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不器用なその手に幸福を の変更点


RIGHT:次:[[不器用なこの手で幸福を]]

LEFT:

こちらの作品は、2018/04/30のけもケット7にて頒布された[[wiki本3>ポケモン小説wikiアンソロジー3発行のお知らせ]]に寄稿したものになります。
&color(red){官能小説です。};

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 もしあのとき幼い女王様に出会っていなかったら、と思う。
 気の立ったガーメイルに追い回されていたミツハニーを、まだ俺がケムッソだった幼少期に身を挺して助けたことがある。彼女が立派なビークインへと進化を遂げてから、蜂蜜で練り固められた城のような巣へと招待された。そこで待ち受けていたものは、城主としての優雅な生活――ではなく。女王蜂へ仕える下僕として、半年間いいようにこき使われてきた。
 あのとき彼女に出会わなかったら、いつまでも変わらず故郷の森で暮らしていただろうか。少なくともこうして蜂蜜ゼリーのベッドに組み敷かれ、彼女の秘所で肉棒を締め上げられることもなかっただろう。
「も……俺、出ませんってえぇ、ビークインっ!」
「だらしないわねぇドクケイル、下僕の役目すら満足に果たせないのかしら。私が導いてあげるんだから、ありがたく思いなさい」
 かれた悲鳴をこぼす俺の口へ、無造作にビークインの腕が突っこまれる。爪にまとわりついていた彼女の唾液、それに含まれるフェロモンを舐めた途端、無意識に体が跳ね上がった。
「――~~~~ッ‼」
 全身をのけ反らせたまま痙攣し、彼女の胎内へと精液を打ち上げる。快感なんてほとんどない、体節ごと軋む強制的な吐精。これでもう、本日3度目だ。
 ずろろ……、と、のしかかっていたビークインの下腹が外される。肉棒を伝う精液さえもったいないと窮屈な蜜壺に拭い取られ、身をよじる俺の口から再度うめきが漏れ出した。
「しっかり食べて精をつけておきなさい。繁殖期に入ったことだし、明日から毎日5回は注いでもらうからね」
「は……はヒぃ…………」
 生返事する俺を冷たい視線で見下してから、ビークインは巣のドレスの上から愛おしそうに自分の腹を撫でた。産卵へと向かう彼女の背中を格子越しに見送って、ようやく俺は休憩を許される。
 ひとり残された城の牢屋に、虫の息が空しく響く。重い体を寝台へ沈ませた。まとわりつく蜂蜜が気持ち悪いけど、羽ばたいて落とす気力も残っていない。ましてや看守のミツハニーから外出の許可を得て水場まで飛んでいくなんて、もってのほかだ。
 このあいだ同郷のアゲハントとばったり会って話しこんだだけで、他の雌と浮気した! とビークインから罰が下されたのだ。割り当てられていた俺の部屋を取り上げられ、牢での軟禁生活はもうひと月になるだろうか。食事は十分に与えられるが、苦みの利いたチーゴの実でさえ滋養強壮にとハニーミルクがたっぷりまぶされていて、正直あまり口に合わない。かといって喉に無理やり押しこまないと、繁殖期に入ったビークインの相手は務まらないだろう。余興の曲芸も練習しなければならないし、それからマッサージをさせられる時間だっていつもより30分も増えた。
 虫食いのような小さい窓から、もの悲しい秋の風が流れこんでくる。こんなときふと思う、俺は愛されているんだろうかって。


&size(22){不器用なその手に幸福を};

文:[[水のミドリ]]
挿絵:[[影山さん>https://mobile.twitter.com/64_gzk]]



 ――やっぱりもう限界だ!
 陽が落ちてから、俺は蜂蜜御殿を抜け出した。数日かけて隠し集めた葉や木の実で身代わりをこさえ、見張りのミツハニーの交代にまぎれて窓から飛び出したのだ。脱獄はすぐにバレるだろうけど、夜目が利く種族でよかった、そのうちに遠くまで逃げておけば数日は体を休めておけるはず。
 とりあえず全身の粘液と脂汗を落としたい。近場のせせらぎで水浴びしていると、足音が河原の石を蹴って聞こえてきた。慌ててバランスを崩した俺は、頭から渓流にダイブ。――冷たぁ!
 なんとか河原へ這いあがると、足音の主らしいコロトックが手を差し伸べもせずにニヤついていた。全身ずぶ濡れで震える俺を見下ろして、愉快そうにコロコロと笑う。
「こんな冷える夜に水遊びとかロックだぜオマエ! やべー風邪ひきそうじゃんウケる」
「いやきみがビックリさせるから……、というか助けてくれてもいいじゃないか!」
「オレの腕で掴もうとすりゃ、見るからに貧弱そうなオマエの体は真っぷたつだぜ? その方がやべーだろ」
「初対面なのに容赦ないこと言うね……」
 すり合わせれば優雅な旋律を奏でそうな両腕のナイフは、コロトックの性格に似て鋭く尖っている。優しく握るとか、そういうのは確かに苦手そうだった。器用さに関しちゃ、短い俺の腕もなかなかに不便だけど。
 手をもぞつかせる俺を見て、コロトックは同情するような顔つきになった。
「ははーん。さてはお前も、噂を聞いて西の森へ向かう途中なんだろ。オレたち不器用な雄に優しくしてくれる雌がいるってウワサ」
「不器用な雄にやさしく? 西の森は俺の故郷だけど、そんな話聞いたことないぞ」
「トボけねーでいいよ、こんな時間にこっそり出歩いてちゃ、それしか目的ねーもんな」
「……? 何でもいいから早く移動しよう、俺いま逃げているところでさ……」
 そうだ、行くあてもないなら、久しぶりに生まれの森へ戻るとしよう。ビークインに有無を言わさず連れ去られてからもう半年だ。仲の良かったレディアンは、元気にしているだろうか。
 コロトックのなで肩を短い腕で抱えこんで、夜の森を滑空する。丘や小さな崖は飛び越え、暗い木々の間を駆け抜けてゆく。邪魔な細い藪はぶら下がった彼が居合い切りで一閃してくれた。
 何時間飛び続けただろうか、体を休めるために脱走したのに、もうヘトヘトだ。腕も翅も限界を訴え始めたところで、ようやく見慣れた景色が広がってくる。西の森の中央、以前俺がねぐらを構えていた場所はもう目と鼻の先だ。
「はぁ、やっと着いた!」
「……おい待て、なんだか険悪なムードじゃねーか?」
 コロトックにナイフで制され、俺は急いで翅を止めた。近くの藪から様子を窺うと、森の広場では二匹の雄が対峙していた。
「何度挑まれたって私は負けませんからね、テッカニンさん!」
「パラセクト殿、今日こそ拙者の方が強いと示してみせようぞ!」
 掛け声と同時に鋭い爪と鋏がかち合って、カッと硬い音が夜の森に響く。とんぼ返りに距離をとったテッカニンが、加速に乗せて影の分身を作りだした。相手を取り囲み一斉に切りかかる、のだが。
 分身たちの爪が届く瞬間、パラセクトの茸が膨らんで、桃色の胞子が拡散した。間一髪それを避けた本体がよろめくと、次々に影武者が消えていく。茸の胞子と併せて広がった甘い香りに回避が鈍ったのか。
「ぬ……やはり一筋縄ではいかぬでござるかっ」
「ふふ、このままでは前回の二の舞ですよ」
「――なんの! 舞いは舞いでもさんざん修行してようやく会得した拙者の技、とくと味わうでござる!」
「な……させません!」
 見得を切ったテッカニンが、鋭利な剣をぶつけ合うように激しく宙を舞い踊る。慌てて飛んできたエナジーボールを薙ぎ払い、さらなる加速でパラセクトに肉迫した。
 怒涛の連続切りを、パラセクトは鋏でどうにかしのぐ。が、鋭い刺突に茸ごと弾き飛ばされた。甲虫の腹が露わになって、細い肢がもぞもぞと動く。どうやら自力では起き上がれないらしい。
「わわわ、私もう降参します、ちょっと待って――」
「切り捨て御免!」
 興奮して我を忘れたテッカニンの爪が容赦なく伸ばされて――
 きィん! 横から入ったナイフに阻まれ、決着の衝撃音を轟かせた。
「勝負アリだな。オマエの勝ちだ」
 瞬時に躍り出たコロトックが、その間に身を滑りこませていた。両腕で攻撃を受け止め、殺気立ったテッカニンをなだめている。
 ……みんな、強いんだなぁ。
 すっかり出遅れて、俺も藪からのこのこ這い出した。消耗したパラセクトを起こしてあげる。……なんだか気まずい。
「あ」
 ふと聞こえた声に、俺はその方向を振り向いた。
 広場の端の木の根元で、バトルを見守っていたポケモン。俺を見て息を詰ませた懐かしいシルエットが、6本肢を広げてワッと飛びかかってきて。
「――ドクケイル君っ! ああ、いつか戻ってきてくれると、ボクは信じていたんだよ!」
「レディアンも元気そうで……ってちょっと重いっ!」
 昔と変わらない様子の彼女に、俺は地面へ引き倒された。

 レディアンとは、俺がまだマユルドだった頃からの仲だ。近くの大岩の下を住みかとしていた彼女には、いろいろ世話になった。一見とっつきにくいが面倒見がよく、その器用な手で俺を水場まで運んでくれたり、簡単な木の実の手料理を振る舞ってくれたりした。早起きな彼女に連れられて、小高い丘で夏の朝陽を拝んだこともあったっけ。雪の積もった冬の夜には、湯たんぽ代わりに抱きつかれていた気もするが。
「――で、ドクケイルさんはレディアンさんをほったらかして、半年もどこで遊んでいたのですか?」
「おなごに対して『重い』などと……無礼でござるよ」
「そ、それは……えーとだな」
 木々と茂みに囲まれ小ぢんまりとした広場の中心、五匹で輪を作ってひと通り自己紹介を終えると、鋭い糾弾が真っ先に飛んできた。棘のある口調でパラセクトとテッカニンになじられ、う、と返答につかえる。まさかビークインに連れ去られ下僕生活を強いられていましたー、なんて打ち明けられるはずもない。重いって言ったのは……ごめんなさい。
「まぁまぁ細かいことはいいじゃないか。こうして帰ってきてくれたんだ、今日はみんなで楽しもう。ツボツボちゃんに分けてもらった木の実ジュースも余っているんだ」
 助け舟を出してくれたレディアンが、ふわりと浮かびあがった。どこにしまってあったのか、四つの手には硬いカゴの実を割って作った器がひとつずつ。彼女の分は、頭にバランスよく乗っていた。バトルのとき寄りかかっていた木まで進んでいくと、彼女は俺を手招きする。
「あれ、この木って……」
「思い出したかい? この上でキミは繭を作っていたのだよ」
 見覚えのある木だと思っていたけれど、やっぱりそうだ。乾いた幹に抱きつくと、確かにこんな感触だった。苔の生えたようなにおいが懐かしい。中ほどに空いたうろには、俺が木の実を貯めておいたんだっけ。レディアンがそこに器を差しこんで、中からジュースを汲みだした。なめした皮をうろの底に張って、お酒の貯蔵庫として再利用しているらしい。未練はないが、改造されていることにちょっと切なくなった。
 あれだけ頼りにしていた住みかも、変わってしまうんだな。
「なにを感傷に浸っているんだい、キミらしくない。はいこれドクケイル君の分。久しぶりの再会だ、夜通し語らおうじゃないか!」
 レディアンから押し付けられた木の実カップを、慌てて持ち直す。席に戻ってみんなで乾杯、口を付けると懐かしい味が広がった。
 昔話に花が咲く。驚いたことに、物腰穏やかなパラセクトは、かつて傷だらけで倒れていたところを俺が助けたことのあるパラスだった。無謀なケンカを挑みコテンパンにされたらしく、慌てて巣に連れ帰りレディアンと介抱したのだ。回復すると「強くなったらまた来るぞ!」と言い残して旅立ったやんちゃ坊主。春の終わりにここへ戻り進化してからは、まるで意識を乗っ取られたかのように性格が丸くなったとのこと。彼の種族ではよくある現象らしい。
 テッカニンは生き別れた弟を探す旅の途中で、一週間前からここらに滞在していた。パラセクトと手合せして負けたことが相当悔しく、鍛錬を積んでやっと勝てたと上機嫌だ。弟に話す土産話が増えたと息巻いているが、そもそもその弟は彼が進化したときに抜け殻へ宿った魂のような存在らしく、俺にはよく理解できなかった。……進化って大変なんだな。
 ああ、楽しいなぁ。なんだか昔に戻ったみたいだ。このままビークインのことなんて忘れて、わすれて――

 いつの間にか寝落ちしていたようだ。アルコールのせいで記憶があいまいだけど、現状から判断すれば、懐かしい幹にしがみついていたところ手を滑らせ、少し離れた藪に不時着した、といったところか。わき腹に小枝が刺さって痛い。
 ぐわんぐわんする頭を抱えて這い出ようとして、異様な雰囲気に思わずたじろいだ。息をひそめたまま、藪から飛び出した触角のレーダーで周囲の気配を探る。
 うろの空いた木の根元にぺたんと座り、幹へもたれかかるレディアン。彼女の脇にコロトックが迫っていた。心なしかその息が荒くなっている。
「なぁレディアンちゃん……そろそろいいだろ、酒も入ってホラ、オレのもうこんなになってる」
「あ……」
 寝ぼけ眼でレディアンの目線の先を追って、俺は硬直した。眠気も酔いも一瞬で吹き飛んだ。すり寄るコロトックの股からは、彼の両腕のナイフよりも太く腫れあがった陰茎が、にゅっと飛び出していたのだ。
 彼女に何してるんだ! と喉まで出かかった叫びを、慌てて押し返した。俺が声を荒げずともレディアンのことだ、いつものシニカルな口調でそんなもの、一蹴してくれるだろう。
 実際に彼女は、困惑したようなあきれ顔でそれを見つめていた。食べ残しを片付けるような手つきでコロトックのそれに手を伸ばすと――
「どうしようもない奴だなキミは。自分でできないのなら、ボクが手を貸してやろう」
 ……なんだって? 全身の産毛が逆立った。信じがたい彼女のセリフは、けれど聞き間違いではないようだった。
 吹けば大笛の音色が鳴りそうな、馬のもののような形状の陰茎。右の腕と腕の間に差しこまれた肉笛に、レディアンは前肢の白い手を絡ませる。根元から穴の開いた先端部にかけて、砂を揉むようなソフトタッチで指先を遊ばせる。
「ボクが少し触っただけでピクピク震わせて……。コロトック君は、どこが弱いんだい?」
「あー……、やっべおてて超柔らけぇ、ウワサ通りじゃん……」
 髭を垂らして感じ入るコロトックの表情を下から伺いながら、レディアンは触れる位置を徐々にずらしていく。その指先が先端の穴をかすめると、彼の口から鋭いうめき声が搾り出された。
 ……まさか、ありえない。嘘だと言ってくれ。目をそらして願う俺の耳に、おそろしく艶めいた彼女の声色が、受け入れがたい現実を教えこんでくる。
「あは、見つけてしまったよ。キミは先っぽをごしごしされると、キモチイイんだね」
「そっそこ、そこやべぇっ……! あーすげ、あっレディアンちゃんそこやっべぇって!」
「どうだい、本番ナシでも、満足できそうだろう?」
「マジだこれ……、っぅあ、そこらの雌のナカよりもやべぇや……」
 くにゅ、しゅく、先端を包みこむようにして、平坦な鈴口まわりを手のひらでこね回す。コロトックの腹が小刻みに上下して、ガラゴロと快感を噛み潰したような共鳴音を翅のすき間から漏らし始めると、レディアンは得意顔で持ち替えた。全体をマッサージするような、緩いストローク。切羽詰まった彼の唸りが収まって、だらしない笑い声へ変わっていった。
 両腕の鋭いナイフを地面に突き刺し、天を仰ぐコロトック。そこへ紅葉した山のような大茸がのそりと近づいてゆく。
 ……そ、そうだ、あの不届き者は、パラセクトが止めてくれるはず。レディアンと付き合いの長い彼なら、彼女がこういうことに疎いと知っているわけで――
「レディアンさん、私のも……お、お願いします」
「……まったく、キミはいつもシてあげているだろう? 羨ましがり屋のパラセクト君だな」
 彼女の左隣へにじり寄ってきたパラセクトが、背中の茸をクッションにして甲虫の腹をさらけ出す。海老色をした外殻の節穴から頭を覗かせた生々しい肉塊が、ぶるんと現れ天を突いた。
 言葉が、出てこない。
 コロトックのものほど長くないが、よく肥えた松茸のように笠の張り出した陰茎。上からつまむようにレディアンの手が被さり、粘膜の薄いカリ首へ引っかかった指が、きゅっと捻るように円を描く。
「う……、レディアンさんに触れてもらえるだけで私っ、嬉しくって、たまりません……っ」
「今日は負けてしまったが……ボクを求めて戦ってくれた後ろ姿、とても勇ましいものだったよ。笠の裏に垢まで溜めて、そんなにボクの手が待ち遠しかったのかい? 自分の鋏では処理できないとは、さぞもどかしいだろう。いま綺麗にしてやるからな」
「うぁ、ぁ、ありがとうっ、ございま……ぅあぁぁ!」
 愛おしそうに複眼を細めたレディアンが舌を突き出し、泡立った唾液を手のひらへ落とす。指のくぼみにまでなじませて茸の柄を握り直すと、にゅくにゅくと洗うようにしごき始めた。
 根元の石づきまで白手がこき下ろされるたび、ぷっくり笠を開いていく肉茸が身震いするように揺れ動く。上気したパラセクトの口の端からよだれが垂れ落ちた。顔を隠すように交差された鋏に力がこめられ、キリリ、と甲殻が鈍い音を生む。
 その間にも、コロトックへの奉仕は止まらない。それぞれの弱点を的確に攻め、限界が近くなるや優しく包み直し、ふたつの手が器用に動いている。
 レディアンの寄りかかる幹、彼女の頭のすぐ上へテッカニンが慌てて飛んでくる。背を反らせ尻先を高く持ち上げれば、肉色の横割れからそれがちょこんと頭を覗かせていた。
「おぬしら抜け駆けはズルいでござるよ! レディアン殿っ、拙者も、頼み申すぞ……!」
「キミは確か根元の方が弱い。それからちょっと無理やりされるのが好きだったな」
「何度受けても色褪せぬ手さばき、まさしく妙技でござる……!」
 里芋のように中膨れした陰茎を、レディアンは器用に虫孔からつまみ出した。ずりゅん、と露わになった肉クナイを、唾液をまぶした左の前肢で包みこむ。むにむにと優しく揉みつけたり、レモンを絞るようにきゅっ、ぎゅぅ、と荒々しい手つきを繰り返す。
「パラセクト君に打ち勝つとは、負けず嫌いも成就したものだね。特別に舌も使ってあげようじゃないか」
「ぅを⁉」
 握った肉クナイごとテッカニンの体を引き下ろすと、レディアンはガチガチにせり上がる虫孔の肉スジへ舌を這わせた。筋繊維の一本一本まで丁寧にくすぐるような舌づかいに、樹皮へ掛かっていたテッカニンの爪が大きく跳ねてずりり、と滑る。
「ん……これ結構つかれる……」
「れ、レディアン殿の舌っやらかいぃ、ぉおお……お、これもう堪え難いでござるよ!」
「テッカニン君はその紙耐久を鍛え直さないとだな」
 ぷにぷにの舌腹を虫孔へ押し付けて、筋張る基部を唇で軽くはさむ。花の蜜腺へ吸いつくように伸ばされたレディアンの首元があだっぽく動く。
 クリーム色をした彼女の腹に走る縦スジ、それが後肢の間でうっすらと割れている。最後に残った右の中肢をそこへ伸ばすと、ぬち、指の腹を肉色の秘所へ押し込んだ。染みだした愛液を絡ませながら、薄い肉唇を何度もなぞる。ん……、とはかなげに漏れる彼女の嬌声。
 舐めるようにその媚態を眺めていたコロトックが、熱い息を吐きながら口を挟んだ。
「うわーレディアンちゃんえっろ……。自分のこと『ボク』なんて言う割には、エロエロな雌に目覚めてるよなー」
「虫ポケモンの多くは手が刃や爪や鋏になっていて、満足にオナニーもできないのだろう。幸いボクにはこうして器用な手が4本もあることだし、かわいそうなキミたちが性欲を吐き出すお手伝いをしてあげようと思ってだね」
「オレたちのためってンなら、余った手でまんこ弄り始めないっしょ。押し付けられたちんこコスってるだけじゃ、満足できてないんだろ。なのにヤらせてくれねーとか、もしかして処女?」
「……いやに詮索するねコロトック君。キミだけ先にイかせてしまうよ」
「――ぁぐ⁉ っべ、悪かったって!」
 先走りを噴く鈴口を親指でほじられ、コロトックの痛切な叫びが鳴りわたる。言葉通り雄虫たちの弱みを握ったレディアンが、その中心で妖しく笑っていた。不意に宙を泳いだ彼女の視線が、藪の中から食い入るように覗いていた俺の複眼とかち合って――
 ばッ、と、俺はとっさに目を伏せた。
 頭の中を寄生虫に巣食われているみたいだ。思考がおぼつかない。つい数時間前までみんなで酒盛りしていた雄虫たちが、樹液へ群がるように我先にとレディアンを求めている。それを彼女が嬉々として受け入れたことも、その口から「オナニー」なんて淫語が飛び出してきたことも、慣れた手つきで雄虫を悶絶させていることも、何ひとつ理解できなかった。半年前までは雄と雌の違いすら曖昧だったウブな彼女が、どうして。
 藪から出ていくタイミングを完全に見失い、遠巻きに息を殺しているだけで精いっぱいだ。悪い夢なら醒めてくれ! なんでもいい、バケモノでも現れて俺を叩き起こしてくれ――!
 ……どすどすどす。どこか遠くから地響きが近づいてくる。はっとして目を凝らせば、息を弾ませる雄虫たちの背後の茂みから、ギザギザに割れた大口の鬼面がぬっと飛び出してきた。俺でも一瞬ビビってしまうほどの恐い顔。そうだ、この顔のバケモノが彼女にたかる悪い虫を追っ払って、こんなバカげた夢はおしまいだ!
 がさり、と、顔だけだと思っていたそいつが茂みから進み出る。全身を紫の装甲で覆われた、ここらの森をまとめている大柄なドラピオンだった。眉をひそめる雄虫たちを上から覗きこみ、野太い声で笑うとレディアンに唾が飛んだ。
「おぅおぅ、もうおっ始めてやがったか。どれ娘、わしの相手もいっちょ頼むぜ?」
「遅かったじゃないかドラピオン君。いま手が離せないから……試しに股でシてあげようか」
「ガハハ、娘は気が利くな。将来いい嫁さんになるぜェ!」
 その言葉を待ちかねたとばかりに、ドラピオンは彼女が寄りかかる木のたもとに大爪をかけた。みしゃ、と怪力でねじ切られた古木が、あっけなく投げ飛ばされる。うろに貯めてあった木の実ジュースが、はかなく飛んで地面の染みに成り果てた。
 できたての切り株に、ドラピオンが陰茎を乗り上げる。赤紫の体色よりも毒々しく、表面に無数のコブを浮き立たせ、脈打つ血管を幾筋にもうねらせた、バケモノじみて太く長大な魔羅。節くれだった長い首と化け魔羅でレディアンを挟むように、ドラピオンは爪の腹でそっと彼女を引き寄せ跨がせる。
 手を離さないレディアンに陰茎ごと引っ張られ、コロトックとパラセクトが悲鳴を上げた。止まり木を失ったテッカニンが、翅をばたつかせて彼女の側頭部にしがみつく。
 我が物顔のドラピオンへ非難の視線を向ける雄虫たち。気の立った彼らをなだめるように、レディアンが握る手に圧をこめてしゅくしゅくと陰茎を責めさいなむ。マッサージのような緩い刺激に慣れていた3匹の喉から、生ぬるいくぐもり声があふれ出た。
「……ドラピオン君も悪いひとだ。可愛い奥さんたちが寝床で待っているのに」
「アブリボンが懸命に舐めようとも羽虫が止まったとしか感じられんし、ミノマダムはそれ以前にミノを脱いでもくれん。ペンドラーはわしのを見ただけで、嫁に来た日のうちに夜逃げしおった。まったく悲しい限りよォ」
 まだ半勃ちの魔羅を薄い肉唇で甘噛みし、レディアンは腰をゆすり表面のコブに愛液をなすりつける。腿と赤い後肢で挟みこみ、下半身全体を器用にひねってドラピオンを欲情させていく。
「こんな凶悪ちんぽをハメさせろって言われたら、ボクだって逃げ出すけど」
「ガハハ、違えねぇ! お……素股もうめぇな。初めてだろうに、淫乱なのは天性かァ? こりゃ病みつきになっちまうな!」
「……ドラピオンさん、まさか……ぅ、彼女を新たな妻に迎えるつもりでは、ありませんよね?」
「本気にせんで、いいわい。こんな上玉娘を貰えば、妻どもが拗ねちまうからな、ガハハハハッ!」
 快感に震える鋏を振りかざして抗議するパラセクトに、ドラピオンは森の主らしい豪快な態度を崩さない。しかしそのぎざついた口許は唾で汚れ、赤ら顔からは余裕が消えかけていた。
 彼女の顔にへばりついたテッカニンが、置いていかれまいとばかりに翅をさざめかせる。
「レディアン殿、もうひとたび、拙者のを舌で慰めてもらえぬか⁉ 拙者っ、今日がんばったんでござるよっ!」
「……特別だぞテッカニン君。ボクまだ好きなひとと、キスもしたことないんだからな」
 ぐにぐにと頬に押し付けられる肉クナイの切っ先を、ちゅぷ、口内へ迎え入れた。芋虫のように蠢く舌がねっとりと這いずりまわり、すぼまった頬肉が暴れる陰茎をあやしていく。
「あ、ずっけー。レディアンちゃんオレにもサービスしてくれよー」
「レディアンさん待ってください、まだ私ですら舐めてもらったことはないのに……っ!」
「おう娘、腰が止まっとるぞ。わしは蚊帳の外かァ?」
 口々に不平をこぼす雄たちに、彼女は呆れたように目を細めた。
「……まっひゃく、こぇりゃから自分勝手な雄虫どもわ」
「「――――っ⁉」」
 口をもごもごさせながらため息をついたレディアンが、前触れなく肢さばきを一斉に昂らせた。
 先走りでぐしゃぐしゃになった肉笛の歌口まわりを、手のひらで唾抜きするように磨きこむ。パンパンに膨らんだ肉茸のカリ首、笠裏のヒダに密着させた指輪をひねり、裏スジを執拗に何度も引っかける。しゃぶり直した肉クナイを搾るように舌をうねらせ、口からはみ出た根元の虫孔を指先でほじくり返す。後肢できゅっと挟みこんだ化け魔羅、凶暴なコブの形を秘所でひとつひとつ確かめながら、腰ごと大きくグラインドさせてしごき上げる。ぷっくりと熟れた自身の陰核を、親指でコリコリといじめ抜く。
「そろそろ……ん、ボクもいい頃合いだから、みんなでイこ?」
 それまでが前戯だとでも言うような容赦のない搾精に、雄虫たちが一斉にどよめき立った。にわかに羽音が乱れ、甲殻がぎしぎしと軋みあがる。身をよじるような喘ぎ声が、夜の森に交錯する。
 鋭いうめきが木霊して、4本の陰茎がほぼ同時に震えあがった。
&ref(8FF9DAF1-ED3F-4308-867D-34120EB6B974.jpeg,nolink,zoom,30%);
 レディアンの握り拳のすき間から白濁が噴き出して、指の間にどろりと粘液の薄い膜を張る。口からはみ出た舌に伝わせ、絶頂にひくつく腹でも受け止めて。切り株へずり落ちた彼女が、長々と続く射精を全身に浴びながら、恍惚と胸で息をしていた。
 至上の快感にみんなが浸るなか、にへら顔のパラセクトが思い出したように叫ぶ。
「あ――すみませんみなさんッ、私こっちからも、漏らしてしまいますぅっ! あ、ぅあああっ‼」
「――え?」
 意識半分で振り向いた虫たち目がけて、パラセクトの背中の茸がささくれ立つように膨れ上がって――
 ばふッ。あたり一面、ピンクの胞子が舞い上がった。

 一部始終を覗き見ていた俺は、そっと藪の中から羽ばたき出た。
 風圧で薄桃色の霧を押し流すと、四方に横たわる雄虫たちが露わになった。茸の胞子をふりまいた当のパラセクトまで、陶然とした表情で穏やかな呼吸を繰り返している。
「寝た……のか?」
 その中心で、レディアンも小さく寝息を立てていた。ぬかるみへ頭から落ちたように、体のいたるところに白粘液がこびりついている。触角や複眼、器用な手のひらも赤い後ろ肢も、直視できない彼女の秘所まで、ねばついた精液で切り株に展翅されている。
 半ば無意識に、俺はおぼつかない翅どりで近づいた。強烈なにおいが鼻を突くも、収まるそぶりを見せない俺の肉棒を、彼女が最後まで自慰に使っていた手へと握らせる。
「ごめん……レディアン、俺もっ……!」
 翅をたたんで短い肢で切り株のへりを掴み、抱えこんだ腰をぎこちなく振り始める。ずぬ、ぷにゅっ、柔らかく沈む彼女の手の感触に、夢中で尻先をこすりつけた。ビークインとの交尾では決して得られない優しさに包まれ、口の端が吊り上がるのも抑えられずに、俺は次第に腰の往復を速めて――
「はうぅ⁉」
 きゅっ、と。不意に肉棒を握る圧力が強まって、喉奥から喘ぎをひり出した。バッと振り向けば、イタズラっぽく笑うレディアンの複眼と目が合って。
「ぅわぁああ⁉ あ、その、ごめん、でっでも眠ったはずじゃ――」
「……ぁは、忘れたのかい? ボクはとっても〝早起き〟なんだ」
 フリーズした体に残りの肢が絡みついてきて、息をつく間もなく仰向けに返される。上体を起こした彼女の胸へ俺の背中が密着すると、翅のすき間から抱き留めるように腕が4本回された。
「レディアンっ、な、何して……っ」
「そう慌てることはないだろう。ひとつ岩の下で抱き合って越冬した仲じゃないか、こんなふうに」
「いや全然ちがっ――ぅあ⁉」
 背後から忍び寄る彼女の中肢が、俺の尻先を包みこむ。左の手が肉棒のつけ根を支えると、竿を優しく握った右手がゆっくりと上下し始めた。一定のリズムで親指が先端をぐっと押しつぶす。虫孔の内側をまさぐられ、くびれの裏を指先でくすぐられる。
 どちらかの前肢が紡錘体の触角へと這わされ、敏感な節をじっくりと揉み解してくる。ローション代わりに粘液を全身に塗布され、俺の短い腕では届かないところを撫でられる。
 耳元で、甘い吐息。
「ビークインのもとでの下僕生活はどうだい? キツキツな蜂まんこでねじ切れるくらいちんぽを搾られて、口からフェロモンを流しこまれて無理やり大量射精させられるんだろう。みじめじゃないか? こうして丁寧に愛撫してくれることもなく、子種を注ぐだけの精液サーバーとして扱われるのは、さ。……これがドクケイル君のちんぽかぁ、想像していたよりもずいぶん立派なんだね。ボクの手コキ、どうかな。さんざん練習したんだよ」
「そっそんな言葉どこで覚えて、っていうかなんでビークインのこと知って――あぁぁっ、あっ、きっ気持ちヒぃッ……‼」
 雄虫たちを唸らせた器用な腕を一挙にあてがわれ、俺はただ懸命に喘ぐだけ。身をよじり腰を引こうにも、彼女の後肢でがっちり抱えこまれて抵抗できない。骨抜きにされた俺のだらしない頬を白手が撫ぜると、くびれのない首がきゅっと右に回される。
 ちゅ、レディアンの蕩けた唇が柔らかくぶつかって、離れた。
「ボクのファーストキス。キミのために取っておいたんだ」
「え――」
 呆然と空いた俺の口が、再び塞がれる。華奢な舌をねじ込まれ、縮こまる俺のものがさらわれた。雄臭さに混じる懐かしい彼女のにおい、口腔粘膜のステージでは、お互いの舌が情熱的な求愛ダンスを踊っている。
 ぷはっ、俺の限界を見透かした彼女が、嬉しそうに口許を拭う。
「そう我慢せずに、ボクの手で思う存分イってくれよ」
「だぁ……ダメ、出る、出ちゃううぅ……!」
「そうだ、懐かしい名前で呼んであげようじゃないか、ねぇ――どっくん」
「――――ッ‼」
 仲のいい間柄だけで呼び合う愛称、忘れかけていた響きに意識をそらされた。その隙を彼女が見逃すはずもなく、ちゅくちゅくちゅくっ、交尾器と触角を強烈にしごかれる。柔手に抱擁されたまま肉棒が跳ねまわり、精液が宙にいびつな弧を描いて、ぼとと……と切り株に白い斑点を散らした。
 手についたそれを口へ運んだ彼女が、目を伏せたように笑う。
「あは、スゴい量……それに甘いぞ。ビークインにすっかり蜂蜜漬けにされてしまったんだね……少し寂しいな。でもこれならまだ、イけるだろう……?」
「ぅああ、ぁあっぁ、いま、イったばっかり、だからっアぁ‼」
 萎えかけた肉棒をむにゅむにゅと激励しながら、レディアンは再度俺をひっくり返す。向かい合う格好にされ、まともに彼女の顔を見られない。だからと視線を下げたのがまずかった。
 くぱぁ……と片手で開かれた彼女の虫孔が、指先から垂れ落ちた俺の精液をすするように蠱惑的に蠢いていた。ぴと、握られた肉棒の先端をあてがわれて、くち、くち、と柔肉に甘く吸い付かれる。本能が無性にさざめいて、おぼつかない喘ぎが口からこぼれた。切なく求めるように広げられた彼女の前肢2本が、かろうじて保っていた俺の理性を器用にほどいていく。
「まだ誰のも握ったことのないボクのおまんこ、次はコッチでぎゅってしてあげるから……さ。どっくん」
「――れいちゃんっ‼」
 聞いたこともない蕩け声で囁かれ、気づけば俺は腕の中へしゃにむに飛びかかっていた。粘液で滑る彼女の脇をどうにか抱え、不格好に自分の腹の節をひしゃげて、肉棒を虫孔へ押しこんでいく。ぎちぎちと硬い摩擦音がするたび、彼女が苦しげな息を漏らす。
「あはぅ……っ、やっとどっくんとひとつに、なれたぁ……!」
「れいちゃんゴメン痛いよね、でも俺っ、止まれない……ッ!」
 交尾の回数だけは達者だが、攻めはまるで慣れていない。強すぎる刺激に複眼の端を歪めた彼女が、気丈に声を震わせた。
「ぼ……ボクが処女だからと遠慮せずに、おまんこ激しく掻き回していいんだよ。いつもは組み伏せられるばかりで、雌の体を好きにできるのは初めてッ、……なんだろう?」
「――ダメだこんなの、やっぱり止めようッ! れいちゃん辛そうだし……っ、それに、こっこんなことビークインにバレたら――」
「……そっか。もうボクは、キミの複眼には映らないんだね」
「そ、そうは言ってな――ぁああんっ!」
 俺を抱き留めたまま、彼女が下から器用に腰をゆする。離れなきゃと念じる心とは裏腹に、その胸に抱きついてカクカクと拙い抽挿を繰り返してしまう。
 仕方のない奴だ、と懐かしい笑みを浮かべた彼女が、言葉を紡ぐ。
「ボク今ね、パラセクト君――パラくんから、熱烈なアプローチを受けているんだ。どっくんが連れ去られて塞ぎこんでいたボクに親身になってくれてね……ぁ、パラくん優しいから、もう3ヶ月も黙って返事を待っている。ボクだって彼の想いに応えてあげたいのに、キミのことを考えるだけで、胸がきゅうーっ、ってなってしまうんだ。……んあぁ、もぅ、ボクの初めてをキミに捧げて、気持ちに区切りをつけるしか、ぁッ、なかったんだよ。不器用な雄虫たちを慰めているのも、んゃっ、そういう噂が広まればッ、どっくんの耳にも届いて……ひゃ、戻ってきてくれるかなと、思ってだにゃ――っ⁉ ……っこ、ココまで好色だったとは、ボク自身驚いているのだけど――ひァっあぁ!」
「れい、ちゃん……っ?」
 次第に慣れてきたのか、快楽のうめきを挟みながら語る彼女。その意味を細かく拾う余裕なんて、俺にはなかった。ただひたすらにキモチいい。なじんだ秘肉は手よりもやわっこく繊細に包みこんできて、気づかいも忘れてでたらめに突き上げる。俺の体の奥に隠された貯精嚢を、あったかい彼女の手で直接やさしく手揉みされるような圧搾感。ペースなんて調節できるはずもない、気づいたときにはもう、とうに限界を越えていた。
「はぅぉ、おッ、俺もう出るぅっ!」
「いッ、いいよどっくん、は……っ、ひぁああアッ! ぼ、ボクもイくから、そのままキて――」
「きみにはもうっ! パラセクトが――いるんだろ、レディアンっ!」
 じゅぼッ、彼女の中から引き抜いた途端、ビクビクと肉棒がのたうち回った。丸い腹へ押し付けた先端、そこから迸る精液の粘糸が、繭を被せるように卵色の地肌を覆っていく。
「あ、ぁ……、外に…………」
 白いしぶきがレディアンの目元まで飛び散る。とっさに拭おうと短い腕を伸ばして、俺は言葉に詰まった。横を向いた彼女の瞳が、透き通るように潤んで見えて。それはいつかふたりで早起きして見た、薄霧ににじむ朝焼けの太陽に似ていた。いつまでも変わらないと信じていた、美しい思い出のひとつ。
「れ、レディアン……、泣いてる……のか?」
「……ぁはは、気にしないでくれ。器用な手がこれだけ揃っているのに、ボクはなんて不器用な性格なのだろうかと、思ってしまってね。……こんなボクでも愛してくれてありがとう、ドクケイル君」
 脱力したレディアンの手のひとつが、眠りこけるパラセクトの背茸を叩く。舞い上がった胞子の残り香を吸いこんで、俺は彼女の腕に抱かれてまどろんだ。

「――で、何か私に言っておくべきことは?」
「スミマセンでしたビークイン様~~~っ」
 玉座の間のハニカムタイルに額をこすりつけて、下僕の俺は許しを請う。あのあと気を失った俺は偵察のミツハニーに回収されたらしく、したたかに触角をつねられて跳ね起きたらもう女王様の御前だった。
 気配を探らずとも嫌というほど伝わってくる、ビークインはお怒りだ。この前は他の雌とおしゃべりしただけで獄中生活だったし、一線を超えてしまったからには百叩き、あるいはフェロモン漬けか、もしくはメッタ刺しで蜂の巣に――
「早くオモテを上げなさい。今回は特別に罰を免除してあげる」
「は、え……?」
 ぽかんとした顔を思わず晒してしまい、ぎらついた女王の目と合った。怒っていないわけではないらしく、刺し殺すようなプレッシャーに背筋が縮こまる。けど、ビークインにしては寛大すぎる処置。逆にこわい。
「なによその物足りなさそうな顔は。それともまさかお仕置きを受けたいだなんて言わないわよね」
「いっイエっそんなことは!」
「前にも言ったじゃない。あなたの中心に私がいればいい、と。あの小娘に注ぐのを躊躇しただけで、あなたの心の在りかは分かったから」
「…………」
 言われてから改めて気づかされる、俺はすっかりビークインに首ったけらしい。女王の巣を離れたのはたったひと晩だけだったのに、レディアンとまぐわっていた時でさえ、ビークインのことを考えていた気がする。
「……まぁ? いつも下僕として付き従ってくれていること、私も感謝していない訳じゃないのよ。そうね、何かひとつ、願いがあれば叶えてあげないこともないけど」
 ……これまた珍しいことをおっしゃられた。女王様が俺の意見を聞いてくださるなんて、蜂蜜の雨でも降るんじゃなかろうか。ぎこちなく指先の爪を口許に当てて、目の端で俺を窺ってくる彼女の横顔は新鮮だ。
 俺が身代わりを置いてまで城を抜け出し、故郷の森へ逃げ帰ったことを、ビークインは重く受け止めてくれたようだ。こうして不満なところを「願い」という形で俺に言わせるあたり、不器用な女王様らしいけれど。
 願いをひとつ、か。
 もしあのとき女王様に出会わなかったら、俺はれいちゃんと結ばれていただろうか。それは分からない。確かめる方法もない。時間を巻き戻してくださいなんて言えば、いよいよ蜜ロウで固められ湖に沈められるに違いない。
 俺が城を抜け出していた間、ビークインも俺のことを考えてくれていた。どうやら彼女の中心にも、ちゃんと俺がいるようだ。なら、おこがましい望みなんてあるもんか。歪んだ愛を注いでくれる女王様へひざまずき、鋭利な爪に忠誠のキスをするだけだ。
「――いいえ、俺は、ビークインに仕えていられるだけで、幸せですから」

 それでもひとつ願わくは。
 不器用な彼女の手にも、どうか幸福が訪れますように。




RIGHT:
[[続き>不器用なこの手で幸福を]]


LEFT:
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あとがき

wiki本3に寄稿したものを公開しました。こちらは[[前作>林檎のかたち]]とは逆で私の書く小説に絵師さんから挿絵をつけていただきました。やばいですねこの感動……これ下手すると病的に依存するヤツだわ。私わかる。だってもう影山さんに[[別注>瓶詰妖精]]しちゃってますもの。
挿絵がつく、ということは小説が苦手とする複雑な構造とか位置関係を遠慮無く書けちゃうということで、5pです。レディアンちゃんにもっと本数握ってもらうことも考えたのですが、それ以上は画角に収まらない……ということでこのようなカタチに。え待って挿絵ステキすぎない??? 私が小説で書きたかったことぜんぶ適格に平面化していただいて感無量です。テッカニンくんの表情とかみて、余裕のなさが手に取るように分かりますよね……。本誌ではドラピオンさんの化け魔羅がほかの子のものと同じ色だったのですが、こっちのが凶悪で見るだけで背筋ゾクゾクきますよね……いやぁえっちだ…………。
おはなしですが、wiki本2にクロフクさんが書かれたビークイン♀×ドクケイル♂の作品、それに繋がる形でレディアンちゃんの話をこしらえました。[[続編>不器用なこの手で幸福を]]も誕生しますし、この世界が私の中でどんどん広がっていく……むしさんたちに幸あれ。

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