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不器用なこの身にご褒美を の変更点


前:[[不器用なこの手で幸福を]]
RIGHT:後:[[不器用なこの身にさよならを]]
LEFT:


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※R-18表現が含まれます。




 昨春レディアンさんが腹を痛めて産み落とした4つのタマゴは、雪解けを待たずして1匹のレディバを残すのみとなっていた。
 母親の特性を色濃く受け継いだ上の2匹は、私たちが目を覚ます前に起き抜けて、酷暑の陽炎のゆらめきに消えていった。いっとう孵るのが遅かった末の弟は、虫のしらせが及ぼす台風の被害警告に錯乱し、暴風雨のなか巣穴を飛び出ていったきり行方が知れない。
「それでは、おとうさん、おかあさん。ありがとう」
 ひとりになったレディバの息子は、それでも気丈に育ってくれた。晩春、渓流の&ruby(みなも){水面};一面に落ち切った桜の花弁がミロカロスの尾ひれのようにうねる頃、私たちはいくぶんか逞しくなった彼の五つ星を見送った。レディアンさん顔負けの器用さで野生を生き抜く術を身につけ、私ゆずりにバトルの才能にも恵まれていて。1年という育児期間は森に住むほかのポケモンたちにとって非常に短いらしいが、何度もバトンを繋いで子孫を繁栄させるのが私たち虫ポケモンの生き方だ。どうか彼の旅路に幸運があらんことを。もちろん、それより先に旅立った姉弟たちにも。
 子が巣立ってからしばらくはレディアンさんの発情期が続いたため、私たちは遅れを取り戻すように交尾にふけった。口惜しいことに今年はタマゴを授からなかったが、梅雨に入って私のヒートが訪れると、どうしてか彼女はめっきりとその頻度を減らした。元来みだりにまぐわうようなことはするべきでない、と説いていた私は内なる熱衝動を悶々と抱えながら、辛いシーズンを過ごすこととなる。
 長い長い梅雨を抜け、初夏のきざしを感じる朝。

 ねぐらの前に太陽が落ちていた。


&size(22){不器用なこの身にご褒美を};

[[水のミドリ]]

もくじ
#contents



**1 [#dQysyAT]
**1 [#Gy3VPjW]

 はじめに見つけたのは相変わらず早起きなレディアンさんだった。梅雨明けの陽の出にしては肌寒いな、と沢の横穴を這い出たところ、苔むした河原に太陽が突っ伏しているのを認めて、今年の夏が遅いのはこの怠惰な天体のせいだ、と腹を立てたそうだ。
 叩き起こされた私が確かめると、もちろんそれは太陽ではなかった。シルエットから判断すれば、ここよりもっと南の亜熱帯域に棲息していると聞くキマワリというポケモンだ。冗談めかすレディアンさんを急き立てて、ぐったりと脱力した彼女を巣穴の岩穴まで一目散に運びこんだ。
 仰向けに転がした彼女は消え入りそうなほど息が細い。朝もやの間から巣穴に射しこんでくるわずかな陽射しへと縋りつくようキマワリの顔が傾いて、その痛ましい表情に私の背中のキノコがしぼんでいく。太陽フレアのように燦然と延びる花弁はすべて白く脱色し内側にしおれ、その半分ほどは私が運んだ振動だけで抜け落ちていた。広い顔は朽木のうろよりも暗く色あせ、とりわけ左の額は焼けたようなあざが残っている。炎にめっぽう弱い私はムシの体ごと身震いした。
「うーん、あんまり美味しそうじゃないけど……どうやって食べようか」
「とっとんでもない! 蓄えはまだあるんですから、滅多なこと言わないでくださいっ」
「おや、パラくんは優しいねえ。昔はあんなやんちゃだったのに、進化してから植物の子にも愛着を持つようになったのかい」
 レディアンさんの冗談は心臓に悪い。自らを襲撃してきたアオガラスの命すら見逃した彼女のことだ、弱ったキマワリを虫食いする、なんてことはしないだろうが。
 私が肝を潰しているうちに彼女は備蓄のオボンを手に持っていて、私に皮を剥くよう指示を出した。パラセクトの体でできることはそう多くない。言われるがまま剥き身にして口で細断する。光合成で活動エネルギーの大部分を補う草タイプのポケモンは、その代償に消化器官が貧弱なことが多い。いくらオボンが栄養素に富んでいるといえ、そのまま食べさせては消化しきれないことがある。私の硬い唇ですりつぶすように、しかし可能な限り素早く噛み砕いた。緊張しているせいか味がしない。溢れ出る果汁とせり上がる唾液で吹きこぼしそうになりながら、乾燥しきったキマワリの口を覆う。
 冷えた口の中からかすかな命の繋ぎ目をさぐるように、喉の奥へ咀嚼物を押しこんだ。舌先をつっこんで喉奥を開かせる。細まった茎がはかなげに上下して、固形物を飲みこんでくれた。
 脱力した四肢をキノコの笠へしっかりと巻きつけて、私たちは巣穴を這い出した。昨年の暴風で倒木が起き、鬱蒼とした極相林の中でも林床まで光の届くギャップ地ができていたはずだ。レディアンさんの案内でそこへ向かう。光合成のできないキマワリが林地をさまようのは、浸水した地下洞窟を岩天井と水面のわずかな間で息継ぎしながら泳ぎ渡るようなものだろう。背中に乗せた植物の身体がいやに軽い。
 幸いギャップに先客がいるようなこともなく、キマワリを南中の太陽光へ晒すことができた。顔は自然と太陽を拝むように真上へ向けられ、萎びていた両手の葉は水浴びするように艶を取り戻し始めた。……というのはレディアンさんの言葉で、背中の様子を窺い知ることはできない私はというと、陽差しに炙られた乾燥肌がちりちりと悲鳴を上げ出して気が気ではなかったのだ。
 見かねたレディアンさんがキマワリの体をひったくる。大樹によりかかった彼女が極上の腹布団に萎びた後頭部をそっと預けさせると、悪夢の中でクレセリアに祈るような顔つきの顔を優しく撫でた。
 それはまるで何年も前、まだパラスだった頃の私がレディアンさんに救われた光景を再現したかのようだった。
「パラくんは出不精だからねえ。たまには散策でもしてきたらどうだい。ボクはここでキマワリちゃんとお昼寝してるからさ」
「…………味見しないでくださいよ」
「まさか! ボクがそんなことするような雌に見えるのかい?」
「信じてますからね? 信じてますからね?」
 途中何度も振り返りながら、私は鬱蒼とした森林へと戻る。道すがら見つけたクワの木の幹に傷をつけ、木部から溢れ出る水で肌を湿らせた。と、上層の枝に絡みつく棘ついた&ruby(つる){蔓};植物が垂れている、それが何本も。&ruby(とう){籘};の群生地とは珍しい。シザークロスを弾き飛ばせば、両断された籐が木の上から獲物を狙うジャローダさながらに落ちてきた。一端を固定してハサミで強く握りこみ、頑丈な&ruby(つた){蔦};を回すようにしながら針をしごき落としていく。樹木よりも軽く、それでいてしなやかさを併せ持つ素材。以前に採取できたものは、収穫したきのみを運ぶ籠として使っている。持ち帰って器用なレディアンさんに編んでもらえば、あのキマワリが回復してここを去るとき、餞別にどっさりきのみを詰めて持たせることができるだろう。これはいい拾い物をした。
 幅にばらつきのある蔦植物を適当な大きさに両断して持ち帰ると、午後の陽気も引き始めているくらいだった。
「どうですか、調子のほどは」
「しー……っ、起きちゃうだろう。お帰り、ずいぶんと遅かったね。おや、それは籐かい……!? でかしたよパラくん、そんなたくさん拾ってくるとはお手柄だね!」
「しーーーっ! 大声になってますよ……!」
 レディアンさんの腹で眠りこけるキマワリは、巣穴の外で拾ったときよりだいぶ血色が良くなったようだ。新緑を取り戻した胸は切なげに上下し、豆を包むリンドの心皮のように横に広く開いた口からは穏やかな吐息。縦に長い足の裏からは緻密な根が腐葉土へと宿り木のように張り巡らされていて、欠乏した水分を補っているらしい。花弁は見るも無残に禿げ落ちたままだが……残りのものに歯形が付け加えられた様子もない。
 ……よかった、本当に。
 陽が傾くとギャップに差しこむ光の照度は格段に低くなる。森林内で十分な光合成量を確保するのはやはり厳しいが、最低限の生命機能を回復させるまでに陽に当てられたようだった。寄生虫や感染症に侵されるリスクも軽減しただろう。
 キマワリが意識を取り戻したのは、それから3時間ほど後のこと。遠く西の稜線に陽が食いこんだであろう頃に、固く閉ざされていた糸目がもぞりと端を持ち上げ、仕事を終えて帰ろうとする太陽を探すように首を振る。
「ん……、ぁ……?」
「お、起きたかい? 今夜のスペシャルディナーちゃん」
「きゃっ……!?」
「レディアンさん怖がらせないでくださいってば」
 逆さに覗きこんでくる初対面の虫ポケモンにそんな挨拶をされたキマワリが、飛び起きるも自ら張った根によろめいて私のキノコへ背中から不時着した。衝撃に情けない声が漏れそうになったが、これはつまりとっさに動けるまでにキマワリは回復していたということ。
「え、ぇえっとあの、わたし食べても美味しくないよっ、せっせめて花びらだけで許して――あああっ抜けてる!? きゃあっなんでぇ!」
「あなたも落ち着いてください、ええと、キマワリ……さん? 体調はいかがですか?」
「うキャあっ!? だっだれ……、ぁ」
 慌てふためくキマワリさんが、背中に敷いていたクッションの声に振り返った。白質化した私の目と、どこを見ているのか判別しかねる細い目とが合う。
 一瞬、森が凪いだ。
 みずみずしさを取り戻した葉っぱの両手を口に当てて、キマワリさんが息を呑んでいだ。星が散り始めた夕焼け空へおやすみを言うように、木々のざわめきが通り過ぎていく。
 その手がゆるゆると私へ伸ばされ、鋭利なハサミを通り過ぎて、キノコの縁をするりと撫でた。
「またわたし……、あなたに救われちゃったね」
「あ」
 悄然と笑うキマワリさんが額のあざをさする。そういえば思い出した。あざの形は湖面に落ちた霧雨が干渉しあってできるような複雑で幾何学的な波模様で、それはまだヒマナッツだった彼女がメェークルにかじられた痕だ。3年前の春、私がまだパラスだった頃。西の森に住むレディアンさんのもとへ戻ってきた際に道中助けたヒマナッツが、今のキマワリさんだった。幸いにも進化したときの外傷が目立たないのは、取り入れた太陽の石による外部エネルギーが強かったおかげなのか。
 途端に複眼を輝かせたレディアンさんが嬉々として首を突っこんでくる。
「なになに、パラくんの知り合いだったのかい? なんだ、君も隅におけないな、こんな可愛い子に唾をつけていたなんて」
「……レディアンさん、あなたのことですから誤解まみれな想像をしているんでしょうけど、違いますからね」
 勘繰ってくるレディアンさんを押しやって、気づく。キノコへ抱きついたキマワリさんの目の当たりから、ぬるい湿り気が染みこんでくる。押しつけられるように漏れてくる、彼女の切なげな声。
「わたし……その、パラセクトさんのこと、ぐすっ、ずっと探してて……。こっちの冬は寒くて、心細くて、死んじゃうかと思ってっ……! うぇぇ、会えて、よかったあああぁあ……!」
「わわわ、泣かないでください……。せっかく吸収した水分が逃げてしまいます」
 レディアンさんに救われた私がけっきょく彼女の下へ戻ってきてしまったように、キマワリさんもずっと私を追いかけてくれていたのだろう。泣きじゃくる彼女の背中へハサミを回し、そっと撫ぜる。小さな体に芽吹き返した鼓動は、芯に炎が灯ったように温かかった。
 滂沱の涙を乾燥肌が吸収しきってようやく、しゃんと立った彼女が丁寧に頭を下げる。
「ごめんなさい、恥ずかしいところを見せちゃったね……。うん、えっと、ともかく……。助けてくれて、ありがとう。パラセクトさんにレディアンさん」
「備蓄はいくらかあるし、好きなだけボクたちと一緒にいればいいよ。そのかわりと言っちゃあアレだけどさ、毎日ひと口だけでいいからかじらせ」
「やめなさい」
 その日はギャップで夜を過ごした。とっぷりと陽が落ちてもおしゃべりなキマワリさんの旅話は続いて、気づけば3匹折り重なるように眠りこけていた。

 夏が始まろうとしていた。





**2 [#Gnx92Ay]
**2 [#49Nlu40]

 キマワリさんの快復を優先して住処を森の南端部へと移すことになった。落葉樹林が広がるここら一帯でも、幾分か日照時間が長く草原を一望できる晴朗な場所。林地から外れて青葉を茂らせる桜の根元に、簡易的な巣穴を掘った。子どもはみな巣立っていったし、キマワリさんは夜でも地上で根を張るらしいので、私とレディアンさんのみが収容される小さなもの。大樹は折り重なるように根を広げていて、それを避けるように寝所をこしらえるのはなかなか骨が折れた。枯死し梅雨の長雨にさらされてぐずぐずになった根をハサミで切り落とし、私の顔を覆うほどに茂った芝地へと横たえておく。……なぜこの桜だけが、草原にぽつんと立たされているのだろうか。山積みになった根を見て思う。まるで太古のしがらみに呪縛された木が、この場を離れられずにオーロットへと朽ちていくのを粛然と待っているようだった。
 キマワリさんのようなきっちりとした植物の体を持つポケモンは、太陽のエネルギーを養分へ変換する機構を持ち合わせているらしい。日照時間の長い夏場は、日がな太陽を追いかけ広い大地をさまよっていたのだそう。パラスの頃の私に助けられてからは、それもめっきり私を探す旅にすり替わっていたと言うが。
 4日目の朝。私が起きだす時間にはすでに、梅雨など忘れたかのように降り注ぐ日射へ、キマワリさんは身を捧げるように肉厚な葉の腕を広げていた。自由に動き回れる程度の体力を持ち合わせていなくとも、光源を欲する本能は旺盛らしい。呼吸すら忘れたように昂然とした表情で南中を向く彼女のかたわら、私は桜の根元へ敷いた芝のクッションに収まった。木漏れ日からはみ出した途端、それほど強くない日差しにも私の乾燥肌が悲鳴をあげてチリチリと痛みを訴えてくる。
「おはようございます。体調はいかがですか」
「きぁ……」
 天へと一斉に伸びあがる短草たちにならい風にそよぐキマワリさん。私の挨拶に半拍遅れて振り向いた彼女が、大地にどっしと張っていた根がわりの足をもぞもぞと抜く。そそくさと木漏れ日に戻り、腹這いになった私の隣に尻を下ろし大樹へよりかかった。
「おはようパラセクトさん。もうこんなに陽が昇っちゃったけど」
「キマワリさんは太陽と起床時間を競っているのですか……」
 レディアンさん同様〝早起き〟な彼女は、暁闇のうちからふたりして連れ立って、草原をふらつくのが日課となっていた。天敵の鳥ポケモンが活発になる早朝の時間帯は無闇に出歩かないようにとの勧告は聞き入れてもらえず、私の知り得ぬところで彼女たちは親密になっていたようだった。遠方の餌場から珍しいきのみを持ち帰った彼女たちが、私を避けるようにひそりと耳打ちをしていて、それがどうにもむず痒かった。
「そういえばレディアンさんは?」
「前の巣穴からきのみを持ってくるって。……なんだかごめんなさい、わたしのためにわざわざ……」
「いえ、復調したようでなによりですよ」
 抜け落ちた彼女の花弁は痕跡すら分からないほどに生え変わり、聞きづてに想像するキマワリの姿となっていた。昔かじられたあざは相変わらず浅黒くそこにこびりついていたが、その痕も彼女との出会いのきっかけだったと思うと愛おしく感じてくる。
「パラセクトさん……ああ、ほんとに、あのときのパラスさんだ……っ」
 懐かしむようにキノコをくすぐられ、私は少しだけ困惑した。
「えぇと、分かりますか? 私、進化を経てひとが変わったようだとよく言われるのですが」
「命を救われたわたしには分かるんだ。あのときのあなたも、今のパラセクトさんの中にちゃんといるって」
「…………それは、彼も喜びます」
 私の中で、進化して次第に影の薄くなっていたムシの意識が甘く覚醒する感覚があった。……そんなことおれしたっけか、とムシが失礼な疑問を持ち上げる。あなたはあまりにレディアンさんへ傾倒していましたからねえ、とキノコが返す。レディアンが大好きなのはおまえもだろ、進化するまではあんなに「表に出してください!」って縋りついてきてたくせによ。そ、そんな昔の話、いいじゃないですか。おれがしばらく眠っていたうちに、一丁前になったもんだなあ。とっともかく、あの時ばかりは正義感が強く無鉄砲なあなたに感謝しましたよ、私だったらメェークルへ斬りかかる度胸などなかったかもしれない。
 進化前はこういう意識下のいがみ合いが絶えることなく、ふたつに分かれていたキノコはムシの爪で小突き回されていたものだ。パラセクトへと円熟しキノコの意思が表出してようやく、私は落ち着きを携えたかと思う。
 ムシの肢を折りたたんで地に伏した私のキノコへ、キマワリさんがそれとなく寄りかかってくる。軽やかな体重を支えた笠のへりが、柔らかな感触に小さくくぼむ。慕ってくれるような重みに内部抗争を断絶して、私は彼女のおしゃべりに耳を傾けた。
「――だけど、だけどだよ。どうしてもその赤と白のカラーリングにとても惹かれちゃって。もしやこれがパラスさんなんじゃないかって手を伸ばしたら、いきなり痺れ粉を吹き上げたの! キャーーーっ、て叫んじゃって、わたしすっごく恥ずかしかった」
「それは災難でしたね」
「……パラセクトさん、聞いてた?」
「ええもちろん」
 キマワリさんはよく喋る。夏のあいだあちこち巡り回って見てきたもの、聞いてきたことを、葉の手の先を下方へ丸めてもじもじとすり合わせながら語ってくれる。
「む。……じゃあ、とっておき。わたしがどうやってここまで来たのか。聞きたい?」
「それは……。実は気になってました。ぜひお聞かせ願いたい」
「キマワリって種族はここからずっと南の方に住んでいるんだけど、わたし、生まれたばかりのころ鳥ポケモンにさらわれてさ。もうダメーーーっ、て諦めたんだけど、それから――」 

 昼も過ぎたころ、備蓄のきのみを入れた籐の籠やら何やらを4つ手に引っ提げたレディアンさんがのんのんと戻ってきた。梅雨は名残も覚えさせないほど暦の陰に隠れていて、夏の陽光が天中をのさばっている。さんざめく熱気に私の乾燥肌は途端に悲鳴をあげ、たまらず巣穴へ退避するところだった。
「わざわざありがとうございます。……ずいぶん遅かったですね。あなたの翅ならひとっ飛びでしょうに」
「いやァちょっと寄り道したらさ、南の海岸沿いで知り合いとばったり出くわしちゃってねえ」
 私の追及をひらひらとかわしつつ、レディアンさんがきのみを投げてよこす。火傷によく効くチーゴとラムのみ。いま一番必要としているものを察知して施してくれるレディアンさんの気配りに、私はあっけなく押し黙った。
「パラくんのことだから偏見まみれの想像してるんだろけど、そういうのじゃないんだ。今日はこれからちゃんとその子に挨拶してくるよ。パラくんはキマワリちゃんをしっかり見守るように!」
「……西の森までは、行かないでくださいよ?」
「心配性だなあパラくんは。安心してくれよ、お土産も持って帰ってくるからさ、ね?」
 レディアンさんの左の複眼が、にゅ、と下辺を凹ませる。向けられた彼女のウィンクの意味が取れずに私は困惑し、キマワリさんは曖昧に首肯しただけだった。
 このあいだ私が採集した籘の束を前肢と中肢それぞれの両手に渡して握り、レディアンさんはご機嫌に飛んでいってしまった。帰りは日暮れになるかもしれないな、と聞こえよがしに呟いた彼女は、私の小言が届く前にみるみる遠のいていった。
 またキマワリさんとふたりきり。
「……」
「……」
「…………」
「……、えと、どこまで話したっけ?」
「親切なランプラーのもとで冬を越したところです、けれど――」
「そうそう、それでね、『ちょっと魂を燃やさせてくれたら暖をとらせてやる』って言うからね、そこにいた全員で――」
「わわっごめんなさいキマワリさん、私これ以上日向にいるのは厳しいです……。戻りますから、お昼寝にしましょう。バスケットのきのみ、好きに食べてくださいね」
「せっかくいいところなのに……。じゃあわたしも巣穴にお邪魔する」
「キマワリさんは太陽を浴びておかないと、ですよ。まだ本調子じゃないでしょうし、ほらほら」
 本調子には至らないとはいえ、彼女の肌はすっかり艶ときめ細やかさを取り戻していた。とくに曲線美を描く尻周りはよく熟れた果実のように美味しそうだ。食い入るように見つめそうになって慌てて視線を下げた。ハサミに収まるラムのみが、ちょうど彼女の豊満な体に見えてしまう。顔に傷のある雌は醜女だとコロトックさんは豪語していたが、キマワリさんのそれが目に入るたび、私の腹の奥がゆるりと疼く感覚に見舞われる。日に日に美しく可憐な姿となるキマワリさんを前に、私の視線は宙をさまよってばかりだった。白く濁りどこを見ているのか判別しにくい双眸に感謝したことが初めてだ。
 同じタマゴグループの成熟した雌がずっと側にいるのだ、もちろん意識していた。彼女のおしゃべりが話半分にしか頭に入ってこなかったのだって、あながち無理からぬことだろう。
 無意識に力のこめられていたハサミに、柔らかい肉厚葉がかぶさってくる感触がして、ハッと顔を上げた。
 太陽が真剣な眼差しを私へ降り注いでいた。
「……あの、その、もっとおはなししたいし……隣に、いたいから」
「いえ、ちょっと、近いですよキマワリさん……」
 これ以上強く接触すれば彼女に手を出しかねない。すごすごと巣穴へ潜る私のキノコのへりをぎゅ、と掴まれて、犀利な刺激に胞子を少し吹いてしまった。何するんですか、と振り向けば、恥じらいに紛れた強い決意をとうとうと湛えた細いまなこが私を縫いとめていた。
「……気づいて、るんだよね。わたしの気持ち。でも優しいから、だよね。パラセクトさんにはレディアンさんがお似合いだって分かってる。けど……。わたしずっと、あなたを探して旅してた。1回だけでいいの、そしたら南へ帰る決心もつくから……っ。その、あの……っ、あっあああ愛して、ください……ッ」
「……」
 切なげに声を震わせる彼女の心情には、もちろん気づいていた。命を助けてもらった相手に惚れこんでしまうことは、ありがたいことに私自身が身に染みてわかっている。キマワリさんの場合それが2回と続いたのだ、私が運命の相手だと盲信してしまうにも無理はない。
 そして、己の恋慕を伝えなければ後悔するということも、私はよくよく存じている。彼女の気持ちに応えてあげたいのは山々なのだけれど、私たちの間には取り去りがたい障壁があった。
 元来苔むした森の暗がりでひっそりと息を潜める私と、照りつける太陽のもと草原を練り歩くキマワリさんとでは住む世界が違う。こうして巡り合えたのもひとえに彼女の度を超えた努力のたわものだけれど、こうして並んで話すことすらままならないのだ。彼女の情にほだされるべきでなはい。
 ……それに。
 それに、おれたちにはレディアンさんがいるじゃあないか。それまでだんまりだったムシの本能が騒ぎだした。タマゴを作った最愛のひとがいるのに、植物なんかに浮気するとはどういうことだ。
 ……いや冷静になってください、とキノコが反駁する。ムシとキノコの意識を持つ私が、それぞれ虫グループと植物グループの雌に惹かれるは自然の摂理です。もちろんキノコもレディアンさんを愛していますが、それ以上にキマワリさんとも仲良くしたい。
 レディアンと子作りを済ませたからって、彼女に黙って浮気でもするつもりかよ!?
 進化して体を明け渡してから3年も経つじゃないですか。そろそろ引っこんでくださいってば。
 ぬぬぬ……!
「パラセクト、さん……?」
「あ……いえ、すこし物思いを。失礼」
 あまりに応えしぶる私を心配して、恥ずかしさに顔を覆ってしまったキマワリさんが葉の隙間から細目をちらと覗かせた。理想とは程遠い私のリアクションに、取り戻していた明朗さがみるみるしぼんで枯れていく。
「……やっぱりダメ、だよね。そんな気がしてた。……うん、ごめんなさい、なんでもないや」
「いえ! ……いえ、そうではなくて」
 レディアンさんから渡されたチーゴとラムを、しゃきり、と切り潰す。ハサミをキノコの天頂へ掲げ溢れた果汁を全身に浴びれば、持続性の冷感が私を包みこんだ。彼女から受け取った冷却剤を使いながら、横目で飛び去っていった南方をちらと確かめる。もしや覗かれていたりしないだろうな、と肝を潰したが、そんな視線を向けられている気配はない。
 私の意図を察したキマワリさんが、歓喜と羞恥と困惑を足してかき混ぜたような表情で口許を覆っていた。
 ……ちょっとくらい甘んじていいじゃないか、少女の命を守った救世主の役得を預かったって。思い出作りをするキマワリさんを身篭らせるようなことさえしなければ。
 かんかん照りの草原と陰鬱とした森の境界線。明暗入り混じるまだら模様の木漏れ日の草絨毯の上へ、生娘らしくはにかんだキマワリさんを寝そべらせた。






**3 [#Amgjcls]
**3 [#NeRWJJ6]

 私の視界を覆うほど伸びた芝を刈り取って均したベッド、そこへ仰向けになったキマワリさんが、夕暮れの朝顔のように花弁を萎れさせていた。大胆な告白はどこへやら、どことなく恥じ入った様子の彼女は長い首をよじり、じっと注がれる私の目線をかいくぐってそっぽを向く。
 愛想を尽かされた私は日陰側からキマワリさんの顔へ横ざまに抱きついて、日向の草原を眺める彼女の額のあざへハサミを伸ばし、撫でさすりつつこちらへ顔を傾けさせた。木漏れ日に沈む彼女のまあるい顔は見まがうまでのきめ細やかさで、たっぷりと栄養を蓄え密に詰まったタンポポの綿毛のよう。これだけ面と面とを近づけたことはなかったな、と些末な思考が脳の端をよぎり、いいや出会ったその日に口移ししていたのだったか、と思い返した。
「あああのっ、あの、その……、優しく、してね?」
「ええもちろん」
 ぎゅうぅ、と縮こまる彼女の緊張をより解すよう何度も何度もおでこを撫でた。硬質なハサミに押しつぶされまいと、舌の形をしたノメル色の花びらがみずみずしく跳ねる。凹凸のない彼女の顎を脇にそれてすぐ、ふわもふの頬っぺたへ鼻面をうずめれば、キマワリさんの濃密なにおいが鼻腔を満たしていく。甘酸っぱく、しっとりとした重みのある、栄養分たっぷりの土に根ざした植物が生温い水に潤っているような、熱帯樹林のにおい。いつまでも嗅いでいたくなるような芳香に、腹奥から血潮が甘く沸き立つような感覚を催される。
 レディアンさんとの情事はもっぱら夜の帳が降りてからだったから、陽の高いうちから雌の柔肌に耽溺するのは慣れないものだった。虫も植物も息づきだし生命力にあふれ返る青葉の草原のさざめきが、まるでこちらをうかがい噂立てているポケモンたちのように聞こえてきて。
 不貞をはたらく私を咎めるようなどよめきに覚えた背徳感は、むしろキマワリさんを抱くことへの武者震いをいっそう掻き立てた。そもそもレディアンさん以外の雌を知るのは初めてだ。今ごろ旧知の友人とおしゃべりに興じているであろうレディアンさんをよそに、一生涯のつがいだと心に誓った彼女に隠れて若い雌と姦通をしでかそうとしている。それに加えレディアンさんにはあれだけ味見をするなと釘を刺しておきながら、ぬけぬけとキマワリさんの体を余すことなく堪能してやろうという狡猾さも相まって、いけないことをしているという生々しい感覚に血が滾ってしょうがない。
 いっそ見たいなら見せつけてやろうじゃないか、と野次馬然とした草原を一瞥して、私は胸中のキマワリさんに向き直る。ただならぬ私の心うちが伝播したのか、怯えたように目尻を下げる彼女に後ろ暗い情動を悟られないよう、可能な限り柔和に微笑んだ。
「怖いですか、初めては」
 おずおずと私へ向けられていた糸目が、ふいと逡巡した。手の葉先どうしを絡ませるようにまごつき、一度小さく噛んだ唇を開いて申し訳なさそうに言う。
「……ううん、実は、ここからずっと西にある、地平線まで広がるおっきな高原の花畑で、キレイハナの雄から太陽の石を譲ってもらったときにね、その、交換条件として」
「――ああ、ああっ、ごめんなさい不用意な質問をして」
 痛切そうな彼女の言葉を遮って、私はさっと跳びしさった。
 パラセクトと同じくキマワリにとって進化するのは一生に一度、しかも石を伴ったものならば儀式的な意味合いもあるはずだ。その記憶を暗鬱としたものに塗りつぶした卑俗な雄は許されるべきではない。可憐なキマワリさんの弱みにつけ込み、羨ましいことに――いや、老獪にも彼女のあだ花を散らせたのだから。地の果てまで探し出して切り捨ててやりたいくらいだ。彼女を傷つけた顔も知らない相手に私はハサミをぎりり、と鈍く噛みしめたが、それも仕方のないことだったのだろう。弱い雌が食料を得るために体を求められることはわりとあった。旅をしていたキマワリさんも、1度や2度ならばそういった経験もあると考えた方が理にかなう。
 詮索されたくないであろう過去を濁すよう、キマワリさんは気丈にはにかんだ。
「いいの。キレイハナもチェリムもロゼリアも、恨んでないよ。だってこうしてパラセクトさんと巡り合えたんだし」
「……お強いひとだ」
 首をもたげたキマワリさんが、私の存在を確かめるようにキノコの天頂へ抱きついてきた。痛ましげに乱れた息を落ち着けるべく深呼吸を繰り返す。私が彼女のにおいを肺に詰めこんだように、キマワリさんも私のにおいでいっぱいになろうとしているのだろうか。
 彼女がその気に戻ってくれるまで寄せられた腹を抱きしめ返していた。ムシの図体よりひと回り小さく、キノコよりもしなやかでみずみずしい植物の体。ちょうどこの時期の太陽のきらめきのような胎動を刻む華奢な体躯は、私のハサミの先端がかすっただけで簡単に突き破れてしまいそうで。忌々しい交尾の記憶をフラッシュバックさせないよう、前戯は存分にやってあげようじゃないか。……はなからそうするつもりではあったのだが、さらにじっくりと徹底的に。
「ああ……温かい。ずっと抱きついていたくなります」
「きぅ……、うぅー……っ」
 気恥ずかしさのあまり抱擁を振り解いたキマワリさんが、後ろ手をついて早口になった。
「や、やっぱりもうちょっとおしゃべりしない? ……えっと、そっそれでね、そのキレイハナさんったら、あんなに傲慢だったのにあまり経験がないみたいで、初めてだった私にもそんな気を遣ってくれる余裕なくってね。花吹雪で私を吹き倒したらすぐに、私にのしかかってきて――んむ」
 ちゅ。
 きのみを撃ち落とすのが下手なテッポウオもかくやというほど忙しなく開閉する彼女の唇を、そっと塞ぐ。はしゃら……、と草葉敷きが乾いた音を立てる。決して軽くはない、これからを予感させるような密度を伴った口づけ。
「では、キスは私が初めてですね」
 西陽を吸い上げたようにさあッと顔が染まり、こくり、と小さく頷いた彼女は一気にしおらしくなった。あぐあぐと口を震わせるも、それが拒絶の言葉をかたどることはない。ついには擬態を見破られたカクレオンのように押し黙った。普段見慣れないキマワリさんの仕草、なんと可愛らしいことか。……本当の初めては口移しになるのだろうけど、雰囲気を揺るがすようなことは言わないでおいた。
 途端におとなしくなった彼女の、控えめにちょんと開けられた口。いつもは大きくにかッと持ち上げている口角はしんなりと押し下げられていて、その上唇の端へモモンの薄皮を剥くような繊細さで口を寄せ、そっと食んだ。みずみずしい口肉が私の硬質なそれに挟まれて弾ける。さばいたばかりの川魚を味わうように口の先で転がして、ちゅうぅっ、わざとらしく音を立てて頬をすぼませた。
 ふ、ふゅ、ふぅ、とか細く震えるキマワリさんの生温かな吐息が甲殻の隙間に忍びこんできて、話に聞いた彼女の故郷の湿度を私に連想させた。
 老樹のうろへ爪を差しこみ中でうずくまる虫を探しだすような緻密さで、緩やかに唇を滑らせる。私の動きに併せて波打つ萌黄色の口端で唾液と空気が混じり合い、ぴちゅ、ぬちゃ、ぢゅッ、湿った音が弾け出た。
 口許でお互いの息を吹きかけるような淡い睦み合いにもかかわらず、キマワリさんはすっかり息を弾ませていた。キスされたまま私のハサミが腹まわりの柔肌を撫ぜると、慣れていないのだろう時折くすぐったそうに身をよじらせる。
「きゃ、ふっ……っ、んむぅ……んうッ。ん……っ、きゃふふぅっ」
 口と口との隙間からあぶれ出る喘ぎに、時おり鼻に抜けたような甲高いものが混じるようになる。ゆるゆると動く彼女の唇に軽く挟まれるようにして、私は分厚いベロを突き出した。ムシの体で最も柔らかい部位、それに誘い出されたキマワリさんの舌をからめ取り、同様に優しく舐る。
 ちょうどその顔を覆っている花弁にそっくりな形をした、キマワリさんの薄くワイドな舌。スライスした珍しいきのみを丁寧に味わうように、温かなそれを口の外で絡ませた。
 舌の先どうしを触れあわせたり、追いかけっこするように彼女の唇をなぞったり。アブリーがホバリングしながら花の蜜腺へ口吻を差しこむ、そんなおぼつかなさで舌を震わせたり。お互いがこの先を楽しもうという気持ちを確かめ合っているうち、もじもじしていた彼女の手が背中のキノコを引き寄せるように抱きしめてきて。
 先端だけを舐めあうようななおざりな舌戦を切り上げ、私は彼女のものを巻きこみながら大きな口腔へ舌をけしかけた。領域を侵される異物感にキマワリさんの身体がぎしっと強張って、私は一旦ベロを引っこめる。大丈夫ですから、と柔和に笑み返して、穏やかな吐息を取り戻したキマワリさんへ再びのディープキス。
 呼吸や摂食に使われる器官を明け渡すのだから、種族によっては秘部をまさぐられるより抵抗感があるのかもしれない。唇の裏をうかがい、あるかないか分からないような歯列をなぞり、舌裏の柔らかな粘膜をくすぐった。応じてくれた彼女にがっつくようなことはせず、それでいて求めるように、あくまでキマワリさんの意志を尊重するように。
 パラくんにじっくりねっとりキスされると、ストンと力が抜けちゃうんだ、とはレディアンさんの談だ。端から端までをまさぐるような深い口づけは初めてだが、こうしたスキンシップに慣れていないキマワリさんでもレディアンさんと同じような法悦に陥らせてあげたい。クラボのみを含んで精一杯なレディアンさんの口は私の舌など入る余地もなかったが、横に広いキマワリさんのそれなら窒息しないはず。
 脱力したベロの質量だけで彼女の舌と渦を巻く――先ほど口の外でやったものを、何十倍も情熱的に。このまま脳の奥までかき混ぜてやろうくらいの熱誠さをもって、分厚い肉の柔らかさを徹底的に味わわせる。溜まった唾液を泡立たせ、ざらざらした舌の表面の凹凸まで覚えこむように何度も口を吸った。せり上がる唾液を情け容赦なく流しこめば、キマワリさんはこくこくと喉を膨らませて飲み下してくれる。
 なすがままの彼女の顔裏に両のハサミを回して抱き寄せ、砂を揉むような加減で彼女の頭をわしゃりと撫でる。黄金色の花弁がふわりとたわんで、ぎゅっと閉ざされた目尻がうっとりと細まった。
 呼吸まで止めて陶酔してくれるキマワリさんの口を解放し、お互い大きく息をつく。生温かな吐息、蒸れた彼女の芳醇なにおいがキノコの芯まで駆け巡って、私は数瞬だけ忘我していたのかと思う。あぎとから滴る唾液の橋を彼女の舌でちろ、とすくわれ、思い出したようにまた深く口づけを交わした。それを何度も、何度も、キマワリさんが満足してくれるまで。
 さんざん吸い上げた口を離すと、ぽわんとした表情のまま私を見つめるキマワリさん。きめ細かな彼女の頬で弾かれたお互いの唾液は爪でつつかれた霜柱のように複雑な模様を描いていて、ちゅずッ、私はそれを追い討ちして啜る。ふにゃふにゃに解された口許が恥ずかしいのか、キマワリさんは大きな葉の手で蓋をしていた。
 差し出された葉っぱにムシの白眼が吸い寄せられる。規律正しく並んだ葉脈は、その繊維質を流れる水まで透けてしまいそうなほどみずみずしく。
 ……美味しそう。
 ムシの衝動のまま、私はその手へ噛みついていた。口内に広がる、青々とした新芽のような生命力に溢れた味。強く噛み締めた顎を、一瞬遅れて気づいたキノコが慌てて緩めにかかる。
 反射的に手を丸めたキマワリさんの細い目が、どうして? と眇められる。
 どうにかしなければ。躍起になったキノコが、ムシの口をあぐあぐと開いた。
「……おひさまのにおいを、もっと感じたくて」
「…………っ」
 陳腐なキスの感想がとっさに出た。怖がらせてしまったかな、と彼女の表情をうかがうと、ありきたりそうな口説き文句も言われ慣れてないのだろう、キマワリさんはいまだ口まわりを互いの唾液で汚したまま、少し困ったように細い目を泳がせた。引きかけていた紅潮が、日焼け痕のようにさあっと浮かび上がる。
 かわいかった。
 浅く歯形の残された右手から、さんざっぱらキスで酷使した唇を徐々にずらしてゆく。草のクッションへ仰臥した彼女の体を隅々まで調べる品評家のように、産毛の心地よい頬を転げ、黄金色の花弁をまさぐり、細い首は吐息でくすぐりつつ、なだらかな腹へ跡を残すつもりで吸いついて。もじもじと閉じられた股を両&ruby(て){前肢};でどかし、丸い下腹の柔らかさを堪能するように頬を擦りつけた。ハサミの背で腰まわりをつっつき、無言の催促。顔を引いてキマワリさんを眺めると、恥じらい顔でおずおずと股を緩めてくれた。
 キマワリさんの纏うおひさまの体臭を吸いこむたび脳の奥がじりりと痺れて、おそらく彼女はヒートの季節に差し掛かっているのだろう。それ以上に濡れやすい体質なのかもしれないが、&ruby(くつろ){寛};げられた股はキスとそれに続く全身への愛撫ですでに湿りきっていた。ほぐれて強調された縦割れから、新緑の肌に映えるどどめ色の柔肉がかすかに覗いている。思わず生唾が喉を垂れ落ちた。
 そこへしゃぶりつくように口をもっていって――太腿の付け根へ吸いついた。食物繊維が幾重にも走る強靭な足腰、じんわりとかいた汗が滲みるそこを、ちゅ、ちゅうっ、ちゅぱ……、同様についばんでいく。彼女と正対するようにハサミで腰を回し、目の前にやってきた丸い尻を噛む。もちろん歯形がつかない程度の力加減で。
 秘所へ直接的に触れないのは、もちろんわざとだ。あけすけに焦らされた彼女の尻が、無意識なのだろう、切なげにもじりもじりと揺らされる。痺れを切らした彼女がおずおずと上体を起こし、バッチリ合ったうるうるの瞳を見つめながら、満を持って私は舌の先を肉つぼみにくっつけた。
「キャアアあっ!?」
「わ、びっくりしました。……痛みましたか?」
「うっううん、そうじゃなくて」
「ならよかった」
「ま、待ってくだきゃ――キャアアアアアあンっ!?」
 甲高い悲鳴が草原に鳴り渡る。快感よりもくすぐったさの方が優っているのだろうか、このまま愛撫を続けていいのか躊躇われた。それから耳ざとい鳥ポケモンに感づかれると非常にまずい。それ以上にレディアンさんに聞かれたら、と思うと私まで変な汗が染み出してきた。
「あ、あの、声、大きいんですね」
「きゃ、ひぃ……っ、だって、パラセクトさん、優しいから……っ」
「…………」
 息も絶え絶えに訴えてくるキマワリさんに、私は白く濁った目を瞬いた。
 優しいから。優しいから……感じちゃうの。――言葉の裏を邪推すれば、あだ花を散らしたときもそれから数回も、おそらく紳士的な扱われ方はしなかったに違いない。考えたくもないが鞭で痛めつけられたり、いたずらに毒を吹きかけられたりした可能性だってある。交尾は雄の獣欲を満たす、キマワリさんにとっては痛覚を毛羽立たされる雌伏の時間。触れたときに感じた彼女の怯えの色は、そういうことなのだろう。それさえも覚悟して私を好いてくれたのなら、全身全霊で応えない雄がどこにいる。
 まずはセックスに対する羞恥や恐怖を拭ってあげる必要がありそうだ。高い喘ぎ声や感じやすい体質を揶揄されたこともあるのだろう、キマワリさんは快感を押し留めるばかりでキスも私の反応を伺う程度のあえかなもの。もっと情熱的になってもらわなくては。
 改めて両のハサミで腰を挟み持ち、宙で揃えられた大きな足へ頬擦りするように顔を割りこませた。おずおずと開かれる両腿からにじむ恐怖を払拭してやるよう、硬く閉ざされた陰唇へ舌の先をちょんと添わせる。予期せず侵してしまった縄張りの主の警戒を逆撫でしないような緩慢さで、ぺろり、舐めあげた。そのまま顔を上げれば、両手の先を口に当てたキマワリさんの、かすかに怯えが尾を引いた紅葉の困惑顔。拒絶の意図がないことをうかがい、再度ベロを向かわせる。初めて見つけたきのみの味を確かめるよう、未知のつぼみを何度も何度もさらう。
「きゃ……んっ、ん、きゅぅっ……、んっ!」
「ふふっ、かわいいですよ。……さっきはごめんなさい、気持ちいいなら、声、抑えないでください。その可愛らしいさえずりをもっと聞かせて」
「でっでも、はしたない雌だって思われたら……んぅ、ダメだから……っ」
「そんなことはありません。素直に悦んでもらえると、愛撫しているこちらも嬉しいものですから」
「きゃぅぅ……、でも、やっぱり恥ずか――きゃ! んんんっ、んあ、きゅんッ」
 押さえつけた両手の隙間から漏れる彼女の声音が艶っぽく響いて、私も舌づかいをわずかに強くした。雌の器官としてにわかに主張し始めた肉唇を、舌で左右にどけてやる。みずみずしい弾力をもってまろび出た内側のひだ。これはぜひハサミの爪先で固定して拝みたいが、危ないので渋々やめた。舌ごと押しつぶすようにおとがいを押しつける。粘膜どうしの感触で中を探れば、多肉植物らしい重厚な肉壁が膣の奥までひしめき合っているようで。入り口が狭く奥がふわふわしたレディアンさんのものとは似ても似つかぬ構造をしていた。……レディアンさんには「他の雄と比べないでください」と恨み言を漏らしたというのに、まさに彼女たちを食べ比べしている私はなんと身勝手なことだろうか。
 昨春は毎晩のごとく重ねていたレディアンさんとの交合で、舌技には磨きがかかっていた。ねちっこい舌さばきで恥肉の周囲にゆるやかな円を描くこともすれば、はたまた舌筋を強張らせて狭いタマゴ孔を何度もほじる。わずかに筋の通るだけだった縦割れはいまや傷んだモモンさながらに柔らかく肉厚にほぐれていて、はむり、とその一片を口に含めば、蕩けたキマワリさんの喘ぎ声が再び高く燃え上がった。気恥ずかしさの少し抜けた、悦に濡れた雌の声。火照った肌は内部の熱を逃そうと気孔を開ききり蒸散を断行し始めたようで、ぶわり、ハサミで抱えた腰を中心に汗のしずくが浮かび上がる。すくった水分を乾燥気味な背中のキノコへすりつけると、恵みの雨とばかりに笠が膨れ上がった。
 どれほどの間ベロでの愛撫を続けていただろうか、無防備な股ぐらは汗と膣液でぐっしょりと濡れていた。キマワリさんは蓄えていた水分をすべて漏らしてしまったのではないか。不安に駆られ彼女の表情をうかがうと、ぐったりともせずまだ必死に快感を圧し殺しているようだった。しちゃしちゃしちゃ、と素早く肉ひだを舐めこすれば、切れ長の目の端が細かく痙攣して。わかりやすい反応をくれる彼女に、私もつい加虐心を掻き立てられてしまう。
 興奮の血流が行き渡り赤く緩んだ肉つぼみへ、私は大口をあけてむしゃぶりついた。吸血の技を使い相手からエネルギーを分けてもらう要領で――他の雄が植え付けた痛みや恐怖を伴わない程度に鈍らせて――ひと思いに吸い上げた。
「きゃあぁぁっ、あっ! きゃっだめ、パラセクトさ、それダメっ――んぁ、きぁ、あっ、あッ!」
 キノコの縁を両手で押しのけ、どうにか私を遠ざけようとするキマワリさん。ばたつく足が笠の側面を蹴るも、ハサミでがっしりとホールドされた彼女の体は逃げられようはずもない。肺のひきつりに合わせて切れ切れの艶声を奏で、いじらしくも腰を捻って私の愛撫に悦んでくれている。彼女の「ダメ」の裏に期待の声音を耳ざとく聞きつけて、私は鼻息を荒くした。
 カッポリと口で覆ったままのタマゴ孔へ巻いたベロを忍ばせ、奥深いところまで触れたそれをひとえに暴れさせる。
 反応は劇的だった。
 背中のキノコへすがるように巻きつけられていたキマワリさんの足が、ぎゅっ、爪先まで力を籠められ丸められたとわかる。下腹部を突き出すように腰ごと淫肉がうねりをあげ、獰猛に転がる舌を拒むように押し返してきた。炎天下に脱ぎ捨てられたハガネールの脱皮殻よりも熱く火照った肉ざやはそれでいて、彼女の痙攣に合わせてひときわ窮屈に舌の水分を吸いあげてくる。ここにペニスをはめこんだらどれほどの快感が待ち受けているのだろう、とすけべな想像が頭をよぎった。
 さんざんのたうち回らせていた舌を引っこめると、つぅー、と最奥から透明液がひり出てくる。汗や膣液よりも光沢を帯び、強烈な雌のにおいを放つこれはキマワリさんの愛液か。秘肉と連動してひくつくかわいらしい菊門、そこを伝い落ちるサラリとした愛液をすくうように舐めあげれば、羞恥と恍惚に色めきたったキマワリさんの叫び声。
 南国のナッツを砕いたような味が口腔内に広がって、体液を充分舌で転がしてからゆっくりと飲みこんだ。サラリとした喉越しとは裏腹に、舌が口腔粘膜にひっつき、上下の唇が吸いつくような独特の重さを持っていて。マゴのみを砕いてすりつぶしたときに得られる果実油、それに近い粘性を彼女の愛液は帯びていた。おそらく私の子実体と同じような効能を持ち合わせているのだろう、伝い落ちた喉粘膜からじんわりと染み出した熱がキノコの先端まで伝播して、無意識のうちにこぼす舌舐めずり。
 手でひさしを作るように放心するキマワリさん。隠していたきのみを探り当てるようにそっと葉っぱをどかし、赤らんだほっぺに淡く口づけた。ふわふわな地肌は蒸散によっておひさまのにおいを芳醇とさせ、顔をうずめて深く吸いこんだ私を甘く酩酊させる。
「よかった、ちゃんとイけましたね」
「は、は、はッ……、い、いまの、はぁぁッ、すご……ぃ。ごめんな、さ、わたしっ感じやすくて」
「素直になってくれて、嬉しいです。どうか気を楽にして、私に身を委ねてください……っ」
 経験の浅いキマワリさんをリードするようどうにか興奮を押し殺していたが、わかりやすく発情を示す彼女に私の言葉尻が浅ましく上ずってしまう。
 雌核からにじみ出る分泌物に催されて、私の尻まわりの甲殻がつき破れそうなほど内部熱を訴えている。ムシの腹をひしゃげ「ううっ」と力をこめれば、ズボォ、と肉欲の音を掻き立ててペニスが飛び出した。さんざんキマワリさんを焦らしてきたが、それはつまり発情期を終えたばかりの私の性欲も極限にまで煮詰まっているということで。久しく外気に晒されていなかったキノコは蜜に漬けられたような重ったるい熱を帯びていて、触れずともびくびくと上下運動をこなし始める始末。
 話を聞いた限りでは、キマワリさんを相手取った雄どもはいずれも私より体格の小さい者ばかり。私が突き入れようとしているものを見せてしまえば、おそらく彼女は萎縮する。鮮烈に味わった雌の官能から抜け出せずいまだ陶然としたキマワリさんに気づかれないうちに、私は彼女のなだらかな腹部へと正面からのしかかった。





**4 [#NwMCMPN]
**4 [#IAmLYVh]

 とろんと端をほつれさせた糸目を捕らえ、じっと熱視線を注ぎこむ。白い単眼をなるべく獣欲で濁らせないように努め、あくまで彼女に確認をとるような紳士的な微笑み。射止められた瞳はすっかり私の顔から外せられなくなっていて。こくり、無言のうちに続きを促す彼女の羞恥を汲み取ってやるよう、私は再度淡くキスを落とす。首すじの横へ突き立てた両のハサミへ、しゅるり、と肉厚な手が蔦のように巻きついた。
 後肢をもぞもぞと組み替えて、硬く張りつめた笠先を恥丘にあてがう。濡れそぼつ秘孔の感触は、ペニスのそれとは対照的に信じられないほど柔らかかった。腰をわずかにむずつかせただけでありありと伝わってくる、この世の何よりもまろやかな弾力。思いのまま突き入れてしまいたくなる衝動をどうにか宥めすかし、ずッ、と肉柄を上滑りさせた。
 とろとろに煮崩れた肉唇へ尿道をうずめこむように、ペニスをムシの腹で押しつぶしながら腰をゆする。染み出したキマワリさんの愛液がべっとりとまとわりつき、生殖粘膜がこすれる摩擦を耽美なものへと変えてくれる。穏やかな入り江へ寄せては返す波の速度と規則性をもって、ずっ、ずにっ、にちゃ……、とお互いを昂らせていく。
 ひまわり油に浸された裏筋が熱を帯びて仕方がなかった。熱い。まるで精油そのものが太陽の放射熱を孕んでいるかのような、そんな暖かさ。身体の芯へ火照りが透過したような錯覚に見舞われる。たまらず先走りをこぼし、笠肉をぷくりと膨らませてしまう。もう、我慢ならなかった。
「ちから、抜いててください。……ハアッ、そのまま深く呼吸を繰り返して」
「う、うんっ、……ふうぅ、ふーっ……ふぅぅん……」
 私の舌で軽くイったおかげで、キマワリさんの気恥ずかしさは多少和らいだようだった。素直に私を受け入れようとするいたいけさに、雄としての達成感を覚えずにはいられない。
 もぞもぞと尻を持ち上げ、笠先を肉つぼみへと再度あてがった。キマワリさんが息を吐くタイミングに合わせて、狭隘な肉孔へ割りこむように腰を突き出す。女体を掻き分けるあの快美な感触を味わう前に――ぷにゅッ、と弾かれた。気を取り直して腰を引く。しっかりと狙いを定めてから――ぷにゅん。どうしても入らない。それが3度、4度。
 体格を比べてもひと回り大きい私のものの笠先は丸く膨らんでいるうえ、交尾にすくんでいるキマワリさんの入り口は恐ろしく狭い。それに加え、少しでも摩擦を軽減してあげようと繰り返した素股により肉身は油まみれ。彼女の太腿に押しつけて愛液を拭おうにも、器用な手のない私には難しかった。
 すぐにでも襲いくる衝撃に耐えようと細目をさらに細めるキマワリさん。強張った彼女の頬を舌でつついて、絡みあったハサミと葉をやんわりと解く。きょとんと向けられた涙目から、私は貯蓄のきのみを腐らせてしまったときのようにバツ悪く視線をそらして、言った。
「あ、あの……。自分の手で広げてもらえますか。私、肢が不器用なもので、爪を立ててしまうかもしれなくて」
「ふっ、ふぅ、うぅん……?」
 1秒、2秒、3秒。ほどなくして私の提案に合点のいったキマワリさんが、ぼん! と綿毛を散らすかのように一面上気した。
「〜〜〜〜〜ッッ!!」
 きゃあ、の悲鳴もなかった。顔まわりの花弁をすべて内側に萎れさせ、それでも覆い足りないというように両手の葉でかんばせを隠す。隙間から見える萌黄色の肌が燃え上がるように紅潮して、さながら地に落ちた太陽のようだった。レディアンさんは何ら間違っていなかったんだなあ。
「だ、ダメ駄目だめぇっ、きゃーパラセクトさんひどいっ! キャーーー!!!」
「わあっごめんなさい! やっやめて蹴らないで……」
 思わず飛び退いた私へばたついた足の応酬が襲いくる。どうやら歪曲した受け取り方をされてしまったようで、せっかく情熱的な雰囲気を保てていたのにこれでは台無しじゃないか。顔を守るハサミをどければ、身をよじって私の視線から退避するキマワリさんの怒り顔。
 ……いやいや、こんな表情もかわいいものだ。
 ぺなぺなと蹴りつけられる土のにおいを掴んで、小さくふたつに分かれた足の先端を口に含んだ。先ほどあえて愛撫を避けていた足裏は、キマワリさんの体でもかなりチャーミングなところだと思う。1日に何十キロを歩いてもへこたれない強靭さを持ちながら、張った根から水分を吸収する高い感受性まで兼ね備えている。私の肢も木の根に刺して養分を吸い取れるつくりになっているのだが、あまねく大地を横断し根を張る彼女のたくましさがここに凝縮されているようで。
 くすぐったさを誘発しかねない足裏への刺激だったが、目論見通りキマワリさんは荒げていた剣幕を途端に蕩けさせた。きゃはぁ、はぁぁ……んっ、んきゃぁぁっ……。心地よいひまわりのざわめきを耳に、うにうにと動かされた指先の隙間、そこへこびりついた泥を掻きだすような丹念さでベロを這わせていく。このまま口の中の水分を吸い上げられたら怖いな、と心の中で苦笑しつつも、それなら逆に彼女の水を全て飲んでしまえ、と制圧的な意気ごみでしゃぶりつくす。
 左右の足裏を懇切丁寧に磨き終え、痺れたように動かなくなった腿をすすり、挿入を拒まれた秘所へと戻ってくる。あとは炒められるだけとばかりに油に沈んだ肉つぼみを舌でつついて、見慣れた恥じらい顔に戻っていたキマワリさんへお伺いを立てた。
「……いいですよ、ね?」
「だめ……ダメええっ、だけど……」
「だけど?」
 ぶり返してきた気恥ずかしさでもごもごと口ごもるキマワリさん。目の前でひくつく縦割れへ吸いつけばまた可憐な驚嘆の声が聞こえてきそうだったが、どうにか我慢した。
 顔ごと目線をふわつかせて彼女が言う。
「だけど……っ、ほんとに、ふしだらな雌だと、思っちゃダメ、だからね……っ」
 葉っぱの手が私の視界を遮るように丸い尻を覆い隠すなり、ぐっと内側に折りこまれた葉先が左右にどけられる。くぱぁ……、と緑に鮮やかな薄ピンクのつぼみが開花して、内に秘めたる肉の花園が露わになった。ほとんど処女のような染みもくすみもない膣粘膜はねっとりと糸を引いて切なげに息づき、迷いこんだ雄虫を私の肢の爪ほどしかない肉孔の奥へといざなっているかのよう。油っぽい愛液とさらりとした膣液とが織りなして肉びらを垂れ流れ、雄の滾りを迎え入れる態勢がすっかりできあがっているようだった。
 じっくり拝むことができてよかった。今からこの孔にペニスを押しこんで、キマワリさんとの交尾がいかに心地いいものなのかを好きなだけ享受できるのだ。獣欲に染まりきった思考がとめどなく湧き溢れてきて、ぶくり。背中のキノコともども馬鹿正直なほど膨らんだ。
「かわいい……最高ですキマワリさんっ」
「きあぁっそんな感想言っちゃダメぇ、ひんっっ、恥ずかしいよぉ……!」
「いえいえ、その反応が愛らしいんですって。そのまま開いていて、くださいね……っ」
 隅々まで眺めつくした肉園をぺろり、とひと舐めし、私は再びキマワリさんの胸へ乗り上がった。顔を逸らされないようハサミで寝床に杭を打ち、至近距離で見つめ合う。彼女の葉先で広げられた股ぐらのおちょぼ口は押し当てた肉勃起の丸い突端を捉えて離さず、さっき逃した魚の大きさをよく知るような執念ささえ感じる吸いつき具合。ちゅっ、ちゅに、と淡く押しつければ豊満な弾力が笠先を挟みつけてきて、入れてすらいない彼女の中のいやらしさを教えこんでくるかのよう。
 笠の露先を秘所へ突きつけられ、瞬きさえ許さないような私のしぶとさに観念したのか、羞恥に身をよじっていたキマワリさんが次第にこわごわと力を抜いていく。自らの手で開けっぴろげにした柔肉が私の剛直に貫かれることを待ち望み、あまりのじれったさにはしたない泣きっ面まで浮かべながら、あれほど身悶えしていた恥ずかしさの揺り返しがきたのだろう、あまりに煽情的な仕草のまま、そっと呟いた。
「ぉ……、お腹のおくが、んぁ、疼いて、じくじくしちゃってッ……! 他の雄としたときはこんな気持ちに、ならなかったのに……。もうきゃあっ、パラセクトさん、お願い……っ」
「――はいっ、今度こそ、力を抜いていてください」
 キマワリさんがうっとりと脱力した瞬間を見計らって、笠先に覚える膣道の感触を頼りに腰を突き出した。ず、にゅぷん……っ。さしたる抵抗感もなく油ぎった先端が直結した肉つぼみへと沈みこんでいく。舌でじっくりとほぐされた淫肉は見かけから想像つかないほど柔らかく、いともたやすく露先で押し広げられた肉輪が、そのまま肉棒の最も膨れ上がった部分――笠の縁までをまるまると咥えこんでしまう。
「ひきゃぁぁ……ッ、ぁ、フぅ……! ぁっ、きぁ……ん、ぅ……?」
 肉びらをぐいぐい掻き分けて食いこむ野太いペニス。体を内側から圧迫される息苦しさに全身を強張らせるも、キマワリさんはきょとんとした表情を浮かべた。
 処女でなくとも愛撫なしにいきなり挿入すれば痛むもの。無理やり関係を強いてきた雄どもはどれだけ焦っていたのだろうか、これほど感じやすいキマワリさんが交尾に嫌悪感を抱いていたくらいだから、推して知るべしなのだろう。ともかく、徹底的に施した愛撫で全身をとろめかされた彼女は、いつまでたっても疼痛が訪れないどころか、接着部から湧き上がる淡い快感に困惑しているようだった。敏感な膣口をじっくりとくじられるだけで感じてしまう心地よさに、これからのセックスがいかに甘美な時間となるかを察知したのかもしれない。分かりやすく首筋を仰けぞらせ草地へ後頭部を押し付けるようにして、下半身を悶絶させていた。きゅうぅん……と腹奥がわなないて、快楽を教えこもうと発奮する笠肉へ「お手柔らかにお願いします」と乞いすがってくるかのよう。
「くぅ……ッ、す、すごいっ、熱くて、にゅるにゅる絡みついてきて……! ウ、ちょっと、興奮しすぎですよ……!」
「きゃあッ、なんれ、きぁふっ、なんでっ入れただけ、なのに、きもち、ひゃ、きゃやぁぁ……ッ」
「も、もう少し、進めてみますからねっ」
 かえしのように食いこんだ笠肉をたよりに、小刻みに腰を揺すりさらに奥を押し開いていく。生半可な力加減では複雑に折り重なった肉花弁にペニスの侵攻を固く阻まれ、さりとて力強く押しこんでしまえば油の潤滑に従うままあらぬ臓腑まで突き上げてしまいそうで。弾む息をどうにか押し留めようとする途切れ途切れのビブラートに耳を傾けつつ、ぐッと円を描くような腰使いで熱くうねる肉うろへ探りを入れる。ハサミの先すら見えない濃霧に包まれたような膣道は上下左右から肉壁が圧迫してきていて、目で見た光景と寸分違わぬ窮屈さを誇っていた。
 ぬめつく柔肉も中ほどのすぼまりを越えたあたりで、がっちりと結合した感覚があった。お互いの肌が熱を共有し、お互いの鼓動が体の隅々に響き渡り、言葉通りひとつになっているような超体験に浸る。この樹の下に、草原に、世界中に私たちふたりだけしかいないのでは、という全能感。雄の本能としてひとつの終着点へたどり着いたのだという、好いた相手と魂を触れ合わせるような多幸感。
「キャあぁああ……ぁ、アっ!」
「ほわぁぁ……!」
 間の抜けた声が私の喉奥からこぼれ出る。想像を遥かに凌駕した気持ちよさに胴震いした。
 いきり立った怒張も石づきを残してほぼ全てがキマワリさんの中にあった。凝結した海綿体を雌のいちばん柔っこい部位で完膚なきまでに愛し尽くされる悦び。ペニスで感じるキマワリさんの膣つきは、レディアンさんのそれとは違った様相を呈していた。レディアンさんの中は入り口が極端に締まりその奥があの白手よりもふわふわとまとわりついてくるのに対し、キマワリさんはどこまでいってもにちにちと締めつけてくる。むかし遭遇した旅の途中だというバンバドロ、彼が背負っていた藁束は中央と両端の3点を蔦で縛られていて、キマワリさんの膣はちょうどその締め方を連想させた。
 彼女の中はいったいどれほど雄を悦ばせるつくりになっているんだ! いや、キマワリさんと私は体の相性が抜群にいいのだろうか。……もちろんレディアンさんを愛しているけれど、今だけはキマワリさんの体に依存していたい。
 身も心もとろけるような挿入感のまま、私はもぞもぞと後ろ肢の居住まいを正した。尻先を地面へこすれるまで押し下げ、挿入角を水平なものにする。ペニスでキマワリさんを股下からすくい上げるように突き入れると、引き抜きざまに緻密なひだの整列した肉笠のへりが、彼女のくにくにした肉うねの密集地でまくり上げられる。レディアンさんが最も好きな腹側の膣天井、おそらくどの雌も気持ちよくなれるであろう、ここを責められたら簡単に絶頂を決めこんでしまう秘匿された急所めがけて、パンパンに張り出た笠裏粘膜をじっとりとこすり当ててみる。くぷ……くぽっ、ぐぽ、くぽっ。煮えたぎる油壺をとびきりねちっこく掻き回し、眠っていた快楽神経を叩き起こしてやる。
 執着心さえ感じさせてしまう局所への狙い撃ちに始めは困惑していたキマワリさんも、閾値を超えても止むことのない肉悦にあられもなく身をよじった。みるみるうちに下がり眉を快感にわななかせ、鼻にかかった官能の声はもうぐずぐずに蕩けきっている。
「んゃ……やっ、まって、そっそこ、アっ、なんかダメ、へんっヘンになるぅ……っ!  そこダメっ、く、るぅっ、きゃ、ぁう、きゃっきぁぁ、ぁ、んゃぁぁあ……!」
「締ま、るうぅ……っ! あ、あまり中に意識を向けすぎないで、うぅっ、ください……出してしまいますからっ」
 自分自身の体を自分以上に把握されるこっ恥ずかしさと、そこを的確に気持ちよくしてもらえる幸福感は、まるで進化前に戻されたような気分に浸るものなのかもしれない。成熟した膣を締めたくりながらタマゴから孵ったばかりのベイビィ然として「ダメ」を繰り返すキマワリさん、あまりの嬌態に触発されがむしゃらなピストンを仕掛けようと躍起になる腰を、私はなんとかして押し留めた。乾燥肌とは思えないほど額に汗が浮き上がる。お互い落ち着かせるための甘々した口づけを、と思ったが、彼女の股下から突き上げる体位では口と口との距離が遠い。
 ハサミを草絨毯から引っこ抜き、凝り固まった刃先をすり合わせて砂礫を払う。キスを落としてあげる代わりに、だらしなく半開きにされた口へ左の前肢の先をそっと沈みこませた。私の顔ほどもあろうかという質量にキマワリさんは困惑げに片手の葉を添えたが、私の意図を汲み取ってキスさながら桜色の舌を這わせてくれる。鳥の嘴さえも弾き返す硬度を持つハサミは残念なことに鈍感だったが、余裕のなかったキマワリさんのほろほろとした笑みが見えたので文句はない。
 やはり、キマワリさんは飲みこみが早い。そしてそれ以上に尽くすタイプだ。不慣れな交尾で、まして巨大な私のものを受け入れるのは苦しいはずなのに、口でも懸命に気持ちよくさせようとしてくれる。
 研ぎ物を突き立てることは決してしないように、分厚い粘膜をゆっくりとなぞる。キスでさらったところを順繰りに、こね回される下腹部から意識を逸らせてあげられる程度には強く。私の浮気心を一身に注がれたキマワリさんはもはや、生殖とは縁遠い口粘膜でさえ性感帯と成り果てているらしい。ちゅぱちゅぱと吸い付いてくる滑らかな粘膜をじっとりとかき混ぜれば、つい先ほどまで恥じらっていた生娘とは思えないとろ顔を晒してくれる。いつも以上に口を幅広に拡張され苦しくないはずはなかろうに、淫らに頬を膨らませながら甲殻のエキスを味わうように細い喉がしきりに上下する。
 刃に当てたまま横に滑らせるだけで切れてしまう恐れのある得物へ懸命に舌を這わせる姿は、バトルで勝ち取った雌を屈服させているようで。雄の闘争心まで駆り立ててくれるキマワリさんに、はめ込んだペニスが限界を超えて勃起する。青筋のような血管を張り巡らせた海綿体をドクンドクンと脈打たせ、雄の征服欲に掻き立てられるがまま、胸中のか弱い雌のいちばん奥を、ぬるり、と突いた。
 細目を開眼させるのかと思わせるほどぱちくりしたキマワリさんが、口から外した私のハサミを弛緩した両手の葉で包みながら、唾液まみれの口許をわなわなと震え上がらせた。
「きゃ、ぁ……!? な……、にっこれ……? だ、だめ……、き、ヒっ、こっこれ、ほんと……っ、だめぇ……ッ。ダメ、になる……から、や、やめふぇ、これダメ、こわいぃぃ……っ!」
「だいじょうぶ、ですから……、私がついていますから、ゥぐ、怖がらないで、くださいっ、自分の体に正直になって……!」
 全くキマワリさんはダメなところが多すぎる。経験の浅い彼女が膣奥で感じられるとは思ってもみなかった。こりゅん、と子宮に軽くぶつけただけで、キマワリさんは忘我の境地を悟ったかのように身震いする。でっぷりとかさを増した肉棒の先端がお腹の秘められたところへ触れるなり、濡れ蕩けた肉ひだが大樹へ寄生する蔦植物のようにペニスをみっちりと包みこんでくる。石づきから笠裏までをくまなく舐め回すようなうねりは極上の快楽を私にもたらした。
 未熟な性感帯を触られただけでこの有様。あまたの雄虫を迎え入れてきたレディアンさんですら子宮を突き揺らされるのは痛むと訴えるのだ、種族ごとの体つきの違いはあろうが、油壺そのものを愛されて感じられるキマワリさんならば、ひとたび羞恥心を置き去りにすればどこまでも堕ちていくだろうことは容易に想像できる。……将来出会う彼女の正式なつがい相手のためにも、こちらの才能はあまり開花させない方が賢明だろう。
「そ、そんなに締め付けないでください、くふぅぅッ、さっきのところで気持ちよくしてあげますから……っ」
「し――してにゃ、してないぃぃっ! しょんな、きゃーーーっ、そんなわたしが、キャ、エッチみたいにぃっ!」
「そのとお゛、ぉうッ、くうぅ……っ」
 その通りじゃないですか、という言葉をすんでのところで飲みこんだ。羞恥に悶えるキマワリさんを気遣ってではない。三角に切ったカイスを頬張るときのように笠肉のくびれを膣壁でがっしりと押さえこまれたまま、肉笠の先端へコリコリとした油壺の口でぴったりと吸いつかれたからだ。
 絶頂を誤魔化すような甲高い叫喚とは裏腹に、キマワリさんの下腹がきつく締まりながらうねり回り、腰まわりには砕けた宝石めいた汗がびっちりと散りばめられている。熾烈な太陽光にさらされる夏場、激しい蒸散により枯渇した水分を補うため、植物の根は根圧を高め大地から余すことなく水を吸い上げるのだという。痙攣しっぱなしの膣はその原理を彷彿とさせるような吸いつき方でペニスを懐柔し、私の奥深くでうごめく粘っこい水分を根こそぎ奪わんとする締めつけっぷりを披露する。
「ひっ、きゃひぃッ、イっ、きぃヒっ――――ッ!!」
「う゛ぐぐッ、なっなんでこんな、卑猥な体つきなんです、かあぁッ……!」
 そんなの知らないっ、とでも訴えるようにキマワリさんは真っ赤に染まったかんばせをぷるぷると振るが、それもすっかり快楽に呑まれたイき顔なのだから世話もない。螺旋を描くように締まり狂う最奥が今にも爆発しそうな笠裏粘膜を揉みしだき、肉つぼみが硬直を極めた石づきをぎゅうぎゅうとリズミカルに搾りあげる。しまい忘れた桜色の舌を先っちょまでふるふると震わせ、汗だくの小尻をがくがくと痙攣させ法悦を貪るキマワリさんは、不貞極まりない繁殖欲求に染まった私の子種汁を飲まされることこそが本懐なのだと声高に叫んでいるようで。
 とはいえ――とはいえ私には、心に誓ったレディアンさんというつがい相手がいるのだ。キマワリさんの中に漏らすわけにはいかない。慌てて腰を引く。ぬぽぉ……ッ、と淫靡すぎる水音を掻き鳴らし、射精し損ねた肉棒が露わになる。油壺から直に塗りつけられた熱っぽい精油と、マスキッパの唾液よりもねとりとした先走り液が混濁して糸を引く。退出があと1秒でも遅ければ完全に射精のスイッチが入ってしまっていただろう、キマワリさんの愛汁でデロデロに濡れ光る裏筋がベッドの草葉に淡く触れただけで、あっけなく気をやりそうな心地よさ。脈打ちを繰り返す反り棒が癇癪を起こしたように粘液を振り乱し、冷えた外気に怯むことなく不完全燃焼を訴える。あとちょっとで私を盲信してくれる雌を菌糸の苗床にできたのに。おぞましいほどの背徳的な思索が私の脳をかすめ、気を抜けば崩れ落ちてしまいそうな肢をわななかせて彼女の腹から退いた。
 葉先を丸めた両手で未曾有の絶頂快楽にだらしなく歪む顔を覆いながら、キマワリさんが熱く浅い息をしきりに繰り返している。
「す…………」
「……フウゥっ、……ぅ、どう、でしたか?」
「すご、かった。エッチって……きゃふ……っ、こんな、きもち、いんだ……」
「…………それはよかった」
 最後、私も我を忘れかけるほど気持ちよかったな。汗と愛液で湿りきった股ぐらを隠すように、キマワリさんのスリムな腿が恥じらい気味にもじもじしていた。それを眼前に浅ましく小刻みに揺らしてしまう腰をどうにか隠しつつ、私はキマワリさんの頬へ淡いキスを落とした。





**5 [#2T1ae3a]
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 はーっ、はあぁッ、きゃはぁぁ……っ。深い呼吸を1分以上繰り返してようやく、キマワリさんは絶頂の余韻から降りてこられたらしい。ぽーっとした口の端を持ち上げ、横から寄り添う私へ顔を傾ける。落ち着きましたか、と投げられた質問をこそばゆそうに&ruby(かわ){躱};して、キノコとムシの隙間に両手を伸ばしてきた。石づきから抱き寄せられるまま、ちゅ、ムシの額に押し付けられる肯定のキス。ずっと受け身だった彼女からのアクションに新鮮味を覚えながらも、私は下半身でくすぶる肉欲に押し問答していた。
 1度飛び出してしまった交接器を元のさやに収めるには、かなりの時間をかけないとだめだった。まして今まで交尾していた相手から愛情たっぷりのペッティングをされながらなど、どだい無理な話だ。水場へ赴くにしても時間が欲しい。キマワリさんが気づかないうちに胞子で軽く眠らせてしまおうか、と思案するも、草タイプの彼女には効果がないのだったな、と思い返す。
 まごつくムシの顎を、するり、と厚いクチクラ層の葉が撫ぜた。とっさに浮かせた顎下へ向けなよやかな首を押し下げ、私の腹へ丸顔を潜りこませてくるキマワリさん。霜害に晒されたように花輪をじっとりと紅潮させながらも、しかしその目はぎらりと強い意思を宿していて。
「え、ど、どうしました……?」
「いっ、いいから……」
 気圧されるがまま胸を開くと、その奥で精力を漲らせ脈打つままのペニスの笠先へ、ちゅう、と甘やかに吸いつかれる耽美な刺激があった。思わずのけぞった腹が葉っぱの手でそっと押されれば、私の背中のキノコはあっけなくひっくり返され木の根のくぼみへ逆さまに収められる。
 露わになったムシ腹の節くれ、そこからそびえ立つペニスを見て一瞬固まったキマワリさんが、うっとりと細眉をほころばせてなんの躊躇もなく口をつける。彼女の全身を舐め回したときに気づいた敏感な首すじ、そこがぞくぞくとあけすけに粟立つのが見て取れた。
「……すごい、こんなおっきいのが、きゃぅぅ……っ、わたしの中に入っちゃってたんだね……。ん……、ふぅぅ……ッ」
「お、おぉ……。お疲れでしょうし、無理はなさらないでいいんですよ。私はこのままでも……」
「汚れちゃったのはわたしの体液のせいだし……。その、わたしがしたいワケじゃなくてね、パラセクトさん、まだイって、ないから」
「お……っ、おぉふぅ……」
 発情期も慣れていないのだろう、中でイかされてから本格的にスイッチが入ってしまったらしい。
 当初の気恥ずかしさはどこへやら、キマワリさんは理屈づけもそこそこにそそり立つ男根へ葉っぱの手を伸ばしていた。環状の花弁を除いた彼女の丸顔と同程度の長さのペニスの根元、あれほど深々と貫いてもなおひまわり油に浸らなかった虫孔の肉じわへ、誘われるように恋々とした大輪をすり寄せてくる。普段は体内にしまわれている器官なうえしばらく洗えていなかったせいで&ruby(かび){黴};っぽい臭気を纏っているはずなのに、キマワリさんはすんすんと鼻を鳴らして私のにおいを確かめていた。発情した雄の情欲で頭を塗り潰されてしまったのだろう、ふにゃりと口許をだらけさせる。
 はしたないですよ、と私が制止するよりも早く、ぷちゅっ、えら張った肉厚の笠のくびれへ再度、唾液たっぷりの唇が触れられる。口と口とでしているときのように両目を伏せながら顔の中心から真っ赤に紅葉して、ぎっしりと詰まった肉棒の感触を綿密に口先で感じ入っていた。ちゅちゅちゅ、ちゅうっ、ちゅぱ、ちゅちゅちゅ……ちゅっ。雌の本能に突き動かされるまま雄々しいペニスへ「気持ちよくしてくれてありがとう」と三ツ指ついてかしずくような律儀さでキスの雨を降らせていく。
 肉棒そのものへ劣情を促すかのような好意の示し方に、私は彼女の額へ前肢を伸ばした。朝露めいて溜まった脂汗が細い目に入らないよう、びくつくハサミの先端でそっとなぞってやる。
「うっクぅっ……! そっそんな、頑張らないで、くださいって、ぐ、ゥ……!」
「んーっ、ふうぅ、ふーーー……ッ」
 つぷ……っ。たまらず笠先の尿道口へエキスが浮かび上がる。濃縮された私のにおいに誘われるまま、彼女の温かな口からベロが這い出てきた。植物のとげに引っ掻かれたところをとっさに舐めてしまうような反応で先走りをすくい取られ、舌どうしで味わった薄桜の甘いざらつきを私に思い出させてくれる。あっけなくみずみずしさを取り戻した露先へ密接させた舌で、れりゅ、鈴口をほじくり返された。だくだくと注ぎ足してしまう半透明の粘液だまりを、キマワリさんは火傷しそうなほど熱くのたうつベロで丹念に拭き取っていく。とっておきの火酒をちびちびと嗜むようにその味を堪能したのち、丁寧に唾液と絡めて呑み下すことに心酔している様子。
 スピアーの毒は2度目に症状が重くなる。いったん収めかけた発情をひと回り激しくしてぶり返した彼女は、たがが外れたようにペニスを舐めしゃぶっていた。ひとたび解禁してしまった短い舌を限界まで伸ばすようにして、尿道のくぼみに沿って柔舌を押しつけるように舐めあげ、露先で捕らえた先走りをねとつかせながら舐め下ろす。
 身勝手な雄に強要されたことがあるのだろうか、慣れているとは言えないが戸惑いのない舌さばきだった。笠肉の縁まわりをこそげればいい反応が返ってくると理解したキマワリさんが、そこへベロ先をけしかける。魚の胸ひれのようなまあるい舌が笠裏の敏感なキノコひだを1枚1枚数えるようになぞり、溝奥までべったりとこびりついた彼女のひまわり油を拭いとっていく。れろっ、れるっ、精を糧とするゴーストタイプのあばずれがやるような責め立て方に、交尾で射精し損ねた私の尻まわりの筋肉が麻痺したように引きつった。中肢と後肢なんかはカクレオンの尻尾めいて内側へねじり曲がってしまう。
「待って、くださっ――ぅおッ、なっなんて顔して、るんですか……ッ!」
「きゅむ……っ、ふッ、きゃふううッ、ふっ、ンむぅうぅん……ッ」
 先肉へ食らいついたキマワリさんの口端からむわっとした吐息が漏れる。先端を捕らえたぷにぷにの唇が生殖粘膜を上下し、ヌメラのように這うだけだったそれが次第に大きく沈んでくる。かぽ、くぽ、じゅぽ、ぬぽ……っ。もうすでに唾液で磨き上げられているものの口淫には一層の熱がこめられ、生焼けの情欲を再燃させるわざとらしい音が立てられていた。その大きさと格闘しながらも、たおやかな唇と頰肉をきゅっとすぼませて肉厚の笠へへばりついてくる。
 ついには顔を傾け、虫孔へ唾液を垂らしつつ石づきまでを丸々と咥えこんでしまった。内側から押されて盛り上がる右頬、よく熟れたナナのみを浅ましく独り占めしようとするような専心さでペニスを頬張っている。なつっこい顔立ちが淫らに歪むことすらはばかりもしないお口奉仕は、私の腹奥に潜む嗜虐的な悦びを誘ってやまない。汗で湿っぽい頭をむんずと掴んで思いの限り振りしだきたくなる衝動をどうにか押し殺して、ハサミではちみつ色の花弁をくしゃくしゃと撫で回す。
 先っぽだけを口に含みつつはみ出した舌で笠裏をざりざりと舐めこすりながら、彼女は唾液まみれの肉竿を右手で包みこみ、しゅ、しゅ、しゅ、しゅちゅっ、といとおしそうに擦りあげた。産毛の生えそろった手のひらが、私を奉仕快楽で根負けさせようと必死に責め立ててくる。気づかれないだろうと思ったのかはたまた無意識のうちなのか、左手は彼女の伏せがちにすり合わせられている股へと伸ばされ、再び湿潤してきただろう肉つぼみを開花させるべく葉先を沈みこませていた。唾液まみれのペニスをしごく淫猥な蜜音に混じり、くちっくち……っ、ちゅぷちゅぷちゅぷッ、水面を引っ掻くような淡い水音が彼女の尻側から漏れ聞こえてくる体たらく。欲求不満を訴えるようにふりふりとくねる腰、キマワリさんのあまりの淫蕩ぶりをありありと見せつけられた私は、彼女のおでこを撫でていたハサミを宙で頼りなげに打ち震わせながら、葉桜と快晴のモザイク模様を仰ぎ快感を噛み殺していた。排泄しそびれた胞子汁が精嚢でぐらぐらと煮立たされるようなわだかまりに気がおかしくなりそうだ。
 出したい――出したいッ! このまま欲望のたけを思う存分ぶちまけて、すぼまった喉奥へべとついた白濁液をありったけ流しこみたい。もしくは射精寸前でわざと口から外させて、しどけない彼女の顔面を胞子まみれにするのだっていい……! 曲がりくねった尿道を輸精するべく湿らせて余りあるほどにじみ出た先走りにはすでに白濁が混じり、キマワリさんの味わう粘液にさらなる野趣を添えてしまう。体力の尽きたテッカニンがもんどり打って死に際に翅をさざめかせるように、彼女のざらついた手のひらの上下に合わせてカクカクと腰を震わせた。
 しかし口惜しいことに彼女はセックスに不慣れだった。初回にして見事に搾り取ってみせたレディアンさんとは違い、どう責めれば私が気持ちよく達せられるのか分からないらしい。掴みこんでペニスを痛めないよう緩められた握力では絶頂に至れず、それに私が最も悦楽に浸ることのできるポイント――快楽神経の束となっている肉幹と笠をつなぐ裏筋を外した舌づかいに痺れを切らし、酷使したベロをひと休みさせる彼女の額のあざをくしゃりと強めに撫でた。
「も、もう大丈夫ですよキマワリさんっ」
「ん――ぷっ、んぁ……。きゃ、きゃふ……?」
 ハサミの障壁に押し返され、キマワリさんは疲れ切った顎を離して大きく息をついた。ぶぽ……、と可愛らしくない粘液の破裂音が響き、しなる肉竿と唇との間にベトベトの唾液が幾筋にも分かれて弾け落ちる。舌をしまい忘れたワンパチのように薄紅色のベロを覗かせ、蜜に濡れた唇をなぞる。またしても射精に至れず癇癪を起こしたように暴れ狂うペニスに何を思ったのか、キマワリさんは上気の引かない顔をわずかに萎れさせ、名残惜しそうにそれを片手で包んで慰撫していた。
「ん……んんぅ。……どう、だったかな」
「ハーーーっ、フぅぅ……っ、ふぅ……。え、ええ、腰がとろけるほど気持ちよかった」
「あの、きゃ、あのね、わたしがしたいわけじゃないんだけどね、もし物足りなかったらさ――」
「私はもう十分に満足しましたから……、落ち着いたら水浴びにいきましょう」
「……ありがと。ほんとにパラセクトさん、優しいんだ……っ」
 どうにか観念して手を離したキマワリさんが、その場で大きく息を吸いこみ、ころん、と仰向けになった。相当体力を磨耗したのだろう、南中から降り注ぐ木漏れ日へ向かって身を投げ出し「本懐を遂げました」とでも報告するかのようなうっとり顔を両手の葉っぱでやわやわと包んでいる。
 穏やかな初夏の風がムシの腹をじんわりと冷やしていく。これで……これで、よかったのだ。惚れた相手に振り向いてもらえることの嬉しさは私もよく理解している。これから訪れる夏、キマワリという種族は太陽を追い求めて日がな歩き回るのだそう。私が彼女を身篭らせてしまえば、本当のつがいを見つけるその本能も大成しづらくなるだろう。私自身を納得させるように理屈をこね回し、絶頂を迎えられずに精力漲るままのペニスをどうどうと宥めすかす。
 そもそもムシの腹を晒したままでは収まるものも収まらないらしい。宙ぶらりんになったハサミを可能な限り尻側へ回し地面をひっかくも、桜の根に浅い傷を付けただけ。私に背を向けそうそうに寝息を立て始めそうなキマワリさんへ、ひっくり返ったまま放置された私はたまらず悲鳴を上げた。
「あの……あのっ! 大変お恥ずかしいのですが、助け起こしてもらえませんか。私、この体勢から起き上がれなくって……」
「…………、え」
 のろのろと手をついて上体を起こしたキマワリさんが、抱っこをせがむエレズンのような無力さでハサミを差し出す私を振り返って固まった。私の醜態が彼女の細目にどう映ったのかは分からない。数秒の間、じっと見下ろしていた彼女がにわかに息をふるふると吐いて、無防備に転がる私の胴へにじり寄り下腹部を押し付けてきた。若葉色のかかとからかかとまでの狭い股下が、ちょうど私の尻先の海老色を覆っている。肉割れから垂れこぼれる油をギンギンに奮い立つペニスの根本――私の虫孔へ注ぎ足すように腰を擦り付けてくる。
「――ごめんなさい、そんな姿見せられたらわたし、もう……っ!」
「ぅわわっ、――ちょ、ちょっと!?」
「パラセクトさんも最後まで気持ちよく、なってッ……!」
 私の胸へちょんとついた両手の先で自重を支え、そのうち片方を股ぐらへもっていった。草絨毯へどっしりと根ざした両足のかかとを持ち上げると、天を穿たせた担子器の先肉を濡れほぐれたタマゴ孔へあてがって、ズボリ! とためらいなく腰を落とした。





**6 [#9XSUfSM]
**6 [#x4Yv3hb]

 今生の別れと名残り惜しんでいた油壺との早急な再会にペニスが感涙の先走り汁を噴きこぼし、年甲斐もなくビクビクはしゃいで腰が小刻みに震えだす。中肢と後肢は快感ごとを抱きしめるように彼女の腰へ擦りついた。今にも動き始めそうなキマワリさんを牽制しようと伸ばしたハサミ、その上下の刃をそっと閉じるように受け止めた肉厚の両手が、しゅるり、離したくないというふうにしがみつく。腹を露わにする油断しきった体勢で、ひしゃげたキノコの石づきにムシの背中が引っ張られて疼痛を訴えるが、それを凌駕する痛烈な快感にあえなく塗り潰されてしまう。
「なあぁっなんで、くうッ、中に出ちゃったら、いけませんっ、キマワリさ、冷静になって……!」
「好き、すき、パラセクトさんっ好き――ふきゅぅンンっ!!」
 こなれ切った膣肉は彼女の軽々とした体重に従いペニスを一気に根元まで迎えいれ、ぷりぷりの肉粒が取り巻く最奥は腫れあがった笠肉の脈動を熱烈に受け止めていた。腹に力をこめていなければたちまち射精に導かれていたような締まり具合、そのせいでぴっちり吸いついてくる膣肉は熱くうごめく花ひだを備えているものだから、思わず顔をしかめてしまう。それを拒絶と受け取られることを恐れてとっさにはにかんだ私は、彼女から見れば締まりのない顔になっていたかもしれない。
 両&ruby(て){前肢};と両手を恋ポケのように繋ぎながら、生殖器どうしでも深いところで繋がって。しずく型の花弁のとんがりまでのぼせ上がったキマワリさんが、包みこんだ私を実感するようにくいくいと腰を揺すりだす。
 宿り木のように絡みつく手の拘束をふりほどくことはさほど難しくない。そしてそのことを、キマワリさんも分かっている。分かっていながら一心不乱に求めてくれるのだから、少しくらいは応えてあげてもいいじゃないか。ここで突っぱねてしまえば、彼女は遺恨を残したままた旅に戻ることになるだろう。それは私としても心苦しいもの。絶頂感に辛抱たまらなくなったら、無理やりにでも彼女を突き飛ばせばいい。
「分かった、分かりましたから――ぅを、お、ゆっくり、フゥ、ゆっくりお願いしますう……!」
「きゃ……あああッ! ひきゃああああぁ、あっあっあッア、あ、ぁあああアっ! 」
 感極まったキマワリさんが、瞬く間に体積を取り戻したペニスを使って気持ちよくなれるポイントをおさらいしていた。繋いだ手でバランスをとりつつ、ぺたんとついた尻もちを前後左右にグラインドさせて膣奥をこねくり回す。肉粒の大海原を開拓していた笠肉が丸く小さな硬いしこりに座礁したとき、びくびくびくっ、彼女が腰を中心にありありと痙攣した。
「う゛、これすご、ぃうぅ゛ッ……!」
「あ、ヒ、きゃ、〜〜〜〜〜〜っ!!」
 いちばん深いところで、いちばん深くイっていた。
 コリコリとした油壺の口を露先でやさしく潰されるのが病みつきになったのだろう、キマワリさんはさらに深い子宮快楽に浸るためくいくいと股を試行錯誤させていた。彼女の最奥は膣道と比べわずかに広まっていて、ペニスが右に外れれば大輪のひまわりも右へ煽られ、左へそれれば同じく左に傾いた体がずり落ちそうになる。短いストロークながらも素早い上下運動に合わせて柔肉もうねり狂い、肉棒全体が縦横無尽に揉みくちゃにされる。気持ちいいことが好きで好きでたまらない自堕落な雌の本性を見せつけるように、電気仕掛けさながら上半身ごと大きく振り乱し肉つぼみの奥底を掻きえぐる。
「あ、ここ、あッここいぃ、あっあっあ、ぁ、ア――!!」
 数分とたたないうちにキマワリさんは深々と腰を沈ませ、切羽詰まったかすれ声を上げた。腹奥を震源とした波動が柔尻を細やかに震わせ、膣がぎゅううううっ、とさらに締まる。ついさっきイったはずなのに、キマワリさんは苦もなく深い絶頂を重ねて感受していた。
 遠いところへ気をやっていたのも束の間、キマワリさんは飽きもせず下半身を再駆動させた。腰をわずかに持ち上げてから落とし、狙い定まった局所を、とぬっ……、と下から突き上げられる衝撃がえらく気に入ったらしい、それを何度も繰り返す。膣壁と雄槍のわずかな隙間を縫ってだだ漏れになった精油で、私の腹まわりは濡れた色へ深まっていく。むっちりとした桃尻は落とされる衝撃で小さく波打ち、腰肉が浮き上がるたびにぎとついた音を弾かせながらみずみずしい吸いつき具合を披露してくれる。
 快楽のるつぼに囚われ、もはや甲高い喘ぎ声を抑えることなど微塵も頭にないらしい。キマワリさんは途切れ途切れのイき声を草原に響かせながら、とろんとろんになった顔を隠しもせず度重なる絶頂の欣快を貪っていた。
「そっそこはダメだって――くぅ、さっき自分で散々言ってたじゃ、ないですかッ」
「うんっでも、ここ……キゃんッ! いいよっ。ダメだけど、きゃぅっ、いいよおっ……!」
「き、キマワリさっ、実はあなた、こういうこと……大好きなんでしょう……ッ!!」
「……ち、ちがぅっ、ちがうもんッ! ――き、き、きひゃ、キャあううんっ!!」
 進化して器用に動かせる手足を獲得したときのような堪えきれない衝動に任せるようにして、キマワリさんが腰づかいを激しくした。油壺を突き潰される体勢を保持したまま、両のかかとを上げて、落とす。上げては落とすの単調な繰り返し。たん……っ、ぱにゅ、たぱんッ! 振り下ろされる肉つぼみの位置が徐々に高まるにつれ、ペニスの笠首が甘くイき締まった膣天井でにゅこにゅこと擦りあげられる。
「う゛っ――! っく、ぅふう゛……ッ、あぶ、なかっ――ぐうぅ!!」
 自ら動くときよりも圧倒的に制御のきかない快感の応酬にひと突きごとに襲われ、内から爆ぜ飛びそうな射精感にムシの甲殻がギチギチと悲鳴を上げている。ばふ、ぷしゅぅ……、背中のキノコは我慢むなしくムシより早く薄桃色の胞子を漏らしていた。胃の底から湧き上がったような爛れた声が、無様に開かれた私の喉からダダ漏れになっている。今いいところだからね、と甘えるように絡みつく厚手の葉っぱにくるまれて、彼女に待ったをかけるはずのハサミはギリギリと刃を噛み締めるだけ。
 流れるようにもう一度ぺたんと尻をついて、ひときわ声を高鳴らせたキマワリさんが背筋を小刻みに跳ね上げた。死に物狂いで精液を押さえつけピクピクと悶え転げるペニス、どうにか堪えた私を膣肉でこねくり回してゆうに1分は経ったころ、しなやかな首からしなだれるようにして、私に顔を近づけてきた。
「あ……、きャっ、ふぁ、ぁ……? わ、分かっちゃったかも、んきゃっ、パラセクトさんの、いいところ……」
「う゛ぉ!? き、キマワリさん、ぅぐふッ、きゅ、急に上手く――ッ!」
 誰に教わったのかキマワリさんはセックスについて非常に器用だった。肉棒と膣の睦み合わせも2度目となれば、ペニスがびくつくタイミングをしっかりと把握し、どう私が責められれば悦ぶのかをしっかり理解したらしい。虫孔と肉つぼみをすり合わせるように腰を落とし、左右から軽く力を込めつつ腰をくねらせられれば、私の笠裏が柔ひだにぴっちりと抱きすくめられて。つい先ほどまで快感を逃すのもままならない調子だったキマワリさんが勝手知ったるように肉ざやを締めあげ、モンジャラが幾千本の触手を同時に捌くように肉花弁を複雑にうねらせてくる。がっちりと捕らえたペニスの笠首を締めあげつつ騎乗し笠裏を何度も肉壁に撫でつけられると、3度も射精を堪えてやり過ごしてきた私の性感が一気に高まった。どうにか中出しを堪えようとする腹のひきつけに合わせ、ぶ厚い甲殻がべこべこといびつな音を立てる。
 私へ馬乗りになったまま5度目の深い絶頂へ昇り詰めようとするキマワリさんの中が、しっちゃかめっちゃかに狭窄した。
「い――いけませんっ、出るッ出ます、出ますってえぇ!」
「きゃ――きゃハ、出して、パラセクトさっ、わたしで気持ちよく、なってッ!!」
 たんっ、だんッ、たちゅ、ぱちゅん! 私の忠告を聞き入れるそぶりなど微塵も見せないキマワリさんが、フワライドの上で跳ね遊ぶようにペニスを責め立てた。快感を私の芯まで響かせるよう腰を真上から振り下ろし、笠首があらわになるほどかかとを上げる。彼女が奥イキを存分に堪能できる背側の膣奥と、私が最も気持ちよく射精に至れる裏筋を満遍なくこすり合わせながら。蒸散の汗を木漏れ日に飛び散らせ、足腰を鍛えるコジョンドの行うスクワットみたいな上下動を難なくこなし、ドロドロに濃縮された子種を根圧で吸いあげようと膣をぎゅうぎゅう締めつける。離された両手はバランスをとるように桜の花びらめいて踊り、自分でももう腰を止められないほど発情しきっているのだろう、膣内射精を迎え入れたくて仕方ないような痴態で私の決壊を待ち望んでいる。
 思わず唾を飛ばし、ハサミにひびが走るほど強く噛み締めた。
 煮詰まった精液が輸精管の隘路を塊になりながら練り歩き、待ち受ける絶頂快楽にぶわっと尻先がさざめき立つ。よもや射精は止められないことを察して、しゃかりきに跳ねる彼女の腰をハサミでがしりと掴んだ。中に出すわけにはいかない。軽い体が浮かされると同時にあらん限りの力で股ぐらから引き離そうと持ち上げて――つっかかる。抜けない。禍々しいほどにエラ張った笠の縁が彼女の肉膜を露骨に内側から盛り上げ、べとつくひまわり油に赫赫と煮えくり返っている。あと少しだけ私が腰を引く、もしくはペニスを萎えさせることができれば外れてしまうような淡いつながりが、しかし彼女の肉つぼみにかじりつかれたのかと錯覚するほどしっかりと保たれていた。
 何だ。
 連続した絶頂に痙攣しっぱなしなキマワリさんの尻を持ち上げたまま、じれつく視線を彼女の足にやった。浮いたかかとの裏から二又の足先にかけて、大地と繋ぐ小さな根がびっちりと覆っている。彼女が体力を回復させた時にも使っていた、腐葉土の養分を余すことなく吸い尽くすために張る根。騎乗位搾精を繰り返すうち、それを補助するため無意識に張り巡らせていたのか。だからあれだけ激しく抜き挿ししても結合が外れなかった。
 ……すぐに。
 すぐに根を断ち切らねぇとな。混乱をきたす私の内心に紛れて顕現してきたムシの意識が反射的にハサミを振るおうとして、キノコの意識が慌てて止めに入る。もし今キマワリさんを離してしまえば、彼女の体が落ちてきてまた深く繋がってしまうじゃないですか! ぐぅ、それはまずいな、あとひと擦りでもされたら出ちまうじゃねえか……って、聞いてるか、おい? ……いや、もう諦めて潔く中に出しちゃいましょう。はあァ、何考えてンだオマエ!? で、でも、でもぉっ、私キマワリさんに胞子を植え付けたいッ! おいおいッ、レディアンを裏切るつもりか、冷静になれよ! も、もうこの体は私のものなんですよっ、ムシの子を残したいというあなたの願いはもう叶ったんだ、可愛いヒマナッツを欲しがったって、いいじゃないかあっ!
 刹那に繰り広げられた意識のマウンティングさえ白黒はっきりつかないうちに、キマワリさんの腰を支えていたハサミが、吹き出す彼女の汗に滑った。
「あ」
 たちんっ。
 肉つぼみと虫孔とが力強くキスするほど一分の隙もなく密着して。尿道括約筋の収縮により硬直する肉笠の先端が、ぐにィ、とキマワリさんのいちばん良いところを押し上げた。
「きゃ、は、キ、ぁ――、――――ッ!!」
 声もなく雌悦を貪るキマワリさん。彼女の最奥がこれまでになく締まりあがって、子宮口へ食いこむほど張り出た鈴口へ、きゅぷん、と合図を出す。いま射精すれば必ず孕むからね、とでもささやくようなみだりがわしい柔壺のおねだり。
 確定づけられた中出しの未来に引いていた血の気がすべて、今まさに決壊するペニスの海綿体へと集約する。我先にと結実しようとする精虫たちを押し留めておくには、意識を逸らされた一瞬があまりにも致命的だった。
「う、ぐ、おっ、ぐうっ、うぅぅぅう゛……ッ!!」
 野太い敗北のしゃがれ声を喉奥から響かせながら、キマワリさんの膣奥へ野放図に吐精していた。鈴口から噴射した発情期ワンシーズン分の精液を彼女の油壺へ流しこむ。射精の間隔と同期して尾節をどく、どくと押し上げ、タマゴのできる小部屋の重みを笠先にありありと感じながら、己の半身を受け渡す興奮に脳を焼く。レディアンさんに秘密のままあっけなく完遂してしまった子孫繁栄の懺悔が染みついた、裏を返せばキマワリさんを必ず孕ませてやろうという執念さえ込められたドロネバの子種汁。
「きはぁ……ぁ、ん……っ! ぁ、あつい、の……きゃ、ぁ……、きゃぁん……」
 私の甲殻にまで根ざしたように腰と腰とをひまわり油で癒着させたまま硬直し、ただでさえ狭い膣道をぎゅ……、と縮こまらせペニスの射精運動を味わうキマワリさん。横隔膜を震わせるだけの浅い呼吸を保ちながら、夕立に遭ったかのように汗みずくな顔を子宮絶頂の多幸感に蕩けさせる。この奥に出されているんだよ、とでも言いたげに、恍惚とした面持ちで緑のお腹をゆるりとさする。
 しずく型の安産体型に示すその位置があまりに首よりで、私の肉棒が征服している彼女の胎内を想像してまたぞろペニスを脈打たせた。気持ち、いい。彼女の腹の内側を私の遺伝子で染め潰す本能の歓楽に、必死になって残り汁までこき出していく。淫らな歓喜にぷるぷると打ち震える丸腰をハサミで押し下げ、肉笠の脈動が収まるまで油壺の口をくりくりと弄り、いま植え付けた苗床へ念押しをするように胞子塊を撃ちつける。
 はあ……っ、はっ、はぐッ、はあぁっ……。根こそぎ水分を奪われた喉で新鮮な空気を懸命に吸いこんだ。うめき声まじりの私の荒息に、似たような彼女の吐息も混じる。お互い何を言う余裕もないまま、ムシの視界が死んだように真っ白く霞んでいく。キマワリさんとの浮気セックスは最高で、彼女の中で行う射精は体が分離してしまうくらい心地よいものだとキノコが幸せを噛み締めているうち、じりりとじれつく意識のなか、ムシの両前肢のハサミにしゅる、と葉っぱの手で包まれる感覚をかすかに受け取った。それには交尾に全力を賭したつがい相手をいたわるような愛おしさが込められていて。
 長い長い下腹部の痙攣が収まると、キマワリさんはしなびたように後ろへ倒れこんだ。甲殻からずり落ちる彼女が倒れざまに私のハサミを強く握りこんで、仰向けに動けなかった体を引き起こす。久しく触れていなかった大地の感覚に安息する間もなく、ふにゃりと恍惚に溺れるキマワリさんの根を刈り取り太ももを左右にはだけさせた。充血した肉つぼみを舌で割り裂けば、今しがた出したばかりの精液が肉ひだの隙間を伝い下り、その欠片がひとつ陰裂からこぼれ落ちるところだった。
 ムシの口が勝手に滑る。
「お、おいキマワリっ、なんで最後までどかなかったんだよ!? これじゃあレディアンに合わせる顔が――っ、い、いや、すまん、そうじゃァなくて、もしオマエが身篭りでもすりゃあ、将来のつがい相手が――」
 草のベッドへこてんと転がったキマワリさんがあられもなく足を投げ出し、両手の先で肉つぼみをかっ開いた。湖面にたゆたう花びらのように身じろぐ腰、私の口でほぐされる前は可憐な縦筋を覗かせる程度だった肉孔が、今や私の形に奥底まで広げられてしまっている。ぱっくりと開いた小部屋の扉まで見透かせそうな肉園はその膣ひだに満遍なく白濁をこびりつかせ、互いの体液を混ぜ合わせるようにぎとぎとと余韻めいて波打っていた。開く、すぼまる、開く、すぼまる、をしんなりと繰り返す膣は、あふれるほど注がれた私の精液でさえまだ足りないと喘いでいるようで。
 なじり寄る私にパラスだった頃の面影を見つけ、木漏れ日のように切なげな視線を向けたまま、キマワリさんが夏風にささやいた。
「これ以じょ、わたしをえっちにしちゃ、ダメだから、ね?」
「――――、ッ」
 ずぐり、と。
 彼女の意図するところを理解したと同時、満足の気配すら見せず浅ましく私を誘惑するキマワリさんに、鬱憤めいた情念の炎が腹の底から噴き出した。
 怒りだ。油壺の口を袋叩きにされることが大好きなほどすべたなくせしてそれを隠そうとし、不慣れな彼女を優しく丁寧にリードしようとする私を弄んだ。あまつさえそうなったのが私のせいだというふうにほのめかし、自身の好色ぶりには目をつむり私の性豪さを当てこする。恥ずかしがり屋は天性のものだろうし、膣奥で感じられるのは素質だろうし、騎乗位で根を張り搾り取ったのも私が好きゆえの無意識からなのだろうが――絶対に許さない。自分は花も恥じらう乙女などではなく、ただの淫乱でマゾヒストな雌なのだということを徹底的に分からせてやる。
 交尾を始めた当初あれだけ羞恥に身悶えしていた乙女の名残はもはやどこにも見当たらない。キマワリさんは今にも柔壺をペニスで掻きしだかれることを待ちわびているのだろう、泡立ったひまわり油でドロドロの秘肉がひっきりなしにうねり回り、ぽっかりと広げられた膣口から、ぷりゅ、と塊になった精液がこぼれていった。
 石づきが燃え、甲殻が沸き立った。――徹底的にハメ倒さなければ。主導権を握り返したキノコが、のそりとムシの体を動かした。





**7 [#GV2WmNo]
**7 [#ZLMj5HT]

 赤く艶めいた秘裂をひと舐め。きゃあンっ、と心待ちにしていたような悲鳴があがって、私は仰向けのキマワリさんの両足をハサミで持ち上げた。そのまま彼女へ覆いかぶさっていく。広い足の裏を胸の甲殻で押し倒すようにして、汗みずくの額の両脇まで彼女の足先をずり上げ、むっちりとした尻ごと体を屈曲させる。普段は水平方向に広げている私の肢をシズクモのように縦へ伸ばし、そのうち後肢2本で浮きあがった彼女の腰を挟むように支えてやる。彼女の足先が背中のキノコの前へりを掴むようにひっかかり、その両足ごとハサミで大輪の頭を抱きこんだ。剽悍で粗暴な雄が抵抗する雌の体を体格差をもってして抱きすくめるような、柔軟なキマワリさんだからこそとれる体位。
 前傾した私の腹側を覗きこめば、幾重にも享受した絶頂によりほぐれ切った肉つぼみが、私へと捧げられるようにひくひくと蠢いていて。華奢な太ももに挟まれるようにして、ずん……っ、とペニスを置いた。あれほど大量に搾り取られたような気色は微塵もなく肉幹は雌泣かせの剛直さを保ち、肉笠は陰裂へ突き刺さるほど張り出たまま。猛り狂ったように拍動する肉棒が「早くここに入れさせろ!」と割れ目を叩く。淫乱ではないと嘘をつく姑息な雌をこれから躾ける私の形やサイズ、硬さ、熱、そして容赦のなさを改めて教えこむように、懲りずに愛蜜を噴く肉割れへぐいぐいと射精口を突きつけた。私の胸の下に収まったキマワリさんの胡乱げなトロ顔へ、覚悟はできていますね、と視線だけで合図を飛ばす。彼女の頭頂近く、体重を支えるよう地面へ突き刺した私の両のハサミへ葉っぱの軟手が絡みついてきて。お互いがお互いを掻き抱くようにして、ぬるり、と腰を押し出した。
 ずにゅん! 淫靡極まりない音がするほど勢いづいて、うねる肉ひだの蠕動に導かれるまま、彼女の最奥までを悠々と貫いた。
「キャァアアアぁアアアア――――っ!!」
「うおぉっぅう……ッ、……声もすっかり、色狂いな雌のそれじゃあないですか……!」
 騎乗位でキマワリさんが楽しんだ自身の弱りどころ――膣奥の背側のぷりんとした肉粒群を突き潰せば、目論見通り甲高い嬌声が湧き上がる。もはやあだっぽさすら感じられない、純粋な快感に弾き出された絶叫に、間近で食らった私の聴覚器官がぐらぐらと揺さぶられた。組み敷かれて身じろぎすらできないキマワリさんの尻が、あたり構わず筋肉を収縮させることで法悦を逃がすようにぷるぷると震え上がる。
 お互い離れていたわずかな間に膣は格段に円熟していたらしい。キマワリさんが両手で広げて見せた精液をしたたらせる肉壁の複雑なうねり、見ただけで生唾が喉を急転直下していったあの躍動に揉みしだかれ、彼女の中でペニスが甲殻を纏ったかのように硬くなる。限界まで折れ曲がった肢関節をしゃにむに戻すと、パツパツに詰まった笠肉が壺壁のひだをえぐり抜き、途方もない激感に体節が軋みをあげる。締め上げられた膣口にエラ張った笠首が引っかかり、彼女の腰が再度浮く。
 それを合図に、今度はキマワリさんの迎え腰めがけて重力を乗せたまま腹ごと倒れこんだ。ばちんッ! 大地へ直接ペニスを突き立てるような獰猛すぎるストロークに、彼女の豊満な桃尻がひしゃげて快音を響かせる。
「きゃああア゛んっ!」
 追従してキマワリさんの鋭い喘ぎが草原をつんざいた。甲高い咆哮に紛れて響く腹奥から潰れ出たような重い声は、深々と突き刺した私のペニスが彼女の肺まで圧迫しているせいだろう。切羽詰まったように葉っぱの手の先が握りどころを求めてさまようが、私は当然のごとく無視を決めこんだ。
 引く。
 ぬぷぷ……っ。
「きゃ……、ひゃひ……! ま、まっひぇ……、パラせ、さ、きゃ、あ、あっ、ァ……!」
 突く。
 ばちんっ!
「キャはああア゛ッ!!」
 反動で弾かれた腰の勢いそのままに、ぱにっ、ばちィ、ばすんッ! 1発1発体重をかけてキマワリさんを叩き潰した。キャあっ、キゃン、きゃヒゃあアア゛っ! 耳に馴染んだ絶叫が、私の荒い吐息と織り重なるように奏でられる。
 前後というより上下に、1回ずつ区切るように腰を振り下ろす。甲殻を持ち体の硬いレディアンさんとではできない、相手への気づかいなどかなぐり捨てたあまりに乱暴すぎるセックス。背中のキノコの頭頂から熱した油をひっくり返されたかのように全身が焼ける。
 なす術なく目尻に涙まで浮かべて喘ぎ散らすキマワリさん。ハサミへ縋りつく葉は蔓植物のように絡まり、ぺち、ぺち、降参を訴えるように忙しなくタップする。ぎゅうぅ……と丸まった彼女の足先が、背中のキノコのへりをちぎり取らんとするほど強く握りしめる。だが、それだけだ。凌辱めいた責めにもそれ以上の拒絶を一切見せないそれら全ての反応が、こうされることを望んでいるキマワリさんの淫蕩さを物語っていた。どれほど酷い仕打ちを受けようがどこまでも私を好いてくれるちいさな体を、あらん限りの力をもって蹂躙する嗜虐感と征服感。
「きゃひゃああっ! きゃ、きゃあっ、きゃ、きゃ、あああっ! こっこれすご、おくすごヒっ、と、とまんにゃ――きゃああああア゛ぁ! ぁっあっあっああぁ……っあキぁぁッ!!」
「どっ、どれだけ淫乱なんですかッ! 中がめちゃくちゃに締まってますよっ!」
「だ――だめえぇ! わ、わらヒ、えっちなんキャじゃ――」
「い、いい加減に、しなさい……ッ!」
「キャは、あ、アアアア゛っ!!」
 減らず口を叩く彼女をお仕置きるように、ずむずむと無心でペニスを突き立てる。強すぎる快楽に跳ね回る痩身を抱きすくめ、身じろぎすらできなくなったところをいびり抜いた。力強く肉勃起を打ちこむたび青天井の悦感を喰らわされた膣は苛烈に引き締まり、それでもなお肉槍の射精をせびるように花ひだが柔らかくまとわりつく。自分はイきっ放しのくせしていいように私を懐柔しようとするキマワリさんの魂胆が癪に触った。
 思わず口が滑る。
「キレイハナはっ、こんな奥まで可愛いがってくれましたか! ロゼリアはっ、こんな情熱的に求めて、くれましたかっ!?」
「ち――ちがっ、パラセクトさんがッ、いちばんステキっ、すぅぅっ、すき、きゃああああああ゛ッ!!」
「違うでしょ、私の何が、んぐぅっ、好きなんですかッ」
「きゃ、ひ……! ふぁああぁッ、あひ……ッ、ひぃん……ッ!」
 なじり寄る私の強情さに、キマワリさんは快楽に倒伏しながらも困惑げに見上げてくる。どうしてそんな意地悪するの、と訴えてくる西陽のような発情顔はあまりに蠱惑的で、彼女の答えを待つべくもないほど私の種付け欲求を煽ってくるが、どうにか膣奥へ白濁めいた先走りを漏らすのみに踏みとどまった。
「フ……ふうぅ……、言えませんか、ではこのまま、レディアンさんの帰りを待ちますか? エッチじゃないって言うなら、見られたっていいです、よね」
「きゃへ? ――アぁっ、ダメ、ひ、だめ……!」
 修羅場を想像したらしいキマワリさんの中が恥辱にすぼまって、奥深いところで立ち往生していた肉棒を痛いくらいに締め上げる。噛めば果汁の弾ける熟れたイアのみさながら精液の溶けたひまわり油を噴き上げ、ペニスの石づきのみならず突っ張った虫孔の肉うねまでを湿らせる。むわ、おひさまのにおいが一段と強く立ち昇り、吸いこんだ私の脳をぐわわんと揺らす。キマワリさんはもうすっかり恥じらいと悦楽とを混濁させ、私の言葉だけであられもなくイけるようになったのだろう。これが淫乱じゃないとすれば何なのだ。
 そういえば放蕩するレディアンさんを私のもとへ引き止めたときも、同じような口調で彼女を糾弾したのだっけ。どうやら私は依存相手を振り向かせるのに同様の仕打ちを踏襲するらしい。快楽交尾のためなら他の雄虫にも軽々と股を開くペニス狂いのレディアンさんには「パラくんにしか抱かれない」と誓わせたが、キマワリさんは逆だ。私自身よりも私とのセックスが大好きなことを&ruby(かたくな){頑};に認めない彼女には、今まで味わったことのない性感の極北をイき果てるまで刻みこみ、いかに自分自身が淫乱すべたな雌なのか己から認めさせるべきだ。生意気な口が素直に私を求めるようになるまで調教してくれる。
 あっけなく暴発寸前まで追いこめられていたペニスを油壺の口へぴったりと押しつける。腰を叩きつけるというよりかは、腰をくっつけたままガツガツとキマワリさんごと揺らすような円運動をこなした。摩擦は弱くとも弱点の最奥を無遠慮に暴くことのできる、都合よく彼女だけが絶頂に近づくような責め。竿先がこすれただけであえなく善がり狂ってしまう彼女の急所をずっぷりと貫いたまま、微々たるピストンで虐め立ててやる。
「キレイハナやロゼリアのモノでは届かなかったいちばん奥を、こうやって……! 私ので愛されるのがっ、どうしようもなくっ! 好きなんでしょう!?」
「き、ぁ、を……きょおお゛っ!? あっあっあっあっ、ぁはヒ! っだめっ、きゃ、ひ――ひぁいあ゛っ!」
 ダメと言いつつ肯定と嬌声が入り混じったように喉笛を鳴らすキマワリさん。群れからひとり残され戦慄するヨワシめいた致命的なひきつけが肉棒伝いに響いてくる。すでに私の精をたらふく飲まされ言いなりになった油壺はペニスへの愛情をちゅうちゅう自白してくるくせに、彼女はいやいやと唇を結ったまま蕩け果てたまなじりで許しをせびる。つのり積もった羞恥と肉欲の天秤に揺れ喘ぐ彼女の被虐的な反応が、私の白ばんだ眼を熾烈な衝動に血走らせる。
 ずり落ちてきていた彼女の両足を抱え直し、しなやかな背中が垂直になるほど前のめりにのしかかる。浮かされた柔尻から脊椎にかけてが、ウルガモスのように丸まった私の腹の甲殻にすっぽりと収まった。木漏れ日に火照った肌と肌がぐずぐずに溶け合い、融解したキマワリさんの体が虫孔へ流れこんでくるのかと錯覚するほど深く深く繋がり、それでも硬く主張する切先が油壺を押しこみひしゃげさせる。プレッシャーを放つビークインが如くその存在感でキマワリさんの頑固な口を割らせようと、ゆっくり、ゆっくり、子宮口の細胞ひと粒ひと粒を擦り潰すように、酷薄の限りを尽くしてペニスで局部をこね回す。
「どうなんですか、あなたを気持ちよくしてやれる、私の何が、好きなんですかっ!?」
「あっ、あっ、あ、あっあっあきゃ、ぁ、きゃぁああ、ぁアアアっ、ああああああ――――ッ!!!?」
 訳もわからず助けを求めるように鳴きすさぶキマワリさん、青筋立ったその額を恐ろしいほど優しく撫でて、救いの手を差し伸べるように、言った。
「どれだけはしたなくても、責めたりしませんから……、他の雄に抱かれたことがあっても、額にあざが残っていても、私はあなたが好きだ。愛してる。ですから……っ、誰にも見せたことのないえっちなおねだり姿、私にだけ見せて、くださいよ……!」
 耳許でささやいた吐息にキマワリさんの恥辱と色欲があふれ返って、天秤ごと瓦解した。
「きゃ、あ、あ……? ッすき、きゃいっ、パラセクトさん、すきぃ……っ。それと……きゃふ……ッ、おち、おちんちんっ、パラセクトさんの、ひキャあぁ……! 奥までっとどく、ステキなおちんちん、すき、すき……すきいぃッ、もっときて、突いて、わたしをダメにしてええぇ……ッ」
「ぐ……ッ、はは、素直になってくれて、嬉しいです……!」
 垢抜けた相貌でしがみつく彼女の赤裸へ応えてあげるよう、鈍麻していた腰を再駆動した。ずるる……るッ、癒合していた柔組織を引き剥がし、ばちゅん! キマワリさんの欲してやまない私のペニスをぶつけていく。私に跨ったまま振り乱れたキマワリさんの速度、彼女が最も好きなピストン間隔を保ったまま幾度となく恥孔を穿ち抜く。引き抜きに伴って埋め戻される肉の隘路を、彼女が満足してくれるまで丹念に掘り返していく。
 やはり6本肢を地に下ろした自然体の姿勢は最も腰を振りすい。過去に植え付けられた知らない雄の生殖液まで掻き出してやるように、私のペニスでないと達せない体に作り替えてやるように。独占欲に溺れたまま彼女を抱き倒す。
 喉を潰しそうなほど甲高く叫びっぱなしなキマワリさんが、ホールドされながらも必死になって私へ絡みついてくる。両手は私の背中へ回されキノコの石づきへ、転倒させられた足はまだら模様な笠の前へりへ、どろどろの花ひだは射精寸前に膨れ上がった肉棒へ。
「ああっ、あきゃあぁぁ――ッ! きゃはあぁっ、あああっ、あ、パラセクト、さんっ! えっちなわたしの、いちばん奥に、きゃンっ、いっぱい、いっぱい、たまごのもと、ほしいよぉ……ッ!!」
「ふぅぅうッ……!? ちょっと、本性現しすぎ、です……! ぉ、おおおぅ……!」
 意思の上端まで海老色に茹で上げられたムシの顔が、抱き竦めたキマワリさんの額に当たる。そこはちょうどかじられたあざの残る場所。夏場の水溜りのような凝縮した彼女のにおいが肺を焼く。快楽のるつぼに嵌ったキノコが気付く前に、ムシの顎がそこを食んでいた。びくんっ、と突き入れたペニスが一度大きく跳ねるのに合わせて、夏の日差しを抽出して固めたような黄金色の花弁のひとつを、ぶちり。食欲と混濁したムシが噛みちぎった。
「ひキャああああアっ、あッ、キャ――――あああアアアアアっ!!」
「ううぐッ!?」
 突き抜けた悲鳴とともに、ペニスを食いしばるキマワリさんの膣内がぶるぶると痙攣する。
 私の胸の甲殻で反響する彼女の法悦極まった喘ぎには、恐怖も恥じらいも感じられない。それは被虐的なキマワリさんの、純度の高い法悦だった。声が裏返るほど首筋を浮き上がらせ、ただただ幸福だけを脳髄に染み渡らせ、よだれと鼻水と涙でいたいけな顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくってしまう。
 か弱いヒマナッツを前にした飢餓の虫ポケモンさながら息を荒げ、ムシの顎が快楽ごと咀嚼した。食いしばる口に植物の青い味。キマワリさんそのものの味。
「きゃ、ヒ、ぁ――、――――――ッ!!」
「ふぐ、お、ぅおお゛、くぅおおおおおッ!!」
 イく、と思ったときには既に射精していた。ありったけの膂力で叩きつける膣奥に特別ぬかるんだ感触が広がって、漏らしていたことにようやく気づく。不規則にぶれる尻先をどうにか丸めこみ、タマゴ部屋へ食いこませたペニスを何遍も震わせる。私の子を孕みたがっている雌の胎へ、私の種を仕込むことのできる原始的な幸福、それをありありと噛み締める。
 ――まだだ、まだ足りない。こんなもんじゃキマワリさんの内に潜む淫魔は収まらない。
 油壺の口にぴったりとくっついて射精を続けるペニスをどうにか引っこ抜き、ぐッ、とまた力強く押しこんだ。精油と精液を融け合わせて締まりあがる最奥が、離れないでと懇願するように抱擁してくる。数えきれないほどの絶頂を経ていなければ動くのも難儀する強烈なすぼまり、吐精中の笠裏がその花ひだに連続して舐め上げられ、処理能力を超過した快楽刺激に感覚神経が焼き切れる。快感よりも麻痺が虫孔から先を支配的に占領し、もう十分に種付けしたと腰を止めにかかる本能。それすら黙らせ情けないへっぴり腰に鞭打ち、精嚢の奥の未成熟な精原細胞までこき出すような必死さで体節を律動させる。ぎちぎちと抱きしめてくる膣奥を我が物顔で叩き返し、長々と続く射精中の脈拍さえ覚えさせるように腰を振り抜いた。
 1度目の射精が終わったのかどうか判別つかないうち、続けざまに絶頂していた。かろうじて体を支えていた細肢がガクガクと揺れ、重力が喪失したかのような昏迷感。硬直した彼女へ体重をかけないよう踏ん張りながらも、繋がったままの腰をわずかに微振動させる。快感なのかどうかも分からない、刺し違えてでも仇敵にとどめ針を打ちこむような、好き者のキマワリさんを最後まで嬲り倒すための律動をゆるゆると刻む。
 私の下でギチッと固まったキマワリさんも同じだった。絶頂を上塗りされ高いところから降りてこられなくなったまま真っ赤な顔をだらしなくほつれさせ、タマゴを授かる雌の根源的な幸福に魂を研ぎ澄まされているのだろう。楽ではない姿勢で呼吸まで止めてしまっていた。余裕なんてあるはずもなかろうに、それでも肉厚の手を石づきからさらに後方へと回し、精嚢の隠された私の尻先あたりを円を描くように撫でている。「孕ませてくれてありがとう」とでも言いたげな貯精嚢への奉仕に、私は最後の一滴をにじり出すまでペニスを震わせた。
 腹底に溜まった鬱憤を空っぽにし、脱皮したように軽やかになった尻がぐらついた。キマワリさんを押しつぶすまいと体を後退させると、ずぽ……ッ、山漆を撫でつけたのかというほど腫れあがったペニスが一気に引き抜かれる。休む間もなく連続射精させられた肉棒はひどい有様で、泡立った精液と油は池に落ちたエルフーンの綿毛のように惨めったらしくへばりつき、雌の胎から抜かれたことにも気づかないふうに淡い痙攣を続けている。
「は――ッ、はあっ、はッ、フうぅ……はぁ……!」
「――――ッ、――っキゃ!! 〜〜〜〜っッ!!」
 私の胸下から開放されたキマワリさんの柔っこい体が、最高速度で岩を轢いたホイーガさながら跳ね上がった。過呼吸まがいに酸素を取りこむ肺の膨張収縮をそのまま誇大したように全身ががくがくと震えあがる。
「は、きゃはぅ、はっはっはぁ、きゃ、は、はっはぅ……、ああああああぁ……っ」
 強張っていた筋肉がいっぺんに開放されたせいだろう、無防備に投げ出された下腹部はびくついたまま収まる様子が見られない。私を受け入れたちまっこい肉つぼみはぽっかりと穴を穿たれてしまっていて、暴風に吹き落とされたイトマルの巣のような形状でお互いの生殖粘液が飛び散っている。肉壁のうねりと快楽の余韻で膣口からあぶり出てきた白い胞子塊のような精液が、ぶるり、彼女の油ともども汗だくの尻を伝って落ちていった。
「だ……だいじょうぶ、はぁッ、でしたか。私もつい、我を忘れてしまって」
「きゃ……ふぅん……。んぅ、きゃ……、きゃ……ぁ……」
 完全に脱力したキマワリさんはかすれた吐息をうわ言のように胸から追い出すばかりで、半ば意識を飛ばしているようだった。私が噛みちぎってしまった花弁の痕を優しく撫でると、反射的なものなのだろう、汗と涙と鼻水でよれ果てた可愛らしいかんばせが、にへら、とだらしなく笑う。
 かくいう私もまともに動けなかった。普段の交尾で後戯に味わう甘ったるい余韻などどこにもなく、帯電したバチュルが下半身にへばりついているような鈍麻と倦怠感。キマワリさんが気を取り戻すまでしばらく体力を回復させておくべきだ。私は痙攣の残る肢を地面へ滑りこませ、桜の根へと突き刺した。





 ……さすがにやりすぎた。
 淫乱とはいえ経験も豊富でないキマワリさんを、持てる限りの全力で抱き潰してしまった。彼女が起きてくるまでが異様に長く感じられる。なんというか罪悪感がすごい。
 レディアンさんを裏切るまい、とあれだけ心に刻んだ戒めはどこへやら。あっけなくキマワリさんに魅了されその胎へ徹底的に胞子を植えつけてしまっていた。しかもなんか最後の方、私らしからぬ責めっ気を露出していた気もする。……ぅうう、思い出しただけで乾燥肌が粟立ってきた。
 彼女が目を覚ますまでたっぷり40分はかかっただろうか。まだ歩けない様子のキマワリさんを背中のキノコに抱きつかせ、お互いろくに口も利かないままながら北へ歩くこと数十分。元の巣穴の側を流れていた沢の下流に立ち至る。ほかのポケモンが近くにいないことを確かめ、流れの穏やかな浅瀬へ肢を沈ませた。さめざめとした清流へ尻先をつければ、重ったるい交尾の痕跡が急速にそぎ落とされていく。
 彼女が目を覚ますまでたっぷり40分はかかっただろうか。まだ歩けない様子のキマワリさんを背中のキノコに抱きつかせ、お互いろくに口も利かないまま北へ歩くこと数十分。元の巣穴の側を流れていた沢の下流に立ち至る。ほかのポケモンが近くにいないことを確かめ、流れの穏やかな浅瀬へ肢を沈ませた。さめざめとした清流へ尻先をつければ、重ったるい交尾の痕跡が急速にそぎ落とされていく。
 キノコのへりに腰掛けたままキマワリさんが清水に足をつけると、失った水分を取り戻すように根からそれを吸い上げていた。本格的な夏のきざしに冷たさの和らいできた水をすくい、ちゃぷるる、と情交の名残を洗い流す音が背中から響いてくる。
「あ……ダメ、垂れてきちゃう……」
 何が垂れてきたのか想像して、思わず川底へうずくまった。
 不器用な私はやはり全身をキマワリさんにすすいでもらった。彼女の発情スイッチはすっかりオフにされたらしく、尻まわりは意図的に避けられていた。まともに目も合わせてもらえない。私は仕方なく川底の滑らかな石へ擦りつけるようにして、虫孔にこびりついた粘液を削ぎ落としていく。
 河原の平岩に並んで風にあたり、濡れた甲殻と肌を乾かしていた。体調不良のクルミルが吐き出す糸のような途切れ途切れの会話を交わすのみだったキマワリさんが、遠く南の平原のほうを向いたままそっと言う。
「……こういうときって、元の雰囲気に戻るタイミング、わからないね」
「ほんと、ですね。ハハ……」
 う〜〜〜ん気まずい!
 それもそうか、求められたとはいえあれほど手ひどく抱き潰してしまったうえ、お互い心の奥底に秘めていた淀んだ欲望をぶつけ合ったのだ。キマワリさん能天気で明るい雰囲気なのにあんな……、と私が思っているのと同様、彼女だって、パラセクトさん丁寧で優しい物腰だったのにどうして……とドン引きしていることは歴然。
 ……まったく。
 全く、オマエが羽目を外しすぎたんだよ、初めて好意を寄せてきた雌だからってあんなにサカりやがって。ムシの意識が睨めあげるようにキノコへ不平を訴えてくる。生まれてから片時もはぐれることのない私の半身は、今日は一段とおしゃべりだ。
 わ、私がいけないんですか!? 確かに後半は気遣う余裕ありませんでしたけど、ちゃんとキマワリさんは喜んでくれていたじゃないですか。むしろあなたが彼女を粗雑に扱いすぎだ、花びらをかじり取るなんて信じられません。ムシの本能を暴走させるのも大概にしてください。
 仕方ねぇだろ油乗ってて旨そうだったんだし。おれの意識が顕現したのも、オマエがちゃんと押しこんでおかなかったせいだからな。そもそもオマエが1発胞子植え付けたとこからおかしくなったんじゃねーのかよ、あれだけ中には出さねえって肝に銘じてたのにさぁ。ズブズブに依存しちまって、どんな顔して彼女を送り出すンだよぉ。
 ぅぬぬ……だってあれはキマワリさんが……どいてくれなかったのですから……仕方ありませんよ……。それに私はもうすっかり……、好きになってしまいましたし、なんなら一緒に暮らしたい……。
 なんか童貞臭いぞ。
 うるさいうるさいうるさーーーい!
「ねぇ」
 あらぬ方向へ意識を飛ばしていた私の笠へ、しゅる、と葉っぱが絡ませられる。呆けたムシの顔をキマワリさんへ向ければ、まごついた赤ら顔が目線をそらして囁きかけてくる。
「その……、気持ち、よかったよ。ビックリしちゃったけど」
「――ああ、ええと、こちらこそありがとうございます……?」
「……なにそれ、わたしが無理言って頼んだのに。これでまた思い出話が増えちゃった」
「他所で言いふらすのはやめてください」
 きゃふふ、と口許を押さえて笑うキマワリさん。よかった、いつもの明朗な笑顔に戻ってくれた。それだけで救われたような気がして、喉奥からほっと息が漏れた。お互いの体はすっかり乾きあげられていて、あれだけ激しかった交尾の残り香すら漂っていない。ひとつ花弁の欠けたあざの額をハサミで撫でれば、居心地良さそうな甘え顔が私へすり寄ってくる。
 それが私もたまらなく嬉しくて、ああすっかり依存してしまったなあ、と心の中で苦笑いを作った。
 足腰の回復したキマワリさんが私の横に並んで、いつも通り旅話に花を咲かせながら、草原のねぐらへと戻るのだった。





**8 [#APAhC26]
**8 [#8MYKoH1]

 上下の両手に抱え切れないほどきのみを持ってレディアンさんが帰ってきたのは、西の空が茜を滲ませ始めたくらいだった。&ruby(とう){籐};を編んであげたらお礼にくれたんだよ、とはしゃいで話す彼女が、普段の態度でいましょうと口裏を合わせた私とキマワリさんを交互に見て首を傾げる。
「――ってなんだかふたりとも、妙によそよそしいねえ」
「そっそんなことありませんよ」
「それにキマワリちゃん、頭どうしたんだい? 治りかけていた花弁がひとつ、抜け落ちちゃっているじゃないか」
「あ……ああと、これはね、きゃうぅ……あのそのえっとその」
 キマワリさんがとっさに頭を押さえた。ヒマナッツ時代にかじられたあざの残る額のちょうど上、私が喪失させてしまった花びらを覆う。――しまったあアァ! レディアンさんに勘づかれたらまずいとは気づいていたものの、その解決策を講じることをすっかり失念していた。しでかした失態をどうにかごまかさねばとキノコの思考細胞がフル回転する。
「どうしたんだいそんな慌てて」
「レディアンさんそれはですね、それはキマワリさんがイトマルの巣に引っかかってですね、べたべたした糸を解く時に私の爪が刺さってしまって」
 とっさに思いついたエピソードをでっち上げた。よもやレディアンさんに秘密で浮気して、絶頂間際に欲望のまま彼女の花弁を噛みちぎりました、などと正直に白状できるはずもない。
 どうか追及しないでくれ。情けない私の願いは、幸いなことにレディアンさんに届いたようだ。
「ふぅん……? まぁ、パラくんに虐められたとかじゃなければいいよ。気をつけなね」
「う、うん……っ」
 なんとかごまかせたか……。鼻歌まじりにきのみの調理へと腕まくりするレディアンさんの五つ星に安堵のため息をついて、キマワリさんに目配せを送る。ほっと胸を撫で下ろすジェスチャーを見て、私も手伝いに取り掛かった。
 草原の夕焼け空にぽつぽつと星が見え始めた頃。桜の根元のくぼみに収まるようにして山盛りの料理が並ぶ。3匹そろって草葉の敷き物へ座りこみ、思い思いの器を手に取った。
 ラムやオボン、ウブなんかを同じサイズに細断し、くり抜いたカイスの器で混ぜ合わせチーゴの絞り汁で味を整えたもの。採れたての山菜と血抜きした川魚の切り身を、すり潰したシュカのみであえたもの。絞ったマトマの辛味がアクセントになっている、リンドやヨロギなどの小粒なきのみを水にひたし、器ごとキマワリさんのソーラービームで熱して煮立たせた汁。ここらではお目にかかれない、おそらく珍味であろう塩漬けにされたベリブまで。キマワリさんの歓迎会も兼ねた豪勢な晩餐に腹の虫が騒ぎ出す。いくつかの食材やスパイスは先の旧友から譲り受けたものらしいが、いったい誰なのだろう。レディアンさんと付き合いの長い私も知っている相手だろうか。ここの気候帯では手に入らないきのみを譲ってくれるあたり、キマワリさんのように各地を旅しているのだろうか。
 ハサミを置いて考え事をしていると、彩りサラダの器がレディアンさんの手から回ってきた。
「パラくん前肢が止まってるじゃないか。……もしかしてボクの料理、口に合わなかったかい?」 
「――ああいえ、とっても美味しいですよ。ありがとうございます。いつも切る程度しか手伝えなくて申し訳ない」
「こういうことは器用なボクに任せたまえ。キミは食べることが大事さ、明日からは3pになるんだから、パラくんたあんと精力つけとかないと」
「はははは、お手柔らかに頼みま――っぱヘィ!?」
 口に含んだきのみの欠片を盛大に吹き出した。挟んでいたカイスの器がシャキン、と力んだ爪の餌食になる。
 気管支になだれ込んだ果汁をむせ返し、呼吸が落ち着くのもろくに待たずに、怪訝な顔をするレディアンさんへ唾を飛ばした。
「な、エ、ど、知って……!?」
「え、だってキマワリちゃんとしこたまヤったんだろう?」
「ひっひひひひひひひひと違いでででで」
「ウワァ急にバグらないでくれよ。責めちゃあいないさ、ボクだってさんざんパラくんに断りもなく雄遊びしてきたんだし」
「……あ」
 それもそうだった。レディアンさんは私のハサミをひらひらとすり抜けていく桜の花びらみたいな性状で、他の雄は相手しないでくれと口酸っぱく縋りつく私の心を弄ぶように悪い虫と付き合っていたのだっけ。タマゴを産んでくれてからは落ち着きを見せるようになって、そのことをすっかり失念していた。もちろん、だからといって私が秘密裏にキマワリさんを抱いていいことにはならないが。……ならないのか?
 無い首をひねる私へ、呆れたようにレディアンさんが言う。
「キマワリちゃんがパラくんのつがいになりたいってことは毎朝の散歩で聞いていたし、さんざん食べようと脅かしちゃったボクも申し訳なく思っていたしね。そっと背中を押してあげたのさ。ね?」
 ぱちん、と星が溢れそうなウィンクをして、そんなレディアンさんの同じ顔に思い至った。今朝に彼女が意味ありげにくれた目配せは、キマワリさんへ向けたものだったのか。わざわざ旧友のところまで籐を持って赴いたのも、私とキマワリさんの時間を確保するために。
 キマワリさんを伺えば、すべて分かっていたと自供するように恥じらって目を伏せていた。
 ……ああ、やはり、敵わないなあ。レディアンさんには敵わない。
 川魚の切り身を2切れほど腹へ収めたレディアンさんは、もういっぱい、というふうにあんず色のふくよかな腹部をさすっている。あれだけ美味しく作るのに、彼女自身は食が細いとはもったいない。
「それに、パラくんくらい強い雄ならつがい相手がふたりいたっていいだろうよ。そういうとこキミって律儀だよね」
「む……」
 言われて初めてそういうケースに気づく。ムシもキノコもレディアンさんにどっぷりと依存していたせいか、キマワリさんまで手篭めにするなどとは考えもよらなかった。そういえば西の森の虫たちを統率していたドラピオンさんなんかは3匹つがいを抱えていると豪語していた気もする。
 菌根まで陰湿な私が根明な彼女たちを&ruby(めと){娶};っていいのだろうか。自身の意識でさえいがみ合いを起こすような私が不相応な幸福に囲まれたら将来、どこかで崖から突き落とされたりしないだろうか。もしくは火を浴びせられたり。
 うじうじとカイスの断片をしがむ私へキマワリさんがすり寄ってきて、キノコの縁にそっと体重を乗せてきた。私が前肢で挟んでおかなければどこかへふらっと消えてしまいそうな軽さが、全幅の信頼を預けるように。
「そ、その……。不束者ですが、よろしくお願いします」
 恥じらいを隠しきれないキマワリさんの愛情表現。それを向けられた私はだらしなく破顔してしまいそうで。レディアンさんから野次を入れられる前に、彼女へぶっきらぼうに川魚を押し付けた。
「今日は消耗したでしょう、キマワリさんもいっぱい食べてください。あなたが主賓ですし、私のつがいになったのですから」
「……うん、ありがたいんだけど、でもなんだか食欲がないの。あ、レディアンさんの味付けが口に合わないとかじゃなくてね」
 遠慮がちに辞退するキマワリさんに、レディアンさんが使っていない方の両手で相槌を打つ。
「――ああ、その様子だと、パラくんにガチハメされちゃったね? 分かる、あれやられるとしばらく食欲なくなっちゃうんだよねえ。内臓の位置がひっくり返っちゃってる感じ」
「そ、そうかも。ぅええ……」
「あのぉ食事中なんですけど」
「キミのせいだぞ、キマワリちゃんを気づかう余裕もなかったのかい」
「いやその節は本当すみませんでした」
 きゃふふ、あはっ。ふたりの笑い声が重なって、私もつられて頬を緩めた。軽妙な会話を挟んでいくうち、3匹の距離がぐっと近くなった気がする。キマワリさんの故郷はずっと南のジャングルというところで、そこでは籐のことをラタンと呼ぶそうだ。南国の太陽と湿度はラタンを巨大に成長させ、私が採取したものとは比べものにならないほどになるのだと、彼女は実に楽しげに話す。この地に留まることに決めたキマワリさんはもう見ることもないだろうが。
 私がレディアンさんのことをうっかり「れいちゃん」と呼んだことから、キマワリさんも愛称を決めることになった。ここよりポケモンの数が圧倒的に多いというジャングルでも似たような習慣があり、彼女は他のヒマナッツと混同されないよう「ひまり」と呼ばれていたとのこと。私が「ひまり……ちゃん」と口にしただけで、彼女は感極まったように抱きついてくるものだから、つい笑ってしまった。レディアンさんはすぐに使いこなせるようだが、私はなんだか小っ恥ずかしい。次第に慣れていくことにしよう。
 贅沢な食事は少しずつ腹へ収められていき、草原の夜はゆっくりと更けていった。





 地上からキマワリさんの夢見心地な吐息がかすかに聞こえてくる。
 桜の西側にあつらえた巣穴でうずくまり夜を見上げていた。完熟したシュカのみに浮き出た砂糖粒のような星宿に、こんなにも空は広かったのか、とこぼれ出るため息。鍛錬の旅からレディアンさんの元へ戻りパラセクトに進化してからというもの、ほとんど森から出たためしがないような気さえする。夏のあいだは活発に移動する習性のキマワリさんは、私とつがいとなり同じ景色の中で眠ることにストレスを覚えないだろうか。
 長い距離を飛んで疲弊していたのだろう、銀河の下で背中の五つ星を発光させていたレディアンさんが、ひょいとねぐらを覗きこんできた。忙しくまたたかせていた翅を甲殻の裏へしまい、私へくっついて横になる。同じ虫なのに私は持ち合わせていない、自由奔放をそのまま形にしたようなレディアンさんの器官。彼女の翅は美しく、私がハサミを伸ばせばあえなく破れてしまいそうなほどはかなくて、好きだ。
 レディアンさんは折り畳まれた私のムシの節を手慰みにいじる。
「ひまりちゃんの抱き心地はどうだった? パラくんが夢中になっちゃうほどだったかい?」
「……尽くしてくださる、献身的な方でしたよ。なんでそんなこと……訊くのですか」
「パラくんだって他の雄と遊んだボクに聞いたじゃないか。……でもそうかあ、それはよかったよ。ボクは自分がキモチよくなることを優先しちゃうからね」
「……少しは控えてもらえると助かります」
「あはは、考えとく」
 寝返りを打って、私のハサミにふわふわな手が忍びこんできた。そっと握り返す。強すぎては切り払ってしまうだろうし、弱すぎては飛び去ってしまいそうで。
 どことなく願いをこめるように、レディアンさんがつぶやいた。
「それからさ。パラくんがひとりのときも心の支えになってくれそうだ」
「……? 私はおふたりに囲まれている今が、何より幸福ですよ」
「……あは、きみは言ってくれるねえ」
「……あは、キミは言ってくれるねえ」
 満点の夜空に私も願うとするならば、幸せよどうかこの不器用な手から、こぼれ落ちていかないで。

 私はまだこのとき、レディアンさんの決意に微塵たりとも気付いていなかった。




RIGHT:
[[つづく>不器用なこの身にさよならを]]

LEFT:
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あとがき

ミドリです。日記みたいな私の文章にラストまでお付き合いいただき大変感謝です。
この話はここでひと区切りですがまァだ続編出ます。懲りないですね。つぎで最後です。いつ更新になるか分かりませんが2万字には収めたい。
次回「挿絵発注しました」、乞うご期待!
ほんとに続きやがった……。妄想が膨らむうちに5.5万字まで膨れ上がりました。濡れ場に入ってからパラくん1回イくまで2.8万字あります。さては遅漏だな?
日常ふとした瞬間にパラセクトくんのことが頭に浮かんだり、見た夢をすぐにパラセクトくんに繋げて妄想したり、そうした呪いを振り解くために書きます。こんな書き方でどこまで行けるんだろうか……書けるうちが花でしょうけども。

次が最終章になります。おそらくこの章くらい長くなりますが、よろしければお付き合いください。

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