みがこぼれていた。いや、絶対にちょっとじゃない。
 何回も噛んでいたのだろう。あの強い刺激は一回ではなく、何回も全身に行き渡っていた。
 ……というか、雌である彼女に弄ばれているのは、一匹の雄として何だか情けない。少々Mよりな私には向いてはいるのだろうが……。
「さて……」
 そう呟いて、彼女は体の向きを半回転させる。仰向けになっている私の目の前に、赤みを帯びた雌の象徴が突きつけられた。
「今度はあなたの番。やられてばかりじゃ悔しいでしょ?」
 一瞬だけ心の中を読まれた気がしたが、目の前のモノを見てどうでもよくなる。彼女が自分の手で喘ぐのを見てみたい。そう思うより先に、手は動いていた。
「ぅあ……」
 指で軽く花弁を広げると、彼女の体がぴくりと動く。それと同時に口から喘ぐ声が漏れた。
 今度は顔を花弁に近づけて舌を回りに這わせた。それを何度も何度も繰り返す。
「ぁ……ぁん……」
 それに合わせるかのように彼女の口から漏れる喘ぎ声を聞く度に、どんどんと気分が高揚していくのを感じ、行為をエスカレートさせていく。
 それに比例するかのようにまた彼女の喘ぎ声も大きく、そして淫らなものになっていった。
「ぁあ……んぁっ……ん……!」
 花弁の周りを舐めているだけでは飽きたらず、今度は中の方へと舌を滑り込ませる。花弁の奥から湿った液体がゆっくりと流れてきているためか、それはすんなりと入っていった。
「ん……ぁぁぁあああっ!!」
 軽く出し入れしただけで彼女は絶頂をむかえ、激しく雌の潮を吹く。それは私の顔に直にかかった。
「……はぁっ……はぁっ……」
 彼女はフラフラとしながらも私から体を退かすと、床に力なく伏せ込んだ。不謹慎かもしれないが、彼女イかせたということに少しだけ優越感に浸っていた。
 顔についた半透明な液体を手で拭い、それを舐めとる。それを繰り返していき、全部舐めとる頃には、彼女の息も少し整っていた。
「……初めての割には巧いのね」
「私なりに頑張ってみました……」
 しばらく沈黙が辺りを支配する。柱時計の秒針の音がやけに大きく感じられるほどに。

「……ねぇ」
 その沈黙を破ったのは彼女の方だった。私は首を軽く傾げるのを確認すると、彼女は続けた。
「本当に私でいいの……? 元人妻の私で。後悔しない?」
 彼女はもう一度私の決意を確かめるかのように問う。私は頷いた。
「ええ。あなたがいいんです」
 自分でも驚くくらいにすらすらと言葉がでる。それを聞いた彼女は笑みをこぼすと、顔を近づけて再び口づけを交わす。
 今度は互いに舌を交差させて、ゆっくりと、そして深く口づけを交わした。そして、彼女は私の上にゆっくりとのしかかってくる。
「いくわね……」
「……ええ」
 彼女はゆっくりと腰を下ろし、私のモノを花弁へと軽くあてがう。刺激を受けた私のモノは再び堅くなっていった。
 さらに腰を下ろしていき、中にモノがだんだんと入っていく。
「ぁあ……んっ……」
 軽く喘ぎ声を上げながら、彼女はさらにモノを受け入れていく。そして全て入りきったところで、彼女は口を開いた。
「動くわね……」
 そう言い終わる前に彼女は腰を上下させていた。くちゅくちゅと辺りに淫らな水音を響かせ、ただひたすら喘ぐ。
「ぁああっ……んっ……はぁっ……!」
「ふっ……ぅあ……」
 それはだんだんと勢いを増していき、二人を絶頂へと向かわせていた。
「もうっ……だめぇぇぇえええっ!!!」
「くっ……ぁぁぁあああっ!」
 そう叫び、私は彼女の中にひたすら放っていた。いつ止まるのか分からないくらいに波打つモノは、やがていきおいをなくしていく。
『……はぁっ……はぁっ……』
 落ち着いてきたところでモノを引き抜くと、彼女の花弁から白く濁った液体が床に流れ落ちた。
 床が汚れているのも気にせずに二人は息を荒くしながら伏せる。そして顔を見合わせ、共に微笑んだ。
「大好きよ……ルカリオ」
「私もです、ミシェル」

 “もっと素直になりなさい”

 それは、私たちを幸せにしてくれる、まじないの言葉だったのかもしれない……。



―――――END



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 後書き
  初めて官能シーンを書きました。他の作者さんのような感じを思い浮かべ、書いたのですが……。
  なんか自分的にはいまいちな出来になってしまいました……。
  短編って難しいと改めて思わされました(苦笑)

 追記(2011/05/25)
  自分がこのWikiに来て初めて書いた短編作品、かつ初めて書いた官能作品です。
  旧HNであるイノシアの名で投稿した作品として、上げておきます。
  手直しはしていないので酷いくらいに初々しい作品ではありますが、どうかお許しくださいませ。
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#pcomment(コメント/主人と執事,10,below)
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