ポケモン小説wiki
世界の救世主 の変更点


***世界の救世主 [#x9daa05a]

作・[[ガルトル]]

#contents

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**プロローグ [#l5c948cb]

 ここはどこなのだろうか。全てが黒で塗りつぶされたような世界。

「気が付いたようだね」

 辺りを見渡してみる。先程の言葉を発した者は誰もいない。
 一体、誰が言ったのだろうか。それを確認する術は自分には無かった。

「悪いけど今は名乗ったり姿を見せるのはできないんだ。君に話したい事があってね、僕が君をここに呼んだんだ」

 俺に話したい事?

「君に……ある世界を、ポケモンの世界を救ってほしいんだ」

 どうしてだ?
 何故俺がポケモンの世界を救う必要がある?
 
「ポケモンの世界と君のいる世界は関係無さそうで、実は繋がりをもっているんだ。今、ポケモンの世界はある危機に晒されている。
これは、君の世界でも言える事なんだ。見えない危機がお互いの世界に忍び寄っている。その事に人間もポケモンも気付いていない。
気付いたのは僕だけ。かと言って、僕一人で立ち向かうのは不可能に等しい。誰かに協力を頼むにしても、普通の人間、普通のポケモン
ではどうしようもない危機なんだ。その危機を救えるのが……選ばれし者である君だけ…」

 選ばれし者…?
 俺が?

「そう。君には選ばれし者――この世界で言う『救世主』としての力を持っているんだ。
救世主としての力――どんな困難にも立ち向かう力と世界の危機を救う可能性を備えている、それが君だ」

 そんな!? 救世主なんて、俺には無理だ!
 俺はどこにでもいるような普通の人間だ。困難に立ち向かう力だとか、世界の危機を救う可能性があると言われても、
 自分には思い当たらない事ばかりだ。そんな自分が救世主となる存在と言われれば、なおさら信じ難い。

「今の君がそう思うのは自然の事。でもいつかは、僕の言った事がわかる日が来るから。だから……お願い、
世界を救って! 君の世界とポケモンの世界を救えるのは……頼れるのは君だけなんだ!」

 …………。
 わかった。わからない事だらけだけど、やってみる。

「ありがとう! もしかすると、いずれ僕と会える日が来るかもしれないね…」

 暗黒の世界が一気に真っ白になり、俺は意識を失った。

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**Chapter-1 ポケモンの世界へようこそ! [#w0e2ba4e]

 ここは様々な探険隊が集まるトレジャータウン。その近くにあるプクリンのギルド前に1匹のポケモンがウロウロしていた。
ギザギザの尻尾、黄色の体、赤い頬の電気袋を持つポケモン――ピカチュウだ。

「……駄目だ。結局、入る踏ん切りがつかないや。今日こそ……と思って来たんだけど……」

 彼がギルドの前にいるのは『探険隊になりたい』という単純な理由があったからだ。一人前の探検隊になるにはギルドに
弟子入りし、修行を積んで探険隊としての腕を磨く必要がある…と彼は考えていた。
 ところがこのピカチュウは臆病な性格で、ギルド前に着くと入る決心がつかず、それで時間が経ってしまっていた。

「この宝物を握り締めていれば、勇気も出るかと思ったんだけど……」

 そう言ってピカチュウは自分の宝物である不思議な石を見つめ、空を見た。オレンジ色に染まりつつある空を見て溜息をつき、 
海岸へ向かおうとギルドに背を向けて歩き出した。
 
「うわぁっ!」

「おっとゴメンよ」

「いきなり何なの!?」

 突然後ろから何者かに突き飛ばされ、地面に擦れた体が痛む。顔を上げると、そこにはドガースとズバットがいた。
謝ったドガースにピカチュウは怒鳴る。ピカチュウから見ればドガースとズバットの態度は謝る態度には見えない。先程の
突き飛ばしも故意があったようにしか感じられなかった。

「それ、お前のモンだろ?」

 ズバットが顔を向けた方向にはピカチュウの宝物である不思議な石があった。突き飛ばされた衝撃で落としてしまったのだろう。
ズバットがそれを拾い上げ、色んな角度からその石を見ていた。

「う~ん……ただの石のようだが、値打ちモンか? 悪いが、これは俺達がもらっておくぜ」

「じゃあな!」

「そ、そんな! 待って!」

 2匹は石を持ったまま海岸の方向へ逃げ、ピカチュウもその2匹を追いかけて海岸へと向かった。



「……ううっ………」

 海岸の岩に寄りかかるように座って眠っていた1匹のポケモン。顔に冷たい海水が掛かり、そのポケモンは眠りから覚めた。
長い夢を見ていたようだった。その夢を思い出そうとするものの、ほとんどの内容を忘れてしまっていた。
 そのポケモンは忘れてしまった夢の事を気にする事もなく、欠伸をしながら背伸びをして立ち上がり、辺りを見渡した。

「ここ、どこだよ…」

 彼が目覚めた場所は見知らぬ海岸。自分の住んでいる世界でも海岸はあるが、こんな景色の海岸は見た事がない。
 ふと水面に映った自分の姿を見て、そのポケモンは呟く。
 
「俺、ポケモンになってる…!?」

 爪にも見える指が3本。赤い体毛で全身が覆われ、足付近は黄色、頭から生えている白っぽい髪。自分はバシャーモになっている
事に気付く。でも、どうしてポケモンになったのだろうか? ここで目覚める前の事が何も思い出せない。
 覚えているのは自分は人間で『アル』という名前だけ。人間であるはずの自分がポケモンになった原因は全くわからないが、
ただ言える事は……これは夢ではなく、現実だと言う事だ。

「待ってよ! それは僕の宝物なんだ! 返してよ!」

 海岸に響いた声にアルが振り向くと、1匹のピカチュウがドガースとズバットを追いかけていた。ピカチュウの言った言葉から
察するに、どうやらピカチュウの物をドガースとズバットが奪ったようだった。

「へへっ、やなこった」

「ケッ、そんなに返して欲しいなら腕ずくで取り返してみな!」

 腕ずくで取り返す――その言葉にピカチュウは一歩後退りし、さっきまで逃げていた2匹は一歩踏み込む。
 ピカチュウは1匹、相手はドガースとズバットの2匹。この3匹がバトルの経験を持っているかどうかは知らないが、
数で言えばピカチュウが圧倒的に不利だ。
 赤の他人である自分には関係無いはずなのだが、どうも放っておけなくなってきた。

(お人好しって言うか、好奇心旺盛って言うか……物好きだな俺も)

 そう心の中で呟き、アルはドガースとズバットに近付きながら言った。

「お前ら、その子が返してって言ってるんだ。素直に返してやれよ」

「ケッ…何だお前? こいつの仲間か?」

 案の定、急に話しかけてきた自分に対して不機嫌に答える。ピカチュウは不安な表情で、アルと2匹を見ていた。

「俺が仲間かどうかなんて関係ない。お前らが奪った物を返してやれって言ってんだ」 

「やだね。それに、返して欲しけりゃ腕ずくで……」 

 それを聞いたアルは掛け声と共に強烈な蹴りを放つ。キックをまともに受けたズバットがドガースの方へ勢い良く吹っ飛ぶ。
戦闘態勢をとっていないドガースは咄嗟に避ける事もできずに巻き込まれて2匹共、後方の岩に叩きつけられる事となった。
 彼らが言った通り、腕ずくでの結果がこれだ。

「イテテテ……」「や、やられた……」

「どうだ? まだやんのか?」

 痛みで動けない2匹にそう言い放ち、ズバットは石をアルの足元に投げた。

「ちぇ…これは返してやるよ!」

 ドガースが「お、覚えてろ!」という下っ端の悪者が言うようなセリフを残し、慌てて逃げ帰ってしまった。
 足元の石を拾って視線をピカチュウに向けると彼はビクッと体を震わせた。さっきのやり取りを見てれば当然かもしれない。
どう声を掛けたら良いものか…と思いながら、微笑みながらピカチュウに石を差し出す。
 
「これって君のだろ? 今度は取られないようにな」

「あ…ありがとう! 僕、ピートって言うんだ。よろしくね!」

「俺はアル。よろしくな」 

 お互いに自己紹介を終え、アルの手とピートの手――大きさが釣り合わない手が握手を交わした。
 ピートの先程の戸惑いは既に無いように見え、アルは安堵の息をそっと漏らす。

「これは遺跡の欠片。僕の宝物なんだ。僕、前から昔話や伝説が大好きでさ……そんな話を聞く度にワクワクするんだよ!
そしてある日……ふとしたことで拾ったのが、この遺跡の欠片なんだ。一見、ガラクタにも見えるけど……よーく見てごらん?」

 ピートから遺跡の欠片を受け取る。表面にピートが言う不思議な模様があり、形を見る限り、どこかにはまっていた感じがあった。
 不思議なその石を一通り見た後、ピートに返した。

「この模様には、きっと意味があるに違いないよ。この欠片が伝説的な場所や秘宝への入り口になっている……そんな気がして
ならないんだよ。だから僕も探検隊になって、この欠片がはまる場所をいつか発見したい! 僕自身でこの欠片の謎をいつか解きたい!
そう思ってさっきも探検隊に弟子入りしようとしたんだけど……でも……僕、意気地無しでさ……」

 さっきまで目を輝かせて語っていたピートが急に暗い顔になる。
 アルはというと、ピートの様子を見ながらも初めて聞いた『探険隊』という言葉に首を捻らせていた。

「アルは……これからどうするの? この後、どこか行く宛とかあるの?」

「いや、ないけど…」

「そ、それなら……お願い、僕と一緒に探検隊やってくれないかな? 僕、アルとなら探検隊をやれる気がするんだ。
僕の宝物を取り返してくれた時、アルはすっごく強いって思った。今の僕は強くないし、臆病で意気地無しだけど……アルと一緒に
探険隊をやって強くなりたいんだ。自分の夢を叶えたいというのもあるけど、アルのように強くなりたいんだ! だからどうかな? 
ねえ、お願い!」

「えっ!? あ…えっとー……」

 ピートの言葉にアルは頭をポリポリと掻く。ここまで言って頼んでいるのだから一緒にやらないとピートに悪い。
仮にピートの申し出を断ったとして、自分はそれから何をすればいいだろうか。そもそもこの世界の事は全く知らない。
どこで何をすればいいのかもわからない。行く宛がない今、ピートの言う探険隊というのをやった方がいいだろう。

「わかった。ピート、一緒に探険隊をやろう」

「ホント!? やったぁ!! ありがとう!! 僕達、絶対良いコンビになるよ!! 宜しくね!
そうと決まれば、まずはプクリンのところに行って弟子入りしよう。そこで一人前の探険隊になる為の修行をするんだ。
修行はとても大変そうだけど……でも、頑張ろうね! アル!」

こうして……ピートとアルの探険隊が結成された。
ピートは強くなる為に、夢を叶える為に…。
アルは自分が何者かを確かめる為に…。

「そうだ。ピート、聞きたい事があったんだ」

「何?」

「ここってどこ?」

「……え?」

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**Chapter-2 ギルド入門 [#p52b54a3]

「記憶喪失?」

 ピートの案内でプクリンのギルドへ向かう道中、ピートはアルから信じられない事を聞いた。
 アルが海岸で気が付く以前の事を思い出せない事を話したからだ。

「ああ。名前以外の自分の事が思い出せないんだ。自分が今まで何をしていたのかもな…」

「あ、だから僕に場所を聞いたんだね?」

「まぁ、そんなところさ」

 アルは自分が人間である事を言わなかった。それを言ったらピートだけでなく、この世界がパニックになってしまうかもしれないと
思ったからだ。ポケモンしかいないはずの世界に人間がいる……それだけで大事件に発展する可能性は否定できない。
 もし、何かのきっかけで話さなければいけない時が来た場合、その時にでも話そうと思っていた。

 交差点に差し掛かり、その先の階段を登りきった先にはプクリンを模した大きなテント。
 入り口の左右には大きな松明とトーテムポールがある。ここがピートが言っていた『プクリンのギルド』だ。

「ここがプクリンのギルドだよ。探険隊になるなら、ここでまずチームを登録して、一人前になるまで修行しなくちゃいけないんだ」

 探険隊の修行――どのくらいかかるのか予想がつかないが、修行というくらいなのだから最低でも数年は掛かるだろう。
 ギルドの看板とも言えそうなプクリンのテントを見上げたピートは体を少し震えさせる。
 ギルドから発せられる雰囲気はアルにとって何て事はないのだが、ピートは少し苦手なようだ。
 ギルドの入り口は鉄格子で塞がれており、アルがその鉄格子を開けようと近付いた――その時。

「ポケモン発見!! ポケモン発見!!」

「うわぁっ!?」

 突然の大声にアルはその場から離れる。今ここには、アルとピートの2匹しかいない。なら、声の主は一体どこから話しているの
だろうか?
 アルが立っていた場所の足元には、穴の上に細かい格子が張ってあった。

「足形確認中なのに離れないでよ~!」

 声が穴から聞こえた。「ポケモン発見!!」と言った相手は穴の下にいるようだ。

「足形確認中? 何で足形なんて見るんだ?」

「よくわからないけど、誰が入ってくるのか見る為じゃないかな?」

 アルの質問にピートは頭を傾げながら答えた。
 何で穴から話しかけるのか――そう思いながらも指示通りに入り口の前に立つ。

「ポケモン発見!! ポケモン発見!! 足形は……足形は……えーと……」

「どうした!? 見張り番! 応答せよ!」

 呆れたような口調で話す誰かの声と、見張り番と呼ばれたポケモンの弱気な声が聞こえてくる。
 アルの足形がわからないというだけで揉めているようだった。
 
「待たせたな。確かにバシャーモはここらじゃ見かけないが……怪しい者では無さそうだな……」

 アルの足形確認が終わり、次はピートの番となる。ピートの足形確認はアルと比べてスムーズに終わった。
 ギルド入口の鉄格子が音を立てて上がっていく。色々と問題が……特にアルにあったが怪しい者ではないと判断されたようだ。
 ピートも緊張しているせいか驚きっぱなしだ。初めてのギルドに足を踏み入れ、目に付いたのは地下への入口。ギルドに入れた事に
喜んでいるのか、ピートは地下へと続く階段を勢い良く降りていった。
 地下には様々なポケモン達が会話をしていたり、掲示板の前で張り紙を見ていた。

「このギルド、地下に空間があったのか…」

「ここがプクリンのギルドかぁ! ポケモン達がたくさんいるけど皆、探険隊なのかなあ」

「さっき入って来たのはお前達だな?」

 ピートが目を輝かせながらギルド内を見渡していると、後ろからアル達に呼びかける声がした。
 振り向くとそこには1匹のペラップがいた。

「あ、はい!」

「私はペラップ♪ ここらでは一番の情報通であり、プクリン親方の一の子分だ♪ 勧誘やアンケートならお断りだよ。さあ、
帰った帰った」

 ペラップがやって来てそう言うなり、ピートの背をぐいぐいと押し始めた。ポケモンの世界にも勧誘やアンケートがある事に疑問が
残るがそんな場合ではない。「ち、違うよ!」とピートはペラップに向き直る。

「そうじゃないなら、何しに来たんだい?」

「僕達、探険隊になりたくて……ここで探険隊の修行をする為に来たんだ」

「えっ! た、探険隊!?」

 ピートの『探険隊』という言葉に驚くペラップ。その驚きは喜びではなく、信じられないといった様子だった。
 ペラップはアル達に背を向けて、ぶつぶつと何かを呟いている。

「このギルドに弟子入りしたいとは……今時、珍しい子だよ。あんな厳しい修行はもうとても耐えられないって、脱走するポケモンも
後を絶たないというのに……」

「ねえ、探検隊の修行ってそんなに厳しいの?」

「はっ!?」

 ペラップの呟きはアル達に筒抜けで、それを聞いたピートが問いかける。

「脱走するポケモンも後を絶たないって……」

「いやいやいやいや!! そ、そんな事ないよ! 探検隊の修行はとーっても楽ちん!」

 呟いていた内容を取り消すかのようにペラップが慌てて言い直し、今度は笑顔で話し始めた。
 先程と打って変わって、歓迎するかのような満面の笑み。

「そっかー♪ 探検隊になりたいなら早く言ってくれなきゃー♪」

「……急に態度が変わったね……」

「ギルドが怪しく思えてきたぞ……」



 チームを登録するからとペラップに言われ、アル達が向かったのはギルドの地下2階。
 地下1階と同じくらいに広いのだがポケモンの数が少ない。

「ここはギルドの地下2階。主に弟子達が働く場所だ。チームの登録はこっちだよ」

 ペラップの後を付いて行き、中心に変なマークが描かれている木製の立派な扉の前に着く。

「さあ、ここがプクリン親方のお部屋だ。くれぐれも……くれぐれも粗相がないようにな。親方様、ペラップです♪ 入ります」

 アルは妙なプレッシャーを感じながらもペラップに続き、ピートはアルに続いてプクリンの部屋へと入る。
 部屋は綺麗で良く整頓されていた。さすがはギルドを仕切るだけの事はある。

「親方様。こちらが今度、新しく弟子入りを希望している者達です」

「やあっ!! 僕、プクリン! ここのギルドの親方だよ」

 プクリンの第一声に驚いたものの、アルは肩透かしを食らったような感じだった。親方様って呼ばれてたくらいなのだから、
威圧感のある発言をするだろうと思っていたが、実際は優しそう……でもちょっと変な性格だった。

「君達、探検隊になりたいんだって? とりあえず、探検隊のチーム名を登録しなくちゃいけないんだけど、君達のチームの名前を
教えてくれる?」

「アルピーズ!」

 ピートが即答する。『アルピーズ』というチーム名はいつ決めたのだろうか?
 いや、それよりも……海岸でピートと出会い、ここに至るまで名前を考えている時間などあっただろうか?

「決まりだね! 君達のチーム名は『アルピーズ』で登録するよ。登録♪ 登録♪ 皆、登録……たあーーーーーーーーーーーーっ!!」

 突然大声をあげたプクリン。
 何事かとアル達はプクリンを見ていたが、本人は笑顔のままだった。

「おめでとう! これで君達も今日から探険隊だよ! 記念にこれをあげるよ」

 プクリンはアル達の前に黄色い箱を置く。その箱には『ポケモン探険隊キット』と書かれていた。プクリンに促され、ピートが
ポケモン探険隊キットを開けてみる。
 探険隊の証である探険隊バッジ、この大陸の地図、道具を入れるトレジャーバッグがそれぞれ入っていた。アルがトレジャーバッグの
中に2つの不思議なリボンが入っている事に気付く。

「その2つの道具は特別な物。君達の探険にきっと役立つと思うよ♪」

「あ、ありがとう! 僕達、これから頑張ります!」

 探険隊になる事を決めていたからか、自分の夢を叶えたいという願いからか、ピートの意気込みがアルにまで強く伝わった。
 その意気込みを見てプクリンは微笑む。

「うん。でも、まだ見習いだから頑張って修行してね!」

「はい! アル! 頑張ろうね!!」



「ここがお前達の部屋だ♪」

 チーム名登録・道具の受け取りを済ませたアル達は、ペラップに自分達の部屋となる場所へ案内された。
 外を…正確には海を見渡せる大きな窓。目の前には藁が敷いてあるだけの簡単な寝床が2つ。プクリンの部屋と比べれば、弟子の部屋は
かなり簡素な作りだった。
 ピートは藁ベッドの上で喜んでいる。アルにとっては、これがベッドなのかと疑いたくなるものだった。やっぱり人間とポケモンでは、
違う所がある事を実感する。ベッドと外が見える窓……寝る以外にする事がない部屋だ。

「これからお前達には、住み込みで働いてもらう。明日から忙しいぞ♪ 早起きしなきゃならんし、規則も厳しい。夜更かししないで、
今日はもう早めに寝るんだぞ♪ じゃあな」

 部屋を去っていくペラップを見送り、アルは窓から外を見た。
 ギルドに入る前は夕方だったのに今はすっかり夜になっている。かなり時間が経っている事を知らせていた。

「ところで、ピートが言ったチーム名って…」

「あっ、ごめん…。気に食わなかった?」

 アルがチームの名前について聞こうとしたところ、ピートが申し訳ないといった感じの暗い表情になる。ピート自身もアルに何も言わず
に、チーム名を勝手に決めた事を気にしていたようだった。
 アルはピートが付けたチーム名が気に食わないとは微塵にも思っていない。ただチーム名の意味を知りたかっただけだが、ピートの事
だから変な意味や安易な気持ちで決めてはいないだろう。

「気に食わないってわけじゃないさ。ピートが俺達のチームに付けた『アルピーズ』っていう名前にした理由を聞きたいんだ」

「チーム名はアルと僕の名前をくっ付けただけだよ。理由は何て言えばいいかなぁ……探険隊になったからお互いがパートナーだって
いうのがあるし、アルと一緒に探険隊を続けて行きたいって思ったんだ」

「お互いがパートナー……か…」

 ふふっ、とアルは微笑する。

「ぼ、僕…何か変な事でも言ったかな…?」

「変な事なんて何も言ってないよ。お互いがパートナーだって言われるとは思ってなかったから。さてと、今日はもう寝ようか?」

「うん、そうだね。早起きしなきゃいけないらしいし、明日から忙しいみたいだから」

 アルとピートは藁のベッドに横になる。思ったより藁のベッドは寝心地が良い。布団があればもっと良いかもしれない。
 体毛のお陰で体を冷やす事はないと思うが、人間だった時の癖なのか布団…いや、布団になるものが欲しくなる。
 藁の大きさについて、ピートは丁度良いようだがアルにとっては少し小さかった。明日にでもプクリンかペラップにでも大きいのに
変えてくれるよう頼んでみよう――などと呑気な事を考えながら、アルは目を閉じた。
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**コメント [#zdcd58be]

誤字・脱字、感想などあればどうぞ。

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